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【事件名】さくらインターネットへの発信者情報開示請求事件B
【年月日】平成26年10月15日
 東京地裁 平成26年(ワ)第11026号 発信者情報開示等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成26年8月27日)

判決
原告 株式会社PGSホーム
同訴訟代理人弁護士 神田知宏
被告 さくらインターネット株式会社
同訴訟代理人弁護士 小栗久典


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、別紙ウェブページ目録記載の閲覧用URLにより表示されるウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)をトップページとするウェブサイト群(以下「本件サイト」という。)の記載により、不正競争防止法2条1項14号若しくは13号の不正競争が行われ、又は原告の名誉権が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)に基づき、被告に対し、本件ウェブページが蔵置されたサーバー領域(以下「本件サーバー」という。)の契約者に係る別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める事案である(なお、当庁は、民事訴訟法11条の規定により、本件につき管轄権を有する。)。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか、証拠により容易に認められる。)
(1) 原告は、住宅ペイント、一般住宅・マンション・ビルのトータルリフォーム等を業とする法人である(甲1)。
(2) 被告は、本件サーバーを保有・管理する法人である(争いがない。)。
(3) 本件サイト
 本件ウェブページ(甲4の1)は、「みんなのおすすめ、塗装屋さん」と題する本件サイトのトップページであり、「口コミランキング」のウェブページ(甲4の3)へのリンクがある。
 「口コミランキング」のウェブページには、「口コミランキング一覧」として塗装業者のランキングが記載されており、1位は「オンテックス」、2位は「住友不動産」、3位は「積水ハウス」、以下、10位までの塗装業者名が記載されているが、原告の名称は記載されていない(甲4の3。以下「本件ランキング」という。)。
 本件ウェブページには、「掲載業者一覧」のウェブページ(甲4の4)へのリンクがあり、「掲載業者一覧」のウェブページには、平成26年4月30日当時、原告の名称が記載されていた(甲4の4。なお、平成26年6月5日時点では、「掲載業者一覧」のウェブページから原告の名称は削除されている〔乙1〕。)。
 「掲載業者一覧」のウェブページには、原告の口コミのウェブページ(甲4の5)へのリンクがあり、原告の口コミのウェブページには、原告の口コミ13件が記載されていた(甲4の5。なお、平成26年8月27日時点では、原告の口コミのウェブページは存在しない〔弁論の全趣旨〕。)。
(4) 本件サイトの口コミランキングで1位と表示されている「オンテックス」は、一般住宅・ビル・マンションのトータルリフォームを業とする、株式会社オンテックス(以下「オンテックス」という。)である(甲3、甲4の3)。
 オンテックスは、原告と競争関係にある(甲1、3、弁論の全趣旨)。
(5) 被告は、本件サーバーの契約者の住所氏名等の情報を保有している(争いがない。)。
2 争点
(1) 権利侵害の明白性
(2) 発信者情報開示を受けるべき正当な理由
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
(1) 営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項14号)
ア 虚偽の事実
(ア) 本件サイトは、「口コミ件数」をもとにランキングが作成されている、いわゆる口コミランキングサイトだと書かれている(甲4の2)。
 しかし、1位の「オンテックス」の口コミ数は108件、以下、2位の「住友不動産リフォーム」が48件、3位の「積水ハウス」が16件、4位の「積水化学工業」が8件、5位の「大和ハウス工業」が5件であるのに対し(甲4の3)、ランキング圏外、11位以下の原告は(甲4の4)、口コミ総数が「13件」である(甲4の5)。
 そうすると、本件ランキングが真実「口コミ件数」を基準にランキングを決めているのであれば、原告は4位となるはずであって、原告が「ランキング圏外」の企業であり、「11位以下」の企業であるとの事実は、虚偽の事実である。
(イ) 比較広告の適法性
 昭和62年4月21日「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(公正取引委員会)によると、比較広告は、@内容の客観的実証性、A比較数値の正確かつ適正な引用、B比較方法の公正性を基準に判断される。
