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【事件名】「生命の實相」復刻出版事件B(2)
【年月日】平成26年10月15日
 知財高裁 平成26年(ネ)第10026号 著作物利用権確認請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成25年(ワ)第4710号)
 (口頭弁論終結日 平成26年9月3日)

判決
控訴人 株式会社日本教文社
訴訟代理人弁護士 脇田輝次
被控訴人 公益財団法人生長の家社会事業団
被控訴人補助参加人 株式会社光明思想社
上記2名訴訟代理人弁護士 内田智


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が原判決別紙書籍目録記載1ないし31の書籍について、別紙契約内容目録記載の約定による著作物利用権を有することを確認する(控訴人は、原審において「被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が原判決別紙書籍目録記載1ないし31の書籍について著作物利用権を有することを確認する。」との請求をしていたが、当審において、上記のとおり請求の趣旨を変更した。)。
第2 事案の概要(略称は、特に断らない限り、原判決に従う。)
1 本件は、控訴人が、控訴人と被控訴人との間で締結された原判決別紙書籍目録記載1ないし31の書籍(本件書籍1〜31。本件書籍1〜31を併せて本件書籍)に係る各出版使用許諾契約(本件出版使用許諾契約)の被控訴人による更新拒絶(本件更新拒絶)は、@本件出版使用許諾契約においては、契約の更新をしないで契約期間満了により契約を終了させるには、被控訴人の代理人である宗教法人生長の家(生長の家)を含めた文書による通告を必要とする旨約定されていたにもかかわらず、生長の家の意思に反し、被控訴人単独で行ったものであり、約定の要件を欠き無効である、A控訴人には本件出版使用許諾契約に基づく何らの債務不履行行為も存しないにもかかわらず、一方的にされたものであり、更新を拒絶するにつき正当な理由を欠くものとして無効である、B仮に、更新を拒絶するにつき正当な理由を要しないとしても、信義則に反し、あるいは、権利の濫用にわたるものとして無効であるから、本件出版使用許諾契約は自動更新されている旨主張して、被控訴人に対し、控訴人が本件出版使用許諾契約に基づく著作物利用権を有することの確認を求めた事案である。
2 原判決は、@本件出版使用許諾契約に係る契約書の文言上、被控訴人と生長の家との連名で更新拒絶の意思表示を行うことが要求されていると解釈することはできず、被控訴人は単独で更新拒絶の意思表示をすることができ、かつ、A控訴人には「初版革表紙 生命の實相 復刻版」(復刻版1)及び「初版革表紙 生命の實相第2巻「久遠の實在」復刻版」(復刻版2。復刻版1と併せて復刻版。なお、両書籍は本件書籍には含まれない。)につき、被控訴人に対する契約(本件昭和49年契約)上の印税支払債務の不履行があり、本件更新拒絶の時点において、控訴人と被控訴人との間の信頼関係は既に破壊されていたものと認められ、被控訴人による更新拒絶の意思表示は権利の濫用にわたるものとはいえないから、本件更新拒絶は有効であるとして、控訴人の請求を棄却した。
 そこで、原判決を不服として、控訴人が控訴したものである。
3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者等
ア 控訴人は、生長の家の創始者であるA(亡A)の提唱により、各種書籍及び雑誌の刊行等を目的として、昭和9年11月25日に設立された株式会社である(設立当時の社名は株式会社光明思想普及会であったが、昭和21年7月28日、株式会社日本教文社に社名を変更した)。(甲36、乙13、弁論の全趣旨)
イ 被控訴人は、亡Aの宗教的信念に基づき、諸種の社会事情による困窮家庭の援護、これに伴う社会福祉施設の経営、その他社会情勢の変遷に応じて社会の福利を図るための文化科学的研究の助成又は社会事業を営む世界各国団体との親善提携等により社会厚生事業並びに社会文化事業の発展強化を図ることを目的として、昭和21年1月8日に設立された財団法人であり、平成24年4月1日、公益財団法人に移行した。(乙20、弁論の全趣旨)
ウ 被控訴人補助参加人は、書籍及び雑誌の刊行等を目的として、平成20年6月24日設立された株式会社である。(丙6、弁論の全趣旨)
(2) 亡Aから被控訴人への著作権の譲渡等
ア 本件書籍は、いずれも生長の家の創始者である亡Aの創作した著作物である。(甲3、弁論の全趣旨)
イ 亡Aは、自身が保有していた本件書籍の著作権を、昭和21年1月8日の被控訴人設立時の寄附行為又はその後の譲渡により、被控訴人に移転した。(甲3、28、30、弁論の全趣旨)
(3) 本件昭和49年契約の締結
 控訴人と被控訴人は、昭和49年1月31日、被控訴人が著作権を有する亡Aを著作者とする同日付け「著作権使用(出版)契約書」と題する契約書添付の別紙一覧表(「版権所有出版物一覧表(49.1.31現在)」)記載の著作物について、被控訴人が控訴人に対し、上記著作物を出版するための独占的排他的使用権を設定し、控訴人が被控訴人に対し、出版時に定価の10%を印税として支払う旨の著作権使用(出版)契約(本件昭和49年契約)を締結した。(甲2)
(4) 本件出版使用許諾契約の締結等
ア 亡Aは、昭和60年6月17日死亡した。(乙20)
イ 控訴人と被控訴人は、被控訴人につき生長の家を代理人として、本件書籍について、それぞれ原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の各「出版使用許諾契約締結日」欄記載の年月日に、概要以下の内容の出版使用許諾契約(本件出版使用許諾契約)を締結した。(甲5の1〜107、弁論の全趣旨)
(ア) 印税
 定価の10%を、当月入庫部数分の翌月末支払(ただし、本件書籍21ないし25についての印税率は5%)
(イ) 出版使用許諾(約款1条)
 1項 被控訴人は、控訴人に対し、本件書籍に係る著作権を出版使用することを、著作権法63条に基づき許諾する。
 2項 前項の規定は、被控訴人が、生長の家又はその被包括法人に対し、生長の家の教義宣布のため、著作権の使用許諾を行うことを妨げるものと解してはならない。
(ウ) 出版の責任(約款2条)
 控訴人は、本件書籍の複製並びに頒布の責任を負う。
(エ) 使用許諾の存続期間(約款3条)
 控訴人に対する出版使用許諾期間は、契約締結の日から3年間とする。この期間満了の3か月前までに、被控訴人(代理人を含む。)、控訴人いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り、この契約と同一条件で、順次自動的に同一期間ずつ延長せられるものとする。
(オ) 改訂版・増補版の発行(約款8条)
 本件書籍の改訂版又は増補版の発行については、被控訴人(代理人を含む。)控訴人協議の上決定する。
(カ) 契約の解除(約款14条)
 被控訴人又は控訴人は、相手方がこの契約の条項に違反したときは、相当の期間を定めて書面により契約の履行を催告の上、この契約の全部又は一部を解除することができる。
(キ) 契約内容の継承及び変更(約款16条)
 1項 従前の昭和49年1月31日付け著作権使用(出版)契約書のうち本件書籍に関する内容は、この契約に継承されるものとし、従前の契約書のうち本件書籍に係る事項は、この契約の成立と同時に効力を失う。
 2項 この契約の内容について追加・削除その他変更する必要が生じたときは、被控訴人(代理人を含む)控訴人協議の上決定する。
(5) 控訴人による本件書籍の出版
 控訴人は、原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の各「初版発行日」欄記載の年月日頃、本件書籍の各初版を出版した。(弁論の全趣旨)
(6) 被控訴人による本件出版使用許諾契約の更新拒絶の意思表示
ア 被控訴人は、平成19年6月19日付け「通告書」(甲9の1)により、控訴人に対し、「生命の實相」頭注版及び愛蔵版(本件書籍15、16)について、本件出版使用許諾契約3条の規定により、各出版使用許諾は、現在の出版使用許諾期間の満了時(原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の本件書籍15、16の各「更新拒絶通知時における直近の更新時期」欄記載の年月日)をもって終了することを通告し、同書面は平成19年6月19日頃、控訴人に到達した(本件更新拒絶1)。(甲9の1、弁論の全趣旨)
イ 控訴人と被控訴人は、その後書面のやり取りを重ねたが(甲9の2、甲10の1・2、甲11の1・2)、被控訴人は、平成21年1月13日付け「「履行催告」兼「契約解除」の通知」(甲12の1)により、控訴人に対し、@復刻版1につき未払の印税を被控訴人に支払うこと、A復刻版1のマルC表示につき訂正のために必要な措置をとること、を催告するとともに、同書面到達後2週間以内にそれらが実行されない場合には、被控訴人と控訴人との間の本件昭和49年契約を将来に向かって解約する旨を通知し、同書面は控訴人に到達した。(甲12の1、弁論の全趣旨)
ウ 控訴人は、被控訴人に対し、平成21年1月26日付け回答書(甲12の2)をもって、復刻版1の印税が昭和63年3月22日付け確認書(甲3。以下「本件確認書」という。)の作成後現在まで一貫して亡Aの相続人らに対して支払われており、被控訴人もこれを異議なく承認してきたのであるから、同書籍の著作権が被控訴人に帰属していないとの控訴人の認識は正当なものであるとして、被控訴人からの上記催告に応じることはできない旨回答し、催告に係る行為を実行しなかった。
エ 被控訴人は、平成21年2月4日付け「契約解除の確認及び通告書」(甲13の1)により、遅くとも平成21年1月28日の経過をもって、本件昭和49年契約が将来に向かって解約されていることを確認するとともに、「生命の實相」頭注版及び愛蔵版(本件書籍15、16)については、本件更新拒絶1に加えて、現在の使用許諾期間の満了(原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の本件書籍15、16の各「更新拒絶通知時における直近の更新時期」欄記載の年月日)をもって本件出版使用許諾契約が終了することを改めて通知し、本件書籍1〜14及び17〜31についても、現在の使用許諾期間の満了(原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の本件書籍1〜14、17〜31の各「更新拒絶通知時における直近の更新時期」欄記載の年月日)をもって本件出版使用許諾契約が終了することを通知し(本件更新拒絶2。本件更新拒絶1と合わせて本件更新拒絶)、同書面は平成21年2月4日頃、控訴人に到達した。(甲13の1、弁論の全趣旨)
(7) 被控訴人と被控訴人補助参加人との間の出版契約
 被控訴人は、被控訴人補助参加人との間で、平成21年6月15日「人生の鍵シリーズ 無限供給の鍵」について、平成23年1月15日「人生読本」について、同年7月1日「生命の實相」について、平成24年9月30日「聖経 四部経 「聖使命菩薩讃偈」「甘露の法雨」「天使の言葉」「続々甘露の法雨」」について、平成25年3月28日「日々読誦三十章経 ブック型」について、被控訴人が被控訴人補助参加人に対し、複製及び頒布の権利の専有を内容とする出版権を設定する旨の各出版契約を締結した。(丙1〜5)
(8) 確認の利益
 被控訴人は、本件出版使用許諾契約は、本件更新拒絶により、原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の各「更新拒絶通知時における直近の更新時期」欄記載の年月日をもって終了したと主張するのに対し、控訴人は、本件更新拒絶は無効であるから、本件出版使用許諾契約は自動更新されたと主張しており、両者間には、控訴人が、本件出版使用許諾契約に基づき本件書籍に係る著作物利用権を有するか否かについて争いがある。(弁論の全趣旨)
(9) 前訴の経緯等
ア 訴訟の提起
(ア) 前訴第1事件
 被控訴人は、亡Aが戦前に創作した多数の著作物の集合体としての「生命の實相」の著作権は、亡Aが被控訴人の設立者として行った寄附行為の寄附財産であって、被控訴人に帰属しているところ、被控訴人は、「生命の實相」に属する書籍をそれぞれ復刻した復刻版1及び2について、控訴人との間で本件昭和49年契約を締結したが、印税に未払があるとして、控訴人に対し、未払印税2740万円の支払を求めるとともに、復刻版1に真実と異なる著作権表示をしたとして、民法723条に基づく謝罪広告を求める訴えを提起した(東京地裁平成21年(ワ)第6368号事件。前訴第1事件)。(乙1)
(イ) 前訴第2事件
 生長の家及び亡Aの遺族であるB(以下「B」という。)は、被控訴人及び被控訴人補助参加人を被告として訴えを提起した(東京地裁平成21年(ワ)第17073号事件。前訴第2事件)。
