判例全文 line
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【事件名】自動接触角計プログラム侵害事件
【年月日】平成26年4月24日
 東京地裁 平成23年(ワ)第36945号 損害賠償等請求事件(A事件)、 平成24年(ワ)第25059号 著作権侵害差止等請求事件(B事件)、 平成25年(ワ)第9300号 損害賠償請求反訴事件(C事件)
 (口頭弁論の終結の日 平成26年1月28日)

判決
A事件、B事件原告・C事件被告 協和界面科学株式会社(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 川井理砂子
同 松村譲
同補佐人弁理士 佐原雅史
A事件、B事件被告・C事件原告 株式会社ニック(以下「被告ニック」という。)
B事件被告・C事件原告 株式会社あすみ技研(以下「被告あすみ技研」という。)
A 事件、 B事件被告 乙A(以下「被告乙A」という。)
B事件被告 乙B(以下「被告乙B」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 永田玲子
同 植田貴之


主文
1 被告ニック及び被告乙Aは、原告に対し、連帯して190万1258円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告ニック及び被告乙Aに対するその余の請求、被告あすみ技研及び被告乙Bに対する請求並びに被告ニック及び被告あすみ技研の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、全事件を通じ、原告に生じた費用の50分の47、被告ニックに生じた費用の5分の4、被告乙Aに生じた費用の25分の24、被告乙Bに生じた全ての費用及び被告あすみ技研に生じた費用の5分の4を原告の負担とし、原告に生じた費用の50分の1及び被告ニックに生じたその余の費用を同被告の負担とし、原告に生じた費用の50分の1及び被告乙Aに生じたその余の費用を同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用及び被告あすみ技研に生じたその余の費用を同被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 A事件
 被告ニック及び被告乙Aは、原告に対し、連帯して1084万2000円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 B事件
(1) 被告ニックは、別紙被告プログラム目録記載2及び3のプログラムを複製又は翻案してはならない。
(2) 被告ニックは、別紙被告製品目録記載1ないし5の製品を販売し、販売のため展示し又は被告あすみ技研をして販売させ、販売のため展示させてはならない。
(3) 被告あすみ技研は、別紙被告製品目録記載1ないし5の製品を販売し、又は販売のために展示してはならない。
(4) 被告ニック及び被告あすみ技研は、別紙被告製品目録記載1ないし5の製品及び半製品(別紙被告製品目録記載1ないし5の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)、別紙被告プログラム目録記載2及び3のプログラムを格納したCD−ROM、フラッシュメモリー、ハードディスクその他記憶媒体を廃棄せよ。
(5) 被告ニック及び被告乙Aは、原告に対し、連帯して4050万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告乙Aは、原告に対し、256万4090円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告乙Bは、原告に対し、188万1350円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 C事件
(1) 原告は、被告ニックに対し、1000万円を支払え。
(2) 原告は、被告あすみ技研に対し、200万円を支払え。
第2 事案の概要
(1) A事件は、原告が、@被告ニックの製造、販売する自動接触角計に搭載されたプログラムは被告ニックが被告乙Aの担当の下に原告のプログラムを複製又は翻案したもので、被告ニックが自動接触角計を製造、販売することは原告のプログラムの著作物の著作権を侵害する、A被告乙Aは原告の営業秘密である上記プログラムやそのアルゴリズムを不正に開示し、被告ニックはこれを不正に取得した、B原告の従業員であった被告乙Aは原告の秘密を保持すべき義務を負う秘密情報を開示、漏洩したなどと主張して、被告ニック及び被告乙Aに対し、民法719条又は不正競争防止法4条(被告乙Aについてさらに民法415条)に基づき、損害金994万2000円と弁護士費用相当損害金90万円の合計額1084万2000円及びこれに対する不法行為の後であり、訴状送達の最も遅い日の翌日である平成23年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案であり、(2) B事件は、原告が、被告ニックの上記プログラムの新バージョンも被告ニックが被告乙Aの担当の下に原告プログラムを翻案したもので、これを搭載した自動接触角計を被告ニックが製造、販売し、被告あすみ技研が販売することは原告のプログラムの著作物の著作権を侵害する、A被告乙Aは原告の営業秘密である原告のプログラムやそのアルゴリズムを不正に開示し、被告ニック及び被告あすみ技研はこれを不正に取得した、B被告乙Aは原告の秘密を保持すべき義務を負う秘密情報を開示、漏洩したなどと主張して、被告ニック及び被告あすみ技研に対し、著作権法112条又は不正競争防止法3条に基づき、被告ニックの上記プログラムの複製、翻案や販売等の差止め及びプログラム等を格納した記憶媒体の廃棄を求め、被告ニック及び被告乙Aに対し、民法719条又は不正競争防止法4条(被告乙Aについてさらに民法415条)に基づき、損害金3750万円と弁護士費用相当損害金300万円の合計額4050万円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、原告の従業員であった被告乙B及び被告乙Aには原告在職中に非違行為があったと主張して、被告らに対し、民法703条に基づき、支払済みの退職金188万1350円(被告乙B)又は256万4090円(被告乙A)及びこれらそれぞれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり、(3) C事件は、被告ニック及び被告あすみ技研が、原告がしたB事件の訴訟提起は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く、原告が訴訟提起に関して行ったホームページなどにおける告知行為は虚偽事実の告知又は流布に当たるなどと主張して、原告に対し、民法709条に基づき、被告ニックが損害金1000万円、被告あすみ技研が損害金200万円の各支払を求める事案である。
1 前提事実(争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、理化学機器の開発、設計、製造及び販売等を営む株式会社である。
イ 被告ニックは、原告の元従業員であったC(以下「C」という。)及び被告乙Bが平成21年4月17日に設立した測定機器の企画、設計、製造及び販売等を営む株式会社であり、被告あすみ技研は、各種機械装置の開発、製造、販売、リース、レンタル、保守管理及び輸出入に関する業務等を営む株式会社である。被告乙Bは、平成8年8月19日に労働契約を締結して原告に入社して研究開発部開発課課長などを務め、平成21年4月15日に原告を退職したものであり、被告乙Aは、平成7年4月3日に労働契約を締結して原告に入社し、製造開発部等に所属し、平成21年8月31日に原告を退職し、その後被告ニックに入社したものである。
(2) 原告のプログラム及び製品
ア 原告は、平成10年12月から、被告乙Aを主要な担当者として接触角(静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で、液面と固体面とのなす角。液の内部にある角を採る。)を自動で測定するための自動接触角計に搭載するプログラムの開発に着手し、平成21年7月9日に別紙原告プログラム目録記載のプログラム(以下「原告プログラム」という。)を完成させた。
 原告プログラムは、プログラム言語Visual Basic Version 6(以下「VB」という。)を用いて記述された多機種対応型のプログラムであり、接触角計測機能(液滴法・側面観察、拡張収縮法、滑落法、θ/2法、接線法及びカーブフィッティング法)のほか、液体の表面張力測定機能、固体の表面自由エネルギー解析機能等を有する。
 原告プログラムの一部をなす「接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「原告接触角計算(液滴法)プログラム」という。)は、θ/2法、接線法により液滴の接触角を計測するため、固体試料上に作成した液滴を水平方向から撮影した画像を解析し、端点、頂点、円弧状の左右3点の座標を求めて接触角を自動計測する機能を有している。
 原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、概ね、別紙「FAMAS ver3.1.0接触角(液滴法)計算部分(i2winにない機能も含む)」(以下「原告ツリー図」といい、原告ツリー図中の(1)から始まる番号を以下の各所のプログラムの記載における通し番号として用いる。)のとおりであり、θ/2法及び接線法による接触角計算のための主要なプログラムである番号(1)ないし(16)の16個のプログラム(以下「本件対象部分」という場合がある。)のソースコードの内容は、番号順に別紙【別添8-2】、【別添9−2】、【別添10−2】、【別添11−2】、【別添12−2】、【別添13−2】、【別添14−2】、【別添15−2】、【別添16−2】、【別添17−2−2】、【別添18−2】、【別添19−2】、【別添20−2】、【別添21−2】、【別添22−2】及び【別添23−2】(以下、併せて「ソースコード対照表1」という。)の各「FAMASソース(元のソースコードそのまま)」欄に記載のとおりである(なお、【別添17−1−2】の上記欄にも【別添17−2−2】の上記欄に記載のものと同一のソースコードが記載されている。)。
 原告プログラムのソースコードは、実行ファイルサイズで10.4MB、ソースコードサイズで12.5MB、ソースコードファイル132個、行数17万0672行からなり、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコード(ただし、番号(17)ないし(24)のプログラム分を除く。)は、別紙「ソースコード行数」の「FAMAS関数(Ver.3.1.0)」欄の「行数」欄「合計」欄記載のとおり、2525行(本件対象部分の合計は2055行)である。
(甲7、27、38)
イ 原告は、自動接触角計である別紙原告製品目録記載の各製品(以下、目録記載の番号順に「原告製品1」のようにいい、併せて「原告各製品」という。)を製造、販売している。原告各製品は、試料(固体)ステージ、レンズ、カメラ及び液滴を作るための注射器を備え、専用のソフトウエアである原告プログラムを搭載している。原告各製品は、接触角の測定の方法として液滴法を用いており、具体的な接触角の測定方法は、機器に備え付けられた注射器の針先に液滴を作成し、これに固体表面を近づけて着滴させ、着滴した液滴をCCDカメラで撮影し、その画像を解析して接触角を測定するというものである。
 なお、原告が、新規に取引を行う顧客(以下「新規顧客」という。)に対し、原告プログラムのみを販売することはない。
(3) 被告ニックのプログラム及び製品
ア 被告ニックは、被告乙Aを主要な担当者とし、原告プログラムを参考にして、別紙被告プログラム目録記載1のプログラム(以下「被告旧バージョン」という。ただし、開発及び販売開始の時期には争いがある。)を完成させた。
 被告旧バージョンは、接触角計測機能を有するプログラムであり、そのうちの一部をなす「接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「被告旧接触角計算(液滴法)プログラム」という。)は、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様の機能を有している。
 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの構造は、概ね、別紙「被告の旧バージョンにおける接触角計算メインのプログラム構成」(以下「被告旧ツリー図」という。)のとおりであるが(原告ツリー図の番号と同一の番号のものは原告のプログラムと同様の機能を有することを示す。)、他に上面画像に対してX座標基準で液体輪郭検出レベルの計算を行うという原告接触角計算(液滴法)プログラムにない機能に関するプログラムである「s_calc_outline_detect_level_x」(以下、同プログラムを「(10-1)のプログラム」という。また、その番号を「(10-1)」といい、「(10) 閾値自動計算(s_calc_outline_detect_level_y) 」プログラムの番号を「(10-2)」という場合がある。)があり、「(1) 接触角計算メイン」から「(16) 接線法計算」までの16個に(10-1)のプログラムを加えた各プログラムのソースコードの内容は、番号順にソースコード対照表1の各「i2winソース(改変前)」欄に記載のとおりである(ただし、改行位置に多少のずれがある。)。
