判例全文 line
line
【事件名】業務管理ソフトの著作者人格権侵害事件(2)
【年月日】平成26年10月30日
 知財高裁 平成26年(ネ)第10042号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成25年(ワ)第5210号)
 (口頭弁論終結日 平成26年9月11日)

判決
控訴人 株式会社ビーエスエス
被控訴人 インターナショナル・システム・サービス株式会社
訴訟代理人弁護士 池田浩一郎


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、次項の各請求に係る部分を取り消す。
2(1) 被控訴人は、控訴人の著作物であるBSS−PACK製品について、著作者名を「株式会社ビーエスエス」と表示せよ。
(2) 被控訴人は、控訴人の著作物であるBSS−PACK製品に、BSS−PACK以外の「ISS−PACK」などの名称を使用してはならない。
(3) 被控訴人は、保有するBSS−PACKの全ソースコードのうち中核部(ミドルソフト)の営業秘密プログラムの「SCtsusin」のプログラムの記述を一切変更してはならない。
(4) 被控訴人は、控訴人に対し、160万円及びこれに対する平成25年5月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、「BSS−PACK」という統合業務管理パッケージのソフトウェア製品(以下「BSS−PACK製品」という。)に含まれる原判決別紙原告営業秘密プログラム目録記載1(1)ないし(7)の7本のプログラム(以下「控訴人各プログラム」という。)の著作者人格権を有するところ、被控訴人が、BSS−PACK製品について、平成18年8月2日から平成25年3月1日までの間に、同目録記載1(2)のプログラム(以下「控訴人プログラム(2)」という。)のソースコードの記述を変更し、「ISS−PACK」という名称を付し、控訴人名を表示せずに販売し、控訴人の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したとして、著作権法112条1項及び2項に基づき、@  BSS−PACK製品につき、著作者名を「株式会社ビーエスエス」と表示すること、A BSS−PACK製品に、BSS−PACK以外の名称を使用しないこと、B 控訴人プログラム(2)の記述を一切変更してはならないことを求めるとともに、C 著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償金160万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年5月17日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原判決は、控訴人各プログラムが「著作物」に当たるということはできないし、仮に著作物に当たるとしても、被控訴人が平成18年8月2日以降にBSS−PACK製品をISS−PACKとの名称で販売したとは認められないから、被控訴人が控訴人の氏名表示権及び同一性保持権を侵害した事実は認められない、として控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人は、原判決中、上記@ないしCの各請求の敗訴部分を不服として、本件控訴をした(なお、控訴人は、原審においては、上記@ないしCの各請求のほか、著作権法112条1項及び2項に基づき、D 控訴人プログラム(2)を被控訴人が変更して譲渡等している場合にはその記述を元に戻し、これを媒体に書き出して被控訴人の責任において全譲渡先に再配付すること、及びE 同法115条に基づき、謝罪文を日本経済新聞全国版に掲載することも求めていたが、当審において、これらの請求に係る訴えを取り下げた。)。
2 争いのない事実等並びに争点及びこれに関する当事者の主張は、当審において当事者が補充ないし敷衍した主張を次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の1及び2記載のとおりであるから、これを引用する(以下、引用した原判決中の「原告」は「控訴人」と、「被告」は「被控訴人」と、それぞれ読み替える。)。
(当審における控訴人の主張)
(1) 争点1(控訴人各プログラムの創作性)について
 BSS−PACKシステム以前の業務用アプリケーションプログラムは、特定のハードウェアとこれに適合した特定のOS上で稼動する長大な一本のプログラムであった。そのため、部署ごとに完結したシステムが構築され、企業としての統一的な管理ができないという弊害とともにOSが異なることによる種々の障害も生じていた。BSS−PACKシステムは、このような弊害を解決するために、プログラムとして固定された線状性を「分散/非連続性」とし、再び「統合/連続性」とすることとしたものであり、また、「擬似OS」により、特定OSにのみ拘束されないアプリケーションプログラムとしての「別空間」を構築することを基本思想としたものである。
 BSS−PACK製品を構成するプログラムのうち、「分散/非連続性」は「ソフトウェア部品群」に、「統合/連続性」は、それ以外の営業秘密部を含む「中核部(ミドルソフト)」に対応する。非連続で分散している「ソフトウェア部品群」のみではプログラムの目的は達成されず、これを統合し連続させるための中核部の働きにより初めてシステムとしてその個性(創作性)が発揮されるのであり、営業秘密部(控訴人各プログラム)のうち、特に控訴人プログラム(2)及び(7)はその中心的役割を果たす。したがって、中核部である控訴人各プログラムは創作性の高いプログラムであり、当然に「著作物」に当たる。
