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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件D
【年月日】平成26年1月17日
 東京地裁 平成25年(ワ)第20542号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年11月20日)

判決
原告 A@
同訴訟代理人弁護  山口貴士
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 光石俊郎
同 光石春平


主文
1 被告は、原告に対し、別紙インターネットプロトコルアドレス目録記載1、2のインターネットプロトコルアドレスをそれぞれ同目録記載の送信年月日及び時刻に使用してインターネットに接続していた者について、別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告は、別紙著作物目録記載の著作物(以下、同目録記載1、2の著作物をそれぞれ「本件漫画1」、「本件漫画2」といい、合わせて「本件漫画」という。)の著作権者である。
 本件漫画は、全体として創作性を有する美術の著作物である。
 実態として原告が行った創作行為は、原作小説としても読めるほど詳細なストーリーが描かれているシナリオを一から作成し、キャラクター名、キャラクターの設定、セリフ等についても細かく設定し、作画担当者であるAAは、原告の書いたシナリオに忠実にネームを作成し、原告に提出し、必要に応じて修正の指示を受けながら、漫画として完成させたものである。
 ゆえに、本件漫画はいずれも原告の作成したシナリオの二次的著作物であり、しかも、AAが最終的に漫画を原告に納品した時点で、AAの有する著作権も全て原告に移転しているから、本件漫画の著作権者が原告であることは疑いの余地がない。
 本件漫画2は総集編であるが、その元となっている1時間目、2時間目、3時間目(以下、まとめて「個別作品」という。)のいずれの作品についても、原告が前述したような詳細なシナリオを作成し、AAは、原告の書いたシナリオに忠実にネームを作成し、原告に提出し、必要に応じて修正の指示を受けながら、漫画として完成させたものである。そして、個別作品についても、それぞれ、AAが最終的に漫画を原告に納品した時点で、AAの有する著作権も全て原告に移転している。
 個別作品を総集編としてまとめるに際し、一部加筆修正がなされているが、この加筆修正についても、原告が詳細なシナリオを改めて作成し、AAは、原告の書いたシナリオに忠実にネームを作成し、原告に提出し、必要に応じて修正の指示を受けながら、漫画として完成させたものであり、甲13・63頁以降の「書き下ろし」についても同様にして作成されたものである。総集編についても、AAが最終的に漫画を原告に納品した時点で、AAの有する著作権も全て原告に移転している。
イ 被告
 被告は、電気通信事業者として、インターネット接続サービスやサービスプロバイダ業等を行う株式会社である。
(2) 被告が「開示関係役務提供者」に該当すること
ア LINE株式会社(以下「LINE」という。)が管理するライブドアブログに開設された「どーじんぐ娘。」と題するブログ(以下「本件ブログ」という。)に、別紙記事目録記載の記事(以下、同目録記載1、2の記事をそれぞれ「本件記事1」、「本件記事2」といい、合わせて「本件記事」という。)を投稿した者(以下「発信者」という。)が存在する。
イ 原告は、原告を債権者、LINEを債務者とする発信者情報開示に関する仮処分決定を得て、@本件記事の発信者に係るインターネットプロトコルアドレス(インターネットに接続された個々の電気通信設備を識別するために割り当てられる番号。以下「IPアドレス」という。)及びAIPアドレスを割り当てられた電気通信設備からLINEの用いる特定電気通信設備に本件記事が送信された年月日及び時刻が、別紙インターネットプロトコルアドレス目録記載のとおり(以下、同目録記載1、2の各IPアドレスを合わせて「本件IPアドレス」と、各送信年月日及び時刻を合わせて「本件タイムスタンプ」という。)である旨、LINEから仮の開示を受けた。
ウ 本件IPアドレスは、被告が管理するものである。
 経由プロバイダである被告は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「法」という。)4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たる。
(3) 原告に対する著作権侵害行為及び権利侵害性の明白性
ア 本件ブログにおいては、原告が著作権を有する本件漫画をはじめとする著作物(同人誌)を著作権者に無断でアップロードし、送信可能化したファイルに対するリンクが表紙の画像と共に掲載されている。
 リンク先は、著作物(同人誌)毎に異なるが、本件記事1に記載された本件漫画1の表紙の画像の下にある「DL」と青文字で書いてある箇所をクリックするとダウンロード用ウェブサイト(甲5)へのリンクが貼られており、同ウェブサイトに誘導され、そこで、パスワードを入力すると本件漫画1をダウンロードすることが可能となり、本件記事2に記載された本件漫画2の表紙の画像の下にある「DL」と青文字で書いてある箇所をクリックするとダウンロード用ウェブサイト(甲6)へのリンクが貼られており、同ウェブサイトに誘導され、そこで、パスワードを入力すると本件漫画2をダウンロードすることが可能となるという仕組みである。
