判例全文 line
line
【事件名】パチンコ・スロット用プログラムの著作権侵害事件
【年月日】平成25年12月25日
 東京地裁 平成22年(ワ)第42457号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年9月19日)

判決
原告 大一電機産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 水野健司
同補佐人弁理士 衛藤寛啓
被告 株式会社エレクス(以下「被告会社」という。)
被告 甲(以下「被告甲」という。)
被告 乙(以下「被告乙」という。)
被告 丙(以下「被告丙」という。)
被告4名訴訟代理人弁護士 小原望
同 古川智祥
同 妹尾悟


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告会社は、別紙製品目録記載1(1)及び(2)の製品を製造、販売又は販売の申出をしてはならない。
2 被告会社は、前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告会社は、別紙製品目録記載2(1)及び(2)のプログラムを複製してはならない。
4 被告会社は、前項記載のプログラムを記憶させたハードディスク、メモリースティック、コンパクトディスク、光磁気ディスク、フロッピーディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
5 被告会社、被告甲及び被告乙は、原告に対し、連帯して金5000万円及びこれに対する被告会社につき平成23年1月28日から、被告甲及び被告乙につき同月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告会社、被告甲及び被告丙は、原告に対し、連帯して金5000万円及びこれに対する被告会社につき平成23年1月28日から、被告甲及び被告丙につき同月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告甲は、原告に対し、金1億円及びこれに対する平成23年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告会社及び原告の従業員であった被告甲、被告乙及び被告丙(以下、当該3名を併せて「被告元従業員ら」という。)に対し、パチンコ・スロット用の呼出ランプ「デー太郎ランプシリーズ」(以下、併せて「原告製品」という場合がある。)を開発・製造するための技術情報として、「デー太郎ランプX(エックス)」を機能させるために作成されたソースプログラム(以下「原告ソースプログラム」という。)、「デー太郎ランプMZ(メガゼータ)」の電気設計図面(パチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図、代表灯中継器回路図を含む。以下「原告図面」という。)及び電子部品データベース(以下「原告データベース」という。また、原告ソースプログラム、原告図面及び原告データベースを併せて「原告技術情報」という。)を有しており、原告技術情報が営業秘密に当たると主張した上で、被告会社は、被告甲が指示し、被告乙が原告ソースプログラムを、被告丙が原告図面及び原告データベースを原告の承諾なく持ち出したことを知って、原告技術情報を取得したものであって、被告会社の製造・販売に係る別紙製品目録記載1(1)及び(2)の製品(以下、併せて「被告製品」といい、個別に特定する場合には「イ号製品」などという。)は、原告ソースプログラムの一部を改変して作成した別紙製品目録記載2(1)及び(2)のプログラム(以下、併せて「被告プログラム」といい、そのソースプログラム及びオブジェクトプログラムを「被告ソースプログラム」「被告オブジェクトプログラム」という。また、個別に特定する場合には「イ号プログラム」などという。)をインストールし、原告図面及び原告データベースを使用して開発されたものであるから、被告会社は、原告の営業秘密を不正取得行為が介在したことを知って取得・使用するとともに、原告ソースプログラムの著作権(複製権・翻案権)を侵害し、また、被告甲は、雇用契約上の信義誠実義務に違反して引抜行為を行ったなどと主張して、@被告会社に対し、(ア)不正競争防止法3条1項に基づく差止請求として、被告製品の製造、販売又は販売の申出の禁止(請求1項)、(イ)同法3条2項に基づく廃棄請求として、被告製品の廃棄(請求2項)、A被告会社に対し、(ア)著作権法112条1項に基づく差止請求として、被告プログラムの複製の禁止(請求3項)、(イ)同法112条2項に基づく廃棄請求として、被告プログラムを記憶させた記憶媒体の廃棄(請求4項)、B被告会社、被告甲及び被告乙に対し、原告ソースプログラムに係る損害賠償請求(不正競争防止法4条〔同法5条2項による推定〕又は不法行為〔著作権法114条2項による推定〕、更に被告乙につき債務不履行に基づく)として、4億9000万円の一部である5000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である被告会社につき平成23年1月28日、被告甲及び被告乙につき同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払(請求5項)、C被告会社、被告甲及び被告丙に対し、原告図面及び原告データベースに係る損害賠償請求(不正競争防止法4条〔同法5条2項による推定〕、更に被告丙につき債務不履行に基づく)として、4億9000万円の一部である5000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である被告会社につき平成23年1月28日、被告甲及び被告丙につき同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払(請求6項)、D被告甲に対し、雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求として、4億円の一部である1億円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年1月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払(請求7項)を求めた事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告
 原告は、昭和46年に創業し、昭和56年に設立された株式会社であり、遊技場向け電子制御機器の製造、販売等を行っている。
イ 被告会社
 被告会社は、平成21年2月5日に設立された株式会社であり、遊技場向け電子制御機器としてパチンコ・スロット用の呼出ランプ等の製造、販売等を行っている。
ウ 被告元従業員ら
 被告甲は、平成7年4月1日から平成20年7月20日まで、原告の従業員として勤務した後(最後の役職は営業部長)、被告会社を設立し、被告会社の代表取締役に就任している。
 被告乙は、平成15年12月21日から平成20年9月20日まで、原告の従業員として勤務した後、現在は、被告会社の名古屋営業所にて業務を行っている。
 被告丙は、平成15年8月1日から平成20年9月20日まで、原告の従業員として勤務した後、現在は、被告会社の名古屋営業所にて業務を行っている。
(2) 原告の技術上の情報
 原告は、平成7年4月から平成20年9月まで、原告製品を開発し、その開発・製造のための技術情報として原告技術情報を有している。
(3) 被告製品の製造販売
