判例全文 | ||
【事件名】ソフトバンクBBへの発信者情報開示請求事件B 【年月日】平成26年7月31日 東京地裁 平成26年(ワ)第3577号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年6月24日) 判決 原告 株式会社ジェイ・ストーム 原告 株式会社ランティス 原告 ユニバーサルミュージック合同会社 原告 株式会社エピックレコードジャパン 原告 株式会社ポニーキャニオン 上記5名訴訟代理人弁護士 前田哲男 同 中川達也 同 尋木浩司 同 林幸平 同 塚本智康 同 亀井英樹 同 石坂大輔 同 松木信行 被告 ソフトバンクBB株式会社 同訴訟代理人弁護士 高橋聖 同 佐々木政明 同 梶原圭 同 春日舞 同 寺門峻佑 同 小林貴恵 同 田中真人 主文 1 被告は、原告株式会社ジェイ・ストームに対し別紙発信者情報目録記載番号1及び6の、原告株式会社ランティスに対し同2の、原告ユニバーサルミュージック合同会社に対し同3の、原告株式会社エピックレコードジャパンに対し同4の、原告株式会社ポニーキャニオンに対し同5の各「ダウンロード日時」欄記載の日時に「IPアドレス」欄記載のインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の「情報」欄記載の情報をそれぞれ開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、レコード製作会社である原告らが、被告に対し、原告らが送信可能化権を有するレコードに収録された楽曲を氏名不詳者が無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置し、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動的に送信し得る状態にすることにより、原告らの送信可能化権が侵害されたと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、書証の枝番の記載は省略する。以下同じ。) (1) 当事者 ア 原告らは、いずれもレコード製作等を業とする会社である。 イ 被告は、一般利用者に対するインターネット接続プロバイダ事業等を行う株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の「特定電気通信役務提供者」に該当する。 (2) 原告らの送信可能化権(甲2、11) 各原告は、別紙レコード目録記載のとおり、同目録の「原告」欄に対応する「実演家」欄記載の実演家が歌唱する「収録楽曲」欄記載の楽曲を録音したレコード(以下「本件各レコード」と総称する。)を製作の上、「発売年月日」欄記載の日に「CD(商品番号)」欄記載の商業用12センチ音楽CDに収録して日本全国で販売したものであり、レコード製作者として本件各レコードにつき送信可能化権(著作権法96条の2)を有している。 (3) 株式会社クロスワープ(以下「クロスワープ社」という。)による音楽ファイル及びIPアドレスの検出等(甲2、3、6、10、11) ア Gnutellaネットワークとは、Gnutella及びこれと共通するプロトコルを持つファイル共有クライアントソフトを利用した情報共有のためのネットワークであり、インターネットに接続しているパソコンに同ソフトを組み込んで起動させているユーザー同士が互いのパソコンのハードディスクに記憶させた音楽ファイル等を相互に交換することを可能にするものである。Gnutellaネットワークには多数のユーザーのパソコンが相互に接続されており、あるユーザーが検索キーワードを入力すると、これをファイル名に含むファイルを保有しているパソコンのIPアドレス等に関する情報であるキー情報が伝えられ、そのファイルを保有しているパソコンに対してダウンロード要求を行うと、当該ユーザーのパソコンにそのファイルが自動的にダウンロードされる仕組みとなっている。 イ クロスワープ社は、「P2P FINDER」と称するシステム(以下「本件システム」という。)を用いてGnutellaネットワークを監視したところ、別紙発信者情報目録の「ダウンロード日時」欄記載の日時にGnutellaネットワークに接続されたパソコンに保存されてダウンロード可能な状態に置かれた音楽ファイル(同目録の「ファイル」欄に記載のもの。以下「本件各音楽ファイル」という。)及び当該パソコンのIPアドレス(同目録の「IPアドレス」欄に記載のもの。以下「本件各IPアドレス」という。)を検出し、本件各音楽ファイルをダウンロードしたとして、その旨を本件各音楽ファイルごとに対応する原告らに報告した。 ウ 本件各音楽ファイルは、別紙発信者情報目録の番号と同番号の別紙レコード目録記載の楽曲をmp3ファイル形式に変換して複製したものである。 エ 被告は、上記日時に被告の提供するインターネット接続サービスを利用して本件各IPアドレスの割り当てを受けてインターネットに接続していた者(以下「本件各契約者」という。)についての別紙発信者情報目録の「情報」欄記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。したがって、被告はこの情報に関してプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。 2 争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 本件各契約者が原告らの送信可能化権を侵害したことが明らかであるか (原告らの主張) クロスワープ社が行った実験によれば、本件システムがGnutellaネットワーク上を監視して検出したIPアドレスは実験者が送信したファイルの送信元のIPアドレスと完全に一致しており、本件システムによる本件各音楽ファイル及び本件各IPアドレスの検出は正確である。 したがって、本件各契約者が本件各音楽ファイルをGnutellaネットワークを介して送信可能な状態に置き、原告らの送信可能化権を侵害したことは明らかである。 (被告の主張) 被告は、プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインにより、権利を侵害するファイルを送信可能な状態に置いていたユーザーのIPアドレス、タイムスタンプ等の情報の正確性を確認する責任を負っているが、GnutellaなどのいわゆるP2P型ファイル交換ソフトについては、現時点においてIPアドレス等の特定方法の信頼性について具体的な基準を設けることは難しいとされている。被告は、原告らが本件各音楽ファイルを送信可能な状態に置いていたとしているユーザーのIPアドレス(本件各IPアドレス)、タイムスタンプ等の正確性を判断できないから、本件発信者情報が本件各音楽ファイルの送信可能化権を侵害した者の情報であるか否かを確認することができない。 (2) 原告らが本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか (原告らの主張) 原告らは、本件各契約者に対し、本件各レコードについて有する送信可能化権の侵害に基づく損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるが、本件各契約者の氏名、住所等が不明であるため、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(権利侵害の明白性)について (1) 前提事実(3)ウのとおり、本件各音楽ファイルは本件各レコードに録音された楽曲をmp3ファイル形式に変換して複製したものである。そうすると、本件システムによる本件各音楽ファイル及び本件各IPアドレスの検出が正確であると認められれば、本件各契約者が原告らの送信可能化権を侵害したものと解すべきことになる。 (2) そこで判断するに、前提事実に加え、証拠(甲2、5、6、12)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 本件システムは、クロスワープ社が開発したインターネット上の著作権侵害を検出するためのシステムであり、平成15年から稼働しており、Gnutellaネットワークには平成20年から対応している。 本件システムは、市販のCDを複製した音楽ファイルのファイル名に含まれていると考えられるキーワードを設定し、これを送信してキー情報を取得し、取得した複数のキー情報から一定の選択をした後、当該ファイルを保持していると考えられるパソコンにダウンロードを要求し、当該ファイルが公開状態にあれば当該パソコンから自動的に当該ファイルをダウンロードするものである。ダウンロードされたファイルそのもの及び送信元のパソコンのIPアドレス、ポート番号、ファイルハッシュ値、ファイルサイズ、ダウンロード完了時といったダウンロード時の情報は、自動的にデータベースに記録される。本件システムは、毎日1回、通信により正確な日本標準時を保つように設定されている。 イ クロスワープ社は、本件システムによるGnutellaネットワークの監視を随時行っており、平成25年4月15日に別紙発信者情報目録記載番号4のファイルを、同月21日に番号3のファイルを、同年6月17日に番号6のファイルを、同月23日に番号5のファイルを、同年7月14日に番号1及び2の各ファイルをそれぞれダウンロードした。 ウ クロスワープ社は、平成26年1月17日午後3時30分から同月28日午後3時30分までの間、プライベートアドレスを「●省略●」、グローバルIPアドレスを「●省略●」とするネットワーク構成の試験用OSから、Gnutellaネットワーク上に、試験ファイルとして50個のファイル(「26eb7b64863890a8」に「_001」から「_050」までの番号を付したmp3ファイル)を公開し、他方、本件システムにおいて、上記50個のファイルの番号部分を除いた部分(「26eb7b64863890a8」)を検索キーワードとして、Gnutellaネットワークの監視及びダウンロードをするという実験をした。 本件システムは、上記50個のファイルのうち5個のファイルを合計245回ダウンロードした。そのファイルの送信元のIPアドレスはいずれも「●省略●」であり、上記試験用OSのグローバルIPアドレスと一致した。 (3) 上記認定事実によれば、クロスワープ社の実験のとおり、本件システムが検出する音楽ファイルはGnutellaネットワーク上に実際に公開されているものであり、本件システムは当該ファイルを記録している端末のIPアドレスを正確に検出し、当該ファイルをダウンロードするものと認められる。 したがって、別紙発信者情報目録の「ダウンロード日時」欄記載の日時に本件各IPアドレスを用いてインターネットに接続していた本件各契約者は、本件各音楽ファイルをGnutellaネットワークを介して多数の者に対し送信可能な状態にしていたものと認められる。 そして、本件において、著作権法102条1項により準用される同法30条以下に定める著作隣接権の制限事由が存在することはうかがわれないから、本件各契約者が各原告の本件各レコードに係る送信可能化権を侵害したことは明らかというべきである。 2 争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由)について 以上に説示したところによれば、各原告は本件各契約者に対して著作隣接権侵害を理由に損害賠償請求権等を行使し得るところ、本件各契約者の氏名、住所等を覚知する手段が他にあるとうかがわれないから、被告に対し、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるということができる。 第4 結論 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 長谷川浩二 裁判官 橋彩 裁判官 植田裕紀久 (別紙省略) |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |