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【事件名】「四季の印」類似事件
【年月日】平成26年10月30日
 東京地裁 平成25年(ワ)第17433号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成26年9月4日)

判決
原告 有限会社玄廬
同訴訟代理人弁護士 守屋宏一
被告 G.C.PRESS株式会社
同訴訟代理人弁護士 松本裕之
同 正木信也
同 遠藤崇史
同訴訟復代理人弁護士 薬師寺孝亮


主文
1 被告は、別紙被告著作物目録記載②の絵柄のシールを含む商品「ふわふわ 四季のたより」を販売してはならない。
2 被告は、前項の商品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、2万1137円及びこれに対する平成25年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを20分し、その19を原告の、その余を被告の各負担とする。
6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告著作物目録記載①~⑩の絵柄(以下「被告著作物」と総称し、それぞれの著作物を「被告著作物①」などという。)のシールを含む商品「ふわふわ 四季のたより」(以下「被告商品」という。)を販売してはならない。
2 被告は、被告商品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、800万円及びこれに対する平成25年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告代表者から別紙原告著作物目録記載①~⑨の絵柄(以下「原告著作物」と総称し、それぞれを「原告著作物①」などという。)の著作権の譲渡を受けた原告が、被告に対し、被告商品の製造及び販売は原告の著作権(複製権)を侵害する行為であると主張して、著作権法112条1項及び2項に基づき被告商品の販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、著作権(複製権)侵害の不法行為に基づく損害賠償金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、又は弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1) 当事者
 原告は、篆刻、絵画、版画、詩文の展示・販売等を業とする特例有限会社である。
 被告は、文房具関連製品の企画・製造・販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の著作権
ア 原告代表者は、原告著作物を別紙「原告著作物の制作・販売開始時期一欄表」の制作日欄の頃制作した。原告著作物は、いずれも印影、シール等の絵柄として使用される単色の絵柄である。
イ  原告著作物は、いずれも原告代表者の思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物に当たる。
ウ 原告代表者は、原告著作物の著作権を、いずれも各制作日の頃、原告に譲渡した。
(3) 被告の行為
 被告は、平成24年6月20日頃以降、被告著作物の絵柄のシールを含む1セット32枚のシールセットである被告商品の製造販売をした。
2 争点
(1) 複製権侵害の成否
(2) 差止請求等の当否
(3) 損害論
3 争点に関する当事者の主張
(1) 複製権侵害の成否
(原告の主張)
ア 被告著作物は、次のとおり、原告著作物の表現上の特徴を直接感得することができるものであるから、原告著作物と類似する。両著作物の対応関係は、次のとおりである。
 原告著作物①と被告著作物①は、水面に浮かぶ睡蓮の花及び葉をデフォルメして枠の内部に枠と関わらせながら配置している点において共通し、その関わらせ方も一致する。
 原告著作物②と被告著作物②は、線描のひさごと巻ひげを陰陽の葉の下に枠線と関わらせながら配置している点において共通する。
