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【事件名】DVD「四季の山野草と高山植物」事件(2) 【年月日】平成26年4月23日 知財高裁 平成25年(ネ)第10080号 損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求控訴事件、同附帯控訴事件 (原審・東京地裁平成24年(ワ)第32409号、平成25年(ワ)第5163号) (口頭弁論終結日 平成26年2月5日) 判決 控訴人・附帯被控訴人(原告・反訴被告) X(以下「控訴人」という。) 被控訴人・附帯控訴人(被告・反訴原告) 株式会社ポニーキャニオン(以下「被控訴人」という。) 訴訟代理人弁護士 内藤篤 同 根本かほり 主文 1 本件控訴について (1) 原判決主文第4項を取り消す。 (2) 前項の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。 (3) その余の本件控訴を棄却する。 2 本件附帯控訴について (1) 原判決主文第1項を取り消す。 (2) 前項の取消部分に係る控訴人の請求を棄却する。 3 当審請求について 控訴人の当審における新たな請求を棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審とも、本訴反訴を通じて、これを2分し、その1を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。 事実及び理由 第1 申立て 1 控訴人 (1) 本件控訴について ア 原判決主文第2項から第4項までを取り消す。 イ 前項の取消部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。 ウ 原判決主文第5項中控訴人の損害賠償請求を棄却した部分を次のとおり変更する。 (ア) 被控訴人は、控訴人に対し、原判決主文第1項で認容された金員のほかに、132万4065円及びこれに対する平成24年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (イ) 控訴人のその余の損害賠償請求を棄却する。 エ ウ(ア)につき仮執行宣言。 (2) 当審における新たな請求 ア 被控訴人は、「virtual trip 花 Flowers 四季の山野草と高山植物」とのタイトルのDVD及びブルーレイ商品を複製、販売してはならない。 イ 被控訴人は、前項のDVD及びブルーレイ商品を廃棄せよ。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 (1) 原判決主文第1項を取り消す。 (2) 前項の取消部分に係る控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 (1) 原審請求の要旨 本件は、原審における本訴として、控訴人が被控訴人に対し、@被控訴人が販売する後記「本件作品」中の後記「本件風景映像動画」部分が控訴人の著作権(複製権)を侵害するとして、不法行為に基づいて、損害賠償金225万円及び附帯金の支払と、A本件風景映像動画の著作権(複製権)に基づいて、本件作品から本件風景映像動画を削除(廃棄)することを求め、同反訴として、被控訴人が、控訴人に対し、B控訴人が販売する後記「本件映像動画1」及び「本件映像動画2」は録音録画物製作委託契約である後記「本件契約」に基づき被控訴人が著作権を取得したとして、著作権に基づいて、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権確認と、C本件契約に基づいて、本件映像動画1及び本件映像動画2の映像素材の引渡しと、D本件契約の解除に基づいて、既払金153万6465円の返還及び附帯金の支払とを求めた事案である。 (2) 原審の判断 原審は、上記(1)@の本訴損害賠償請求について、損害賠償金23万5935円及びこれに対する不法行為日(本件作品を収録したDVDの発売日)である平成24年3月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第1項)、その余の請求を棄却し(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分)、同Aの本訴廃棄請求について、控訴人が前提となる差止請求をしていないとしてこれを却下し(原判決主文第5項のうち訴え却下部分)、同Bの反訴著作権確認及び同Cの反訴原板引渡請求について、全部認容し(原判決主文第2項及び第3項)、同Dの既払金返還請求について、153万6465円及びこれに対する催告の日の翌日である平成25年5月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第4項)、その余の請求を棄却した(原判決主文第6項)。 なお、原判決主文第1項及び第4項には、仮執行宣言が付されている。 (3) 不服申立て及び当審請求 控訴人は、本訴について、原判決が控訴人の上記(1)@の請求を棄却した部分のうち(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分)、132万4065円(新たな算定方法による総損害額156万円から原審が認容した23万5935円を控除した額)及びこれに対する附帯金の支払を求める限度で不服を申し立て(申立て1(1)ウ)、反訴について、原判決が被控訴人の上記(1)BCDの各請求を認容した部分(原判決主文第2項から第4項まで)の取消しを求めるとともに(申立て1(1)ア、イ)、当審における新たな請求として、本件作品を収録したDVD等の販売等の差止めと本件作品を収録したDVD等の廃棄を求めた(申立て1(2))。 被控訴人は、本訴について、原判決が本訴損害賠償請求を一部認容した部分(原判決主文第1項)の取消しを求めた(申立て2(1)(2))。 2 前提事実 当事者間に争いのない事実と後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は、次のとおりである。 (1) 当事者 ア 控訴人 控訴人は、フリーのカメラマンである。(争いのない事実) イ 被控訴人 被控訴人は、音楽、教養、文芸、スポーツ、映画、娯楽等の各種パッケージソフト(CD、DVD等)並びにデジタルコンテンツの企画、制作及び販売を業とする株式会社である。(争いのない事実、乙7) 被控訴人は、自然風景などをテーマにしたDVD、ブルーレイ等の映像作品シリーズである「virtual trip」を製作しており、同シリーズは20年以上前から発売されている。(乙1) (2) 本件作品 被控訴人は、平成24年3月21日、「virtual trip 花 Flowers 四季の山野草と高山植物」とのタイトルの付された控訴人の撮影した映像動画(以下「本件作品」という。)を複製したDVD及びブルーレイの頒布を開始した。 本件作品は、「春」「夏」「高山植物」「秋」及び「冬」の5つのブロックからなり、それぞれのブロックについて、最初に「春」「夏」「高山植物」(別紙映像動画目録(2)納品ファイル名欄の番号17の上段「2010_08_06_IMG.2543 ハクサンイチゲ」)「秋」及び「冬」とのタイトルが付された山野の風景の映像動画各1点の合計5点と、それぞれのブロックについて、上記各タイトル映像動画に続く画像処理された複数の山野草又は山野の風景の映像動画と、山野草のそれぞれの名称が字幕で付された山野草の映像動画448点(以上合計58分4秒)と、山野草の映像動画の合間に挿入された字幕の付されていない水辺、森、山野草、山野又は空などの映像動画(以下「本件風景映像動画」という。)52点(9分8秒)を収録している。 (争いのない事実、甲1、4、7、乙12の14の2、18) (3) 本件契約 控訴人と被控訴人は、平成21年12月ころ、平成21年11月1日付けで控訴人が被控訴人の委託に基づき録音録画物の製作業務を行い、被控訴人が控訴人に対して一時金150万円及び印税を支払うことを内容とする契約(以下「本件契約」という。)を締結した。(甲2、乙1、8) 本件契約に係る製作委嘱契約書(甲2、乙8)には、次の記載がある(なお、当事者の略称を本判決のものに改めたほかは、原文どおりに引用する。また、本件契約書中で付された略称は、そのまま本判決の略称とする。)。 「第1条(目的) @ 控訴人は、被控訴人に対し、別紙目録記載の録音録画物(複製、頒布、上映、放送、公衆送信等に適する未編集の録音録画物、以下、原版という)の製作業務(撮影業務(音声の収録を含む)をいう、また、必要な関連業務を含む、以下、本件業務という)を被控訴人の委嘱に基づき行うことを承諾し、被控訴人はこれらに関する対価を控訴人に支払うことを約諾した。 A 前項に基づき製作された原版(全ての収録素材を含む)及び原版を制作する過程で生じた中間成果物(以下、併せて、本件成果物という)に関する所有権並びに著作権法上の一切の権利(著作隣接権、並びに著作権法第27条、28条の権利を含む)、産業財産権及びその他一切の権利は被控訴人に帰属するものとする。」 「第2条(対価) @ 被控訴人は、本契約の一切の対価として下記の金員(一時金及び印税、以下、本対価という)を支払うものとする。尚、本対価には、控訴人に対する報酬金の他、本件成果物の撮影費(撮影機材費、撮影素材費、交通費等の経費等を含む)、本件成果物製作に関与した者(控訴人以外のムービーカメラマン等を含む)に対する一切の報酬を含むものとする。 (1) 一時金として、金1,500,000円(源泉税込、消費税別)を以下の通り、現金振込をもって控訴人の指定する銀行口座宛に支払うものとする。 【支払い】 平成21年12月末日迄に:金750,000円(消費税別) 被控訴人の原版受領後10営業日以内に:金750,000円(消費税別) … (2) 被控訴人の原板の利用に基づき、以下に定める企画協力印税及びプロモート印税(源泉税込、消費税別、以下、併せて印税という)を控訴人に支払うものとする。 (a) 【企画協力印税】 (イ) ビデオグラム頒布の場合 ビデオグラム1本(枚)につきその消費税込価格より素材費(消費税込価格の10%相当額)並びに消費税を控除した額の3%相当額。 … (b) 【プロモート印税】 (イ) ビデオグラム頒布の場合 ビデオグラム1本(枚)につきその消費税込価格より素材費(消費税込価格の10%相当額)並びに消費税を控除した額の2%相当額。 … 」 「第7条(納期) 控訴人は、被控訴人の最終的承認済原板(及びその他本件成果物)を、別途被控訴人の指定する期日迄に被控訴人に対し納入するものとする。」 「第8条(検収) @ 前条所定の原板(及びその他本件成果物)を被控訴人に納入した後、被控訴人は仕上がり状況に関し検査するものとし、万一、不良箇所があった場合には、控訴人は被控訴人の申し出によりその箇所を控訴人の費用負担にて改良しなければならない。 A 原板(及びその他本件成果物)が、本条に定める検収を完了する前に遺失又は毀損した場合、その損害は控訴人の負担とする。」 「第9条(解約) 前条に定める原版の検収が完了する前において、被控訴人、控訴人のいずれかが次に定める各項のいずれかに該当する事由が生じた場合は、当該行為者の相手方は相当の催告期間を定めて是正を求めた後、当該行為者がその催告期間内に解約事由を是正することができないときは、本契約を解約することができるものとする。但し、本条第5号、第6号及び第7号に該当する事由が生じた場合は、当該行為者の相手方は当該行為者に対して一方的に通告して即時本契約を解除することができるものとする。 (1) 正当な理由がなく、控訴人において制作スケジュールが著しく遅滞した場合。 (2) 控訴人が、被控訴人の定める制作基準に基づく本作品の納入を被控訴人の定める期限までに完了することが不可能と被控訴人が判断した場合。 (3) 控訴人が本件業務を中断した場合。 (4) 控訴人が本件業務に要する著作物等の権利を取得することが不可能となり、または被控訴人に取得させることが不可能となった場合。 (5) 被控訴人、控訴人のいずれかが金融機関から取引停止の処分を受けた場合。 (6) 被控訴人、控訴人のいずれかが差押え、競売、強制執行、滞納処分等の処分を受けた場合。 (7) 被控訴人、控訴人のいずれかが破産、民事再生、会社更生の申立てを自らなし、もしくは他からこれらの申立てを受けた場合。 (8) 本件業務遂行に際し、控訴人が第三者の権利を侵害し、又はその他の事由により被控訴人の名誉を著しく毀損した場合。 (9) 本件業務に関して公序良俗に反する行為、並びに被控訴人の品位を傷つける行為を行った場合。 (10) その他、被控訴人、控訴人のいずれかが本契約に定める各条項のいずれかに違反した場合。」 「第10条(解約の効果) @ 被控訴人が、前条の解約により本契約を終了させたときは、控訴人はそれまでに被控訴人より受領した金員を被控訴人に返還しなければならない。 A 被控訴人は、本契約を解約した場合においても、本契約によって取得した著作権、及び控訴人がそれまで取得した本件成果物の素材の所有権はすべて被控訴人に独占的に帰属するものとする。」 「目録 【原版】Virtual Trip 山野草(仮題)に使用する録音録画物 撮影期間:2009年11月〜2010年9月(予定) 備考:@カラー・ステレオ A春夏秋冬、各々の季節の山野草を収録」 (4) 本件風景映像動画の収録に至る経緯 ア 端緒 平成21年11月ころ、被控訴人内で「Virtual Trip」シリーズの企画を長く担当していたAの元へ、控訴人が、本件作品を使用した新たな同シリーズの企画を売り込みにきた。Aは、控訴人と面談の上、その企画を進行させることにした。 (乙1) イ 被控訴人における稟議 被控訴人における社内決裁用の平成21年12月8日作成の「『virtual trip 山野草(仮題)』ビデオグラム原版製作の件」との稟議書(乙2)には、本件作品について、次の記載がある。 「備考: 環境映像“virtual trip”レーベルプレゼンツの新企画。 …総点数約400種類に及び植物を春夏秋冬毎に収録。日本の四季の風景とともに映し出すリラクセーション目的の映像コンテンツ。…」 ウ A宛平成22年2月10日付け控訴人発信メール(乙3) 控訴人が本件作品の冬のブロックの分として3クリップとともに本件作品とは別の企画の提案サンプル映像動画とする「奥入瀬渓流の冬景色」17クリップを送付したこと、「渓流」又は「奥入瀬の四季」との企画を売り込んできたこと、原版を受領した後に支払われるべき一時金残金75万円を前倒しで支払うよう求めたことの記載がある。 エ A宛平成22年2月15日付け控訴人発信メール(乙4) 控訴人が本件作品の冬のブロックの差替映像を送付したこと、その中に別企画の提案サンプル映像動画であるとする「冬景色」も加えて送付したことの記載がある。 オ A宛平成22年3月1日付け控訴人発信メール(乙5) 控訴人が別企画の提案サンプル映像動画を送付したこと、別企画のテーマとして「奥入瀬の四季」「渓流(水景)」「四季の自然風景」のテーマを提案したこと、今後の撮影により別企画が完成することの記載がある。 カ 控訴人宛平成22年9月30日付けA発信メール(甲4の@の4枚目) Aから控訴人に対して、本件作品の収録リスト作成を求める記載のほか、次の記載がある。 「それからお願いしておりました季節毎の実景のみの映像は、どのようになっていますでしょうか。」 キ 平成22年10月8日のDVD送付 控訴人は、Aに対し、平成22年10月8日、春夏秋冬の各1点の風景の映像動画が収録された「風景+追加ファイル」と題するDVD(乙6)を送付した。 (乙1) ク 平成22年10月18日付けA発信メールに引用された控訴人発信のメール(甲4の@の3枚目、甲14) 本件作品の映像動画の修正、追加についての記載のほか、次の記載がある。 