判例全文 | ||
【事件名】類似ログハウスの不正競争事件 【年月日】平成26年10月17日 東京地裁 平成25年(ワ)第22468号 不正競争行為差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年8月20日) 判決 原告 株式会社アールシーコア 同訴訟代理人弁護士 苗村博子 同 田中敦 同訴訟復代理人弁護士 佐藤有紀 被告 Y 同訴訟代理人弁護士 中野丈 同訴訟代理人弁理士 飯島紳行 同 藤森裕司 (なお、上記2名の被告訴訟代理人弁理士は、弁理士法2条4項、5項、6条の2第1項に基づき、不正競争防止法2条1項1号に掲げる不正競争による営業上の利益の侵害に係る原告の請求部分に限り、被告を訴訟代理するものである。) 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙2被告表示目録記載の表示を付加した建物を建築し、販売し、又は販売のために展示してはならない。 2 被告は、別紙2被告表示目録記載の表示を付加した建物を撮影した写真を掲載したパンフレットその他の印刷物を配布してはならない。 3 被告は、別紙2被告表示目録記載の建物を撮影した写真、そのデータ及び同写真を使用したパンフレットその他の印刷物を廃棄せよ。 4 被告は、別紙4被告写真目録表示の各写真及びそのデータ、その他別紙2被告表示目録記載の建物を撮影した写真及びそのデータを印刷、複写してはならない。 5 被告は、別紙4被告写真目録表示の各写真、その他別紙2被告表示目録記載の建物を撮影した写真を掲載したパンフレットその他の印刷物を配布してはならない。 6 被告は、別紙4被告写真目録表示の各写真、そのデータ及び同写真を使用したパンフレットその他の印刷物を廃棄せよ。 7 被告は、被告が運営するウェブサイト「オフィスY」(http://<省略>/)から別紙4被告写真目録表示の各写真を削除せよ。 8 被告は、原告に対し、264万円及びこれに対する平成25年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、別紙1原告表示目録記載の表示(以下「原告表示」という。)を付加したログハウス調木造住宅(以下「原告表示の建物」という。)を販売する原告が、別紙2被告表示目録記載の表示を付加したログハウス調木造住宅(以下「被告建物」という。)を販売する被告に対し、@原告表示の建物はその形態が周知な商品等表示であり、被告建物はその形態が類似するから、被告による被告建物の販売は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に該当する、A後記第3.4〔原告の主張〕において原告が主張する六つの表現上の特徴を有する建物(以下「原告表現建物」という。)は「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)に該当し、職務著作として原告がその著作者となるところ、(@)被告による被告建物の建築は、原告表現建物について原告が有する著作権(翻案権)を侵害する、(A)被告建物の写真は原告表現建物の二次的著作物であるとして、被告による別紙4被告写真目録記載の各写真(以下「被告各写真」という。)を被告のホームページ(以下「被告ホームページ」という。)に掲載することは、原著作者である原告の著作権(公衆送信権)を侵害する、(B)被告による被告各写真を掲載したパンフレット(以下「被告パンフレット」という。)の配布は、原著作者である原告の著作権(譲渡権)を侵害する、さらに、B別紙3原告写真目録記載の各写真(以下「原告各写真」という。)は、原告がその著作権を有するところ、(@)被告による被告各写真を被告ホームページに掲載することは、原告が原告各写真について有する著作権(公衆送信権)を侵害する、(A)被告による被告各写真を掲載したパンフレットの配布は、原告が原告各写真について有する著作権(譲渡権)を侵害すると主張して、被告に対し、不競法3条1項、2項、著作権法112条1項、2項に基づき、被告建物の販売等の差止め、被告パンフレット等の配布の差止め、同写真及び同パンフレット等の廃棄、被告写真等の印刷等の差止め、同写真及び同写真を掲載したパンフレット等の廃棄、並びに被告ホームページから同写真の削除を求めるとともに、上記不正競争行為につき不競法4条に基づいて、また上記著作権侵害行為について民法709条に基づいて、損害賠償金及びこれに対する平成25年10月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提となる事実(証拠により認定する場合は、末尾に証拠番号を掲記する。) (1) 当事者 ア 原告は、住宅用木材及び資材の製造・販売、建築資材の輸出入及び販売、一般建築工事請負業及び設計監理等を行う株式会社であり、「BESS」(ベス)のブランド名にて、ログハウス又は木材を多用した企画型住宅(以下「ログハウス調木造住宅」という。)を設計し、これを顧客に直接又は販社契約に基づき設置された地区販社(以下「原告販社」という。)等を通じて販売している。〔甲1、弁論の全趣旨〕 イ 被告は、「Y」の屋号で、住宅用建築物の新築工事並びにリフォーム等の設計及び施行を行う個人事業者である。 (2) 被告の行為 ア 被告は、平成23年3月から平成24年4月までの期間において、被告建物を1棟、その顧客から設計及び建築を請け負って完成させ、当該顧客に引き渡した。 イ また、被告は、被告建物を撮影した被告各写真を被告ホームページ及び被告パンフレットに各掲載しており、それらを宣伝広告に利用している。 被告各写真は、別紙4被告写真目録記載のとおりであり、同目録記載1の被告建物の玄関面に向かって斜め方向から撮影した写真(以下「被告斜め写真」という。)と、同目録記載2の被告建物の玄関面に向かって正面から撮影した写真(以下「被告正面写真」という。)各1枚からなる。 3 争点 (1) 不競法2条1項1号の不正競争の成否 ア 原告表示の建物の形態の商品等表示性の有無 イ 原告表示の建物と被告建物の商品形態の類似性の有無 ウ 混同の可能性の有無 (2) 著作権侵害の成否 ア 原告表現建物について (ア) 原告表現建物の著作物性 (イ) 被告による著作権侵害の成否 イ 原告各写真について 被告による著作権侵害の成否 (3) 損害発生の有無及びその額 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア (原告表示の建物の形態の商品等表示性の有無)について 〔原告の主張〕 (1) 商品の形態は、他の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、商品の形態が長期間継続的に独占的に使用され、又は、その使用が短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴う場合には、商品自体の機能や美観等の観点から選択されたという意味を超えて、自他識別機能又は出所表示機能を有するに至ったものとして、不競法2条1項1号の商品等表示に該当すると解されるべきである。 原告は、平成16年1月以降、別紙1原告表示目録記載の表示(原告表示)を付加したログハウス調木造住宅である「ワンダーデバイスシリーズ」のモデル名「フランクフェイス」の建物(甲3)を販売しているところ、以下に詳述するとおり、原告表示の建物の形態は、商品等表示に該当することが明らかである。 (2) 原告表示の形態に他の商品と識別し得る独自の特徴が認められること 原告表示の形態は、別紙1原告表示目録記載のとおり、次の@ないしEの各特徴を全て組み合わせたものである。すなわち、@玄関面からその反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅であり、A玄関面以外の外壁には一面に単色のガルバリウム鋼板が使用され、B玄関面の外壁の素材には天然の木目と色合いをそのままにした木材が使用され、C玄関面の2階部分は建物の横幅いっぱいにバルコニーが設けられ、D玄関面の1階部分には、高さのある大きな掃き出し窓が設けられ、さらに建物前部まで突出したウッドデッキが設置されている。また、E玄関面から見て、左右両側の外壁から屋根面まで全て玄関面方向に延長して袖壁とし、袖壁小口面はGL面(地盤面)に対し垂直とし、玄関面側立面と平行となっている。ただし、原告は、原告表示が、別紙1原告表示目録記載の写真に現に写っている建物(以下「原告建物」という。)そのものの表示に限定されると主張するものではなく、上記外観上の特徴@ないしEを全て組み合わせた表示であれば、他の部分が同目録記載の建物と異なるとしても、原告表示に該当すると主張するものである。 そして、原告表示の建物の形態は、前記@ないしEの特徴を全て組み合わせることにより、原告表示の建物が他の商品と識別し得る独自の特徴を獲得している。 これに対して被告は、原告表示の建物が有する形態について、前記@ないしEの六つの特徴を個別に捉えて、個々にありふれたものである旨主張して、原告表示の建物の商品等表示該当性を否定するが、原告は、前記@ないしEの六つの特徴が全て組み合わされることにより、原告表示が他の商品と識別し得る独自の特徴を獲得すると主張するのであり、被告の上記主張は失当である。 また、被告は、他社の物件をもって原告表示の建物がありふれた形態であると主張するが、被告が挙げる物件には、原告表示の建物の前記@ないしEの特徴を全て備えるものはほとんどない。すなわち、乙4の建物は原告表示の建物を模倣して設計、建築されたものと考えられ、ほかに乙5、8、17、20ないし22、24、28の各建物も原告表示の建物を模倣したものと考えざるを得ないから、原告表示の建物が他の商品と識別し得る独自の特徴を有することを否定するものではない。したがって、被告の上記主張は失当である。 (3) 原告表示の建物が商品等表示としての周知性を有すること ア 展示場での展示・カタログの配布 原告表示を付加したログハウス調木造住宅(原告表示の建物)は、平成16年1月にワンダーデバイスシリーズが発表されてから現在まで、原告及び原告販社が全国で展開したBESS単独展示場(平成25年7月現在計39箇所)のうち計22箇所の展示場で展示され、多くの需要者が展示場に来場して原告表示の建物を実際に目にしている。 また、原告表示の建物の写真が掲載されたワンダーデバイスシリーズのカタログは、現在までに全国の展示場等で計18万通以上が配布された。 イ 広告・特集記事の掲載 ワンダーデバイスシリーズは、全国紙又は地方紙等の新聞の紙面や全国で発売される雑誌の誌面等に、120回以上の広告記事又は特集記事が掲載され、それらの記事の多くに原告表示の建物の写真が使用された。このような宣伝広告活動は、現在まで行われている。 ウ グッドデザイン賞の受賞 原告表示の建物を含むワンダーデバイスシリーズは、ログハウス業界として初めて、平成16年度のグッドデザイン賞を受賞しており、その発表当時から取引者や需要者に高い評価を受けてきた。 エ 原告の営業実績 上記の宣伝広告活動の結果、原告は、平成16年1月に発表して以降現在までに、原告表示の建物と同一モデルを計1200棟以上受注しており(一部、施工中の物を含む。)