 しかるに、本件ランキングは、「口コミ件数」以外の何らかの要素で決められているため、@客観的実証性に欠け、上記のとおりA数値も正確に引用されておらず、何を比較しているのか判然としないため、B比較方法の公正性も欠く。
 したがって、本件ランキング自体も、虚偽の事実である。
(ウ) 本件サイトでは、各企業のページで、サイト訪問者が口コミを入力するという体裁になっている(甲6の1ないし3)。
 しかし、入力欄にあるのは「名前」「メールアドレス」「ウェブサイト」「コメント」欄であり、地域を入力する欄がない。
 にもかかわらず、1位の企業の口コミでは、必ず、日付、地域、コメントが表示されている(甲6の1)。日付は入力日だとしても、地域は入力項目ではないにも拘わらず、常に表示されている。
 この点に注目して1位以外の企業について口コミを見ると、地域の部分に「匿名」と表示されたものや(甲6の2)、「A@」と表示されたものが見つかる(甲6の3)。
 そうすると、本件サイトを訪問して口コミを入力する多数の者が「名前」欄に地域名を入力していることになり、極めて不自然である。
 したがって、口コミ自体、本件サイトの管理者が入力した虚偽のものと理解するのが合理的である。
 その上で、本件サイトの管理者は「口コミ数」でランキングを決めていると書いているのだから、本件ランキング自体が虚偽の事実の摘示である。
イ 営業上の信用
(ア) 口コミの数が圧倒的に多い1位の企業(口コミが108個ある、甲6の1)に比べ、口コミの数が13個(甲4の3)しかなければ、それだけ利用者が少なく、事業規模の小さな企業だと一般消費者は理解するのだから、営業上の信用は害される。
 現在では、原告の会社名が削除されることで、口コミが1つもない、それだけ利用者もいない規模の会社だと一般消費者に理解されるから、営業上の信用は害される。
(イ) また、比較広告で低いランキングと表示されること自体が、それだけ評価の低い企業だと一般消費者は理解することから、営業上の信用を害する。
ウ 競争関係
(ア) 本件サイトの管理者は、オンテックスの依頼に基づき、又は、仮にそうでないとしてもオンテックスを利するために、本件サイトを作成している。
(イ) ワードプレスのテーマ名
 本件サイトは、ブログ作成ツールである「WordPress」(甲5の1。以下「ワードプレス」という。)を使って作成されており、HTMLソースの随所に「/wp-content/themes/」「/wp-content/plugins/」等、ワードプレスの標準フォルダ名が記述されている(甲5の2)。ワードプレスでオリジナルのデザインを作る場合は、「wp-content/themes/」の中に独自のフォルダを作り、ここに画像ファイルなどを保存する仕組みになっている。フォルダ名は自由に設定できるが、通常は、デザインのテーマの名前を付ける(甲5の3)。しかるに、本件サイトの画像ファイル等は、「wp-content/themes/ontex/」フォルダの下位フォルダに保存されている。オンテックスのロゴだけでなく、他社のロゴも含め、全ての画像が「ontex」フォルダの下位フォルダに保存されている(甲5の4、5)。
 この事実は、本件サイトのテーマ(目的)が「ontex」であることの証左であり、本件サイトがオンテックス支援のためのサイトであることの証左である。
(ウ) 本件ウェブページのタイトル等
 本件ウェブページのタイトル(<title>タグの値)は、「おすすめの外壁塗装・リフォーム業者の口コミ・評判・評価 | 全国版 オンテックス他 多数あり」、同じく説明(<meta>タグのdescription)は、「オンテックスなど複数の企業の口コミが掲載されています。外壁塗装のリフォームを実施された方の口コミ、評判、おすすめの業者を評価、共有し、これから外壁塗装、リフォーム業者を選定する方へのサイトです。」、同じくキーワード(<meta>タグのkeywords)は「オンテックス,口コミ,おすすめ外壁塗装屋さん,外壁塗装,口コミ,評判、評価、リフォーム,全国」となっている(甲5の2)。
メタタグのkeywordsは、ウェブページの検索キーワードを示すもので、検索サイトにおいてkeywordsに指定したキーワードが検索されたとき、当該ウェブページが検索結果として表示されやすくなる。また、メタタグのdescriptionは、検索サイトにおいて、ウェブページのタイトルとともに表示される内容である。
 本件ウェブページでは、keywordsに「オンテックス」が指定されているため、検索サイトで「オンテックス」をキーワードとして検索すると、本件ウェブページのタイトルや説明が検索結果として表示され、これに誘導された閲覧者が本件ページを開くと、ランキング1位としてオンテックスが表示される、という導線が想定されている。
エ 営業者にあらざる共犯者