「○また、只今、独自で撮影を進めております案件が一通り四季揃いましたので、見て頂きたいと思い、勝手ながら、ついでにサンプルを送付します。 (『奥入瀬の四季』『四季風景』『渓流』の三案です) 『山野草』の季節の扉候補に風景の中から抜粋して頂いてもいいかと思います。(今のところ、構図を固定した『動く写真』的な撮り方で統一しています)」 なお、本件紛争発生後に、控訴人において、控訴人が送付した別企画の提案サンプル映像動画のファイル名を確認したところ、その映像動画の撮影日が、本件風景映像動画以外の本件作品の映像動画の撮影日と一致しているものがあることが判明した。(甲8) (5) 控訴人に対する支払 被控訴人は、控訴人から一時金支払の前払の要望を受けたことから、控訴人に対し、次のとおりに一時金を支払った。(乙3、17の1〜4) @ 平成21年12月28日 71万2500円 A 平成22年 6月21日 45万2381円 B 同年 7月15日 22万6191円 C 平成23年11月10日 14万5393円 (合計153万6465円) (6) 本件映像動画1及び本件映像動画2 控訴人は、平成23年5月18日ころ、ソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」に、別紙映像動画目録(1)素材番号欄記載の各映像動画(以下「本件映像動画1」という。)を含む映像動画を提供し、本件映像動画1を送信可能化し、これを販売した。 また、控訴人は、平成23年5月から6月にかけて、株式会社アマナイメージズが運営する動画素材販売ウェブサイトにおいて、別紙映像動画目録(2)素材番号欄記載の各映像動画(以下「本件映像動画2」という。)を含む映像動画を提供し、本件映像動画2を送信可能化し、これを販売した。 (争いのない事実、甲11から13) 本件映像動画1の各映像動画は、本件契約に基づく本件成果物として被控訴人に納入された映像動画の一部である別紙映像動画目録(1)納品ファイル名欄記載の対応する項に各記載の映像動画が撮影された同一機会に、撮影の角度(アングル)、画角(寄り/引き)を変えて撮影されたものである。 また、本件映像動画2の各映像動画は、本件契約に基づく本件成果物として被控訴人に納入された映像動画の一部である別紙映像動画目録(2)納品ファイル名欄記載の対応する項に各記載の映像動画が撮影された同一機会に、撮影の角度(アングル)、画角(寄り/引き)を変えて撮影されたものである(以下、別紙映像動画目録(1)及び(2)の各納品ファイル名欄記載の各映像動画を「本件納品映像動画」という。)。 (乙1、9、10から13〔枝番を含む。〕、弁論の全趣旨) (7) 本件契約の解約 ア 催告 被控訴人は、平成24年5月23日に控訴人に到達した書面により、控訴人に対し、本件映像動画1が本件契約1条Aにいう本件成果物に当たることを理由に、10日以内に、ソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」への掲載と販売を中止して、被控訴人に映像素材を引き渡すよう求めた。(乙19の1・2) イ 解除の意思表示 被控訴人は、平成24年6月12日に控訴人に到達した書面により、控訴人に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。(乙15、16) ウ 本件映像動画1の掲載中止 控訴人は、平成24年7月19日にソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」から本件映像動画1を削除した。(甲10) (8) 原判決言渡後の支払 被控訴人は、控訴人から仮執行宣言が付された原判決主文第1項の給付命令に基づく支払を求められたことから、平成25年10月1日、控訴人に対し、遅延損害金を含めて25万4035円を支払った。(乙20) 3 争点 (本訴) (1) 本件風景映像動画利用の許諾の有無 (2) 損害の額(著作権法114条3項) (3) 弁済の有無 (4) 差止・廃棄請求の必要性 (反訴) (5) 本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性 (6) 本件契約の解除の効力発生の有無 4 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(本件風景映像動画利用の許諾の有無)について ア 被控訴人 Aは、控訴人に対し、本件作品の「春」「夏」「秋」「冬」及び「高山植物」の各ブロックの間やブロック中の山野草の映像動画の間に区切りを入れる必要があり、いわゆる「扉」として風景の映像動画を収録したいと申し入れ、控訴人もこれを承諾して本件契約を締結した。 このことは、平成21年12月8日付け稟議書(上記2(4)イ)に四季の風景を収録することが記載されていること、A発信の平成22年9月30日付けメール(同カ)による風景の映像動画の催促に対して控訴人がこれに応じたこと、控訴人発信の平成22年10月18日付けメール(同ク)で控訴人が提案サンプル映像動画の中から風景の映像動画を使用してよいと応答したことから明らかである。 したがって、控訴人は、本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾した。 