、近年では、平成20年度に93棟、平成21年度に118棟、平成22年度に133棟、平成23年度に187棟、平成24年度に310棟をそれぞれ受注しており、営業実績を大きく伸ばしている。 オ 東海地方での重点的な宣伝広告 原告は、全国計39箇所に展示場を設けているが、そのうち岐阜県を含む東海地方4県には、「BESS岐阜」をはじめ合計8箇所の展示場を設けており、さらに、東海地方では、原告表示の建物について折り込みチラシの配布、テレビコマーシャルの放映等をして、宣伝広告を重点的に行っている。 カ まとめ 以上のとおりであり、原告表示の建物は、遅くとも平成23年3月頃には、需要者の間で全国的に広く知られており、特に東海地方では他の地域以上に需要者から原告表示の建物が広く認識されるに至っており、商品等表示性を獲得していた。 (4) 小括 よって、原告表示の建物の形態は、不競法2条1項1号の商品等表示に該当する。 〔被告の主張〕 (1) 商品の形態が不競法2条1項1号の商品等表示に該当するためには、@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)が必要と解すべきである。 そして、原告表示の建物の形態は、以下のとおり、特別顕著性が認められず、周知性も認められないから、商品等表示に該当しない。 (2) 原告表示の建物が有する形態の特徴について ア 原告建物の具体的形態をみても、原告が主張する原告表示の前記@ないしEの特徴は、いずれも建物の外観としてごく一般に採用されている、極めてありふれた形態にすぎない。 また、そのような外観上の特徴を組み合わせても、特段、外見上の特徴が生じるともいえないから、原告建物の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとは到底いえない。 イ 原告は、原告表示が、原告建物そのものの表示に限定されると主張するものではなく、前記@ないしEの各特徴を全て組み合わせた表示であれば、他の部分が同目録記載の建物と異なるとしても、原告表示に該当すると主張するが、その主張によれば、原告が主張する六つの特徴は、その一つ一つが抽象的に説明されたものにすぎないし、その全てを備えても物理的に異なる何通りもの形態が生じ得るから、そのような原告表示は特定性の弱い形態でしかない。 ウ 一般住宅において、その形態は、一般住宅に期待される機能をより効果的に発揮させる、あるいは住宅の一般的な美観をより優れたものとする目的で選択されるものであって、形態そのものが一般住宅の出所識別標識として認められた例は見られないし、需要者側において一般住宅の形態を出所識別標識として認識ないし理解するとも考えにくい。 加えて、一般住宅は、その設計に当たって、住宅としての機能を確保した上で、見栄え良くするための機能面又は美観面からの工夫がされるから、屋根、壁、窓、バルコニー等様々な構成要素が、いくつかのあり得るバリエーションからその組み合わせと配置が定められ、最終的に形態が全体において定められる。 原告表示の建物においても、「ワンダーデバイス」のうち150通りの組み合わせから選択される住宅であり、フェイスデザインも様々であり、原告表示の建物に限られるものではない。 (3) 原告表示の建物の商品等表示としての周知性について ア 原告の主張を前提にしても、展示場は全国で僅か22箇所程度にすぎないし、東海地方4県でも8箇所程度しかなく、その入場者数も明らかではない。カタログが18万通以上配布されたのかどうかも不明であり、具体的な宣伝広告状況は不明である。 イ また、原告表示の建物が展示会で展示され、カタログに掲載され、広告記事や特集記事に掲載され、あるいは宣伝広告媒体に掲載されても、需要者はそれらに接したとき、原告表示の建物の形態を単に、外観デザインとしてのみ認識し、理解するにすぎず、その形態を有する商品が原告の出所を表示するものとして認識し、理解することまではしない。 ウ さらに、原告表示の建物がグッドデザイン賞を得たとしても、そのことによって、同商品が周知されているということまで示されるものではない。 エ また、原告は、原告表示の建物について営業実績を大きく伸ばしていると主張するが、建築物を販売する業界において原告表示の建物がどの程度のシェアを占めるのか全く不明であるし、仮に原告において営業実績を大きく伸ばしているとしても、それはあくまでも原告内の事情にすぎず、原告表示の建物の周知性につながるものではない。 オ 以上のとおりであるから、原告表示の建物の形態が原告の商品等表示として全国の需要者の間に広く認識されているとは到底認めることができないし、東海地方に限定した地域についてみても、原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているとは認めることができないものであることは明らかである。したがって、原告表示の建物の形態が、原告によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっているとは到底いえない。 2 争点(1)イ(原告表示の建物と被告建物の商品形態の類似性の有無)について 〔原告の主張〕 被告建物の形態は、原告表示の建物と比較すると、その建物全体の外観や玄関面のデザインが、原告表示の建物の前記@ないしEの六つの特徴を全て有しており、原告表示の建物の形態と類似することが明らかである。 〔被告の主張〕 被告建物の形態は、次のとおり、原告建物の形態と顕著な相違があり、原告表示の建物の形態と類似するものではない。 (1) 建物の正面視について 原告建物は、2階にバルコニーが設けられた2階建ての形態からなり、中央よりも左方の位置において、原告建物を縦断する上下2階に亘る柱が貫通しており、1階には、その左側に玄関ドアが、右側には縦長長方形状の大きな4枚の窓材からなる引き違い窓一つが設けられ、2階には、その右側に縦長長方形状の大きな2枚の窓材からなる引き違い窓が二つ、バルコニーには4本の手すりが横断して設けられている。 これに対して、被告建物は、2階にバルコニーが設けられた2階建ての形態からなるが、1階には、その中央よりも左方の位置において幅広の柱が、中央よりも右方の位置において幅狭の柱が設けられ、ほかに、左側及び中央には縦長長方形状の大きな2枚の窓材からなる引き違い窓が、右側には、玄関ドアが設けられ、2階には、中央から右側にかけて、縦長長方形状の窓が三つ設けられ、左側には、全面に目隠しフェンスが設けられ、バルコニーにはすりガラス調の複数のパネルを有するフェンスが設けられている。 建物の玄関面(正面視)は、取引者、需要者にとって最も注意を惹く部分であるところ、上記のとおり、両商品は、基本的な構成態様及び具体的な構成態様のいずれについても顕著な相違点がある。 (2) 建物の側面視及び背面視について さらに、原告建物と被告建物とは、側面及び背面に設けられた窓の位置・大きさ・範囲、シャッターの有無において顕著な相違点がある。 (3) 両商品の共通点について 原告は、被告建物が、原告表示の上記@ないしEの特徴を全て有していると主張するが、それらの特徴は、前記のとおりいずれも建物の外観としてごく普通一般に採用される極めてありふれた形態であるし、それらを組み合わせても特段、独自の特徴が生じるともいえないから、共通点が両商品の形態の類否判断に与える影響は極めて小さいものといわざるを得ない。 (4) したがって、原告建物の形態と被告建物の形態とは、相違点が共通点を凌駕しており、非類似といわざるを得ない。 3 争点(1)ウ(混同の可能性の有無)について 〔原告の主張〕 原告表示の建物と被告建物はログハウス調木造住宅として共通しており、前記2〔原告の主張〕のとおり両者の外観が明らかに類似するから、需要者において、両者の出所について混同を生じるおそれがあることは明らかである。現に、原告は、岐阜県内の原告販社の展示場を訪れた顧客や原告表示の建物を注文した顧客から、被告建物につき、原告が販売したものかどうか問合せを受けており、実際に被告建物と原告表示の建物の出所について混同が生じている。 〔被告の主張〕 原告表示の建物の形態は、不競法2条1項1号の商品等表示に該当せず、また、原告建物の形態と被告建物の形態とは非類似である。 したがって、原告表示の建物と被告建物との間について混同が生ずるおそれは皆無である。 4 争点(2)ア(ア)(原告表現建物の著作物性)について 〔原告の主張〕 (1) 住宅が著作権法10条1項5号の「建築の著作物」に該当するかどうかについては、住宅が不動産であって、意匠法2条1項の「物品」に当たらず、意匠登録の対象とならないことから、意匠法により保護される応用美術と同様の要件、すなわち、応用美術が純粋美術と同視し得る美的創作性と同程度の美術性を必要と解されるべきではなく、他の一般の著作物の場合と同様に、もっぱら創作性の有無から判断されるべきである。 (2) 原告は、「『ワンダーデバイス』・・・ワンダーな毎日を創りたくなる、暮らしに新しい価値を生み出す装置=デバイス」との発想の下で、「ラフ&スマート」のコンセプトに基づき、新たな商品としてワンダーデバイスシリーズを発案した。ワンダーデバイスシリーズの外観デザインは、@「箱の家手法」として、ワンダーな生活を楽しむためのシンプルなワンボックス型で片流れ屋根の外観形状とし、A「内外のコントラスト」を表現するため、外壁にガルバリウム鋼板を用いたスマートな外観デザインでありながら建物内部は木の温もりにあふれた大空間とし、B「アウターリビング手法」として、温かみのあるパネリング面に面した大開口とデッキ・テラスによる内外の連続性を表現する、という上記@ないしBの3点を共通コンセプトとした。 さらに、原告は、ワンダーデバイスシリーズのうち原告表現建物(モデル名「フランクフェイス」)において、そのエクスプレッション(正面デザイン)につき、「来るモノ拒まずウェルカムなオープンフェイス」との思想に基づき、外壁から突き出したガルバリウム鋼板の袖壁に、ガルバリウム鋼板と同色のベランダを支える大梁と大柱を組み合わせることで、シンプルでおおらかなデザインを表現した。 そして、その表現は、原告表現建物の表現上の本質的な特徴である、@シンプルなワンボックス型で屋根面を傾斜の緩い片流れ屋根とし、A内部と連続したデッキ側の外壁面には、天然の木目と色合いをそのままにしたパネリング(羽根板)を使用し、Bデッキ面以外の三面にガルバリウム鋼板を用い、Cデッキとデッキに繋がる高さの大きな掃き出し窓を設置し、D横幅いっぱいのベランダを設け、Eベランダを支える梁と柱を同色とした、という以上六つの特徴を創作的に表現したものである。 以上のとおり、原告表現建物は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するものであり(著作権法2条)、同法10条1項5号の「建築の著作物」に当たる。 また、被告が主張するとおり、「建築の著作物」に該当するためには造形美術としての美術性を必要とすると解するとしても、原告表現建物は、グッドデザイン賞で評価されたように造形美術としての美術性を備えるから、「建築の著作物」に当たる。 (3) そして、原告表現建物を含むワンダーデバイスシリーズは、原告の指揮命令の下で、原告の役員、従業員及び成果物の知的財産権が原告に属することを前提に、原告から委託を受けた者により作成されたものである。そうすると、原告表現建物は、原告の発意に基づき、それら法人等の業務に従事する者により、職務上作成され、原告の著作名義の下で発表されたものであり、その作成のときに原告において従業員らの作成した著作物の著作者について別段の定めはおかれていないため、職務著作(著作権法15条)として原告がその著作者となる。 (4) よって、原告は、原告表現建物について著作権を有する。 〔被告の主張〕 (1) 著作権法10条1項5号の「建築の著作物」として保護される建築物は、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、造形美術としての美術性を有するものであることを要し、造形美術としての芸術性を有するか否かを判断するに当たっては、使い勝手の良さ等の実用性、機能性などではなく、もっぱら、その文化的精神性の表現としての建物の外観を中心に検討すべきである。 これを一般住宅についてみると、「建築の著作物」に当たるということができるには、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となることを要すると解されるべきである。 (2) この点に関して原告は、原告表現建物の表現上の本質的な特徴として、@シンプルなワンボックス型で屋根面を傾斜の緩い片流れ屋根とし、A内部と連続したデッキ側の外壁面には、天然の木目と色合いをそのままにしたパネリング(羽根板)を使用し、Bデッキ面以外の三面にガルバリウム鋼板を用い、Cデッキとデッキに繋がる高さの大きな掃き出し窓を設置し、D横幅いっぱいのベランダを設け、Eベランダを支える梁と柱を同色とした、と主張する。 しかし、原告表現建物は一般住宅であり、原告が原告表現建物の表現上の特徴として主張する上記@ないしEは、いずれも建物の外観としてごく普通一般に採用される極めてありふれた表現にすぎない。また、原告表現建物の上記@ないしEの点を全て組み合わせても、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは到底いえない。 したがって、原告表現建物は、著作権法10条1項5号の「建築の著作物」に当たらず、同法により保護される著作物に該当しない。 5 争点(2)ア(イ)(被告による著作権侵害の成否)について 〔原告の主張〕 (1) 被告建物は、前記4〔原告の主張〕に摘示した原告表現建物の表現上の本質的な特徴を全て有している。 この点、原告表現建物は、遅くとも平成23年3月以降、取引者及び需要者に周知であり、被告が原告表現建物の外観を目にする機会は十分にあったし、被告建物の施主が平成22年8月以降に原告販社の展示場を訪れて原告表現建物に関する資料を持ち帰っており、上記のとおり原告表現建物と被告建物とは表現上の本質的な特徴を同一としているから、被告建物が原告表現建物に依拠して創作されたことは明らかである。 よって、被告は、原告表現建物との表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ細部の表現を変更して被告建物を建築しているといえ、原告表現建物の翻案を行っているものである。 (2) また、被告建物の写真については二次的著作物として原権利者である原告の権利が及ぶところ(著作権法28条)、被告は、被告建物の複製写真を被告のホームページに掲載しており、原告表現建物の二次的著作物を自動公衆送信し、また、同複製写真を掲載したカタログを配布して、原告表現建物の二次的著作物を譲渡しているから、被告の上記各行為は、原告の原告表現建物の翻案権(同法27条)、公衆送信権(同法23条)及び譲渡権(同法26条の2)をそれぞれ侵害する。 〔被告の主張〕 (1) 原告表現建物と被告建物には、形態上顕著な相違点があるため、両者間に本質的な特徴の同一性は何ら認められない。 原告は、被告建物が、原告表現建物の表現上の特徴@ないしEを全て有していると主張するが、前記のとおり、原告が主張する表現上の特徴は、いずれも、建物の外観としてごく普通に採用される極めてありふれた表現であり、また、全てを組み合わせても、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性が生じるともいい難い。 したがって、被告建物からは、原告表現建物の表現上の本質的な特徴を感得することはできない。 (2) また、被告建物を撮影した写真が原告表現建物の二次的著作物とはなり得ないから、被告が被告各写真をホームページに掲載したり、パンフレットに掲載して配布したことは、原告の公衆送信権及び譲渡権を侵害することにはならない。 6 争点(2)イ(原告各写真につき被告による著作権侵害の成否)について 〔原告の主張〕 (1) 原告がホームページ(甲7)等に掲載している別紙3原告写真目録記載の斜め写真(以下「原告斜め写真」という。)及び正面写真(以下「原告正面写真」という。)は、商品広告用の写真として、専門の写真家が、原告の依頼に基づき、被写体の構図、露光や陰影の付け方に工夫を凝らして撮影したものである。 よって、原告各写真は、その撮影にあたり創作性が表現されたものとしていずれも著作物性を有する。 (2) 原告は、専門の写真家に原告表現建物の撮影を依頼し、撮影された原告各写真の著作権を当該写真家から譲り受けており、原告各写真についての著作権を有する。 (3) 被告が被告のホームページやパンフレットに掲載して宣伝広告に使用する、別紙4被告写真目録記載の被告各写真は、以下のとおり、原告各写真とそれぞれ類似する。 ア 原告斜め写真と被告斜め写真を比較すると、その被写体は表現上の本質的な特徴を同一とするログハウス調木造住宅である。被写体の構図については、原告斜め写真と被告斜め写真のいずれも玄関面左側斜め下から玄関面と左側側面の全体が見えるように撮影されており、撮影アングルがほぼ一致している。 イ 原告正面写真と被告正面写真を比較すると、被告斜め写真の場合と同様、その被写体は表現上の本質的な特徴を同一とするログハウス調木造住宅である。被写体の構図については、原告正面写真と被告正面写真のいずれも玄関面の真正面から玄関面全体が大きく見えるよう撮影されており、撮影アングルや写真全体に対する被写体の占める大きさがほぼ一致している。 (4) そして、平成20年4月以降現在まで、原告は、原告各写真を原告のホームページに常時掲載し、新聞・雑誌への宣伝広告記事にも掲載している。そのため、遅くとも平成23年3月以降、原告各写真は、取引者や需要者にとって広く認知されており、被告が原告各写真を目にする機会は十分にあった。また、被告建物の施主は、平成22年8月以降、原告販社の展示場を訪れ、原告斜め写真が掲載された原告表現建物に関する資料を持ち帰っていた。さらに、上記(3)のとおり原告各写真と被告各写真が類似することに鑑みれば、被告各写真が原告各写真に依拠して創作されたことが明らかである。 (5) 被告は、原告各写真の著作権を侵害する被告各写真を被告のホームページに掲載することで自動公衆送信を行い、被告各写真を掲載したパンフレットを配布することで譲渡を行っている。 よって、被告による上記各利用行為は、原告の原告各写真の公衆送信権(著作権法23条)及び譲渡権(同法26条の2)をそれぞれ侵害する。 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 原告各写真と被告各写真とは、全く別の異なる著作物である。原告正面写真と被告正面写真は、被写体を木造住宅としたこと、被写体の撮影角度において共通性を見いだせるとしても、被写体の選択、被写体の組み合わせ、光量の調整、陰影の付け方において顕著な相違点があるから、表現上の本質的な特徴の同一性を到底認めることはできないものである。 したがって、原告正面写真と被告正面写真とは全く別異の表現がなされた写真であるから、被告正面写真は、原告正面写真に類似しておらず、被告による被告各写真の被告ホームページへの掲載行為及び被告各写真を掲載したパンフレットの配布行為が、原告の公衆送信権(著作権法23条)及び譲渡権(同法26条の2)を侵害しないことは明白である。 7 争点(3)(損害発生の有無及びその額)について 〔原告の主張〕 (1) 不競法違反による損害の発生及び損害額について ア 原告は、現在まで、原告表示の建物を販売している。被告は、遅くとも平成24年4月までに、少なくとも原告表示の建物と類似の被告建物1棟を販売した。原告は、被告による不正競争行為がなければ原告表示の建物1棟を販売することで約240万円の利益を得ることができた。よって、被告の不正競争行為によって原告が被った損害は、少なくとも不競法5条1項により、原告表示の建物1棟の販売により原告が得ることができた利益額240万円を下らない。 イ 弁護士費用について 原告は、本訴訟の遂行を原告代理人弁護士に委任した。原告が支払った弁護士費用のうち、被告による不正競争行為と相当因果関係にある弁護士費用額は24万円である。 ウ 合計 よって、原告には、被告の不正競争行為により、少なくとも上記ア及びイの合計額264万円の損害が生じている。 (2) 著作権侵害による損害の発生及び損害額について また、被告による著作権侵害行為により、原告には、著作権法114条1項に基づく損害額として少なくとも240万円、弁護士費用として24万円、以上合計264万円の損害が生じている。 〔被告の主張〕 いずれも否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 証拠(甲3、4、16ないし26、乙1ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1) 原告建物及び原告表示の建物の形態について〔甲3〕 ア 建物の種類 原告は、平成16年1月以降、「ワンダーデバイス」というシリーズでログハウス調木造住宅を販売している。原告は、同シリーズのコンセプトとして、「ワンダーな毎日を創りたくなる装置。家とは、暮らしに新しい価値を生み出す装置という発想。住む人の個性で好みのデバイスを選択する。そして自分仕様にカスタマイズする。」などと謳っている。 同シリーズには、現在、玄関面を中心に外観のデザインを異にする、「フランクフェイス」、「ドラゴンゲート」及び「ファントムマスク」の三つのモデルがあり、「フランクフェイス」は同シリーズの販売開始から原告が提供しているモデルである。 そして、原告表示の建物及び原告建物は、「フランクフェイス」に属するものである。 イ 形態の具体的内容 (ア) 「ワンダーデバイス」シリーズにおける共通点について 「ワンダーデバイス」シリーズの三つのモデルは、その外観において、次の共通点を有している。 すなわち、全体は、ワンボックス型で、玄関面からその後背面に向かって(「フランクフェイス」及び「ドラゴンゲート」)ないしリビング面からその後背面に向かって(「ファントムマスク」)、一方向にだけ緩やかに下方に傾斜する勾配がある、片流れ屋根を設けている。外壁は、玄関面を(「フランクフェイス」及び「ドラゴンゲート」)ないしリビング面(「ファントムマスク」)を天然の木目と色合いをそのままにしたパネリング(羽根板)を使用し、玄関面を除くその余の三面において(「フランクフェイス」及び「ドラゴンゲート」)ないしリビング面を除くその余の三面において(「ファントムマスク」)、一面全体にわたってガルバリウム鋼板を使用している。 