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【事件名】宗教法人の祈願経文事件
【年月日】平成25年12月13日
 東京地裁 平成24年(ワ)第24933号 損害賠償等請求本訴事件、平成25年(ワ)第16293号 損害賠償請求反訴事件
 (口頭弁論終結日 平成25年10月11日)

判決
本訴原告(反訴被告) 宗教法人幸福の科学(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 宮原正志
同 松本優子
本訴被告(反訴原告) A(以下「被告A」という。)
同 B(以下「被告B」という。)
同 C(以下「被告C」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 篠原由宏


主文
1 被告B及び被告Cは、原告に対し、連帯して、7万円及びうち6万3000円に対する平成24年9月21日から、うち7000円に対する平成25年4月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告B及び被告Cに対するその余の本訴請求並びに被告Aに対する本訴請求をいずれも棄却する。
3 被告らの原告に対する反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は本訴反訴ともにこれを5分し、その2を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴請求
(1) 被告Bは、原告に対し、別紙動産目録記載の祈願経文のうち、同目録記載(1)ないし(3)の標題がそれぞれ記されたものを引き渡せ。
(2) 被告Bは、別紙動産目録記載の祈願経文のうち、同目録記載(1)ないし(3)の標題がそれぞれ記されたものを、被告Bの住所地(東京都品川区<以下略>)所在の被告B宅内において、不特定又は多数の者に対し直接伝達することを目的として口述してはならない。
(3) 被告Bは、別紙動産目録記載の祈願経文のうち、同目録記載(1)ないし(3)の標題がそれぞれ記されたものの複製物を廃棄せよ。
(4) 被告Aは、原告に対し、別紙動産目録記載の祈願経文のうち、同目録記載(4)ないし(6)の標題がそれぞれ記されたものを引き渡せ。
(5) 被告Aは、別紙動産目録記載の祈願経文のうち、同目録記載(4)ないし(6)の標題がそれぞれ記されたものを複製し、頒布してはならない。
(6) 被告Aは、別紙動産目録記載の祈願経文のうち、同目録記載(4)ないし(6)の標題がそれぞれ記されたものの複製物を廃棄せよ。
(7) 被告らは、原告に対し、連帯して、3300万円及びこれに対する被告 B及び被告Cにつき平成24年9月21日から、被告Aにつき同月23日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴請求
(1) 原告は、被告Bに対し、1000万円及びこれに対する平成25年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告は、被告Cに対し、1000万円及びこれに対する平成25年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 原告は、被告Aに対し、1000万円及びこれに対する平成25年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本訴事件
 本件は、宗教法人である原告が、
(1) 別紙動産目録記載の祈願経文(以下、同目録記載(1)ないし(6)の標題毎に、それぞれ「本件経文原本@」などといい、これらを併せて「本件経文原本」という。)の所有権に基づき、被告Bにつき本件経文原本@ないしBの、被告Aにつき本件経文原本CないしEの各返還を求め、
(2) 本件祈願経文原本に記載された祈願経文であって、別紙動産目録記載(1)ないし(6)の標題を有するもの(以下、同目録記載(1)ないし(6)の標題毎に、それぞれ「本件経文@」などといい、これらを併せて「本件経文」という。)の著作権(複製権、口述権)に基づき、@被告Bにつき本件経文@ないしBの口述の差止め(著作権法112条1項)及び同経文の複製物の廃棄(同条2項)を、A被告Aにつき本件経文CないしEの複製及び上記複製によって作成された物の頒布(同法113条1項2号)の差止め(同法112条1項)並びに同経文の複製物の廃棄(同条2項)を各求め、さらに、
(3) 被告らが、共謀して、原告の法具及び袈裟を使用し、本件経文を読誦して祈願模倣行為を執り行うとともに、上記祈願模倣行為が原告の許可の下でなされたものである旨の発言を行ったこと等は、原告の名誉・信用を毀損するものであり、かつ、本件経文に係る原告の著作権(口述権)及び上記法具等に係る原告の所有権を侵害するものであって、被告らの共同不法行為(民法719条前段)を構成すると主張し、上記不法行為に基づく損害3300万円(名誉毀損等による無形損害等3000万円及び弁護士費用300万円)(附帯請求として、被告に対する各訴状送達日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案である。
2 反訴事件
 本件は、被告らが、本訴事件は、原告が、被告らに対する報復のために提起したものであり、本来であればおよそ法律問題となり得ない事実につき、成立し得ない法律構成で不当な主張をするものであるから、被告らに対する不法行為を構成すると主張し、上記不法行為に基づく損害賠償として、被告ら各自につき1000万円(附帯請求として、反訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案である。
3 前提事実(争いのない事実以外は、証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者等
ア 原告は、昭和61年10月に任意団体として活動を開始し、平成3年3月、宗教法人法に基づく設立登記をした宗教団体であり、D(以下「原告代表役員」という。)は、その代表役員である。
イ 被告Bと被告Cは夫婦であり、原告の信者であったが、平成24年4月頃、原告から除名処分を受けた。
ウ 被告A及びE(以下「E」という。)は、原告の職員であり、かつ、信者であったが、平成24年4月頃、原告から除名処分を受けた。
(2) 「心検」の活動等
ア 被告A及びEは、平成22年2月、心理カウンセリングを扱う一般社団法人である「一般社団法人カウンセラー検定協会」を設立した。
イ 上記一般社団法人カウンセラー検定協会は、平成23年12月27日、その名称を「一般社団法人心検」に変更した(甲1、2、乙1、証人E、被告A)(以下、名称の変更前後を通じて、上記社団法人を「心検」(こころけん)ということがある。)。
(3) 本件訴訟の経緯等
ア 原告は、平成24年8月31日付けで、被告ら及びEを被告として本件訴訟を提起した。
 上記訴訟提起時における原告の請求は、被告らに対し、前記1(1)ないし(6)の請求をするとともに、被告Bに対し、別紙法具等目録記載(1)及び(2)の法具(以下、これらを併せて「本件法具」という。)並びに同目録記載(3)の袈裟(以下「本件袈裟」といい、本件法具と併せて「本件法具等」という。)の返還を求め、かつ、Eに対し本件経文原本@、D及びEの返還並びにその複製及び頒布の差止め・複製物の廃棄を各求めるものであり、さらに、前記第1の(7)の請求につき、被告ら及びEを対象として、その連帯支払を求めるものであった。
イ 被告ら及びEは、訴訟代理人弁護士2名を共同で選任した上、本件法具等の占有を否認し、原告の主張をすべて争う内容の準備書面を提出したが、上記訴訟代理人弁護士は、平成25年2月21日付けで辞任した。
ウ Eは、同年3月19日付けで本件法具等の持出し等を認める内容の準備書面を提出した。
エ 当裁判所は、同年7月17日、本件弁論準備手続からEに関する弁論準備手続を分離し、同日、原告とEとの間に、本件法具等の席上交付等を内容とする和解が成立した(以上のアないしエは当裁判所に顕著な事実)。