 前訴第2事件の請求は、@亡Aが戦前に創作した著作物である「生命の實相〈黒布表紙版〉」(全20巻)及び復刻版1について、生長の家が亡Aの共同相続人から著作権の遺贈及び売買による譲渡を受けたから、上記著作物に係る著作権は生長の家に帰属する、A「古事記と日本国の世界的使命−甦る「生命の實相」神道篇」と題する書籍(発行所:被控訴人補助参加人)は、被控訴人及び被控訴人補助参加人が「生命の實相〈黒布表紙版〉」の第16巻として出版された「神道篇 日本国の世界的使命」から「第1章 古事記講義」を抜き出し、別の題号を付して共同で出版したものであるところ、第16巻は戦後に「生命の實相」として出版された書籍から亡Aによって削除されているから、被控訴人及び被控訴人補助参加人による上記書籍の出版は、生長の家の著作権(複製権)を侵害するとともに、亡Aが存命であればその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為に該当し、これにより亡Aの声望が害された、B生長の家と被控訴人は、本件書籍1ないし17、19、20、26ないし31を含む書籍等について、生長の家がこれらの書籍の出版その他の利用の管理を決定する旨の合意をしたなどとして、生長の家及びBにおいて被控訴人及び被控訴人補助参加人に対し、著作権法112条1項、2項(Bにつき、更に同法116条1項)に基づき、上記Aの書籍の出版等の差止め及び廃棄を、民法723条又は著作権法115条及び116条1項に基づき、謝罪広告の掲載を、生長の家において被控訴人及び被控訴人補助参加人に対し、不法行為に基づく損害賠償を、生長の家において被控訴人に対し、生長の家が復刻版1の著作権を有することの確認を、上記Bの合意に基づき、上記Bの各書籍について生長の家の承諾なく、その出版権の設定及び消滅を行うことの禁止を求めたものである。(乙1)
(ウ) 前訴第3事件
 控訴人は、本件書籍1ないし31を含む書籍等について、被控訴人との間の出版契約に基づいて控訴人が出版権の設定を受けたにもかかわらず、被控訴人及び被控訴人補助参加人が、控訴人に無断で、上記書籍等の一部について現に出版及び販売を行い、また、上記書籍等の一部について今後出版を行うおそれがあるとして、被控訴人に対し、控訴人が本件書籍1ないし31を含む書籍等について出版権を有することの確認を求めるとともに、被控訴人及び被控訴人補助参加人に対し、本件書籍1ないし15及び31を含む書籍の出版等の差止を求める訴えを提起した(東京地裁平成21年(ワ)第41398号事件。前訴第3事件)。(乙1)
イ 前訴第1審判決
 東京地方裁判所は、前訴第1ないし第3事件を併合の上、平成23年3月4日、前訴第1事件の請求につき、被控訴人が控訴人に対し、50万円及びこれに対する平成21年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で被控訴人の請求を認容し、その余は理由がないから棄却し、前訴第2事件の請求及び前訴第3事件の請求はいずれも理由がないとして棄却する旨の判決を言い渡した(前訴第1審判決)。(乙1)
(ア) 前訴第1事件の本件昭和49年契約に基づく未払印税請求に係る判断の要旨
 被控訴人は、亡Aが設立者として寄附行為を行い、昭和21年1月8日に設立されたものであるところ、被控訴人は、被控訴人の設立により、同日、亡Aから、亡Aを著作者とする「生命の實相」の著作権の移転を受けたものと認められる。
 そして、被控訴人の設立により、その基本資産となった「「生命の實相」ノ著作権」の対象著作物である「生命の實相」には、戦前に「生命の實相」の題号を付した書籍として出版された10書籍(「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)(初版発行昭和7年1月1日)、「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)(初版発行昭和8年12月25日)、「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)(初版発行昭和10年1月25日から昭和16年12月25日)、「生命の實相〈革表紙版(地・水・火・風・空・教・行・信・證)〉」(全9巻)(初版発行昭和10年10月1日から昭和14年3月15日)、「生命の實相<豪華大聖典>」(全1巻)(初版発行昭和11年11月22日)、「生命の實相<縮刷中聖典>」(全1巻)(初版発行昭和12年6月1日)、「生命の實相<ビロード表紙版>」(全9巻)(初版発行昭和13年3月20日から昭和14年3月15日)、「生命の實相<菊版>」(全13巻)(初版発行昭和14年5月20日から昭和16年10月15日)、「生命の實相<人造羊皮版>」(全9巻)(初版発行昭和14年11月20日から昭和15年6月20日)、「生命の實相<満州版(乾・艮・兌・離)>」(初版発行昭和18年8月15日から昭和20年5月5日))の全てであると解されるところ、復刻版1は「生命の實相〈革表紙版〉」(全1巻)の復刻版、復刻版2は「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)の復刻版であるから、復刻版1及び2の著作権は、被控訴人の設立により、被控訴人に帰属したものと認められる。
 被控訴人と控訴人は、昭和49年1月31日、被控訴人が控訴人に対し、被控訴人が著作権を有する契約書添付の別紙一覧表(甲2)に掲記された著作物を出版するための独占的排他的使用権を設定し、控訴人が被控訴人に対し出版時に定価の10%を印税として支払う旨の契約(本件昭和49年契約)を締結したことが認められ、復刻版1の復刻の元となった「生命の實相〈革表紙版〉」(全1巻)、復刻版2の復刻の元となった「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)は、上記一覧表中に記載された「生命の実相 全巻(各種各判)」に含まれるものと認められる。
 したがって、控訴人は、本件昭和49年契約に基づいて、被控訴人に対し、@昭和57年5月から平成20年5月までの間に出版した復刻版1の印税として合計2820万円の、A昭和59年3月から同年5月までの間に出版した復刻版2の印税として合計1200万円の、合計4020万円の支払義務を負ったものと認められるところ、このうち、2740万円については、被控訴人に対する支払をしていない。
 控訴人は、未払印税2740万円のうち復刻版1の19版(平成20年5月1日出版)の未払印税50万円分を除く2690万円について消滅時効を主張し、これを援用したところ、商事債権の消滅時効期間である5年が経過し、時効は完成しているから、被控訴人の控訴人に対する上記2740万円の印税請求権のうち、消滅時効の援用に係る2690万円については時効により消滅したものと認められる。
 したがって、被控訴人の控訴人に対する復刻版1及び2についての印税請求は、50万円(復刻版1の19版の未払分)及びこれに対する平成21年3月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(イ) 前訴第2事件に係る判断の要旨
 生長の家は、復刻版1等について亡Aの共同相続人から著作権の譲渡を受けたと主張するが、復刻版1等の著作権は亡Aから被控訴人に移転したものであるから、生長の家の主張は前提を欠き、また、被控訴人補助参加人が出版した書籍は亡Aの著作者人格権を侵害すると主張するが、同出版は亡Aの意思を害しないものと認められる。
 生長の家は、生長の家と被控訴人とは、昭和63年5月10日、本件書籍1ないし17、19、20、26ないし31を含む書籍について、生長の家においてその出版その他利用の管理の決定を行うことを確認的に合意した旨主張するが、上記合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、生長の家及びBの被控訴人及び被控訴人補助参加人に対する前訴第2事件の請求はいずれも理由がない。
(ウ) 前訴第3事件に係る判断の要旨
 控訴人は、控訴人、生長の家及び被控訴人が、昭和63年3月22日付け確認書(本件確認書)が作成されたのと同時期に、それまで亡Aが行っていた本件確認書添付の「著作物の表示」に記載された各書籍の出版に関する指揮・監督を、生長の家が全面的に引き継ぎ、爾後の出版については生長の家が一元的に管理すること、控訴人は生長の家の指示の下にその出版を行うこと、被控訴人は、上記各書籍の出版によって発生する著作権収入を取得し、これを基本財産として社会福祉事業を行うこと、上記各書籍の出版はすべて控訴人において行うことを内容とする合意をした旨主張するが、かかる合意の事実を認めるに足りる証拠はない。
 控訴人と被控訴人との間において、本件書籍について本件出版使用許諾契約を締結したことが認められるものの、本件出版使用許諾契約における許諾の内容が独占的排他的な出版権を設定するものであることを認めるに足りる証拠はない。かえって、本件出版使用許諾契約に係る契約書1条に、「甲(判決注・被控訴人)は、乙(判決注・控訴人)に対し、この契約の表記の記載事項と約款に従い、本著作物に係る著作権を出版使用することを、著作権法第63条に基づき許諾する。」との規定があり、同規定中に「著作権法第63条に基づき」と明示されているとおり、本件出版使用許諾契約における許諾は、著作権法79条の出版権を設定する内容のものではなく、同法63条に基づく利用許諾にすぎないというべきであるから、独占的排他的なものであるとはいえない。
 したがって、本件書籍について独占的排他的な出版権の設定を受けたとの控訴人の主張は採用することができない。
 控訴人は、出版権確認請求及び出版等の差止請求の対象書籍のうち、「生活改善の鍵」「希望実現の鍵」「人生調和の鍵」(前訴第1審判決の別紙第3書籍目録記載31、33及び34の書籍であり、本件書籍には含まれない。)については、本件昭和49年契約に基づき、独占的排他的な出版権を取得したものと認められる。しかしながら、控訴人は、被控訴人に対し、復刻版1の未払印税として1540万円の支払義務を負っていたところ、被控訴人から平成21年1月14日到達の内容証明郵便をもって、2週間以内にこれを支払うよう催告され、期限までに支払がないときは、本件昭和49年契約を将来に向かって解約する旨の意思表示をされたにもかかわらず、これを支払わなかったのであるから、本件昭和49年契約は被控訴人の解約により同月29日以降効力を失ったものというべきである。
 以上によれば、控訴人の前訴第3事件に係る請求はいずれも理由がない。
ウ 前訴第2審判決
 前訴第1審判決に対し、生長の家、B及び控訴人がそれぞれ控訴し、被控訴人も附帯控訴をした(知財高裁平成23年(ネ)第10028号、10039号事件。なお、被控訴人の附帯控訴は、控訴人に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、復刻版1の18版及び19版の誤った著作権表示の訂正、弁護士費用及び誤った著作権表示による権利侵害状態についての損害賠償を求めるものである。)。
 知的財産高等裁判所は、平成24年1月31日、各控訴及び附帯控訴に係る請求をいずれも棄却する旨の判決をした(前訴第2審判決)。(乙2)
エ 上告棄却決定等
 前訴第2審判決に対し、生長の家、B及び控訴人はそれぞれ上告及び上告受理申立てをした(最高裁平成24年(オ)第830号、平成24年(受)第1006号事件)。
 最高裁判所は、平成25年5月27日、上告を棄却し、本件を上告審として受理しない旨の決定をした。(乙3〜5、8)
オ 被控訴人は、前訴第1審判決の仮執行宣言に基づき、控訴人から、未払印税50万円を取り立てた。(証人C、弁論の全趣旨)
4 争点
(1) 本件訴えの適法性(争点1)
(2) 被控訴人が単独でした本件更新拒絶の意思表示は、本件出版使用許諾契約の定める手続要件を充足するものであるか否か(争点2)
(3) 本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するにつき、正当事由を要するか否か(争点3)
(4) 本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するにつき正当事由を要する場合、本件更新拒絶に正当事由が存するか否か(争点4)
(5) 本件更新拒絶は、信義則に反し、又は権利の濫用にわたるものとして無効とされるべきものであるか否か(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件訴えの適法性)について
〔被控訴人の主張〕
 本件訴えは、前訴第3事件と当事者及び訴訟物を同じくするものであって、重複する訴えの提起の禁止(民訴法142条)に反し不適法であるから、却下されるべきである。
〔控訴人の主張〕
 前訴第3事件は、控訴人が本件書籍について出版権を有することの確認を求めた訴えであるのに対し、本件訴えは、控訴人が本件書籍について著作物利用権を有することの確認を求めるものであり、訴訟物を異にするものであるから、重複する訴えには該当しない。
2 争点2(本件更新拒絶が手続要件を充足するものであるか否か)について
〔控訴人の主張〕
 亡Aが一元的に管理していた「生命の實相」等の書籍の発行に関して、亡Aの死亡後の取扱いを定めることとなった際、生長の家は、昭和63年4月19日の常任理事会において、「「生命の實相」や聖経は文書伝道の神髄とも云うべき著作物であり、それらの著作物の管理実務は、社会事業団よりもむしろ本部が行うべき性質のものであろうかと思慮されます」として、「1、社会事業団が別紙1の著作物に関して、各出版毎に一点づつ管理することを本部に委任する形態にする。2、社会事業団と教文社の間で締結している現行の出版契約に、本部が社会事業団からの受任者として新たに加わる形態に変える。」旨決議した(甲4)。上記決議に基づき、生長の家の理事長は、被控訴人の代理人として、控訴人との間で本件出版使用許諾契約を締結したものであるが、その約款3条には「この期間満了の3ヵ月前までに、甲(代理人を含む。)、乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り、この契約と同一条件で、順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」と、8条には「本著作物の改訂版又は増補版の発行については、甲(代理人を含む)乙協議のうえ決定する。」と、12条2項には「甲は、本著作物に係る著作権を、寄附行為に基づき基本財産として保全し、宗教法人「生長の家」以外の第三者には著作権管理を委任しないものとする。」と、それぞれ定められている。