さらに、玄関面(「フランクフェイス」及び「ドラゴンゲート」)ないしリビング面(「ファントムマスク」)には、1階にテラス戸が設けられており、リビングと高さを同じくして連続性をもたせたウッドデッキが、建物前部まで突出して設けられている。テラス戸は、高さのあるもので、4枚スライドサッシュか、フルオープンサッシュの2種類から選択できる。ウッドデッキは、建物の横幅全体にわたって展開されているものもあれば、玄関部分を除いたその余の部分で展開されているものもある。 なお、「ワンダーデバイス」シリーズでは、1階のリビングの一部を土間(土間ラウンジ)にする選択肢も用意されており、その場合にはウッドデッキの代わりに土間が設けられる。また、スペシャルモデルとして展開する「ガレージハウス」も、ウッドデッキは設けられていない。 (イ) モデル「フランクフェイス」について 原告は、同モデルのコンセプトとして、「クロスしたトリムラインが印象的な、来るモノ拒まずのオープンなフェイス。誰に対してもウェルカムなおおらかさに、自然と人が集まってくる。まさに千客万来の家。」と謳っている。 玄関面は、2階部分に、建物の横幅いっぱいにバルコニーが設けられている。また、玄関面から見て左右両側の外壁を、屋根面まで全て玄関面方向に延長して袖壁とし、袖壁小口面はGL面(地盤面)に対して垂直とし、玄関側立面と平行となっている。さらに、玄関面には、バルコニーを支えるために、ガルバリウム鋼板と同色で、建物の横幅いっぱいに横断する梁と、上下2階にわたって縦断する柱とが交差して、トリムラインを形成している。 原告建物の外観は、別紙1原告表示目録記載の写真のとおりである。玄関面は、中央より左寄りの位置で上下2階にわたって縦断する柱が設けられており、1階部分に、当該柱の左側に玄関ドアが、当該柱の右側に高さのある4枚スライドサッシュのテラス戸が一つ設けられ、2階部分のバルコニーに、建物の横幅いっぱいにわたした手すりが4枚、上下方向に設けられている。また、ウッドデッキは、玄関部分を含めて玄関面の横幅いっぱいに展開したものが設けられている。これに対して、原告の「ワンダーデバイス」シリーズのカタログ(甲3)に掲載されているモデル「フランクフェイス」の建物をみると、そのデザイン画では、ウッドデッキが玄関部分では凹み部分が形成されたものとなっている。また、別紙3原告写真目録記載の建物をみても、ウッドデッキが同様に、玄関部分で凹み部分が形成されたものとなっている。 なお、同モデルは、平成16年1月の「ワンダーデバイス」シリーズの販売開始から提供されているものであるが、平成20年4月にモデルチェンジされている。従前のモデルでは、例えば、玄関面において、2階部分のバルコニーが建物の横幅いっぱいに設けられておらず、同面向かって右側半分には床がないとか、バルコニーを支える柱と梁がガルバリウム鋼板と同色ではなく、玄関面を構成するパネリング(羽根板)と同様に天然の木目と色合いをそのままにした木材が使用されている(特に柱は、板状のものではなく丸太状のものが使用されており、「太いログ柱や全面の無垢材仕上げが暖かみを感じさせるフェイス」(甲16)とあるように、建物の外観上の特徴の一部をなすものとして強調されていた。)、といった現行モデルとの相違点が存在した。 (ウ) その他のモデルについて モデル「ドラゴンゲート」は、そのコンセプトが、「まるでドラゴンのような迫力ある模様で仕上げた土塗りの壁、その名もズバリ『竜の門』。強さと個性を象徴するデザインが、圧倒的な存在感を発揮します。」というものである。玄関面は、モデル「フランクフェイス」がバルコニーを支える柱を除いて遮るものがなく開放的な印象を与えるものとなっているのに対して、テラス戸部分周辺を残して、コテ塗りの模様が全面に施された土壁で覆われている。 また、モデル「ファントムマスク」は、そのコンセプトが、「一面のガルバリウムに謎めいた穴だけが開いた、正体不明の怪人マスク。ミステリアスでクールな仮面の向こうには、やわらかな表情の木肌が広がります。」というものである。玄関面は、一面がガルバリウム鋼板となっていて、玄関のみが設けられており、ほかに窓等が何ら設けられていない。リビング面は、他のモデルの玄関面のようになっているが、2階部分にバルコニーが設けられていない。 (2) 原告表示の建物の宣伝広告及び販売状況 ア 宣伝広告 (ア) 原告は、モデル「フランクフェイス」について、遅くとも平成18年9月から原告が周知性を獲得したと主張する平成23年3月までの間に、合計78回にわたって全国的に販売される雑誌や新聞に宣伝広告を掲載しており(甲21の1〜78)、そのうち、同モデルのモデルチェンジをした平成20年4月以降に掲載したものは、合計66回であり(甲21の13〜78)、特に同月から同年7月までの3か月間では合計27回である(甲21の13〜39)。 ただし、平成18年9月からモデルチェンジをした平成20年4月までの同モデルの建物には2階部分に建物の横幅いっぱいのバルコニーは存在せず、また、同モデルのモデルチェンジ後の宣伝広告をみると、そのほとんどの写真が建物を右斜め方向から写した写真が1枚あるだけであり、全体の形態が不明であるばかりか、ウッドデッキがはっきり写っていないかあるいは全体を表示していないためにその形状が不明若しくは不明瞭であったり、掲載写真の画質が粗いために、外壁面に使用されているガルバリウム鋼板や木材の質感が不鮮明となっていたりするもの(甲21の13、14、16〜33、54、60、63、65、67、68、70)、ウッドデッキではなく土間が設けられているもの(甲21の34〜39、44、45、48、50)、1階正面に大きな掃き出し窓やウッドデッキがなく、その部分が車庫になっている建物が写っているもの(甲21の26、29、30、35、38、39、)、モデル「フランクフェイス」の建物よりも、モデル「ファントムマスク」の建物が大きく写っているもの(甲21の49)、原告建物と異なり、正面にクロスしたトリムラインがなく、2階部分の窓が1枚の掃き出し窓と比較的小さな二つの窓が並んだ形状の建物が写っているもの(甲21の58、60、61、65、67、68、71、72、)、モデル「フランクフェイス」がワンダーデバイスシリーズ以外の複数のモデルとともに同じ大きさで掲載されていて、その形状が小さく表示されている、ないしは、他のモデルと重ねて掲載されているため、形状の一部が隠れているもの(甲21の40〜42、43、46、47、51、55、56、62、69、74、76、78)がある。 また、以上の宣伝広告に記載された文言をみると、「スマートな外観と木のぬくもりいっぱいのラフ感が魅力の室内という『ラフ&スマ−ト』のコンセプトはそのままに、木肌を見せた明るいオープンな『トリムフェイス』と、一枚壁ですべてをおおいつくすミステリアスな『ファントムマスク』という2つのファサードスタイルを用意。多彩な暮らしを演出する『キッチンセンターの家』『大土間の家』『異世代の家』『おみせな家』『タクラミストの家』『ガレージハウスな家』という6つのスタイルを提案する。」旨(甲21の13、14、17、19、20、22、24、25、27、28)、「ガルバリウムの壁の向こうには、優しい天然木のぬくもり、そして想像を超える自由が広がっている。」(甲21の16、18、21)、「寝ても覚めても、クルマと暮らす家。 大好きなクルマやバイクと一緒に暮らすという夢を実現できる家。それがワンダーデバイスの『ガレージハウスな家』です。ガルバリウムの個性的な外観の中に広がるのは、ひろびろとしたガレージと、クルマを眺めながらくつろげる天然木に包まれたリビング。そして暮らしやすく、会話がはずむダイニング。」(甲21の26、30、35、38、39)、「『ワンダーデバイス』のラインナップに、“ガレージハウスな家”が登場。個性的な外観の中に広がるのは、広々としたガレージと、愛車を眺めつつ寛げる無垢の木のリビング・ダイニング。ガレージには有孔ボードの内壁を採用し、ツール類から遊び道具まで思いのままにディスプレイして楽しめるデザインに。」(甲21の29)、「たとえば土間とデッキを1つにつなげて、部屋の中も外もまるごと楽しんでみる。住む人の好みで自由にカスタマイズできるから、暮らしの楽しさがどこまでも広がっていく。」(甲21の44、45、48、50)、「こちらの外観はオーセンティックなログハウスとは違った印象。しかし室内に足を踏み入れると、無垢材がふんだんに使用された自然観あふれる空間で、大きな吹き抜けが開放感を演出している。とりわけ気持ちいいのは、リビングと屋外のデッキとの一体感。敷居がないので、テラス戸を開くとリビングとデッキがひとつながりになっており、家の中に居ながらにして自然の中にいるような開放感をもたらすのだ。」(甲21の53)などと記載されている。 (イ) 原告販社において、平成21年4月頃から原告が周知性を獲得したと主張する平成23年3月までの期間において、岐阜県内及び愛知県内の一部において、新聞折り込みチラシやフリーペーパー挟み込みチラシを多数配布している(甲25の1〜7)が、いずれのチラシも、原告表示の建物が三角屋根の通常のログハウスなどとともに複数のログハウス調の建物の一つとして写っているにすぎず、しかも、いずれのチラシも掲載されたモデル「フランクフェイス」のウッドデッキの形状が不明瞭であり(甲25の1〜7)、さらに、チラシを個別にみると、モデル「フランクフェイス」が「ワンダーデバイス」シリーズの他の2モデルと並んで掲載されたもの(甲25の1)、展示場の見取り図の中に3ないし4種類の三角屋根のログハウスとともに写っており、2枚目には、原告表示の建物に代わって「ファントムマスク」のみが写っているもの(甲25の5〜7)などがあり、宣伝文句として、「クールな外観の中に、天然木で囲まれた住空間が広がるワンダーデバイス。遊び心たっぷりの土間ラウンジや4つのスタイルから選べるキッチンなど多彩なデバイスを組み合わせて、これまでにない自分らしい暮らしを楽しめます。」(甲25の2)、「ガルバリウムに覆われたスマートな外観に、天然木のラフや大空間が広がる都市型スローライフ住宅。」などと記載されている(甲25の4、5、7)。 (ウ) 原告は、ワンダーデバイスシリーズを発表して以降、別紙5「原告表示の建物を展示している展示場」記載のとおり、全国各地に18の展示場を設け、モデル「フランクフェイス」の建物等を展示・販売している。また、展示場を訪れて原告に登録した新規登録者数ないし新規来場者数は、別紙6「原告表示の建物が展示されている各展示場への新規の来場者数」記載のとおりである。〔甲18〕 原告表示の建物の形態を示す建物には、原告建物があるほか、前記(ア)の宣伝広告に掲載された写真等を提出するが、本件全証拠をみても、展示場に実際に展示される建物や顧客に販売された施工例に関しては、その形態を示す証拠は特に提出されていない。 (エ) 原告はほかに、「ワンダーデバイス」シリーズ等を掲載した自社のカタログを展示場で配布している(甲20)。同カタログは、「ワンダーデバイス」シリーズ全体について掲載するものであるから、モデル「フランクフェイス」のみならずその余の2モデルについても掲載されていることが推認される。 