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【事件名】ソフトバンクBBへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成26年3月14日
 東京地裁 平成25年(ワ)第26251号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成26年2月5日)

判決
原告 株式会社シナノ企画
同訴訟代理人弁護士 宮山雅行
同 西口伸良
被告 ソフトバンクBB株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋聖
同 梶原圭
同 田中真人


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 前提となる事実(証拠等を付した以外の事実は争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、創価学会に関連する映像作品や一般映画の企画・製作・興行を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2) 本件動画の投稿
 「takuya」こと氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、株式会社ニワンゴ(以下「ニワンゴ」という。)が開設・運営する動画投稿サイト「ニコニコ動画」(以下「本件サイト」という。)に、動画タイトルを「【チキ本さん】呪われしモザイク」と題する別紙投稿動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を、同「投稿日時」欄記載の日時(以下「本件タイムスタンプ」という。)に、同「投稿時IPアドレス」欄記載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)を使用して、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して投稿した(甲2〜4、9)。
 本件動画は、その後、本件サイトから削除された(乙3、弁論の全趣旨)。
(3) 被告は、本件動画の投稿に関し、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「法」という。)4条1項の「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に該当する。
(4) 被告は、本件発信者に係る別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。
2 争点
(1) 権利侵害の明白性(争点1)
(原告の主張)
ア 本件動画の原映像の著作物性
(ア) 本件動画には、別紙著作物目録記載1、2の映像(以下「本件ビデオ映像@」及び「本件ビデオ映像A」といい、合わせて「本件ビデオ映像」という。)が使用されている。
(イ) 本件ビデオ映像@は、原告の従業員であったA@がディレクターとして、企画・発案、台本の構成、インタビュー撮影の指示、映像の編集作業などの製作全般に関与し、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し」て製作し、A@の思想・感情が創作的に表現された映画の著作物である。
(ウ) 本件ビデオ映像Aは、原告の従業員であったAAがディレクターとして、企画・発案、台本の構成、インタビュー撮影の指示、映像の編集作業などの製作全般に関与し、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し」て製作し、AAの思想・感情が創作的に表現された映画の著作物である。
イ 本件ビデオ映像の著作権が原告に帰属していたこと
 原告の就業規則38条1項には職務著作の定めがあり、「社員が職務上の行為として著作した著作物の著作権は、会社に帰属する。」と規定されているところ、本件ビデオ映像は、原告の発意に基づき、AA及びA@が同社の職務として製作し、原告名義で公表されたものであるから、職務著作として、その著作権は原告に原始的に帰属していた。
ウ 本件動画が本件ビデオ映像の複製物であること
 本件動画は、本件ビデオ映像の一部の画像を抽出して使用したもので、その対応関係は、別紙対応関係一覧表のとおりであり、両者を比較すると、本件動画が、本件ビデオ映像に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴を看取しうる複製物であることが分かる。
エ 本件動画による著作者人格権侵害
(ア) 本件発信者は、本件タイムスタンプの日時に、自らのパソコン等から被告のサーバに接続し、本件IPアドレスの割り当てを受け、被告が保有するルーターを経由して本件サイトに接続し、本件サイトを管理運営しているニワンゴのサーバに本件動画を転送保存させた。その結果、本件動画が、別紙投稿動画目録の「閲覧用URL」欄記載のウェブページに投稿され、インターネットを通じて不特定多数の者がアクセスし閲覧することが可能な状態となった。
(イ) 原告は、本件ビデオ映像@の著作権は平成12年3月31日に、本件ビデオ映像Aの著作権は平成15年3月31日に、それぞれ創価学会に譲り渡したが、その著作者人格権は保有している。
 しかるに、本件動画には、著作者たる原告の表示が無い。
 さらに、本件動画は、本件ビデオ映像から一部の画像だけを抽出して他の映像と結合させて、モザイクをかけるといった改変を加えるばかりか、その内容も登場人物や創価学会の信仰を揶揄嘲笑するものになっており、原告の意に反する改変を勝手に加えている。
 もとより原告から本件発信者に対して、本件動画への本件ビデオ映像の利用について、著作者名の表示又は非表示の許諾、改変行為の許諾を行った事実はない。
 したがって、本件発信者が本件動画を作成した行為は、原告の同一性保持権を侵害し、本件サイトへの本件動画の投稿による公表によって、原告の氏名表示権を侵害していることは明らかである。
オ 本件動画の利用に正当化事由がないこと
 本件発信者による、本件動画への本件ビデオ映像の利用について、著作権法上の正当化事由がないことも明白である。
カ 小括
 したがって、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(権利侵害の明白性。法4条1項1号)の要件を充足する。
(被告の主張)
ア 本件動画の原映像の著作物性
(ア) (本件動画には本件ビデオ映像が使用されていること)は否認する。仮に本件動画が特定の映像を基に作成されたものであるとしても、本件動画にはモザイク加工がされており、また、本件動画の各カットで繰り返し再生されている個々の映像は1秒にも満たない一瞬のものに過ぎないため、本件動画の基となった映像の内容は明らかではない。したがって、本件動画に使用されている原映像が本件ビデオ映像であるとは到底いえない。その余は不知。
イ 本件ビデオ映像の著作権が原告に帰属していたこと
 不知。
ウ 本件動画が本件ビデオ映像の複製物であること
 否認する。本件動画は、本件各ビデオ映像の表現形式上の本質的な特徴を感得させるものではない。
エ 本件動画による著作者人格権侵害
 (ア)は不知。
 (イ)について、本件動画に原告の氏名の表示がないことは認め、その余は不知、否認ないし争う。
 本件動画が、本件ビデオ映像の表現形式上の本質的な特徴を感得させるものではない以上、本件動画の投稿により、原告の同一性保持権及び氏名表示権が侵害されたとはいえない。
 また、同一性保持権とは著作物について「改変を受けない」権利をいい(著作権法20条1項)、改変された著作物を公衆送信する行為は同一性保持権を侵害するものではないと解されているところ、本件IPアドレス及び本件タイムスタンプは、あくまで、本件動画の本件サイトへの投稿と紐付く情報であるに過ぎず、本件IPアドレス及び本件タイムスタンプにより特定される本件IPアドレスの使用に係る契約の契約者(本件発信者)が、本件動画の公衆送信を行った者であることの証拠とはなり得ても、本件ビデオ映像に改変を加えて本件動画を作成した者であることについては何ら立証がされていないため、本件発信者が原告の同一性保持権を侵害したとは到底いえない。
オ 本件動画の利用に正当化事由がないこと
 争う。
(2) 発信者情報の開示を受けるべき正当理由(争点2)
(原告の主張)
 原告は、本件発信者に対して、著作者人格権に基づき、不法行為による損害賠償請求等を行うため、被告に対し、本件発信者情報の開示を求めるものであるから、「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」(正当理由。法4条1項2号)の要件も充足している。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1) 本件ビデオ映像の著作物性について
 甲5の1・2及び甲6によれば、本件ビデオ映像@は、原告の従業員であったA@がディレクターとして台本の構成、撮影の指示、映像の編集作業などの製作全般に関与して製作され、A@の思想・感情が創作的に表現された映画の著作物であることが認められる。
 また、甲6及び甲10の1・2によれば、本件ビデオ映像Aは、原告の従業員であったAAがディレクターとして台本の構成、撮影の指示、映像の編集作業などの製作全般に関与して製作され、AAの思想・感情が創作的に表現された映画の著作物であることが認められる。
(2) 本件ビデオ映像の著作者について
ア 本件ビデオ映像@について
 甲5の2、甲6及び弁論の全趣旨によれば、本件ビデオ映像@は、原告の発意に基づき、原告の従業員であったA@が原告の職務上製作し、原告の名義の下に公表されたものと認められるから、本件ビデオ映像@の著作者は原告であると認めるのが相当である(なお、弁論の全趣旨によれば、原告は、平成12年3月31日、本件ビデオ映像@の著作権を創価学会に譲渡した。)。
イ 本件ビデオ映像Aについて
 甲6、7、甲10の2及び弁論の全趣旨によれば、本件ビデオ映像Aは、原告の発意に基づき、原告の従業員であったAAが原告の職務上製作し、原告の名義の下に公表されたものであり、原告の就業規則38条1項には「社員が職務上の行為として著作した著作物の著作権は、会社に帰属する。」旨の規定があったことが認められるから、本件ビデオ映像Aの著作者は原告であると認めるのが相当である(なお、弁論の全趣旨によれば、原告は、平成15年3月31日、本件ビデオ映像Aの著作権を創価学会に譲渡した。)。
(3) 本件動画から本件ビデオ映像の本質的特徴を感得できること
ア 本件動画と本件ビデオ映像とを対比すると、本件動画は、本件ビデオ映像に依拠して、その一部を抽出し、モザイク加工し、他の映像・音楽と合成するなどの改変を加えた動画であり、その対応関係は、別紙対応関係一覧表(以下「一覧表」という。)のとおりであると認められる。
 著作権法20条に規定する同一性保持権を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、原著作物の同一性保持権を侵害しないと解すべきである(最高裁平成10年7月17日判決・判タ984号83頁・乙6[本多勝一反論権訴訟])。また、原著作物の本質的な特徴を感得させないような態様における使用には、原著作者の氏名表示権(著作権法19条)も及ばないと解すべきである。
 そこで、本件動画から、本件ビデオ映像の本質的特徴を感得できるか検討する。
イ 一覧表番号1番について
 本件動画の5秒から8秒の箇所は、本件ビデオ映像@の7分47秒付近の映像を加工したものである。
 本件ビデオ映像@の7分47秒付近の映像は、創価学会の信仰を始めるきっかけとなった知人との電話でのやりとりについて、ABが当時のやりとりを再現しながら語る様子をインタビュー撮影した場面であり、ABは、固定電話の受話器を持ったような格好で、知人が創価学会に入会した事実を知り、受話器から耳が離れるくらいに非常に驚いた様子を語っている。本件ビデオ映像@の上記部分は、ABの表情や仕草、衣服、発言内容が的確に視聴者に伝わるように、上半身のアングル、撮影時の光量といった撮影方法に工夫を施して撮影されたもので、そのアングル等にはディレクターであったA@の思想又は感情が創作的に表現されている。
 これに対し、本件動画の5秒から8秒の箇所は、本件ビデオ映像@の上記部分にモザイクを付し、他の映像や音楽と合成されているものの、ABが受話器を持ったような格好、受話器を耳から離すような動作、アングル等を感得することができ、本件ビデオ映像@の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
ウ 一覧表番号2番、5番について
 本件動画の9秒から16秒、38秒から44秒の箇所は、本件ビデオ映像@の11分52秒付近の映像を加工したものである。
 本件ビデオ映像@の11分52秒付近は、ABが、ACとともに創価学会の会合で披露した漫才をAE創価学会名誉会長に褒められたという状況を説明する様子をインタビュー撮影した場面であり、ABは、両手を顔の位置から外側に広げる動作をし、信仰上の指導者であるAEから漫才を褒められて、頭がパーンと爆発するほど感動した様子を語っている。
 本件ビデオ映像@の上記部分は、ABの表情や仕草、衣服、発言内容が的確に視聴者に伝わるように、上半身のアングル、撮影時の光量といった撮影方法に工夫を施して撮影されたもので、そのアングル等にはディレクターであったA@の思想又は感情が創作的に表現されている。
 これに対し、本件動画の9秒から16秒、38秒から44秒の箇所は、本件ビデオ映像@の上記部分にモザイクを付し、他の映像や音楽と合成されているものの、ABが手を顔から外側に広げる動作、アングル等を感得することができ、本件ビデオ映像@の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
エ 一覧表番号3番、6番、7番、9番について
 本件動画の17秒から30秒、48秒から54秒、59秒から1分02秒、1分20秒から1分27秒の箇所は、いずれも本件ビデオ映像Aの9分14秒から9分45秒までの映像を加工したものである。
 本件ビデオ映像Aの9分14秒から9分45秒までの箇所は、インタビューとは別の機会に創価学会で行われた会合の様子を撮影した映像をインタビューにカットインした場面であり、カットインした映像は、創価学会の会合において、ACがABと漫才を行っている模様を撮影した映像(以下「漫才カットイン映像」という。)である。
 漫才カットイン映像は、ACらが行う漫才の姿を前面からだけではなく、会合の参加者の表情が分かるようにACらの後方から撮影したり、会員のアップを撮影するなどのカメラワーク上の工夫が施されており、思想又は感情が創作的に表現されている。
 これに対し、本件動画の17秒から30秒、48秒から54秒、59秒から1分02秒、1分20秒から1分27秒の箇所は、本件ビデオ映像Aの上記部分にモザイクを付し、他の映像や音楽と合成されているものの、ACらの姿を前面や背後から撮影している様子、会合参加者をアップにした様子等を感得することができ、漫才カットイン映像の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
 しかし、本件ビデオ映像Aの漫才カットイン映像部分について、カットインのタイミングやカットインすべき場面の選択にAAの表現上の創作性が現れているとしても、その表現上の創作性を本件動画から感得することはできない。
 本件動画から感得できるのは、漫才カットイン映像のカメラワーク等、漫才カットイン映像の著作者の創作性であるが、その著作者が原告(AAないし原告の他の従業員)であったのか否かは、本件証拠上明らかでない。
 そうすると、本件動画と漫才カットイン映像部分は、原告が漫才カットイン映像に付加した表現上の創作性ある部分において共通するとはいえず、原告の表現の本質的特徴を感得できるとはいえない。
オ 一覧表番号4番について
 本件動画の31秒から37秒の箇所は、本件ビデオ映像Aの4分00秒から4分03秒の箇所を加工したものである。
 本件ビデオ映像Aの4分00秒から4分03秒の箇所は、ACが、同じ劇団に所属するABから初めて創価学会の機関紙を見せられた経緯をABとの対談形式で振り返る場面である。本件ビデオ映像Aの上記部分は、中心に映るACとABの姿が栄えるように光量、アングル等に工夫が施されており、ディレクターであったAAの思想又は感情が創作的に表現されている。
