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【事件名】キャバクラのピアノ演奏事件
【年月日】平成26年6月26日
 東京地裁 平成24年(ワ)第32339号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成26年5月15日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 被告有限会社銀座クラブチックは、東京都中央区<以下略>所在の「GINZA CLUB CHICK」において、別紙楽曲リスト、楽曲リスト(追録)、楽曲リスト(追録)(2)及び楽曲リスト(追録)(3)に記載の音楽著作物を、店内に設置されたピアノを使用して生演奏してはならない。
2 被告有限会社銀座クラブチックは、原告に対し、469万2470円及びこれに対する平成24年11月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告有限会社チックは、東京都港区<以下略>所在の「ROPPONGI CLUB CHICK」において、別紙楽曲リスト、楽曲リスト(追録)、楽曲リスト(追録)(2)及び楽曲リスト(追録)(3)に記載の音楽著作物を、店内に設置されたピアノを使用して生演奏してはならない。
4 被告有限会社チックは、前項記載の店舗において、別紙カラオケ楽曲リストに記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。
(1) カラオケ装置を操作して又は顧客に操作させて、伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させる方法。
(2) カラオケ装置を操作して又は顧客に操作させて、伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法。
5 被告有限会社チックは、第3項記載の店舗から同店舗内に設置されたカラオケ装置一式を撤去せよ。
6 被告有限会社チックは、原告に対し、591万9255円及びこれに対する平成24年11月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告有限会社グランは、原告に対し、509万5540円及びこれに対する平成24年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告の被告有限会社銀座クラブチック、被告有限会社チック及び被告有限会社グランに対するその余の請求並びに被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティに対する請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は、原告に生じた費用の5分の1、被告有限会社銀座クラブチックに生じた費用の10分の1、被告有限会社チックに生じた費用の5分の1、被告有限会社グランに生じた費用の4分の1及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティに生じた費用の全部を原告の負担とし、原告に生じた費用の4分の1及び被告有限会社銀座クラブチックに生じたその余の費用を同被告の負担とし、原告に生じた費用の10分の3及び被告有限会社チックに生じたその余の費用を同被告の負担とし、原告に生じた費用の4分の1及び被告有限会社グランに生じたその余の費用を同被告の負担とする。
10 この判決は、第2、第6及び第7項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告有限会社銀座クラブチック及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティは、東京都中央区<以下略>所在の「GINZA CLUB CHICK」において、別紙楽曲リスト、楽曲リスト(追録)、楽曲リスト(追録)(2)及び楽曲リスト(追録)(3)に記載の音楽著作物を、店内に設置されたピアノを使用して生演奏してはならない。
2 被告有限会社銀座クラブチック及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティは、原告に対し、連帯して511万5040円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告有限会社チック及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティは、東京都港区<以下略>所在の「ROPPONGI CLUB CHICK」において、別紙楽曲リスト、楽曲リスト(追録)、楽曲リスト(追録)(2)及び楽曲リスト(追録)(3)に記載の音楽著作物を、店内に設置されたピアノを使用して生演奏してはならない。
4 被告有限会社チック及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティは、前項記載の店舗において、別紙カラオケ楽曲リストに記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。
(1) カラオケ装置を操作して又は顧客に操作させて、伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させる方法。
(2) カラオケ装置を操作して又は顧客に操作させて、伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法。
5 被告有限会社チック及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティは、第3項記載の店舗から同店舗内に設置されたカラオケ装置一式を撤去せよ。
