判例全文 | ||
【事件名】ジャズCD原盤製作契約事件(2) 【年月日】平成26年4月18日 知財高裁 平成25年(ネ)第10115号 著作権確認等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成24年(ワ)第8691号) (口頭弁論終結日 平成26年3月11日) 判決 控訴人 有限会社東京サウンドシティ企画 訴訟代理人弁護士 大久保誠太郎 同 播磨源二 被控訴人 Y 訴訟代理人弁護士 渡辺実 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は、ジャズ歌手である被控訴人が、レコード製作等を業とする会社である控訴人に対し、@被控訴人の歌唱を録音したCDについて被控訴人がレコード製作者の権利を有することの確認、Aレコード製作者の権利又は所有権に基づくマスターCDの引渡し、B被控訴人が立替払した伴奏代金として20万円及びこれに対する遅延損害金の支払、を求める事案である。 原審は、@被控訴人が控訴人に上記CDの製作費を交付し、その際、レコード製作者の権利は被控訴人に帰属させるとの合意があったから、被控訴人がレコード製作者の権利の全部を原始的に取得した、AマスターCDの所有権は、特段の合意がない限りレコード製作者に原始的に帰属する、B被控訴人は、控訴人が負担していた未払演奏料債務を立替払した、として、被控訴人の請求をいずれも認容したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。 2 請求原因及び請求原因に対する認否は、原判決を次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」第2の1及び2のとおりであるから、これを引用する(以下、原判決を引用する場合、「原告」を「被控訴人」と、「被告」を「控訴人」と、それぞれ読み替える。ただし、「被告準備書面」については、上記の読替えをしない。)。 (1) 原判決3頁15行目末尾に「その結果、控訴人は、平成23年10月21日当時、ソウル社に対し、24万7777円の未払演奏料債務を負担していた。」を加える。 (2) 原判決4頁18行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。 「エ 仮にしからずとも、控訴人は、平成22年11月11日、被控訴人と次の合意をした。 (ア) 控訴人は、被控訴人の歌唱をアメリカで録音し、CD製作を行う(その後、アメリカでの録音ができないので、ソニースタジオを使って録音を行うこととし、被控訴人もこれに納得した。)。 (イ) 製作されたマスターCDは控訴人に帰属し、控訴人はCDを作り、一般に販売する。 (ウ) 控訴人は被控訴人に対し、マスターCDより作られたCD2000枚を代金370万円で売り渡す。 ただし、後に、控訴人の製作実費がかなりの額になり、CD1枚当たりの原価が上昇したので、被控訴人はこの事情を理解して最終的に買い取るCDを1500枚とした。」 (3) 原判決4頁19行目冒頭の「エ」を「オ」と、同頁22行目冒頭の「オ」を「カ」と、それぞれ改める。 (4) 原判決4頁20行目から21行目までの「完成させ、その対価を総合すると本件CDの製作費は250万円以上である。」を「完成させた。控訴人が負担した本件CDの製作実費は、主要なものだけでも合計391万4506円であり、これに控訴人自身の労力の対価及び控訴人の一般経費を含めると、合計500万円以上となる。」と改める。 第3 当裁判所の判断 1 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて 被控訴人は、控訴人が平成26年3月11日の本件口頭弁論期日にて陳述した同年1月23日付け控訴理由書における、本件CDの製作実費は少なくとも391万4506円であるとの主張、及びこれに関する立証(乙14ないし32(枝番号を含む。)の申出)は、いずれも時機に後れた攻撃防御方法に当たるから却下すべきであると申し立てた。 しかしながら、これらの主張及び立証に対する被控訴人の認否や反論は、被控訴人が上記口頭弁論期日にて陳述した同年3月11日付け第1準備書面においてされており、これらの主張及び立証の審理のために新たな期日を指定する必要はなかったから、これにより本件訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。 よって、被控訴人の上記申立ては理由がないから却下することとする。 2 被控訴人の請求について 当裁判所も、被控訴人の請求はいずれも理由があると判断する。その理由は、原判決を次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」第3の1ないし4のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決5頁16行目末尾に「控訴人は、「IMPEX RECORDS JAPAN」のレーベル名で、ジャズ演奏を録音したCDを製作・販売している(乙7)。」を加える。 (2) 原判決5頁22行目から同頁23行目までの「CDの製作費として250万円、共演者のギャランティ、同行スタッフの旅費等に120万円の合計370万円と」を「CDの製作費や共演者のギャランティ、同行スタッフの旅費やその他の雑費を含めて合計370万円と」と改め、同頁24行目の「乙4、11、」を削る。 (3) 原判決6頁18行目の「A」を「A’」と改める。 (4) 原判決7頁23行目の「本件CDは完成した」を「「IMPEX RECORDS JAPAN」のレーベル名で、本件CDの販売が開始された」と改め、同行目の「乙9」の次に「、10」を加える。 (5) 原判決9頁14行目末尾に、改行の上、「(1) 請求原因(1)ア及びイの各事実は、当事者間に争いがない。」を加え、同頁15行目の「(1)」を「(2) 請求原因(1)ウないしオについて」と改め、同行目の「著作権法上の」以下の部分を次行に繰り下げる。 (6) 原判決9頁21行目冒頭の「(2)」を削り、同頁22行目の「上記1(3)のとおり」から同頁26行目の「原告であり、」までを「上記1(3)、(4)のとおり、この370万円は本件CDの製作等の費用全額として支払っているのであって、その際、レコード製作者の権利を被控訴人に帰属させるという合意があったものと認められる。そして、その後も本件CDの製作費の負担やレコード製作者の権利の帰属を変更するような合意がされたことを認めるに足りる証拠はない。よって、本件CDのレコード製作者は被控訴人であり、」と改める。 (7) 原判決11頁16行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。 「(エ) さらに、控訴人は、平成26年1月23日付け控訴理由書において、第2の2(1)エのとおり主張する一方、同年2月28日付け準備書面1には、本件CDの代金である370万円はCDの製作費の一部である旨の記載がある。」 (8) 原判決11頁17行目冒頭から同頁18行目末尾までを、次のとおり改める。 「(オ) そして,控訴人代表者は,平成25年5月31日付け陳述書(乙11)において,次のとおり陳述する。」 (9) 原判決12頁12行目冒頭から13頁5行目末尾までを、次のとおり改める。 「イ 控訴人の主張に係る合意の有無について (ア) 上記アによれば、控訴人は、原審において、被控訴人から交付された370万円が本件CDの製作費用やバンド費用であることを認めており、控訴審に至っても、370万円がCDの製作費の一部であることを否定しない。このような控訴人の主張内容に照らすと、この370万円については、その名目はともかく、実質的には本件CDの製作費に充てられるものとして授受されたと認めるのが相当であり、控訴人と被控訴人との間に、レコード製作者の権利を製作費の負担者と異なる者に帰属させるなどの合意の存在が認められない限り、製作費の負担者である被控訴人が、レコード製作者の権利を取得することとなる。 しかるところ、控訴人の主張には、この370万円は控訴人が被控訴人に売り渡すCDの代金であり、控訴人と被控訴人との間で、本件CDの著作権やレコード製作者の権利は控訴人に帰属するとの合意があったと解される部分がある。そして、控訴人代表者の陳述(乙11)には、370万円はCD3000枚(後に2000枚とされ、その後さらに減少した。)の売買代金であり、レコード製作者の権利は控訴人に帰属する旨の合意をしたとの部分があるから、その信用性について検討する。」 (10) 原判決14頁3行目の「原告が」から同頁4行目末尾までを「そもそも控訴人が被控訴人の承諾を得た上で本件CDに控訴人の名称を表記したと認めるに足りる証拠がない以上、これによって、控訴人がレコード製作者の権利を有していると認めることはできない。」と改める。 (11) 原判決14頁17行目末尾に、次のとおり加える。 「この点、控訴人は、製作費がかさんだためCD枚数を減らしたと主張するが、このこと自体、製作費が自らの負担ではないことを自認するに等しいというべきである。」 (12) 原判決14頁18行目冒頭から同頁26行目末尾までを削る。 (13) 原判決15頁1行目冒頭の「(ク)」を「(キ)」と改め、同頁5行目の「経ていないのであるから、このような訴訟経過だけから見ても」を「経ていない。このような訴訟経過に加え、控訴人代表者の陳述は、被控訴人が本件歌唱に係る実演についての著作権法上の一切の権利を控訴人に譲渡するなど、権利関係について控訴人に一方的に有利な約定をしたとの内容となっており、被控訴人が敢えてかかる合意をするにつき首肯すべき事情も見当たらないことからしても」と改める。 (14) 原判決15頁6行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。 「(ク) なお、控訴人は、本件CDの製作費は控訴人自身の労力の対価や一般経費を含めると合計500万円以上であると主張し、うち製作実費については、少なくとも91万4506円であったとして、これに沿う証拠(乙14ないし32(枝番号を含。))を提出する。 しかるに、本件CDの製作費が500万円以上であったとの点についての立証はなく、控訴人が製作実費と主張する391万4506円についても、控訴人が支払ったと認められる費用は、その主張金額の3分の1にも満たない金額であり、その余は単に請求書等があるだけで、これを支払った形跡がないことや、これらの書証は、本来原審において提出されるのが当然であるところ、控訴審になって初めて提出されたこと、同実費中には、本件CD販売のための宣伝広告費用等も計上されていることからすると、本件CDの製作実費が控訴人主張どおりの金額であると認めることは困難である。また、控訴人が被控訴人に対して本件CDの製作費全額を370万円と見積もり、レコード製作者の権利が被控訴人に帰属することを前提として、被控訴人が同金額を控訴人に支払ったことは、前記1(3)、(4)及び2(2)認定のとおりであるから、仮に被控訴人からレコード製作を依頼されこれを請け負った控訴人が最終的に支払うべき金額が当初控訴人の内部で予定した金額を上回ることがあったとしても、これによって、被控訴人がレコード製作者の権利を取得するとの前記2(2)認定の合意が当然に変更される理由はない。控訴人の上記主張は採用し得ない。」 3 結論 以上によれば、被控訴人の請求はいずれも理由があり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 田中正哉 裁判官 神谷厚毅 |
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