判例全文 line
line
【事件名】警視庁向けシミュレーションソフト事件
【年月日】平成26年9月11日
 東京地裁 平成23年(ワ)第1742号、同第23290号 請負代金等請求本訴、損害賠償請求反訴事件
 (口頭弁論の終結の日 平成26年7月1日)

判決
原告・反訴被告 株式会社リンクネット(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 内田清隆
同 久保田康宏
同訴訟復代理人弁護士 渡辺数磨
被告・反訴原告 クレヨンソフト株式会社(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 木戸伸一


主文
1 被告は、原告に対し、159万2667円及びこれに対する平成22年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告の主位的請求及びその余の予備的請求並びに被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを5分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
 被告は、原告に対し、692万1857円及びこれに対する平成22年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 反訴
 原告は、被告に対し、665万5691円及びこれに対する平成23年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告から請け負ったコンピュータープログラムの開発に関し、 (1) 本訴において、原告が、被告に対し、主位的に、被告の責めに帰すべき事由により原告の債務が履行不能になったと主張して、民法536条2項前段に基づき、請負代金692万1857円(当初の請負代金304万5000円とその後の増額分387万6857円の合計額)及びこれに対する上記プログラム成果物の引渡し後である平成22年6月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に、信義則又は民法641条に基づき、出来高分の報酬相当額又は損害賠償金401万4214円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の支払を求め、(2) 反訴において、被告が、原告に対し、原告の債務の不完全履行があったと主張して、民法415条に基づき、損害金665万5691円及びこれに対する弁済期(納期)の後である平成23年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1) 原告及び被告は、いずれもコンピュータープログラムの作成などを業とする株式会社である。
(2) 原告は、平成22年1月15日、被告との間で、業務委託基本契約を締結した上、被告が原告に対して、「警視庁向けLPシミュレーションソフト」なるコンピュータープログラム(以下「本件プログラム」という。)の開発を、契約金額を304万5000円(消費税14万5000円を含む。)、納期を平成22年3月15日に被告にて受け入れテスト開始、同月31日に被告にて検収完了、代金支払方法を同年4月30日銀行振込とする内容で委託する旨の請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。これにつき作成された「個別契約書」(甲2。以下「本件契約書」という。)7条2項には、瑕疵から派生した二次的損害については、原告は保証しなくてよいものとする旨の定めがある。
 本件プログラムは、明治安田ライフプランセンター株式会社(以下「訴外会社」という。)が警察職員生活協同組合警視庁支部向けにライフプラン支援を行うためのもので、@必要保障額算出、A生涯生活設計シミュレーション、B退職金シミュレーションシステム、C年金シミュレーションシステムの4つの機能からなり、年齢、収入、家族構成など様々な項目を入力することで、本人が死亡した場合に家族にとって必要となる金員の額(必要保障額)を算出し(上記@)、今後の収入、支出の変動(生涯生活設計)のシミュレーションを行い(上記A)、退職金額を算出し(上記B)、年金の受領金額を算出し(上記C)、これらをグラフ化することなどを主な内容としていた。
(甲1、2、乙4)
(3) 原告と被告は、平成22年2月10日頃、覚書(甲10。以下「本件覚書」という。)を作成して、本件契約の納期について次のとおり変更する旨の合意(以下「本件変更合意」という。)をした。
ア 原告は、平成22年4月1日に被告に第1次動作検証版を提供し、被告は、原告の開発と平行してテストを開始する。
イ 原告は、テスト結果をもとに、同月8日に被告に第2次動作検証版を提供する。
ウ 訴外会社において、同月15日に受入れテストを開始し、原告は、その結果を受けて修正を行う。
エ 原告は、同月22日、被告に完成版のディスク又はファイル一式を納品する。
(甲10)
(4) 原告は、平成22年3月2日、被告に対し、作成した詳細設計書をメールで送信し、被告は、同月9日、原告に対し、上記詳細設計書に被告が添削、修正を加えたものをメールで送信した。
(乙13の1ないし3、乙26)
(5) 被告は、平成22年4月9日、原告に対し、計算仕様書である「ライフプランシミュレーション必要保障額計算仕様」、「ライフプランシミュレーション退職手当額計算仕様」、「ライフプランシミュレーション退職共済年金計算仕様」及び「ライフプランシミュレーション生涯生活設計計画表計算仕様」(以下、それぞれ「必要保障額計算仕様」のようにいう。)をメールで送信した。
 その後、被告は、原告に対し、同月21日に生涯生活設計計画表計算仕様の改訂版を、同月23日及び26日に必要保障額計算仕様の改訂版をそれぞれメールで送信した。
(甲6、7の1及び2、12、29、33ないし35)
(6) 被告は、平成22年4月21日、原告に対し、「LPFPシミュレーションチェックシート(警察版).xls」(以下「本件チェックシート」という。)をメールで送信し、その後、同月28日までの間に、原告に対し、複数回にわたり本件チェックシートの改訂版を送付した。
(甲17、38の2及び3)
(7) 本件プログラムは、最終的に原被告間で納期とされた平成22年4月30日の時点で未完成であり、これに必要な修正を施すには相当期間を要する状況にあった。原告は、同日をもって、本件プログラムの制作作業を中止した。
(8) 被告は、平成22年5月1日から、前日までの原告の成果物(以下「本件成果物」という。)を補充、修正する方法で本件プログラムの制作作業を行った。
(9) 原告は、平成22年5月14日付けで、被告に対し、原告は本件プログラムの制作作業を継続する意思を有しているが、この点や追加代金の清算について、被告がどのような方針で臨むのかを10日以内に回答するよう求める「請求書」を送付した。
(甲3)
(10) 被告は、原告を関与させないまま本件プログラムを完成させ、平成22年5月19日に訴外会社に本件プログラムを納品した。