イ 本件ブログにおいては、「現在の掲載数 だいたい 6753冊」、「再うp受付は一時停止中です 再開時期は未定です すみませんがリクエストも受付けておりません」との記載があること(甲4)、「パスは『dou』です」と無断でアップロードされたファイルを開くためのパスワードが明らかにされていること(同)、「おかげさまで無事3億5千万hit突破したみたいです いつも来てくださる皆様やリンクサイトの皆様他色々な方のおかげです ありがとうございます〜 先日も書きましたがこれからもボチボチ頑張りますのでよろしくお願いします」(甲7)などと書いてあることからも、本件ブログの管理者(発信者)は、原告が著作権を有する本件漫画をはじめとする著作物(同人誌)を著作権者に無断でアップロードし、送信可能化した本人であることは明らかである。
ウ このように、本件記事においては、それぞれ、本件漫画が著作権者である原告に無断でアップロードされた先へのリンクが貼られており、ダウンロード用ウェブサイトと相まって、本件記事の発信者が原告の有する著作権(公衆送信権)を侵害していることは明らかである。
(4) 発信者情報開示の必要性
 原告は、上記のような権利侵害行為に対し、刑事告訴、損害賠償請求を含めた法的措置を予定しているが、発信者を特定するため、本件IPアドレスを本件タイムスタンプの時刻に使用してインターネットに接続していた者について、別紙発信者情報目録記載の発信者情報が必要である。
(5) よって、原告は、被告に対し、法4条1項に基づき、本件IPアドレスを本件タイムスタンプの時刻に使用してインターネットに接続していた者について、別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 当事者について
ア 原告
 原告が本件漫画の著作権者であることは否認する。
 本件漫画1の奥付には「制作:Art Jam(画osm、原案B、プロットAB)」と記載され(甲12・26頁)、本件漫画2の奥付には「制作:Art Jam(画osm、原案B)」と記載されている(甲13・74頁)。
 他方、原告は、「私は、平成14年12月、同人サークルArt Jam……を立ち上げ、『B』というペンネームでマンガを中心に創作活動をしている者です」と述べる(甲10)。
 漫画表現の創作性は主に作画表現に認められるから、「原案」しか関与しなかった者(「B」のこと)は、そもそも著作者とは認められない。
 作画担当者であるというAAは、原告が詳細なシナリオを作成したとか、二次的著作物の著作権を原告に譲渡したとか述べる(甲14)が、もしAAの述べることが真実であれば、本件漫画の奥付には「原案B」ではなく「原作B」又は「シナリオB」と記載されていたはずである。
 したがって、本件漫画の著作者は、原告ではない。
イ 被告
 認める。
(2) 被告が「開示関係役務提供者」に該当することについて
ア 原告の主張は不知、否認ないし争う。現在、本件記事1記載のURL、甲5各頁最下部記載のURL、本件記事2記載のURL、甲6各頁最下部記載のURLにつき、原告の主張する内容の記事ないしウェブサイトはいずれも存在しない。
イ 仮処分決定(甲1、2)が存在することは認め、その余は不知。
ウ 本件IPアドレスは被告が管理するものであること、被告が法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たることは認める。
(3) 原告に対する著作権侵害行為及び権利侵害性の明白性について
ア 原告の主張は不知、否認ないし争う。現在、本件記事1記載のURL、甲5各頁最下部記載のURL、本件記事2記載のURL、甲6各頁最下部記載のURLにつき、原告の主張する内容の記事ないしウェブサイトはいずれも存在しない。
イ 原告引用の文言が甲4及び甲7に記載されていることは認め、その余は不知、否認ないし争う。現在、甲7各頁最上部記載のURLに、原告主張の記事は存在しない。
ウ 原告の主張は争う。原告は本件漫画の著作権者ではないので、本件漫画の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるときに該当しない。
(4) 発信者情報開示の必要性について
 原告の主張は不知、否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 末尾に掲記した証拠等によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、同人サークル「Art Jam」を立ち上げ、「B」のペンネームで漫画原作等の創作活動を行う者である。
 本件漫画1の奥付(甲12・26頁)には、「制作:Art Jam(画osm、原案B、プロットAB)」、「本作品のの(ママ)著作権はArt Jamにあります。」との記載がある。
 原告は、平成23年12月31日に「Art Jam」として本件漫画1を発行するに先立って、原案担当者として、本件漫画1の詳細なストーリー、キャラクター名、キャラクターの設定、台詞等を設定したシナリオを作成し、作画担当者である「osm」ことAAに送付した。プロット担当者であるABは、原告の指示を受けて、シナリオに書かれている原告のイメージを大まかな線人形のようなラフ画に起こし、AAのイメージを持ちやすくした。AAは、原告の作成したシナリオを原作とする二次的著作物として本件漫画1を作成し(なお、本件漫画は、いずれも原告のシナリオ以外に漫画、アニメーション等の原作を有しないオリジナルの漫画である。)、必要に応じて原告の指示を受けながら、漫画として完成させた。AA及びABは、完成した本件漫画1を原告に納品するに当たり、完成した本件漫画1の著作権(著作権法27条、28条の権利を含む。)を原告に譲渡した。
(甲10、12、14、弁論の全趣旨)
(2) 本件漫画2の奥付(甲13・74頁)には、「制作:Art Jam(画osm、原案B)」、「本作品のの(ママ)著作権はArt Jamにあります。」との記載がある。
 原告は、平成23年12月31日に「Art Jam」として本件漫画2を発行したが、本件漫画2は、以前に「Art Jam」が平成21年4月26日に発行した1時間目(甲13・3〜21頁)、同年9月27日に発行した2時間目(同22〜38頁)、平成22年4月29日に発行した3時間目(同39〜62頁)を加筆修正し、書き下ろしとして2.5時間目(同63〜73頁)を追加して「総集編」としたものであるが、1時間目ないし3時間目の創作過程、加筆修正及び書き下ろし部分の創作過程は本件漫画1と同様であった。
(甲10、13、14、弁論の全趣旨)
(3) 平成25年4月15日及び17日、本件タイムスタンプの時刻に、本件IPアドレスを使用して、本件ブログに本件記事を投稿した者(発信者)が存在する(甲1〜4)。
 本件記事1には、本件漫画1の表紙の画像の下に本件漫画1の表題が記載され、その下に「DL」と書かれたリンクが貼られ、また「パスは『dou』です」との記載がある。
 本件漫画1の表紙の画像の下の「DL」と書かれたリンクをクリックすると、ダウンロード用ウェブサイト(甲5)に遷移し、同ウェブサイトに本件記事1に記載されたパスワードを入力すると、本件漫画1の電子ファイルをダウンロードサーバからダウンロードすることができる。
 本件記事2には、本件漫画2の表紙の画像の下に本件漫画2の表題が記載され、その下に「DL」と書かれたリンクが貼られ、また「パスは『dou』です」との記載がある。
 本件漫画2の表紙の画像の下の「DL」と書かれたリンクをクリックすると、ダウンロード用ウェブサイト(甲6)に遷移し、同ウェブサイトに本件記事2に記載されたパスワードを入力すると、本件漫画2の電子ファイルをダウンロードサーバからダウンロードすることができる。
(甲4〜6、8)
(4) 本件IPアドレスは、被告が管理するものである(争いがない。)。
2 原告が本件漫画の著作権者であるか否かについて
(1) 上記1(1)の事実によれば、本件漫画1は、原告が原案担当者として創作性ある著作物であるシナリオを作成し、作画担当者である「osm」ことAAが、シナリオの二次的著作物として本件漫画1を完成させたものであり、原告は本件漫画1につき二次的著作物の原作者としての権利を有していること、AAは本件漫画1を原告に納品するに当たり、本件漫画1の著作権を原告に譲渡していることが認められる。
 そうすると、原告は、本件漫画1の著作権者であると認められる。
 被告は、AAが陳述書で述べるとおりであれば「原案B」ではなく「原作B」等と記載されていたはずである、などと主張するが、「Art Jam」は同人サークルであるから「原案」と「原作」につき厳密な使い分けをしていたとは限らず、作画担当者であるAAの陳述書の記載内容を疑う理由はない。
(2) 上記1(2)によれば、本件漫画2の原作である個別作品についても、本件漫画1と同様にその著作権は原告に帰属していたこと、総集編である本件漫画2の作成に当たり、原告が原案担当者としてシナリオを作成し、また書き下ろし部分についてもシナリオを作成してAAに送付したこと、AAは完成した本件漫画2の著作権を原告に譲渡したことが認められる。
 そうすると、原告は、本件漫画2の著作権者であると認められる。
3 被告が「開示関係役務提供者」に該当することについて
 被告は、本件IPアドレスを管理する経由プロバイダであるから、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たる(争いがない。)。
4 原告に対する著作権侵害行為及び権利侵害性の明白性について
(1) 上記1(3)の事実によれば、本件記事に対応するダウンロードサーバに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者は、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(ダウンロードサーバ)の公衆送信用記録媒体に本件漫画の情報を記録(アップロード)して、原告が著作権を有する本件漫画を送信可能化して自動公衆送信し得るようにしていた(パスワードが設定されていても、当該パスワードが公開されているので、不特定の公衆からの求めに応じ自動公衆送信し得るようになっていたものといえる。著作権法2条1項9号の5イ)のであるから、原告の公衆送信権(同法23条1項)を侵害していたことが明らかである。
 本件記事を投稿した発信者は、本件記事(甲4)やそれ以外の本件ブログの記載(甲7)からして、ダウンロードサーバに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者と同一人であると認めるのが相当であり、仮にそうでないとしても、少なくともアップロード者と共同して主体的に原告の公衆送信権を侵害したものであることが明らかである。
(2) 以上によれば、本件記事によって原告の権利(本件漫画の公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。
5 発信者情報開示の必要性について
 原告は、発信者に対し損害賠償請求の予定があるというのであるから(甲10)、発信者を特定するため、本件IPアドレスを本件タイムスタンプの時刻に使用してインターネットに接続していた者(発信者)の住所、氏名及びメールアドレス(法4条1項、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」1号ないし3号)の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
6 以上によれば、原告の請求は理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 西村康夫
 裁判官 森川さつき
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