判例全文 | ||
【事件名】ダイエット本の類似事件B 【年月日】平成26年8月29日 東京地裁 平成25年(ワ)第28860号 不正競争行為差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年6月20日) 判決 原告 A@ 同訴訟代理人弁護士 勝部環震 被告 AA(以下「被告AA」という。) 被告 株式会社宝島社(以下「被告会社」という。) 被告ら訴訟代理人弁護士 芳賀淳 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、別紙被告商品等表示目録記載の表示又は別紙被告製品目録記載の被告製品を付した、別紙被告書籍目録記載の書籍を製造し、販売し又は販売のために展示してはならない。 2 被告らは、別紙被告商品等表示目録記載の表示又は別紙被告製品目録記載の被告製品を付した、別紙被告書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。 3 被告らは、原告に対し、連帯して386万1000円及びこれに対する平成25年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告AAが著作し、被告会社が出版する別紙被告書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)の発行は、原告の著作した別紙原告書籍目録1及び別紙原告書籍目録2記載の書籍(以下、それぞれ「原告書籍1」、「原告書籍2」といい、合わせて「原告書籍」という。)の著名な商品等表示を冒用するものであると主張して、被告らに対し、不正競争防止法2条1項2号、3条に基づき、被告書籍の製造、販売及び販売のための展示の差止め並びに廃棄を求めるとともに、不正競争防止法4条、5条1項に基づき、損害賠償金386万1000円及びこれに対する不法行為日の後の日である平成25年5月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等を付した以外の事実は争いがない。) (1) 原告書籍 原告は、カイロプラクターであり、別紙原告製品目録記載1の「Chihiroバンド」と称するゴム製バンド(以下「原告バンド1」という。)を使用したダイエット法に関する原告書籍1「バンド1本でやせる!巻くだけダイエット」及び同目録記載2の「スーパーChihiroバンド」と称するゴム製バンド(以下「原告バンド2」といい、原告バンド1と合わせて「原告バンド」という。)を使用したダイエット法に関する原告書籍2「スーパーChihiroバンド 巻くだけダイエット」を著作し、原告書籍1については平成21年6月25日に、原告書籍2については平成22年3月10日に、それぞれ株式会社幻冬舎(以下「幻冬舎」という。)から出版した。 原告書籍1には、別紙原告商品等表示目録1記載の表示があり、原告書籍2には、別紙原告商品等表示目録2記載の表示がある。 原告書籍1、2の末尾(奥書の次の頁をめくった部分)には、それぞれ原告バンド1、2が折り畳んだ状態で付録として添付されている。(以上につき、甲1、2) (2) 被告書籍 被告AAは、AA内科診療所の所長を務める内科医師であり、別紙被告製品目録記載のバンド(以下「被告バンド」という。)を使用したダイエット法に関する被告書籍「お腹が凹む!巻くだけダイエット」を著作し、被告会社から、平成25年4月22日に出版した(奥付の第1刷の表示は平成25年5月18日。甲4、8)。 被告書籍には、別紙被告商品等表示目録記載の表示がある。 被告書籍の末尾(奥書の次の頁をめくった部分)には、被告バンドが折り畳んだ状態で付録として添付されている(甲4)。 3 争点 (1) 「巻くだけダイエット」の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)の成否(争点1) (2) 折り畳んだバンドを添付する形態の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)の成否(争点2) (3) 差止め・廃棄の必要性(争点3) (4) 損害(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(「巻くだけダイエット」の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)の成否)について (原告の主張) (1) 商品等表示への該当性 ア 原告の「巻くだけダイエット」 「巻くだけダイエット」(別紙原告商品等表示目録1の1)は、原告書籍1の題号の主要部を成す表示であり、大きな字で原告書籍1の表紙のカバー(同目録1の2)や中表紙(同目録1の3)などに表示している(甲1)。 また、「巻くだけダイエット」(別紙原告商品等表示目録2の1)は、原告書籍2の題号の主要部を成す表示であり、大きな字で原告書籍2の表紙のカバー(同目録2の2)や中表紙(同目録2の3)などに表示している(甲2)。 なお、原告は、「巻くだけダイエット」を、平成25年7月13日発行の「巻くだけ骨呼吸ダイエット」と題する書籍(甲3)においても、題号の主要部として、大きな字で表紙のカバーや中表紙などに表示している。 「巻くだけダイエット」は、原告が考案したダイエット方法の名称でもある。原告は、以下に述べるとおり、「巻くだけダイエット」を、原告が開催するセミナー、原告が主宰する「健康キレイ塾」、及び数々のメディア出演時において、原告が一般女性等を対象に指導ないし実演を行う際のスローガン、又は、指導・実演内容を端的に示す広告文言としても一貫して使用してきた。 例えば、テレビ番組においては、平成21年9月18日及び同年10月23日放送のTBSの「中居正広の金スマ」、同月31日放送の日本テレビの「メレンゲの気持ち」、平成22年1月17日放送のテレビ東京の「ソロモン流」などにおいて、「巻くだけダイエット」の名の下に、原告が考案したダイエット方法の解説、芸能タレントや一般女性に対する原告の指導の様子などが放送された。 以上のとおり、「巻くだけダイエット」は、原告書籍をはじめとする原告の著作物を端的に表すものであり、また、原告の事業を表示するものであって、他人の商品(書籍)や他人の事業と区別するための表示であるから、原告の商品等表示に当たる。 イ 被告らの「巻くだけダイエット」 「巻くだけダイエット」は、被告書籍の題号の主要部を成す表示であり、被告らは、これを大きな字で被告書籍の表紙(別紙被告商品等表示目録の2)や目次(同目録の3)などに表示している(甲4)。かかる表示は、被告書籍を表し、他人の商品(書籍)と区別するために付されたものであるから、被告らの商品等表示に当たる。 (2) 著名性 被告書籍が発行された平成25年5月当時、原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」は、日本全国に知れ渡り、著名となっていた。 すなわち、原告が「中居正広の金スマ」などの全国放送のテレビ番組に出演して「巻くだけダイエット」を実演したこと、原告書籍1が、発行から約6ヵ月後の平成21年12月時点で累計約45万部という記録的な売上部数となっていたこと(甲5)、被告書籍が発行された平成25年5月時点では、原告書籍は合わせて累計約207万部にまで売上部数を伸ばしていたこと(甲6、7)から、原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」が、日本全国の需要者に広く認識されていたことは明らかである。 上記に加え、原告が平成22年3月29日に大阪の有名ホテルで「A@の巻くだけダイエットセミナー」と題するセミナーを開催したこと(甲13)、同年5月21日に横浜の有名ホテルで「A@ 巻くだけダイエットセミナー」と題するセミナーを開催したこと(甲14)、同年7月に渋谷の美容専門学校で「巻くだけダイエット」のダイエット法についてのセミナーを実施したこと(甲15)、同年10月18日以降、「A@の健康キレイ塾」と題する携帯電話向け(NTTドコモ、au、ソフトバンク)のウェブサイトを立ち上げ、「巻くだけダイエット」のダイエット法について情報配信をしたこと(甲16)、平成22年当時、原告が毎月1回「A@の健康キレイ塾」と称する一般人向けのセミナーを六本木ヒルズで開催し、その中で「巻くだけダイエット」のダイエット法を紹介していたこと(甲16)、現在においても、著名な通信販売サイトであるディノスにおいて、「巻くだけダイエット」の内容が紹介されていること(甲17)などから、原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」に著名性が認められることは明らかである。 (3) 同一性・類似性 原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」と被告らの商品等表示である「巻くだけダイエット」とは、称呼が同一である。外観についても、被告らの商品等表示にデザインは格別施されておらず、同一である。 観念についても、それらを見たときに需要者が思い浮かべる意味内容は、同一か、少なくとも類似している。 したがって、両者は同一又は類似する。 (4) 使用等 被告らは、原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」と同一の「巻くだけダイエット」という表示を被告書籍の表紙(別紙被告商品等表示目録の2)や目次(同目録の3)などに表示して被告書籍の販売を行っている(甲4)。原告の商品等表示の「使用」及び「譲渡」に当たる。 (被告らの主張) (1) 商品等表示への該当性 ア 原告の「巻くだけダイエット」 原告書籍に「巻くだけダイエット」の記載があることは認め、それが題号の主要部であるか否かは不知、主張は争う。 イ 被告らの「巻くだけダイエット」 被告書籍の題号中に「巻くだけダイエット」の記載があることは認め、主張は争う。 被告書籍の題号中の「巻くだけダイエット」の記載は、書籍の内容・特徴等を表示するために用いられたにすぎない。 (2) 著名性 原告書籍が販売されたこと、原告がテレビ出演したことがあることは認め、「巻くだけダイエット」の表示が原告の商品等表示として著名になったとの主張は争う。 ア 「巻くだけダイエット」を題号に用いた書籍がテレビ等で話題になったのは、原告書籍が初めではない。 平成15年12月10日発行の「松永式テープ巻くだけダイエット!」 (松永みち子監修、株式会社芸文社。乙9。以下「乙9書籍」という。)でも同様のことが起きている。 乙9書籍は、「テープ」となっているものの、帯状の物体を巻くことによって、ダイエットをするという意味では原告書籍と同趣旨である。 そして、乙9書籍の表紙の右上の丸囲みでは「各テレビ番組で放映されて大反響!」「世界痛快伝説!!運命のダダダダーン」「あったか生活!秘伝!カテイの魔法」「午後は○○おもいっきりテレビ」に出演したとしている。 原告主張と同様であるところ、原告は乙9書籍にかかる「巻くだけダイエット」の著名性は認めないであろう。それは自己否定を意味する。 イ 仮に、平成21年秋以降に「著名」になったものがあるとしても、それは、「バンドを利用したダイエット方法」であって、「巻くだけダイエット」という書籍の題号が著名になったわけではない。 すなわち、平成21年秋以前、あるいはそれ以降翌年春にかけて、原告書籍1以外にも、たとえば以下のようなバンド(帯状の物)によるダイエット関係の書籍が出版されており、バンドを用いたダイエット本がブーム的になっていた。 @松永式テープ巻くだけダイエット!(松永みち子監修、株式会社芸文社、平成15年12月10日発行。乙9書籍) Aセラバンド・エクササイズ(坂詰真二著、株式会社講談社、平成19年7月9日第1刷発行。乙8。以下「乙8書籍」という。) Bバンテージダイエット(清水ろっかん著、フォレスト出版株式会社、平成21年9月17日初版発行。乙10) C巻くだけでやせる!(大口浩司著、株式会社日本文芸社、平成21年12月18日発売。乙11の1・2) D腰痛・肩こり・ひざ痛 巻くだけで痛みをとる!(大口浩司著、株式会社日本文芸社、平成22年3月発売。乙12の1・2) これらのバンドによるダイエット関係の書籍が数多く出版されたことから、バンドを利用したダイエット方法が話題になったのであり、原告書籍の題号が著名になったわけではない。 (3) 同一性・類似性 被告書籍の題号は、「お腹が凹む!巻くだけダイエット」であり、称呼、観念及び外観は同一でない。被告書籍は被告AAが長年にわたって提唱してきた「腹凹ダイエット」に関する書籍であり、題号の要部は「お腹が凹む!」にある。 被告書籍には「巻くだけ」という題号が使用されているとはいえ、被告AAが被告書籍で提唱するダイエットは、文字通りベルトを腹部に巻くことだけで痩身効果を得ようとする手法ではなく、基本的にはお腹を「ペコポコ」と動かしながらウォーキング等をする「腹凹ダイエット」であり、ベルトは「効果UP」のために使用するものにすぎないものであることが需要者において容易に理解可能である。したがって、原告書籍の「巻くだけダイエット」の観念と被告書籍のそれは類似していない。 以上からすると、被告らの商品等表示と原告のそれが「同一若しくは類似」しているといえない。 (4) 使用等 被告書籍の題号中に「巻くだけダイエット」との記載があることは、不正競争防止法2条1項2号の「使用」には該当しない。 被告書籍の題号中の「巻くだけダイエット」との記載が被告書籍の内容を叙述したものであり、被告書籍に接した読者がその題号を「腹凹ダイエットを実践する方法としてベルトを巻く内容を示すもの」と理解することに争いはない。 したがって、被告書籍の題号中の「巻くだけダイエット」との記載は、その表示の態様からみて、専ら、商品の内容・特徴等を叙述、表現するために用いられたにすぎず、他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用したと評価することはできない。 2 争点2(折り畳んだバンドを添付する形態の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)の成否)について (原告の主張) (1) 折り畳んだバンドを書籍の末尾に付録として添付した状態の、原告書籍の外部的及び内部的形状(甲1)は、顕著な特徴を有していることから原告の商品等表示に該当し、原告書籍がベストセラーとなるに従って原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになり、著名となったことから、不正競争防止法2条1項2号によって保護の対象となる。 (2) 被告らは、被告書籍の末尾に折り畳んだバンドを付録として添付することにより、原告の上記商品等表示と類似のものを使用し、その商品等表示を使用した商品を譲渡した。 (被告らの主張) (1) 被告書籍にもバンド(ただしゴム製ではなくポリエステル製である。)が添付されていることは認め、主張は争う。 原告書籍と被告書籍の形態は異なる。 すなわち、原告書籍はA5版であるのに対し、被告書籍はB5版である。 添付方法は、原告書籍は、書籍の見返しに、バンド在中のビニール袋を糊で添付しているのに対し、被告書籍は、本文最終頁に、書籍のサイズに近い大きさのダンボールを添付し、それの中央部分に穴をあけて、そこにバンド在中のビニール袋を入れている。 バンドの形態は、原告書籍の添付物は、素材は天然ゴムであり、サイズは原告書籍1は長さ150cm×幅12cmで、原告書籍2は長さ180cm×幅12cmである。 これに対し、被告書籍のバンドは、素材はポリエステル・ポリプロピレン・ラバー(面ファスナー付き)であり、サイズは長さ95cm×幅約11cmである。面ファスナーは腹に巻く際に長さを調節できるようにするためであり、原告書籍の添付物には存在しない。 (2) そもそも「書籍の末尾(裏表紙の内側)に折り畳んだバンドを付録として添付するという商品形態」なるものは、特に独自性もなく、商品等表示性が認められない。 (3) 原告書籍1は、平成21年6月25日発行であるところ、それから約2年前の乙8書籍「セラバンド・エクササイズ」(平成19年7月9日第1刷発行)は、やはりバンドを使用したダイエットの本であるところ、書籍にバンドを添付する原告書籍、被告書籍と同様の形態を有している。原告書籍は、いわばその形態を模倣したものである。 「原告書籍の外部的及び内部的形状」が著名となったなどという事実は存在しない。 3 争点3(差止め・廃棄の必要性)について (原告の主張) (1) 被告らは、平成25年4月22日以降(甲8)、被告書籍の表紙や目次に別紙被告商品等表示目録記載の表示を付し、また、別紙被告製品目録記載の被告製品(被告バンド)を付した状態で、被告書籍を日本全国の書店やインターネット上の店舗などで販売し続けている。これにより、原告は、原告書籍に係る営業上の利益を侵害され続けている。 また、被告らが、今後も上記状態の被告書籍を増刷ないし販売し続けることにより、原告に対する侵害行為を継続することは確実である。そうすると、原告は、原告書籍に係る営業上の利益を将来も侵害され続けることになる。 したがって、原告において、被告らが上記状態で被告書籍を製造し、販売し、又は販売のために展示することを差し止める必要性がある。 (2) 被告会社は、書店などに納入して小売販売をするための在庫として、前記状態の被告書籍を所有し占有している。それらは、全て原告に対する侵害行為を組成するものであるから、廃棄されなければならない。 また、被告AAが開設しているAA内科診療所においても、受診する患者などに販売するため、被告書籍を所有し占有しているものと考えられる。それらの被告書籍も、全て原告に対する侵害行為を組成するものであるから、廃棄されなければならない。 (被告らの主張) 争う。 4 争点4(損害)について (原告の主張) (1) 被告らは、原告書籍の売上が伸びていることを認識した上で、原告書籍と同一又は類似の商品等表示を使用して被告書籍を販売しているものと思われる。被告らのかかる行為は、原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」が有する顧客吸引力にいわばフリーライドすることにより、被告らの営業上の利益を得ようとするものであって、被告らには原告の営業上の利益の侵害につき故意があり、少なくとも過失がある。 (2) 被告書籍は、少なくとも1万部発行され、完売したものと考えられる。 原告は、被告らの侵害行為がなかったならば、原告書籍を上記の数量販売することができ、1冊当たり351円(原告書籍1につき1冊当たり273円、原告書籍2につき1冊当たり430.5円の平均値)の利益を得ることができたから、原告の損害額は、不正競争防止法5条1項により、1万部に351円を乗じた351万円と推定され、この額は原告の販売能力に応じた額を超えるものではない。 (3) 本訴を提起し追行するために原告が支出を余儀なくされる弁護士費用のうち、被告らの行為と相当因果関係のある費用は、損害賠償額の1割に相当する35万1000円を下らない。 (4) よって、原告は、被告らに対し、連帯して、上記(2)(3)の合計386万1000円及びこれに対する不法行為日の後の日である平成25年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による損害賠償の支払を求める。 (被告らの主張) 争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(「巻くだけダイエット」の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)の成否)について (1) 「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい(不正競争防止法2条1項1号)、自他識別力又は出所表示機能を有するものでなければならないと解される。 書籍の題号は、普通は、出所の識別表示として用いられるものではなく、その書籍の内容を表示するものとして用いられるものである。そして、需要者も、普通の場合は、書籍の題号を、その書籍の内容を表示するものとして認識するが、出所の識別表示としては認識しないものと解される。 もっとも、書籍の題号として用いられている表示であっても、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は営業であることを認識することができるような自他識別力又は出所識別機能を備えるに至ったと認められるような特段の事情がある場合については、商品等表示性を認めることができることもあり得ると解される(大阪高裁平成20年(ネ)第1700号・同年10月8日判決[「時効の管理」事件]参照)。 (2) 原告による「巻くだけダイエット」の使用について これを本件についてみると、証拠によれば、原告書籍が出版される前から、「巻くだけダイエット」を題号に用いた乙9書籍「松永式テープ巻くだけダイエット!」(平成15年12月10日発行)が出版されており、同書籍には同題号に付記する形で「各テレビ番組で放映され大反響!」などの記載があること(乙9)、原告は、平成21年6月25日発行の原告書籍1「バンド1本でやせる! 巻くだけダイエット」を幻冬舎から発行し、題号の主要部として「巻くだけダイエット」の表示を使用し(甲1)、原告書籍1は、平成21年中に45万6874部の売上を記録し(甲5)、平成25年5月30日までには累計180万7000部を発行したこと(甲6)、平成22年3月10日発行の原告書籍2「スーパーChihiroバンド 巻くだけダイエット」を幻冬舎から発行し、題号の主要部として「巻くだけダイエット」の表示を使用したこと(甲2)、原告書籍2は、平成25年5月1日までに累計27万部を発行したこと(甲7)、原告書籍の帯に「日本テレビ系「人生が変わる1分間の深イイ話」で大反響!」との記載があること(甲1、2)、平成22年3月29日、大阪新阪急ホテルで「A@の巻くだけダイエットセミナー」と題するセミナーを開催したこと(甲13)、平成22年5月21日、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズで「A@ 巻くだけダイエットセミナー」と題するセミナーを開催したこと(甲14)、平成22年7月に渋谷の美容専門学校で特別ゲスト講師として「巻くだけダイエット」のダイエット法についてのセミナーを実施したこと(甲15)、平成22年10月18日以降、「A@の健康キレイ塾」と題する携帯電話向け(NTTドコモ、au、ソフトバンク)のウェブサイトを立ち上げ、ダイエット法について情報配信をしたこと(甲16。なお、甲16からは、原告がそのウェブサイトで「巻くだけダイエット」という表示を使用したか否かは読み取れない。)、平成22年当時、原告が毎月1回「A@の健康キレイ塾」と称するセミナーを六本木ヒルズで開催していたこと(甲16。なお、甲16からは、原告がそのセミナーで「巻くだけダイエット」という表示を使用したか否かは読み取れない。)、平成26年5月13日当時、オンラインショッピングサイト「dinos」に、原告が監修する「話題沸騰! “巻くだけダイエット”にチャレンジ!」と題するウェブページが設けられ、原告が考案したダイエット法として「巻くだけダイエット」の内容が紹介されていること(甲17)が認められる。 原告がテレビ出演したことがあることは争いがなく(答弁書2頁)、弁論の全趣旨により、原告が平成21年9月18日及び同年10月23日放送のTBSの「中居正広の金スマ」、同月31日放送の日本テレビの「メレンゲの気持ち」、平成22年1月17日放送のテレビ東京の「ソロモン流」などに出演し、原告の考案したダイエット法「巻くだけダイエット」を紹介したことまでは認められるとしても、その中で「巻くだけダイエット」という表示がどのように使用されたかまで認めるに足りる証拠はない。 なお、原告は、被告書籍発行後の平成25年7月13日、「巻くだけ骨呼吸ダイエット」と題する書籍を株式会社学研パブリッシングから発行した(甲3)。 (3) 以上によれば、被告書籍発行(平成25年4月22日)時点で、原告書籍1は累計180万7000部、原告書籍2は27万部の合計207万7000部が発行され、その題号の主要部として「巻くだけダイエット」の表示が使用されていたところ、原告書籍の題号に接した需要者は、「巻くだけダイエット」という表示は、バンドを「巻くだけ」の「ダイエット」であるという原告書籍の内容を表現したものと認識するにすぎず、それ以上に、同表示を書籍という商品に関して原告を示す商品等表示と認識するものと認めるべき特段の事情があるということはできず、他に「巻くだけダイエット」という表示が、書籍という商品に関して自他識別性又は出所識別機能を備え、商品等表示性を獲得したと認めるに足りる証拠はない。 (4) 原告が、原告書籍を発行した他に、大阪や横浜で「巻くだけダイエット」という表示を使用してダイエットに関するセミナーを開催し、「ダイエットに関するセミナー」の営業表示として「巻くだけダイエット」を使用していたとしても、そのことをもって、直ちに「巻くだけダイエット」という表示が原告を表示するものとして需要者の間に広く知られていたとは認められず、ましてや需要者の間で著名であったなどとは到底認められない。 (5) 以上によれば、「巻くだけダイエット」という表示が原告の商品等表示として著名であったとは認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告書籍において原告の著名な商品等表示が冒用されたとは認められない。 2 争点2(折り畳んだバンドを添付する形態の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)の成否)について (1) 商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、「商品等表示」に該当するためには、@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である(知財高裁平成24年12月26日判決・判時2178号99頁[眼鏡型ルーペ事件])。 (2) これを本件についてみると、ダイエットに使用するバンドを折り畳んだ状態でダイエット本の付録として添付するという書籍の形態は、原告書籍1の発行(平成21年6月25日)前に発行された乙8書籍(平成19年7月9日発行)にも見られた形態である。 原告書籍、被告書籍のバンドが書籍の末尾(奥書の次の頁をめくった部分)に添付されているのに対して、乙8書籍のバンドは第1章と第2章の間(23頁をめくった部分)に添付されているが、これを末尾に持ってきたからといって、原告書籍の上記形態が、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているもの(特別顕著性)とは認められない。 また、原告書籍は、被告書籍の発行時点で合計207万7000部の売上があったが、原告書籍の上記形態が、原告という出所を表示するものとして周知になっていた(周知性)とも認められない。 (3) そうすると、折り畳んだバンドを付録として添付した原告書籍の形態が原告の商品等表示であるとは認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告書籍が原告の著名な商品等表示を冒用したとは認められない。 3 結論 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。 よって、主文のとおり判断する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 鈴木千帆 裁判官 西村康夫 |
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