 被告旧バージョンのソースコードは、ソースコードファイル20個、行数1万8738行からなり、うち被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、 別紙「ソースコード行数」の「i2win関数(VER.1.1.0)」欄の「行数」欄「合計」欄記載のとおり、1923行(本件対象部分の合計は1320行)である。
(乙13、18の1)
イ 別紙被告製品目録記載の各製品(以下、番号順に「被告製品1」のようにいい、併せて「被告各製品」という。)は、液滴法により接触角を自動計測する自動接触角計であり、ハード面として、試料ステージ、レンズ、カメラ、液滴を作るための注射器を備えている。
 被告ニックは、平成21年10月20日、被告製品1及び2の販売を開始する旨を自社のホームページに掲載し、また、平成22年2月25日に被告製品3の販売を開始する旨を自社のホームページに掲載し、専用のソフトウエアである被告旧バージョンを搭載した被告製品1ないし3及び6の製造、販売を開始し、平成22年9月末頃までに、別紙「被告製品(旧バージョン)販売実績」の「商品名」欄に記載の被告旧バージョンを搭載した被告各製品を「販売価格」欄記載の価格で販売した。なお、番号4は、原告が、被告製品1を調査するために埼玉医科大学に依頼して購入したものである。
(甲63)
ウ 被告ニックは、平成22年10月1日から、被告乙Aを主要な担当者とし、被告旧バージョンに代えて別紙被告プログラム目録記載2及び3のプログラム(以下、併せて「被告新バージョン」といい、これと被告旧バージョンとを一括して「被告プログラム」という。)を完成させ、同目録記載2のプログラムを搭載した被告製品1ないし4及び同目録記載3のプログラムを搭載した被告製品5の製造、販売を開始し、被告あすみ技研は、これらを販売している。
 被告新バージョンの一部をなす「接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「被告新接触角計算(液滴法)プログラム」といい、これと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとを併せて「被告接触角計算(液滴法)プログラム」という場合がある。)は、原告プログラムと同様の機能を有している。
 被告新バージョンのソースコードは、ソースコードファイル23個、行数2万1771行からなり、うち被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは994行である。
 被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードには、別紙「ソースコード対照表2」(以下、単に「ソースコード対照表2」という。)の「i2winソース(改変後)」欄に記載のものが含まれる。
(4) 原告の就業規則
 原告の就業規則は、第7条(服務心得)に「社員は、つねに次の事項を遵守し、服務に精勤しなければならない。」と規定して「(6) 業務上の機密事項および会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと」を挙げ、第47条(諭旨解雇、懲戒解雇)に「社員が次の各号の一に該当する行為をした場合は懲戒解雇に処する。ただし、会社の勧告に従って退職願を提出したときは諭旨解雇とする。なお、懲戒解雇の場合、退職金の全部または一部を支給しない。」と規定して「(6) 職務上知り得た業務上の重要機密を外部に漏らし、または漏らそうとしたとき」を挙げている。また、第38条(退職後の責任)に「社員は退職後も、在職中に知り得た会社の機密を他に漏らしてはならない。」と規定している。
(甲8)
(5) 被告乙B及び被告乙Aに対する退職金の支払
 被告乙Bは平成21年2月25日に、被告乙Aは平成21年6月17日にそれぞれ原告を退職するに先立ち、「秘密保持に関する誓約書」(以下「本件各誓約書」という。)を原告に提出した。これには、製品開発、製造及び販売における企画、技術資料、製造原価、価格決定等の情報や所属長から秘密情報として指定された情報及び原告が特に秘密保持対象として指定した情報などの技術上又は営業上の情報(以下「秘密情報」という。)に関する資料等の原本及びコピーを含む一切を原告に返還して自らは保有していないことを確認する旨、秘密情報は原告に帰属する旨、秘密情報については退職後も開示、漏洩又は使用しないことを約束する旨等の記載がある。被告乙Bは、同年4月17日、原告から退職金188万1350円の支払を受け、被告乙Aは、同年9月2日、原告から退職金256万4090円の支払を受けた。
(甲9、37)
(6) 原告による文書の掲載及び送付
ア 原告は、平成23年12月1日から平成24年6月13日までの間、そのホームページ(<http://以下省略>)に、「当社は、平成23年11月15日、株式会社ニック(埼玉県川口市<以下略>、平成21年4月17日に当社元社員が設立した会社)が製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関し、東京地方裁判所に著作権法違反および不正競争防止法違反で提訴いたしました。」と記載した「株式会社ニックに対する訴訟の告知」と題する告知文を掲載した(以下、この行為を「本件告知1」という。)。
イ 原告は、平成23年12月頃以降に、被告ニックの取引先に宛てて、「当社は潟jック社に対して下記のごとく東京地方裁判所に提訴いたしました。(当社のHPをあわせてご参照ください)当社は、平成23年11月15日、株式会社ニック(平成21年4月17日に当社元社員が設立した会社)が製造販売した接触角計(ぬれ性評価装置)に関し、東京地方裁判所に著作権法違反および不正競争防止法違反で提訴いたしました。」と記載した文書(以下「本件告知文書A」という。)を送付した。
ウ 原告は、平成23年11月頃、販売代理店に宛てて、原告が、同月15日に被告ニックが製造、販売した接触角計に関して当裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法で提訴した旨に加え、「お忙しいにも関わらず恐縮ですが、この様ないくつか事実関係を確認していただき、改めて貴社の今後の方針などをお聞かせいただければ幸いです。当社は今までの様に健全なお付き合いができることを望んでおります。」などと記載した文書(以下「本件告知文書B」という。)を送付した。
エ 原告は、そのホームページに、原告が平成23年11月15日に被告ニックを著作権法違反及び不正競争防止法で提訴した旨の記載に加え、平成24年9月20日から、次の記載のある告知文を掲載した(以下、この行為を「本件告知2」という。)。
 「追訴訟「販売差止訴訟・損害賠償訴訟・不当利得返還訴訟」
 平成24年9月4日、株式会社ニックが現在製造販売している接触角計(ぬれ性評価装置:搭載ソフトウエアi2win Ver. 1.3.0以降)に関し、上記同様として追提訴いたしました。
 (上記には、株式会社ニックの他、同製品をHP上で販売(広告宣伝)している、株式会社あすみ技研(東京都文京区<以下略>)に対する、販売差し止めを求める訴訟を含みます)
 同時に、既払いの退職金に関し、不当利得返還を求める訴訟を追提起いたしました。」
2 争点
(1) 原告接触角計算(液滴法)プログラムが著作物性を有するか否か(争点1)
(2) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か(争点2)
(3) 被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるか否か(争点3)
(4) 被告乙Aが原告の営業秘密を不正に開示し、被告ニック及び被告あすみ技研がこれを不正に取得したか否か(争点4)
(5) 原告の受けた損害の額(争点5)
(6) 被告乙B及び被告乙Aが受領した退職金を原告に返還すべき義務があるか否か(争点6)
(7) 原告のB事件に係る訴訟提起が被告ニック及び被告あすみ技研に対する不法行為を構成するか否か(争点7)
(8) 原告の本件告知1及び2並びに本件告知文書A及びBによる告知行為(以下、これら全てを併せて「本件各告知行為」という。)が虚偽の事実の告知又は流布に当たるか否か(争点8)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(原告接触角計算(液滴法)プログラムが著作物性を有するか否か)について
(原告)
ア 原告接触角計算(液滴法)プログラムは、それ自体が独立して接触角計測・計算機能を支えるものであり、ソースコードの行数は2055行に及び、サブルーティン化、関数の組み方やパラメータ(引数)等のデータの渡し方に多様な選択肢があり得る中から作成者の個性が発揮されて作成されたものであるから、創作性を有し、プログラムの著作物に該当する。
イ 原告接触角計算(液滴法)プログラムのブロック構造は必然的なものではなく、入り口の設定の仕方や関数細分化の程度において、複数の選択肢がある中から作成者が選択したものであるから、作成者の個性が表れたものである。
 すなわち、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおいては、θ/2法及び接線法の2つの方法により接触角の計測が可能であるが、原告ツリー図を見れば分かるとおり、いずれの方法による場合も一つの流れに包摂される構成になっており、θ/2法による場合には、「(15) 接触角計算」は「(16) 接線法計算」を呼び出さず、接線法による場合には、前者が後者を呼び出して機能する。これら2つの方法は、そもそも計算方法(アプローチ)を異にする上、θ/2法では端点及び頂点座標が必要で、接線法においては左右円弧状の3点の座標が必要であるなど計測に必要となる基礎データが異なるから、原告接触角計算(液滴法)プログラムよりも単純明快な構造としては、θ/2法及び接線法計算の関数を前に出して、それぞれの関数に必要な基礎データを検出するプログラムを呼び出す構成を取ることが考えられるが、上記の構成が選択されている。
 また、「一機能=一関数」をどこまで徹底するかについても選択の幅が認められ、例えばプログラムに含まれる機能(一定の処理や計算)をどこまでも細かく区分けし、単一機能ごとに全て関数化、サブルーティン化し、これらを呼び出し組み合わせてプログラムを機能させる方向を採ることも、必要な機能を全てまとめて一関数の中に書き込んでしまう方向を採ることも可能であるから、どの程度サブルーティン化を進めるかは、作成者の裁量に委ねられる。●(省略)●
(被告ニック及び被告乙A)
ア 原告接触角計算(液滴法)プログラムは、接触角計算に係るありふれた手順を平凡に記載しているに過ぎないから、創作性がない。プログラムにおける関数の機能やブロック構造は、いずれもアイデア又はアルゴリズムに当たるから、著作権の対象とならない。
イ(ア) 接触角の測定においては、針先から特定の液体を特定の固体(平板)上に落下させ、着液した液滴の輪郭を追跡し、液滴と平板の接点における液滴表面と平板とのなす角度を算出することとなり、そのためには、●(省略)●したがって、これらの手順を設けることに創作性はなく、そもそもこれはアイデアでしかない。
 原告は、入口設定の仕方や関数細分化の程度について裁量の幅があると主張するが、これは記述方法というアイデアについてのものに過ぎないし、原告プログラムの構造は、接触角計算における当然の手順を追っているだけで、業務の流れ自体が不可避な構造である。
 また、入り口設定の仕方について、θ/2法及び接線法計算の関数を前に出す構成があり得ると主張するが、これらの関数で計算されるべきデータを取得するためには、閾値計算関数、針先検出関数、端点検出関数などを先に実行することが必要となるから、原告の上記主張のようなプログラム構成はあり得ない。
 関数細分化の程度についても、プログラムは、通常、機能ごとにサブルーティン化し、処理の手順に従って必要なサブルーティンを呼び出す手法によって全体が構成されるが、原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は標準的なものである。
 したがって、原告のプログラム構造に創作性はない。
 ●(省略)●
g 「(15) 接触角計算」プログラムについては、基礎データが揃っていればθ/2法での計算はサブルーティンを組むまでもない単純なものであるのに対し、接線法では、より複雑に、左右両端それぞれについて所定の間隔でとった3点を通る円を決定し計算することになるので、接線法での計算についてサブルーティンを組むことは平凡な構成方法であるから、上記プログラムが「P 接線法計算」プログラムを呼び出す構成はありふれており創作性はない。
(2) 争点2(被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か)について
(原告)
ア プログラム構造の実質的同一性