6 被告有限会社チック及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティは、原告に対し、連帯して715万3380円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告有限会社グラン及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティは、原告に対し、連帯して693万0110円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、音楽著作権等管理事業者である原告が、(1) 被告有限会社銀座クラブチック(以下「被告銀座クラブチック」という。)及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティ(以下「被告トゥエンティーワンコミュニティ」という。)に対し、同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏して原告の著作権を侵害していると主張して、著作権法112条に基づく上記楽曲のピアノを使用しての生演奏の差止めを求めるとともに、上記著作権の侵害により損害を受けた、又は同被告らが上記店舗内で上記楽曲をピアノ演奏して著作権使用料相当の利益を得た反面、同額の損失を被ったと主張して、主位的に民法719条1項に基づく損害金511万5040円(使用料相当損害金426万2470円と弁護士費用相当損害金85万2570円の合計額)及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払、予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金426万2470円及びこれに対する訴状送達により支払を催告した日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、(2) 被告有限会社チック(以下「被告チック」という。)及び被告トゥエンティーワンコミュニティに対し、同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏し、また、カラオケ装置を使用して歌唱するなどして原告の著作権を侵害していると主張して、著作権法112条に基づく上記楽曲のピアノを使用しての生演奏の差止め、カラオケ装置を使用しての演奏及び上映の差止めとその撤去を求めるとともに、上記著作権の侵害により損害を受けた、又は同被告らが上記店舗内で上記楽曲をピアノ演奏し、また、カラオケ装置を使用して歌唱するなどして著作権使用料相当の利益を得た反面、同額の損失を被ったと主張して、主位的に民法719条1項に基づく損害金715万3380円(使用料相当損害金596万1060円と弁護士費用相当損害金119万2320円の合計額)及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払、予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金596万1060円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払を求め、(3) 被告有限会社グラン(以下「被告グラン」という。)及び被告トゥエンティーワンコミュニティに対し、同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏して原告の著作権を侵害し、これにより損害を受けた、又は同被告らが著作権使用料相当の利益を得た反面、同額の損失を被ったと主張して、主位的に民法719条1項に基づく損害金693万0110円(使用料相当損害金577万5000円と弁護士費用相当損害金115万5110円の合計額)及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払、予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金577万5000円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1) 原告は、著作権等管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受けた著作権等管理事業者であり、別紙楽曲リスト、楽曲リスト(追録)、楽曲リスト(追録)(2)及び楽曲リスト(追録)(3)(以下、これら4つの楽曲リストを併せて「演奏楽曲リスト」という。)並びに別紙カラオケ楽曲リストに記載の音楽著作物は、原告が各著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて利用の許諾等を管理する楽曲(以下「原告管理楽曲」という。)である。委託者が受託者たる原告に移転する著作権には著作権法28条に規定する権利が含まれる。
(甲2、22の1ないし5、23の1ないし8)
(2)ア 被告銀座クラブチックは、平成17年2月、東京都中央区<以下略>に「GINZA CLUB CHICK」との名称のキャバクラ(以下「本件店舗@」という。)を開店し、現在まで引き続きこれを経営している。本件店舗@の営業時間は、土曜日、日曜日及び祝日を除く午後7時から翌午前2時までであり、店内にピアノが設置されている。
(乙1)
イ 被告チックは、平成18年4月、東京都港区<以下略>に「ROPPONGI CLUB CHICK」との名称のキャバクラ(以下「本件店舗A」という。)を開店し、現在まで引き続きこれを経営している。本件店舗Aの営業時間は、日曜日及び祝日を除く午後7時から翌午前1時45分までであり、店内にピアノが設置されているほか、会員制VIPルームである「Private Salon」(以下「本件VIPルーム」という。)にはカラオケ装置一式(以下「本件カラオケ装置」という。)及びモニターテレビが設置されている。
(甲16)
ウ 被告グランは、平成12年12月、東京都港区<以下略>に「Grand Cru」との名称のキャバクラ(以下「本件店舗B」といい、本件店舗@及びAと併せて「本件各店舗」という。)を開店し、平成23年12月29日に閉店するまでこれを経営していた。本件店舗Bの営業時間は、平成12年12月から平成20年12月までは日曜日及び祝日を除く午後8時から翌午前2時まで、平成22年1月から閉店した平成23年12月29日までは日曜日及び祝日を除く午後7時30分から翌午前1時30分までであり、店内にピアノが設置されていた。
エ 被告トゥエンティーワンコミュニティは、経営コンサルタント業務、不動産の賃貸、売買、管理及びそれらの仲介、食品・酒類の輸入及び販売、飲食店の経営等を目的とする株式会社で、被告銀座クラブチック、被告チック及び被告グラン(以下、併せて「被告ら3社」という。)の親会社である。被告トゥエンティーワンコミュニティは、平成23年7月ころには同社のホームページに本件各店舗をパーティ会場やテレビ、映画の舞台として紹介し、問合せや予約を受け付けていた。
(甲10)
(3) 当裁判所は、平成24年6月7日、原告の申立てによる仮処分命令申立事件(平成23年(ヨ)第22065号)において、被告銀座クラブチックに対し本件店舗@における、被告チックに対し本件店舗Aにおけるそれぞれの原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏の差止めを命ずる仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした。
(4) 被告らは、平成26年3月13日の本件弁論準備手続期日において、原告に対し、原告の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち平成21年11月14日以前に係る部分について消滅時効を援用するとの意思表示をした。
2 争点
(1) 本件各店舗における原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏等による著作権侵害の成否(争点1)
(2) 被告トゥエンティーワンコミュニティによる著作権侵害の成否(争点2)
(3) 差止めの必要性の有無(争点3)
(4) 原告の受けた損害又は損失の額(争点4)
(5) 時効消滅の有無(争点5)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件各店舗における原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏等による著作権侵害の成否)について
(原告)
ア 被告銀座クラブチックは本件店舗@について、被告チックは本件店舗Aについて、被告グランは本件店舗Bについて、それぞれ開店以来、店内に営業設備としてピアノを設置して、営業時間中、その営業のために、被告らが雇った演奏者に店内のピアノを用いて演奏楽曲リスト内の原告管理楽曲を演奏させて、原告の著作権を侵害している。
イ 被告チックは、本件店舗Aの開店以来、本件VIPルームに本件カラオケ装置を設置し、営業時間中、その営業のために、従業員や客に本件カラオケ装置を操作させて、本件カラオケ装置の記憶装置に記録されているカラオケ楽曲リスト内の原告管理楽曲を伴奏音楽として再生するとともにそれに記録されている歌詞の文字をモニターテレビに表示して再生し、それに合わせて歌唱させて、原告の著作権を侵害している。
(被告ら)
ア 平成18年頃までは、本件各店舗は、Aなど外国人のジャズピアニストらがオリジナルの楽曲や著作権の保護期間が経過した楽曲を不定期に演奏していた。被告ら3社は、その後、平成24年6月頃まで、外部の者にピアノ演奏者の派遣、管理及び演奏を依頼し、B、C及びDら演奏者の多くはイントロを含めジャズを自己流にアレンジして即興演奏をしていたので、そこで演奏されるのは当該ジャズ楽曲の二次的著作物ではなく、全く別の新たな著作物であった。
 また、キャバクラという本件各店舗の営業の性質上、顧客はフロアレディによる接待を主たる目的として集まっているに過ぎず、音楽の演奏等は不可欠なものでないし、それを売り物にしているわけでもないから、本件各店舗において、音楽の演奏等と収益とは関係がない。また、本件各店舗におけるピアノの演奏者は外部から派遣されていて、各店内に常時音楽が流れているという状況になく、本件各店舗に設置されたピアノは、インテリアとしての要素が圧倒的に強い。
 本件店舗Aに設置されたカラオケ装置はほとんど使用されていなかった。
イ 本件各店舗は、ピアノ演奏を、1回20ないし30分ほどで演奏曲数6曲程度を1ステージとして、1日に3ないし4ステージ行っていたが、B、C及びDが演奏していた楽曲のうち、原告の原告管理楽曲が占める割合は、多くて20%程度であるから1日に4曲程度に過ぎず、オリジナルや著作権の保護期間が経過した楽曲を多く演奏するAの演奏日数をも加味すると、上記割合は更に低くなる。
(2) 争点2(被告トゥエンティーワンコミュニティによる著作権侵害の成否)について
(原告)
 被告トゥエンティーワンコミュニティは、本件各店舗の実質的なオーナーで、ホームページで本件各店舗をパーティ会場やテレビ、映画の舞台として紹介し、問合せや予約を受け付ける等してその営業に関与し、被告ら3社とともに本件各店舗を経営しているのであって、本件各店舗における演奏等を管理、支配し、これにより利益を得ているから、本件各店舗における著作権侵害の主体である。
(被告トゥエンティーワンコミュニティ)
 被告トゥエンティーワンコミュニティは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の適用がある店舗の経営を目的としていないから、キャバクラの経営は行うことができない。また、被告トゥエンティーワンコミュニティは、いわゆるペーパーカンパニーや持株会社ではなく、ワインの輸入販売事業、レストラン事業、コンサルティング事業を展開する事業会社で、被告ら3社とは別の法人格を有し、別の事業を行っていて、本件各店舗の経営に関与していないから、本件各店舗におけるピアノ演奏等の主体ではない。
(2) 争点3(差止めの必要性の有無)について
(原告)
 本件店舗@及びAにおける著作権侵害行為は本件仮処分決定まで継続して行われ、本件店舗Aにおける本件カラオケ装置等を使用した著作権侵害行為は現在まで継続して行われているのであって、キャバクラという本件各店舗の営業の性質からして、将来にわたりこれらの侵害行為が反復継続されるおそれは大きいから、差止めの必要性がある。
(被告銀座クラブチック、被告チック及び被告トゥエンティーワンコミュニティ)
 本件仮処分決定後は、本件店舗@及びAにおいて原告管理楽曲のピアノ演奏をしていないし、本件店舗Aのカラオケ装置も使用していないから、差止めの必要性はない。
(4) 争点4(原告の受けた損害又は損失の額)について
(原告)
ア 本件各店舗のピアノ演奏に係る使用料については、原告が文化庁長官に届け出た使用料規程によれば、本件各店舗のような社交場において包括的利用許諾契約を結ばずに管理著作物を演奏等により使用する場合は1曲1回ごとの使用料により算出することになり、平成19年9月までは同月まで適用される使用料規程(平成19年7月6日届出前のもの。以下「旧規程」という。)により旧規程別表16の1が適用され、同年10月からは同月以降に適用される使用料規程(上記届出後のもの。以下「現行規程」という。)により現行規程別表8の4が適用される。これらによれば、1曲1回5分までの使用料は、本件店舗@については座席数80席まで、標準単位料金2万円までの区分に該当するから、旧規程、現行規程とも230円であり、本件店舗Aについては座席数120席まで、標準単位料金1万5000円までの区分に該当するから、旧規程260円、現行規程270円であり、本件店舗Bについては座席数80席まで、標準単位料金1万5000円までの区分に該当するから、旧規程、現行規程とも200円である。
 もっとも、本件店舗Aのカラオケ演奏については、旧規程、現行規程のいずれによっても定員10名まで、標準単位料金500円までの区分に該当するから、月額使用料9000円により算出すべきである。
イ 本件店舗@
 平成17年2月1日から平成24年6月7日までの間(88か月と5日)に原告の受けた損害又は損失の額は、1曲1回230円、1日の演奏曲数10曲、月間演奏日数20日とした場合の1か月当たりの損害金(又は利得金。以下ウ及びエにおいて同じ。)4万6000円に侵害期間を乗じ、更に消費税を加算した426万2470円(10円未満切捨て)となる。
 (算式)46,000円×88.25か月×1.05=4,262,475円
ウ 本件店舗A
(ア) ピアノ演奏による損害
 平成18年4月1日から平成24年6月7日までの間に原告の受けた損害又は損失の額は、1日の演奏曲数10曲、月間演奏日数25日とすると、平成18年4月1日から平成19年9月30日までの間(18か月)は1曲1回260円であるから1か月当たりの損害金は6万5000円、同年10月1日から平成24年6月7日までの間(56か月と6日)は1曲1回270円であるから1か月当たりの損害金は6万7500円となり、これらにそれぞれ侵害期間を乗じ、更に消費税を加算した合計額521万4510円となる。
 (算式)65,000円×18か月×1.05+67,500円×56.24か月×1.05=5,214,510円
(イ) カラオケ演奏による損害
 平成18年4月1日から平成24年10月31日までの間(79か月)の原告の受けた損害又は損失の額は、1か月当たりの損害金9000円に侵害期間を乗じ、更に消費税を加算した合計額74万6550円である。
 (算式)9,000円×79か月×1.05=746,550円
エ 本件店舗B
 平成14年11月1日から平成23年12月29日までの間(110か月)に原告の受けた損害又は損失の額は、1曲1回200円、1日の演奏曲数10曲、月間演奏日数25日とした場合の1か月当たりの損害金5万円に侵害期間を乗じ、更に消費税を加算した577万5000円となる。
 (算式)50,000円×110か月×1.05=5,775,000円
オ 弁護士費用
 被告らの違法な原告管理楽曲の使用と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は、各店舗についての損害額の2割を下らないから、本件店舗@については85万2570円、本件店舗Aについては119万2320円、本件店舗Bについては115万5110円となる。
(被告ら)
ア 本件店舗@の料金システムにおいては、午後7時から午後7時29分までが1人当たり60分6000円で、午後7時30分から閉店時刻までが1人当たり60分1万2000円であり、これに消費税を含むサービス料30%が加算される。仮に1人当たり60分1万2000円を基準としてサービス料を加味しても、次のとおり、1万4857円となるから、標準単位料金は1万5000円までの区分に該当し、旧規程、現行規程のいずれによっても1曲1回200円となる。
 (算式)(12,000円+12,000円×0.3)×100/105≒14,857円
イ 原告主張のカラオケ演奏に係る規程は、カラオケボックス等のカラオケ施設に適用されるものであり、本件VIPルームのような施設には適用されないし、本件VIPルームを利用する顧客はほとんどおらず、カラオケもほとんど使用されていないことからして、月額使用料に基づく請求は不適切である。
(5) 争点5(時効消滅の有無)について
(被告ら)
 原告の不法行為に基づく損害賠償請求権のうち平成21年11月14日以前に係る部分は、原告が著作権侵害による損害を知った時から本件訴訟提起までに3年を経過した。