 原告とオンテックスはリフォーム事業において競争関係にあることから、オンテックスに競業上の利益を得させている本件サイトの管理者は、たとえオンテックスの依頼に基づかないとしても(依頼に基づくならばもちろん)、「営業者にあらざる共犯者」として不正競争防止法2条1項14号の誹謗者に当たる。
(2) 優良誤認行為(不正競争防止法2条1項13号)
 本件ランキングは、ランキング1位の企業について、口コミが一部上場企業をはるかに超える108個もあり(2位の住友不動産が48個、3位の積水ハウスが16個、4位の積水化学工業が8個、5位の大和ハウス工業が5個)、それだけ利用者が多く、他の事業者よりも著しく役務の質が優良であると、一般消費者に印象づけている。
 特に「ランキングベスト5」で「No.1」との表示が、一般消費者をして、役務の質が著しく優良であると印象づけている。
 しかるに、上記(1)のとおり、本件ランキングは口コミ数で順位を決めていると書きながら、実際には口コミ数に基づいておらず、また、上記のとおり、本件サイトを訪問した者が口コミを書いているのではなく、多くの口コミは本件サイトの管理者が書いたものであり、「誤認させる」に当たる。
(3) 本件ランキングによる名誉権侵害
 原告は、本件ランキングの圏外に表示されることにより、それだけ一般消費者に利用されていない、需要の少ない企業という印象を受けることから、社会的評価が低下する。
 しかるに、上記(1)のとおり、本件ランキングは恣意的な調査結果が生じうるような事情があることから、ランキングは真実ではなく、違法性阻却事由はない。
(4) 原告に対する口コミによる名誉権侵害
ア 2012年8月7日の口コミ
 原告に関する2012年8月7日の口コミ(甲4の5。以下「本件口コミ1」という。)は「見積もった壁面の面積が実際の面積のおよそ2倍」、「足場代等をゼロにするといっても、これではたまらない。見積の盲点だと思う。」と指摘しており、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告は消費者の不知に乗じて実際の壁面の2倍の面積で見積を書いておきながら、諸経費を無料にすると言って有利誤認行為をしていると読めることから、原告の社会的評価を低下させ、名誉権を侵害する。
 しかるに、原告の見積書には足場代、シート代(飛散防止養生ネット代)等が計上されており(甲9の1ないし5)、また、壁の面積については総面積から窓やドア等の開口部を非塗装面として差し引くため、実際の面積より少なくなるのであり、実際の面積の2倍で見積もるという事実はなく、有利誤認行為をしている事実はないことから(甲8)、本件口コミ1に違法性阻却事由はない。
イ 2012年8月9日の口コミ
 原告に関する2012年8月9日の口コミ(甲4の5。以下「本件口コミ2」といい、本件口コミ1と合わせて「本件口コミ」という。)は「8月7日に入力された方と全く同意見」、「もともと、足場代やシート代をただにする話で、塗装の単価を設定している」と指摘しており、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告は、塗装単価を高く設定しておきながら、足場代やシート代を無料にすると言って有利誤認行為をしていると読めることから、原告の社会的評価を低下させ、名誉権を侵害する。
 しかるに、原告の塗装単価は、月刊積算資料「SUPPORT」(一般財団法人経済調査会発行)において公表しており(甲7)、料金の客観性は市場原理により担保されている。また、上記のとおり、原告は足場代、シート代(飛散防止養生ネット代)を受領しており(甲9の1ないし5)、有利誤認行為をしているとの事実はないから(甲8)、本件口コミ2に違法性阻却事由はない。
(5) 上記(1)ないし(4)のいずれかの理由により、本件サイトに係る侵害情報の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかである。
(被告の主張)
 本件サイトの記載は認め、その余は不知、否認ないし争う。
 なお、本件サーバーについて被告と利用契約を締結している者(以下「本件利用者」という。)に被告が問い合わせたところ、本件サイトを管理する者(以下「本件サイト管理者」という。)と本件利用者は別の主体であり、本件利用者は、本件サイトの内容や運営には一切関与していないとの回答を得ている。
2 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由)について
(原告の主張)
 原告は、本件サイト管理者(上記1(1)ないし(3)の場合)又は本件口コミの各投稿者(上記1(4)の場合)に対し、権利侵害を理由として不法行為に基づく損害賠償請求等の準備をしている。
 そのためには、本件サーバーの契約者(本件利用者)に関する発信者情報が必要であって、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1) 原告に対する口コミによる名誉権侵害について
ア 本件口コミ1について