(2) 争点2(被控訴人による著作者人格権侵害の有無)について
ア(ア) 株式会社エヌティーシー(以下「NTC社」という。)はソフトウェア販売等を業として行う者であり、平成25年2月16日の同社のホームページ(甲11の1・2)上に「ISS−PACK」を提供する旨の掲示がされている以上、同社は、申込があった時点で、即時にISS−PACK製品を販売できる状態にあったことが明らかであるから、被控訴人は平成18年8月2日以降も同製品の販売をし続けている。侵害予防の観点からも控訴人の請求は容認されるべきである。
(イ) また、日本電子計算株式会社は、ソフトウェア開発等を業として行う者であり、同社作成の回答書(甲20)には、平成20年10月に同社が「ISS−PACK」の著作権を譲り受けたと記載されており、同社はBSS−PACKとISS−PACKが同じものであることを認識している。平成20年10月にISS−PACKの名称で譲渡されたのであるから、ISS−PACKの名称の使用実績が明記されている。
(ウ) さらに、被控訴人は、控訴人との間の販売代理店契約終了後も、同契約終了前に在庫購入したハードロックキーを使用して、ISS−PACK製品を販売していたと主張しているから、契約もない状態で販売していたことを自白している。
 また、被控訴人から控訴人に対する最後の注文は、平成18年8月1日の管理番号875のハードロックキーについてのものであるが、控訴人は、被控訴人に対して、在庫用として管理番号881から1580までのハードロックキー700個を販売しており、これらについては使用許諾をしていない。したがって、被控訴人は700個のハードロックキーの在庫を有しているべきところ、平成19年1月末日の決算書(乙6)においては、437個しか計上しておらず、平成18年8月以降販売された263個(上記700個と在庫の437個の差)及び平成19年2月以降現在まで437個の在庫がいつどこに販売されたかを明示せず、同263個に対応する「エンドユーザー情報ファイル」をどのようにしたのかについても主張していないから、被控訴人は権限なく改変をしたことを認めたものである。
イ 控訴人は、原審において、控訴人プログラム(2)のソースコードと被控訴人が保有するソースコードとの比較のために、被控訴人保有のソースコードの文書提出命令を申し立てたが、原審は、同申立てに対する民事訴訟法上の対応をすることなく判決に至っているから、同法223条違反がある。また、被控訴人が同申立てに従っていないのに、原判決は、「控訴人が控訴人プログラム(2)のソースコードその他の具体的な表現自体を明らかにしない以上」との理由により、被控訴人による侵害の事実がないと判断しており、同法224条違反がある。
(当審における被控訴人の主張)
(1) 争点1(控訴人各プログラムの創作性)について
 争う。控訴人の主張する創作性は、機能やアイデアの類であり、表現上の創作性が表れていることは何ら主張立証されていない。
(2) 争点2(被控訴人による著作者人格権侵害の有無)について
 控訴人の主張は、被控訴人によるISS−PACK製品の販売を立証するものではない。控訴人の主張ア(ウ)において控訴人が指摘するハードロックキー263個は、被控訴人が保有していた本件各登録プログラムの著作権を株式会社サンライズ・テクノロジー(以下「サンライズ」という。)に譲渡するに際して、社員や設備の一式移転とともに同社へ譲渡したものであり、控訴人が主張する「販売」には当たらない。また、平成19年2月時点で被控訴人が有していたハードロックキーの在庫437個については、誰に対しても譲渡していない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、被控訴人が平成18年8月2日以降に「ISS−PACK」という名称のソフトウェア製品(以下「被控訴人製品」という。)を販売したとは認められないから、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 被控訴人による著作者人格権侵害の有無(争点2)について
(1) 控訴人は、被控訴人が、平成18年8月2日以降、BSS−PACK製品について、@ 控訴人プログラム(2)の記述を変更し、A ISS−PACKとの名称を付して、B 控訴人名を表示せずに、被控訴人製品として販売したことが、控訴人各プログラムの同一性保持権及び氏名表示権の侵害に当たると主張するので、まず、同日以降の被控訴人製品の販売の事実が認められるかどうかについて検討する。
ア 控訴人は、@ NTC社の平成25年2月16日当時のホームページ(甲11の2)上の記載、及びA 日本電子計算株式会社の回答書(甲20)上の記載を根拠として、被控訴人が平成18年8月2日以降に被控訴人製品を販売したと主張する。
 しかし、@については、平成25年2月16日当時のNTC社のホームページの「ソフト開発」欄に、「ISS−PACK」という業務ソフトの宣伝、広告が掲載され、同社の「会社案内」欄に、「業務案内」等の記載に続いて「仕入先」として14社が記載され、そのうちの一社として被控訴人の名称が掲載されていることが認められるものの(甲11の2)、そのような掲載があったというだけでは、被控訴人が平成18年8月2日以降にNTC社に対して被控訴人製品を販売したことを認めるには足りない。