 これらの経緯や規定に照らせば、本件出版使用許諾契約の約款3条や8条の規定は、生長の家が「生命の實相」等の書籍の出版を管理するために設けられたものであることが明らかであり、「甲(代理人を含む)」との文言は、単に代理人によっても意思表示ができることを定めたものではなく、更新拒絶又は改訂版や増補版の発行については、代理人である生長の家に関与させ、事前に生長の家と協議し、その意見を聞く必要のあることを規定したものであると解すべきである。
 したがって、被控訴人が約款3条に基づき、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては、被控訴人単独ではなく、生長の家とともに意思表示をすべき義務があるというべきである。
 しかるに、本件更新拒絶は、本件書籍の出版等の管理者である生長の家の意思に反して被控訴人単独でされたものであるから、約款3条に定める更新拒絶の要件を欠き、無効である。
〔被控訴人の主張〕
 被控訴人は、本件出版使用許諾契約の約款3条の「期間満了の3ヵ月前までに、甲(代理人を含む。)、乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り、この契約と同一条件で、順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」との約定に基づき、本件更新拒絶の意思表示をした。
 上記約款には、本件出版使用許諾契約の更新拒絶の意思表示をするにつき、被控訴人が生長の家とともに行うべきことは規定されていない。被控訴人は、その設立以来、生長の家とは独立して運営されてきた財団法人であり、基本財産として最も重要な「生命の實相」についてその著作権の行使をするにつき、生長の家とともに行うべきことを合意したことはないし、そのような制約を受けるべき義務もない。
 控訴人は、被控訴人の代理人である生長の家を含めた文書による通告が更新拒絶の要件とされている旨主張するが、本件出版使用許諾契約の約款の条項を独自に解釈するものであり、失当である。
3 争点3(正当事由の要否)について
〔控訴人の主張〕
(1) 控訴人は、亡Aの提唱により、「生命の實相」を始めとする亡Aの著作物の出版を行うことを目的として設立された出版社であり、被控訴人は、同じく亡Aの提唱により、生長の家の思想を社会福祉事業として展開するために設立された財団法人である。
 被控訴人の設立後も、控訴人は亡Aの著作物のほとんど全ての出版を引き受けてきたが、新刊の発行に際しては、常にその計画を亡Aに報告し、その装丁、定価、印税の額、印税の支払先等に至るまで亡Aの指示を仰ぎ、その指示に従っていた。被控訴人は、印税を受領していた書籍について、その出版に関する企画・立案等に関与したことはなく、控訴人から、出版部数、印税の額等の報告を受けて、その支払を受けるのみであった。
 控訴人と被控訴人との間では出版に関する契約書は作成されていなかったが、その後、税務上等の対外的な関係から被控訴人に対する印税の支払を根拠づける契約書等の必要性が認識されるに至り、本件昭和49年契約が締結された。本件昭和49年契約は、控訴人に独占的排他的な出版権を設定するものであったが、生長の家の文書伝道に必要な限り出版許諾関係が継続することを当然の前提としていたため、契約期間については特に定められなかった。本件昭和49年契約を締結した後も、被控訴人は、書籍の重版、改訂等に関与することはなく、それまでと同様に、控訴人から発行部数等の報告を受け、その印税を受領するのみであった。
 昭和60年に亡Aが死亡すると、亡Aの著作物に係る著作権の帰属を明確にする必要が生じ、被控訴人と亡Aの相続人らとの間で、本件確認書(甲3)が作成された。
 その後、昭和63年4月19日開催の常任理事会における決議(甲4)を経て、生長の家は、被控訴人の代理人として、控訴人との間で、生長の家の起案に係る契約書(甲5の1〜107)をもって、本件出版使用許諾契約を締結した。本件出版使用許諾契約は、3年ごとに契約の更新期を迎えるが、本件更新拒絶がされるまで、被控訴人及び生長の家のいずれからも更新拒絶の意思表示がされたことはなく、3年ごとに自動更新されてきた。この間、控訴人は、生長の家の承認をとりながら、本件書籍の重版、改訂版の発行等を行ってきたが、従前と同様、被控訴人がこれらに関与することはなかった。
(2) 上記のとおり、控訴人と被控訴人の出版許諾関係は、亡Aの宗教的理念を具体化するために形成されてきたものであり、そのような関係を背景として、控訴人と被控訴人の出版許諾関係は、被控訴人が設立された昭和21年から60年以上にわたり継続し、本件出版使用許諾契約の締結後に限っても20年以上も継続してきた。本件出版使用許諾契約の約款の条項の解釈においては、その歴史的背景と実績が考慮されなければならないのであって、そのような観点から考察すると、約款3条は、更新を前提とした規定であって、3年間という契約期間は契約を終了するのもやむを得ないといえる事情が発生した場合に限り契約を終了させることができることを前提に定められたものと解するのが相当である。
 したがって、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては、相手方当事者に重大な契約違反があるなど正当な事由を要すると解すべきである。
(3) しかも、被控訴人の更新拒絶については、約款3条に「代理人を含む」と明記されているのであるから、被控訴人が更新拒絶により本件出版使用許諾契約を終了させるには、被控訴人のみならず生長の家の立場からしても、契約を終了させることがやむを得ないと認められるような事由が必要であると解すべきである。
〔被控訴人の主張〕
 被控訴人は、本件出版使用許諾契約の約款3条の規定に基づき、本件更新拒絶の意思表示をした。
 上記約款には、被控訴人又は控訴人が本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するには正当事由を要する旨の定めはないから、そもそも、被控訴人が更新を拒絶するにつき正当事由が要求されることはないのであって、本件更新拒絶に正当事由が存するか否かは問題とならない。
4 争点4(正当事由を要する場合の正当事由の存否)について
〔被控訴人の主張〕
(1) 仮に、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するにつき正当事由を要するとしても、以下のとおり、被控訴人による本件更新拒絶には正当事由が存する。
ア 控訴人は、本件書籍の販売部数の減少に対して、何ら有効な措置を講じようとせず、被控訴人が長年にわたり何度も申し入れてきた「生命の實相」頭注版(本件書籍15)のリニューアル(新版発行)にも応じようとしなかった。
 被控訴人からの質問(甲6の1)に対しても、控訴人は、全く唐突に頭注版(通常の判型)とサイズが異なり、また、商品として全く性質の異なる文庫化を取締役会で既に決定したものであるとして回答し(甲6の2)、被控訴人の頭注版のリニューアル(新版発行)の申入れを全く無視する態度であった。
イ 被控訴人が本件更新拒絶1の意思表示をした平成19年6月の時点において、控訴人は、被控訴人に対し、復刻版1及び2に係る多額の印税の支払を意図的に行っていなかった。
 しかも、前訴第1事件において、被控訴人が控訴人に対して復刻版1及び2に係る印税の支払を求めたのに対し、控訴人は、復刻版1及び2の著作権は被控訴人に帰属するものではないなどと、理由がないことが明らかな不合理な主張を行い、被控訴人の請求を争った。
ウ 控訴人は、復刻版1について、昭和61年発行の12版から奥付の著作権者表示を被控訴人に無断で「(c) S.Taniguchi、1982」と表示し(甲29の2)、被控訴人が著作権者である旨の「理長」印(検印)を被控訴人に無断で「検印省略」と記載して削除した挙げ句に、18版及び19版においては、「(c) Seicho Taniguchi、Emiko Taniguchi、1932」と真実と異なる著作権者の表示をした(甲29の3)。
エ 以上のとおり、控訴人は、著作権者に対する印税の支払義務を履行せず、しかも、前訴第1事件において理由がないことが明らかな不合理な主張を行って被控訴人の請求を争い、さらに、著作権者の表示についても不当な表示をするなどして、出版社としての基本的な義務に違反した。
 控訴人が復刻版1及び2の印税を被控訴人に支払わなかった事実は、被控訴人が「生命の實相」頭注版及び愛蔵版(本件書籍15、16)に関する本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するのに十分な理由となる。
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は、被控訴人が本件確認書(甲3)作成以前における復刻版1及び2の印税の支払方法について、これを亡Aの指示によるものとして尊重し、了解していた旨主張するが、否認する。
 被控訴人は、復刻版1及び2の印税が亡Aやその相続人らに支払われていた事実を、その初版の出版当時から全く知らなかった。被控訴人は、平成20年10月頃、復刻版1の奥付に不当な著作権者の表示がされていることを偶然発見し、控訴人に照会したところ、控訴人が印税の支払明細を明らかにしたことから、復刻版の印税の未払(被控訴人の預かり知らないところでの、控訴人による、亡Aないしその相続人らへの印税相当額の支払)が発覚したものである。
 被控訴人が異議を述べることができなかったのは、復刻版の印税の支払状況について、控訴人が出版社としての報告を怠ったために、被控訴人において、これらの印税が支払われていなかったことを長年にわたり認識していなかったことによる。
 復刻版1及び2は、いずれも「生命の實相」そのものであり、「生命の實相」に係る著作権は、被控訴人の基本的かつ最も重要な財産であるから、これに係る印税が第三者に支払われることを被控訴人が了解することなどあり得ず、被控訴人は、その印税が第三者に支払われているなどとは全く認識していなかったのである。
イ 控訴人は、本件確認書(甲3)は、復刻版1及び2の著作権が亡Aの相続人らに帰属するものであるとの前提の下で、被控訴人に著作権が帰属する「生命の實相」は頭注版及び愛蔵版であることを確認し、同時に、復刻版1及び2に係る印税は亡Aの相続人らにおいて受領することを確認したものであり、しかも、本件確認書の作成に当たって、これを作成する以前の印税については遡って問題としないことが前提とされていたなどと主張する。
 しかしながら、本件確認書は、同書面に添付された「著作物の表示」に記載された亡Aの著作物について、被控訴人を権利者とし、亡Aの相続人らを義務者として、著作権登録をするための登録原因証書として作成されたものである。これが作成された昭和63年3月当時、「生命の實相」と題された出版物としては、頭注版、愛蔵版のほかに、復刻版1も発行されていたが、あえて復刻版1を除外する意思は当事者にはなく、単に、控訴人が起案者であるC(当時、生長の家の総務部法務課に所属)に提出したリストに従い、起案されたにすぎない。
 本件確認書は、復刻版1及び2の著作権が亡Aの相続人らに帰属することを前提になどしていないし、被控訴人に著作権の帰属する「生命の實相」が頭注版ないし愛蔵版に限られるものではないこと、本件確認書の作成の前後を問わず、復刻版1及び2に係る印税は被控訴人が受領すべきものであることは、いずれも明らかである。
ウ 控訴人は、亡Aの相続に関する昭和60年12月13日付け遺産分割協議書添付の遺産目録(甲26。以下「本件遺産目録」という。)の作成により、復刻版の著作権が亡Aの遺産に含まれると確認されたことから、復刻版1について、奥付の著作権者表示等を12版以降変更したなどと主張する。
 しかしながら、本件遺産目録は、亡Aの財産に関してその相続人らが作成した私文書にすぎず、被控訴人がその作成に関与したものではない。このような文書に基づいて、出版社である控訴人が、著作権者である被控訴人に何の相談もしないまま、著作権者表示等を不当に変更するなどというのは許されないことである。
〔控訴人の主張〕
 被控訴人による本件更新拒絶には、以下のとおり、正当な事由があるとは認められない。
(1) 「生命の實相」頭注版のリニューアルについて
 被控訴人は、本件更新拒絶の正当事由として、控訴人が本件書籍の販売部数の減少に対して、何ら有効な措置を講じようとせず、被控訴人が申し入れた「生命の實相」頭注版(本件書籍15)のリニューアル(新版発行)にも応じようとしなかったとの点を挙げる。
 しかしながら、上記の点は、以下のとおり、本件更新拒絶の正当事由たり得ない。
ア 控訴人、被控訴人及び生長の家は、「生命の實相」頭注版、愛蔵版を含め本件書籍の編集、出版については、生長の家の管理の下で、控訴人において行うことを合意した。