 被告は、被告製品を製造・販売(販売の申出を含む。)しており、イ号製品は平成21年4月1日に販売が開始された(弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 被告らの不正競争行為の有無(争点1)
ア 原告技術情報が営業秘密に当たるか(争点1−1)
イ 被告らが原告技術情報を不正に取得したか(争点1−2)
ウ 被告会社が原告技術情報を使用したか(争点1−3)
(2) 原告ソースプログラムに係る著作権侵害の有無(争点2)
(3) 不正競争防止法3条に基づく差止・廃棄請求権の成否(争点3)
(4) 著作権法112条に基づく差止・廃棄請求の成否(争点4)
(5) 原告ソースプログラムに係る損害賠償請求の損害額(争点5)
(6) 原告図面及び原告データベースに係る損害賠償請求の損害額(争点6)
(7) 雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額(争点7)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 被告らの不正競争行為の有無(争点1)
ア 原告技術情報が営業秘密に当たるか(争点1−1)
(原告の主張)
(ア) 原告技術情報の特定
 原告技術情報は、原告ソースプログラム、原告図面(「デー太郎ランプMZ(メガゼータ)」電気回路図〔甲30の2〕、パチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図〔甲26の1、甲27の1〕、代表灯中継器回路図〔甲36の1〕)及び原告データベースである。
(イ) 秘密管理性
a 原告技術情報は、原告において、出入りが制限された事業所内で、守秘義務を負う技術者等の特定の従業員のみがアクセス可能な状態で保管されていた。また、従業員は、原告技術情報を含む技術上の情報が秘匿性を有する性質のものであることを認識していた。
b 具体的には、プログラムに関しては、専用の開発環境により作成されたバイナリファイルのみを配布可能とし、ソースコード(原告ソースプログラムを含む。)の配布を禁止していた。
 図面及びデータベースについては、日頃から、開発で作成された図面等の元データの重要性を教育し、下記の管理を被告丙及びA(以下「A」という。)を中心とする特定の従業員6人にさせていた。
 開発で作成された図面及び部品データベース等の元データ(原告図面及び原告データベースを含む。)は、原則として開発部以外への配布を禁止していた。
 開発部から配布する図面(原告図面及び原告データベースを含む。)の種類及び配布先を「出図管理票」という書類により、管理させていた。
 開発部から配布される図面は、元データではなく閲覧専用とするためにPDF化し、パスワードによりロックをした後、開発部以外へ配布していた。ただし、閲覧のみでは製品の製作に不都合が生ずるデータに関してのみ限定的に元データの配布を許可していた。
 電気設計図面のうち、閲覧専用のPDF化されたデータに関しては、社内ネットワーク上の「品質管理部」が管理するフォルダ内に保存されていた。また、修正及び複製可能な元データに関しては対象製品の開発担当者のローカルなフォルダ(別のコンピュータから閲覧不可能なフォルダ)に保存されていた。
 電子部品データベースに関しては、社内ネットワーク上の「開発部」が管理するフォルダ内に保存されていたが、専用のソフトがインストールされており、かつ電子部品データベースにアクセスするための設定がされた4人のコンピュータ以外はその内容にアクセスできない状態であった。
(ウ) 有用性及び非公知性
 原告技術情報は、原告の技術者が時間と労力を費やして作成したものであり、製品製造のために不可欠な情報を提供するものであって、原告が営業活動により経済活動をするために役立つものである。
 原告技術情報は公然と知られていない。
(被告らの主張)
(ア) 原告の主張(イ)aは否認する。同(イ)b及び(ウ)は否認ないし知らない。
(イ) 原告保有のデータのうち、経理関係のデータは特定従業員のみがアクセス可能な状態であったが、原告技術情報には、原告従業員であればだれでも閲覧、コピー又は削除可能であった。また、原告技術情報には、機密事項である旨の記載がなく、営業機密が客観的に機密事項であることの認識可能性はなかった。
 被告元従業員らがデータの重要性を具体的に知らされた事実はない。図面の種類や配布先が特定・管理されあるいは把握されていた事実や、原告技術情報について開発部以外への配布が禁止されていた事実はない。被告元従業員らは、PDF化されたデータについては日常的に外部に配布されていたと記憶している。電子部品データベース以外の原告技術情報は、開発部以外の他部門でも制限なくアクセス可能であった。プログラムについても、配布が禁止されていた事実はなく、被告元従業員らには原告が開発部以外への配布を禁止していたとの認識はない。
(ウ) 「出図管理表」(甲24の1〜9)は、製造委託先や社内の部署等に配付している図面の版(バージョン)をそろえるという意味での「管理」をするための帳表であり、情報の部外流出、社外流出を防ぐ趣旨のものではなかった。原告では、図面を製造委託先や社内の部署等に配付していたが、配付したタイミングにより図面の配布先(出図先)で保有する図面の版(バージョン)が揃わずに混乱を来したことがあった。そのため、「出図管理表」で、出図先にどの図面のどのバージョンが配布されているかを把握し、図面について何れの場所でも同じ版(バージョン)が配布されているようにしたのである(出図管理表を用いて版の管理をすることを考案したのは被告丙である)。
イ 被告らが原告技術情報を不正に取得したか(争点1−2)
(原告の主張)
 被告乙は、原告退職に先立ち、原告ソースプログラムを原告の承諾なく持ち出し、不正の手段により取得した。被告丙は、原告退職に先立ち、原告図面及び原告データベースを原告の承諾なく持ち出し、不正の手段により取得した。被告甲は、上記の各行為を指示した。
 被告会社の代表者である被告甲は、原告技術情報が原告の承諾なく取得されたものであることを知って取得したのであり、不正取得行為が介在したことを知って取得した。
 被告乙及び被告丙と原告との労働契約には、「業務上の機密は、在職中はもとより退職後といえども一切漏洩しないこと。」との規定があり、労働契約に付随して被告乙及び丙には雇用者として当然に守秘義務が課されていた。したがって、被告乙が原告ソースプログラムを、被告丙が原告図面及び原告データベースを持ち出したことは契約違反にも当たる。
(被告らの主張)
 原告の主張は否認する。
ウ 被告会社が原告技術情報を使用したか(争点1−3)
(原告の主張)
(ア) 使用の概要
 被告乙は、原告ソースプログラムに基づき、その一部を改変して被告ソースプログラムを作成し、これをコンパイル等して被告オブジェクトプログラムを作成した。被告乙は、被告オブジェクトプログラムを被告製品にインストールした。
 被告丙は、原告図面及び原告データベースに基づき、これを使用して、被告製品を開発した。
(イ) 原告ソースコードの使用
 後記(2)(原告の主張)イ及びウと同じ。
(ウ) 原告図面の使用
 被告乙が持ち出したと思われる原告図面は、電気回路図(甲30の2)、パチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図(甲26の1、甲27の1)及び代表灯中継器回路図(甲36の1)である。
a 「デー太郎ランプMZ(メガゼータ)」電気回路図(甲30の2)とイ号製品の電気回路図(甲20の2)との対比(別紙機能説明図面1−1は甲30の2を、別紙機能説明図面1−2は甲20の2を機能区分したものである。)
(a) CPU1
 同じCPUが使われている。
(b) 集中分配器接続部2
 イ号製品の回路とは回路及びポートの配置が一致する。使用されている素子自体は異なるものの、個々の抵抗値は同一であり、実質的に同一の回路である。ノイズフィルタ回路に使われている素子及び回路構成が同一である。
(c) 外部表示灯接続部3、島通信部4、ランニング入出力部5、代表灯出力部6
 イ号製品の回路と保護回路・ノイズ防止回路も含めて、回路及びポート配置が一致する。例えば、島通信部5のスイッチング回路に利用されている素子及び回路構成は同一である。ランニング入出力部5に利用されている素子及び回路構成も同一である。さらに、代表灯出力部6のスイッチング回路において、利用されているトランジスタ、コンデンサ、抵抗及び回路構成は同一である。
(d) 書き込み回路7
 保護トランジスタを含めてイ号製品の回路と回路及びピン配置の全てが一致する。例えば、両回路の左端部分に存在するCPU書き込み端子配列が同一である。また、スイッチング回路に利用されているトランジスタ、コンデンサなど素子まで同一である。発振回路に使われている素子及び回路構成も同一である。
(e) リセット回路8
 被告丙が原告を退社した後に、リセットICが製造中止となったため、異なる構成となっている。
(f) データ保持回路9
 被告丙が新規に設計したと思われる。しかし、甲30号証の2の図面の基本部分の設計は、実質的にはB(以下「B」という。)等が行ったものであり、被告丙は、原告在籍当時、原告の既存の回路構成や部品の組合せをそのまま使って新規モデルを立ち上げるという基板設計を主に行っていたにすぎない。
(g) スイッチLEDランプ表示モジュール10
 発光素子(LED)及びスイッチの数が異なるが、イ号製品と回路構成は全く同じである。
(h) 電源部(5V、15V)11
 イ号製品も5V電源と15V電源が一致する。15V電源部は甲30号証の2とは異なるが、原告が次期製品として準備していた回路(甲30の3に対応する)には一致しており、被告丙は甲30号証の3の図面も持ち出したものである。
b 原告製品のパチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図(甲26の1、甲27の1)とイ号製品のパチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図(甲26の2、甲27の2)の対比(別紙機能説明図面2及び3は甲26の1、甲27の1を機能区分したものである。)
 両者は構成や抵抗の組合せなどでほとんど同じである。
 特に、甲26号証の1と甲26号証の2を対比すると、同一のロジックICとして、74HC595と74HC165が採用されている。そして、74HC595のQ1〜Q7と74HC165のP0〜P7の接続16本が一致している。
c 原告製品の代表灯中継器回路図(甲36の1)とイ号製品の代表灯中継器回路図(甲36の2)の対比(別紙機能説明図面4は甲36の1を機能区分したものである。)
 代表灯中継器の回路と部品点数は両図面で一致しており、両者はほぼ同一の回路である。リレー回路に、被告が主張するような設計不良の箇所は存在しない。
 現在では、多くの代表灯が32V電源に対応しているため、新規に設計をすれば、8V電源を残すことは考えられない。甲36号証の2の図面が8V電源を残しているのは、甲36号証の1の図面を持ち出し、使用したからである。
(エ) 原告データベースの使用
 電子部品のシルク印刷マーク及びはんだパッドが酷似しているため、電子部品データベースが同じであると推測される。
(オ) その他事情
 被告会社は、被告甲が原告を退職してから、わずか9か月弱でイ号製品を設計、開発、製造、販売したことになる。しかしながら、通常イ号製品の規模の電子製品を最初から開発しようとすれば、経験のある技術者がいたとしても最低で2〜3年程度はかかるはずである。
 イ号製品が原告技術情報を持ち出すことなく開発されたことなどあり得ない。
(被告らの主張)
(ア) 原告の主張(ア)のうち、被告オブジェクトプログラムを被告製品にインストールしたことは認め、その余は否認する。同(イ)の認否は後記(2)(被告らの主張)アと同じ。同(ウ)a(a)は否認する。同(ウ)a(b)〜(h)、(ウ)b及びcは不知・否認ないし争う。同(エ)及び(オ)は否認する。
(イ) 後記(2)(被告らの主張)イ及びウと同じ。
(ウ) 被告丙は、その独自の設計により、被告製品を開発した。
 そもそも、甲30号証の2に記載された日付は、平成23年9月20日であり、被告丙が退社した後の日付になっており、甲30号証の2が被告丙の退社前に存在したことの立証はされていない。
 原告が採用しているCPUは「M3062LF」であるが、イ号製品では「M30620FCP」を採用している。仮に原告が主張するような回路やポート配置に一致する部分があるとしても、直列抵抗回路等極めて基本的な回路がほとんどであり、原告の回路図がなくても容易に設計が可能である。原告が類似性を主張する部分は、電気回路の設計者であれば誰でも思いつく、ごく一般的かつ初歩的回路にすぎない。被告製品で使用している素子は、一般に広く販売されている汎用部品ばかりであり、回路への接続についてもメーカーから公表された接続例などに準拠すれば、上記類似が発生することは必然である。加えて、被告丙は、原告在籍時に原告の呼出しランプの回路を設計していたのであるから、同じ設計者が、同じ方針又はアイデアの下に設計すれば、回路図の一部が類似してくることは、往々にしてあり得ることである。
 パチンコ用ランプの回路では、マイコンのリセット回路やデータ保存回路などの方がよほど慎重な設計を要する。原告回路図の単純な直列抵抗回路やトランジスタ回路だけを模倣し、繰り返しの検証作業が必要で設計に時間のかかるリセット回路やデータ保存回路を模倣しないというのはいかにも不自然、不合理であり、リセット回路やデータ保存回路が異なっているということは、被告丙による原告図面の持出しがないことを端的に物語っている事情である。
 また、原告のリレー回路には致命的な設計不良が存在するが、被告製品にはそのような不良箇所が一切存在しないことは、被告丙が独自に設計したことを示している。
 中継基盤についていえば、シリアル方式の信号とパラレル方式の信号とを変換して互いに転送する仕組みの回路を設計するに当たって、74HC595と74HC165を使用することは、電気回路の設計者であれば誰でもが思いつく回路構成であり、その接続方法についても同様である。
 また、代表灯中継器回路図に8V電源を残しているのは、8V電源を使用していた従来製品にも互換性を持たせるためであり、設計上合理的なことである。
(エ) 被告丙は、被告製品のはんだパッド部分の設計に当たり、各メーカー推奨のはんだパッドを参考にした。原告製品のはんだパッドがメーカー推奨パッドに準拠しているのであれば、一致ないし類似するのはむしろ当然である。かかる一致ないし類似は、被告丙が原告データベースを持ち出したことの推認根拠にはなり得ない。
 また、シルク印刷も、主に配線等は直線で、部品の設置場所は単純な四角形や部品の外形などで描いており、単純な図形だけに、偶然に多少似通ってくることは十分あり得る。
 仮に原告製品と被告製品で、そのはんだパッドやシルク印刷が一致ないし類似していたとしても、そのことと被告丙が原告データベースを持ち出したこととは関連性を有しない。
(2) 原告ソースプログラムに係る著作権侵害の有無(争点2)
(原告の主張)
ア 原告ソースプログラムの概要
 原告ソースプログラムは、原告の発意に基づき、当時原告の業務に従事していた被告乙らプログラマが職務上作成した。