(原告)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に、証拠(甲5ないし9、16、18ないし20、21の1及び2、乙1、4及び5の各1ないし4、6、7、証人D)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
(1) 被告銀座クラブチックが経営する本件店舗@の店内フロアには客席(フロアレディが着座する席も含む。以下同じ。)約80席が設けられて、中央にグランドピアノが設置されている。同被告は、平成17年2月の本件店舗@の開店から平成24年6月7日までの間、ピアニスト派遣あっせん業者であるEに依頼してピアニストの派遣を受け、その営業時間中、ピアニストに1曲4ないし5分程度で、1ステージ30分程度のピアノ演奏を3ないし4ステージ行わせて客に聴かせ、店の雰囲気作りをしている。演奏される曲目は基本的にピアニストがその裁量により決めており、ジャズやポップスを中心に様々なジャンルにわたるが、客からのリクエストも受け付けている。派遣されるピアニストはB、C、D、Fなど複数名がおり、これらのピアニストが演奏する曲目には演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲が多数含まれる。
 原告の担当者は、本件店舗@について社交場実態調査を行ったが、平成22年3月4日には午後9時13分から午後11時41分までの間に2ないし3ステージ13曲の、平成23年3月8日には午後8時16分から翌午前1時13分までの間に4ステージ38曲の各ピアノ演奏が行われ、前者のうち少なくとも11曲、後者のうち少なくとも16曲が演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲であった。
 本件店舗@では、新規客は酒類のボトルを購入する必要があり、その料金体系は、セット料金(60分)が1万2000円(ただし、午後7時30分までは6000円)、ウイスキーボトル1本1万5000円、サービス料(消費税を含む。)30%などとなっている。
(2) 被告チックが経営する本件店舗Aの店内フロアには客席約120席が設けられて、中央にグランドピアノが設置され、階上にカラオケ装置やモニターテレビを設置した本件VIPルームがある。同被告は、平成18年4月の本件店舗Aの開店から少なくとも平成24年6月7日までの間、Eに依頼してピアニストの派遣を受け、その営業時間中、ピアニストに1曲4ないし5分程度で、1ステージ20ないし30分程度のピアノ演奏を3ないし4ステージ行わせて客に聴かせ、店の雰囲気作りをしている。演奏される曲目は基本的にピアニストがその裁量により決めており、ジャズやポップスを中心に様々なジャンルにわたるが、客からのリクエストも受け付けている。派遣されるピアニストはB、C、D、Fなど複数名がおり、これらのピアニストが演奏する曲目には演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲が多数含まれる。
 原告の担当者は、本件店舗Aについて社交場実態調査を行ったが、平成22年3月17日には午後8時23分から午後10時54分までの間に2ステージ11曲のピアノの弾き語り、平成23年3月9日には午後7時30分から翌午前零時43分までの間に4ステージ24曲のピアノ演奏が行われ、前者のうち少なくとも10曲、後者のうち少なくとも11曲が演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲であった。
 本件VIPルームを使用するのは、高額な入会金を支払った客などに限定される。本件VIPルーム内の本件カラオケ装置等は、遅くとも平成22年3月17日の上記社交場実態調査を行った際には設置されており、本件VIPルームを使用する客がしばしば利用している。客やフロアレディが本件カラオケ装置を操作すると、選択した楽曲の歌詞がモニターテレビに表示され、伴奏音楽が演奏されて、客らがこれに合わせて歌唱をする。利用される楽曲には、カラオケ楽曲リストに記載の原告管理楽曲が多く含まれる。被告チックは、そのホームページ上の本件VIPルームについてのページに室内の画像を掲載するとともに「カラオケ、ブロードバンドなど至れり尽くせり」などと記載して宣伝している。
 本件店舗Aの料金体系は、基本料金が1万円、サービス料(消費税を含む。)30%などとなっている。
(3) 被告グランが経営していた本件店舗Bの店内フロアには客席約90席が設けられて、端にグランドピアノが設置され、グランドピアノを挟んで上記客席と反対側にVIPルームがある。同被告は、遅くとも平成15年10月から平成23年12月19日までの間、Eに依頼してピアニストの派遣を受け、その営業時間中、ピアニストに1曲4ないし5分程度、1ステージ30分程度のピアノ演奏を3ないし4ステージ行わせて客に聴かせ、店の雰囲気作りをしていた。演奏される曲目は基本的にピアニストがその裁量により決めており、ジャズやポップスを中心に様々なジャンルにわたるが、客からのリクエストも受け付けている。派遣されるピアニストはB、C、D、Fなど複数名がおり、これらのピアニストが演奏する曲目には演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲が多数含まれる。なお、本件店舗A及びBは、同じ日には同じピアニストが両店を掛け持ちして演奏していた。
 原告の担当者は、本件店舗Bについて社交場実態調査を行ったが、平成22年9月7日には午後7時55分から翌午前1時5分までの間に4ステージ31曲、平成23年4月21日には午後8時20分から午後12時までの間に3ステージ約19曲のピアノ演奏が行われ、前者のうち少なくとも27曲、後者のうち少なくとも11曲が演奏楽曲リスト記載の原告管理楽曲であった。