 本件サイト中に存在した、原告に関する2012年8月7日の口コミ(本件口コミ1)は、「関西」とのみ記載された投稿者から投稿された体裁の、「飛び込みの営業で、「キャンペーン価格で」という。/見積もりをとったら、おどろき。単価はそこそこだが、見積もった壁面の面積が実際の面積のおよそ2倍。こちらが我が家の壁面の面積など知らないと思ったのかしら。/足場代等をゼロにするといっても、これではたまらない。見積の盲点だと思う。/依頼するなら気をつけた方がいいでしょう。」というものであった(「/」は改行を示す。甲4の5)。
 本件口コミ1は、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が、実際の壁面の2倍の面積で(それに単価を乗じた不当に高額の)見積書を作成し、足場代等を無料にすると言って(不当に高額な見積りから割り引いたように見せかけ)不当な営業行為を行っているとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させるものである。
 原告代表者の陳述書(甲8)及び原告の見積書(甲9の1ないし5)によれば、原告の使用している見積書には「仮設足場」の欄があり、これを無料にするとの営業行為は行っていないこと、また、壁の面積については総面積から窓やドア等の開口部を非塗装面として差し引くため、実際の面積より少なくなるのが通常であり、壁面の面積を実際の面積の2倍で見積もるという営業行為も行っていないことが認められるから、本件口コミ1について違法性を阻却する事由も存在しないと認められる。
イ 本件口コミ2について
 本件サイト中に存在した、原告に関する2012年8月9日の口コミ(本件口コミ2)は、「関西」とのみ記載された投稿者から投稿された体裁の、「8月7日に入力された方と全く同意見です。/もともと、足場代やシート代をただにする話で、塗装の単価を設定しているようです。/仕上りに関しては問題ありませんでした。」というものであった(「/」は改行を示す。甲4の5)。
 本件口コミ2も、一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が、塗装単価を(実質的に足場代やシート代を含めるように不当に)高く設定し、足場代やシート代を無料にすると言って(不当に高額な見積りから割り引いたように見せかけ)不当な営業行為を行っているとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させるものである。
 月刊積算資料「SUPPORT」2012年5月号(甲7)、原告代表者の陳述書(甲8)及び原告の見積書(甲9の1ないし5)によれば、原告の使用している見積書には「仮設足場」「飛散防止養生ネット」の欄があり、これらを無料にするとの営業行為は行っていないこと、原告の塗装単価は公表されており、実質的に足場代やシート代を含めた不当に高額の設定にはしていないことが認められるから、本件口コミ2について違法性を阻却する事由も存在しないと認められる。
(2) 以上によれば、本件口コミが原告の名誉権を侵害することが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(法4条1項1号)の要件を充足する。
2 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 原告は、本件口コミの投稿者に対し、損害賠償請求権等を行使する意向を示しているところ、その準備のためには、被告から本件サーバーについて被告と利用契約を締結している者(本件利用者)の情報を得、本件利用者から本件サイト管理者の情報を得、本件サイト管理者から本件口コミ投稿者の情報を得ることが必要であると認められるから、本件利用者に係る氏名又は名称、住所の情報は、法4条1項、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令1号の「その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」、同2号の「その他侵害情報の送信に係る者の住所」として、「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」(法4条1項2号)の要件を充足する。
 本件口コミが本件サイトから既に削除されている(弁論の全趣旨)としても、本件口コミの投稿者に対し、本件口コミによって過去に原告が被った損害の賠償請求をするため、原告に本件利用者に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が認められることに変わりはない。
3 以上によれば、本件請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 西村康夫
 裁判官 石神有吾
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