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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件E 【年月日】平成26年6月25日 東京地裁 平成26年(ワ)第3570号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年5月21日) 判決 原告 キングレコード株式会社 原告 ユニバーサルミュージック合同会社 原告ら訴訟代理人弁護士 前田哲男 同 中川達也 同 尋木浩司 同 林幸平 同 塚本智康 被告 KDDI株式会社 被告訴訟代理人弁護士 光石俊郎 同 光石春平 主文 1 被告は、原告キングレコード株式会社に対し、平成25年7月11日午前9時51分33秒頃に「219.108.203.208」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。 2 被告は、原告ユニバーサルミュージック合同会社に対し、平成25年7月23日午前9時54分42秒頃に「219.108.203.208」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、レコード製作会社である原告らが、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告に対し、原告らが送信可能化権(著作権法96条の2)を有するレコードが氏名不詳者によって原告らに無断で複製され、被告のインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置かれたことにより、原告らの送信可能化権が侵害されたと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記氏名不詳者に係る発信者情報(氏名、住所及び電子メールアドレス)の開示を求める事案である。 1 前提となる事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告らは、いずれも、レコード会社であり、レコードを製作の上、これらを複製してCD等として発売している。 イ 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社である。 (2) 原告らの有する送信可能化権等 ア 原告キングレコード株式会社(以下「原告キングレコード」という。)は、実演家であるAKB48が歌唱する楽曲「大声ダイヤモンド」を録音したレコード(以下「原告レコード1」という。)を製作の上、平成20年10月22日、「大声ダイヤモンド{通常盤}」との名称の商業用12センチ音楽CD(商品番号:KIZM−23/24)の1曲目に収録して、日本全国で発売した。〔甲3の1〕 原告キングレコードは、原告レコード1のレコード製作者として、同レコードについて送信可能化権(著作権法96条の2。以下同じ。)を有する。 イ 原告ユニバーサルミュージック合同会社(以下「原告ユニバーサルミュージック」という。)は、実演家であるGreeeeNが歌唱する楽曲「道」を録音したレコード(以下「原告レコード2」という。)を製作の上、平成19年1月24日、「道」との名称の商業用12センチ音楽CD(商品番号:UPCH−80001)の1曲目に収録して、日本全国で発売した。〔甲3の2〕 原告ユニバーサルミュージックは、原告レコード2のレコード製作者として、同レコードについて送信可能化権を有する。 (3) 原告レコード1及び2と同一内容の楽曲ファイルの送信可能化 ファイル圧縮方式の一つであるmp3方式(以下「mp3方式」という。)により圧縮された、原告レコード1及び2と同一内容の楽曲ファイル(以下、それぞれ「本件ファイル1」及び「本件ファイル2」という。)が、コンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置された上、当該コンピュータにつき、被告のインターネット接続サービスを利用して、被告からインターネットプロトコルアドレス(以下「IPアドレス」という。)「219.108.203.208」の割当てを受けた氏名不詳者らにより、それぞれ、インターネットに接続され、本件ファイル1については平成25年7月11日9時51分33秒頃(日本時間における24時間表記。以下同様である。)に、本件ファイル2については同月23日9時54分42秒頃に、いわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるGnutella互換ソフトウェア(以下「Gnutella互換ソフトウェア」という。)により、インターネットに接続している不特定の他の同ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にされた。〔原告レコード1及び2と本件ファイル1及び2とが同一内容であることにつき当事者間に争いがない。その余は弁論の全趣旨〕 (4) 被告の保有する情報等 被告は、原告レコード1及び2の送信可能化権を侵害したと原告により主張されている前記氏名不詳者ら(本件ファイル1について平成25年7月11日9時51分33秒頃の接続に係る者を「本件利用者1」と、本件ファイル2について同月23日9時54分42秒頃の接続に係る者を「本件利用者2」という。)に係る発信者情報(氏名、住所及び電子メールアドレス)を保有している。〔当事者間に争いがない。〕 被告は、プロバイダ責任制限法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」であり、本件利用者1及び2による原告レコード1及び2の送信可能化権侵害との主張との関係においては、同法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たる。〔当事者間に争いがない。〕 2 争点 原告らの被告に対するプロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求の可否 第3 争点に関する当事者の主張 〔原告の主張〕 1 請求原因 (1) 原告レコード1と本件ファイル1は同一内容の楽曲ファイルであるから、本件ファイル1は原告レコード1の複製物であることが明らかであるところ、前記第2、1(3)記載のとおり、本件利用者1は、原告レコード1をmp3方式により圧縮して複製した本件ファイル1をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置したうえ、当該コンピュータを、被告のインターネット接続サービスを利用して、被告からIPアドレス「219.108.203.208」の割当てを受けてインターネットに接続し、平成25年7月11日9時51分33秒頃、Gnutella互換ソフトウェアにより、本件ファイル1を、インターネットに接続している不特定の他のGnutella互換ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にし、もって原告キングレコードが原告レコード1について有する送信可能化権を侵害した。 (2) 原告レコード2と本件ファイル2は同一内容の楽曲ファイルであるから、本件ファイル2は原告レコード2の複製物であることが明らかであるところ、前記第2、1(3)記載のとおり、本件利用者2は、原告レコード2をmp3方式により圧縮して複製した本件ファイル2をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置したうえ、当該コンピュータを、被告のインターネット接続サービスを利用して、被告からIPアドレス「219.108.203.208」の割当てを受けてインターネットに接続し、平成25年7月23日9時54分42秒頃、Gnutella互換ソフトウェアにより、本件ファイル2を、インターネットに接続している不特定の他のGnutella互換ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にし、もって原告ユニバーサルミュージックが原告レコード2について有する送信可能化権を侵害した。 (3) 前記(1)及び(2)によれば、原告らが、原告レコード1及び2について有する送信可能化権が被告のサービス利用者である本件利用者1及び2によって侵害されたことが明らかである。 (4) また、本件利用者1及び2からみて、他のGnutella互換ソフトウェア利用者は不特定であり、本件利用者1及び2は、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)の用に被告の電気通信設備を利用していた。 被告は、このような特定電気通信の用に電気通信設備を供していたのであるから、プロバイダ責任制限法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」であり、本件利用者1及び2による原告レコード1及び2の送信可能化権侵害との関係において、同法4条1項にいう「開示関係役務提供者」である。原告らは、各自原告レコード1及び2について有する送信可能化権侵害に基づき、本件利用者1及び2に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ、本件利用者1及び2の氏名、住所等は不明であるため、原告らがこれらの者に対して何らかの請求を行うことができない状態にある。原告らには、本件利用者1及び2に対する損害賠償請求権及び差止請求権の行使のために、本件利用者1及び2に係る発信者情報(氏名、住所及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある。 (5) よって、原告らは、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件利用者1及び2に係る発信者情報である、その者の氏名、住所及び電子メールアドレスの開示を求める。 2 被告の主張に対する反論 (1) 被告は、無関係の第三者が契約者のIPアドレスや端末を不正に利用した可能性や、契約者の端末が暴露ウィルスに感染した場合など、契約者の意思によらず送信可能になった可能性もあるとして、契約者がプロバイダ責任制限法2条4号にいう「発信者」に該当するとは限らないと主張する。 しかし、被告の主張する第三者によるIPアドレスの不正利用や暴露ウィルスの感染は、可能性としては皆無でないとしても、本件でかかる可能性が現実化したことを示す証拠もないから、本件で明らかにされたIPアドレスを使用してインターネットに接続する権限を有していた者を「発信者」と認めるのが合理的である。 また、仮に第三者によるIPアドレスの不正利用や暴露ウィルスの感染が現実にあったとしても、発信者情報の開示を拒絶する理由とはならない。すなわち、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき開示を求めることができる「発信者情報」の内容は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」(平成14年総務省令第57号。以下「省令」という。)に定められているところ、省令によって定められている「発信者情報」とは、「発信者その他侵害情報の送信に係る者」(省令4条1号)の氏名又は名称、住所等であり、仮に第三者によるIPアドレスの不正利用や暴露ウィルスの感染が現実にあったとしても、原告らの権利を侵害する情報の送信が当該IPアドレスを利用して行われたことは明白であるから、その情報の送信の時刻において当該IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続していた者が「侵害情報の送信に係る者」に該当することは明らかである。 したがって、被告は、当該IPアドレスの割り当てを受けてインターネットに接続していた者の住所・氏名等を「侵害情報の送信に係る者」の情報として開示する義務を負うというべきである。 (2) 被告は、株式会社クロスワープ(以下「クロスワープ社」という。)が開発した著作権侵害検出システムである「P2P FINDER」(以下「本件システム」という。)の正確性が不明であり、その正確性の立証のため行ったとする同一性確認試験(「P2P FINDERによる検出IPアドレス等の同一性確認試験報告書(GnutellaネットワークCabos版)」、甲6。以下「甲6試験」という。)についても、本件ファイル1及び2がクロスワープ社によりダウンロードされたとする平成25年7月から半年も後のものであり、本件利用者1及び2の使用したパソコン環境、OS、使用ソフト等が甲6試験の条件と同一であるとする根拠もないから、本件利用者1及び2はGnutellaクライアントでないのに、本件システムが誤ってこれを検出した可能性もあると主張する。 まず、甲6試験は、Gnutellaネットワークでの違法な音楽ファイルの検索・監視を行うシステムである本件システムが発信者の用いたIPアドレスを正確に記録していることを確認するためのもので、実験者がファイルの公開に用いたIPアドレスと、本件システムにより取得されたダウンロード時の情報中のIPアドレスとが完全に一致するかどうかを確認することを目的に行ったものである。そして、その実験結果として、実験者が公開した50ファイル中、発見できた5ファイルの全てについて完全に一致していたものであるから、見つけた情報中のIPアドレスが送信元のIPアドレスと完全に一致していたという意味で、甲6試験は本件システムの正確性を立証している。 また、ダウンロードの要求自体は、本件システムにより特定されたIPアドレスに対して行うため、間違いが生ずる可能性はないし、本件システムが今までシステム異常を起こしたこともなく、ダウンロード時の情報も正確に記録されている(甲6、7)。 このように、本件システムの正確性は甲6試験によっても立証されており、本件システムが誤ってクライアントではないパソコンから何らかの理由でダウンロードを行ったということはあり得ない。 それから、発信者側のパソコン環境、OS、使用ソフト等と甲6試験の上記条件との一致の有無は、甲6試験の正確性とは関係がない。すなわち、甲6試験は、本件システムが発信者の用いたIPアドレスを正確に記録していることを確認するためのものであり、発信者のパソコンがどのような環境にあるのか、どのようなOSやファイル共有クライアントソフトを使用しているかを確認・検証するためのものではない。そして、発信者の用いるIPアドレスは、当該発信者の用いているパソコン等のインターネット接続環境によって決定されるのであって、発信者のパソコンがどのような環境にあろうが、どのようなOSやファイル共有クライアントソフトを使用していようが、それらによって発信者のIPアドレスが影響を受けることはなく、本件システムによるIPアドレスの記録にも影響しない。 さらに、本件システムは、キーワードで検索された発信者側のIPアドレスに対して実際にダウンロード要求を行い、そのダウンロード要求に応じて現にファイルをダウンロードしているのであるから、本件システムがダウンロード要求をした相手方のIPアドレスを正確に記録している限り、当該IPアドレスから当該ファイルが送信されたことは確実である。 本件でも、例えば本件ファイル1について、本件システムによってキーワードである「AKB48」で検索された発信者のIPアドレスである「219.108.203.208」に対してダウンロード要求を行った結果、本件ファイル1をダウンロードしているのであるから、当該IPアドレスから本件ファイル1が送信されたことは確実である。 〔被告の主張〕 1 請求原因に対する認否 本件ファイル1及び2がそれぞれ原告レコード1及び2と同一であることは争わないが、本件ファイル1及び2がそれぞれ原告レコード1及び2を複製したものであるかは不知。 2 プロバイダ責任制限法2条4号所定の「発信者」該当性について (1) 被告は前記第2、1(4)のとおりの発信者情報を保有するが、これは飽くまでもIPアドレスの割当てを受けた契約者の情報である。無関係の第三者が契約者のIPアドレスや端末を不正に利用した場合や、契約者の端末が暴露ウィルスに感染した場合など、契約者の意思によらずに送信可能になった可能性もあり、その契約者がプロバイダ責任制限法2条4号にいう「発信者」に該当するとは限られないというべきである。 (2) この点に関して原告らは、仮に第三者によるIPアドレスの不正利用や暴露ウィルスの感染が現実にあったとしても、原告らの権利を侵害する情報の送信が当該IPアドレスを利用して行われたことは明白であるから、その情報の送信の時刻において当該IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続していた者が「侵害情報の送信に係る者」に該当することが明らかであると主張する。 