 そのため、控訴人は、本件出版使用許諾契約の締結後も一貫して、上記合意のとおりの方法、すなわち、控訴人において方針を決定し、生長の家の承認を得た後、被控訴人の許諾を得るという方法で本件書籍に係る編集、出版を行ってきたが、被控訴人が、これについて異議を述べたことはなかった。
 したがって、そもそも、控訴人が「生命の實相」頭注版を文庫本としてリニューアルすることを、生長の家との協議の下で計画することは、本件出版使用許諾契約に何ら違反するものではない。
 また、「生命の實相」頭注版のリニューアルを巡って、控訴人と被控訴人との間に意見の対立があったことは事実であるが、生長の家を交えた協議により、妥当な結論を導くことが可能であった。控訴人は、信徒に対するアンケート結果や出版社としての経験から、「生命の實相」頭注版のリニューアルは文庫版として行うのが望ましいと判断した。しかしながら、控訴人は文庫化に拘泥していたわけではなく、これに反対する被控訴人に対し、改訂計画について協議を申し入れていた。このような状況において、被控訴人は、控訴人との協議に応じることなく、一方的に本件出版使用許諾契約の更新を拒絶したのであり、本件更新拒絶に正当な理由はない。
イ 「生命の實相」頭注版を文庫本としてリニューアルし、その販売数が増加すれば、それに応じて被控訴人に支払われる印税も増加するのであるから、文庫本化の計画が被控訴人の不利益となるものではなく、控訴人と生長の家とが進める「生命の實相」頭注版の文庫本化に被控訴人が反対する合理的な理由はない。
 被控訴人は、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶した後、被控訴人補助参加人に「生命の實相」を出版させているが、その編成は頭注版とは異なり、その題号も「新編 生命の實相」とされ、凡例にも「愛蔵版「生命の實相」全20巻を底本とした」旨記載されているのであって、被控訴人補助参加人が出版する上記書籍は、頭注版をリニューアルしたものとはなっていない。このことは、文庫化に対する被控訴人の反対が、その案の良し悪しによるものではなく、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶せんがための口実であったことを示すものであるといえる。
(2) 復刻版の印税の未払について
 被控訴人は、本件更新拒絶の正当事由として、控訴人が、被控訴人に対し、復刻版1及び2に係る印税(合計2570万円)の支払を意図的に行っていなかったとの点を挙げる。
ア しかしながら、以下の事情に照らせば、控訴人が復刻版の著作権が亡Aないしその相続人らに帰属するものであると認識し、その印税について、被控訴人に対する未払はないものと判断したことには合理的かつ正当な理由があるから、被控訴人に対する復刻版の印税の未払の点は、本件更新拒絶を正当化する事由たり得ない。
(ア) 復刻版1は、「生命の實相」発刊50周年を記念した特別版として昭和57年に発行されたものであり、生長の家の草創期に発行された雑誌「生長の家」に掲載された亡Aの著作物を単行本として編集して昭和7年に発行された「生命の實相〈革表紙版〉」の初版本を、写真製版によって復刻したものである。また、復刻版2は、復刻版1が好評であったことから、同じく「生命の實相」発刊50周年を記念した特別版として昭和59年に発行されたものであり、昭和8年に発行された「久遠の實在〈革表紙版〉(「生命の實相」第2巻)」を復刻したものである。
 これに対し、「生命の實相」頭注版、愛蔵版は、上記「生命の實相〈革表紙版〉」の初版本の出版後に発行された雑誌「生長の家」に掲載された著作物を加え、それぞれ40巻ないし20巻の編集著作物として編集された全集版であり、復刻版1や2とは内容、編集、構成を異にしている。
(イ) 亡Aは、復刻版1の印税については、当初はその2分の1を受領し、昭和59年以降はその全額を受領していた。また、亡Aは、復刻版2の印税については、その全額を受領していた。
 これは、亡A自身が、復刻版1及び2の印税は被控訴人に対する寄附行為の対象とはならないと認識していたからにほかならない。
(ウ) 亡Aが昭和60年6月17日に死亡した後、その相続に関して作成された本件遺産目録(甲26)には、亡Aの遺産として、「64 復刻版 実相」、「71 久遠の實在」が挙げられている。
 本件遺産目録の作成には、被控訴人の当時の理事長であったD(以下「D」という。)及び控訴人の当時の社長であったEが関与しており、同目録は、亡Aの相続人らのみならず、生長の家、控訴人や被控訴人との意見の調整をも経た上で作成されたものである。
 そして、控訴人は、F(以下「F」という。)から提出された昭和60年11月29日付け「著作物財産権の相続に関する念書」(甲27)に基づき、亡Aの相続人の代表であるFから、生長の家、控訴人や被控訴人との間でも復刻版の著作権が亡Aの相続人らに帰属することが確認されたことを前提に、復刻版の印税は亡Aの相続人らに支払うようにとの指示を受けたものと理解して、亡Aの相続人らに対して支払ってきたものである(甲32の1〜3、甲33の1〜7)。
 また、控訴人は、本件遺産目録により、復刻版の著作権が亡Aの遺産と確認されたことを受けて、復刻版1について、昭和61年11月発行の12版から奥付の著作権者表示を「(c) S.Taniguchi、1982」と表示し、検印をFのものに変更し(甲29の2)、昭和63年4月に亡Aの妻である訴外G(以下「G」という。)が死亡したことを受けて、18版及び19版においては、奥付の著作権者表示を「(c) Seicho Taniguchi、Emiko Taniguchi、1932」と変更した(甲29の3)。
(エ) 亡Aの相続人の代表であるFと被控訴人との間で作成された本件確認書(甲3)において、亡Aから被控訴人に寄附され、被控訴人に著作権が帰属する著作物が確認されているが、本件確認書添付の「著作物の表示」には、「生命の實相」頭注版(全40巻)及び愛蔵版(全20巻)の記載はあるものの、復刻版の記載はない。
 本件確認書が作成された後は、本件確認書添付の「著作物の表示」に記載された書籍については、重版される都度、出版使用許諾契約書が作成されたのに対し(甲5の15〜74)、復刻版1については、本件確認書が作成された後も14版から19版まで合計2700冊出版されているにもかかわらず、契約書が作成されなかった。
(オ) 昭和54年7月から平成4年12月まで被控訴人の理事長であったDは、昭和53年7月から平成4年3月までの間控訴人の監査役を務めており、復刻版が重版されていること、並びに復刻版の印税が被控訴人にではなく亡A又はその相続人らに支払われていることを認識していたはずであるにもかかわらず、これに対し、何らの異議を述べることはなかった。
 控訴人は、平成21年1月13日付け「「履行催告」兼「契約解除」の通知」(甲12の1)において請求を受けるまで、被控訴人から復刻版の印税の支払請求を受けたこともない。
 これらのことは、被控訴人においても、復刻版の著作権が亡Aの相続人らに帰属するものと確認されていることを十分認識していたからにほかならない。
イ 被控訴人は、復刻版の印税の未払を本件更新拒絶の理由として挙げるが、そもそも復刻版の印税は、本件出版使用許諾契約とは、その契約の性質、内容等を異にする本件昭和49年契約に係る問題であって、以下の事情に照らせば、同契約上の債務不履行の効果を本件出版使用許諾契約に及ぼすことは許されない。
(ア) 本件出版使用許諾契約は、亡Aが死亡後、本件確認書(甲3)において、被控訴人に著作権が帰属するものと確認された書籍を重版ないし新版として発行するに際し、順次、生長の家の管理の下で締結されたものである。本件確認書において確認の対象とされた書籍のうち、亡Aの死亡後も出版を継続し、印税を被控訴人に支払うことになる書籍については、全て本件出版使用許諾契約が締結されている。
 したがって、本件確認書の作成後は、被控訴人に印税を支払うべき書籍については、控訴人と被控訴人との間の契約は、全て本件出版使用許諾契約に移行したのであり、本件昭和49年契約はほとんどその存在意義を失っていたものであるから、これを、本件出版使用許諾契約と同列、同等の契約として扱うのは相当でない。
(イ) 復刻版1は、昭和57年に2万3000部発行されたものの、その後は毎年僅かな部数しか発行されておらず、平成元年以降に発行された部数は合計でも2500部にすぎず、本件書籍の発行部数と比べると極めて少ない。
 また、前訴第1審判決において控訴人が支払を命ぜられた復刻版の印税額は50万円にすぎない。なお、前訴第1審判決が認定した2740万円の未払印税のうち、控訴人が2690万円について消滅時効を援用したことに関し、原判決は「2690万円については、前訴において消滅時効の援用がなされたため起算日に遡って債権がなかったことになったが(民法144条)、多額の不払により信頼関係が破壊された事実までもなかったことになるものでもない。」と判示するが、時効の完成した債権について、あたかも債務不履行があったかのごとく扱い、それを本件出版使用許諾契約における信頼関係破壊の理由とするもので、民法144条の解釈を誤り、時効制度の適用を誤るものである。
 控訴人が、本件出版使用許諾契約に基づき、被控訴人に対し、年間数千万円の印税を一度として遅滞することなく支払ってきたことに照らせば、復刻版の印税の未払の点は、債務不履行の程度として軽微なものであるといえる。
(3) 控訴人が本件書籍を出版することができないことに伴い生じる支障等
ア 控訴人は、被控訴人から本件出版使用許諾契約の更新を拒絶する旨の通告がされた後、本件書籍の出版を控えてきた。そのため、「生命の實相」頭注版(全40巻)のうちの半数近くが在庫切れとなっているほか、他の書籍についても在庫が僅かとなり、購読希望者からの注文に応じることができない状況にあり、生長の家の文書伝道を中心とする布教活動に大きな支障が生じている。
 被控訴人補助参加人の出版計画では、「生命の實相」が全集として完結するには二、三十年を要することになり、それまでの間、購読希望者は「生命の實相」の全集を通読することができないという事態が生じる。
 このような事態は、控訴人の出版社としての社会的信用を失墜することになる。
イ 「生命の實相」は、長年にわたり売れ続けてきた控訴人の主要商品であり、控訴人を象徴する商品として、控訴人は、その社屋の屋上に「生命の實相」の広告塔を設置するなどしている(甲18の1・2)。
 「生命の實相」頭注版の売上げは、控訴人が出版する書籍全体の売上げの約10%を、本件書籍の売上げは、控訴人が出版する書籍全体の売上げの約25%を占める(甲19)。
 このような主要商品の売上げを失うことは、控訴人の書籍部門の存廃にも重大な影響を及ぼすものであって、その経営に甚大な損害を与えるものである。
ウ 被控訴人は、昭和21年に亡Aの寄附行為により設立された財団法人であるが、その設立の趣意書には、出版事業に関する項目は一切挙げられていない。これは、出版事業は、専ら控訴人に委ね、被控訴人はその印税収入をもって社会厚生事業を推進するという役割分担がされていたからである。
 被控訴人にとって、控訴人が「生命の實相」等本件書籍を恒久的に出版するために設立されたことは自明のことであり、被控訴人が、控訴人と生長の家を排除し、直接出版に関与することは、被控訴人の設立以来長年にわたり継続されてきた控訴人と被控訴人との役割分担関係を破綻させるものであり、設立者たる亡Aの意思に反し許されない。
5 争点5(本件更新拒絶は信義則違反又は権利の濫用にわたるものとして無効とされるべきものか否か)について
〔控訴人の主張〕
(1) 被控訴人は、「生命の實相」頭注版のリニューアル問題を本件更新拒絶の理由として挙げる。
 しかしながら、控訴人と被控訴人との間に上記問題について意見の対立があったことは事実であるが、前記4〔控訴人の主張〕 (1)記載のとおり、生長の家を交えた協議により妥当な結論を導くことは十分可能であったし、そもそも、控訴人は文庫化に拘泥していたわけではなく、これに反対する被控訴人に対して改訂計画について協議を申し入れている状況にあった。
 このような状況にあって、被控訴人が、控訴人との協議に応じることなく、一方的に本件出版使用許諾契約の更新を拒絶することは許されない。
(2) また、被控訴人は、復刻版の印税の未払を本件更新拒絶の理由として挙げる。
 しかしながら、控訴人が復刻版の著作権が亡Aないしその相続人らに帰属するものであると認識し、その印税について、被控訴人に対する未払はないものと判断したことには、前記4〔控訴人の主張〕(2)ア記載の事情に照らせば、合理的かつ正当な理由があったといえる。そもそも、復刻版の印税は本件出版使用許諾契約とはその契約の性質、内容等を異にする本件昭和49年契約に係る問題であって、前記4〔控訴人の主張〕(2)イ記載の事情に照らせば、同契約上の債務不履行の効果を本件出版使用許諾契約に及ぼすことは許されない。
 したがって、復刻版の印税の未払を理由として、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶することは許されない。
(3) さらに、本件更新拒絶により、控訴人が本件書籍を出版することができないこととなれば、前記4〔控訴人の主張〕(3)記載のとおり、控訴人や生長の家に種々の支障が生じることになる。
(4) 以上によれば、本件更新拒絶は、信義則に違反するか、又は権利の濫用にわたるものとして無効とされるべきものである。
〔被控訴人の主張〕
 控訴人の主張は否認ないし争う。