オ 上記エのとおり席上交付された本件法具等のうち、本件法具は同年2月下旬頃に、本件袈裟は同年4月10日頃に、いずれも被告BからEに受け渡されたものであった(甲28)。
4 争点
(1) 被告らに対する本件経文原本返還請求の成否
(2) 著作権(口述権、複製権)侵害の成否
ア 本件経文の著作物性
イ 被告Bに対する本件経文@ないしBの口述差止請求及び本件経文@ないしBの複製物の廃棄請求の可否
ウ 被告Aに対する本件経文CないしEの複製・頒布の差止請求及び本件経文CないしEの複製物の廃棄請求の可否
(3) 被告らによる共同不法行為の成否
(4) 損害額
(5) 反訴請求の成否
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(被告らに対する本件経文原本返還請求の成否)
(原告の主張)
(1) 原告は、本件経文原本@ないしEの所有権を有している。
(2)ア 被告Bによる本件経文原本@ないしBの占有
 争点(2)イにおいて主張するとおり、被告Bは、原告の信者を含む多数の者に対し、原告の祈願を模倣した祈願を執り行っており、その中で、平成23年1月から9月頃にかけて、本件経文@ないしBを読誦したことが判明している。したがって、被告Bが、本件経文@ないしBの原本を占有し、又はその複製物を所有していることは明らかである。
イ 被告Aによる本件経文原本CないしEの占有
 争点(2)ウにおいて主張するとおり、被告Aは、平成19年1月から2月頃、原告の信者に対し、本件経文Cの複製物を交付し、さらに、心検の事務所において、本件経文D及びEを唱和していたことが判明している。したがって、被告Aが、本件経文CないしEの原本を占有し、又はその複製物を所有していることは明らかである。
(3) 被告らが本件経文原本を占有しているのか、その複製物のみを所有しているのかは、原告には不明であるが、原告は、本件経文の重要性に鑑み、被告B及び被告Aが、上記(2)ア及びイのとおり、本件経文の原本を占有しているものとして、本件経文原本の返還を請求するものである。
(被告B及びAの主張)
 原告の主張は否認する。被告B又は被告Aは、本件経文原本を所持したことはない。
2 争点(2)ア(本件経文の著作物性)
(原告の主張)
(1) 本件経文の内容は甲19号証のとおりであるところ、本件経文は、原告代表役員が創作したものであり、「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」(著作権法10条1項1号)の典型例の一つである論文・作文ないし詩歌に該当又は類するものであって、その内容から明らかなとおり、原告代表役員の思想又は感情を創作的に表現したものであるから、著作物性を有する。
(2) 甲19号証は、本件経文を読み上げた音声を収録した録音テープであるが、上記録音テープは、本件経文を、その内容を十分に認識することが可能な速度で読んだ音声を収録したものである。加えて、原告は、民訴規則149条所定の内容説明文書として、本件経文の出だし部分・終了部分の内容や、その収録位置等を記載した説明文書を提出しているから、甲19号証の取り調べに民訴規則に反する点はない。
(被告らの主張)
(1) 原告の主張は争う。原告が著作権を主張する本件経文の内容は不明であるから、その著作物性の有無を評価することもできない。
(2) 原告は、本件経文の読誦を録音したものであるとして、甲19号証を提出する。しかし、上記テープに録音された経文が、本件経文原本を読誦したものであると判断できる根拠は皆無である。また、甲19号証については、被告らの求めにもかかわらず、「当該録音テープの内容を説明した書面」(民訴規則149条1項)が提出されていないから、甲19号証は適切に取り調べられたものではない。
3 争点(2)イ(被告Bに対する本件経文@ないしBの口述差止請求及び本件経文@ないしBの複製物の廃棄請求の可否)
(原告の主張)
(1) 被告Bは、原告の信者を含む不特定多数人に対し、平成23年1月から同年9月頃にかけて、「カウンセリング」と称した霊的指導及び原告の行う祈願を模倣した本件経文の読誦行為を有償で多数回行った。具体的には、少なくとも平成23年1月には本件経文@及びAの、同年5月頃及び同年9月16日に本件経文@及びBの読誦を行ったことが判明している。
(2) 被告Bによる上記読誦が「公に」なされたものであること
ア 「公に」(著作権法24条)とは、当該行為が、不特定又は多数人に対し直接見せ又は聞かせることを目的として行われることを意味するところ、「不特定」とは、人数が特定しない可能性をいい、仮に現在は特定されていても、任意の条件の下に人数が増減する可能性があればこれを充足するとされる。また、「公に」が口述権侵害の要件とされた目的は、著作物の種類及び利用態様に応じて排他的権利が及ぶ著作物の利用範囲を適切に画することにあるから、「公に」を充足するか否かは、当該行為が私的領域内でなされたものであるか否かが重要な判断基準となるというべきである。
イ これを本件についてみると、本件経文の読誦は、特に資格制限等のない心検の受講生等を対象として、定期的かつ継続的に行われたものであり、かつ、その場に複数人が在席することがほとんどであったというのであるから(甲12、13)、不特定の者に対しなされたものであることが明らかである。また、本件経文の上記読誦は、祈願料に相当する高額の金銭を受領して有償で行われたものであるから、私的領域内の行為と評価できるものでもない。なお、上記金銭が、祈願模倣行為の対価として受領されたものであることは、被告Bが、原告信者に対し、原告における奉納目安額30万円の祈願を5万円で執り行ったことを自慢するなどしていることからも明らかである。
ウ したがって、被告Bの本件経文の読誦は「公に」なされたものに当たり、口述権侵害を構成する。
(3) 本件経文@ないしBの使用は、原告の最も重要な宗教行為の一つであり、原告の正式な祈願に似せただけの独自の祈願を執り行う行為は、原告に対する重大な背信行為・業務妨害行為である。
 被告Bは、祈願行為を平然と行い、原告による度重なる警告を一切無視しているのであるから、被告Bによる本件経文@ないしBの口述行為は直ちに差し止められる必要がある。
(4) 被告Bによって口述された本件経文@ないしBの複製物は112条2項所定の「専ら侵害の行為に供された器具」に該当するから、著作権侵害停止のためにすべて廃棄されるべきものである。
 本件訴訟の審理において、被告らが原告の信者ではなくなった後である平成25年2月頃又は同年4月頃まで、本件法具等又は本件袈裟を不法に占有していたことが明らかになったのであるから、本件経文@ないしBを廃棄したという被告Bの供述は到底信用できるものではない。
(被告Bの主張)
(1) 原告の主張は、事実については否認し、法的主張は争う。
(2) 被告Bは、心検の受講者に対し、有償で心理カウンセリングを行ったことはあるが、原告の宗教儀式又はその模倣行為を行ったことはなく、「祈願料」と評価すべき金員を受領したこともない。
 なお、被告Bは、上記カウンセリングとは無関係に、自宅において、知人らとともに、祈りをささげる等の宗教活動を行うことがあったが、これは、被告Bが信仰心に基づき個人的に行っていた信仰活動であり、その参加者から対価を得たことは一切ない。したがって、上記行為は「公に」なされたものではない。
 また、被告Bは、原告を除名された後、原告の宗教行為を行ったことはないのであって、今後、本件経文を読誦するおそれも存在しない。
4 争点(2)ウ(被告Aに対する本件経文CないしEの複製・頒布の差止請求及び本件経文CないしEの複製物の廃棄請求の可否)
(原告の主張)
(1) 被告Aは、原告の許可なく本件経文CないしEを多数複製した上で、平成19年1月から2月頃、本件経文Cを原告の信者に配布し、さらに、本件経文D及びEの複製物を用いて、これを複数人で唱和するなど、本件経文CないしEの複製物を不特定多数の者に配布した。
(2) 本件経文を上記のとおり複製する行為は、本件経文に係る原告の複製権を侵害する。また、本件経文の複製物を上記のとおり配布する行為は、著作権(複製権)を侵害する行為によって作成された物を、情を知って頒布する行為であるから、原告の著作権(複製権)を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項2号)。
(3) 祈願経文の使用は、原告の最も重要な宗教行為の一つであり、本件経文CないしEを複製して不特定多数の者に配布する行為は、原告に対する重大な背信行為・業務妨害行為である。
 被告Aは、これらの行為を平然と行っているのであるから、被告Aによる本件経文CないしEの無断複製・頒布行為は直ちに差し止められる必要がある。
(4) 被告Aによって作成された本件経文CないしEの複製物は著作権法112条2項所定の「侵害の行為によって作成された物」であり、著作権侵害停止のためにすべて廃棄されるべきものである。
 本件訴訟の審理において、被告らが原告の信者ではなくなった後である平成25年2月頃又は同年4月頃まで、本件法具等又は本件袈裟を不法に占有していたことが明らかになったのであるから、本件経文CないしEを廃棄したという被告Aの供述は到底信用できるものではない。
(被告Aの主張)
(1) 原告の主張は、事実については否認し、法的主張は争う。
(2) 被告Aは、本件経文CないしEを複製・頒布したことはない。また、被告Aは、原告から除名処分を受けた後、原告の経文をすべて廃棄しているから、本件経文CないしEを複製し、又はその複製物を頒布するおそれも存在しない。
5 争点(3)(被告らによる共同不法行為の成否)
(原告の主張)
(1) 被告ら及びEは、共謀の上、原告の信者等を対象として、本件法具等を使用し、本件経文を読誦するという「祈願模倣行為」を執り行うとともに、上記祈願模倣行為が、原告の許可の下でなされたものである旨の発言を多数回にわたり行った。
(2) 上記行為の不法行為該当性
ア 宗教法人としての本質(宗教法人としての無形の利益)の侵害
(ア) 宗教法人にとって、その教義を広めて儀式行事を行うことはその中核となるべき行為であり、憲法及び宗教法人法1条2項において、その行為を行うことは最大限保護されている。そして、原告における祈願は、原告において最も重要な儀式行事の一つであり、その中で用いられる本件法具等及び本件経文は、原告の宗教行為の中核を構成するものであるとともに、本件経文は原告の最も重要な教義の一つをなすものである。
(イ) 被告らは、原告の元職員又は信者として、上記事情を十分に知りながら、上記(1)のとおり、あえて、違法に入手した本件法具等及び本件経文を用いて祈願模倣行為を行い、その対価として多額の金員を受領しているのであり、その違法性は極めて重大である。また、上記行為は、教義を広宣流布して儀礼行事を行うという原告の宗教法人としての本質(宗教法人法2条)を冒涜し、踏みにじる行為であって、その損害は極めて重篤である。
(ウ) 以上のとおり、被告らの行為が、違法性において重大であり、かつ、原告の損害において重篤であることに照らせば、原告の無形損害は、法律上も宗教法人独自の無形利益として当然に保護されるべきであり、被告らの行為は原告に対する不法行為を構成する。
イ 名誉・信用棄損
(ア) 原告は、そのホームページにおいて、「支部・精舎には、悩みを解決し、理想実現を叶えるための多種多様な祈願があります。祈願は、仏神への祈りであるとともに、地上から天上界に向けて立てる精進の誓いでもあります。祈願によって自らの意思を固め、天上界と一体となります。祈願は、修業を積んだ導師のもと、礼拝室や祈願室において厳かにとり行われます。」と記載しているとおり(甲7)、祈願が非常に重要な宗教行為であり、その施設内でのみ執り行われることを対外的に表明している。また、本件法具等及び本件経文は、原告にとって重要な宗教的意義を有するものであり、原告の施設内からの無断持ち出し(本件経文@については、御守袋外への持ち出し及び書写・複製)が厳に禁じられているものである。
(イ) にもかかわらず、被告Bは、上記(1)のとおり、原告の信者らに対し、「いいんですよ、私は(祈願をする)許可を(原告から)受けているから(原告の祈願をすることが)できる」などと申し向け、さらに、本件法具等につき、「本部から下賜された」などと述べた上、本件法具等を用い、「祈願料の割引」をするなどと称して、原告における奉納目安額よりも安価な金額を得た上、本件経文を読誦して祈願模倣行為を行っている。なお、Eが「職員が祈願をやっても効かないから、効果が出る人がやる方がいいんだ」などと申し述べていることからすれば、被告らが、上記同旨の発言を多数回行ったことが合理的に推認できる。
(ウ) 被告らの上記行為及び発言のうち、とりわけ「祈願の安価提供」という事態は、原告信者のみならず、一般人をして、原告が執り行う祈願の効果及び祈願の尊さに対する信頼を根本的に破壊し、原告に対する信頼を著しく揺るがすものであって、原告の社会的評価を著しく低下させる行為であることに疑いの余地はない。
 加えて、上記祈願模倣行為は、本物の本件法具等を用いてなされたものであり、上記法具等は、外観においても、原告が使用している法具等と同等の品質を保持しているものであったところ、このような法具等を占有し、これを用いて本件経文を読誦する祈願模倣行為を行うこと自体、あたかも原告が被告Bらに特別な許可等を与えているかのごとき外観を作出するものであり、原告の信用を著しく毀損するものに当たる。
 さらに、被告らの上記発言は、原告が、上記イ(ア)でみた対外的意思表明とは裏腹に、私人に対し本件法具等を特別に下賜し、その自宅内において、割引された祈願を不特定多数人に執り行うことを許容しているという虚偽の発言であり、この点でも原告の社会的評価を著しく低下させるものに当たる。
(エ) したがって、被告らの行為は、原告の名誉又は信用を毀損するものとして不法行為を構成する。
ウ 著作権侵害
 被告Bによる本件経文の読誦が、原告の口述権を侵害するものに当たることは、争点(2)イに関する原告の主張のとおりである。
エ 本件法具等の不法占有
 被告らは、平成21年初め頃から平成25年2月頃(本件法具等については同月頃、本件袈裟については同年4月10日頃)までの間、本件法具等を不法に占有していたことを自認しているところ、これは、本件法具等に係る原告の所有権を侵害するものに当たる。
(3) 上記行為が被告ら及びEの共同不法行為を構成すること
ア 被告A及びEについて
 被告A及びEは、被告Bが自宅において原告の法具等を用いて祈願模倣行為を行っていることを認識した上で、心検の「課外授業」として、その受講生らに対し、被告B宅に行って有料のカウンセリングを受けるよう勧めているのであるから、前記(1)の祈願模倣行為を共謀して行い、又は幇助したものであることが明らかである。
イ 被告Cについて
 被告Cは、被告Bが自宅で祈願模倣行為を行う際に常に側に控え、会話を記録し、本件法具等を準備し、さらに、時には一緒に祈願経文の読み上げを行うなどしていた上、平成23年2月に被告B宅を訪問した原告信者から、本件法具等について問われて、「黙ってて。」と述べるなど、積極的に隠ぺい工作を図るなどしているのであるから、被告Cが、上記(2)アないしエの不法行為に当たり、被告Bを積極的に幇助していたことは明らかである。
ウ したがって、上記(2)アないしエの行為につき、被告らは、共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
(1) 原告の主張は、事実については否認し、法的主張は争う。
(2)ア 被告A及びEが、「心検」の活動の中で、被告Bのカウンセリングを受けることが適切であると考えた者に対し被告Bを紹介したことはあるが、被告Bは、上記の者に対しカウンセリングを行ったのみであり、原告に由来する宗教行為等は一切行っていない。また、争点(2)イにおいて主張したとおり、被告Bが、自宅において、知人らとともに祈りを捧げたことはあるが、これは個人的な信仰心に基づく行動であり、これにより何らかの対価を得たことはない。
 被告Cは、被告Bが行うカウンセリングの際に、被告Bが聞き取った事実をメモして記録していたことはあるが、原告が主張するような役割を果たした事実はない。
イ したがって、被告らには、原告が不法行為に当たると主張する行為自体が存在しない。
(3) また、仮に、原告の主張する事実関係がすべて真実であったとしても、法人に名誉毀損以外に無形損害に基づく損害賠償請求権が認められる場合があるとの主張が原告独自の見解にすぎず、失当であること及び原告の主張するような事実関係により、原告の社会的評価が低下したなどといい得ないことからすれば、被告らに不法行為は成立しない。
6 争点(4)(損害額)
(原告の主張)
(1) 無形損害
ア 宗教法人は自然人ではないから、法律上、独自の精神作用を観念することができず、端的な慰謝料請求は困難であるかもしれない。しかし、民法710条が損害の内容を限定していない以上、すべての無形損害は当然に法律上の保護の対象とされ得るものであり、法律上保護されるべき利益が侵害された場合に、当該侵害による損害を金銭評価の対象とすることも当然に可能である。
イ 争点(3)に関する原告の主張のとおり、被告らの行為により、原告の法律上保護されるべき利益である宗教法人としての無形の利益が侵害され、かつ、名誉・信用が毀損されているのであるから、上記損害は、次のとおり、金銭評価の対象となるべきである。
(ア) 名誉・信用棄損による損害
 現在の通説的な見解に従ったとしても、法人の名誉棄損による損害の金銭評価は当然に可能であるところ、被告らの行為が原告の名誉を棄損するものに当たることは争点(3)で述べたとおりである。また、信用棄損による損害も、無形損害として、当然に損害賠償の対象となるというべきである。
(イ) 名誉・信用棄損以外の損害
 仮に、被告らの行為によって原告に生じた無形損害のうち、名誉・信用棄損以外の部分についての金銭評価が仮に困難であったとしても、本件において、被告らの行為の違法性の重大性及び原告の損害が宗教法人の中核部分に生じた重篤なものであることが明らかである以上、民訴法248条により、憲法20条及び宗教法人法1条2項等に基づき、積極的な損害額の認定がなされるべきである。
(2) 著作権侵害による有形損害
ア 被告らは、祈願模倣行為の対価として多額の金銭を授受しているところ、著作権法114条2項により、被告らが得た上記利益は原告の損害と推定される。
イ この点、被告らは、原告が非営利団体である宗教法人として収益事業を行っていないはずであるから、著作権114条2項適用の前提を欠くと主張する。
 しかし、法律上の事実推定規定である同条の推定を覆滅させる事実の主張立証責任は被告らにあるから、被告らが上記推定を覆滅させるためには、原告に損害が発生しないことを主張立証しなければならない。
 しかるに、原告は、宗教行為の一環として信者に対して祈願や研修を実施した際に信者から布施を受領し、これを収入とすることで宗教法人としての運営が成り立っているのであるから、上記収入が得られなかったことが法律上の損害であることは当然である。そして、原告において、祈願には、各々目安となる布施の金額が定められており、通常、祈願に際し上記目安金額以上の奉納がされているのであるから、被告らの口述権侵害により、上記奉納目安金額相当額の損害が発生していることは明らかである。
 したがって、本件において、著作権法114条2項は当然に適用されるべきである。
(3) 以上の原告の無形損害(上記(1))及び有形損害(上記(2))のうち、無形損害のみでも3000万円を下らない。
(4) 本件法具等の不法占有による損害
ア 被告らによる本件法具等の不法占有により、原告に、本件法具等の使用利益相当額の損害が発生していることが明らかであるところ、上記使用利益を金銭評価することは極めて困難であるが、あえてこれを評価するとすれば、次のとおりとなる。
イ 原告は、法具を使用して毎月数十件から数百件程度の祈願を行っているから、本件法具等を使用して行われるべき祈願の回数は、極めて少なく見積もったとしても、月20件を下回ることはない。また、原告において、祈願を行うに当たり、奉納されるべき布施の金額の目安が定められており、祈願を受けた者により、上記目安金額以上の金銭が奉納されている現状にある。
 本件法具等を使用して、奉納目安額3万円の祈願を月20件行ったとすれば、奉納額は被告らによる不法占有期間4年間で2880万円(3万円×20件×48か月)に上る。上記奉納額のうち、本件法具等による寄与度を便宜的に少なく見積もって1割と算定した場合、使用利益度相当額は288万円となる。
 したがって、上記金額が、原告に生じた本件法具等の使用利益相当額の損害に当たる。
ウ さらに、法具等の製作に要した実費相当額が原告の損害であることは明らかであるところ、原告において、重要な宗教的意義を有する本件法具等の製造原価を開示することはできないが、仮にその製造原価を合計15万円(別紙法具等目録記載(1)及び(2)の法具につき各7万円、本件袈裟につき1万円)と見積もった上で、その使用期間が10年であるとすれば、原告には、1年間で1万5000円の損害が生じていることになる。
 被告らによる不法占有期間は4年以上にわたるから、上記不法占有により原告に生じた損害は、6万円(1万5000円×4=6万円)以上と評価されるべきことになる。
(5) 原告は、上記(1)ないし(4)の損害のうち、3000万円を請求する。
(6) 弁護士費用相当額
ア 原告は、本件訴訟を提起するに当たり、弁護士を依頼せざるを得なかったから、上記弁護士費用のうち、被告らの行為と相当因果関係を有する費用は、300万円である。
イ なお、被告B及び被告Cは、本件法具等の不法占有を認めているから、同被告らに、原告の所有権回復のための弁護士費用相当額の賠償責任が発生していることは明らかである。
ウ 加えて、被告らは、本訴提起前の原告からの再三にわたる申し入れ(甲3ないし6)を無視し、原告による本訴提起を余儀なくさせた上、本訴提起後も、不合理かつ不誠実にその主張を変遷させ、本件法具等に関し、明らかに虚偽の主張を展開し、さらには、不当訴訟の典型である本件反訴を提起し、本件訴訟を徒に複雑化させ、本件の速やかな解決を阻害している。上記事情は、弁護士費用相当額の増額理由を構成するというべきである。
(被告らの主張)
(1) 原告の主張は争う。
(2) 著作権侵害による損害額について
 原告は、著作権(口述権)侵害に基づく損害につき、著作権法114条2項の適用を主張する。しかし、同項は、著作権侵害行為により権利者の売上げが減少するなどした場合に、これらと侵害行為との因果関係の立証が著しく困難であることから、擬制的に、侵害者が受けている利益額を権利者の損害額と推定するものである。
 しかるに、原告は、非営利団体である宗教法人として、原則として収益事業を行っていないはずであり、仮に被告らの侵害行為があったとしても、原告に売上げの減少等は観念し得ないから、著作権法114条2項の適用の前提を欠く。
 仮に、原告が本件経文に関する事業を行い、収益を得ているのであるとすれば、原告においてその事業内容を具体的に明らかにし、当該事業の対価についての会計処理を法人税申告書等の客観的資料に基づき明らかにした上で、被告らによる侵害行為前後の原告の売上げの変化等を立証すべきである。
7 争点(5)(反訴請求の成否)
(被告らの主張)
(1) 本訴請求は、被告らに対し、本件経文原本の返還を請求するとともに、本件経文の使用を禁じ、かつ、損害賠償を請求するものである。
 しかし、そもそも被告らは、原告の教義等に疑問をもち、原告から除名処分を受けたものであって、原告を除名された後は、原告の法具を使用し、または本件経文を読誦するなどの宗教活動をしたことはない。また、被告らが保管していた法具は既にEに返還されており、被告らの手元には残っていない。
 したがって、被告らが、今後、本件経文を読誦するなどの宗教活動をすることもあり得ないから、本訴請求は、本来であればおよそ法律問題となり得ない事実について、虚実を交えながら不当な主張を行うものというほかない。
(2) にもかかわらず原告が本訴請求を提起したのは、被告らが、原告のためを思い、原告に教団運営の改善等を謹言したことに対する報復のためにほかならないから、本訴請求の提起は、被告らに対する不法行為を構成する。
(3) 原告が本訴請求を提起したことにより、被告らは応訴を強いられ、耐えがたい経済的負担及び精神的苦痛を被った。これらの損害は、被告ら各自につき1000万円を下らない。
(原告の主張)
(1) 被告らの主張は争う。
(2) 原告の請求は多数の目撃証言等に立脚するものである上、被告らが本訴提起前の原告の再三にわたる申入れ(甲3ないし6)に対し不誠実な対応に終始したことからやむを得ず本訴提起に至ったものであるから、本訴提起に不当訴訟の要素など全く存在しない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告らに対する本件経文原本返還請求の成否)
(1) 被告Bに対する本件経文原本@ないしBの返還請求の成否
ア 被告Bは、その自宅において本件経文@ないしBを読み上げたことがあることを認める供述をしているから(乙4〔5頁〕、7〔2〜4頁〕、被告B〔15頁、22〜24頁〕)、同被告は、本件経文@ないしBが記載された物を保有していたものと認められる。
イ しかし、被告Bは、本件経文@ないしBが記載された物を保有するに至った経緯について、本件経文@については原告から購入した御守袋に入っていたもの、本件経文Aについては知人の原告信者から、その記憶している内容を書写したものとして受け取ったもの、本件経文Bについては原告の幹部職員からメールで受領したものであると説明しているところ(乙7〔2〜4頁〕、被告B〔22〜24頁〕)、原告において、本件経文@の祈願を受けた者に対し、本件経文@を印字した紙を入れた御守袋を授与することがあり(証人F〔3頁〕)、かつ、本件経文Aの読誦を受けることが可能であった(争いがない。)とされることや、本件経文Bの送付をメールで受けた旨の被告Bの主張に対し、原告が積極的に否定する主張及び証拠を提出していないことに照らし、被告Bの上記説明が信用性を欠くものとはいい難い。
ウ これに加えて、原告が、原告における本件経文原本@ないしBの具体的管理状況や、所在不明となっている本件経文原本@ないしBの有無等を主張立証するものではないことも考慮すれば、被告Bが、原告の所有に係る本件経文原本@ないしBを保有していたと認めるに足りない。
エ したがって、被告Bに対する本件経文原本@ないしBの返還請求は認められない。
(2) 被告Aに対する本件経文原本CないしEの返還請求の成否
ア 証拠(甲8、9、11、17、乙6、証人E、被告A)によれば、被告Aは、原告の職員であった当時、原告から交付された祈願経文のファイルを、原告退職後も保有しており、その中には本件経文C及びEが含まれていたことが認められる。また、被告Aは、本件経文Dを読み上げたことがあることを認める供述をしているから(被告A〔24頁〕)、本件経文Dが記載された物を保有していたものと認められる。
イ しかし、上記祈願経文のうち、被告Aが原告の職員であった当時に入手したとされるものについては、上記のとおり原告から交付されて保有するに至ったものであると認められる上、被告Aは、原告退職時に返却を申し出たにもかかわらず、返却は不要である旨告げられたと供述しているのであって(被告A〔5頁〕)、被告Aが、原告退職後、10年以上にわたり、原告から返還等を求められることなく上記祈願経文を保有していたものとされること(甲18)にも照らし、上記祈願経文の所有権が原告に留保されていたものとは直ちに認め難い。また、本件経文Dについては、Eが保有していた本件経文原本Dの写しを更にコピーしたものであるとされるから(証人E〔9頁〕、被告A〔24頁〕)、原告が所有権を有するものであると認めるに足りない。
ウ(ア) 加えて、被告Aは、原告の信者ではなくなった際に上記祈願経文をいずれも廃棄した旨供述しているところ(被告A〔25頁〕)、被告Aが平成23年4月頃に原告を除名されていること(前記前提事実(1)ウ)、上記除名後、被告Aへの取材により、週刊誌に原告代表役員の女性問題等を告発する内容の記事が掲載されるに至っていること(乙3)、原告の関連会社から、原告代表者を著者として、被告Aを批判する内容の書籍が発行されていること(乙2)、原告が、上記週刊誌記事が原告の名誉を毀損するものである等と主張し、被告Aほか4名に対し損害賠償等を請求する訴訟を提起していること(甲29)等に照らせば、被告Aが原告と深刻な対立関係にあることや、被告Aが原告への信仰心を既に喪失していることがうかがわれるのであって、このような状態にある被告Aが、原告の宗教的儀式に当たり用いるものであり、原告において重要な宗教的意義をもつとされる祈願経文(証人F〔4頁〕)をすべて廃棄した旨の上記供述は自然なものであり、信用性を有するものというべきである。
(イ) この点に関し、原告は、被告らが、原告を除名になった後も本件法具等を廃棄せず、保管し続けていたにもかかわらず、祈願経文のみを廃棄したというのは不自然であり、信用できないと主張する。
 しかし、争点(3)に関する当裁判所の判断でみるとおり、本件法具等は、被告B及び被告CがEから渡され、保管していたものと認められるにとどまり、被告Aが自ら本件法具等を保管し、または上記保管を幇助していたものと認めるに足りないから、原告の上記主張はその前提を欠くものである。
 また、上記のとおり、本件法具等は、被告B及び被告Cが、Eから渡されて保管していたものであったというのであるから、被告らが各個人の判断で廃棄し難いものであったという説明は不合理なものとはいい難い上、本件法具等は、その大きさや材質からみて、廃棄の容易さという点において祈願経文とは大きく異なるものであるから、本件法具等を保管する一方、祈願経文は廃棄することが不自然であり信用性を欠くものということはできない。
エ 以上によれば、被告Aが保有していた本件経文CないしEの記載物が原告の所有に係るものであると認めるに足りず、かつ、被告Aが上記経文を現在も保有していることについても認めるに足りないから、被告Aに対する本件経文原本CないしEの返還請求は認められない。
2 争点(2)ア(本件経文の著作物性)
(1) 証拠(甲18、証人F〔4頁〕)によれば、本件経文は、原告代表役員が天上界により降ろされた聖なる祈りの言葉として創作したものであり、原告における宗教的儀式の中で読誦して用いられるものであるとされるところ、甲19号証(本件経文を読み上げた音声を収録した録音テープ)によれば、本件経文の具体的内容は、次のとおりであるとされる。
ア 本件経文@は、地球人を誘拐する宇宙人の悪行を封印し、主に帰依する者の守護を祈願する旨の内容のものであり、「地球人をさらい」で始まり、その途中に「地球に守護神、エル・カンターレあり。その魂の兄弟、リエント・アール・クラウドこそ、」との部分や、「われらエル・カンターレの弟子一同、地球を愛と慈悲の光の星とすべく、日々努力せる者なり。」との部分を含み、「ご指導、まことにありがとうございました。」で終わるものである。
イ 本件経文Aは、主を信ずる者につき罪が許され救われる旨を述べ、主を信ずることを呼びかけ誓うことを内容とするものであり、「幸いなるかな」で始まり、その途中に「ただひたすらに主を信じなさい。ただひたすらに主の救いを信じ、主の全能なることを祝福しなさい。」との部分や、「主エル・カンターレと共にある者に、ヒーリング・パワーが臨みますように。」との部分を含み、「魂の底より、お誓い申し上げます。」で終わるものである。
ウ 本件経文Bは、人々に害をもたらす悪霊を退治し、封印する旨を内容とするものであり、「目に見えぬ世界より」で始まり、その途中に「善なる魂を持ちし人々を、惑いと苦しみの闇に落とさんとする悪霊よ。」との部分や、「われ、神仏にかわりて、汝らを退治する。」との部分を含み、「まことにありがとうございました。」で終わるものである。
エ 本件経文Cは、「経営」の概念や、これに必要となる資質等について述べ、そのような資質が与えられるよう祈願することなどを内容とするものであり、「主、エル・カンターレよ。」で始まり、その途中に「主よ、吾に不退転の決意を授けたまえ。吾に勤勉なる精神と不屈の闘志を与えたまえ。」との部分や、「事業の成否は、与えられた天分と、経営者一己の精進にかかっております。」との部分を含み、「ありがとうございました。」で終わるものである。
オ 本件経文Dは、経営に当たっての心構えや決意等を、主に対し呼びかける形で述べることを内容とするものであり、「主よ」で始まり、その途中に「私どもは、現在に対しても、未来に対しても、自信と希望に満ちあふれています。」との部分や、「サービスの一つ一つに、善なる魂を込めて、今日も千客万来」との部分を含み、「まことにありがとうございました。」で終わるものである。
カ 本件経文Eは、事業を成功させるために必要となる資質や行動等について述べ、事業繁栄を目指すことを呼びかけることなどを内容とするものであり、「大宇宙は」で始まり、その途中に「人、物、金、情報、空間、時間のすべての経営資源を活かし切って」との部分や、「仕事の厳しさと包み込む愛を忘れずに、今日も夢を語り、一日分手堅く強く前進せよ。」との部分を含み、「成功も無限である。」で終わるものである。
(2) この点に関し、被告らは、甲19号証が本件経文を読み上げたものであると判断できる根拠はなく、本件経文が上記アないしカのとおりであるとは認められない旨主張する。しかし、原告における広報局部長が、甲19号証は本件経文を読み上げた音声を収録したものに間違いない旨を陳述していることや(甲18〔4頁〕)、被告らが、甲19号証において読み上げられている内容と、被告らにおいて把握している本件経文の内容の食い違い等を具体的に指摘するものではないことに照らし、甲19号証は本件経文を読み上げたものであると認められる。
 また、被告らは、甲19号証につき、被告らの求めがあるにもかかわらず、「当該録音テープ等の内容を説明した書面」(民訴規則149条1項)としての反訳書面が提出されていない旨も主張する。しかし、同項所定の書面は反訳書面に限られるものではなく、必要に応じた範囲及び程度においてその内容を説明するものであれば足りると解されるところ、甲19号証において収録されている音声が明瞭なものであることや、原告の提出する「甲19号証説明書」・「甲19号証説明書(その2)」に、本件経文を他と区別できる程度に、甲19号証の収録内容が記載されていることに照らし、上記「甲19号証説明書」及び「甲19号証説明書(その2)」は、民訴規則149条1項における「当該録音テープの内容を説明した書面」に当たるものであると認められ、甲19号証の取り調べに問題となるべき点はない。
(3) 以上によれば、本件経文の内容は前記(1)アないしカのとおりであると認められるところ、本件経文の上記内容に照らし、本件経文には、原告代表役員の個性が表現されているものといえるのであって、その思想又は感情を言語によって創作的に表現したものであると認められる。
 したがって、本件経文は、言語の著作物(著作権法10条1項1号)として著作物性を有する。
(4) 原告は、原告代表役員から本件経文の著作権の譲渡を受けたものと認められるから(甲18〔4頁〕)、原告は、本件経文に係る著作権(口述権、複製権)を有する。
3 争点(2)イ(被告Bに対する本件経文@ないしBの口述差止請求及び本件経文@ないしBの複製物の廃棄請求の可否)
(1) 証拠(甲8ないし10、12ないし16、乙1、4、5、7、8、丙2、証人E、被告B、被告A、被告C)によれば、上記争点に関し、次の事実が認められる。
ア 前記前提事実(2)のとおり、Eは、平成22年2月、一般社団法人カウンセラー検定協会(平成23年12月に「一般社団法人心検」に名称変更)を設立し、一般に受講生を募って心理学等を内容とする講座を開講するなどしていた。
イ Eは、平成22年頃から平成23年12月頃までにかけて、心検の上記講座等受講者のうち、原告信者である者から受けた質問や相談が心理学の範ちゅうを超えると感じた際などに、心検の「課外授業」として被告Bのカウンセリングを受けるよう勧め、上記勧めを受けた者が被告Bの自宅を訪れることがあった。また、Eは、心検の受講者以外の者にも、被告Bを紹介したことがあった。
ウ 被告Bは、上記のとおり自宅を訪れた者に対し、1時間から2時間程度話を聞くなどした上で、初回の訪問については3万円、二回目以降の訪問については1万円の金員を受領していた。なお、被告Bは、上記金員のうち、初回分の20%(6000円)をEに紹介料として支払っていた。
エ 被告Bは、上記のとおり同被告の自宅を訪れた者の相談を聞く中で、被告Cの同席の下、本件経文@ないしBを読み上げることがあった。
オ 被告Bは、上記エのほかにも、本件経文@ないしBを一人で又は被告Cとともに読み上げることがあった。
(2) 以上の事実を前提に、被告Bによる本件経文@ないしBの著作権(口述権)侵害の成否について検討する。
ア 著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有するところ(著作権法24条)、「公に」とは、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とすることをいい(同法22条)、「公衆」には、不特定の者のほか、特定かつ多数の者が含まれる(同法2条5項)。そして、当該著作物の利用が公衆に対するものであるか否かは、事前の人的結合関係の強弱に加え、著作物の種類・性質や利用態様等も考慮し、社会通念に従って判断するのが相当である。
イ そこで本件についてみると、被告Bが、「心検」の受講者等のうち、Eの勧めを受けて被告Bのもとを訪れた者の一部に対し、本件経文@ないしBを読み上げたことがあり(以下、本件経文@ないしBの読上げを「祈願」ということがある。)、また、本件経文@ないしBを一人で又は被告Cとともに読み上げたことがあることは前記(1)エ及びオでみたとおりであるところ、上記行為は、いずれも、言語の著作物である本件経文@ないしBを口頭で伝達するものとして、「口述」(著作権法2条1項18号)に該当する。
ウ しかし、上記イの口述のうち、後者(被告Bのみ又は被告Cと2人による読上げ)については、自宅内において、被告Bのみで又はその妻である被告Cと二人で行われたものであるから、上記口述が、公衆に直接聞かせることを目的として行われたものとは認められない。
 したがって、上記読上げが「公に」なされたものと認められない以上、上記読上げが、本件経文@ないしBに係る原告の口述権を侵害するものとは認められない。
エ 次に、上記イの口述のうち、前者(被告Bが、同被告のもとを訪れた者に対し、本件経文@ないしBを読み上げたこと)が、本件経文@ないしBを「公に」口述したものとして、口述権侵害を構成するか否かについて検討する。
(ア) 被告Bは、上記(1)エのとおり祈願を行った人数について、Eから紹介を受けた5名のみであると述べている。他方、Eは、被告Bのもとを訪れて相談を受けるよう勧め、相談者からEが相談料金を受け取り、そこから紹介料を差し引いて被告Bに渡した人数につき、「心検」受講者について5名であり、それ以外に相談者が被告Bに直接相談料を支払った者が1名であるかのようにも受け取れる証言をしている(証人E〔5頁、29頁〕)。しかし、いずれにせよ、祈願を受けた人数は5、6名にとどまる。
 原告は、この点について、被告Bが、多数の者を対象として本件経文の読み上げを行ったと主張し、原告信者らの陳述書(甲9、10、12ないし15)を提出する。しかし、上記陳述書の作成者のうち、自らが被告Bの祈願を受けたとする者は降霊会等への参加者を含めて4名である(甲12ないし15)。
 以上によれば、被告Bが祈願を行った人数は5、6名にとどまるとみるべきであって、被告Bが多数人に対して祈願を行い、本件経文@ないしBを読み上げたものと認めることはできない。
(イ) この点に関し、原告は、上記読上げの時点における同席者が特定の少数人であったとしても、任意の条件の下に人数が増減する可能性があれば、不特定の者を対象にするものとして「公に」を充足するし、「公に」の要件が、排他的権利が及ぶ著作物の利用範囲を適切に画することにあるところから、当該行為が有償でなされたものであることは、私的領域の範囲を超えるものとして、「公に」の充足性についての重要な判断基準となると主張する。
 しかし、上記陳述書において、被告Bの祈願を受けたとされる者は、いずれもEから心検の「課外授業」等として被告Bの紹介を受けた者か、被告Bの子の友人等、被告Bと個人的な関係のある者として記載されているのであって、被告Bが、このような範囲を超えた者に対し、本件経文の読み上げを行ったことを認めるに足りるものではない。そうすると、祈願の対象となった範囲の者は限定されているのであって、原告が主張するように任意の条件の下に人数が増減するような範囲の者ではないというべきである。
 したがって、この点についての原告の主張を採用することはできない。
 さらに、前記(1)ウのとおり、被告Bは、同被告のもとを訪れた者から金員を受け取っていたことが認められるが、Eによれば、上記金員は、相談料名目で支払われたものであり、祈願を行うか否かによってその金額が上下するものではないとされる上(証人E〔33〜34頁〕)、被告Bは、上記のとおり、実際に1時間から2時間程度、相談者の話を聞くなどしていたというのであるから、上記金員は、来訪者の話を聞き、相談に乗ることなどの対価として支払われたものとみるべきであり、これを祈願の対価と評価することはできないものというべきである。
 そして、原告信者らの陳述書をみても、上記の相談料名目の金員とは別に、祈願の対価として金銭を支払った旨の陳述をするものはみられず、かえって、祈願の対価を支払ったことはない旨記載したものがみられるのであるから(甲13)、被告Bが、上記金員とは別に、祈願を受けた者からその対価を受領していたものとは認められない。なお、Gの陳述書(甲10)中には、被告Bが「30万円の、精舎でしかやれない経営系の祈願を5万円でやってあげると言うと、喜んでどんどん受ける人たちがいる」旨の被告Bの発言を聞いた旨の部分があるが、被告Bが対価を受領して本件経文@ないしBの祈願を行っていたことを具体的に裏付けるに足りるものではない。
 したがって、対価の受領を理由として「不特定」であるとする原告の主張も採用することはできない。
(ウ) 原告は、本件経文@ないしBの読み上げは、定期的かつ継続的に行われたものであるから、不特定の者に対してされたものであるとも主張する。
 被告Bは、本件経文@ないしBの読み上げを行った回数に関し、本件経文@につき10回程度、本件経文Aにつき1回、本件経文Bにつき5回程度にとどまるものと供述しているところ(被告B〔12頁、22〜24頁〕)、上記供述は、被告Cの供述(被告C〔15頁〕)と概ね一致するものである。そして、前記原告が提出する陳述書(甲9、10、12ないし15)によっても、被告Bの供述する上記回数が不自然なものとは認められない。したがって、本件経文@ないしBの読み上げ回数は被告Bの供述のとおりであると認められる。
 以上の事実に基づいて検討するに、被告Bが、上記カウンセリングを行うに際し、必ず本件経文の読み上げを行っていたものとは認められず、被告Bが必要であると感じた際に本件経文を読み上げたものと認められるにとどまることや(被告B)、その延べ回数が、上記のとおり、本件経文のうち、多いものでも10回程度にとどまるものであることを考慮すれば、上記読み上げが、定期的かつ継続的になされたものと評価することはできない。
 したがって、この点についての原告の主張も採用することができない。
 このほかに、被告Bが「不特定」の者に対して本件経文@ないしBを読み上げたことを認めるに足りる証拠はない。
(エ) したがって、被告Bが、同被告のもとを訪れた者に対し、本件経文@ないしBを読み上げたことが、本件経文@ないしBを「公に」口述したものに当たるとは認められず、口述権侵害に当たるものとはいえない。
(3) 以上によれば、被告Bにつき、本件経文@ないしBの口述権侵害は成立しないから、被告Bに対する本件経文@ないしBの口述の差止請求及び専ら口述権侵害行為に供された器具としての本件経文@ないしBの複製物の廃棄請求はいずれも認められない。
4 争点(2)ウ(被告Aに対する本件経文CないしEの複製・頒布の差止請求及び本件経文CないしEの複製物の廃棄請求の可否)
(1) 証拠(甲8、9、11、17、乙1、6、証人E、被告A)によれば、@被告Aは、原告の職員であった当時、原告から交付された祈願経文のファイルを、原告退職後も返却することなく保有していたこと、AEも、知人である原告の職員に依頼するなどして相当数の祈願経文を入手し、保有していたこと、B被告Aが、平成19年1月から2月頃、その勤務していた会社の代表者に対し、上記ファイル中から本件経文Cのコピー1枚を作成し、交付したことがあること、C被告Aは、心検の事務所において、朝の祈りとして、Eとともに本件経文CないしEを読み上げたことがあり、上記読上げのために、本件経文CないしEのコピーを用意し、上記事務所に置いていたことが認められる。
(2)ア 上記(1)B及びCのとおり、被告Aは、本件経文CないしEを複製したことがあるものと認められる。なお、上記(1)Cのコピーについては、被告AとEのいずれが行ったものであるかは明確ではないが、被告AがEとともに上記読み上げを行っていることに照らし、両者は上記複製を共同して行ったものと認めることができる。
イ 他方、本件各証拠に照らしても、被告Aが、上記(1)Bのほかに、本件経文CないしEを他人に交付した事実を認めることはできない。したがって、被告Aが、本件経文CないしEの複製物を頒布(著作権法2条1項19号)すなわち公衆に譲渡したものとは認められないから、被告Aの行為が、著作権法113条1項2号に該当するものとは認められない。また、前記第4の1(2)ウでみたとおり、被告Aは、原告を除名になった後、原告への信仰心を喪失し、原告の祈願経文を全て廃棄したものと認められるのであるから、上記(1)の@、B、Cの行為があったからといって、被告Aが、今後、本件経文CないしEを複製するおそれがあるものとは認められないし、被告Aが廃棄の対象となる本件経文CないしEの複製物を所持しているものとも認められない。
(3) したがって、被告Aに対する本件経文CないしEの複製及び頒布の差止め並びに本件経文CないしEの複製物の廃棄はいずれも認められない。
5 争点(3)(被告らによる共同不法行為の成否)
(1) 証拠(甲8ないし16、20ないし24、28、乙4ないし9、丙1、2、証人E、被告B、被告A、被告C)によれば、被告Bは、平成20年末又は平成21年頃、Eから本件法具等を渡され、前記前提事実(3)オのとおり、Eに対し平成24年2月頃に本件法具を、同年4月頃に本件袈裟を受け渡すまでの間、自宅において祭壇に飾るなどして本件法具等を保管していたものであり、また、本件法具等は、Eが、原告において広報局長を務めていた頃に、原告に無断で持ち出したものであったことが認められる。
(2)ア 原告は、被告Bが上記のとおり保管していた本件法具等を用いて祈願を行ったものであると主張し、上記行為は、宗教法人としての原告の本質を冒涜する行為であり、原告の行う祈願の効果やその尊さに対する信頼を破壊し、原告に対する信頼を揺るがすものであると主張する。
 しかし、原告の宗教法人としての本質がどのような点にあるか、原告における祈願行為の位置付け、上記祈願行為を誰がどのような場で行うことが、原告の教義上適切であるのかなどという点は、専ら宗教活動の領域に属する事柄であって、法的判断になじむものとはいい難いものであるから、被告Bが本件法具等を用いて祈願を行ったものであるとしても、これにより、原告に法的保護を受け得る宗教法人としての利益が観念され、これが侵害されたものとは認められない。
イ また、原告は、被告Bが「本物」の法具である本件法具等を使用して原告の祈願を行った上、上記祈願を行うことにつき原告から許可を受けている旨の発言や、祈願料の割引を行う旨の発言を行ったことは、原告の社会的評価を低下させるものであり、その名誉又は信用を毀損するものに当たると主張する。
 しかし、争点(2)イに関する当裁判所の判断でみたとおり、被告Bが、本件経文の読み上げに当たり、対価を得ていたものと認められないことに照らせば、被告Bが、祈願料の割引を行う旨の発言を行ったこと自体、認められるものではない。
 また、仮に被告Bが祈願を行うことにつき原告から許可を受けている旨の発言をした事実が認められるとしても、争点(2)イに関する当裁判所の判断で認定した事実に照らせば、被告Bの上記発言の相手方は特定少数の者に限られるというべきであるから、原告の社会的評価を低下させるものに当たるとも解し難く、その信用を毀損するものとも認め難い。
ウ 被告Bによる本件経文@ないしBの読上げが、原告の口述権を侵害するものと認められないことは争点(2)イに関する当裁判所の判断のとおりである。
エ 小括
 したがって、原告の主張する不法行為のうち、宗教法人としての本質の侵害、名誉・信用毀損、口述権侵害を理由とする部分については、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
オ(ア) 上記(1)のとおり、被告Bは、平成20年末又は平成21年頃から平成25年2月ないし4月頃までの間、自宅において本件法具等を保管していたものであるところ、本件法具等は、Eが原告から無断で持ち出したものであったと認められるから、被告Bが本件法具等を占有する権原を有していたものとは認められない。また、被告Bは、上記(1)のとおり、本件法具等を祭壇に飾るなどして保管していたものであり、本件法具等を、自己のために占有していたものと認められる。
(イ) 被告Cは、被告Bが上記のとおりEから本件法具等を渡された際にその場に同席し、最終的には、本件法具等を預かり保管することを了承したものと認められるから(証人E、被告C)、被告Cは、本件法具等を被告Bと共同して占有していたものと認められる。
(ウ) 他方、被告Aは、Eが原告から持ち出した法具を被告Bに渡したことや、被告B及び被告Cがその自宅において本件法具等を保管していることを知っていたものと認められるものの(E、被告A)、被告Aが、被告Bらとともに上記保管を行い、又はこれを幇助したことをうかがわせるような事実は認められないから、本件法具等を、被告Bらと共同して占有していたものとは認められない。
(エ) したがって、被告B及び被告Cについてのみ、共同して本件法具等を占有し、これにより、原告の本件法具等に係る所有権を侵害したものと認められるところ、被告B及び被告Cは、Eから本件法具等を受け取るに際し、懸念を表明したというのであって(被告B、被告C)、Eが本件法具等を権原なく持ち出したことを認識し又は認識し得たものと認められるから、上記所有権侵害につき故意又は過失があったものと認められる。
(オ) 以上によれば、本件法具等の占有につき、被告B及び被告Cに所有権侵害の共同不法行為が成立する。
6 争点(4)(損害額)
(1) 本件法具等の所有権侵害の共同不法行為による損害について
ア 原告は、本件法具等を使用して行われるべき祈願の回数を、月20件を下回らないものと主張した上で、被告B及び被告Cが本件法具等を占有していた期間である平成20年末又は平成21年初め頃から平成25年2月ないし4月頃までの約4年間において、本件法具等を用いた祈願により原告に奉納されるべき布施の目安金額は、2880万円であり、そのうち、本件法具等の寄与度に相当する金額である288万円を、本件法具等の上記占有による損害であると主張する。
イ しかし、原告は、本件法具と同様の法具又は袈裟を複数個製作し、精舎又は支部等において保管していたものであり(証人E)、原告の精舎又は支部において、予備の法具等を保管している場合もあるというものである上(甲18)、原告が被告ら及びEに平成24年7月26日付けで送付した文書(甲3の1ないし3)の内容に照らせば、本件法具等が持ち出されたことは、上記文書を発出した頃に原告に判明したものにとどまり、かつ、原告において、法具等が持ち出された場所を特定することもできなかったことがうかがわれるから、本件法具等が持ち出され、被告B及び被告Cによって占有されたことにより、原告において祈願を行うことができず、又は行うことのできる祈願の件数が減少したなどの事実を認めることはできない。
 したがって、原告が本件法具等を用いて行うべき祈願により得るべき金員を、本件法具等の占有による損害と認めることはできない。
ウ 他方、原告は、本件法具等をその費用において製作したものであり、上記費用は15万円を下回らないものと認められる(甲27、証人F)。また、原告は、その使用期間(耐用期間)を10年間と主張しているところ、本件法具等の材質やその用途等に照らし、原告の主張する上記使用期間(耐用期間)は合理的なものと認められる。
 そうすると、原告は、上記のとおり費用を投じて製作した本件法具等を、10年間にわたり使用することができたはずであるにもかかわらず、被告B及び被告Cによる本件法具等の占有により、約4年間にわたり、本件法具等を使用することができなかったものであるから、製作費用のうち、上記のとおり使用することのできなかった期間に相当する額の損害を被ったものと認められる。
 上記損害は、下記計算式のとおり、6万円と算出される。
 15万円×4年間/10年間=6万円
エ 本件訴訟の内容、認容額その他諸般の事情を考慮すれば、弁護士費用としては1万円が相当であると認められる。
(2) 以上によれば、 本件法具等の所有権侵害による原告の損害は7万円と認められ、被告B及び被告Cは、連帯して上記損害を賠償すべき義務を負う。
(3) 附帯請求について
ア 被告B及び被告Cは、平成20年末又は平成21年初め頃から本件法具等の占有を開始したものと認められるから、同被告らに対する訴状送達日の翌日(平成24年9月21日・当裁判所に顕著)までの本件法具等の占有による損害については、同日までの不法行為により生じたものと認められる。したがって、同被告らは、上記損害につき、同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うところ、上記訴状送達日の翌日までの損害額は5万3000円と認めるのが相当である。
 なお、事案の内容等に照らし、弁護士費用についても、平成24年9月21日までの不法行為に起因する損害とみるのが相当である。
イ 前記前提事実(3)オのとおり、 被告B及び被告C は、 平成25年2月下旬頃に本件法具を、同年4月10日頃に本件袈裟をEに各受け渡したものであるから、本件法具等の占有による損害のうち、平成24年9月22日以降の損害については、平成25年4月10日までの不法行為により生じたものと認められる。したがって、同被告らは、上記損害につき、平成25年4月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うところ、上記損害額は7000円と認めるのが相当である。
ウ したがって、被告B及び被告Cは、連帯して、7万円及びうち6万3000円に対する平成24年9月21日から、うち7000円に対する平成25年4月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払うべき義務を負う。
7 争点(5)(反訴請求の成否)
(1) 訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られると解するのが相当である(最三小判昭和63年1月26日・民集42巻1号1頁参照)。
(2) これを本件についてみると、本件訴訟の提起時における本訴請求内容は前記前提事実(3)アでみたとおりであるところ、被告B及び被告CがEから渡されて本件法具等を占有していたことや、被告Bが本件経文@ないしBを読誦したことがあること、被告Aが本件経文CないしEを複製し、他人に譲渡したことがあることが認められることは、これまでの当裁判所の判断でみたとおりである。これに加えて、本訴請求について一部認容する部分があることも考慮すれば、原告が本訴請求の原因として主張する事実が事実的、法律的根拠を欠くものとはいえず、本件訴訟の提起が裁判制度の趣旨に反し著しく相当性を欠くものと評価することはできない。
(3) したがって、その余の点について検討するまでもなく、被告らの原告に対する反訴請求はいずれも理由がない。
第5 結論
 したがって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 西村康夫
 裁判官 森川さつき
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