 原告ソースプログラムは、合計31個のファイルから構成されており、合計2万8694行のC言語のプログラムであって、「デー太郎ランプX」が呼び出しランプとして機能できるように、これに対するC言語の指令を組み合わせたものとして作成したものである。
 原告ソースプログラムは、製品として魅力あるものとするための工夫が凝らされ、命令の組合せ、モジュールの選択、通信方式、解決手段の選択等について原告の個性が表われている。
イ 対比
(ア) ランダムな12桁の文字列が完全に一致すること
 原告は、遊技台の情報を表示させるためのLED(「7セグ」)の発光パターンとして、「0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、a、b、c、d、E、F」に加えて、新製品を開発する機会に原告独自にランダムに変数を加えてきた。
 原告がランダムに加えた変数は「、、-、P、r、o、n.L、A、I、t、u、U」(以下「本件12桁の文字列」という。)であり、12桁(12バイト)に及ぶが、このランダムな変数がそのままイ号オブジェクトプログラムの解析から検出された(甲15の5頁)。本件12桁の文字列は、原告の製品開発に合わせて偶然にプログラムに組み込まれたものであり、他のプログラマが偶然これと一致する文字列を思い付くことはあり得ない。
 本件12桁の文字列は、作成者の選択の幅が十分にある中から選択配列されたものということができるから、その表現には全体として作成者の個性が表われているものということができる。
(イ) リモコン制御の時間判定の定数が一致していること
 リモコン制御処理は、ユーザのリモコン操作に対して、判定処理を実行するが、その場合、制御装置のどのカウンタを用いてどの程度の長さの定数で、リモコンからの入力信号の判断を行うかが問題となる。このカウンタの処理をどのように行うのかについては、プログラマが経験に基づき設計する事項であり、唯一の法則があるわけではない。かかる定数の組み合わせは無数に存在しており、その中から創作者は知識と経験に基づいて設計するものであり、特に選択の幅ということに着目すれば、創作者の個性が表われており、創作性が否定されるものではない。
 イ号オブジェクトプログラムを解析した結果、偶然では決して一致することのない時間判定のための定数がほとんど一致しており、時間判定に用いる定数としての(80、100)、(15、25、48)及び(12、20、24、32)が全て一致している(甲15の3頁、4頁、6頁)。
 最後尾の「32」はビット数を表しているが、この「32」も数ある赤外線リモコンのフォーマットの中から「NECフォーマット」と呼ばれるフォーマットを採用したことにより、この位置に「32」が位置するのであり、必ずしも一致するというものではない。
(ウ) ポートの制御について処理が類似していること等
 パチンコ又はパチスロに接続した際、どちらが接続されたのかを自動認識する処理を「デー太郎ランプX」では、ポート53、54、56及び57で行っているが、かかる処理についても類似する処理が多数存在している(甲17)。
a 「デー太郎ランプX」では、遊技台の出力情報を取得するための外部装置として入力変換器(パチンコ用)又は集中分配器(スロット用)を備えている。これらの外部装置をデー太郎ランプXに接続した際、プログラムにより、どちらが接続されたのかを自動認識する。
 このような独特な構成を実現するためのプログラム「inp_into_ps関数」については、プログラムルーチンの工夫により作成者の創意や工夫が十分に現れているものであり、作成者の選択の幅が十分にある中から選択配列されたものであるから、その表現には全体として作成者の個性が表われている。
b 原告ソースプログラムの「inp_into_dnr関数」において、「//取込終了処理」として記載されている「if {pDnr->pos >= 33}」の部分は、16ビットのデータを2回ずつ呼び出すため、0〜31で処理は終了しているが、ここでは17ビット分の33と比較し、それ以上であれば、終了処理を実行するという条件文になっている(甲17の3/10頁)。これは、本来であればプログラムのバグに近いものであるが、これでも処理に不具合が生じないため、33のままで修正がされていない。この数値についてもイ号オブジェクトプログラムは一致している(「#21H」の部分)。
ウ 依拠性
 上記のとおり、イ号オブジェクトプログラムは、原告ソースプログラムに依拠して作成されたことが確実であることが判明した。
 被告乙は、原告ソースプログラムに基づき、その一部を改変して被告プログラムのソースプログラムを作成し、原告ソースプログラムに係る複製権及び翻案権を侵害した。
(被告らの主張)
ア 原告主張アのうち、原告ソースプログラムを被告のプログラマが作成したこと、原告ソースプログラムが合計31個のファイルから構成されていること、合計2万8694行のC言語のプログラムであること、「デー太郎ランプX」が呼び出しランプとして機能できるようにC言語の指令を組み合わせたものとして作成されたものであることは認め、その余は否認する。同イ(ア)のうち、本件12桁の文字列が一致することは認め、その余は否認する。同イ(イ)のうち、被告会社が信号判別のための定数として80、100、12、25、48、12、24、32を使用していることは認め、その余は否認する。同イ(ウ)及びウは否認する。
イ 被告乙は、その技術及び知識を駆使し、被告ソースプログラムを設計し、これをコンパイルして被告オブジェクトプログラムを作成した。
ウ(ア) イ号オブジェクトプログラムの逆アセンブルによる原告ソースプログラムとの比較において、本件12桁の文字列が一致すると主張する。
 しかし、本件12列の文字列は、原告が述べるとおり、ランダムに加えられたものであり、プログラマの個性が表現されているとはいい難いから、 創作性が欠如している。本件1 2 桁の文字列を含む「0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、a、b、c、d、 E、F、 、-、P、r、o、 n、 L、A、I、t、u、U」の文字列は、「7セグ」と呼ばれるデジタル表示板に数字や文字を表示する文字データを示すものであり、ある一つの文字を表示するためのデータを配列した表(データテーブル)の機能を有するものである。上記文字列は、0番目、1番目、2番目…n番目に「0」「1」「2」…というデータが入っているという、いわばデータテーブル上の位置関係を示すにすぎず、その文字データがその順で並んでいるという以上に意味はない。
 本件12桁の文字列が一致するのは、被告乙が7セグメント表示部に文字を表示させる文字テーブルをプログラム中に記述する際に日頃からこのような文字列の並びを用いていることによるものである。
(イ) 原告は、リモコン制御処理において、時間判定の定数が一致していることを主張する。
 しかし、プログラムは、文学等の表現物とは異なり、表現する記号に制約があり、言語体系が厳格であること、コンピュータを経済的、効率的に機能させようとすると指令の組み合わせの選択が限定される性質を有するのであるから、時間判定のための定数がごときはおよそプログラマの個性の表現とはなり難い。「32」は32ビットを示すのであって、誰がプログラムを作成しても、この数字にしかなり得ない。また、その余の数字も、一定の条件を満たす数値を単純に使用しているだけであって、その数値自体には何の工夫もなく、およそ創作性がない。
 被告乙は、通常、@基準数値から判定上限値までの数値と基準数値から判定下限値までの数値が同様の値になること、A決まりのある数列になること、B切りのよい数値になること、C基準数値から判定上限値・判定下限値までの数値が過大にならないことを方針として、そのいずれかの方針を満たすことを極力目指して数値の選択しており、これはプログラマとしての被告乙の習慣的なものである。
(ウ) 原告は、ポート制御について処理が類似していると主張する。しかし、甲17号証でもイ号オブジェクトプログラムと原告ソースプログラムの不一致点が数多く指摘されている。したがって、イ号オブジェクトプログラムと原告ソースプログラムは別物であり、全く類似していない。 原告は、接続先を自動認識する機能を特有の処理であると主張するが、一つの機械をパチンコ・パチスロ兼用で使えるように設計した場合には、上記判別機能は不可欠なもので非常にありふれたものである。
 また、原告は、原告ソースプログラムのバグが33のままで修正がされていないが、この数値についてもイ号オブジェクトプログラムと原告ソースプログラムが一致していると主張する。しかしながら、原告ソースプログラムにおいてはバグでも、被告プログラムにおいてはバグではない。被告プログラムではカウンタ値「0」でカウンタ値「1」〜「32」で行う処理の準備を行い、カウンタ値「1」〜「32」で1ビット目から16ビット目までの処理を行い、カウンタ値「33」で終了処理を行う内容になっているため、「33」でなければ正しく処理できない。バグであるか正常な処理であるかの違いが決定的なものであることはいうまでもなく、この点も原告ソースプログラムと被告プログラムが類似しないことを端的に示している。
(3) 不正競争防止法3条に基づく差止・廃棄請求権の成否(争点3)
(原告の主張)
 原告は、営業秘密である原告技術情報を使用して開発された被告製品が製造・販売されることにより、営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある。
 よって、原告は、被告会社に対し、不正競争防止法3条1項に基づき、被告製品の製造、販売又は販売の申出の禁止を求めるとともに、同条2項に基づき、被告製品の廃棄を求める。
(被告会社の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
(4) 著作権法112条に基づく差止・廃棄請求の成否(争点4)
(原告の主張)
 被告会社は、被告プログラムを複製することにより、原告ソースプログラムの著作権(複製権及び翻案権)を侵害し、又は侵害するおそれがある。
 よって、原告は、被告会社に対し、著作権法112条1項に基づき、被告プログラムの複製の禁止を求めるとともに、同条2項に基づき、被告プログラムを記憶させた記憶媒体の廃棄を求める。
(被告会社の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
(5) 原告ソースプログラムに係る損害賠償請求の損害額(争点5)
(原告の主張)
 被告製品1台当たりの販売価格は1万6000円、販売台数は合計4万台を下らないため、被告製品の売上総額は6億4000万円を下らない。被告製品1台を製造するために要した追加的な費用の合計は5000円を上回らないため、売上総額に対する費用総額は2億円である。
 そうすると、著作権法114条2項又は不正競争防止法5条2項に基づく原告の損害額は4億4000万円を下らない。また、著作権法及び不正競争防止法違反の行為を排除するために必要な弁護士費用は5000万円を下らない。
 よって、原告は、被告会社、被告甲及び被告乙に対し、不正競争防止法4条又は不法行為(更に被告乙につき債務不履行)に基づき、4億9000万円の一部である5000万円及びこれに対する被告会社につき平成23年1月28日から、被告甲及び被告乙につき同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告会社、被告甲及び被告乙の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
(6) 原告図面及び原告データベースに係る損害賠償請求の損害額(争点6)
(原告の主張)
 被告製品1台当たりの販売価格は1万6000円、販売台数は合計4万台を下らないため、被告製品の売上総額は6億4000万円を下らない。被告製品1台を製造するために要した追加的な費用の合計は5000円を上回らないため、売上総額に対する費用総額は2億円である。
 そうすると、不正競争防止法5条2項に基づく原告の損害額は4億4000万円を下らない。また、不正競争防止法違反の行為を排除するために必要な弁護士費用は5000万円を下らない。
 よって、原告は、被告会社、被告甲及び被告丙に対し、不正競争防止法4条(更に被告丙につき債務不履行)に基づき、4億9000万円の一部である5000万円及びこれに対する被告会社につき平成23年1月28日から、被告甲及び被告丙につき同月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告会社、被告甲及び被告丙の主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
(7) 雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額(争点7)
(原告の主張)
ア 被告甲が被告会社を設立する経緯
(ア) 被告甲は、遅くとも平成20年3月頃には原告を退職して新会社を設立する構想を有しており、原告の従業員らに話をしていた。
 平成20年5月2日までに、被告甲は、原告の従業員のうち、少なくともC(以下「C」という。)、D(以下「D」という。)、E(以下「E」という。)、A、被告乙、被告丙の6人を含む従業員11名に対して新会社を設立すること及び原告を退職して被告甲の下で働くことを勧誘した。
(イ) 平成20年8月28日、東京営業所所長であったCが原告を退社した。同年9月20日、製造部課長であったE、開発部メカ設計担当であったA、開発部プログラム設計担当であった被告乙、開発部電気設計担当であった被告丙が原告を退職した。同年12月15日、大阪営業所所長であったDが原告を退職した。
(ウ) 平成22年6月の時点で、被告甲は被告会社の代表取締役であり、C及びDは被告会社の従業員である。また、E、A、被告乙及び被告丙は、ピースランド事業共同組合(平成20年8月29日成立)の所属であり被告会社の名古屋営業所にて業務を行っている。
イ 原告の規模及び構成
 原告は、資本金8000万円(平成15年12月現在)、従業員数59人(平成22年11月現在)であり、主に遊技場向け電子応用制御装置の開発・設計・製造・販売を行っている。
 原告は、愛知県東海市所在の本社(名古屋営業所)の他、東京営業所、大阪営業所、福岡営業所、広島営業所、仙台営業所を有しており、取締役会の下位組織として、営業部27人、製造部21人、開発部7人及び管理部4人(平成22年11月現在)の人員である。
ウ 被告甲の行為態様
 被告甲は、原告の従業員であり、原告のために誠実に職務に精勤する義務を負っていた。また、退職当時は幹部従業員として原告の重要な地位にあったにもかかわらず、原告に極めて重大な損失が生じることを認識して、退職以前から組織的かつ計画的に、原告の営業部及び開発部の中核となる人材を勧誘し、その結果合計6人を引き抜いたものであり、原告の規模や構成を考慮しても、被告甲の行為は社会的相当性を逸脱した組織的かつ悪質な背信的な行為である。
エ 原告の損害
 被告甲による引抜行為により、原告は、業務の停滞が生じたほか、新たに従業員を採用することを余儀なくされた。そのため、原告は、被告甲の引抜行為により少なくとも原告の平成20年度の粗利益8億円の6か月分に当たる合計4億円分について、費用を支出したことに加えて得られるべき利益を失った。
 仮に雇用契約上の信義誠実義務違反が認められないとしても、不法行為が成立する。
オ よって、原告は、被告甲に対し、雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づき、4億円の一部である1億円及びこれに対する平成23年1月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告甲の主張)
ア 原告の主張ア及びイは不知ないし否認する。同ウは否認する。同エは否認ないし争う。
イ 原告は、被告甲らが原告を退職し、被告会社を設立したことを被告甲による引抜行為であるなどと主張するが、被告甲らが原告を退職したのは、平成17年から平成18年頃にかけて、顧客に納入した原告の製品にトラブルが発生し、この対応に関して被告甲らと原告の役員らとの間に軋轢が生じ、被告甲らが原告に失望して原告を退職したというのが真相である。
第3 当裁判所の判断
1 被告らの不正競争行為の有無(争点1)について
(1) 原告技術情報が営業秘密に当たるか(争点1−1)について
ア まず、原告ソースプログラム及び原告図面が営業秘密に当たるかを検討する。
 原告は、原告技術情報について、出入りが制限された事業所内で、守秘義務を負う技術者等の特定の従業員のみがアクセス可能な状態で保管され、また、従業員は、原告技術情報を含む技術上の情報が秘匿性を有する性質のものであることを認識していたなどと主張する。
 しかしながら、B(原告開発本部長)は、証人尋問において、日頃から秘密保持について指導していた旨供述するものの、従業員が回路図のデータやプログラムにパスワードを付けていたか否かは知らない旨を供述する(B証人調書13、17頁)。そして、被告元従業員らは、本人尋問において、原告では秘密情報の取り扱いについて指導を受けたことはない旨、サーバーに保存された回路図のデータやプログラムは開発部以外の者もアクセスできた旨、回路図のデータやプログラムにはパスワードは付けられていなかった旨を供述する(被告甲調書6、7頁、被告乙調書10頁、被告丙調書8、9頁)。また、証拠(被告丙)によれば、出図管理表(甲24の1〜9)は、図面の版を出図先の事業者と揃えるためのものであったことが認められ、これにより図面が管理されていたとは認められない。
 原告は、出入りが制限された事業所内で保管されていたと主張し、入退室についてのセキュリティシステム等の書証(甲21)を提出するが、仮に、そのような入退室についてのセキュリティシステムが平成20年当時に設置されていたとしても、上記のとおり、データやプログラムが保管されたサーバーへのアクセスが制限されていたと認めるに足りる証拠がない以上、事業所内への出入りが制限されていたとしても、それによって秘密管理性が認められるものではない。
 以上に照らすと、原告ソースプログラム及び原告図面について、秘密として管理されていたことを認めることは困難であり、その他これを認めるに足りる証拠はない。
イ 原告は、営業秘密である原告技術情報として原告データベースも含まれるとし、電子部品のシルク印刷マーク及びはんだパッドが酷似しているから、電子部品データベースが同じであると推測されると主張する。
 しかし、原告データベースについては、その構成・内容についての具体的な主張・立証がなく、原告データベースの内容の有用性及び非公知性は具体的に主張・立証されていないから、原告データベースを営業秘密と認めることはできない。
ウ したがって、その余について判断するまでもなく、原告技術情報が営業秘密に当たるとは認められない。
(2) 被告らが原告技術情報を不正に取得したか(争点1−2)について
 念のため、被告らが原告技術情報を不正に取得したかについても検討する。
ア まず、被告乙が原告ソースプログラムを持ち出したかについて、その使用も含めて検討するが、原告は、ロ号プログラムの関係では具体的な主張・立証をしないので、イ号プログラムとの関係で検討する。
 証拠(乙28、被告乙)によれば、被告乙は、専門学校を卒業後、プログラマとして20年以上勤務した後、原告に入社して、原告製品に係るプログラムの開発に4年半程度携わっていたことが認められる。
 原告は、原告ソースプログラムとイ号オブジェクトプログラムについて、本件12桁の文字列が一致している旨主張する。しかしながら、被告乙は、本人尋問において、本件12桁の文字列は、ランプ上の表示に関する記述であって、必要になった順番に記述されており、これを記憶していた旨を供述する(被告乙調書2、3、20〜23頁)。そして、被告乙のプログラマとしての経験年数や原告製品に係るプログラムの開発年数を考慮すると、被告乙の供述は信用できないものではなく、本件12桁の文字列が一致することにより、直ちに被告乙の持ち出しが推認されるものではない。
 また、原告は、リモコンの制御の時間判定の定数が一致している旨主張する。しかしながら、被告らは、被告乙が@基準数値から判定上限値までの数値と基準数値から判定下限値までの数値が同様の値になること、A決まりのある数列になること、B切りのよい数値になることなどを方針として数値を選択している旨主張し、被告乙も本人尋問において切りのいい、対称となる数字を選んでいると供述する(被告乙6、15頁)。そして、原告の主張する時間判定の定数の数値及びその配列が比較的単純なものであること、被告乙のプログラマとしての経験年数や原告製品に係るプログラムの開発年数を考慮すると、被告乙の習慣によって定数が一致した可能性を排除できないから、時間判定の定数が一致しているからといって、直ちに被告乙の持ち出しが推認されるものではない。
 さらに、原告は、ポート制御の処理が類似し、「inp_into_dnr関数」についてバグに近い終了処理が被告プログラムにも存在する旨主張する。
 しかしながら、甲17号証をみても、ポート制御の処理が類似しているとは直ちにいい難い。例えば、原告が独特な構成を実現するためのプログラムであると主張する「inp_into_ps関数」についてみると、原告から依頼を受けてプログラムを解析した株式会社システックは、解析対象の約3分の1を占める「処理1」の部分については、原告ソースプログラムと被告プログラムは一致していないとし、その余の「処理2」「処理3」の部分についても、「コードレベルでは一致していないが、処理の内容は、ほぼ一致している。」と報告するにとどまっている。また、「inp_into_dnr関数」の終了処理について、被告乙は、本人尋問において、被告乙のプログラムの書き方である旨を供述するのであるから(被告乙調書4〜6頁)、バグに近いものとはいい難く、直ちに被告乙の持ち出しが推認されるものではない。
 以上のとおり、被告乙が原告ソースプログラムを持ち出し、使用したことは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠はない。
イ 次に、被告丙が原告図面を持ち出したかについて、その使用も含めて検討するが、原告は、ロ号製品の電気回路図の関係で具体的な主張・立証をしないので、以下、これを除いて検討する。
(ア) 証拠(乙29、被告丙)によれば、被告丙は、原告において、原告製品の回路設計に4年半程度携わったほか、この間、回路に関わる部品選定、生産管理、品質管理の業務も担当したことが認められる。
(イ) 「デー太郎ランプMZ(メガゼータ)」電気回路図(甲30の2)とイ号製品の電気回路図(甲20の2)との対比による検討(別紙機能説明図面1−1及び1−2参照。なお、甲20の2は、原告が被告製品を解析して作成した回路図である〔B証人調書5頁〕。)
 上記のとおり、甲20号証の2は、原告がイ号製品を解析して作成した回路図であるが、以下においては、これがイ号製品の回路配置を示した回路図であるものとして検討する。また、甲30号証の2の作成日は平成23年9月20日であって、被告丙の退社後であるが、証人Bは、同日付は印刷した日時を示すものにすぎず、同回路図自体は被告丙の原告在籍時に存在した旨証言しており(B証人調書15頁)、以下において、甲30号証の2が被告丙の原告在籍時に存在していたものとして検討する。
a CPU
 甲30号証の2のCPUは「M3062LF」であるのに対し、甲20号証の2のCPUは「M30620FCP」である。
 CPUとその接続先の関係は、次のとおりであると認められる(下線は相違していると思われるものである。)。
●(省略)●
 上記下線部のとおり、CPUとその接続先はかなりの相違があるものと認められる。
b 集中分配器接続部
 甲30号証の2と甲20号証の2では、CPUのポート37〜38、40〜41はいずれも集中分配器接続部に接続されているものであり、同じ使用目的であると解される。ダイオード・抵抗アレー(集中分配器接続部の中央部)については、ダイオードの型番、抵抗器の抵抗値が不明ではあるものの、コンデンサは同じ容量(102と表示)であり、コンデンサを含めて同じ構成である。しかし、ツェナーダイオード(甲30の2で集中分配器接続部の黄色枠の中に青色で表示された部分)の定数は、抵抗器の抵抗値とあわせて具体的な数値が特定されていないから、直ちに同一の回路であるとまではいえない。ノイズフィルタ(集中分配器接続部の下部)については、コンデンサの容量(104と表示)は同じであり、コイルの型番(SPM020−100M)が同じであることから、両者は同じ回路であるといえる。
 以上のとおり、同一の回路も存在するものの、必ずしも同一であるとはいえない。
 また、甲20号証の2では、甲30号証の2と異なり、集中分配器接続部は、外部表示灯接続部と併せて、1つのICで信号処理をする構成になっているように解される。
c 外部表示灯接続部
 甲20号証の2では、CPUのポート22、25、28が外部表示灯接続部に関連しているものと推測される。これに対し、甲30号証の2では、ポート22は未接続であり、ポート25、28が外部表示灯接続部に接続されている。そうすると、ポートの配置はやや異なっている。また、甲20号証の2は、抵抗器・コンデンサ・コイルの配置関係も甲30号証の2とは異なっていることから、回路も異なるものと解される。
 そうすると、外部表示灯接続部分は、全体としてかなり異なっている。
d 島通信部
 甲30号証の2と甲20号証の2では、回路部品点数、部品定数(トランジスタの型番DTA143EUAT106、DTD123EKT146)、配置が一致している。しかしながら、甲20号証の2では、島通信部と解される回路が2つ存在しているのに対し、甲30号証の2では1つである。このためCPUのポートとの接続関係も異なっていると解される。
e ランニング入出力部
 甲30号証の2と甲20号証の2では、CPUのポートの配置は一致しているものの、甲30号証の2のコンデンサC27、C28に対応するコンデンサが甲20号証の2には存在していない。
 しかし、その他の点は、接続されているチップが異なる点を除けば、大きな相違はない。
f 代表灯出力部
 甲30号証の2と甲20号証の2では、CPUのポートの配置は一致しており、回路構成も同一であるといえる。ただし、接続されているチップの種類は相違している。
g 書き込み回路
 甲30号証の2と甲20号証の2では、CPUのポートは完全には対応していない。甲20号証の2のCPUのポート22は、トランジスタに接続され、CPUによりトランジスタを制御することで、書き込み回路と外部表示灯接続部(又は集中分配器接続部)に接続される構成になっている点で、回路構成も同一とまではいえない。
 また、甲30号証の2のICチップの端子9と甲20号証の2のICチップの端子9は、リセット回路に接続されるものであるが、接続先のリセット回路の回路構成が異なっており、同じ機能のものであるのか不明である。
 しかし、全体の回路配置はかなり類似している。
h スイッチLEDランプ表示モジュール
 甲30号証の2と甲20の2号証では、CPUのポートの配置はかなり異なっている。また、LEDの数は明らかに異なり、LEDモジュールバスに接続される線の構成も大きく異なっている。
i 電源部
 甲30号証の2と甲20号証の2では、15V電源の部分は、甲20号証の2のダイオードの数が1つ少ない点で(甲30の2ではダイオードが2つであるのに対し、甲20の2ではダイオード1つである。)甲30号証の2と異なっている。5V電源の部分は明らかに回路構成が異なっている。
j ワイヤーロック出力部
 甲30号証の2と甲20号証の2では、甲20号証の2はチップが存在しないなど部品点数が少なく、ワイヤーロック出力部と電源部(5V電源)とは接続されていないという相違があるほか、フォトカプラ(甲30の2では、TLP18068と表示されている部分)も存在しない。
(ウ) 原告製品のパチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図(甲26の1、甲27の1)とイ号製品のパチンコ用及びスロット用入出力装置電気回路図(甲26の2、甲27の2)の対比による検討
 甲26号証の1と甲26号証の2では、部品点数が異なり(例えば、ランプ接続部のチップ接続部分)、抵抗値等の部品定数も異なるもの(例えば、遊技台接続部左下の部分)が存在する。また、甲26号証の2には、遊技台接続部にフォトカプラも存在していない。しかし、全体の構成としては類似している。
 甲27号証の1と甲27号証の2では、抵抗器の抵抗値に違いがある部分もあるが(例えば、汎用出力部右側の甲27の1では220kΩであるのに対し、甲27の2では120kΩである。)、概ね類似している。
(エ) 原告製品の代表灯中継器回路図(甲36の1)とイ号製品の代表灯中継器回路図(甲36の2)の対比による検討
 甲36号証の1と甲36号証の2では、抵抗器の数(リレー回路における抵抗器の数)や32V電源の右下部等に若干の相違があるものの、甲36号証の2の20Ωが甲36号証の1では10Ωが2つに分けられているにすぎず、全体の回路配置は類似している。
(オ) 以上に基づいて検討するに、確かに、回路図の対比において、ランニング入出力部、代表灯出力部、書き込み回路は類似しており、外部装置であるパチンコ用及びスロット用入出力装置、代表灯中継器も同様である。しかしながら、他方、上記以外の図面は相違する点が多い上、被告丙は、本人尋問において、回路や部品を記憶していた旨供述しており(実際に抵抗値や部品番号を供述している。)、被告丙の原告における担当業務に照らすと、被告丙の供述を信用できないものということはできず、上記図面の類似点があるとしても、直ちに被告丙が回路図を持ち出し、使用したと認めることができない。
 なお、原告は、甲20号証の2の図面において、甲30号証の3の図面と電源部が類似していることから、被告丙が甲30号証の3の図面も持ち出したと主張するが、両者の配線や使用部品は異なっており、原告の主張を認めることはできない。
 また、原告は、代表灯中継器回路図(甲36の2)において、使用されなくなった8V電源を残しているのは持ち出しを裏付けるものであると主張するが、被告丙はこの点について、8Vの電源を使用する場合も依然としてあり、それに対応するために8V電源を残した旨供述しており(被告丙調書7頁)、その供述は合理性を有するものと解されるから、この点についての原告の主張を採用することはできない。
(オ) 以上のとおり、被告丙が原告図面を持ち出し、使用したことは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠はない。
ウ したがって、その余について判断するまでもなく、被告らが原告技術情報を不正に取得したとは認められない。
(3) 以上のとおり、被告らの不正競争行為は認められない。また、上記(2)で認定したところによれば、被告乙及び被告丙が労働契約上の守秘義務に違反したとも認められないから、被告乙及び被告丙の債務不履行も認められない。
 したがって、その余について判断するまでもなく、不正競争防止法3条に基づく差止・廃棄請求、原告ソースプログラムに係る損害賠償請求のうち不正競争防止法4条及び被告乙につき債務不履行に基づくもの、原告図面及び原告データベースに係る損害賠償請求は、いずれも理由がない。
2 原告ソースプログラムに係る著作権侵害の有無(争点2)について
(1) 原告は、ロ号プログラムについて具体的な著作権侵害の主張・立証をしないので、以下、イ号プログラムについて検討する。
 原告は、本件12桁の文字列について創作性を主張するが、このような文字列を組み込むことはアイデアであると解されるから、プログラム著作物としての創作的な表現とはいい難い。
(2) また、原告は、リモコンの制御の時間判定の定数について創作性を主張する。この数値は時間判定を規格上の基準値よりも幅を持たせて判断する意味があると解されるが、この数値は原告製品の仕様により制約されるものと解される。そのような制約の中において、当該数値を設定することに技術的な意味はあるとしても、それが著作権法の保護の対象となる創作的な表現、すなわち、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」であるプログラムの著作物とは認められない。
(3) さらに、原告は、ポート制御の処理が類似しているとし、原告の有する複製権及び翻案権を侵害すると主張する。当該主張は、原告が挙げるパチンコかパチスロかの判定処理(inp_into_ps関数の部分)及び取込終了処理を含む部分(inp_into_dnr関数の部分)についての創作性を前提として主張するものと解されるから、これらの部分の創作性について検討する。
ア まず、判定処理(inp_into_ps関数の部分)のプログラムが著作物性を有するかについて判断する。
 同部分は、ソースコードで38行(空白行を除く)からなるプログラムである。原告は、プログラムルーチンの工夫により自動判別ができるようにしたところに創作性が認められると主張する。しかし、自動判別という新たな効果をもたらすプログラムであるとしても、その指令の組合せとしての表現に創作性が認められなければプログラムとしての著作物性は認められない。原告の主張は、そのようなプログラム表現の創作性を主張するものではないから、原告の主張からは、判定処理(inp_into_ps関数の部分)の著作物性を認めることはできない。
 仮に、同部分に著作物性が認められるとしても、逆アセンブルした後の原告プログラムの判定処理部分(28行)とイ号オブジェクトプログラムの対応部分(34行)とを比較すると、その表現方法は異なっており、イ号オブジェクトプログラムは、原告プログラムを有形的に再製したものとも、表現上の本質的特徴を感得させるものともいえない(原告は、原告第6準備書面本文及び添付資料1で、原告プログラムとイ号オブジェクトプログラムの対応部分の類似性を主張するが、プログラムの表現としての類似性ではなく、処理内容の類似性を指摘するものにすぎない。)。したがって、イ号オブジェクトプログラムの対応部分について複製権侵害及び翻案権侵害を認めることはできない。
イ 次に、取込終了処理を含む部分(inp_into_dnr関数の部分)の著作物性について判断する。
 同部分は、ソースコードで29行(空白行を除く)からなるプログラムである。原告は、取込終了処理部分のバグの存在を依拠性の根拠として主張するのみで、創作性についての具体的な主張をしないから、原告の主張から上記inp_into_dnr関数の部分の著作物性を認めることはできない。
 仮に、同部分に著作物性が認められるとしても、逆アセンブルした後の原告プログラムのinp_into_dnr関数(29行)とイ号オブジェクトプログラムの対応部分(56行)とを比較すると、その表現方法は異なっており、イ号オブジェクトプログラムは、原告プログラムを有形的に再製したものとも、表現上の本質的特徴を感得させるものともいえない(原告は、原告第4準備書面添付資料2で、原告プログラムとイ号オブジェクトプログラムの対応部分の類似性を主張するが、プログラムの表現としての類似性ではなく、処理内容の類似性を指摘するものにすぎない。)。したがって、イ号オブジェクトプログラムの対応部分について複製権侵害及び翻案権侵害を認めることはできない。
 原告は、上記のとおり、原告のソースコードにおける取込終了処理{pDnr->pos >= 33}」のバグを含む部分が、逆アセンブルによるイ号オブジェクトプログラムから想定されるソースコードと同一であることから、プログラムの依拠性を主張する。しかし、想定されるソースコードがソースプログラムを正確に反映していることは担保されていないから、そのことをもって、イ号オブジェクトプログラムが原告ソースコードに依拠したものとはいえない。仮に、原告による想定が正しいとしても、前記のとおり、被告乙は、同部分は原告ソースコードにおいてはバグであっても、イ号オブジェクトプログラムにおいては必要なものであって、バグではないと説明しており(被告乙調書4〜6頁)、その説明に不自然な点は見当たらないから、依拠性の根拠となるものではない。
ウ 原告ソースプログラムのうち、その余の部分について、原告は、その創作性を具体的に主張しないので、これを著作物と認めることはできない。
 したがって、その余について判断するまでもなく、原告ソースプログラムに係る著作権侵害が認められないから、著作権法112条に基づく差止・廃棄請求、原告ソースプログラムに係る損害賠償請求のうち不法行為に基づくものは、いずれも理由がない。
3 雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額(争点7)について
 原告は、被告甲が組織的かつ計画的な引き抜きを行ったなどと主張する。
 そこで検討するに、証拠(乙28、29、被告甲、被告乙、被告丙)及び弁論の全趣旨によれば、被告甲が原告を退職した後の平成20年8月から同年末までの間、C、E、A、被告乙、被告丙、Dの6名が原告を退職し、被告会社に在籍していることが認められる。
 しかしながら、上記6名の退職が被告甲の勧誘に端を発したものであったとしても、被告乙及び被告丙は、本人尋問において、原告退職の理由として待遇面を挙げているのであって(他の4名は転職理由が不明である。)、その勧誘の目的が積極的な加害目的であったとは認められないし(甲25は原告において供述者の供述を録取したものであって容易に採用できない。)、その勧誘の方法が社会的相当性を欠くものであることなどを認めるに足りる証拠はない。また、上記6名の退職によって原告が重大な損害を被ったことなどの事情を認めるに足りる証拠はない。
 以上に照らすと、被告甲の勧誘行為があったとしても、当該行為が違法であるとは認められない。
 したがって、その余について判断するまでもなく、雇用契約上の信義誠実義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
4 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 西村康夫
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/