(ア) 原告ツリー図と被告旧ツリー図とを対比すると、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、いずれも、液滴を検出して接触角の計算を行う「(1) 接触角計算メイン」プログラムが、●(省略)●の各プログラムを呼び出して機能する構成となっている点で共通する。被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにおいては、これらの他に「(27) X座標をイメージサイズの範囲内に設定」プログラムが呼び出されているが、枝葉が一つ増えているだけの微差であり、基本的構造の同一性を害するものではない。また、原告接触角計算(液滴法)プログラムにのみ、●(省略)●
(イ) そして、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムとでは、次のaないしhの点が共通する。
 ●(省略)●
イ ソースコードの実質的同一性
(ア) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、「(1) 接触角計算メイン」から「(16) 接線法計算」までの16個のプログラムを含んでいるが、これらは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と1対1で対応しているのみならず、機能を同じくするブロック(ソースコード対照表1において「F1」、「I1」などと表示されている部分)が番号ごとに対応し、更にはソースコードの1行ごとの対応関係も認められ、原告接触角計算(液滴法)プログラムとソースコードが完全に一致する部分(ソースコード対照表1における黄色部分)が行数比で44%、変数名称の変更等があるが原告接触角計算(液滴法)プログラムとソースコードがほぼ一致する部分(ソースコード対照表1におけるオレンジ色部分)が行数比で42%を占め、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、ソースコード対照表1の「i2winソース(改変前)」欄に記載の総行数のうち実に86%もの記述が原告接触角計算(液滴法)プログラムのそれと酷似している。
(イ) また、例えばソースコード対照表1の【別添10−2】(「(3) 針先検出」プログラム)を見ると、次の@ないしEの事実を指摘することができるが、これらは被告旧バージョンが原告プログラムを単純コピーして流用したことの証左である。
@ 作成者が自由に決定し得るパラメータ(引数)及び変数の名称は、合計17個中13個が全く同一であり、2つの変数(原告接触角計算(液滴法)プログラムの「ca_para」及び「draw_count」と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの「meas_para」及び「proc_count」)は名称の一部のみが異なっているに過ぎない。
A 作成者が自由に決定し得るパラメータ及び変数定義の順序についても、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにおいてはパラメータが1つ(device_num)追加されて2つ(draw_markとpicture)が削除されているが、 その他の6パラメータ(image_deta、ca_para,threshold_y()、left_side、edge_x及びedge_y)の並びは同じで非常に類似し、変数定義の順番も1つを除いて全て同じである。
B 原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのカウンタ用変数(i,draw_count)は、いずれもInteger型(インテジャー型、整数型)で足りるのに、両者とも同様に倍のメモリーを使用する(メモリー効率の悪い)Long型を利用し、原告接触角計算(液滴法)プログラムの画像座標用の変数(X, Y, edge_x, edge_y)と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの変数(x, y, edge_x, edge_y)も、同じ意味で使われており、いずれもInteger型で足りるのに、ともに変数の型をDouble型(小数点を有する実数を扱うデータ。4バイトのメモリーを必要とする。)で宣言している。
C 原告接触角計算(液滴法)プログラムでは、針先座標検出ブロック(F4、I4)において、select文では表面検出方向の場合分けを「Case 0 標準右表面検出」、「Case 1 標準の左表面検出」、「Case 2 三態系の右表面検出」、「Case 3 三態系の左表面検出」と行いながら、各case文の中では、(s_get_rel_position)に対してパラメータとして検出方向を渡す際、(s_get_rel_position)の側における検出方向のパラメータ値を「パラメータ値 0 標準右表面検出」、「パラメータ値 2 標準の左表面検出」、「パラメータ値 1 三態系の右表面検出」、「パラメータ値 3 三態系の左表面検出」として扱っているが、こうしたいわば「定義のねじれ」とでもいうべき状況は、バグの発生などプログラムの品質低下につながりプログラマ自身への混乱をもたらすため、通常は回避されるものであるのに、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムでも同じ状況になっている。
D プログラムの記述(ステートメント)の改行のために挿入する行連結文字「_」は任意の位置に置くことができるが、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの両者では、通常置かない位置を含め、全く同じ箇所に置かれている。
E 一般的に、プログラムは、複雑化して混乱を来さないように、「入り口一つ、出口一つ」、「飛ぶ処理は多用しない」といった「構造化」と呼ばれる考え方に基づき作成されるが、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの双方ともプログラム中に、サブルーティンから脱出する命令である「Exit Sub」、ループ処理である「For」文から脱出する命令である「Exit For」、ループ処理である「Do〜loop」文から脱出する命令である「Exit Do」が多用されて処理の流れが制御されており、かつ、その利用箇所は全く同じである。
ウ 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの創作性が認められる部分に依拠し、その内容及び形式を覚知することができるものを再生したか、同一性を維持しながら原告接触角計算(液滴法)プログラムの表現上の本質的特徴を直接感得することができる別の著作物を創作したものに当たるから、原告接触角計算(液滴法)プログラムの複製又は翻案に当たる。なお、被告乙Aが平成21年8月31日に原告を退職してから、被告ニックが被告旧バージョンを搭載した被告各製品の販売を開始した平成21年10月20日までは、わずか2か月間しかなかったから、被告ニックが原告プログラムを複製又は翻案することなしに被告旧バージョンを完成させることは、不可能であった。
(被告ニック及び被告乙A)
ア プログラム構造に実質的同一性がないこと
(ア) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角計算(液滴法)プログラムには、●(省略)●原告接触角計算(液滴法)プログラムには、サブピクセル検出用プログラム及びカーブフィッティング法による計測プログラムという被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにはないプログラムが存在しているから、両者のプログラムに同一性があるとはいえない。
(イ) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角計算(液滴法)プログラムとでは、●(省略)●これら各プログラムについての同一性も認められない。
 なお、原告プログラムも被告旧バージョンも被告乙Aがプログラミングしたものなので、ありふれた記述が同一のものになるのは当然であるから、そのこと自体をもって著作権侵害と認められるべきではない。
イ ソースコードに実質的同一性も創作性もないこと
(ア) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと外形的に類似する部分はあるが、そのデッドコピーではなく、保護されるべき表現上の類似性も存在しないから、原告接触角計算(液滴法)プログラムの複製にも翻案にも当たらない。
(イ) ソースコード対照表1の【別添8−2】(「(1) 接触角計算メイン」に関するもの)について
a 引数定義ブロック(F1、I1)については、オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一ではなく、黄色部分は単語レベルで同一性があるに過ぎないから、表現上の類似性がない。
b 変数定義ブロック(F2、I2)については、各変数についてのデータ形式の定義はプログラムに必要なものであるから、これを設けること自体に何らの創作性もない。黄色部分はF2の定義のうちの約4分の1に過ぎず、いずれの定義もデータ形式を倍精度の浮動小数点数型(Dim_As Double)、長整数型(Dim_As Long)又はユーザー定義型(Dim_As MeasEdge等)のいずれにするかを指定するものであるが、かかるデータ形式の指定はそれぞれの変数が扱うデータの性質によって当然に決定されるものであるから、やはり創作性がない。
c 測定値初期化ブロック(F3、I3)については、プログラムにおいては演算を行う場合に予め変数の各データを初期化しておくことが必要であるから、これを設けることには創作性がないし、オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一でないから、表現上の類似性がない。
d 左端点検出ブロック(F4、I4)及び右端点検出ブロック(F5、I5)については、接触角計算においては両端点を検出することが必要であるから、これらを検出すること自体には創作性がない。オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一でなく、黄色部分は単語レベルの類似性があるに過ぎないから、表現上の類似性がない。
e ●(省略)●創作性がなく、オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一でないから、表現上の類似性がない。
f ●(省略)●自体には創作性がない。オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一でなく、黄色部分は単語レベルの類似性があるに過ぎないから、表現上の類似性がない。
g 頂点検出ブロック(F9、I9)については、θ/2法においては接触角計算に両端点と頂点の検出が必要であるから、頂点検出自体には創作性がない。オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一でなく、黄色部分は単語レベルの類似性があるに過ぎないから、表現上の類似性がない。
h 接触角計算ブロック(F10、I10)については、接触角計算プログラムにおいては必要な接触角計算を行うこと自体には創作性がない。オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一でなく、黄色部分は単語レベルの類似性があるに過ぎないから、表現上の類似性がない。
(ウ)a ソースコード対照表1の【別添9−2】ないし【別添23−2】についても、オレンジ色部分は機能が同一なだけで表現は同一でなく、黄色部分は単語レベルの類似性があるに過ぎないから、表現上の類似性がない。
b 【別添10−2】の針先座標検出ブロック(F4、I4)について、VBでは、場合分け(条件判断構造)の記載には「If」文と「Select Case」文が用いられるが、前者は3つ以上の場合分けに用いると記述が煩雑になるため、通常は場合分けが2つのときに使用され、場合分けが3つ以上のときは「Select Case」文が使用されるから、針先座標検出の手順の輪郭追跡に関するソースコードにおいて、「Select Case」文でCase 0ないし3の処理番号が付されている点に創作性はない。
c ●(省略)●に従って単純にプログラミング化しただけであるから、創作性がない。
 なお、被告乙Aは、被告旧バージョンを、自らの脳裏に蓄積した画像処理技術とプログラミング技術に基づき作成したのであり、原告プログラムをコピーアンドペーストしていないから、仮に両者間に同一性が存したとしても、被告旧バージョンは原告プログラムに依拠していない。
d 【別添18−2】の初期設定ブロック(F4、I4)については、黄色部分の前半は、定義ブロックであるから創作的な表現は存在しない。後半は、液滴の両端点を検出するブロックであり、前記(1)(被告ニック及び被告乙A)イ(イ)c記載の「最も外側の点」を検出する手順を単純にプログラム化しただけであるから創作性がない。
 端点検出ブロック(F6、I6)の黄色部分も、「最も外側の点」を検出する手順を単純にプログラム化しただけであるから創作性がない。
ウ なお、被告旧バージョンの開発期間は、平成21年9月1日から同年12月24日までであり、販売を開始したのも同日である。
(3) 争点3(被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるか否か)について
(原告)