 原告著作物③と被告著作物③は、金魚鉢の形状を印鑑の枠に見立てて錆をつけ、その中に金魚と水草を配置している点において共通する。被告著作物③の金魚鉢はほぼ原告著作物③のデッドコピーであり、水草も原告著作物③の水草を鏡像反転したものにすぎない。
 原告著作物④と被告著作物④は、一輪の百合の花と2枚の葉を枠で囲み、百合の絵の印鑑の体裁としている点において共通する。被告著作物④の百合の花は、原告著作物④の百合の花を鏡像反転し、僅かな修正を加えたものにすぎない。
 原告著作物⑤と被告著作物⑤⑥は、単純化された招き猫が左膝を立て、右前足を付き、やや重い腰を下ろしている点において共通する。被告著作物⑤⑥の招き猫は、原告著作物⑤の招き猫をコピーし、耳の形と顔の表情等に僅かな修正を加えたものにすぎない。
 原告著作物⑥と被告著作物⑦は、雪の降る中に配置された雪うさぎを印鑑のように丸枠で囲んでいる点において共通する。被告著作物⑦の雪うさぎは、原告著作物⑥の雪うさぎを鏡像反転し、僅かな修正を加えたものにすぎない。
 原告著作物⑦と被告著作物⑧は、単純化したぶどうの房、葉及び巻ひげを枠で囲んでいる点や、ぶどうの葉を枠の左上で関わらせている構図において共通する。
 原告著作物⑧と被告著作物⑨は、飛翔する千鳥と波の図案を丸枠で囲み、千鳥の絵の印鑑の体裁にしたものである点において共通する。被告著作物⑨の千鳥は、原告著作物⑧の千鳥を鏡像反転したものにすぎない。
 原告著作物⑨と被告著作物⑩は、撫子の花3輪と葉を丸枠で囲み、撫子の印鑑の体裁にしている点において共通する。被告著作物⑩は、花の配置も原告著作物⑨と同じであり、枠、花及び葉に僅かな修正を加えたものにすぎない。
イ 被告著作物は、いずれも原告著作物に依拠して制作されたものである。
(被告の主張)
ア 原告著作物及び被告著作物は、いずれも、1.5cm~2cm四方程度の範囲内に素材を相当程度デフォルメしてデザインしたものであり、僅かな相違が被告著作物の独創性を導くことになるところ、原告著作物がいずれも単色の絵柄であるのに対し、被告著作物はいずれも様々な色彩のヴィベールという特殊な素材に黒箔及び金箔を使用して制作されている。
 個別の著作物についてみると、原告著作物と被告著作物とでは、次のような表現上の特徴に大きな相違がある。すなわち、被告著作物①と原告著作物①とでは、睡蓮の花の輝き・配置、葉のデザイン等が異なる。被告著作物②と原告著作物②とでは、ひさごの形状・配置、葉の枚数、日差しの表現、日差しを受けたひさごの表現、蔓の位置等が異なる。被告著作物③と原告著作物③とでは、枠の欠けの表現方法・位置、金魚が出す泡の有無、金魚の目・尾びれの形状・躍動感、水草の位置等が異なる。被告著作物④は原告著作物④とでは、百合の花の構図、葉の丸み等が異なる。被告著作物⑤⑥と原告著作物⑤とでは、招き猫の耳・目・鼻・ひげの形状等が異なる。被告著作物⑦と原告著作物⑥とでは、雪うさぎの向き、耳の形状、丸枠の有無、雪の粒の大きさ等が異なる。被告著作物⑧と原告著作物⑦とでは、ぶどうの実の個数、葉の配置、枠の形状等が異なる。被告著作物⑨と原告著作物⑧とでは、千鳥の描き方、波の形状等が異なる。被告著作物⑩と原告著作物⑨とでは、花弁の末端の形状、花弁を白抜きで表現した花の有無、花弁の中心の描き方、花と葉のバランス、全体的な構図等が異なる。
 このように、被告著作物からは原告著作物の表現上の特徴を直接感得することができないというべきである。
イ 依拠性に関する原告の主張は否認する。
(2) 差止請求等の当否
(原告の主張)
 上記(1)(原告の主張)のとおり、被告商品の製造販売は原告の著作権(複製権)を侵害するものであるから、原告は、被告に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告製品の販売の差止め及び廃棄を求める。
(被告の主張)
 争う。
(3) 損害論
(原告の主張)
 被告は、平成24年5月1日~平成25年7月18日の間に、被告商品(単価330円)を少なくとも8万3400枚販売し(販売合計額2752万2000円)、その利益率が30%を下ることはないから、被告が被告商品を販売して得た利益は825万6600円を下らない。
