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【事件名】データベースソフトの著作権確認事件B(2)
【年月日】平成26年7月30日
 知財高裁 平成26年(ネ)第10013号 著作権確認請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成24年(ワ)第33631号)
 (口頭弁論終結日 平成26年5月21日)

判決
控訴人 X
被控訴人 中国塗料株式会社(以下「被控訴人中国塗料」という。)
被控訴人 中国塗料技研株式会社(以下「被控訴人中国塗料技研」という。)
被控訴人 大竹明新化学株式会社(以下「被控訴人大竹明新化学」という。)
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 小山雅男


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が、原判決別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム」に対する著作権を有することを確認する。
第2 事案の概要
 本判決の略称は、原判決に従う。
1 本件は、控訴人が、被控訴人らに対し、控訴人がプログラムの著作物である原判決別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム」の著作権を有することの確認を求める事案である。
 原判決は、控訴人の被控訴人らに対する本訴の提起は、実質的には前訴の蒸し返しというべきであり、信義則に照らして許されないとして、本件訴えをいずれも却下したため、控訴人が、これを不服として控訴したものである。
2 前提となる事実
(1) 当事者
ア 被控訴人中国塗料は、塗料の製造販売等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被控訴人中国塗料技研は、船舶の塗装情報管理システムの開発及び運用の請負等を業とする監査役設置会社であり、監査役の監査権限は会計監査に限定されていない。被控訴人中国塗料技研は、被控訴人中国塗料が全額出資する完全子会社である(甲8、10、弁論の全趣旨)。
ウ 被控訴人大竹明新化学は、塗料の製造販売等を業とする監査役設置会社であり、監査役の監査権限は会計監査に限定されていない。被控訴人大竹明新化学は、平成12年10月2日、信友株式会社(以下「信友」という。)を吸収合併した被控訴人中国塗料の子会社である。そして、信友は、被控訴人中国塗料の関係グループ会社の中で商社部門を担っていた会社であり、被控訴人中国塗料が全額出資する完全子会社であった(甲6、7、10、弁論の全趣旨)。
エ 控訴人は、昭和37年4月、被控訴人中国塗料に入社し、昭和60年、信友に出向し、昭和61年6月から平成4年5月21日まで信友の取締役であった。
 控訴人は、その後、被控訴人中国塗料技研に出向し、平成4年5月21日から平成5年1月30日まで同社の代表取締役であった。
 控訴人は、平成5年1月、被控訴人中国塗料技研を退職した。
(甲4〜6、18の1・2)
(2) 前訴
ア 前訴第1審判決
 控訴人は、被控訴人中国塗料を被告として、原判決別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム」(以下「本件システム」という。)の著作権確認及び本件システムに対する控訴人の開発寄与分の確認を求める訴えを、大阪地方裁判所に提起した(大阪地方裁判所平成19年(ワ)第11502号)。
 上記訴訟において、控訴人は、本件システムは、控訴人が昭和60年に信友に出向して以後、平成4年6月に被控訴人中国技研塗料に出向し、平成5年1月に同社を退職するまでの間、一人で開発作成したものであり、本件システムの作成について、被控訴人中国塗料、信友及び被控訴人中国塗料技研の「発意」は存在せず、職務著作(著作権法15条2項)に係る著作物に当たらないから、控訴人が著作権者となるものである旨主張した。これに対し、被控訴人中国塗料は、被控訴人中国塗料が現在使用中の「船舶情報管理システム」なる著作物は控訴人が開発したものではなく、控訴人の開発したものは被控訴人中国塗料には存在しない、仮に控訴人主張の本件システムが控訴人が開発したものとして存在するとしても、控訴人は信友在籍中に本件システムの開発を命じられてその業務に従事し、控訴人が被控訴人中国塗料技研に転社後も同業務が継続され、さらに仮に開発を命じたのが被控訴人中国塗料であるとすれば、本件システムは、著作権法15条2項の職務著作に係る著作物であり、その著作者は信友、被控訴人中国塗料技研又は被控訴人中国塗料であり、控訴人が著作権を有するものではない旨主張した。