 これに対し、本件動画の31秒から37秒の箇所は、本件ビデオ映像Aの上記部分にモザイクを付し、他の映像や音楽と合成されているものの、ACが首を動かす動作、アングル等を感得することができ、本件ビデオ映像Aの上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
カ 一覧表番号8番について
 本件動画の1分03秒から1分19秒までの箇所は、本件ビデオ映像@の12分07秒付近の映像を加工したものである。
 本件ビデオ映像@の12分07秒付近は、創価学会の会合でAEから漫才を褒められたABが、そのことを信仰上の原点の一つとできた感動を語る場面であり、ABは、両手を目の位置から下側に下ろす動作をし、AEから褒められ涙を流して感動したことを語っている。本件ビデオ映像@の上記部分は、ABの表情や仕草、衣服、発言内容が的確に視聴者に伝わるように、上半身のアングル、撮影時の光量といった撮影方法に工夫を施して撮影されたもので、そのアングル等にはディレクターであったA@の思想又は感情が創作的に表現されている。
 これに対し、本件動画1分03秒から1分19秒までの箇所は、本件ビデオ映像@の上記部分にモザイクを付して他の映像や音楽と合成されているものの、ABが両手を目の位置から下に下ろす動作等を感得することができ、本件ビデオ映像@の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
キ 一覧表番号10番について
 本件動画の1分29秒から1分33秒までの箇所は、本件ビデオ映像@の10分56秒付近の映像を加工したものである。本件ビデオ映像@の上記部分は、インタビューとは別の機会に創価学会で行われた会合の様子を撮影した原映像をインタビューにカットインした場面であり、カットインした映像は、ABが、創価学会の会合において、会合の最前列に座りながら、他の女性会員とともに合唱する模様を撮影した映像(以下「合唱カットイン映像」という。)である。
 合唱カットイン映像は、アングル等に工夫が施されており、思想又は感情が創作的に表現されている。
 これに対し、本件動画の1分29秒から1分33秒までの箇所は、本件ビデオ映像@の上記部分にモザイクを付し、他の映像や音楽と合成されているものの、ABが女性会員とともに合唱する様子、アングル等を感得することができ、合唱カットイン映像の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
 しかし、本件ビデオ映像@の合唱カットイン映像部分について、カットインのタイミングやカットインすべき場面の選択にA@の表現上の創作性が現れているとしても、その表現上の創作性を本件動画から感得することはできない。
 本件動画から感得できるのは、合唱カットイン映像のカメラワーク等、合唱カットイン映像の著作者の創作性であるが、その著作者が原告(A@ないし原告の他の従業員)であったのか否かは、本件証拠上明らかでない。
 そうすると、本件動画と合唱カットイン映像部分は、原告が合唱カットイン映像に付加した表現上の創作性ある部分において共通するとはいえず、原告の表現の本質的特徴を感得できるとはいえない。
ク 小括
 以上によれば、一覧表の1番、2番、4番、5番、8番に対応する本件動画の映像から、本件ビデオ映像の本質的特徴を感得できることが認められる。
ケ 本件動画が原告の氏名表示権を侵害すること
 そうすると、原告は、本件ビデオ映像を複製ないし翻案した本件動画の公衆への提示に際し氏名表示権(著作権法19条)を有するところ、本件動画には原告の氏名が表示されていない。
 したがって、本件動画の投稿は、原告の氏名表示権を侵害していることが明らかである。
(4) 本件動画の利用に正当化事由がないこと
 本件発信者による、本件動画への本件ビデオ映像の利用は、「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」(著作権法19条3項)に当たらないことが明らかであり、他に著作権法上の正当化事由がないことも明らかである。
(5) 小括
 以上によれば、本件動画は、原告の氏名表示権を侵害することが明らかであるから、原告の同一性保持権を侵害するか否かについて検討するまでもなく、法4条1項1号にいう「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(権利侵害の明白性)の要件を充足する。
2 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当理由)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対して、著作者人格権に基づき、不法行為による損害賠償請求等を行うため、被告に対し、本件発信者情報の開示を求めるものであるから、法4条1項2号にいう「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」(正当理由)の要件を充足する。
3 以上によれば、原告の請求は理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 西村康夫
 裁判官 森川さつき
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