 よって、原告は、被告に対し、著作権法114条2項に基づき、一部請求として800万円及びこれに対する不法行為日又はそれ以降の日である平成25年7月18日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 なお、被告商品は32枚のシールから構成されているが、原告著作物の独創性により商品価値が増大しており、その寄与度が7割を下ることはないから、損害額を上記のシールの枚数に応じて按分すべきではない。
(被告の主張)
 争う。被告は、被告商品(税抜販売単価184円~330円)を平成24年6月30日~平成25年7月18日の間に合計1万0827枚販売し、225万4707円を売り上げたにすぎず(なお、被告は販売枚数等に関する主張を乙54の1のとおり改めたものと認める。)、その利益率は20%程度である。また、仮に著作権侵害に当たるとしても、消費者はヴィベールという特殊紙への印刷や被告のブランドに魅力を感じて被告商品を購入するのであり、これらによる寄与率は10%を下らない。さらに、被告商品は32種類のデザインを含んでいるので、著作権侵害が成立する枚数で按分すべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(複製権侵害の成否)について
(1) 原告は、被告著作物がそれぞれに対応する原告著作物の複製に当たると主張する。
 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することであり(著作権法2条1項15号)、既存の著作物に依拠して、その内容及び形式を覚知させるに足りるもの、すなわち、これと表現上同一性を有するものを作成することをいう。複製には、表現が完全に一致する場合に限らず、具体的な表現に多少の修正、増減等が加えられていても、表現上の同一性が実質的に維持されている場合も含まれるが、誰が作成しても似たような表現にしかならない場合や、当該思想又は感情を表現する方法が限られている場合には、同一性の認められる範囲は狭くなると解される。
 原告著作物及び被告著作物は、いずれも睡蓮、ひさご、金魚鉢等を素材とし、印鑑、シール等の絵柄等に用いられるデザインである点で共通するものであるが、上記の素材はそれ自体ありふれたものである上(乙7~9、11~45)、限られたスペースに単純化して描かれることから、事柄の性質上、表現方法がある程度限られたものとならざるを得ない。そうすると、本件において複製権侵害(複製物に係る譲渡権侵害とみても同様である。)を認めるためには、同種の素材を採り上げた他の著作物にはみられない原告著作物の表現上の本質的な特徴部分が被告著作物において有形的に再製されていることを要すると解すべきである。
(2) 上記の見地から検討すると、以下のとおり、被告著作物②は原告著作物②を有形的に再製したものと認められるが、その余の被告著作物についてはこれを認めることができないと判断するのが相当である。
 なお、原告著作物はいずれも単色で描かれ、用途等により種々の色が用いられるが(甲7の1~3参照)、色自体は複製の成否の判断に影響しないと解されるので、着色部分を黒地ないし黒色ということがある。また、原告著作物と被告著作物の大きさはやや異なるが(甲7の1~3、甲8参照)、複製の成否の判断に当たっては、別紙「原告著作物・被告著作物・被告提出証拠対照表」のとおり、同一サイズに拡大して比較することが相当と解される。
ア 原告著作物①と被告著作物①(睡蓮)について
 原告著作物①は、略正方形に縁取りした枠の中に、睡蓮の花1輪を右上方に、大小2枚の浮き葉を下方に配置したものである。枠は右上の花の背後の部分が途切れており、他にも欠損箇所がある。花は、先端の尖った略楕円形の花弁を12枚重ねるように描かれており、おしべ又はめしべは描かれていない。葉は、単色で塗り潰され(葉脈は描かれていない。)、内側に向かう切れ込みが一つずつ描かれている。