(11) 平成22年10月頃、本件プログラムにバグがあることが見つかって、訴外会社がこれを修正したCD−ROMを新たに焼き直す必要が生じたため、被告は、訴外会社に対し、同社が配布したCD−ROMの修正版の制作費等合計665万5691円(制作費664万6241円及びサンプルディスク制作費9450円の合計額)を支払った。
(乙28ないし30)
2 争点
(1) 本訴
ア 原告の被告に対する請求の当否
(ア) 民法536条2項前段に基づく請求の当否(争点1)
(イ) 信義則に基づく報酬請求権の有無(争点2)
(ウ) 民法641条に基づく請求の当否(争点3)
イ 上記アが認められる場合に原告が被告に請求することのできる金員の額(争点4)
(2) 反訴
 被告の原告に対する請求の当否、すなわち、民法415条に基づく請求の当否(争点5)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(民法536条2項前段に基づく請求の当否)について
(原告)
ア 原告は、本件契約に基づき、本件プログラムを完成させて被告に引き渡す債務(以下「本件債務」という。)を負っていたが、本件プログラムは、納期とされた平成22年4月30日の時点でも完成していなかったから、原告の本件債務は履行不能になった。また、被告は、その後、原告を関与させないまま本件プログラムを完成させてこれを訴外会社に納品したから、やはり原告の本件債務は履行不能となったといえる。
イ 本件契約においては、原告が被告から指示された仕様(概要設計)に基づいて詳細設計を行い、これを基にプログラム開発、単体テスト及び結合テストを順次行って成果物を被告に提供し、被告及び訴外会社が受入れテストを行って、バグ等が見つかれば、原告がこれを修正して被告に提供するという一連の過程を経ることによって、本件プログラムを完成させることになっており、被告が仕様を確定しなければ、原告は次の工程に進むことができなかった。そうであるから、被告は、原告の制作作業が滞りなく進むよう、本件プログラムの仕様を早期に確定させ、明確な仕様が確定されていないときは、訴外会社と交渉して抜本的なリスケジュールの調整を行うべきであった。また、本件契約においては、原告が、被告の提供するチェックシートにより計算エンジンが正常に動くかどうかをテストすることになっていたが、このチェックシートが不正確であると、原告がチェックシートとプログラムのいずれが誤っているのかを調査するという本来不要な作業を余儀なくされてしまうのであるから、被告としては、訴外会社との交渉を通じて正確なチェックシートを作成し、これを早期に原告に提供すべきであった。
 しかるに、被告は、原告に対し、別紙仕様変更一覧表記載1のとおり仕様変更を繰り返した末、平成22年4月9日になってようやく最終仕様として計算仕様(甲6)を出したが、その後も同記載2のとおり仕様変更を繰り返し、訴外会社に対して抜本的なリスケジュールの申入れをすることもしなかったし、納期直前の平成22年4月28日に本件チェックシートの修正を行い、翌29日にはチェックシートが正確なものであることを前提に作業をする必要はないなどと述べて開き直るなどして、原告に協力しなかったので、原告は、本件プログラムの開発を同月30日までに完了することができなかった。また、被告は、自ら本件プログラムを完成させようとするのであれば、本件契約書8条の規定に従って本件契約を合意解除し、仕掛品の引取りについて別途合意した額の金員を原告に支払うことで原告との契約関係を終了させることができたのに、原告を関与させないまま本件プログラムを完成させ、これを訴外会社に納品してしまった。
ウ したがって、本件債務は、被告の責めに帰すべき事由により履行不能になった。
(被告)
ア 本件プログラムの仕様は、原告が平成22年3月2日に被告に送信した詳細設計書に被告が添削、修正を加えて同月9日に原告に送信したものでほぼ確定し、以下のとおり、その後大きな変更はなかった。本件債務は、履行不能になったのではなく、原告が被告に不完全なプログラムを納入してその後の業務を放棄したという債務不履行があるだけである。
(ア) 仕様変更一覧表1(1)ないし(16)について
 被告は、原告に対し、本件契約締結前に本件プログラムの基本的な仕様を示し、平成22年2月上旬頃までに画面の仕様についても示した。原被告間の別紙仕様変更一覧表1(1)ないし(16)のようなやり取りは、予め定まっている基本的な仕様の細部を確定していく作業に過ぎず、依頼内容を根本的に変更するような仕様変更には当たらない。
(イ) 仕様変更一覧表2(1)及び(2)について
a 同表2(1)について
 計算仕様(甲6)は、原告が同月2日に提出したプログラムのできが悪かったために被告が危機感を抱き、従来の仕様を訴外会社の確認を得てわかりやすくまとめ直したもので、新たな仕様を指示したものではなく、変更点も一部に過ぎない。グラフを単年型から積上型に再度仕様変更した事実もない。
 同月21日の生涯生活設計計画表計算仕様の変更は、子供の年齢計算に関する一部の仕様に過ぎず、同月17日に東京の被告事務所で作業をしていた原告スタッフ(派遣社員)Aが修正を済ませていた。
 同月23日の必要保障額計算仕様の変更は、老齢年金の計算方法に関する軽微な点のみであり、同月26日の必要保障額計算仕様の変更は、被告がその修正を反映したプログラムを原告に送付しているから、仕様変更を指示したものではない。
b 同表2(2)について
 原告主張の変更は、未熟な原告のパート作業員がプログラミングをしたためにエラーが発生し、大幅な設計変更を余儀なくされたもので、被告の都合で変更をしたものではない。
イ 本件チェックシートについて
 本件チェックシートは、一部のプログラムで使用されていたに過ぎず、本件プログラムのチェックはこれとは別のテストツールを用いて行われていたのであるから、本件チェックシートの不具合やその修正により作業が遅れた事実はない。
ウ このように、被告は、原告に対し、遅滞なく適切な内容の資料等を提供し、仕様を示し、原告が本件プログラムを開発するのに必要な役割を果たした。原告が、同月30日までに本件プログラムを完成することができなかったのは、専ら管理態勢の不備、技能不足、人員不足等、原告の能力の欠如という原告の責めに帰すべき事由によるのであって、被告の責めに帰すべき事由によるものではない。
(2) 争点2(信義則に基づく報酬請求権の有無)について
(原告)
 本件債務の履行不能は、原告の責めに帰すべき事由により生じたものではなく、被告は、原告が開発した本件プログラムの仕掛品を基に本件プログラムを完成させ、訴外会社から報酬を受領して、上記仕掛品の価値に応じた利益を得ているのであるから、原告は、被告に対し、信義則に基づき、上記仕掛品の価値に応じた報酬請求権を有する。
(被告)
 争う。
(3) 争点3(民法641条に基づく請求の当否)について
(原告)
 原告は、被告に対し、平成22年5月14日付け請求書で原告の行うべき業務について被告に指示を仰いだにもかかわらず、被告は、これを無視して本件プログラムを完成させたのであり、かかる被告の行為は、民法641条に基づき本件契約を解除する旨の意思表示と評価することができる。
