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【事件名】テレビ番組送信サービス事件(韓国TV)
【年月日】平成26年7月16日
 東京地裁 平成25年(ワ)第23363号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成26年6月16日)

判決
原告 韓国放送公社
同訴訟代理人弁護士 小山智弘
同 玉井信人
送達をすべき場所 不明
日本登記簿上の本店所在地 大韓民国ソウル市<以下略>
登記簿上の日本における営業所 東京都荒川区<以下略>
被告 株式会社エス&シンク


主文
1 被告は、原告に対し、490万円及びこれに対する平成26年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、被告が、サービスの利用者らに対し、セットトップボックスと称する機器を送付するとともに、平成23年8月12日から同年9月8日までの間に、原告が放送するKBS第1テレビジョン及びKBS第2テレビジョンを受信の上、エンコード(デジタルデータに変換)してサーバーに保存し、保存したデジタルデータを利用者らのセットトップボックスに送信することにより、原告の放送にかかる別紙「侵害番組一覧」記載の49番組(以下「本件番組」という。)を利用者らに視聴させて、原告の著作権(複製権)及び著作隣接権(複製権、送信可能化権)を侵害したとして、民法709条に基づき、利用許諾料相当損害金490万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 請求原因
(1) 原告の著作権・著作隣接権
 原告は、大韓民国(以下「韓国」という。)の公社であり、KBS第1テレビジョン及びKBS第2テレビジョンにおいて本件番組を放送した放送事業者として著作隣接権を有し、また本件番組の著作権を有している。
 原告は世界貿易機関の加盟国たる韓国の国民である放送事業者であり、また原告の放送は世界貿易機関の加盟国たる韓国における放送設備から行われていることから、日本著作権法による保護を受ける(著作権法9条4号イ、ロ)。
(2) 本件サービス
 被告は、平成23年2月頃から、「韓国TV」(ウェブサイト上には「HANKOOK TV」や「KOREA TV」とも表示されており、以前は「Next G TV」の名称で株式会社Digital G&Gが運営していた。)の名称でインターネットを利用したテレビ番組配信サービス事業(以下「本件サービス」という。)を行っていた。
 本件サービスは、被告が、利用者の申込みに応じて、利用者ごとに一台ずつセットトップボックスと称する機器を提供して各利用者宅に設置し、他方で、被告において受信したテレビジョン放送をエンコード(デジタルデータに変換)して、そのデータファイルを被告が管理するサーバーに保管し、利用者がセットトップボックスを操作して見たい番組ないしチャンネルを指定することによって、サーバーに保存されたデータファイルをセットトップボックスに転送できる環境を提供することにより、利用者宅において、セットトップボックスと接続したテレビにおいて視聴できるというものである。
 利用者は、主として、日本に在住する韓国人が見る情報誌やホームページに掲載された広告を見て、電話やインターネットからの申込みによって本件サービスに加入し、送られてくるセットトップボックスを導入して、利用者宅に設置することにより、本件サービスの利用者となる。
(3) 被告による原告の著作権・著作隣接権侵害
 被告は、平成23年8月12日から同年9月8日までの間に、本件サービスにより本件番組を利用者に視聴させた。
 被告は、これにより、原告の著作権(複製権。著作権法21条)及び著作隣接権(複製権、送信可能化権。著作権法98条、99条の2)を侵害した。
(4) 損害
 原告は、被告の上記著作権・著作隣接権侵害行為により、本件番組の利用許諾料相当額の損害を被った。利用許諾料は、1時間枠の番組1本につき10万円を下らず、本件番組49番組(全て1時間枠の番組である。)で合計490万円を下らない。
(5) よって、原告は、被告に対し、民法709条に基づき、490万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告は、公示送達による呼出しを受けたにもかかわらず本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
第3 当裁判所の判断
1 国際裁判管轄及び準拠法
 原告及び被告は韓国法人であるが、本件サービスは日本に在住する韓国人に向けられた サービスであり、被告による「不法行為があった地」の少なくとも一部は日本国内にあると認められるから、本件につき我が国は国際裁判管轄を有する(民事訴訟法3条の3第8号)。
 また、本件において「加害行為の結果が発生した地」は日本国内であると認められるから、準拠法は日本法となる(法の適用に関する通則法17条)。
2 甲9の3、甲13〜16、18(枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。)、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、本件番組はいずれも原告が韓国の放送設備から放送したものであること、著作物性を有する映画の著作物であること、原告が著作権を有していること、韓国は「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の加盟国であり、本件番組は日本著作権法の保護を受ける著作物であること(著作権法6条3号)、韓国は世界貿易機関の加盟国であり、原告による本件番組の放送は日本著作権法の保護を受けること(著作権法9条4号イ、ロ)が認められる。
 したがって、原告は、本件番組につき著作権(複製権)及び放送事業者としての著作隣接権(複製権、送信可能化権)を有している。
3 甲3〜9及び弁論の全趣旨によれば、被告が、平成23年2月頃以降、請求原因(2)記載の本件サービスを行っていたことが認められる。
4 甲9の3、甲13、14によれば、被告が、平成23年8月12日から同年9月8日までの間に、本件サービスにより本件番組を利用者に視聴させたことが認められる。
 被告は、これにより、本件番組を被告の管理するサーバーに複製し、また本件番組を、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(被告の管理するサーバー)の公衆送信用記録媒体に情報を記録するなどして送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)して、原告の著作権(複製権。著作権法21条)及び著作隣接権(複製権、送信可能化権。著作権法98条、99条の2)を侵害したことが認められる。
5 甲9の2・3によれば、原告がテレビ番組の利用許諾を行う場合、利用許諾料は60分ごとに10万円であること、本件番組はいずれも1時間枠の番組であることが認められる。
 そうすると、原告は、被告による著作権・著作隣接権侵害の不法行為により、合計490万円の許諾料相当額の損害を被ったことが認められる。
 本件訴状は平成26年4月23日に外国公示送達の方法により送達され、その6週間後(民事訴訟法112条2項)である同年6月4日の経過により、同月5日に送達の効力を生じたことは当裁判所に顕著である。
6 以上によれば、原告の請求は全て認められる。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 西村康夫
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