 対照図案(別紙「原告著作物・被告著作物・被告提出証拠対照表」に掲載された原告著作物及び被告著作物以外の図案をいう。なお、原告著作物の制作時期以降に公刊された対照図案についても、原告著作物に依拠して制作されたとは認められないことから、これを原告著作物の表現上の特徴を認定する際に用いることに格別支障はないものと解される。以下同じ。)1によれば、睡蓮を表現するに際し、1輪の花を上方に、2、3枚の葉を下方に配置すること(対照図案1(1)(2)(20)(26)(30))、先端の尖った略楕円形の花弁を十数枚重ねるようにして花を描くこと(同(17)(19)(20)(22)(30))、葉脈を描かない葉に切れ込みを一つ入れること(同(1)(2)(3)(4)(5)(7)(24)(29))は、いずれもありふれた表現と認められる。なお、証拠(乙1、7~9)によれば、印章の印影をデザインするに際し、一部を故意に欠損させた枠で縁取りすることはありふれた表現と認められる(下記イ、エ及びカ~ケにつき同じ。)。原告著作物①は、このようなありふれた素材又は構図を組み合せて睡蓮を表現したものにすぎず、顕著な表現上の特徴が存在すると認めることは困難であるから、これと酷似する表現にしか複製の成立を認めることはできないと解される。
 被告著作物①は、略正方形に縁取りした枠の中に、睡蓮の花1輪を上方のやや左側に配置し、大小2枚の浮き葉を下方に配置したものである。枠は、上方の花の背後の部分が途切れているほか欠損箇所はない。花は、先端の尖った略楕円形の花弁を12枚重ねるように描かれ、その略中央のおしべ又はめしべに当たる部分が金色に着色されている。葉は、2本又は3本の葉脈を中抜きするほかは黒色で描かれ、2枚とも内側に向かう切れ込みが一つずつ描かれている。
 このように、被告著作物①は、花のおしべ又はめしべに当たる部分の着色の有無、葉脈の有無等において少なからぬ相違点があり、原告著作物①と酷似するものではないから、複製に当たるということはできない。
イ 原告著作物②と被告著作物②(ひさご)について
 原告著作物②は、略正方形に縁取りした枠の中にひさごの葉、実及び巻きひげを配置したものである。葉は上方に3枚、枠を覆い隠すように描かれ、実は中央に左上から右下に斜めにぶら下がるように配置され、その左側に巻きひげがある。3枚の葉のうち、左2枚は黒地に白色の葉脈が、右1枚は白地に黒色の葉脈が描かれている。
 対照図案2によれば、ひさごを表現するに際し、図案の上方に数枚の葉を、中央に実、余白に巻きひげを配置すること(対照図案2(2)(3)(4)(9))、実を原告著作物②のような形状・線描で描くこと(同(1)(9)(16)(17)(18)(19)(20))は、いずれもありふれた表現と認められる。しかし、対照図案のうちには、原告著作物②のような太い線で黒地に白色の葉脈の葉と白地に黒色の葉脈の葉を織り交ぜて描いた図案は見当たらず(類似するものとして対照図案2(16)(17)(18)があるが、細い線で描かれており、原告著作物②と表現手法を同じくするものとは認められない。)、このように複数の葉を描き分けている点に原告著作物の表現上の特徴があるということができる。
 被告著作物②は、略正方形に縁取りした枠の中にひさごの葉、実及び巻きひげを配置したものである。葉は上方に3枚、枠を覆い隠すように描かれ、実は中央に左上から右下に斜めにぶら下がるように配置され、その右側に巻きひげが描かれている。被告著作物②は、ひさごの実を原告著作物②とほぼ同様に枠の中に描いた上で、原告著作物②の3枚の葉及び巻きひげを左右反転させた位置に配したものである。そして、葉については、いずれも外側(原告著作物②では右、被告著作物②では左)から白、黒、黒の順に並べられており、個々の葉の形状、大きさ及び葉脈の位置がほぼ同一であることに加え、上述した原告著作物②の表現上の特徴、すなわち、太い葉脈を持った複数の葉を白と黒で描き分ける点において共通している。
 以上によれば、被告著作物②は、全体的な構図や素材の描き方も実質的に同一といってよいほど原告著作物②に酷似しており、原告著作物②を有形的に再製したものと認められる。
 なお、被告著作物②を原告著作物②と対比すると、3枚の葉の配置(被告著作物②の葉は枠からややはみ出して配置されている葉がある。)、背景の着色(背景が原告著作物②では白色であるのに対し、被告著作物②においては金色に着色されている。)、実の描き方(原告著作物②においては、線が太く描かれ、実の上端が葉に隠れている。)及び巻きひげの形状(原告著作物②の方がやや大きく、枠にかかり、3回転しているのに対し、被告著作物②においては、線がやや細く、2回転となっている。)が相違するものの、いずれも細部にわたるものであり、これらの相違点は上記判断を左右するものではないというべきである。
ウ 被告著作物③と原告著作物③(金魚鉢)について
