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【事件名】学校向け収納管理ソフト事件
【年月日】平成26年7月15日
 大阪地裁 平成26年(ワ)第995号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成26年5月15日)

判決
原告 有限会社GSST
被告 尼崎市
同訴訟代理人弁護士 上谷佳宏
同 木下卓男
同訴訟復代理人弁護士 村尾卓哉
同指定代理人 中村直之
同 田中雄造
同 大黒智耶


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙コンピュータ目録記載1ないし6の各コンピュータから、別紙コンピュータ業務支援システム目録記載のシステムを削除せよ。
2 被告は、原告に対し、2357万3824円を支払え。
3 被告は、原告に対し、平成23年8月24日から、別紙コンピュータ目録記載1ないし6の各コンピュータから別紙コンピュータ業務支援システム目録記載のシステムの削除済みまで、各コンピュータ1台につきそれぞれ1か月6万4166円の割合による金員を支払え。
(訴訟費用の負担及び仮執行宣言の申立て)
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、原告が、原告を著作権者とする別紙コンピュータ業務支援システム目録記載の「徴収金事務管理支援システム」という名称のプログラム(以下「本件プログラム」という。)につき、被告との間で、その使用契約を締結して被告の運営する複数の高校のコンピュータにこれをインストールしたが、被告の債務不履行(使用料の不払い)により同契約は解除され終了したと主張し、@著作権法112条1項に基づく本件プログラムの使用差止め(コンピュータからの本件プログラムの削除)、A本件プログラムを導入した平成19年4月から使用契約解除までの間の、主位的にプログラム使用契約に基づく使用料、予備的に不法行為に基づく損害賠償として使用料相当額の損害金の支払、B使用契約解除後から本件プログラムの削除までの間の不法行為に基づく損害賠償として使用料相当額の損害金の支払をそれぞれ求めた事案であり、被告は、原告の主張する契約を否認し、それとは異なる使用許諾を含む契約を締結したと主張して争っている。
2 争いのない事実等(証拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告は、自治体向けのコンピュータ・ソフトウェアの開発・販売等を行う会社である。
 被告は、地方公共団体であり、尼崎市立尼崎高等学校(以下「尼崎高校」という。)、同市立尼崎産業高等学校(以下「尼崎産業高校」という。)、同市立尼崎工業高等学校、同市立尼崎東高等学校(以下「尼崎東高校」という。)、同市立城内高等学校(これらの5校を併せて「市立5校」という。)及び同市立尼崎双星高等学校(以下「双星高校」という。)の運営主体である。
(2) 本件プログラム
 本件プログラムは、原告ないしその代表者が作成した高等学校における生徒情報管理、徴収金情報管理等を行い、ファームバンキングソフトウェアと連携して金融機関への口座振替依頼処理管理等を行うことのできるマイクロソフト・アクセスを利用して構築されたプログラム著作物であり、原告がその著作権者である。(甲16)
(3) 市立5校への本件プログラムの導入
 原告は、平成18年末頃から、市立5校の各学校事務長との間で、本件プログラムを市立5校に導入するための協議を行い、平成19年4月、市立5校の別紙コンピュータ目録記載1ないし5の各コンピュータ(以下、同目録1ないし6記載の6台の各コンピュータをそれぞれ番号に従い「本件コンピュータ1」などといい、6台全部を併せて「本件各コンピュータ」という。)に本件プログラムをインストールした。
(4) 双星高校への本件プログラムの導入
 平成23年4月1日に、尼崎産業高校と尼崎東高校が統合されて、双星高校が新設された。原告は、被告の要請により、同月7日、本件コンピュータ6に本件プログラムをインストールした。
(5) 被告から原告への支払
 被告は、原告に対し、平成18年末から同19年7月にかけて、本件プログラム導入等に関し、合計136万6000円(消費税を含む。)を支払った(支払名目については争いがある。)。
第3 争点及び争点についての当事者の主張
1 争点