(被告)
 争う。
(4) 争点4(原告が被告に請求することのできる金員の額)について
(原告)
ア 被告は、平成22年4月8日までに別紙仕様変更一覧表記載1(1)ないし(16)の各仕様変更を行い、同日以降に同記載2(1)及び(2)の各仕様変更を行い、原告は、これに応じて本件プログラムの修正をした。原告は、4月に入っても仕様面が流動的になっている異例な状況にあったことから、同月9日、被告に対し、メールで当初見積の約2倍の工数がかかる予定であること及び同日までに45人日の業務が追加になっていることを伝えて追加予算の検討を要請し、所要の追加工数に対応する相当額を当初の代金額に上乗せするよう申し込んだ。被告は、平常取引をする原告からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたのであるから、原告に対し遅滞なく諾否の通知を発すべきであったのに、諾否の通知を発しなかったから、原告の上記申込みを承諾したものとみなされる(商法509条の適用又は類推適用)。
 仮にこれが認められないとしても、本件システムの開発が被告における仕様の確定を不可欠の前提とするものである以上、本件契約締結当時、原告において、度重なる仕様変更が指示されて仕様の確定が遅延し、最終的に納期が1か月以上も延期されることになるとは予測することができず、こうした事情の変更を原告の責めに帰することはできない。原告はこれにより当初予定されていた工数の2倍超の工数を要したものであり、当初の代金額を維持することは著しく信義に反するから、原告は、被告に対し、事情変更の法理によって追加業務代金の支払を求めることができるというべきであるし、そうでなくとも商法512条に基づき相当額の支払を求めることができる。
イ 別紙仕様変更一覧表記載1(1)ないし(16)の各仕様変更に係る追加業務代金相当額は139万0108円(=45人日×3万5000円×290万円/345万円×1.05)、同記載2(1)の仕様変更に係る追加業務代金相当額は197万7043円(=64人日×3万5000円×290万円/345万円×1.05)、同記載2(2)の仕様変更に係る追加業務代金相当額は50万9706円(=16.5人日×3万5000円×290万円/345万円×1.05)となり、これらの合計額は387万6857円となる。
 したがって、原告は、被告に対し、請負代金又は損害賠償として、本件契約締結当時の代金額304万5000円と上記387万6857円の合計額である692万1857円の支払を求めることができるし、仮にこれが出来高分にとどまるとしても、仕様変更後の部分については結合テストのうち全体の4分の1程度を終えていたから、401万4214円(=304万5000円+387万6857円×1/4)の支払を求めることができる。
(被告)
 本件のようなプログラムにおいては、作業の進展に応じて仕様が確定していく部分が多く、ある程度の変更はもともと想定されているところ、被告は、原告に対し、本件契約の趣旨を逸脱するような仕様変更を指示したことはなく、追加報酬が発生するような作業の増加もなかった。
 そして、被告は、原告のメールによる代金額追加の要望を訴外会社に伝えて相談するつもりであったので、その旨を原告に伝えたが、代金額の上乗せを了承したわけではない。翌日になって原告の作業について重大なミスが発見され、プログラムの大がかりな修正が必要となることが判明したため、追加代金を支払うどころではなくなり、結局、訴外会社と相談することもなく、原告からの催促もなかった。
(5) 争点5(民法415条に基づく請求の当否)について
(被告)
ア 納期とされた平成22年4月30日の時点においても、原告は未だ多くの作業をやり残しており、また、外見上作業が完了したように見える部分についてもテストを行うと多数のエラーが発生する状態であって、プログラムは不完全なものであった。原告は、不完全なままのプログラムを被告に納入してその後の業務を放棄したから、原告には債務不履行(不完全履行)がある。
 被告は、同年5月頃、原告から納入されたプログラムの一部を利用して、不眠不休で必要なプログラムの作成、修正等の作業を行って本件プログラムを完成させ、同月19日に訴外会社に納品したところ、原告作成部分の計算プログラム中、被告がそのまま利用した日付計算専用のプログラムである「CustomDate.as」ファイルの279行目と280行目の間に必要な「retVal="";」という文字列が欠落しているというバグ(以下「本件バグ」という。)があり、コンピューターのシステム時刻の月が2桁(10月ないし12月)となる場合に生年月日等の日付がエラーとなる重大な不具合が発生することが判明したので、被告は、訴外会社に対し、665万5691円を支払い、同額の損害を受けた。
イ 本件契約書7条2項は、原告が契約の本旨に従い誠実に債務を履行し、原告側で十分にテストをした上で納品することを前提とする規定であり、本件のように、原告が債務を誠実に履行せず、十分なテストも行わないまま本件プログラムを納入した場合には適用されない。
(原告)
ア 被告が主張するプログラムの不具合が、原告の責めに帰すべき事由により生じたものであるとはいえない。仮に上記不具合が原告のミスによるものであったとしても、それは本件契約に基づいて、原被告間でテストと修正を繰り返しながら解消すべきものであった。被告が、原告からかかる修正の機会を一方的に剥奪しておきながら、原告のミスを奇貨として原告に対し責任を追及することは許されない。
イ 本件契約書7条2項は、本件プログラムをCD−ROMに焼き付けることについて原告が責任を負わない趣旨で合意されたものであるから、原告は、同項により、被告主張の損害賠償責任を負うことはない。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に、証拠(甲23、乙38、原告代表者、被告代表者のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(1) 訴外会社は、平成21年9月頃、被告に対し、本件プログラムの開発を依頼した。本件プログラムは、訴外会社が以前に別の顧客のために制作した類似のシステムを参考にしつつ、一から新たに制作する必要があったが、被告は、同年11月30日、原告に対するメールで本件プログラムの概要の説明をし、その後平成22年1月7日頃までに、「ライフプランシミュレーション構成図(案)Ver.1」など本件プログラムの構成と画面のイメージを示した図(乙2)、本件プログラムの基本構成を示す「ライフプランシミュレーション構成図(案)Ver.3」と画面イメージを具体的に示した画面説明図を含む訴外会社作成に係る2009年12月16日付け「「ライフプラン支援ソフト」開発打合せ資料」(乙4)、「ライフプランシミュレーション構成図(案)Ver.5」などを含む上記開発打合せ資料の同月22日付け改訂版(乙6)、入力するデータの項目や処理要領等を具体的に記載した「データ項目説明書【入力】(案)」(乙5)、退職金計算の方法をまとめた書面(乙7)、年金シミュレーションの計算に関連するエクセルファイルや、別の団体向けに作成された類似プログラムの「web仕様書」(甲24、乙3)を交付又はメールで送信し、原告との間でメールや面談などにより打ち合わせを行った。