 原告著作物③は、金魚鉢の中に1匹の金魚と1本の水草を配置したものであり、枠は描かれていない。金魚鉢は、上部の口が外側に開いた丸みのある形状で、筆で抑揚を付けるようなタッチで真横から描かれており、上部は太い線で波打つように、水面は中央部がやや盛り上がった1本の線となっている。金魚は、鉢内の左側に、頭部が右上に尾ひれが左下になるように描かれている。金魚の頭部、背部及び尾は黒色、腹部は白色で、腹部に後方から頭部にかけて大きな切れ込みがあり、5本の切れ込みが入れられた長い尾ひれが水中にたゆたうように描かれている。金魚の目や気泡は描かれていない。水草は金魚の右側に弧を描くように配置され、茎には16枚の葉がある。
 対照図案3によれば、金魚鉢を表現するに際し、金魚鉢の中に金魚と水草を配置すること(対照図案3(5)(6)(9)(10)(12))、波打つような口が外側に開いた丸みのある形状の金魚鉢を真横から描くこと(同(6)(13)(14)(15)(16))、金魚鉢の水面を1本の線で描くこと(同(14)(15)(16))、水草を原告著作物③の形状のような形状で描くこと(同3(6)(13)(15)(16))は、いずれもありふれた表現と認められる。
 被告著作物③は、金魚鉢の中に1匹の金魚と1本の水草を配置したものであり、枠は描かれていない。金魚鉢の形状は、上部右側及び左側下部の欠損箇所を含め原告著作物③のデッドコピーといってよいものであるが、水面は1本の線で略水平に描かれている。金魚と水草の左右の位置関係は、原告著作物③とは逆である。金魚は、原告著作物③の金魚の半分ほどの大きさで描かれ、全体が黒色であり、腹部の切れ込みや尾ひれの切れ込みはない。また、金魚には左斜め上方を向いた目が付けられ、金色の気泡が3個吐き出されるように描かれている。水草は、左右を反転させているほかは原告著作物③の水草と略同一の形状である。
 そうすると、被告著作物③は、原告著作物③と全体の構図、金魚鉢及び水草の形状等において類似する点もあるが、絵柄の主役ともいうべき金魚が一見して全く別のものであり、大きさや描き方も異なることから、全体から受ける印象も相当程度異なり、原告著作物③と実質的に同一であるということはできない。
エ 原告著作物④と被告著作物④(百合の花)について
 原告著作物④は、略正方形に縁取りした枠に百合の花、茎及び葉を配置したものである。花は、絵柄の略中央に枠を一部覆い隠すように、太い線で、やや右下を向いて大きく描かれている。そして、枠の左側に枠を覆い隠すように略直線状の茎があり、枠の左下から中央及び右に向かって2枚の葉が配されている。
 対照図案4によれば、百合を表現するに際し、花、茎及び数枚の葉を描くこと(対照図案4(9)(11)(12)(13)(14))、花を枠の略中央に描くこと(同(1)(9))、花及び葉を原告著作物④のような形状で描くこと(同(1)(9)(12)(13))は、いずれもありふれた表現と認められる。原告著作物④は、このようなありふれた素材又は構図を組み合せて百合を表現したものにすぎず、顕著な表現上の特徴が存在すると認めることは困難であるから、これと酷似する表現にしか複製の成立を認めることはできないと解される。
 被告著作物④は、略正方形に縁取りした枠に百合の花、茎及び葉を配置したものである。花は左上を向いて原告著作物④よりも細めの線で小振りに描かれ、茎は枠の下方から右方に向かって湾曲するように描かれ、葉は2枚、左右上方に向かうように描かれている。枠は、茎によって隠されている下方の1か所のほかは2か所が欠損しているのみである。
 このように、被告著作物④は、花の向きや構図全体に占める大きさ、線の太さ、茎及び2枚の葉の配置、枠の欠損のさせ方等において相違点があり、原告著作物④を複製したものということはできない。
オ 原告著作物⑤と被告著作物⑤⑥(招き猫)について
 原告著作物⑤は、首輪に鈴を付けた招き猫が左前足を挙げている構図を正面から太めの線で描いたものであり、枠は描かれていない。耳は丸みがあり、目はやや上向きに細めに描かれている。ひげは左右に3本ずつあり、口はへの字形である。体の斑点は、左肘、右肩及び左足の脛の内側に丸みをもって描かれている。
 対照図案5によれば、招き猫を描くに際し、正面を向いた座位の猫が一方の前足を挙げ他方の前足を地面に付けたポーズとすること(対照図案5(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(13)(17)(18)(19)(27)(28)。置物の写真を含む。以下同じ。)、首輪と鈴を付けること(同(2)(6)(9)(11)(21)(23)(28)(29))、左肘、右肩及び左足に丸みのある斑点を付けること(同(9)(13)(18)(19)(21)(23)(28))は、いずれもありふれた表現と認められる。招き猫は商売繁盛等の縁起物として古くから置物として制作された造形物であり(乙18)、原告著作物④は、招き猫に典型的に見られる上記のような特徴を組み合せて招き猫を表現したものにすぎず、顕著な表現上の特徴が存在すると認めることは困難であるから、これと酷似する表現にしか複製の成立を認めることはできないと解される。
 被告著作物⑤⑥は、配色を異にするが、いずれも構図の同じ招き猫を描いたものであり、枠はない。被告著作物⑤⑥の招き猫は、首から下の構図は原告著作物に酷似しているが、片方の前足を挙げている点、左肘、右肩及び左後足の3か所に斑点を付する点は、上記のとおり他の著作物にも見られるものである。他方、その頭部の描き方及び顔面の表情においては、原告著作物⑤とは大きく異なっており、耳は略三角形で小さく、頭頂部には斑点がある。また、目と口は笑っているかのように描かれており、ひげは左右に2本ずつある。
 このように、被告著作物⑤⑥は、これに接する者に最も大きな印象を与える頭部の描き方及び顔面の表情において原告著作物⑤と大きく異なるものであるから、その複製に当たるということはできない。
カ 原告著作物⑥と被告著作物⑦(雪うさぎ)について
 原告著作物⑥は、略円形に縁取りした枠の中に、足部を描かない右向きのうさぎを中央よりやや上方に1羽配置したものであり、うさぎの周りに雪を表す斑点が多数描かれている。耳は頭部から後方に向かって長く突き出るような線描であり、目は一つだけ付けられている。
 雪うさぎは、雪でうさぎを模して作り、南天の実を目に、譲り葉を耳に使う新年の飾り物であり(乙21)、対照図案6の雪うさぎはいずれも耳が葉のように描かれている。これに対し、原告著作物⑥の雪うさぎの耳は、頭部から実際の耳が突き出るように描かれており、この点が原告著作物⑥の表現上の特徴ということができる。
 被告著作物⑦は、略円形の金色の地を斑点状に白抜きした雪の中に、左側を向いたうさぎを略中央に1羽配置したものである。うさぎは、原告著作物⑥よりも大きく、丸みをもって描かれている。目は二つあり、耳は黒色で葉のような形状をしている。また、雪を表す斑点は、原告著作物⑥のものよりも大きく描かれ、数は少ない。
 このように、被告著作物⑦は、原告著作物⑦の表現上の特徴である耳の形状を備えておらず、枠の有無、うさぎの向き・大きさ、目の配置等も異なるものであり、原告著作物⑥の複製に当たるということはできない。
キ 原告著作物⑦と被告著作物⑧(ぶどう)について
 原告著作物⑦は、略正方形に縁取りした枠の中にぶどうの蔓、葉、房及び巻きひげを配置したものである。塗り潰した6個の円形の実を重なり合わないように逆三角形状に配置して房が描かれ、その上方に蔓が、左上に1枚の葉が、右上に1本の巻きひげがそれぞれ配置されている。葉は、縁取りの一部を覆うように描かれている。
 対照図案7によれば、ぶどうを描くに際し、蔓及び葉を上方に、房を中央に、巻きひげを余白に描くこと(対照図案7(1)(15))、塗り潰した複数の円形の実を重なり合わないように逆三角形状に配置して房を表現すること(同(14))、葉及び巻きひげを原告著作物⑦のような形状で描くこと(同(1)(14)(15))は、いずれもありふれた表現と認められる。
 被告著作物⑧は、略正方形に縁取りした枠の中にぶどうの蔓、葉、房及び巻きひげを配置したものである。房は、金色に塗り潰した9個の実を重なり合わないように略逆三角形状に配置して描かれ、その上方に蔓が、左上及び右上に2枚の葉が、右側の余白に1本の巻きひげがそれぞれ配置されている。左上の葉は、縁取りの一部を覆うように描かれているが、葉は原告著作物⑦の描き方よりも簡略化されている。
 このように、被告著作物⑧は、ぶどうの葉の枚数・形状、房の数・色、巻きひげの配置等において原告著作物⑦と異なるものであるから、その複製に当たるということはできない。