 本件店舗Bの料金体系は、平成22年9月頃は、基本料金が5000円、サービス料(消費税を含む。)30%であったが、平成23年4月21日には、セット料金(60分)が1万円、サービス料(消費税を含む。)30%などとなっていた。
2 争点1(本件各店舗における原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏等による著作権侵害の成否)について
(1) ピアノ演奏について
 前記1認定の事実によれば、被告ら3社は、本件各店舗において、その営業のために不特定多数の客に直接聞かせる目的で、業者から派遣されたピアニストに演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲などをピアノで演奏させたのであるから、これにより原告の著作権を侵害したものである。そして、ピアニストの演奏する曲目に演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲が多数含まれていることに加え、社交場実態調査の結果に照らすと、本件店舗@及びAについては本件仮処分決定まで、本件店舗Bについては閉店まで演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲(又はその二次的著作物)が少なくとも1日に10曲は演奏されていたと認めるのが相当である。
 被告らは、ピアニストの多くは本件各店舗においてジャズを自己流にアレンジして即興演奏をし、演奏されるのは原告管理楽曲の二次的著作物ではなく、全く別の新たな著作物であったと主張するが、原告担当者の社交場実態調査において演奏された曲目が判明していることや陳述書等の証拠(甲21の1及び2、乙6、7、証人D)において、Bら演奏者が原曲をそのまま、あるいはアレンジを加えて演奏した後にアドリブを加えていくとの趣旨を述べていることからすると、ピアニストが演奏した原告管理楽曲については、部分的に原曲そのまま、あるいは編曲したその二次的著作物が演奏されたものと認められる。被告らの上記主張は、採用することができない。
 被告らは、本件各店舗において、音楽の演奏等と収益とは関係がなく、設置されたピアノはインテリアとしての要素が圧倒的に強いなどと主張するが、本件各店舗がキャバクラであり、ピアノを設置して演奏している以上、これにより店の雰囲気作りをして、これを好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたことは明らかというべきである。被告らの上記主張は、採用することができない。
 また、被告らは、派遣されたピアニストが演奏していた原告管理楽曲はせいぜい1日4曲程度であったと主張するが、社交場実態調査の結果に照らして、たやすく採用し難い。
(2) カラオケについて
 前記1認定の事実によれば、本件店舗Aの本件VIPルームにおいては、これを使用する不特定多数の客やフロアレディが操作してカラオケ楽曲リストに記載の原告管理楽曲の歌詞がモニターテレビに表示され、伴奏音楽が演奏されることにより上記原告管理楽曲の上映が行われ、客らがこれに合わせて歌唱することによりその演奏が行われていることが認められる。また、被告チックが、経営する本件店舗A内にある本件VIPルームに本件カラオケ装置等を設置して、これをホームページ上で宣伝していること、本件店舗Aはキャバクラという接客業であり、必要があれば被告チックのフロアレディ等従業員が客に本件カラオケ装置の操作方法等を教示すると考えられること、客は同被告が用意した曲目の範囲内で楽曲を選曲するほかないこと、本件VIPルームを使用するためには高額な入会金等を要することなどからすれば、上記上映の主体は同被告であり、また、客による歌唱も同被告の管理の下でされ、これにより同被告が営業上の利益を得ているということができるから、演奏の主体も同被告であると認められる。
 そうすると、被告チックは、カラオケ楽曲リストに記載の原告管理楽曲を、公衆に直接見せ、又は聞かせることを目的として演奏し、また、公に上映したものであるから、原告の著作権(演奏権及び上映権)を侵害したと認められる。そして、平成24年11月8日の時点でも、なお前記ホームページにおける宣伝がされていたこと(甲16)からすると、社交場実態調査がされた平成22年3月から本訴が提起された平成24年11月14日頃までこれらの侵害行為が行われていたと認めるのが相当である。
3 争点2(被告トゥエンティーワンコミュニティによる著作権侵害の成否)について
 被告トゥエンティーワンコミュニティが、本件各店舗におけるピアノ演奏や本件店舗Aにおける本件カラオケ装置等を利用した演奏及び上映を管理、支配し、また、これによって利益を得ていたと認めるに足りる証拠はない。そうであるから、同被告がこれらの行為の主体であるとは認められない。
 原告は、同被告のホームページで本件各店舗をパーティ会場やテレビ、映画の舞台として紹介し、問合せや予約を受け付ける等してその営業に関与し、本件各店舗を経営していると主張する。しかしながら、前者については、キャバクラとしての営業に関するものではないから、同営業における演奏等を管理、支配していることの根拠とはならないし、後者についても、たとえ被告トゥエンティーワンコミュニティと被告ら3社が親子会社の関係にあるとしても、両者はそれぞれ別の法人で、本件証拠からは、被告トゥエンティーワンコミュニティが演奏等に具体的にどのように関与しているのかが判然としないから、被告トゥエンティーワンコミュニティが演奏等の主体であると認めるのは困難である。原告の上記主張は採用することができない。
4 争点3(差止めの必要性の有無)について
 証拠(証人D)に弁論の全趣旨を総合すれば、本件店舗@及びAにおいては未だに派遣されるピアニストが営業時間中に演奏を行っていること、派遣されるピアニストは本件仮処分決定がされたこと及びその内容を認識していることが認められるところ、現在は演奏楽曲リストに記載の原告管理楽曲の演奏をしていないとしても、これは本件仮処分決定がされたことによるものであると考えられる。また、本件カラオケ装置等に係る著作権侵害が本訴提起の日頃まで行われていたのは前述のとおりである。そして、本件店舗@及びAの営業が継続していて、これらの店舗に設置されたピアノや本件カラオケ装置等が自発的に撤去されたことは窺えないから、本件店舗@を経営する被告銀座クラブチック及び本件店舗Aを経営する被告チックがピアノ演奏や本件カラオケ装置等による著作権侵害を今後も継続するおそれがある。そうであるから、被告銀座クラブチックに対しピアノ演奏の差止めを、被告チックに対しピアノ演奏及びカラオケ演奏等の差止めとカラオケ装置の撤去をそれぞれ認める必要があるというべきである。
5 争点4(原告の受けた損害又は損失の額)について
(1) ピアノ演奏について
ア 証拠(甲3の1及び2、17の1及び2)によれば、原告の著作権信託契約約款(以下「本件約款」という。)においては、設備を設け客に飲食又はダンスをさせる営業を行う社交場において営業とともに著作物を演奏等する場合の使用料は、使用料の種類及び使用料の適用区分により算出した金額に消費税相当額を加算した額としていること、使用料の種類については、包括的利用許諾契約を結ばない場合には1曲1回の使用料により算出すること、使用料の適用区分については、本件各店舗のようなキャバクラは、平成19年9月まで適用される旧規定では業種2に区分されて旧規程別表16の1が適用され、同年10月以降に適用される現行規程では区分1Cに区分されて現行規程別表8の4が適用され、上記別表16の1及び別表8の4は、1曲1回利用時間5分までの使用料について、いずれも座席数(面積)と標準単位料金により規定するところ、標準単位料金とは、当該業種の営業について、著作物が利用される際の標準的な営業システムをいい、キャバクラは、旧規程では定額料金又はウイスキー水割り等の代金、付き出し等の代金、サービス料等、テーブルチャージ等及びショーチャージ等の合計額がこれに当たり、現行規程では定額料金又は飲み物代金、料理代金及びサービス料等の合計額がこれに当たり、いずれも酒類の提供が主としてボトル販売による場合は、ボトル1本の代金を10分の1にした額を飲み物代金とすること、以上の事実が認められる。
イ そこで、本件約款に基づき、本件各店舗における使用料を算出する。
(ア) 本件店舗@について
 本件店舗@は、客席約80席で、標準単位料金は、通常のセット料金1万2000円、飲み物代金1500円(ウイスキーボトル1本1万5000円の10分の1)、サービス料30%であるから、消費税分を控除すると、1万6875円(=(12,000円+1,500円)×1.25)となり、旧規程別表16の1及び現行規程別表8の4のいずれによっても座席数80席まで、標準単位料金2万円までに該当し、1曲1回利用時間5分までの使用料は230円となるから、1日当たり10曲の使用料は2300円となる。そして、休業日が土曜日、日曜日及び祝日であるほか、証拠(乙4の1ないし4)によれば、年末年始及び旧盆の時期にも臨時休業していることが認められるから、平成17年2月1日から平成24年6月7日までの間の営業日数は、別紙「営業日数一覧表」の「本件店舗@」欄「合計」欄に記載のとおり1780日になる。
 そこで、これに1日当たりの使用料を乗じて消費税を加算すると、次のとおり、429万8700円となる。
 (算式)2,300円×1,780日×1.05=4,298,700円
(イ) 本件店舗Aについて
 本件店舗Aは、客席約120席で、標準単位料金は、基本料金1万円、サービス料30%であるから、消費税分を控除すると、1万2500円(=10,000円×1.25)となり、旧規程別表16の1及び現行規程別表8の4のいずれによっても座席数120席まで、標準単位料金1万5000円までに該当し、1曲1回利用時間5分までの使用料は、旧規程別表16の1によれば260円、現行規程別表8の4によれば270円となるから、1日当たり10曲の使用料はそれぞれ2600円、2700円となる。そして、証拠(乙5の1ないし4)に照らすと、平成18年4月1日から平成19年9月30日までの間の営業日数は、別紙「営業日数一覧表」の「本件店舗A」欄「小計1」欄に記載のとおり438日になり、同年10月1日から平成24年6月7日までの間の営業日数は、同「本件店舗A」欄「小計2」欄に記載のとおり1369日になる。
 そこで、これらに1日当たりの使用料を乗じて消費税を加算すると、次のとおり、507万6855円となる。
 (算式)(2,600円×438日+2,700円×1,369日)×1.05=5,076,855円
(ウ) 本件店舗Bについて
 本件店舗Bは、客席約90席であるが、原告は80席であることを前提に請求しているからこれによることとし、標準単位料金は、平成22年9月頃の料金体系では基本料金5000円、サービス料30%であるから、消費税分を控除すると、6250円(=5,000円×1.25)となり、平成23年4月21日の料金体系ではセット料金1万円、サービス料30%であるから、消費税分を控除すると、1万2500円(=10,000円×1.25)となる(料金体系の変更がいつされたかは証拠上判然としないから、平成23年4月20日までは前者の標準単位料金により、それ以降は後者の標準単位料金によるのが相当である。)。そうすると、1曲1回利用時間5分までの使用料は、旧規程別表16の1によれば、座席数80席まで、標準単位料金1万円までに該当するから170円、現行規程別表8の4によれば、平成23年4月20日までは座席数80席まで、標準単位料金1万円までに該当するから170円、同月21日以降は座席数80席まで、標準単位料金1万5000円までに該当するから200円となり、1日当たり10曲の使用料は、平成23年4月20日までは1700円、同月21日からは2000円となる。そして、平成15年10月1日から平成23年4月20日までの営業日数は、別紙「営業日数一覧表」の「本件店舗B」欄「合計」欄に記載のとおり2204日になり、同月21日から平成24年6月7日までの間の営業日数は「本件店舗B−2」欄「合計」欄に記載のとおり334日になる。
 そこで、これらに1日当たりの使用料を乗じて消費税を加算すると、次のとおり、463万5540円となる。
 (算式)(1,700円×2,204日+2,000円×334日)×1.05=4,635,540円
(2) カラオケについて
 証拠(甲3の2)によれば、カラオケボックス、カラオケルームその他カラオケ設備を設け、客に歌唱をさせる施設において著作物を演奏、上映又は伝達する場合の使用料は、月額使用料によるか、これによらない場合には著作物1曲1回ごとに定める使用料により算出した額に消費税相当額を加算した額とされているところ、月額使用料は著作物1曲1回ごとに定める使用料の100曲分と同額であることが認められ、本件カラオケ装置が本件VIPルームを使用する客にしばしば利用されていたことからすれば、本件における損害額の算定においては、月額使用料によるのが相当である。そして、上記証拠によれば、月額使用料の最低料金は9000円とされていることが認められから、本件カラオケ装置が使用されたと認められる平成22年3月から平成24年10月までの損害額を算定すると、次のとおり、30万2400円となる。
 (算式)9,000円×32か月×1.05=302,400円
(3) 弁護士費用相当損害金について
 本件事案の内容やその難易、認容額等諸般の事情を考慮すると、被告銀座クラブチックの侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害金は43万円、被告チックの侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害金は54万円、被告グランの侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害金は46万円を認めるのが相当である。
6 争点5(時効消滅の有無)について
 原告が、平成21年11月14日以前に係る損害賠償請求権について、同日までに著作権侵害による損害を知ったことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲5、7ないし9、18ないし20)によれば、原告は、本件各店舗にピアノが設置されたことを知って、原告管理楽曲の演奏がされていないかにつき従業員に聴取するなどして調査をしていたが、曖昧な回答ではぐらかされるなどして実態がつかめずにいたところ、社交場実態調査を行って初めて著作権の侵害が発生していることを認識したことがうかがわれる。
 そうであるから、本件訴訟提起時に、平成21年11月14日以前に係る損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過しているということはできない。
7 以上のとおりであって、(1) 原告の被告銀座クラブチックに対する請求は、本件店舗@におけるピアノの生演奏の差止めと著作権侵害に係る損害賠償として469万2470円(使用料相当損害金429万8700円のうち原告が請求する426万2470円及び弁護士費用相当損害金43万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後であり訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成24年11月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、(2) 原告の被告チックに対する請求は、本件店舗Aにおけるピアノの生演奏及びカラオケ装置の使用の差止めとカラオケ装置の撤去並びに著作権侵害に係る損害賠償として591万9255円(ピアノ演奏に係る使用料相当損害金507万6855円、カラオケに係る使用料相当損害金30万2400円及び弁護士費用相当損害金54万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後であり訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、(3) 原告の被告グランに対する請求は、著作権侵害に係る損害賠償として509万5540円(使用料相当損害金463万5540円及び弁護士費用相当損害金46万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後であり訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな同月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、(4) 被告トゥエンティーワンコミュニティに対する請求は全て理由がない。
 よって、上記の限度で原告の請求を認容し、その余は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 三井大有
 裁判官 宇野遥子


<別紙の楽曲リスト及びカラオケ楽曲リストは添付を省略する>

別紙 当事者目録
原告 一般社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士 堀井敬一
被告 有限会社グラン
被告 有限会社銀座クラブチック
被告 有限会社チック
被告 株式会社トゥエンティーワンコミュニティ
上記4名訴訟代理人弁護士 成豪哲
同 藤沢浩一
同 小椋優
同 渡邉俊太郎
同 野口耕治
同 提箸欣也
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日本ユニ著作権センター
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