 また、Aについては、日本電子計算株式会社作成の控訴人に対する回答書(甲20)には、「弊社は、平成21年5月、「株式会社フロンテック」から「ISS−PACK(BSS−PACK)」の著作権の譲渡を受けました」との記載があるだけであり(なお、株式会社フロンテック及び日本電子計算株式会社は、控訴人が有していたBSS−PACKシステムに関連する本件各登録プログラムの著作権を、順次承継取得した者である。乙1の1ないし5)、このことは、被控訴人が当時現に被控訴人製品を販売していたかどうかとは直接関わりがない事実であるから、同記載をもって被控訴人が平成18年8月2日以降も被控訴人製品を販売していたとは認められない。
イ さらに、控訴人は、被控訴人が控訴人から購入した700個のハードロック
キーのうち、平成19年1月末日時点での在庫は437個しか残っていないこと、これら700個のハードロックキーについては控訴人が使用許諾をしていないことなどを指摘して、被控訴人が控訴人の同一性保持権を侵害したなどと主張する。控訴人の主張する内容は明確ではないが、善解するに、ハードロックキーは、被控訴人製品の購入者が同製品を使用するために必要なものであるから、ハードロックキーの在庫が減少しているということは、これに対応する個数の被控訴人製品を被控訴人が販売したことを意味するし、また、控訴人がハードロックキーの使用許諾をしていないということは、ハードロックキーの使用のために控訴人が被控訴人製品の個々の購入者毎に記述していた被控訴人製品の「営業秘密部」中の「エンドユーザー情報ファイル」の記述を、被控訴人が無断で作成あるいは改変して、控訴人の同一性保持権を侵害したものである、との主張と解することができる。
 しかし、被控訴人が控訴人からハードロックキー700個を在庫として仕入れたのは平成17年10月25日及び平成18年1月31日であるところ(甲29)、被控訴人は、そのうち263個については、平成19年1月末までの間にサンライズに譲渡したものであり、同月末当時の在庫437個(乙6)については誰にも譲渡していないと主張している。そして、前記争いがない事実(2)イ、証拠(甲6、7、9、23、乙1の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、控訴人に対して運転資金を貸し付け、その後平成18年2月1日までの間、譲渡担保権設定契約に基づいて本件各登録プログラムの著作権の譲渡を受けて、被控訴人製品を販売していたが、控訴人が、新たな支援先としてサンライズから資金援助を受けることとなったため、平成18年2月1日に本件登録プログラム1ないし3及び5の著作権を控訴人に一旦戻した上、同年4月7日に控訴人からサンライズに譲渡(本件登録プログラム4の著作権は、同年9月27日に被控訴人から控訴人に、さらに同日に控訴人からサンライズに譲渡)したものであり、そのような経緯からすれば、被控訴人が、本件各登録プログラムの著作権を譲渡した以上、同プログラムを含む被控訴人製品の販売のために必要な部品であるハードロックキーについても不要となったものとして、その後これをサンライズに譲渡したとしても不自然とはいえない。そうすると、単に被控訴人が平成18年1月31日までに在庫として仕入れていたハードロックキーの在庫数量が減少しているというだけでは、同年8月2日以降に、被控訴人が自らハードロックキーを顧客に使用させて被控訴人製品の販売を継続したことを認めるには足りないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 控訴人は、その他るる主張するが、いずれも採用することができず(なお、本件記録によっても、被控訴人が、平成18年8月2日以降の被控訴人製品の販売をしたことを自白する主張をしたとは認められない。)、結局、本件全証拠によっても、被控訴人が平成18年8月2日以降も被控訴人製品を販売していた事実は認められないから、同事実を前提とする被控訴人による著作者人格権侵害の主張は理由がない。
(2) なお、控訴人は、@原審は、被控訴人保有のソースコードについての文書提出命令の申立てに対する民事訴訟法上の対応をすることなく判決に至っているから、同法223条違反がある、A原判決には同法224条違反がある、と主張する。
 しかし、本件記録によれば、原審裁判所は、平成26年2月6日の第2回口頭弁論期日において、「必要性なし」を理由として、控訴人の文書提出命令の申立てを却下する決定をしているから、原審が民事訴訟法上の対応をしなかったとの上記@の主張はその前提を欠き、理由がない。また、民事訴訟法224条は、当事者が文書提出命令に従わない場合等の効果を定めた規定であり、同命令の申立が却下されている本件においては適用されないから、上記Aの主張も失当である(いずれにせよ、前記(1)のとおり、本件においては、平成18年8月2日以降の被控訴人製品の販売の事実が認められないことを理由として控訴人の請求は認められないと判断するものであって、ソースコードの内容如何によって、同判断が左右されるものではない。)。
2 以上によれば、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 大寄麻代
 裁判官 平田晃史
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/