ク 原告著作物⑧と被告著作物⑨(千鳥)について
 原告著作物⑧は、略円形に縁取りした枠の中に千鳥と波を配置したものである。枠の上方には千鳥が左下から右上に向かって飛び立つように描かれ、両足は隣り合わせに近接して描かれている。枠の下方には、波が三つの動きのある渦巻き紋をもって描かれ、枠が大部分欠損している。
 対照図案8(4)(5)(7)(9)(11)(12)(13)によれば、千鳥を原告著作物⑧のような形状で描くことはありふれた表現と認められるが、原告著作物⑧のように波が動きのある渦巻き紋をもって描かれたものは見当たらず、この点に原告著作物⑧の表現上の特徴があるものと認められる。
 被告著作物⑨は、略円形に縁取りした枠の中に千鳥と波を配置したものである。枠の上方には、金色の線描の千鳥が、右下から左上に向かって飛び立つように描かれ、両足はやや離して描かれている。枠の下方には、動きを欠いた流水紋が川のように描かれ、枠の欠けはほとんど見られない。
 このように、被告著作物⑨は、原告著作物⑧の表現上の特徴である動きのある渦巻き紋が描かれておらず、流水紋が川のように描かれている上、千鳥の描き方が原告著作物⑧とは相違するから、原告著作物⑧の複製に当たるということはできない。
ケ 原告著作物⑨及び被告著作物⑩(撫子)について
 原告著作物⑨は、略円形に縁取りした枠の中に、3輪の撫子の花と茎及び葉を配置したものである。枠は二重の円形をもって描かれ、所々に欠けが見られる。花は、上方、左方及び下方に3輪の花が枠の中を余白が少なく覆い尽くすような大きさで描かれている。花は、黒色のものが2輪と白色のものが1輪描かれているが、中心の点の周りに撫子に特徴的な複数の切れ込みのある略二等辺三角形の花弁が5枚描かれていることから、一見して撫子と分かるものである。
 対照図案9によれば、撫子を描くに際し、端部に複数の切れ込みのある略二等辺三角形の花弁5枚をもって花を表現すること(対照図案9(12)(14)(17))、花を白色と黒色で描き分けること(同(7)(8)(9)(12)(13))、茎ないし葉を原告著作物⑨のような形状で描くこと(同(3)(4)(5)(7)(8)(9)(12)(17))は、いずれもありふれた表現と認められる。
 被告著作物⑩は、略円形に縁取りした枠の中に、3輪の花と茎及び葉を配置したものである。枠は単線の円形をもって描かれ、所々に欠けが見られる。花は上方、左方及び下方に3輪配置されているが、小さいものであり、花弁は全て黒色で表現されている。花弁の端部には、撫子に特徴的な複数の切れ込みがなく、桜草のような一つの大きい切れ込みしかない。また、花の中央部の点は金色に着色されている。
 このように、被告著作物⑩は、そもそも原告著作物⑨とは異なり、撫子を素材とすることが一見して明らかなものではない上、枠の描き方、花の大きさや描き方にも少なからぬ相違点があり、原告著作物⑨の複製に当たるということはできない。
(3) 被告は、被告著作物②が原告著作物②に依拠して制作されたことを否認する。しかしながら、被告著作物②には、白黒を反転させた数枚の葉を描くという原告著作物②の表現上の特徴が再製されていること、その全体的な構図も酷似していることに加え、少なくとも被告著作物③の金魚鉢が原告著作物③の金魚鉢を模倣したものであることは明らかであって(前記(2)ウ)、被告のデザイン担当者は原告著作物の掲載されたカタログ等(甲7の1~3。なお、同証拠によれば、これらはいずれも、被告商品の製造販売時期より前の平成16年以前に頒布されたものと認められる。)に接する機会があったと推認されることに照らし、被告著作物②は原告著作物②に依拠して制作されたものと認めるのが相当である。
(4) 以上によれば、被告著作物②の製造販売は、原告が原告著作物②について有する著作権(複製権)を侵害するものと認められる。さらに、上記認定判断に照らし、上記の著作権侵害について、被告に少なくとも過失があったことは明らかというべきである。
2 争点(2)(差止請求等の当否)について
 上記1のとおり、被告著作物②の絵柄のシールを含む被告商品の販売は原告の著作権を侵害するものと認められる。したがって、原告の差止請求及び廃棄請求は、その限度で理由があり、その余の請求は理由がない。
3 争点(3)(損害論)について