 大阪地方裁判所は、平成20年7月22日、控訴人の本件システムの著作権の確認を求める請求について、本件システムは、信友及び被控訴人中国塗料技研の発意に基づき、両社の業務に従事する控訴人が職務上作成したものであるから、著作権法15条2項の職務著作に当たり、その著作者は信友ないし被控訴人中国塗料技研であるということができ、控訴人は本件システムの著作者にはなり得ないものであるから、その著作権を有するとはいえないとして、被控訴人中国塗料の上記主張のうち職務著作の主張を認めて、控訴人の請求を棄却した。また、本件システムに対する控訴人の開発寄与分がどれほどの割合であるかの確認を求める訴えは不適法であるとして、これを却下した(甲6。以下「前訴第1審判決」という。)。
イ 前訴第2審判決
 控訴人は、前訴第1審判決を不服として控訴し、控訴審において、控訴人が被控訴人中国塗料又は信友及び被控訴人中国塗料技研との共同著作権を有することの確認を求める予備的請求を追加した(知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10064号)。
 知的財産高等裁判所は、平成22年12月22日口頭弁論を終結し、平成23年3月15日、本件システムは、信友及び被控訴人中国塗料技研の発意に基づき、両社において開発業務に従事する控訴人が職務上作成したものであり、著作権法15条2項の職務著作として、その著作者は、信友又は被控訴人中国塗料技研あるいはその双方であって、控訴人が共同著作権も含め著作権を有するものではないから、その著作権の確認を求める請求は、主位的請求及び予備的請求のいずれについても理由がないとして、控訴人の控訴を棄却し、予備的請求を棄却する判決をした(甲7。以下「前訴第2審判決」という。)。
ウ 前訴上告審決定
 控訴人は上告するとともに上告受理を申し立てたが、最高裁判所は、平成24年2月28日、控訴人の上告を棄却し、本件を上告審として受理しない旨の決定をした(最高裁判所平成23年(オ)第1066号、同23年(受)第1203号。甲1。以下、これら一連の訴訟を「前訴」といい、控訴人が本件システムの著作権を有しないことを被控訴人中国塗料との間で既判力をもって確定した前訴第1審判決を「前訴確定判決」ということがある。)。
(3) 控訴人による催告及びこれに対する被控訴人中国塗料技研の回答
 控訴人は、平成24年10月17日付け催告書をもって、被控訴人中国塗料技研に対し、前訴確定判決により職務著作として被控訴人中国塗料技研に本件システムの著作権が帰属したことが判示されたが、被控訴人中国塗料技研が控訴人に対して発意をした当時、控訴人は被控訴人中国塗料技研の代表取締役であったから、代表取締役である控訴人が被控訴人中国塗料技研を代表して控訴人個人に対して「発意」を行うことは、旧商法265条1項の自己取引に該当し、取締役会の承認を得なければ無権代理として無効であるから、民法114条に基づき、上記自己取引を承認するか否かについて3週間以内に諾否を回答するよう催告した(甲2)。
 これに対して、被控訴人中国塗料技研は、同月19日付け回答書をもって、控訴人に対し、控訴人の上記主張自体が理解困難であるから、控訴人の催告について諾否の回答をすることはできない旨回答した(甲3、弁論の全趣旨)。
3 当事者の主張
 当事者双方の主張は、以下のとおり付加、訂正等し、当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決9頁16行目の次に、行を改めて、以下を挿入する。
 「本件システムの作成は、法人としての信友の発意に基づくものと認められ、また、その後の本件システムの作成は、法人としての被控訴人中国塗料技研の発意に基づくものである。信友や被控訴人中国塗料技研が、控訴人に本件システムの開発を発意させたわけではない。したがって、本件システムは職務著作に該当し、その著作権は信友及び被控訴人中国塗料技研に帰属する。」