 原告と被告との間で、本件各コンピュータにおける本件プログラムの使用につきどのような合意がされたか、被告の本件プログラムの使用につき原告の使用許諾があるか
2 原告の主張
(1) 契約の締結
 原告は、被告との間で、次のとおりの内容の本件プログラムの使用契約(以下、ア及びイの契約を併せて「本件契約」という。)を締結した。
ア(ア) 契約時期 平成19年4月頃
(イ) 対象 本件コンピュータ1ないし5
(ウ) 使用期間 5年間
(エ) 使用料 導入するコンピュータ1台当たり基本価格385万円(カスタマイズ料を含む。)
(オ) 維持管理費 2年目から月額4万円(コンピュータ1台当たり)
イ(ア) 契約時期 平成23年4月頃
(イ) 対象 本件コンピュータ6
(ウ) 使用期間 ア(ウ)と同じ
(エ) 使用料 ア(エ)と同じ
(オ) 維持管理費 ア(オ)と同じ本件プログラムの使用契約を締結した。
(2) 本件契約の解除
 原告は、本件契約に基づき上記のとおり本件各コンピュータに本件プログラムをインストールし、平成19年4月から同年秋にかけて、市立5校におけるデータの整備、本件プログラムに関する機能追加、削除、修正等を行い、同年秋から本件プログラムは稼働を開始した。原告は、平成23年8月13日到達の内容証明郵便により、被告に対し、同月23日までに本件契約に基づく本件各コンピュータでの本件プログラムの使用料として1353万4000円を支払うよう催告するとともに、支払がなければ本件契約を解除する旨の意思表示をしたが、支払のないまま同月23日を経過した。
 したがって、被告は、本件プログラムを使用する権原を有しない。
(3) 被告の主張に対する反論
 原告は、被告教育委員会事務局学校教育部学務課の課長補佐であったP1に対し、本件プログラムを含む各種システムにつき1件300万円を基準に紹介をしてきた。原告は、導入当初、開発の初期費用として、1校あたり35万円程度の支払を求めたが減額を要求され、25万円程度で了承した。原告は、本件契約の使用料の残額については、被告において予算化されれば支払われるものと考えて取り組んできた。原告が、平成19年度の不用額での支払を求めたところ、予算が出せる3校から7万円ずつ程度、P1から指示された名目で支払を受け、さらに、画面の表現の修正、帳票の変更、新規作成等の作業につき「Version2」という名目で各5万円(合計25万円)の追加支払を受けたが、平成20年度の支払として1台あたり20万円の請求をしたところ、被告側は請求書を受け取らなかった。
 本件プログラムは、平成19年8月ころに仕様が確定し、それ以降、画面表現を修正する、操作内容を記述するなどの変更は行ったが、何らのバグも発生していない。正式稼働が遅れたのは、被告の事務担当者がすべきデータ整備が遅れたことが理由である。原告はシステムの稼働までに11か月にわたってシステムの膨大な機能追加・改造・修正、カスタマイズを行っており、買い切りソフトではない。
 被告はコンピュータ1台につき30万円以下の価格で、無期限の使用許諾を得た旨主張するが、本件契約の当時、事務長の専決できる金額が30万円以下である旨を被告が説明した事実はなく、インストール費用にもならない額でそのような許諾をするはずはない。P1自身、平成24年3月限りで使用停止をする考えを示し、本件プログラムをいつまでも使い続けることができるとは考えていなかった。
2 被告の主張
(1) 原告の主張に対する認否等
 前記1(1)の契約の成立は否認する。
 原告は、被告に対し、本件プログラムのプレゼンに際し、金額を提示していない。被告担当者は、被告高等学校における年度途中の備品購入については、事務長の専決できる金額上限である30万円以下で購入する旨原告代表者に伝えていたが、原告代表者は、導入に際し、具体的な金額を提示し交渉するということはなかった。被告が原告の主張するような額を支出するためには、契約書の作成が必要であるところ、本件において作成されていないということは、そのような合意がなかったことの証左である。
(2) 被告主張契約
 被告は、原告との間で、本件プログラムの導入により、主としてコンピュータによる授業料等の徴収管理事務のための動作環境の構築を目的として、請負、売買等の複合的な性格を有する以下の契約を締結した(以下「被告主張契約」という。)
ア 平成18年10月頃、原告と被告との間で、口頭で、次の内容の契約が成立した。
(ア) 契約内容
 原告は、平成19年9月頃までに、本件プログラムを本件コンピュータ1ないし5にインストールして、コンピュータによる授業料等の徴収管理事務のための動作環境を構築する作業(以下「本件作業」という。)を行うとともに、被告に対し、本件プログラムの使用を許諾する。
(イ) 本件作業の代金及び本件プログラムの使用料
 コンピュータ1台につき30万円以下で、原告と被告とが協議して定める額とする。
(ウ) 使用許諾期間
 被告が本件プログラムの使用を開始した日からその使用を停止する日までとする。
イ 平成23年4月1日、尼崎東高校と尼崎産業高校とが統合されて双星高校が新設されたことから、原告と被告との間で、上記アの契約と同内容で、双星高校に設置されるコンピュータ(本件コンピュータ6)に本件プログラムを追加してインストールすること等を内容とする契約(以下「被告主張追加契約」という。)を口頭により締結した。
ウ 被告は、本件プログラムの正式稼働を平成19年9月と予定していたが、原告における正式テストを経ていなかったためかシステム不具合が多かったため一旦延期し、機能追加及び修正を行い、結局平成20年2月ころに至って正式稼働することができた。
 被告は、原告に対し、本件作業の代金及び本件プログラムの使用許諾料として、平成19年1月及び同年5月に合計75万6000円(本件コンピュータ1、4及び5の分。1台当たり25万2000円)、平成20年2月に前記の機能追加及び修正作業の代金等として、原告側と合意していたトータルで20万円程度を、予算上難しい状況にあった定時制高校を除いた3校から合計21万円(前記3台分。1台当たり7万円)、平成19年7月及び8月に本件作業の代金及び本件プログラムの使用許諾料として合計40万円(本件コンピュータ2及び3の分。1台当たり20万円)をそれぞれ支払った。そのほか、被告は、原告に対し、原告が平成20年9月以降に行った本件プログラムの導入に係る操作指導及びデータ一括更新作業の対価として、同年10月、平成21年4月及び同22年4月に各3万円(市立5校分)、平成23年4月に4万円(市立5校及び双星高校分)を支払った。
エ 原告は、被告に対し、上記ウ記載の支払に異議を述べなかったから、本件作業の代金及び本件プログラムの使用料は、上記金額と定められた。なお、被告は、被告主張追加契約に係る本件作業の代金及び本件プログラムの使用料の金額につき、30万円以内で協議が成立するものと見込んでいたが、原告と被告との間で協議が調わなかった。
オ 被告主張契約においては、本件プログラムをインストールする際に支払うもののほか、被告において何らかの費用を負担すべき旨の合意はなされておらず、一般的なパッケージソフトと同様、1回限りの支払で本件プログラムについて恒久的に使用許諾がなされたものである。
第4 当裁判所の判断
1 証拠(乙31、文中掲記のもの)及び弁論の全趣旨(前記争いのない事実を含む。)によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件プログラム導入に至る経緯
 市立5校においては、平成18年ころから、授業料及び諸費の収納管理事務の効率化と正確さの向上を図るため、パソコンに収納管理ソフトを導入して管理台帳を作成し、金融機関と高校がパソコンにより収納情報の交換をする方式に変更することが検討されていた(乙18の2)
 被告教育委員会学務課のP1は、同年1月ころ、原告代表者から、「教育委員会−学校間ネットワークシステム」の紹介を受けたことがあり、これは、学校徴収金の管理、就学援助事務の支援、学校備品の管理、学校財務の管理及び学校給食の管理といった事務をOA化し、さらに学校、教育委員会等をネットワークでつなぐことを内容とするものであったが、P1は、原告代表者に地方自治体での勤務経験があり、自治体向けコンピュータシステムの開発を行っていたことから、平成18年10月ころ、授業料及び諸費の収納を行うソフトの導入について、原告代表者に打診した(乙18の2、28、31)。
 原告代表者は、同年12月以降、P1や高校の事務長らと金融機関を訪問するなどして、金融機関と高校との情報のやり取りや、市立5校の収納事務の流れについて説明を受け、本件プログラムの内容を提案した。市立5校の側では同月15日の時点で収納管理方法の変更の必要経費として、電話料に付加して支払うものを除き、いずれも備品購入費として、金融機関とのやり取りに使うファームバンキングソフト5万5000円、ターミナルアダプター1万5000円、パソコン10万円、収納管理ソフト25万円、合計42万円の概算を行い、原告代表者から、一部でも前払金をお願いしたいとの希望があることを確認した(乙18の2)。
 同月20日、高校の事務長や原告代表者が学務課を訪れ、金融機関の担当者より、ファームバンキングソフトの説明を受けた際には、技術的な問題が確認され、同月22日付けで新たな必要経費の概算が作成され、供覧に付されたが、パソコンの金額が13万円に増額され、オフィスソフト2万円も購入することになったものの、原告からの収納管理ソフトについては、備品購入費25万円のままとされ、同月26日の事務長会においては、導入費として予定していた学務課の留置予算が足りず、18年度に全額執行は難しいこと、2校のソフト代を支払い、残額は19年度に待ってもらうことなどが協議された(乙18の1及び2)。
(2) 本件プログラムの導入とこれに関する支払
 原告は、被告に対し、平成18年12月28日及び平成19年3月30日付けで、商品名を「高等学校授業料等管理パッケージソフト」、備考欄に「簡易なメンテナンスを含む」と記載して、商品単価24万円、消費税1万2000円別、合計額25万2000円とする請求書3通を発行し、被告は、同金員(合計75万6000円、本件コンピュータ1、4及び5分として)を平成18年度の一般会計で備品購入費として支出した(乙3ないし5の各1及び2)。
 原告は、平成19年4月、本件コンピュータ1ないし5に、本件プログラムをインストールした。
 原告は、被告に対し、同年6月8日付け及び8月2日付けで、商品名を「高等学校授業料等管理パッケージソフト」、備考欄に「簡易なメンテナンスを含む」と記載して、商品単価20万円(消費税込み)とする請求書2通を発行し、被告は、同金員(合計40万円、本件コンピュータ2及び3分として)を同年度の一般会計で、備品購入費として支出した(乙9及び10の各1及び2)。
 市立5校においては、同年9月ころに本件プログラムの正式稼働を予定していたが、データ訂正が反映されないなどの不具合や、同年11月21日には一定の操作をするとデータが破壊される場合もあることなどが判明したため、被告は、本格的に使用できる状況には至っていないと判断して本件プログラムの正式な稼働を延期し、修正等を経て平成20年2月分から正式に稼働させた(乙2の1及び2、19の1ないし3、29)。
 原告は、被告に対し、同年1月31日付けで、商品名を「高等学校授業料等管理パッケージソフト(version2)」、単価7万円(消費税含む)とする請求書3通を発行し、被告は、同額(合計21万円、本件コンピュータ1、4及び5分として)を平成19年度の一般会計で備品購入費として支出した(乙6ないし8の各1及び2)。
(3) 導入後の作業等とこれに関する支払
 原告は、画面の表現修正等本件プログラムに関する作業の対価として、平成20年8月から9月にかけて、商品名を「高等学校授業料等管理パッケージソフト改修バージョン2.0」、備考欄として「簡易なメンテナンスを含む」、商品単価5万円(消費税込み)とする請求書5通を発行し、被告は、同年度の一般会計で、市立5校についての修繕料(物件費)として各5万円を支出した(乙20ないし24の各1及び2)。
 被告は、原告による市立5校合同の授業料収納システム操作研修の謝礼として、同年10月31日及び平成21年4月30日に、各3万円を報酬費として支出した(乙11、12)。
 原告は、平成22年4月に、市立5校のうち少なくとも4校から授業料収納システムデータ移行作業料として、各6000円を受領した(乙13の1ないし4)。
(4) 本件訴訟に至る経緯
 平成23年4月1日、尼崎産業高校及び尼崎東高校が統合されて、双星高校が新設され、原告は、同月7日、双星高校の本件コンピュータ6に本件プログラムをインストールし、授業料収納システムデータ移行作業にかかる指導料として、市立5校から各6000円、双星高校から1万円の支払を受けた(乙14の1ないし6)。
 その際、双星高校の事務長が、既に対価を支払って本件プログラムを使用していた尼崎産業高校及び尼崎東高校が双星高校に統合されたことから、本件コンピュータ6に本件プログラムをインストールしても、本件プログラム自体の代金は発生せず、上記以上の支払は要しない旨の認識を示したところ、原告代表者はこれに納得せず、P1が間に入って協議するなどしたが、解決しなかった。
 原告は、同年6月21日付けで、双星高校の事務長に対し、双星高校への本件プログラムの導入等の代金が合計270万円であり、これを、初年度70万円、残額200万円を平成24年度以降毎年50万円支払うよう求める旨を通知した。270万円の内訳は、システム価格385万円(@システム基本機能200万円、画面数130、データベース構築修正及び各種帳票修正含む、A全銀協データ送出変換機能及び取込みと消込み機能100万円、B帳票関連70万円、C導入費用15万円)から115万円を特別減額したものとされた(乙17の1)。
 原告代表者は、同年7月21日、配偶者とともに、P1、双星高校事務長、尼崎高校事務長、双星高校の事務員2名と面談し、本件プログラムの使用料等について協議した。原告代表者は、本件プログラム制作には約2800万円がかかった旨述べ、前記270万円の支払だけでなく、本件コンピュータ1ないし5における本件プログラムの使用についても、再契約と使用料の支払や保守管理費の支払を求めた。原告代表者は、本件プログラムの使用は賃貸借に基づく旨を主張したが、双星高校事務長らは、本件プログラムは備品として購入した旨説明し、双星高校分も25万円余までの支払しか考えられないとの意向を示した(甲11)。
 P1は、同年8月3日、原告代表者に対し、@双星高校分の支払に関し、平成20年から使用している授業料ソフトは備品購入で各校から支払をしたもので、今年度導入した授業料ソフトも以前と同様に備品購入として支払う予定でいること、A平成24年度以降について、今般原告から今後の「使用料」「保守管理費」の形で契約を締結しなければ本件プログラムの使用を認めないとの申出があったことから、2費目を支出予算に計上するなど内部で検討していく考えのあること、同年度以降使用する授業料ソフトは、原告を含め他社の同種ソフトの中から改めて選定した後、契約締結して使用していく考えであること等を伝えた(乙25)。
 原告は、平成23年8月13日、被告に対し、本件各コンピュータにおける本件プログラムの使用料未払分として、合計1353万4000円を同月23日までに支払うよう求め、支払がなければ本件契約を解除する旨の意思表示をした(内訳:@1校年間40万円の市立5校分の使用料(平成19年度から平成23年度)1000万円、A双星高校分(平成23年度1年分の使用料と導入費)70万円、B月額4万円の維持管理費の市立5校分(4年分)960万円、Cカスタマイズ費用月額80万円を11か月分880万円D値引き1420万円E既払金136万6000円)(甲4の1及び2)。
2 判断
 前記1で認定した事実を前提に、原告の主張する本件契約成立の事実又は被告主張契約成立の事実が認められるかにつき検討する。
(1) 原告の請求は、本件プログラムの基本価格コンピュータ1台あたり385万円を5年にわたり分割し、これに維持管理費を加算して支払う旨の契約が成立したことを前提とするものであるが、被告がこのような契約を締結するためには、市長又は専決者の決済を受け契約書を作成すべきところ(乙16、26)、本件において本件契約を内容とする契約書が作成されていないことについては当事者間に争いがない。
(2) また、本件プログラムを導入するにあたり、市立5校の事務長らが、各校の備品として収納管理ソフトを25万円で購入することを前提に経費を概算し、原告も、簡易なメンテナンスを含むパッケージソフトとしての商品単価を記載した請求書を発行して、これに対応する支払を受けていることは前記1で認定したとおりであるが、この一連の過程において、本件プログラムの価格として、上記25万円を大幅に上回る金額が提示され、その一部の前払として上記支払がされたと解し得るような客観的証拠は提出されていない。
 原告は、「教育委員会−学校間ネットワークシステム」をP1に提案した際に、スタンドアローンシステムで300万円、ネットワークシステムで500万円である旨を説明したとするが(甲6)、前記1で認定したところによれば、教育委員会、学校の複数の業務をOA化し、ネットワーク化することを内容とする前記システムと、各校毎に授業料及び諸費の収納管理のみを行う本件プログラムとを同一視することはできないし、原告が被告に交付した前記システムの説明文書には、300万円、500万円といった金額は記載されていない(乙28)。
(3) 前記1で認定したとおり、原告は、本件プログラムの導入に際し、各校につき25万2000円又は20万円の支払を受けた後、平成20年2月以降も各校につき7万円、5万円、3万円、6000円(1万円)といった金員の支払を受けている。
 しかしながら、前記1で認定したところによれば、上記各追加支払については、原告が行った修正プログラムの作成や研修、あるいはデータ移行作業に対する対価又は報酬としての対応関係が認められるのであって、原告が主張するような内容で本件契約が成立しており、被告の予算の限度で、その一部の支払がされたと解し得るようなものではない。
(4) 仮に、原告が主張する内容で本件契約が成立していたとすれば、原告は、平成19年4月ころ、本件コンピュータ1ないし5に本件プログラムをインストールし、平成20年2月にこれを稼働させた後も、本件契約に基づく代金の支払いをほとんど受けられないまま、修正プログラムの作成等を行い、平成23年4月の時点では2000万円以上の未収金が生じていたにもかかわらず、本件コンピュータ6に本件プログラムをインストールしたことになる。
 しかしながら、前記1で認定したところによれば、原告は、平成23年4月以降、双星高校の事務長との間でトラブルになった後に、本件契約の存在を主張するにいたったものの、原告が、それ以前に、市立5校の関係で、本件契約どおりの代金の支払を求めたり、あるいは本件契約の解除を主張して、本件プログラムの使用の停止を求めたことを示すような証拠は提出されていない。
 原告は、平成23年7月21日の面談の際のP1の発言や(甲11)、その後、P1が、使用料、保守管理費を予算計上する旨述べたこと(甲15)を指摘するが、P1は、原告との間でトラブルとなり、原告が本件プログラムの使用停止を求めていることを考慮し、学務課の担当者として発言等しているにすぎず、上記発言等から、P1が本件契約の成立を前提としているということはできない。
(5) 以上検討したところを総合すると、原告と被告との間で、本件契約が成立したと認めることはできないというべきであり、原告の請求のうち、本件契約の成立を前提とする部分(請求2の主位的請求)については、その余の点を検討するまでもなく理由がない。
 また、前記1で認定したところによれば、本件プログラムの導入に際し、被告はこれをパッケージプログラムとして購入し、備品購入費として代金を一括で支払うことを前提に交渉を行い、原告もこれに対応する請求書を発行して代金の支払を受け、コンピュータに本件プログラムをインストールした後は、プログラムの改修、研修、データ移行といった個別の事項について支払を受けた事実が認められるのであるから、本件プログラムを本件各コンピュータにインストールするにあたり、原告と被告の間では、原告の有する徴収金管理プログラムを被告の事務の実情に合わせて修正し、インストール後も簡易なメンテナンス作業を行うこと、本件プログラムの複製物については所有権を移転し、本件プログラムの使用については期限を定めずに許諾する旨の合意が成立したと解するのが相当であり、これによると、原告の請求のうち、被告の本件プログラムの使用が、原告の著作権侵害にあたることを前提とする部分(請求1及び3、請求2の予備的請求)も、やはり理由がないというべきである。
3 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用し、主文のとおり、判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 谷有恒
 裁判官 田原美奈子
 裁判官 松阿彌隆


別紙 コンピュータ目録
1 兵庫県尼崎市上ノ島町1丁目38番1号
  尼崎市立尼崎高等学校事務室内
  NEC社製 VERSAPRO 1台
2 兵庫県尼崎市東難波町2丁目17−64
  尼崎市立尼崎工業高等学校事務室内
  NEC社製 VERSAPRO 1台
3 兵庫県尼崎市北城内47番地の1
  尼崎市立城内高等学校事務室内
  NEC社製 VERSAPRO 1台
4 兵庫県尼崎市口田中2丁目8番1号
  尼崎市立尼崎双星高等学校事務室内
  NEC社製 VERSAPRO(尼崎市立尼崎産業高等学校事務用) 1台
5 兵庫県尼崎市口田中2丁目8番1号
  尼崎市立尼崎双星高等学校事務室内
  NEC社製 VERSAPRO(尼崎市立尼崎東高等学校事務用) 1台
6 兵庫県尼崎市口田中2丁目8番1号
  尼崎市立尼崎双星高等学校事務室内
  NEC社製 VERSAPRO(尼崎市立尼崎双星高等学校事務用) 1台
 以上

別紙 コンピュータ業務支援システム目録
 GSST社製 「徴収金事務管理支援システム」
 以上
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/