 前記4〔控訴人の主張〕(1)記載の事情に照らせば、本件更新拒絶が信義則に反するものでも、権利の濫用にわたるものでもないことは明らかである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件訴えの適法性)について
(1) 被控訴人は、本件訴えは、前訴第3事件と当事者及び訴訟物を同じくするものであって、重複する訴えの提起の禁止(民訴法142条)に反し不適法である旨主張する。
(2) 前記前提事実記載のとおり、前訴第3事件は、控訴人が、本件書籍1ないし31を含む書籍等について、被控訴人との間の出版契約に基づいて出版権の設定を受けたにもかかわらず、被控訴人及び被控訴人補助参加人において、控訴人に無断で、上記書籍等の一部について現に出版及び販売を行い、また、上記書籍等の一部について今後出版を行うおそれがあるとして、被控訴人に対し、控訴人が本件書籍1ないし31を含む書籍等について出版権を有することの確認を求めるとともに、被控訴人及び被控訴人補助参加人に対し、本件書籍1ないし15及び31を含む書籍の出版等の差止を求めるものであり、上記確認請求に係る請求の趣旨の記載は、「被控訴人は控訴人に対し、控訴人が別紙書籍目録1ないし34記載の書籍(判決注・本件書籍1ないし31を含む)について出版権を有することを確認する。」というものである(乙6)。
 そして、前訴第1審判決は、前訴第3事件について、「控訴人と被控訴人との間において、本件書籍について本件出版使用許諾契約を締結したことが認められるものの、本件出版使用許諾契約における許諾の内容が独占的排他的な出版権を設定するものであることを認めるに足りる証拠はない。かえって、本件出版使用許諾契約に係る契約書1条に、「甲は、乙に対し、この契約の表記の記載事項と約款に従い、本著作物に係る著作権を出版使用することを、著作権法第63条に基づき許諾する。」との規定があり、同規定中に「著作権法第63条に基づき」と明示されているとおり、本件出版使用許諾契約における許諾は、著作権法79条の出版権を設定する内容のものではなく、同法63条に基づく利用許諾にすぎないというべきであるから、独占的排他的なものであるとはいえない。したがって、本件書籍について独占的排他的な出版権の設定を受けたとの控訴人の主張は採用することができない。」などと判示して、控訴人の前訴第3事件請求をいずれも棄却し、同判決が確定したことは、前記前提事実記載のとおりである。
(3) 以上によれば、前訴第3事件において確認請求の対象とされたのは、独占的排他的な利用権であって、第三者に対しても直接差止等の請求をすることが可能な「出版権」、すなわち著作権法79条に規定される出版権であったと認められる。
 一方、本件訴訟において確認請求の対象とされているのは、その請求の趣旨及び請求原因の記載によれば、著作権法63条に規定される、著作権者から著作物の利用を許諾された者の有する債権的な著作物利用権であると認められる。
 そうすると、本件訴訟における訴訟物は前訴第3事件における訴訟物とは異なるから、本件訴訟が前訴第3事件と重複する訴えであるとはいえず、また、前訴第1審判決の既判力が本件訴訟に及ぶこともない。
 なお、前訴第1審判決においては、本件書籍について独占的排他的な出版権の設定を受けたとの控訴人の主張が理由がないものとして排斥されたため、被控訴人による本件出版使用許諾契約の更新拒絶の有効性については判断されていないのであって、前訴第3事件についての前訴第1審判決における判断を前提として、前訴第3事件における訴訟物とは異なる権利について確認を求める本件訴えが、実質的に前訴第3事件の蒸し返しに当たるなどともいえない。
(4) 以上によれば、本件訴えが不適法なものであるとして却下を求める被控訴人の上記主張は採用することができない。
2 争点2(本件更新拒絶が手続要件を充足するものであるか否か)について
(1) 本件出版使用許諾契約書の約款3条は、「第1条による乙(判決注・控訴人)に対する出版使用許諾期間は、本契約締結の日から3年間とする。この期間満了の3ヵ月前までに、甲(判決注・被控訴人)(代理人を含む。)、乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り、この契約と同一条件で、順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」と規定するところ(甲5の1)、控訴人は、上記規定の「甲(代理人を含む)」との文言は、被控訴人による更新拒絶には、代理人である生長の家を関与させ、事前に生長の家と協議し、その意見を聞く必要のあることを規定したものであり、被控訴人が本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては、被控訴人単独ではなく、生長の家とともに意思表示をすべき義務があるにもかかわらず、本件更新拒絶は、被控訴人単独でされたものであるから、約款3条に定める要件を欠き、無効である旨主張する。
(2) 証拠(甲4、甲5の1〜107、乙23)及び弁論の全趣旨によれば、@昭和63年4月19日の生長の家の常任理事会において、「1、社会事業団が別紙1の著作物(判決注・本件確認書添付の「著作物の表示」に記載された著作物と同一である。)に関して、各出版毎に一点づつ管理することを本部に委任する形態にする。」、「2、社会事業団と教文社の間で締結している現行の出版契約に、本部が社会事業団からの受任者として新たに加わる形態に変える。」との事項の提案がされ、賛成多数で上記提案どおり可決されたこと、A同年5月10日の生長の家の定例理事会において、常任理事会における議決を踏まえ、上記事項と同様の提案がされたが、全員賛成で提案どおり可決されたこと(なお、定例理事会における提案書面には、常任理事会における提案書面に記載されていた「「生命の實相」や聖経は文書伝道の神髄とも云うべき著作物であり、それらの著作物の管理実務は、社会事業団よりもむしろ本部が行うべき性質のものであろうかと思慮されます。」との記載はな。)、B控訴人と被控訴人とは、上記提案書面に添付された委任状及び契約書の書式を用いて、昭和63年5月10日付けの「生命の實相」頭注版、愛蔵版(本件書籍15、16)に関する出版使用許諾契約の締結を皮切りに、本件書籍のそれぞれについて逐次出版使用許諾契約を締結したことが認められる。
 そして、本件出版使用許諾契約に係る各契約書及び委任状の記載(甲5の1〜107)によれば、生長の家は、被控訴人の委任を受けて、被控訴人の代理人として、控訴人との間で本件出版使用許諾契約の締結を行ったことが認められる。
 しかるに、本件出版使用許諾契約における生長の家の立場は、上記のとおり、あくまで被控訴人の代理人であること、委任状に記載された委任事項は、被控訴人が控訴人との間で、被控訴人に著作権が帰属する特定の著作物に関し、出版使用許諾契約を締結する件と限定されていること、契約書中には、被控訴人の著作物に対する固有の管理権を制限ないし制約する明文の定めはないこと(甲5の1〜107)からすると、上記認定の生長の家の常任理事会や定例理事会における議決内容(甲4、乙23)、本件出版使用許諾契約がこれらの議決を受けて締結されたとの経緯を理由として、被控訴人の著作物に対する固有の管理権が制限されるに至ったものと認めることはできない。
 また、本件出版使用許諾契約の約款3条には、「この期間満了の3ヵ月前までに、甲(代理人を含む。)、乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り、この契約と同一条件で、順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」との規定が、8条には、「本著作物の改訂版又は増補版の発行については、甲(代理人を含む)乙協議のうえ決定する。」との規定があるところ、上記規定中の「(代理人を含む。)」との文言は、生長の家が契約当事者本人である被控訴人の「代理人」として3条所定の通告をしたり、8条所定の改訂版又は増補版の発行についての協議を行う場合があることを意味するものと解され、上記文言を根拠として、被控訴人が本件書籍の出版その他の利用の管理の決定を行う権限を生長の家に委譲したものと解釈したり、3条所定の通告、すなわち更新拒絶の意思表示は、被控訴人と生長の家の連名で行うことを必要とするものと解釈したりすることは、文理上困難である。控訴人は、被控訴人が本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては、生長の家とともに意思表示をすべき義務があるとする根拠として、約款に「甲は、本著作物に係る著作権を、寄附行為に基づき基本財産として保全し、宗教法人「生長の家」以外の第三者には著作権管理を委任しないものとする。」(12条2項)との規定があることも挙げるが、上記規定は、その文言に照らし、被控訴人が生長の家以外の第三者には本件書籍についての著作権管理を委任しないことを約するものにすぎず、著作権者である被控訴人の著作物に対する固有の管理権について制限する趣旨までも含む規定であると解することはできないから、上記規定があるからといって、本件出版使用許諾契約において、更新拒絶の意思表示を行うについては、被控訴人と生長の家との連名で行うことが合意されていたものと認めることはできない。
(3) したがって、本件更新拒絶が、これが被控訴人の単独による意思表示であるからといって、無効となることはない。
3 争点3(正当事由の要否)について
(1) 控訴人は、約款3条は、自動更新を前提とした規定であって、3年間という契約期間は契約を終了するのもやむを得ないといえる事情が発生した場合に限り契約を終了させることができることを前提に定められたものと解すべきであるから、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するについては、相手方当事者に重大な契約違反があるなど正当な事由を要する旨主張する。
(2) 前提事実に証拠(甲2〜4、甲5の1〜107、甲26〜28、甲31の1・2、甲37、甲39の1〜18、甲47、49、甲63の1・2、乙1、13、14、20〜23)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件出版使用許諾契約の締結に至る経緯について以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
ア 亡Aは、昭和5年に月刊雑誌「生長の家」を創刊すると、それ以降、同誌に数々の論文等の言語の著作物を発表してきた。
 そして、控訴人が亡Aの提唱により、昭和9年11月25日に設立されると、その後は、控訴人において、亡Aの著作物の編集、出版を行うようになった。(乙1、13、弁論の全趣旨)
イ 亡Aが月刊雑誌「生長の家」に発表した著作物の内容を整理し、順序立て、説明を補うなどして編纂した書籍が、「生命の實相」の題号を付して、戦前に10書籍(「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)(初版発行昭和7年1月1日)、「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)(初版発行昭和8年12月25日)、「生命の實相<黒布表紙版>」(全20巻)(初版発行昭和10年1月25日から昭和16年12月25日)、「生命の實相〈革表紙版(地・水・火・風・空・教・行・信・證)〉」(全9巻)(初版発行昭和10年10月1日から昭和14年3月15日)、「生命の實相<豪華大聖典>」(全1巻)(初版発行昭和11年11月22日)、「生命の實相<縮刷中聖典>」(全1巻)(初版発行昭和12年6月1日)、「生命の實相<ビロード表紙版>」(全9巻)(初版発行昭和13年3月20日から昭和14年3月15日)、「生命の實相<菊版>」(全13巻)(初版発行昭和14年5月20日から昭和16年10月15日)、「生命の實相<人造羊皮版>」(全9巻)(初版発行昭和14年11月20日から昭和15年6月20日)、「生命の實相<満州版(乾・艮・兌・離)>」(初版発行昭和18年8月15日から昭和20年5月5日))が出版された。(乙1、弁論の全趣旨)
ウ 被控訴人は、亡Aの宗教的信念に基づき、困窮家庭の援護、社会福祉施設の経営等を目的として、昭和21年1月8日に設立された財団法人(平成24年4月1日、公益財団法人に移行)であり、亡Aが設立者として寄附行為を行い、東京都長官の許可を受けて設立された。
 被控訴人の書面としての寄附行為である「財団法人生長の家社會事業団寄附行為」には、被控訴人の基本資産として「A著作「生命の實相」ノ著作権」が規定されており(第5条)、寄附行為により、「生命の實相」の題号を付して戦前に出版された10書籍の著作物に係る著作権の全てが亡Aから被控訴人に移転した。
 なお、上記寄附行為は、昭和30年5月12日頃、主務官庁の認可を経て変更されており、そこでは、被控訴人の資産として、「A著「生命の実相」等の著作権」と規定されている(第5条)。(甲47、乙1、弁論の全趣旨)
エ 控訴人が編集、出版を行うようになった後も、控訴人は、新刊の発行に際しては、書籍の編成、校正、装丁、定価、印税率やその支払方法等について、亡Aに伺いをたてており、亡Aは、これらの点について、控訴人に対し、具体的な指示をしていたが、寄附行為により「生命の實相」の著作権を被控訴人に移転した以外にも、被控訴人の社会厚生事業の運営を援助するため、長年にわたり、多数の書籍について、著作権を移転するなどしてその印税を被控訴人に得さしめていた。(甲39の1〜18、甲49、乙1、13、14、弁論の全趣旨)