ア 被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを参考にした被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに変更を加えたものであり、そのアルゴリズムは被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同様に原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムをそのまま用いたものであるから、原告接触角計算(液滴法)プログラムに依拠して制作されたものである。
イ 被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、以下のとおり、原告プログラムの表現上の本質的な特徴の同一性を維持している。
(ア) 原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は別紙「FAMAS ver3.1.0 接触角(液滴法)計算部分(i2win対応機能のみ抽出)」(以下「原告ツリー図(抽出版)」という。)のとおりであり、被告新接触角計算(液滴法)プログラムのそれは別紙「i2win ver1.3.0接触角(液滴法)計算部分」(以下「被告新ツリー図」という。)のとおりであるが、両者を比較すると、●(省略)●「接触角計算メイン」に呼び出されて機能している点(上記両別紙の各図中にAとして緑色の線で囲った部分の枠組み)が共通し、3)被告新ツリー図のうち、ピンク色のブロックは原告接触角計算(液滴法)プログラムに存在する処理(記述)を外出(括り出し)したものに過ぎず、水色のブロックの記述が加えられてはいるものの、全体として見ると表現の基本的な筋に変更がない。
(イ) ソースコードの記述を比較対照したソースコード対照表2を参照すれば明らかなとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムにおいて、ソースコード対照表2の(1)ないし(20)に記載の各プログラムは1対1に対応しており、機能を同じくするブロック(ソースコード対照表2において「F1」、「I1」などと表示されている部分)についても対応関係があり、内容が一致している。被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの関数を流用している部分(ソースコード対照表2の(1)、(2-2)、(3)、(5)、(7)、(9)、(10-2)、(11)、(13)、(14)、(15)及び(16))や外出した部分(同(30)、(31)及び(32))において、変数名、関数名等の変更を典型例とする表現の軽微な変更、一部処理(記述)の単純な削除、基本的な筋を変えることがない処理(記述)の付加、既存処理(記述)の並べ替え、既存処理(記述)の外出又は処理(記述)の退歩のいずれかの修正を行い、原告接触角計算(液滴法)プログラムの筋、仕組みには変更を加えず、各表現のまとまりごとに書き換えを行って、表現を変更しているに過ぎないものである。
ウ そうであるから、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、前記(1)(原告)に記載のとおり創作性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案した二次的著作物に当たる。
(被告ニック、被告あすみ技研及び被告乙A)
ア(ア) 原告が、原告ツリー図(抽出版)と被告新ツリー図との両図において、オレンジ色の線で囲った枠組みが共通するとの点については、画像処理技術を利用して接線法による接触角計算を行う場合、上記枠組み内の手順を執ることは当然であるから、そこには何らの創作性も存しない。
(イ) 原告が、上記両図において緑色の線で囲った枠組みが共通するとの点については、画像処理技術において液滴の検出をするに当たり上記枠組み内の手順をとることは当然のことであって、そこには何らの創作性も存しない。
(ウ) 原告が、被告新ツリー図を全体としてみると、表現の基本的な筋に変更はないとする点については、被告新接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角メインとは、構成が異なるが機能においては同一であると主張しているに過ぎないから、著作権侵害の要件たる同一性の主張としては意味がない。
イ(ア) ソースコード対照表2(15)のF6とI6は、接線法による接触角の計算ブロックであるが、接線法の採用に個性や創作性はあり得ず、このブロックは、接線法による計算手順を単純にプログラム化しただけであるから、創作性がない。
(イ) ソースコード対照表2(15)のF7とI7及び(16)のF3とI3は、曲率補正ブロックとアスペクト比等計算ブロックであるが、これらのブロックを入れるかどうかは機能の問題であり、これらのブロックは、かかる機能を単純にプログラム化しただけであるから、創作性がない。
ウ したがって、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものではない。
(4) 争点4(被告乙Aが原告の営業秘密を不正に開示し、被告ニック及び被告あすみ技研がこれを不正に取得したか否か)について
(原告)
ア 営業秘密性
原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムである別紙「アルゴリズム一覧」記載のアルゴリズム(以下「原告アルゴリズム」という。)及び原告プログラムは、いずれも、次のとおり営業秘密に当たる。
(ア) 秘密管理性について
 原告プログラムは、原告研究開発部のネットワーク共有フォルダである「RandD_HDD」サーバーの「SOFT_Source」フォルダに保管されていたが、ここにアクセスすることができるのは、研究開発部従業員の中でもソフトウエア開発に携わる正社員のみに限定され、アクセス権限を有する者に対しては、個別にパスワードが交付された上、初期パスワードは必ず変更するよう指示がされていた。また、上記フォルダに対するアクセス権限は、書き込み及び読み込みを行う権限「RW」と、読み込みの権限「RO」との2種類が設定され、書き込みを行い得る者は更に限定されていた。そして、上記サーバーには管理責任者が定められ、同人がアクセス権管理やウイルス対策等を含め、管理を実施していたし、上記フォルダに対するアクセスがなされた場合には、その履歴(ログ)が最新の数十件の範囲ではあるが記録され、不正アクセス、不正利用を予防し、事後的に検証可能な仕組みが構築されていた。なお、実作業を行う研究開発部の各担当者のパソコンにも原告プログラムのデータが保存されていたが、その際にもパスワードが設定され、他者が勝手に使用することができないよう配慮がされていた。なお、被告乙Aその他の開発担当者が、共有フォルダに開発中のソースコードを保管していたという事実はない。
 また、製品に搭載するソフトウエアを企業が機密情報として管理することは、一般的に行われており、原告では、就業規則において営業上の秘密の漏洩を禁止していたし、原告が作成した社外秘の「FAMASハンドブック」(以下「本件ハンドブック」という。)を見れば、原告プログラム開発により改善された原告アルゴリズムがいかに画期的で原告にとって重要なものであったかは容易に理解することができ、そして、この表紙には「CONFIDENTIAL」と記載され、全頁の上部には「【社外秘】」と記載されて秘密であることが明示されていた。さらに、原告は、被告乙B及び被告乙Aに、原告を退職するに当たり、本件誓約書を差し入れさせた。
 このように、原告プログラム及びこれに記述されている原告アルゴリズムは、いずれも秘密として管理されていた。
(イ) 非公知性
 原告プログラム及び原告アルゴリズムは、一般には非公知の技術情報である。
(ウ) 有用性について
 原告プログラムは、自動接触角計に関する多岐にわたる詳細なノウハウを、コンピュータへの指令の形式でトータルに記述、表現したもので、原告各製品に搭載されるソフトウエアとなるほか、原告各製品の設計、仕様書代わりにもなり得るものであり、原告アルゴリズムも、接触角計測機器の精度の向上を実現するため、原告が長年の試行錯誤の上に確立したノウハウであって、原告各製品の製造、販売に不可欠な技術情報であるから、これらは、原告の事業活動に有用な技術情報である。一般に、画像解析のためのプログラム制作に当たっては、画像の輪郭をどのような方法で検出するか、測定結果の正確性をどのように担保、検証するか、測定解析スピードを可能な限りアップさせるにはどうしたらよいかなど、複数の視点から、開発機器の特殊性を踏まえ、繰り返し実験を行うなど試行錯誤の末、適切なアルゴリズムを確立する必要があり、かかるアルゴリズム(例えば2値化のアルゴリズム)の善し悪しによって、製品の測定精度が大きく左右されるから、原告アルゴリズム自体が原告にとって貴重な知的財産であるということができる。
イ 被告乙Aの不正開示
 被告乙Aは、原告プログラムの開発者であり、これを競業会社に開示することがいかなる意味を持つかを理解していながら、被告ニックを利する等の図利加害目的で、原告において営業秘密として管理されていた原告プログラムのデータをコピーして、被告ニックに対し、不正に開示した。このことは、被告乙Aが原告の技術部サーバー、バックアップサーバー及び自身が使用する原告所有のパソコンのいずれにもアクセス可能であったこと、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告接触角計算(液滴法)プログラムがプログラムの構造及び表現方法において実質的に同一であり、原告アルゴリズムと被告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズム(以下「被告アルゴリズム」という。)がほとんど同一であるが、原告プログラムの大きさからして、データそのものをコピーして持ち出さなければ再現不可能であること、 原告プログラムの旧バージョン( FAMAS ver1.0.0.0)が、開発着手から製品開発まで1年10か月かかっており、被告プログラムにも含まれる「接触角測定(拡張・収縮法)」等のプログラムは、その後長い年月をかけて加えられた機能であるから、被告乙Aが原告を退職した平成21年8月31日から同年10月までの間に被告プログラムを最初から独自に制作することなど不可能であることからすれば、明らかである。
ウ 被告ニックの悪意転得
 被告ニックは、原告プログラムが営業秘密に当たり、被告乙Aがこれを不正に開示するものであることを知りながら、又は重大な過失により知らないで、被告乙Aから原告プログラムの開示を受け、これを被告プログラムに流用した。このことは、被告ニック代表者のCが原告在籍時に営業を担当し、原告各製品を熟知していたこと、平成21年4月15日に被告乙Bが原告を退職し、同月17日に被告ニックが設立され、同年8月31日に被告乙Aが退職し、同年10月には被告各製品の販売が開始されたという事実経過、被告接触角計算(液滴法)プログラムと原告接触角計算(液滴法)プログラムは構造及び表現方法において実質的に同一であり、しかも被告ニックにおいてプログラム作成を行う者は被告乙A以外にはいないことからして明らかである。
エ 被告あすみ技研の悪意転得
 被告あすみ技研は、悪意又は重過失により、被告ニックから原告プログラムを翻案した被告プログラムを搭載し、原告アルゴリズムを盗用した被告各製品を反復継続して仕入、販売することで、原告の営業秘密を転得し、使用している。このことは、被告あすみ技研のホームページの接触角計の販売ページには、被告製品が被告ニック製である旨の記載はなく、よくある質問に関するページにはアルゴリズムにも深く関わる測定手法等を含む詳細な事項についてのQ&Aが設けられていること、また、被告あすみ技研は、被告製品のみならず、被告プログラムを単体でも販売しており、画像解析ソフトの概要についても解説を行っていることからすると、被告あすみ技研が原告プログラムや原告アルゴリズムの詳細について被告ニックから開示を受けている可能性は極めて高い。
(被告ニック、被告あすみ技研及び被告乙A)
ア 営業秘密性がないこと
(ア) 秘密管理性がないこと
 原告社屋の訪問者用の入口にはオートロックの施錠管理システムがなく、部外者が、見とがめられることなく1階から3階までの全フロアに勝手に立ち入ることが可能であり、社内ネットワークに接続されたパソコンが置かれている2階のショールームにも従業員に気づかれずに容易に立ち入ることができた。原告プログラムは、開発者である被告乙Aと足立の各パソコンに設けられた共有フォルダにも置かれており、しかも、原告からログインパスワードを設定すべき旨の指示はなかったから、営業部の社員各自のパソコンや、公衆が出入りするショールームに設置されたパソコンを含む社内ネットワーク上のどのパソコンからも、パスワードなしで、あるいは「guest」アカウントからパスワード「guest」を入力して、閲覧することができた。また、原告は、USBメモリー等の接続や、「RandD_HDD」サーバー以外でのデータの保存について全く制限をしておらず、原告社員は容易に技術データを社外に持ち出すことが可能であった。アクセス履歴の記録も、ログインアカウントが、どのパソコンを用い、どのフォルダにアクセスしたかの情報しか記録されず、ファイルへのアクセスや変更は記録されなかった。このように、原告において、秘密管理態勢は構築されていなかった。
 被告乙Bが管理していた「RandD_HDD」サーバーの設置目的は、開発成果物の保管管理と情報共有にあり、秘密管理のためではなかった。開発中のソースコードは、上記サーバーの共有フォルダ以外の場所、具体的には被告乙Aなど開発担当者が使用するパソコンで保管されていた。アクセス制限がとられたのは、無知な人が意図せずに削除する危険性を排除するためである。
(イ) 非公知性がないこと
 原告アルゴリズムは、旧来の接触角計算手法に標準的な画像処理技術を当てはめただけのものであり、公知公用の技術であるに過ぎない。
イ 被告あすみ技研が被告各製品を販売するために、被告ニックが原告プログラムや原告アルゴリズムを開示する必要はなく、実際に開示もしていない。被告あすみ技研のホームページに被告ニックに関する記載がないのは、被告ニックより被告あすみ技研の名称の方が、ブランド力があるからに過ぎず、「よくある質問」のページにおける記載は抽象的な質問に関するものばかりであり、画像解析ソフトの概要についての記載も簡単な操作やライセンスの方法について記載しているのみであるから、これらをもって、被告あすみ技研が被告ニックから原告アルゴリズム等の開示を受けたことの根拠とはいえない。
(5) 争点5(原告の受けた損害の額)について
(原告)
ア 被告旧バージョンに関する損害の額
(ア) 被告ニックは、●(省略)●被告製品1は原告製品1と、被告製品3は原告製品2と同等であってそれぞれ対応する。なお、原告は、日本国内において、製品「DM−CE1」を販売していない。また、ソフトウエアのみを販売した場合にも、原告が販売する自動接触角計の販売機会が1件奪われていることにほかならないから、これにより原告が受けた不利益は、ソフトウエア単体ではなく自動接触角計1台分、具体的には原告製品2の販売機会の喪失であると解すべきである。
 そして、●(省略)●
(イ) 原告は、被告旧バージョンが原告の技術を盗用していないか調査をするために、埼玉医科大学に被告製品1の購入を依頼し、平成22年3月10日に同大学に定価相当額250万円を送金してこれを購入したから、同額が原告の調査費用として損害に当たる。
(ウ) また、弁護士費用相当損害金として90万円が認められるべきである。
イ 被告新バージョンに関する損害の額
(ア) 被告ニックが平成22年9月頃以降に被告新バージョンを搭載した被告各製品の販売を開始してから譲渡した物の数量に、原告が被告ニックの著作権侵害行為がなければ販売することができた単位数量当たりの販売価格を乗じた金額は、7500万円を下らないから、これに原告の原価率50%を乗じた3750万円が原告の損害額となる。
(イ) また、弁護士費用相当損害金として、300万円が認められるべきである。
ウ 原告各製品はハードウエアとソフトウエアとが一体となって初めて機能するものであり、各単体では製品として成り立たないこと、人の動作、経験に代替して自動で計測を行うという製品の特性上、測定精度機能を左右するソフトウエアの重要性が高いこと、カメラ、注射器、試料台及び光源等のハードウエアについては販売品ごとに仕入原価経費がかかり、これが価格評価に反映されるから、限界利益への貢献度をソフトウエアと同等と評価することに合理性がないことからすると、ハードウエアとソフトウエアとの各寄与度を単純に1対1であると解すべきではない。むしろ、原告接触角計算(液滴法)プログラムが原告各製品の目的である接触角の測定に不可欠であることなどからすると、 本件においてその寄与度を考慮すべき必要はない。
(被告ニック及び被告乙A)
ア 原告プログラムは、ユーザーがソフトウエアのみで利用することはできず、専用のハードウエアを必要とするから、被告ニックがソフトウエアを販売した分については著作権法114条1項を適用することはできない。
イ(ア) 原告各製品の限界利益額
 原告は、原告製品1及び2を、それぞれ定価(265万5000円及び192万円)の70%で販売しているから、原告製品1の販売価格は186万円、原告製品2の販売価格は134万円程度である。そして、原告製品1及び2の違いはソフトウエアにおいて利用制限の設定が異なる点のみであり、ハードウエアは共通であるから、両者の部材価格はいずれも●(省略)●である。
 もっとも、被告製品3に相当する原告の製品は、原告製品2ではなく、主に海外顧客に向けて機能を簡素化し低価格で販売していた「DM−CE1」であり、原告は、低予算での購入を希望する国内の顧客に対しては、これを販売していた。
 なお、原告製品1及び2の価格からは、納入立会説明費等のオプションや、被告各製品に付属していない自動計測のためのシングルディスペンサシステムの価格(41万5000円)は控除すべきである。
(イ) ソフトウエアの寄与割合
 原告製品1及び2の限界利益にはハードウエアとソフトウエアが寄与しているが、各寄与割合は、それぞれの単体価格が存在しないため算出できないので、1:1と推定せざるを得ない。そうすると、●(省略)●を上回らない。
イ(ア) 原告、被告ニックのみならず、国内外のメーカー10社以上が製造する接触角計装置が国内で販売されているから、被告ニックが被告各製品を販売しなければ原告各製品を販売することができたという関係にはない。
(イ) 別紙「被告製品(旧バージョン)販売実績」の番号1については、原告の既存顧客ではない鳴海製陶株式会社が原告にソフトウエア単体での購入を申し出たが、原告にこれを拒絶されたため、被告から被告旧バージョンのソフトウエア単体を購入した事例であるから、被告ニックが上記顧客にソフトウエア単体を販売したことにより原告の販売機会が失われたとはいえない。
(ウ) 同番号2については、被告ニックが、原告の製品を使用していた東京理科大学に対して販売したものであるが、同大学は、計測精度、測定時間等の機能面で原告の製品に不満を抱き、原告の製品を購入の対象から外していたから、被告製品3の代わりに原告各製品を購入することはあり得なかった。
(エ) 同番号4については、原告が、被告各製品を調査するために、埼玉医科大学に依頼して購入したものであるから、その代わりに原告各製品を購入することはあり得なかった。
(オ) 同番号5については、Cと島津サイエンス西日本の当時の社長との個人的なつながりがあったために、接触角計を購入する意思がなかった同社が被告製品3を購入したものであるから、その代わりに原告各製品を購入することはあり得なかった。
ウ 原告は、調査費用の請求をするが、著作権侵害の有無を調査するための費用は、侵害行為そのものを原因として通常生ずる損害でもなければ、事前に予見することができる特別の事情によって生ずる損害でもなく、侵害行為との間に相当因果関係ある損害とはいえない。
(6) 争点6(被告乙B及び被告乙Aが受領した退職金を原告に返還すべき義務があるか否か)について
(原告)
ア 被告乙B及び被告乙Aは、原告在籍時、秘密保持義務を負う(就業規則7条(6))とともに、退職後も在職中に知り得た会社の機密を他に漏らしてはならない義務を負い(同38条)、退職するに先立ち、技術上ないし営業上の情報(秘密情報)に関する一切の資料について、原本はもちろん、そのコピー及び関係資料等を原告に返還し、自ら一切保有していないことを記載した本件誓約書を差し入れて原告にその旨誓約した。
 しかるに、被告乙Bは、C及び被告乙Aと共謀の上、原告退職後に被告ニックを設立して原告の自動接触角計製造に関する技術を盗用して商品を発売することを計画し、実際に原告各製品とハード面及びソフト面において設計上非常に類似する製品を販売し、また、被告乙Aと共謀して、原告プログラムのデータを不正に取得するように計画し、さらに、原告在籍中に、原告従業員のDに退職して被告ニックに転職する趣旨の勧誘をした。
 被告乙Aは、被告ニックに開示する目的で、原告プログラムのデータを保持したまま原告を退職し、これを被告ニックに開示して被告各製品の開発に利用した。
イ 被告乙B及び被告乙Aの上記行為のうち、技術情報の持ち出しを意図し、実際に持ち出した行為は、原告の就業規則の定める懲戒解雇事由のうち「職務上知り得た業務上の重要機密を外部に漏らし、または漏らそうとしたとき」(47条(1))に該当し、被告乙Bの上記行為のうち、他の従業員に対して行った退職の働きかけは、会社の利益を犠牲にして第三者の利益を図ろうとするものであるから「許可なく他の事業所に雇用され、またはこれと類似する兼業行為のあったとき」(同条(1))に該当する。原告の就業規則上、従業員が懲戒解雇とされた場合には、退職金の全部又は一部は支給されないと定められているところ、退職後に在任中の懲戒解雇事由の存在が判明した場合であっても、原告の主力商品である自動接触角計に搭載されるソフトウエア、画像解析のノウハウ及びハード装置に関する技術情報を他社に漏洩することは、原告の経営の根幹を揺るがすものでその影響は甚大であって、被告乙B及び被告乙Aには、退職金不支給となってもやむを得ない程度の非違行為があったといえるから、両被告は、原告に対し、受領した退職金を不当利得として返還すべき義務がある。
(被告乙B及び被告乙A)
 原告各製品と被告各製品との間には、製品設計を模倣したと評されるような類似性はない。また、原告各製品のハード面やソフト面は、これらを販売することにより公知となっている情報であるから、そもそも秘密情報に該当せず、仮に被告ニックがその情報を模倣しても秘密情報の使用には当たらないから、原告の非違行為に関する主張は失当である。仮に被告旧バージョンの一部が原告プログラムの著作権を侵害するものであるとしても、本件は、被告乙Aが原告勤務中に修得した一般的知見を応用したものに過ぎないといえるかどうかの限界事例であるから、被告乙Aに過失を認めることはできないし、過去の勤務に対する賃金の後払いの性質を有する退職金を取り上げてしまうほどの違法性があるともいえない。
 したがって、被告乙B及び被告乙Aが、受領した退職金を原告に返還すべき義務はない。
(7) 争点7(原告のB事件に係る訴訟提起が被告ニック及び被告あすみ技研に対する不法行為を構成するか否か)について
(被告ニック及び被告あすみ技研)
 原告のB事件に係る訴えの提起は、次のとおり、事実的、法律的根拠を欠くものであり、原告はそのことを知り、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず、この訴えを提起したことを原告のホームページで公開することにより、被告製品の信用を毀損して被告ニックの取引を妨害し、顧客や被告あすみ技研に被告製品を買い控えさせようとして、あえてこれを提起したものであるから、被告ニック及び被告あすみ技研に対する不法行為を構成する。
ア 原告がB事件の訴え提起に先立ち被告ニックを相手方として申し立てた仮処分申立事件(当裁判所平成22年(ヨ)第22046号、以下「本件仮処分申立事件」という。)において、被告ニックは、原告に対し、原告が権利侵害の疑いのある部分として特定した被告新バージョンの26個のプログラム(関数部分)の全てについて、ソースコードを開示し、原告が、これを検討した上で平成23年1月13日に被告新バージョンが原告の著作権を侵害するものではないことを前提とする和解案を提示したことからすれば、原告は、被告新バージョンが原告の著作権を侵害しないと判断していたことは明らかである。
イ 原告プログラムと被告新バージョンの各アルゴリズムには類似点があるが、原告のアルゴリズムは、公知の接触角計測技術に公知の画像処理技術を応用した場合に当然に採用される手順に過ぎないから、そもそも営業秘密性がなく、仮にこれが営業秘密に当たるとしても、被告ニックは従業員が保有する技術を適用する結果である手法か技術上の合理化の観点から当然に採用される部類に属する手法の使用をするものであるから、被告ニックによる不正使用はない。また、原告プログラムと被告新バージョンの各ソースコードは、機能における類似性があるに過ぎず、この機能は、接触角計測技術に画像処理技術を応用した場合に当然に採用されるものであるから、営業秘密性はなく、被告ニックによる不正使用や被告あすみ技研に対する不正開示もない。このように、原告の営業秘密の不正使用等に係る訴えは根拠を欠くが、原告は、被告ニックの新バージョンのソースコードの開示を受けていたから、このことを認識し、又は容易にそれを知ることができた。
ウ 原告は、被告新バージョンに関し、不法行為や不当利得等に基づき請求するが、著作権侵害や不正競争防止法違反が成り立たない以上、これらについても事実上、法律上の根拠を欠く。
(原告)
 原告のB事件に係る訴えの提起は、次のとおり、事実的、法律的根拠を欠くものではなく、原告がそのような認識をしていなかったのみならず、通常人も容易にそのことを知り得たとはいえないから、原告の上記訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであるとはいえない。
ア 原告プログラムと被告新バージョンの各ソースコードは、プログラムのブロック構造や、詳細なステップ等について、表現の類似性が認められるから、著作権侵害に係る部分の訴えが事実的、法律的根拠を欠くものであるとはいえない。また、前記(3)(原告)エに記載の諸事情からすると、被告あすみ技研が原告プログラムや原告アルゴリズムの詳細について被告ニックから開示を受けている可能性は極めて高い。そして、被告ニックは、被告旧バージョンが原告プログラムに依拠して作成されたものであることは認め、かつ、原告の被告旧バージョンについての提訴には反訴を提起したりしていないから、被告旧バージョンについては著作権侵害のおそれがあることを自認しているといえるが、そうだとすれば、原告が、被告ニック及び被告あすみ技研に対し、被告旧バージョンに強く依拠している被告新バージョンに関して差止等の請求をすることが、事実的、法律的根拠を欠くとはいえない。なお、本件仮処分申立事件において、原告は、和解するための取引材料の一つとして開示された被告新バージョンのソースコードを検討したに過ぎず、被告新バージョンが原告の著作権を侵害しないと判断していたわけではない。