イ 控訴人 控訴人は、控訴人発信の平成22年2月10日付けメール(上記2(4)ウ)で報酬の支払方法の変更を求めた際に、Aから「扉」向けに5点の風景の映像動画の納品を依頼されただけである。 被控訴人内部の稟議書(同イ)の内容を控訴人は知り得ないし、A発信の平成22年9月30日付けメール(同カ)は、「扉」向けの5点の風景の映像動画の納品の催促であり、控訴人発信の平成22年10月18日付けメール(同ク)は、「扉」向けの5点の風景映像動画の候補を提示したにすぎない。 したがって、控訴人は、本件作品に本件風景映像動画を複製して頒布することを許諾していない。 (2) 争点(2)(損害の額)について ア 控訴人 本件風景映像動画の使用料は、現在の主要取引相場の中間値である1点当たり3万円が相当である。 したがって、次のとおり、控訴人の受けた損害額は156万円になる。 30,000 円 × 52 点 = 1,560,000 円 著作権侵害の賠償である本件風景映像動画の使用対価を、そうではない本件作品の映像動画の使用対価に準じて算定することは相当ではない。 イ 被控訴人 本件作品に収録された本件風景映像動画の使用対価は、本件契約における映像動画の対価の規定を基に算定するのが相当である。 本件契約は、本件風景映像動画以外の映像動画の著作権譲渡の対価を含む一切の対価を150万円としているから、損害額は、本件風景映像動画と本件風景映像動画以外の映像動画の点数又は尺数に従い、次のとおり算定するのが相当である。 (点数基準) 1,500,000円÷448点×52点=174,107円 (尺数基準) 1,500,000円÷58分4秒×9分8秒=235,936円 (3) 争点(3)(弁済の有無)について ア 被控訴人 上記2(8)により、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権は、弁済により消滅した。 イ 控訴人 被控訴人の主張は、争う。 (4) 争点(4)(差止・廃棄請求の必要性)について ア 控訴人 本件作品を収録したDVD等の販売は、控訴人の本件風景映像動画についての著作権を侵害するので、本件作品を複製して本件作品を収録したDVD、ブルーレイの販売を差し止め、本件作品が収録されているDVD及びブルーレイを廃棄する必要がある。 イ 被控訴人 控訴人の主張は、争う。 (5) 争点(5)(本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性)について ア 被控訴人 本件映像動画1及び本件映像動画2は、本件納品映像動画の撮影と同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影したものであるから(上記2(6))、本件契約第1条A(上記2(3))にいう本件成果物(「原版」又は「原版を製作する過程で生じた中間成果物」)に当たる。 したがって、本件契約第1条により、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権は、被控訴人に帰属している。 イ 控訴人 控訴人は、フリーのカメラマンとして、花や風景の撮影を日常業務としているのであり、同じ被写体であっても本件契約外の個人の作品を撮影することができ、また、本件契約に同一の機会に個人の作品を撮影してはならないとの条項もない。したがって、どれが本件契約外の作品であり、どれが本件契約の履行として制作された作品かを区別することはできず、どちらであるかの選択は控訴人の裁量に委ねられており、本件成果物は、控訴人から被控訴人に納入された映像動画に尽きる。 したがって、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権は、控訴人に帰属している。 (6) 争点(6)(本件契約の解除の効力発生の有無)について ア 被控訴人 被控訴人は、本件成果物である本件映像動画1に係る映像素材の引渡しを控訴人に求めたが(上記2(7)ア)、控訴人は、自らが著作権者であると主張して、被控訴人に対する映像素材の引渡しを拒んだ。 したがって、控訴人には本件契約第7条の違反があるから、本件契約第9条(10)により、被控訴人は本件契約を解除することができ、控訴人は、本件契約第10条@により、被控訴人から受領した153万6465円を返還する義務がある。 なお、本件契約第10条Aにより、本件契約が解除された場合でも、被控訴人が本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権を喪失することはない。また、本件映像動画1及び本件映像動画2は現に被控訴人に引き渡されていないのであるから、その検収が完了していないことも明らかである。 イ 控訴人 @ 本件契約第17条には、「本契約書に定めなき事項或いは本契約書各条項の解釈に疑義の生じた場合には、甲乙は信義誠実の原則に基づき協議の上解決するものとする。」とあるから、本件映像動画1が本件成果物に当たるか否かについて疑義があるのに、一方的な解釈をして、協議をすることなく解除をしてもその効力は生じない。 A 控訴人は、平成24年7月19日、ソニーPCL株式会社が運営する「高画質ビデオ素材ライブラリー」から本件映像動画1及びその他の山野草の映像動画を撤去した(上記2(7)ウ)。また、控訴人は、本件映像動画1及び本件映像動画2が本件成果物に当たることが確定したときには、これを被控訴人に引き渡す用意がある。 