オ 亡Aから被控訴人に著作権が移転された著作物については、「甘露の法雨」の扱いについて関係者間で書面(昭和34年11月22日付け「聖教「甘露の法雨」の複製承認に関する覚書」)が作成されたことがあったほかは、後記認定のとおり本件昭和49年契約が締結されるまで、控訴人と被控訴人との間で、出版に関する契約書は作成されていなかった。(甲49、乙22、弁論の全趣旨)
カ 控訴人と被控訴人は、昭和49年1月31日、被控訴人が著作権を有する亡Aを著作者とする同日付け「著作権使用(出版)契約書」と題する契約書添付の別紙一覧表(「版権所有出版物一覧表(49.1.31現在)」)記載の著作物について、被控訴人が控訴人に対し、上記著作物を出版するための独占的排他的使用権を設定し、控訴人が被控訴人に対し、出版時に定価の10%を印税として支払う旨の、契約存続期間の定めのない(「契約存続期間 本契約成立の日から 年 月間」と不動文字が印刷された欄は空欄のままとされ、斜線が引かれている。)著作権使用(出版)契約(本件昭和49年契約)を締結した。(甲2)
 本件昭和49年契約の約款(甲2)には、以下のような規定がある。
 「二(使用権の独占・出版権の専有)
 使用者がこの契約に基づいて、表記の著作物の使用権を独占し排他的に出版するものとする。故に権利者はこの契約の存続する限り同一又は明らかに類似と認められる他の著作物を使用者の許諾なくしては自らまたは他人をして他に転載もしくは出版することができないものとする。」
 「十五(著作権法の規定との関係)
 この契約に於いて特に定めていない事項については、著作権法第三章を除く他は、著作権法の規定に当然従うものとする。」
キ 亡Aは、昭和60年6月17日死亡した。(乙1、20)
 亡Aの相続人であるG、F、Bは、昭和60年12月13日、亡Aの遺産について、同日付け遺産分割協議書添付の「第3遺産目録(著作権)」記載の著作物並びに録音テープに対する著作権の共有持分2分の1をGが、各4分の1をF及びBがそれぞれ取得することを含む遺産分割協議を行った。(甲26、27、乙1、20、弁論の全趣旨)
ク 昭和61年3月14日に開催された生長の家の常任理事会において、「お守り「甘露の法雨」(仏語訳)の発行について」の議案が審議された際、「甘露の法雨」の著作権等の帰属が不明確であるとの意見があったため、これを明確にする目的でH弁護士(以下「H弁護士」という。)に、「甘露の法雨」の著作権の帰属について鑑定意見を求めた。また、同年7月29日に開催された生長の家の常任理事会において、「「甘露の法雨」の帰属者と、お守り「甘露の法雨」(仏語訳)の発行について」の議案が審議された際、同弁護士から提出された鑑定意見を踏まえて、外国語に翻訳された「甘露の法雨」を宗教上の授与品として調製・下附するために、著作権者たる被控訴人及び出版権者たる控訴人から、著作権及び出版権の無償使用許諾を受ける旨議決したが、その際、亡Aの著作物の著作権の帰属と印税等の諸問題について、さらに専門家の意見を聞くことが確認され、生長の家、被控訴人、控訴人、財団法人世界聖典普及協会の四者で協議するよう生長の家理事長が勧告することとされた。(甲37、乙20、21、証人C)
ケ その後も、生長の家の予算委員会において、亡Aから生長の家に対して著作権の譲渡はされておらず、印税が寄贈されていただけではないか、現在、生長の家と控訴人との間で締結されている出版契約の内容にも不備があるのではないかなどという意見が出されるなどした。
 亡Aの著作物の著作権の帰属と印税等の諸問題に関し、H弁護士から、著作権の贈与があったと考えるのが妥当であると思われるとの意見やこの際著作権の帰属について確認をとっておいた方がよいとの助言を、I弁護士から、昭和62年11月30日付け「著作権の帰属とその範囲に関する鑑定意見書」を、それぞれ得るなどの過程を経て、昭和63年2月23日に開催された生長の家の常任理事会において、「宗教法人「生長の家」へ御寄贈された著作物に関する件」の議案が審議され、上記弁護士らの意見を踏まえ、議案書に添付された一覧表記載の亡Aの著作に係る著作物の著作権使用の対価を収受する権利(著作財産権)を、亡Aから譲渡されていることを確認するため、関係者を交えて確認書を作成すること、確認書は著作物ごとに作成することなどが議決された。
 生長の家は、亡Aの相続人らにおいて共有著作権の代表行使者と定められたFとの間で、上記議決に基づき、昭和63年3月頃、亡Aの相続人らと生長の家とが、対象著作物の著作権が生長の家に無償贈与され、生長の家に帰属していることを相互に確認することなどを内容とする確認書を作成した。(甲28、甲31の1・2、甲63の1・2、乙20、弁論の全趣旨)
コ 被控訴人は、昭和63年3月22日、亡Aの相続人らと被控訴人とが、生長の家の理事長であるJの立会いの上で、@亡Aの著作に係る添付の「著作物の表示」記載の著作物の著作権が、亡Aから被控訴人に基本財産と指定して寄附され、被控訴人に帰属していること、A著作権移転の登録について、登録義務者として必要な一切の件につき、被控訴人理事長に委任すること、を相互に確認することを内容とする本件確認書を、亡Aの相続人らにおいて共有著作権の代表行使者と定められたFとの間で作成した。(甲3)
サ 昭和63年4月19日に開催された生長の家の常任理事会において、「財団法人「生長の家社会事業団」に帰属している著作権の管理について」との議案が審議され、@本件確認書添付の「著作物の表示」に記載された著作物に関して、各出版毎に一点づつ管理することを生長の家に委任する形態にすること、A被控訴人と控訴人の間で締結している現行の出版契約に、生長の家が被控訴人からの受任者として新たに加わる形態に変えることを、本件出版使用許諾契約に係る契約書の書式案や用いる委任状の書式案とともに、賛成多数で可決した。(甲4)
シ 昭和63年5月10日に開催された生長の家の定例理事会において、「財団法人「生長の家社会事業団」に帰属している著作権の管理について」との議案が審議され、@本件確認書添付の「著作物の表示」に記載された著作物に関して、各出版毎に一点づつ管理することを生長の家に委任する形態にすること、A被控訴人と控訴人の間で締結している現行の出版契約に、生長の家が被控訴人からの受任者として新たに加わる形態に変えることを、本件出版使用許諾契約に係る契約書の書式案や用いる委任状の書式案とともに、全員賛成で可決した。(乙23)
ス 被控訴人は、生長の家を代理人として、控訴人との間で、上記常任理事会や定例理事会に提出された提案書面に添付された委任状及び契約書の書式を用い、昭和63年5月10日付けの「生命の實相」頭注版、愛蔵版(本件書籍15、16)に関する本件出版使用許諾契約の締結を皮切りに、本件書籍のそれぞれについて、原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の各「出版使用許諾契約締結日」欄記載の年月日に逐次本件出版使用許諾契約を締結した。
 本件出版使用許諾契約は、本件昭和49年契約とは異なり、「被控訴人は、控訴人に対し、本件書籍に係る著作権を出版使用することを、著作権法63条に基づき許諾する。」(1条1項)、「前項の規定は、被控訴人が、生長の家又はその被包括法人に対し、生長の家の教義宣布のため、著作権の使用許諾を行うことを妨げるものと解してはならない。」(1条2項)として、独占的排他的使用権であることを規定せず、また、「控訴人に対する出版使用許諾期間は、契約締結の日から3年間とする。この期間満了の3か月前までに、被控訴人(代理人を含む。)、控訴人いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り、この契約と同一条件で、順次自動的に同一期間ずつ延長せられるものとする。」(3条)として、3年間の契約存続期間の定めのある内容とされた。
 なお、本件出版使用許諾契約の成立により、本件昭和49年契約のうち本件書籍に関する事項は効力を失うものとされた(16条1項)。(甲5の1〜107、弁論の全趣旨)
(3) ところで、本件出版使用許諾契約の約款3条は、「第1条による乙に対する出版使用許諾期間は、本契約締結の日から3年間とする。この期間満了の3ヵ月前までに、甲(代理人を含む。)、乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がない限り、この契約と同一条件で、順次自動的に同一期間づつ延長せられるものとする。」と規定し、その文言上は、当事者の一方が契約の更新拒絶をするにつき、文書をもって通告を要することのほかは、3か月以上の予告期間を設けるのみで、更新拒絶事由を特に定めていない。
 そして、上記(2)認定事実によれば、@控訴人と被控訴人とは、いずれも生長の家の創始者である亡Aの提唱により、又は同人の寄附行為により、亡Aの宗教的理念の実現に資する活動を目的として設立された法人であって、亡Aの存命中は、新刊の発行に際しても、書籍の編成、校正、装丁、定価、印税率やその支払方法等について、亡Aから控訴人に対して具体的な指示がされ、控訴人は亡Aの指示に則って、著作物の出版や印税の支払等を行ってきたものの、亡Aが昭和60年6月17日に死亡した後は、生長の家の内部において、それまでの亡Aの著作に係る著作物に関する著作権の帰属や出版契約の内容等について疑問が提起されるなどしたこと、Aそのため、亡Aの著作に係る著作物の著作権の帰属を明確にし、出版契約の内容を見直すこととなり、まず、亡Aの相続人らと生長の家との間、亡Aの相続人らと被控訴人との間で、著作権の帰属を調整、確認したこと、Bその後、生長の家の関与の下、出版契約の内容(契約に用いる契約書の内容)についても検討した上で、本件書籍の著作権者である被控訴人と控訴人は、本件書籍について、それぞれ本件出版使用許諾契約を締結したこと、Cその結果、亡Aの生前に被控訴人と控訴人との間で締結された本件昭和49年契約においては、契約存続期間の定めのない独占的排他的使用権の設定を内容とする契約であったものが、本件出版使用許諾契約においては、3年間の契約存続期間の定めのある非独占的排他的使用権の設定を内容とする契約に改められたことが認められる。加えて、本件全証拠によるも、本件昭和49年契約から本件出版使用許諾契約に契約内容が変更され、契約存続期間を3年間とし、しかも、契約の更新拒絶をするについて期間満了の3か月前までの文書による通告を要するほかは、更新拒絶事由の存在を特に要求していない約款を採用するにつき、控訴人や被控訴人から、異論が述べられたなどの事情はうかがわれない。
 以上の本件出版使用許諾契約の約款3条の文言、本件出版使用許諾契約が非独占的排他的使用権の設定を内容とする契約期間の定めのあるものであり、出版社である控訴人は、著作物の複製並びに頒布の責任を負い(2条)、著作物の製作・販売・宣伝に要する費用は控訴人が負担する(5条1項)ものの、著作物の定価・造本・増刷の時期及び宣伝・販売の方法は控訴人において決定し(9条)、控訴人は印税を支払えば、出版使用許諾の消滅後も、著作物を、消滅時の在庫分に限り、頒布することができる、あるいは、被控訴人から在庫する著作物の代価の賠償を受けることができるものとされていること(15条)などその内容、並びに、本件出版使用許諾契約を締結するに至る上記経緯に照らせば、控訴人と被控訴人との間において、当事者の一方が契約の更新を拒絶するについて、正当事由、すなわち、やむを得ない事由を要すると合意されていたものとは認められず、また、当事者間における合意がないにもかかわわらず、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶するには正当事由を要すると解すべきであるともいえない。
(4) これに対し、控訴人は、控訴人と被控訴人の出版許諾関係は、亡Aの宗教的理念を具体化するために形成されてきたものであり、被控訴人が設立された昭和21年から60年以上にわたり継続し、本件出版使用許諾契約の締結後に限っても20年以上も継続してきたことから、当事者の一方が更新拒絶をするには、契約を終了するのもやむを得ないといえる事由を要する旨主張する。
 しかしながら、本件出版使用許諾契約は、上記(2)認定のとおり、亡Aが昭和60年6月17日に死亡した後、生長の家の内部において、それまでの亡Aの著作に係る著作物に関する著作権の帰属や出版契約の内容等について疑問が提起されるなどしたことから締結されるに至ったという経緯に照らすと、亡Aが存命中における控訴人と被控訴人との出版許諾関係を殊更に重視して、本件出版使用許諾契約の内容を解釈すべきであるとはいえない。
 また、確かに、本件出版使用許諾契約はその締結後数次にわたり更新されてきたことが認められるものの、上記(3)認定の本件出版使用許諾契約の約款3条の文言、本件出版使用許諾契約の内容、並びに、本件出版使用許諾契約が締結されるに至る経緯に照らせば、契約の更新が数次にわたり更新されてきたという結果を殊更に重視して、当事者の一方が更新拒絶をするには、契約を終了するのもやむを得ないといえる事由を要すると解すべきであるともいい難い。
 よって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(5) 以上によれば、本件出版使用許諾契約において、当事者の一方は、信義則や権利の濫用法理など、いわゆる一般条項による制約を受けることがあることは格別、そうでない限り、約款3条の定める、契約期間満了の3か月前までの文書による通告を行うことにより、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶することができるというべきである。
4 争点5(本件更新拒絶は信義則違反又は権利の濫用にわたるものとして無効とされるべきものか否か)について
(1) 控訴人は、被控訴人による本件更新拒絶は、信義則に違反するか、又は更新拒絶権の濫用にわたるものとして、無効とされるべきである旨主張するので、この点について検討する。
(2) 前提事実に証拠(甲6の1・2、甲7の1・2、甲8、甲9の1・2、甲10の1・2、甲11の1・2、甲12の1・2、甲13の1・2、甲25の1〜3、甲29の1〜3、甲32の1〜3、甲33の1〜7、甲66の1〜3、乙1、2、4、5、8、12、13、丙6、証人C、控訴人代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
ア 「生命の實相」頭注版のリニューアル要求に対する対応について
(ア) 生長の家の信者からリニューアルに賛成する旨のアンケート結果が得られていたことや、「生命の實相」頭注版は昭和37年に初版が発行されてから既に長期間が経過し、装丁が現代風でないことや、頭注に加除が必要であること、活版印刷のため版を重ねる度に紙型が摩耗し、印刷が汚くなっていたことなどの問題もあったことから、控訴人の内部においても、頭注版のリニューアルの必要性は認識されており、早期の段階から種々検討されていた(この点、控訴人代表者は、その本人尋問において、昭和63年頃から取組みを開始した旨供述し、控訴人の前代表者であるKの作成に係る陳述書(乙13)では、平成5、6年頃にはリニューアルが役員会に提案されたことがある旨記載されており、控訴人の編集部従業員であったLの作成に係る陳述書(丙6)では、平成11年頃、リニューアルが役員会に提案されたものの進展が見られなかった旨の記載がある。)。(乙1、12、13、丙6、控訴人代表者本人、弁論の全趣旨)
(イ) 他方、被控訴人においても、販売部数の減少、主要な生長の家の聖典の場合、発刊後10年前後でリニューアルが行われることが多いという状況に鑑み、控訴人に対し、「生命の實相」頭注版のリニューアルの検討を依頼するなどしていた。(甲6の1、乙12、控訴人代表者本人)
(ウ) しかしながら、「生命の實相」頭注版のリニューアルは長らく実現せず、その間、販売部数は、ピーク時の7分の1程度にまで落ち込んでいた。(甲6の1・2、乙12、控訴人代表者本人、弁論の全趣旨)
(エ) そのような中、被控訴人は、控訴人に対し、平成19年4月17日付け「質問書」(甲6の1)により、「生命の實相」の印税収入は被控訴人の公益活動を支える根幹的な基盤であるが、その印税収入は、過去20年の間に約7分の1まで減少しており、頒布部数の減少という事態を改善するため、控訴人に対し、「生命の實相」頭注版の複製・頒布の責任(本件出版使用許諾契約の約款2条)を誠実に履行することを要求するとして、控訴人が「生命の實相」頭注版のリニューアル化の明確かつ具体的な意思があるのか否かを書面で回答するよう求めた。(甲6の1)
(オ) 上記「質問書」を受け、控訴人は、被控訴人に対し、平成19年4月25日付け「回答書」(甲6の2)により、控訴人の取締役会において、「生命の實相」の文庫本化、並びに頭注版及び愛蔵版の併行発行の継続が決定された旨回答した。(甲6の2)
(カ) 被控訴人は、控訴人からの回答を受け、平成19年5月17日付け「再質問書」(甲7の1)により、控訴人に対し、@被控訴人は、「生命の實相」頭注版のリニューアル化の意思の有無を質問したものであるが、この点については何らの回答もされていないこと、A控訴人が決定したという「生命の實相」の文庫本化は、本件出版使用許諾契約で許諾されている範囲を超えるもので、文庫本の出版は著作権侵害となることを指摘した上で、控訴人における文庫本化の決定に対し抗議をするとともに、再度、「生命の實相」の頭注版のリニューアル化をする意思があるのか否かについて質問した。(甲7の1)
(キ) 控訴人は、被控訴人からの再質問に対し、平成19年5月30日付け「再回答書」(甲7の2)により、控訴人における文庫本化の決定はあくまでも控訴人内部における意思決定であり、細部を詰めた後、被控訴人や亡Aの相続人らから正式に許諾等を得る予定であることを述べるとともに、被控訴人に対し、「「生命の實相」のより一層の普及が期待される文庫版よりもなぜ「生命の實相」頭注版のリニューアル化に拘るのか」と逆に質問した。(甲7の2)
(ク) さらに、控訴人は、被控訴人に対し、平成19年6月15日付け「ご報告」(甲8)により、控訴人の取締役会において、「生命の實相」のリニューアルに関し、刊行計画の細目が決定したとして、文庫版として平成20年3月1日から刊行を開始することや刊行順を報告するとともに、現行の愛蔵版及び頭注版も併行して発行を続けることを報告した。(甲8)
(ケ) 被控訴人は、控訴人からの報告書(甲8)を受け、控訴人には「生命の實相」頭注版のリニューアル化の意思はないものと判断したとして、また、著作権者として「生命の實相」の文庫本化を了承することはできないとして、平成19年6月19日付け「通告書」(甲9の1)により、控訴人に対し、「生命の實相」頭注版及び愛蔵版(本件書籍15、16)について、本件出版使用許諾契約3条の規定により、各出版使用許諾は、現在の出版使用許諾期間の満了時(原判決別紙「出版使用許諾契約一覧表」の本件書籍15、16の各「更新拒絶通知時における直近の更新時期」欄記載の年月日)をもって終了することを通告した(本件更新拒絶1)。(甲9の1)
(コ) 控訴人は、被控訴人に対し、平成19年6月28日付け「「通告書」への回答書」(甲9の2)により、被控訴人による本件更新拒絶1は生長の家とともに行ったものではないから無効である旨の見解を示すとともに、控訴人としては、被控訴人の要請に沿い、文庫本化の企画を白紙に戻し、「生命の實相」頭注版のリニューアル化について前向きに検討したいとして、控訴人と被控訴人とが協議する場を設定することを求めた。(甲9の2)
(サ) 被控訴人は、本件更新拒絶1が無効であるとしてその効力を否定する控訴人の姿勢には著作権利用者としての真摯な反省が見られないなどとして、控訴人からの協議の申入れを拒否した。(甲10の1)
 控訴人は、被控訴人に対し、再度、本件更新拒絶1は無効であるとしつつ、「生命の實相」頭注版のリニューアル化についての協議を申し入れるなどしたが、被控訴人は、本件更新拒絶1が無効であるとの立場をとる控訴人との協議に応じることはできないなどとして、これを拒否した。(甲10の2、甲11の1・2)。
(シ) その後、被控訴人は、平成21年1月13日付け「「履行催告」兼「契約解除」の通知」(甲12の1)により、控訴人に対し、@復刻版1につき未払の印税を被控訴人に支払うこと、A復刻版1のマルC表示につき訂正のために必要な措置をとること、を催告するとともに、同書面到達後2週間以内にそれらが実行されない場合には、被控訴人と控訴人との間の本件昭和49年契約を将来に向かって解約する旨を通知した。(甲12の1)
(ス) さらに、控訴人が、被控訴人に対し、平成21年1月26日付け回答書(甲12の2)をもって、復刻版1の印税が本件確認書の作成後現在まで一貫して亡Aの相続人らに対して支払われており、被控訴人もこれを異議なく承認してきたのであるから、同書籍の著作権が被控訴人に帰属していないとの控訴人の認識は正当なものであるとして、被控訴人からの上記催告に応じることはできない旨回答し、催告に係る行為を実行しなかったことから、被控訴人は、平成21年2月4日付け「契約解除の確認及び通告書」(甲13の1)により、本件昭和49年契約が将来に向かって解約されていることを確認するとともに、「生命の實相」頭注版及び愛蔵版(本件書籍15、16)については、本件更新拒絶1に加えて、現在の使用許諾期間の満了により本件使用許諾契約が終了することを改めて通知し、本件書籍1〜14及び17〜31についても、現在の使用許諾期間の満了をもって本件出版使用許諾契約が終了することを通知した(本件更新拒絶2)。(甲12の2、13の1)
イ 復刻版の出版及び被控訴人に対する印税の未払について
(ア) 控訴人は、昭和57年5月1日から平成20年5月1日までの間、復刻版1の初版ないし19版を出版し、昭和59年3月1日から同年5月25日までの間、復刻版2の初版ないし3版を出版した。(甲29の1〜3、乙1、弁論の全趣旨)
(イ) 復刻版1の印税額は合計2820万円となり、復刻版2の印税額は1200万円となるが、控訴人は、上記印税額のうち復刻版1については1540万円を、復刻版2については1200万円を亡Aないしその相続人らに支払い、被控訴人に対しては支払わなかった。(甲25の1〜3、甲32の1〜3、甲33の1〜7、乙1、乙2、乙4、乙5、弁論の全趣旨)
(ウ) 被控訴人は、控訴人に対し、平成21年1月13日付け「「履行催告」兼「契約解除」の通知」(甲12の1)をもって、復刻版1について被控訴人が支払を受けていない印税を上記通知書の到達後2週間以内に被控訴人に対して支払うよう催告した。
 しかしながら、控訴人は、被控訴人に対し、平成21年1月26日付け回答書(甲12の2)をもって、復刻版1の印税が昭和63年3月22日付けの本件確認書の作成後現在まで一貫して亡Aの相続人らに対して支払われており、被控訴人もこれを異議なく承認してきたのであるから、同書籍の著作権が被控訴人に帰属していないとの控訴人の認識は正当なものであるとして、被控訴人からの上記催告に応じることはできない旨回答し、催告に係る行為を実行しなかった。
(甲66の1〜3、甲12の1・2、甲13の1・2、乙12)
(エ) 被控訴人は、亡Aが戦前に創作した多数の著作物の集合体としての「生命の實相」の著作権は、亡Aが被控訴人の設立者として行った寄附行為の寄附財産であって、被控訴人に帰属しているところ、被控訴人は、「生命の實相」に属する書籍をそれぞれ復刻した復刻版1及び2について、控訴人との間で本件昭和49年契約を締結したが、印税に未払があるとして、控訴人に対し、未払印税2740万円の支払等を求める訴え(前訴第1事件)を提起した。
 控訴人は、復刻版の著作権は、いずれも被控訴人に帰属しないとして、被控訴人の請求を争ったものの、前訴第1審判決がされ、これが確定した。
 前訴第1審判決は、@亡Aの寄附行為により、「生命の實相<革表紙版>」(全1巻)及び「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)の著作権が被控訴人に帰属したところ、復刻版1は「生命の實相〈革表紙版〉」(全1巻)の復刻版、復刻版2は「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)の復刻版であるから、復刻版1及び2の著作権は被控訴人に帰属すること、A復刻版1の復刻の元となった「生命の實相〈革表紙版〉」(全1巻)及び復刻版2の復刻の元となった「久遠の實在」(副題「生命の實相第2巻」)は本件昭和49年契約が対象とする著作物であることを前提に、控訴人は被控訴人に対し、本件昭和49年契約に基づき、復刻版1の印税として合計2820万円、復刻版2の印税として合計1200万円、合計4020万円の支払義務を負い、このうち、2740万円については、被控訴人に対する支払をしていないが、控訴人が、未払印税2740万円のうち復刻版1の19版(平成20年5月1日出版)の未払印税50万円分を除く2690万円について消滅時効を主張し、これを援用したことから、消滅時効の援用に係る2690万円については時効により消滅したものと認め、被控訴人の前訴第1事件の請求を、50万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容した。(乙1、2、8、弁論の全趣旨)
(オ) 結果として、被控訴人は、控訴人に対し復刻版に係る未払印税合計2740万円の債権を有していたところ、うち2690万円については、控訴人が消滅時効を援用したことから回収することができず、うち50万円については、前訴第1審判決の仮執行宣言に基づく強制執行により、これを回収した。(証人C、弁論の全趣旨)
ウ 控訴人は、本件昭和49年契約に基づいて出版した著作権者を被控訴人とする復刻版1について、被控訴人の許諾を得ずに、被控訴人の理事長を表す「理長」の文字の印影の検印が押印されていた初版の奥付を変更し、12版の奥付から、「(c) S.Taniguchi、1982」との誤った記載をし、18版及び19版の奥付において、「by Masaharu Taniguchi、Ph.D.」、「(c) Seicho Taniguchi、Emiko Taniguchi、1932」との誤った記載及び「〈検印省略〉」の記載をした。(甲29の1〜3、乙1、2、8、12、弁論の全趣旨)
(3) 控訴人の主張する事情について
ア 「生命の實相」頭注版のリニューアル問題について
 控訴人は、@控訴人、被控訴人及び生長の家は、本件書籍の編集、出版については、生長の家の管理の下で、控訴人において行うことを合意したから、控訴人が「生命の實相」頭注版を文庫本としてリニューアルすることを、生長の家との協議の下で計画することは、本件出版使用許諾契約に何ら違反するものではなく、また、A控訴人と被控訴人との間に「生命の實相」頭注版のリニューアル問題について意見の対立があったことは事実であるが、生長の家を交えた協議により妥当な結論を導くことは十分可能であったし、そもそも、控訴人は、文庫化に拘泥していたわけではなく、これに反対する被控訴人に対して改訂計画について協議を申し入れている状況にあったから、被控訴人が、控訴人との協議に応じることなく、一方的に本件出版使用許諾契約の更新を拒絶することは許されない旨主張する。
