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【事件名】パチンコ「CR松方弘樹の名奉行金さん」事件 【年月日】平成26年4月30日 東京地裁 平成24年(ワ)第964号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成26年2月14日) 判決 原告 東映株式会社(以下「原告東映」という。) 同訴訟代理人弁護士 田中克郎 同 中村勝彦 同訴訟復代理人弁護士 宮澤昭介 原告 株式会社ビーエフケー(以下「原告BFK」という。) 同訴訟代理人弁護士 椙山敬士 同 水上康平 同 曽根 翼 原告 株式会社大一商会(以下「原告大一商会」という。) 同訴訟代理人弁護士 遠山友寛 同 長坂 省 同訴訟復代理人弁護士 大久保和樹 被告 株式会社サンセイアールアンドディ(以下「被告サンセイ」という。) 同訴訟代理人弁護士 黒田健二 同 野本健太郎 同 池上慶 被告 株式会社第一通信社(以下「被告第一通信社」という。) 同訴訟代理人弁護士 秋山洋 主文 1 被告らは、原告東映に対し、連帯して1億8064万9166円及びこれに対する平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告ら各自に対し、連帯して5億5549万7220円及びこれに対する平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告BFKに対し、連帯して800万円及びこれに対する平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告らは、原告大一商会に対し、連帯して800万円及びこれに対する平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用はこれを5分し、その3を原告らの負担とし、その2を被告らの負担とする。 7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、別紙被告商品目録記載の商品について、別紙著作物目録記載の映像を収載した別紙被告部品目録記載の部品の交換又は提供を行ってはならない。 2 被告らは、原告ら各自に対し、連帯して、19億8000万円及びこれに対する平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、テレビ放映用番組として製作された「遠山の金さんシリーズ」のうち、別紙著作物目録記載の合計3話(以下「原告著作物」という。)の著作権を有し、別紙商標目録記載の「遠山の金さん」の商標権(第4700298号。以下「本件商標権」という。)を有する原告東映が、別紙被告商品目録記載のパチンコ機「CR松方弘樹の名奉行金さん」(以下「被告商品」という。)を製造販売していた被告らに対し、著作権法112条1項又は商標法36条1項に基づき、被告商品の部品である別紙被告部品目録記載の部品(以下「被告部品」という。)の交換又は提供の差止めを求めるとともに、原告東映、原告東映から原告著作物の著作権及び本件商標権の独占的使用許諾を受けたとする原告BFK、原告BFKから原告著作物の著作権及び本件商標権の独占的使用再許諾を受けたとする原告大一商会が、原告らの連帯債権として、被告らに対し、連帯して、民法709条、719条、著作権法114条2項又は商標法38条2項に基づき、合計19億8000万円及びこれに対する被告商品の製造販売が終了した日である平成22年4月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提となる事実(証拠等を付した以外の事実は争いがない。) (1) 当事者 ア 原告東映 原告東映は、映画の製作及び配給等を業とする株式会社である。 イ 原告BFK 原告BFKは、キャラクター商品の企画、制作、販売等を業とする株式会社である。 ウ 原告大一商会は、遊戯用具機械類の製造等を業とする株式会社である。 エ 被告第一通信社は、内外各種新聞、雑誌広告の代理、ラジオ広告、テレビ広告、映画広告、屋外広告の請負、仲介及び代理等を業とする株式会社である。 オ 被告サンセイは、遊技機器の製造・販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告著作物 ア 原告東映は、「遠山の金さんシリーズ」として、昭和25年から昭和40年にかけて劇場用映画を合計20本、昭和45年から平成19年にかけてテレビ放映用番組を合計7シリーズにわたって製作した(以下「本件金さんシリーズ」という。)。このうち、昭和63年から平成10年までは、松方弘樹主演の「名奉行遠山の金さん」(第1〜第7シリーズ)並びに続編である「遠山の金さんvs女ねずみ」及び「金さんvs女ねずみ」の全202話(以下、合わせて「本件松方作品」という。)を製作、放映した。(甲12〜14) イ 原告が、本件において著作権侵害を主張する原告著作物(いずれも本件松方作品の1つ)は、次の(ア)ないし(ウ)のとおりである。 原告は、これら原告著作物につき、映画の著作物の映画製作者として著作権を有している(弁論の全趣旨)。 (原告BFK、原告大一商会が原告著作物につき独占的利用権を有しているかは争いがある。) (ア) 「名奉行遠山の金さん」第6シリーズ第1話「大奥女中謎の死」(以下「原告松方映像6−1」という。) その概要は、別紙比較対照表1の「原告松方映像6−1」欄記載のとおりである。 原告松方映像6−1は、平成6年6月9日に放映された(甲118)。 (イ) 「名奉行遠山の金さん」第2シリーズ第22話「江戸ゆきさん殺人事件」(以下「原告松方映像2−22」という。) その概要は、別紙比較対照表2@の「原告松方映像2−22」欄記載のとおりである。 原告松方映像2−22は、平成元年11月16日に放映された(甲118)。 (ウ) 「金さんvs女ねずみ」第1話「大奥怪しい京人形」(以下「原告松方映像(女ねずみ)2−1」という。) その概要は、別紙比較対照表1D及び2Aの「原告松方映像(女ねずみ)2−1」欄記載のとおりである。 原告松方映像(女ねずみ)2−1は、平成10年3月14日に放映された(甲118)。 (3) 被告映像 ア 被告商品である「CR松方弘樹の名奉行金さん」はパチンコ機であり、様々な映像が収載されている(以下、総称して「被告映像」という。)。被告映像は、被告部品に収載されている(弁論の全趣旨)。 被告映像は、被告商品の遊技中、一定の条件の下で、被告商品中央やや上部の液晶画面において展開される一連の映像であり、次のようなものが含まれている。 (ア) 「白州ボーナス」の演出中に展開される、「金さん」を巡る一連の物語映像(No.0〜No.45)(以下「被告金さん物語映像」という。) そのうちNo.31〜No.33、No.40〜No45の映像の概要は、別紙比較対照表1Aの「No.31乃至No.33」、1Cの「No.40乃至No.45」記載のとおりである。 (イ) 「リーチ」の際、被告金さん物語映像のうち、お白州の場面の直前の、金さんが悪党と立ち回りを行う場面であるNo.31〜No.33の被告金さん物語映像が再編集され、まとめられた映像(以下「被告立ち回りリーチ映像」という。) その概要は、別紙比較対照表1@の「被告立ち回りリーチ映像」欄記載のとおりである。 (ウ) 「くのいちリーチ」について準備された映像(以下「被告くのいちリーチ映像」という。) その概要は、別紙比較対照表1Dの「被告くのいちリーチ映像」欄記載のとおりである。 (エ) 「白州リーチ」の際、被告金さん物語映像のうち、お白州の場面であるNo.35〜No.43の被告金さん物語映像が再編集され、まとめられた映像(以下「被告白州リーチ映像」という。) その概要は、別紙比較対照表1B、2@Aの「被告白州リーチ映像」欄記載のとおりである。 (4) 本件商標権 原告東映は、別紙商標目録記載の商標(第4700298号。以下「原告商標」という。)の商標権(本件商標権)を有している。 (5) 被告標章 被告商品には、別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)が付されている。 (6) 被告らの行為 ア 被告らは、被告商品を製造し、平成21年11月26日、被告商品のうち「CR松方弘樹の名奉行金さんXX」という機種を発売し、平成22年2月、「大当たり率」等の一部スペックのみを変更した「CR松方弘樹の名奉行金さんZZ」という機種を発売した。 イ 被告サンセイは、平成22年4月16日、被告商品の完売を通知した。 (7) 仮処分 ア 原告東映は、被告らに対し、平成2 1年1 2月28 日、著作権侵害を理由として、被告部品の交換又は提供の仮の差止めを求める仮処分を申し立て(当庁平成21年(ヨ)第22087号)、当庁は、平成2 3 年6 月1 7 日、 原告東映の申立てを認める決定をした( 甲113)。 イ 被告らは保全異議を申し立てた(当庁平成23年(モ)第40024号)が、当庁は、平成23年12月2日、上記仮処分決定を認可する決定をした(甲114)。 ウ 被告らは保全抗告を申し立てた(知財高裁平成24年(ラ)第10001号)が、知的財産高等裁判所は、平成24年3月16日、被告らの抗告を棄却する決定をした(甲115)。 (8) 無効審判 被告サンセイは、平成20年5月14日、「名奉行金さん」と標準文字で表記した標章を、指定商品を第28類「遊戯用器具」として商標出願し、平成21年2月6日登録を受けていたところ、原告東映が無効審判を請求し、特許庁は、平成22年4月5日、上記商標は原告商標と類似し、商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるとして、当該商標を無効とする審決をした(無効2009−890079号。甲97)。 被告サンセイは審決取消訴訟を提起したが、知的財産高等裁判所は、平成23年2月28日、被告サンセイの請求を棄却する判決をし(知財高裁平成22年(行ケ)第10152号。甲98)、最高裁判所は、平成24年2月9日、被告サンセイの上告を棄却し、本件を上告審として受理しない旨の決定をした(最高裁平成23年(行ツ)第183号、平成23年(行ヒ)第187号。甲116)。 第3 争点 1 著作権侵害の成否 2 商標権侵害の成否 2−1 被告標章を商標的に使用したといえるか 2−2 原告商標と被告標章の類否 2−3 原告商標の商標法4条1項7号違反(公序良俗違反)による無効理由の存否 3 差止請求の可否 4 損害賠償請求の可否及び損害額 4−1 被告らの著作権侵害の故意過失 4−2 原告東映の著作権法114条2項に基づく請求の可否 4−3 原告BFKの著作権法114条2項に基づく請求の可否 4−4 原告大一商会の著作権法114条2項に基づく請求の可否 4−5 原告東映の商標法38条2項に基づく請求の可否 4−6 原告BFKの商標法38条2項に基づく請求の可否 4−7 原告大一商会の商標法38条2項に基づく請求の可否 4−8 被告商品の販売数量及び利益率 4−9 原告著作物の寄与率 4−10 原告商標の寄与率 4−11 弁護士費用 第4 争点に関する当事者の主張 1 争点1(著作権侵害の成否)について (原告らの主張) (1) 映画の著作物における類似性の判断基準 劇場用映画やテレビドラマといった映画の著作物は、プロデューサーの統括の下、脚本家、監督、カメラマン、照明技師、録音技師、デザイナー等々多くの者の共同作業により製作される総合芸術であり、そこで発揮される創作性は極めて多様なものである。だからこそ、映画の著作物における著作者の認定は、著作権法16条により、「映画の全体的形成に創作的に関与した」か否かという基準で判断されることになっている。 したがって、著作権侵害を判断するにあたっても、映像として表現されている限り、その創作性は極めて多様な形で発揮されていることを前提に、その表現に表れている様々な要素を総合的に考慮して、全体として(全ての要素が結実した映像として)類似性があるかを判断すべきである。 (2) 原告著作物と被告映像の類似性 ア 被告金さん物語映像の全体のストーリー構成の類似性 以下のとおり、被告金さん物語映像は、原告松方映像6−1において表れる物語の全体のストーリー構成とほぼ同じである。
以上のとおり、被告金さん物語の構成は、原告松方映像6−1の物語の構成と共通のストーリー構成をしており、原告松方映像6−1の物語の構成と非常に類似している。 イ 立ち回りシーンについて 被告映像のうち、被告立ち回りリーチ映像及び被告金さん物語映像のNo.31〜No.33は、原告松方映像6−1における立ち回りのシーンと類似している。 被告立ち回りリーチ映像と原告松方映像6−1との類似点は、別紙比較対照表1の@のとおりである。 被告金さん物語映像のNo.31〜No.33と原告松方映像6−1との類似点は、別紙比較対照表1のAのとおりである。 ウ お白州シーンについて 被告映像のうち、被告白州リーチ映像及び被告金さん物語映像のNo.40〜No.45は、原告松方映像6−1におけるお白州のシーンと類似している。 被告白州リーチ映像と原告松方映像6−1との類似点は、別紙比較対照表1のBのとおりである。 被告金さん物語映像のNo.40〜No.45と原告松方映像6−1との類似点は、別紙比較対照表1のCのとおりである。 エ 被告掛け声演出について 被告商品において、「リーチ」が外れた場合で、「遠山の金さん」の肖像がスロットの真ん中のリールに表示されたとき、松方弘樹演じる遠山奉行の声で「おうおうおう!」という掛け声が掛かり、改めてリーチが継続されることになる(以下「被告掛け声演出」という。)。 被告掛け声演出は、松方弘樹演じる遠山奉行による江戸言葉で威勢の良い「おうおうおう!」という掛け声であるが、原告松方映像6−1においても、お白州のシーンにおいて、松方弘樹演じる遠山奉行による江戸言葉で「おうおうおう!」という掛け声が出されており、その台詞のみならず、具体的な台詞回しにおいてもほぼ同じものとなっている。 オ 被告くのいちリーチ映像について 被告くのいちリーチ映像においては、生稲晃子演じる「お蝶」が「くのいち(女忍者)」の格好をした際の映像が映っているが、これは原告松方映像6−1において登場する女性キャラクター「お紺」の映像と類似している。 被告くのいちリーチ映像と原告松方映像6−1との類似点は、別紙比較対照表1のDのとおりである。 カ 被告プロモーション映像について 被告商品下部のパチンコ球を受ける箱の上部に「PUSH」というボタンがあり、被告商品をパチンコ遊技に使用していない状態でこのボタンを押した場合、1分程度のプロモーション映像(以下「被告プロモーション映像」という。)が流れる。 被告プロモーション映像は、被告映像全体の中から、最も盛り上がる立ち回りのシーン及びお白州のシーンを中心に短時間の一つのファイルにまとめたものであり、前述した原告松方映像6−1における立ち回りシーン及びお白州シーンと類似した映像を多く用いている。 キ お白州シーンにおける証人の懇願について 被告白州リーチ映像において証人が「金さん」の呼出しを懇願するシーンは、原告松方映像2−22のお白州のシーンと類似している。その類似点は、別紙比較対照表2の@のとおりである。 また、被告白州リーチ映像において悪党らが言及している「金次」との名前は、本件金さんシリーズにおいて「金さん」の名前として従来から用いられているものであり、この点においても非常に類似している。 ク お白州シーンにおける遠山奉行の衣装について 被告白州リーチ映像において遠山奉行が着ている衣装は、原告松方映像(女ねずみ)2−1において遠山奉行が着用している衣装と類似している。その類似点は、別紙比較対照表2のAのとおりである。 ケ 松方弘樹の演技について 被告らは、松方弘樹の演技は、著作権侵害を基礎づけないと主張する。しかし、実演家の実演をどのような演出、美術、カメラワークの下で録画し、映像として実現していくかについては、映画の著作物の著作者(著作権法16条)が関与し、著作者が映画の著作物の製作に関与することを約束しているときは、映画製作者において映画の著作物の著作権が帰属するものである(同法29条1項)。被告らの主張は失当である。 コ 以上のとおり、原告松方映像6−1と被告映像は、主要な登場人物、基本的ストーリーが極めて類似していることに加え、場面・セット、衣装のみならず、台詞や台詞の言い回し、立ち回りシーンやお白州の各映像の細部においても極めて類似している。これらの共通点は、全体として一定程度のまとまりをもった著作物として著作者の個性が表れており、創作性が認められる。 サ そして、原告松方映像6−1を視聴したことのある一般人が被告映像に接すれば、被告映像は、原告松方映像6−1をパチンコに商品化したもので、パチンコに商品化するにあたり、一部のストーリーを変えたものと容易に認識できる程度に、基本的ストーリー、主要な出演者を含む登場人物や細かいストーリーと台詞や台詞の言い回し、各映像の細部の具体的表現等が共通であり、あるいは類似していることからすれば、原告松方映像6−1の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。 (3) 依拠性 本件金さんシリーズは1950年代から現在まで連綿と公開又は放送され、特に本件松方作品は10年もの長期間放映されてきていることから、一般に広く認識されている。被告映像は、本件金さんシリーズが始まって一般に広く知られた後に製作されており、かつ、本件金さんシリーズの特徴的部分と被告映像の特徴的部分とはほぼ同一である。したがって、被告らが本件金さんシリーズに依拠して被告映像を著作したことは明らかである。 (4) 以上によれば、被告映像は原告著作物の著作権(複製権、翻案権)を侵害したものである。 (被告らの主張) (1) 映画の著作物における類似性の判断基準について 著作権法は、創作的な表現を保護するものであって(著作権法2条1項1号参照)、アイデアや事実など表現それ自体でない部分や表現上の創作性がない部分を保護するものではない。しかるに、個別的な判断を排して専ら全体的考慮によって判断すると、表現それ自体でない部分、又は表現上の創作性のない部分において類似するのみであるのに、そのような類似点が集積した全体について創作性があると判断されかねず、著作権法の保護対象外の部分における類似に基づき著作権侵害が認められるおそれが生じる。それゆえ、著作権法の保護対象外の部分を除外して保護範囲を正しく画定する上で、表現を分離・分節して個別的に判断することは必要かつ正当である。 そして、映画の著作物における創作性は、カメラワークの工夫、モンタージュ、カット等の手法、フィルム編集等の知的活動にあるから、映画の著作物の表現上の類似性が認められるには、カメラワーク等における同一性・類似性がなければならない。 (2) 原告著作物と被告映像の類似性について ア 被告金さん物語映像の全体のストーリー構成の類似性について被告金さん物語映像と原告松方映像6−1それぞれのストーリーにおける人物設定、背景設定、事件の伏線等の設定は大きく異なるが、原告らが主張する全体のストーリー構成なるものは単なるあらすじであって、アイデア又は全体のコンセプトにすぎず、著作権法で保護される表現には該当しない。仮に、全体のストーリーが、表現に該当する余地があるとしても、小説や脚本等の原作の著作権の対象となる余地があるだけであり、少なくとも「映画の著作物」の著作権の対象ではない。 なお、原告らが述べるストーリー構成は、遠山金四郎を題材とした作品によく見られるありふれた表現にすぎない。 原告らの主張に対して詳細な反論はしないが、原告らによる被告映像に関する主張には誤りが多数散見されることを付言する(例えば、No.33の「役人にみつからないように立ち去る」という場面は、字幕のみの表示であり実際の様子は表現されていない点等)。 イ 立ち回りシーンについて (ア) 主要な登場人物 そもそも、遠山金四郎は実在の人物であり、かつ明治時代以降に多数の舞台、映画、書籍等に主役として登場していることからすれば、遠山金四郎を登場させることについて、原告東映が何らかの権利を主張できる余地はない。 また、遠山金四郎の登場自体は原作・脚本等で設定されているのであるから、原告松方映像に係る「映画の著作物」の著作権の対象となることはあり得ない。 したがって、松方弘樹が演じる遠山金四郎が登場することは、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 (イ) 場面・セット 悪党達が密談を行っている部屋に隣接する庭があること、この庭が建物や塀等に囲まれた内庭のようになっていることは、無数の作品に登場する極めてありふれたものであり、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 また、日本において時代劇を撮影することが可能なスタジオは、東映京都撮影所、東映太秦映画村、松竹京都撮影所、みろくの里、日光江戸村、ワープステーション江戸、庄内映画村、伊勢・安土桃山文化村と非常に限られている上、時代劇はその舞台設定が必然的に類似してくることから、上記のような密談場面の映像を撮影する場合、その映像はある程度類似せざるを得ない。なお、被告映像は、日光江戸村に存在するセットをそのまま利用して撮影されたものである。 このように、時代劇を撮影するためのスタジオが限定されていることから、部屋や庭の場面が類似せざるを得ない部分が生じるところ、仮に、原告松方映像6−1と被告映像における場面・セットが類似したとしても、庭の近くの部屋で密談をするというアイデアや原作、舞台セット自体は「映画の著作物」の著作権の対象外であるから、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 なお、原告らが主張するような場面・セットと類似する場面・セットは、過去にも第三者の作品にて使用されている。 (ウ) 衣装等 遠山金四郎が江戸の町人のような格好をした上で頬被りをし、また武士ではない者が手ぶらであることは、時代劇で至極当然に利用されるごくごくありふれた姿であり、遠山金四郎を扱った作品においても、そのような風体や頬被りの姿は多数描かれている。また、人物の衣装等自体は、「映画の著作物」の著作権の対象外である。 したがって、仮に、原告らが主張するような衣装が類似している部分があるとしても、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 なお、原告らが主張する風体・衣装と類似する風体・衣装は、過去にも第三者の作品にて使用されている。 (エ) ストーリー展開・台詞・演技等 ストーリー展開については、仮に創作的表現があってもそれは小説や脚本等の原作の著作権の対象であり、ストーリー展開自体が「映画の著作物」に係る著作権の対象となることはない。 また、原告らの主張するストーリー展開は、いずれもありふれたものである。 台詞は、仮に創作的表現があってもそれは小説や脚本等の原作の著作権の対象であり、台詞自体が、「映画の著作物」の著作権の対象とならない。 さらに、俳優の演技は、俳優の著作隣接権を根拠づける実演に係る創作的表現であるということはできても、「映画の著作物」の著作権侵害を基礎付けるものではない。とりわけ、本件松方映像6−1において、松方弘樹が演じる遠山金四郎が片肌を脱いで刺青を出す場面での演技は、松方によるオリジナルな演技であるから、当該演技自体ではなく、当該演技をいかなる照明の下でどのような角度からどのように撮影し、また撮影したフィルムをいかに編集するか等の点についての創作的表現の共通性があって初めて、「映画の著作物」の著作権侵害の有無の問題となるのである。 原告らの主張に対して詳細な反論はしないが、原告らによる被告映像に関する主張には誤りが多数散見されることを付言する(例えば、遠山金四郎が恍惚の表情をする表現、建物に上がり込む表現、部屋の中での戦いを繰り広げる表現等は、被告映像にはないという点等)。 (オ) 遠山金四郎が片肌を脱いで刺青を出すという映像表現 a 被告立ち回りリーチ映像と原告松方映像6−1について (両映像の内容の対比) 両映像における遠山金四郎が片肌を脱いで刺青を出すという映像表現を対比すると、次の表のとおりである(類似する部分に下線を付した。)。
(両映像の主な相違点) 被告立ち回りリーチ映像は、パチンコ機上の小さな画面において短時間表示するためのものであるため、全体として、金さんをできるだけ大きく映しており、原告松方映像6−1と被告立ち回りリーチ映像とでは、画面上の金さんの配置・構図・撮影方法・編集が異なるため、具体的な映像表現において相違している。 まずAについては、原告松方映像6−1では、金さんの右手・右袖が、終始、画面中央付近に映されるのに対し、被告立ち回りリーチ映像では、右手・右袖が、画面下端に映され、すぐに画面下方に消えてしまう。 Bについても同様に、原告松方映像6−1では、金さんの右手・右袖が、終始、画面中央付近に映されるのに対し、被告立ち回りリーチ映像では、右手・右袖が、画面下端に映され、すぐに画面下方に消えてしまい、画面上に映されるのは一瞬である。 Cについては、まず、被告立ち回りリーチ映像では、金さんが右手を拳にする様子が映されないという点において表現上の相違がある。また、原告松方映像6−1では、金さんの上半身全体が大きく躍動する様子が示されるのに対し、被告立ち回りリーチ映像では、金さんの肩から上が回転する様子が映されるに過ぎず、表現に大きな相違がある。 Dについては、刺青の柄が異なる上、両映像は、悪人の様子を映すシーンが挿まれるか否か、金さんの右肩を前方、右横、後方の3方向から大きくズームアップされるか否か、刺青の図柄がアップで映される回数、刺青の図柄に白いN字型の模様が入っているか否かで異なり、その具体的表現において相違する。 (類似する動作の創作性の有無) 上記のように、両映像においては、金さんの動作において一部類似する点がみられるが、いずれも原告松方映像6−1のみに認められる特有の創作性はないか、又は乏しい。 まずAについては、右手を右袖の中に入れる動作は、片肌を脱ぐために必要な行為であり、選択の余地がないため、当該動作に創作性はない。なお、このようなありふれた動作の類似例の一部として、「北町奉行」(乙10)、「江戸の華」(乙11)、「江戸のおらんだ囃子」(乙14)等がある。 次にBについては、右の片肌を脱ぐ際に、右手を襟元から出す動作は、ごく自然な動作であり、選択の余地がない上、手の甲が外を向くのは、身体の構造上必然的であり、選択の余地がないから、これらの動作に創作性はない。また、右手を襟元から出す際の右手の格好は、閉じて拳にするか、又は開くかの選択しかなく、選択の余地が乏しいため、当該動作に創作性は乏しい。なお、このようなありふれた動作の類似例の一部として、時代劇として、「北町奉行」(乙10)、「江戸の華」(乙11)、「大江戸桜吹雪」(乙13)等があり、また現代劇として、「昭和残侠伝」(乙16)、「日本やくざ伝 総長への道」(乙17)等がある。 また、着物の襟から手を開いて出す俳優の動作は、役者を描いた江戸時代の浮世絵や歌舞伎の「助六」の演技等からも明らかなように古くからありふれている。 さらにCについては、開いていた右手を閉じて拳にするか否かは、選択の余地が乏しい創作性の乏しい動作であり、また、右腕を大きく振り上げて振り下ろすという動作は、片肌を脱ぐために当然に必要な動作である。さらに、一旦後ろを向いた後に前に向いて振り下ろす動作は、その振り下ろしの動作を大げさにするためになされるありふれたものであるから、これらの動作に創作性はない。なお、このようなありふれた動作の類似例の一部として、「江戸の華」(乙11)、「江戸のおらんだ囃子」(乙14)、「江戸を斬るY」(乙15)等がある。 またDについては、刺青を入れた姿で静止しているだけであり、当該動作に創作性はない。なお、このようなありふれた動作の類似例の一部として、「北町奉行」(乙10)、「江戸の華」(乙11)、「大江戸桜吹雪」(乙13)等がある。 さらに、A〜Dを通して、金さんを写す場面のカメラワーク、照明や編集等の制作手法は、ごく一般的なものであり、原告松方映像特有の創作性は見いだせない。刺青をアップにする場面があるが、キーポイントとなる部分をアップにして写すことは、よく利用されるありふれた手法であって創作性はない。 b 被告金さん物語映像No.31〜No.33と原告松方映像6−1について 被告金さん物語映像No.31〜No.33は、刺青のアップの写しがない点及び特殊な画像処理が施されていない点を除き、被告立ち回りリーチ映像の対比部分と同様の映像表現である。 ウ お白州シーンについて (ア) 登場人物 立ち回りシーンにおける主張において述べたように、松方弘樹が演じる遠山金四郎が登場することは、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 (イ) 場面・セット 立ち回りシーンにおける主張において述べたように、時代劇を撮影できるスタジオが限定されているところ、時代劇の撮影における場面・セットには制約があり、かつ原告らが主張する建物の配置、侍の配置、額の有無、悪党や証人の座る位置は多くの作品にみられるありふれたものであるから、仮に、原告らが主張するように場面・セットが類似しているとしても、それは原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 なお、以下、原告らが主張する場面・セットと類似する場面・セットは、過去にも使用されている。 (ウ) 衣装等 立ち回りシーンにおける主張において述べたように、衣装が類似しているとしても、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 原告らが主張する衣装と類似する衣装は、過去にも使用されている。 (エ) ストーリー展開・台詞・演技等 立ち回りのシーンにおける主張において述べたように、仮に、原告らが主張するようなストーリー展開・台詞・演技等が類似しているとしても、いずれも「映画の著作物」の著作権の対象ではないのであるから、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 また、遠山金四郎がお白州の場で片肌を脱いで刺青を見せて裁く点や当該刺青の図柄が桜吹雪である点は、原告らが主張する本件金さんシリーズの最初の創作年度である1950年代よりも以前の明治・大正期・昭和初期から、遠山金四郎を題材とする歌舞伎、文献、映画などの作品において、既に多用されており、ありふれた表現である。 なお、ここでは、原告らによる主張に対して詳細な反論はしないが、原告らによる被告映像に関する主張には誤りが多数散見されることを付言する(例えば、遠山金四郎が長裃の裾を前に大きく蹴り出す表現等は、被告映像にはないという点等)。 (オ) 遠山金四郎が片肌を脱いで刺青を出すという映像表現 a 被告白州リーチ映像と原告松方映像6−1について (両映像の内容の対比) 両映像における遠山金四郎が片肌を脱いで刺青を出すという映像表現を対比すると、次の表のとおりである(類似する部分に下線を付した。)。
(両映像の主な相違点) 被告白州リーチ映像は、パチンコ機上の小さな画面において短時間表示するためのものであるため、全体として、金さんをできるだけ大きく映しており、原告松方映像6−1と被告白州リーチ映像とでは、画面上の金さんの配置・構図・撮影方法・編集が異なるため、具体的な映像表現において相違している。 まずAについては、原告松方映像6−1では、金さんの右手・右袖が、終始、画面中央付近に映されるのに対し、被告白州リーチ映像では、右手・右袖が、画面下端に映され、すぐに画面下方に消えてしまう。 Bについては、そもそも該当する映像がない。 Cについては、まず、被告白州リーチ映像では、開いた右手や金さんが右手を拳にする様子が映されないという点において表現上の相違がある。また、原告松方映像6−1では、金さんの上半身全体が大きく躍動する様子が示されるのに対し、被告白州リーチ映像では、金さんの肩から上が回転する様子が映されるに過ぎず、表現に大きな相違がある。 Dについては、被告白州リーチ映像では、原告松方映像6−1に比べて、金さんが大きく映され、また刺青のアップが映されないという点で、その具体的表現において相違する。 (類似する動作の創作性の有無) 上記のように、両映像においては、金さんの動作において一部類似する点がみられるが、先に被告立ち回りリーチ映像に関する主張において述べたことと同様に、いずれも原告松方映像6−1のみに認められる特有の創作性はないか、又は乏しい。 まずAについては、右手を右袖の中に入れる動作は、片肌を脱ぐために必要な行為であり、選択の余地がないため、当該動作に創作性は乏しい。 次にBについては、そもそも該当する映像がない。 さらにCについては、開いていた右手を閉じて拳にするか否かは、選択の余地が乏しい創作性の乏しい動作である。 また、右腕を大きく振り上げて振り下ろすという動作は、片肌を脱ぐために当然に必要な動作である。さらに、一旦後ろを向いた後に前に向いて振り下ろす動作は、その振り下ろしの動作を大げさにするためになされるありふれたものであるから、これらの動作に創作性はない。 またDについては、片肌を脱いで刺青を出した姿で静止しているだけであり、当該動作に創作性はない。 なお、上記一連の動作は、身体の右側を前面に向けて強調するようにも見えるが、仮にかかる強調がなされているとしても、右の片肌を脱ぐ際の動作としてありふれており、原告松方映像6−1のみに認められる特有の創作性はない。なお、このようなありふれた動作の類似例の一部として、「江戸の華」(乙28)、「江戸の夕顔」(乙29)、「江戸の一ばん星」(乙32)等がある。 また、上記一連の動作の背景に、襖の不規則な斜め縞模様が配されていること、動作中の金さんの衣装が長裃であること、終始金さんが画面の中心に映し出される構図であることなどは、遠山金四郎を題材とする作品でありふれており、原告松方映像6−1のみに認められる特有の創作性はない。 b 被告金さん物語映像No.40〜No.45と原告松方映像6−1について (両映像の内容の対比) 両映像における遠山金四郎が片肌を脱いで刺青を出すという映像表現を対比すると、次の表のとおりである(類似する部分に下線を付した。)。
(両映像の主な相違点) 被告金さん物語映像No.40〜No.45は、パチンコ機上の小さな画面において短時間表示するためのものであるため、全体として、金さんをできるだけ大きく映しており、原告松方映像6−1と被告金さん物語映像No.40〜No.45とでは、画面上の金さんの配置・構図・撮影方法・編集が異なるため、具体的な映像表現において相違している。 まずAについては、原告松方映像6−1では、金さんの右手・右袖が、終始、画面中央付近に映されるのに対し、被告金さん物語映像No.40〜No.45では、右手・右袖が、画面下端に映され、すぐに画面下方に消えてしまう。 Bについても同様に、原告松方映像6−1では、金さんの右手・右袖が、終始、画面中央付近に映されるのに対し、被告金さん物語映像No.40〜No.45では、右手・右袖が、画面下端に映され、すぐに画面下方に消えてしまい、画面上に映されるのは短時間である。 また、原告松方映像6−1では、金さんが襟元から出した右手の動きを胸元付近で短時間止める又は速度を緩めてから腰付近に下ろすのに対し、被告金さん物語映像No.40〜No.45では、金さんが襟元から出した右手の速度をほとんど変えずに腰元に下ろすという相違がある。さらに、襟元から右手を出すときの右手の位置が、原告松方映像6−1の方が被告金さん物語映像No.40〜No.45よりも少し高いという相違がある。 Cについては、まず、被告金さん物語映像No.40〜No.45では、金さんが右手を拳にする様子が映されないという点において表現上の相違がある。また、原告松方映像6−1では、金さんの上半身全体が大きく躍動する様子が示されるのに対し、被告金さん物語映像No.40〜No.45では、金さんの肩から上が回転する様子が映されるに過ぎず、表現に大きな相違がある。 Dについては、刺青の柄が異なる上、両映像は、カメラを数回連続して切り替え刺青の図のアップ映像を数回映す映像手法を採用するというアイデアを表現しているが、両映像は、悪人の様子を映すシーンが挿まれるか否か、刺青の図柄がアップで映される回数、刺青の図柄に白いN字型の模様が入っているか否かで異なり、その具体的表現において明確に相違する。 (類似する動作の創作性の有無) 上記のように、両映像においては、金さんの動作において一部類似する点がみられるが、先に被告立ち回りリーチ映像に関する主張において述べたことと同様に、いずれも原告松方映像6−1のみに認められる特有の創作性はないか、又は乏しい。 まずAについては、右手を右袖の中に入れる動作は、片肌を脱ぐために必要な行為であり、選択の余地がないため、当該動作に創作性はない。 次にBについては、右の片肌を脱ぐ際に、右手を襟元から出す動作は、ごく自然な動作であり、選択の余地がない上、手の甲が外を向くのは、身体の構造上必然的であり、選択の余地がないから、これらの動作に創作性はない。また、右手を襟元から出す際の右手の格好は、閉じて拳にするか、又は開くかの選択しかできず、選択の余地が乏しく、当該動作に創作性は乏しい。なお、右手を襟元から出す際に右手を開いた状態にしている類似例の一部として、「大江戸桜吹雪」(乙30)等がある。 さらにCについては、開いていた右手を閉じて拳にするか否かは、選択の余地が乏しい創作性の乏しい動作であり、また、右腕を大きく振り上げて振り下ろすという動作は、片肌を脱ぐために当然に必要な動作である。さらに、一旦後ろを向いた後に前に向いて振り下ろすことは、その振り下ろしの動作を大げさにするためになされるありふれた動作であるから、これらの動作に創作性はない。 またDについては、片肌を脱いで刺青を出した姿で静止しているだけであり、当該動作に創作性はない。 なお、身体の右側を前面に向けて強調する演技が他の作品にも見られありふれていること、上記一連の動作の背景にある襖の不規則な斜め縞模様、長裃という衣装、終始金さんが画面の中心に映し出す構図が、他の作品にも見られありふれていることは前述のとおりである。 エ 被告掛け声演出について 「おうおうおう」という台詞は、映画等のみならず日常生活でもよく使用されるありふれたものであり、それ自体創作的表現とならない。仮に創作的表現であると認められる余地があるとしても、その台詞は、原作に係る著作物の著作権の対象であって、「映画の著作物」の著作権の対象ではない。また、台詞回し自体は、松方弘樹の実演に係る著作隣接権の対象であって、「映画の著作物」の著作権の対象ではない。 したがって、原告らが主張するように台詞や台詞回しが類似しているとしても、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 オ 被告くのいちリーチ映像について くのいちが密偵の役目を負うことは、極めてありふれたアイデアにすぎず、創作的表現とはならない。仮に創作的表現であると認められる余地があるとしても、その人物設定自体は、原作に係る著作物の著作権の対象であって、「映画の著作物」の著作権の対象ではない。 また、本来御法度であるはずの目立つ格好(頬被りに赤い布をねじりこみ、服の裏地にも赤い布を配している)は、むしろ、くのいちの衣装としては一般的であり、くのいちが登場する第三者の作品においても用いられている。 したがって、仮に、原告らが主張するように、くのいちの役目や格好が類似しているとしても、原告松方映像6−1の著作権を侵害する理由とはならない。 カ 被告プロモーション映像について 前述のように、立ち回りシーンやお白州シーンにおいて、原告松方映像6−1の著作権侵害は認められない。 しかも、被告プロモーション映像においては、原告らが強調している町人姿の遠山金四郎が服を脱ぐ場面が存在しないし、またお白州のシーンはわずか1〜2秒である。 原告らは、原告プロモーション映像が、原告松方映像6−1の著作権を侵害すると主張するのであれば、具体的に侵害する場面を特定して主張すべきである。 キ お白州シーンにおける証人の懇願について 原告松方映像2−22と被告リーチ映像におけるお白州のシーンは、そもそもそこに登場する人物、台詞や台詞回し等の具体的表現が異なる。原告らが類似すると主張する部分は、いずれもストーリー展開に関するアイデアであり、それは創作的表現に該当しない。仮に創作的表現であると認められる余地があるとしても、ストーリー展開は、原作に係る著作物の著作権の対象であって、「映画の著作物」の著作権の対象ではない上、ありふれた展開である。 したがって、原告松方映像2−22の著作権を侵害する理由とはならない。 ク お白州シーンにおける遠山奉行の衣装について 衣装自体は、「映画の著作物」の著作権の対象ではない以上、原告松方映像2−1の著作権を侵害する理由とはならない。 (3) 被告映像から原告松方映像6−1の本質的特徴を直接感得できないこと 原告松方映像6−1と被告映像を比較対照表1の範囲で比較すると、原告らが類似であると主張する表現のうち、遠山金四郎が恍惚の表情をする表現、建物に上がり込む表現、部屋の中での戦いを繰り広げる表現、遠山金四郎が長裃の裾を前に大きく蹴り出す表現等は、被告映像には全く存在しないという相違がある。 さらに、両映像には、原告らが触れていない次のような相違がある。 例えば、原告松方映像6−1には存在する、立ち回りのシーンで女性(おキク)が悪人のもとを逃れ金さんの後ろに回り込む表現、遠山奉行がお白州で「許」と書かれた紙や証拠のかんざしを取り上げて示す表現、遠山奉行がお白州で女性(おキク)に証言させる表現、悪人がお白州から退席しようとする表現、立ち回りの回想シーンの挿入、お白州で悪人が刀を抜くが遠山奉行に払われて取り押さえられる表現等は、被告映像に全く存在しない。 他方で、被告映像には存在する、ホワイトアウト・オーバーラップや輝きを強調する画像処理(被告立ち回りリーチ映像・被告白州リーチ映像)、黒い空間で刀を振る表現や「桜十字」の文字の画像処理(被告立ち回りリーチ映像)、立ち回りの際に金さんに助太刀(正吾)が入る表現(被告金さん物語映像No.32)、立ち回りの最後に金さんが悪人に逃げられる表現(被告立ち回りリーチ映像)、お白州で女性が刃物で自分の喉を突こうとする表現(被告金さん物語映像No.43)、字幕の画面や静止画の挿入(被告金さん物語映像。特にNo.31〜32、及びNo.41〜43は大部分が静止画)等は、原告松方映像6−1に全く存在しない。 このように比較対照表1の範囲に限っても、多岐にわたる相違があることから、被告映像は、その全体から受ける印象が原告松方映像6−1から受ける印象と異なり、被告映像に接する者が、原告松方映像6−1の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない。 一部類似している部分があるとしても、類似する部分の原告松方映像6−1の表現には創作性が認められないから、被告映像に接する者が、原告松方映像6−1の類似部分の本質的特徴を感得するということはない。 (4) 依拠性がないこと 被告映像は、被告らが独自に創作した原作に基づき、被告らが独自に本件カメラワーク等の創作的表現を加えて映画化したものであるから、他の著作物に対する依拠性はない。 松方弘樹の片肌を脱ぎ刺青を見せる演技については、松方は、原告松方映像6−1(第6シリーズ第1話)の製作以前にも同様の演技を行っており、原告松方映像6−1が当該演技と同様の演技を映像化した最初の映像表現でないことは明白であるから、少なくとも原告松方映像6−1への依拠は認められない。 遠山金四郎を題材とする作品については、過去の小説等により物語の基本的パターンが確立されているため、原著作物たる原作・脚本等はいずれも似通ったストーリー、人物設定となるのが通常である。また、場面・セット、衣装等については、原告松方映像6−1で用いられている場面・セット、衣装等が、いずれも時代劇でよく見られるありふれたものであるから、仮に類似が認められたとしても、依拠性の肯定には全く結びつかない。 (5) 以上によれば、被告映像が原告著作物の著作権(複製権、翻案権)を侵害していないことは明らかである。 2 争点2(商標権侵害の成否)について (1) 争点2−1(被告標章を商標的に使用したといえるか)について (原告らの主張) 被告らは、「金さん」のキャラクターを表示するものやパチンコ機上の映像著作物の題号として被告標章を使用しているのではなく、パチンコ機の商品名として被告標章を使用している以上、商標的使用に該当することは明らかである。 (被告らの主張) 被告商品に接したパチンコホールや遊技者は、被告標章について、遠山金四郎の作品・物語を題材とするタイアップ機であることを表すために用いられたものと認識し、被告商品の出所を想起することはないといえる。 被告商品に付された「名奉行金さん」は、標章の付された商品に内蔵された著作物の題号というべきであり、商標的使用を否定するべきである。 被告商品に「松方弘樹の名奉行金さん」の文字が付されていることをパチンコホール関係者や遊技者が視認する場合には、「金さん」のキャラクターを松方弘樹が演じることを表示するものと認識するといえる。「金さん」のキャラクターが特定の営業主体を想起させるものではなく、自他商品の識別標識として認識されることはない。 そうすると、被告標章が自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられているものとはいえないから、被告標章の使用は、商標としての使用に当たらない。 (2) 争点2−2(原告商標と被告標章の類否)について (原告らの主張) ア 商品の同一性 本件商標権の指定商品は第28類「遊戯用器具」を含み、被告商品は遊戯用器具である。したがって、被告商品は、本件商標権の指定商品である「遊戯用器具」と同一の商品である。 イ 原告商標と被告標章の類似性 (ア) 被告標章の要部 被告標章は、「CR松方弘樹の」、「名奉行」、「金さん」という筆書きの字体が3行にわたって配され、「CR松方弘樹の」が「名奉行」よりも約2分の1、「金」よりも約4分の1の大きさで表された標章である(但し、「CR松方弘樹の」と「さん」は同じ大きさである。)。 この点、被告標章は、「CR松方弘樹の」の文字と「名奉行」の文字、「金さん」の文字とが3行にわたって配されていることから、「CR松方弘樹の」の文字部分と「名奉行」、「金さん」の各文字部分とは外観上不可分一体ではなく、それぞれが独立して認識されるものといえる。また、「CR松方弘樹の」の文字部分と「名奉行」、「金さん」の文字部分の大きさが上記のとおり異なり、「CR松方弘樹の」の文字部分が「名奉行」、「金さん」の文字部分に比して小さく表されていること、さらに、「CR松方弘樹の」の文字部分は、松方弘樹氏による「名奉行金さん」のCR機(プリペイドカードに対応したパチンコ遊技機)であることを説明しているにすぎないことを併せ考えると、少なくとも「CR松方弘樹の」にかかる部分に自他商品識別力は認められない。 したがって、被告標章において、少なくとも「CR松方弘樹の」は要部でなく、要部は「名奉行金さん」の文字部分にあるといえる。 (イ) 外観、称呼、観念 原告商標は、「遠山の金さん」の文字を標準文字で表してなるものであり、氏姓「遠山」と愛称の「金さん」とを格助詞「の」をもって連結したものと容易に認識させるものである。一方、被告標章の要部は、「名奉行金さん」の文字部分であり、「名奉行」と「金さん」とを組み合わせたものと容易に認識し得るものであるところ、原告商標と被告標章は「金さん」という外観において共通する。 また、原告商標は、「トオヤマノキンサン」の称呼が生じる。一方、被告標章は、「メイブギョウキンサン」の称呼が生じるところ、原告商標と被告標章は「キンサン」という称呼において共通する。 さらに、遠山金四郎は、江戸時代後期に江戸町奉行等を歴任した実在の人物であるが、遅くとも明治時代中期より歌舞伎、小説、映画、テレビ時代劇を通じて、「遠山の金さん」などと称呼されて大衆に親しまれており、下情に通じた名奉行という人物像が広く一般に認識されている。このように、原告商標は極めて高い周知著名性を有することから、原告商標から「歴史上の人物である『遠山金四郎』、及び時代劇等で演じられる『名奉行として知られている遠山金四郎』」の観念が生じる。一方、被告標章からも、「歴史上の人物である『遠山金四郎』、及び時代劇等で演じられる『名奉行として知られている遠山金四郎』」の観念が生じる。したがって、原告商標と被告標章は、「歴史上の人物である『遠山金四郎』、及び時代劇等で演じられる『名奉行として知られている遠山金四郎』」という観念を生じる点において共通である。 (ウ) 取引の実情 原告商標及び被告標章は、主としてパチンコ機等において使用されているところ、パチンコ機等の取引者、需要者は、製造業者、遊技場営業者(パチンコホール)、販売代理店(代行店)、ゲームセンター及び中古品販売業者などのほか、中古品等を売買する個人も含まれる。また、パチンコ業界では、近年、「版権モノ」又は「タイアップ機種」と呼ばれるパチンコ機の人気が高まり、テレビアニメ、テレビドラマ、映画、漫画等のキャラクターを使用する例が少なくない。そして、パチンコ機等の大部分は、遊技場(パチンコホール)に設置され、遊技者はパチンコ機等を売買することはないが、パチンコ機等に付された商標によりパチンコ機等の出所を認識、識別した上で利用するのが通常であり、また、遊技者の嗜好や人気が遊技場営業者(パチンコホール)や販売代理店(代行店)がどの機種を取り扱うかということに大きく影響するから、被告サンセイから被告標章が付されていることを認識の上で被告商品を直接購入する遊技場営業者の認識のみならず、遊技者の認識等をも考慮して、商標の類否を判断することが合理的である。 原告商標が付された原告大一商会のパチンコ機と被告商品の販売時期がずれていたとしても、同一又は類似の商標を使用すれば、商標権者が関与する商品の販売が再開されたか、又はその関連商品(シリーズ商品等)の発売が開始されたという誤認混同が生じるおそれは極めて高い。 被告商品にメーカー名が使用されているとしても、被告標章が使用されている被告商品に接した需要者は、商標権者である原告東映の許諾が得られていると誤認混同するおそれは非常に高い。 (エ) 小括 以上のとおり、「金さん」という点において称呼、外観が共通していることに加え、観念の同一性、及び取引の実情を踏まえると混同のおそれが大きいことを考慮するならば、原告商標と被告標章は類似していることは明らかである。 (被告らの主張) ア 商品の同一性は認める。 イ 原告商標と被告標章の類似性 (ア) 外観、称呼及び観念が全て異なること 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されない(最高裁昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁[リラ宝塚事件]、最高裁平成5年9月10日判決・民集47巻7号5009頁[SEIKO EYE事件]、最高裁平成20年9月8日判決・判時2021号92頁[つつみのおひなっこや事件])。 被告標章は、「CR松方弘樹の名奉行金さん」という筆書きの字体が同時に、かつ分離されることなくまとまりよく一体に組み合わされた外観であり、その外観全体から「シーアールマツカタヒロキノメイブギョウキンサン」との称呼を生じ、また、「松方弘樹が演じる名奉行の遠山金四郎」「松方弘樹が演じる名奉行として知られる遠山金四郎」などの観念を生じる。 他方、原告商標は、「遠山の金さん」の文字を標準文字で表したものであるところ、「トオヤマノキンサン」との称呼を生じ、また、「遠山金四郎」の観念を生じる。 それゆえ、被告標章と原告商標は、外観において「金さん」の文字が、称呼において「キンサン」が、観念において「遠山金四郎」が共通するのみであり、外観、称呼及び観念が全て異なるのであり、被告標章と原告商標は非類似であるといえる。 (イ) パチンコ機に係る取引の実情等に照らしても誤認混同のおそれがないこと 以下のとおり、被告商品の取引の実情によれば、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないため、被告標章と原告商標を類似商標と解することはできない。 a 特定業者間で取引されること 被告標章が付された被告商品は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下「風営法」という。)2条1項7号に基づき運営されるパチンコホールにおける営業(いわゆる「パチンコ営業」)に供されることを目的とした、プリペイドカード対応のパチンコ機(いわゆるCR機)であるところ、パチンコ営業に供される遊技機は、国家公安委員会規則で定められた基準に則ったものでなければならず、かつその型式の遊技機が同法や同規則に定める規格に適合している旨の検定を受けるなど(風営法20条)、その内容について厳しい規制の下で製造販売されている。 そして、パチンコ機の取引者・需要者は、パチンコホール及び販売代理店(代行店)というパチンコ機を専門的に扱う特定の業者に限られている。しかも、当該業者は、種々の風俗営業関係行政に対応することが義務づけられており、メーカー名・機種名等の確認を慎重に行うため、パチンコ機を取引する際に出所の誤認混同など生じる余地がない。 単なる遊技者については、パチンコ機の流通及び購入に関与しないので、その認識を考慮するべきではなく、また、仮に考慮するとしても、単なる遊技者は、パチンコ機のスペック、ゲーム性、外観やパチンコホールにおける設置状況等により自他商品を容易に識別できるため、誤認混同は生じ得ない。 b 販売時期が異なること 被告標章が付された被告商品は、平成21年11月に大手パチンコホールへのプレゼンテーション、代行店説明会、展示会、テレビコマーシャル放映等の販売促進活動を開始し、平成22年1月の販売開始から同年3月10日の最終出荷日まで約2か月間販売されていたものであるが、原告商標が付された原告大一商会のパチンコ機「CR遠山の金さん」は平成21年4月に販売が終了しており、原告大一商会が「CR遠山の金さん」の第2弾として発売したという「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は平成23年6月に販売開始されたというのであり、被告商品と「CR遠山の金さん」、「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は、販売促進活動を含め販売時期が全く重ならないことから、両者の間で誤認混同が生じることはない。 c 外観が異なること 被告商品と「CR遠山の金さん」及び「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は、実機正面にそれぞれ「SanseiR&D」、「DAIICHI」等とメーカー名が大きく明記されており、盤面に掲載された俳優が異なるなどその外観も一見して異なる。 しかも、パチンコホールの関係者等は、メーカーが新機種の販売にあたって開催する発表会・展示会等の販売促進活動を通じ、外観を含め当該機種に関する詳細かつ豊富な情報を得た上、当該機種に対する識別力が極めて高い状態で取引に臨む。 したがって、仮に被告標章と原告商標が紛らわしいとしても、そのために誤認混同が生じることはない。 (3) 争点2−3(原告商標の商標法4条1項7号違反の有無)について (被告らの主張) 原告商標は、「遠山の金さん」の文字を標準文字により表してなるものであるところ、これは我が国で周知・著名な歴史上の人物である遠山景元(通称は金四郎)を容易に認識させるものである。「遠山の金さん」が商標として登録・使用されていることで、「遠山の金さん」以外の遠山金四郎の人物名を利用して公益的な施策等の遂行を阻害し、公共的利益を損なう危険性が多分に存する。したがって、原告商標のようなものを商取引に使用する商標として、一民間企業である原告東映に商標登録を認めることは妥当でない。また、原告東映には、歌舞伎・小説等を通じて我が国に定着していた「遠山の金さん」のキャラクターのもつ信用力や顧客吸引力に便乗し、指定商品について独占する目的もあったと考えられる。原告商標は、遠山金四郎の著名性に便乗する行為であって、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するおそれがある商標に該当するものといわざるを得ない。 したがって、原告商標は、商標法4条1項7号に該当し、46条1項1号又は5号により無効となるべきものであるから、39条、特許法104条の3により、その権利を行使することができない。 (原告らの主張) 商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。 原告商標は、その構成自体が公序良俗に反するものではなく、その出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものもなく、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないようなものでもない。 歴史上の人物としての「遠山金四郎」は江戸時代の旗本で、天保年間に江戸北町奉行、南町奉行を務めた人物であるが、原告商標は「遠山金四郎」ではなく、「遠山の金さん」の文字からなるものであること、原告東映が制作した本件金さんシリーズが30年以上にわたってテレビで放映された結果、「遠山の金さん」というときには、歴史上の人物としての「遠山金四郎」ではなく、原告東映の制作にかかる本件金さんシリーズの主人公又はタイトルとしての「遠山の金さん」を想起・連想することが圧倒的に多いと思われること、歴史上の人物としての「遠山金四郎」を説明・記述する際に「テレビでお馴染みの」というように、原告東映の制作にかかる本件金さんシリーズが引き合いに出される場合が少なくないこと、原告東映は、自らが制作した人気テレビドラマを題材とした商品化事業を円滑に展開するに当たって当該ドラマの主人公又はタイトルである原告商標を出願したのにすぎず、そこに歴史上の人物名が有する顧客吸引力に便乗するような不正な目的はないこと、当該ドラマの主人公のモデルとなった遠山金四郎も「テレビドラマ(時代劇)『遠山の金さん』のモデルとして知られる」のように紹介されるなど、遠山金四郎の声望、功績を今日に伝えるうえで本件金さんシリーズが多大な貢献をしたものであることなどを総合的に考慮すれば、原告商標が、その出願の経緯や目的に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するような場合に当たるということはできない。また、原告において、遠山金四郎に関する公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果になることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってしたものということもできない。その他、原告商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標として7号に該当するものというべき理由は何ら見いだせない。 3 争点3(差止請求の可否)について (原告らの主張) (1) 被告映像は原告著作物の複製又は翻案であるから、被告らが原告東映に無断で被告映像の内蔵された被告商品を製造・販売する行為及び被告部品を交換又は提供する行為は、原告著作物について原告東映の有する複製権又は翻案権を侵害する。 被告サンセイは、平成22年4月16日に被告商品の完売宣言を告知しているが、被告らが被告部品を修理等の際に交換又は提供するといったことが行われる蓋然性が高い。 したがって、原告東映は、著作権法112条1項に基づき、被告部品の交換又は提供の差止めを求める。 (2) 被告らが被告標章を被告商品に付して販売等する行為は、原告東映の本件商標権を侵害する。 したがって、原告東映は、商標法36条1項に基づき、被告部品の交換又は提供の差止めを求める。 (被告らの主張) (1) 被告商品は、平成25年1月27日をもって「CR松方弘樹の名奉行金さんXX」、「CR松方弘樹の名奉行金さんZZ」ともに、全ての都道府県で検定有効期間が終了した。そのため、被告らは、平成25年2月19日までに、被告部品を含む被告商品専用の補修用部品を全て廃棄した。 したがって、被告部品に係る原告東映の差止請求は、「著作者人格権、著作権……を侵害する者又は侵害するおそれ」(著作権法112条1項)及び「自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれ」(商標法36条1項)が認められる余地がないから、棄却されるべきである。 (2) 原告東映は、被告商品の製造販売が商標権侵害であると主張しながら、被告部品についての差止めを求めているが、その法的根拠が不明である。 4 争点4(損害賠償請求の可否及び損害額)について (1) 争点4−1(被告らの著作権侵害の故意過失)について (原告らの主張) ア 被告第一通信社は、「松方弘樹の名奉行金さん2009」と題するDVD(以下「本件DVD」という。)を企画、製作し、販売する予定であったが、 中止した。平成1 9 年に、 後に本件D V D のプロデューサーとなるA@及び監修者となるAAが、原告東映に対し、本件DVDを製作、販売し、その映像を用いてパチンコ機を製作、販売する企画(以下「本件企画」という。)について許諾を求め、原告東映は当該申出を明確に断ったにもかかわらず、被告らは、原告らの関知しないところで、本件企画を強行し、本件DVDの製作及び被告商品の製造に至っている。 イ その後、原告東映が被告らに対して本件企画の中止を求めたところ、平成21年8月26日を初回とし、その後数度にわたって被告第一通信社と原告東映とで協議を行った際、被告第一通信社は平成21年10月26日付けで「『「名奉行金さん」著作権侵害に対する考え方』について」と題する書面( 甲5 7 ) を作成しているが、 同表題には「著作権侵害」という文言が記載されていることから、同書面の作成者である被告第一通信社が権利侵害の認識を有していたことは明らかである。 その後も和解交渉はまとまらず、原告東映は平成21年12月28日に仮処分を申し立てたが、被告らは被告商品の発売(「CR松方弘樹の名奉行金さんXX」につき平成21年11月26日、「CR松方弘樹の名奉行金さんZZ」につき平成22年2月上旬)を強行し、仮処分手続においても、仮処分の決定を引き延ばして被告商品を完売させてしまうことを図っているとしか思えない対応に終始した。 ウ これらの経緯をもってすれば、本件において被告らには本件企画当初より一貫して権利侵害の認識があることは明らかであり、かつ、かかる認識を有しながら被告商品の販売を強行したのであるから、故意又は少なくとも重大な過失があることは明白である。 (被告らの主張) ア 被告映像は、被告らが独自に創作した原作を被告らが独自に映画化したものであるから、被告らは、被告商品の製造販売にあたって、被告映像が原告東映の著作権を侵害するものであるという認識・予見が皆無であり、かつかかる認識予見は不可能であった。したがって、仮に被告映像が原告東映の著作権を侵害するものであるとしても、被告らには著作権侵害に係る故意・過失はなかった。 イ 被告らは、被告商品の製造販売について、AAを通じて原告東映の意向を確認したことはあったが、権利の許諾など求めていない。そもそも著作権について、原告東映から何らの言及もなかった。むしろ、平成20年7月ころ、被告らは、AAを通じ、原告東映に対して「松方弘樹の遠山金四郎」と題する映画の撮影のために使用することを申請し、その対価を支払った上で、原告東映から松方弘樹が演じる遠山金四郎の衣装の貸出しを受けており、原告東映は、被告映像について著作権侵害の認識を有しておらず、むしろ実質的に許諾していたに等しい。 ウ 被告らが著作権侵害を認める旨の発言・書面作成・提案をしたことはない。平成21年10月26日付「『名奉行金さん』著作権侵害に対する考え方」と題する文書( 甲5 7 ) については、 原告東映から「著作権侵害事件に関して」という表題の書面を作成してほしいとの要望があったことから、原告東映との紛争・対立を避ける目的で作成されたものである。 (2) 争点4 −2 〜争点4 −4 (原告らの著作権法1 14 条2 項に基づく請求の可否)について (原告らの主張) ア 原告東映は、自ら侵害品と競合する商品を販売していないとしても、著作権法112条2項の文言上、競合関係は要件とされていないから、同項に基づく損害賠償を請求できる。 仮に、競合関係を必要と解するとしても、原告らは商品化権契約を通じて一体の関係にあるため、原告東映(及び原告BFK)について、著作権法114条2項が適用される。 イ 原告BFKは、原告東映との間で平成16年6月7日付け契約など(甲28〜31、104、105)を締結し、もって、原告東映から、本件金さんシリーズのキャラクター及びその名称、映像等を使用し、ぱちんこ遊技機及び回胴式遊技機を製造、販売する独占的な商品化権の許諾を受けている。 ウ 原告大一商会は、原告BFKとの間の平成16年6月11日付け商品化権使用許諾契約書など(甲32〜36、106、107)に基づき、本件金さんシリーズのキャラクター及びその名称、映像等を使用して、ぱちんこ遊技機等を製造、販売する独占的な商品化権の再許諾を受けている。 原告大一商会は、平成20年にパチンコ機「CR遠山の金さん」を、平成23年6月にはその第二弾である「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」の発売を開始した。 エ 著作権の独占的利用権者は、第三者に営業妨害など明らかに不当な目的があるか否かを問わず、固有の権利として損害賠償請求ができると解するべきである。 原告らはいずれも著作権法114条2項に基づく損害の賠償を求めることができ、原告らの債権は連帯債権の関係に立つ。 (被告らの主張) ア 原告東映の著作権法114条2項に基づく請求が認められないこと 著作権法114条2項は、売上げ減少による逸失利益額の推定規定であるから、著作権者自ら侵害品と競合する製品を販売していない場合、同項は適用されない。 原告東映、原告BFK及び原告大一商会は、あくまで別の法的主体であり、仮に、原告大一商会が被告らと競合する製品を販売したとしても、原告東映が当該製品を販売したことにはならない。 仮に原告らの間で何らかの使用許諾がなされているとしても、原告東映・原告BFK間の契約書(甲28〜31、104、105)によれば、許諾の対象は、本件金さんシリーズのうち橋幸夫主演のテレビ映画「ご存じ金さん捕り物帳」及び杉良太郎主演のテレビ映画「遠山の金さん」のみであり、さらに、前者の「ご存じ金さん捕り物帳」に関する使用許諾契約は、平成21年6月10日をもって終了(甲30)しているため、被告商品の販売開始(平成22年1月)以降に許諾があったと解する余地のある対象は、後者の杉良太郎主演の「遠山の金さん」のみである(甲31)。そして、原告らの主張によっても、原告大一商会が遠山金四郎を題材とする杉良太郎主演のパチンコ機(「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」)の販売を開始したのは、被告商品の販売から1年以上が経過した平成23年6月であり、それ以前に杉良太郎主演の「遠山の金さん」を使用した事実はない。 したがって、少なくとも被告商品が製造販売されていた間については、原告らが一体として著作権を保持・使用していたということはできない。 さらに、平成24年1月ころ、原告大一商会の製品からの不具合が発生したことが原因で、原告大一商会は、「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」の全品回収を目指すこととなったため(乙44)、「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」に関し、原告らが、被告商品の製造販売により売上げ阻害などいかなる損害も被るということは考えられない。 そもそも、原告大一商会のパチンコ機「CR遠山の金さん」「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は、被告商品とスペック、ゲーム性、登場する俳優その他映像内容等が異なるから、両パチンコ機は競合しないのであり、著作権法114条2項の適用を肯定する理由にならない。 したがって、原告東映に著作権法114条2項に基づく損害が認められないことは明白である。 イ 原告 BFKの著作権法114条2項に基づく請求が認められないこと 上記アのとおり、仮に原告らの間で何らかの使用許諾がなされているとしても、その許諾の対象は、本件金さんシリーズのうちテレビ映画「ご存じ金さん捕り物帳」・「遠山の金さん」の2作品に係る権利のみであり、さらに被告商品の販売開始以降に許諾があったと解する余地のある対象は、後者の杉良太郎主演の「遠山の金さん」のみである(甲31)。 したがって、原告BFKは、原告著作物を含む本件金さんシリーズの著作権に係る独占的利用権など有しないのであり、損害賠償請求の請求適格がない。 仮に、原告BFKが原告著作物の独占的利用権を有していたとしても、著作権者から独占的な利用許諾を受けた被許諾者は、著作権者に対して契約に基づく債権的請求権を有するにすぎないから、第三者に営業妨害など明らかに不当な目的があるような場合は別として、第三者に対して損害賠償請求をすることはできない。そして、本件において、被告らには原告らの営業を妨害するなど不当な目的などなかったから、仮に原告BFKが原告著作物について独占的利用権を有するとしても、原告BFKによる損害賠償請求は肯定できない。 さらに、原告BFKは自ら被告商品と競合する製品を販売していないから、著作権法114条2項の適用はない。原告らが一体として著作権を保持・使用していたという主張が同項の適用を肯定する理由にならないことは前述のとおりである ウ 原告大一商会の著作権法114条2項に基づく請求が認められないこと 上記アのとおり、仮に原告らの間で何らかの使用許諾がなされているとしても、被告商品の販売開始以降に許諾があったと解する余地のある対象は杉良太郎主演の「遠山の金さん」のみである。 したがって、原告大一商会は、原告著作物を含む本件金さんシリーズの著作権に係る独占的利用権など有しないのであり、損害賠償請求の請求適格がない。 仮に原告大一商会が原告著作物の独占的利用権を有していたとしても、本件において原告大一商会による損害賠償請求は認められないことは原告BFKについて述べたとおりである。 原告大一商会の販売するパチンコ機「CR遠山の金さん」及び「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は、いずれも被告商品と販売時期が重ならず、スペック、ゲーム性、映像内容等が異なり競合製品でない上、後者の「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は原告大一商会製品の不具合のために全品回収が目指されることとなったから、原告大一商会は被告商品と競合する製品を販売しておらず、著作権法114条2項の適用はない。 (3) 争点4 −5 〜争点4 −7 (原告らの商標法38 条2 項に基づく請求の可否)について (原告らの主張) ア 原告東映は、自ら侵害品と競合する商品を販売していないとしても、商標法38条2項の文言上、競合関係は要件とされていないから、同項に基づく損害賠償を請求できる。 仮に、競合関係を必要と解するとしても、少なくとも、商標権者から許諾を受けた者が商標を使用している場合には、商標法38条2項は適用される。また、原告らは商品化権契約を通じて一体の関係にあるため、原告東映(及び原告BFK)について、商標法38条2項が適用される。 イ 原告BFKは、原告東映との間で平成16年6月7日付け契約など(甲28〜31、104、105)を締結し、もって、原告東映から、本件金さんシリーズのキャラクター及びその名称、映像等を使用し、ぱちんこ遊技機及び回胴式遊技機を製造、販売する独占的な商品化権の許諾を受け、本件商標権の独占的通常使用権を設定されている。 ウ 原告大一商会は、原告BFKとの間の平成16年6月11日付け商品化権使用許諾契約書など(甲32〜36、106、107)に基づき、本件金さんシリーズのキャラクター及びその名称、映像等を使用して、ぱちんこ遊技機等を製造、販売する独占的な商品化権の再許諾を受け、本件商標権の独占的通常使用権を設定されている。 原告大一商会は、平成20年にパチンコ機「CR遠山の金さん」を、平成23年6月にはその第二弾である「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」の発売を開始した。 エ 原告らはいずれも商標法38条2項に基づく損害の賠償を求めることができ、原告らの債権は連帯債権の関係に立つ。 (被告らの主張) ア 原告東映の商標法38条2項に基づく請求が認められないこと 商標法38条2項の適用を受けるためには、自ら、業として登録商標を使用し、かつその商標権等に対する侵害行為によって現に営業上の損害を被ったことが必要である。原告東映は、自ら業として原告商標を使用しておらず、競合製品を販売していないから、原告東映が同条項の適用を受けることはできない。 原告らの間で許諾の対象となったと解する余地がある権利として、テレビ映画「ご存じ金さん捕り物帳」及び「遠山の金さん」に係る権利があるが、前者の「ご存じ金さん捕り物帳」に係る契約(甲28〜30)では、そのタイトルが許諾対象である旨明記されているのに対し、後者の「遠山の金さん」に係る契約(甲31)では、そのタイトルが許諾対象である旨が明記されていないから、「遠山の金さん」というタイトルについては、許諾対象から除外されていることが明らかである。 それゆえ、原告東映が原告BFKに、本件商標権の独占的通常使用権を付与した事実はないのであり、原告らが一体として商標権を保持・使用しているとはいえない。 仮に、原告大一商会の「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」につき、原告らによる本件商標の一体的使用があると解する余地があるとしても、先に述べたように、原告大一商会は、「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」の全品回収を目指すこととしたため、原告らには、本件パチンコ機の製造販売により売上げ阻害などいかなる損害も生じ得ないので、原告東映の損害賠償を認める理由にはならない。 そもそも、先に述べたように、原告大一商会のパチンコ機「CR遠山の金さん」「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は、被告商品と競合関係にないため、商標法38条2項の適用を肯定する理由にならない。 したがって、原告東映による商標法38条2項に基づく損害額が認められないことは明白である。 イ 原告BFKの商標法38条2項に基づく請求が認められないこと 先に述べたように、原告らの間で本件金さんシリーズに係る独占的商品化権の許諾があったという主張は誤りであり、また仮に原告らの間で何らかの使用許諾がなされているとしても、「遠山の金さん」というタイトルは許諾対象外であるから、原告BFKは、本件商標権に係る独占的通常使用権など有しておらず、原告BFKには損害賠償の請求適格がない。 仮に、原告BFKが本件商標権の独占的通常使用権を有するとしても、独占的通常使用権は、商標権者又は専用使用権者に対して契約に基づく債権的請求権を有するに過ぎず、独占的通常使用権による損害賠償請求は、契約上の地位に基づいて使用権を専用しているという事実状態が存在することを前提として、独占的通常使用権がかかる事実状態に基づいて享受する利益に法的保護を与えることが相当である場合にのみ認められる。 しかし、原告らの提出した証拠により原告ら間で使用許諾があったと解する余地がある平成16年より後の平成17年、株式会社藤商事は、杉良太郎主演の「遠山の金さん」のキャラクターを用いた「杉様のこれにて大当たり」というパチンコ機を製作販売しており、原告BFKがパチンコ機業界において本件金さんシリーズに係る商品化権を専用しているという事実状態が存在しない。それゆえ、原告BFKが本件金さんシリーズに係る独占的商品化権に含まれると主張する本件商標権の独占的通常使用権についても、原告BFKがパチンコ業界において専用している事実状態があるとはいえない。 商標法38条1〜3項の規定は、商標権者又は専用使用権者が登録商標の使用権を物権的権利として専有し、何人に対してもこれに基づく権利を自ら行使できることを前提として、商標権者等の権利行使を容易ならしめるために設けられた規定であるから、独占的通常使用権者の損害についてこれらの規定を類推適用することはできない 原告BFKは、自ら業として本件商標を使用しておらず、競合製品を販売していない。それゆえ、商標法38条2項の適用がないことは明白である。 原告らが一体として商標権を保持・使用していたという主張が同項の適用を肯定する理由にならないことは前述のとおりである。 ウ 原告大一商会の商標法38条2項に基づく請求が認められないこと 先に述べたように、原告らの間で本件金さんシリーズに係る独占的商品化権の許諾があったという主張は誤りであり、原告大一商会は、本件商標権に係る独占的通常使用権など有しておらず、原告大一商会には損害賠償の請求適格がない。 仮に原告大一商会が本件商標権に係る独占的通常使用権を有するとしても、先に述べたように原告BFKが本件商標権の使用権を専用しているという事実状態が存在するとはいえないから、原告大一商会についても、本件商標権の使用権を専用しているという事実状態が存在するとはいえない。 独占的通常実施権者の損害について商標法38条1〜3項の規定を類推適用することはできないから、原告大一商会は、商標法38条2項の適用を受けることができない。 また、原告大一商会のパチンコ機「CR遠山の金さん」「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」は、被告商品と販売時期が重ならない上、ゲーム性、スペック、映像内容等が異なり被告商品と競合しないから、同項の適用を肯定する理由とならないこと、後者の「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪〜」については、不具合により全品回収を目指すこととなったから、被告商品の製造販売により売上げ減少などいかなる損害も生じ得ないことは、前述のとおりである。 (4) 争点4−8(被告商品の販売数量及び利益率)について (原告らの主張) ア 原告らは、以下のとおり主張するほかは、計算鑑定の結果(販売数量4万2993台、売上高157億9484万6000円、利益率●省略●、貢献利益●省略●)を争うものではない。 イ 計算鑑定書は、被告商品の売上高から控除すべき費用として、変動費及び個別固定費を挙げている。しかし、著作権法114条2項及び商標法38条2項の「利益の額」とは、売上高から変動費のみを控除したもの(いわゆる「限界利益」)と解するべきであり、個別固定費は控除されるべきではない。 ウ 仮に個別固定費を控除するとしても、新型枠に対応するための投資に係る減価償却費(製造)及び新型枠導入に係る消耗品費(製造)は控除されるべきではない。 パチンコ製造メーカーは、一般に、おおよそ2年に1度のペースでパチンコ台の枠を更新しているところ、このパチンコ台の枠は、個別の機種のために製造されるものではなく、当該枠が採用されている期間に製造される機種につき、共通して使用されるものである。すなわち、本件において、被告商品からパチンコ台の新型枠が採用されたのだとしても、それは、単に、被告サンセイにおけるパチンコ台の枠の更新のタイミングと、被告商品の製造のタイミングが偶然一致したにすぎず、仮に被告商品が製造されなくとも、当然、被告サンセイは新型枠投資等が必要であった。 したがって、新型枠投資等は「被告製品の製造販売に直接的に必要な固定費」とは言えず、個別固定費として控除されるべきものではない。 エ 仮に新型枠投資等を個別固定費として控除するとしても、被告商品のための減価償却費及び消耗品費を算出するにあたっては、被告商品以外を含めた平成21年度における総販売数量で按分するのではなく、現時点までの新型枠を使用した被告サンセイの20機種(うち3機種については、被告商品の新型枠を使用したものと、その他の枠を使用したものがある。)の総販売数量(3 機種については新型枠を使用したものの販売数量)によって按分すべきである。 オ 計算鑑定書は、製品材料廃棄損を個別固定費として控除しているが、著作権や商標権侵害による損害は、まさに当該被告商品を販売したことによる損害であって、販売されなかった被告商品のための部材の調達費用は、当該侵害行為とは関係のない費用である以上、かかる費用は、「被告製品の製造販売に直接的に必要な固定費」とはいえず、個別固定費として控除されるべきものではない。 カ パチンコ台の部材は多岐にわたるが、その中でも特定の機種のためだけに製造された部材というのは限られており、特に、部材費の中で多くの割合を占めるコンピューター部品や液晶などは、一般的には他の機種にも流用可能である。このような、他機種にも流用可能な部材は、被告製品固有の部材ではないから、被告製品の販売が終了したとしても廃棄する必要はない。計算鑑定書によれば、被告製品の製品材料廃棄損として、●省略●という極めて大きな金額が計上されているが、かかる金額は一般的なパチンコ機種の部材廃棄費用としては極めて高額であって、これらの金額の中には他機種に流用可能な部材の廃棄費用まで含まれていた可能性、あるいはもともと他機種に使用するつもりで購入していた部材のうち、被告製品にも流用していたものや、流用予定だったが被告製品から新枠が採用されたことにより流用できなくなったものをこの機会に廃棄し、その廃棄費用が全て含まれていた可能性が高い。 したがって、仮に、製品材料廃棄損として計上されている廃棄費用に、コンピューター部品や液晶といった、他機種に使用可能な部材の廃棄費用、あるいはもともと他機種に使用するつもりで購入していた部材の廃棄費用が含まれているのであれば、当該費用は「被告製品の製造販売に直接的に費用な固定費」とはいえないから、控除されるべきではない。 キ 被告らによる材料費・試験研究費(開発)を追加控除すべきとの主張は争う。 (被告らの主張) ア 被告商品の販売台数は4万2993台、売上高は157億9484万6000円である。 被告らが被告商品の製造販売のために要した経費は、134億6908万9797円を下らない。 したがって、被告らの得た利益は、23億2575万6203円を超えない。 イ 計算鑑定書は、材料費について、変動費であることは認めながらも、その算入額については、被告商品の製造販売に係る金額の特定が困難であることを理由に、平成21年度の製造原価報告書における材料費を販売数量に応じて按分した額(●省略●)のみに限定している。 しかし、被告サンセイは、原価計算を実施しているのであるから、被告製品に係る材料費については、これを安易に按分計算するのではなく、原価計算関係書類に基づき算定すべきであり、それによればその金額は少なくとも●省略●であることが特定できる。その結果、計算鑑定書の算入額は、少なくとも、●省略●過少に算出されていることは明らかである。 ウ 計算鑑定書は、減価償却費(製造)について、新型枠分の新規投資に係る減価償却費が個別固定費であることは認めながらも、その算入額については、新型枠分の投資に見合う減価償却費の全体額の特定が困難であることを理由に、平成21年度の製造に係る新規投資(新型枠分の新規投資を含む)の減価償却費を、販売数量に応じて按分した額(●省略●)のみに限定している。 しかし、新型枠分の新規投資に係る減価償却費は、按分によらずとも、固定資産台帳で新型枠製造設備は特定した上でその減価償却費を集計することにより特定することができ、その額は、●省略●である。 したがって、計算鑑定書の算入額は、少なくとも●省略●過少に算出されている。 エ 計算鑑定書は、開発費のうち試験研究費●省略●について、開発費の費消により製品の販売を達成し収益を獲得できるか否か不確実であること、型式検定試験に合格するかどうかは不確実であることを述べて、個別固定費に該当しないとして、全部不算入としている。 本件では、計算鑑定書のいう試験研究費(開発)の中身は、計算鑑定書11頁にあるように、●省略● 著作権法114条2項及び商標法38条2項の「侵害行為により得た利益」の算定においては変動費及び個別固定費を控除の対象とすべきであり、個別固定費とは、固定費のうち、本件製品の製造販売に不可避であり(不可避性)、発生額が正常であり(正常性)、本件製品のための費用であることが明確(特定可能性)であるものをいう。 上記@〜Cは、会計取引を個別に判断・集計すれば、個別固定費の前記要件(不可避性、正常性、特定可能性)を満たす。 まず、@については、専ら被告商品に用いられる液晶表示ソフト、液晶画面用素材、CG等のために支出した費用であり(不可避性・特定可能性)、●省略●という発生額は、これらの外注費として正常である(正常性)。 次に、Aについては、専ら被告商品に用いられる部品のために支出した費用であり(不可避性・特定可能性)、●省略●という発生額は、これらの部品費として正常である(正常性)。 さらに、Bについては、専ら被告商品に用いられる映像、原盤及び著作物、音声の使用権等のために支出した費用であり(不可避性・特定可能性)、●省略●という発生額は、これらの素材費として正常である(正常性)。 また、Cについては、パチンコ機の販売には、保安通信協会の型式試験に適合することが不可欠であることから、被告商品の製造販売において不可欠の費用であり(不可避性・特定可能性)、●省略●という発生額は、申請料として正常である(正常性)。 それゆえ、@〜Cは、被告商品の製造ないし販売に直接必要な個別固定費に該当するということができ、すべて経費として控除されるべきである。 仮に、全額の算入が認められないとしても、被告製品の最終的な開発機種コードにより集計された●省略●については、経費として控除すべきである。 オ 原告らによる、個別固定費の全部又は一部を控除すべきでないとの主張は争う。 (5) 争点4− 9〜4− 10( 原告著作物及び原告商標の寄与率)について (原告らの主張) 被告らは著作権と商標権を一体として侵害しているのが実態である。 そして、著作権侵害に基づく損害賠償責任も商標権侵害に基づく損害賠償責任も根拠規定は不法行為なのであり、損害賠償額の認定にあたっては、著作権と商標権を一体として侵害する不法行為として把握しなければならない。 被告らの行為は、被告標章と被告映像を複合的に利用することによって、原告らの著作権と商標権を一体として侵害した不法行為であると端的に把握すれば、商標権侵害と著作権侵害による寄与率は50%を下らない。 著作権侵害と商標権侵害を個別にみても、次のとおりである。 被告映像のうち、著作権侵害部分を仮処分決定の範囲に限定して考えてみても、同映像部分は、「リーチ」時や「白州ボーナス時」など重要な局面で流れる映像であり、被告映像のうちもっとも特徴的かつ重要なシーンを構成しているから、単純にその時間的割合で寄与率を判断できるものではない。 近時のパチンコ業界においては、高い顧客吸引力を有する有力コンテンツとタイアップすることが非常に重要であり、商品名にタイアップ機であることが一瞥して分かるような商品名を付けることは必須である。被告標章は被告商品の売行きに大きく寄与したことは明らかであり、その寄与率は高い。 (被告らの主張) ア 被告商品は、原告東映の著作物の複製ではなくオリジナル作品であり、仮処分決定が著作権侵害と判断した映像部分をその一部分として利用しているにすぎないから、損害額の算定にあたっては、当該映像部分の寄与率を考慮すべきである。 この点につき、まず、被告商品の液晶画面に表示される映像(被告映像)自体、被告商品の一部分に過ぎず、被告商品の特徴は、被告サンセイ独自の「ギガスペック」と呼ばれる方式を採用することで、遊技中一時的に大当りの発生頻度を劇的に増大させた点にあることを考えると、被告映像の寄与率は極めて小さい。 さらに、仮処分決定が著作権侵害と判断した映像部分が表示される時間は、遊技時間全体のうち多くとも約0.044%であるから、被告映像における当該映像部分の寄与率は0.044%以下である。 加えて、被告映像は、被告らが、オリジナルの脚本を作成し、新たに映像を撮り下ろしたものであり、上記映像部分についても被告らの創作性が付加されていることを考慮すると、原告東映の寄与率はさらに小さいものとなる。 それゆえ、被告商品における原告東映の著作権の寄与率は、大きく見積もっても0.01%程度である。 イ 本件では、原告商標は、原告東映やその従業員の造語ではなく、明治時代中期から知られている著名な人物名であり、遠山金四郎を題材とする無数の作品があり、原告商標の顧客吸引力に対する原告東映の寄与は少ない上、そもそも自他商品の識別力が微弱である等の事情に加え、@本件パチンコ機の特徴はギガスペックの採用にあること、A被告商品の取引先は全てパチンコホール又は販売代理店(代行店)であり、専門の業者は、商品に付された標章よりも、当該商品の品質・価格等に着目して購入するから、標章の顧客誘引力は小さいこと、Bパチンコ機の取引は厳格な風俗営業関係行政の下でなされるから、上記業者による出所混同の可能性は限りなくゼロに近いこと、C被告らによる営業努力が被告商品の売上に寄与したこと、D原告大一商会のパチンコ機「CR遠山の金さん」は、平成20年12月に販売開始後、実質的には平成21年1月をもってその販売を終了しており、形式的にみても平成21年4月をもってその販売を終了しており、販売中も特に人気の高かった機種とまではいえず、原告商標が、原告大一商会のパチンコ機における使用を通じてパチンコ機の取引者・需要者の間で確たる信用ないし顧客誘引力を獲得していたとはいえないこと等の事情に鑑みれば、被告らが被告商品の販売により得た利益に対する被告標章の寄与率は、限りなくゼロに近く、大きく見積もっても1%程度である。 (6) 争点4−11(弁護士費用)について (原告らの主張) 原告らの損害の一部を成す弁護士費用は、1億8000万円を下らない。 (被告らの主張) 争う。 第5 当裁判所の判断 1 争点1(著作権侵害の成否)について (1) 映画の著作物における創作性・類似性の判断手法について ア 創作性の判断手法 著作権法上、映画の著作物についての定義規定はないが、同法2条3項で「この法律にいう『映画の著作物』には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」とされているから、「視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ており、かつ、「物に固定され」ている「著作物」であれば、映画の著作物ということができる。 本件において、原告が著作権侵害を主張する著作物(原告著作物)は、原告松方映像6−1、原告松方映像2−22、原告松方映像(女ねずみ)2−1の3つである。これらは、いずれも視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、テレビドラマ映像として映像媒体に固定され、それぞれの映像を全体としてみれば創作性が認められ、著作物といえるから(甲52の1、55、56)、映画の著作物ということができる。 原告らは、被告映像と原告著作物で類似性を有する構成要素(ストーリー構成、シーン映像、衣装等)を取り出し、その類似性を主張する。 著作物の創作的表現は、様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから、原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に、その構成要素を分析し、それぞれについて、表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを検討することは、有益であり、かつ必要なことであって、その上で、作品全体又は侵害が主張されている部分全体について、表現といえるか否か、また表現上の創作性を有するか否かを判断することは、正当な判断手法ということができる(知財高裁平成24年8月8日判決・判時2165号42頁[釣りゲーム事件])。 そこで、原告著作物について、その構成要素について検討することとするが、その際、原告著作物はそれとは別個に観念される脚本や音楽とは別個の著作物と観念され、それらの二次的著作物と解されるから(著作権法16条)、原著作物と共通の構成要素部分については除外して、二次的著作物において新たに付加された構成要素について検討すべきである。 また、この点に関連して、被告らは、遠山金四郎が片肌を脱ぐ演技は、俳優の松方弘樹が、独自に研究研鑽を重ねて創出したものであり、俳優の演技に関する権利は、オリジナルなものであれば、当該俳優に属人的に帰属しており、俳優に著作隣接権が認められていることに照らすと、当該演技が固定された映画の著作物の著作権侵害の判断においては、俳優に属人的に帰属する演技に係る創作的表現の共通性を基に判断すべきではない、などと主張する。 しかし、実演家である松方弘樹の実演をどのような演出、美術、カメラワークの下で録画し、映像として表現していくかについては、実演家の演技が映像表現に直結しているわけではなく、映画の著作物の著作者(著作権法16条)が関与しており、著作者が映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、映画製作者に著作権が帰属するものである(同法29条1項)。このように、実演家が考案した演技であっても、これを当該映画における演出、美術、カメラワークの下で映像化した場合には、当該映画自体については、映画製作者が著作権を有するものであり、本件において、原告東映は、松方弘樹の実演の映像を含む原告松方映像6−1全体について著作権を有するものである。 映画の著作物の著作権は、その創作的な表現を考案したのが当該映画の著作物の著作者(例えば監督)であるか、それ以外の、例えば俳優、助監督、美術、大道具、小道具、衣装などの関与者であるかを問わず、映画製作者に帰属するのであって、撮影担当者の考案した(最終的に監督の了解を経た)カメラワークを創作性の判断において特に除外しないのと同様、俳優の考案した(最終的に監督の了解を経た)演技を創作性の判断から除外する必要はない。 前記のとおり、原作や脚本に由来する部分など、映画の著作物が二次的著作物となる場合において原著作物に由来する部分については映画製作者の著作権は及ばないが(著作権法16条)、映像を離れて実演家の演技に著作権が発生するわけではないから、原作者や脚本家のような原著作者の権利が実演家に留保されることはない。 被告らの主張は採用できない。 イ 類似性の判断手法 被告映像が原告著作物に類似するか否かは、原告らが侵害を主張する被告映像とそれに対応する原告著作物の部分について検討する必要がある。 たとえ、原告著作物が全体としては著作物性を有するとしても、原告らがその侵害を主張する部分について表現上の創作性が認められなければ、著作権侵害は成立しない。 すなわち、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13年6月28日判決・民集55巻4号837頁[江差追分事件]参照)。 そこで、被告映像と原告著作物との間で同一性を有すると主張する部分(侵害を主張する部分)が表現上の創作性がある部分といえるか、創作性のある部分について、被告映像から原告著作物の本質的特徴を感得できるか(類似性)について、以下、原告著作物の構成要素に即して検討する。 (2) 被告映像と原告著作物の類似性 ア 被告金さん物語映像の全体のストーリー構成の類似性について 原告らは、被告金さん物語映像の構成は、原告松方映像6−1の物語の構成と共通のストーリー構成をしているところ、全体のストーリー構成には原告東映の創作性が表れていると主張する。 しかし、原告松方映像6−1のストーリー自体は、脚本(甲121)に由来するものであって、二次的著作物である原告松方映像6−1の創作性ある表現とはいえない。 また、原告らの主張するストーリー構成の類似は、概要、「北町奉行である遠山金四郎が、市井の一般人(金さん(金次))に身をやつして悪事を秘密裏に探り出し、事件の真相と黒幕を突き止める。金さんが悪党の屋敷に乗り込み、立ち回りの途中で自らの肩の桜吹雪の刺青を見せる。北町奉行所のお白州で、悪事をしらばっくれる悪党に対し、遠山奉行が、片肌脱いで桜吹雪の刺青を見せつける。悪党は驚愕し、観念する。極刑を言い渡した遠山奉行は、「これにて一件落着」と言う。」というものであるが、このストーリー構成は、昭和32年の舞台「遠山桜江戸ッ子奉行」(乙1)、昭和44年の舞台「いれずみ判官遠山の金さん」(乙2)、昭和36年の漫画「遠山金四郎」(乙3)にも同様のストーリー構成がみられ、いわゆる遠山金四郎ものによくあるアイデアの類似にすぎず、創作性ある表現の類似とはいえない。 イ 立ち回りシーンの類似性について (ア) 主要な登場人物 原告らは、原告松方映像6−1の立ち回りのシーンと、被告金さん物語映像No.31〜No.33及び被告立ち回りリーチ映像について、「主要な登場人物として松方弘樹演じる金さんが登場する」ことを類似点と主張する。 しかし、遠山金四郎が主要な登場人物であること、松方弘樹が金さん(遠山金四郎)を演じることは原告松方映像6−1の創作性ある表現とはいえず、創作性ある表現の類似とはいえない。 (イ) 場面・セット 原告らは、「悪党達が密談を行っている部屋及び当該部屋に隣接する庭が、主要な場所となる」こと、「この庭は、建物や塀等に囲まれた内庭のようになっている」ことを類似点と主張する。 しかし、このような設定上の抽象的な表現のみでは、創作性ある表現の類似とはいえない。 (ウ) 衣装等 原告らは、「金さんは、江戸の町人の格好をした上、頬かむりをしている。金さんは、悪党共の密談の場を暴きに来たにも関わらず、手ぶらのままであり、また特段防具なども身につけず、無防備な格好をしている」ことを類似点と主張する。 しかし、遠山金四郎が江戸の町人のような格好をした上で頬被りをし、手ぶらで防具を身につけていないという表現は、昭和29年の「鉄火奉行」、昭和30年の「次男坊判官」、昭和32年の「勢揃い桃色御殿」、昭和56年の「江戸を斬るY」などにも見られた表現であり(弁論の全趣旨・被告第1準備書面24、71頁)、創作性ある表現の類似とはいえない。 もっとも、原告松方映像6−1の立ち回りシーンとこれに対応する被告映像の具体的映像表現を対比するに当たり、遠山金四郎の衣装が類似していることは、その類似性を高める要素となっている。この点は後記(エ)で判断するが、少なくとも衣装の類似だけでは創作性ある表現の類似とはいえない。 (エ) ストーリー展開・台詞・演技等 a 原告らは、「悪党達が密談を行っている部屋に隣接する庭に、金さんが頬被り姿で登場する。敵に囲まれる。悪党達は家来達に対し、金さんの殺害を命じる。金さんは日本刀を抜き身にした数多くの家来達に囲まれ、実際に襲われるが、最初は素手で数人の家来達を薙ぎ倒す。」ことが類似点と主張する。 しかし、ストーリー自体は、脚本(甲121)に由来するもので、原告松方映像6−1の創作性ある表現とはいえないことは前記のとおりである(甲121のシーン52[B17〜18頁]に上記場面に相当する記載がある。)。 そして、原告らは、類似性の根拠となるべき、映画の著作物において新たに付加された個々の映像表現(カメラワーク等)についてそれ以上具体的に主張していないから、原告東映の創作性ある表現の類似があるとは認められない。 b 原告らは、「(金さんが)叱るように『静かにしろい、静かによぉ!』との台詞を言い、家来達を黙らせる。江戸言葉で決め台詞を威勢よく言いながら、片肌を脱ぎ、肩から肘にかけてびっしりと彫られた桜の刺青を見せる。」ことが類似点と主張する。 ストーリー自体は脚本(甲121)に由来するものであるし、台詞は脚本(甲121)とは一部表現が異なる部分はあるものの(例えば、原告松方映像6−1の「静かにしろい、静かによぉ!」との台詞は、脚本(甲121・B17頁)には存在しない。)、その程度の差異によって、原告松方映像6−1の台詞に創作性があるものとは認められない。 しかし、具体的な映像表現として、原告松方映像6−1の立ち回りの桜吹雪披露シーンと、被告金さん物語映像No.31の桜吹雪披露シーン及び被告立ち回りリーチ映像とを、カメラワーク、アングル、カット、遠山金四郎の衣装、松方弘樹の演技など、両映像から受ける総合的な印象において対比すると、両映像の与える総合的な印象は相当に類似している。 特に、桜吹雪の刺青を見せる際に、@まず身体右側を画面前に向け、右腕を右袖の中に入れ、A身体右側を画面前に向けた姿勢で、右手を開いた状態で右手の甲が外になる向きで、右手を右襟元から出し、そのまま右手を下ろし(被告金さん映像No.31の桜吹雪披露シーン(甲49の1)及び被告立ち回りリーチ映像(甲50)においては、下ろした右手を拳にしているか否かは画面上明らかでない。)、B左後方を振り返りながら、右腕を振り上げ、右肩及び右腕全体を着物から出し、前を向きながら、右腕を振り下ろして片肌を脱ぎ、右肩の桜吹雪の刺青を披露する、C人物(金さん)の背景には、建物の外壁及び窓が映されており、人物の衣装は着流しに頬被りをしており、カメラワークは、終始人物を中心に捉えている、という点は、見る者に相当強い印象を与える映像であり、この点の一致は、両者の与える印象の類似性に強い影響を与えている。 これらの映像表現は、脚本を映画の著作物に翻案する過程において新たに加えられた創作的な表現であり、原告東映の保有する原告松方映像6−1の著作権によって保護されるべき創作性ある表現の類似といえる。 「右手を右袖に入れ、襟元から出して右の片肌を脱ぐ」という動作は、他の映像表現においても見られるものであるが(乙10〜22、弁論の全趣旨・被告第1準備書面77〜80頁)、上記の4つの特徴を兼ね備えた特徴的な映像表現が、本件松方作品製作前に存在していた証拠はない。乙8、9は、平成12年12月に松方弘樹が御園座で行った芸能生活40周年記念公演「遠山の金さん−新しい門出−」における演技であり、平成6年6月9日に放映された(甲118)原告松方映像6−1よりも後のものであるから、原告松方映像6−1の上記表現の創作性の判断に影響を与えるものではない。 c 原告らは、「その後、本格的な立ち回りが始まる。金さんは、途中で悪党の1人が使っている日本刀を奪い、峰打ちをするために刀を返す。この際、金さんの顔と反対に返される刀との双方が映るような構図で撮影されている。右手と左手を離して刀を握っている。」ことを類似点と主張する。 刀を峰に返すこと自体は脚本(甲121)に由来するものであるが、原告らの指摘するカメラワークは、映画の著作物の製作過程で新たに付加された映像表現である。しかし、この程度の類似では、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とはいえない。右手と左手を離して刀を握っていることも、創作性ある表現の類似とはいえない。 d 原告らは、「(金さんが)悪党を次々と倒し、悪党を追い詰めていく。悪党は峰打ちされているだけで、死ぬわけではないが、皆峰打ちをされると倒れ込む。また、迫力を示すために、峰打ちで叩く効果音も、実際の刀で切ったとき(の効果音)と同様のものが用いられている。金さんは切りつけた後、その余韻を感じる恍惚の表情を一瞬見せる」ことを類似点と主張する。 峰打ちされた悪役が倒れ込むことや効果音の選択はありふれたもので、映像表現としてみても、創作性ある表現の類似とはいえない。 金さんが切りつけた後、その余韻を感じる恍惚の表情を一瞬見せる点は、映画の著作物の製作過程で松方弘樹の演技によって新たに付加された映像表現であるが、創作性ある表現の類似とまではいえない。 e 原告らは、このほか、「金さんが、庭から建物に上がり込み、悪党を追い詰める点」、「『御用だ、御用だ!』と多くの灯された提灯を持った役人が叫ぶ点」、「金さんが役人に見つからないようにその場を去る点」を類似点と主張するが、いずれも創作性のある表現とはいえない。 ウ お白州シーンの類似性について (ア) 登場人物 原告らは、原告松方映像6−1のお白州のシーンと、被告金さん物語映像No.40〜No.45及び被告白州リーチ映像との対比について、「松方弘樹演じる遠山奉行が登場する」ことを類似点と主張する。 しかし、遠山奉行が登場すること、松方弘樹が「遠山奉行」を演じることは原告松方映像6−1の創作性ある表現とはいえないから、創作性ある表現の類似とはいえない。具体的な演技、カットの類似性については、後記(エ)で判断する。 (イ) 場面・セット 原告らは、「場面は、遠山金四郎が北町奉行を務める北町奉行所。お白州の場は、奉行所の建物内の高座と建物外の玉砂利敷の庭に分かれ、その間は階段でつながっている。建物内の高座には遠山奉行が、玉砂利敷の庭には筵が敷かれ、悪党らと証人が座っている。遠山奉行から見て、正面に悪党らが、正面右側に証人等が座っている」こと、襖の上部に「破邪顕正」(被告白州リーチ映像)又は「至誠一貫」(原告松方映像6−1)という四字熟語の書かれた額があること、襖の前に侍が2人いることを類似点と主張する。 「北町奉行所のお白州の場面を設け、お白州の場は、奉行所の建物内の高座と建物外の玉砂利敷の庭に分かれ、建物内の高座には遠山奉行が、玉砂利敷の庭には筵が敷かれ、悪党らと証人が座っている。遠山奉行から見て、正面に悪党らが座っている」という表現、襖の上に「破邪顕正」等の言葉の書かれた額があるという表現は、昭和56年の「江戸を斬るY」、昭和30年の「次男坊判官」、昭和29年の「鉄火奉行」などにも見られた表現であり(乙34、35、弁論の全趣旨・被告第1準備書面30、72頁)、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とはいえない。 「遠山奉行から見て、正面右側に証人等が座っている」点も、ありふれた表現であって創作性ある表現の類似とはいえない。 「襖の前に侍が2人いる」点は、昭和56年の「江戸を斬るY」にも類似の表現が見られ(乙34)、ありふれた表現であって創作性ある表現の類似とはいえない。 (ウ) 衣装等 原告らは、史実と異なり、遠山奉行が紺色の長裃を着用していること、遠山奉行が着ている長裃に「丸に三引」(円の中に横三本線)の家紋が入っていることが、類似点であると主張する。 しかし、遠山奉行が長裃を着用していること、長裃に「丸に三引」の家紋が入っていることは、昭和28年の「金さん捕物帖 謎の人形師」、昭和30年の「次男坊判官」、昭和59年の「ねずみ小僧怪盗伝」、昭和32年の「勢揃い桃色御殿」、昭和33年の「大暴れ東海道」などにも見られた表現であり(弁論の全趣旨・被告第1準備書面31、73〜76頁)、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とはいえない。 原告松方映像6−1の衣装と、被告金さん物語映像No.40〜No.45及び被告白州リーチ映像の衣装は、紺地に白の家紋が入っている点で、上記の各映像のどれにも増して酷似していることは確かであるが、衣装の類似だけであれば、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とまではいえない。 (エ) ストーリー展開・台詞・演技 a 原告らは、要旨「『北町奉行・遠山左衛門尉様、ご出座〜』との掛け声がかかる。真ん中の襖が開き、遠山奉行が登場する。遠山奉行が『一同のもの、面を上げい』と言うと、悪党らと、その右側にいる証人はゆっくりと正面を見る。遠山奉行が画面に大写しにされ、『で、調べによれば……』と言い、吟味を開始する。否定する悪党ら。にやけ顔の悪党。証人が悪党の悪行を訴えるのに対して、悪党は悪事をしらばっくれ、口々に騒ぎ立てる」といった点を類似点と主張する。 しかし、その大半は脚本(甲121)に由来するもので原告松方映像6−1の創作性ある表現とはいえない。また、原告松方映像6−1と被告金さん物語映像No.40〜No.45及び被告白州リーチ映像を対比すると、原告松方映像6−1では、殺人事件の詮議となっているのに対し、被告白州映像では幕府転覆の企ての詮議となっているほか、原告松方映像6−1では、悪党らが「確たる証拠を出せ」等と騒ぎ立てるのに対し、被告白州リーチ映像では、悪党らは、「怪しいのはあいつだ!」「金次の野郎を出しやがれ」と金次の出頭に絞って騒ぎ立てている。このように両者は詮議の内容や悪党の発言内容が異なっており、両映像が台詞の一部や脚本に表れないカメラワーク、アングル、カット等において類似していることを考慮しても、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とまではいえない。 b 被告金さん物語映像No.40の桜吹雪披露シーンについて 原告らは、要旨「遠山奉行が直前とは打って変わった江戸言葉で啖呵を切りながら、長裃を蹴って前ににじり寄り、片肌脱いで桜吹雪の刺青を見せつけ、悪党による悪事を全て自分の眼で確認していることを明かし、悪党をにらみつける」といった点を類似点と主張する。 ストーリー自体は脚本(甲121)に由来するものであるが、具体的な映像表現として、原告松方映像6−1のお白州での桜吹雪披露シーン(甲52の1)と、被告金さん物語映像No.40の桜吹雪披露シーン(甲49の1)及び被告白州リーチ映像(甲50)とで、カメラワーク、アングル、カット、遠山金四郎の衣装、松方弘樹の演技など、両映像から受ける総合的な印象を対比すると、両映像の与える総合的な印象は相当に類似している。 特に、原告松方映像6−1のお白州での桜吹雪披露シーン(甲52の1)及び被告金さん物語映像No.40の桜吹雪披露シーン(甲49の1)において、桜吹雪の刺青を見せる際に、@まず身体右側を画面前に向け、右腕を右袖の中に入れ、A 身体右側を画面前に向けた姿勢で、右手の5本の指を開いた状態で右手の甲が外になる向きで、右手を右襟元から出し、そのまま右手を下ろし(被告金さん映像No.40の桜吹雪披露シーン(甲49の1)においては、下ろした右手を拳にしているか否かは画面上明らかでない。)、Bその後、左後方を振り返りながら、右腕を振り上げ、右肩及び右腕全体を着物から出し、前を向きながら、右腕を振り下ろして片肌を脱ぎ、右肩の桜吹雪の刺青を披露する、C人物(遠山奉行)の背景には、襖の不規則な斜め縞模様が映されており、人物の衣装は裃であり、カメラワークは、終始人物を中心に捉えている、という点は、見る者に相当強い印象を与える映像であり、この点の一致は、両者の与える印象の類似性に強い影響を与えている。 これらの映像表現は、脚本を映像化する映画の著作物の製作過程において新たに加えられた創作的な表現であり、原告東映の保有する原告松方映像6−1の著作権によって保護されるべき創作性ある表現の類似といえる。 「右手を右袖に入れ、襟元から出して右の片肌を脱ぐ」という動作は、他の映像表現においても見られるものであるが(乙27〜36、弁論の全趣旨・被告第1準備書面81〜83頁)、上記の4つの特徴を兼ね備えた特徴的な映像表現が、本件松方作品製作前に存在していた証拠はない。 c 被告白州リーチ映像の桜吹雪披露シーンについて 原告松方映像6−1のお白州での桜吹雪披露シーン(甲52の1)及び被告白州リーチ映像の桜吹雪披露シーン(甲50の1)は、桜吹雪の刺青を見せる際に、@まず身体右側を画面前に向け、右腕を右袖の中に入れ、Bその後、左後方を振り返りながら、腰付近から右腕を振り上げ、右肩及び右腕全体を着物から出し、前を向きながら、右腕を振り下ろして片肌を脱ぎ、右肩の桜吹雪の刺青を披露する、C人物(遠山奉行)の背景には、襖の不規則な斜め縞模様が映されており、人物の衣装は裃であり、カメラワークは、終始人物を中心に捉えている、という点で類似している。 しかし、被告白州リーチ映像においては、@遠山奉行が右腕を右袖の中に入れた後、画面がホワイトアウトし、次の場面ではB遠山奉行は腰付近から右腕を振り上げ、右肩及び右腕全体を着物から出し、右腕を振り下ろしており、原告松方映像6−1にあった、A身体右側を画面前に向けた姿勢で、右手を開いた状態で右手の甲が外になる向きで、右手を右襟元から出し、そのまま右手を下ろした後、右手を拳にする、という特徴的な動作が画面上に表現されていない。 この点は、他の3点の特徴とあいまって、見る者に相当強い印象を与える映像表現であったところ、この点が再現されていない被告白州リーチ映像は、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とまではいえない。 d 原告らは、要旨「お白州にいる悪党は驚愕し、その後観念する。その後、悪党らに打ち首等の極刑を言渡し、悪党等を引っ立てる。最後に、遠山奉行は『これにて一件落着』と言う」といった点を類似点と主張する。 しかし、ストーリー自体は脚本(甲121)に由来するものであり、映像表現としてみても、創作性ある表現の類似とまではいえない。 エ 被告掛け声演出について 原告らは、被告掛け声演出は、原告松方映像6−1のお白州シーンにおいて松方弘樹演じる遠山奉行の出す「おうおうおう!」という掛け声と類似すると主張する。 しかし、被告掛け声演出には、原告松方映像6−1において掛け声と一体として映像化されていた松方弘樹演じる遠山奉行の表情やカメラワーク等が存在しないのであり、両音声がその台詞のみならず台詞回しにおいても類似するところがあることを考慮しても、創作性ある表現の類似とはいえない。 オ 被告くのいちリーチ映像について 原告らは、原告松方映像6−1に登場する池上季美子演じる(甲121)「お紺」と、被告くのいちリーチ映像に登場する生稲晃子演じる「お蝶」とは、「くのいち(女忍者)」の格好をして登場する点、密偵として悪党等の悪事に関する情報を遠山奉行に伝える役目を持っている点、黒い装束を基本とし、頬被りに赤い布をねじりこみ、服の裏地に赤い布を配した姿格好をしている点で類似すると主張する。 お紺がくのいちであり密偵であるという設定自体は、脚本(甲121)に由来するもので、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とはいえない。 頬被りに赤い布をねじりこみ、服の裏地に赤い布を配した姿格好をしている点も、昭和59年の「ねずみ小僧怪盗伝」にも見られるもので(乙38)、怪盗の衣装をくのいちの衣装に採用したことはアイデアであって、原告松方映像6−1の創作性ある表現の類似とはいえない。 カ 被告プロモーション映像について 原告らは、被告プロモーション映像にも、原告松方映像6−1との類似点があると主張するが、それ以上に具体的な映像の対比をしないから、創作性ある表現の類似があるとは認められない。 キ お白州シーンにおける証人の懇願について 原告らは、原告松方映像2−22と被告白州リーチ映像が、要旨「悪党らが真っ向から自らの嫌疑について否定するため、証人は、決定的な証拠を提出する意味で目撃証人である金さんを呼び出そうと考えるに至っているという点、困った上で懇願するように遠山奉行に上申をしている点、その訴えを聞いた悪党らが開き直って、むしろ金さんをお白州に呼ぶように騒ぎ立てる点」等において類似すると主張する。 しかし、両映像における具体的な台詞等は異なっており、創作性ある表現の類似とまではいえない。 ク お白州シーンにおける遠山奉行の衣装について 原告らは、被告映像と原告松方映像(女ねずみ)2−1とは、遠山奉行が紺色の長裃(丸に三本線の家紋)の下に灰色基調で一部花柄の襦袢を着ている点で類似すると主張する。 しかし、この程度では、衣装による表現に創作性を認めることはできず、創作性ある表現の類似とはいえない。 ケ 小括 (ア) 上記検討によれば、原告松方映像6−1と被告映像の共通部分のうち、立ち回り中及びお白州での桜吹雪披露シーンの表現については表現上の創作性が認められる。 他方、被告映像には、立ち回りに至るまでのストーリーが映像表現を含めて大きく異なっている。 具体的には、原告松方映像6−1の、脚本(甲121)でいうシーン1から51、53に対応する映像は被告映像に存在しない。 また、被告映像のうち、被告金さん物語映像でいうNo.0〜No.30に対応する映像は、原告松方映像6−1に存在しない(甲49の1・2)。 創作的表現において類似する部分は、両映像におけるいわばクライマックスに相当する部分であって、ストーリー上も重要な部分であり、そうであるからこそ、被告立ち回りリーチ映像、被告白州リーチ映像において抜き出されているものと考えられる。 しかし、類似部分と非類似部分の分量の差を考えると、被告映像全体が原告松方映像6−1全体の翻案であると判断することはできない。 (イ) 本件において著作権侵害が認められるのは、一まとまりとしての立ち回りでの桜吹雪披露シーン(原告松方映像6−1の0:37:47付近から0:37:56付近まで、被告金さん物語映像のNo.31の00:39付近から00:47付近まで、被告立ち回りリーチ映像の00:33付近から00:40付近まで)及びお白州での桜吹雪披露シーン(原告松方映像6−1(甲52の1)の0:47:50付近から0:48:05付近まで、被告金さん物語映像(甲49の1)のNo.40の00:24付近から00:39付近まで)に限られるというべきである。 原告松方映像6−1における立ち回り中及びお白州での桜吹雪披露シーンと、これと対応する被告映像の当該部分を対比すると、被告映像の上記部分は、俳優の演技、人物の背景、人物の衣装、カメラワークを含めて、原告松方映像6−1の上記部分の表現の本質的特徴を直接感得させるものであると認められる。 そして、上記部分に限っていえば、被告映像において原告松方映像6−1から新たに加えた創作的表現があるとは認められないから、被告映像のうち上記部分は、原告松方映像6−1の対応する部分を有形的に再製したものであって、複製したものと認められる。 (なお、原告松方映像2−22、原告松方映像(女ねずみ)2−1については、被告映像との間に創作性ある表現の類似は認められず、被告映像がこれらの複製ないし翻案であるとは認められない。) (3) 依拠性について ア 被告らは、被告映像は被告らが独自に創作した原作に基づき映画化したものであり、原告著作物に依拠したものではないと主張する。 イ 本件松方作品は、昭和63年から平成10年にかけて全202話(訴状9頁、甲12・4頁による。甲118・3〜6頁によれば全218話)が放映され、その視聴率は平均14.0%、最大21.9%に及び、地上波のローカル局やCS放送で再放送もなされている(甲12、13、27、118)。 このことからすれば、被告らにおいても本件松方作品にアクセスしていたことが推認される。 そして、被告映像において、本件松方作品と同じく松方弘樹が遠山金四郎を演じ、かつ、被告映像と原告松方映像6−1とは、創作性ある表現とは認められないものの、別紙比較対照表1のとおり、桜吹雪披露シーン以外のストーリー、場面・セット、衣装(史実と異なる「丸に三引」)、桜吹雪の刺青の柄等においても類似している。 以上によれば、被告映像は、原告松方映像6−1に依拠して製作されたものと認めるのが相当である。 ウ 被告らは、周知の遠山金四郎の物語を参考にして脚本を作成し、時代劇等によく用いられるセット、小道具、衣装等を利用し、松方弘樹を主演に起用すれば、概ね本件松方作品のような作品となり、本件松方作品と別個独立に遠山金四郎を題材とする映像作品が作成可能であったと主張するが、上記の多数の類似点に照らすと、被告映像が本件松方作品と独立に創作されたとは到底認め難い。 (4) 以上によれば、被告映像の桜吹雪披露シーンは原告松方映像6−1の桜吹雪披露シーンの複製であり、被告映像の収載された被告商品の製造は原告東映の複製権(著作権法21条)を侵害し、被告商品の販売や被告部品の交換又は提供は原告東映の頒布権(同法26条)を侵害するものと認められる(原告らは頒布権侵害を明示して主張してはいないが、その請求する損害の内容からみて頒布権侵害を主張する趣旨であると解するのが相当である。)。 2 争点2(商標権侵害の成否)について (1) 争点2−1(被告標章を商標的に使用したといえるか)について ア 被告商品に被告標章が付されていることは争いがない。 イ 被告らは、「名奉行金さん」は、遠山金四郎の作品・物語を題材とするタイアップ機であることを表すために用いられたものである、被告商品には、被告標章とともに、被告サンセイの商標として著名な「SanseiR&D」の文字が付されている、被告標章被告商品に内蔵された被告映像の題号というべきである、などとして、被告標章は自他識別機能を果たす態様で商標として使用されていないと主張する。 しかし、甲45〜47、53、64、93、131、166、167によれば、被告標章は、被告商品に内蔵された被告映像の題号(甲41〜44参照)を離れて、パチンコ機である被告商品の商品名を示す標章として被告商品に付され、また被告商品に被告標章を付したものが譲渡され、商標的に使用(商標法2条3項1号、2号)されていることは明らかである。 ウ 被告らが被告標章を商標的に使用していることは、被告サンセイが、平成20年5月14日、「名奉行金さん」と標準文字で表記した標章を、指定商品を第28類「遊戯用器具」として商標出願し、平成21年2月6日登録を受けていたこと(なお、その後、この商標は原告商標に類似しているとして無効が確定した。甲97、98、116)からも明らかである。 (2) 争点2−2(原告商標と被告標章の類否)について ア 商品の同一性 本件商標権の指定商品は、第28類「遊戯用器具」を含み、遊戯用器具(パチンコ機)である被告商品は、本件商標権の指定商品と同一である。 イ 原告商標 原告商標は、「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記したものであり、一連に表記されているため、「トオヤマノキンサン」との称呼が生じる。 遠山金四郎は、江戸時代後期に江戸町奉行等を歴任した実在の人物であるが、遅くとも明治時代中期より歌舞伎、小説、映画、テレビ時代劇を通じて、「遠山の金さん」などと称呼されて大衆に親しまれており、下情に通じた名奉行という人物像が広く一般に認識されている(甲68〜91、98)。そうすると、原告商標からは、「歴史上の人物である遠山金四郎」、及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」の観念が生じる。 ウ 被告標章 被告標章は、「CR松方弘樹の」、「名奉行金さん」という筆書きの字体が概ね2段にわたって配され、「CR」の文字は「松」の約2分の1の大きさで、「松」の左に縦書きで配され、その右に「松方弘樹の」の文字が横書きに配され、その下に、「名奉行」の文字が、「松」の縦横約2倍の大きさで横書きに配され、「行」の右に「金」の文字が「行」の縦横約2倍の大きさで配され、その右に、「さん」の2文字が、「金」の縦約3分1、横約4分の1の大きさで、やや右斜めの縦書きで配されている。別紙被告標章目録で見る限り、「CR松方弘樹の」の文字の色は、「名奉行金さん」の文字の色よりもやや濃い青色のまだら模様で表されている(もっとも、甲131からは色の差は読み取れない。なお、甲93、乙114によれば、被告商品の遊技中に、「CR松方弘樹」が青色、「名奉行金さん」が金色や赤色に光ることがある。)。 被告標章は、意味及び外観上、「CR」「松方弘樹の」「名奉行」「金さん」の4つの語が結合した商標とみられるところ、全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められないし、文字にして13字、音にして23音(シーアールマツカタヒロキノメイブギョウキンサン)から成る外観及び称呼が比較的長い商標であるから、簡易迅速性を重んずる取引の実際においては、その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものであるということができる(最高裁昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁[リラ宝塚事件]、同平成13年7月6日判決・判時1762号130頁[パームスプリングスポロクラブ事件])。 被告標章からは、「シーアールマツカタヒロキノメイブギョウキンサン」、(「CR」がCRパチンコ機を示す自他商品識別性のない部分であることから)「マツカタヒロキノメイブギョウキンサン」の称呼も生じ得るが、被告標章が「CR松方弘樹の」と「名奉行金さん」の2段書きであること、「CR松方弘樹の」と「名奉行金さん」とがそれぞれ一体的に構成されていること、「CR松方弘樹の」よりも「名奉行金さん」が全体として大きく書かれていること、「名奉行金さん」の語が名奉行として知られる遠山金四郎の呼称として著名であることなどからすると、「メイブギョウキンサン」の称呼も生じ得るものと認めるのが相当である。 また、上記遠山金四郎が名奉行として広く知られており、他の「金さん」が名奉行として知られている証拠はないから、被告標章からは、(「CR松方弘樹の名奉行金さん」から生じる)「俳優松方弘樹が演じる名奉行遠山金四郎の登場するCRパチンコ機」、(「松方弘樹の名奉行金さん」から生じる)「俳優松方弘樹が演じる名奉行遠山金四郎」といった観念のほか、(「名奉行金さん」から生じる)「歴史上の人物である遠山金四郎」、時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」といった観念も生じると認められる。 エ 類否判断 原告商標と被告標章とは、「金さん」の部分の外観及び称呼において一致するが、「遠山の金さん」「名奉行金さん」はそれぞれ一体として結合しているから、「金さん」の部分を要部と見る余地はなく、原告商標と被告標章は、外観及び称呼においては類似しない。 しかし、上記のとおり、原告商標と被告標章は、「歴史上の人物である遠山金四郎」、時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」という観念を生じる点において同一又は類似である。 オ 取引の実情等 被告らは、パチンコ機の取引者・需要者は、パチンコホール及び販売代理店(代行店)という特定の業者に限られており、風営法等の関係でメーカー名・機種名等の確認を慎重に行うため、パチンコ機を取引する際に出所の誤認混同を生じる余地がない、などと主張する。 パチンコ機等の取引者、需要者は、製造業者、遊技場営業者(パチンコホール)、販売代理店(代行店)、中古品販売業者などのほか、中古品等を売買する個人が含まれる(弁論の全趣旨)。また、パチンコ業界では、近年、「版権モノ」又は「タイアップ機種」と呼ばれるパチンコ機の人気が高まり、テレビアニメ、テレビドラマ、映画、漫画等のキャラクターを使用する例が少なくない(甲40、92)。そして、パチンコ機等の大部分は、遊技場(パチンコホール)に設置され、遊技者はパチンコ機等を売買することはないが、パチンコ機等に付された商標によりパチンコ機等の出所を認識、識別した上で利用するのが通常であり、また、遊技者の嗜好や人気が遊技場営業者(パチンコホール)や販売代理店(代行店)がどの機種を取扱うかということに大きく影響するから(甲92、公知の事実)、遊技者の認識等をも考慮して、商標の類否を判断することが合理的である。 以上の取引等の実情を総合考慮するならば、原告商標と被告標章とは、外観、称呼において類似しない点があるものの、歴史上の人物である「遠山金四郎」、及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」との観念を生じる点において類似することから、商品の出所につき誤認混同のおそれを生じさせるというべきである(知財高裁平成23年2月28日判決・甲98)。 カ 被告商品のハンドル及びパチンコ機最下部(甲93の赤丸で囲った部分)には、被告サンセイの登録商標である「SanseiR&D」の文字(乙51。ただし、「遊戯用器具」は乙51の指定商品となっていない。)が記載ないし刻印されている(訴状45頁、被告第1準備書面12頁により争いがないが、甲93、131の写真では読み取れない。乙96のようになっているものと推測される。)。 しかし、遊技者の認識等をも考慮すれば、上記のような被告サンセイの表示があるからといって、誤認混同のおそれを否定することはできない。 (3) 争点2−3(原告商標の商標法4条1項7号違反の有無)について ア 被告らは、原告商標は周知・著名な歴史上の人物である遠山金四郎の著名性に便乗する行為であって、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するおそれがある商標であるから、原告商標は商標法4条1項7号に該当し、46条1項1号又は5号により無効となるべきものであるから、39条、特許法104条の3により、原告らは権利を行使することができない、と主張する。 イ 商標法4条1項7号は、商標登録を受けることができない商標として、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」を規定しているところ、同項には、出願商標の構成自体が矯激な文字や卑猥な図形等である場合だけでなく、その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものであり、周知、著名な歴史上の人物名からなる商標について、特定の者が登録出願したような場合に、その出願経緯等の事情いかんによっては、何らかの不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため、当該商標の使用が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する場合が存在しないわけではない(知財高裁平成24年11月7日判決・判時2176号96頁[北斎事件])。 ウ 上記のとおり、原告商標は「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記したものであるところ、「遠山の金さん」の語は、「歴史上の人物である遠山金四郎」及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」を表すものとして著名である(甲68、69、85、90、乙58、59、63、67、108)。 もっとも、本件商標権の登録査定時である平成15年6月27日における著名性には、原告東映が昭和25年から昭和40年にかけて製作してきた映画シリーズ、昭和45年から基準時である平成15年まで放映してきたテレビシリーズが、かなりの程度寄与しているものと認められる(甲12〜26、85〜88、118)。 エ 東京都豊島区巣鴨の本妙寺にある遠山景元墓(乙67、75〜78)、東京都中央区八重洲の北町奉行所跡(乙68、83)、遠山金四郎の知行地であったといわれる千葉県いすみ市岬町岩熊地区の「名奉行遠山金四郎家顕彰碑」(乙69)、東京都墨田区菊川の遠山金四郎屋敷跡(乙70、71、79〜82)、遠山氏の菩提寺であった岐阜県恵那市明智町の龍護寺(乙84)など遠山金四郎ゆかりの地では、それぞれ遠山金四郎あるいは「遠山の金さん」の名称を観光に利用していることが認められ、長野県遠山郷では、遠山金四郎ないし遠山の金さんの名称を利用したイベント「遠山金四郎プロジェクト」を行っている(乙86)。 オ 「遠山の金さん」の名称の利用状況と本件商標権の指定商品についてみると、原告東映は、本件商標権について第9類及び第28類で多数の指定商品を指定しているが、上記遠山金四郎ゆかりの観光地において、「遠山の金さん」の名称を付した商品が販売されているか否かは明らかでなく、原告東映の本件商標権により、おもちゃ、人形などに「遠山の金さん」の名称を付すことができなくなり、各地域における観光事業や文化事業において土産物等の販売に支障を生ずる懸念がないとはいえないとしても、その支障は限定的なものにとどまるというべきである。 「遠山の金さん」の名称を付した商品としては、原告著作物の原作である(甲13、88)陣出達朗の「名奉行遠山の金さん」シリーズ(甲70、71、83、89)をはじめ、多数の書籍がある(甲72〜82、84、乙63)が、原告東映の本件商標権は、書籍や観光パンフレットなどに「遠山の金さん」の名称を用いることを何ら制限するものではない。 本件商標権の指定商品であるパチンコ機についてみると、遠山金四郎に関するパチンコ機として、タイヨーエレックの「CRかましの金ちゃん」(平成11年10月導入。乙39)、藤商事の「CR杉様のこれにて大当りA」(平成17年導入。乙40)、オリンピアの「CR元祖!大江戸桜吹雪SD」(平成20年2月導入。乙41)、平和の「CRA元祖!大江戸桜吹雪2 9AW」(平成22年4月導入。乙42)、原告大一商会の「CR遠山の金さん」(平成20年発売。甲38、39)、「CR遠山の金さん〜燃えよ桜吹雪〜」(平成23年6月発売。乙43)、及び被告らの「CR松方弘樹の名奉行金さん」(平成21年11月発売。被告商品)があるが、原告大一商会のもの及び被告商品を除いては「遠山の金さん」又はこれに類似する名称を使用するものではない。 藤商事の「CR杉様のこれにて大当りA」、オリンピアの「CR元祖!大江戸桜吹雪SD」、平和の「CRA元祖!大江戸桜吹雪2 9AW」に関しては、原告東映の申入れを受けて解決がなされている(甲100、101)。 カ 原告東映は、実在の遠山金四郎と関わりのある者ではないが、遠山金四郎を題材とした本件金さんシリーズを1950年代から製作、放映し、「遠山の金さん」の著名性の増大に寄与してきた者であり、「遠山の金さん」の名称が付された商品や役務が無制限に流通すれば、場合によってはその出所を原告東映と誤認混同されかねない立場にある者である。 原告東映による原告商標の出願について、公益的事業の遂行を阻害する目的など、何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし、その他、本件全証拠によっても、出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。 キ 以上によれば、本件商標権の登録査定時においても本件口頭弁論終結時現在においても、原告商標に商標法4条1項7号の無効事由があるとは認められない。 3 争点3(差止請求の可否)について (1) 原告らは、被告商品の販売が終了した後も、被告映像が収載された被告部品が修理等の際に交換又は提供される蓋然性が高く、原告東映は、著作権法112条1項に基づき、被告部品の交換又は提供の差止請求権を有すると主張する。 被告サンセイは、平成22年3月10日の出荷をもって被告商品の販売活動を終了し、同年4月16日には販売代行店に被告商品の完売宣言を通知している(甲65)。 そして、被告サンセイは、被告商品の販売が終了した後も、被告商品の耐用期間内に故障等の不具合が生じ、補修が必要となった場合に備えて、被告映像の収載された被告部品を保持し続け、パチンコホールからの要請があれば被告部品の交換又は提供を伴う被告商品の補修に対応する準備をしていた(甲113〜115、弁論の全趣旨)。 しかし、被告商品は、平成25年1月27日をもって、各都道府県の公安委員会による検定(風営法20条4項)の有効期間が全て終了し、被告商品の補修を行う必要もなくなったため、被告サンセイは、平成25年2月19日までに、被告部品を全て廃棄したことが認められる(乙113)。 そうすると、被告サンセイが被告映像の収載された被告部品を交換又は提供するおそれは既に失われたものと認められ、差止めの必要性は認められない。 (2) なお、原告東映は、商標法36条1項に基づいても差止請求をするが、被告部品には被告標章は付されておらず、被告部品の交換・提供は被告標章の「使用」(商標法2条3項各号)にもみなし侵害(同法37条各号)にも当たらないから、本件商標権に基づく被告部品の交換又は提供の差止請求は主張自体失当である。 4 争点4(損害賠償請求の可否及び損害額)について (1) 争点4−1(被告らの著作権侵害の故意過失)について 被告らは、被告らには著作権侵害に係る故意・過失はなかったと主張する。 しかし、上記1(3)のとおり、被告映像は、著作物であることが明らかな原告松方映像6−1に依拠したものと認められるのであるから、被告らには著作権侵害につき故意又は過失があったことは明らかである。 (2) 争点4−2(原告東映の著作権法114条2項に基づく請求の可否)について ア 被告らは、著作権法114条2項は売上減少による逸失利益額の推定規定であるから、著作権者自ら侵害品と競合する製品を販売していない場合には適用がなく、原告東映、原告BFK及び原告大一商会はあくまで別の法的主体であるから、仮に原告大一商会が競合品を販売していたとしても原告東映が競合品を販売したことにはならず、そもそも原告大一商会の商品と被告商品は競合しないから、原告東映に著作権法114条2項に基づく損害は認められない、などと主張する。 イ そこで、本件の事実関係についてみると、原告東映は、原告BFKとの間で、橋幸夫主演の東映TV映画シリーズ「ご存じ金さん捕り物帳」の商品化を、平成16年6月11日から平成21年6月10日まで独占的に許諾していたこと(甲28〜30、104)、杉良太郎主演の東映テレビ映画「遠山の金さん」の商品化を、平成20年7月1日から平成23年6月30日まで独占的に許諾していたこと(甲31、105)、原告BFKは、原告大一商会との間で、原告BFKが商品化権使用許諾権を有している「遠山の金さん」の商品化を、平成16年6月11日から平成21年12月10日まで独占的に再許諾していたこと(甲32〜35、106)、原告BFKが商品化権使用許諾権を有している「遠山の金さん−杉良太郎シリーズ−」の商品化を、平成20年7月1日から平成23年6月10日まで独占的に許諾していたこと(甲36、107)、原告大一商会は、平成20年10月以降、橋幸夫主演の「ご存じ金さん捕り物帳」の映像を用いたパチンコ機「CR遠山の金さん」を製造していること(甲37〜40(枝番含む。))が認められる。 以上によれば、原告東映は、原告東映が著作権を有する橋幸夫主演のテレビシリーズ「ご存じ金さん捕り物帳」の著作権を、原告BFK、原告大一商会を通じてパチンコ機に利用していたのであるから、原告著作物を含む本件松方作品についても、パチンコ機に利用して利益を得られる蓋然性があり、被告らによる著作権侵害行為がなかったならば、原告著作物をパチンコ機に利用して利益が得られたであろうという事情があったものと認められる。 そうであれば、本件の事情の下では、原告東映は、著作権法114条2項に基づき、被告らの得た利益を損害と推定することができると解するのが相当である。 このことは、原告東映が原告著作物についても原告BFK、原告大一商会に独占的に利用許諾していたか否か、杉良太郎主演の「遠山の金さん」の映像を用いた原告大一商会の「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪」が不具合により全品回収することになったか否か、原告大一商会の「CR遠山の金さん」「CR遠山の金さん〜燃えろ桜吹雪」と被告商品とがスペック、ゲーム性、登場する俳優その他映像内容等が異なるか否かによって左右されるものではない。 (3) 争点4−3(原告BFKの著作権法114条2項に基づく請求の可否)について ア 原告らは、原告BFKは、原告著作物を含む本件金さんシリーズの商品化につき、独占的利用許諾を受けていると主張する。 原告らは、上記のとおり、橋幸夫主演の「ご存じ金さん捕り物帳」についての契約書(東映版契2004第205号)(甲28、104)、杉良太郎主演の「遠山の金さん」についての契約書(東映版契2008第252号)(甲31、105)を提出するものの、原告著作物を含む本件松方作品について、あるいは本件松方作品を含む本件金さんシリーズについて、原告東映と原告BFKとの間で締結された契約書を提出していない。 この点、原告東映のテレビ商品化権営業部長であるABらは、原告東映では契約期間中に他社に対して同じシリーズの商品化を許諾することはなく、同じ作品そのもののみならず、同じシリーズの別の作品も許諾することはない、このため、橋幸夫主演のシリーズと、杉良太郎主演のシリーズの商品化権を原告BFKに許諾している以上は、契約期間中は、松方弘樹主演のシリーズを含むその他の俳優が主演する本件金さんシリーズの商品化権を他社に許諾することはあり得ない、などと陳述している(甲12、108、127)。 しかし、上記のとおり、原告東映が著作権の利用許諾を書面により対象著作物、対象期間を定めて契約書を締結して行っているのに、本件松方作品については契約書を締結していないことからすれば、原告BFKが、原告著作物を含む本件松方作品について、あるいは本件松方作品を含む本件金さんシリーズについて独占的利用許諾を受けていると認めることはできない。 