B 本件契約第9条の解約は、原板の検収が完了する前でなければできないのであるところ、この検収は本件契約の履行における検収を意味し、既に本件作品が検収を終えてDVD等に収録されて販売されている以上、本件契約を解除することはできない。 C 被控訴人が本件契約を解除する意思表示をしたのは、本件作品が収録されたDVD等が発売された後であり、被控訴人が、本件契約第10条Aに基づき本件契約が解除されてもなお本件作品の著作権等を取得し続け、本件作品が収録されたDVD等の販売を継続できる一方で、控訴人が、本件契約第10条@に基づき被控訴人から取得した報酬の返還をしなければならないとするのは、極めて不合理である。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件風景映像動画利用の許諾の有無)について (1) 許諾の有無及び範囲 前記第2、2(4)イのとおり、被控訴人における社内決裁用の稟議書(乙2)には、「総点数約400種類に及び植物を春夏秋冬毎に収録。日本の四季の風景とともに映し出すリラクセーション目的の映像コンテンツ」との記載があり、しかも、この稟議書は、被控訴人代表者に至るまでの被控訴人の各役員、各役職者、各担当者の決裁を得ているものであるから、ここに記載された内容が、被控訴人内部において本件作品の正式な構成として最終的に定められたものと認められる。そうであれば、本件作品の担当者であるAは、当然、この内容を控訴人に伝えたものと推測され、これを覆すに足りる合理的な理由は見当たらない。現に、Aは、平成22年9月30日付けメールで控訴人に対して、風景の映像動画の納入を催促しているのである(前記第2、2(4)カ)。そして、控訴人が、@平成22年10月8日に春夏秋冬の各1点のみの風景映像動画が収録されたDVDを被控訴人に送付した(前記第2、2(4)キ)後に、A平成22年10月18日に新たに送付したDVDのサンプル映像動画から、Aが適宜風景の映像動画を選択して使用してよいとの内容のメールをしていること(前記第2、2(4)ク)に照らすと、それは、春夏秋冬各1点では数が足りないため、@とAの間に風景映像の追加がAから求められたものと考えるのが自然である。 また、風景の映像動画を、山野草の映像動画の「扉」として使用するとの合意があったことは、当事者間に争いがないが、「扉」が何を意味するのかは具体的には明確でないところ、本件作品に収録する風景映像について、A発信の平成22年9月30日付けメールによれば「季節毎の実景のみの映像」(前記第2、2(4)カ)と、控訴人発信の平成22年10月18日付けメールによれば「季節の扉候補」(前記第2、2(4)ク)との表現がされているが、ここから四季の各1季節の冒頭に各1点の映像動画のみを収録するとの限定されたような趣旨を読み取ることはできない。また、同メールの「風景の中から抜粋して頂いてもいいかと思います。(今のところ、構図を固定した『動く写真』的な撮り方で統一しています)」との記載からすると、前記のとおりAが使用できる部分を任意に選択することが許されたものと解するのが相当であり、この記載によって使用できる点数が限定されていると理解することは困難である。 以上の認定判断にかんがみると、控訴人が被控訴人に送付した提供サンプル映像動画から不足分の風景の映像動画を使用することが包括的に許諾された旨を述べるA作成の陳述書(乙1)に記載の事実経過は、ごく自然なものといえ、同陳述書は信用できるから、本件契約には、風景の映像動画を納入することも含まれていたものというべきである。 (2) 控訴人の主張等に対して 控訴人は、風景の映像動画として使用を許諾したのは5点のみである旨を主張するが、他方で、本件訴訟提起前には風景の映像動画として使用を許諾したのは4点であるとも主張していたのであり(甲4@の1枚目)、一貫性を欠いている。本件作品中の本件風景映像動画とする部分(控訴人による各映像動画の特定は必ずしも十分なものではないが、本件風景映像動画の点数及び尺数自体は、当事者間に争いがない。)の中には、風景というよりも樹木や山野草を遠望したといえるものがあるなど(甲7)、風景の映像動画と、風景の映像動画以外の映像動画とが明りょうに区分けできているものではない。結局のところ、本件契約の当事者間において、風景の映像動画として使用を許諾される映像動画の数量を明確に取り決めたと認めることはできないのである。すなわち、風景の映像動画として使用が許諾されたものが5点のみであることを積極的に裏付ける的確な証拠はないというべきであって、上記(1)の認定判断を左右する事情はうかがわれない。 なお、本件契約書(甲2、乙8)には、控訴人の製作する録音録画物について「備考:…A春夏秋冬、各々の季節の山野草を収録」と記載されているだけであって、風景の映像動画を含むような記載はされていないが、本件作品の主たるテーマは自然の中の山野草であって、風景となるような付随的な部分を記載しないとしても格別不自然ではない。 (3) 小括 以上からすると、控訴人は、本件風景映像動画を複製、頒布することの許諾をしたものと認めるのが相当である。 2 争点(5)(本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性)について 本件契約書第1条にいう「原板」は、「未編集の録音録画物」であり、この原板(未編集の録音録画物)の製作業務が控訴人に委託され、原板(未編集の録音録画物)を製作する過程で生じたものが「中間成果物」と、原板と中間成果物を併せたものが「本件成果物」とされている。したがって、控訴人が撮影場所において目的物を録音録画行為をする過程で生じた未だ編集されない状態の映像素材のすべてが本件成果物に該当することは、契約書面から明らかである。また、本件映像動画1及び本件映像動画2は、これに対応する本件納品映像動画の撮影と同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影したものである(前記第2、2(6))。したがって、本件映像動画1及び本件映像動画2が、原板であるか、それとも中間成果物であるのかはともかくとして、本件契約書の条項上は、本件成果物に該当するといえる。 なお、本件契約書は、平成21年12月ころに、平成21年11月1日付けで作成されたものであるところ(前記第2、2(3))、本件作品に収録された山野草の映像動画は、夏及び冬のブロックのごく一部(夏ブロック2映像、冬ブロック1映像)、秋のブロックのかなりの部分(66映像)が、本件契約書の作成日付けよりも前に撮影されたものであることが認められる(甲4A)。したがって、本件契約の履行の実態としては、委託に基づいて新たに撮影された映像動画を被控訴人に納入するだけでなく、それと同時に、控訴人が既に撮影済みの映像動画を納入することも行われていたものであり、山野草の映像動画の撮影日が記載された本件作品の収録リストが、控訴人からAに提出されていること(甲4@A、乙14の1〜5)からすると、Aがこのような履行の実態を承知していたことも、明らかである。 そして、本件映像動画1についても1映像(番号10)は、控訴人が本件契約前に撮影済みの手持ちの映像動画が使用されたものと認められる。 しかしながら、控訴人が既に撮影済みの上記映像動画を含む本件作品(本件風景映像動画部分を除く。)が、本件成果物に該当することは、当事者間に争いがなく、また、本件映像動画1における控訴人による手持ちの映像動画の使用は1映像にすぎず、その余の映像及び本件映像動画2においては、すべて本件契約に基づく撮影の機会に撮影されたものが使用されていることからすると、本件映像動画1及び本件映像動画2は、一体として本件成果物に該当すると評価できるものである。 3 争点(6)(本件契約の解除の効力発生の有無)について (1) 本件契約の解除の有効性 上記2に認定判断のとおり、本件映像動画1及び本件映像動画2は、本件成果物に該当し、本件契約第7条により、控訴人は被控訴人に対してこれらを納入する義務があるから(同条に定める納入期限は、本件証拠上不明であるが、本件作品を収録したDVD等が既に発売されている以上、この期限を経過していることは明らかである。)、控訴人には本件契約第7条の違反があることになり、これは本件契約第9条(10)の条項に該当することになる。そして、被控訴人が、本件映像動画1の引渡しの催告をし、催告期間経過後に本件契約を解除する意思表示をしたことは、前記第2、2(7)に認定のとおりである。 控訴人は、本件契約第9条の解約は、原板の検収が完了する前でなければならないところ、既に本件作品の検収が終了している以上、本件契約を解約することはできない旨主張する。しかしながら、「検収」に関する本件契約第8条@は、「前条所定の原板(及びその他本件成果物)を被控訴人に納入した後、被控訴人は仕上がり状況に関し検査するものとし、…」と、同Aは、「原板(及びその他本件成果物)が、本条に定める検収を完了する前に遺失又は毀損した場合…」と定めているから、同条にいう検収は、本件成果物を作成するための個々の映像素材を対象としているのであって、本件作品のみを対象としているのではない。また、本件契約第9条各号列記以外の部分は、同8条を承けて、「前条に定める原版の検収が完了する前において、被控訴人、控訴人のいずれかが次に定める各項のいずれかに該当する事由が生じた場合…」に解約権を行使できるとしているから、本件成果物である本件作品を収録したDVD等が発売された後であっても、同様に本件成果物である本件映像動画1及び本件映像動画2の「原板」の引渡しが未了である以上は、「原板」の検収は未了のままであるから、被控訴人において解約権を行使することは可能である。 したがって、被控訴人のした本件契約の解約は、効力を有するものというべきである。 (2) 本件契約の解除の効果 本件契約第10条は、被控訴人による解約により契約が終了した場合には、被控訴人が控訴人に対して既払金の返還を求めることができるとする定めを置く一方で(同条@)、本件契約によって控訴人から被控訴人が取得した著作権及び本件成果物の素材の所有権を失わないとする特則を規定しており(同条A)、被控訴人に片面的に有利な規定となっている。 確かに、本件契約第9条(10)を除く同条の他の号を見ると、受託者が順調に受託業務を遂行していない場合や委託者に成果物の著作権等を取得させることが困難となった場合など(同条(1)〜(3))、どちらか一方の金銭的信用力が極めて悪化した場合や破綻した場合など(同条(4)〜(7))、受託者に著しい不行跡があった場合など(同条(8)、(9))であり、このような場合に委託者が契約を解約したときには、委託者が既に支払済みの金銭を回収するとともに、責めのない委託者が将来的な著作権等の権利をめぐる紛争に巻き込まれる懸念をなくし、あるいは、契約違反をした受託者への制裁又は違反の予防として、受託者から委託者に納入された映像素材の著作権等の権利を引き続き委託者が保有し続けるとしてもやむを得ないものであり、契約当事者双方もそのように解釈して本件契約を締結したものと推認される。したがって、本件契約第10条は、そのような場合にはこれを全面的に適用しても必ずしも合理性に欠けるものではないといえ、言葉を換えれば、本件契約第10条に定める契約解約後の権利関係の調整規定が全面的に適用されるのは、そのような場合に限られると解される。しかしながら、逆に、本件契約第10条が念頭においていないような場合については、同条の定める契約解除後の権利関係の調整をそのまま適用する前提を欠くことになり、これを当事者間の利害調整や衡平の観点から適宜調整の上適用することが、本件契約の合理的解釈といえる。 そこで、以下、上記観点から検討するところ、@本件作品を収録したDVD等は既に発売されおり(前記第2、2(2))、したがって、本件作品は映像動画として完成品と評価できること、A被控訴人が控訴人に支払った対価(前記第2、2(5))は、ほぼ上記本件作品の作成のために費消されたものと推認できること、B本件映像動画1及び本件映像動画2は、本件納品映像動画が撮影された同一機会に撮影の角度、画角を変えて撮影されたものであり(前記第2、2(6))、上記2に認定判断のとおり、本件成果物に該当するから、被控訴人がそれらを収録した映像素材の引渡しを受けるべきものであること、C仮に控訴人による当該映像動画の引渡未了や公衆送信化により被控訴人に損害が生じたのであれば、被控訴人は、別途、控訴人に対して損害賠償請求をすることが可能であること、D本件映像動画1及び本件映像動画2の合計は32映像であるが、本件作品に含まれるのは500映像であり(前記第2、2(2)(6))、被控訴人に引き渡されなかった映像数が納入された映像数に比して格段に少ないこと、が認められる。以上の点を考慮すると、本件は、本件契約第10条が本来的に想定する事例とは異なるものであり、契約の合理的解釈として、同条Aに基づく権利等の維持の効果を認める必要性は高く、その適用はあると解されるものの、同条@に基づく既払金の返還の効果は、これを認める必要性は低いだけでなく、その時機も逸していて殊更に大きな負担を控訴人に強いるのであるから、その適用はないと解するのが相当である。 そうすると、本件契約の解約の結果、被控訴人は、控訴人に対し、本件作品を返還する必要はなく、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権等の取得も継続されるが、既払金の返還を求めることはできないというべきである。 したがって、被控訴人の解除に基づく既払金の返還を求める請求は、理由がない。 4 まとめ 上記1に認定判断のとおり、控訴人は本件風景映像動画を複製、頒布することを被控訴人に許諾をしたものであるから、争点(2)〜(4)について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がない。 上記2に認定判断のとおり、本件映像動画1及び本件映像動画2は本件成果物に該当するから、被控訴人は本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権を取得し、また、本件契約に基づいて本件映像動画1及び本件映像動画2の引渡しを求めることができる。また、上記3に認定判断のとおり、本件契約の解約は有効であるものの、被控訴人は、本件契約の解約に基づいて既払金の返還を求めることはできない。したがって、被控訴人の反訴請求は、本件映像動画1及び本件映像動画2について被控訴人が著作権を有することを確認し、これらを収録した映像素材の引渡しを求める限度で理由があるが、その余は理由がない。 5 結論 よって、控訴人の控訴に基づいて、控訴人に既払金153万6465円の返還及び同既払金に対する平成25年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じた原判決主文第4項は不当であるからこれを取り消して同取消部分に係る被控訴人の請求を棄却し、被控訴人が本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権を有することを確認し、控訴人にこれらを収録した映像素材を被控訴人に引き渡すことを命じた原判決主文第2項及び第3項は相当であるから、控訴人のその余の控訴を棄却し、被控訴人の附帯控訴に基づいて、被控訴人に損害賠償金23万5935円及びこれに対する平成24年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じた原判決主文第1項は不当であるからこれを取り消して同取消部分に係る控訴人の請求を棄却し、控訴人の当審における新たな請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀 映像動画目録 (1) ソニーPCL株式会社関係
(1) 株式会社アマナイメージズ関係
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