なお、同カタログに、モデル「フランクフェイス」のうちいかなる形態のものがいかなる態様で掲載されているのかについては、前記証拠によっては明らかにされず、その余の本件全証拠をみても認定することができない。 イ 販売数 「ワンダーデバイス」シリーズ全体の受注件数は、平成20年度が160件、平成21年度が241件、原告が周知性を獲得したと主張する平成23年3月を含む平成22年度が248件であり、同シリーズのうちモデル「フランクフェイス」の受注件数は、平成20年度が93件、平成21年度が118件、平成22年度が133件である。〔甲49〕 ウ グッドデザイン賞の受賞〔甲4〕 原告は、2004年(平成16年)に、「ワンダーデバイス」シリーズについて、グッドデザイン賞を受賞したが、グッドデザイン賞ホームページに掲載された建物の外観は、モデル「フランクフェイス」のものではない。 また、「受賞対象の概要」には、「プランは150通りの組み合わせから選べる選択型。5通りのライフスタイル、5通りの2階間取り、3通りのフェイスデザイン、2通りの接道対応の5×5×3×2=150。」と記載されている。 さらに、審査委員の評価については、デザインが「生活者のニーズに答えている」、「価値に見合う価格である」といったものや、「デザインのプロセス、マネージメントが優れている」、「新しいものづくりを提案している」、「新しい売り方、提供の仕方を実現している」、「人と人との新しいコミュニケーションを提案している」、「新しい作法、マナーを提供している」といった項目でも評価されたことが認められる。 (3) 他の建築住宅の形態について 証拠(乙1ないし28)によれば、原告が主張する外観上の特徴、すなわち、@玄関面からその反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅であり、A玄関面以外の外壁には一面に単色のガルバリウム鋼板が使用され、B玄関面の外壁の素材には天然の木目と色合いをそのままにした木材が使用され、C玄関面の2階部分は建物の横幅いっぱいにバルコニーが設けられ、D玄関面の1階部分には、高さのある大きな掃き出し窓が設けられ、さらに建物前部まで突出したウッドデッキが設置されており、E玄関面から見て、左右両側の外壁から屋根面まで全て玄関面方向に延長して袖壁とし、袖壁小口面はGL面(地盤面)に対し垂直とし、玄関面側立面と平行となっている、といった外観上の特徴に関して、そのような外観を有するものとして、次のような建築住宅が存在することが認められる。 ア ミサワホームは、少なくとも、2005年(平成17年)に一戸建て住宅「GENIUS いろどりの間」シリーズの「スタイリッシュモダンタイプ」(乙2)及び「SolarMax」シリーズ(乙3)において、バルコニーのある正面からその反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅を販売していた。 イ たけひろ建築工房の注文住宅「こだわりいっぱい個性的な家」(乙5B)は、バルコニーのある正面からその反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅であり、前記外観上の特徴Aを備えている。 ウ 株式会社グッドリビングのどんぐりの家「想.souシリーズ」(乙6)は、前記外観上の特徴AないしC、Eを備えている。 エ 株式会社世文の施工例である「デザイナーズ住宅:太陽光発電を設置したエコ住宅:豊橋市(約36坪)」(乙7)は、前記外観上の特徴A、C及びEを備えている。 オ 株式会社トキワホームデザインの商品ラインナップにある住宅(乙8)は、前記外観上の特徴@、B、C及びEを備えている。 カ 株式会社イケダ工務店の施工例である「設計コンペで建てた家」(乙9)は、前記外観上の特徴Cを備えている。 キ 株式会社厚峰建設の建築作品事例集にある注文住宅(乙10A)は、前記外観上の特徴@、C及びEを備えている。 ク 本庄工業株式会社の施工例「岐阜市Y様邸」(乙11)は、バルコニーのある正面からその反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅であり、玄関が正面にないことを除けば、前記外観上の特徴@及びCを備えているほか、1階部分には、高さのある大きな掃き出し窓が設けられ、さらに建物前部まで突出したウッドデッキが設置されている。 ケ 株式会社材信工務店のモダンデザイン住宅施工例(乙12のA及びC)は、前記外観上の特徴@及びEを備えている。 コ 第一建設株式会社の「住まいのラインナップ」に掲載された住宅(乙13)は、前記外観上の特徴@、C及びEを備えている。 サ 株式会社ユニバーサルホームのデザイナーズ住宅「ビー・スタイル」(乙14のA及びB)は、前記外観上の特徴@、D及びEを備えている。 シ 株式会社木下工務店の施工例(乙15)は、前記外観上の特徴A、C及びEを備えている。 ス 株式会社中村ハウジングの「LOAFER」(乙16)は、前記外観上の特徴Bを備えている。 セ 有限会社デフの施工例「菅平高原の家(長野県上田市)」(乙17)は、前記外観上の特徴@、B及びEを備えている。 ソ 赤池鉄工建設株式会社の施工例(乙18)は、前記外観上の特徴@及びBを備えている。 タ 「Aのブログ」と称するウェブサイトに掲載された「岐阜の家 7−2」(乙19)は、前記外観上の特徴C及びEを備えている。 チ 株式会社グリーン企画の施工例「外壁にガルバニウムと木を使用したスタイリッシュな家」(乙20)は、前記外観上の特徴@ないしEを備えている。 ツ 株式会社シノダ工務店の施工例「木匠の家」(乙21)は、前記外観上の特徴@ないしEを備えている。 テ 株式会社田代工務店の施工例「BLUE BOX」(乙22)は、前記外観上の特徴@、B、C及びDを備えている。 ト 株式会社北村建築工房の施工例「珪藻土間と大黒柱のある家」(乙23)は、前記外観上の特徴@、A、CないしEを備えている。 ナ 株式会社小川建美の施工例「シンプルモダンな箱の家」(乙24)は、玄関が正面にないことを除けば、前記外観上の特徴@ないしB、D、Eを備えている。 ニ 有限会社アーキ・フロンティアホームの施工例「キュービックハウスH邸」(乙25)は、玄関が正面にないことを除けば、前記外観上の特徴@、A、C及びEを備えている。 ヌ 新潟県産材流通情報センターの施工例「毎日リゾート気分で暮す家」(乙26)は、前記外観上の特徴AないしDを備えている。 ネ ロケーションハウス株式会社の施工例「森林浴」(乙27)は、前記外観上の特徴A及びCを備えている。 ノ ダイエイハウスの施工例「安心感のあるシンプル箱型住宅」(乙28)は、玄関が正面にないことを除けば、前記外観上の特徴@ないしCを備えている。 (4) 被告建物について 被告建物の形態は、別紙2被告表示目録に記載のとおりである。 2 争点(1)ア(原告表示の建物の形態の商品等表示性の有無)について (1) 商品の形態と商品等表示性 不競法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい、商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないから、商品の形態自体が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するためには、@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解するのが相当である。 (2) 原告表示の建物の商品等表示性について 上記(1)を前提に、原告表示の建物が「商品等表示」に該当するかについて以下検討する。 原告は、原告表示の建物の形態は、次の@ないしEの各特徴を全て組み合わせたもの、すなわち、@玄関面からその反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅であり、A玄関面以外の外壁には一面に単色のガルバリウム鋼板が使用され、B玄関面の外壁の素材には天然の木目と色合いをそのままにした木材が使用され、C玄関面の2階部分は建物の横幅いっぱいにバルコニーが設けられ、D玄関面の1階部分には、高さのある大きな掃き出し窓が設けられ、さらに建物前部まで突出したウッドデッキが設置されており、E玄関面から見て、左右両側の外壁から屋根面まで全て玄関面方向に延長して袖壁とし、袖壁小口面はGL面(地盤面)に対し垂直とし、玄関面側立面と平行となっている、以上の6点を全て組み合わせたものであり、その具体的な形態は、別紙1原告表示目録記載の原告建物の形態に限定されるものではなく、上記@ないしEの各特徴を全て組み合わせたものといえる形態をも含むものとし、以上の趣旨で、原告表示の建物は不競法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当すると主張する。 前記(1)のとおり、商品の形態が「商品等表示」に該当するには、前記(1)@の特別顕著性が必要とされるところ、「商品の形態」とは、需用者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいうから(不競法2条4項参照)、商品の形態は、飽くまでその内容が具体的に特定されたものであることが前提であると解される。そして、その理は、原告表示の建物のような一般住宅についても当然に通じるべきものと解される。すなわち、一般住宅においては、その設計に当たり、敷地の位置関係や広さ、形状、接道条件等、諸処の立地条件等の下で、住み心地や、使い勝手、経済性といった住宅としての実用性、機能性を確保した上で、外観や見栄えのよさといった美観面からの工夫がされるから、その全体構成、屋根、柱、壁、窓、バルコニー、玄関等様々な構成要素が、適宜組み合わされ、配置されて、全体として一つの具体的な形態が確定されるものである。そうすると、一般住宅において、客観的にみて他の住宅と異なる顕著な特徴を有するというためには、何らかの具体的に特定された形態であることが「商品等表示」に該当する前提として必要とされるべきである。 しかるに、原告が主張する前記@ないしEの特徴は、いずれもその形態を特定するのに必要とされる建物全体の形状並びに屋根、柱、壁、窓、バルコニー、玄関等の具体的な形状、寸法及び位置関係といった構成要素が何ら具体的に特定されておらず、建物の抽象的かつ観念的な構成を示すにとどまるものであり、しかも、前記1(3)アないしノのとおり、原告が主張する前記@ないしEの特徴のいくつかないしは全てを備える建物が多数存在していることに鑑みれば、原告が主張する前記@ないしEの特徴は、後記(3)アに示すとおり、個々的にみれば、いずれも建物の構成要素としてごくありふれた素材、形状及び構造を示すものにとどまるばかりか、前記@ないしEの特徴を全て充足する建物を想定してみても、需用者はその建物がどのような建物であるかについて抽象的には観念できるとしても、その形状、構造及び位置関係を知覚によって具体的に認識することはできないといわざるを得ない。 