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【事件名】ワイナリー案内看板の広告契約事件
【年月日】平成26年2月27日
 東京地裁 平成24年(ワ)第9450号 著作物頒布広告掲載契約に基づく著作物頒布広告掲載撤去損害賠償請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成25年12月24日)

判決
原告 株式会社黄菱
被告 株式会社シャトー勝沼
同訴訟代理人弁護士 早川正秋
同 甲光俊一
同 大西達也


主文
1 被告は、原告に対し、315万円及びこれに対する平成24年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、1005万6200円及びこれに対する平成24年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告との間の広告掲載契約において、被告に債務の不履行があったとして、これによる損害金1005万6200円及びこれに対する支払を催告した日である平成24年3月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、百貨小売り、広告等を業とする株式会社であり、平成16年4月以降、A(以下「A」という。)が代表取締役を務めている。
イ 被告は、酒類の製造及び販売等を業とする株式会社であり、遅くとも平成22年8月以降、B(以下「B」という。)とその妻であるCが代表取締役を務めている。
(2) 各広告掲載契約の締結とその解除に至る経緯
ア 原告は、被告との間で、次のとおり、原告が設置した工作物に被告の看板広告を5年間掲載し、被告が1年目の申込時及び取付時並びに2ないし5年目の各年に料金(以下、1年目の申込時の料金を「申込時料金」、取付時の料金を「取付時料金」、2ないし5年目の各年の料金を「2年目以降料金」という。)をそれぞれ支払い、双方に異議がなければ6年目以降契約を自動更新するとの内容の各広告掲載契約(以下、併せて「本件各契約」という。)を締結した。
(ア) 平成10年5月28日締結分(以下「第1契約」という。)
 掲載箇所 山梨県甲州市内の10箇所(12面)
 料金 申込時料金 41万円
 取付時料金 90万円
 2年目以降料金 毎年41万円
(イ) 平成10年6月30日締結分(以下「第2契約」という。)
 掲載箇所 山梨県笛吹市、甲州市及び山梨市内の8箇所(8面)
 料金 申込時料金 45万5000円
 取付時料金 188万円
 2年目以降料金 毎年45万5000円
(ウ) 平成12年8月10日締結分(以下「第3契約」という。)
 掲載箇所 山梨県甲州市内の3箇所(3面)
 料金 申込時料金 13万円
 取付時料金 48万5000円
 2年目以降料金 毎年13万円
(エ) 平成17年10月18日締結分(以下「第4契約」という。)
 掲載箇所 山梨県笛吹市内の1箇所(1面。第2契約に係る広告のうち1箇所の掲載場所を変更するもの)
 料金 申込時料金 4万円(消費税別)
 取付時料金 15万円
 2年目以降料金 毎年4万円(消費税別)
イ 本件各契約に基づき、原告は、各契約締結日の約1か月後から借地上に設置した工作物に被告の看板広告を掲載し、被告は、原告に対し、(ア)第1契約(平成15年と同20年の各5月28日に自動更新)について、平成10年7月に131万円を、平成11年以降に毎年41万円ずつを支払い、(イ) 第2契約(平成15年と同20年の各6月30日に自動更新)について、平成10年8月に233万5000円を、平成11年以降に毎年45万5000円ずつを支払い、(ウ) 第3契約(平成17年と同22年の各8月10日に自動更新)について、平成12年8月ころに61万5000円を、平成13年以降に毎年13万円ずつを支払い、(エ) 第4契約(平成22年10月18日に自動更新)について、平成17年10月ころに19万円(2000円の消費税別)を、平成18年以降に毎年4万円(消費税別)ずつを支払った。
(甲10、13、16、19、54の1、125)
ウ 原告は、被告に対し、平成24年3月15日に、第1契約を平成20年に更新した際の取付時料金94万5000円、第2契約を同年に更新した際の取付時料金197万9000円、第3契約を平成17年と同22年に更新した際の取付時料金の残り91万8500円、第4契約を平成22年に更新した際の取付時料金15万7500円の合計400万円(消費税込)の支払を催告した上で、平成24年3月22日、本件各契約を解除するとの意思表示をした。
(甲1ないし4)
2 争点及びこれについての当事者の主張
 本件の争点は、@被告の債務不履行の有無、A損害の発生及びその額である。
(1) 争点@(被告の債務不履行の有無)について
(原告の主張)
ア 料金の不払
 被告は、本件各契約において、更新の際に取付時料金を支払うこと、各料金に消費税相当額を加えて支払うこと(外税方式)を合意したが、その支払をしなかった。
 被告が前記の合意をしたことは、@第1契約を平成15年に更新した際の取付時料金として同年5月14日に90万円(消費税別)を、第2契約を同年に更新した際の取付時料金として上記同日に188万円(消費税別)を、第3契約を平成22年に更新した際の取付時料金の一部として同年8月31日に10万円を支払ったこと、A平成16年5月に原告が被告の営業時間中に被告の売店へぶどうの立体看板を取り付けていたことに激怒して以来、本件各契約を更新した際の取付時料金の支払を拒むようになり、原告から取付時料金と消費税相当額の支払を繰り返し請求されていたこと、B原告との間で締結した他の広告掲載契約でも、更新の後に取付時料金を一部支払ったことから明らかである。
イ 信頼関係の破壊
 Bは、平成22年10月ころから、何者かが被告の看板広告を掲載している工作物に他人の広告看板を被告に無断で取り付けたことについて、原告がしたと主張し、平成23年6月6日、被告の本社において、同年5月に退院したばかりのAに対し、「お前のように死んでもいいやつに限って死なないんだ。馬鹿野郎、お前がやったんだろう。幾らもうけたんだ。お前なんか死にゃ良かったんだ。お前なんかとやってられないな。さぁ、どうする。」などと罵倒して詰め寄り、Aを畏怖させたのであって、被告は、原告との信頼関係を破壊した。
(被告の主張)
ア 料金の不払について
 被告は、本件各契約において、更新の際に取付時料金を支払うことを合意してないし、高額でなかった第4契約の申込時料金と2年目以降料金を除き、外税方式を採ることを合意していない。
 2年目以降料金は、本件各契約に係る契約書に「年間掲載広告料」と記載されているところ、申込時料金は、2年目以降料金と同額であるから、原告が看板広告を管理するための費用であって、更新の際にも支払うべきものであるが、取付時料金は、他の看板業者と同様に、原告が看板広告を製作して取り付けるための費用であり、更新の際に取り付けるべき広告看板はないから、更新の際に支払うべきものでない。また、被告は、第4契約の申込時料金と2年目以降料金を除く各料金が高額であったことから、当該各料金に内税方式を採ることを合意した。被告が原告の主張する合意をしていないことは、@第1契約と第2契約を平成15年に更新した際や第3契約を平成22年に更新した際に取付時料金を支払ったことがないこと(平成15年5月14日や平成22年8月31日の支払は別の契約に係るものである。)、A平成24年3月の催告まで、原告から更新の際の取付時料金や消費税相当額の支払を請求されていないことから明らかである。
イ 信頼関係の破壊について
 Bは、Aを罵倒したりしていない。被告は、平成23年6月以降も、原告に対し、本件各契約に基づく料金を支払っていたのであって、原告との信頼関係を破壊していない。
(2) 争点A(損害の発生及びその額)について
(原告の主張)
 広告看板は、掲載料を基に製作した原告の所有物であり、原告は、本件各契約を解除したことにより、工作物だけでなく広告看板も収去する必要が生じた。その費用は、1箇所当たり45万7100円であるから、22箇所で合計1005万6200円となる。
(被告の主張)
 広告看板は、製作費を負担した被告の所有物であり、原告は本件各契約を解除しても、工作物だけを収去すれば足りるから、その額は、もっと少なくなるはずである。また、収去費用は、138万9150円にとどまる。
第3 当裁判所の判断
1 争点@(被告の債務不履行の有無)について
(1) 更新の際における取付時料金の支払合意の有無について
ア 証拠(甲8、10、11、13、14、16、17、19、26及び28の各1ないし5、29の1ないし3、31の1ないし5、124、125、原告代表者)によれば、@本件各契約は、原告が看板広告を製作、取付け、管理して被告を宣伝し、被告がその対価を支払うものであること、A本件各契約に係る契約書には、いずれも、申込時料金が「初年度 申込金(申込時)」と、取付時料金が「初年度 残金(取付時)」と、2年目以降料金が「年間掲載広告料」と記載され、申込時料金と2年目以降料金が同額であって、取付時料金の半額以下であること、B原告が平成10年6月30日に被告に対して発行した第1・第2両契約等に係る請求書には、申込時料金について「年間掲載管理費」、取付時料金について「誘導看板」とそれぞれ記載されていることが認められる。これらの事実を総合すれば、本件各契約の取付時料金は看板広告の製作及び取付けと牽連し、本件各契約の申込時料金及び2年目以降料金は看板広告の管理及び被告の宣伝と牽連するということができる。
