判例全文 line
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【事件名】漫画「軍鶏」映画化事件
【年月日】平成26年8月29日
 東京地裁 平成24年(ワ)第24300号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成26年7月18日)

判決
原告 株式会社アートポート
同訴訟代理人弁護士 竹上英夫
被告 株式会社ヒューマン・ストーリー (以下「被告会社」という。)
被告 A (以下「被告A」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 新井宏明


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自3億2035万4280円及びこれに対する平成24年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 前提となる事実等(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は、劇場用映画の制作配給等を業とする株式会社である。
イ 被告Aは、主にテレビドラマの脚本等を制作する作家である。
ウ 被告会社は、平成15年4月14日に設立された、映画の企画、シナリオの製作、販売及び斡旋等を目的とする株式会社であり、被告Aが代表者を務めている。
エ 訴外「B」(以下「B」という。)は、漫画作家であり、「軍鶏」と題する連載漫画(以下「漫画『軍鶏』」といい、漫画「軍鶏」の原作を含めた意味で単に「軍鶏」という。)執筆者である。〔甲7、27〕
(2) 漫画「軍鶏」の連載及び原作等
ア 漫画「軍鶏」は、訴外株式会社双葉社(以下「双葉社」という。)の発行する漫画雑誌である「漫画アクション」において、平成10年(1998年)5月19日発売号で連載が開始され、平成16年5月25日以降は、訴外株式会社講談社(以下「講談社」という。)の発行する漫画雑誌である「イブニング」において連載された。
イ 漫画「軍鶏」が双葉社に連載されていた当時は、主として、漫画作家であるBが作画を担当し、原作を被告Aが担当しており、実際、漫画「軍鶏」においては、作者としてBが、原作者として被告Aが表記されていた。〔甲6、7、弁論の全趣旨〕
(3) 「軍鶏」の映画化
 平成15年5月ころ、被告Aから、原告に対し、「軍鶏」の実写による映画化についての依頼があったことから、原告は、「軍鶏」の実写による映画(以下「本件映画」という。)に取り組むことになり、その製作を香港の映画製作会社である訴外「Same Way Production」に依頼し、平成18年10月13日が本件映画の香港でのクランクインの日とされた。〔乙32、7頁〕
(4) 原作使用契約の締結
 平成18年10月「吉日」付けで、同月頃、原告と被告会社は、「軍鶏」の実写による映画化を目的とする原作使用契約書(以下「本件使用契約」という。甲1)を締結した。その第1条には、被告会社は、原告に対し、被告会社が本原作の著作権者として本契約を締結する権限を有することを保証すること、第14条には、原告と被告会社において、本契約に違反し相手方に損害を与えた時は、その相手方は損害の賠償を請求することができる旨の記載がある。
(5) 本件映画の完成等
 平成18年11月1日、本件映画の撮影がタイで開始され、平成19年4月頃に本件映画が完成し、平成20年1月31日に、本件映画の完成披露試写会が開催された。〔弁論の全趣旨〕
(6) Bによる仮処分申立て及び訴訟の提起に至る経緯
ア 平成20年4月11日付けで、Bは、原告に対し、本件映画の上映、頒布の差止めを求める仮処分(当庁平成20年(ヨ)第22019号事件)を、東京地裁に申し立てた(以下「本件仮処分命令の申立て」という。)。〔甲6、11〕
イ 平成20年5月2日、Bは、本件仮処分命令の申立てを取り下げ、本案訴訟(被告Aに対する著作権確認等の請求を含む。平成20年(ワ)第11879号事件。以下「前訴」という。)を提起した。〔甲7〕
(7) 被告A及び被告会社による念書の作成
 平成20年6月20日付けで、被告Aと被告会社は、原告に対し、漫画「軍鶏」の単独の原作者であり、映画「軍鶏」の原作が映画製作に際し提供した原作、脚本であることを保証する旨の念書(以下「本件念書」という。甲3)を差入れた。
(8) Bと原告、被告らとの和解の成立
 平成23年3月24日、前訴において、当事者間に和解が成立し、その中で、原告は、Bに対し、本件和解金として250万円の支払義務があり、これを分割して支払う旨約した。
(9) 和解成立後の経緯及び本件訴訟の提起
ア 原告は、上記和解条項に従い、同項に定められた金員を定められた期限までに支払った。〔弁論の全趣旨〕
イ 平成23年6月17日、原告代表者は、被告Aに対し、原告が被った損害に対し「誠意ある対応」を要請した。〔甲9〕
ウ 平成23年7月5日、被告Aは、原告の上記要請を拒否した。〔甲10〕
エ 平成24年8月24日、原告は、本件訴えを提起した。
2 本件は、原告が本件映画を製作するに当たり、被告会社は、本件使用契約において、被告Aが本件映画の原作の著作権者であることを保証し、Bから本件映画の上映差止め等の仮処分申立てがされた後も、被告らは、本件念書において、被告Aが本件映画の原作者であることを保証したことから、原告は、これを信じて本件映画の制作等の営業活動を継続したにもかかわらず、後にBから提起された前訴において、上記被告らの保証した内容に反し、原告の意にも反する和解を余儀なくされた結果、本件映画の制作に関する3億1885万4280円の損害と、Bに対し支払った和解金150万円の合計3億2035万4280円の損害を被ったと主張して、本件使用契約第1条及び本件念書の保証内容に違反する債務不履行に基づき、被告会社に対しては本件使用契約第14条を、被告Aに対しても同人は被告会社の代表者であって本件使用契約の実質的当事者であるから、本件使用契約第14条を、それぞれ根拠とする損害賠償請求として、被告らに対し、各自3億2035万4280円及びこれに対する平成24年9月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
3 争点
(1) 本件使用契約に基づく被告らの債務不履行責任の有無
ア 本件映画の原作は何か
イ 前訴における和解は、被告らが原告に対して保証した内容と反するものであり、原告は、前訴において、その意に反して和解を余儀なくされたか
ウ 本件使用契約に基づく債務不履行の事実があるか
エ 被告Aは本件使用契約の実質的当事者として債務不履行責任を負うか
(2) 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(本件映画の原作は何か)について
〔原告の主張〕
(1) 本件映画の原作は、漫画「軍鶏」である。
 平成15年5月頃、被告Aから、原告に対し、「軍鶏」を映画化する件について、平成9年に引き続いて再度の依頼があった。その当時、原告は海外マーケット向けの映画を香港で製作するプロジェクトを進めていたが、「軍鶏」の映画化に関してはテーマやコンセプトには特に問題はないと判断し、これをプロジェクトに加えることを了承した。しかし、映画の撮影は香港で行うこととし、その海外の市場性に鑑み、監督については香港の監督を起用することを提案し、被告Aもこれを了承した。この時点では「軍鶏」はBの作画により漫画化されていたので、原告は、漫画「軍鶏」と本件映画との間に後日何の問題も生じないようにとの判断と、漫画「軍鶏」は本件映画宣伝の重要なポイントとなることから、被告Aに対し、Bと直接会って話をしたい、その上で、被告Aとの間に映画化についての契約を締結したい旨申し入れた。
 これに対し被告Aは、自分は原作者であり、著作権者である上、映画化については全てをBに一任されている旨言明し、本件使用契約に際して、その原作の著作権者であることを明示し、これを保証する旨確約した。これを受け、原告は被告Aとの間に映画化に関する本件使用契約を締結することを決意した。
 本件映画の製作に当り、原告はこれを香港のプロデューサーであるC(C。以下「C」という。)に依頼し、同人から委託を受けた脚本家のD(D。以下「D」という。)が、その当時すでに香港でも販売されていた中国語版の「軍鶏」を土台にして脚本を作成した。原告はこの脚本を被告Aに提示し打ち合わせをした上、Dに二度にわたり手直しをして貰った上、現地での撮影に入ったが、被告Aもこの撮影には常に立ち会っていた。なお、完成した本件映画撮影用の台本は、2006年(平成18年)10月9日付け中国語版の「定稿」(甲18の2)であり、同月26日付け日本語版の「撮影台本」(甲18の1)はその日本語訳である。
(2) 被告は、本件映画の原作は「アンダードッグ」と題する原稿(以下「アンダードッグ」という。乙1)であると主張するが、本件使用契約書の前文に、「甲が許諾権を有する下記の著作物『軍鶏』」と表示されており、その第7条にも原作の表示として、「原作:A『軍鶏』より」と明記されていること、本件念書にも、被告会社と被告Aが漫画「軍鶏」の単独の原作者であり、「軍鶏」の原作が映画製作に際し提供した原作・脚本であることを保証する旨明記されていることから、被告らの理解も、本件使用契約にいう「本原作」は「アンダードッグ」などではなく、原作者を被告Aとする漫画「軍鶏」であったことは明らかというべきである。
〔被告らの主張〕
(1) 被告Aは、漫画「軍鶏」の連載開始前の平成9年末頃に、映画用の脚本として「アンダードッグ」を完成させた。この「アンダードッグ」は、本件漫画の第1話から第120話までを内容とするものである。被告Aは、この「アンダードッグ」を基にして別途執筆した、シノプシス、登場人物表、漫画脚本例を双葉社の担当者に渡し、同人を通じ、これらをBの閲覧に供した。その結果、双葉社において漫画「軍鶏」の連載開始が決定され、被告Aを漫画「軍鶏」の原作者とすることが決まった。その後、漫画「軍鶏」の題名は、「アンダードッグ」から「軍鶏」に変更された。
 本件映画の原作は、「アンダードッグ」を基に、被告Aが執筆したシナリオである。Aは、この「アンダードッグ」を基に、本件映画用の脚本を執筆し、原告に交付した。本件映画のシナリオ第1稿を執筆した際も、タイトルは「アンダードッグ」ではなく、「軍鶏」であった。
 被告Aは、「アンダードッグ」に推敲を重ね、平成17年にこれを「軍鶏外伝」として出版したが、この「軍鶏外伝」の原稿とほぼ同じ内容のものを本件映画用の脚本とし、これを平成17年秋に完成させて原告に交付した。
(2) なお、漫画「軍鶏」そのものが本件映画の原作とされる予定であったのであれば、その著作権者の一人であるBを差し置いて、被告会社のみが、原告との間で本件使用契約を締結することなどできるはずがなく、これは原告も当然理解していることである。
 確かに、本件映画の制作前においては、原告及び被告らが、本件映画に漫画「軍鶏」の作画部分を取り入れることをも企図していたことは事実である。しかし、Bが当初映画化を了解していたにもかかわらず、突然翻意した結果、原告及び被告らは、漫画「軍鶏」を本件映画の宣伝に利用することを断念したのである。ただし、被告Aが交付した、「アンダードッグ」及びそれをもとにした本件映画の脚本には、漫画「軍鶏」の作画部分が取り入れられていなかったため、本件映画制作の続行には何の支障も生じなかったものである。
2 争点(1)イ(前訴における和解は、被告らが原告に対して保証した内容と反するものであり、原告は、前訴において、その意に反して和解を余儀なくされたか)について
〔原告の主張〕
(1) 原告は、本件使用契約締結後、平成18年10月13日に香港での撮影を開始し、同年11月1日にはタイでのロケを開始したが、タイでのロケに際し、被告Aは、原作者、脚本家、コープロデューサーの肩書で、現場に立ち会った。その理由は、脚本の8割は香港の脚本家Dが執筆していたので、被告Aの原作者、脚本家としてのこだわりから生ずる影響を現場に及ぼさないための配慮からであった。撮影も半ばを過ぎた頃、被告Aより、Bとの間に本件映画について感情的な問題が生じているとの話があった。しかし、もともと被告Aより本件使用契約において、原作の著作権は被告Aにあることの保証を得ていたからこそ本件映画の作成に着手したものであり、更には本件映画の製作をその時点で中断することは著しく困難でもあったので、原告は、被告Aに対し契約当事者としての責任ある対応を強く求めた。
(2) 漫画「軍鶏」は、本件映画宣伝の重要なポイントであったが、被告AよりBとの間の感情のもつれがあるとの話があったため、同漫画を本件映画の宣伝に使用することは断念せざるを得なかった。原告は、本件使用契約に基づき、映画撮影を開始し、平成19年4月に本件映画を完成し、平成20年1月31日に完成披露試写会を行い、本格的営業活動を開始した。ところが、同年3月19日、Bの代理人より、原告に対し、本件映画の原作についての著作権者として本件映画の製作・上映を中止する旨要請する通知書が送達された。
(3) 原告は、被告A及び被告会社に対し、保証の趣旨と違うではないかと抗議したところ、被告らは新井宏明弁護士(以下「新井弁護士」という。)に依頼し、同弁護士は、原告の代理人として、本件映画の原作者は被告Aであるとして、Bの申入れを拒否する旨の回答をした(甲5)。
(4) これに対し、Bは、本件映画の上映禁止を求める本件仮処分命令の申立てをしたので、被告らは新井弁護士に原告代理人となることを依頼した。当該事件においても、同弁護士は本件映画の原作の著作権は被告Aにある旨の主張をした。
(5) その後、Bは、原告と被告Aに対し、原告に対しては本件映画の上映又は頒布の差止めを、被告Aに対しては本件映画の原作についての著作権及び著作者人格権の確認と、著作権使用料を不当に利得したとして、その返還を求める前訴を提起した。前訴において、新井弁護士は被告Aの代理人となったため、原告は他の弁護士を代理人として選任した。
(6) 被告Aは、前訴においても、本件映画の原作者は自分であることを主張する一方、本件念書を原告に差し入れたこともあり、原告もこれらを信頼し、被告Aの主張に添う主張をした。しかしながら、前訴において被告Aの主張は認められず、やむなく原告は前訴において和解をせざるを得なくなったものである。
〔被告らの主張〕
(1) Bから提起された前訴において被告Aが漫画「軍鶏」の原作者は自分であることを主張したとの事実、同訴訟において原告が被告Aの主張に沿う主張をしたとの事実は認めるが、その余は不知。
(2) 本件映画及びその原作である被告A執筆にかかる著作物(本原作)は、漫画「軍鶏」の第1話から第120話(双葉社刊行の単行本第1巻ないし第12巻に収録)までに対応するものである。そして、この第1話から第120話までの部分の原作者が被告Aである旨の主張が認められたからこそ、前訴における和解条項に、Bと被告Aが、同部分につき被告Aが原作者としての権利を有することを確認するとの条項が盛り込まれたのである。
(3) 確かに漫画「軍鶏」の映画化はBの翻意により中止に追い込まれたが、最終的に完成した本件映画の原作は漫画「軍鶏」ではなく、漫画「軍鶏」の第1話から第120話までの原作者たる被告Aが自ら執筆した著作物なのであるから、その原作の映画化に問題がないことは明らかである。そして、Bとの間で紛争が発生した当初から今に至るまで、被告らがその主張を変えたことは一度もない。
(4) Bとの和解の締結は原告の意思に基づくものであり、原告がその意に反して和解を余儀なくされたとの事実は存しない。
3 争点(1)ウ(本件使用契約に基づく債務不履行の事実があるか)について
〔原告の主張〕
(1) 原告が損害を被ったのは、被告らが、Bとの関係を懸念した原告に対し、原作の著作権者は被告Aであることを保証し、その後Bからの訴訟が提起された後の平成20年6月20日にも、本件念書を原告に差し入れる等、自己が著作権者であることを強調したことから、原告がこれを信じ、本件映画の制作等の営業活動を継続したことにより生じたものである。
(2) そして、本件使用契約第14条において、当事者の一方が本件使用契約に違反し、相手方に損害を与えたときは、その相手方に損害の賠償を請求することができる旨が定められていることから、前訴での意に反する和解に基づく原告の損害は、本件使用契約第1条の保証及び本件念書の定めに反したことにより生じたものである。
 したがって、原告は、本件使用契約第14条に基づき、被告ら両名に損害賠償を求める。
 なお、被告Aの責任根拠については、下記4〔原告の主張〕記載のとおりである。
〔被告らの主張〕
(1) 前記1〔被告らの主張〕のとおり、本件映画の原作は、被告Aが原作者である著作物であり、このことを被告会社が原告に保証したその内容に一切誤りはないのであるから、被告らが原告に対し、何らかの責任を負う理由はない。
(2) 原告は、Bとの間で訴訟上の和解を成立させたことにより、営業活動を行うことができなくなった、Bに対して和解金の支払を余儀なくされ損害を被った等と主張するが、訴訟上の和解は、前記のとおり、原告が自身の判断において成立させたものであって、それにつき被告らが責任を問われる理由はない。
(3) 前訴の和解条項のとおり、漫画「軍鶏」の第1話から第120話までに対応する原作の著作権者は被告Aである。したがって、被告らが原告に対して保証した内容に偽りは一切ない。よって、被告らに本件使用契約違反はなく、これを理由とする原告の請求には理由がない。
(4) また、原告が漫画「軍鶏」そのものの実写化を目指していたのであれば、映画の原作となる漫画「軍鶏」につき、Bが著作権者としての権利を有していることは明らかなのであるから、仮に被告Aが原告に対し映画化に関してはBから一任されている旨伝えていたとしても、映画製作会社である原告は、自身において、漫画「軍鶏」の映画化につき、著作権者たるBから承諾を得るべきものであった。それを怠ったことにより原告に損害が発生したとしても、それは被告らの関知するところでない。
(5) 被告Aの責任についての反論は、下記4〔被告らの主張〕記載のとおりである。
4 争点(1)エ(被告Aは本件使用契約の実質的当事者として債務不履行責任を負うか)について
〔原告の主張〕
 本件使用契約締結の際、被告会社の税理士から、当該契約に伴う種々の問題の処理については、被告Aとするより被告会社とした方が対応しやすいとの進言があったとのことで、契約締結先を被告Aではなく、同人が代表者となっている被告会社として本件使用契約が締結された。なお本件使用契約の締結先は被告会社とされていることから、その第1条第1項においては、被告会社が本原作の著作権者として、本契約を締結する権限を有することを保証するとされているが、第7条において、「原作:A『軍鶏』より」なる表示を義務付けていること、請求書(甲2)のとおり、本件映画の原作料、企画、脚本料の支払について、被告A個人より請求がされており、このうち企画、脚本料は被告Aの個人口座に支払うよう請求がされていること、被告Aは、本件使用契約に基づきDVD販売をするに当たり、被告会社と連名の上、平成20年6月20日付けで、漫画「軍鶏」の単独の原作者であり、本件映画の原作が映画製作に際し、提供した原作、脚本であることを保証する旨の本件念書を差し入れている事実から、本件使用契約の実質的な当事者に、被告Aが含まれることは明らかである。
 したがって、被告Aは本件使用契約の実質的な当事者として、本件使用契約第14条に基づき、被告会社と連帯して責任を負う。
〔被告らの主張〕
 本件使用契約の実質的当事者に被告Aが含まれるとする原告の主張は争う。
 原告との間で本件使用契約を締結したのは飽くまでも被告会社であり、被告会社と被告Aとは別人格である。
5 争点(2)(原告の損害額)について
〔原告の主張〕
 原告は、本件使用契約に基づき、営業活動を開始し、前訴の和解成立時までに、合計4億3801万9684円を支出し、一方収入は1億1916万5464円となっていた。しかし、前訴の和解により、本件映画の上映、頒布以外の営業活動が不可能となってしまった上、本件映画のDVDの販売等を依頼していた協力会社である株式会社ポニーキャニオン(以下「ポニーキャニオン」という。)が手を引いてしまったことも加わり、和解成立以降の営業活動が不可能となってしまったため、原告は差引き3億1885万4280円の損害と、和解に基づきBに支払を余儀なくされた和解金150万円の合計3億2035万4280円の損害を被った。
 よって、原告は、被告ら各自に対し、3億2035万4280円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年9月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔被告らの主張〕
 本件映画のDVDの販売等を依頼していたポニーキャニオンが手を引いたことは認めるが、本件映画に関する原告の収支については不知、その余の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 前記第2、1の前提となる事実、証拠(甲1ないし30、乙1ないし36、証人E、証人F、被告兼被告会社代表者A)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
(1) 被告Aによる「アンダードッグ」の制作
 被告Aは、昭和55年に発生した、受験生が金属バットを使用して両親を殺害した事件に端を発し、こうした心の病というべき題材を作品化すること、及び子供を空手道場に入会させた平成5年頃から格闘技にも興味を持ったことから、その後に発生した少年による凶悪事件等の影響も受けながら、平成9年末頃までに、これらに着想を得たシナリオ作品として「アンダードッグ」を制作した。
 そのあらすじは、次のとおりである。すなわち、自身の両親を殺害した東大志望の高校生成島亮は、医療少年院に入所して無期懲役囚の空手指導者黒川健二に出会い、少年院の中で空手の達人となって出所する。世間では空手興業「リーサルファイト」が流行していたところ、その興行はベイテレビがオンエアし、人気を博していた。少年犯罪者として二度とエリート人生に戻れず、激しくひがんだ亮は、空手の技にしか頼ることができず、その拳で人生を取り戻したいと願い、リーサルファイトに挑もうとする。そして、亮は、そこで輝いているチャンピオン菅原直人を倒すことに執念を燃やす。しかし、まっすぐに空手道を歩む菅原は亮を相手にしない。そのため恋人である船戸萌未を強姦し、菅原を怒らせて対決に引きずり込む。その試合をテレビ局や望月健介播竜会館長はうまくプロデュースし、利用していくが、望月は善悪を飲み込んだ複雑な人物で、事態の推移を見守り、時代の本質を見据えている。亮は菅原との試合に臨むが、菅原のあまりの強さに初めて自分の身体感覚としての恐怖を感じ、人間としての感性を取り戻し、弱虫な自分、両親から愛されていたこと、自分が何より温かい愛を求めていたことを自覚していく。しかし、その時、チャンピオンである菅原に完膚なきまでに打ち倒されてしまう、というものである。〔乙1〕
(2) 被告Aによる「アンダードッグ」の映画化の申入れ
 平成9年(1997年)頃、被告Aは、原告に対し、「アンダードッグ」の実写による映画化の申入れをした。当時原告の取締役であったE(以下「E」という。)は、この申入れを受け、その頃、被告Aの執筆した239頁からなる「アンダードッグ」のシナリオ(乙1)ないしこれと類似のものを、被告Aから受領した。〔甲21中の尋問調書13頁〕
 しかし、平成9年当時においては、原告による映画製作は見送られた。
(3) 漫画「軍鶏」の連載
 その後、被告Aは、「アンダードッグ」に推敲を重ね、これを「漫画アクション」から漫画作家であるBの作画による漫画「軍鶏」として連載するに当たって、その脚本を提供することとした。
 漫画「軍鶏」は、双葉社発行の「漫画アクション」において、平成10年5月19日発売の同誌において連載が開始され、平成15年(2003年)7月15日号まで同誌上において連載されたが、その後休止となった。〔乙33、13頁〕
 平成16年5月25日以降、漫画「軍鶏」は、講談社の発行する漫画雑誌「イブニング」において連載され、平成19年1月23日号まで連載された。
 漫画「軍鶏」においては、作者としてBが、原作者として被告Aが表記されていた。〔甲6、7、弁論の全趣旨〕
(4) 漫画「軍鶏」の原作等
 漫画「軍鶏」については、双葉社に連載していた当時においては、主として、漫画作家であるBが作画を担当し、原作を被告Aが担当した。
 被告Aは、双葉社を通じ、Bに対し、遅くとも平成10年3月31日には、原稿に「軍鶏」と題名を付して、漫画用脚本を交付していた。その脚本は、前記(1)の「アンダードッグ」とほぼ同じ内容であり、漫画「軍鶏」の主人公である亮が、菅原と東京ドームで対戦し、それが終了するまでの第120話までの連載分に対応する。〔乙6〜8、10〜24〕
 被告AからBへ交付された上記脚本用の原稿には、頭書として、「今回は今後、7、8話分のストーリー展開のつもりです。とは言うものの、実のところ何話分になるのか、Bさんのみぞ知るというところでしょうか。お任せします。」との記載があるものもある。〔乙12〕
 また、1999年(平成11年)3月3日に被告AがB宛てに送った草稿には、「Bさま 黒川健児と望月謙介のキャラと関係性について書いてほしいとのこと。今回はシナリオ形式でなく、書きます。○黒川健児 純粋な日本人でありながら、生まれは満州。・・・」等の記載がある。〔乙14〕
 双葉社担当者G宛てにファックス送信した「『軍鶏』2000年(平成12年)8月17日原稿」と題する被告Aの原稿には、「G様 『軍鶏』の、今後の大きな構成について、つまり、東京ドームが終わって以降、物語がどう展開すべきか、について、ぼくの案を試案として作ってみました。・・・また、Bさんが、ドームの後半をどうまとめるのか、大きな流れの面からも考察して頂ければ、何かヒントになるのではないかと思います。
 B様 ますます筆が冴えて、盛り上がってきていると思います。そこで、ドームの後半戦がどうまとまるべきかを含めて、今後の『軍鶏』の展開を考察してみたいと思います。・・・Bさんの乗りまくった絵と演出があれば、『軍鶏』は記念碑的な作品にまで昇華し得ると思います。」などとの記載がある。〔乙23〕
 なお、被告Aが双葉社を通じてBへ提供した上記漫画用脚本は、前訴における双葉社への送付嘱託を通じて平成20年9月4日に東京地裁に送付され、その後、前訴の書証として提出された。〔乙9〕
(5) 本件映画を巡る企画、原告と双葉社との契約等
 平成15年5月頃、再び、被告Aから、原告に対し、「軍鶏」の映画化についての依頼がされた。その当時においては、漫画「軍鶏」が連載中であったこともあり、原告においても、漫画「軍鶏」の映画化として企画を進行することとなった。
 そして、平成15年(2003年)12月26日、原告は、双葉社との間で、「原作優先使用契約書」記載の契約を締結した。そこでは、「甲(注;双葉社)がその著作権を管理する下記の著作物の優先的使用に関し以下のとおり契約した。」として、以下のとおり記載されている。なお、この契約には、B及び被告Aの署名押印等はない。〔甲25〕
 「著作物の題号:『軍鶏』(以下『本著作物』という)
  著作者:B、A(以下『原作者』という。)」
 「第1条(優先使用許諾) 甲は乙(判決注;原告)に対し、本契約に定める条件に従い乙が優先的に以下の各号を行うことを許諾するものとする。
 (1)本著作物に基づく実写映画(以下『本件映画』という)を企画・製作すること。」
 「第2条(期間) 乙が前条に基づき本著作物を優先的に使用できる期間は、本契約の締結日から6ヵ月経過する日迄とする。
  第3条(対価)
 (1) 乙は本契約による本著作物の優先使用許諾の対価として
  金300、000円(消費税別)を2004年1月末日迄に甲指定の銀行口座に振込みにより支払う。
  ・・・
 (2) 前項の対価は乙の本件映画の製作・放送が乙の企画提示先に於いて決定され、それに基づき第2条に定める優先使用期間内に甲・乙間で本著作物の原作使用契約が締結された場合は、その原作使用料の一部に充当する。
  ・・・」
 「第4条(保証) 甲は乙に対し、本著作物につき原作者から本契約および第3条(2)項に定める原作使用契約を締結するに足る完全な権利を取得済みであることを保証する。」
 原告は、上記優先使用契約に基づき、6か月間の優先使用許諾の対価として、双葉社に対し30万円を支払った。なお、この30万円については、原作使用契約が締結された際には、原作使用料の一部に充当されることとなっていた。〔甲21中の尋問調書26頁、甲25〕
 しかし、結局、双葉社と原告との間で、上記優先使用契約に引き続き予定された原作使用契約は締結されるに至らなかった。〔弁論の全趣旨〕
 双葉社の漫画アクションの休刊を受けて、平成16年5月25日以降、漫画「軍鶏」は、講談社の「イブニング」誌に連載されることとなったが、これについて、Bは被告Aと相談することなく一存で決めるなどして、Bと被告Aとの関係は悪化していった。〔甲24の2、4頁〕
(6) 被告Aによる「軍鶏外伝」の出版
 被告Aは、平成17年6月15日に、訴外株式会社文芸社から「軍鶏外伝」を出版したが、これについて、Bは了承をしていないとしている。〔甲28、乙33、15頁〕
 この「軍鶏外伝」の内容は、被告Aにおいて、「アンダードッグ」にその後の推敲を重ねたものである。
(7) 原告と被告会社との本件使用契約の締結に至る経緯
 Eは、本件映画の製作段階におけるエグゼクティブ・プロデューサーに就任し、製作担当の統括的立場にあり、原作と予算の確保等を担当していた。〔甲24の1、1頁〕
 Eは、漫画「軍鶏」の映画化のため、上記双葉社と同様、講談社とも漫画作品の映画化についての契約を締結しようとしたが、Bの映画化への協力が得られず、講談社との契約を断念した。〔甲24の2、5頁〕
 Bは、平成18年9月ころ、講談社を通じて漫画「軍鶏」の映画化を認めない旨を被告Aに伝え、被告Aは、Eにその旨伝えた。〔被告A尋問調書10、29頁〕
 Eは、Bの協力が得られないこととなっても、それまで進めてきた本件映画の製作の企画を中止することはできないとして、実写映画であってアニメーションではないのであれば、漫画の絵自体は使用できなくても構わないとして、被告Aと契約することとした。ただし、契約先については、契約内容が変更になっても対応できるように、被告A個人との契約ではなく、被告会社と原告とで契約をすることとし、Bの協力が得られることとなった場合には、被告会社とBが契約をすればよいと考え、原告と被告会社との間で本件使用契約を締結することとした。〔乙25、3〜4頁、甲24の1、4頁〕
 そこで、被告Aは、「アンダードッグ」を基に創作された漫画「軍鶏」の第120話までの脚本を基にして本件映画の脚本を執筆し、平成17年秋頃にこれをEに交付し、Eは、その後、これを当時本件映画のプロデューサーの地位にあったF(以下「F」という。)を通じて原告が本件映画の製作を依頼した香港のスタッフに送付した。〔証人E尋問調書2頁、被告A尋問調書8頁〕
 原告は、上記のとおりBの協力が得られないことから本件映画について、漫画「軍鶏」の絵の使用、及び漫画「軍鶏」を利用したプロモーションを一切断念することとなった。〔甲24の2、5頁〕
 そして、Eから、香港の映画製作会社に対し、漫画の絵自体を原作とすることができなくなったことから、本件映画の映像には、漫画「軍鶏」自体をもととすることがないように指示がされた。〔証人E尋問調書15頁〕
 これに沿い、本件映画の台本として、原告が映画製作を依頼した香港の映画製作スタッフであるD(2012年〔平成24年〕10月13日死亡。)により、本件映画の台本として、平成18年9月1日付け第1稿、同月28日付け第2稿がそれぞれ作成された。〔甲12−1、2〕
 Dは、本件映画用の台本として、上記第1稿、第2稿を作成した後に、本件映画の撮影に用いる撮影稿を作成した。〔甲16、3頁〕
 これら本件映画用台本の第1稿、第2稿に、Same Way Production所属の映画監督のH(H)、同プロデューサーのC、Fがそれぞれの案を加え、最終的な決定稿である撮影稿は、2006年(平成18年)10月9日付け「定稿」(以下「本件撮影台本」という。)として、広東語で作成された。〔甲18−2、24−1、5頁〕
 平成18年10月13日が本件映画の香港でのクランクインの日とされた。〔乙32、7頁〕
(8) 本件使用契約の締結
 平成18年10月「吉日」付けで、同月頃、原告と被告会社は、「軍鶏」の実写による映画化を目的とする本件使用契約を締結した。その内容は、次のとおりである。
 「株式会社ヒューマン・ストーリー(以下、「甲」という)と株式会社アートポート(以下、「乙」という)とは、甲が許諾権を有する下記の著作物「軍鶏」(以下、「本原作」という)の原作使用に関し、下記の通り契約を締結する。」とした上で、以下のとおり記載されている。なお、本件使用契約には、「丙」が登場する(5条、8条1項、13条1項柱書、同2項、末文)が、その「丙」に該当する者が誰かについての記載はない。〔甲1〕
 「第1条(保証)
 1.甲は、乙に対し、甲が本原作の著作権者として本契約を締結する権限を有することを保証する。
 2.乙は、製作者として、本契約を締結する権限を有することを甲に保証する。」
 「第2条(許諾の内容)
 1.甲は乙に対し、下記に従い本原作を使用して実写映画(以下、「本件映画」という)を独占的に製作し、日本国内外で上映(・・・)、及び本件映画を再編集しビデオグラム化(・・・)、複製、頒布(・・・)、テレビ放送・・・による利用を行うことを許諾する。
 2.今後開発される新たな媒体、メディアによる利用も含むものとする。
 1)実写映画の概要
  題名:「軍鶏」
  仕様:オールカラー実写作品 100分(予定)
 2)ビデオグラムの概要
  題名:「軍鶏」
  仕様:DVD 全1巻 約100分(予定)
  ・・・
  販売元:株式会社ポニーキャニオン(予定)
 「第3条(著作権使用料及び支払方法)
  ・・・
 2.乙は甲に対し、前項の原作料として、3、000、000円(源泉税含む。消費税別)を本契約締結後60日以内に支払うものとする。但し、本金員は、事由の如何を問わず返却は請求できない。
  ・・・」
 「第4条(制作方法)
  乙は、本原作を使用して本件映画及び本件ビデオの制作・宣伝をするにあたり、以下の事項を遵守しなければならない。
  ・・・
 3)制作にあたっては、事前にシナリオ2部を甲に提出する。
 「第5条(関係者の権利処理)
  本件映画の制作・上映・放送、及び本件ビデオの製作・販売において必要な監督、脚本、音楽、美術、俳優、実演家、その他の著作権、著作隣接権の権利処理は全て乙及び丙の責任において行う。」
 「第7条(原作の表示)
  乙は、本原作を使用する本件映画のタイトルクレジット、脚本、ならびにポスター、パンフレット、チラシ等の宣伝物に次の原作表示をしなければならない。また、その他の広告・宣伝物についても他の表記事項と均衡を考慮しつつ可能な限り同様の表示を行うものとする。
  但し、本作品に別途製作出資社が参加した場合は新たにその社名を追加するか、製作委員会名に変更する場合がある。
  原作:A『軍鶏』より
  (C)2006 A/アートポート/ポニーキャニオン」
 「第14条(損害賠償)
  甲乙において、本契約に違反し相手方に損害を与えた時は、その相手方は損害の賠償を請求することができる。」
(9) 映画撮影用台本の完成等
 上記のとおり、広東語によりDにより作成され、H、C、Fが案を加えて完成された本件撮影台本は平成18年(2006年)10月9日付けで作成されたところ、同月26日付けで、その日本語訳である「撮影台本」が、本件使用契約に基づき被告Aのもとに送付された。〔甲18−1、18−2、乙26〕
(10) 本件映画の撮影等
 本件映画は、本件撮影台本を基に、実際の撮影が行われた。〔証人E尋問調書16頁、証人F尋問調書31頁〕
 しかし、本件撮影台本には、本件映画の映像には存在する、主人公亮が対戦者菅原と対戦する最終場面において、亮のガウンにRの文字がある旨や、舌を出して菅原を挑発する等の記載はない。また、本件撮影台本には亮の「両目」が赤い旨の記載があり、「左目」のみが赤い旨の記載はない。〔甲18−1、乙26、36〕
 また、本件撮影台本においては、Cの提案を採用した結果、主人公亮の両親を殺害したのは、漫画「軍鶏」や被告Aが提供した脚本においては亮とされていたところ、これを妹の夏美であるとすることとし、それが亮と菅原との対戦中の最終場面において明らかになるシーンが挿入されている。〔甲18−1〕
 平成18年11月1日には、本件映画のタイにおける撮影が開始された。〔甲7、20頁〕
(11) 被告Aに対する脚本料等の支払
 平成18年12月11日付けで、被告Aは、原告に対し、本件映画の企画・脚本料として350万円を請求し、原告から、その頃支払がされた。〔甲2−1、乙28〕
(12) 原告とポニーキャニオンとの共同製作契約の締結
 平成18年(2006年)12月14日付けで、原告は、ポニーキャニオンと、本件映画に関する共同製作契約を締結した。
 ポニーキャニオンは、企画立案や原作決定、制作等には一切関与せず、DVDの販売会社として、売上げを保証する条件で参加した。〔甲24−1、5頁〕
(13) Bの認識等と漫画「軍鶏」の連載休止
 Bは、遅くとも、平成18年暮れまでに、本件映画について具体的な企画が進行しているのを知った。なお、Bは、原告の関係者と会ったことはない。〔甲28〕
 漫画「軍鶏」は、平成19年1月23日号まで連載されたが、再び休止となり、Bは作品制作への熱意を維持できないとして、漫画「軍鶏」の連載は中断された。〔甲27、16頁〕
(14) 本件映画の完成と原告に対する原作料の支払、完成披露試写会の状況等
 平成19年4月頃に、本件映画が完成した。
 そして、同年8月4日付けで、被告会社は、原告に対し、本件映画の原作料として、300万円を請求し、その頃支払がされた。〔甲2−2、乙29〕
 なお、この原作料300万円については、Bが漫画「軍鶏」の映画化の企画に明示的に反対はしていない時期に、Bと被告A2名分の原作料として金額が決まったものであるところ、その後Bが映画化の企画に明確に反対した後も、その金額は変わることはなく、被告Aは、同人が受領すべき分は半分であるなどと原告側から言われたこともなかった。〔乙32、13頁〕
 平成20年1月31日、本件映画の完成披露試写会が開催された。〔弁論の全趣旨〕
 同年2月2日に、被告Aが、E、Fらに送信したメールには、「先日のマスコミ試写会ではお世話になりました。・・・MCの方が、せっかく『映画に向けて、原作と違えた点は?』という趣旨の質問をしてくれたのに対し、『本来映画企画だったので、何も』と答えてしまいました。考えてみると、宣伝なのだから、わずかなことでも映画に観客の注意を引くべき時です。なので、『映画では、最後の肝心なところがあっといわせるほど違っている、漫画のファンは凄く驚くだろう、それは見てのお楽しみ』というくらい、はったりをきかせるべきでした。事実、親殺しの真犯人が違えてあるのですから、物語が根底からひっくり返っていることになる。Cからの提案でしたが、結果はそれなりに成功していると思います。なので、今後は『映画に向けて、香港スタッフと協議し、映画のラストを変えることにした、物語を根底からひっくり返すことは冒険だったが、漫画と同じ事をやったのでは映画にする意味がない、作品をビビッドに生きたものにするため、自分自身に挑戦した、あとは観客の審判を待ちたい、『軍鶏』ファンとおれの勝負だ!』くらいのコメントを出したいと思います。次にもしおれに喋る機会があったら、是非そう訴えていきたい。・・・今、原作が『軍鶏』であるということしか記事のポイントがないとすると、その『軍鶏』企画が、映画としてどう興味を引くのか、という記事の書き方をリードしてあげる。・・・」との記載がある。〔甲17〕
(15) 本件映画の宣伝パンフレットの作成
 平成20年3月頃に、原告が作成した本件映画の宣伝パンフレットには、主人公である亮がリング上で舌を出して相手を挑発している場面、亮のガウンに大きくRの文字のある場面が宣伝用の画像として使用され、「人気コミック『軍鶏』の原作者であり、・・・の脚本家であるAが、自ら脚本を担当。“香港映画界の三池祟史”と言われるH監督が独自の世界観で映画化し、新たなヴァイオレンス・アクションを誕生させた。」、「原作:A『軍鶏』」、「脚本:A/D」と記載されている。〔乙36〕
(16) Bによる仮処分申立てに至る経緯とポニーキャニオンの対応等
 平成20年3月19日、Bは、原告に対し、本件映画の製作・上映の中止の要請をし、同旨の要請をポニーキャニオンに対しても行った。〔甲4、19、8頁〕
 これに対し、同年4月2日付け原告(アートポート)代理人(現在の被告代理人新井弁護士)作成の回答書においては、「本件映画は原作者A氏の軍鶏を原著作物とし、A氏が脚本を書いているものであり、漫画作品『軍鶏』を原著作物としている訳ではありません」との説明をしている。〔甲5〕
 同年4月11日付けで、Bは、原告に対し、本件映画の上映、頒布の差止めを求める本件仮処分の申立てをした。〔甲6、11〕
 ポニーキャニオンは、同年4月17日の時点で、本件映画の製作会社から自社の名前を抹消し、また、原告に相談することなく、本件映画のメイキングDVDの販売を中止した。〔甲7、22頁、甲24−1、5頁〕
 同年5月2日初版発行で、被告Aは、「小説軍鶏」を訴外長崎出版株式会社から発行した。「小説軍鶏」には、「本書は『軍鶏外伝』(文芸社刊/2005年)を改編、改題した。」と記載され、本件映画の画像が挿入されている。〔乙30〕
(17) Bによる前訴の提起と、原告とポニーキャニオンとの共同事業契約の締結、被告Aによるポニーキャニオンへの念書の差入れ等
 平成20年5月2日、Bは、本件仮処分の申立てを取り下げ、前訴を提起した。〔甲7〕
 同年5月12日付けで、原告とポニーキャニオンは、「共同事業契約書」と題する契約を締結した。その内容は、同契約の締結により、原告とポニーキャニオンとの間で本件映画につき締結した平成18年(2006年)12月14日付け「共同製作契約書」を共同製作契約書締結の日に遡って解約するものとし(第1条(目的))、本件映画の製作費について、既に平成19年4月27日までにポニーキャニオンは原告に対し消費税を別にして1億1000万円を支払っているが、製作費の負担額を見直すこととし、原告を9割の1億9800万円、ポニーキャニオンを1割の2200万円とすることとして、これにより発生する差額(ポニーキャニオンが原告に対し過払となる分)9240万円(消費税を含む金額とする。)は、同日、原告とポニーキャニオンとの間で締結された、劇場用映画「3DAYS OF NIGHT」の共同事業契約書に基づくポニーキャニオンの原告への支払債務と対当額にて相殺し、その余の5425万2450円の原告のポニーキャニオンへの支払債務については、原告とポニーキャニオンとの間で別途協議することとされた(第5条(製作費の出資)、第6条(乙〔判決注;ポニーキャニオン〕の出資比率変更に伴う処理))。〔甲23〕
 同年6月16日付けで、被告Aは、ポニーキャニオン宛ての念書を差し入れた。〔甲20〕
 その念書(甲20)の記載内容は、下記のとおりである(網掛け部分は甲20には記載がなく、本件念書〔甲3〕にはあるもので、裁判所が付記。)。
 記
 「念書
 株式会社ポニーキャニオン御中
 私、A(株式会社ヒューマン・ストーリー代表取締役社長)は株式会社アートポートと2006年10月に締結した原作使用契約書(注:甲1)に基づき、DVD販売をするにあたり、漫画『軍鶏』(本件念書には「の単独の」がある)原作者であり、映画『軍鶏』の原作(本件念書には「が映画製作に際し提供した原作、脚本」がある)であることを保証する。
 2008年(注:平成20年)6月16日(甲3は同月20日)
 〒240−0111
 神奈川県三浦郡<以下略>
 A 認印」
 また、同年6月20日付けで、被告Aと被告会社は、原告に対し、本件漫画の単独の原作者であること等を保証する旨の本件念書を差入れた。本件念書の記載は、下記のとおりである。〔甲3〕
 記
 「念書
 株式会社アートポート御中
 株式会社ヒューマン・ストーリーとAは株式会社アートポートと2006年10月に締結した原作使用契約書に基づき、DVD販売をするにあたり、漫画『軍鶏』の単独の原作者であり、映画『軍鶏』の原作が映画製作に際し提供した原作、脚本であることを保証する。
 2008年6月20日
 会社
 〒240−0111
 神奈川県三浦郡<以下略>
 (株)ヒューマン・ストーリー
 代表 A 社印
 個人
 〒240−0111
 神奈川県三浦郡<以下略>
 A 認印」
 さらに、同年6月20日付けで、被告Aと被告会社は、ポニーキャニオンに対しても、本件念書と全く同内容の念書を作成している。〔甲2〕
 Fによれば、ポニーキャニオンは上記念書を受理したが、その後、コンプライアンス上問題が生じているとして共同制作者から離脱した、これにより、原告は、ポニーキャニオンに対し、共同事業費3億2000万円の半額を返還することとなった、とする。〔甲19、8頁〕
(18) 前訴における主張等の経緯
 原告は、前訴において、訴訟代理人として鈴木祐一弁護士らを選任し、被告Aは本件被告代理人である新井弁護士を訴訟代理人として選任した。
 原告は、前訴における平成20年6月27日付け答弁書において、漫画「軍鶏」の単行本に表記されているとおり、被告Aが漫画「軍鶏」の原作者であることは明らかであり、漫画「軍鶏」の全ての著作権及び著作者人格権がBに帰属するとのBの主張は誤りであって、原告は、漫画「軍鶏」とは異なる被告A原作に係る著作物及びそれをもとにした脚本に基づき適切に本件映画を製作した旨を主張した。〔甲13、4頁〕
 平成20年9月4日には、被告Aが、双葉社を通じ、Bに交付した原稿が、送付嘱託の手続を通じて裁判所に送付された。〔乙9〕
 平成20年10月28日付けのBの第3準備書面において、Bから、本件映画と漫画「軍鶏」とを視覚的に比較すると少なくとも75個の共通点ないし類似点があるとし、このうち特に同準備書面添付別紙(省略)のシーン番号のうち10カ所の指摘として、下記共通点は漫画「軍鶏」の表現そのものである、との主張がされた。〔甲26〕
 記
@別紙シーン3及び65において、左目の赤い亮が舌を出していること
A別紙シーン16において、亮が便器に顔を突っ込まれる等の暴行を受けていること
B別紙シーン20において、亮が手足を縛られ犬のように食事を貪ること
C別紙シーン29において、亮が迷彩服のジャケットを着ていること
D別紙シーン36において、亮が血で水面に映る月を2つに割ること
E別紙シーン37において、亮のガウンにRの文字があること
F別紙シーン49において、望月と黒川が目をつぶし合うこと
G別紙シーン58において、亮が迷彩模様のペインティングをしていること
H別紙シーン60において、入場の両側が複数の灯火で飾られていること
I別紙シーン72において、菅原の右手の骨が折れていること
 なお、主人公の亮が菅原に舌を出して挑発する場面、その際、亮の左目が赤いこと、亮のガウンにRの文字があること等については、少なくとも本件撮影台本にはその記載が存在せず、かえって、「亮の唇は、挑戦的に侮蔑の笑いを浮かべている。」、「亮の両方の赤い目」との記載がある。〔甲18−2。ただし、乙1〔アンダードッグ〕の221、223頁には、亮の左目が赤い旨の記載はある。〕
 前訴における平成21年3月13日付け「訴変更申立書」において、Bは、被告Aによる小説軍鶏の出版は、Bが著作者である漫画「軍鶏」についてのBの著作権、著作者人格権を侵害するものであるとして、損害賠償として100万円の支払を求める訴えを追加した。〔甲29−1〕
 原告は、前訴における平成21年7月16日付け準備書面3において、「これまでに再三主張しているように、本件映画作品は被告Aの著作物たる『アンダードッグ』に被告Aが加筆したものを原作としているのであって、本件漫画作品を原作とするものではないから、仮に本件漫画作品が原告と被告Aとの共同著作物であったとしても、本件映画作品は原告の著作権を何ら侵害するものではない。」、「被告アートポートは、本件映画作品が実写映画であること自体をもって、本件漫画作品の本質的特徴を直接感得できないと主張するわけではなく、本件漫画作品及び本件映画作品がいずれも被告Aの原著作に基づく著作物であるとすれば、本件漫画作品は、かかる原著作物を絵によって表現することが本質であるといえるところ、本件漫画作品の絵を一切利用していない本件映画作品によっては本件漫画作品の本質的特徴を直接感得できないと主張しているのである。また、これまでに述べたとおり、被告アートポートとしては、本件漫画作品の連載開始前から被告Aが温めていた映画企画に魅力を感じ、本件映画作品の製作を決めたものであって、本件映画作品の製作に当たっては、当初より、被告Aが執筆していた『アンダードッグ』に被告Aが加筆したものに、製作スタッフがさらに手を加えて脚本を製作していた。したがって、その製作の経緯からしても、本件映画作品の本件漫画作品に対する依拠性を認めることもできない。」と主張した。〔乙31〕
 平成21年9月24日の前訴における弁論準備期日において、裁判所から、原告に対し、本件映画については漫画「軍鶏」の作品独自の表現を用いており、漫画「軍鶏」に依拠しているとの暫定的な心証開示がされた。当該期日には、Eのほか、Fも出頭していた。〔甲14−1、3頁〕
 平成21年9月中に、Eは、本件映画の原告における遂行責任者でありながら、原告に多大な損害を与えたとして、原告を退社した。〔甲19、3頁、甲21、尋問調書部分1頁、甲24の1、1頁〕
 平成22年1月15日に、前訴において、原告(本訴。株式会社アートポート。)申請の証人として、Eの証人尋問が行われた。〔甲21〕
 Eは、証人尋問において、本件使用契約第4条にいう、被告会社が許諾権を有する著作物「軍鶏」とは、漫画「軍鶏」ではなく、被告Aが書いた脚本を原作とし、これを香港の脚本家に渡して香港版の映画シナリオが作成され、この香港版シナリオを基に映画撮影がされた(甲21、尋問調書中5〜6頁)、本件映画の製作に当たってはBの了解を取る必要があると認識しており、実際それを取ろうとして(同19〜20頁)、双葉社にBとの面会を申し込んだが、双葉社の担当者に断られた(同21頁)、本件映画の撮影を担当する香港のプロデューサーには、漫画「軍鶏」を原作とする契約は締結されなかったので、漫画「軍鶏」を原作とせず、漫画「軍鶏」を参考にしないように伝えていた(同29〜30頁)、本件映画の脚本には、主人公の亮のガウンのデザインがないのにもかかわらず、本件映画の映像では、亮の背中にアルファベットのRの文字があり、その映像が漫画「軍鶏」の漫画場面と極めて似たものとなっていることについて、監督がそうしたかったからではないかという以上に理由を説明できない、としている(同30頁)。
 前訴の平成22年1月29日付け「訴変更申立書」において、Bは、漫画「軍鶏」の著作権確認請求につき、被告Aが漫画「軍鶏」につき著作権及び著作者人格権を有しないことを確認する旨に訴えを変更した。〔甲29−2〕
 前訴における平成22年2月23日の弁論準備手続期日において、和解案として、裁判所から、骨子、漫画「軍鶏」の12巻までについては被告Aの原作とする、「小説軍鶏」に関して被告AからBに100万円を支払う、本件映画に関して被告Aと原告がBに対して数百万円を支払うとするが両者の負担割合については損害に関する資料が提出された後検討する、との考えが示された。〔甲14の2〕
 その後、前訴における平成22年3月24日付け「訴変更申立書」による訴え変更までに、Bは、被告Aに対し、「軍鶏外伝」及び「小説軍鶏」は、Bが著作者であり著作権を有する漫画「軍鶏」についての翻案権を侵害するものであるとし、「軍鶏外伝」の出版による著作権、著作者人格権侵害による損害賠償として256万0170円の、「小説軍鶏」の出版による著作権、著作者人格権侵害による損害賠償として114万0250円の、被告A及び原告に対し、本件映画の製作及び上映に関し、共同不法行為により連帯して1100万円の、被告A及び原告に対し、本件映画及び「メイキングオブ軍鶏」のDVDの頒布に関し、共同不法行為により連帯して4400万3990円の、被告A及び原告に対し、本件映画につき海外での著作権侵害の共同不法行為により連帯して4180万円の各支払、並びに、原告に対し、本件映画及び「メイキングオブ軍鶏」のDVDの頒布の差止め及び廃棄を求める訴え(上記は主位的請求のみ)に請求を拡張した。〔甲29−3、4〕
 前訴における平成22年6月9日の弁論準備手続期日において、裁判所からは、(1)本件映画に関して、漫画「軍鶏」の翻案権侵害は免れないとの心証が示された上、損害としては本件映画により利益は得ていないということであるので、著作権法114条3項に基づく使用料相当損害額となること、和解条項としては原告と被告Aが連帯して支払う形としても、原告が被告Aに既に支払った分から支払うことになると思われること、(2)本件映画のDVDに関して、本件映画とは別に、原作使用契約に基づく使用料相当額の損害はあると考えられるところ、著作者人格権侵害と併せて100万円程度の負担を検討すべきこと、との話がされた。〔甲14の3〕
(19) Bと原告、被告らとの和解の成立
 平成23年3月24日、前訴において、当事者間に和解が成立した。
 その内容は、以下のとおりである。〔甲8〕
 「1 原告と被告AことA(以下「被告A」という。)は、漫画作品「軍鶏」(以下「本件漫画」という。)のうち第1話から第120話まで(株式会社双葉社刊行の単行本第1巻ないし第12巻に対応するもの。以下、同様とする。)について被告Aが原作者としての権利を有すること及び本件漫画のうち第121話以降(ただし、株式会社講談社刊行分をすべて含む。以下、同様とする。)について被告Aが原作者としての権利又は著作者としての権利を有しないことを確認する。
 2 被告Aは、原告に対し、本件和解金として350万円の支払義務があることを認め、これを平成23年4月7日限り、原告が指定する次の口座に振り込む方法により支払う。
 ・・・
 3 被告株式会社アートポート(以下「被告アートポート」という。)は、原告に対し、本件和解金として250万円の支払義務があることを認め、これを次のとおり分割して、原告が指定する前項の口座に振り込む方法により支払う。
 (1) 平成23年3月31日限り 60万円
 (2) 平成23年4月28日限り 50万円
 (3) 平成23年5月31日限り 40万円
 (4) 平成23年6月30日限り 100万円
 4 被告アートポートが前項の分割金の支払を1回でも怠ったときは、当然に同項の期限の利益を失う。
 5 被告アートポートが前項により期限の利益を失うことなく第3項(1) ないし(3)の金員を支払ったときは、原告は、被告アートポートに対し、同項(4)の金員の支払義務を免除する。
 6 被告Aは、原告及び原告から委託を受けた受託者(以下「原告ら」という。)が次の(1)ないし(5)に定める行為を行うについて、原告らに対し、何らの権利も主張・行使しない。
 (1) 原告らが本件漫画のうち第121話以降を復刊し、出版物として複製、頒布、貸与すること
 (2) 原告らが本件漫画の続編を制作し、出版物として複製、頒布、貸与すること
 (3) 原告らが本件漫画のうち第121話以降及び本件漫画の続編を翻案し、アニメ、映画、演劇等の二次的著作物を制作し、これらの二次的著作物を複製、出版、貸与すること
 (4) 原告らが本件漫画のうち第1話から第120話までのストーリーを直接利用せず、キャラクターを利用して著作物を制作し、これを複製、出版、貸与すること
 (5) 原告らが本件漫画のうち第121話以降をデジタル媒体により発行し又は公衆へ送信すること
 7 被告Aは、原告に対し、次の(1)ないし(3)に定める行為をすることを許諾する。
 (1) 原告らが本件漫画のうち第1話から第120話までを復刊し、出版物として複製、頒布、貸与すること
 (2) 原告らが本件漫画の第1話から第120話までのストーリーを直接利用して翻案し、二次的著作物を制作し、その二次的著作物を複製、出版、貸与すること
 (3) 原告らが本件漫画のうち第1話から第120話までをデジタル媒体により発行し又は公衆へ送信すること
 8 原告は、前項(1)ないし(3)に定める行為を行うときには、各著作物の著作権の表示を「原作A、画B」とする。
 9 原告と被告Aは、原告らが第7項(1)ないし(3)に定める行為を行うときには、原告から委託を受けた受託者から支払われる著作権使用料について、9割を原告が、1割を被告Aが取得することを確認する。
 10 被告Aは、原告らが制作する本件漫画の二次的著作物について、第8項及び第9項に定める場合を除き、何人に対しても、著作権及び著作者人格権を一切行使しない。
 11 被告Aは、本件漫画の復刊及びその続編の出版に関し、原告及び原告が指定する出版社その他関係者に対し、本件漫画の第1話から第120話までを再出版することを許諾し、また、本件漫画のうち第121話以降を復刊し、その続編を出版することに異議を述べない。
 12 被告Aは、本件漫画の復刊及びその続編の出版につき、原告の申出があるときは、原告の指定する出版社その他関係者との間で出版その他二次的利用に関する契約(更新契約を含む。)を締結する。
 13 被告Aは、本件漫画の第1話から第120話の原作に基づく小説又は映画等の二次的著作物を制作しない。
 14 原告は、株式会社文芸社、長崎出版株式会社及び株式会社ドレミファに対し、本件に関し、損害賠償請求その他の金銭給付の請求を行わない。
 15 被告アートポートは、既に被告アートポートが別紙会社目録〔判決注;省略〕記載1ないし7の各会社との間で締結した別紙映画目録〔判決注;省略。本件映画である。〕記載の映画(以下「本件映画」という。)に係るライセンス契約(以下「本件各ライセンス契約」という。)に基づく上記各会社による本件映画の上映、頒布による場合を除き、本件映画を上映又は頒布しない。
 16 原告は、本件各ライセンス契約に基づき別紙会社目録記載1ないし7の各会社が本件映画を上映、頒布することに異議を述べない。
 17 被告アートポートは、本件各ライセンス契約を今後更新しない。
 18 被告アートポートは、別紙DVD目録記載1及び2〔判決注;省略。なお、同目録記載1が本件映画のDVDであり、同目録記載2は「メイキング・オブ軍鶏」と題する映画(メイキング映像)のDVDである。〕の各DVD(以下、両DVDを併せて「本件DVD」という。)を製造又は販売しない。
 19 被告アートポートは、本件DVDの在庫品及び録画用原版を廃棄する。
 20 原告は、被告らに対するその余の請求を放棄する。
 21 原告と被告Aは、本件に関し、原告と被告Aとの間には、本和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
 22 原告と被告アートポートは、本件に関し、原告と被告アートポートとの間には、本和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
 23 訴訟費用は各自の負担とする。」
(20) 和解成立後の経緯
 原告は、上記和解条項3項に従い、同項(1)ないし(3)に定められた金員合計150万円を、定められた期限(最終は平成23年5月31日)までに支払った。〔弁論の全趣旨〕
 平成23年6月17日、原告代表者は、被告Aに対し、「貴殿が当社を欺罔したことは、平成23年3月24日付けの東京地方裁判所民事第47部の和解調書で明らかにあって〔判決注;ママ〕おります。」などとして、具体的な案を示すことなく、原告が被った損害に対し「誠意ある対応」を要請した。〔甲9〕
 同年7月5日、被告Aは、被告代理人作成の「回答書」と題する書面において、原告の上記要請を拒否した。その「回答書」には、「本件作品の映画化は、いったんはこれを了承したBが突然翻意したことによって中止に追い込まれたにすぎず、被告Aに非はない」、「本件使用契約を締結したのは、厳密には被告会社である」などと記載されている。〔甲10〕
(21) 本件訴訟の提起
 平成24年8月24日、原告は、本件訴えを提起した。
2 争点(1)(本件使用契約に基づく被告らの債務不履行責任の有無)について
(1) 上記1の認定事実によれば、被告Aは、漫画「軍鶏」の原作者であり、漫画「軍鶏」の原作の基は、被告Aが平成9年頃完成させたシナリオ作品「アンダードッグ」であったこと、平成9年頃、被告Aは原告に対して「アンダードッグ」の映画化を申し入れたが、当時原告による映画化が一度見送られたという経緯があったこと、その後、「アンダードッグ」に記載されたストーリーを基にした漫画「軍鶏」が平成10年5月から「漫画アクション」に連載され、被告Aはその連載中原作者として「軍鶏」と題名を付した漫画用脚本をBに交付していたこと、その脚本は、漫画「軍鶏」の主人公である亮が、菅原と東京ドームで対戦し、それが終了するまでを内容とするものであり、「アンダードッグ」の内容と符合するとともに、漫画「軍鶏」の第120話までの連載分に対応するものであったこと、したがって、漫画「軍鶏」は、被告Aの作成した「アンダードッグ」ないし漫画用脚本の二次的著作物と認められること、平成15年5月頃、原告は被告Aから再び「軍鶏」の映画化についての依頼を受け、これを承諾したが、その当時は既に漫画「軍鶏」が連載中であったことから、原告は漫画「軍鶏」の実写版として映画化する企画を進行させることになったこと、その映画化の範囲は漫画「軍鶏」の第120話までの連載分に対応するものであったこと、原告は上記企画に基づき、当時漫画「軍鶏」が連載されていた「漫画アクション」の発行元である双葉社との間で、双葉社が原告に対し、原告が漫画「軍鶏」に基づく実写映画を企画・製作することを許諾する旨の原作優先使用契約を締結するなどしたこと、しかし、平成16年5月25日以降、Bが被告Aに相談することなく、漫画「軍鶏」の連載を講談社の「イブニング」に変更したことなどをきっかけにBと被告Aの関係が悪化したこと、そして、Bは、平成18年9月頃、講談社を通じて漫画「軍鶏」の映画化を認めない旨を被告Aに伝え、その情報は、当時本件映画の製作段階におけるエグゼクティブ・プロデューサーであったEにも伝えられたこと、Eは、本件映画は実写映画であるから、原作さえ使用できれば、Bの協力が得られず漫画の原画自体は使用できなくても構わないと判断し、本件映画について漫画「軍鶏」の原画の使用及び漫画「軍鶏」を利用したプロモーションを一切断念することとし、香港の映画製作会社に対し、本件映画の映像には漫画「軍鶏」自体を基とすることがないように指示していたこと、その一方、Eは、被告Aに対し、本件映画用の脚本の執筆を依頼し、被告Aは、「アンダードッグ」を基に作成された漫画「軍鶏」の第120話までの脚本を基にして本件映画用の脚本を執筆し、これを平成17年秋頃にEに交付したこと、その後の平成18年10月頃、原告と被告会社との間で本件使用契約が締結されたこと、その後、本件映画は、上記被告Aが執筆した本件映画用の脚本に基づきDにより広東語で作成された本件撮影台本を基に実際の撮影が行われたこと、ところが、本件映画の映像には、被告Aが作成交付した本件映画用の脚本にも、また広東語で作成された本件撮影台本にも記載されておらず漫画「軍鶏」にのみ描かれている亮のガウンのRの文字や、亮が舌を出して菅原を挑発する等のシーンが存在していたばかりか、映画監督であるCらの案をも取り入れた結果、本件映画は、被告Aが提供した脚本とも漫画「軍鶏」とも異なり、主人公亮の両親を殺害したのは亮ではなく、妹の夏美であり、最終場面においてそれが明らかになるシーンが挿入されるなど、被告らが想定していなかった独自のシーンが取り入れられていたこと、また、原告が作成した本件映画の宣伝パンフレットには、上記シーンであるガウンに大きくRの文字のある場面及び亮がリング上で舌を出して相手を挑発している場面が宣伝用の画像として使用されていたこと、その結果、原告及び被告らはBから前訴を提起されるに至ったこと、以上が認められる。
(2) そうすると、本件映画のもともとの原作は、漫画「軍鶏」そのものではなく、漫画「軍鶏」の原画を含むBの創作部分を映画に使用できないことを前提として、被告Aが「アンダードッグ」及び漫画「軍鶏」用の脚本を基に新たに作成した本件映画用の脚本であり、本件使用契約及び本件念書もそれを前提として作成されたものと認められるから、本件使用契約及び本件念書によって、被告Aが本件映画の原作である漫画「軍鶏」の単独の著作権者であることを保証した事実があるとはいえず、また、本件映画の映像の中に漫画「軍鶏」のみに描かれている亮のガウンのRの文字や、亮が舌を出して菅原を挑発する等のシーンが存在していたことについては、なぜそのようなシーンが撮影されたのかは明らかではないものの、いずれにしてもそれは被告Aが提供した本件映画用の脚本に基づくものではなく、原告若しくは映画制作会社における独自の行為によるものであるから、被告会社及び被告Aが本件使用契約及び本件念書上の債務の不履行として責任を負うべき問題ではないと認めるのが相当である。
(3) この点に関して原告は、本件映画は漫画「軍鶏」そのものを原作とするものであり、漫画「軍鶏」について、本件使用契約の実質的当事者である被告Aを含めた被告らは、本件使用契約及び本件念書において、被告Aが本件映画の原作である漫画「軍鶏」の単独の著作権者であることを保証したことから原告は本件映画の製作をしたものであるところ、Bから訴えを提起されて被告らの保証内容にも原告の意にも反する和解を強いられたことにより損害を被ったことを理由に、被告らは本件使用契約第14条に基づき連帯して損害賠償の責めを負うと主張する。
 しかし、上記(1)及び(2)の内容を踏まえると、本件映画は、被告Aが提供した本件映画用の脚本に基づいてはいるものの、原告が依頼した本件の映画製作会社のスタッフであるDがCらの案をも取り入れて作成した本件撮影台本(定稿)に基づき、さらに、監督であるHが独自の創作を加えて映像化して完成させた作品であって、漫画「軍鶏」のみに描かれているシーンが撮影されたことや主人公亮の両親を殺害したのは亮ではなく、妹の夏美であり、最終場面においてそれが明らかになるシーンが挿入されたことなどは原告あるいは映画制作会社が被告らとは無関係に創作した部分である、というほかはない。
 そして、前記(1)の認定事実によれば、本件使用契約以前における原告と双葉社との原作優先使用契約において、漫画「軍鶏」の著作者はBと被告Aの2名であると明記されていることに照らすと、本件使用契約の時点において、Bが漫画「軍鶏」の著作者の一人であるとの認識を原告において有していたことは明白であるところ、原告と被告会社との間の本件使用契約締結当時において、既にBは漫画「軍鶏」の映画化に反対し、原告においてもその旨を明確に認識しており、そのため本件使用契約について、Bと契約を締結することができず、後にBが翻意する場合も想定して被告会社との間で締結するに至ったものと認められる。
 そうすると、Bが契約の当事者となっていない本件使用契約に関しては、原告においても、漫画「軍鶏」においてBが創作した部分については本件映画に使用することができず、被告Aの創作にかかる部分のみを使用の対象とするものであり、本件使用契約にいう「本原作」についても、Bが漫画「軍鶏」において独自に創作した表現は含まれず、被告Aが単独で著作した漫画「軍鶏」の第1話ないし第120話の脚本として提供した内容に限られ、原告においてもその旨の認識であったと認められる。
 また、被告らが作成した本件念書については、Bから前訴が提起された後に作成されたものであるところ、上記のとおりの本件使用契約の締結の経緯に照らしても、原告において、本件念書の記載に基づいて被告Aが漫画「軍鶏」の単独の著作者であるなどと認識することは到底あり得ないものであり、実際、本件念書の文面をみても、「漫画『軍鶏』の単独の原作者であり」と記載され、被告Aが漫画「軍鶏」の単独の著作者であることを保証した旨の記載と解される内容ではない。
 さらには、前訴における原告の訴訟活動は、前訴における相被告である被告Aとも異なる訴訟代理人により遂行されていたところ、前訴において、原告は一貫して、本件映画の原作は、被告Aが漫画「軍鶏」の連載前に単独で創作した「アンダードッグ」に基づき被告Aにより作成された脚本に基づくものであり、漫画「軍鶏」においてBにより創作された部分は一切使用されていないから、本件映画は漫画「軍鶏」の翻案とはいえないとの主張をしてきたものである。
 しかし、漫画「軍鶏」においてBが独自に創作した表現が本件映画において使用されている旨が前訴においてBにより主張され、実際にも、本件映画の映像中、主人公の亮が菅原に舌を出して挑発すること、亮のガウンにRの文字があること等は、「アンダードッグ」、被告A作成にかかる漫画「軍鶏」用の脚本及び本件映画用の脚本並びに本件映画の撮影に用いられた本件撮影台本には存在しないBの創作に係る漫画「軍鶏」固有の表現であるとの立証がされた結果、原告は、これらを踏まえた前訴における裁判所の心証開示を受けて、自らの判断でBと和解するに至ったものであるから、前訴における和解は、被告らの保証内容及びその当時における原告の意に反するものとはいえないというべきである。
 このことは、前訴における和解において、本件映画の内容に係る漫画「軍鶏」の第1話から第120話までの部分については、前訴における原告らの主張のとおり、被告Aが原作者であることが確認され(第1項)、Bが漫画「軍鶏」の第1話から第120話までの部分を復刊ないしそのストーリーを利用して翻案等する際には「原作A」と表示する旨が取り決められ(第7項、第8項)、このように被告Aが本件映画の内容に係る漫画「軍鶏」の第1話ないし第120話の原作者である旨が確認されたにもかかわらず、漫画「軍鶏」の原画自体に基づく映像が本件映画に用いられたことを前提として和解に至ったことからも明らかである。
(4) したがって、被告らが本件使用契約及び本件念書に基づき原告が被った損害について賠償すべき責任を負うとの原告の主張は、いずれもその前提を欠き、理由がない。
3 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 実本滋
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