(甲24、乙1ないし7、14ないし19)
(2) 原告と被告は、平成22年(以下、同年については年の記載を省略する。)1月15日、本件契約を締結した。原告が作成し被告に提出した見積書(甲22。以下「本件見積書」という。)によれば、本件契約における具体的な作業工程(各末尾括弧内の数字は工数と税抜き金額)は、(1)  システム分析(実装方法検討)(10.0人日、45万円)、(2) 概要設計(0.0人日、0円)、(3) 詳細設計(20.0人日、90万円)、(4) 製造・テスト(45.0人日、157万5000円)、(5) 結合テスト(15.0人日、52万5000円)が予定されていたが、このうち被告が(2)を行い、原告はそれ以外を行うこととされ、また(4)の作業は、@ メインメニュー(2.0人日、7万円)、A−1 計算情報入力(5.0人日、17万5000円)、A−2 退職金シミュレーション(5.0人日、17万5000円)、A−3 年金シミュレーション(5.0人日、17万5000円)、A−4 生涯生活設計シミュレーション(7.0人日、24万5000円)、B 情報BOX(0.5人日、1万7500円)、C 計算情報保存・読み込み(2.0人日、7万円)、D−1 ヘルプ画面表示(0.5人日、1万7500円)、D−2 動画再生(3.0人日、10万5000円)、D−3 帳票出力(5.0人日、17万5000円)、D−4 テスト自動化(5.0人日、17万5000円)、E−1 家計診断(計算情報入力)(2.0人日、7万円)、E−2 家計診断(診断結果表示)(3.0人日、10万5000円)に分けられ、総工数は90.0人日と見積もられていた。なお、本件見積書では、上記の合計額345万円から55万円を値引きした290万円が税抜きの請負金額とされていた。
 本件契約書7条には、原告が、本件プログラムの開発完了後といえども、その後3か月以内に開発成果に瑕疵が発見されたときは、無償にてこれを修補し、同期間経過後に発見される瑕疵については、被告の要求に応じ有償で修補するが、瑕疵から派生した二次的損害については、原告は保証しなくてよいものとする旨の定めがあり、上記二次的損害に関する定めは、万一CD−ROMの焼き直しや再配布が必要となった場合に原告がその損害賠償を免れる趣旨で定められたものであった。
 また、被告は、この頃、1月末に仕様が決定することを見込んでいて、その旨を原告に通知していた。
(甲2、16、22)
(3) 被告は、2月初め頃、原告に対し、2009年12月22日付け「「ライフプラン支援ソフト」開発打合せ資料」(乙6)に添付されていた画面説明図をより詳細にしてデザインの変更をした画面仕様書(乙8)や「データ項目説明書【入力】(案)」の改訂版(乙9)を送付した。
(乙6、8、9)
(4) 被告は、2月10日、原告に対し、必要保障額算出や年金シミュレーション、退職金シミュレーションに必要な資料のエクセル等のファイル(甲30、乙10)をメールで送信し、また、家計診断部分を除く部分の仕様や画面サイズは同月12日に確定する予定であること、家計診断部分は未確定なので開発を待機すべきこと、最終納期は4月22日となること、情報BOXについて未決定の部分は多いが、画面数と構成の決定を翌週に決定するが、コンテンツについては今後決めていくことなど、訴外会社との打合せ内容を原告に通知した。
 そして、原告と被告は、本件覚書を作成して、本件変更合意をした。
(甲10、30、乙10、21、22)
(5) 被告は、2月12日、原告に対し、「データ項目説明書【入力】(案)」の改訂版、各種シミュレーションにおける判定基準及びコメントの一覧(乙11)をメールで送信するとともに、上記判定基準及びコメントについては変更がありそうだが翌週には確定する予定である旨を通知した。
 また、原告と被告は、同日から4月6日までの間、課題管理表を作成し、原告が確認事項を記載して被告がその回答を記載するといった方法で、仕様の具体的内容等について多数回にわたり調整を行った。
(甲4、乙11、23)
(6) 被告は、2月16日、原告に対し、「必要保障額入力画面B(教育・結婚費用)」等の高校卒業後のラジオボタン選択に「就職」のボタンを、「必要保障額入力画面C(保険)」のラジオボタン選択に「なし」のボタンをそれぞれ追加するよう指示した。
(甲4)
(7) 被告は、2月17日、原告に対し、必要保障額算出に当たり、採用年月日からの数え月により遺族共済年金の額が異なることから、「必要保障額入力画面@(家族構成)」に採用年月日の項目を追加したほか、必要保障額算出において、必要保障額に住宅リフォーム予定金額を、収入金額に本人の死亡時退職金をそれぞれ加算し、また、「中高年寡婦加算」制度を必要保障額の計算に組み込むといった仕様への変更を指示した。
(甲4)
(8) 被告は、2月23日、「ライフプラン支援ソフト構成図(案)Ver.11」や画面仕様書の改訂版等を含む訴外会社作成の2月12日付け「「ライフプラン支援ソフト」開発打合せ資料」(乙12)をメールで送信し、家計診断において「世帯人数」を入力項目として追加する旨を指示したほか、3月2日頃までに背景画像ファイル等の資料をメールで送信した。上記開発打合せ資料上は、家計収支の推移グラフは年ごとに単年の収入及び支出を表示する単年型で記載されていた。
 また、被告は、同日、原告に対し、退職金シミュレーションシステムの退職手当額試算データ入力画面において、「表」、「級」及び「号給」を別々のテキストボックスに入力する形式から、「表」及び「級」についてはプルダウンから選択して1つのコンボボックスに入力する形式に変更するよう指示した。
(甲4、乙12、24、25)
(9) 被告は、3月2日、原告に対し、必要保障額算出に当たり、収入金額に含まれる配偶者の公的年金は手入力ではなく計算により算出するようにし、それに伴い画面構成も変更し、死亡時退職金の計算方法を、年金計算の上昇率を使用した算出方法で推定給与を算出し、それをベースとした退職金を算出する方法に変更し、収入増加分の考慮方法を変更し、また、年金算出処理において、賞与支給率につき「組合員種別」ではなく「退職時の職種」を入力する形式に修正し、入力の選択項目を「警視以上」、「警察官(警部以下)」及び「一般職員」から「警視以上(相当職)」、「警察官(警部以下)及び「一般職員」に変更するよう指示した。
 原告は、同日、被告に対し、それまでに被告から示された資料、指示に基づき原告が作成した詳細設計書をメールで送信した。
(甲4、乙13の1ないし3)
(10) 被告は、3月9日、原告に対し、原告から送信された詳細設計書に被告が添削、修正を加えたものをメールで送信し、これにより、本件プログラムの具体的な仕様がほぼ確定した。
(乙26)
(11) 被告は、3月10日、原告に対し、詳細設計書の補充資料をメールで送信した。
(乙27)
(12) 被告は、3月19日、原告に対し、必要保障額において、グラフは積上型とし、「シミュレーションシステム計算式_spec.pdf」のp.100の平均余命テーブルに従い本人及び配偶者の余命を取得し、その余命までの分で算出すると指示したが、同月23日には、グラフは単年型とし、必要保障額を「20100319−生涯生活設計計画表サンプル.xls」の単年で算出している部分の計算式(ただし、死亡時退職金が考慮されていないので考慮する。)で算出するよう変更を指示した。
(甲4、13、14)
(13) 被告は、3月29日、原告に対し、生涯生活設計シミュレーションシステムにおいて、本人の年収手取りを算出する際、職種により給与の上昇率が異なる問題を解決するため、「必要保障額入力画面@(家族構成)」に職種によるリストダウンを追加するよう指示した。
(甲4)
(14) 被告は、4月1日、原告に対し、必要保障額算出において、中高年寡婦加算について、「経過的寡婦加算」制度を計算式に組み込むよう指示し、遺族共済年金について、原告が2月10日に受領した仕様に基づく計算式から平成21年12月8日に受領したPDFの仕様に基づく計算式に変更し、更に平成15年法改正前後の値を算出するように変更を指示し、また、生涯生活設計シミュレーションシステムにおいて、初年度は生活費(月額)×12として計算していたのを、別途「生涯生活設計・必要保障額の収入、手取り、生活費算出0401.xls」に基づき算出するよう指示した。
 原告は、同日、被告に対し、 「製造/単体験版」(本件見積書の「(4) 製造・テスト」に該当)に関する達成率が60%であり、必要保障額算出に関するプログラム制作の達成率が0ないし50%の部分があることや家計診断に係る部分が手付かず(達成率0%)であること、全体の進捗具合が約3ないし4日遅れであること、既に仕様は凍結したものと考えているが、原告側から確認して明確となった部分もあるので、まだ原告に明確にしていない仕様がないか確認してほしいことなどをメールで伝えるとともに、「動作確認用exe」ファイル一式を被告に送信しようとしたが、画面遷移部分で不具合があるため翌日提出する旨を通知した。
(甲4、乙39の1及び2、40)
(15) 原告は、4月2日、被告に対し、同月1日分の「動作確認用exe」ファイル一式を送付したが、これは第1次動作検証版には至らないものであった。
 被告は、同日、原告に対し、必要保障額のグラフは積上型とする旨再度の変更を指示した。
(甲15、31、乙39の1及び2)
(16) 被告は、4月5日、原告に対し、同月19日に「最終・計算結果提出」とする等のスケジュールの変更を訴外会社に提案することなどを記載したメールを送信した。
(乙41の1及び2)
(17) 被告は、4月6日、上記スケジュールの変更を訴外会社に提案し、納期を同月30日とすることについて訴外会社から了承を受け、原被告間において、この頃までに、原告の最終納期を同月30日とする旨の合意が成立した。
 また、被告は、4月6日、原告に対し、年金シミュレーションシステムにおいて、夫死亡時の妻の年金取得方法につき「遺族共済年金+妻の老齢基礎年金」で計算することとし、これに伴い検証用出力項目の必要保障額の項目に「配偶者公的年金」の項目を追加するよう指示した。
(甲4、乙41の1及び2)
(18) 原告は、4月8日、被告に対し、年金シミュレーション及び退職金シミュレーションのソフト成果物(以下「4/8のリリース版」という。)を送付し、必要保障額については仕様の確定が遅れている影響で実装をしただけの状況であってテストには至っていない旨を告げた。被告がこれをテストしたところ、8点のエラーが発生したため、被告は、同日、原告にエラー内容の修正を求めるとともに、原告と、上記エラーの修正は同月30日までに行うこと及び原告の技術者が東京の被告事務所で被告の管理下において本件プログラムの制作作業をすることを合意した。
(甲26)
(19) 原告は、4月9日、被告に対し、4月に入っても仕様面が流動的になっている異例な状況で非常に苦戦しており、同月20日までの間に当初予定の倍の工数がかかる見込みであるとして、追加予算(請負代金額の追加)の検討を依頼したところ、被告は、もう少し早く言ってもらえれば仕様変更のストップや追加見積の交渉をすることができたところだが、訴外会社に一度相談してみたいので、仕様変更、追加のあった部分のリストと工数を示すよう応じたため、原告は、被告に対し、別紙仕様変更一覧表記載1(1)ないし(16)の変更により19人日追加、必要保障額算出処理の実装に20人日追加など、それまでの仕様変更の内容と追加された工数(合計45人日)を示すリストを送信した。
 被告は、同日、原告に対し、甲6の計算仕様(必要保障額計算仕様、退職手当額計算仕様、退職共済年金計算仕様及び生涯生活設計計画表計算仕様)をメールで送信したが、これにより、臨時の支出は計算する年のみ入力する、遺族基礎年金について詳細な場合分けをする、遺族共済年金を短期要件と長期要件に分ける、老齢年金は年金シミュレーション計算仕様から求める、本人の死亡退職金の算出方法を場合分けする、配偶者の年収につき初年度とn年後に分けて算出し、配偶者の私的年金につき支給期間で限定するなど、従前不明確であった仕様が明確化されたり変更が加えられたりした。
 原告は、同日、被告に対し、4/8のリリース版の修正版を送付したが、これは第1次動作検証版には至らないものであった。
(甲5、6、12、25、27、30、32)
(20) 原告従業員のB及び原告スタッフ(派遣社員)Aは、4月12日頃から、Bについては同月17日まで、Aについては同月23日まで、東京の被告事務所で本件プログラムの制作作業を行った。
(21) 被告は、4月16日、画面処理について、入力項目単位でデータを保存していたのを、一画面ごとに入力したデータを保存する方式に変更する等の仕様変更を指示した。
(22) 被告は、4月17日、Aに対し、教育費等を計算するための4月1日時点での子供の年齢について、6歳を小学1年、12歳を中学1年、15歳を高校1年などとするよう改めた生涯生活設計計画表計算仕様の改訂版(甲7の1)を交付し、Aはその変更に応じた修正を行った。
(甲7の1)
(23) 被告は、4月21日、Bに対し、前記(22)のとおり改めたことを伝えるとともに、念のためとしてその旨修正した生涯生活設計計画表計算仕様の改訂版(甲7の1)をメールで送信し、また、テスト用の「input.txt」ファイル及び訴外会社作成に係る必要保障額の計算ツール(計算エンジンが正常に動作をするかどうかを検証するための資料)である本件チェックシートをメールで送信した。原告は、これ以降、本件チェックシートを用いて本件プログラムの必要保障額に係る部分の開発を進めた。
 被告が同日に本件プログラムについて、ファイル入出力のテストをしたところ、6点のエラーが発生したため、被告は、同日、原告にその修正を依頼し、原告は、同月30日までに修正を完了することを確認した。
(甲7の1、33、38の1)
(24) 被告は、4月22日、原告に対し、本件チェックシートの改訂版である「LPFPシミュレーションチェックシート(警察版)・計画表組込版.xls」をメールで送信した。
(甲38の2)
(25) 被告は、4月23日、原告に対し、配偶者の老齢基礎年金及び老齢厚生年金の算出方法について、本人の計算ロジックを使用して年金シミュレーション計算仕様から求めるとされていたのを、老齢基礎年金については一定額とし、老齢厚生年金については特定の式により算出する等の修正を加えた必要保障額計算仕様の改訂版(甲7の2)をメールで送信した。
 被告代表者は、同日、原告代表者に対し、Aに引き続き被告事務所で作業させるよう依頼したが、原告代表者は、これを断った。
(甲7の2、34)
(26) 被告代表者は、4月25日、原告代表者に対し、原告スタッフに東京の被告事務所で制作作業を行わせるよう依頼したが、原告代表者は、これを拒絶した。被告代表者がゴールデンウィークの連休前までに本件プログラムの制作作業が終わらなかったら連休中も作業をしてもらえるか原告代表者に尋ねると、原告代表者は、連休前に終わらせるよう努力するが、終わらなかった場合は連休中も協力するとの趣旨を述べた。
 被告は、同日、訴外会社との間で、納期を同月30日から同年5月8日に変更する旨の合意をしたが、その旨を原告には伝えなかった。
(27) 被告は、4月26日、原告に対し、配偶者の老齢基礎年金及び老齢厚生年金の算出方法について、老齢基礎年金は本人の計算ロジックを使用して年金シミュレーション計算仕様から求める方法に戻し、老齢厚生年金は60歳から64歳までと65歳以上に分け、かつ、定額部分、報酬比例部分、職域加算部分及び経過的加算等を分けて計算する等の方法に変更した必要保障額計算仕様の改訂版(甲29)及び上記変更点について被告の方で修正したプログラムをメールで送信した。
(甲29、35)
(28) 被告は、4月28日、原告から提出された疑問点に対応するなどして、原告に対し、3度にわたり本件チェックシートの改訂版をメールで送信した。
(甲17、38の3)
(29) 原告は、4月29日、被告に対し、本件チェックシートの不具合が進捗遅れの原因となっているので、これ自体のテストをしてほしいことや、本件チェックシートの計算式が頻繁に変わっている現状からすると、CD7万枚を焼く本件プログラムを同月30日に納品することは困難であり、仕様を完全に凍結した上、2週間はテストを行うべき旨などを記載したメールを送信した。
 これに対し、被告は、本件チェックシートを正とせず、これは計算思想の参考程度として取り扱い、4月26日までに送付した必要保障額計算仕様を正として進めてほしい、今日はできるところまで進めることだけを考えてほしいなどと回答した。
 原告は、これを受け、実際は本件チェックシートの中の計算式をそのまま実装しているわけではなく、被告から提示されている仕様をベースとしたものを実装しており、本件チェックシートは見やすさの点で参考にしているなどとした上、いずれにしても4月30日にCDに焼けるレベルの品質は保てないとの見解は変わらないと応じた。
(甲18ないし20)
(30) 被告代表者は、4月30日、原告代表者に電話を掛けて、ゴールデンウィーク中に作業を行って同年5月6日までに完成させ、納品をするよう強く求めたが、原告代表者は、絶対に間に合わないからリスケジュールが必要であるとして、これを拒絶した。原告代表者は、同日、被告代表者に対し、同日中にテストパターン一つを通せるところまで対応して被告に提出すること、ゴールデンウィーク中は被告と訴外会社がテストを行うとのことであるから、仕様を凍結し、バグ出しを行ってほしいこと、原告はゴールデンウィーク明けにバグに対する対応を行うこと、スケジュール遅延の主たる原因は、仕様が出るのが遅すぎ、その後の仕様変更も多すぎることにあること、労務管理上、働かせすぎなのでゴールデンウィーク中は従業員らを休ませることなどを記載したメールを送信した後、しばらくの間連絡を絶ち、実際に、翌日以降は制作作業を中止した。
 この時点で原告が制作し被告に納入した本件成果物は未完成で、完成させるには相当期間を要する状況にあったが、本件見積書の作業工程の分類のうち、(3) 詳細設計、(4) 製造・テスト中の@ メインメニュー、B 情報BOX、C 計算情報保存・読み込み、D−1 その他(ヘルプ画面表示)、D−2 その他(動画再生)、D−3 その他(帳票出力)、D−4 その他(テスト自動化)、E−1 家計診断(計算情報入力)、E−2 家計診断(診断結果表示)については既に完成した状態にあり、それ以外の部分は、概ね、(4) 製造・テスト中のA−2シミュレーション(計算情報入力)、A−2 退職金シミュレーション、A−3 年金シミュレーション及びA−4 生涯生活設計シミュレーションが各10%の完成度であり、(5) 結合テストは行われていなかった。
 なお、本件成果物のうちの日付計算専用のプログラム「CustomDate.as」ファイルの279行目と280行目の間には、本件バグがあった。
(甲8、9、11、乙31ないし35)
(31) 被告は、5月1日から、本件成果物を補充、修正する方法で、本件プログラムの制作作業を行った。
(乙31ないし34)
(32) 原告は、5月6日、被告に対し、本件プログラムの制作作業の続行を申し入れたが、被告は、これを拒絶した。
(33) 原告は、5月14日、被告に対し、原告は本件プログラムの制作作業を継続する意思を有しているが、この点や追加代金の精算について、被告がどのような方針で臨むのかを10日以内に回答するよう求める「請求書」(甲3)を送付した。
(甲3)
(34) 被告は、原告を関与させないまま、最終的なテストも全て行って本件プログラムを完成させ、同月19日、訴外会社に本件プログラムを納品した。
(35) 10月頃、本件プログラムに本件バグがあることが判明し、訴外会社はこの点を修正したCD−ROMを新たに焼き直す必要が生じたため、被告は、訴外会社に対し、同社において配布したCD−ROMの修正版の制作費等合計665万5691円を支払った。
(乙28ないし30)
2 争点1(民法536条2項前段に基づく請求の当否)について
(1) 本件プログラムは、原告が4月30日に未完成のまま制作作業を中止した後、被告が本件成果物を補充、修正して完成させ、5月19日に訴外会社に納品したのであるから、原告の本件債務は、これにより、社会通念上、履行不能となったものと認められる。
 なお、原告は、4月30日の時点で本件プログラムが完成していなかったから、本件債務が履行不能になったと主張するが、本件契約の性質上、同日までに本件プログラムを完成させて被告に引き渡さなければ契約をした目的を達することができないとは認め難く、原被告間でその趣旨の合意があったとも認められないから、同日までに本件プログラムの完成、引渡しがされなかったとしても、このことから直ちに、本件債務が履行不能になったとはいえない。原告の上記主張は、採用することができない。
(2)ア 被告は、本件成果物を補充、修正して本件プログラムを完成させて訴外会社に納品したが、本来原告が行うべき作業を被告が行うことになったのは、原被告間で合意された納期である4月30日になっても本件プログラムが未完成で、完成させるには相当期間を要する状況にあったのに、原告が同日をもって本件プログラムの制作作業を中止して、その後しばらくの間連絡も絶ってしまい、訴外会社との間で合意された納期である5月8日に間に合わせるためには、被告自身が本件成果物を補充、修正して本件プログラムを完成させるほかない状態に陥ったことにある。このことに鑑みれば、本件契約に基づく原告の債務の履行不能が、被告の責めに帰すべき事由によるものであるとは認められないというべきである。
イ 原告は、被告が、仕様変更を繰り返し、4月9日に最終仕様として計算仕様(甲6)を出したが、その後も仕様変更を繰り返していながら、訴外会社に対して抜本的なリスケジュールの申入れをすることもせず、また、納期直前に本件チェックシートの修正を行うなど、原告に協力しなかったと主張する。
 しかしながら、被告が3月9日に原告から送信された詳細設計書に添削、修正を加えたもので本件プログラムの具体的な仕様はほぼ確定し、その後、変更等はされたものの、原告は、4月1日時点で全体の進捗具合が3ないし4日程度遅れていると認識していたに過ぎない。同月9日には被告から原告に計算仕様(甲6)が送付されて従前不明確であった仕様が明確化されたり、変更が加えられたりし、同月16日には画面処理におけるデータの保存方法等の変更がされたが、原告代表者尋問の結果に照らすと、原告はこれらの変更等には何とか対応していたことが窺われる。被告が同月21日にBに送付した生涯生活設計計画表計算仕様の改訂版(甲7の1)による変更部分は同月17日以降にAにより修正作業が既に行われていたし、同月23日の必要保障額計算仕様の改訂版(甲7の2)による修正部分は老齢基礎年金及び老齢厚生年金の算出に係る箇所のみの単純な変更に過ぎず、同月26日の必要保障額計算仕様の改訂版(甲29)による変更部分は被告がプログラムの修正を行っている。本件証拠に照らして、4月30日までに本件プログラムが完成しなかったことが、ひとえに被告の仕様変更等によるとは断じ難い。また、被告が訴外会社に対して抜本的なリスケジュールの申入れをしたとは認め難いが、それを行わないと4月30日の時点でその後の作業が行えなくなるというものでもない。さらに、本件チェックシートの修正があったとしても、原告は、本件チェックシートの中の計算式を実装しているわけではなく、これを見やすさの点で参考にしていたにとどまっていたというのである。
 そうすると、被告がこれらの仕様変更等を繰り返し、訴外会社に対して抜本的なリスケジュールの申入れをすることもせず、また、本件チェックシートの修正を行ったからといって、原告が4月30日の時点で本件プログラムの制作作業を中止したことがやむを得なかったとは認め難く、これらの点が、本件債務の履行不能についての被告の帰責性を基礎付けるということはできない。原告の上記主張は、採用することができない。
ウ 原告は、被告が本件契約を合意解除し、仕掛品の引取りについて別途合意した額の金員を原告に支払って原告との契約関係を終了させることができたのに、原告を関与させないまま本件プログラムを完成させこれを訴外会社に納品してしまったと主張する。
 しかしながら、証拠(甲2)によれば、本件契約書8条は、原被告間で協議をすることにより本件契約を解除することができること等を定めるものに過ぎず、原告が一方的に本件プログラムの制作作業を中止した場合に、被告が当然に本件契約の合意解除をしなければならないとはいえないのであって、この点の原告の主張も、採用することができない。
3 争点2(信義則に基づく報酬請求権の有無)について
 本件プログラムの制作作業工程は、(1) システム分析(実装方法検)、(2) 概要設計、(3) 詳細設計、(4) 製造・テスト、(5) 結合テストに分けられており、また、証拠(乙13の1ないし3、37の2)及び弁論の全趣旨によれば、本件プログラムは多数のプログラムの集合体であると認められるから、本件契約に基づき原告が行うべき業務の内容は可分であるといえる。また、被告は、本件成果物を利用して本件プログラムを完成させて訴外会社に納品したのであるから、被告は、本件成果物により利益を有するということができる。そして、出来高分の報酬を請求することが相当でないとする特段の事情は窺えないから、信義則上、原告は、被告に対し、本件プログラムの出来高分の報酬を請求することができると解するのが相当である。
4 争点3(民法641条に基づく請求の当否)について
 前記1認定の事実によれば、原告は、5月14日、被告に対し、本件プログラムの制作作業の継続等に関し回答を求める「請求書」(甲3)を送付したところ、被告は、原告を関与させないまま本件プログラムを完成させたことが認められるが、このことをもって、被告が原告に対して本件契約を解除する旨の意思表示をしたと認めることはできないし、他に被告が解除の意思表示をしたと認めるに足りる証拠はないから、この点の原告の主張は、採用することができない。
5 争点4(原告が被告に請求することのできる金員の額)について
(1) 原告は、4月9日に所要の追加工数に対応する相当額を当初の代金額に上乗せするよう申込みをし、被告が遅滞なく諾否の通知を発しなかったから、これを承諾したものとみなされると主張する。しかしながら、前記1認定の事実によれば、原告は、被告に対し、追加予算の検討を要請したにとどまるのであって、原告が上記の申込みをしたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって失当である。
 原告は、最終的に納期が1か月以上延期されることになるとは予測することができなかったし、こうした事情の変更を原告の責めに帰することはできず、当初の代金額を維持することは著しく信義に反すると主張する。しかしながら、プログラム制作請負契約において、仕様変更が行われて納期が変更されることが希有であるとは考え難いし、前述のとおり、4月30日までに本件プログラムが完成しなかったのがひとえに被告の仕様変更等によるものとも断じ難いところであり、結局、代金額の追加について原被告間で合意が成立しないまま、原告が制作作業を一方的に中止したことをも併せ考慮すると、本件契約締結当時の代金額を維持することが著しく信義に反するものとは認め難いから、この点の原告の主張も、採用することができない。
 なお、原告は、商法512条に基づき追加作業分の代金額を請求することができるとも主張するが、本件契約において、契約締結当時に予定されていた仕様と追加された仕様とを明確に区別することができないことは原告が自認するところであり、本件契約は仕事の完成を目的とする請負契約であることに照らしても、原告の上記主張を採用する余地はない。
(2) そうすると、本件契約における請負代金額は、本件契約締結当時の代金額である304万5000円(税抜きで290万円)であり、原告は、被告に対し、このうちの出来高に相当する部分を請求することができることになる。
 原告は、本件プログラムについて、前記1(30)のとおり、一部の仕事を完成させていたところ、本件契約締結の際に用いられた本件見積書は、作業工程ごとに工数と金額を定めていたから、原告が請求することができる出来高相当の報酬額は、本件見積書上の各作業工程のそれぞれの金額に完成度を乗じ、値引き分を考慮するために実際の税抜き請負金額290万円を値引き前の税抜き見積金額345万円で除したものを乗じ、最後に5%の消費税分を付加して算出するのが相当であり、その計算結果は、別紙認容額算定表のとおりである。
 したがって、原告が、被告に対し請求することができる出来高相当の報酬額は、同表「税込み合計」欄「認容額」欄記載のとおり、159万2667円となる。
(3) 原告は、結合テストの4分の3を除き、本件プログラムは完成していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はないから、採用することができない。
6 争点5(民法415条に基づく請求の当否)について
 本件成果物に本件バグがあり、被告が訴外会社に納品した完成品にも本件バグ含まれていたために、訴外会社がこれを修正したCD−ROMを新たに焼き直す必要が生じたものであるが、本件成果物は、全体として未完成であり、原告が制作した部分についてもバグの有無等について十分なテストを行う必要があって、被告もこのことを認識していたことは明らかである。そして、本件バグの発見が困難であったことを認めるに足りる証拠はないから、被告は、最終的なテストを行っていながら、本件バグを見逃したものといわざるを得ない。
 そうすると、被告が完成させた本件プログラムに本件バグが残ったのは、専ら被告の行ったテストが不十分であったためであるから、本件バグにより訴外会社がこれを修正したCD−ROMを新たに焼き直す必要が生じ、これに関して被告が出捐をしたとしても、原告がこのことについて本件契約上の責任を負うべきであるということはできない。
7 以上の次第であるから、原告の本訴請求は、主位的請求が理由がなく、原告の予備的請求が、出来高分の報酬159万2667円及びこれに対する本件成果物引渡しの後である平成22年6月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、被告の反訴請求は理由がない。
 よって、上記の限度で原告の予備的請求を認容し、原告の主位的請求及びその余の予備的請求は失当として棄却し、被告の反訴請求は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 三井大有
 裁判官 藤田壮


仕様変更一覧表
1 平成22年4月8日までの仕様変更
(1) 平成22年2月16日、必要保障額入力画面Cにおいてラジオボタン選択に「なし」のボタンを、同画面Bにおいて高校卒業後に「就職」のボタンをそれぞれ追加。
(2) 平成22年2月17日、必要保障額算出に当たり、採用年月日のからの数え月により遺族共済年金の額が異なるため、採用年月日の項目を追加。
(3) 平成22年2月17日、必要保障額算出において、本人の死亡時退職金が収入に加算される仕様に変更。
(4) 平成22年2月17日、住宅リフォーム予定金額を必要保障額に加算する仕様に変更。
(5) 平成22年2月17日、「中高齢寡婦加算」制度を必要保障額の計算に組み込む仕様に変更。
(6) 平成22年2月23日、退職金シミュレーションシステムにおいて、「表」、「級」、「号給」を別々のテキストボックスに入力する形式から、「表」及び「級」に関してプルダウンから選択してコンボボックスに入力する形式に変更。
(7) 平成22年3月2日、年金算出処理において、賞与支給率につき「組合員種別」ではなく「退職時の職種」を入力する形式に修正し、入力の選択項目を「警視以上」、「警察官(警部以下)」及び「一般職員」から「警視以上(相当職)」、「警察官(警部以下)及び「一般職員」に変更。
(8) 平成22年3月2日、必要保障額算出に当たり、配偶者の公的年金を手入力ではなく計算により算出するように変更し、それに応じて画面構成も変更。
(9) 平成22年3月2日、必要保障額算出に当たり、死亡時退職金の計算方法につき、年金計算の上昇率を使用した算出方法で推定給与を算出し、それをベースとした退職金を算出する方法に変更し、また、収入増加分の考慮方法を変更。
(10) 平成22年3月19日、退職金シミュレーションシステム及び年金シミュレーションシステムにおいて、給与の入力単位を「万円」から「円」に変更。
(11) 平成22年3月19日、必要保障額において、グラフは積上型とし、「シミュレーションシステム計算式_spec.pdf」のp.100の平均余命テーブルに従い本人及び配偶者の余命を取得し、その余命までの分で算出すると指示したが、同月23日には、グラフは単年型とし、必要保障額を「20100319−生涯生活設計計画表サンプル.xls」の単年で算出している部分の計算式(ただし、現時点では死亡時退職金が考慮されていないので考慮する。)で算出するよう変更。
(12) 平成22年3月29日、生涯生活設計シミュレーションシステムにおいて、本人の年収手取りを算出する際、職種により給与の上昇率が異なる問題を解決するため、職種によるリストダウンを追加。
(13) 平成22年3月31日、生涯生活設計シミュレーションシステムにおいて、初年度は生活費(月額)×12として計算していたのを、別途「生涯生活設計・必要保障額の収入、手取り、生活費算出0401.xls」に基づくよう変更。
(14) 平成22年4月1日、必要保障額算出において、「経過的寡婦加算」制度を計算式に組み込むよう変更。
(15) 平成22年4月1日、必要保障額算出において、原告が同年2月10日に受領した仕様に基づく計算式から平成21年12月8日に受領したPDFの仕様に基づく計算式に変更し、更に平成15年法改正前後の値を算出するように変更。
(16) 平成22年4月6日、年金シミュレーションシステムにおいて、夫死亡時の妻の年金取得方法につき「遺族共済年金+妻の老齢基礎年金」で計算するよう変更し、また、検証用出力項目の必要保障額の項目に「配偶者公的年金」の項目を追加。
2(1)ア 平成22年4月9日、必要保障額、退職手当額、退職共済年金及び生涯生活設計計画表について、計算仕様(甲6)を最終仕様書として交付し、これにより、必要保障額算出において作成されるグラフを単年型から積上型に再度仕様変更するなど従前確定した仕様を大きく変更。
イ 生涯生活設計計画表に関しては同月21日に、必要保障額に関しては同月23日に再び最終仕様(甲7の2)を交付し、同月26日には必要保障額に関して更なる最終仕様を交付し、これにより生涯生活設計計画を立てるに当たり、子供の学年を年齢から概算で計算するのではなく生年月日から正確に計算したり、必要保障額算出における配偶者厚生(共済)年金の計算で、本人の年金計算ロジックを使用せずに新たに老齢基礎年金と老齢厚生年金の計算式が決められたりするなどの変更。
(2) 平成22年4月16日、画面処理につき、入力項目単位でデータを保存していたのを、一画面ごとに入力したデータを保存する方式にする等の大幅なロジックの変更。
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/