 また、証拠(甲7、8、10、11、13、14、17、20、23、24の1及び2、26の1ないし5、27の1ないし3、28の1ないし5、29の1ないし3、30の1及び2、39の5ないし7、45、46、61、72、86、105、110、117、141、147、乙9の1及び2、10、20、被告代表者B)及び弁論の全趣旨によれば、@原告は、本件各契約に基づき、その看板広告を管理する義務を負っていたところ、その広告看板は、取り付けてから5年が経過した時点で、取替えが必要なほどに老朽化するものはほとんどなかったものの、掲載場所等によっては腐食や退色が進み、取替えが必要又は相当と認められる程度に老朽化するものもあったこと、A原告は、平成15年2月28日、被告に対し、第1・第2両契約に係る全看板広告の取替工事代金として655万6200円の支払を求める旨の請求書を発行する方法で、実際の上記工事代金300万円前後の支払を求め、同年5月14日に被告からその工事代金300万円前後の支払を受けて、同年6月ころ、工事をしたこと、B原告は、被告との間で、平成13年5月7日、掲載箇所を山梨県甲州市塩山小屋敷内の1箇所、料金を申込時料金8万円、2年目以降料金8万円、取付時料金53万円(いずれも消費税除く)とするほかは本件各契約と同じ内容の広告掲載契約(以下「第5契約」という。)を締結したが、平成19年5月7日、申込時料金と2年目以降料金をいずれも8万4000円に、取付時料金を14万6000円(いずれも消費税込)に変更して、同月10日、被告に対し、第5契約に係る看板広告のリフォーム工事代金14万6000円及び年間掲載料8万4000円の合計23万円の支払を求め、同年6月11日に被告からその支払を受けて、そのころ、工事をしたことが認められる。
 これらの事実を総合すれば、原告と被告は、本件各契約において、原告が契約締結の際に看板広告を製作して取り付けて、以後看板広告を管理して被告を宣伝し、被告が契約締結の際に申込時料金と取付時料金を、その後2年目以降料金を支払うことを合意し、かつ、契約更新の際には、原告が看板広告を取り替え、被告が取付時料金を支払うことをも合意したものと認められる。
イ 被告は、@平成15年5月14日の支払が別の契約に係るものであるし、A平成24年3月の催告まで原告から更新の際の取付時料金の支払を請求されていないと主張し、乙22(Bの陳述書)及び被告代表者Bの供述中には、平成15年5月14日の支払が第1・第2両契約とは別のリフォーム契約に係るものである旨の陳述がある。しかしながら、@については、本件各契約に係る広告看板は、取り付けてから5年が経過した時点で、取替えが必要なほどに老朽化するものはほとんどないにもかかわらず、原告と被告があえて第1・第2両契約の更新の際にその全看板広告20面を取り替える旨のリフォーム契約を締結する必要や理由があったとは考え難いのであって、Bの上記陳述は、にわかに採用することができない。また、Aについても、証拠(甲30の2、31の1ないし5、32の1ないし3、82の2の1、90、105、117、乙2の1及び2、10、12、原告代表者)によれば、Bは、平成17年以降、本件各契約に係る看板広告がまだ使えるという理由で、更新の際における取付時料金の支払を拒むようになったこと、Aは、Bに対し口頭でその支払を求めたが、Bの態度が変わらなかったため、取替えが必要と認められる程度に広告看板が老朽化してBが取替えに応じた場合を除き、更新の際に看板広告を取り替えなかったことが認められるのである。
 そうであるから、Bの上記陳述及び被告の上記主張は、いずれもこれを採用することができない。
(2) 外税方式の支払合意の有無について
 証拠(甲8、11、14、17、23、24の1、51の2、54の1、57、61、62、64、65、67ないし75、77、78、80、82の1及び2の1ないし4、83ないし91、125、134、乙5ないし7の各1及び2、10)によれば、@本件各契約及び第5契約に係る契約書には、いずれも、不動文字で「消費税5%頂きます。」と印字され、外税方式を採る旨記載されていること、A平成19年5月7日に変更した第5契約に係る契約書には、上記不動文字が二重線で抹消され、その下に手書きで「(税込)」と記載されていること、B原告は、第1・第2両契約の契約締結の際における申込時料金と取付時料金を外税方式で請求し、被告からその支払を受けたこと、Cもっとも、原告は、被告から、第1ないし第3各契約の2年目以降料金を内税方式でその支払を受けたことが認められる。これらの事実を総合すれば、原告と被告は、本件各契約において、外税方式を採ることを合意し、契約締結後に、個別的に内税方式を採っていたものと認められる。
(3) したがって、被告は、本件各契約において、更新の際に取付時料金を支払うことや外税方式を採ることを合意したにもかかわらず、平成17年以降、本件各契約の取付時料金とその消費税相当額の支払をしなかった。
2 争点A(損害の発生及びその額)について
(1) 損害の発生について
 原告は、被告の債務不履行により、本件各契約を解除してこれを終了させたが、証拠(甲34、35の1及び2、102、103、118ないし124、133、135、136並びに137の各1及び2、138)によれば、本件各契約に係る工作物及び広告看板は、原告がその広告看板の掲示を目的として借りた土地上に設けられたものであることが認められるから、その結果、上記工作物及び広告看板を収去する必要が生じたものである。
 そうであるから、原告には、被告の債務不履行による損害が生じたものと認められる。
 被告は、製作費を負担したから、本件各契約に係る広告看板が被告の所有物であり、原告は工作物だけを収去すれば足りると主張する。しかしながら、本件各契約に係る広告看板は、前記1(1)アのとおり、原告が製作、管理していたものであるから、原告の所有物であり、原告は営利を目的とする会社であるから、被告が製作費を負担したからといって、直ちに上記広告看板が被告の所有物となるものではない。本件各契約は、原告が契約期間内に限り看板広告を管理して被告を宣伝することを内容とするものであって、原告が、被告に対して広告看板の所有権を譲渡し、被告が契約期間終了後に看板広告を使用して自らを宣伝することができるようにすることは、およそ考え難い。被告の上記主張は、採用することができない。
 なお、被告は、山梨県から広告看板が山梨県屋外広告物条例6条に違反している旨の連絡を受けたことを示す証拠(乙25)を提出するが、これによれば、上記連絡は、被告が広告看板を表示し、又は設置したことに対してされたものであり、被告が当該広告看板を所有していることに対してされたものではないことが認められるから、前記判断を左右するものでない。
(2) 損害の額について
 証拠(乙24の3、25、被告代表者B)によれば、原告が現在収去する必要のある工作物及び広告看板は、21箇所であることが認められ、また、証拠(甲10、13、16、19、21、22、49、156ないし158)によれば、5面の広告看板を取り付けた高さ5mほどの工作物の山梨県における移転補償料の額は約46万円であり、2面の広告看板を取り付けた高さ4mほどの工作物の埼玉県における移転補償料の額は約27万円であったこと、本件各契約に係る広告看板及び工作物は、1面の広告看板を取り付けた高さ平均3mほどの工作物であることが認められる。これらの事実を総合すれば、本件各契約に係る工作物及び広告看板の収去費用は、1箇所当たり平均15万円と認めるのが相当である。
 被告は、本件各契約に係る工作物及び広告看板の収去費用を1箇所当たり平均約6万6000円とする有限会社鶴田看板塗装店作成の見積書(乙24の1)を提出する。しかしながら、証拠(甲57、61、63、65ないし67、69ないし75、78、80、81、82の1並びに2の2、3及び6、乙1、10、被告代表者B)によれば、有限会社鶴田看板塗装店は、平成10年以前から、被告との間で広告掲載契約を締結していて、原告と競業関係にあることが認められるから、約6万6000円というのは、広告看板の面数や工作物の高さを考慮しても、前記移転補償料の額に比べて低すぎるというべきであり、前記判断を左右するものでない。
 したがって、原告に生じた損害の額は、315万円(15万円×21箇所)になる。
3 以上によれば、原告の請求は、損害金315万円及びこれに対する訴状送達により支払を催告した日の翌日であることが記録上明らかな平成24年4月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、原告の請求を前記の限度で認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 志賀勝
 裁判官 藤田壮
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