(2) 当審における控訴人の主張
 控訴人は、平成25年8月13日、当時、自動車事故による傷害の療養中であったにもかかわらず、原審の担当合議体の裁判長から、判決言渡期日を同年9月11日午後4時と指定する旨の通知を受けた。そこで、控訴人は、同年9月3日付けで、同裁判長に対する忌避を申し立てた(東京地方裁判所平成25年(モ)第2951号)。同忌避申立ては、同年9月9日付けで却下されたため、控訴人は、同月24日付けで即時抗告を申し立てた(東京高等裁判所平成25年(ラ)第1981号)。同即時抗告の申立ては、同年10月24日付けで棄却されたため、控訴人は同年11月13日付けで特別抗告を申し立てた(平成25年(ラク)第869号)。
 しかるに、控訴人が上記特別抗告の申立てをした翌日である同年11月14日、原審の担当合議体の裁判長は、同年12月11日の判決言渡期日を指定した。上記忌避申立てに対する決定は、上記特別抗告の申立てによって確定が遮断されるから、原審の担当合議体の裁判長が上記判決言渡期日の指定をした当時は未だ確定してない。したがって、原審の担当合議体の裁判長が同年11月14日に同年12月11日の判決言渡期日を指定したことは、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)26条に反し違法である。
 そこで、控訴人は、同年12月4日付けで、原審の担当合議体の裁判長に対する忌避を申し立てた(東京地方裁判所平成25年(モ)第3981号)。ところが、原審の担当合議体は上記忌避の申立てを権利の濫用であるとして、これを同月5日付けで却下した。そこで、控訴人は同月9日付けで上記却下決定に対して即時抗告を申し立てたが(平成25年(ソラ)第10558号)、原審の担当合議体は、同月11日、原判決を言い渡した。原審の担当合議体が、その裁判長に対する忌避申立ての却下決定に対して即時抗告を申し立てられ、訴訟手続が停止したにもかかわらず、原判決を言い渡したことは、民訴法26条に反し違法である。
 したがって、原審における判決言渡期日の指定及び原判決の言渡しは、いずれも違法であるから、原判決は取り消されなければならない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人の本件訴えはいずれも適法であるが、控訴人の各請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 本件訴えの適法性について
(1) 訴訟物の特定について
 被控訴人らは、請求の趣旨第1項の「船舶情報管理システム」に対する著作権との記載では、控訴人が本訴で確認を求める著作物の特定(控訴人主張の著作権の特定)がされていない旨主張するが、本訴の請求の趣旨第1項において控訴人が被控訴人らに著作権の確認を求める「船舶情報管理システム」とは、前訴において被控訴人中国塗料に著作権の確認を求めていた原判決別紙著作権目録記載の船舶情報管理システム(本件システム)を指していることが明らかであるから、本訴の訴訟物は、本件システムの著作権として特定されていると認められる。
 したがって、被控訴人らの上記主張は採用することができない。
(2) 訴権の濫用について
 被控訴人らは、前訴確定判決により、控訴人と被控訴人中国塗料との間においては、控訴人が本件システムの著作権を有しないことが確定しているところ、被控訴人中国塗料のほか、被控訴人中国塗料技研及び被控訴人大竹明新化学を新たに被告に加えただけで前訴と請求(訴訟物)を同じくする本訴は、民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠き、信義に反することが明白であるから訴権を濫用するものとして不適法である旨主張するので、この点について検討する。
ア 前記第2の2の前提となる事実に加えて、以下の事実が認められることは当裁判所に顕著である。
 控訴人は、平成24年11月28日、本訴を提起し、次のとおり主張して、被控訴人中国塗料のほか、信友を吸収合併した被控訴人大竹明新化学及び被控訴人中国塗料技研に対して、控訴人が本件システムの著作権を有することの確認を請求している。
 信友又は被控訴人中国塗料技研の「発意」は、控訴人が信友の取締役又は被控訴人中国塗料技研の代表取締役として行ったもので、その内容は、本件システムの著作権を控訴人が有し、これを活用する最適の設備である被控訴人中国塗料の業務活動に使用させ、かつ、それに伴い適正な使用料を控訴人が受領するというものであるから、控訴人と信友及び被控訴人中国塗料技研間の自己取引に当たる。
 そこで、前訴口頭弁論終結後に控訴人から被控訴人中国塗料技研に対して民法114条の催告をしたにもかかわらず、被控訴人中国塗料技研は自己取引の承認を拒絶したから、「発意」は無効であることが確定し、本件システムの著作権は信友又は被控訴人中国塗料技研に移転せず、原著作者である控訴人個人の下に留まる。
 仮に「発意」について旧商法265条1項の適用がないのであれば、これは通常の法律行為として、上記「発意」の内容に従って本件システムの著作権は控訴人に帰属する。
 また、著作権法15条2項は憲法29条1項に違反する。
 したがって、本件システムについては著作権法15条2項の職務著作が成立しない。
イ 前記第2の2の前提となる事実及び前記ア認定の事実によれば、控訴人と被控訴人中国塗料との間では、前訴と本訴はいずれも、控訴人が被控訴人中国塗料に対し、控訴人が本件システムの著作権を有することの確認を求めるものであるから、訴訟物を同一にするものであるということができる。
 しかし、前訴は、控訴人が、本件システムについて、信友及び被控訴人中国塗料技研の「発意」は存在せず、職務著作に係る著作物に当たらないとして、控訴人が著作権を有することの確認を求めたものである。これに対して、本訴は、控訴人が、本件システムについて、信友及び被控訴人中国塗料技研の「発意」が存在したとする前訴確定判決の判断を前提とした上で、当該「発意」は控訴人と信友及び被控訴人中国塗料技研間の自己取引に当たるところ、前訴確定後の控訴人の民法114条の催告に対し、被控訴人中国塗料技研が回答しなかったため承認を拒絶したものとみなされ、「発意」が無効であることが確定したと主張して、控訴人が著作権を有することの確認を求めたものであるから、本訴が実質的に前訴の蒸し返しに当たるとまではいうことができない。また、前記第2の2の前提となる事実において認められる前訴の訴訟経過からは、控訴人において、前訴で信友及び被控訴人中国塗料技研の「発意」の存在が認定されて職務著作が成立すると判断されることを考慮して、あらかじめこれに備えて、前訴の係属中に本訴における上記主張をすることが容易であったとか、それが期待されていたともいい難い。
 そうすると、前訴と本訴は、訴訟物を同一にするものであって、本訴提起時に既に控訴人が被控訴人中国塗料技研を退職して後約20年が経過していることを考慮しても、被控訴人中国塗料との関係で、控訴人による本訴の提起が、民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠き、信義に反することが明白であるということはできない。
 そして、上記のとおり、被控訴人中国塗料との関係で、控訴人による本訴の提起が、信義に反することが明白であるといえない以上、前訴において当事者となっていなかった被控訴人中国塗料技研及び被控訴人大竹明新化学との関係で、本訴の提起が、民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠き、信義に反することが明白であるということはできない。
 したがって、本訴の提起が訴権を濫用するものである旨の被控訴人らの前記主張は採用することができない。
(3) なお、被控訴人らは、前訴確定判決により、控訴人と被控訴人中国塗料との間で、控訴人が本件システムの著作権を有しないことが既判力をもって確定したにもかかわらず、本訴において、再度、控訴人が被控訴人中国塗料に対して本件システムの著作権の確認を求めることは、前訴確定判決の既判力に抵触し、不適法却下を免れない旨主張する。しかし、一般に、既判力は、前訴と後訴の訴訟物が同一の場合、後訴裁判所は、前訴の判決で確定された権利又は法律関係についての判断内容に拘束され、これと矛盾抵触する判断をすることが許されず、確定された判断を拘束力あるものとして後訴の審判をしなければならないとの効果を有するものであって、前訴判決の既判力が及ぶからといって、後訴が直ちに不適法となるものではないから、被控訴人らの上記主張は失当である。
