判例全文 line
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【事件名】ソーシャルゲーム「プロ野球ドリームナイン」侵害事件
【年月日】平成25年11月29日
 東京地裁 平成23年(ワ)第29184号 損害賠償等請求事件

判決
原告 株式会社コナミデジタルエンタテインメント
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 正田賢司
同 柴田征範
同 有賀隆之
同 板垣幾久雄
同 初瀬貴
同 望月崇司
同訴訟復代理人弁護士 松浦賢輔
被告 株式会社gloops
同訴訟代理人弁護士 高橋元弘
同 佐藤久文
同 末吉亙


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
(主位的請求)
1 被告は、原告に対し、5595万1875円及びこれに対する平成23年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、260万円及びこれに対する平成24年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、別紙ゲーム目録記載のゲームを複製、翻案又は公衆送信してはならない。
(予備的請求)
 被告は、原告に対し、1716万4696円及びこれに対する平成24年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、「プロ野球ドリームナイン」というタイトルのゲーム(以下「原告ゲーム」という。)をソーシャルネットワーキングサービス上で提供・配信している原告が、別紙ゲーム目録記載のゲーム(以下「被告ゲーム」という。)を提供・配信している被告に対して、主位的に、被告が原告ゲームを複製ないし翻案して、自動公衆送信することによって、原告の有する著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害している、また、原告ゲームの影像や構成は周知又は著名な商品等表示若しくは形態であるところ、被告ゲームの影像や構成等は、原告ゲームの影像や構成と同一又は類似しているから、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号ないし3号の不正競争に該当すると主張して、被告に対し、著作権法112条1項又は不競法3条の規定に基づき、被告ゲームの配信(公衆送信、送信可能化)の差止めを求めるとともに、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求、又は不競法4条に基づく損害賠償請求として5595万1875円及びこれに対する平成23年9月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、並びに弁護士費用相当額として260万円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴えの変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、被告が行う被告ゲームの提供・配信は、原告ゲームを提供・配信することによって生じる原告の営業活動上の利益を不法に侵害する一般不法行為に該当すると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として1716万4696円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴えの変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実 (証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告
 原告は、ソーシャルゲーム、オンラインゲーム、家庭用ゲームソフト、アミューズメント機器、カードゲーム、携帯端末向けコンテンツ、玩具・ホビー、音楽・映像ソフト等の企画、制作、製造及び販売等を業とする会社である。
イ 被告
被告は、インターネットを利用したコンテンツの作成、配信等を業とする会社である。
(2) 原告ゲーム
ア オンラインゲームのうち、社会的交流をインターネット上で構築するサービスであるソーシャルネットワーキングサービス上で提供され、他の利用者とコミュニケーションを取りながらプレイするものを、ソーシャルネットワーキングサービスゲーム(以下「SNSゲーム」という。)というところ、原告は、プロ野球カードを題材としたSNSゲームである原告ゲームを制作し、グリー株式会社(以下「グリー」という。)が運営する携帯電話等のプラットフォームである「GREE」において、原告ゲームを提供・配信している。
イ 原告ゲームは、平成23年3月4日から事前登録が行われ、同月30日にオープンベータ版につき、翌4月18日に正式版につきそれぞれ提供・配信が開始された。
(3) 被告ゲーム
ア 被告は、プロ野球カードを題材としたSNSゲームである被告ゲームを制作し、株式会社ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」という。)が運営する携帯電話等のプラットフォームである「Mobage」において、被告ゲームを提供・配信している。
イ 被告ゲームは、平成23年8月18日頃に提供・配信が開始された。
(4) 原告ゲームの概要
ア ゲームの概要
 原告ゲームは、プロ野球カードゲーム形式のSNSゲームである。原告ゲームは、利用者が選手カードを「スカウト」や「選手ガチャ」といった入手方法を用いて収集して、プロ野球チームを独自に作成し、理想とするチームを編成することを内容とするものである。原告ゲームは、社団法人日本野球機構から承認を受けており、選手カードを実名のものにしている。また、基本料金を無料にしている。
イ ゲームの構成及びその流れ
 原告ゲームは、「選手ガチャ」、「スカウト」、「オーダー」、「強化」、「試合」という五つの部分が相互に関係するように構成されている。原告ゲームの「ドリナイマイページ」は、原告ゲームの基本となるファーストビュー画面であるが、同画面上には、「選手ガチャ」、「スカウト」、「オーダー」、「強化」、「試合」といったメニューのバナーがあり、利用者はいずれかのバナーを選択する。原告ゲームは、大要、以下のように進む。
@ 利用者は、選手ガチャ及びスカウトを実行して、所持する選手カードを増やしていく。
A 利用者は、@で収集した選手カードを強化する。具体的には、収集した選手カードから2枚を選択し、うち1枚の選手カードにもう1枚の選手カードを合成して、選手カードのレベルを上げることができる。
B 利用者は、欲しい選手カードを入手したり、能力値の高い選手カードを入手したりしたときには、現在の野手オーダーや投手起用法(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、オーダーの組み替えを行う。
C 利用者は、上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させる。
D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。
ウ 原告ゲームの五つの要素
 原告ゲームは、「選手ガチャ」、「スカウト」、「オーダー」、「強化」及び「試合」という五つの要素の組み合わせで構成されているところ、個々の要素の詳細は、おおむね次のとおりである。
(ア) 選手ガチャ
a 概要
 選手ガチャとは、利用者がゲーム内においてあたかもプロ野球カードのパッケージを購入するかのようにして、選手カードを入手するものである。
b 「ノーマルパック」と「ドリームパック」
 利用者は、選手ガチャを行うに当たり、「ノーマルパック」と「ドリームパック」の2種類のいずれかを選択することができる。原告ゲームでは、選手カードについて、その稀少性に応じてノーマル、グレート、スター、スーパースターなどの種類を設けており、「ドリームパック」では、「ノーマルパック」と比べて、稀少性の高い選手カードがより出現する確率が高い設定になっている。
c 取得対価
 利用者は、「エールポイント」を消費して「ノーマルパック」を取得することができる。「エールポイント」は無料で取得できるものである。
 他方、「ドリームパック」は、「コイン」がなければ取得できない。「コイン」は、利用者が料金を支払って購入する有料のポイントである。利用者は、より稀少性の高い選手カードを欲するとき、より出現確率の高い「ドリームパック」を購入する必要があることになる。
(イ) スカウト
a 概要
 スカウトとは、選手ガチャとは別に、選手カードを入手する方法であり、あたかもスカウトが日本全国をまわりながら、選手を視察し、スカウトするかのようにして、選手カードを入手するものである。
b エリア及びミッション
 スカウトは、北海道や東北などのエリア毎に視察を行い、選手カードを発見していく。各エリアは、複数のミッションから構成されていて、スカウトを実行することで各ミッションに設定されている複数の選手カードを取得していく。各ミッションに設定された選手カードの残枚数は、スカウト画面において「?」が記載されたカードの枚数で表示されている。
 各ミッションをこなして探索率が100%に達すると、次のミッシ
ョンに進むことができる。
c 行動力及び経験値
 「行動力」は、利用者がスカウトを行うのに必要な数値である。スカウトを行うと、この「行動力」を消費するが、同時に「経験値」が積まれる。そして、経験値が一定値に達すると利用者のレベルが上昇し(これによって、後記ウ(オで述べる最大運営コストが上昇する。)、併せて「行動力」が回復する。
 この「行動力」は、一定の数値以下になると利用者がスカウトを行うことができなくなるもので、利用者は、新たにスカウトをする場合、「行動力」を一定の数値以上に回復させなければならない。「行動力」は時間の経過によって回復するが、前記「コイン」を消費して「回復薬」を取得すれば、これを使用して回復することもできる。すなわち、利用者は、時間を掛けずにレベルを上げたければ、料金を支払って「回復薬」を購入することによって、より早くレベルアップを図ることができる。
(ウ) オーダー
a 概要
 オーダーとは、利用者が所持する選手カードについて、野手オーダー及び投手起用法を設定するものである。
 選手カードは取得した段階では、控えに登録されており、そのままでは試合に出場させることができないため、入手した選手カードを試合に出場させたいときには、オーダーを選択し、既に設定されている選手カードとの入れ替えを行わなければならない。
b 野手オーダー
 野手オーダーとは、利用者が所持する野手の選手カードから、1番から9番までの9名、さらに代打2名の合計11名の野手を選択、設定するものである。
c 投手起用法
 投手起用法とは、利用者が所持する投手の選手カードから、先発3名、中継ぎ2名及び抑え1名の合計6名の投手を選択、設定するものである。
d 自動オーダー
 自動オーダーとは、利用者が入れ替え選手などを特に選択することなく、コンピューターが自動でオーダーを組み替えるシステムである。
e 運営コスト
 運営コストとは、利用者が試合を行うに当たって必要とされる数値である。この運営コストが試合を行うのに必要な数値以下になると試合を行うことができず、利用者が新たに試合を行うには、運営コストを一定の数値まで回復させなければならない。
 また、運営コストは、試合に起用できる選手カードの制約ともなっている。利用者は、1試合当たりで使用できる最大運営コストが設定されているところ、選手カードには、個々にコストとしての数値が設定されており、オーダー入りした選手カードの総コストが、最大運営コストの範囲内に収まるようにオーダーを組まなければならない。なお、最大運営コストは、利用者のレベルが上がることなどによって、増やすことができる。
 運営コストは時間が経過することによって回復するが、前記「コイン」を消費して「回復薬」を取得すれば、これを使用して運営コストを回復することもできる。すなわち、利用者が時間を掛けずに試合をより多く行いたければ、料金を支払って「回復薬」を購入することによって、より多くの試合を行うことができる。
(エ) 強化
a 概要
 強化とは、選手カードの能力を強化する方法である。利用者は所持する選手カードから2枚を選択し、そのうち1枚を強化したい選手カードとして「強化指定選手カード」に、もう1枚を強化に資する選手カードとして「コーチ転身選手カード」にそれぞれ指定し、この強化を実行すると、「強化指定選手カード」の能力値が上昇するが、「コーチ転身選手カード」は失われることになる。
b 強化ポイント
 強化ポイントとは、強化を実行するのに必要な数値である。強化ポイントは、試合やスカウトのほか、選手カードの売却によっても取得することができる。
c 効果
 投手の選手カードには「球威」、「制球」及び「変化」といった能力値が、野手の選手カードには「打撃」、「走力」及び「守備」といった能力値が個々に設定されている。利用者は、より能力値が高い選手を揃えれば試合をより有利に進めることができるが、強化を行うことで「強化指定選手カード」のレベルをアップさせ、当該選手カードの能力値を増加させることができる。
(オ) 試合
a 概要
 利用者は、作成、強化したチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させることができ、これを「試合」という。利用者は、全国各地にいる対戦可能な他の利用者のうち、そのレベルなどを参考にしつつ対戦相手を選択する。
b 対戦相手
 対戦可能な他の利用者は、試合のコマンド画面上、「アバター」(プラットフォーム上における、利用者を表すキャラクターをいう。)と当該他の利用者が所持する選手カードの中から「リーダー」として選択されている選手カード1枚とともに、リストとなって表示されている。
c 運営コスト
 利用者は、試合を行うと運営コストを消費する。さらに試合を行うには運営コストを回復させなければならないことは、前記(ウ)eで述べたとおりである。
エ 選手カード
(ア) 選手カードの収集
 原告ゲームのゲーム性は、上記五つの要素を組み合わせ、繰り返すことで自己のチームを強化することにあるが、原告ゲームの利用者は、そのゲーム性 楽しむだけではなく、原告ゲーム上に存在する選手カードを収集すること自体を楽しむこともできる。
(イ) 種類
 選手カードには、その稀少性に応じてノーマル、レギュラー、グレート、スター、スーパースターといった種類が設定されているが、利用者は、より稀少性の高い選手カードを獲得するために、料金を支払って「コイン」を購入し、「ドリームパック」を取得したり、料金を支払って「回復薬」を取得して、より多くスカウトを行ったりすることができる。
(ウ) 能力値及びレベル
 選手カードにはそれぞれ能力値が設定されており、投手の選手カードには「球威」、「制球」及び「変化」、野手の選手カードには「打撃」、「走力」及び「守備」といった項目がある。
 また、選手カードにはレベルもあり、強化を実行することでレベルが上がり、それに伴って各能力値も上昇する。
(5) 被告ゲームの内容
ア 概要
 被告ゲームは、プロ野球カードゲーム形式のSNSゲームである。被告ゲームは、プロ野球12球団に所属する選手たちが実名・実写真のカードとなって登場し、利用者はガチャやミッションといった入手方法を用いて選手カードを集め、収集した選手カードから思い通りのオーダーを組み、選手カードを強化しつつ、他の利用者が作成、強化したチームと試合することによって、リーグ戦で上位を目指し、理想のプロ野球チームを編成することを内容とする。また、基本料金を無料にしている。
イ ゲームの構成及びその流れ
 被告ゲームは、「ガチャ」、「ミッション」、「オーダー」、「強化」及び「試合」という五つの部分が相互に関係するように構成されている。被告ゲームの「マイページ」は、被告ゲームの基本となるファーストビュー画面であるが、同画面上には、「ガチャ」、「オーダー」、「強化」、「視察」、「試合」といったメニューのバナーがあり、利用者はいずれかのバナーを選択する。
 被告ゲームは、大要、以下のように進む。〔弁論の全趣旨〕
@ 利用者は、ミッションを実行して、選手カード、強化ポイント、経験値を獲得する。
A 利用者は、「リーグ」において、対戦する他の利用者のチームを選択し、自己のチームと対戦させることにより、ガチャポイントを獲得する。また、「リーグ」において勝利を重ねることで昇格し、また、敗北を重ねると降格する。降格した場合にはガチャポイントが付与される。
B 利用者は、A等で獲得したガチャポイントやMobage内の仮想通貨「モバコイン」を用いてガチャを行い、選手カードを獲得する。
C 利用者は、@及びB等で入手した選手カードを用いて、現在の野手オーダーや選手起用法を見直して、オーダーの入れ替えを行うことができる。
D 利用者は、@で獲得した強化ポイントを利用して、@及びB等で取得した選手カードの内、2枚以上を選択し、これを合わせることで一つの選手カードのレベルを上げる。強化によって合成できる選手カードは一括強化という方法により、強化をする1枚に対して1枚の選手カードだけではなく、強化をする1枚の選手カードに対して同時に2枚以上の選手カードを合成することも可能である。
ウ 被告ゲームの五つの要素
 被告ゲームは、「ガチャ」、「ミッション」、「オーダー」、「強化」及び「試合」という五つの要素の組み合わせで構成されているところ、個々の要素の詳細は、おおむね次のとおりである。
(ア) ガチャ
a 概要
 ガチャとは、利用者がゲーム内においてあたかもプロ野球カードのパッケージを購入するかのようにして、選手カードを入手するものである。
b 「ノーマルパック」と「レアパック」
 利用者は、ガチャを行うに当たり、「ノーマルパック」と「レアパック」の2種類のいずれかを選択することができる。被告ゲームでは、選手カードについて、その稀少性に応じてノーマル、キラ、スター、スーパースターなどの種類を設けており、「レアパック」では、「ノーマルパック」と比べて、稀少性の高い選手カードがより出現する確立が高い設定になっている。
c 取得対価
 利用者は、「ガチャポイント」を消費して「ノーマルパック」を取得することができる。「ガチャポイント」は無料で取得できるものである。
 他方、「レアパック」は、「モバコイン」がなければ取得できない。「モバコイン」は、利用者が料金を支払って購入する有料のポイントである。利用者は、より稀少性の高い選手カードを欲するとき、より出現確率の高い「レアパック」を購入する必要があることになる。
(イ) ミッション
a 概要
 ミッションとは、ガチャとは別に、選手カードを入手する方法である。
b ステージ及びミッション
 ミッションは、複数のステージから構成されていて、各ステージは複数のミッションから構成されている。利用者は、ミッションを実行することで各ミッションに設定されている複数の選手カードを取得していく。各ミッションに設定された選手カードの残枚数は、ミッション画面において「?」が記載されたカードの枚数で表示される。
 各ミッションをこなして達成度が100%に達すると、次のミッションに進むことができる。また、各ステージ内のミッションを全て達成すると、次のステージに進むことができる。
c 体力及び経験値
 「体力」は、利用者がミッションを行うのに必要な数値である。ミッションを行うと、この「体力」を消費するが、同時に「経験値」が積まれる。そして、経験値が一定値に達すると利用者のレベルが上昇し、併せて「体力」が回復する。