イ 原告東映と原告BFKとの間の平成20年7月1日付け商品化契約書第12条によれば、原告BFKが「キャラクターの著作権を侵害し、またはその他の方法でこの契約に基づく商品化事業に対して不正競争を行う者」を発見したときは、原告BFKは原告東映に通知し、原告東映は当該第三者の行為に対し適切な措置をとるよう原告BFKと協力して最善の努力をしなければならない(甲105)。 しかし、そこでいう「キャラクターの著作権」とは、同契約の前文、第1条(1)で定義される、「杉良太郎主演の東映テレビ映画「遠山の金さん」のキャラクター及びその名称」についての著作権であり、本件松方作品の著作権を含むものとみることはできない。もとより、「遠山の金さん」という名称について原告東映が著作権を主張できるものではない。 したがって、上記条項があったとしても、原告BFKの請求権を基礎づけることはできない。 ウ 以上によれば、原告BFKの著作権法114条2項に基づく請求は理由がない。 (4) 争点4−4(原告大一商会の著作権法114条2項に基づく請求の可否)について 原告BFKが原告著作物について独占的利用許諾を受けていると認められない以上、原告大一商会が原告著作物について独占的利用再許諾を受けているとも認められない。 したがって、原告大一商会の著作権法114条2項に基づく請求は理由がない。 (5) 争点4−5(原告東映の商標法38条2項に基づく請求の可否)について ア 被告らは、原告東映は自ら業として原告商標を使用しておらず、競合製品を販売していないから、商標法38条2項の適用を受けることはできないと主張する。 イ 原告東映は、被告商品の販売開始前である平成20年7月1日、原告BFKに対し、杉良太郎主演の「遠山の金さん」の著作物の使用及びそれに基づく商品化を独占的に許諾している(甲31、105)ところ、この商品化許諾に当たり、原告BFKが「遠山の金さん ぱちんこ機」という商品を製造販売することが予定され(甲31、105の各1条(2))、「遠山の金さん」をパチンコ機の名称に商標的に使用することが想定されていたのであるから、本件商標権について通常使用権を黙示に設定していたものと認められる。 ウ 原告BFKが原告大一商会に杉良太郎主演の「遠山の金さん」の著作物の使用及び商品化を再許諾するに当たっても、本件商標権の通常使用権を黙示に設定していたものと認められる。 エ そして、原告大一商会が「CR遠山の金さん」を製造、販売し、「遠山の金さん」の標章をパチンコ機について使用していた以上、原告東映は、原告BFK、原告大一商会を通じ、原告商標をその指定商品である第28類「遊戯用器具」に使用していたものである。 オ したがって、原告東映は、商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができる。 (6) 争点4−6(原告BFKの商標法38条2項に基づく請求の可否)について ア 原告らは、原告BFKは、本件商標権につき、独占的通常使用権の設定を受けていると主張する。 そこで、原告BFKに黙示に設定された通常使用権が独占的なものか否か検討する。 原告BFKは、許諾期間中の杉良太郎主演の「遠山の金さん」のパチンコ機への商品化については独占的に使用を許諾されているものである(甲31、105)。このことからすれば、商品化に伴う原告商標の使用についても独占的な通常使用権が設定されたと考えるのが自然である。 イ 杉良太郎主演の「遠山の金さん」の商品化許諾期間は平成20年7月1日から平成23年6月30日までであるから(甲31、105)、原告BFKが本件商標権の独占的通常使用権を有していたのも同期間に限られる。 被告商品の販売期間は平成22年1月から同年4月16日までであるから(争いがない。)、この被告商品販売期間において、原告BFKは「遠山の金さん」の商品化権に伴う原告商標の独占的通常使用権を有していた。 商標法38条2項は独占的通常使用権者にも類推適用されると解するのが相当であるから、原告BFKは、平成23年6月30日までの被告らの利益につき、商標法商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができる。 (7) 争点4−7(原告大一商会の商標法38条2項に基づく請求の可否)について ア 原告大一商会は、許諾期間中の杉良太郎主演の「遠山の金さん」のパチンコ機への商品化につき、独占的に使用を許諾されているものであり(甲36、107)、原告商標の使用についても、原告BFKが原告東映から黙示に付与された独占的通常使用権再設定権に基づき、独占的通常使用権の再設定を受けていたものと認められる。 イ 商品化許諾期間は平成20年7月1日から平成23年6月10日までであり(甲36、105)、原告第一商会が独占的通常使用権を有していたのも同期間に限られるから、原告第一商会は、平成23年6月10日までの被告らの利益につき、商標法38条2項に基づいて損害賠償を求めることができる。 (8) 争点4−8(被告商品の販売数量及び利益率)について ア 販売数量 計算鑑定の結果によれば、平成20年度(平成20年4月〜平成21年3月)から平成22年度(平成22年4月〜平成23年3月)までのうち、被告商品の販売が行われたのは平成21年度(平成21年4月〜平成22年3月)のみであり、その販売数量は4万2993台(うち2台は外枠なしの遊技盤のみ)であったと認められる。 イ 売上高 計算鑑定の結果によれば、被告商品の売上高は、157億9484万6000円であったと認められる。 ウ 変動費 (ア) 計算鑑定の結果によれば、被告商品の製造販売数量に対して比例的に増減する変動費として、●省略●が変動費と認められる。 (イ) 被告らは、計算鑑定では上記@の材料費につき平成21年度の製造原価報告書における材料費を販売数量に応じて按分した額(●省略●)としているが、原価計算関係書類に基づき算出すれば材料費は少なくとも●省略●であると主張する。 しかし、計算鑑定の結果(計算鑑定人の平成25年11月29日付け意見書)によれば、被告サンセイにおいて精度ある製品別の原価計算は実施されておらず、被告サンセイの原価計算関係書類はエクセル書式によるものでシステムにより管理されているものではなかったというのであるから、計算鑑定が平成21年度の製造原価報告書における材料費を販売数量に応じて按分したことは相当である。 被告らは、公認会計士の意見書(乙120、121、126、127)、被告サンセイ経理部員の陳述書(乙125)を提出するが、原価計算関係書類の原本を開示しない以上、その精度について判断することはできず、計算鑑定の結果を覆すに足りない。 エ 個別固定費 (ア) 計算鑑定の結果によれば、被告商品の製造販売に直接的に必要な個別固定費として、●省略●が個別固定費と認められる。 (イ) 原告らは、@そもそも個別固定費は控除されるべきではない、A仮に個別固定費を控除するとしても、新型枠に対応するための投資に係る減価償却費(製造)(上記(ア)@の一部)及び新型枠導入に係る消耗品費(製造)(上記(ア)Aの一部)は控除されるべきではない、B仮にそれら新型枠投資等を控除するとしても、被告商品のための減価償却費及び消耗品費を算出するに当たっては、総販売数量で按分するのではなく、現時点までの新型枠を使用した機種の総販売数量によって按分すべきである、C製品材料廃棄損(上記(ア)D)は控除されるべきでない、D仮に控除するとしても、他機種に流用可能な部材の廃棄費用やもともと他機種に使用するつもりで購入していた部材の廃棄費用は控除されるべきではない、と主張する。 しかし、まず@の点については、被告商品の製造販売に直接必要な経費(個別固定費)であれば、固定費であっても売上から控除するのが相当である。 Aの点について、計算鑑定の結果によれば、被告商品の製造から新型枠を採用していたというのであるから、新型枠に対応するための投資に係る減価償却費(製造)(上記(ア)@の一部)及び新型枠導入に係る消耗品費(製造)(上記(ア)Aの一部)は、被告商品の製造販売に直接必要な経費であったといえる。 Bの点について、新型枠が他機種にも転用可能な部材であれば、そのための経費は個別固定費とはいえないが、平成21年度において新型枠は専ら被告商品のみに用いられていたものと認められるから(弁論の全趣旨)、新型枠に対応するための投資に係る新型枠製造設備等の減価償却費、新型枠導入に係る消耗工具、コピー代等の消耗品費は、平成21年度においては専ら被告商品のための経費(個別固定費)と認めるのが相当であり、計算鑑定が、その額を、平成21年度の製造に係る新規投資の減価償却費を、平成21年度の総販売数量に対する被告商品の販売数量の割合で按分して算出したことも相当である。 Cの点について、製品材料廃棄損(上記(ア)D)は、被告商品の販売が見込めず製造が終了となった製品の廃棄費用であるが、製品のライフサイクルが短いパチンコ業界においては、販売機会のロスを発生させないためやむをえず部材の調達を先行しておかなければならない状況下にあるというのであるから(計算鑑定の結果)、計算鑑定がこれを個別固定費に算入したことは相当である。 Dの点について、他機種に流用可能な部材の廃棄費用であれば個別固定費に当たらないが、他機種に流通可能な部材であれば、被告サンセイにおいても廃棄せずに他機種に流用したと考えられるし、またそのような部材の廃棄費用であれば計算鑑定人において製品材料廃棄損から除外したと考えられる。計算鑑定において個別固定費とした製品材料廃棄損の中に、他機種に流用可能な部材の廃棄費用やもともと他機種に使用するつもりで購入していた部材の廃棄費用が含まれていると認めるに足りる証拠はない。 (ウ) 被告らは、計算鑑定は減価償却費(製造)(上記(ア)@)につき平成21年度の製造に係る新規投資の減価償却費を販売数量に応じて按分した額(●省略●)としているが、固定資産台帳で新型枠製造設備を特定した上でその減価償却費を集計すれば、減価償却費(製造)は●省略●であると主張する。 しかし、計算鑑定の結果(計算鑑定人の平成25年11月29日付け意見書)によれば、固定資産台帳からは新型枠製造設備は特定できなかったというのであるから、計算鑑定が平成21年度の製造に係る新規投資の減価償却費を、平成21年度の総販売数量に対する被告商品の販売数量に応じて按分したことは相当である。 被告サンセイ経理部員の陳述書(乙125)には、新型枠に係る減価償却費は、固定資産台帳の「資産名」に新型枠の金型及び治具であることを示す「08枠」の記載の有無で区別できる旨の記載があるが、固定資産台帳の原本を開示しない以上、その正確性、妥当性を判断することはできず、計算鑑定の結果を覆すに足りない。 (エ) 被告らは、計算鑑定が共通固定費として控除しなかった試験研究費(開発)について、@その全額●省略●が個別固定費として控除されるべきであり、A少なくとも被告商品の最終的な開発機種コードにより集計された●省略●は控除されるべきである、と主張する。 しかし、試験研究費を含む開発費は、一般に製品の販売を達成し収益を獲得できるか不確実な費用であるから、たまたま開発が製品販売に結びついたものについても、それをもって個別固定費とするのは相当でない(これが個別固定費に当たるとすると、製造販売年度の開発費のみを考慮したのでは製品によって不平等が生じ、開発が長期にわたる製品については、製造販売期間にかかわらず長期の計算書類を計算鑑定の対象としなければならなくなり、実務上も不都合である。)。 オ 貢献利益 以上によれば、計算鑑定の結果のとおり、被告らが被告商品により得た利益(貢献利益)は、被告商品の売上高157億9484万6000円から、変動費●省略●、個別固定費●省略●を控除した●省略●と認められる。 (9) 争点4−9(原告著作物の寄与率)について 被告商品に内蔵されている被告映像は、@白州ボーナス中に展開される被告金さん物語映像、Aリーチ中に展開される被告立ち回りリーチ映像、Bリーチが外れた後、一定の場合に展開される被告御用映像、Cリーチ中に展開される被告白州リーチ映像、D被告商品が稼働していない状態で「PUSH」ボタンを押すと展開される被告プロモーション映像、等から成るが、そのうち、著作権侵害が認められるのは、@被告金さん物語映像中のNo.31、No.40の一部(桜吹雪披露場面)、及びA被告立ち回りリーチ映像の一部(桜吹雪披露場面)である。 被告商品の遊技中において、被告金さん物語映像は、被告商品の液晶画面中の3つのリール映像の漢数字又は文字が一致した場合の「白州ボーナス」が発生している間にNo.0から順に展開されるものであり(甲48、乙52、114)、遊技者が被告金さん物語映像のNo.31、No.40を視聴することができる可能性はかなり低いといえる(パチンコ機1台当たりの1日平均稼働時間は4.6時間であり(乙53)、パチンコホールは通常、1日の営業終了後にパチンコ機の電源を切り、被告金さん物語映像の進捗は翌日に引き継がれない(乙52)ところ、乙114の実験では、約5時間01分の稼働中に表示された被告金さん物語映像は、No.0からNo.3までであり、No.31及びNo.40は表示されなかった。)。 また、被告立ち回りリーチ映像が展開されるのは、液晶画面中の左右のリール映像の漢数字又は文字が一致した場合の「リーチ」が発生している間に限られるところ、「リーチ」中に展開される映像には被告立ち回りリーチ映像以外にも様々なリーチ映像があり、遊技者が被告立ち回りリーチ映像を視聴する機会は、それほど多いものではない(乙114の実験では、約5時間01分の稼働中、被告立ち回りリーチ映像の桜吹雪披露場面のうち仮処分が侵害と認定した、被告立ち回りリーチ映像の00:35〜00:38の場面が現れたのは計12秒(0.066%)であった。)。 しかし、他方、パチンコ機には、アニメや映画、ドラマの人気キャラクターを取り扱った「キャラ機種」と、それを取り扱わない「ノンキャラ機種」とがあるが、平成23年当時、パチンコ機全体の約99%が「キャラ機種」であり、パチンコ機にいかなるキャラクターが使用されているかは、遊技者が遊技するパチンコ機、パチンコ店が購入するパチンコ機を決定するときの重要な要素となっていたというのであり(甲92、122、158〜164)、遊技者やパチンコ店にとって、被告商品に「遠山の金さん」の映像(被告映像)が内蔵されていることは、遊技者やパチンコ店等の需要者にとって重要な要素であるといえる。 そして、需要者にとって、被告映像の中でも、立ち回りシーン及びお白州シーンでの桜吹雪披露シーンは、最も関心の高いシーンであるといえる。これらの事情を総合考慮すると、被告商品の貢献利益に対する被告映像の寄与は全体の●省略●、被告映像に対する著作権侵害部分(桜吹雪披露シーン)の寄与はその●省略●と認めるのが相当であり、そうすると、著作権侵害により原告東映が被告らに請求できる損害賠償の額は、以下のとおり、1億6664万9166円となる。 ●省略●=166,649,166(1円未満四捨五入) (10) 争点4−10(原告商標の寄与率)について 原告商標「遠山の金さん」に類似する被告標章「CR松方弘樹の名奉行金さん」は、パチンコ機である被告商品の商品名を示す標章として、被告商品の盤面中央のディスプレイ上部に大きく表示されている。 上記(9)のとおり、パチンコ機にいかなるキャラクターが使用されているかは、遊技者が遊技するパチンコ機、パチンコ店が購入するパチンコ機を決定するときの重要な要素となっていたというのであり、遊技者やパチンコ店にとって、被告標章「CR松方弘樹の名奉行金さん」は、松方弘樹演じる「遠山の金さん」の映像が内蔵されているパチンコ機であることを一目で表す標章として重要な役割を果たしているといえる。 これらの事情を総合考慮すると、被告商品の貢献利益に対する被告標章の寄与は全体の●省略●と認めるのが相当である。 そうすると、商標権(及びその独占的通常使用権)侵害により原告らが被告らに請求できる損害賠償の額は、以下のとおり、5億5549万7220円となる(この額は、上記(9)の著作権侵害による損害額とは重なり合わず、著作権侵害による損害賠償金の支払によって減少する関係にはない。)。 ●省略●=555,497,220(1円未満四捨五入) (11) 争点4−11(弁護士費用)について 上記(9)(10)によれば、原告らの損害額は合計7億2214万6386円(うち著作権侵害による原告東映の単独債権が1億6664万9166円、商標権侵害による原告ら3名の連帯債権が5億5549万7220円)となるところ、被告らの共同不法行為と相当因果関係のある相当な弁護士費用としては、原告東映につき1400万円(著作権侵害につき600万円、商標権侵害につき800万円)、原告BFK、原告大一商会につき各800万円を認めるのが相当である。 5 結論 以上によれば、以下のとおりである。 (1) 原告東映は、被告らに対し、被告らが共同して原告東映の著作権(複製権、頒布権)を侵害した共同不法行為に基づき、民法709条、719条、著作権法114条2項に基づく損害として1億6664万9166円、民法709条、719条に基づく弁護士費用相当額の損害として600万円の合計1億7264万9166円及びこれに対する不法行為の終了した日である平成22年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができ、これは被告ら2名の不真正連帯債務である。 (2) 原告らは、被告らに対し、被告らが共同して、原告東映の本件商標権、原告BFK、原告大一商会の本件商標権の独占的通常使用権を侵害した共同不法行為に基づき、民法709条、719条、商標法38条2項に基づく損害として5億5549万7220円及びこれに対する不法行為の終了した日である平成22年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができ、これは被告ら2名の不真正連帯債務、原告ら3名の不真正連帯債権であり、原告東映の上記(1)の債権とは別個の(不真正連帯債権関係に立たない)債権である。 (3) 原告らは、被告らに対し、被告らが共同して、原告東映の本件商標権、原告BFK、原告大一商会の各独占的通常使用権を侵害した共同不法行為に基づき、民法709条、719条に基づく弁護士費用相当額の損害として、原告ら3名につき各800万円及びこれに対する不法行為の終了した日である平成22年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができ、これは被告ら2名の不真正連帯債務、原告ら3名につきそれぞれ別個の(不真正連帯債権関係に立たない)債権であり、上記(1)、(2)の債権とも別個の債権である。 被告らの支払総額は、(1)の(原告東映に対する)1億7264万9166円、(2)の(原告ら各自に対する)5億5549万7220円、(3)の(原告らに対する合計)2400万円の合計7億5214万6386円及び遅延損害金となる。 原告東映が請求できる金額は、(1)の1億7264万9166円、(2)の5億5549万7220円、(3)の800万円の合計7億3614万6386円及び遅延損害金である。 原告BFKが請求できる金額は、(2)の5億5549万7220円、(3)の800万円の合計5億6349万7220円及び遅延損害金である。 原告大一商会が請求できる金額は、(2)の5億5549万7220円、(3)の800万円の合計5億6349万7220円及び遅延損害金である。 (4) 原告東映の差止請求及び原告らのその余の損害賠償請求は理由がないから棄却する。 (5) 民事訴訟法61条、64条、65条に基づき、訴訟費用(計算鑑定費用を含む。)はこれを5分し、その3を原告らの負担とし、その2を被告らの負担とする。 (6) 民事訴訟法259条に基づき、主文第1項ないし第4項につき仮執行宣言を付することとする。 (7) よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判官 西村康夫 裁判官 森川さつき 裁判長裁判官 大須賀滋は、転補のため署名押印することができない。 裁判官 西村康夫 |
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