(4) 以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する本件訴えが不適法であるということはできない。
2 被控訴人中国塗料に対する請求について
 前記第2の2の前提事実及び前記1(2)アの事実によれば、前訴と本訴は、いずれも控訴人が本件システムの著作権を有することの確認を求めるものであるから、訴訟物を同一にするものであって、控訴人と被控訴人中国塗料との間においては、前訴の事実審の口頭弁論終結時である平成22年12月22日の時点で、控訴人が本件システムの著作権を有しないことが既判力をもって確定している。
 しかるところ、控訴人は、平成24年11月28日、本訴を提起し、信友又は被控訴人中国塗料技研の「発意」は、控訴人が信友の取締役又は被控訴人中国塗料技研の代表取締役として行ったもので、その内容は、本件システムの著作権を控訴人が有し、これを活用する最適の設備である被控訴人中国塗料の業務活動に使用させ、かつ、それに伴い適正な使用料を控訴人が受領するというものであるから、控訴人と信友及び被控訴人中国塗料技研間の自己取引に当たるところ、前訴口頭弁論終結後に控訴人から被控訴人中国塗料技研に対して民法114条の催告をしたにもかかわらず、被控訴人中国塗料技研は自己取引の承認を拒絶したから、「発意」は無効であることが確定し、本件システムの著作権は信友又は被控訴人中国塗料技研に移転せず、原著作者である控訴人個人の下に留まる、仮に「発意」について旧商法265条1項の適用がないのであれば、これは通常の法律行為として、上記「発意」の内容に従って本件システムの著作権は控訴人に帰属する、著作権法15条2項は憲法29条1項に違反するなどと主張して、控訴人が本件システムの著作権を有することの確認を請求している。
 しかし、著作権法15条2項にいう法人等の「発意」とは、著作物の作成が直接又は間接に法人等の意図に由来するものであることであって、そもそも法律行為ではないから、旧商法265条1項の自己取引の問題が生じるものでないことは明らかであり、また著作権法15条2項が憲法29条1項に反するものでないことも明らかであるから、これらに関する控訴人の主張は失当というほかない。
 この点をおいても、控訴人の主張によれば、信友及び被控訴人中国塗料技研による「発意」があった時点において、当該「発意」が、信友の取締役又は被控訴人中国塗料技研の代表取締役である控訴人と、会社である信友及び被控訴人中国塗料技研との間の自己取引に該当していたというのであるから、「発意」が自己取引であるとの控訴人主張に係る事実は、前訴口頭弁論終結前から存在しており、信友又は被控訴人中国塗料技研の職務著作の成否という同社らの著作権の発生原因に内在する瑕疵であることになる。そうすると、前訴において控訴人が発意の存在を否定する主張をし、また前記第2の2(3)のとおり、控訴人の民法114条の催告及び被控訴人中国塗料技研の回答が前訴口頭弁論終結後にされたものであるとしても、なお控訴人の前記主張は、前訴口頭弁論終結前に主張することができたものということができる。また、著作権法15条2項が憲法29条1項に違反する旨の主張も、前訴口頭弁論終結前に主張することができたものであることは明らかである。したがって、本訴において、控訴人がこれらの主張をすることは、前訴確定判決の既判力に抵触し許されないというべきである。
 そうすると、控訴人の被控訴人中国塗料に対する本訴請求は、前訴確定判決の既判力に抵触することから理由がない。
3 被控訴人中国塗料技研及び被控訴人大竹明新化学に対する請求について
(1) 証拠(甲8〜10、12、13、18の1・2、甲19)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 控訴人は、昭和37年4月、被控訴人中国塗料に入社し、昭和60年に被控訴人中国塗料の完全子会社であり、被控訴人中国塗料の関係グループ会社の中で商社部門を担っていた信友に出向した(甲10、18の1)。
