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【事件名】ダイエット本の類似事件 【年月日】平成26年8月29日 東京地裁 平成25年(ワ)第28859号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年6月18日) 判決 原告 A@ 同訴訟代理人弁護士 勝部環震 被告 AA(以下「被告AA」という。) 被告 株式会社日本文芸社(以下「被告会社」という。) 被告ら訴訟代理人弁護士 渡辺春己 同 原田伸 同 阿部豊 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、別紙被告書籍目録1及び2記載の書籍(以下、それぞれ「被告書籍1」、「被告書籍2」といい、合わせて「被告書籍」という。)を複製し、頒布してはならない。 2 被告らは、被告書籍を製造し、販売し又は販売のために展示してはならない。 3 被告らは、被告書籍を廃棄せよ。 4 被告らは、原告に対し、連帯して4546万8122円及びこれに対する平成22年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告AAが著作し、被告会社が出版する被告書籍の発行は、原告の著作した別紙原告著作物目録記載の書籍(以下「原告書籍」という。)の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害し、又は不正競争防止法2条1項1号若しくは2号の不正競争に当たると主張して、被告らに対し、@原告書籍に係る複製権、翻案権、同一性保持権又は氏名表示権(著作権法21条、27条、20条1項、19条1項、112条1項)に基づき、被告書籍の複製及び頒布の差止め、A不正競争防止法2条1項1号、2号、3条1項に基づき、被告書籍の製造、販売、販売のための展示の差止め、B著作権法112条2項又は不正競争防止法3条2項に基づき、被告書籍の廃棄、C民法709条、719条、著作権法114条1項、不正競争防止法4条、5条1項に基づき、損害賠償金4546万8122円及びこれに対する不法行為開始後の日である平成22年4月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を、それぞれ求める事案である。 2 前提事実(証拠等を付した以外の事実は争いがない。) (1) 原告書籍 原告は、カイロプラクターであり、別紙原告製品目録記載の「Chihiroバンド」と称するゴム製バンド(以下「原告バンド」という。)を使用したダイエット法に関する「バンド1本でやせる!巻くだけダイエット」と題する原告書籍を著作し、平成21年6月25日、株式会社幻冬舎(以下「幻冬舎」という。)から出版した。 原告書籍には、別紙対比表の「原告書籍1」欄記載の記述、写真及び図があり、別紙原告商品等表示目録記載1〜3の表示がある。 原告書籍の末尾(奥書の次の頁をめくった部分)には、原告バンドが折り畳んだ状態で付録として添付されている。(以上につき、甲1) (2) 被告書籍 被告AAは、鍼灸院・整骨院の院長であり、別紙被告製品目録記載のゴム製バンド(以下「被告バンド」という。)を使用したダイエット法・疼痛改善法に関する被告書籍を著作し、被告会社から、被告書籍1については平成21年12月25日に、被告書籍2については平成22年3月25日に出版した。 被告書籍1には、別紙対比表の「被告書籍1」欄記載の記述、写真及び図があり、別紙被告商品等表示目録1記載1〜3の表示がある。 被告書籍2には、別紙対比表の「被告書籍2」欄記載の記述、写真及び図があり、別紙被告商品等表示目録2記載1〜3の表示がある。 被告書籍の末尾(奥書の次の頁をめくった部分)には、被告バンドが折り畳んだ状態で付録として添付されている。 3 争点 (1) 著作権・著作者人格権侵害の成否(争点1) (2) 不正競争の成否(争点2) (3) 差止め・廃棄の必要性(争点3) (4) 損害(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(著作権・著作者人格権侵害の成否)について (原告の主張) (1) 表紙画像(別紙対比表No.1)について ア 原告書籍の表紙のカバーには、上半身が裸で下半身に白色の着衣をつけている女性モデル(向かって左側に若干身体を向けているように見える後ろ姿)の背部から臀部にかけて、その身体に原告バンドを巻き付けている状態の写真が表示されている。そして、その写真の上半分に重なるようにして、題号の主要部分である「巻くだけダイエット」という大きな文字が、「巻くだけ」の直下に「ダイエット」を同一の幅で表示するという態様で印刷されている。 このような女性モデルの写真と題号とが一体として表示された画像(以下「表紙画像」という。)又は女性モデルの写真は、撮影対象の選択、組合せ、配置、背景などにおいて、原告が創作的な表現をすることにより制作されたものである。 そのため、原告書籍の表紙画像又は女性モデルの写真は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術若しくは美術の範囲に属する著作物であり、少なくとも、原告書籍という著作物の一部を構成するものとして著作物性が認められる。 イ 被告書籍の表紙のカバーは、いずれも原告書籍の表紙画像又は女性モデルの写真と酷似している。これは、原告書籍の表紙のカバーに依拠して、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製しているか、少なくとも、原告書籍の表紙のカバーに若干の変更を加えただけで、その表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものである。 ウ したがって、被告書籍の表紙のカバーは、原告書籍の表紙のカバーについての原告の複製権(著作権法21条)又は翻案権(同法27条)を侵害するものである。 (2) 付録のゴムバンドの巻き方(別紙対比表No.2〜7)について ア 原告書籍では、骨盤巻き(38頁)、たすきがけ巻き(42頁)、ふくらはぎ巻き(64頁)、太もも巻き(65頁)、片ひざに巻く方法(66頁)、両ひざに巻く方法(68頁)、ヘアバンド巻き(82頁)の7種類の原告バンドの巻き方が解説されている。原告書籍は、筋肉を刺激し骨盤を矯正することにより、減量・痩身効果を得られ、また腰痛・肩こり・O脚・生理痛などを改善できること、及び、原告の考案したダイエット方法・疼痛改善方法(付録のゴムバンドの身体の各部位への巻き方及び持ち方、並びに、当該バンドを使用したエクササイズの方法)につき、カイロプラクティックや整体に関する専門的知識を持たない一般人が理解できるように、平易な言葉で、視覚的にも分かりやすく、モデル女性の写真や図を用いながら解説するという点にその本質的特徴がある。付録のゴムバンドの巻き方についての記述・写真・図は、かかるダイエット方法・疼痛改善方法を実践するにあたっての基本となるものであり、原告書籍の本質的特徴の中心をなす部分である。 イ 被告書籍1では、骨盤巻き(20頁)、おなか巻き(22頁)、腕巻き(24頁)、太もも巻き(26頁)、ひざ巻き(28頁)、ふくらはぎ巻き(30頁)、背中8の字巻き(32頁)、両ひざ巻き(50頁、52頁、64頁)の8種類の被告バンドの巻き方が解説されている。そのうち6種類は、別紙対比表No.2〜7のとおり、原告書籍で原告が解説しているものと共通している。したがって、被告書籍1の別紙対比表No.2〜7の部分は、原告書籍に依拠して、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製した書籍であり、原告書籍に係る原告の複製権を侵害するものである。 仮にその全部又は一部が複製権の侵害には当たらないとしても、原告書籍に依拠して、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原告書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物であるから、原告書籍に係る原告の翻案権を侵害するものである。 ウ 被告書籍2では、背中巻き(22頁)、骨盤巻き(24頁)、ひざ巻き(30頁)、頭巻き(38頁)の合計4種類が解説されている。そのうち3種類は、別紙対比表No.2、3、6のとおり、原告書籍で原告が解説しているものと共通している。したがって、被告書籍2も、原告書籍に係る原告の複製権又は翻案権を侵害するものである。 (3) エクササイズの方法(別紙対比表No.8〜14)について ア 原告書籍では、58頁から89頁までに、原告が考案した16種類のエクササイズ方法が、モデル女性の写真や図を用いながら解説されている。これらのエクササイズ方法は、上記(2)の巻き方を前提として、「骨盤を整える」「ヒップアップ」「O脚改善」「脚やせ」「メリハリくびれ」「肩コリ解消」「小顔」「バストアップ」「背中シェイプ」「二の腕ほっそり」という各目的(56〜57頁の「目的別INDEX」)に応じて、効率よく効果を得ることができるように原告が考案したものである。そして、それらのエクササイズ方法をカイロプラクティックや整体に関する専門的知識を持たない一般人が理解できるように、平易な言葉で視覚的にも分かりやすく解説したという点に、原告書籍の本質的特徴がある。 イ 被告書籍1では、別紙対比表No.8〜14のとおり、「『バンド足かけ』×『腕・足持ち上げ』」のうち「足を動かすパターン」(93頁)、「『骨盤巻き』×『腰ひねり』+仰向け寝転び」のうち「足をそろえるパターン」(66頁)、「『ひざ巻き』×『足上げ下ろし』」(49頁)、「『バンド両手持ち』×『胸開き』」の「Step 1」「Step 2」(80頁)、「『バンド足かけ』×『腕・足ひっぱり』」のうち「上にひっぱるパターン」(86頁)、「『バンド両手持ち』×『わき腹横まわし』」(74〜75頁)、「『両ひざ巻き』×『外伸ばし&後ろ伸ばし』」の「Step 1」〜「Step 3」(64頁)の7種類のエクササイズ方法が記載されているが、その記述及び写真はそれぞれ、原告書籍における16種類のエクササイズ方法のうち「フィギュアスケート風脚上げ」(60〜61頁)、「ひざパタパタ」(62〜63頁)、「ひざ曲げ伸ばし」(67頁)、「バンザイストレッチ」(78〜79頁)、「二の腕集中シェイプ」のうち「ダンベルストレッチ」(84頁)、「ウエストひねり」(86〜87頁)、「ひざ開閉ストレッチ」(69頁)の7種類のエクササイズ方法の記述及び写真と極めて類似している。 したがって、被告書籍1の上記部分は、原告書籍に依拠して、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製した書籍であり、原告書籍に係る原告の複製権を侵害するものである。 仮にその全部又は一部が複製権の侵害には当たらないとしても、原告書籍に依拠して、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原告書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物であるから、原告書籍に係る原告の翻案権を侵害するものである。 ウ 被告書籍2では、別紙対比表No.11のとおり、「頭の上で腕伸ばし」(42〜43頁)及び「上半身伸ばし」(46〜47頁)というエクササイズ方法が記載されているが、その記述及び写真は、原告書籍における「バンザイストレッチ」(78〜79頁)の記述及び写真と極めて類似しており、被告書籍2の上記部分も、原告書籍に係る原告の複製権又は翻案権を侵害するものである。 (4) 同一性保持権の侵害 上記(1)〜(3)のとおり、被告書籍は、原告書籍に依拠して、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製した書籍であり、少なくとも、原告書籍の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原告書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物である。 したがって、被告書籍は、いずれも原告書籍に係る原告の同一性保持権(著作権法20条)を侵害するものである。 (5) 氏名表示権の侵害 上記(1)〜(3)のとおり、被告書籍は、いずれも原告書籍に依拠して執筆・制作されたものである。しかし、被告書籍は、原告書籍の著作者である原告の氏名が表示されることなく発行されている。 したがって、被告書籍は、いずれも原告書籍に係る原告の氏名表示権(著作権法19条)を侵害するものである。 (被告らの主張) (1) 表紙画像について 原告の主張は争う。 複製とは、有形的再製を意味し、ここに再製とは基本的に同一のものを作ることであって、複写したかどうかだけが問題となるわけではない。しかし、原告書籍と被告書籍1を比べると、題号を示す文字を置く場所及び題号の文字の大きさが著しく異なっており、基本的に同一のものを作ったとはいえないことは明らかである。このことは原告書籍と被告書籍2を比較した場合も同様である。 さらに、後記のとおり、原告書籍と被告書籍とは女性モデルのポーズ、表紙の色調、書題等に多くの相違点があり、被告書籍は原告書籍を基にこれを翻案して作成したものではないから、翻案権の侵害にもならない。 (2) 内容について ア 付録のゴムバンドの巻き方及び解説、エクササイズの方法が、原告書籍と被告書籍とで類似していることが多いという限度で認め、原告の主張はいずれも争う。後述するように、原告書籍が出版された当時、既にバンドによる整体方法が確立していたことから、バンドの巻き方やエクササイズの方法も必然的に類似した内容にならざるを得ない。 イ 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)ところ、原告書籍の内容は原告が創作したものではなく、原告の著作物にはあたらない。 すなわち、バンドによる整体方法は、原告書籍が出版される前から確立されていたものである。このことは、原告書籍が発行される前に、既に「最小で最強 セラバンドで「完全無欠」のダイエット! Thera―Band Exercise セラバンド・エクササイズ」(坂詰真二著、株式会社講談社、平成19年7月9日発行。乙2。以下「乙2書籍」という。)が発行されていることから明らかである。原告自身も、雑誌記者による「そもそも「巻くだけダイエット」を読んでいくと、似たような健康法やエクササイズが浮かび上がる。例えば付録のバンドの素材は、ドイツ生まれの筋トレ・ストレッチ法の「ピラティス」などで使う薄いゴムバンドに似ている。」等の感想に対し、「それらは、すべて採り入れました。(巻くだけダイエットは)オリジナルではなく、世界中のものを勉強して「いいとこ取り」したんです」(「AERA 2010年3月22日号」83頁以下)と述べており、原告自身が原告書籍の内容が自らの創作したものではないことを認めているのである(乙1)。 したがって、原告書籍は原告の著作物ではなく、原告は原告書籍の著作権を有しない。 ウ 仮に、原告書籍の編集に創作性が認められるとしても、原告書籍と被告書籍とは、それぞれ構成・目次が異なっているのだから、編集の仕方が違うことは明らかである。したがって、著作権侵害とはならない。 2 争点2(不正競争の成否)について (原告の主張) (1) 「巻くだけダイエット」の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号) ア 「巻くだけダイエット」の商品等表示性 「巻くだけダイエット」(別紙原告商品等表示目録の1)は、原告書籍の題号の主要部を成す表示であり、大きな字で原告書籍の表紙のカバー(別紙原告商品等表示目録の2)や中表紙(別紙原告商品等表示目録の3)などに表示している(甲1)。 原告は、「巻くだけダイエット」を、平成22年3月10日発行の「スーパーChihiroバンド 巻くだけダイエット」と題する書籍(甲5)、平成25年7月13日発行の「巻くだけ骨呼吸ダイエット」と題する書籍(甲6)においても、題号の主要部として、大きな字で表紙のカバーや中表紙などに表示している。 「巻くだけダイエット」は、原告が考案したダイエット方法の名称でもある。原告は、以下に述べるとおり、「巻くだけダイエット」を、原告が開催するセミナー、原告が主宰する「健康キレイ塾」、及び数々のメディア出演時において、原告が一般女性等を対象に指導ないし実演を行う際のスローガン、又は、指導・実演内容を端的に示す広告文言としても一貫して使用してきた。 例えば、テレビ番組においては、平成21年9月18日及び同年10月23日放送のTBSの「中居正広の金スマ」、平成21年10月31日放送の日本テレビの「メレンゲの気持ち」、平成22年1月17日放送のテレビ東京の「ソロモン流」などにおいて、「巻くだけダイエット」の名の下に、原告が考案したダイエット方法の解説、芸能タレントや一般女性に対する原告の指導の様子などが放送された。 以上のとおり、「巻くだけダイエット」は、原告書籍をはじめとする原告の著作物を端的に表すものであり、また、原告の事業を表示するものであって、他人の商品(書籍)や他人の事業と区別するための表示であるから、原告の商品等表示に当たる。 イ 「巻くだけでやせる」「巻くだけで痛みをとる」の商品等表示性 (ア) 「巻くだけでやせる」は、被告書籍1の題号の主要部を成す表示であり、被告らは、これを大きな字で被告書籍1の表紙のカバー(別紙被告商品等表示目録1の1)、表紙(同目録1の2)、中表紙(同目録1の3)などに表示している(甲2)。かかる表示は、被告書籍1を表し、他人の商品(書籍)と区別するために付されたものであるから、被告らの商品等表示に当たる。 (イ) 「巻くだけで痛みをとる」は、被告書籍2の題号の主要部を成す表示であり、被告らは、これを大きな字で被告書籍2の表紙のカバー(別紙被告商品等表示目録2の1)、表紙(同目録2の2)、中表紙(同目録2の3)などに表示している(甲3)。かかる表示は、被告書籍2を表し、他人の商品(書籍)と区別するために付されたものであるから、被告らの商品等表示に当たる。 ウ 著名性 原告書籍は、被告書籍1が発行された平成21年12月時点では累計約45万部(甲7)、被告書籍2が発行される直前の平成22年2月時点では累計約107万部の売上げを記録していた(甲8)。なお、原告書籍は、本訴提起(平成25年11月1日)時点では、累計約200万部の売上げを記録している。 原告の「巻くだけダイエット」という商品等表示は、原告書籍をはじめとする原告の著作物がベストセラーとなり、また、原告が数多くのテレビ番組や雑誌などのメディア出演をしたことなどを通じて、日本全国で知れ渡るようになり、著名となった。 原告書籍は、上記のとおり平成21年12月時点で既に累計約45万部の売上げを記録しており(甲7)、また、原告は、同時点までに「中居正広の金スマ」や「メレンゲの気持ち」などの有名テレビ番組に出演するなどしていた。したがって、被告らが被告書籍1を発行した平成21年12月時点において、原告の上記商品等表示が著名であったことは明らかである。 エ 類似性 (ア) 「巻くだけダイエット」と「巻くだけでやせる」について 原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」と、被告らの商品等表示である「巻くだけでやせる」とは、「巻くだけ」の部分が同一である。 「巻くだけダイエット」は、付録のゴムバンド(原告バンド)を身体の各部位に「巻くだけ」で体重が減少して痩身効果が得られるということを端的に表示した点に最大の特徴がある。また、原告及び原告の著作物が世の中に知れ渡るようになるにつれ、ダイエットの分野で「巻くだけ」と言えば、原告や原告の著作物あるいはテレビ番組・一般女性誌などで紹介された原告考案のダイエット方法が想起されるようになっていた。 こうしたことから、原告の商品等表示のうち「巻くだけ」の部分が、全体の印象を決定づける重要な要素であり、自他識別機能、出所表示機能を生ずる特徴的な部分である。 「巻くだけダイエット」と「巻くだけでやせる」とは、「ダイエット」と「やせる」が同一の観念を持つ点で酷似している。 また、「ダイエット」と「やせる」とは、その部分だけに着目するならば、外観及び称呼は異なる。しかし、上記のとおり、原告の商品等表示のうち「巻くだけ」が特徴的な部分であり、それが共通している以上、「ダイエット」と「やせる」という部分に外観及び称呼の差異があっても、全体的な印象に変わりはない。 被告らの商品等表示中の「で」の文字は、「巻くだけ」と「やせる」の両文言を接続するために言語上必然的に置かなければならない助詞にすぎず、商品等表示として特段の意義を持たない。 以上のことから、「巻くだけダイエット」と「巻くだけでやせる」との間に類似性が認められることは明らかである。 (イ) 「巻くだけダイエット」と「巻くだけで痛みをとる」について 原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」と、被告らの商品等表示である「巻くだけで痛みをとる」とは、「巻くだけ」の部分が同一である。 原告の商品等表示のうち「巻くだけ」の部分が、全体の印象を決定づける重要な要素であり、自他識別機能、出所表示機能を生ずる特徴的な部分であることは、上記(ア)の場合と同様である。 「ダイエット」と「痛みをとる」の部分については、その部分だけに着目するならば、外観、称呼、観念のいずれの点からも異なる。しかし、上記のとおり、原告の商品等表示のうち「巻くだけ」が特徴的な部分であり、それが共通している以上、「ダイエット」と「痛みをとる」という部分の差異があっても全体的な印象に変わりはない。 被告らの商品等表示中の「で」の文字は、「巻くだけ」と「痛みをとる」の両文言を接続するために言語上必然的に置かなければならない助詞にすぎず、商品等表示として特段の意義を持たない。 以上のことから、「巻くだけダイエット」と「巻くだけで痛みをとる」との間に類似性が認められることは明らかである。 オ 使用等 被告らが、被告書籍の表紙のカバー、表紙、中表紙などにおいて、それぞれ「巻くだけでやせる」及び「巻くだけで痛みをとる」の商品等表示を用いて販売することは、原告の商品等表示の「使用」及び「譲渡」に当たる。 カ 不正競争防止法19条1項1号の適用について 被告らは、「巻くだけ」「ダイエット」「やせる」「痛みをとる」等の各文言が普通名称であることから、被告らの表示が不正競争防止法19条1項1号の適用除外に当たると主張するが、「ダイエット」「やせる」「痛みをとる」の各文言が普通名称であるとしても、「巻くだけ」の文言は、原告バンドを身体の特定部位に巻いて日常生活を送るだけで減量・痩身効果を得られる原告考案のダイエット方法を示す特徴的文言であり、これがダイエット方法に関し普通名称であるなどとは到底いえない。仮に「巻くだけダイエット」が普通名称に当たるのであれば、何の個性もないそのような名称を付した原告書籍が、数百万部のベストセラーになるとは考え難い。また、原告の商品等表示が「巻くだけダイエット」として一体的に表示されるものであるのと同様に、被告らの商品等表示も、それぞれ「巻くだけでやせる」「巻くだけで痛みをとる」として一体的に表示されるものである。これらの被告らの商品等表示は、原告書籍や原告の事業につき自他識別機能・出所表示機能を発揮する「巻くだけ」の部分を模倣したものであって、決して「普通名称」を「普通に用いられる方法で」使用したものではない。 (2) 「巻くだけダイエット」の混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号) ア 上記(1)ア、ウのとおり、「巻くだけダイエット」は原告の商品等表示であり、被告らが被告書籍をそれぞれ発行した時点で、需要者の間に広く認識されていた。 イ 上記(1)イ、エのとおり、「巻くだけでやせる」「巻くだけで痛みをとる」は被告らの商品等表示であり、原告の商品等表示である「巻くだけダイエット」と類似する。 ウ 被告らが「巻くだけでやせる」及び「巻くだけで痛みをとる」という商品等表示を被告書籍に使用して同書籍を販売する行為は、被告書籍と原告書籍の題号が類似していることや商品全体の外観が類似していることから、一般需要者をして被告書籍をもって原告の商品であると誤認混同させるおそれがある。なお、原告は、自らが主宰する「健康キレイ塾」宛てに、被告書籍1を原告書籍と間違えて購入した旨の苦情や両者の関係についての問合せを複数受けたことがある。 (3) 折り畳んだバンドを添付する形態の商品等表示性(不正競争防止法2条1項1号、2号) ア 折り畳んだバンドを書籍の末尾に付録として添付した状態の、原告書籍の外部的及び内部的形状(甲1)は、顕著な特徴を有していることから原告の商品等表示に該当し、原告書籍がベストセラーとなるに従って原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになり、また著名となったことから、不正競争防止法2条1項1号又は2号によって保護の対象となる。 イ 被告らは、被告書籍の末尾に折り畳んだバンドを付録として添付することにより、原告の上記商品等表示と類似のものを使用し、その商品等表示を使用した商品を譲渡し、原告の商品と混同を生じさせた。 (4) 表紙画像の商品等表示性(不正競争防止法2条1項1号、2号) ア 原告書籍の表紙カバーにおける女性モデルや題号等の表示(甲1)は、付録のゴムバンドを使用したときのイメージを示した模様・色彩などのデザインとして個性を有していることから原告の商品等表示に該当し、原告書籍がベストセラーとなるに従って原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになり、また著名となったことから、不正競争防止法2条1項1号又は2号によって保護の対象となる。 イ 被告らは、被告書籍の表紙カバーに、原告の上記商品等表示と類似したイメージ写真や題号等を表示し、その商品等表示を使用した商品を譲渡し、原告の商品と混同を生じさせた。 (被告らの主張) (1) 著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)に該当しないこと ア 「巻くだけダイエット」は原告の商品等表示に該当しないこと 「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標等で自他識別力又は出所表示機能を有するものをいうところ、「巻くだけダイエット」は、原告の考案したものでないばかりか、平成21年に原告書籍が発行される前に乙2書籍が発行されていること、原告書籍が発行された直後に、「バンテージダイエット」(清水ろっかん著、フォレスト出版株式会社、平成21年9月17日発行。乙3。以下「乙3書籍」という。)が、翌年には「特製靴下で下半身がやせる! はくだけダイエット」(笠原巖著、株式会社シネマファスト、平成22年2月25日発行。乙4。以下「乙4書籍」という。)が相次いで発行されていることなど、バンドを利用した「ダイエット」を示す書題は原告以外の書籍でも使用されていたこと、「巻くだけ」「ダイエット」という言葉は格別特殊な用語ではなく、普通に用いられる用語にすぎないこと、原告が原告書籍を発行した平成21年6月25日から、被告書籍1が発行された平成21年12月25日、被告書籍2が発行された平成22年3月25日までは、前者が6か月、後者がおよそ8か月しか経っておらず、被告書籍が発行された当時、「巻くだけダイエット」が原告の著作物又は営業を端的に表すものとして周知され、あるいは著名になったとまでいうことはできないことから、「巻くだけダイエット」という名称が、原告の著作物又は営業を示す表示であるとはいえない。 イ 著名ではないこと 乙2書籍などの先行本に続いて、原告書籍、被告書籍1や被告書籍2、乙3書籍、乙4書籍等が相次いで発行されたことから、当時、バンドを利用したダイエット方法が話題となったのであり、需要者に著名となったのは、バンドを利用したダイエット方法であって、原告書籍の「巻くだけダイエット」という題号が著名になったわけではない。 ウ 類似性がないこと (ア) 原告書籍の題号が「バンド1本でやせる! 巻くだけダイエット」であるのに対し、被告書籍1のそれは「1日1分から巻くだけでやせる! 1本のバンドですっきりスリム」であり、被告書籍1には「1日1分から」という原告書籍で用いられていない文字が使用されていること、「ダイエット」と「やせる」が同一の観念であるとしても、いずれも普通名称に過ぎないこと、書体、文字の大きさ及び書題の位置が異なること等から「同一若しくは類似の商品等表示」とはいえないことは明白である。 (イ) 「巻くだけダイエット」と被告書籍2の「巻くだけで痛みをとる!」とは、前者が「ダイエット」という文字を用いているのに対し、後者はそれとは全く意味の異なる「痛みをとる」という文字を用いていること、文字の大きさ及び書題の位置が異なること等から「同一若しくは類似の商品等表示」といえないことはより明白である。 エ 使用等 「巻くだけでやせる」「巻くだけで痛みをとる」は被告書籍の題号であって、被告らの商品等表示ではない。 オ 不正競争防止法19条1項1号による適用除外 「巻くだけ」「ダイエット」「やせる」「痛みをとる」の各文字は、それ自体普通名称にすぎない単語であり、被告らが書籍の題号に「巻くだけで」「やせる」という名称、あるいは「巻くだけで」「痛みをとる」という名称を使用しても、「普通名称」を「普通に用いられる方法で」使用しただけであるから、被告らは書籍の販売差止めや損害賠償請求を受けることはない(不正競争防止法19条1項1号)。 (2) 混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当しないこと ア 「巻くだけダイエット」は、原告の「商品等表示」には該当せず、周知性もない。しかも、「巻くだけダイエット」と被告書籍1の書題「巻くだけでやせる」あるいは被告書籍2の書題「巻くだけで痛みをとる」は「同一若しくは類似の」商品等表示ではないから、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる」おそれもない。 現に、読者は書店に並べられている原告書籍と被告書籍1、被告書籍2とを区別して、各々の選択に従って書籍を購入しており、読者から誤って書籍を購入した旨の苦情が寄せられたこともない。 したがって、「巻くだけでやせる」あるいは「巻くだけで痛みをとる」という題号で被告が書籍を発行する行為は、混同惹起行為に該当するものではない。 イ なお、この場合も、上記(1)オのとおり、不正競争防止法19条1項1号の適用除外が認められ、被告らは書籍の販売差止めや損害賠償請求を受けることはない。 (3) 折り畳んだバンドを添付する形態の商品等表示性(不正競争防止法2条1項1号、2号)について 原告書籍が発行される前に出版された乙2書籍は、既に折り畳んだバンドを付録として書籍に添付するという商品形態をとっていた。その後に発行された乙3書籍も同様に付録としてゴムバンドを添付するという形態をとっており、原告書籍だけが折り畳んだバンドを付録として添付するという形態をとっているわけではない。 したがって、原告書籍がそのような商品形態をとっていることによって同種の商品と識別しうる独自の特徴を有し、自他識別機能や出所表示機能が認められるわけではない。誤認混同も生じていない。 (4) 表紙画像の商品等表示性(不正競争防止法2条1項1号、2号)について 表紙カバーの女性モデルや題号等の表示についても、乙2書籍が、既に女性をモデルとし、バンドを体に巻き付けるという姿態を表紙カバーとしている。これらの書籍が表紙カバーに女性をモデルとして起用したのは、痩身効果に強い関心をもつ女性を書籍の主たる購買層として想定したことによるものであり、また、ゴムバンドをモデルの女性とともに写し込んだのは、ゴムバンドを利用したエクササイズであることを示すためのものであることによるのであって、書籍の内容からして至極普通のことである。デザインとして格別個性的なものというわけではない。 さらに、「巻くだけダイエット」という題号も、普通名称を組み合わせたものであって、他の類似書籍と比べて格別特徴があるものではない。著作物である書籍を特定するものにすぎない。 したがって、原告書籍の表紙のデザインや題号が、自他識別機能又は出所表示機能を果たすものとは考えられない。 3 争点3(差止め・廃棄の必要性)について (原告の主張) (1) 被告らは、被告書籍1については平成21年12月25日以降、被告書籍2については平成22年3月25日以降、現在に至るまで、これらの被告書籍を日本全国の書店やインターネット上の店舗などで販売し続けている。これにより、原告は、原告書籍に係る営業上の利益を侵害され続けている。 また、被告らが、今後もこれらの被告書籍の増刷ないし販売を継続することにより原告に対する侵害行為を継続することは確実である。そうすると、原告は、原告書籍に係る営業上の利益を将来も侵害され続けることになる。 したがって、原告において、被告らがこれらの被告書籍を複製し、頒布することを差し止める必要性がある。 (2) 被告会社は、書店などに納入して小売販売をするための在庫として、被告書籍1及び被告書籍2を所有し占有している。それらは、全て原告に対する侵害行為を組成するものであるから、廃棄されなければならない。 また、被告AAが院長を務めるAB鍼灸院・整骨院においても、被告AAが、同院で施術を受ける患者などに販売するため、被告書籍1及び被告書籍2を所有し占有している。それらも、全て原告に対する侵害行為を組成するものであるから、廃棄されなければならない。 (被告らの主張) 争う。 4 争点4(損害)について (原告の主張) (1) 被告らには、前記の複製権及び翻案権の侵害、同一性保持権の侵害、並びに原告の営業上の利益の侵害につき、故意又は少なくとも過失がある。 (2) 平成22年における被告書籍1の年間推定売上部数は、15万1409部であった。 原告は、被告らの侵害行為がなかったならば、原告書籍を上記の数量販売することができ、1冊当たり273円の利益を得ることができたから、原告の損害額は、著作権法114条1項又は不正競争防止法5条1項により、15万1409部に273円を乗じた4133万4657円と推定され、この額は原告の販売能力に応じた額を超えるものではない。 (3) 本訴を提起し追行するために原告が支出を余儀なくされる弁護士費用のうち、被告らの行為と相当因果関係のある費用は、損害賠償額の1割に相当する413万3465円を下らない。 (4) よって、原告は、被告らに対し、連帯して、損害賠償金4546万8122円(上記(2)、(3)の合計)及びこれに対する不法行為開始後の日である平成22年4月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告らの主張) 争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(著作権・著作者人格権侵害の成否)について (1) 総論 著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、対象物件がアイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、当該物件の作成は当該著作物の複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13年6月28日判決・民集55巻4号837頁[江差追分事件]参照)。 そこで、原告書籍と被告書籍とで同一性を有すると主張する部分(侵害を主張する部分)が表現上の創作性がある部分といえるか、創作性のある部分について、被告書籍から原告書籍の本質的特徴を直接感得できるかについて検討する。 (2) 表紙画像(別紙対比表No.1)について ア 原告書籍の奥付(甲1)を見ると、【カバーデザイン】及び【撮影】の担当者の氏名が表示されており、原告書籍のカバーデザインや女性モデルの写真について、原告が著作権を保有しているのか否かは必ずしも明らかでない。 イ 上記の点をひとまず措いて、原告書籍の表紙画像と被告書籍1の表紙画像とを対比すると、両書籍は、@上半身裸で下半身に白色の着衣をつけた女性モデルが写っていること、A女性がピンク色のバンドを斜めに巻き付けていること、B背景が白色であること、C題号の主要部分を黒色の文字で二段に表示していること、といった点で共通するが、@原告書籍では女性の首から上は写っていないのに対して、被告書籍1では女性の鼻から下の部分が写っていること、A原告書籍では、女性は原告バンドを向かって左上から右下に向けて巻き付け、さらに腰部でX字状に巻き付け、左上は画面外に消えているのに対して、被告書籍1では、女性は被告バンドを向かって右上から左下に向けて巻き付け、右上は右肩から前方に回され、左下は画面外に消えていること、B原告書籍の題号の主要部「巻くだけ/ダイエット」(斜線は改行を示す。以下同じ)は書籍の左右寸法一杯に文字を配置しているのに対し、被告書籍1の題号の主要部「巻くだけで/やせる!」は左側に寄せ、右側に余白を残していること、といった相違点がある。 上記のような相違点の存在にも鑑みると、仮に原告が原告書籍の表紙画像や写真について著作権を有していたとしても、原告書籍の表紙画像と被告書籍1の表紙画像が、表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。また、被告書籍1の表紙画像から、原告書籍の表紙画像の本質的特徴を直接感得することもできない。 ウ 原告書籍の表紙画像と被告書籍2の表紙画像とは、@女性モデルが写っていること、A女性がピンク色のバンドを斜めに巻き付けていること、B背景が白色であること、C題号の主要部分を黒色の文字で二段に表示していること、といった点で共通するが、@原告書籍では女性は後ろを向き、首から上、大腿部より下は写っていないのに対して、被告書籍2では女性は前を向き、鼻から下、腰から膝の部分が写っていること、A原告書籍では、女性は原告バンドを向かって左上の女性の左脇部から右下の女性の右腹部に向けて巻き付け、さらに腰部でX字状に巻き付け、左上は画面外に消えているのに対して、被告書籍2では、女性は被告バンドを向かって右上の女性の左肩部から左下の女性の前腹部に向けて巻き付け、右上は女性の背部を通じて女性の右腰部から前腹部に巻かれ、女性の前腹部で2本を斜めX字状に交差させていること、といった相違点がある。 上記のような相違点から明らかなとおり、原告書籍の表紙画像と被告書籍2の表紙画像は一見して大きく異なり、表現上の創作性ある部分で共通しているとは到底いえない。また、被告書籍2の表紙画像から、原告書籍の表紙画像の本質的特徴を直接感得することもできない。 (3) 付録のゴムバンドの巻き方(別紙対比表No.2〜7)について 原告書籍と被告書籍は、ゴムバンドの巻き方において共通する部分があるが、その具体的な記述文言は異なっている。 著作権法は、ダイエット法等のアイデアを保護するものではなく、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、ゴムバンドの巻き方において共通するところがあるとしても、表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。 原告書籍と被告書籍は、ゴムバンドの巻き方を、女性モデルがバンドを巻いている写真で示すという表現をとっている点で共通するが、いずれもありふれた表現であって、表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。 (4) エクササイズの方法(別紙対比表No.8〜14)について 原告書籍と被告書籍は、エクササイズ方法において共通する部分があるが、その具体的な記述文言は異なっている。 著作権法はダイエット法等のアイデアを保護するものではなく、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、エクササイズ方法において共通するところがあるとしても、表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。 原告書籍と被告書籍は、エクササイズ方法を、女性モデルの写真で示すという表現をとっている点で共通するが、いずれもありふれた表現であって、表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。 (5) 以上によれば、原告書籍と被告書籍は、表現上の創作性ある部分において共通しているとはいえないから、被告書籍を作成することは、原告書籍の複製とも翻案ともいえないし、原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害するともいえない。 2 争点2(不正競争の成否)について (1) 「巻くだけダイエット」の著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)について ア 「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい(不正競争防止法2条1項1号)、自他識別力又は出所表示機能を有するものでなければならないと解される。 書籍の題号は、普通は、出所の識別表示として用いられるものではなく、その書籍の内容を表示するものとして用いられるものである。そして、需要者も、普通の場合は、書籍の題号を、その書籍の内容を表示するものとして認識するが、出所の識別表示としては認識しないものと解される。 もっとも、書籍の題号として用いられている表示であっても、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は営業であることを認識することができるような自他識別力又は出所識別機能を備えるに至ったと認められるような特段の事情がある場合については、商品等表示性を認めることができることもあり得ると解される(大阪高裁平成20年(ネ)第1700号・同年10月8日判決[「時効の管理」事件]参照)。 イ 原告による「巻くだけダイエット」の使用について これを本件についてみると、証拠によれば、原告は、平成21年6月25日発行の原告書籍「バンド1本でやせる! 巻くだけダイエット」の題号の主要部として「巻くだけダイエット」の表示を使用し(甲1)、原告書籍は、被告書籍1が発行(平成21年12月25日)された平成21年中に45万6874部の売上を記録し、「中居正広の金曜日のスマたちへ」「ソロモン流」「笑っていいとも!」などのテレビ番組にも取り上げられていたこと(甲7、8)、平成22年2月8日までには107万2000部の売上を記録し、平成20年のオリコンのランキング開始以来初めてダイエット本としてミリオンを達成したこと(甲8)、同時期には乙3書籍「バンテージダイエット 夜3分間のバンドエクササイズで即効美腰・美脚!」、被告書籍1「巻くだけでやせる! 1日1分から1本のバンドですっきりスリム」の売上も好調で、原告書籍と合わせた3作の総売上は135万5000部を記録したこと(甲8)、被告書籍2が発行(平成22年3月25日)される直前の平成22年3月10日には、原告は「スーパーChihiroバンド 巻くだけダイエット」と題する書籍を幻冬舎から発行し、題号の主要部として「巻くだけダイエット」の表示を使用したこと(甲5)、「AERA 2010年3月22日号」に「160万部「ダイエット本」著者を直撃 「巻くだけ」に重大疑問」と題する記事が掲載され、その中には、原告書籍の発行部数は160万部に達し、原告が毎月、東京・六本木ヒルズで開いている「健康キレイ塾」には200人近い女性が詰めかけているとの記載があること(乙1)が認められる。 なお、被告書籍発行後の平成22年中の売上は、原告書籍が113万7159部、乙3書籍が22万9608部、原告の上記甲5の書籍が18万8945部、被告書籍1が15万1409部であった(甲9)。また、原告は、平成25年7月13日、「巻くだけ骨呼吸ダイエット」と題する書籍を株式会社学研パブリッシングから発行した(甲6)。 以上によれば、まず、原告は、「巻くだけダイエット」という表示を専ら書籍の題号の一部として使用していたことが認められ、これに反する証拠はない。そして、原告書籍の題号に接した需要者は、「巻くだけダイエット」という表示は、バンドを「巻くだけ」の「ダイエット」であるという原告書籍の内容を表現したものと認識するにすぎず、本件において、それ以上に、同表示を原告を示す商品等表示と認識するものと認めるべき特段の事情があるということはできない。すなわち、原告書籍が、被告書籍1の発行日当時約45万部、被告書籍2の発行日当時約107万部の売上があり、原告書籍の存在及びその題号がダイエット本という商品の需要者の間に広く認識されていたとしても、そのことをもって、直ちに「巻くだけダイエット」という表示が自他識別性又は出所識別機能を備え、商品等表示性を獲得したと認めることはできず、他に「巻くだけダイエット」という表示が自他識別性又は出所識別機能を備え、商品等表示性を獲得したと認めるに足りる証拠はない。 ウ 当裁判所は、平成26年6月18日の第2回口頭弁論期日において、原告の申出に係る甲第11号証ないし甲第15号証を時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)として却下したが(原告は、受命裁判官が同年4月17日の第3回弁論準備手続期日において、当事者双方の「侵害論の主張は、これ以上ない。」旨の陳述を踏まえて心証を開示した後になって、著名性の立証として上記書証の写しを提出した。)、仮にこれらの書証を取り調べたとしても、「巻くだけダイエット」という表示が自他識別性を備え、商品等表示性を獲得したと認めるべき特段の事情があるとはいえない。 エ そうすると、「巻くだけダイエット」という表示が自他識別力又は出所識別機能を有する原告の商品等表示であるとは認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告書籍が原告の著名な商品等表示を冒用したものとは認められない。 オ なお、付言するに、上記認定によれば、原告が原告書籍において使用していた表示は「巻くだけダイエット」であり、「巻くだけ」の部分をもってその要部であるとは認められないから、被告らの使用する「巻くだけでやせる」、「巻くだけで痛みをとる」の表示は、原告が使用する「巻くだけダイエット」の表示と外観及び称呼において明らかに相違し(「巻くだけで痛みをとる」の表示は観念においても明らかに相違する。)、原告の表示と類似の表示であるともいえない。 (2) 「巻くだけダイエット」の混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)について 上記(1)のとおり、「巻くだけダイエット」という表示が自他識別力又は出所識別機能を有する原告の商品等表示であるとは認められないし、原告が主張するところの「巻くだけダイエット」との表示と「巻くだけでやせる」との表示の類似性を認める余地がないことも明らかであるから、その余の点につき判断するまでもなく、被告書籍が原告の著名な商品等表示を冒用したものとは認められない。 (3) 折り畳んだバンドを添付する形態の商品等表示性(不正競争防止法2条1項1号、2号)について ア 商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、「商品等表示」に該当するためには、@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である(知財高裁平成24年12月26日判決・判時2178号99頁[眼鏡型ルーペ事件])。 イ これを本件についてみると、ダイエットに使用するバンドを折り畳んだ状態でダイエット本の付録として添付するという書籍の形態は、原告書籍の発行(平成21年6月25日)前に発行された乙2書籍(平成19年7月9日発行)にも見られた形態である。 原告書籍、被告書籍のバンドが書籍の末尾(奥書の次の頁をめくった部分)に添付されているのに対して、乙2書籍のバンドは第1章と第2章の間(23頁をめくった部分)に添付されているが、これを末尾に持ってきたからといって、原告書籍の上記形態が、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているもの(特別顕著性)とは認められない。 また、原告書籍は、被告書籍1の発行日頃で約45万部、被告書籍2の発行日頃で約107万部の売上があったが、原告書籍の上記形態が、原告という出所を表示するものとして周知になっているもの(周知性)とも認められない。 ウ そうすると、折り畳んだバンドを付録として添付した原告書籍の形態が原告の商品等表示であるとは認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告書籍が原告の著名な商品等表示を冒用したとも、原告の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用して混同を生じさせたものとも認められない。 (4) 表紙画像の商品等表示性(不正競争防止法2条1項1号、2号)について ア 原告書籍は、被告書籍1の発行日頃で約45万部、被告書籍2の発行日頃で約107万部の売上があったが、原告書籍の表紙画像が、原告を示す商品等表示として著名であったとは到底認められない。 イ 原告書籍の表紙画像と被告書籍1の表紙画像とは、上記1(2)イのとおりの相違点があり、仮に原告書籍の表紙画像が原告を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとしても、被告書籍1が原告の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用したものとはいえない。 ウ 原告書籍の表紙画像と被告書籍2の表紙画像とは、上記1(2)ウのとおり一見して明らかに異なるから、被告書籍2が原告の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用したものとは到底いえない。 エ そうすると、原告書籍の表紙画像は著名な商品等表示とはいえないし、被告書籍の表紙画像と同一又は類似であるともいえないから、被告書籍が原告の著名な商品等表示を冒用したとも、原告の周知の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用して混同を生じさせたものとも認められない。 3 結論 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。 よって、主文のとおり判断する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 鈴木千帆 裁判官 西村康夫 |
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