そうすると、原告が「商品等表示」該当性を主張する原告表示の建物は、別紙1原告表示目録記載の写真に表現された原告建物を離れたものであるときは、具体的に特定された形態であると認めることができないものであって、原告が主張する前記@ないしEの特徴を全て備えた建物には、数限りないバリエーションが想定されるものであり、一般住宅の需用者である一般の消費者において、通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる建物の形状ということはできないから、その出所を識別することができる商品の形態の特定に欠けるといわざるを得ない。 したがって、原告表示の建物は、商品の形態の特定に欠けるから、その形態が客観的にみて他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできない。 (3) 原告建物を前提とした原告表示の建物の形態の特別顕著性について 仮に、原告が主張する前記@ないしEの特徴を全て備えた建物が、別紙1原告表示目録記載の写真に具現された原告建物の特徴と相まって、「商品の形態」に該当すると認められるとしても、以下のとおり、原告表示の建物は、その形態が客観的にみて他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできない。 ア 特別顕著性について (ア) まず、原告表示の建物の全体についてみると、原告は、前記@の特徴を主張するところ、そのうち「総2階建木造住宅」の部分はごくありふれたものといわざるを得ない。そして、「玄関面から反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根」の部分は、前記1(3)で認定したとおり多くの建物に備わる形態であり、屋根の傾斜に着目してもその度合いには多様なものがあることが認められ(乙1ないし3、4、8、10ないし14、17、18、20ないし25、28)、それら多様な片流れ屋根の形状と原告表示の建物をみても、その片流れ屋根の形状が他の住宅と比べて特徴的であるとか、商品の形態に大きな差異をもたらしていると認めることはできない。 (イ) 次に、原告表示の建物の外壁の素材についてみると、原告は、前記Aの特徴を主張するところ、玄関面以外の外壁に一面に単色のガルバリウム鋼板を使用することは、前記1(3)で認定したとおり多くの建物に備わる形態であるから(乙4ないし7、15、21、23ないし28)、特徴ある形態であるということはできず、原告表示の建物について、その外壁の素材が他の住宅と比べて特徴的であるとか、商品の形態に大きな差異をもたらしていると認めることはできない。 (ウ) さらに、原告表示の建物の玄関面についてみると、その全体の外観については、原告が前記Bの特徴を主張するが、玄関面の外壁の素材に天然の木目と色合いをそのままにした木材を使用することは、前記1(3)で認定したとおり多くの建物に備わる形態であるから(乙4、6、8、16〜18、20〜22、24、26、28)、特徴ある形態であるということはできない。 (エ) 原告表示の建物の玄関面のうち2階部分については、原告が前記Cの特徴を主張するが、住宅の2階部分にバルコニーを建物の横幅一杯に幅を持たせて設けることは、前記1(3)で認定したとおり他の多くの住宅でも採用されていることが認められる(乙4、6ないし11、13、15、19ないし23、25ないし28)。また、原告が主張する前記Cの特徴の内容をみると、バルコニーの幅が特定されているだけで、バルコニーの具体的形態を構成する手すり等についてその具体的形態については上記特徴の内容から捨象されているから、そのような内容には意匠面における特徴を見出すことができない。さらにいえば、前記1(2)で認定した宣伝広告、例えば、「来るモノ拒まずのオープンなフェイス。」などと謳うように、バルコニーを建物の横幅一杯に幅を持たせることは、バルコニーのスペースを可能な限り広くして、利用上の自由度を可能な限り確保するとともに、玄関面に開放的な印象を与えることを目的とするものと認められ、その形状は意匠上の理由よりむしろ機能上の理由に由来するものとみることができる。 (オ) また、原告表示の建物の玄関面のうち1階部分について、原告が前記Dの特徴を主張するが、まず、リビングに天井近くまで高さを持たせた掃き出し窓を設け、段差なく建物の外に続くウッドデッキを設置することは、前記1(3)で認定したとおり多くの建物でも採用されていることが認められる(乙4、14、20、21ないし24、26、27)。 また、前記1(2)で認定した宣伝広告、例えば、「とりわけ気持ちいいのは、リビングと屋外のデッキとの一体感。敷居がないので、テラス戸を開くとリビングとデッキがひとつながりになっており、家の中に居ながらにして自然の中にいるような開放感をもたらすのだ。」などと謳うように、住宅にかかる形態を備えることは、これによってリビングとウッドデッキをひとつながりのスペースにして、住人に室内と室外の一体感をもたらして大きな開放感を与えることを目的とするものと認められ、その形状は機能上の理由に由来するものとみることができる。 次に、ウッドデッキが建物前部まで突出するものとした形態については、原告建物では長方形のものが示されているが、原告の商品において必ずしも原告建物のように長方形で統一されているわけではなく、また、ウッドデッキの上記のような形態は、リビングから続くウッドデッキを室外のリビングとして利用することを目的とするものと認められ、どれくらいの奥行きを持たせるか、形状を長方形とするか玄関部分に凹みを持たせるかといったウッドデッキの具体的形状は、敷地の大きさや形状、ウッドデッキの利用態様に応じて適宜選択されるべきものであるから、機能上ないし設計思想に由来して選択されるものとみることができる。 (カ) 原告表示の建物の玄関面のうち袖壁について、原告が前記Eの特徴を主張するが、玄関面からみて左右両側の外壁から屋根面まで全て玄関面方向に延長して袖壁とし、袖壁小口面はGL面(地盤面)に対し垂直とし、玄関面側立面と平行になっていることは、前記1(3)で認定したとおり多くの建物に備わる形態であるから(乙4、6ないし8、10、12ないし15、17、19ないし21、23ないし25)、建物の形状としてありふれたものであるから、特徴ある形態であるということはできない。 (キ) そして、前記1(3)アないしノのとおり、原告が主張する前記@ないしEの特徴のいくつかないしは全てを備える建物が多数存在していることに鑑みれば、上記@ないしEの特徴を全て備える建物を想定しても、そのことをもって、原告が主張する特徴を構成する部分が他の住宅と比べて特徴的であるとか、商品の形態に大きな差異をもたらしていると認めることはできない。 (ク) 以上のとおりであるから、原告が主張する上記@ないしEの特徴を全て備えた原告表示の建物の形態が、客観的に他の同種建物とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできないというほかない。 (ケ) この点に関して原告は、前記1(3)の建物のうち、イ(乙5)、オ(乙8)、セ(乙17)、チないしテ(乙20ないし22)、ナ(乙24)、ノ(乙28)の各建物についても、原告表示の建物を模倣して設計、建築されたものと考えざるを得ないと主張するが、本件全証拠をみても、施主が原告表示の建物に関心を示し、事業者が施主の意向に従って原告表示の建物を模倣して設計、建築したことを認めるに足りる的確な証拠はない。 また、原告は、前記1(3)の建物のうち前記@ないしEの特徴を全て備えるものはわずかしかないから、原告表示の建物の形態に特別顕著性が認められるべきである旨主張する。しかし、前記1(3)によれば、前記C及びDを除くその余の特徴を多く備えている建物が多く存在することが認められるところ、前記C及びDの特徴は、前記認定判断したとおり、ごくありふれた特徴であり、しかもそれらは意匠上の理由よりむしろ機能上の理由に由来するものであって、いずれも機能上ないし設計思想に基づいて適宜選択されるものであるから、その余の特徴を備える建物の設計の延長上にあるものということができる。したがって、特に前記C及びDの特徴まで備える建物が多く存在しなくとも、原告表示の建物の形態に特別顕著性を認めることはできない。 以上のとおり、原告の上記主張はいずれも採用することができない。 イ 周知性について 次に、原告表示の建物について、その周知性を認めることができるかについても検討する。 この点に関して原告は、前記第3、1〔原告の主張〕(3)のとおり、展示場での展示・カタログの配布、広告・特集記事の掲載、グッドデザイン賞の受賞、原告の営業実績、東海地方での重点的な宣伝広告などを理由に、原告表示の建物は、遅くとも平成23年3月頃には、需要者の間で全国的に広く知られており、特に東海地方では他の地域以上に需要者から原告表示の建物が広く認識されるに至っており、商品等表示性を獲得していた旨主張する。 しかし、以下のとおり、原告の主張する平成23年3月の時点で、原告表示の建物につき、周知性を獲得したと認めることはできない。 (ア) 広告・特集記事の掲載について 原告の宣伝広告・特集記事の掲載の状況等は前記1(2)ア(ア)において認定したとおりであり、原告は、モデル「フランクフェイス」について、遅くとも平成18年9月から原告が周知性を獲得したと主張する平成23年3月までの間に、合計78回にわたって全国的に販売される雑誌や新聞に宣伝広告を掲載されていたことが認められる。 しかし、そもそも原告の「ワンダーデバイス」シリーズにはモデル「フランクフェイス」を含めて三つの異なるフェイスタイプがあるところ、上記宣伝広告は、「ワンダーデバイス」シリーズの宣伝広告であって、原告表示の建物の形態が含まれるモデル「フランクフェイス」のみの宣伝広告ではない。 また、平成18年9月からモデル「フランクフェイス」のモデルチェンジをした平成20年4月までの建物は、2階部分のバルコニーの幅が建物の横幅の半分までしかなく2階部分に建物の横幅一杯のバルコニーが存在しないため、原告の主張する外観上の特徴Cを欠いていることが明らかであり、したがって、その間の宣伝広告は、少なくとも外観上の特徴Cに関して原告表示の建物の形態の周知性に寄与すると認めることはできない。 そうすると、原告が主張する外観上の特徴@ないしEを全て充足する建物の宣伝広告は、モデルチェンジをした平成20年4月以降に掲載された合計66回となるが、同モデルのモデルチェンジ後の宣伝広告を検討すると、そのほとんどの写真が建物を右斜め方向から写した写真が1枚あるだけであって全体の形態が不明であるばかりか、ウッドデッキがはっきり写っていないかあるいは全体を表示していないためにその形状が不明若しくは不明瞭であるため外観上の特徴Dが認識できないもの、掲載写真の画質が粗いために、外壁面に使用されているガルバリウム鋼板や木材の質感が不鮮明となっているため外観上の特徴A及びBが認識できないもの、ウッドデッキではなく土間が設けられていたり、1階正面に大きな掃き出し窓やウッドデッキがなく、その部分が車庫になっている建物が写っているため外観上の特徴Dを欠くもの、モデル「フランクフェイス」の建物よりもモデル「ファントムマスク」の建物が大きく写っていたり、原告表示の建物と異なり、正面にクロスしたトリムラインがなく2階部分の窓が1枚の掃き出し窓と比較的小さな二つの窓が並んだ形状の建物が写っているため、原告表示の建物と形態を異にするモデル「フランクフェイス」が表示されていたり、あるいは原告表示の建物がワンダーデバイスシリーズ以外の複数のモデルとともに同じ大きさで掲載されていて、その形状が小さく表示されている、ないしは他のモデルと重ねて掲載されていて形状の一部が隠れているため、広告全体としてみると原告表示の建物がほとんど目立たないものが多数存在する。 また、前記1(2)ア(ア)記載の上記宣伝広告における文言からすれば、原告が上記宣伝広告で強調しているのは、建物の形態というより、「ワンダーデバイス」全体におけるシリーズのコンセプト、すなわち、多様な組み合わせが可能であること、ライフスタイルに合わせた様々な内部構造、建物の機能性や使いやすさであると認められる。 さらに、前記1(2)ア(イ)のとおり、原告販社において平成21年4月頃から平成23年3月までの期間において、岐阜県内及び愛知県内の一部において、新聞折り込みチラシやフリーペーパー挟み込みチラシを多数配布している事実が認められるものの、それらにおいては、原告表示の建物が三角屋根の通常のログハウスなどとともに複数のログハウス調の建物の一つとして写っているにすぎず、しかもいずれのチラシも掲載されたモデル「フランクフェイス」のウッドデッキの形状が不明瞭であり、さらに、チラシを個別にみると、モデル「フランクフェイス」が「ワンダーデバイス」シリーズの他の2モデルと並んで掲載されたもの、展示場の見取り図の中に3ないし4種類の三角屋根のログハウスとともに写っており、2枚目には、原告表示の建物に代わってモデル「ファントムマスク」のみが写っているというものであり、いずれのチラシも原告表示の建物のみが強調されているものではないことが認められる。 (イ) 展示場での展示・カタログの配布について 前記1(2)ア(ウ)のとおり、原告は、別紙5「原告表示の建物を展示している展示場」記載のとおり、全国各地に18の展示場を設け、原告表示の建物等を展示・販売している。しかし、モデルチェンジをした平成20年4月から原告が周知性を獲得したと主張する平成23年3月までの期間において開催されていた展示場は、全18会場のうち、わずか8会場にすぎないし、また、展示場を訪れて原告に登録した新規登録者数ないし新規来場者数については、来場者数が伸び始めたのは、平成22年以降であり、来場者数が急増したといえるのは平成24年以降である。さらに、展示場に展示された建物については、原告が原告表示を有するものと主張するが、具体的にいかなる形態を備えるものかは証拠上明らかではなく、販売数も「ワンダーデバイス」シリーズ全体に関するもので、そのうちモデル「フランクフェイス」がどの程度を占めるのかは証拠上明らかではない。 (ウ) 原告の営業実績等について 前記1(2)イのとおり、モデル「フランクフェイス」の受注件数は、平成20年度が93件、平成21年度が118件、平成22年度が133件であり、長期間にわたって販売されているとも短期間に爆発的な数量が販売されたとも認めることができないばかりか、そのうち原告表示の建物の外観上の特徴@ないしEを全て充足する建物が何件受注し、販売されたかは不明である。 (エ) グッドデザイン賞の受賞について 前記1(2)ウのとおり、原告はグッドデザイン賞を受賞したが、その対象は飽くまでも「ワンダーデバイス」シリーズであり、原告表示の建物を含むモデル「フランクフェイス」のみの受賞ではなく、現にそのホームページに掲載されたものがモデル「フランクフェイス」の住宅ではないこと、受賞の概要でも、上記シリーズのコンセプトやライフスタイルに合わせてプランを150通りの組み合わせから選べる選択型であること等が強調されており、審査委員の評価についても、「価値に見合う価格である」といったものや、「デザインのプロセス、マネージメントが優れている」、「新しいものづくりを提案している」、「新しい売り方、提供の仕方を実現している」、「人と人との新しいコミュニケーションを提案している」、「新しい作法、マナーを提供している」といった、建物の形態とは関係のない項目でも評価されていることからすれば、同受賞の事実は、需要者に対して原告表示の建物の形態が原告の出所を表示するものとして周知になっていることを基礎付けるものということができない。 (オ) そうすると、前記認定した原告の宣伝広告及び販売状況等により、原告表示の建物の形態が、原告によって長期間独占的に使用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需用者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていると認めることはできないというべきである。 (4) 小括 以上のとおり、原告表示の建物の形態は、仮に原告建物の形態を加味したとしても、客観的に他の同種商品と異なる顕著な特徴を有しているということはできず、かつ、その形態が原告によって長期間独占的に使用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需用者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっているということもできないから、不競法2条1項1号所定の商品等表示に該当すると認めることはできない。 よって、その余の点について判断するまでもなく、不競法違反を理由とする原告の請求は理由がない。 3 争点(2)ア(ア)(原告表現建物の著作物性)について (1) 建築物について、著作権法10条1項5号の「建築の著作物」に当たるとして同法によって保護されるには、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、知的・文化的精神活動の所産であって、美的な表現における創作性、すなわち造形美術としての美術性を有するものであることを要すると解するのが相当である。 そして、一般住宅の場合についてみると、通常、その全体構成や屋根、柱、壁、窓、玄関等及びこれらの配置関係等において、実用性や機能性(住み心地、使い勝手や経済性等)のみならず、美的要素(外観や見栄えの良さ)も加味された上で、設計、建築されるのであり、そのことに照らすと、一般住宅が「建築の著作物」に当たるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えた場合と解することが相当である。 この点に関して原告は、住宅は意匠法による保護の対象とはならないから、一般の著作物等同様に、もっぱら創作性の有無から「建築の著作物」に該当するか判断されるべきであると主張する。 しかし、不動産について意匠法による保護を認めるか否かはもっぱら立法政策の問題であるから、そのことを理由に造形美術としての美術性を要しないと解することはできないのであり、原告の上記主張は採用することができない。 (2) 原告は、上記(1)を前提としても、原告表現建物の表現上の本質的な特徴として、「箱の家手法」を表現するために、@シンプルなワンボックス型で屋根面を傾斜の緩い片流れ屋根とする、「内外のコントラスト」を表現するために、A内部と連続したウッドデッキ側の外壁面には、天然の木目と色合いをそのままにしたパネリング(羽根板)を使用し、Bデッキ面以外の三面にガルバリウム鋼板を用いる、「アウターリビング手法」を表現するため、Cウッドデッキとウッドデッキにつながる高さのある大きな掃き出し窓を設置する、また、モデル「フランクフェイス」のデザインコンセプトである「来るモノ拒まず、ウェルカムなオープンフェイス」の思想を表現するために、D横幅いっぱいのベランダを設け、Eベランダを支える梁と柱を同色とするという、以上の@ないしEの表現上の特徴を挙げ、それらの特徴は個々に、上記挙示した思想を創作的に表現したものであり、かつ、それら六つの表現上の特徴を組み合わせたことに造形美術としての美術性が認められるのであり、原告表現建物は著作権法10条1項5号の「建築の著作物」として著作物性を有すると主張する。 しかし、例えば、原告が主張する前記Cの表現上の特徴である、「アウターリビング手法」を表現するため、ウッドデッキとウッドデッキにつながる高さのある大きな掃き出し窓を設置する、という点は、これによってリビングとウッドデッキをひとつながりのスペースにして、住人に開放感を与えることを目的とするものと認められ、その外観は機能上の理由に由来するものとみることができるし、また、原告が主張する前記Dの表現上の特徴である、モデル「フランクフェイス」のデザインコンセプトである「来るモノ拒まず、ウェルカムなオープンフェイス」の思想を表現するために、横幅いっぱいのベランダを設ける、という点は、バルコニーを建物の横幅一杯に幅を持たせることにより、バルコニーのスペースを可能な限り広くして、利用上の自由度を可能な限り確保するとともに、玄関面に開放的な印象を与えることを目的とするものと認められ、主に機能性の観点から採用されたものと認められるように、原告が主張する前記@ないしEの表現上の特徴は、前記2(2)アにおける原告表示の建物の商品等表示該当性の判断と同様に、いずれも建物の抽象的なコンセプトそのもの、若しくはその実用性・機能性を抽象的に表現したものにすぎず、さらにそれら全てを組み合わせたものとしてみても、その内容をもってアイデアと離れた具体的な表現と認めるのは困難であるというべきである。 (3) 仮に原告が主張する前記@ないしEの表現上の特徴が、別紙1原告表示目録の写真に具現された原告建物の特徴と相まって、具体的な表現であると認められるとしても、以下のとおり、それらが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認められないというべきである。 ア 証拠(乙1ないし19)によれば、次のような建築住宅が存在することが認められる。 (ア) 乙1に掲載された住宅は、ミサワホームの前身である三澤木材株式会社が1966年(昭和41年)に発表したもので、片流れ形式の屋根が採用されていた。また、ミサワホームは、その後に少なくとも、乙2の住宅や、乙3の住宅といった、原告が主張する前記@の表現上の特徴を備える一戸建て住宅を販売していた。 (イ) たけひろ建築工房の注文住宅「遊べる家」(乙5A)は、前記@ないしEの表現上の特徴をいずれも備えている。 (ウ) 株式会社グッドリビングのどんぐりの家「想.souシリーズ」(乙6)は、前記AないしDの表現上の特徴を備えている。 (エ) 株式会社世文の施工事例である「デザイナーズ住宅:太陽光発電を設置したエコ住宅:豊橋市(約36坪)」(乙7)は、前記BないしEの表現上の特徴を備えている。 (オ) 株式会社トキワホームデザインの商品ラインナップにある住宅(乙8)は、前記@、A並びにCないしEの表現上の特徴を備えている。 (カ) 株式会社イケダ工務店の施工事例である「設計コンペで建てた家」(乙9)は、前記CないしEの表現上の特徴を備えている。 (キ) 株式会社厚峰建設の建築作品事例集にある注文住宅(乙10のA)は、前記@及びDの表現上の特徴を備えている。 (ク) 本庄工業株式会社の施工例「岐阜市Y様邸」(乙11)は、前記@並びにCないしEの表現上の特徴を備えている。 (ケ) 株式会社材信工務店のモダンデザイン住宅施工例(乙12のAないしC)は、前記@、C及びEの表現上の特徴を備えている。 (コ) 第一建設株式会社の「住まいのラインナップ」に掲載された住宅(乙13)は、前記@、C及びDの表現上の特徴を備えている。 (サ) 株式会社ユニバーサルホームのデザイナーズ住宅「ビー・スタイル」(乙14のA)は、前記@及びCの表現上の特徴を備えている。 (シ) 株式会社木下工務店の施工事例(乙15)は、前記BないしDの表現上の特徴を備えている。 (ス) 株式会社中村ハウジングの「LOAFER」(乙16)は、前記@、A及びCの表現上の特徴を備えている。 (セ) 有限会社デフの施工事例「菅平高原の家(長野県上田市)」(乙17)は、前記@、A及びCの表現上の特徴を備えている。 (ソ) 赤池鉄工建設株式会社の施工事例(乙18)は、前記AないしCの表現上の特徴を備えている。 (タ) 「Aのブログ」と称するウェブサイトに掲載された「岐阜の家 7−2」(乙19)は、前記CないしEの表現上の特徴を備えている。 (チ) 株式会社グリーン企画の施工例「外壁にガルバニウムと木を使用したスタイリッシュな家」(乙20)は、前記@ないしEの表現上の特徴をいずれも備えている。 (ツ) 株式会社シノダ工務店の施工例「木匠の家」(乙21)は、前記@ないしEの表現上の特徴をいずれも備えている。 イ(ア) 以上認定したところによれば、原告が主張する前記@ないしEの表現上の特徴は、いずれも住宅の外観として多くの住宅に採用されていることが認められるから、それを建築の著作物における具体的な表現とみるかぎり、ありふれた表現であるといわざるを得ない。 (イ) そして、原告が主張する前記@ないしEの表現上の特徴について、前記(3)アの認定に照らしつつ原告建物の外観をみると、まず、その建物全体については、玄関面からはその反対側に向けて下降する片流れ屋根を備えた総2階建木造住宅であり(前記@の表現上の特徴)、その片流れ屋根に着目しても、緩やかな傾斜を設けたもので、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。 次に、原告建物の外壁面をみると、ウッドデッキを備える玄関面側の外壁面には、天然の木目と色合いをそのままにしたパネリング(羽根板)を使用し(前記Aの表現上の特徴)、玄関面以外の三面の外壁面にガルバリウム鋼板を使用している(前記Bの表現上の特徴)。このように、玄関面以外の三面の外壁面を、金属の無機質さと縦方向に設けられた凹凸とが相まってシャープな印象を与えるガルバリウム鋼板で覆い、玄関面の外壁面を、その全面を木部とし、天然の木目と色合いをそのままに板張りの仕上げにすることは、ログハウス様式の住宅において一定の工夫が施されたものであるとはいえても、前記(3)ア認定のとおり同様の組合せを施した住宅が存在することに鑑みると、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。 さらに、原告建物の玄関面をみると、内部と連続し、かつ玄関面の横幅全体に展開して玄関面前面に突出させたウッドデッキを備え、かつ、ウッドデッキにつながる高さのある大きな掃き出し窓を設置し(前記Cの表現上の特徴)、2階部分に建物の横幅いっぱいにベランダを設け(前記Dの表現上の特徴)、ベランダを支える梁と柱を同色とする(前記Eの表現上の特徴)というものであるが、いずれも一般住宅のありふれた外観にすぎず、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。 また、前記Eの表現上の特徴については、玄関面が長方形であって、図形として極めて基本的な形状であるなかで、同色で構成する前記梁と柱を配置してトリムラインを加えることにより、外観にアクセントを与えており、外観に美的形象として一定の工夫が施されたものであるとはいえる。しかし、前記(3)ア認定のとおり同様に同色の梁と柱を配置してトリムラインを形成する様式は、他の住宅にも採用されていることに鑑みると、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない。 (ウ) 以上のとおり、原告建物の(1)建物全体の外観、(2)建物の外壁面、(3)玄関面のいずれをみても、それらが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができないから、さらにそれを抽象化した原告が主張する前記@ないしEの表現上の特徴を備える建物が、一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることは到底できないというべきである。 (エ) この点に関して原告は、2004年(平成16年)にグッドデザイン賞を受賞したことを著作物性のあることの理由とするが、前記2(3)イ(エ)において認定したのと同様の理由で、原告がグッドデザイン賞を受賞したことは、原告表現建物の造形美術としての美術性を根拠付けるものと認めることはできない。 (オ) 以上のとおりであり、原告表現建物に造形美術としての美術性が備えられているとは認められないから、原告表現建物が著作権法10条1項5号の「建築の著作物」としての著作物性を有すると認めることはできない。 (4) 小括 よって、原告表現建物の著作権侵害を理由とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。 4 争点(2)イ(原告各写真につき被告による著作権侵害の成否)について (1) 原告は、被告各写真は、原告が著作権を有する原告各写真を被告が翻案したものであり、かかる被告各写真を被告のホームページに掲載することで自動公衆送信を行い、被告各写真を掲載したパンフレットを配布することで譲渡を行っており、原告の原告各写真の公衆送信権及び譲渡権を侵害すると主張するので、以下検討する。 (2) この点、著作物について翻案といえるためには、当該著作物が、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837ページ)、この理は本件のような写真の著作物についても基本的に当てはまるものと解される。そして、本件においては、原告各写真は、その被写体が原告建物であり、被告各写真は、その被写体が被告建物であり、互いに被写体を異にすることが明らかであり、また、原告表現建物に「建築の著作物」としての創作性が認められないことは前記3のとおりであるから、撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできないのであり、被告各写真が原告各写真に依拠することを前提に、撮影時期、撮影角度、色合い、両角等の表現手法において、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えたものと認められるかについて検討するのが相当である。 (3) まず、原告斜め写真についてみると、その構図は、被写体を玄関面左斜め下から玄関面と左側面側の全体が見えるようにしたものであり、その撮影時期は、昼間の時間であることが認められる。これに対して被告斜め写真についてみると、その構図は、原告斜め写真と同様、被写体を玄関面左斜め下から玄関面と左側面側の全体が見えるようにしてはいるが、より目線を下げてウッドデッキの形状が看取できないものとなっており、その撮影時期は、夜間の時間であることが認められる。さらに、両写真を対比すると、光量の調整や、陰影の付け方にも差異が認められる。 そうすると、被告斜め写真は、構図において原告斜め写真と近似するとしても、そもそも撮影対象自体が異なり、その撮影時期や光量の調整、陰影の付け方において原告斜め写真と違いがあるから、被告斜め写真が原告斜め写真に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって、被告斜め写真が原告斜め写真の翻案に当たるとは認められない。 (4) 次に、原告正面写真についてみると、その構図は、玄関面を真正面から、玄関面全体が大きく見えるようにしたものであり、その撮影時期は、昼間の時間であり、さらに、建物の周囲に生い茂る木々の陰影が建物に投影されて、建物の陰影によるコントラストが看取できるものとなっていることが認められる。これに対して被告正面写真は、原告正面写真と同様に、玄関面を真正面から、玄関面全体が大きく見えるようにし、その撮影時期は、昼間であるが、建物に陰影が投影されておらず、建物の陰影が特に見受けられないし、住宅街を背景にしたものとなっていることが認められる。 そうすると、被告正面写真は、構図や撮影時期において原告正面写真と近似するとしても、そもそも撮影対象自体が異なり、その陰影の付け方や背景においても違いがあるから、被告正面写真が原告正面写真に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって、被告正面写真が原告正面写真の翻案に当たるとは認められない。 (5) 以上のとおりであるから、原告各写真の著作権侵害を理由とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 5 結論 以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 実本滋 裁判官 足立拓人 (別紙1)(画像省略) 原告表示目録 写真1【建物全体】 @玄関面から反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅 写真2【外壁の素材】 A玄関面以外の外壁には一面に単色のガルバリウム鋼版を使用 写真3【玄関面全体の外観】 B玄関面の外壁の素材には天然の木目と色合いをそのままにした木材を使用 【2階部分】 C玄関面の2階部分には建物の横幅一杯のバルコニー 【1階部分】 D玄関面の1階部分に高さのある大きな掃き出し窓、建物前部まで突出したウッドデッキを設置 【袖壁】 E玄関面から見て、左右両側の外壁から屋根面まで全て玄関面方向に延長して袖壁とし、袖壁小口面はGL面(地盤面)に対し垂直とし、玄関面側立面と平行となっている形態 (別紙2)(画像省略) 被告表示目録 【建物全体】 @玄関面から反対側に流れる傾斜の緩い片流れ屋根の総2階建木造住宅 【外壁の素材】 A玄関面以外の外壁には一面に単色のガルバリウム鋼板を使用 【玄関面全体の外観】 B玄関面の外壁の素材には天然の木目と色合いをそのままにした木材を使用 【2階部分】 C玄関面の2階部分には建物の横幅一杯のバルコニー 【1階部分】 D玄関面の1階部分に高さのある大きな掃き出し窓、建物前部まで突出したウッドデッキを設置 【袖壁】 E玄関面から見て、左右両側の外壁から屋根面まで全て玄関面方向に延長して袖壁とし、袖壁小口面はGL面(地盤面)に対し垂直とし、玄関面側立面と平行となっている形態 (別紙3)(画像省略) 原告写真目録 1 原告斜め写真 2 原告正面写真 (別紙4)(画像省略) 被告写真目録 1 被告斜め写真 2 被告正面写真 (別紙5) 【原告表示の建物を展示している展示場】(省略) (別紙6) 【原告表示の建物が展示されている各展示場への新規の来客者数】(省略) |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |