判例全文 | ||
【事件名】ERPソフトウェアの著作権侵害事件(2) 【年月日】平成26年8月27日 知財高裁 平成25年(ネ)第10085号 損害賠償、同中間確認各請求控訴事件 (原審・東京地裁平成23年(ワ)第34126号、平成24年(ワ)第33073号) (口頭弁論終結日 平成26年6月30日) 判決 控訴人 ソフトウェア部品株式会社 被控訴人 株式会社アクセスネット 訴訟代理人弁護士 篠原一廣 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 本件控訴の趣旨は、下記のとおりと解される。 下記第3項に関し、控訴人の平成25年9月30日付け控訴状の「第2 控訴の趣旨」の第3項には「控訴人の請求については、相当な裁判を求める。」と記載されているのみであり、「相当な裁判」の内容は具体的に特定されていない。この点については、@控訴人が原審において中間確認の訴え(平成24年(ワ)第33073号事件)を提起したのに対し、原判決がこれを却下したこと、A本件控訴の趣旨に、上記却下に対する不服申立てが含まれているのは明らかといえることに鑑み、前記「第2 控訴の趣旨」の第3項は、前記中間確認の訴えについて請求の認容を求めるものと解するのが相当である。なお、前記中間確認の訴えに係る請求の内容については、後記第2の4(3)ア(ア)記載の理由により、下記第3項のとおり解した。 記 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 別紙中「部品屋2007 中核部(ミドルソフト)」欄記載の各製品に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)は、ソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACK(VAX/VMS)」に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)の各著作権を侵害しないことを確認する。 4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 (1) 原審請求の要旨 本件は、原審において、@被控訴人が、控訴人に対し、両名間のパートナー契約に基づいて控訴人が被控訴人に提供したソフトウェアには、第三者が著作権を有するソフトウェア中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があり、控訴人において上記第三者の利用許諾を得る見込みもないことから、被控訴人は控訴人が提供したソフトウェアを転売するという上記パートナー契約の目的を達成できなくなったとして、上記パートナー契約の債務不履行に基づき、損害賠償金206万5000円及びこれに対する催告後の日である平成23年3月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案(以下「本件損害賠償請求」という。)並びにA控訴人が、被控訴人に対し、中間確認の訴えとして、別紙(控訴人の原審平成24年11月21日付け「中間確認の訴状」添付の別紙「プログラム目録」1頁の写し。)中「部品屋2007 中核部(ミドルソフト)」欄記載の各製品に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)がソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」等に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)の各著作権を侵害しないことの確認を求めた事案(以下「本件中間確認の訴え」という。)である。 (2) 原審の判断 原審は、@の本件損害賠償請求について、控訴人は、被控訴人に対し、上記パートナー契約に基づき、著作権上の瑕疵がないソフトウェアを提供する義務を負っていたにもかかわらず、これに反して、第三者が著作権を有するソフトウェアの一部のプログラムを複製したものを含むソフトウェアを提供しており、複製元の上記プログラムにつき著作権者である上記第三者から利用の許諾を得る見込みもなく、給付の追完は不可能である旨認定し、被控訴人は、控訴人の上記パートナー契約の債務不履行により、同契約の前記?@の目的を達することができなくなったとして、被控訴人の請求をすべて認容した。 他方、原審は、Aの本件中間確認の訴えについては、その請求の趣旨を、控訴人が上記パートナー契約に基づいて被控訴人に提供したソフトウェアのミドルソフト(ハードロック及びソフトロックに関する部分を除く。)が上記第三者の著作権を侵害しないとして、控訴人の被控訴人に対する上記パートナー契約の債務不履行に基づく損害賠償債務の不存在の確認を求めるものと解し、これは@の本件損害賠償請求と重複するので不適法であること(民訴法142条)を理由に却下した。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実。弁論の全趣旨により認められる事実を含む。) (1) 当事者及び関係者ら ア 控訴人及びその関係者ら (ア) 控訴人は、ソフトウェアの開発、仕入れ、輸入、販売及び輸出等を目的とする株式会社であり、平成19年2月14日に成立した。現在、控訴人代表者 の配偶者であるAが、顧問としてソフトウェアの開発等の業務を行っている(甲1の2、乙1、乙22)。 (イ) 控訴人代表者は、平成元年10月頃に株式会社ビーエスエス(以下「ビーエスエス社」という。)を設立した。Aは、平成2年4月頃に同社の代表取締役に就任し、ソフトウェアの開発を主導していた。 株式会社ビーエスエス販売は、ソフトウェアの開発、請負、販売及び輸出等を目的とする株式会社であり、平成8年2月23日に成立し、平成17年12月29日に商号を「ソフトウエア部品開発株式会社」に変更した(以下「ソフトウエア部品開発社」という。)。控訴人代表者が同社の代表取締役に、Aが同社の取締役に、それぞれ就任した。 ビーエスエス社は、平成18年12月中旬頃、ソフトウエア部品開発社に事業を引き継ぎ、以後は事実上の休業状態にある。ソフトウエア部品開発社も、平成21年8月頃、控訴人に事業を引き継ぎ、事実上休業するに至った(乙1、乙5、乙6、乙16、乙22)。 イ 被控訴人 被控訴人は、コンピュータソフトウェアの企画、制作、販売及び輸出入等を目的とする株式会社であり、平成2年12月25日に成立した(甲1の1)。 (2) Aが開発を主導したソフトウェア ア 開発の経緯 (ア) Aは、ビーエスエス社において、平成2年4月頃から平成9年頃までの間にかけて、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「部品マイスター」等(以下、これらを総称して「BSS−PACK」という。)の開発を主導してきた(甲4の1、2、甲15、乙1、乙18、乙22)。 (イ) その後、Aは、ビーエスエス社において平成18年6月頃からソフトウェア(製品開発コードSWB2007)の開発に着手し、同年12月頃までにほぼ完成させた。 間もなく、同月中旬頃、前述のとおり、ソフトウエア部品開発社がビーエスエス社の事業を引き継ぎ、その際に上記ソフトウェアも売買によりソフトウエア部品開発社に承継された。そして、同ソフトウェアは、同社において、ソフトウェア「部品屋2007サーバー/スタンドアローン版」(商品コードSWB2007、以下「部品屋2007サーバー」という。)、「部品屋2007クライアント」(商品コードSWB2007−Client、以下「部品屋2007クライアント」という。)、「部品屋PERSONAL」等から構成される統合型基幹業務システム「部品屋2007」(以下「部品屋2007」という。)として製品化され、平成19年6月頃から出荷されるようになった。 その後、前述のとおり、平成21年8月頃に控訴人がソフトウエア部品開発社の事業を引き継ぎ、その際に、これらのソフトウェアもすべて売買により控訴人に承継された(甲3、甲13の2、乙1、乙4から乙6、証人A)。 イ 「BSS−PACK」及び「部品屋2007」の概要 前記アのソフトウェアはいずれも、企業の基幹業務を一元的に統合して管理するERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアに属するものである。 (ア)a 「BSS−PACK」に含まれるソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」並びに「部品屋2007」に含まれるソフトウェア「部品屋2007サーバー」及び「部品屋2007クライアント」についてみると、これらのソフトウェアはいずれも、「ソフトウェア部品」及び「ミドルソフト」から構成されており、両者は関数インターフェースにより関係付けられている。 「ソフトウェア部品」は、例えば、購買管理に関する発注登録、納期照会、在庫状況照会などといった業務ごとに細分化された最小単位の具体的作業を実行するプログラムである。「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」には、共通のソフトウェア部品が含まれている(以下、このソフトウェア部品を「先行ソフトウェア部品」という。)。 「ミドルソフト」は、ソフトウェア部品を制御し、「Windows」等のOS(Operating System)と結びつけて作動させるプログラムであり、@主にソフトウェア部品の作動に関わる関数インターフェース部、A主にOSの作動に関わるOSインターフェース部及びB主としてセキュリティに関する営業秘密部を備えている(甲3、甲17、乙1、乙7、乙22、乙25、乙26の1、2、乙29、証人B、証人A)。 b 前記ソフトウェアは、「クライアント」形式のもの(以下「クライアント」という。)と「サーバー」形式のもの(以下「サーバー」という。)に大別され、いずれにも通信用ミドルソフトが組み込まれているほか、「クライアント」にはデータの入力、表示などユーザーとのインターフェースを担当するGUI(Graphical User Interface)等のプログラムに係るソフトウェア部品が、「サーバー」にはデータ処理等の業務処理プログラムに係るソフトウェア部品が、それぞれ組み込まれており、これらのプログラムは前記通信用ミドルソフトを介してつながっている。 前記ソフトウェアの利点は、通常、基本ソフトであるOSを変更する際は、「Word」等のワープロソフトなど応用ソフトであるアプリケーションソフトもすべて変更後のOSに対応するものに交換しなければ正常に作動しなくなるおそれが大きいところ、前記ソフトウェアにおいては、ミドルソフトのみ変更後のOSに対応するものに交換すれば、引き続き既存のソフトウェア部品を正常に作動させられることにある(甲17、乙7、証人B)。 (イ) 「BSS−PACK」のうち「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」は、業務処理プログラムのソフトウェア部品及びその機能の概略を画面に表示し、それらから抽出、選択して業務担当者ごとの処理メニューを構築する機能を有するプログラムである。 「部品屋2007」においては、「部品屋PERSONAL」が同様の機能を有するプログラムといえる(甲3、甲4の2、乙26の1、2)。 (ウ) 「BSS−PACK」のうち「部品マイスター」は、後記のとおりプログラムの著作物として登録されているところ、そのプログラム登録原簿(甲15)によれば、「ソフトウエアを部品単位に作るときの開発支援のためのツール」であり、これを利用することによって、「部品単位でアプリケーションプログラムを開発する際、あらかじめ登録されている関数群などの利用により、容易に可能となる。」。 他方、「ソフトウエア部品開発ツール」は、「部品屋2007」に含まれるものであるが、そのパッケージ(甲14)に「パートナー社限定」、「(SWB2007 2ndEdition)」、「開発製造元:ソフトウェア部品株式会社」、「作成日:2010年1月26日」と記載されている。 ウ 「BSS−PACK」のソフトウェアのプログラム登録 「BSS−PACK」のソフトウェアについて、以下のとおりプログラムの著作物として登録されており、プログラム登録原簿上、現在の権利者はいずれも日本電子計算株式会社(以下「日本電子計算社」という。)である(甲4の1、2、甲15、乙18)。 (ア) 表示番号 P第4574号 著作物の題号 BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト) プログラムの分類 汎用アプリケーションプログラム 登録年月日 平成7年10月16日 発生年月日 平成7年6月15日 登録の原因 創作した。 (イ) 表示番号 P第4724号 著作物の題号 BSS−PACKサーバー(UNIX) プログラムの分類 汎用アプリケーションプログラム 登録年月日 平成8年1月16日 発生年月日 平成7年10月1日 登録の原因 創作した。 (ウ) 表示番号 P第5363号 著作物の題号 BSS−PACKサーバー(WindowsNT版) プログラムの分類 汎用アプリケーションプログラム 登録年月日 平成9年3月14日 発生年月日 平成8年12月31日 登録の原因 創作した。 (エ) 表示番号 P第5814号 著作物の題号 部品マイスター 登録年月日 平成10年2月13日 発生年月日 平成9年8月31日 登録の原因 創作した。 (3) 「BSS−PACK」のソフトウェアに対する譲渡担保権設定 プログラム登録原簿によれば、「BSS−PACK」のソフトウェアについて、下記の発生日の譲渡担保権設定契約に基づく著作権譲渡の登録がなされている(甲4の1、2、甲15、乙18)。 記 ア P第4574号 BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト) 発生年月日 平成8年1月31日(登録年月日同年3月29日) 平成9年3月17日(登録年月日同年8月7日) 平成13年3月30日(登録年月日同年4月27日) イ P第4724号 BSS−PACKサーバー(UNIX) 発生年月日 平成8年1月31日(登録年月日同年3月29日) 平成9年3月17日(登録年月日同年8月7日) 平成13年3月30日(登録年月日同年4月27日) ウ P第5363号 BSS−PACKサーバー(WindowsNT版) 発生年月日 平成13年3月30日(登録年月日同年4月27日) エ P第5814号 部品マイスター 発生年月日 平成10年3月31日(登録年月日平成11年1月12日) (4) ビーエスエス社から株式会社サンライズ・テクノロジー(以下「サンライズ社」という。)へのソフトウェアの譲渡契約(以下「本件譲渡契約」という。) 両社が作成した平成18年3月30日付け「ソフトウェア譲渡契約書」(甲18、以下「本件譲渡契約書」という。)には、ビーエスエス社からサンライズ社へ譲渡するソフトウェアのうち「登録済プログラム著作物」として「P第4574号 BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「P第4724号 BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「P第5363号 BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「P第6339号 部品ビュー」及び「P第5814号 部品マイスター」が掲げられている。 (5) パートナー契約の締結 控訴人と被控訴人は、平成21年10月1日、控訴人が「部品屋2007」のソフトウェアを標準価格に基づく価格から30パーセント割り引いた価格で被控訴人に提供し、被控訴人はこれを使用、再販、複製等できるなどという内容のパートナー契約(以下「本件契約」という。)を締結し、平成22年10月1日、同契約を更新した(甲2、甲6の2)。 (6) 本件契約に基づくソフトウェアの提供等 ア 被控訴人は、本件契約に基づき、控訴人から、平成21年10月22日にソフトウェア「部品屋2007サーバー」(単価7万円)及び「部品屋2007クライアント」(単価4万9000円)各1個を、平成22年2月26日及び同年4月9日にそれぞれ「部品屋2007プロテクションキー」(単価4万9000円)を10個ずつ購入し、代金合計109万9000円を控訴人に対して支払った。なお、「部品屋2007プロテクションキー」は、プログラムの不正コピーを防止するとともに、ユーザーのデータをウイルス等から守るためのものであり、「部品屋2007」は、「部品屋2007プロテクションキー」がパソコンに差し込まれることによって作動する仕組みである(甲3、甲7の1から3)。 イ 被控訴人は、平成21年10月17日及び同月18日並びに同年11月14日及び同月15日の計4日間にわたり、控訴人から、上記ソフトウェアの取扱方法についての研修を受け、研修費合計33万6000円を控訴人に対して支払った(甲8の1、2)。 ウ 被控訴人は、控訴人に対し、本件契約締結に際して契約金31万5000円を、本件契約更新に際して更新料31万5000円を、それぞれ支払った(甲6の1、2)。 (7) 本件契約の解除 被控訴人は、平成23年2月28日、控訴人に対し、「BSS−PACK」のソフトウェアのプログラム著作権が控訴人に帰属しておらず、したがって、これを購入した被控訴人において顧客への提供等も一切行えない商品であることが判明したとして、控訴人の履行不能を理由に本件契約を解除する旨の意思表示をするとともに、上記履行不能に基づく損害賠償として、前記(6)のとおり被控訴人が本件契約に基づき控訴人に支払った金員の合計額に相当する206万5000円を2週間以内に支払うことを求めた(甲5の1、2)。 3 争点 本件の争点は、以下のとおりである。 (1) 本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無−控訴人が本件契約に基づいて被控訴人に提供したソフトウェア「部品屋2007サーバー」及び「部品屋2007クライアント」(以下「本件両ソフト」という。)並びに「ソフトウエア部品開発ツール」に係る著作権上の瑕疵の有無(争点1) 本件両ソフト及び「ソフトウエア部品開発ツール」には、それぞれ、日本電子計算社が有するソフトウェア「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」並びに「部品マイスター」中の各プログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵が存するか。また、著作権上の瑕疵が存する場合、控訴人が著作権者である日本電子計算社の利用許諾を得る見込みはあるか。 ア ソフトウェア部品について (ア) 「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる先行ソフトウェア部品の著作物性の有無 なお、この点は、控訴人が当審において先行ソフトウェア部品は著作物性を有しない旨の主張を追加したことから、新たに争点となったものである。 他方、控訴人は、後記4(1)イのとおり、下記(イ)から(エ)の各争点に関し、原審及び当審において、「先行ソフトウェア部品の著作権を放棄する」、「(先行ソフトウェア部品について)著作権法に基づく権利を主張しない」などと、先行ソフトウェア部品が著作物であることを前提とする主張もしており、したがって、先行ソフトウェア部品は著作物性を有しない旨の前記主張は、下記(イ)から(エ)の各争点に関する控訴人自身の主張の一部と明らかに矛盾するものといわざるを得ない。 控訴人は、このように矛盾した内容の主張をする趣旨を説明しておらず、また、先行ソフトウェア部品の著作物性を争う旨の前記主張には、「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)と評価し得る面もあるが、本件事案の性質に鑑み、上記主張の当否についても判断する。 同主張及び下記(イ)から(エ)の各争点に関する控訴人の各主張の位置付けについては、各主張内容の論理的順序をも考慮し、控訴人は、主位的に先行ソフトウェア部品の著作物性を争い、予備的に同著作物性が認められた場合に備えて後記のとおり順に下記(イ)から(エ)の各争点について主張しているものと解するのが相当である。 (イ) ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実の有無 (ウ) 先行ソフトウェア部品の著作権の所在 (エ) 複製又は翻案の成否及び著作権侵害の有無 本件両ソフトのソフトウェア部品(以下「本件ソフトウェア部品」という。)は、先行ソフトウェア部品を複製又は翻案したものか、同複製又は翻案は、第三者の著作権を侵害する行為に当たるか。 イ ミドルソフトについて ウ 「部品マイスター」及び「ソフトウエア部品開発ツール」について (2) 本件契約の債務不履行による損害額(争点2) (3) 本件中間確認の訴えの当否(争点3) 4 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無−本件両ソフト及び「ソフトウエア部品開発ツール」に係る著作権上の瑕疵の有無)について ア 被控訴人の主張 本件両ソフトには、日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵がある。また、本件両ソフトを使用する際は、本件ソフトウェア部品をユーザーの実態に合わせてカスタマイズする必要があり、その作業には「ソフトウエア部品開発ツール」を要するところ、これにも、日本電子計算社が著作権を有する「部品マイスター」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵が存する。 しかも、控訴人が、上記各著作権につき、著作権者である日本電子計算社の利用許諾を得る見込みはない。 本件契約の目的は、被控訴人が控訴人から購入した「部品屋2007」のソフトウェアを転売することであるから、控訴人は、適法に転売し得る「部品屋2007」のソフトウェアを被控訴人に供給する債務を負うが、上記によれば、同債務を履行し得ないといえ、債務不履行責任を負う。 (ア) ソフトウェア部品について 本件ソフトウェア部品は、日本電子計算社が著作権を有する著作物である先行ソフトウェア部品の一部を複製したものである。 a 「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる先行ソフトウェア部品の著作物性の有無について 先行ソフトウェア部品は著作物性を有する。その理由は、以下のとおりである。 すなわち、@先行ソフトウェア部品のプログラムは、企業における細分化された業務を処理するという、「BSS−PACK」のソフトウェアの中核といえる機能を有する。そして、A現在、日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」のプログラム登録原簿においては、「著作物の種類及び内容」欄に「企業体の業務処理をほぼ網羅するプログラム群で構成されており、これらのプログラムを組み合わせることにより、統合されたシステム化が実現できるものである。」と記載され(甲4の1)、また、著作権登録の対象である旨が明記されており、しかも、この著作権は、控訴人の関連会社であるビーエスエス社によって登録された。さらに、B控訴人自身、原審において、先行ソフトウェア部品につき、一貫して、「フリーウエイ化したので、ビーエスエス社は、著作者人格権及び著作権については積極的な主張をしないこととしていた。」などと、先行ソフトウェア部品が著作物であることを前提とする主張をしていた。 b ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実の有無について (a) ビーエスエス社は先行ソフトウェア部品の著作権を放棄していない。 ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品のソースコードを一般に開示していた事実の存在自体、認められない。すなわち、同社は、「BSS−PACK」を導入した企業が先行ソフトウェア部品のプログラムをカスタマイズする際の便宜を図るために、「部品マイスター」を購入した企業やビーエスエス社の代理店に対して先行ソフトウェア部品のソースコードを開示したことはあるものの、これを広く一般に公開し、誰もが自由にソースコードを改変するなどしてソフトウェア部品のプログラムを開発できる状態にしたことはない。ソースコードの開示を受けた企業も、必要な限度の改変等を許されていたにすぎず、第三者に当該ソースコードを開示することまでは許可されていなかった。 (b) 「BSS−PACK」のソフトウェアの開発には多くの時間と費用が掛かっており、ビーエスエス社において、この開発に要したコストを回収する方法がないまま、先行ソフトウェア部品のソースコードを公開することは、不自然、不合理である。 また、ビーエスエス社は、サンライズ社に対し、本件譲渡契約に基づき、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」などの著作権等を譲渡した対価である11億5000万円の支払を求めて提訴した。この点に関し、ビーエスエス社が、先行ソフトウェア部品のソースコードを一般公開して第三者が自由に上記ソフトウェア等を修正、改良できる状態にしていたのであれば、控訴人においてそのような上記ソフトウェア等の著作権に11億円以上もの価値があると判断して提訴するはずがない。 c 先行ソフトウェア部品の著作権の所在について 現在、日本電子計算社が先行ソフトウェア部品の著作権を有している。 (a) 先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」等の著作権移転の経緯 ビーエスエス社は、平成2年以降、金融機関の支援を受けながら「BSS−PACK」を開発してきたが、平成9年8月頃の金融危機がきっかけとなって融資を打ち切られ、以後はインターナショナル・システム・サービス株式会社(以下「ISS社」という。)の資金援助の下で上記開発を継続した。 ビーエスエス社自ら著作権を登録した先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「部品マイスター」、「部品ビュー」の各著作権については、ISS社や金融機関を担保権者とする譲渡担保権が設定されていたところ、平成14年9月30日以降、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「部品ビュー」の各著作権に設定された譲渡担保権が実行されることになり、ISS社において処分代金4000万円を支払い、平成15年2月にこれらの著作権を取得した。同社は、著作権を取得した「BSS−PACK」のソフトウェアを、「ISS−PACK」という名称で販売した。 平成17年以降、ビーエスエス社は、ISS社が経営不振のために資金援助の継続が困難になったので、新たなスポンサーを探す必要に迫られた。平成18年3月10日、ビーエスエス社代表者のAは、サンライズ社に対し、ビーエスエス社に対する支援等を求めた。 その後、A、サンライズ社及びISS社の各代表者において協議し、結果として、サンライズ社がビーエスエス社の運転資金を援助すること、その担保の趣旨で、ビーエスエス社が「BSS−PACK」に係るすべての著作権をISS社から取り戻した上、サンライズ社に譲渡することについて合意した。同合意の経緯は、「BSS−PACK」の開発の中心は、先行ソフトウェア部品の開発であり、当時、ISS社の下で開発されたものも含め膨大な数の先行ソフトウェア部品が存在していたところ、サンライズ社が、それら先行ソフトウェア部品の著作権を含む「BSS−PACK」に係る著作権の一切を譲り受けることができなければ、資金援助の担保としての意味を欠くことから、「BSS−PACK」に係るすべての著作権の譲渡を求め、ビーエスエス社もこれに同意したというものである。 上記3社は、上記合意を実現するために、ISS社からビーエスエス社に前記著作権を戻す際、@登録済プログラム著作物に加え、A非登録プログラム著作物、すなわち、@の著作物をバージョンアップなどにより改良した後のプログラム著作物、その他関連する一切の著作物、B@及びAのプログラム関連著作物をも譲渡の対象とし、ISS社において開発したソフトウェア部品のプログラムの著作権も含め、「BSS−PACK」に係る一切の著作権をいったんビーエスエス社に戻した。さらに、同社からサンライズ社に対する本件譲渡契約の内容を記した平成18年3月30日付けの本件譲渡契約書においても、譲渡の対象を上記と同様に特定した。 以上の経緯により、サンライズ社は、ビーエスエス社から、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「部品ビュー」等の各著作権を取得し、その後、これらの著作権は、株式会社フロンテック(以下「フロンテック社」という。)を経て、日本電子計算社へ譲渡された。 (b) 控訴人の主張に対する反論 控訴人は、本件譲渡契約の対象に先行ソフトウェア部品は含まれていなかった旨主張するが、@本件譲渡契約書には、「BSS−PACK」に係る一切の著作権・所有権を譲渡する旨が記載されており、他方、ソフトウェア部品を譲渡の対象から除外するという趣旨の記載は一切ないこと、A本件譲渡契約書において、譲渡代金は11億円余りとされているところ、「BSS−PACK」の開発工程の大半を費やして作成された多数の先行ソフトウェア部品を除外したものについて上記のような多額の対価が合意されることはあり得ないことに鑑みれば、控訴人の上記主張は不自然、不合理である。 d 複製又は翻案の成否及び著作権侵害の有無について 「部品屋2007」のソフトウェアには先行ソフトウェア部品が相当数使用されており、このことから、本件ソフトウェア部品は、先行ソフトウェア部品の一部を複製したものといえ、同複製は、日本電子計算社が有する先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の著作権を侵害するものである。 (イ) ミドルソフトについて 本件両ソフトのミドルソフト(以下「本件ミドルソフト」という。)は、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」のミドルソフト(以下「先行ミドルソフト」という。)の表現上の本質的な特徴を維持している。 a(a) 本件両ソフトに対応するOSである「Windows2000」や「Windows2003」は、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に対応するOSである「WindowsNT」の後継であり、これらのOS間には強い類似性が認められる。現に、「WindowsNT」に対応するソフトウェアは、ほとんどプログラムを変更しないまま、「Windows2000」、「Windows2003」など新しいOSにも対応できた。 そして、本件譲渡契約が締結された平成18年当時、「WindowsNT」をOSとして使用する者はいなくなっていたにもかかわらず、サンライズ社が「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」を含む「BSS−PACK」のソフトウェアを11億5000万円で購入したのは、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」が前述した新しいOSにも対応できたからにほかならない。 したがって、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」は、本件両ソフトのOSである「Windows2000」及び「Windows2003」にも対応できたといえ、このことから、本件両ソフトは「BSS−PACK」の後継ソフトウェアに当たるということができる。 (c) ミドルソフトは、ソフトウェア部品から利用できる関数の形で提供される。ビーエスエス社は、先行ミドルソフトの製作に当たって「BSS−PACK」特有の関数を開発し、そのソースコードを非公開とすることによって第三者によるミドルソフトの開発を不可能にした。そして、所定のハードロックキーの使用により初めてミドルソフトが作動するというハードロック機構を設定した上で、ユーザー等に上記ハードロックキーを提供してそのライセンス料を得るというビジネスを成り立たせた。 b 上記のとおり先行ミドルソフトのソースコードが非公開とされていることから、第三者が独自に「BSS−PACK」に対応するミドルソフトを開発することは不可能である。このことから、前述したとおり「BSS−PACK」の後継ソフトウェアに当たる本件両ソフトの開発には、先行ミドルソフトのソースコードを知る者が同ソースコードを利用して製作に携わることが不可欠といえる。 以上に鑑みれば、本件ミドルソフトは、先行ミドルソフトのソースコードをほぼそのまま使用して作成されたものと考えられる。 (ウ) 「部品マイスター」及び「ソフトウエア部品開発ツール」について ソフトウェア部品については、ユーザーである企業の実態に合わせてカスタマイズする必要があるところ、ソフトウェア部品の関数には汎用性がないことから、カスタマイズには開発支援のためのソフトウェアである「部品マイスター」、「ソフトウエア部品開発ツール」が不可欠である。そして、本件ソフトウェア部品がOSにかかわらず共通のものとして開発された経緯に鑑みれば、「ソフトウエア部品開発ツール」は、「部品マイスター」と同一のものか、これを改良して製作されたものと考えざるを得ない。 また、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」を含む「BSS−PACK」のソフトウェアと同一である「ISS−PACK」のソフトウェアの関数と、本件両ソフトを含む「部品屋2007」のソフトウェアの関数は完全に一致しているところ、「部品マイスター」、「ソフトウエア部品開発ツール」はそれぞれ、「BSS−PACK」、「部品屋2007」の各ソフトフェアの修正に必要なソフトウェアであり、このことからも、「ソフトウエア部品開発ツール」は、「部品マイスター」の著作権を侵害するものといえる。 イ 控訴人の主張 本件両ソフト及び「ソフトウエア部品開発ツール」について、被控訴人が主張する著作権上の瑕疵はなく、また、控訴人が日本電子計算社から利用許諾を得る必要はない。したがって、控訴人は、被控訴人に対して本件契約の債務不履行責任を負わない。 (ア) ソフトウェア部品について 前述のとおり、控訴人は、主位的に先行ソフトウェア部品の著作物性を争い、予備的に同著作物性が認められた場合に備えてその余の主張をしているものと解されるところ、各主張の内容にも鑑みると、控訴人の主張は、以下のように解することができる。 @ 先行ソフトウェア部品は著作物性を有しないから、これを複製又は翻案しても、著作権の侵害に当たらない。 A 先行ソフトウェア部品が著作物性を有するとしても、ビーエスエス社は先行ソフトウェア部品の著作権を放棄しており、したがって、同社から先行ソフトウェア部品を譲り受けた者が上記著作権を取得することはあり得ないので、先行ソフトウェア部品を複製又は翻案しても、著作権の侵害に当たらない。 B 先行ソフトウェア部品が著作物性を有し、かつ、ビーエスエス社において先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したことが認められないとしても、先行ソフトウェア部品の翻案権及びその原著作物である「BSS−PACK(VAX/VMS)」のソフトウェア部品(以下「オリジナルのソフトウェア部品」という。)の著作権は、現在、控訴人が有している。 そして、本件ソフトウェア部品は、オリジナルのソフトウェア部品及びこれを翻案した先行ソフトウェア部品を翻案して作成されたものであるところ、上記のとおり、現在、オリジナルのソフトウェア部品の著作権及び先行ソフトウェア部品の翻案権はいずれも控訴人が有しているから、オリジナルのソフトウェア部品及び先行ソフトウェア部品を翻案して本件ソフトウェア部品を作成した行為は、著作権の侵害に当たらない。 a 「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる先行ソフトウェア部品の著作物性の有無について (a) 先行ソフトウェア部品は著作物性を有しない。理由は、以下のとおりである。 すなわち、@ソフトウェア部品は、社員一覧表の印刷や在庫照会などといった、企業の日常的、定型的業務を実行するためのプログラムであり、通常の技術者であれば誰でも開発可能なものといえ、格別の思想や感情等作成者の個性が表現される余地はなく、また、技術的な進歩性も要請されない。そして、Aこのような定型的機能作品に法的保護を与えれば、プログラムの機能自体に著作権法上の保護が付与されることになって社会の混乱を招くおそれがある。 (b) ビーエスエス社がソフトウェア部品について著作権を登録したことはない。ビーエスエス社は、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」のうち、著作物であるミドルソフトのOSインターフェース部の表題に対応するプログラムについて著作権を登録したにすぎず、先行ソフトウェア部品については、サーバー対応機能のあるプログラムではないことから、登録していない。 b ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実の有無について 先行ソフトウェア部品に著作物性が認められるとしても、ビーエスエス社は、本件譲渡契約よりも前に、先行ソフトウェア部品の著作権を放棄していた。 (a) ビーエスエス社は、平成8年頃、譲渡担保権者であった日本開発銀行からの要請、指導に従い、先行ソフトウェア部品のソースコードを開示してフリーウエイ化し、著作者人格権及び著作権については積極的に主張しないこととした。当初、ソースコードの開示はCDを媒体としていたが、当該CDは、ビーエスエス社と取引関係を有しない者に対しても配布され、その利用、処分についての制限は一切なかった。 平成9年4月頃、ビーエスエス社は、「BSS−PACK」のソフトウェアのミドルソフトにハードロックチェックのプログラムを設け、ライセンス料を確実に管理できるようにした。 その後、ビーエスエス社は、先行ソフトウェア部品の著作権を放棄する旨を宣言した。その趣旨は、先行ソフトウェア部品のソースコードを無償で開示した上、当該ソースコードを取得した者が複製、改変、譲渡等の行為に及んでもこれを容認し、著作権法に基づく権利を主張しないというものである。 さらに、ビーエスエス社は、平成17年10月頃からは、インターネット上の自社のホームページに先行ソフトウェア部品を掲載し、誰もが自由にダウンロードできるようにした。 (b) ビーエスエス社は、@先行ソフトウェア部品の作動に不可欠なミドルソフトのソースコードを非開示のままにとどめることによって、自社の最低限の利益は守られること、A他方、ソースコードの開示を通じて多くの技術者がソフトウェア部品について理解するようになり、「BSS−PACK」の売上げの増加につながることを期待したことから、上記のとおり先行ソフトウェア部品のソースコードの無償開示に踏み切った。 なお、前述したとおり、先行ソフトウェア部品については著作権の登録をしていなかったことから、譲渡担保権の対象に含まれておらず、したがって、ソースコードの無償開示が譲渡担保権者との関係で問題になることはなかった。「譲渡担保権設定契約証書」(乙17の1)において、「丁(ビーエスエス社)が著作権を放棄しているものを除く。」と記載されているのも、ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した証左といえる。 c 先行ソフトウェア部品の著作権の所在について 先行ソフトウェア部品が著作物であり、ビーエスエス社においてその著作権を放棄したことが認められないとしても、現在、先行ソフトウェア部品の著作権は、これをビーエスエス社から承継取得した控訴人が有している。たとえ上記著作権のすべてが控訴人に帰属するものと認められなくても、少なくとも翻案権は控訴人に帰属する。 (a) すなわち、前述したとおり、先行ソフトウェア部品は、譲渡担保権の対象に含まれていなかった。 (b) 先行ソフトウェア部品は、ビーエスエス社、サンライズ社間の本件譲渡契約の対象にも含まれていなかった。 @ 「BSS−PACK」全体のソースコードの約97パーセントのソースコードから成る先行ソフトウェア部品が、本件譲渡契約書に記載されていないのも、譲渡の対象とされていなかったことの証左である。ビーエスエス社、サンライズ社とも、先行ソフトウェア部品を譲渡の対象として認識しておらず、現に、ビーエスエス社はサンライズ社に先行ソフトウェア部品を引き渡していないが、同社はその点について債務不履行等を指摘していない。 A 本件譲渡契約の主な対象である「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の開発コストはそれぞれ約4億円、合計約8億円であり、これに法人税等を加えると約11億5000万円と積算される。したがって、11億5000万円という本件譲渡契約の対価は、開発コストの回収には見合うものの、それを超えて利潤を得ることまでは見込めず、高額なものとはいえない。 また、本件譲渡契約の対象のうち「BSS−PACKサーバー(UNIX)」は契約当時及び現在のいずれにおいても高い市場性を有していることに鑑みれば、11億5000万円という対価は、上記ソフトウェアに係る将来の収益の見積りが十分に反映されておらず、その意味でも安価なものといえる。 しかも、この11億5000万円は、実際には全く支払われなかった。ビーエスエス社は、本件譲渡契約締結に際し、サンライズ社との間で、「BSS−PACK」のミドルソフトの営業秘密部にある7本のプログラムは譲渡の対象外とし、ビーエスエス社が管理すること、その供給に関する「第2の契約書」を締結することを合意しており、同契約書は、直接的な対価支払のない本件譲渡契約を補完する取引として合意したものと解するのが合理的といえるが、サンライズ社は、ビーエスエス社の再三の督促にもかかわらず、上記契約書を締結せず、結局、本件譲渡契約の対価を全く支払わなかった。 (c) 仮に、先行ソフトウェア部品の著作権が本件譲渡契約の対象に含まれていたとしても、本件譲渡契約書には翻案権(著作権法27条、28条)を譲渡する旨の特別の規定は設けられていないことから、少なくとも先行ソフトウェア部品の翻案権はビーエスエス社に留保されていた(著作権法61条2項)。 d 複製又は翻案の成否及び著作権侵害の有無について 本件ソフトウェア部品は、先行ソフトウェア部品の一部を使用又は複製して作成したものではなく、オリジナルのソフトウェア部品及び先行ソフトウェア部品を翻案して作成したものである。 控訴人は、前記cのとおり、オリジナルのソフトウェア部品については著作権を有し、先行ソフトウェア部品については少なくとも翻案権を有しているから、上記翻案は、著作権侵害に当たらない。 (a) 先行ソフトウェア部品は、オリジナルのソフトウェア部品を翻案して作成した二次的著作物である。 すなわち、ビーエスエス社は、VAX/VMS上のFMS(Form Management System)を利用してオリジナルのソフトウェア部品及びミドルソフト(以下「オリジナルのミドルソフト」という。)を開発し、平成4年頃から製品「BSS−PACK(VAX/VMS)」として販売していた。 オリジナルのソフトウェア部品の画面表示形式はキャラクターベースであったところ、平成7年頃からグラフィカルな画面が一般に普及し始めた。そこで、ビーエスエス社は、これに対応するため、OIE(Open Interface Elements)という画面開発ツールにより、オリジナルのソフトウェア部品を翻案して、UNIX、WindowsNTなどグラフィカル対応のOSに適用可能なGUI方式の先行ソフトウェア部品を開発するとともにオリジナルのミドルソフトも翻案し、平成8年頃から、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」等の製品として販売していた。 (b) 本件ソフトウェア部品は、オリジナルのソフトウェア部品及び先行ソフトウェア部品をそれぞれ翻案して作成したものである。 すなわち、ビーエスエス社において、平成18年6月頃から本件ミドルソフトを新たに開発し、オリジナルのソフトウェア部品及び先行ソフトウェア部品を本件ミドルソフトに適合するように翻案する作業に着手した。その後、同年12月中旬頃に同社の事業を引き継いだソフトウエア部品開発社において、上記翻案作業を終えて本件ソフトウェア部品を完成させ、平成19年6月頃から製品として販売するようになった。 (イ) ミドルソフトについて a(a) 先行ミドルソフトは、Aが約20年前に基本設計したものであり、原始的な機能を有するにとどまる。これに対し、本件ミドルソフトは、Aが基礎から設計し直したものであり、先行ミドルソフトにはない最先端の機能が多数追加されている。 すなわち、先行ミドルソフトは、メーカーであるビーエスエス社の作業場において事前に作成したものをインストーラーによりそのまま客先現場に移動させて使用するというもので、あらかじめビーエスエス社が利用形態を指定するという制約があった。これに対し、本件ミドルソフトは、マルチシステム環境設定、マルチシステムDB生成等の新たな機能を多数備えることによって上記制約を取り除き、客先現場において担当者が当該客先の利用形態に応じて自由に設定できるようにした。 加えて、本件両ソフトにおいては、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」において使用していたハードロックではなく、別のハードロックを使用し、さらに、別途新たにソフトウェアを開発してソフトロックも併用するなど承認機能の強化等を図った。このことからも、本件ミドルソフトが、単に先行ミドルソフトをコピー又は利用して作成されたものではないことは明らかである。 (b) ミドルソフト中の関数インターフェース部の関数は、ソフトウェア部品とミドルソフトを結合させるために、ソフトウェア部品が定める規定を遵守する必要があることから、結果として、異なるミドルソフト間でも類似のものになり、「共通関数」と呼ばれる。 しかしながら、上記関数は、著作権法10条3項2号の「規約」に当たり、著作権法による保護が及ばないものである。したがって、本件ミドルソフトには先行ミドルソフトと同一の関数が多数使用されているが、それをもって、本件ミドルソフトが先行ミドルソフトの著作権を侵害しているとはいえない。 b 被控訴人の主張に対する反論 (a) 「Windows2000」、「Windows2003」は、「WindowsNT」とは名称を異にし、通常、OSの名称が異なれば、それらは別の製品であり、特長、機能も別である。そして、ミドルソフトはOSごとに作成するものであるところ、先行ミドルソフトと本件ミドルソフトは対応するOSが異なるから、これらのミドルソフトは別のものである。 (b) 前述したとおり、本件譲渡契約の対価11億5000万円は、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の開発コストや「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の有する高い市場性に鑑みれば、安価なものといえる上、実際には全く支払われなかった。 (c) ビーエスエス社が本件譲渡契約に基づいてサンライズ社に譲渡したミドルソフトは、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」のミドルソフト及び先行ミドルソフトのみである。そして、ビーエスエス社は、上記譲渡に当たり、上記各ミドルソフトのソースコードのすべてをCDに記録してサンライズ社に渡し、当該ソースコードを消去した。したがって、以後、ビーエスエス社、ソフトウエア部品開発社及び控訴人は、先行ミドルソフトをコピー、参照できなくなったのであるから、先行ミドルソフトを利用して本件ミドルソフトを開発することはあり得ない。 (ウ) 「部品マイスター」及び「ソフトウエア部品開発ツール」について 両者は全く別個のものである。 a 「部品マイスター」は、先行ソフトウェア部品において使用するデータベースのデータ構造情報、先行ミドルソフトの関数インターフェース開示情報及び開発時の参考事項等を記載したマニュアルであり、初心者のための便利情報を集積したものにすぎず、ソフトウェア部品の開発、変更に不可欠なものではない。そして、前述したとおり、本件ミドルソフトは先行ミドルソフトとは全く異なるものであるから、「部品マイスター」は、「部品屋2007」のソフトウェアの用に供し得ない。 「ソフトウエア部品開発ツール」は、ソフトウェア部品開発者に便利な情報類をまとめて提供するものであり、特別な機能は搭載しておらず、「部品マイスター」とは異なる。 b なお、ソフトウェア部品を追加開発、変更する際、以前は、追加開発ないし変更後のソフトウェア部品をミドルソフトに接続するためのプログラムを要し、ビーエスエス社においても「開発キット」という名称のプログラムをユーザーに提供していたが、平成10年前後にマイクロソフト社の「Microsoft Visual Studio」が発表された後は、これを用いればミドルソフトに接続できるようになったので、上記のようなプログラムは不要になった。 このような経緯があったことから、「部品マイスター」を前記のとおりの便利情報を集積したものにとどめた。また、控訴人は、「ソフトウエア部品開発ツール」を販売したことはなく、被控訴人に対しては無償で提供した。 (2) 争点(2)(本件契約の債務不履行による損害額)について ア 被控訴人の主張 被控訴人は、控訴人の本件契約の債務不履行により以下のとおりの損害を被っており、その合計額は206万5000円である。 (ア) 「部品屋2007サーバー」1個の対価 7万円 (イ) 「部品屋2007クライアント」1個の対価 4万9000円 (ウ) 「部品屋2007プロテクションキー」20個の対価 98万円 (エ) 研修費合計 33万6000円 (オ) 契約金 31万5000円 (カ) 更新料 31万5000円 イ 控訴人の主張 争う。 (3) 争点(3)(本件中間確認の訴えの当否)について ア 控訴人の主張 (ア) 確認を求める対象 a 控訴人の原審平成24年11月21日付け「中間確認の訴状」中「請求の趣旨」第1項には、「別紙プログラム目録記載の『部品屋2007』による、ソフトウエア部品群及び営業秘密に関するプログラムを除いたBSS−PACKサーバー(WindowsNT版)、同サーバー(UNIX)及び同(VAX/VMS)に対する著作権侵害がないことを確認する。」と記載されている。なお、「別紙プログラム目録」の内容は、本判決添付の別紙のとおりである。 前述のとおり「BSS−PACK」及び「部品屋2007」に含まれるソフトウェアはそれぞれ、ソフトウェア部品とミドルソフトから構成されること、本判決添付の別紙の内容も併せ考えると、本件中間確認の訴えの請求の趣旨は下記のとおりと解される。 記 別紙中「部品屋2007 中核部(ミドルソフト)」欄記載の各製品に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)は、ソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACK(VAX/VMS)」に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)の各著作権を侵害しないことを確認する。 b 控訴人は、当審において、本件中間確認の訴えに関し、下記のとおり主張するものと解される(控訴人の当審平成26年4月11日付け準備書面(11)14丁、15丁、平成25年11月7日付け控訴理由書18頁から19頁、本判決添付の別紙参照。)。 記 控訴人が、「部品屋2007」の各ソフトウェアに含まれる各ミドルソフトの複製権及び翻案権、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる各ミドルソフトの翻案権並びにその余の「BSS−PACK」の各ソフトウェアに含まれる各ミドルソフトの複製権及び翻案権を所有することの確認を求める。 また、オリジナルのソフトウェア部品、先行ソフトウェア部品及び本件ソフトウェア部品について著作物性が認められた場合には、控訴人がこれらのソフトウェア部品の複製権及び翻案権を所有することの確認を求める。 (イ) 確認を求める理由 被控訴人は、本件損害賠償請求において、控訴人に対し、本件両ソフトが「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」等の著作権を侵害している旨を主張して損害賠償を請求しており、その当否の判断に当たっては、著作権登録された「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」のプログラムを特定した上で著作権(複製権・翻案権)の帰属を明確にする必要があるところ、本件損害賠償請求の判決においては、権利の存否が理由中に示されるにとどまり、それは既判力を有しない(民訴法114条1項)。また、控訴人は、本件損害賠償請求において直接問題となったもののほかにも、プログラムやその著作権を有している。 以上に鑑み、被控訴人の上記請求に理由がないことを明らかにして本件訴訟を解決するとともに、本件訴訟を機に権利関係を明確にして今後の無用な訴訟の発生を防ぐために上記(ア)記載のとおりの確認を求める。 イ 被控訴人の主張 争う。 控訴人の請求のうち、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACK(VAX/VMS)」に関して著作権の侵害がないことの確認を求めるものは、被控訴人が提訴した本件損害賠償請求における争点の先決問題に関わるものではないから、不適法として却下を免れない。 また、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の著作権を侵害しないことの確認を求めるものは、控訴人の被控訴人に対する本件契約の債務不履行に基づく損害賠償債務の不存在の確認を求める趣旨のものであり、本件損害賠償請求と同一の事件といえるから、民訴法142条により却下されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無−本件両ソフト及び「ソフトウエア部品開発ツール」に係る著作権上の瑕疵の有無)について (1) 「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる先行ソフトウェア部品の著作物性の有無について ア ある表現物が「著作物」として著作権法の保護を受けるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(著作権法2条1項1号)、「創作的に表現したもの」といえるためには、当該表現が、厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの、作成者の個性が発揮されたものでなければならない。 プログラムの表現物についてみると、プログラムとは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」であること(著作権法2条1項10号の2)に鑑みれば、プログラムの著作物性が認められるためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ及び表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れていることを要するものと解される。 イ(ア) @先行ソフトウェア部品は、各部品1本ごとに、例えば購買管理システム(製造系)の発注管理関係機能群のうち「発注点割れ品目検索」など、現場における具体的業務の態様に則して細分化された作業に係る機能をそれぞれ有している(乙25〔「BSS−PACK」のプログラムカタログ〕、乙26の1)。また、A「BSS−PACK」全体のソースコードの約97パーセントを先行ソフトウェア部品のソースコードが占めており、その概算ステップ数は約480万であるところ、先行ソフトウェア部品の総数は約1500本であるから、1本当たりのソースコードのステップ数は数千単位に及ぶものと推認でき(乙1、乙22、証人A)、先行ソフトウェア部品の作成方法(乙22の添付資料2)にも鑑みると、先行ソフトウェア部品はかなり大量のソースコードから成るものと認められる。これらの事実によれば、先行ソフトウェア部品の指令の表現自体、組合せ、表現順序がそのすべてにおいておよそ定型的、没個性的なものであるとは考え難い。 さらに、BAは、後記のとおり、先行ソフトウェア部品の少なくとも一部を複製して本件ソフトウェア部品を作成し、ソフトウエア部品開発社及び控訴人は、被控訴人ら顧客に対し、本件ソフトウェア部品を含む「部品屋2007」のソフトウェアを販売していた。次に、Cマインドリサーチ株式会社発行の「MIND−REPORT No.48」2000年1月号(乙9)に掲載された記事によれば、Aは、同社主催の座談会において、「ERPの中で使われるソフトウエアの部品は、50万円くらいでSI企業(System Integratorを指すものと解される。)に提供されます。」と述べている。加えて、Dビーエスエス社が出した「BSS−PACK」の広告(乙27の1)には、「WINDOWS NT クライアント」等が紹介されているところ、同広告においては、「『匠』とも言える各分野の技術者の技によって創られたソフトウェア部品」、「部品の概念がソフトウェアを変える」などソフトウェア部品についての宣伝が大半を占めている。これらの事実に鑑みれば、控訴人及びAら関係者は、先行ソフトウェア部品のプログラムとしての使用価値、経済的価値につき、かなり高く評価するとともに、その点に強い顧客誘引力が存在すると認識していたものと推認できる。このことに鑑みれば、先行ソフトウェア部品全体が、その表現においておよそ個性的な特徴を備えない、ありふれたものにすぎないとは考え難い。 (イ) 以上に加え、本件証拠上、先行ソフトウェア部品の著作物性をすべて否定する事情はうかがわれないこと、前述したとおり、控訴人自身、「ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実の有無」などほかの争点については、先行ソフトウェア部品が著作物であることを前提とする主張もしていることを併せ考えれば、先行ソフトウェア部品の一部は著作物性を有するものと認められる。 (ウ)a なお、前述したとおり、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」につき、それぞれ、「P第4724号」、「P第5363号」としてプログラム登録がされているところ、いずれのプログラム登録原簿においても、「著作物の内容」欄に、登録の対象物につき「BSS−PACKのうち、サーバー対応機能があるプログラムである。」と明記されている(甲4の1、乙18)。そして、「サーバー対応機能があるプログラム」は、その内容に鑑み、業務ごとに細分化された最小単位の具体的作業を実行するソフトウェア部品ではなく、これを制御し、OSと結びつけて作動させるミドルソフトを指すものと解される。 また、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び「部品マイスター」についても、それぞれ、「P第4574号」、「P第5814号」としてプログラム登録がされているものの、前述のとおり、前者は、ソフトウェア部品及びその機能の概略を画面に表示し、それらから抽出、選択して業務担当者ごとの処理メニューを構築する機能を有するプログラムであること、後者は、「ソフトウエアを部品単位に作るときの開発支援のためのツール」であることに鑑みると、いずれも、ソフトウェア部品はプログラム登録の対象に含まれていないものと認められる。 b 以上によれば、本件において、先行ソフトウェア部品がプログラム登録されたことを示す証拠はないが、プログラム登録は著作物性の要件ではなく、他方、著作物性を備えたものが必ずしもプログラム登録されるとは限らない。また、ビーエスエス社は、後述するとおり、先行ソフトウェア部品についてはソースコードを「部品マイスター」の購入者など一定範囲の者に開示していたことから、あえてプログラム登録の対象とせず、原則としてソースコードを非開示としたミドルソフトのみをプログラム登録したものと考えることができる。 これらの点を考慮すれば、本件証拠上、先行ソフトウェア部品がプログラム登録されたと認められないことは、先行ソフトウェア部品の著作物性を肯定した前記認定を何ら妨げるものではないというべきである。 c 控訴人は、先行ソフトウェア部品は定型的機能作品であり、これに法的保護を与えれば、プログラムの機能自体に著作権上の保護が付与されることになって社会の混乱を招くおそれがある旨主張する。 しかしながら、先行ソフトウェア部品の著作物性を肯定した場合、著作権上の保護を受けるのは、作成者の個性が表れた指令の表現の部分であって、当該先行ソフトウェア部品全体の機能ではなく、したがって、同じ機能を有する、上記著作権上の保護対象以外の一般的な指令の表現を用いることは妨げられず、同著作権者以外の者は上記機能を利用できなくなるという事態が生じるおそれは事実上ないといえるから、上記主張は採用できない。 (2) ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実の有無について ア 先行ソフトウェア部品のソースコードの開示について 「前提事実」、証拠(甲17、乙1、乙14、証人B、証人A)及び弁論の全趣旨によれば、@「BSS−PACK」のソフトウェアのエンドユーザーは、同ソフトウェアを各自の業務に使用する際、実際の作業内容、作業環境等に即して作動させるために、作業を実行するプログラムであるソフトウェア部品をカスタマイズする必要があること、Aビーエスエス社は、平成8年頃から、「BSS−PACK」の販促策の一環として、上記カスタマイズの便宜を図るために、ソフトウェアを部品単位に作るときの開発支援のためのツール、すなわち、ソフトウェア部品のカスタマイズに用いるプログラムである「部品マイスター」の購入者に対して先行ソフトウェア部品のソースコードを開示するようになり、その後、開示の対象を販売代理店まで広げたこと、B先行ソフトウェア部品の作動にはこれをOSと結びつける先行ミドルソフトが不可欠であるところ、ビーエスエス社は、先行ミドルソフトのソースコードを非開示とするとともに、特定のハードロックキーがなければ先行ミドルソフトが作動しないように設定することによって、「BSS−PACK」のソフトウェアが無償で拡散するという事態の発生を防ぎ、また、上記ハードロックキーをユーザーに有償で提供し、対価として徴収するライセンス料を収入源としていたこと、Cビーエスエス社は、「BSS−PACK」のソフトウェアの購入が見込まれる客に対し、サンプルとして数本の先行ソフトウェア部品を見せたこともあったことが認められる。 イ 控訴人の主張について (ア) 控訴人は、前述のとおり、先行ソフトウェア部品のソースコードを、「BSS−PACK」のソフトウェアの購入者や販売代理店等に限らず、広く第三者に無償で開示し、先行ソフトウェア部品について著作権放棄の宣言をした旨主張する。 (イ)a(a) しかしながら、まず、先行ソフトウェア部品のソースコードを上記ソフトウェアの購入者や販売代理店等の関係者以外の者に開示することについては、一般的な有用性、合理性を見出し難い。 すなわち、先行ソフトウェア部品の作動に不可欠な先行ミドルソフトを有しない者が、開示された先行ソフトウェア部品のソースコードを活用してソフトウェア部品を作成したとしても、先行ミドルソフトがなければ作動させることができず、実用に供し得ない。そして、前記のとおり、先行ミドルソフトのソースコードが非開示とされている以上、先行ミドルソフトを使用できるのは、原則として、「BSS−PACK」のソフトウェアの購入者や販売代理店に限られるから、上記の先行ソフトウェア部品のソースコードの開示が、控訴人のみならず第三者の経済活動に利益をもたらすものとは想定し難い。 他方、前述したマインドリサーチ株式会社主催の座談会において、Aは、約10年間で14億円を費やして先行ソフトウェア部品1300個を作成したという趣旨の発言をしているところ(乙9)、そのように高額の資金を費やして作成した先行ソフトウェア部品のソースコードを関係者以外の者に無償で開示することから得られるメリットは上述のとおり少なく、このことからも、同開示の合理性は乏しいものといわざるを得ない。 (b) この点に関し、Aは、高い技術力を有する第三者において、著作権上の問題を生じさせることなくソフトウェア部品のソースコードを基にミドルソフトを独自に作成することは、技術的に可能である旨述べる(乙4、乙14、乙29、証人A)。 しかしながら、A自身、実際に第三者がミドルソフトを作成したケースは1、2件であり、大半はビーエスエス社のミドルソフトを購入していた旨を証言している。 また、「BSS−PACK」のソフトウェアの開発、製造に関するノウハウを有しない第三者がソフトウェア部品のソースコードを基にミドルソフトを開発することについては、たとえそれが技術的に可能であり、かつ、Aが述べるようにビーエスエス社の技術支援があった(乙29等)としても、かなりの労力、時間を要し、そのコストは「BSS−PACK」のソフトウェアの購入費を大幅に上回ることが推認できる(証人B)から、第三者において、あえて上記ソフトウェアを購入せずに自らミドルソフトを開発するという手段を選ぶことは、通常、考え難いというべきである。 以上によれば、第三者がミドルソフトを独自に作成することは技術的に可能である旨のAの前記供述は、前記(a)の判断を左右するものではない。 b(a) 一般に、作成者等の権利者において、プログラムを公開して誰もが無償でアクセスして使用できる状態にすること、すなわち、当該プログラムを無償で配布していわゆるフリーウェアとすることはあり得るものの、通常は、著作権についてまで放棄するものではなく、意に反して同プログラムが使用されることを防ぐために、変更や再配布の制限など同プログラムの使用等について何らかの条件を付すことが多いと解される。この点については、A自身、株式会社日本経営科学研究所(以下「日本経営科学研究所」という。)発行の「Computer Report」1997年5月号に掲載された同社からのインタビューに対し、「インターネット上で流されているフリーウェア/シェアウェア・ソフトウェアが利用に際して必ず『AS IS(あるがまま)』を条件にしていることからも解ることです。つまり、いかにフリーウェアのソフトウェアであっても『無修正』が絶対条件だということです。」(乙7)と述べているところである。 したがって、仮に控訴人が主張する先行ソフトウェア部品のソースコード開示がなされたとすれば、利用、処分についての制限が一切ないという点において極めて珍しいこととなる。また、控訴人が主張する先行ソフトウェア部品の著作権の放棄は、前述のとおり「BSS−PACK」全体のソースコードの約97パーセントを占めるプログラムの著作権を放棄するというのであるから、既存のユーザー等の関係者に対して重大な影響を及ぼすこととなってしまう。 (b) しかも、控訴人が主張する先行ソフトウェア部品のソースコード開示、著作権放棄という事実が存在するのであれば、単なる口頭の説明にとどまらず、説明文書の送付や自社のホームページへの掲載などといった確実な方法によって、上記事実を遺漏なく関係者に伝える措置が直ちに取られるはずである。 本件についてみると、先行ソフトウェア部品のソースコード開示、著作権放棄についての控訴人の主張に沿う証拠は、控訴人作成の被控訴人宛て通知書(甲9、甲11)、控訴人代表者の陳述書(乙1、乙10)、Aの陳述書(乙4、乙14、乙22、乙29)、前述した日本経営科学研究所からのインタビューに対するAの発言(乙7)、マインドリサーチ株式会社主催の座談会におけるAの発言(乙9)及びA証言、すなわち、専ら控訴人代表者又はAの供述によるもののみにとどまり、前記措置に関する文書など上記主張を客観的に裏付ける証拠はなく、また、本件証拠上、そのような措置が取られたことをうかがわせる事情もない。 なお、ISS社代表取締役であるCは、陳述書(甲13の1)において「ダウンロードされた企業の中で約20社がBSS−PACKを有償で購入されました。」と述べているが、他方、@同陳述書においては「『BSS−PACK』のオブジェクトと開発資料がダウンロードできるサービスを提供しておりました、しかし、重要資産のソースコードは提供しておりません。」、「BSS社が無償で第三者にソースコードを提供することはありえません。」と記載されており、甲13号証の2の陳述書にも同様の記載が見受けられること、ACは、証人尋問においても、ビーエスエス社がソフトウェア部品のソースコードを無限定で開示したことを明確に否定したことを考えると、Cの前記供述は、控訴人の前記主張を裏付けるものとはいえない。 c 加えて、控訴人の主張のとおりビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したのであれば、同社の事業を継承したソフトウエア部品開発社及び更に同社の事業を引き継いだ控訴人が上記著作権を承継取得することはあり得ない。 しかしながら、乙14(Aの陳述書)によれば、ソフトウエア部品開発社は、平成20年に、「パートナー社の役割強化のため、ソースコード開示を契約のあるパートナー社に限定し、エンドユーザーが必要とする場合には、パートナー経由にて開示を受けられるように変更しました。ホームページからのダウンロードは廃止しました。」とされ、控訴人の主張によれば、先行ソフトウェア部品の著作権を有しないソフトウエア部品開発社が、それまでは無償で一般に公開されていたという先行ソフトウェア部品のソースコードにつき、その開示の対象を限定する行為に及んだこととなり、不自然といわざるを得ない。また、控訴人は、前記のとおり、先行ソフトウェア部品の著作物性が認められた場合には、控訴人が先行ソフトウェア部品の複製権及び翻案権を有することの確認を求める旨主張しているところ、同主張も、ビーエスエス社が既に先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したという前記主張と矛盾するものというべきである。 d さらに、Aは、前述した日本経営科学研究所からのインタビューにおいて、先行ソフトウェア部品のソースコード開示につき、概要、「BSS−PACKの開発環境である『部品マイスター』を提供し、そこで開発されたアプリケーション・ソフトウェアについては、その開発会社の著作物として認め合う業界ルールを作ろうではないかという提唱です。」、「部品マイスターによる収益を中核とすることになります。」、「新規部品と共にBSS−PACKの一部も使われることになり、ここからの利益を期待しているのです。」と述べているが(乙7)、これは、@「BSS−PACK」の開発環境である「部品マイスター」に着目し、この収益を中核とするという点及びA新規部品と共に使われる「BSS−PACK」の一部からの利益も期待しているという点において、控訴人が主張する無償のソースコード開示とは明らかに異なるものといえる。また、Aの上記供述は、「部品マイスター」をもって、「初心者のための便利情報を集積したものにすぎず、ソフトウェア部品の開発、変更に不可欠なものではない」という控訴人の前記主張(控訴人の原審平成23年12月26日付け準備書面(1)、平成24年2月17日付け準備書面(2)及び同年10月12日付け準備書面(8))とも矛盾するものというべきである。 (ウ) 以上によれば、控訴人の前記主張は採用できず、本件において、ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実を認めるに足りる証拠はない。 なお、確かに、控訴人が指摘するとおり、「BSS−PACK」のソフトウェアに譲渡担保権を設定する「譲渡担保権設定契約証書」(乙17の1)には、譲渡担保権の対象として「(2) 非登録プログラム著作物 上記著作物に関連する一切の著作物(但し、丁(ビーエスエス社)が著作権を放棄しているものを除く。)」と記載されているが、同記載をもって、ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したとまでは認められない。「譲渡担保権設定契約証書」上、ビーエスエス社が著作権を放棄した著作物が何ら特定されていないことにも鑑みると、このただし書は、具体的な対象を想定したものではなく、プログラム登録されていないプログラム著作物については、著作権の所在が公示されないことから、看過されるおそれがあり得る著作権者の単独行為である著作権放棄があった場合に備えて、注意喚起の趣旨で設けられたものとみることもできる。 (3) 先行ソフトウェア部品の著作権の所在について ア 「前提事実」、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、「BSS−PACK」のソフトウェアの著作権が移転した経緯等について、以下の事実が認められる(なお、前述のとおり、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」は、先行ソフトウェア部品とミドルソフトから構成されるところ、プログラム登録されているのはミドルソフトのみであり、したがって、プログラム登録原簿に登録されている譲渡等の権利の変動はすべてミドルソフトについてのものであるが、先行ソフトウェア部品の著作権もミドルソフトの著作権と共に、すなわち、上記各ソフトウェアの著作権が一体として変動していたものと推認できることから、下記のとおり認定した。)。 (ア) 平成8年1月31日、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の各著作権が、譲渡担保権設定契約に基づき、ビーエスエス社から、日本開発銀行及び株式会社住友銀行(以下「住友銀行」という。)に譲渡された。 その後、平成9年3月17日、上記両ソフトウェアの各著作権が、日本開発銀行及び住友銀行からビーエスエス社に譲渡され、さらに、同日、譲渡担保権設定契約に基づき、同社から、日本開発銀行、住友銀行、株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)及び株式会社東京三菱銀行(以下「東京三菱銀行」という。)に譲渡された。 プログラム登録原簿には、いずれの譲渡についても(ただし、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」については、ミドルソフトに限る。以下同じ。)、その対象につき、「(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)」と明記されている(甲4の2、乙18)。 (イ) 平成9年、ビーエスエス社の経営状況はかなり悪化し、Aは、知人から当時ISS社の専務取締役を務めていたCを紹介され、同人に対し、ビーエスエス社への融資を依頼した。 ビーエスエス社は、ISS社に対し、同社からの借入金を所定の期日までに返済しなかった場合には「BSS−PACK及び部品マイスタに関する技術情報、ソースコード及びオブジェクトコードを貴社に提出致します。」などと約する趣旨の同年10月31日付けの文書を差し入れ(甲13の2の添付資料1)、以後、1回当たりおおむね数百万円から一千万円程度の借入れを複数回にわたり繰り返した(甲20の添付資料D)。この間、平成10年2月1日に、CがISS社の代表取締役に就任し、ビーエスエス社に対する貸付けを続けた。 平成10年3月31日、「部品マイスター」の著作権が、譲渡担保権設定契約に基づき、ISS社、株式会社富士銀行ほか5社に譲渡された。プログラム登録原簿には、譲渡の対象につき、「(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)」と明記されている(甲13の1、2、甲15、甲20、乙1、乙14、証人C)。 (ウ) 平成13年3月30日、ビーエスエス社は、当時の債権者であったISS社、平成11年10月1日付けで日本開発銀行の契約上の地位を継承した日本政策投資銀行、住友銀行、三和銀行及び東京三菱銀行との間で、「譲渡担保権設定契約証書」(乙17の1。以下、「本件譲渡担保契約書」という。)及び「譲渡担保権の共有に関する協定書」(乙17の2)を締結した(以下「本件譲渡担保契約」という。)。当時、日本政策投資銀行及びISS社のビーエスエス社に対する貸付金の元本債務残高は、それぞれ、合計2億円及び5000万円であり、住友銀行とビーエスエス社との間の特殊当座勘定借越契約の契約極度額は1億5000万円であった。また、三和銀行及び東京三菱銀行は、それぞれ、ビーエスエス社との間の銀行取引、手形債権及び小切手債権に基づく取引の極度額を1億円と設定していた。 本件譲渡担保契約は、ビーエスエス社の上記債権者らに対する債務を被担保債務として同社の有する著作権に譲渡担保権を設定するというものである。本件譲渡担保契約書には、下記の著作物の著作権に譲渡担保権を設定する旨が記載されている。 記 (1) 登録済プログラム著作物 (以下、プログラム著作権の題号、著作権者、登録番号、登録年月日の順に記載する。) 「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」 株式会社ビーエスエス、P第4574号−1、平成7年10月16日 「BSS−PACKサーバー(UNIX)」 株式会社ビーエスエス、P第4724号−1、平成8年1月16日 「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」 株式会社ビーエスエス、P第5363号−1、平成9年3月14日 (2) 非登録プログラム著作物 上記著作物に関連する一切のプログラム著作物(但し、ビーエスエス社が著作権を放棄しているものを除く。) (3) 上記プログラムの関連著作物 ユーザーズガイド一式にかかる著作物 ・環境開発マニュアル一式にかかる著作物 さらに、本件譲渡担保契約書には、「バージョンアップ等改良後の本件著作物(上記(1)から(3)の著作物を指す。以下、この項において同じ。)及び本件著作物の二次的著作物に関する著作権も本譲渡担保の対象となることを確認する。」(第10条1項)との規定があり、また、著作権に関し、ビーエスエス社は、本件著作物の著作権を上記債権者ら又はそのいずれかから承継取得した者に対し、著作者人格権を行使しないもの(第14条)と定められている。 Aは、ビーエスエス社の保証人として、本件譲渡担保契約を承認した(乙17の1、2)。 (エ) 平成13年3月30日、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の各著作権が、日本政策投資銀行、住友銀行、三和銀行及び東京三菱銀行から、ビーエスエス社に対して譲渡された。これは、本件譲渡担保契約書中、平成9年3月17日付け譲渡担保権設定契約(前記(ア))は本件譲渡担保契約の締結日から失効する旨の規定(第18条)に基づくものである。 さらに、同日、本件譲渡担保契約に基づき、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の各著作権が、ビーエスエス社から、日本政策投資銀行、住友銀行、三和銀行、東京三菱銀行及びISS社に譲渡された。 プログラム登録原簿には、上記いずれの譲渡についても(ただし、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」については先行ミドルソフトに限る。以下同じ。)、その対象につき、「(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)」と明記されている。 その後、ISS社は、ビーエスエス社から依頼を受け、前記譲渡担保権が実行されるのを防ぐために、代金として4000万円を拠出し、平成15年2月10日、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の各著作権の持分をすべて譲り受け、同日以降はこれらのソフトウェアの各著作権を単独で所有することになった(甲4の1、2、甲13の2、乙17の1、2、乙18、証人C)。 (オ) ISS社は、平成17年1月頃から経営状況が悪化し、間もなくビーエスエス社に対する貸付金の工面にも苦慮するようになった。当時、同社に対する貸付金残高は数億円に達していたが、早期の回収が期待できる状況ではなかった。 そこで、ISS社は、今後のビーエスエス社に対する融資等につき、サンライズ社も交えてビーエスエス社と協議した。結果として、以後は、サンライズ社がISS社に替わってビーエスエス社に対して融資をすることになり、その前提として、@サンライズ社のビーエスエス社に対する貸付金の物的担保とするために、ISS社は「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の各著作権を合計4000万円の対価でビーエスエス社に譲渡すること、AISS社は、ビーエスエス社に対する貸付金債権をサンライズ社が紹介する者に譲渡し、サンライズ社はISS社に1億円を支払うことが合意された(甲13の2、乙15、乙29、証人C)。 (カ) ISS社は、前記合意に基づき、平成18年2月1日、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「部品ビュー」の各著作権をビーエスエス社に譲渡した。プログラム登録原簿上、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の上記譲渡につき、「(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)」と明記されている(「部品ビュー」のプログラム登録原簿は、証拠として提出されていない。)。 ビーエスエス社とサンライズ社は、同年3月28日付けで「事業継続支援に関する合意書」(乙8。以下「本件合意書」という。)を、同月30日付けで本件譲渡契約を、それぞれ締結した。 本件譲渡契約書(甲18)には、譲渡の対象につき、以下のとおり規定されている。本件合意書にも同様の内容の規定が存在する。 第1条(ソフトウェアの譲渡) 甲(ビーエスエス社を指す。)は乙(サンライズ社を指す。)に対し、平成18年4月末日までに、甲の所有する下記記載のプログラムその他の著作物(文書、図面、磁気テープ・ディスクその他の媒体物を含む。)及び当該各著作物に関する著作権その他一切の知的財産権(以下、「本件ソフトウェア」という。)の所有権を移転し、かつ当該各著作物を引き渡す。 記 (1) 登録済プログラム著作物 (以下、表示番号、著作物の題号、登録年月日の順に記載する。) @P第4574号 BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)、平成7年10月16日 AP第4724号 BSS−PACKサーバー(UNIX)、平成8年1月16日 BP第5363号 BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)、平成9年3月14日 CP第6339号 部品ビュー、平成11年5月13日 DP第5814号 部品マイスター、平成10年2月13日 (2) 非登録プログラム著作物 上記(1)の著作物のバージョンアップ等の改良後のプログラム著作物、その他関連する一切のプログラム著作物 (3) 上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物 ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物 本件譲渡契約において、「本件ソフトウェア」の譲渡価額は11億5000万円(消費税別)と定められ(第2条)、また、著作権に関して、ビーエスエス社はサンライズ社に対し、「本件ソフトウェア」について著作者人格権を一切行使しないものとする(第4条)旨の規定が設けられている(甲4の1、2、甲13の2、甲18、甲20、乙8、乙18、証人C)。 (キ) 「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の各著作権は、平成18年4月7日、本件譲渡契約に基づき、ビーエスエス社からサンライズ社へ譲渡された。 「部品マイスター」の著作権は、平成18年9月27日、当時の譲渡担保権者であったISS社ほか2社から、ビーエスエス社へ譲渡された。これは、本件譲渡契約中、「ビーエスエス社は、『本件ソフトウェア』について、担保権その他本件ソフトウェアを制限する一切の権利を抹消し、何等制限のない状態でサンライズ社に引き渡す。」(第1条2項)という規定に基づくものである。さらに、同日、「部品マイスター」の著作権は、本件譲渡契約に基づき、ビーエスエス社からサンライズ社へ譲渡された。 プログラム登録原簿には、いずれの譲渡についても、その対象につき、「(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)」と明記されている。 なお、「部品ビュー」の著作権については(プログラム登録原簿が提出されていない。)、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「部品マイスター」の各著作権と同様に、本件譲渡契約が締結された平成18年3月30日以降、本件譲渡契約に基づき、ビーエスエス社からサンライズ社へ譲渡されたものと推認できる。 他方、サンライズ社は、本件譲渡契約締結後、ビーエスエス社、ソフトウエア部品開発社に対し、事業資金等を融資した(甲4の1、2、甲15、甲18、乙1、乙8、乙12、乙15、乙18)。 (ク) 「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「部品マイスター」の各著作権はいずれも、平成19年9月19日に、ビーエスエス社からフロンテック社へ、さらに、平成21年5月22日に、同社から日本電子計算社へそれぞれ譲渡された。プログラム登録原簿には、いずれの譲渡についても、その対象につき、「(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)」と明記されている。 なお、ビーエスエス社は、別訴において、サンライズ社に対し、前記譲渡価額11億5000万円の支払を求める反訴を提起したが、平成20年7月29日、東京地方裁判所は、ビーエスエス社の有する上記11億5000万円の支払請求権は、その一部は同社から第三者に債権譲渡され、その余についてはサンライズ社がビーエスエス社の債務整理に当たることを内容とするコンサルティング契約に基づく報酬請求権等の反対債権と対当額で相殺する旨の合意により消滅したとして、ビーエスエス社の請求を棄却する旨の判決を言い渡し、同判決は確定した(甲4の1、2、甲12、甲15、乙1、乙18)。 イ 以上の事実によれば、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「部品マイスター」の各著作権はそれぞれ、本件譲渡担保契約や本件譲渡契約等に基づく移転を経て、現在は、いずれも日本電子計算社に属しているものと認められる。 ウ これに対し、控訴人は、前記のとおり、現在、先行ソフトウェア部品の著作権は、これをビーエスエス社から承継取得した控訴人が有している、たとえ上記著作権のすべてが控訴人に帰属するものと認められなくても、少なくとも翻案権は控訴人に帰属する旨主張する。 (ア) 本件譲渡担保契約について a 控訴人は、先行ソフトウェア部品は、譲渡担保権の対象に含まれていなかった旨を主張する。 b(a) そもそも、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」などのようにまとまった1つのソフトウェアである「BSS−PACK」の一部のミドルソフトにのみ譲渡担保権を設定するということ自体、当該ソフトウェアにおいて譲渡担保権の及ぶ範囲の内外の区別が一見して明らかにならず、公示や実行に関して問題が生じ得るものと思料され、一般に広く行われているとは考え難い。 (b) また、先行ソフトウェア部品は、「BSS−PACK」のソフトウェアの重要なプログラムといえる。 すなわち、前記認定のとおり、先行ソフトウェア部品は、現場における具体的業務の態様に則して細分化された作業に係る機能を有するプログラムである。そして、「BSS−PACK」は、企業の基幹業務を一元的に総合して管理するERPソフトウェアに属するものであり、その主たる長所は、@業務ごとに多数のソフトウェア部品が取りそろえられており、コンピュータの知識を有しないユーザーであっても、それらのソフトウェア部品から必要なものを適宜選択することによって、システムを構築できる点、A状況の変化に対応するためにシステムを変更する必要が生じた場合も、実際に変更を要する業務の処理に当たるソフトウェア部品のみを交換すれば足り、柔軟に対応できる点にあること(乙7)に鑑みれば、先行ソフトウェア部品は、「BSS−PACK」のソフトウェアが有する顧客誘引力の主要な源というべきである。また、先行ソフトウェア部品は、「BSS−PACK」の開発費の約8割を費やして開発され(証人C)、前記認定のとおり、そのソースコードは、「BSS−PACK」全体のソースコードの約97パーセントを占める。 以上に鑑みると、前述したとおり、@先行ソフトウェア部品のソースコードは、「部品マイスター」購入者など一部の者に開示されていること、A他方、ミドルソフトのソースコードは開示されておらず、また、ミドルソフトを起動させるハードロックキーがビーエスエス社の収入源であったこと、B先行ソフトウェア部品は、先行ミドルソフトがなければ作動し得ないことを考慮しても、先行ソフトウェア部品は、質量共に、「BSS−PACK」のソフトウェアの重要なプログラムと評価できる。 (c) そして、前記認定のとおり、本件譲渡担保契約は、ビーエスエス社のISS社及び金融機関4社に対する債務を被担保債務とするものであるところ、上記各債権者のビーエスエス社に対する貸付金債務残高、特殊当座勘定借越契約の契約極度額、銀行取引等の極度額は数千万単位から億単位に及び、本件譲渡担保契約の被担保債務の総額は、数億円に上るものと認められる。 この点を考慮すると、ビーエスエス社及び上記債権者らにおいて、譲渡担保権の設定に際し、あえて前述のとおり「BSS−PACK」のソフトウェアの重要なプログラムである先行ソフトウェア部品を譲渡担保権の対象から外し、その余の部分、すなわち、ミドルソフトのみに譲渡担保権を設定するとは到底考え難い。 (d) 先行ソフトウェア部品は、前述したとおり、本件証拠上、プログラム登録されたと認められず、したがって、本件譲渡担保契約書において譲渡担保権を設定する対象として掲げられた「(1) 登録済プログラム著作物」には当たらないものの、その1つである「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)株式会社ビーエスエス、P第5363号−1、平成9年3月14日」に関連するプログラム著作物として、「(2) 非登録プログラム著作物」に該当するものと認められる。 c 以上によれば、先行ソフトウェア部品は本件譲渡担保契約の対象に含まれていたものと認められ、控訴人の前記主張は採用できない。 (イ) 本件譲渡契約について a 控訴人は、先行ソフトウェア部品は本件譲渡契約の対象に含まれていなかった旨を主張する。 (a) しかしながら、前述したとおり、先行ソフトウェア部品は、「BSS−PACK」のソフトウェアが有する顧客誘引力の主要源といえるから、その経済的価値はかなり高いものと推認できる。そして、前記認定のとおり、本件譲渡契約においては、主に「BSS−PACK」のソフトウェアから成る「本件ソフトウェア」について11億5000万円(消費税別)という相当に高額な譲渡価額が設定されている。これらの事実によれば、先行ソフトウェア部品も本件譲渡契約の対象に含まれていたと考えるのが自然である。 また、先行ソフトウェア部品は、本件譲渡契約書において譲渡の対象として掲げられた「(1) 登録済プログラム著作物」には当たらないものの、その1つである「P第5363号 BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)、平成9年3月14日」に関連するプログラム著作物として、「(2) 非登録プログラム著作物」に該当するものと認められる。 他方、Aは、本件譲渡契約の際、先行ソフトウェア部品は著作権が放棄されていたのでサンライズ社に引き渡さなかった旨述べるが(乙29、証人A等)、前記のとおり先行ソフトウェア部品の著作権が放棄された事実を認めるに足りないことから、上記供述は前提を欠き、採用できない。 以上によれば、先行ソフトウェア部品は本件譲渡契約の対象に含まれていたものと認められ、控訴人の前記主張は採用できない。 (b) 控訴人は、前記のとおり、本件譲渡契約の対価である11億5000万円は、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の開発コストや「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の市場性を考えれば、非常に安価なものである旨主張するが、前述したマインドリサーチ株式会社主催の座談会における、ERPの中で使われるソフトウェアの部品は50万円くらいでSI企業に提供されるという趣旨のAの発言からも、11億5000万円という金額は、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」など本件譲渡契約の対象とされたソフトウェアの対価として、不相応に安価なものではないというべきである。 また、控訴人は、サンライズ社は本件譲渡契約の対価である11億5000万円を実際に支払わなかった旨主張するが、前記認定のとおり、ビーエスエス社がサンライズ社に対して上記対価の支払を求めた別訴の判決において、ビーエスエス社のサンライズ社に対する上記対価支払請求権は債権譲渡及び相殺合意により全額消滅したものと認定、判断されて請求を棄却され、その判決は確定したのであるから、上記対価の支払は既に履行されたものと同視でき、その他、本件譲渡契約に関して特に不自然な点はうかがわれない。 なお、控訴人は、ビーエスエス社は、本件譲渡契約締結に際し、サンライズ社との間で、「BSS−PACK」のミドルソフトの営業秘密部にある7本のプログラムは譲渡の対象外とし、「第2の契約書」を締結することなどを合意したが、サンライズ社は、ビーエスエス社からの督促にもかかわらず、結局、上記締結に応じなかった旨主張し、Aの陳述書にはこれに沿う部分もあるが(乙14、乙29等)、客観的な裏付けはない。さらに、@「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の各ミドルソフトを登録したプログラム登録原簿(甲4の1、2)には、一部を譲渡の対象から外す趣旨の記載は全く見られない。