イ 接触角測定のための画像解析アルゴリズムには無数のバリエーションがあり、方法論が確立しているわけではないが、そうした状況下で被告ニック自身が原告と同一のアルゴリズムを使用している事実を認めているのであるから、営業秘密の不正使用に関し、被告ニックに対して原告が訴訟を提起したことが、事実的、法律的根拠を欠くとはいえない。
ウ 不法行為等の請求についても、上記ア、イからすれば、事実上、法律上の根拠を欠くものとはいえない。
(8) 争点8(本件各告知行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるか否か)について
(被告ニック及び被告あすみ技研)
ア 被告ニックについて
(ア) 原告は、本件告知1において、著作権侵害の対象が被告旧バージョンか被告新バージョンかを故意に区別していないため、本件告知1は被告新バージョンについても提訴したことを公衆に告知するものであるが、当時、原告は、被告新バージョンに係る訴えを提起していなかったから、本件告知1は、被告新バージョンについても著作権法違反及び不正競争防止法違反で提訴したと誤信させるものである。したがって、本件告知1は、虚偽事実の告知、流布に当たる。
(イ) 本件告知文書Aは、被告新バージョンについても著作権法違反及び不正競争防止法違反で提訴したと誤信させるものであるから、原告が被告ニックの取引先に本件告知文書Aを送付した行為は、虚偽事実の告知、流布に当たる。
(ウ) 本件告知文書Bは、その送付を受けた販売代理店が扱う被告各製品は被告新バージョンを搭載したものであり、被告新バージョンは著作権法違反及び不正競争防止法違反に該当する、又はそのおそれがあると誤信させるものであるから、原告が、販売代理店に本件告知文書Bを送付した行為は、虚偽事実の告知、流布に当たる。
イ 被告ニック及び被告あすみ技研について
 原告は、B事件に係る訴えを提起された被告ニック及び被告あすみ技研には、相当程度の侵害の疑いがあるとの事実が存しないのに、本件告知2により暗にそれがあるかのような情報伝達を意図して行っているから、本件告知2は、虚偽事実を公衆に向けて告知するものといえる。
(原告)
ア 被告ニックについて
(ア) 本件告知1により原告ホームページに掲載された文言を社会通念に照らして解釈する限り、原告が、被告ニックの販売する製品について、著作権法違反及び不正競争防止法違反を原因として訴訟を提起したとの事実しか読み取れず、何ら虚偽の事実の記載はないから、本件告知1は、虚偽事実の告知、流布には当たらない。
(イ) 同様に、原告が、本件告知文書Aを被告ニックの取引先に送付した行為も、虚偽事実の告知、流布には当たらない。
(ウ) 本件告知文書Bは、本件告知文書Aと同様の文体で提訴の事実を伝えた上、原告がその取引先に対して今後も今までどおりの良好な関係を継続してほしい旨を記載したものに過ぎず、虚偽事項の記載は存在しないから、これを送付した行為は虚偽事実の告知、流布には当たらない。
イ 被告ニック及び被告あすみ技研について
 本件告知2により原告ホームページに掲載された文言には何らの虚偽も含まれていないから、本件告知2は、虚偽事実の告知、流布には当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告接触角計算(液滴法)プログラムが著作物性を有するか否か)について
(1) 前記前提事実、証拠(甲7、27、38)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
ア 原告プログラムで用いられているVBでプログラミングを行う際、変数、引数、関数及び定数などの名称は作成者が自由に決めることができ、名称の如何によりコンパイル後のオブジェクトコードに差異は生じないから、異なる名称を付した場合であっても、電子計算機に対して同様の指令を行うことができる。また、同様の処理をサブルーティン化するかどうかを選択することができるほか、変数を配列化したり、変数の参照をパラメータや関数としたりすることが可能であるし、繰り返し処理を行う場合のループ文の種類は「For〜Next」、「Do〜Loop」等複数あり、条件判断を行う場合にも「If」文や「Select Case」文により行うことができ、どのような関数を用いるかを選択することができるなど、同一内容の指令についてのソースコードの記載の仕方や順序には、一定の制約の下で、ある程度の多様性がある。
イ 原告接触角計算(液滴法)プログラムは、θ/2法や接線法により液滴の接触角を計測するため、固体試料上に作成した液滴を水平方向から撮影した画像を解析し、端点、頂点、円弧状の左右3点の座標を求め接触角を自動計測する機能を有するものであり、そのソースコードは合計2525行で構成されている。そのうち本件対象部分は、ソースコードが合計2055行に及び、合計65個程度のブロックからなる(なお、【別添23-2】の原告のプログラムの「F3」ブロックは、「アスペクト比等算出」と記載されたブロックがこれに当たるものと認める。)。
ウ 原告接触角計算(液滴法)プログラムの構造は、概ね原告ツリー図のとおりであり、本件対象部分のソースコードの記載内容は、ソースコード対照表1の「FAMASソース(元のソースコードそのまま)」欄に記載のとおりであるが、(3)ないし(9)の各プログラムはサブルーティンとして括り出されているほか、前記アのような多様性のある中から種々の選択がされた結果、作成されたものである。
エ ●(省略)●これを行うものとして記載されている。このような処理を行うためのソースコードの記載方法としては、「(1) 接触角計算メイン」プログラムが、まず、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを呼び出し、次いで、これらがそれぞれ「(10) 閾値自動計算」や「(2) 液滴検出」等のプログラムを呼び出すように記載するなど、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
(2) 上記A認定の事実によれば、θ/2法や接線法により液滴の接触角を計測するという原告プログラムの目的のためには、名称や関数等の定義や関数等の種類や内容、変数等への値の引渡しの方法、サブルーティン化の有無やステップ記載の順序等において多様な記載方法があるところ、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、上記の目的を達成するために工夫を凝らして2000行を超える分量で作成されたものであると認められる。そうすると、原告接触角計算(液滴法)プログラムは、全体として創作性を有するものということができるから、プログラムの著作物であると認められる。
(3) 被告ニックらは、θ/2法や接線法による接触角計算を行うためには、先に閾値計算関数等を先に実行する必要があるから、前記(1)エに記載したような別の記載方法を採用することはできないとか、このようなプログラムの構造の問題はアイデアや解法の問題に過ぎないなどと主張する。しかしながら、上記記載方法を採用した場合であっても、例えば、「(1) 接触角計算メイン」プログラムに呼び出されたθ/2法による接触角計算を行うプログラムにおいて、まず、「J 閾値自動計算」等のプログラムを「Call」文等で呼び出し、これらにより必要なデータを取得した上で、θ/2法による接触角計算を行うことは可能であると考えられるから、上記記載方法を採用することができないとはいえない。また、閾値を求め、液滴を検出し、端点を検出等した後にθ/2法等による接触角計算を行うといった接触角計算のために必要な処理の流れに関する思想はアイデアないし解法であるというべきであるとしても、これを実現するためのプログラム(ソースコード)の具体的な記載において、別の記載方法を採用する、すなわち表現方法に選択の余地があるということは、まさに表現の幅の問題であって、これがアイデアや解法の問題であるということはできない。被告ニックらの上記主張は、採用することができない。
2 争点2(被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か)について
(1) 前記前提事実、証拠(甲7、27、38)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
ア 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを、θ/2法及び接線法による接触角計算のための主要な部分である本件対象部分について原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと対比すると、それぞれの番号(1)ないし(16)のプログラムが、ほぼ同様の機能を有するものとして1対1に対応し、各プログラム内のブロック(ソースコード対照表1における「F1」、「I1」など)が機能的にも順番的にも、ほぼ1対1に対応している。
イ 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分のソースコードは1320行に及ぶが、●(省略)●次いで、θ/2法による接触角計算を行う場合には「(15) 接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行い、接線法による接触角計算を行う場合には「(14) 接線法用表面検出」プログラムを「Call」文で呼び出した後に「(15) 接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出して「(16) 接線法計算」プログラムによりこれを行うものとして記載されている。
ウ 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に対応する部分のソースコードの約44%(ソースコード対照表1の黄色部分)が原告接触角計算(液滴法)プログラムにおけるそれと完全に一致し、約42%(ソースコード対照表1のオレンジ色部分)が変数、関数又は定数の名称の相違、引数が付加されているなど引数の数の相違、変数が配列化されているか否か、配列の参照が関数化されているか否か、条件判断に用いられているのが「If」文か「Select Case」文かといった相違がある。また、各行の記載の順序は、同一か類似する部分が非常に多い。
 例えば、ソースコード対照表1の【別添10−2】(「(3) 針先検出」プログラム)について見ると、引数や変数の名称18個のうち13個は全く同一であり、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにおいて加えられた引数1個(device_num As Long)以外は類似し、定義の順番も似通っているなど、引数や変数の名称や定義の順番において同一又は類似する点が多い上、原告のプログラムでは、変数定義ブロック「F2」において、ループカウンタ「i」のデータ型が「Long」型で指定されているが、ループを用いる針先座標検出ブロック「F4」ではループ回数の最大値が小さいため、メモリー効率を考慮すると「Integer」型を利用するのがむしろ通常であるのに、被告のプログラムでも同様となっている。また、針先座標検出ブロック(F4及びI4)において、「If」文、「Select Case」文、「For〜Next」文、「Do〜Loop」文などの内容や順序が同一又は酷似しているほか、「Do〜 Loop」文内の「For〜Next」文や「If」文の内容や順序も同一又は酷似している。さらに、上記ブロックにおける●(省略)●被告旧接触角計算(液滴法)プログラムにおいてもこれと全く同様に割り振られている。
エ 被告旧バージョンは、原告プログラムの主たる担当者であった被告乙Aが中心となって、同被告の原告退職後の平成21年9月頃から同年10月20日までの間に、原告プログラムを参考にして作成し(i2win ver1.0.0)、同月26日以降には販売が開始され、その後、改良版(ver1.1.0及びver1.2.0)が作成された。
(2) 上記(1)認定の事実によれば、被告旧バージョン中、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に対応する部分は、ソースコードの記載の大半において、記載内容や記載の順序が非常に類似して実質的に同一性を有するものであるところ、これは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に依拠して被告乙Aが主に担当して作成したものであること、そして、上記実質的同一性を有する部分には個性が表出された創作性を有する箇所が含まれることが認められる。そうであるから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分に対応する部分は、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものと認められる。
(3) 被告ニックらは、ソースコード対照表1の黄色部分は単語レベルの類似性があるに過ぎず、オレンジ色部分は機能が同一であるだけで表現上の類似性はないとか、●(省略)●などと主張する。しかしながら、被告ニックらの上記指摘部分は、作成者が自由に決定することができる部分、すなわち作成者の個性が表出される部分においても不自然に一致しているのであって、このように、実質的同一性を有する部分に創作性を有する箇所が含まれると認められるから、被告ニックらの上記主張は、採用することができない。