 この「体力」は、一定の数値以下になると利用者がミッションを行うことができなくなるもので、利用者は、新たにミッションをする場合、「体力」を一定の数値以上に回復させなければならない。「体力」は時間の経過によって回復するが、前記「モバコイン」を消費して「スタミナ丼」というアイテムを購入すれば、これを使用して回復することもできる。すなわち、利用者は、時間を掛けずにレベルを上げたければ、料金を支払って「スタミナ丼」を購入することによって、より早くレベルアップを図ることが可能となる。
(ウ) オーダー
a 概要
 オーダーとは、利用者が所持する選手カードについて、野手及び投手のレギュラー選手を設定するものである。
 選手カードは取得した段階では、控えに登録されており、そのままではレギュラーとして試合に出場させることができないため、入手した選手カードを試合に出場させたいときには、オーダーを選択し、既に設定されている選手カードとの入れ替えを行わなければならない。
b 野手レギュラー
 野手レギュラーとは、利用者が所持する野手の選手カードから、1番から9番までの9名、さらに代打2名の合計11名の野手を選択、設定するものである。
c 投手レギュラー
 投手レギュラーとは、利用者が所持する投手の選手カードから、先発3名、中継ぎ2名及び抑え1名の合計6名の投手を選択、設定するものである。
d 自動オーダー
 自動オーダーとは、利用者が入れ替え選手などを特に選択することなく、コンピューターが自動でオーダーを組み替えるシステムである。
e コスト
 コストとは、利用者が試合を行うに当たって必要とされる数値である。このコストが試合を行うのに必要な数値以下になると試合を行うことができず、利用者が新たに試合を行うには、コストを一定の数値まで回復させなければならない。
 また、コストは、試合に起用できる選手カードの制約にもなっている。利用者は、1試合当たりで使用できる最大コストが設定されているところ、選手カードには、個々にコストとしての数値が設定されており、レギュラー入りした選手カードの総コストが、最大コストの範囲内に収まるようにオーダーを組まなければならない。なお、コストは、利用者のレベルが上がることなどによって、増やすことができる。
 コストは時間が経過することによって回復するが、前記「モバコイン」を消費して「スタミナ丼」を購入すれば、これを使用してコストを回復することもできる。すなわち、利用者が時間を掛けずに試合をより多く行いたければ、料金を支払って「スタミナ丼」を購入することによって、より多くの試合を行うことができる。
(エ) 強化
a 概要
 強化とは、選手カードの能力を強化する方法である。利用者が有する選手カードのうち、強化したい選手カードを「ベースカード」に指定し、他方、強化したい選手カードの強化に必要な選手カードを「能力を引継ぐカード」に設定し実行することで、「ベースカード」が強化され、他方、「能力を引続くカード」が失われるという、選手カード強化方法をいう。
b 強化ポイント
 強化ポイントとは、強化を実行するのに必要な数値である。強化ポイントは、試合やミッションのほか、選手カードの売却によっても取得することができる。
c 効果
 投手の選手カードには「球威」、「制球」及び「投力」といった能力値が、野手の選手カードには「打力」、「走力」及び「守備」といった能力値が個々に設定されている。利用者は、より能力値が高い選手を揃えれば試合をより有利に進めることができるが、強化を行うことで「ベースカード」に指定した選手カードのレベルを上げ、当該選手カードの能力値を増加させることができる。
(オ) 試合(リーグ)
a 概要
 利用者は、作成、強化したチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させることができ、これを「試合」という。利用者は、全国各地にいる対戦可能な他の利用者から、そのレベルなどを参考にしつつ対戦相手を選択する。
b 対戦相手
 対戦可能な他の利用者は、試合のコマンド画面上、「アバター」と当該他の利用者が所持する選手カードの中から「リーダー」として選んだ選手カード1枚とともに、リストとなって表示されている。
c コスト
 利用者は、試合を行うとコストを消費する。さらに試合を行うには運営コストを回復させなければならないことは、前記(ウ)eで述べたとおりである。
d 被告ゲームでは、現在、「試合」の名称を「リーグ」に変更している。
エ 選手カード
(ア) 選手カードの収集
 被告ゲームのゲーム性は、上記五つの要素を組み合わせ、繰り返すことで自己のチームを強化することにあるが、被告ゲームの利用者は、そのゲーム性を楽しむだけではなく、被告ゲーム上に存在する選手カードを収集すること自体を楽しむこともできる。
(イ) 種類
 選手カードには、その稀少性に応じてノーマル、キラ、グレート、スター、スーパースターといった種類が設定されているが、利用者は、より稀少性の高い選手カードを獲得するために、料金を支払って「モバコイン」を購入し、「レアパック」を取得したり、料金を支払って「スタミナ丼」を取得して、より多くミッションを行ったりすることができる。