加えて、A前記認定のとおり、平成18年3月30日付けで締結された本件譲渡契約に基づき、その1週間余り後の同年4月7日に「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の各著作権がビーエスエス社からサンライズ社へ譲渡され、その10日後にプログラム登録原簿に各譲渡が登録されていることによれば(甲4の1、2、乙18)、本件譲渡契約締結から上記登録までの手順は滞りなく円滑に進められたものと推認でき、特段、その間に問題が生じたことはうかがわれない。以上によれば、控訴人の前記主張を認めるに足りないというべきである。 b 控訴人は、先行ソフトウェア部品の著作権が本件譲渡契約の対象に含まれていたとしても、本件譲渡契約書には翻案権を譲渡する旨の特別の規定は設けられていないことから、少なくとも先行ソフトウェア部品の翻案権はビーエスエス社に留保されていた旨主張する。 (a) 確かに、本件譲渡契約書(甲18)及び本件合意書(乙8)のいずれも、譲渡対象の著作物の著作権については、「(ビーエスエス社の)所有する下記記載のプログラムその他の著作物(文書、図面、磁気テープ・ディスクその他の媒体物を含む。)及び当該各著作物に関する著作権その他一切の知的財産権の所有権を移転し、かつ当該各著作物を引き渡す。」と規定しているのみで、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の翻案権を、譲渡の目的として特掲していない。したがって、著作権法61条2項により、上記翻案権は、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の著作権を譲渡したビーエスエス社に留保されたものと推定されることになる。 (b) しかしながら、前記認定のとおり、本件譲渡契約書上、譲渡の対象として掲げられた「(1) 登録済プログラム著作物」記載のソフトウェア中、プログラム登録原簿が証拠提出されていない「部品ビュー」を除く、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の各ミドルソフトの各プログラム登録原簿並びに「BSS−PACKクライアント」及び「部品マイスター」の各プログラム登録原簿のいずれにおいても、本件譲渡契約に基づくビーエスエス社からサンライズ社への譲渡の対象につき、「(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)」と明記されている。この事実によれば、少なくとも上記各ミドルソフトを含めプログラム登録された著作物については、翻案権を含む著作権法27条、28条所定の権利(以下「翻案権等」という。)を譲渡する合意が、譲渡人のビーエスエス社と譲受人のサンライズ社との間で成立していたものと推認できる。 そして、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」につき、ソースコードを非開示としていた各ミドルソフトについては上記推認のとおり合意により翻案権等をサンライズ社へ移転しながら、一定範囲の者にはソースコードを開示していた先行ソフトウェア部品についてはあえて上記合意をせずに、翻案権等をビーエスエス社にとどめる合理的理由は見出し難い。 また、前記認定のとおり、本件譲渡契約において、ビーエスエス社は、譲渡した著作物については、一身専属性を有する著作者人格権(著作権法59条)さえもサンライズ社に対しては行使しない旨が定められている。この規定からも、両社は、譲渡の対象とした著作物については、プログラム登録の有無を問わずその全体について、翻案権等も含めすべての著作権法上の財産的権利を移転する旨を合意していたものと推認できる。 (c) 以上によれば、ビーエスエス社とサンライズ社との間では、本件譲渡契約において、明文化されてはいないものの、プログラム登録されていない先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKサーバー(メニュークリエイト)」及び「部品マイスター」のすべてにつき、翻案権等も譲渡の対象としてサンライズ社へ移転させる旨の合意があったものと認められ、したがって、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」については、翻案権等を含む著作権のすべてがサンライズ社からフロンテック社を経て日本電子計算社に移転したものと認定できる。控訴人の前記主張は採用できない。 なお、Aは、サンライズ社が本件譲渡契約後もビーエスエス社に対して「BSS−PACK」の中国語版の製作を求めるなどしたことから、同社が「BSS−PACK」の開発を継続することは本件譲渡契約において想定されていたという趣旨の供述をするが(乙29)、ビーエスエス社は、翻案権等が留保されていなくても、著作権を取得したサンライズ社の承諾が得られれば、「BSS−PACK」の開発を続けることに著作権上の支障はないといえるし、現に、Cの供述(甲20)によれば、本件譲渡契約後、サンライズ社が営業等を、ビーエスエス社が「BSS−PACK」の製品の保守や機能拡張等を、それぞれ分担し、両社が共同して「BSS−PACK」事業を営んでいたものと認められることから、Aの上記供述は、前記認定を妨げるものではない。 (4) 複製又は翻案の成否及び著作権侵害の有無について ア 言語の著作物の翻案及び複製は、いずれも、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物を創作するものであり、@既存の著作物の具体的表現に修正、増減、変更等(以下「修正等」という。)を加え、これにより、新たに思想又は感情を創作的に表現して別の著作物、すなわち、二次的著作物を創作する行為が翻案であり(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)、他方、A既存の著作物と全く同一のものを作成する行為、既存の著作物の具体的表現に修正等を加えたが、これによっても新たな創作的表現の付加がなく、二次的著作物の創作に至っていない行為が複製に当たると解される。したがって、新たな創作的表現の付加の有無が、翻案と複製を区別する主要な基準になるものということができる。 イ(ア) 本件についてみると、前記のとおり、控訴人が、本件ソフトウェア部品は先行ソフトウェア部品を翻案して作成したものである旨を主張していることに加え(当審平成25年11月7日付け控訴理由書9頁)、@ビーエスエス社は、先行ソフトウェア部品に大きく手を加え、グラフ表示機能、部品間連動機能等を付加して一新し、本件ソフトウェア部品の一部としたこと(乙22)、A本件ソフトウェア部品と先行ソフトウェア部品の各ソースコードは、前者が後者よりも量において多いものの、内容において特段の相違はないこと(証人A〔原審第2回口頭弁論調書に引用添付された証人Aの証人尋問に係る速記録24頁から25頁〕)によれば、本件ソフトウェア部品は、先行ソフトウェア部品に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正等を施したものと推認でき、したがって、本件ソフトウェア部品は、先行ソフトウェア部品の少なくとも一部を複製又は翻案したものを含むということができる。 この点に関し、Aは、陳述書(乙22)において、本件ソフトウェア部品が先行ミドルソフトでは稼働しなくなった旨を述べるが、仮にその供述のとおりの事実が存在するとしても、本件ソフトウェア部品のうち、先行ソフトウェア部品の一部を複製又は翻案したもの以外の部分、すなわち、先行ソフトウェア部品に新たに付加されたものが原因となって上記事実が生じたと考えることができるから、上記供述は前記認定を揺るがせるものではない。 (イ) そして、前述したとおり、先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」については、翻案権等も含め著作権のすべてが日本電子計算社に移転したことから、本件ソフトウェア部品に含まれるのが、先行ソフトウェア部品の一部を複製したもの、翻案したもののいずれであったとしても、同複製及び翻案は、日本電子計算社の著作権を侵害する行為に当たるというべきである(なお、本件においては、本件ソフトウェア部品、先行ソフトウェア部品いずれのソースコードも提出されていないことから、各ソースコードを比較、照合できず、本件ソフトウェア部品について、先行ソフトウェア部品の一部に新たな創作的表現が付加されたか否かは不明である。)。 ウ 控訴人は、先行ソフトウェア部品及び本件ソフトウェア部品は、オリジナルのソフトウェア部品を翻案したものである旨主張する。 この点に関し、オリジナルのソフトウェア部品の著作権は控訴人又はAが有していることから(乙1、乙13、乙29、弁論の全趣旨)、先行ソフトウェア部品がオリジナルのソフトウェア部品を翻案ないし複製したものであるならば、前記のとおり本件ソフトウェア部品に含まれる、先行ソフトウェア部品の一部を複製したものについても、同複製が控訴人又はAの有するオリジナルのソフトウェア部品の著作権の範囲内に含まれると認められる可能性がある。そして、そのように認められれば、上記複製は、日本電子計算社の著作権を侵害する行為に当たらないと解する余地もある。 しかしながら、先行ソフトウェア部品についてみると、証拠(乙22、乙27の1)及び弁論の全趣旨によれば、オリジナルのソフトウェア部品がVAX/VMSのOS上のみで作動するのに対し、先行ソフトウェア部品はVAX/VMS上では作動せず、その他のWindowsNT等の複数のOS上で作動することが認められ、少なくとも、これらの相違する部分については、先行ソフトウェア部品がオリジナルのソフトウェア部品に依拠 したものとは認められない。他方、オリジナルのソフトウェア部品と先行ソフトウェア部品との間で、その表現において類似することを認めるに足りる証拠はない。 したがって、先行ソフトウェア部品は、オリジナルのソフトウェア部品に依拠したものと認められず、オリジナルのソフトウェア部品を翻案ないし複製したものとは認めるに足りない。 エ 以上によれば、本件ソフトウェア部品は、少なくとも先行ソフトウェア部品の一部を複製したものを含み、同複製が日本電子計算社の著作権の侵害行為に当たるという前記結論は揺るがず、本件両ソフトには、日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中のプログラムを複製したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があるというべきである。 (5) 小括 ア 上述のとおり、本件両ソフトには、日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中の先行ソフトウェア部品中のプログラムを複製したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があるから、本件両ソフトの提供をもって、本件契約の「債務の本旨に従った履行」(民法415条)ということはできない。 イ そして、前記のとおり控訴人が日本電子計算社から利用許諾を得る必要はない旨主張していることに加え、控訴人と密接な関係を有するビーエスエス社が、日本電子計算社の親会社の役員に対し、平成25年6月から同年7月にかけて、複数回にわたり、日本電子計算社が開発した製品はビーエスエス社の著作権を侵害するなどという趣旨の書簡を送付し、控訴人の原審平成25年6月25日付け準備書面(10)を同封したこともあったこと(乙22添付資料4、乙29添付資料3、4)を考えると、控訴人が著作権者である日本電子計算社から先行ソフトウェア部品の利用について許諾を得る可能性は非常に低いものといえ、前記瑕疵が治癒される見込みは、ほぼないといってよい。 ウ 加えて、証拠(乙28の1から3)によれば、本件ソフトウェア部品は「部品屋2007」全体のプログラムの相当部分を占めるものと推認できるから、控訴人において、著作権上の瑕疵がない「部品屋2007」のソフトウェアを改めて提供することも、事実上は困難なものと推認できる。 エ 以上によれば、その余の論点、すなわち、ミドルソフト並びに「部品マイスター」及び「ソフトウエア部品開発ツール」について判断するまでもなく、控訴人は、その責めに帰すべき事由により、本件契約に基づいて「部品屋2007」のソフトウェアを被控訴人に提供する債務を履行することができなくなったといえるから、債務不履行責任(民法415条後段)を負う。 2 争点(2)(本件契約の債務不履行による損害額)について (1) 「前提事実」のとおり、被控訴人は、控訴人に対し、本件契約に基づいて提供された本件両ソフト等の対価、ソフトウェアの取扱方法についての研修の費用、契約料及び更新料として合計206万5000円を支払ったことが認められる。 (2)ア 被控訴人は、本件契約上、控訴人から提供された「部品屋2007」のソフトウェアを使用、再販、複製等する権利を有しており、本件契約を締結した主な目的は上記ソフトウェアの転売であるところ、前記のとおり、本件両ソフトには、日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中のプログラムを複製したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があり、同社の利用許諾が得られる見込みもほぼない以上、被控訴人において本件両ソフトを転売することは、事実上不可能というべきである。 このことから、被控訴人が本件両ソフト及び「部品屋2007プロテクションキー」の対価として支払った合計109万9000円は、その全額を控訴人の債務不履行による損害と認めるのが相当である。また、被控訴人が本件両ソフトを転売できない以上、その取扱方法についての研修も無用のものであったといわざるを得ないから、被控訴人が研修費として支払った合計33万6000円も、上記損害に当たるというべきである。 イ 前記のとおり、控訴人は、本件契約に基づいて「部品屋2007」のソフトウェアを被控訴人に提供する債務を履行できなくなり、これによって、被控訴人は、控訴人から「部品屋2007」のソフトウェアを標準価格に基づく価格よりも安価で調達して転売するという、本件契約の目的を達することが不可能になった。この点に鑑みると、被控訴人が契約金及び更新料として支払った合計63万円についても、損害と認めるのが相当である。 (3) 以上のとおり、被控訴人が本件契約に基づいて控訴人に支払った206万5000円全額が、控訴人の債務不履行によって生じた損害と認められる。 3 争点(3)(本件中間確認の訴えの当否)について (1) 確認の訴え及び中間確認の訴えの要件について ア 一般に、確認の訴えは、当該訴えを提起した者(以下「提訴者」という。)、すなわち、本訴であれば原告、反訴であれば被告において、請求の趣旨で特定した権利又は法律関係の存在又は不存在を確定することにより、提訴者の法的地位の安定を図ることを目的とするものであるから、確認の対象は、原則として、現在の権利又は法律関係の存否に限られ、証書真否確認の訴え(民訴法134条)を除き、事実の存否の確定のために提訴することは許されない。また、上記の趣旨によれば、確認の訴えの利益が肯定されるためには、提訴者の権利又は法的地位に現に危険、不安が生じており、それを解消するために請求の趣旨で特定した権利又は法律関係について確認することが必要、適切であることを要すると考えられる。 イ 中間確認の訴え(民訴法145条)は、係属中の訴訟において、その本来の請求を判断する上で先決関係に立つ法律関係の存否につき、その訴訟手続に付随して、当事者間に確認判決を求める訴えであり、その趣旨は、上記法律関係の存否自体を訴訟物として判決主文における判断の対象とし、その判断に既判力を生じさせることによって、上記法律関係の存否に関わる紛争の解決を図ることにある。 中間確認の訴えも、確認の訴えの一類型である以上、確認の対象は、原則として、現在の権利又は法律関係の存否に限られ、民訴法145条の文言によれば、証書真否確認も含め、事実の存否の確定のために提訴することは許されないというべきである。 