 また、被告ニックらは、被告乙Aは自らの脳裏に蓄積した画像処理技術やプログラミング技術に基づき被告旧バージョンを作成したのであり、原告プログラムに依拠して作成したのではないと主張するが、原告プログラムを参考にしたことに争いはない上、実質的同一性を有するのが本件対象部分の大半に及んでいるのであるから、このことに照らすならば、被告ニックらの上記主張は、採用することができない。
 なお、被告ニックらは、被告旧バージョンの開発は平成21年12月24日まで行い、同日に販売を開始したと主張するが、証拠(甲5)によれば被告ニックのホームページには同年10月20日に被告旧バージョンを搭載した被告製品1及び2の販売を開始した趣旨の記載がされていたと認められることとそぐわないから、これを採用することができない。
3 争点3(被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるか否か)について
(1) これまで認定した事実に、証拠(乙14、20)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
ア ソースコード対照表2に基づき原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの構成を対比すると、ブロックごとには概ね1対1の対応関係が見られる。●(省略)●変数や引数の名称が多少異なるものの、関数の表現や内容等は同一である。
イ 原告接触角計算(液滴法)プログラムは、前記1(1)エのとおりの記載がされているが、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、●(省略)●θ/2法による接触角計算を行う場合には「(15) 接触角計算(s_calc_ca_sd)」を呼び出してこれを行うものとされているほか、サブルーティン化のやり方が異なるなど、プログラムのソースコードの記載の方法がかなり異なっている。のみならず、上記アの点を除くと、ソースコードの記載の内容、順序等もかなり異なっている。
(2) 上記(1)認定によれば、原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告新接触角計算(液滴法)プログラムとでは、ソースコードの記載の方法、内容及び順序等がかなり異なり、ソースコードの記載が類似する部分は、いずれも十数行と比較的短く、単純な計算を行う3箇所に限定されるから、両者のソースコードの記載に実質的同一性があると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3)  原告は、両者のプログラムの構造ないし枠組みが類似するとか、表現の基本的な筋に変更がないとか、各ブロックが1対1に対応するなどと主張するが、これは概括的な処理の流れである解法の類似性を述べるものに過ぎず、直ちに両者の表現自体の同一性を根拠付けるものとはいえない。また、原告は、被告新接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと対比すれば、表現の軽微な変更、一部処理(記述)の単純な削除、基本的な筋を変えることがない処理(記述)の付加、既存処理(記述)の並べ替え、既存処理(記述)の外出又は処理(記述)の退歩のいずれかの修正を行い、原告接触角計算(液滴法)プログラムの筋、仕組みには変更を加えず、各表現のまとまりごとに書き換えを行って、表現を変更しているに過ぎないなどと主張するが、どの部分が上記のいずれに当たるのかを具体的に明らかにしない。原告の主張は、たやすく採用し難い。
(4) したがって、その余の点につき検討するまでもなく、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムを翻案したものであるとは認められない。
4 争点4(被告乙Aが原告の営業秘密を不正に開示し、被告ニック及び被告あすみ技研がこれを不正取得したか否か)について
(1) 前記前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
ア 原告は、平成10年12月から自動接触角計に搭載するプログラムの開発を開始し、平成12年10月6日には液滴法による接触角測定機能を有する「FAMA ver1.0.0.0」を完成させ、自動接触角計「CA−V」に搭載して販売を開始した。原告は、その後も表面自由エネルギー計算機能、拡張収縮法、滑落法、懸滴法等による接触角測定機能を追加する等プログラムの改良を続け、平成15年6月6日までに、原告製品1及び2の先行機種である「DM−500」及び「DM−300」の販売を開始し、平成20年5月28日には「FAMAS ver2.5.0.0」にバージョンアップして原告製品3に対応するようになり、その後、他の機器に対応するため等の多少の改良を経て、平成21年7月9日に原告プログラムを完成させた。
(甲11、乙9)
イ 原告プログラムの旧バージョンは、原告の研究開発部の共有フォルダ「RandD_HDD」内や開発担当者のパソコン内に保管されていたが、平成20年8月頃までは上記共有フォルダ内に保管されている原告プログラムの旧バージョンのソースコードへのアクセス権者は研究開発部の従業員に限定されておらず、社外の者が立ち入る原告社屋内のショールームに設置したパソコンからであっても、「guest」アカウント(パスワードも「guest」)を用いることで、誰でも上記ソースコードへのアクセスが可能な状態にあった。同月頃から後は、上記共有フォルダ内に保管された上記ソースコードに研究開発部の従業員以外の者がアクセスすることができないような制限(以下「本件アクセス制限」という。)がされたが、接続ログが保存されるのは最新の数十件程度であった。また、開発担当者のパソコン内での保管については、それらのパソコンにパスワードの設定はされていたが、それ以上に格別の指示がされたことはなかった。
(甲20、21、22の1及び2、23ないし26、39、40、乙9)
ウ 原告アルゴリズムの内容は、原告プログラムのソースコードとして表現されているほか、表紙に「CONFIDENTIAL」、各ページの上部に「【社外秘】」とそれぞれ表示された本件ハンドブックにも記載されていたが、本件ハンドブックは、営業担当者向けに原告プログラムの概念から機能概要までをまとめたもので、原告の製品の取扱説明書に記載されて公開された事項も記載されていた。また、画像処理パラメータを公開して試料に合わせた最適な画像処理を顧客側が見つけていく方法が採用された旨が記載されていたが、本件ハンドブックの記載において、どの部分が秘密事項に当たり、どの部分が当たらないのかについて具体的に特定はされていなかった。
(甲12)
(2) 上記(1)認定の事実によれば、原告プログラムの旧バージョン(ver1.0.0.0)が開発されてから8年弱もの間、共有フォルダ内に保管されたソースコードに対するアクセス権者の限定がなく、本件アクセス制限がなされる前の平成20年5月28日に原告製品3に対応した時点においても、原告プログラムとほぼ同内容を具備するに至っていたと考えられる原告プログラムの旧バージョン(ver2.5.0.0)には「guest」アカウントを用いるなどして誰でもアクセスすることができ、また、その後も開発担当者のパソコン内での保管に格別の指示がされなかったというのであるから、原告プログラム及びそれに記述された原告アルゴリズムが秘密として管理されていたとは認め難い。また、原告アルゴリズムについては、本件ハンドブックにおいて、どの部分が秘密であるかを具体的に特定しない態様で記載されていたことなどからして、営業担当者が、営業活動に際して、本件ハンドブックのどの部分の記載内容が秘密であるかを認識することが困難であったと考えられるのであって、このことからしても、秘密として管理されていたと認めることはできない。
 このように、原告プログラム及び原告アルゴリズムは、いずれも、不正競争防止法2条6項が定める営業秘密に該当すると認めるに足りない。
(3) また、被告乙Aが原告プログラムに関するデータをコピーするなどして原告から持ち出し、被告ニックに開示したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、平成20年8月頃までは原告プログラムの旧バージョンへのアクセスが容易であったことからすれば、いずれかの時期において上記データが持ち出されたことがあるとしても、それが被告乙A以外の者の仕業である可能性を否定することができない。
(4) したがって、原告プログラム及び原告アルゴリズムが営業秘密に当たると認めるに足りず、被告乙Aが原告プログラムのデータを被告ニックに開示したとも認められないから、その余の点につき検討するまでもなく、不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がない。
 また、そうであるから、原告プログラム及び原告アルゴリズムが本件各誓約書にいう秘密情報に当たるとは即断することができないし、被告乙Aが原告プログラムのデータを持ち出したとも認められないから、債務不履行を理由とする原告の請求も理由がない。
5 争点5(原告の受けた損害の額)について
 そこで、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに係る原告の受けた損害についてみる。
(1) 著作権法114条1項に基づく損害について
ア(ア) 前記前提事実、証拠(甲50、61、乙29の1ないし3)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告ニックは、別紙「被告製品(旧バージョン)販売実績」に記載のとおり、●(省略)●販売したが、被告製品1のうちの1台(番号4)は、原告が、被告各製品を調査するために、埼玉医科大学に依頼して購入したものであったこと、被告製品1に対応するのは原告製品1、被告製品3及び6に対応するのは原告製品2であること、原告プログラムは、原告各製品等の専用のハードウエアを作動させるためのソフトウエアであり、原告が、新規顧客に対して原告プログラムのみを販売することはないところ、上記ソフトウエアを単体で購入したのは、原告にとって新規顧客であったこと、被告旧バージョンも被告各製品を作動させるための専用のソフトウエアであることを認めることができる。
 これらの事実によれば、被告ニックの上記販売分のうち、被告旧バージョンのソフトウエアのみの1本と被告製品1のうち1台(番号4)については、原告がこれらに対応する製品を販売することができないとする事情があるものと認めるのが相当であり、結局、被告ニックの被告旧バージョンによる原告プログラムの著作権侵害がなければ、原告は、被告が販売した製品●(省略)●を販売することができたと認められる。
(イ) 原告は、ソフトウエアのみを販売した場合も、原告が販売する自動接触角計の販売機会が奪われていると主張するが、原告プログラム及び被告旧バージョンが、それぞれ専用のハードウエアを作動させるためのソフトウエアであることからすると、原告が上記新規顧客に対し原告プログラムをソフトウエア単体で販売することはなかったというべきであるし、この新規顧客は自動接触角計を有していたものと考えられるから、原告が自動接触角計を販売することはできなかったと解される。原告の上記主張は、採用することができない。
(ウ) 被告ニックらは、被告製品3に対応する原告の製品は、「DM−CE1」であると主張し、証拠(乙32、33)を援用して、現にこれを独立行政法人産業技術総合研究所に対してこれを販売しているとするが、証拠(乙29の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、上記製品を海外向けのみに販売して、日本国内では販売せず、上記独立行政法人に対しては公益目的の研究開発支援の趣旨で特別に上記製品を提供したものであると認められるから、被告ニックらの上記主張は、採用することができない。なお、被告ニックらは、別紙「被告製品(旧バージョン)販売実績」の番号2及び5についても、これらの購入者が被告製品3の代わりに原告の製品を購入することはあり得なかったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
イ ●(省略)●
ウ もっとも、被告ニックらによる著作権侵害が認められるのは、原告製品1及び2に搭載されている原告プログラムのうちの本件対象部分に限定されるというべきであるから、原告が受けた損害も同部分に限定される。
 証拠(甲66の15)及び弁論の全趣旨によれば、原告が平成22年3月頃に顧客に販売した原告製品2の販売価格●(省略)●販売先等によりこの比率に多少の増減があることを考慮すると、原告プログラムの原告製品2に対する寄与度は30%と認めるのが相当である。
 また、前記前提事実、証拠(甲9、27、43)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告プログラムは17万0672行からなるところ、うち2525行を占める原告接触角計算(液滴法)プログラム、とりわけ本件対象部分(2055行)は、行数の占める割合が低いものの、接触角の計測や計算を自動的に実行するプログラムであって、原告プログラムの中枢をなす重要なプログラムであると認められるから、本件対象部分の原告プログラムに対する寄与度は70%と認めるのが相当である。
 そうすると、原告製品2において原告プログラムの本件対象部分が寄与する1台当たりの利益額は、●(省略)●
 さらに、証拠(甲50、61)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品1に搭載されている動的接触角の測定なども可能な原告プログラムは、原告製品2に搭載されているベーシック版よりも上級のものであり、原告製品1にはハードウエアの点でもシングルディスペンサシステムが付属するなどしている原告製品2の上級品であること、一方、被告ニックらによる著作権侵害が認められる原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は、上記ベーシック版に含まれることが認められるから、原告製品1において原告接触角計算(液滴法)プログラムの●(省略)●
エ 被告ニックらは、競合他社が存在するなどと主張するが、競合他社の存在が、被告ニックの譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を原告が販売することができないとする事情に当たることについての的確な主張立証はなく、かえって、証拠(甲42、43)によれば、日本国内で販売されている他の接触角計では接線法が採用されていないなど、機能等が異なることがうかがわれるから、原告や被告ニックの製品以外の製品が販売されていることが上記事情に該当するとは認めるに足りないというべきである。
(2) 調査費用について
 前記前提事実及び証拠(甲62、63)を総合すれば、原告は、平成22年3月頃、被告旧バージョンが原告プログラムの著作権を侵害しているのではないかどうかを調査するために、埼玉医科大学に依頼して、同医大に送金した250万円を用いて被告製品1を168万円(税込み)で購入したことが認められる。しかしながら、上記調査のためには、被告旧バージョンのソフトウエアを購入すれば足りると考えられるのであって、前記前提事実によれば、被告ニックは、被告旧バージョンのソフトウエアのみを17万4000円(税込み18万2700円)で販売したことがあるところ、原告が、被告旧バージョンのみならずこれを搭載した被告製品1までをも購入する必要があったことについてはこれを認めるに足りる立証がない。そうであるから、原告が受けた損害は、被告旧バージョンのソフトウエアのみの代金相当額にとどまると解すべきであり、他に適切な証拠がないことに照らすと、その額は18万2700円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用について
 また、本件事案の難易、請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると、被告の侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害金は、17万円と認めるのが相当である。
6 争点6(被告乙B及び被告乙Aが受領した退職金を原告に返還すべき義務があるか否か)について
 被告乙Bが、C及び被告乙Aと共謀して、原告退職後に原告の自動接触角計製造に関する技術を盗用して商品を発売することを計画し、資料を持ち出したことや、被告乙Aと共謀して原告プログラムのデータを不正に取得するように計画したこと、原告在籍中に原告従業員のDに被告ニックへの転職の勧誘をしたことを認めるに足りる証拠はない。
 また、被告乙Aが原告プログラムのデータを被告ニックに開示したと認めるに足りないのは、前述のとおりである。
 したがって、不当利得を理由とする原告の退職金の返還請求は、その前提を欠くものであって、理由がない。
7 争点7(原告のB事件に係る訴訟提起が被告ニック及び被告あすみ技研に対する不法行為を構成するか否か)について
(1) 前記前提事実、証拠(乙4ないし8、18の1及び2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
ア 原告は、本件仮処分申立事件の係属中の平成22年11月下旬頃までに、被告ニックから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのうち別紙「ソースコード行数」に記載されたプログラムのうち番号(26)ないし(28)を除いたもののソースコード及び被告新接触角計算(液滴法)プログラムのうちこれらに対応する部分の開示を受けた。
イ 原告は、平成23年1月13日、被告ニックが原告プログラムを複製又は翻案して被告旧バージョンを製造、販売したことや、被告乙Aが原告プログラムのソースコード等を返還せずに被告ニックのために使用したことを認めて被告ニックらが謝罪し、被告旧バージョンの製造、販売の中止や記録媒体の廃棄等をすること、被告ニックらが損害賠償として一定額を支払うこと、原告は、被告旧バージョンを搭載した製品の製造、販売をしない限り、被告新バージョンを搭載した製品を製造、販売することを認めること、和解内容を秘密とするが、和解が成立した旨やその概(28)等を記載した書面を交付したりホームページに公開したりすることは可能とすることなどを骨子とする和解条項案を提示したが、和解の成立には至らず、原告は、その後、本件仮処分申立事件の申立てを取り下げた。
ウ 原告は、平成23年11月15日、被告旧バージョンに関するA事件に係る訴えを提起し、平成24年9月3日、被告新バージョンに関するB事件に係る訴えを提起した。
(2) そこで検討するに、被告新接触角計算(液滴法)プログラムが原告接触角計算(液滴法)プログラムの複製や翻案に当たると認められないことは、前記認定のとおりであるところ、上記(1)認定の事実の下においても、原告がこのことを認識していたとは認め難いし、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムが原告プログラムの複製又は翻案に当たると認められることに加え、その改良版である被告新接触角計算(液滴法)プログラムの一部には、変数や引数の名称が多少異なるが関数の表現や内容等は同一である部分もあることなどからすると、通常人であれば容易にそのことを知り得たとも認め難い。また、原告プログラムや原告アルゴリズムが不正競争防止法上の営業秘密に当たるとは認められないことは前述のとおりであるとしても、同法の定める要件を具備するかはともかくとして、販売する製品に搭載するプログラムやそのアルゴリズムを秘密として取り扱うことは通常あり得べきことであるし、原告においても、原告アルゴリズムを記載した本件ハンドブックを社外秘扱いとする旨明示したり、平成20年8月頃以降は原告プログラムへのアクセスを制限したりするなど、一定の管理を行っていたことが認められるから、原告が営業秘密に当たらないと認識していたとか、通常人であれば容易にそのことを知り得たなどとは認め難い。
(3) 被告ニックらは、原告が、本件仮処分申立事件の審理中に被告新バージョンのソースコードの開示を受けて、被告新バージョンが原告の著作権を侵害しないことを前提とする和解案を提示したから、原告は、被告新バージョンが原告の著作権を侵害しないことを認識していたと主張する。原告が、被告新バージョンのソースコードの一部の開示を受け、その上で和解案の提示をしたのは前記認定のとおりであるが、被告新バージョンに係る提案内容は、条件付きで被告新バージョンを搭載した製品の製造、販売を認めるというものに過ぎないから、被告新バージョンが原告の著作権を侵害しないことを前提するものであるとはたやすく断じ難い。被告ニックらの上記主張は、採用することができない。
8 争点8(本件各告知行為が虚偽の事実の告知又は流布に当たるか否か)について
(1) 本件告知1及び本件告知文書Aについて
 本件告知1及び本件告知文書Aにおいて原告が記載した内容は、平成23年11月15日に被告ニックが製造、販売した接触角計に関して当裁判所に著作権法違反及び不正競争防止法違反で提訴したという事実を摘示するものであるところ、原告が上記年月日に被告旧バージョンに関するA事件に係る訴えを当裁判所に提起したことは真実であるし、「製造販売した」とあることからしても、上記事実をもって、被告新バージョンについても提訴したことを公衆等に告知するものであるとはいえず、原告が公衆にその旨誤信させることを意図したと認めるに足りる証拠もない。
(2) 本件告知文書Bについて本件告知文書Bの記載内容は、被告ニックが過去に製造、販売した接触角計に関し提訴したことについて事実関係の確認等を求めるものであるに過ぎず、被告新バージョンが著作権法違反等に該当する、又はそのおそれがあるとの誤信を生じさせるものとは認められない。
(3) 本件告知2について
 本件告知2において原告が記載した内容は、原告が平成24年9月4日に被告ニックが現在製造、販売している接触角計に関して被告ニックらを提訴したとの事実を摘示するものであるところ、原告が同月3日に被告新バージョンに関するB事件に係る訴えを当裁判所に提起したことは真実であり、日付に誤りはあるが、この点が被告ニックらの信用を毀損するものであるとはいえないし、原告のB事件に係る訴えの提起が不法行為を構成するものでないことは前述のとおりであるから、原告が相当程度の侵害の疑いもないのに暗にそれがあるかのような情報伝達を意図して行ったなどとも認められない。
9 以上のとおりであって、A事件の原告の請求は、被告旧バージョンの著作権侵害に係る損害賠償として、被告ニック及び被告乙Aに対し、190万1258円及びこれに対する平成23年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、B事件の原告の請求はいずれも理由がなく、C事件の被告ニック及び被告あすみ技研の請求はいずれも理由がない。
 よって、上記の限度で原告の請求を認容し、原告のその余の請求並びに被告ニック及び被告あすみ技研の反訴請求は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 三井大有
 裁判官 志賀勝は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 高野輝久


別紙 被告プログラム目録
1 名称 i2win ver1.0.0、ver1.1.0及びver1.2.0
 被告ニックにより、平成21年9月頃より平成21年10月20日までの間に開発され、平成21年10月26日以降に販売開始された、自動接触角計(ぬれ性評価装置)に搭載されたプログラムであって、液滴の接触角を自動で測定、解析することができる機能を有し、オペレーティングシステムWindows XP及びWindows Vistaを搭載したコンピュータで作動するもの及びその改良版
2 名称 i2win ver1.3.0
 被告ニックにより上記1のプログラムを平成22年8月ころに若干改変したプログラムであって、液滴の接触角を自動で測定、解析することができる機能を有し、オペレーティングシステムWindows XP、Windows Vista及びWindows 7を搭載したコンピュータで作動するもの
3 名称 i2win mini
 被告ニックにより上記1のプログラムを平成22年8月ころに若干改変したプログラムであって、液滴の接触角を自動で測定、解析することができる機能を有し、オペレーティングシステムWindows XP、Windows Vista及びWindows 7を搭載したコンピュータで作動するもの

別紙 被告製品目録
1 名称 ぬれ性評価装置(自動接触角計)
  型式番号 LSE−A100
2 名称 ぬれ性評価装置(自動接触角計)
  型式番号 LSE−A100T
3 名称 ぬれ性評価装置(自動接触角計)
  型式番号 LSE−B100
4 名称 ぬれ性評価装置(自動接触角計)
  型式番号 LSE−B100W
5 名称 ぬれ性評価装置(自動接触角計)
  型式番号 CAME1
6 名称 ぬれ性評価装置(自動接触角計)
  型式番号 LSE−ME1

別紙 原告プログラム目録
名称 FAMAS ver3.1.0.0
(対応OS Windows Vista/XP/Me/98(Second edition含む)/95、使用言語 Visual Basic6.0)
 原告により、平成10年12月から平成12年10月までの間に開発されたFAMAS ver1.0.0.0に、平成21年7月までの間にバージョンアップが加えられたプログラムであって、液滴の接触角を自動で測定、解析することができる機能を有するもの

別紙 原告製品目録
1 名称 自動接触角計
  型式番号 DM−501
2 名称 自動接触角計
  型式番号 DM−301
3 名称 フラットパネル接触角計
  型式番号 FPD−MH20

別紙 被告製品(旧バージョン)販売実績
番号 商品名 販売価格(税抜き)
1 i2win(ソフトのみ) \174,000
2 LSE-B100(ハード+ソフト) \941,429
3 LSE-B100(ハード+ソフト) \1,115,600
4 LSE-A100(ハード+ソフト) \1,600,000
5 LSE-B100(ハード+ソフト) \625,000
6 LSE-A100(ハード+ソフト) \1,800,000
7 LSE-B100(ハード+ソフト) \870,000
8 LSE-ME1 ( ハードプラス+ソフト) \536,770
合計   \7,662,799
 
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