(1) 証拠(乙54の1)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成24年6月30日~平成25年7月18日の間に被告商品(税抜販売単価184円~330円)を合計1万0827枚(乙54の1の販売合計枚数1万0968枚からサンプル品等として無料で提供された141枚を控除した枚数)、販売合計額225万4707円(消費税相当額10万7283円を含む。)で販売し、その製造原価が102万7656円であることが認められる。被告の利益率につき、原告は3割を下らない旨、被告は2割程度である旨主張するところ、被告が製造原価以外の経費等につき具体的な立証をしないことに照らすと、これを上記販売額の3割と認めるのが相当である。これによると、被告が上記期間に被告商品を販売して得た利益の額は67万6412円(小数点以下切捨て。以下同じ。)となる。
 そして、被告商品は32枚のシールを1セットとして構成したものであるところ(前記前提事実1(3))、被告著作物②はそのうちの1枚であるから、侵害行為と相当因果関係のある被告の利益額は、上記67万6412円の32分の1に当たる2万1137円と認めるのが相当である。
 したがって、原告の損害賠償請求は、2万1137円及びこれに対する不法行為日又はそれ以降の日である平成25年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。
(2) これに対し、原告は、①損害額をシールの枚数で按分するのは相当ではない、②被告が平成24年6月20日~29日の間は被告ではなく株式会社ジー・シーが被告商品を販売していたと主張するのは、時機に後れた攻撃防御方法に当たり却下されるべきであると主張する。しかし、①証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば、被告商品は32枚のシールを1セットとして構成したもので、同じ大きさのシールを縦8枚、横4枚に均等に配列し、販売時には透明な包装シートから全てのシールが見えるようになっていると認められるのであり、被告著作物②はそのうちの1枚であって被告商品の売上げに32分の1を超えて貢献しているとみることはできない。また、②被告において上記期間に売上げが発生し、これが被告に帰属したことを認めたことはないのであるから、原告の主張は前提を欠き、失当である。
 他方、被告は、消費者はヴィベールという特殊紙への印刷や被告のブランドに魅力を感じて被告商品を購入するのであり、その寄与率は10%を下らないと主張するが、本件全証拠によってもそのように認めるには足りない。
4 結論
 よって、主文のとおり判決する。なお、主文第2項の請求について仮執行宣言を付するのは相当でないから、これを付さないこととする。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 長谷川浩二
 裁判官 清野正彦
 裁判官 植田裕紀久


別紙 被告著作物目録 ①~⑩ 画像省略

別紙 原告著作物目録 ①~⑨ 画像省略

別紙 原告著作物の制作・販売開始時期一覧表
著作物  制作日 アクリル印の発売開始時期  シールの販売開始時期
原告著作物①  平成15年9月ころ  平成16年3月ころ  平成17年3月1日ころ
原告著作物②  平成1年3月ころ  平成1年9月ころ  平成2年3月1日ころ
原告著作物➂  平成14年9月ころ  平成15年3月ころ  平成15年3月1日ころ
原告著作物④  平成14年9月ころ  平成15年3月ころ  平成17年3月1日ころ
原告著作物⑤  平成15年9月ころ  平成16年3月ころ  平成16年3月1日ころ
原告著作物⑥  昭和62年3月ころ  昭和62年3月ころ  平成10年3月1日ころ
原告著作物⑦  平成1年3月ころ  平成1年3月ころ  平成10年3月1日ころ
原告著作物⑧  昭和62年3月ころ  昭和62年3月ころ  平成10年3月1日ころ
原告著作物⑨  平成17年9月ころ  平成18年3月ころ  販売していない

別紙:原告著作物・被告著作物・被告提出証拠対照表 画像省略
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