また、中間確認の訴えは、上記趣旨から、当事者間に争いがあり、本来の請求の全部又は一部の判断の先決関係にある法律関係の存否(以下「先決問題」という。)を対象とするものに限定されると解される。 (2) 本件中間確認の訴えに関する請求 ア 前記のとおり、本件中間確認の訴えに係る請求の趣旨は、別紙中「部品屋2007 中核部(ミドルソフト)」欄記載の各製品に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。以下、「別紙部品屋2007のミドルソフト」という。)は、ソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACK(VAX/VMS)」に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。以下「BSS−PACKのミドルソフト」という。)の各著作権を侵害しないことの確認を求めるものである。 上記請求の趣旨については、ミドルソフトに関する控訴人の前記主張内容を考慮すると、「別紙部品屋2007のミドルソフト」は、Aが基礎から設計したものであり、「BSS−PACKのミドルソフト」に依拠するものではないという趣旨に解するのが自然であると思料されるところ、これは、Aが「別紙部品屋2007のミドルソフト」を基礎から設計した事実の存在及び「別紙部品屋2007のミドルソフト」が「BSS−PACKのミドルソフト」に依拠するという事実の不存在の確認を求めるものであるから、不適法といわざるを得ない。 イ もっとも、本件事案の性質を考慮し、本件中間確認の訴えをもって権利又は法律関係の存否の確認を求める趣旨と解する余地の有無につき、更に検討する。 (ア) この点に関し、原判決は、本件中間確認の訴えは、控訴人の被控訴人に対する債務不履行に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める趣旨であると解し、民訴法142条に基づき、不適法である旨判断しているが、以下のとおり、本件中間確認の訴えに係る請求の趣旨は、本件損害賠償請求と完全に表裏の関係にあるとはいえない。 本件損害賠償請求は、被控訴人が、控訴人に対し、@本件両ソフト、すなわち、控訴人が本件契約に基づき平成21年10月22日に被控訴人に提供した「部品屋2007サーバー」及び「部品屋2007クライアント」には、日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵が、A本件両ソフトのカスタマイズに不可欠な「ソフトウエア部品開発ツール」には、日本電子計算社が著作権を有する「部品マイスター」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵が、それぞれ存在し、かつ、B控訴人が日本電子計算社から上記各著作権に関する利用許諾を得る見込みもないとして、本件契約の債務不履行責任を追及するものである。 本件中間確認の訴えに係る請求の趣旨である「別紙部品屋2007のミドルソフト」が「BSS−PACKのミドルソフト」の各著作権を侵害しないこと、すなわち、「別紙部品屋2007のミドルソフト」には、「BSS−PACKのミドルソフト」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれないことが確認されれば、「別紙部品屋2007のミドルソフト」に含まれる本件ミドルソフトには、「BSS−PACKのミドルソフト」に含まれる先行ミドルソフト中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれないことも確認されることになり、この部分に関しては債務不履行責任が生じない余地がある。しかしながら、その場合も、@本件ミドルソフトと共に本件両ソフトを構成する本件ソフトウェア部品に、先行ミドルソフトと共に「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」を構成する先行ソフトウェア部品中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれていること、A「ソフトウエア部品開発ツール」に、「部品マイスター」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれていることのいずれかが認められ、かつ、控訴人が先行ソフトウェア部品又は「部品マイスター」の著作権につき日本電子計算社から利用許諾を得る見込みがなければ、控訴人は本件契約の債務不履行責任を免れない。他方、本件ミドルソフトに、先行ミドルソフト中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているとしても、控訴人が先行ミドルソフトの著作権に関して日本電子計算社から利用許諾を得られるのであれば、本件契約の債務不履行責任を負うことはない。 このように、本件中間確認の訴えに係る請求の趣旨は、本件損害賠償請求と完全に表裏の関係にあるとはいえない以上、本件契約の債務不履行による損害賠償債務の不存在の確認を求めるものと解することは困難であり、原判決の前記判断は誤りである。 (イ) もっとも、本件中間確認の訴えは、権利又は法律関係の存否の確認を求める趣旨に係るものと善解した場合であっても、以下のa及びbで述べるとおり、原判決と異なる理由により、結局、不適法というべきである。 a(a) @甲3号証には、「部品屋2007サーバー」の対応OSとして「Windows2000」、「WindowsXP」及び「Windows Server 2003」が、「部品屋2007クライアント」の対応OSとして「Windows2000」、「WindowsXP」、「Windows2003」及び「WindowsVista」が記載されていること、A控訴人は平成21年10月22日に本件両ソフトを被控訴人に提供したこと、B「Windows7」は平成21年10月にリリースされたこと(甲19)を考慮すると、本件両ソフトが「Windows7」以降のバージョンに対応するとは認め難い。 このことから、別紙「部品屋2007 中核部(ミドルソフト)」欄記載の各製品のうち、「Windows7版」、「Windowsサーバー2012版」及び「Windows8版」の各製品が本件両ソフトではないことは明らかといえ、したがって、これら3つの製品の各ミドルソフトに関する法律関係は、本件損害賠償請求に関係するものではないから、先決問題になり得ない。 また、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACK(VAX/VMS)」の各ミドルソフトに関する法律関係も、本件損害賠償請求に関係するものではないから、先決問題にならない。 以上のとおり、控訴人の請求中、「別紙部品屋2007のミドルソフト」のうち「Windows7版」、「Windowsサーバー2012版」及び「Windows8版」の製品の各ミドルソフト並びに「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACK(VAX/VMS)」の各ミドルソフトに関して確認を求める点は、中間確認の訴えの要件を欠く。 (b) また、上記各ミドルソフトについて控訴人の権利又は法的地位に現に危険、不安が生じているとは認めるに足りないことから、上記各ミドルソフトに関して確認を求める点は、一般的な確認の訴えの適法性を基礎付ける確認の利益も欠くといわざるを得ない。 (c) 以上によれば、上記各ミドルソフトに関して確認を求める請求は、不適法というべきである。 b その余の控訴人の請求、すなわち、「別紙部品屋2007ミドルソフト」のうち「Windows2000版」、「WindowsXP版」、「Windowsサーバー2003版」及び「Windowsサーバー2008版」の各ミドルソフト(以下、「部品屋2007『Windows2000版』等のミドルソフト」という。)が、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」のミドルソフトの著作権を侵害しないことの確認を求める請求について検討する。 前述した甲3号証の記載内容及び控訴人が被控訴人に対して本件両ソフトを提供した時期によれば、本件両ソフトに含まれる本件ミドルソフトは、「部品屋2007『Windows2000版』等のミドルソフト」を含むものと推認できる。このことから、控訴人の上記請求を、実質において、本件ミドルソフトには、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」のミドルソフト、すなわち、先行ミドルソフト中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているというという著作権上の瑕疵があることによって生ずる本件契約の債務不履行による損害賠償債務の不存在の確認を求めるものと善解し、以下、検討する。 控訴人の上記請求は、本件損害賠償請求との関係で民訴法142条に反するという問題があるほか、以下のとおり、確認の訴えの利益を欠く。 すなわち、前述したとおり、被控訴人は、本件損害賠償請求において、本件両ソフトには、日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があることを、控訴人による本件契約の債務不履行事由の1つとして掲げている。 控訴人の上記請求は、本件ミドルソフト及び先行ミドルソフトの関係に限定しているが、本件両ソフト及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」とも、ミドルソフトとソフトウェア部品から成り、両者のいずれか一方について本件両ソフトに「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという事実が認められれば、本件契約の債務不履行事由として損害賠償債務の根拠となり得る。すなわち、本件ミドルソフトに先行ミドルソフト中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという事実の不存在が確定したとしても、それのみでは本件両ソフトに、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという事実が存在しないとはいえず、本件ソフトウェア部品に先行ソフトウェア部品中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれていれば、結局、本件両ソフトには、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれていることになり、本件契約の債務不履行事由が認められる。 以上の点を考慮すると、控訴人の前記請求は、本件損害賠償請求によって控訴人の権利又は法的地位に現に生じている危険、不安を解消する適切な手段とはいえず、したがって、確認の訴えの利益を欠き、不適法というべきである。 (3) 控訴人の主張に対し ア なお、控訴人は、本件中間確認の訴えに関し、前記のとおり、「部品屋2007」の各ソフトウェアに含まれる各ミドルソフトの複製権及び翻案権、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる各ミドルソフトの翻案権並びにその余の「BSS−PACK」の各ソフトウェアに含まれる各ミドルソフトの複製権及び翻案権を所有することの確認を求める旨主張するので、念のため判断する。 (ア) 上記主張のうち、「部品屋2007」の各ソフトウェアに含まれる各ミドルソフトの複製権及び翻案権、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」に含まれるミドルソフトの翻案権、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」以外の「BSS−PACK」の各ソフトウェアに含まれる各ミドルソフトの複製権及び翻案権を控訴人が所有することの確認を求めるものについては、これらの権利関係は本件損害賠償請求の先決問題ではないことから、中間確認の訴えの要件を欠き、また、これらの権利につき現に控訴人の権利又は法的地位に危険、不安が生じているともいえないから、確認の訴えの利益も認められず、不適法というべきである。 (イ) ソフトウェア「BSS−PACKサーバー(UNIX)」に含まれるミドルソフトの翻案権を控訴人が所有することの確認を求めるものについては、本件損害賠償請求の先決問題ではないことから、中間確認の訴えの要件を欠く。 もっとも、本件損害賠償請求において、被控訴人がソフトウェア「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の著作権は日本電子計算社に属する旨主張していることから、控訴人が上記翻案権を所有することについて、一般的な確認の利益の存在は肯定できるものの、前記1(3)認定のとおり、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」については、翻案権も含め著作権のすべてを日本電子計算社が有しているものと認められ、控訴人の主張を認めることはできない。 (ウ) ソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」のミドルソフトすなわち先行ミドルソフトの翻案権を控訴人が所有することの確認を求める請求については、本件損害賠償請求の先決問題といえるものの、前記1(3)認定のとおり、現在は日本電子計算社が「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の著作権を有しているから、控訴人の主張は認められない。 イ また、控訴人は、前記のとおり、オリジナルのソフトウェア部品、先行ソフトウェア部品及び本件ソフトウェア部品について著作物性が認められた場合には、控訴人がこれらのソフトウェア部品の複製権及び翻案権を所有することの確認を求める旨主張する。 オリジナルのソフトフェア部品の複製権及び翻案権を控訴人が所有することの確認を求める請求については、本件損害賠償請求の先決問題といえるが、前述したとおり、上記複製権及び翻案権は控訴人又はAが所有しているものと認められるところ、いずれにせよ被控訴人はこの帰属に関しては特段争っておらず、したがって、上記複製権及び翻案権の確認を求める請求は中間確認の訴えの要件を欠く。また、これらの権利について現に控訴人の権利又は法的地位に危険、不安が生じているとうかがわれる事情も認めるに足りないことから、確認の訴えの利益も認められない。 先行ソフトウェア部品の複製権及び翻案権を控訴人が所有することの確認を求める請求については、前記1(3)認定のとおり、現在は日本電子計算社が先行ソフトウェア部品の著作権を有していることから、控訴人の主張は認められない。 本件ソフトウェア部品の複製権及び翻案権を控訴人が所有することの確認を求める請求については、これらの権利関係は本件損害賠償請求の先決問題ではないことから、中間確認の訴えの要件を欠き、また、これらの権利につき現に控訴人の権利又は法的地位に危険、不安が生じているともいえないから、確認の訴えの利益も認められず、不適法というべきである。 第4 結論 以上によれば、原判決のうち、被控訴人の請求を認容した判断は相当であり、本件中間確認の訴えを却下した部分は、前述のとおり、民訴法142条のみに基づいて不適法と判断した点は誤りといえるものの、結論においては相当であるから、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清水節 裁判官 新谷貴昭 裁判官 鈴木わかな |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |