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【事件名】オークションカタログ事件B
【年月日】平成25年12月20日
 東京地裁 平成24年(ワ)第268号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年9月9日)

判決
原告 グラフィックアート及び造形芸術作家協会(以下「原告協会」という。)
原告 X1、X2、X3、X5、X6
上記5名代表者X1(以下「原告X1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 市村直也
被告 株式会社毎日オークション
同訴訟代理人弁護士 井奈波朋子


主文
1 被告は、原告協会に対し、金4094万4350円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告X1に対し、金441万7000円及びこれに対する平成22年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
5 この判決は、1項及び2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告協会に対し、金8650万円及びこれに対する平成22年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告X1に対し、金850万円及びこれに対する平成22年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、@フランス共和国法人である原告協会が、その会員(著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受け、著作権者として著作権を管理し、A原告X1が、亡P(以下単に「P」という。)の美術作品(以下「P作品」という。)の著作権について、フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって、訴訟当事者として裁判上において、同財産を代表する権限を有すると主張した上で、原告らが、被告に対し、被告は、被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(以下「本件オークション」という。)のために被告が作成したオークション用のカタログ(以下「本件カタログ」という。)に、原告らの利用許諾を得ることなく、会員作品及びP作品の写真を掲載しているから、原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求(又は不当利得に基づく利得金返還請求)として、(ア)原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円(附帯請求として最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払、(イ)原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円(附帯請求として最終の侵害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。
1 前提事実(下記(8)を除いて証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 原告ら
ア 原告協会
 原告協会は、フランス共和国において、1986年11月7日、「1985年7月3日付けフランス共和国著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律」38条の規定(当該規定は「知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律」321の1条1項に引き継がれている。)に基づき、グラフィックアート及び造形芸術の作家の著作権使用料に関する使用料徴収分配を目的として設立された法人である。
 原告協会は、その定款に賛同して加入した会員(美術作品の著作者又は著作権承継者)から著作権管理の委託を受け、その著作権管理(利用許諾、使用料徴収、訴訟提起等)を行っている。
 (以上につき甲1の1及び2、甲2、4)
イ 原告X1
 原告X1は、Pの相続人の一人である。Pが1973年4月8日に死亡したことにより、その子である原告X1、X2、X3及びX4の4名がP作品の著作権を相続した。そして、X4が1975年6月5日死亡したことにより、その子であるX5及びX6がX4の有していたP作品の著作権持分を相続した。
 原告X1、X2、X3、X5及びX6は、P作品の著作権をフランス民法1873条の1以下に規定する不分割共同財産にとどめる旨を合意した。原告X1は、パリ大審裁判所の1989年3月24日付け急速審理命令により、不分割共同財産であるPの著作権の管理者(代表者)に指名された。
 (以上につき甲5、6、弁論の全趣旨)
ウ 原告らの日本国内における著作権管理
 原告協会は、日本国内における著作権管理に関し、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として登録された一般社団法人美術著作権協会(以下「SPDA」という。)に対し、著作権管理(利用許諾及び使用料徴収)を委託していた。また、原告X1も、SPDAに対し、P作品の著作権管理を委託していた。
 その後、日本国内における美術の著作物の著作権管理を一本化する目的で、一般社団法人日本美術著作権協会(以下「JASPAR」という。)が平成24年1月に設立された。JASPARは、同年2月1日、著作権等管理事業法に基づく著作権等管理事業者として登録され、同年3月23日、その使用料規程を文化庁長官に届け出、同年4月23日より著作権管理業務を開始した。現在、原告協会は、JASPARに対し、著作権管理を委託している。
 (以上につき甲301〜304、弁論の全趣旨)
(2) 被告
 被告は、平成13年10月1日、株式会社毎日コミュニケーションズからの会社分割により設立されたオークション、展覧会の企画、立案、実施等を目的とする株式会社である。
(3) 本件オークション
 本件オークションは、@絵画・版画・彫刻、A西洋装飾美術、Bジュエリー&ウォッチ、C日本陶芸・茶道具・古美術の4つのジャンルに分けられ、そのジャンルごとに公開入札方式でオークションが開催される(オークション開催日の2〜3日前に下見会が開催される。)。被告は、平成14年1月から平成21年12月までの8年間に少なくとも83回(86冊のオークションカタログを発行)、平成22年には少なくとも16回(17冊のオークションカタログを発行)の絵画・版画・彫刻ジャンルのオークションを開催した(別紙本件カタログ一覧表参照)。
(4) 本件カタログ
 本件カタログ(A4版型)は、オークションの開催期日ごとに作成され、被告の会員に配布される(本件カタログにはオークションの回数が号番号として付される。)。被告は、本件カタログの作成に際し、掲載写真の撮影、掲載する内容、掲載方法等を決定し、本件カタログには、作品の写真、題号、作者、内容の説明、予想落札価格等が掲載される。
(5) 原告協会と被告との和解
 原告協会と被告とは、平成22年9月21日、当庁平成21年(ワ)第232号事件について、@被告は、原告協会に対し、A、B及びCの美術作品を平成21年12月31日までの間本件カタログに無断複製した著作権侵害につき、SPDAの使用料規程に基づき算定した使用料相当損害金として3306万4000円を支払う、A原告協会と被告は、上記@以外の会員作品を本件カタログに無断複製した著作権侵害につき、SPDAの使用料規程に基づき算定した使用料相当損害金を基礎として清算処理の協議を行うことを合意する、B被告は、原告協会に対し、上記Aの清算処理が完了するまでは、会員作品を50平方センチメートルを超える表示の大きさで本件カタログに複製しないことを確約することなどを内容とする和解を成立させた(以下「前件和解」という。)。しかし、原告協会と被告との間では、清算処理の協議が完了することはなかった。
(6) SPDAの使用料規程
 SPDAの使用料規程のうち、本件に関連するものは、以下のとおりである。

 「3、出版等
 印刷、写真・複写、その他の方法により著作物を可視的に複製する場合の使用料は、一著作物に対し下記料率を適用する。但し委託者の同意がある場合は、利用許諾契約において、下記使用料を下廻る金額を定めることができる。
(1) 書籍(モノグラフィーを除く)(源泉税10%を含む)
イ、単行本(教科書を含む)/(単位:円)
複製サイズ 5,000部以下
白黒 カラー
表1及びカバー 34,500 59,500
表4 14,000 27,500
1ページ大 10,500 20,500
3/4ページ大以下 8,500 16,500
1/2ページ大以下 7,500 15,000
1/4ページ大以下 6,000 12,000
1/8ページ大以下 5,000 9,500
 (5001部以上は略)」  (甲9)

(7) JASPARの使用料規程
 JASPARの使用料規程のうち、本件に関連するものは、以下のとおりである。

「第1 総則
 1 一般社団法人日本美術著作権協会(以下「本協会」という。)が実施する著作権等管理事業において適用する著作物使用料は、下記の区分に応じて、第2の(1)ないし(4)に定める額とする。
  使用料の区分  
1 言籍への複製及び譲渡 国際標準図書番号(ISBNコード)が付され書籍の形式で刊行する印刷物又は
これに準ずる印刷物への複製及びその譲渡。ただし、書籍の表紙(表1・表4)
若しくはカバーに複製する場合、モノグラフィー若しくはその大部分が特定の作
家の作品により構成される書籍に複製する場合、又は解題付き類別目録(カタロ
グ・レゾネ)を作成する場合を除く。
 (以下略)」
「第2 著作物使用料
1 書籍
(1) 単行本{(2)に含まれるものを除く}
ア 基準料金
  1頁以下 3/4頁以下 1/2頁以下 1/4頁以下 1/8頁以下
部数 白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー
〜3000 \26,000 \46,000 \22,000 \37,000 \19,000 \34,000 \15,000 \27,000 \12,000 \21,000
 (3001部以上は略)
イ 事前に利用許諾手続きを完了する場合の優遇料金(以下「優遇料金」という。)
  1頁以下 3/4頁以下 1/2頁以下 1/4頁以下 1/8頁以下
部数 白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー 白黒 カラー
〜3000 \13,000 \23,000 \11,000 \18,500   \9,500 \17,000   \7,500 \13,500  \6,000 \10,500
 (3001部以上は略)
(2) 文庫版、新書版又はそれに準じる版型のもの。
 基準料金・優遇料金ともに、上記(1)の料金の80%とする。」 (甲304)

(8) 著作権法の改正
 著作権法は、平成21年法律第53号による改正がされ、47条の2が新設された(平成22年1月1日施行)。同条及び本件に関連する規定は以下のとおりである。
 著作権法47条の2
 「美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。」
 著作権法施行令7条の2第1項1号
 「法第四十七条の二の政令で定める措置は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める措置とする。
 一 法第四十七条の二に規定する複製 当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさ又は精度が文部科学省令で定める基準に適合するものとなるようにすること。」
 著作権法施行規則4条の2第1項1号
 「令第七条の二第一項第一号の文部科学省令で定める基準は、次に掲げるもののいずれかとする。
 一 図画として法第四十七条の二に規定する複製を行う場合において、当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが五十平方センチメートル以下であること。」
2 争点
(1) 原告X1の当事者適格の有無(争点1)
(2) 著作権移転の有無(争点2)
(3) 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)
(4) 利用許諾の有無(争点4)
(5) 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5)
(6) 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)
(7) 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 原告X1の当事者適格の有無(争点1)
(原告X1の主張)
ア 原告X1は、パリ大審裁判所の急速審理命令により、フランス民法上の不分割共同財産であるPの著作権につき同法1873条の5から1873条の9までに規定された諸権能を有する不分割財産の代表者に指名された。しかるところ、同法1873条の6第1項は「管理者は、あるいは民事生活上の行為について、あるいは原告又は被告として裁判上で、その権限の範囲内で不分割権利者を代表する」と規定しており(甲6)、原告X1はこの権限に基づき本件訴訟を提起したものである。したがって、本件において原告X1につき問題になるのは、第三者の訴訟担当のうち法定訴訟担当(担当者のための法定訴訟担当)としての当事者適格である。
イ 渉外的要素を含む法定訴訟担当の当事者適格に関し、理論的な説明方法の違いはともかく、「訴訟担当権限が被担当者と担当者間の実体的な法律関係から派生するものとは認められない場合には、その訴訟担当は純粋の訴訟上の制度であるから『手続は法廷地法による』の原則の適用がある(法廷地法が準拠法となる)」が「訴訟担当権限が被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合には、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無が判断される」という結論には学説上ほぼ異論がない。
 上記アのとおり、本件における原告X1の訴訟担当権限は「被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合」に当たるから、当事者適格は、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法、すなわちフランス民法の定めにより判断されることになる。
ウ 本件請求における被担当者と担当者の実体的法律関係はフランス民法の規定に基づく不分割共同財産制度に関するものであり、その不分割共同財産に係る共同権利者及び代表者は原告X1らフランス人である。そして、原告X1はフランスの裁判所の命令によりフランス民法に基づく不分割共同財産の代表者に指名され、フランス民法が定める不分割共同財産に関して訴訟上及び訴訟外の実体的な代表権が認められることになった。そして、同命令により他の共同権利者らにおいてはPの著作権に関する何らかの管理行為や措置をとることが禁止されたのである(甲5)。このような事情の下で、訴訟担当者である原告X1と被担当者である他の共同権利者との間の実体的法律関係に適用される準拠法がフランス法になるのは当然のことである。
 これを法の適用に関する通則法の規定に即していうと、不分割共同財産制度がそもそもは当事者間の合意を基礎とする制度である点に着目し、法律行為の成立及び効力の問題とみて、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法(通則法8条1項)たるフランス法が準拠法であるということもできるし、原告X1らがいずれも親族である点に着目して、親族関係及びこれによって生ずる権利義務(通則法33条)の問題であるとみて、当事者の本国法たるフランス法が準拠法になるということもできよう。また、通則法には不分割共同財産制度に関する直接の定めがないから、抵触規定の欠缺とみて、条理により最密接関連地法たるフランス法になると解することも可能である。いずれにしても、本件において、被担当者と担当者の実体的法律関係を定める準拠法がフランス法(フランス民法)となることに全く疑いはない。
(被告の主張)
ア 当事者適格の準拠法については、概ね、手続法の問題として法廷地法によるとの考え方と、実体準拠法の問題であるとする考え方に分かれる。これらいずれの考えによるべきかを判断する基準として、訴訟担当権限が、被担当者と担当者間の実体的な法律関係から派生するものとは認められない場合には、手続は法廷地法によるとの原則に従い、逆に、訴訟担当権限が、被担当者間の実体的な法律関係から派生する場合には、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無が判断されるとの考え方が提唱されている。
イ 当事者適格を手続法の問題として捉え、法廷地法を準拠法にするのであれば、日本法が適用され、我が国の民事訴訟法及び著作権法いずれにも、共同著作権者のうちの一人に訴訟上、損害賠償請求権を行使させる訴訟担当制度はなく、原告X1が、他の共同著作権者の持分に相当する損害賠償請求権を行使するにつき、当事者適格は認められない。
 実体準拠法の問題であるとすると、我が国の著作権法が適用されることになり、著作権法117条により、原告X1には、他の共同著作権者の持分に相当する損害賠償請求権を行使するにつき、当事者適格は認められない。
ウ 本件においては、共有著作物に対する損害賠償請求権を行使する者の資格を定める準拠法が問題となるが、これは、著作権の直接的利用から派生する権利を誰が行使できるかという著作権の効力に関する問題であり、法の適用に関する通則法13条が物権の得喪について所在地法の適用を定めていることと同様の理由により、保護国法が適用される。
 したがって、原告X1は、我が国の著作権法により、自己の持分に関する損害賠償請求権を超える他の共有者の損害賠償請求権を行使する資格はない。
 加えて、我が国の著作権法及び民法には、フランス民法が定める不分割財産という制度も存在せず、保護国法である我が国の著作権法及び民法によれば、著作権は相続人の間で共有され、相続によって著作権を承継した者は、持分の範囲内でしか権利行使はできない。
(2) 著作権移転の有無(争点2)
(原告協会の主張)
ア 原告協会は、その定款に賛同して加入をした美術の著作物の著作権者(著作者又はその著作権承継者)である会員から著作権の移転を受け、著作権者としてフランス共和国内及び外国においてその著作権の管理を行っており(甲3)、法律上、管理する著作権の擁護のために裁判所に出廷する資格を有するものとされている(「知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律」321の1条2項)。
イ(ア) 著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、移転の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである(東京高判平成13年5月30日判時1797号111頁)。
 著作権移転の原因行為である移転契約の成立及び効力について適用されるべき準拠法に関し、法の適用に関する通則法7条は、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法律による。」として第一次的には当事者自治の原則が適用されることを明らかにした上で、同法8条1項において「前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。」と規定し、契約中に準拠法に関する合意がない場合は最密接関連地法を適用するものとしている。本件において、委託者から原告に対する著作権の移転の合意に係る原告の一般規約(甲3)及び個々の入会申込書にはいずれも準拠法の定めは存在しないから、通則法8条1項により最密接関連地法が準拠法となる。
 本件の著作権移転に係る契約は、フランス法人である原告協会と、フランス人を中心とする美術の著作物の著作者又はその著作権承継者との間で、フランスのパリにおいて、フランスを含む全世界の著作権を原告に移転する旨が合意されたものである。そして、著作権移転の反対給付である使用料の支払地もフランスであるから、著作権移転の原因関係である債権契約の最密接関連地法はフランス法と解される。
 そして、フランス民法は、@義務を負う当事者の同意、Aその者の契約を締結する能力、B約務の内容を形成する確定した目的、C債務における適法な原因により、当事者の合意は有効である旨を規定した上(1108条)、適法に形成された合意はそれを行った者に対しては法律に代わる(1134条)と規定している(甲298の1及び2)。本件においては、行為能力を有する原告及び委託者らが、著作権の管理という確定した目的のために、原告の一般規則等に同意した上で全世界における著作権を原告に移転する旨が明記された入会申込書に署名するという方法で著作権の原告への移転を合意しているのであるから、著作権移転の原因行為である債権行為が有効に成立していることは明らかである。
 なお、通則法7条及び8条の解釈において、当事者に明示の合意がない場合においても、まず当事者の黙示の意思を探求すべきであるという立場をとった場合においても、上記の各事情に照らすならば、本件の著作権移転における当事者の黙示の意思はフランス法を準拠法とするものと解すべきである。
(イ) 次に、著作権の物権類似の支配関係の準拠法につき検討すると、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされている。そして、通則法13条1項は、「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記すべき権利は、その目的物の所有地法による。」と規定した上で、同条2項において「前項の規定にかかわらず、同項に規定する権利の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法による。」と規定する。
 著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により、著作権という物権類似の支配関係の変動については保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。
 したがって、本件における著作権の物権類似の支配関係の変動については保護国である我が国の法令が準拠法となる。しかるところ、著作権の移転の効力が原因となる移転契約の成立により直ちに生ずるとされている我が国の法令(著作権法)においては、本件の著作権移転に関する合意が有効に成立したことにより、著作権は各委託者から原告協会に移転したものというべきである。
(ウ) 原告協会の一般規約(甲3の25頁以下)は、原告協会の著作権管理に関する基本的事項を定めた約款である。原告協会に著作権管理を委託しようとする者は、原告協会の定款(甲3の5頁以下)及び一般規約に同意した上で原告協会の会員となる(入会申込書〔甲15〜甲17〕の訳文(抄)等を参照のこと。)。
 しかるところ、原告協会の一般規約14条は「作品は、その著作者、その作品の権利承継者、相続人、受遺者又は譲受人が当協会に加入した事実のみをもって、当協会の管理著作物として承認される。当協会への加入により、この一般規約第1条に規定された作品及び当該著作者の他のすべての作品(それがいかなる性質のものであるかを問わない)の諸権利は当協会に移転(apport)する。ただし、外国地域に限り、当協会を外国で代表する使用料徴収協会の規約の定めに従うものとする。」と規定する。そして、この規定に対応して、原告協会への入会申込書には「私が入会することを条件として、定款及び一般規約に同意し、独占的に、そして私が入会するという事実それ自体により、以下に定義する諸権利をADAGP協会に移転(apport)します。」「この移転は全ての国を対象とし、貴協会の存続する全期間にわたるものであり、定款にあらかじめ規定された条件に基づいて撤回される場合を除き、期間延長の可能性も含まれます。」と記載されている。会員が有する著作権(補償金請求権等を含む。)は、これらの規定に基づき、原告協会への入会の事実により当然に原告協会に移転し、原告協会は著作権者となるのである。
(エ) 以上のとおり、会員の著作権は、入会の事実によってその管理のために原告協会に移転する。そして、原告協会は、会員個々の権利及び会員一般の権利の擁護を目的として、著作権者の立場で、自らの判断及び責任において訴訟を提起することができるのである。
(オ) 被告は、原告協会の一般規約その他では、「譲渡」とは記載されず、すべて団体とその会員間の関係を示す「apport」の語が用いられているなどと主張する。
 「apport」の語は、古くは「action apporter」(持っていく行為)一般を意味する動詞派生名詞(deverbal)であったが、現在では「出資」や「著作権の管理」など一定の目的をもって財産権を移転する行為を意味する法律用語として主に用いられている。1851年に創立されたフランスの音楽著作権に係る使用料徴収分配協会であり、著作権管理団体の国際組織CISACの主要な理事団体でもあるSACEM(Societe par des Auteurs, Compositeurs et Editeurs de musique)の定款においても、 会員からその管理のために著作権の移転を受ける行為につき「apport」の語が用いられている(甲299)。
(カ) 被告の主張イ(イ)は、弁論準備手続の終結が予定された期日にされたものであり、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきものである。
 念のため、現時点で判明している限りで主張すると、フランス破毀院2013年5月16日の判決は、実演家の権利団体であるSPEDIDAMという特定の団体のフランス国内における権利行使に関するものにすぎないから、美術の著作物の著作権の管理団体である原告協会の、しかも日本における権利行使に同判決の射程が及ぶのかどうかは全く明らかでない。
 少なくとも、我が国における著作権侵害訴訟においては、原告が著作権を有していること及び被告がその著作権の範囲に属する行為を行っていることにより著作権侵害は肯定され、損害賠償請求が認容されるものとされているから、原告協会が会員から著作権を移転(apport)された著作権者である以上、本件損害賠償請求が否定される理由は全くない。
ウ 被告は、@原告協会会員になっている者の外にも作家の法定相続人として権利承継者となり得る立場の者がいるのに、それらの者が原告協会の会員になっていないから、原告協会が全請求権を行使しうる地位にあるのか疑義がある、A作家が既に死亡しているのに、その権利承継者の入会届が提出されていない、B作家の法定相続人でない(かも知れない)者が権利承継者として原告協会の会員になっていると主張する。
 上記@については、原告協会は、著作権管理を引き受ける作品(作家)の全ての権利者が会員となることを原則としており、権利承継者が入会を希望するときは、その者が単独の権利承継者か、それとも他の者と共同の権利承継者なのか等を公知証書等により確認し、共同承継者である場合には、他の共同承継者の入会も促すこととしているから、Dのような特殊な例外を除き、原則として原告協会は管理著作物に関する100%の権利者である(本件において、原告協会が著作権の共有持分に基づき損害賠償を請求しているのは、D作品の利用以外にはない。)。しかし、この点をひとまず措いて、本件で原告協会が損害賠償の請求対象としている作品につき原告協会の外にも権利者が存在すると仮定して考えてみた場合でも、被告の主張には理由がない。原告協会が本件において使用料相当損害金の算定根拠としているSPDAの使用料規程(甲7)は、SPDAに管理委託されている権利を許諾する対価を定めたものであり、当該作品に権利を有する著作権者全員に対して利用者が支払う使用料の合計額を定めるようなものではないからである。
 上記Aについては、原告協会は会員から著作権の移転を受け、自らが著作権者として著作権の管理を行っているのである。そして、会員が死亡したからといって著作権が突然消滅してしまうわけではない。原告協会としては、著作権の承継者(正確には委託者たる地位の承継者)から管理委託を終了する旨の申し出がなされるなどの特段の事情がない限り、会員の死亡後も、移転を受けた著作権を行使して、権利承継者のためにその管理を継続する。相続人等からあらためて入会申込書を徴求するという取扱いは、法的にみれば、権利承継者を確定し、その者に対して使用料の分配を開始するための手続ということになる。
 上記Bについては、原告協会は相続人や受遺者から入会の申込を受けるときは、公知証書等によりその者が正当な権利承継者であることを確認した上で、その者の入会を認めることとしている。
(被告の主張)
ア 原告協会は、物権の変動については保護国法が準拠法であると考えつつ、原因行為である債権行為により著作権は当然に原告協会に移転しているとし、著作権移転の原因関係である債権契約については最密接関連地法であるフランス法が適用されると主張する。
 債権的側面については最密接関連地法による場合があるとしても(通則法8条)、本件では、原告協会と美術家ないし承継人との間における契約の成立や契約の効力が問題ではなく、著作権の得喪ないし変動が問題となっているのであるから、原告協会の著作権の取得については、保護国法である我が国の法が適用される。
イ(ア) 原告協会による、一般規約14条の説明によれば、「当協会への加入により、・・・諸権利は当協会に移転する」(L'adhesion a la Societe entraine l'apport des droits attaches … ) とある。しかし、「l'apport」との用語は、一般に、団体とその会員との間における「出資」を意味するものである。したがって、正確にいえば、「移転」ではなく、「出資」であり、「出資」の内容は、「管理の委託」であるとも理解できる。著作権の譲渡という場合、一般には、「ceder」や「faire cession」(譲渡する)、「cession」(譲渡)の後が用いられるが、一般規約その他では、「譲渡」とは記載されず、すべて団体とその会員間の関係を示す「apport」の語が用いられている。しかし、何が「出資」の対象であるのかは明らかでなく、管理権が出資の対象であるという理解が可能である。加えて、各美術家が提出しているのは、入会届であって、譲渡証書ではない。
したがって、原告協会と会員との間における出資として、著作権の譲渡がされているか否かは、明確ではない。
(イ) フランス破毀院第1民事部2013年5月16日判決(乙40)は、フランスの著作権集中管理団体であるSPEDIDAMが、死亡した実演家の権利が侵害されたことに対し、実演家がその権利を加盟時に出資したことにより訴訟追行権があると主張し、実演を複製した者に対し訴えを提起したのであるが、死亡した実演家に関する損害賠償請求について、SPEDIDAMの訴えを不受理とした。上記判決は、SPEDIDAMに関するものであるが、この理は、原告協会にも該当する。すなわち、美術家が集中管理団体に対する出資(apport)によって原告協会に加盟し著作権の管理を委託したとしても、その死後において、原告協会は当然に死亡した著作権者の相続財産となった損害賠償請求権を行使できるものではない。美術家が死亡した場合、損害賠償請求権は包括承継人が行使すべき相続財産となる。したがって、集中管理団体がその損害賠償請求権を行使するには、包括承継人による委任が必要である。つまり、フランスにおいて集中管理団体は、加盟している著作者が死亡して相続が発生した場合、包括承継人による明確な委任がないかぎり、包括承継人によってしか、損害賠償請求権は行使できない。
ウ(ア) 別紙被告主張相続関係等一覧表記載のとおり、原告協会が美術家の権利を全部行使できることについて主張・立証が不十分な美術家が存在する。
(イ) E(番号9)
 Eは、最初の結婚でe1と結婚し、e2とe3という2人の娘と、e4という一人の息子をもうけ、その後、e5と結婚し、e6とe7をもうけ、さらに、e8との間に6人目の子供で最後の息子であるe9をもうけた(乙20)。
 原告協会に対する入会届は、最初の結婚から生まれた二人の娘(e3とe2)、2番目の妻(e5)及び息子(e4又はe9のいずれか)と考えられる人物から提出されている(甲28の1〜5)。
 しかし、2番目の妻との結婚から生まれた子であるe6とe7、もう一人のe4又はe9のいずれかについては、入会届が提出されていない。また、e11(甲28の2)が、いかなる関係にある人物か、不明である。
(ウ) F(番号11)
 入会届を提出しているのは、後妻との結婚で生まれた子と考えられるが、Fは前妻との間に息子が存在する(乙21)。息子も相続人となるはずであるが、息子から原告協会への入会届は提出されていない。
(エ) G(番号18)
 Gは、2005年10月28日に死亡しているが(乙22)、相続人又は権利承継者からの入会届は提出されていない。原告協会は、相続が発生した美術家については相続人の入会届を提出させている。したがって、原告協会は、当然に、死亡した美術家の権利を承継する者とはいえず、原告協会の原告適格は消滅している。
(オ) H(番号22)
 h1氏は、Hの相続人とされている(甲33)。しかし、同氏の入会届は、Hとの記載はなく、同人との関係も、どの美術家の著作権に関するものかも不明である。なお、h1氏は、Hをはじめ、各種作家を取り扱うギャラリー共同経営者にすぎず(乙23)、真実、Hの著作権を承継しているか疑義がある。
(カ) I(番号27)
 i1は、i2の相続人とされているが、入会届(甲281)にIの相続人であるとの記載はない。したがって、当該美術家に対する入会届であるかどうか、不明である。
(キ) J(番号41)
 j1は、J作品の共同相続人と記載されているので、他の共同相続人が存在するはずであるが、j1 1名の入会届しか提出されていない(甲17の8)。
(ク) K(番号42)
 Kは、2008年に死亡しているが(乙24)、相続人からの入会届は提出されていない。
(ケ) L(番号44)
 Lは、2012年に死亡しているが(乙25)、相続人からの入会届は提出されていない。
(コ) M(番号47)
 Mの相続人としては、妻のm1(甲282)の他、息子のm2が存在するはずであるが(乙26)、息子のm2については、入会届が提出されていない。
(サ) N(番号51)
 入会届を提出しているn1(甲17の2)は、Nとは、姪の関係にあるものである(乙27)。しかし、Nに妻子など他の相続人が存在しないのか不明である。また、Nの鑑定委員会に所属する者が相続人ないし受遺者でないのかも不明である。
(シ) O(番号58)とP(番号59)
 OとPは、兄弟である。Oについては、姪(甲60の1)、兄弟のo1の相続人(甲60の3)により入会届が提出されている。しかし、Oは11人兄弟であり、他の兄弟ないしその相続人も権利者ではないかという疑義がある(乙28、乙29)。
(ス) Q(番号60)
 Qは、4人の女性(q1、q2、q3、q4)と結婚した経歴があり、最初の妻であるq1との間にq5と称する息子をもうけている(乙30)。少なくとも息子であるq5は、Qの相続人となると考えられるが、入会届(甲61の1ないし3)を提出している者との繋がりは不明である。
(セ) R(番号83)
 Rには、r1、r2、r3,r4,r5の5人の子が存在する(乙31)。しかし、入会届は、r1、r4、r3、r5の4名分しか提出されておらず、r2の入会届が提出されていない(甲77の1ないし4)。
(ソ) S(番号86)
 Sはs1と結婚し、その間にはs2という女の子供がいる(乙32)。本来、これら妻子が相続人になると考えられるが、入会届を提出しているs3(甲19の4)及びs4(甲19の5)との関係性は不明である。
(タ) T(番号87)
 Tについては、相続人ないし受遺者からの入会届が提出されている(甲80の1〜5)。他方、Tの公式ホームページには、弟子であるt1が権利を防御している旨の記載がある(乙33)。しかし、同人と相続人ないし受遺者との関係性は明らかでない。
(チ) U(番号90)
 Uは、2012年6月に死亡しているが(乙34)、相続人からの入会届は提出されていない。
(ツ) V(番号95)
 Vには、v1とv2の二人の息子が存在する(乙35)。入会届は、これらの者ではなく、v3(甲15の3)、v4(甲18の8)、v5(甲18の9)から提出されている。しかし、後二者とVとの関係は明らかでない。
(テ) W(番号120)
 Wには、少なくとも、w1、w2という息子と娘のw3が存在する(乙37)。しかし、入会届が提出されているのは、w1(甲17の4)、w3(甲17の5)およびw4(甲18の7)であり、w2の入会届は提出されていない。
(ト) Y(番号121)
 Yには、y1、y2、y3の息子が存在するが(乙38)、y1とy2の入会届は提出されていない(甲104の1〜5)。
(ナ) Z(番号123)
 Zには、z1という娘がいるが(乙39)、入会届は提出されていない。また、入会届が提出されている者ら(甲16の9及び10、甲17の21)が当該美術家とどのような関係に立つのか明らかではない。
(3) 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)
(原告らの主張)
ア 被告の複製権侵害
(ア) 被告は、平成14年1月から平成21年12月までの8年間に、絵画・版画・彫刻ジャンルのオークションについて、少なくとも86冊の本件カタログを発行した。これらのうち、原告らが入手した44冊のカタログ(別紙本件カタログ一覧表の「カタログ有無」欄に「有」の記載のあるもの)には、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表及び別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のサイズ、色、枚数の写真が掲載されていた。
 そして、被告が平成22年に発行した17冊の本件カタログには、表示の大きさが50平方cmを超えるものとして、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表及び別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のサイズ、色、枚数の写真が掲載されていた。
 被告は、原告らの利用許諾を得ていないので、上記の掲載は原告らの複製権を侵害する行為に該当する。
(イ) 被告は、単色刷りの版画はカラー(c)でなく、白黒(bw)と評価される旨主張する。おそらくはカタログに複製されている原作品が1種類の絵の具やインクを用いて刷り上げられた版画である場合には、それが何色の作品であって、カタログに何色をもって複製されていても、損害額の算定において「白黒」と評価されるべきと主張するようである。 しかし、「白黒」か「カラー」かによって使用料額を定めることとしているSPDAの使用料規程(甲9)の定めに明白に反するものである上、SPDAの実務における使用料規程の適用の実際とも全く異なるものである。SPDAの使用料規程は、書籍に著作物が複製される場合の使用料につき、その複製サイズ、複製部数とともに「白黒」「カラー」の別をその算定要素としている(甲9の2頁)。これは、絵画作品が白黒印刷等の方法で複製される場合には、同じ作品がカラー印刷の方法で複製される場合に比してその著作物利用の経済的効果が劣ると認められることから、その複製(印刷)が「白黒」で行われる場合には、カラー(白黒以外の色を用いる方法)で複製される場合よりも低額の使用料が適用されるようにしたものである。したがって、カラー「c」と白黒「bw」を区別する基準となるのは、その複製(印刷)が白色及び黒色だけで行われているのか、それとも白色又は黒色以外の色をも用いた複製(カラー印刷)がされているのかであって、複製対象である作品が単色刷りか否かによって区別されるわけではない。そして、被告が「bw」に当たると主張しているのは、すべて白色又は黒色以外の色を用いて複製されているものであって、白色及び黒色だけで複製(印刷)されているものはひとつもない。これらはすべて使用料規程の適用上、カラー「c」に分類されるのである。
 被告は、株式会社DNPアートコミュニケーションズ(以下「DNPアート」という。)がホームページ上に掲載している料金表(乙15)を根拠にして、SPDAの使用料規程における「白黒」は「モノクロ」(単色)を意味するものと解釈されるなどと主張する。
 しかし、SPDAが著作権等管理事業法に基づき文化庁長官に届け出た使用料規程が甲9号証のとおりであることは、文化庁のホームページに公示されているから、乙15号証は単に記載を誤っているにすぎない。DNPアートは、その業務に付随して、画像の借受人に対して著作権手続の説明や、SPDAに対する利用許諾申請手続の代行をしており、その関係でSPDAの使用料規程をホームページに掲載していたが、その記載の一部に誤りがあったものである(SPDAは、DNPアートに対して修正を依頼し、DNPアートは既にホームページからこれを削除している。)。
(ウ) 被告は、写真の余白や額縁部分は除外して判断すべきであるから、作品自体のサイズは原告の認定とは異なる旨主張するが、現にSPDAの長年にわたる著作権管理業務において通常の利用者に対して著作物の複製を利用許諾するときは、すべて著作物が複製された写真の大きさ及びその掲載場所を基準に使用料額を算出して徴収している。著作権法114条3項は、著作権者が著作物の利用を許諾する場合に受ける通常の使用料額を著作権侵害の被害者が受ける最低限の損害賠償額としたものである。そうである以上、同項に基づく損害賠償額の算定においては、利用許諾を得て適法に著作物を利用する一般の利用者が著作権者に対して実際にどのような額の使用料を支払っているのかが基準になる。したがって、本件の損害賠償額の算定においてもこれと同様の取扱いがされるのは当然である。
(エ) 被告は、127AAの本件カタログ318号の絵画は、50平方cm以下のものであり、著作権法47条の2により適法である旨主張する。
 しかし、被告の主張に従って絵画部分のみの複製サイズをもって計算するとしても、上記作品の複製サイズは6.05cm×8.3cm=50.215平方cmであり、著作権法施行規則の定める50平方cmを超えるから、上記複製は違法なものである。
イ 原告らの損害額(JASPAR基準)(主位的主張)
(ア) JASPARの使用料規程では、本件カタログへの写真掲載は第1の「1 書籍への複製及び譲渡」に含まれる。そして、第2の「1 書籍への複製及び譲渡」の規定は、「(1)単行本」及び「(2)文庫版、新書版又はそれに準じる版型のもの」に分かれており、それぞれ「ア 基準料金」及び「イ 事前に利用許諾手続を完了する場合の優遇料金」の二種類の使用料が定められている。本件カタログのような大型版書籍への管理著作物の複製に関し、事後的にJASPARに対して利用許諾申請があった場合には、「(1)単行本」の「ア 基準料金」に定められた使用料が適用される。
(イ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件カタログ103冊のうち、原告らが入手した61冊のカタログへの作品の複製(3868点)に関し、JASPARの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると、8379万6600円となる(以上は、訴え変更申立書における主張であり、その後の主張の変更を反映すると別紙原告協会主張JASPAR基準一覧表記載のとおりである。)。
 したがって、被告が上記10年間に発行した103冊の本件カタログに無断複製された会員作品に係る使用料相当損害金の額は、少なくとも1億4149万2600円(≒8379万6600円×103冊/61冊)を下らない。
(ウ) 平成14年1月から平成23年12月までの10年間に被告が発行した「絵画・版画・彫刻」のジャンルの本件カタログ103冊のうち、原告らが入手した61冊のカタログへのP作品の複製(448点)に関し、JASPARの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると、合計913万2000円となる(別紙原告X1主張JASPAR基準一覧表記載のとおりである。)。
 したがって、被告が上記10年間に発行した103冊の本件カタログに無断複製されたP作品に係る使用料相当損害金の額は、少なくとも1541万9600円(≒913万2000円×103冊/61冊)を下らない。
(エ) 原告らは、著作権侵害を理由とする本件訴訟の提起・追行を弁護士に依頼することを余儀なくされた。その弁護士費用は少なくとも被告に対して請求する損害額の10%を下らないから、原告協会に対しては1億4149万2600円の10%である1414万9260円、原告X1に対しては1541万9600円の10%である154万1960円を下らない。
(オ) よって、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得(悪意)に基づく利得金返還請求として、原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(カ) 被告は、侵害との間に因果関係のある損害とは、当然に、侵害時の基準により算定される逸失利益であるなどと主張する。これは、著作権侵害につき認められる使用料相当損害金とは、当該行為に対して利用許諾が行われた場合に適用されていた使用料規程に基づき算出される使用料額に限定されるという趣旨の主張であろう。
 しかし、使用料規程は、著作権等管理事業者がその管理著作物の利用許諾に伴い請求する使用料の上限額を定めるものにすぎず(著作権等管理事業法13条4項)、著作権者が著作権侵害者に対して請求する損害金額の上限を画するようなものではない。そして、もし著作権侵害による使用料相当損害金が当該行為に対して利用許諾が行われた場合に適用された使用料規程に基づく使用料額に限られるのだとするなら、著作権法114条3項は無意味な規定となる。
 著作権法114条3項の規定は、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を著作権侵害の被害者の最低限の賠償額として保障する規定である。そして、ここで問題になる「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とは、将来の著作物利用につき許諾を求める誠実な利用者に対して請求する使用料額ではなく、現に行われた過去の著作権侵害行為に対して適用される「受けるべき金銭の額」である。
 しかるところ、現在、日本における原告協会の会員等の著作権管理はSPDAからJASPARに移転し、JASPARの使用料規程が日本における美術の著作物の使用料額を定める事実上のスタンダードになっている。過去に無断で著作物の複製等を行った者であっても、現時点においてその利用行為を適法化するには、JASPARを経由して原告協会の事後的な利用許諾を得るほかない。そして、その場合に適用される使用料規程は、当然のことながら、JASPARの使用料規程となる。
ウ 原告らの損害額(SPDA基準)(予備的主張)
(ア) 原告らは、いずれも日本国内における著作権の管理(利用許諾及び使用料徴収)をSPDAに委託していた。SPDAは、その使用料を使用料規程(甲9)に定め、文化庁長官に届け出ており、本件カタログへの複製利用に対しては、使用料規程の3(1)イに規定されている「単行本」の使用料が適用される。同規定には複製されたサイズ、発行部数、白黒・カラーの別に応じて、適用される使用料の額が一覧表にして定められている。
(イ) 原告らが入手した本件カタログ61冊に会員作品を無断複製した著作権侵害行為につき、SPDAの使用料規程を適用して使用料相当額を算定すると、平成14年から平成21年までの間に発行された本件カタログ(44冊)につき3941万2100円、平成22年に発行された本件カタログ(17冊)につき114万2500円(前件和解〔甲10〕の成立日である平成22年9月21日後に行われた侵害行為については、和解条項に基づき、SPDAの使用料相当額と同額の違約罰を加算済み)となる(以上は、訴状における主張であり、その後の主張の変更を反映すると別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりである。)。
 被告は、平成14年1月から平成21年12月までに少なくとも86冊の本件カタログを発行しているから、上記期間における会員作品の無断複製の著作権侵害行為により原告協会が被った使用料相当損害金の額は、少なくとも7703万2740円(=3941万2100円×86冊/44冊)に上るものと推認することができる。そして、平成22年1月から同年12月までの間に被告が行った著作権侵害行為に対する使用料相当額は、114万2500円であるから、平成14年1月から平成22年12月までの間に被告が行った会員作品の著作権侵害による使用料相当損害金の額は、7817万5240円(=7703万2740円+114万2500円)となる。
(ウ) 原告らが入手した本件カタログ61冊にP作品を無断複製した著作権侵害行為につき、平成14年1月から平成21年12月までの間に発行された本件カタログ(44冊)につき378万6000円、平成22年1月から同年12月までの間に発行された本件カタログ(17冊)につき26万4500円となる(以上は、訴状における主張であり、その後の主張の変更を反映すると別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりである。)。
 被告は平成14年1月から平成21年12月までに少なくとも86冊の本件カタログを発行しているから、上記期間におけるP作品の無断複製の著作権侵害行為により原告X1が被った使用料相当損害金の額は、少なくとも739万9909円(=378万6000円×86冊/44冊)に上るものと推認することができる。そして、平成22年1月から同年12月までの間に行った被告の著作権侵害行為に対する使用料相当額は、26万4500円であるから、平成14年1月から平成22年12月までの間に被告が行ったP作品の著作権侵害による使用料相当損害金の額は、766万4409円(=739万9909円+26万4500円)となる。
(エ) 原告らは、著作権侵害を理由とする本件訴訟の提起・追行を弁護士に依頼することを余儀なくされた。その弁護士費用は少なくとも被告に対して請求する損害額の10%を下らないから、原告協会につき7817万5240円の10%である781万7524円、原告X1につき766万4409円の10%である76万6440円を下らない。
(オ) よって、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得(悪意)に基づく利得金返還請求として、原告協会につき8599万2764円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、原告X1つき843万0849円及びこれに対する最終の侵害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(カ) 被告は、原告協会との相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されている使用料相当額という名目のもとに、原告らが被る損害を超える金額を請求することは、損害賠償請求の趣旨を逸脱するなどと主張する。
 しかし、管理手数料は、原告らの委託に基づき管理著作物の著作権管理業務を行ったSPDAに対し、原告らが支払う著作権管理委託の対価であり、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」とは無関係のものである。したがって、被告に対する損害賠償請求額からこれを控除する理由はない。
(被告の主張)
ア 被告の複製権侵害について
(ア) 被告の認否及び反論は、別紙被告認否一覧表のとおりである。
(イ) DNPアートが適用するSPDAの使用料規程は、「モノクロ」(単色)か「カラー」かによる峻別を行い、「白黒」かどうかを基準にしているわけではない(乙15)。同規程に「モノクロ」とある以上、「白黒」でなく「モノクロ」(単色)かどうかにより区別すべきである。したがって、SPDAの使用料規程(甲9)における「白黒」は、「モノクロ」(単色)を意味するものと解釈される。
(ウ) SPDAの使用料規程によれば、サイズを算定要素としているが、著作物でなく「著作物を複製した写真の大きさ」を基準とするかは明確ではないし、SPDAの日常的な著作権管理業務において、一般的に「著作物を複製した写真の大きさ」を基準にしているかどうかも明確ではない。
 使用料規程は、著作物の使用に対する料金であるから、著作物とは無関係な写真の余白部分や額縁を含めたサイズではなく、あくまで著作物(絵画・版面・オブジェ)を基準としたサイズとすべきである。
(エ) 127AAの本件カタログ318号の絵画は、額縁を含めて撮影された絵画であるが、額縁は著作物でないから、50平方cm以下の複製か否かを判断するに当たって、額縁部分は除外して判断すべきである。著作権施行規則4条の2第1項1号は、「図画として法第47条の2に規定する複製を行う場合において、当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが50平方センチメートル以下であること」と定められ、「著作物」そのものの表示の大きさを基準としている。
 上記絵画の複製サイズは、6cm×8.3cm=49.8平方cmであり、50平方cmの範囲に収まる(乙19)。
イ 原告らの損害額について
(ア) 原告らの損害立証について
 著作権法114条は、損害額立証の困難性を救済するための規定であるが、それは損害の発生の主張・立証を前提として損害額立証の負担を軽減するものであって、損害の発生をも推定するものではない。
 原告らは、一部の本件カタログを提出せず、被告がいかなる侵害行為を行い、その結果どのような損害が発生したかを具体的に主張・立証しない。しかし、原告らは、提出しない本件カタログについても、提出している本件カタログにおける作品掲載数から侵害ないし損害を推測する方法によって、損害が発生したことを推定し、損害額を算定している。しかし、そのような主張は、著作権法114条及び同条が前提とする不法行為論にも反し、認められない。
(イ) JASPAR基準について
 著作権法114条の法的性質について、通説は、民法709条の適用を前提として、損害額立証の困難を救済するための規定であると解釈する。著作権法114条が、民法709条の適用を前提としているのであれば、損害の発生と侵害との間において、因果関係の存在が必要となる。侵害との間に因果関係のある損害とは、当然に、侵害時の基準により算定される逸失利益である。侵害後に新たに設けられかつ高額化した基準により算定される逸失利益の主張は、侵害との間に因果関係が認められない金額を主張するものであるか、侵害時の逸失利益を逸脱する金額を主張するものである。したがって、このような基準により使用料相当額を算定することは、民法709条に基づく損害賠償請求として適法とはいえない。
 原告らは、本件カタログ掲載時(直近で平成22年12月)には存在していないJASPAR(設立は平成24年1月)が設立後に一方的に定めた使用料規程に基づき、使用料相当額を請求する。しかし、このような請求は、明らかに侵害との間の因果関係ないし逸失利益を逸脱する金額を主張するものである。
(ウ) SPDA基準について
 SPDAの使用料規程は、著作権法114条3項の「著作権者が、著作権または著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」ではなく、著作権者との相互管理契約に基づく著作権の管理者が、著作権の行使について受ける金銭の額である。
 SPDAの使用料規程で計算した金額には、当然、原告協会との相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されているのであって、著作権者であると主張する原告協会に支払われる額ではない。もとより、損害賠償請求は、損害を回復するために行われるものであるから、請求額は発生したとされる損害と同等の額を金銭に換算したものである必要があり、使用料相当額という名目のもとに、原告らが被る損害を超える金額を請求することは、損害賠償請求の趣旨を逸脱するといわざるを得ない。
(4) 利用許諾の有無(争点4)
(被告の主張)
 被告は、AB(以下「AB」という。)の作品の著作権管理を行う株式会社ギャルリーためなが(以下「ギャルリーためなが」という。)から許諾を受け、AB作品を本件カタログに複製していた。
 ABは、ギャルリーためながとの間において委託契約を締結し、ギャルリーためながは、これに基づき、「真作と認められない作品図版の掲載や、作家の意図としない出版物への使用を管理」している(乙13)。
 ギャルリーためながは、15年程前から、本件オークションへの出品又は落札を通じて被告と取引関係にあり、被告の会員でもある。本件カタログは、毎回、ギャルリーためながに送付されているが、AB作品に関する本件カタログへの複製については、ギャルリーためながから許諾されていた(乙14)。
(原告らの主張)
 被告は、ギャルリーためながに対し、AB作品の利用許諾申請をしたことは一度もないし、ABがギャルリーためながを通じてAB作品の複製を被告に許諾したことはない。
 ギャルリーためながは、ABから日本国内における著作権管理の委託を受けたことがある(甲289の1及び2)。しかし、それは平成22年1月以降のAB作品の利用についての委託であった。それゆえ、ギャルリーためながは、本件訴訟において損害賠償の対象としている平成14年1月から平成21年12月までのAB作品の利用につき、そもそも利用許諾をする権限を有していない。
 この点につき、ギャルリーためながの代表取締役は、原告ら代理人からの照会に対して、@ギャルリーためなががABから著作権管理の委託を受けたのは平成22年1月からであり、ギャルリーためながはそれ以前の時期におけるAB作品の利用を許諾する立場にないこと、A平成21年12月以前の時期に日本におけるAB作品の著作権管理を行っていたのは原告協会(及びその日本における代理人であるSPDA)であること、Bギャルリーためながは被告からAB作品のオークションカタログへの複製につき利用許諾申請を受けたことはなく、本件カタログへの複製につき利用許諾をしたこともないことを回答している(甲290の1及び2)。
 なお、ABからギャルリーためながに対する著作権管理の委託は終了し、現在、AB作品の著作権管理は再び原告協会に戻っている。
(5) 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5)
(被告の主張)
ア 鑑賞用の展示だけでなく、作品の所有者の同意を得て、購買を目的とした原作品の展示に伴い著作物を複製することも、著作権法47条の適用対象となる。
イ 東京地裁平成10年2月20日判決(バーンズコレクション事件)によれば、小冊子に該当するか否かは、展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のものかどうか、鑑賞用の書籍として市場において取引される価値を有するものとみられるかどうかを基準として判断される。
 本件カタログにおいては、取引対象となる絵画を示しているが、それとともに、絵画の情報として、@作者名、A題号、Bレゾネ番号、Cサイズ、Dサイン、Eエディションナンバー(版画の限定刷り部数)、F特記事項、画廊シール、鑑定書の有無など、その作品に関する特記事項、G作品の状態、H額の有無、I予想落札価格を示している(乙17)。つまり、本件カタログ掲載の情報は、オークションの対象となる作品及び当該作品の落札価格に影響を与える情報のみであり、本件カタログは、オークションに出品された原作品と出品作品の基本的情報との対応関係を明らかにする商品目録にほかならない。
 本件カタログは、市場において取引される価値はない。本件カタログは、被告の会員及びオークションへの来場者限定で頒布されるものであり、一般には流通しない。
 オークションで取引される絵画の点数により、カタログ自体の体裁は書籍のような体裁をとらざるを得ないが、装丁自体は、鑑賞用図書のように表紙にカバーが掛けられていたり、ハードカバーを用いられることもなく、一般のパンフレットが厚くなった状態にすぎない。絵画自体も、出品作品との同一性と落札希望者が落札するかどうか、幾らで落札するかを決定するために必要な最低限のサイズである。また、絵画には、ロット番号が付され、ロット番号に従って掲載されているが、ロット番号はオークションの出品順を示すものである。したがって、鑑賞用の芸術書にみられるような絵画のジャンルや作家名による分類など、系統だった編集はされていない。また、紙面の構成も系統だった構成ではない。したがって、オークション終了後にカタログを保存する価値も市場で取引される価値もなく、実際に一般書籍として販売されることもない。
 以上のとおり、本件カタログは、オークションにおける展示に伴い取引の対象となる作品と買主の判断材料となる最低限の情報を示した商品目録としての小冊子にすぎない。
ウ 著作権法25条に規定する展示権を害することなく展示することができる場合のひとつとして、同法45条1項の規定によって作品の所有者の同意を得た場合がある。オークションでは、作品の所有者がオークションのために原作品を公に展示することを同意している。
エ 以上により、被告は、オークションにおける公の展示において、観覧者のために著作物の紹介をすることを目的として、小冊子である本件カタログに著作物を掲載したのであり、著作権47条により、その複製は適法である。
(原告らの主張)
ア 著作権法47条は「…観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と規定している。「観覧者のため」という要件は「解説又は紹介をすることを目的とする小冊子」にかかるものであって、「展示」にかかるものでも、「複製」にかかるものでもない。上記の要件は、同条により著作権の制限を受ける小冊子は、それが実際に作品を観覧する者のために作成されたものでなければならないことを明らかにするものであり、オークションやその下見会に参加して展示された著作物を観覧する者であるか否かにかかわらず、広く全会員に配布されている本件カタログのような複製物には同条の権利制限が適用されないことを定めた要件である。
イ バーンズコレクション事件(甲7)は、「(著作権法47条の小冊子は)掲載される作品の複製の質が複製自体の鑑賞を目的とするものではなく、展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のものであることを前提としている」と判示している。同判決が「展示された原作品と解説又は紹介との対応関係を明らかにする程度のもの」であることを要求しているのは、「掲載される作品の複製の質」についてであって、そこに記載された作品の情報のことではない。
 被告は、本件カタログに記載している情報が作者名、題号、レゾネ番号等にすぎないことなどを述べて、それが「小冊子」該当性を肯定する事情であるかのように主張するが、バーンズコレクション事件の判旨の誤読に基づく誤りである。
 それどころか、バーンズコレクション事件判決は、観覧者のための小冊子に該当するためには、そこに作品をより深く鑑賞するために有用な詳しい解説や紹介がされていることを当然の前提としている。ところが、本件カタログには作者名、題号、レゾネ番号などの落札価格等に影響する情報が記載されているだけで、作品を鑑賞するための解説・紹介はどこにもない。被告が主張する事情は、本件カタログに著作権法47条が適用される余地のないことを明らかにするものである。
ウ バーンズコレクション事件判決が判示するとおり、「小冊子」というためには、「紙質、判型、作品の複製態様等を総合して、複製された作品の鑑賞用の図書として販売されているものと同様の価値を有するもの」であってはならない。すなわち、「小冊子」(小型で薄い本:大辞林)という以上、大型判や大部のものであってはならないし、その複製の態様はまさに解説・紹介との対応関係を視覚的に明らかにする程度のものでなければならない。つまり、写真の大きさ・鮮明さや、書籍としての態様が市販の図録に準ずるようなものであってはならないのである。
 ところが、本件カタログは、縦297mm、横210mmという大型版の書籍であり、全頁に上質紙が用いられている。総頁数は各号により異なるが、概ね100頁から300頁に及ぶ大部のものであり、その大部分の頁に美術作品の極めて鮮明かつ大きなカラー写真が掲載されている。
 本件カタログが「小冊子」の域をはるかに超えるものであることは明白である。
(6) 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)
(被告の主張)
ア 著作権法32条1項は、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」での引用を認めている。したがって、正当な範囲内と認められる引用の目的は、報道、批評、研究に限られるものではない。
 絵画の所有者は、売買によってその処分権を行使することができるが、そのために、オークションを利用することも一つの処分方法として認められる。オークションに出品するためには、取引の目的物である絵画を特定することが不可欠である。オークションカタログにおける絵画の掲載は、オークションにおいて取引の対象となる絵画を特定するためのものである。著作者名及び絵画の題号等の文字情報だけでは取引の目的物の特定は困難であり、作品によっては、極めて類似した複数の作品も存在するから、売買を円滑に進めるためには、作品そのものをできるだけ忠実に表示することが必要不可欠である。
 加えて、単に取引の目的物を特定するというだけでなく、オークションにおいては、取引者が取引の目的物となる絵画の真贋を見極め、落札価格としてふさわしい値段を付ける必要がある。そのためには、文字情報だけでは不十分である。売買を円滑に進めるためには、取引対象となる作品を表示することが確実であり、表示の必要性・有用性も認められる。
 このように、オークションカタログへの掲載は、オークションによって贋作が取り引きされることを防止し、絵画を適正な値段によって取引し、ひいては、取引の対象となる絵画の著作物の価値を高めることはもちろん、当該著作物だけでなく当該著作者の一連の作品の価値を高めることにもなり、著作者の地位の向上、美術品取引市場の活性化による美術文化の発展にも資する。
 したがって、本件カタログに、オークションの対象となる絵画を表示することは、著作権法の定める引用の目的として正当と認められる。
イ 本件カタログは、本件オークションの出品作品のみを掲載したカタログである。本件カタログには、A4判に絵画1枚から数枚が作者、題号等の取引に必要な情報とともに掲載されている。本件カタログは、被告の会員及び当日オークションに臨場する者に限定して配布され、オークションの参加者及び参加見込者以外に配布されることはなく、オークションカタログであるからそれ自体として流通させる価値も流通の予定もない。
 したがって、本件カタログに絵画を表示することは、その方法ないし態様においても、社会通念上、合理的な範囲内にとどまる。
ウ 美術の著作物に関していえば、著作者は美術作品の所有権を手放してしまえば、その後、有体物である絵画の取引からは何の利益も得られない。本件でも、著作者は、絵画の所有権を手放しており、有体物である絵画の取引から得られる利益はなく、売買に付随して、売買の目的物を特定するために絵画が複製されたからといって、著作権者が経済的利益を得る機会損失になることはない。
 他方、オークションは、絵画所有者の所有権の処分として行われるもので、オークションカタログへの複製は所有権処分のために不可避である。美術品の所有者に所有権の自由な処分が認められているにもかかわらず、オークションカタログへの複製を著作者の許諾にかからしめることによって、著作権者がオークションを妨げることができるとすれば、絵画所有者は、絵画に投下した資本を回収することができず、著作者ないし著作権者の意向によって絵画取引を萎縮させることになり、文化の発展に寄与するどころか、後退させることになる。
 したがって、オークションカタログへの複製は、著作権者の利益となることはあっても、経済的損失をもたらすものではなく、所有権の譲渡のための取引に求められる公正な慣行に合致したものということができ、かつ、その引用の目的上でも、正当な範囲内のものであるということができる。
エ 引用の要件の一つと主張される主従関係についていえば、オークションカタログにおける主たる部分は、取引対象となる絵画の著作者、題号、サイズなどの基本的な情報および落札価格に影響を与えるサインや傷などの状態、予想落札価格等に関する情報である。これらの情報を視覚的に示して取引の目的物を特定し、絵画の価値を判断させるため、オークションカタログに絵画を掲載しているが、絵画は文字による情報を補充するにとどまり、文字による情報を実際に確認できるような文字に取って代わるサイズではない。また、絵画と被告の記載部分とは明瞭に区別することができる。
 したがって、主従関係と明瞭区別性という要件に照らしても、本件カタログへの複製は引用として認められる。
(原告らの主張)
ア 最高裁判決(最三小判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁)は、「引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と判示する。
 ところが、本件カタログの作品紹介部分は、作品名、題号、レゾネ番号、サイズ、サイン、エディションナンバー、予想落札価格等が記載されているにすぎないところ、これらの記載は作品の資料的事項にすぎないから著作物ではない。また、このような本件カタログの体裁からすれば、これらのカタログ等が出品作品の絵柄がどのようなものであるかを画像により見る者に伝えるためのものであり、作品の画像のほかに記載されている文字的部分は作品の資料的な事項にすぎず、その表現も単に事実のみを順に記載したものであることからすれば、これらのカタログの主たる部分は作品の画像であることは明らかである。したがって、上記最高裁判決に照らし、本件カタログへの作品の複製が適法引用に当たるものでないことは明らかである。
イ 被告が主張するように、「公正な慣行に合致」「引用の目的上正当な範囲内」といった著作権法32条1項の文言だけを基準にして本件を検討してみても、本件カタログについての諸事情(@引用する側が単なる資料的文言にすぎず著作物ではないこと、A客観的な体裁からして作品の複製部分が明らかに主であり、資料的文言は従たる存在にすぎないこと、B美術品の図録に比肩するような上質紙による大型版の書籍に極めて鮮明な美術品の写真を掲載していること、C公開入札方式のオークションにおいて、このような詳細かつ鮮明な作品の写真が必須のものでないこと、D本件カタログが、オークションに参加するか否かにかかわらず大量に頒布されるものであること、E本件カタログへの美術品の複製が著作権者には何らの利益をもたらすものでないこと、F公開入札方式によるオークションを行う他のオークション業者においては、現に原告らの利用許諾を得て適法に管理著作物をカタログに利用していること等)に鑑みれば、本件カタログへの美術作品の複製が「公正な慣行に合致」するものでも、「引用の目的上正当な範囲内」のものでもないことは明らかである。
(7) 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)
(被告の主張)
 平成22年1月施行の改正著作権法により、著作権法47条の2が新設され、美術の著作物の所有者その他譲渡の権限を有する者が、原作品を譲渡する場合、その委託を受けた者は、著作物を複製できることとなった。
 著作権法改正前、譲渡の申し出に伴う複製は、「複製権や公衆送信権の侵害に当たる可能性がある」と指摘されていたことがあるというだけで、明確に侵害であるとは捉えられていない。むしろ、侵害に該当するとはいえないからこそ、それを確認する趣旨で、47条の2が新設されたのである。47条の2が新設された後に適法であることが明確化された行為について、行為態様が同じでありながら、新設前は違法であるとは考え難い。つまり、取引対象となる商品情報の提供として行われる画像の複製は、47条の2新設前においても、実質的に違法な複製とはいえない。
 さらに、絵画等の譲渡等は著作権侵害でないにもかかわらず画像掲載に関する著作権の問題を理由に事実上譲渡等が困難となるのは適当ではない。したがって、47条の2新設前においても、画像掲載に対して著作権侵害であると主張して、事実上絵画等の譲渡を困難ならしめることは、絵画の処分権を有する者に対する、適法な権利行使の名を借りた著作権の濫用である。
 以上のとおり、本件訴訟における原告の著作権の行使は、著作権法改正前にオークションのために行われた複製について、法律が明確でなかったことを幸いとして、譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので、47条の2が新設された趣旨からすると、著作権の濫用に該当する。
(原告らの主張)
 著作権法は、その支分権(著作権法21条〜28条)として定める行為に対して著作権者の権利が及ぶことを原則とした上で、様々な理由で著作権が制限される場合を30条以下に限定列挙する方法で規定している。したがって、列挙された権利制限規定に該当しない支分権該当行為に対する著作権の権利行使が権利の濫用になるようなことは原則としてない。また、行為時点において違法な著作権侵害により発生済みの損害賠償請求権の行使がその後に立法された著作権制限規定によって消滅することもない。しかも、被告と同様の美術品オークションを行う他のオークション業者においては、従前から原告らの利用許諾を得て適法に管理著作物をそのオークションカタログに複製しているのであり、本件の権利行使は全く正当なものである。本件請求に権利の濫用に当たるような事情は全く見当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 原告X1の当事者適格の有無(争点1)について
(1) 原告X1は、パリ大審裁判所の急速審理命令により、フランス民法上の不分割共同財産であるPの著作権につき管理者(代表者)に指名され、フランス民法1873条の6第1項に基づき、本件訴訟を提起したものである。これに対し、被告は、原告X1の当事者適格(法定訴訟担当)を争うものである。
(2) そこで検討するに、渉外的要素を含む法定訴訟担当については、訴訟担当権限が被担当者と担当者の実体的な法律関係から派生する場合には、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無を判断するのが相当である。
 これを本件についてみるに、原告X1の権限は、Pの相続人(再転相続人を含む。)間において、Pの著作権を不分割共同財産にとどめる旨を合意したことに派生するから、実体的な法律関係から派生したものと解される。そして、フランス民法の不分割共同財産の制度は、同法1873条の2第1項(「共同不分割権利者は、そのすべての者が同意する場合には、不分割にとどまる合意をすることができる。」〔甲6。以下、不分割共同財産の規定につき同じ証拠である。〕)、同法1873条の4第1項(「不分割の維持を目的とする合意については、能力又は不分割財産を処分する権限〔があること〕を必要とする。」)等の規定に照らすと、法律行為に基づくものであると解される。
 法の適用に関する通則法7条は、法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法によると規定するが、Pの相続人は、フランス民法の不分割共同財産の制度を利用するのであるから、フランス法を選択する意思であったと解され、フランス法により原告X1の訴訟担当権限の有無を判断するのが相当である。
 そして、フランス民法1873条の6第1項は、(不分割共同財産の)「管理者は、あるいは民事生活上の行為について、あるいは原告又は被告として裁判上で、その権限の範囲内で不分割権利者を代表する。」と規定し、原告X1は、不分割共同財産であるPの著作権の管理者(代表者)であるから、訴訟上の当事者として、本件訴訟について当事者適格を有する。
(3) これに対し、被告は、実体準拠法の問題であるとすると、我が国の著作権法が適用されることになるなどと主張するが、その根拠は定かでないから、被告の主張は理由がない。
2 著作権移転の有無(争点2)について
(1) 準拠法について
 著作権の移転について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、移転の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。
 まず、著作権の移転の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断するに、法の適用に関する通則法7条により、第一次的には当事者の選択に従ってその準拠法が定められるべきである。そして、フランス法人である原告協会と会員(大部分がフランス人)との間の著作権移転に関する契約については、フランス法を選択する意思であったと解される。
 次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について判断するに、一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、法の適用に関する通則法13条は、その趣旨に基づくものである。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様に、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。このように、著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となるが、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては、原告協会と会員との間の著作権移転に関する契約が締結されたことにより、著作権は会員から原告協会に移転することになる。
 さらに、争いはないと解されるが、念のため付言するに、本件は、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であり、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、法の適用に関する通則法17条により準拠法が定められるが、「加害行為の結果が発生した地」は我が国であるから、我が国の法令(民法、著作権法)が適用される(同法施行前は法例11条1項により「其原因タル事実ノ発生シタル地」を準拠法とするが、その地が我が国であることに変わりはない。)。
(2) そこで、原告協会と会員との著作権移転に関する契約について検討する。
 証拠(枝番号を含めて甲3、15〜53〔ただし、甲17の23を除く。〕、55〜88、90〜138、140〜147、281、282、284〜288、293、294、305)によれば、原告協会の一般規約14条は、「作品は、その著作者、その作品の権利承継者、相続人、受遺者又は譲受人が当協会に加入した事実のみをもって、当協会の管理著作物として承認される。当協会への加入により、この一般規約第1条に規定された作品及び当該著作者の他のすべての作品(それがいかなる性質のものであるかを問わない)の諸権利は当協会に移転(apport)する。」と規定し、他方で、原告協会への入会申込書には、上記の規定に対応した記載があることが認められる。
 そうすると、原告協会の会員は、原告協会に加入することにより、その著作権が移転することを同意していたものと認められるから、原告協会に対する著作権の移転があったと認められ、その他著作権の移転を否定する事情は見当たらない。なお、157Dについては、原告協会は著作権の共有持分(50%)の移転を受けている(甲297、乙9)。
 これに対し、被告は、「apport」の意義について疑問を呈するが、例えば著作権管理団体SACEMでも同様に「apport」の用語が使用されていること(甲299)などに照らすと、「apport」を移転の意義に解することに特段の支障はないというべきである。
(3) また、被告は、フランス破毀院の判決を引用して、美術家が集中管理団体に対する出資(apport)によって原告協会に加盟し著作権の管理を委託したとしても、当然に、その死後において、原告協会は当然に死亡した著作権者の相続財産となった損害賠償請求権を行使できるものではない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、本件は、不法行為に基づく損害賠償請求であり、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力については、我が国の法令(民法、著作権法)が適用される。そして、我が国の法令では、著作権侵害があれば不法行為が成立するのであり、著作権の移転後に譲渡人が死亡したとしても、不法行為の成否が左右されることはないから、被告の主張は理由がない。
 この点につき、原告は、時機に後れた攻撃防御方法である旨主張するが、上記のとおり判断できるので、却下することはしない。
(4) さらに、被告は、著作者ではない会員の相続関係等が不明であるなどと主張する。
 しかしながら、証拠(甲305)及び弁論の全趣旨によれば、原告協会は、加入の諾否に際し、加入希望者が権利承継者である場合には、著作者の芸術活動を示す資料に加え、相続又は受遺による権利の帰属を証明する公証人証書(一定の証人の証言に基づき公証人が発行する証書)等の提出を求めていることが認められ、原告協会における加入希望者の審査手続に特段の不備はないことに照らすと、被告の主張は理由がない(作家が死亡しているのに相続人の入会届が提出されていない旨の主張は上記(3)のとおり理由がない。)。
 この点につき、被告は、27 Iの相続関係の証拠として、乙41号証を提出するが、これはIの追及権(ベルヌ条約14条の3に規定する美術の著作物の原作品等について著作者が転売ごとに売買の利益にあずかることができる制度)に関する文献(フランスにおける立法経緯)にすぎないから、これを採用することはできない。
 また、被告は、原告協会所持に係る公証人証書等について、文書提出命令を申し立てるが、その必要性があるとは認められないから却下する。なお、当該申立ては、当裁判所が第9回弁論準備手続期日(平成25年5月29日)において次回期日での弁論準備手続の終結を予告した後にされたものであって、時機に後れたものといわれてもやむを得ないものである。
(5) 以上のとおり、原告協会の会員から原告協会に対する著作権の移転が認められる。
3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額(争点3)について
(1) 被告の複製権侵害の態様について
ア 複製権侵害の態様の判断基準について
 本件において、被告は、原告らが主張する本件カタログにおける会員作品及びP作品の複製については争っていないものと認められる。そして、複製権侵害が認められる限り、美術作品の売買を取り扱う被告には、複製権侵害についての故意又は過失が認められる。
 被告が争うのは複製の態様であるが、後記127AAの本件カタログ318号の作品を除けば、複製の態様は、複製権侵害の程度を示すものではあっても、違法性の有無の判断に関わるものではなく、損害額の算定と結び付くものであるから、ここでは、複製の態様と損害論を併せて検討する。
 そして、当裁判所は、後記のとおり、著作権法114条3項の損害額を算定するについては、SPDAの使用料規程に基づくのが相当であると判断するものであり、上記のとおり、複製の態様の判断が損害額の算定と結び付くものであることに鑑みれば、複製の態様の認定においても、SPDAの基準に基づいて複製の態様を認定するのが相当である。
 被告は、この点について、SPDAの色及びサイズの判断基準の内容について、原告らの主張を争うので、以下、まず、色及びサイズの判断基準について検討する。
(ア) 色について
 被告は、損害額算定の前提となる複製の態様(色)について、「モノクロ」(単色)かカラーによって区別すべきであるとし、その根拠として、DNPアートが適用するSPDAの使用料規程は、モノクロ(単色)かカラーかによって区別していること(乙15)を挙げる。すなわち、被告は、DNPアートが記載するSPDAの使用料規程がSPDAの使用料規程であると主張するものである。
 しかし、SPDAが平成15年1月6日に作成したSPDAの使用料規程(甲9)においては、白黒かカラーかによって区別されているのであり、その後、この判断基準が変更されたことを示すに足りる証拠はない。
 SPDAの基準を転載したとみられる、DNPアートの記載には、誤記又は誤解の可能性があるのであって、当該記載をもってSPDAの基準であると認めるのは相当でない。
 そうすると、損害額の検討の前提となる複製の態様の検討に当たっては、白黒写真かカラー写真かで区別すべきであるから、カラー写真についてはモノクロ写真か否かを検討する必要はないことになる。
 もっとも、被告が別紙被告認否一覧表において、bw(白黒)写真であると主張する写真については、その趣旨が、カラーのモノクロ写真であるがbw写真として取り扱われるべきでものとするものか、それとも、真実に白黒写真であると主張するものか、必ずしも明らかではない。そこで、以下の個々の作家の検討においては、被告がbw写真であると主張しているものについては、カラー写真(モノクロ写真を含む)ではなく、白黒写真として主張している可能性もあるものとして検討する(そのため、以下では、便宜上、被告がbw写真であると主張しているものは、白黒写真であると主張しているものとして掲記する。)。
(イ) サイズについて
 被告は、SPDAの使用料規程は、著作物ではなく「著作物を複製した写真の大きさ」を基準とするかは明確でないとし、使用料は著作物の使用に対する料金であるから、著作物とは無関係な写真の余白部分や額縁を含めたサイズではなく、あくまで著作物を基準としたサイズとすべきであると主張する。
 しかし、美術の著作物を書籍に複製する場合には、通常は作品を撮影した写真を使用するものであり、その場合、背景や額縁の大きさ等は写真の撮影態様によって様々であるから、画一的な判断基準として写真の大きさが基準とされているとみるのが相当であり、SPDAの使用規程においても写真の大きさが基準とされていると判断するのが相当である。すなわち、著作物自体のサイズではなく、写真の余白部分や写真に撮影された背景、額縁を含めた写真のサイズとして判断するのが相当である。
 なお、後記のとおり、127AAの本件カタログ318号の作品についての著作権侵害の有無を判断するに当たっては、著作権法施行規則4条の2第1項1号の「著作物の表示の大きさ」の解釈として著作物自体の大きさを検討するのが相当であるが、ここでの問題は、著作権侵害の有無の問題ではなく、SPDAの使用料規程における使用料額算定の基礎となる写真のサイズの問題であるから、両者は観点を異にし、異なる判断基準により判断されるべきものである。
(ウ) 127AAの本件カタログ318号の作品について
 被告は、127AAの本件カタログ318号の作品について、著作権法47条の2の適用を主張するので、別途検討する。
イ 会員作品について
(ア) 12 ACについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲151)によれば、本件カタログ271号は、ACの作品の写真をカラー印刷の方法(白黒以外の色を使用する印刷の方法。以下同じ。)により複製していることが認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(イ) 17 ADについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲152〜154、155の1及び2、甲156〜159)によれば、本件カタログ164号、246号、258号(ロット1045番)、261号(ロット1209・1210・1213・1214番)、273号(ロット1015・1017番)、275号(ロット1086番)、281号(ロット1318・1319番)、289号(ロット962・963番)は、ADの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ウ) 27 Iについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲161)によれば、本件カタログ226T号(ロット425番)は、Iの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(エ) 28 AEについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲162〜165)によれば、本件カタログ183号(ロット44番の写真のうち最も左に位置する写真1枚)、206号(ロット208番の写真のうち下に位置する写真)、213号(ロット562番の写真のうち最も右に位置する写真)、215号(ロット876番の写真のうち最も左上に位置する写真)は、AEの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数について、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(オ) 40 AFについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲166、167)によれば、本件カタログ258号(写真2枚)、273号は、AFの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(カ) 59 Pについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲168)によれば、本件カタログ263号は、Pの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(キ) 65 AGについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲169)によれば、本件カタログ186号は、AGの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ク) 66 AHについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲170、171)によれば、本件カタログ231T号、248号は、AHの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ケ) 69 AIについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲173、176〜178、179の1及び2、甲180、181の1、甲182、183、184の1、甲185の1及び2、甲186の2、甲187〜189、191)によれば、本件カタログ183号(ロット387番)、220号(ロット19番)、229号(ロット31番)、242号(ロット369・370番)、246号(ロット201・202・698番)、261号(ロット837番)、263号(ロット422番)、265号(ロット99番)、271号(ロット69番)、278号(ロット18番)、281号(ロット405・407番)、283号(ロット635番)、289号(ロット162番)、292号(ロット250番)、297号(ロット557・558番)、300号(ロット17番)は、AIの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 枚数について
 また、被告は、本件カタログ206号(ロット43番)について、美術の著作物の有形的再製とはいえない旨を主張し、複製サイズ1/8頁以下の大きさのカラー写真の複製枚数を争う。これは、45頁の上4枚の写真(甲174の2)では、作品を並べた光景が写真撮影されたものにすぎない旨を主張するものと解される。しかしながら、証拠(甲174の2)によれば、上記4枚の写真はAIの作品を認識できるものと認められるから、被告の主張は理由がない。
 そうすると、本件カタログ206号(ロット43番)のうち、AIの作品を1/8頁大以下の大きさによりカラー印刷の方法で複製したものは25枚であると認められる(44頁〔甲174の1〕の左上の写真を除く21枚と45頁の上4枚の写真)。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数、上記bの作品の複製サイズ及び色並びに上記a及びb以外の作品の複製サイズ、色及び枚数について、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(コ) 73 AJについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲192)によれば、本件カタログ231T号(ロット299・300番)は、AJの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(サ) 78 AKについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲194〜196)によれば、本件カタログ217号、251U号、265号は、AKの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(シ) 86 Sについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲198)によれば、本件カタログ221号(ロット463番)は、Sの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ス) 96 ALについて
a サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/8頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、外枠を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとするものと解されるが、前記のとおり、原告協会の損害額を算定するについては、SPDAの基準に基づくのが適切であるから、外枠を含めた写真そのもののサイズで判断するのが相当である。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲207)によれば、本件カタログ278号は、ALの作品の写真を1/4頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
b 上記作品の複製の色及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(セ) 103 AMについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲208)によれば、本件カタログ273号は、AMの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ソ) 118 ANについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲209)によれば、本件カタログ231T号は、ANの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(タ) 120 Wについて
a 色について
被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲210)によれば、本件カタログ239号は、Wの作品その写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(チ) 123 Zについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲211、213、214の1及び2)によれば、本件カタログ217号(ロット846番)、258号(ロット1063番)、268号(ロット468〜470番)は、Zの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/4頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、外枠を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが、外枠を含めた写真そのもののサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲212)によれば、本件カタログ239号(ロット708番)は、Zの作品の写真を1/2頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数、上記bの作品の色及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ツ) 142 AOについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲217、218の1及び2、甲219、220、222、224、225の1及び2、甲226の1、甲227〜230、231の1及び2、甲232の1及び2、233、234)によれば、本件カタログ217号(ロット812〜814番)、221号(ロット595〜597・599番)、223号(ロット324番)、235U&V号(ロット931〜935番)、242号(ロット952番)、258号(ロット1231番)、261号(ロット1134〜1140番)、263号(ロット834・835番)、265号(ロット743〜745番)、269号(ロット950・951番)、275号(ロット1077番)、278号(ロット322番の下2つの写真)、281号(ロット1330〜1332・1496番)、283号(ロット1041・1042・1044・1045番)、289号(ロット1045・1046番)、307号(ロット274番)は、AOの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(テ) 164 APについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲235、236)によれば、本件カタログ226T号、273号は、APの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ト) 168 AQについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲238、239、244〜246)によれば、本件カタログ215号(ロット966番)、221号(ロット622番の右の写真)、265号(ロット908番)、275号(ロット1292番)、281号(1405番)は、AQの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ナ) 169 ARについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲248)によれば、本件カタログ283号(ロット1012番)は、ARの作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b 上記作品の複製サイズ及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ニ) 170 ASについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲250)によれば、本件カタログ300号(ロット335番240頁の写真)は、ASの写真はカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/4頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、背景を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の作品(ブロンズ像及び木製台座)のサイズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが、背景を含めた写真そのもののサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲250)によれば、本件カタログ300号(ロット335番240頁の写真)は、ASの作品の写真を3/4頁大以下の大きさでカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
c 上記作品の枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ヌ) 171 ATについて
a サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/4頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、背景や写真の外枠を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の複数の作品のサイズを合計したものを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが、背景や写真の外枠を含めた写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲251)によれば、本件カタログ268号は、ATの作品の写真を1/2頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
b 上記作品の色及び枚数並びに上記以外の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(ネ) その他の作家の作品について
 その他の作家(127AAについてはカタログ318号以外の作品)の作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
ウ P作品について
(ア) 平成14年(2002年)から平成18年(2006年)までの本件カタログについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲252、254)によれば、本件カタログ122号(ロット527番)、206号(ロット230番)は、P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは1/8頁大以下の大きさであると主張するが、証拠(甲253)によれば、本件カタログ164号(ロット303番)は、P作品の写真を1/4頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数、上記bの作品の複製の色及び枚数並びにその他のP作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(イ)  平成19年(2007年)の本件カタログについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲255の2、甲256の1及び4、甲258の1〜4、甲259の1及び2、甲261の1〜5、甲262の1及び2)によれば、本件カタログ213号(ロット639番)、215号(ロット1007・1151番)、220号(ロット257〜260番)、221号(ロット617・620番)、229号(ロット276・277・279〜281番)、231T号(ロット285〜287・289番)は、P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/8頁大以下又は1/4頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、おおむね背景や外枠を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが、背景や外枠を含めた写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲255の1及び2、甲256の2及び3、甲257、260、263の1及び2)によれば、本件カタログ213号(ロット636・639番)、215号(ロット1012番の左の写真・1013番)、217号(ロット番号858番)、226号U&V(ロット1378番)、235号U&V(ロット995〜997番)は、順にP作品の写真を1/4頁大以下の大きさ、1/2頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/2頁大以下の大きさ、1/2頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数、上記bの作品の複製の色及び枚数並びにその他のP作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない(ただし、本件カタログ213号〔ロット639番〕は枚数のみが当事者間に争いがない。)。
(ウ) 平成20年(2008年)の本件カタログについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲266の1及び2、甲267の2〜5、甲268)によれば、本件カタログ246号(ロット1096・1097番)、251U号(ロット381・386〜388番)、258号(ロット1028番)は、P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/8頁大以下又は1/4頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、おおむね背景や外枠を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが、背景や外枠を含めた写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲264、265の1及び2、甲267の1)によれば、本件カタログ239号(ロット750番)、242号(ロット1001〜1003番)、251U号(ロット番号379・380番)は、順にP作品の写真を1/2頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさ、1/4頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数、上記bの作品の複製の色及び枚数並びにその他のP作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(エ) 平成21年(2009年)の本件カタログについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲270、271の1及び2、甲273の1及び3、甲274の1〜4、甲275の1及び2)によれば、本件カタログ269号(ロット979・980番)、278号(ロット326・331番)、283号(ロット1027・1233番)、286号(ロット318・320〜322番)、289号(ロット1082・1084・1085・1087番)は、P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/8頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、おおむね背景や額縁を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが、背景や額縁を含めた写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲269、271の3及び4、甲272、273の2、甲274の1、甲275の3)によれば、本件カタログ265号(ロット771番)、278号(ロット334番・335番の左の写真)、281号(ロット番号1340番)、283号(ロット番号1030番)、286号(ロット番号319番の右の写真)、289号(ロット番号1089番)は、いずれもP作品の写真を1/4頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数、上記bの作品の複製の色及び枚数並びにその他のP作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない。
(オ) 平成22年(2010年)の本件カタログについて
a 色について
 被告は、以下の作品の写真は白黒写真であると主張するが、証拠(甲277、279の1〜4)によれば、本件カタログ297号(ロット770番)、300号(ロット300・301・303・306番)は、P作品の写真をカラー印刷の方法により複製したものと認められる。
b サイズについて
 被告は、以下の作品の写真のサイズは、1/8頁大以下の大きさであると主張する。その主張の趣旨は、外枠を含めた写真そのもののサイズではなく、写真中の作品のサイズを基準とすべきであるとの趣旨と解されるが、外枠を含めた写真全体のサイズを基準とすべきであることは前記のとおりである。
 上記の基準により判断するに、証拠(甲277、278)によれば、本件カタログ297号(ロット770番)、298号(ロット648番)は、P作品の写真を1/4頁大以下の大きさにより複製したものと認められる。
c 上記aの作品の複製サイズ及び枚数、上記bの作品の複製の色及び枚数並びにその他のP作品の複製サイズ、色及び枚数については、別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりであることに当事者間に争いがない(本件カタログ297号〔ロット770番〕については、枚数のみが争いがない。)。
ウ 小括
 以上のとおり、会員作品(127AAについては本件カタログ318号以外の作品)及びP作品については、いずれも複製権侵害が認められ、その態様も別紙原告協会主張SPDA基準及び別紙原告X1主張SPDA基準記載のとおりであると認められる。
エ 127AAの本件カタログ318号の作品について
 被告は、本件カタログ318号に係る複製について、著作権法47条の2の適用がある旨主張する。
 そこで検討するに、被告は、本件オークションを主催する者であるから、著作権法47条の2の施行日である平成22年1月1日以降、同条所定の複製を行うことができたものと認められる。また、同条施行令7条の2第1項第1号及び同施行規則4条の2第1項第1号により、著作権法47条の2が適用されるためには、当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが50平方cm以下であることが必要である。
 弁論の全趣旨によれば、本件カタログ318号は平成22年後半に発行されたものであることが認められるから、同号に係る複製は著作権法47条の2の適用の対象であると認められる。そして、証拠(甲216、乙19)によれば、同号に係る複製は、額縁部分を除く作品部分について、縦約6cm×横8.3cmの写真を印刷したものであることが認められるから、その表示の大きさは約49.8平方cmである。
 以上によれば、本件カタログ318号に係る複製は、著作権法47条の2の適用があると認められるから、複製権侵害に当たらない。
(2) 原告らの損害額について
ア 原告らは、著作権法114条3項による使用料相当損害額として、主位的に、JASPARの使用料規程に基づいて算定すべきである旨主張する。しかしながら、JASPARの使用料規程は、本件の複製権侵害行為の後の平成24年に定められたものであって、本件においては、JASPARの使用料規程を算定に使用することが相当であるとはいい難いし、その他相当であることを肯定できる事情は見当たらないから、原告らの主張は理由がない。
イ 原告らは、著作権法114条3項に基づいて損害賠償を請求するものであり、被告の複製権侵害について受けるべき金銭の額としては、原告らがSPDAに対して著作権管理(利用許諾及び使用料徴収)を委託していたことに照らすと、その算定においては、SPDAの使用料規程に従うのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、本件カタログは、SPDAの使用料規程3(1)イの単行本(5000部以下)に当たるものと認められるから、当該規定に基づいて、原告らの使用料相当損害額を算定するのが相当である。また、証拠(甲10)によれば、前件和解において、「被告が前項の確約に違反して、第3項又は第4項の清算処理の完了前に原告が著作権を管理する美術家の美術作品を50平方センチメートルを超える表示の大きさで本件カタログに複製したときは、被告は、原告に対し、当該複製利用につき、SPDAの使用料規程に定める使用料相当額に同額の違約金を加算した損害金を直ちに支払う。」(6項)と定められているから、前件和解が成立した平成22年9月21日以降、本件カタログに会員作品を50平方cmを超える表示の大きさで複製したときは、被告は、原告協会に対し、SPDAの使用料規程に定める使用料相当額に同額の違約金を加算した損害金を支払う義務がある(加算の対象は、本件カタログ315号〔16 AU、37 AV〕、318号〔51 N、142 AO〕、321号〔123 Z〕に係る複製である。)。もっとも、157Dについては、原告協会は50%の共有持分を有するにすぎないから、その使用料相当損害額は半額となる。
 以上に照らし、原告協会の使用料相当損害額を算定すると、127AAの本件カタログ318号に係る複製及び157Dに係る複製を除いて、別紙原告協会主張SPDA基準一覧表記載のとおりとなる。そして、127AAに係る損害額は178万6500円、157Dに係る損害額は半額の21万4750円となるから、別紙原告協会認定損害額一覧表記載のとおり、原告協会の使用料相当損害額は、合計3724万4350円となる。また、原告X1の使用料相当損害額を算定すると、別紙原告X1主張SPDA基準一覧表記載のとおりとなるから、合計401万7000円となる。
 そして、被告らが負担すべき弁護士費用相当額については、本件の内容、経過等に照らすと、原告協会につき370万円、原告X1につき40万円を認めるのが相当である。
 したがって、原告協会の損害額は合計4094万4350円であり、原告X1の損害額は合計441万7000円である。
ウ 原告らの主張について
 原告らは、自らが入手していない本件カタログについても同様に複製権侵害があったことを前提として、入手した本件カタログに係る損害額から入手していない本件カタログを含めた本件カタログ全体の損害額を推認することができる旨を主張する。しかしながら、入手していない本件カタログについて、その内容、態様等は明らかでなく、複製権侵害があったことは立証されていないのであるから、原告らの主張は理由がない。
 また、原告協会は、SPDAの使用料規程は、SPDAに管理委託されている権利を許諾する対価を定めたものであり、当該作品に権利を有する著作権者全員に対して利用者が支払う使用料の合計額を定めるようなものではないとして、共有持分であってもSPDAの使用料規程に定める全額が使用料相当損害額である旨主張する。しかしながら、SPDAの使用料規程には、共有持分であってもSPDAの使用料規程に定める全額が対価である旨を定めた規定はないし、そのように解する根拠もないのであるから、共有持分の場合にはその割合に応じた額を使用料相当損害額と認めるのが相当である。
エ 被告の主張について
 被告は、SPDAの使用料規程で計算した金額には、当然、原告協会との相互管理契約に基づくSPDAの管理手数料及び利益が加算されているのであって、著作権者であると主張する原告協会に支払われる額ではないなどと主張する。しかしながら、著作権侵害に係る原告協会の使用料相当の損害賠償の額と原告協会とSPDAの内部関係における著作権の管理手数料等とは本来無関係であるから、被告の主張は理由がない。
(3) まとめ
 以上のとおり、原告らの請求は、不法行為に基づく請求として、被告に対し、原告協会につき4094万4350円及びこれに対する最終の侵害行為の日である本件カタログ321号の発行の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、原告X1つき441万7000円及びこれに対する最終の侵害行為の日である本件カタログ305号の発行の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
4 利用許諾の有無(争点4)について
 被告は、AB作品の著作権管理を行うギャルリーためながから許諾を受け、AB作品を本件カタログに複製していた旨主張する。
 そこで検討するに、証拠(甲17の7、甲289の1及び2、甲290の1及び2、甲291、乙13)及び弁論の全趣旨によれば、原告協会は、平成21年12月まで、AB作品の著作権管理を行っていたこと、ギャルリーためながは、平成22年1月、ABから我が国における著作権管理の委託を受けたこと、被告は、ギャルリーためながに対し、本件カタログに係るAB作品の利用について許諾を求めたことはなく、ギャルリーためながは、被告に対し、本件カタログに係るAB作品の利用を許諾したことがないこと、現在、原告協会は、再びAB作品の著作権管理を行っていることが認められる。
 以上に照らすと、被告が本件カタログに係るAB作品の利用について許諾を受けたとは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告の主張は理由がない。
5 本件カタログが展示に伴う小冊子(著作権法47条)に当たるか(争点5)について
 被告は、オークションにおける公の展示において、観覧者のために著作物の紹介をすることを目的として、小冊子である本件カタログに著作物を掲載したのであり、著作権47条により、その複製は適法である旨主張する。
 そこで検討するに、著作権法47条は、「美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第二十五条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と規定する。このように「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布されるものは、「小冊子」に当たらないと解するのが相当である。
 しかしながら、本件カタログは、本件オークションや下見会の参加にかかわらず、被告の会員に配布されるものであるから(前提事実(3)及び(4))、著作権法47条にいう「小冊子」には当たるとは認められない。
 したがって、その余について判断するまでもなく、被告の主張は理由がない。
6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)について
 被告は、本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たる旨主張するが、その主張の趣旨は、本件カタログにおける美術作品の作者、題号等の取引に必要な情報の記載が引用表現であり、美術作品の写真(複製物)が被引用著作物であると主張するものと解される。
 そこで検討するに、著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから、他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が、報道、批評、研究等の引用するための各目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。
 本件カタログにおいて美術作品を複製する目的は、本件オークションにおける売買であることは明らかである。他方、本件カタログには、美術作品の写真に合わせて、ロット番号、作家名、作品名、予想落札価格、作品の情報等が掲載されるが(乙17)、実際の本件カタログ(枝番号を含めて甲148〜279、乙19)をみても、写真の大きさの方が上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く、上記の情報等に眼目が置かれているとは解し難い。また、本件カタログの配布とは別に、出品された美術作品を確認できる下見会が行われていることなどに照らすと、上記の情報等と合わせて、美術作品の写真を掲載する必然性は見出せない。
 そうすると、本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が、本件オークションにおける売買という目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。
 したがって、被告の主張は理由がない。
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)について
 被告は、本件訴訟における原告の著作権の行使は、著作権法改正前にオークションのために行われた複製について、法律が明確でなかったことを幸いとして、譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので、47条の2が新設された趣旨からすると、著作権の濫用に該当するなどと主張する。
 しかしながら、著作権法47条の2は、美術の著作物又は写真の著作物の原作品等の適法な取引行為と著作権とを調整する趣旨において、原作品等を譲渡又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、一定の措置を講じることを条件に、当該著作物の複製又は公衆送信を行うことを認めるものである。このように、著作権法47条の2は、一定の措置を講じることを条件に、複製権又は公衆送信権を制限するものであるから、そのような措置が講じられなければ、複製権又は公衆送信権の侵害であることに変わりはないし、同規定が遡及適用されるものでもない(平成21年法律第53号附則1条)。
 そうすると、著作権法47条の2の新設により、同規定の施行前にオークションのために行われた複製について損害賠償を請求することや、同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使することが権利濫用であるとはいい難いし、その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められない。
 したがって、被告の主張は理由がない。
8 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 西村康夫
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