 しかしながら、前記2(2)で説示したとおり、本件出版使用許諾契約における生長の家の立場はあくまで被控訴人の代理人であること、委任状に記載された委任事項の内容及び契約書中に被控訴人の著作物に対する固有の管理権を制限ないし制約する明文の定めがないことからすると、生長の家の常任理事会や定例理事会における議決内容、本件出版使用許諾契約がこれらの議決を受けて締結されたとの経緯を理由として、被控訴人の著作物に対する固有の管理権が制限されるに至ったものと認めることはできず、また、契約書中の約款の文言を根拠として、被控訴人が本件書籍の出版その他の利用の管理の決定を行う権限を生長の家に委譲したものと解釈することも文理上困難であって、本件全証拠によるも、控訴人、被控訴人及び生長の家の三者が、本件書籍の編集、出版を生長の家の管理の下で、控訴人において行う旨の合意をしたとの事実を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
 他方、前記(2)ア認定事実によれば、控訴人は、販売部数が大きく減少する中で、本件出版使用許諾契約の対象著作物である「生命の實相」頭注版のリニューアルを長年にわたり実現させることができず、平成19年4月には、著作権者である被控訴人から強くリニューアルを求められたにもかかわらず、被控訴人の意思によらない文庫本化を提案するのみで、本件更新拒絶1がされるまで頭注版のリニューアルには応じようとしなかったこと、しかも、本件更新拒絶1がされた後は、控訴人と被控訴人との間で、本件出版使用許諾契約における生長の家の立場や著作権者たる被控訴人の権限について、見解の相違があることが明らかになったことが認められる。
 これらの事情に照らせば、被控訴人が、販売部数が大きく減少する状況等を勘案して「生命の實相」頭注版のリニューアルを要求したことが、著作権者の行為として合理性や相当性を欠くものであったとはいえないし、たとえ、控訴人が生長の家との協議に基づき「生命の實相」の文庫本化を決定したとしても、被控訴人において上記決定を受け入れる義務があったとはいえない。
 したがって、被控訴人において、本件更新拒絶1がされるまで頭注版のリニューアルに応じようとせず、しかも、本件出版使用許諾契約における生長の家の立場や著作権者たる被控訴人の権限について被控訴人とは見解を異にすることが明らかとなった控訴人との間で、更に協議や交渉を継続することなく本件更新拒絶をしたことが、信義則に違反するものであるとか、あるいは、権利の濫用にわたるとまでいうことはできない。
イ 復刻版の印税の未払問題について
(ア) 控訴人は、控訴人において、復刻版の著作権が亡Aないしその相続人らに帰属するものであると認識し、その印税について、被控訴人に対する未払はないものと判断したことには合理的かつ正当な理由があるから、被控訴人が、復刻版の印税の未払を理由として、本件出版使用許諾契約の更新を拒絶することは許されない旨主張する。
(イ) しかしながら、前記(2)イで認定したとおり、控訴人の復刻版の未払については、控訴人は被控訴人に対し復刻版の未払印税として2740万円の支払義務があったが、うち2690万円については消滅時効が完成し、未払印税50万円及び遅延損害金の支払義務があることが確定判決で認められている。
 前記3で認定したとおり、本件更新拒絶には正当な理由を必要としないことに鑑みると、控訴人に復刻版の印税の未払があったことが確定判決で認められている以上、被控訴人が本件更新拒絶を行う際に、復刻版の印税の未払を理由としたことが、信義則に反し、あるいは、権利の濫用にわたるということは困難である。
(ウ) 更に、念のため控訴人の挙げる個々の事情について検討してみても、以下のとおり、それによって本件更新拒絶が信義則に反し、権利の濫用にわたるということはできない。
a まず、復刻版の印税の未払につき正当な理由があるとして控訴人が挙げるもののうち、復刻版は「生命の實相」頭注版及び愛蔵版とは、その内容、編集、構成が異なるとの点については、そもそも被控訴人の設立に当たって寄附行為の対象とされた著作物は、「生命の實相」の題号を付して戦前に出版された10書籍の著作物に係る著作権の全てであって、頭注版や愛蔵版に限られるものではないから、仮に、上記の点を根拠として、控訴人が復刻版の著作権が被控訴人に帰属しないものと判断したのであったとしても、控訴人の独自の判断にすぎないといわざるを得ず、復刻版の印税の未払を正当化するに足る事情であるとはいえない。
b また、亡Aが生前、復刻版の印税を受領していたとの点や亡Aが死亡した後、その相続に関して作成された本件遺産目録に、亡Aの遺産として、「64 復刻版 実相」、「71 久遠の實在」が挙げられていたとの点についても、いずれも亡Aないし亡Aの相続人らの行為にすぎず、これに被控訴人が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、仮に、亡Aや亡Aの相続人らの上記行為により、控訴人が復刻版の著作権が被控訴人に帰属しないものと判断したのであったとしても、復刻版の印税の未払を正当化するに足る事情であるとはいえない。
c さらに、控訴人は、本件確認書に復刻版の書籍名が記載されなかったことは、亡Aの相続人らと被控訴人が意識的にこれらの書籍を本件確認書の対象から除外したためにほかならず、亡Aの相続人らと被控訴人は、本件確認書によって、被控訴人に著作権の帰属する「生命の實相」が頭注版と愛蔵版であることを確認したものである旨主張する。
 しかしながら、@「生命の實相」頭注版の初版は昭和37年5月5日から昭和42年1月20日までの発行、愛蔵版の初版は昭和45年10月15日から昭和48年12月15日までの発行であるにもかかわらず(乙1)、昭和63年3月22日付けで作成された覚書(甲30)には、亡Aの相続人らと被控訴人との間で同日付けで作成された本件確認書に表示された著作物である「「生命の實相」〈頭注版全四十巻〉」及び「「生命の實相」〈愛蔵版全二十巻〉」の「著作権譲渡の年月日」は、上記各初版が発行される前の被控訴人設立の日である「昭和二一年一月八日」であることが記載されていること、A本件確認書(甲3)には、本件確認書に添付された「著作物の表示」に掲記された「「生命の實相」〈頭注版全四十巻〉」及び「「生命の實相」〈愛蔵版全二十巻〉」以外の「生命の實相」の題号を付した書籍(著作物)の著作権について、亡Aの相続人らに帰属する旨の記載も、被控訴人に帰属しない旨の記載もないこと、B昭和63年4月27日にされた亡Aから被控訴人への著作権登録においては、著作権の譲渡があった「著作物の題号」を「生命の實相」、「著作物が最初に公表された年月日」を「昭和7年1月1日」とする登録がされたこと(甲69)に照らせば、本件確認書に添付された「著作物の表示」の記載を根拠に、亡Aの相続人ら(代表行使者F)及び被控訴人が、本件確認書の作成により、「「生命の實相」〈頭注版全四十巻〉」及び「「生命の實相」〈愛蔵版全二十巻〉」以外の「生命の實相」の題号を付した書籍(著作物)の著作権が亡Aの相続人らに帰属し、被控訴人に帰属しない旨を確認する意思を有していたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 なお、仮に、亡Aから被控訴人への著作権登録をする過程において、当初、本件確認書の表示に従い、「「生命の實相」〈頭注版全四十巻〉」及び「「生命の實相」〈愛蔵版全二十巻〉」それぞれについて著作権登録の申請をしようとしたところ(甲50の1〜3、甲70、71、73)、所轄する文化庁からの指摘を受けて、申請書の内容を変更した経緯があったとしても、亡Aの相続人らが結局のところ被控訴人に対して著作権の譲渡があった「著作物の題号」を「生命の實相」、「著作物が最初に公表された年月日」を「昭和7年1月1日」とする登録手続を行っていること(上記B)、その他の事情(上記@及びA)に照らせば、「生命の實相」についての著作権登録に係る上記経緯をもって、上記判断を左右するに足りないというべきである。
d 控訴人は、昭和54年7月から平成4年12月まで被控訴人の理事長であったDは、復刻版が重版されていること、並びに復刻版の印税が被控訴人ではなく亡A又はその相続人らに支払われていることを認識していたはずであるにもかかわらず、何ら異議を述べることはなかったとも指摘するが、控訴人から被控訴人に対して、復刻版を重版したことやその印税が亡A又はその相続人らに対して支払われていることを報告した上で、控訴人の上記取扱いについて、被控訴人から了承を得ていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
 控訴人の上記主張は、前提となる事実関係の詳細を明らかにしないまま、Dの認識を推認し、その推認を前提として、同人から特段の行動がなかったことを指摘するものにすぎず、仮に、控訴人の復刻版の印税の取扱いについて、当時、Dから特段の異議が述べられたことがなく、控訴人において、これを根拠に復刻版の著作権が被控訴人に帰属しないものと判断していたのだとしても、上記の点は、復刻版の印税の未払を正当化するに足る事情であるとはいえない。
e 控訴人は、同人において、復刻版の著作権が亡Aないしその相続人らに帰属するものであると認識し、被控訴人に対する復刻版の印税の未払はないものと判断したことには合理的かつ正当な理由があるとして、るる主張するものの、いずれの点をとっても、また、これらを総合考慮しても、控訴人による上記判断が、被控訴人との関係において、合理性や正当性を有するものであったとは認め難い。
f ところで、前記(2)イ及びウ認定のとおり、@控訴人は、本件出版使用許諾契約の前身である本件昭和49年契約に基づき出版した復刻版について、本件更新拒絶2がされた平成21年2月4日当時合計2740万円の印税の未払があり、被控訴人から未払印税の支払を催告されても、復刻版の著作権は被控訴人には帰属しないとの見解に立って、一切催告に応じず、Aそのため、被控訴人は、控訴人に対して未払印税2740万円の支払等を求める訴訟の提起を余儀なくされたが、同訴訟においても、控訴人は、復刻版の著作権はいずれも被控訴人に帰属しないとして、被控訴人の請求を争った上、2690万円について消滅時効を援用したことから、結果として、被控訴人は50万円については一部認容判決を得て、強制執行によりこれを回収したものの、2690万円については債権の時効消滅によりこれを回収することができず、B控訴人は、復刻版1について、被控訴人の許諾を得ずに、その奥付を変更し、被控訴人に著作権が帰属しないかのような誤った著作権表示をしたというのであり、これらの事実に照らせば、控訴人と被控訴人との間には、出版使用許諾契約の対象著作物に係る著作権の帰属という、契約の前提となる事実関係について対立があり、それに起因して、控訴人から被控訴人に対し、本件昭和49年契約に基づく基本的債務である印税の支払が長期間にわたり行われなかったり、著作権者の表示の無断変更が行われたりするに至ったものと認められる。
 これらの事情に照らせば、むしろ、本件更新拒絶2の当時、被控訴人と控訴人との間における信頼関係は既に破壊されていたものといわざるを得ないのであって、本件書籍の著作権者である被控訴人において、本件更新拒絶をしたことが、信義則に違反するものであったとか、あるいは、濫用的であったとまでいうことはできない。
ウ 控訴人は、控訴人が本件書籍を出版することができないことにより、@生長の家の文書伝道を中心とする布教活動に支障が生じる、A控訴人の出版社としての社会的信用も失墜する、B「生命の實相」は控訴人の主力商品であり、控訴人の売上げの主要な割合を占めるから、控訴人の経営に甚大な損害を与えるなどと主張するが、これらは、専ら控訴人又は生長の家に生じる事情にすぎず、これらの事情があるからといって、被控訴人による更新拒絶権の行使を信義則、あるいは、権利濫用法理により制限すべきであるとはいえない。
 また、控訴人は、本件更新拒絶は、被控訴人の設立者たる亡Aの意思に反するものとして許されない旨主張するが、仮に、被控訴人が控訴人との間の出版使用許諾契約の更新を拒絶することが、被控訴人を設立した亡Aの想定しない事態であったとしても、本件更新拒絶が信義則に反するものであるか否か、あるいは、権利濫用にわたるものであるか否かは、本件更新拒絶当時の諸事情を考慮して判断されるべきものであるから、控訴人の上記主張は採用の限りでない。
(4) 以上検討したところによれば、控訴人の挙げる点は、いずれの点をとっても、また、これらを総合考慮しても、被控訴人による本件更新拒絶が信義則に反するものである、あるいは、権利濫用にわたるものであると認めるに足りない。
 そして、本件全証拠によるも、本件更新拒絶を信義則に違反する、あるいは、権利濫用にわたるものとして無効とすべき事情があるとは認められない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
5 以上によれば、本件出版使用許諾契約は、本件更新拒絶により、いずれも終了したものと認められる。
第5 結論
 以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 富田善範
 裁判官 田中芳樹
 裁判官 柵木澄子
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日本ユニ著作権センター
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