イ 被控訴人中国塗料の専務取締役(その後代表取締役に就任した。)であったA(以下「A」という。)は、昭和60年当時、日本ペイントの提携会社であるインターナショナルペイントが独自の船舶情報管理システムを構築しようとしているとの情報を入手していたことから、被控訴人中国塗料としても同様のシステムを開発する必要性を感じていた。しかるに、被控訴人中国塗料社内にもコンピューター関係の担当者がいたものの、同社内のコンピューターシステムは、給与計算や経理を主体とするシステムであって、船舶情報管理システムとはかけ離れたところがあった。そのため、Aは、被控訴人中国塗料における本来のコンピューター担当者とは別に、船舶情報管理システムの開発担当者を決めることとした。そして、Aは、控訴人が技術部門に配属されていたときに、船舶に関する種々のデータ収集を行い、どのようなものが営業的・技術的に必要であるかを知悉していたことから、控訴人を船舶情報管理システムの開発担当者として選任した。また、Aは、上記のとおり、被控訴人中国塗料社内には、コンピューター関係の担当者がいたことなどから、これとは別に船舶情報管理システムの開発作成業務に当たらせるには、控訴人を関連会社に出向させて、被控訴人中国塗料の社外で開発業務を行わせるのが適当と考え、控訴人に対して、信友への出向を命じるとともに、船舶情報管理システムの開発を命じた(甲9、10)。
ウ 控訴人は、Aの前記イの業務命令に従い、信友に出向後、船舶情報管理システムの開発に従事した。
 被控訴人中国塗料においては、昭和61年2月に、信友に出向中の控訴人が起案した稟議書(就航中の船舶を徹底的にフォローし、船舶情報をコンピューターに入力して、被控訴人中国塗料及び他社の使用状況、塗装仕様及び実績、次回入渠成績予定などを把握するための情報管理システム業務を信友に委託することについての稟議書)に基づいて稟議が行われ、当時、被控訴人中国塗料の代表取締役であったAの決裁により、情報管理システム業務を信友に委託することが承認された。
 その後、信友では、「新造船受注情報システム計画案」が策定され、昭和61年9月には、信友や本件システム作成の外注先として選定された田中電機工業株式会社(以下「田中電機」という。)の見積りに基づいて、被控訴人中国塗料において、船舶情報管理システムの追加が稟議され、信友との間のリース契約の締結が決裁された。
 そして、信友における船舶情報管理システムの開発に際して、被控訴人中国塗料から信友に対して、「情報システム受託料」の名目で金銭が支払われた(例えば、信友の平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度に係る損益計算書によれば、同年度の受託料は1928万5898円であった。)。
 控訴人は、信友に出向した当初は平従業員(給与は課長待遇)であったが、昭和61年6月に役員に就任した(ただし、給与は課長待遇のままであった。)。
(甲8、9、18の2、甲19)
エ 控訴人は、その後、被控訴人中国塗料技研に出向し、平成4年5月21日から同社の代表取締役に就任したが、これに対応して、被控訴人中国塗料は、船舶情報管理システムに係る業務を被控訴人中国塗料技研に移管し、引き続き控訴人を同業務に従事させた。控訴人は、その後もAや被控訴人中国塗料側の担当者から本件システムの開発の詳細について個々具体的に指示がされることはなかったものの、Aや被控訴人中国塗料側の担当者に宛てて、本件システムの開発状況、問題点、追加費用の連絡など、本件システムの開発に関する種々の報告を行い、その指示を仰ぐなどしていた。
 控訴人は、平成5年1月、被控訴人中国塗料技研を退職した。
(甲9、10)
オ 田中電機に対する本件システム作成等の費用は、昭和60年以降、控訴人の信友在職中は同社から、控訴人が被控訴人中国塗料技研に代表取締役として出向してからは同社から、それぞれ支払われており、田中電機ではそれに基づいて本件システムの作成等が進められた(甲12、13)。
(2) 前記(1)認定の事実によれば、船舶情報管理システムである本件システムは、被控訴人中国塗料の社内稟議を経て代表者の決裁という明確な発意に基づいて開発が開始され、被控訴人中国塗料が全額出資する完全子会社である信友に対して、当該開発業務の委託と必要に応じての資金援助が行われるとともに、追加のプログラムのリース契約等も締結されたものである。そして、信友においても、「新造船受注情報システム」が会社としての事業計画とされ、田中電機に対して本件システム作成のための支払がされていたのであるから、本件システムの作成は、法人としての信友の発意に基づくものであると認められる。また、信友と同様に被控訴人中国塗料が全額出資する完全子会社である被控訴人中国塗料技研においても、本件システムの開発に従事していた控訴人が被控訴人中国塗料技研に代表取締役として出向するのに対応して、本件システムの開発業務が被控訴人中国塗料技研に移管され、田中電機に対して本件システム作成のための支払がされているのであるから、控訴人の被控訴人中国塗料技研出向後の本件システムの作成は、法人としての被控訴人中国塗料技研の発意に基づくものと認められる。
 以上のとおり、本件システムの開発が、控訴人が在籍中の出向元である被控訴人中国塗料の指示により開始され、被控訴人中国塗料の完全子会社である信友及び被控訴人中国塗料技研がその意向を受けて法人として本件システムの開発を発意しているのであるから、両社において当該開発業務に従事する控訴人が職務上作成した本件システムの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、法人である信友又は被控訴人中国塗料技研となるものと認められる(著作権法15条2項)。
(3) 控訴人は、この点について、信友又は被控訴人中国塗料技研の「発意」は、控訴人が信友の取締役又は被控訴人中国塗料技研の代表取締役として行ったもので、その内容は、本件システムの著作権を控訴人が有し、これを活用する最適の設備である被控訴人中国塗料の業務活動に使用させ、かつ、それに伴い適正な使用料を控訴人が受領するというものであるから、控訴人と信友及び被控訴人中国塗料技研間の自己取引に当たるところ、前訴口頭弁論終結後に控訴人から被控訴人中国塗料技研に対して民法114条の催告をしたにもかかわらず、被控訴人中国塗料技研は自己取引の承認を拒絶したから、「発意」は無効であることが確定し、本件システムの著作権は信友又は被控訴人中国塗料技研に移転せず、原著作者である控訴人個人の下に留まる、仮に「発意」について旧商法265条1項の適用がないのであれば、これは通常の法律行為として、上記「発意」の内容に従って本件システムの著作権は控訴人に帰属する、著作権法15条2項は憲法29条1項に違反するなどと主張する。
 しかし、前記2のとおり、そもそも著作権法15条2項にいう法人等の「発意」は法律行為ではないから、旧商法265条1項の自己取引の問題が生じるものでないことは明らかである。また、控訴人主張に係る「発意」、すなわち、信友又は被控訴人中国塗料技研と控訴人との間で、本件システムの著作権を控訴人が有し、これを活用する最適の設備である被控訴人中国塗料の業務活動に使用させ、かつ、それに伴い適正な使用料を控訴人が受領するという内容の契約等の法律行為が存在したことを認めるに足りる証拠はなく、そのほか、前記(2)の別段の定めが存在したことを認めるに足りる証拠はない。さらに著作権法15条2項が憲法29条1項に反するものでないことは明らかである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 以上によれば、前記(2)の別段の定めについて、前記(3)のとおり、これを認めるに足りる証拠がない以上、結局、本件システムの著作者は、信友又は被控訴人中国塗料技研、あるいはその双方であると認めるのが相当であって、控訴人が著作権を有しているということはできない。
 したがって、控訴人の被控訴人中国塗料技研及び被控訴人大竹明新化学に対する本訴請求は、いずれも理由がない。
4 当審における控訴人の主張について
(1) 以下の事実は、当裁判所に顕著である。
ア 控訴人は、平成24年11月28日、本訴を提起し、原審の担当合議体は、平成25年4月12日、本訴の弁論を終結し、判決言渡期日を同年6月12日と指定した。
イ 控訴人は、平成25年6月6日、原審の担当合議体の裁判長の忌避を申し立てた。(東京地方裁判所平成25年(モ)第1906号)。そのため、原審の担当合議体は、同月7日、同月12日に指定された判決言渡期日を取り消した。
 上記忌避申立てに対しては、同年7月8日、却下決定がされ、これに対する控訴人からの不服申立てはなく、同却下決定はその後確定した。
ウ そこで、原審の担当合議体の裁判長は、平成25年8月13日、本訴の判決言渡期日を同年9月11日と指定した。
 控訴人は、同年9月4日、原審の担当合議体の裁判長の忌避を申し立てた(東京地方裁判所平成25年(モ)第2951号)。そのため原審の担当合議体は、同月5日、同月11日に指定された判決言渡期日を取り消した。
 上記忌避申立ては、同月9日、却下決定がされたことから、控訴人は、即時抗告を申し立てたが(東京高等裁判所平成25年(ラ)第1981号)、同抗告は、同年10月24日、棄却された。そこで、控訴人は、同年11月15日、同棄却決定を不服として、特別抗告を提起した(特別抗告提起番号:東京高等裁判所平成25年(ラク)第869号)。
 原審の担当合議体の裁判長は、同年11月14日、本訴の判決言渡期日を同年12月11日と指定した。
エ 控訴人は、平成25年12月4日、原審の担当合議体の裁判長の忌避を申し立てたが(以下「本件忌避の申立て」という。)、原審の担当合議体は、控訴人の本件忌避の申立ては濫用的申立てであるとして、これを却下した。 控訴人は、同月9日、同却下決定を不服として、即時抗告を申し立てたが(東京地方裁判所平成25年(ソラ)第10558号。同事件の事件番号は、東京高等裁判所に係属した後は、東京高等裁判所平成25年(ラ)第2493号となった。)、同抗告は、平成26年1月28日、棄却された。
 他方、原審の担当合議体は、平成25年12月11日、原判決を言い渡した。
(2) 控訴人は、忌避申立却下決定に対する即時抗告が棄却されたことに対して、控訴人が平成25年11月13日付けで特別抗告を申し立てたことから、忌避申立てに対する決定は未だ確定していないにもかかわらず、原審の担当合議体の裁判長がその翌日である同月14日に同年12月11日の判決言渡期日を指定したことは、民訴法26条に反し違法である旨主張する。
 しかし、前記(1)ウのとおり、控訴人が特別抗告の申立てをしたのは同年11月15日であるから、控訴人の主張は前提事実を誤るものである上、特別抗告には特別上告に関する規定が準用されるところ、特別上告の提起には判決の確定を遮断する効力はないから、特別抗告の提起には高等裁判所がした決定又は命令の確定を遮断する効力はないと解される(民訴法336条3項、122条、116条1項)。したがって、前記(1)ウにおいて、東京高等裁判所のした即時抗告棄却決定に対して控訴人が特別抗告をしたからといって、同棄却決定の確定が妨げられる理由はないから、民訴法26条により訴訟手続を停止しなければならないものではなく、原審の担当合議体の裁判長が判決言渡期日を指定したことに違法はない。
 したがって、控訴人の上記主張は失当である。
(3) また、控訴人は、前記(1)エのとおり、原審の担当合議体が、その裁判長に対する本件忌避の申立てを却下する決定に対して即時抗告を申し立てられ、訴訟手続が停止したにもかかわらず、原判決を言い渡したことは、民訴法26条に反し違法である旨主張する。
 しかし、前記(1)のとおり、控訴人は原審において、本訴の口頭弁論終結後、判決言渡期日前に原審の担当合議体の裁判長の忌避を申し立て、その却下決定が確定した後に指定された判決言渡期日前に、再度、原審の担当合議体の裁判長の忌避を申し立て、その却下決定に対して即時抗告をしたが棄却され、その後に指定された判決言渡期日前に、さらに原審の担当合議体の裁判長に対する本件忌避の申立てをしたものである。したがって、控訴人による本件忌避の申立ては、専ら訴訟を遅延させる目的のみでされた濫用的な申立てであることは明らかであるから、原審の担当合議体が本件忌避の申立てを却下したことは相当であり、このような場合には民訴法26条の適用はないと解するのが相当であるから、原審の担当合議体が原判決を言い渡したことに違法はない。
 控訴人の上記主張もまた失当である。
5 結論
 以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、いずれも理由がないものとして棄却を免れないから、本件訴えを不適法であるとして、これをいずれも却下した原判決は相当ではない。しかし、この結論は、原判決の結論よりも控訴人に不利益であるところ、民訴法304条によれば、控訴人のみの控訴にかかる本訴につき、原判決よりも控訴人に不利益な結論となる判決をすることは許されないことから、本件控訴を棄却するにとどめるのが相当である。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 富田善範
 裁判官 田中芳樹
 裁判官 柵木澄子
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