しかし、省令1号の「その他侵害情報の送信に係る者」とは、発信者の所属する企業、大学等の法人を想定し、発信者とそのような関係を有する当該法人等を特定する情報をもって、発信者の特定に資する情報とすることを規定したものである。原告らの主張する「その情報の送信の時刻において当該IPアドレスの割り当てを受けてインターネットに接続していた者」は、省令1号にいう「その他侵害情報の送信に係る者」には該当しないから、原告らの上記主張は失当である。 3 本件システムの正確性及び甲6試験の信用性について 原告らが用いた本件システムの正確性を立証するための甲6試験は、平成26年1月の時点で、試験環境として「Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)」のクラウドサービスを利用し、試験用OSとして「Microsoft Windows Server 2008 R2 Datacenter」、試験用Gnutellaクライアントとして「Cabos(Ver.0.8.2)」を用いるという条件(甲6、3頁)で行われており、その条件において「ファイルのP2P FINDERによってダウンロードされたIPアドレスは公開されたGnutellaクライアントからダウンロードが行われることが確認できた」との結論を導いたとする(甲6)。 しかし、本件ファイル1及び2のダウンロードは、平成25年7月であり、甲6試験より半年も前にされたもので、ダウンロード元のパソコンの環境、OS、使用ソフト等が甲6試験の上記条件と一致したとの根拠はないから、本件システムが、誤って、Gnutellaクライアントではないパソコンから何らかの理由で当該ダウンロードを行い、Gnutellaクライアントからのダウンロードがあったと検出した可能性は否定できない。 したがって、甲6試験の結果は信用できず、それを前提とする本件システムの正確性も不明というほかない。 第4 争点に対する判断 1 証拠(甲1ないし12)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足る的確な証拠はない。 (1) 本件ファイル1及び2と原告レコード1及び2との関係 本件ファイル1及び2がそれぞれ原告レコード1及び2と同一であることについては被告も争わないところ、原告らの法務部社員らにおいて本件ファイル1及び2と原告ファイル1及び2とをそれぞれ聴取して比較した結果、歌唱の旋律・歌詞、歌唱方法、歌声、伴奏音楽の楽器構成、演奏方法及び歌唱・演奏のタイミングが同一であることを確認し、本件ファイル1及び2はそれぞれ原告レコード1及び2の複製物であるとしている。 (2) Gnutellaネットワークの機能 Gnutellaネットワークとは、ファイル共有ソフトである「Gnutella」と称するソフトウェア及び同ソフトウェアと共通するプロトコルを持つファイル共有クライアントソフト(LimeWire、Cabos等)のユーザーが、インターネットに接続しているパソコンにこれらのソフトウェアを組み込むことによりこれらのソフトウェアを起動しているユーザー同士が互いのハードディスクにあるファイル(情報)を相互に交換することができるネットワークである。 Gnutellaネットワークでは、ある利用者が検索キーワードを送信すると、同キーワードをファイル名に含むファイルに関するキー情報(当該ファイルを保有している利用者のIPアドレス、ポート番号、ファイル名等)が返信される。上記利用者は、上記キー情報の中から、同人の希望するファイルを保有しているノードのIPアドレス及びポート番号を選択し、同アドレスに対してダウンロード要求を行う。当該ファイルが公開状態にある場合、同要求に応じて、当該ファイルを保有しているノードから、上記利用者に対し、要求されたファイルが自動的に送信されることとなっている。 (3) 本件システムによる検索 ア 本件システムは、クロスワープ社が開発したインターネット上の著作権侵害検出システムであり、Gnutellaネットワークその他の各種P2Pネットワークに接続し、同ネットワークにおいて流通するファイル(ダウンロードされたファイル)及びダウンロード時の情報(送信元となったノードのIPアドレス、ポート番号、ファイルハッシュ値、ダウンロード完了時刻等)を収集、分析等するものである。クロスワープ社は、平成15年から本件システムを稼働し、レコード会社等から依頼を受けて、同システムを使って、設定されたキーワードに基づき、市販されているCDの音源が各種P2Pネットワーク上で公開されているかどうかを検索している。 イ クロスワープ社は、原告らから依頼を受け、本件システムを使用して、キーワード名を、原告レコード1及び2の実演家である「AKB48」、「GREEEEN」として検索を実行した結果、前記第2、1(3)記載のIPアドレスから本件ファイル1及び2が送信され、同じく第2、1(3)記載の各時刻に本件ファイル1及び2のダウンロードが完了したことが確認された。 (4) 甲6試験の結果 ア クロスワープ社は、平成26年1月17日15時30分から同月28日15時30分までの間、「P2P FINDER」のデータベースに記録されたファイルの発信元のIPアドレス(インターネットに接続する際にインターネット接続プロバイダから割り当てられるグローバルIPアドレス)が実際の送信元のIPアドレスと一致しているかどうかを確認する試験(甲6試験)を行った。 イ 確認試験の実施手順は、次のとおりである。 (ア) クロスワープ社は、マイクロソフト株式会社がWindows7に搭載しているインターネット時刻の同期機能を利用してタイムサーバーに問い合わせを行い、クロスワープ社において用意したファイル送信用のパソコン(以下「試験用パソコン」という。)の時刻同期(時刻合わせ)を行う。 (イ) クロスワープ社は、試験用パソコンを起動し、インターネットに接続した際にインターネット接続プロバイダから割り当てられるIPアドレスを確認する。そして、ファイル送信用パソコンから、他の人によってアップロードされる可能性の極めて少ないランダムな文字列で生成したファイル名(以下「試験ファイル名」という。)を付けたファイル(以下「試験ファイル」という。)を、Gnutellaネットワーク上で公開し、ダウンロード可能な状態に置く。 (ウ) クロスワープ社は、本件システムを使用し、試験ファイル名の一部をキーワードとして設定し、Gnutellaネットワークを監視する。そして、同キーワードをファイル名に含むファイルを検索し、その検索結果に基づき、当該ファイルの保有先のIPアドレス(グローバルIPアドレス)に対してダウンロード要求を行い、試験ファイルをダウンロードする。 ウ 平成26年1月17日15時30分から同月28日15時30分までの間に行われた試験において、公開された試験ファイル50種類のうち5種類のファイルが延べ245回ダウンロードされた事実が確認されたが、これらのファイルの送信元のIPアドレスは、いずれも、試験用パソコンがインターネット接続プロバイダから割り当てられたIPアドレスであった。 エ そして、本件ファイル1及び2は、被告のインターネット接続サービスを利用して、被告から「219.108.203.208」のIPアドレスの割当てを受けた本件利用者1及び2により、それぞれインターネットに接続され、前記第2、1(3)記載の各時刻頃、Gnutella互換ソフトウェアによって、インターネットに接続している不特定の他の同ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にされ、本件システムによりダウンロードがされた。〔甲2の1、2〕 2 以上の事実によれば、次のとおり判断することができる。 (1) 複製の有無について 前記1(1)及び(4)エ認定の事実によれば、本件ファイル1及び2はそれぞれ原告レコード1及び2の複製物であると認められる。 (2) 本件システムによる検索結果の正確性について 前記1(2)ないし(4)認定の事実によれば、甲6試験の結果に関し、確認試験における実験システムの構成等について、特段不合理な点は認められない。 したがって、本件システムによる検索結果、調査結果について、その信用性を疑わせるような事情は見当たらず、措信することができる。 (3) プロバイダ責任制限法2条4号所定の「発信者」該当性について 被告は、無関係の第三者が契約者のIPアドレスや端末を不正に利用した可能性や、契約者の端末が暴露ウィルスに感染した場合など、契約者の意思によらず送信可能になった可能性もあるから、上記IPアドレスの割当てを受けた契約者がプロバイダ責任制限法2条4号にいう「発信者」に該当するとは限らない旨主張するが、被告が主張するような事情は飽くまで一般的抽象的な可能性を述べるものにすぎず、本件全証拠によっても、これら不正利用や暴露ウイルスへの感染等を疑わせる具体的な事情は認められない。 そして、前記1(4)エのとおり、被告から「219.108.203.208」のIPアドレスの割当てを受けた者により、それぞれインターネットに接続され、Gnutella互換ソフトウェアによって、インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にされ、本件システムにより本件ファイル1及び2がダウンロードされたものであるから、上記IPアドレスを使用してインターネットに接続する権限を有していた契約者を「侵害情報の発信者」であると推認するのが合理的であり、契約者のIPアドレス等の不正利用や暴露ウィルスへの可能性などの一般的抽象的可能性の存在が、上記認定の妨げになるものとは認められないというべきである。 (4) 以上の検討によれば、本件利用者1及び2は、原告レコード1及び2の複製物である本件ファイル1及び2をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上、当該コンピュータを、被告のインターネット接続サービスを利用して、被告からIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、Gnutella互換ソフトウェアにより、本件ファイル1及び2をインターネットに接続している不特定の他の同ソフトウェア利用者(公衆)からの求めに応じて、インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にしたことが認められるから、本件利用者1及び2の上記行為は、原告らが原告レコード1及び2について有する送信可能化権を侵害したことが明らかであると認められる。 そして、原告らは、原告ら各自が原告レコード1及び2について有する送信可能化権に基づき、本件利用者1及び2に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ、本件利用者1及び2の氏名・住所等は原告らに不明であるため、上記請求を行うことが実際上できない状態にあることが認められる。〔甲1の1、2、甲4、5〕 したがって、原告らには、被告から本件利用者1及び2に係る発信者情報(氏名、住所及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある。 3 結論 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 今井弘晃 裁判官 実本滋 |
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