(ウ) 能力値及びレベル
 選手カードにはそれぞれ能力値が設定されており、投手の選手カードには「球威」、「制球」及び「投力」、野手の選手カードには「打力」、「走力」及び「守備」といった項目がある。
 また、選手カードにはレベルもあり、強化を実行することでレベルが上がり、それに伴って各能力値も上昇する。
2 争点
(1) 被告ゲームの制作・配信行為は原告の著作権を侵害するか
(2) 被告ゲームの配信行為は不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか
(3) 被告ゲームの配信行為は不競法2条1項3号の不正競争に該当するか
(4) 被告ゲームの配信行為は不法行為に該当するか(予備的請求)
(5) 損害発生の有無及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告ゲームの制作・配信行為は原告の著作権を侵害するか)について
〔原告の主張〕
 被告ゲームは、原告ゲームの個別の表現のみならず、表現全体についても著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害するものである。
(1) 創作性の判断枠組み
ア 創作的に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものである必要はなく、作成者の何らかの個性が表現されたもので足りると解されるべきところ、「個性」とは、著作者自身の考えや思いなど、「その個人にしかない性格や性質」を意味するのが通常である。これを小説、音楽、絵画といったいわゆる伝統的著作物についてみれば、著作者が独自に創作すれば、そのような意味での「個性」が表現されていると評価することができるというべきである。
 これを本件における原告ゲームについてみると、その表現は、絵画と同様に視覚的な表現であることから伝統的著作物に当たるので、上記と同様に著作物性が認められるべきである。
 この点、著作物性が否定される場合として、ある表現がアイデアと一体となった場合であるとか、ありふれた表現であるといった場合が考えられるところ、ある表現がアイデアと一体となったといえるには、アイデア又は事実を表現する方法が一つしかない場合又は非常に限定されている場合をいうものと解される。したがって、表現に選択の余地がある場合には、当該表現はアイデアにすぎないということはできないと解される。
イ ところで、原告ゲームや被告ゲームのようなカードゲームには、「三国志」など歴史を題材にしたもの、魔法使いなどファンタジーの要素を取り入れたもの、スポーツを題材にしたものなど、多くの題材が存在し、スポーツの中にも、「サッカー」や「バレーボール」等様々な題材がある。そのなかで、原告は、原告ゲームにおいて特に「プロ野球」という題材を選択し表現しているのである。したがって、原告ゲームの各演出あるいは全体の創作性を検討するに際しては、原告ゲームが市場に出る以前の「野球ゲーム」あるいは「野球カード」においてどのような表現が用いられていたかを比較検討しなければならない。
ウ また、創作性の検討にあたっては、創作性判断の対象となるゲームが制作された後、後発ゲームを制作するのに必要な制作期間経過後に発表された当該後発ゲームを、創作性判断の考慮に用いることはできないというべきである。なぜなら、ゲーム開発においては、先行するゲームについて調査・研究を行ったうえで制作するのが一般的であるところ、先行ゲームのリリース直後に、すなわち新たなゲーム制作に要する期間を経過する前にリリースされたゲームであれば、先行ゲームから独立して制作され、これに依拠せずに制作されたといえるが、かかる期間経過後にリリースされたゲームについては、先行ゲームに接し、依拠した上で作成されたといえるためである。そして、携帯電話向けSNSゲームの制作期間に鑑みると、原告ゲームの配信開始から遅くとも3か月後である平成23年7月以降に配信されたゲームについては、原告ゲームに接した上で制作されたゲームといえ、それらは原告ゲームの創作性判断に用いることができるものではない。
エ さらに、原告ゲーム及び被告ゲームは、いずれも携帯電話向けのSNSゲームであるところ、携帯電話のディスプレイ画面のサイズやその画素数からして、小さな画面で表示されることを前提としている。そこで、著作権侵害等を検討するにあたっても、著作物がかような小さいサイズで表示されることを考慮する必要がある。
(2) 個別の表現について
ア 個別表現の創作性について
 原告ゲームは、その画像や影像といった個別の表現について、著作物性が認められるべきである。具体的には、@選手ガチャ、A強化、B試合、C選手カードに係る個別の表現について著作物性が認められるべきである。
(ア) 選手ガチャについて
 原告ゲームでは、別紙対照表1、第1「個別の表現」、1「選手ガチャ(ガチャ)」の(原告ゲーム)欄記載のとおり、利用者が選手ガチャを実行すると、まずパッケージの画像が画面中央に大きく現れる。次いで当該パッケージ上部が左から右へと横に破られて、当該パッケージからカードの上部のみが現れ、さらに当該カードが上に取り出されると、画面中央が一瞬白く光り、金色の後光が差すように当該カードが出現する。このような演出は、利用者があたかもパッケージに入った選手カードを実際に購入したかのように表現するものとして、独自の表現形式を有するものであり、選手ガチャについては、その表現全般について創作性が認められるべきである。
(イ) 強化について
 原告ゲームでは、別紙対照表1、第1「個別の表現」、2「強化」の(原告ゲーム)欄記載のとおり、画面上に二つのカードを左右に並べて配置し、次いでそれら二つのカードが左右から中央に移動して、重なり合うところで光り、それからいったん小さくなった選手カードが大きくなるように表示され、あたかも当該選手カードが利用者の手前に迫ってくるかのように現れる。このような演出は、強化の表現として独自の表現形式を有するものであり、強化については、その表現全般について創作性が認められるべきである。
(ウ) 試合について
 原告ゲームでは、別紙対照表1、第1「個別の表現」、3「試合(リーグ)」の(原告ゲーム)欄記載のとおり、試合開始前に、まず、利用者の選手カードがゲーム画面に表示された野球フィールド上の各ポジションに配置され、次いで、対戦相手の選手カードが各ポジションに配置される。そして、試合開始後は、利用者チームの選手カードが画面上部に横並びに表示され、これと向かい合うように、対戦相手チームの選手カードが画面下部に横並びに配置される。
 また、原告ゲームでは試合の場面で発動するコンボシステムを採用しているところ、コンボシステムが発動すると、画面上に稲妻が走り、連携した選手カードが光る。
 試合が終了すると、画面全体が白く光り、試合結果が表示されるところ、試合に勝利すると、中央部に金色で「WIN」と表示され、その背後に当該文字を囲むように月桂冠形状の植物が表示され、試合に負けると、青色で「LOSE」と表示される。
 以上のような演出は、試合の表現として独自の表現形式を有するものであり、試合については、その表現全般について創作性が認められるべきである。
(エ) 選手カードについて
 原告ゲームにおいて選手カードはそれぞれ個別に著作物性を有するところ、 別紙対照表1、第1「個別の表現」、4「選手カード」の(原告ゲーム)欄記載の@中島裕之選手(以下「中島選手」という。)のスーパースターカード、Aダルビッシュ有選手(以下「ダルビッシュ選手」という。)のスーパースターカード、B坂本勇人選手(以下「坂本選手」という。)のスターカード及びC今江敏晃選手(以下「今江選手」という。)のスーパースターカードはその一例であり、いずれも著作物性が認められるべきものである。
a 中島選手について
 中島選手のスーパースターカードは次のように表現されている。
@ 背景に、炎が燃えて後光が差すようなファイアーモチーフが用いられている。
A 写真は、右打者である同選手がカード右方向を向き、左足を前に出し、バットをスイングし終わった瞬間を同人右側から撮影したものを用いている。さらに、その背景には、かかる写真と二重となった写真が、大きく、かつ、多少薄く残影のように表示されている。
B カード左上には所属するチームである西武ライオンズのロゴマークが記載されており、カード下部には、同選手の背番号である「3」と氏名が英字で「Hiroyuki Nakajima」と表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が表示されている。
b ダルビッシュ選手について
 ダルビッシュ選手のスーパースターカードは次のように表現されている。
@ 背景に、炎が燃えて後光が差すようなファイアーモチーフが用いられている。
A 写真は、右投手である同選手がカード右方向を向き、左足を大きく前に出し、右手に持った野球ボールを投げようと後ろに振り上げようとする瞬間を同人右側から撮影したものを用いている。さらに、その背景には、かかる写真と二重となった写真が、大きく、かつ、多少薄く残影のように表示されている。
B カード左上には所属するチームである日本ハムファイターズのロゴマークが記載されており、カード下部には、同選手の背番号である「11」と氏名が英字で「Yu Darvish」と表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が表示されている。
c 坂本選手について
 坂本選手のスターカードは次のように表現されている。
@ 背景に、炎が燃えるようなファイアーモチーフが用いられている。
A 写真は、右打者である同選手がカード左方向を向き、両手でバットを持ち、身体を左にねじりスイングが終わった直後の瞬間を同人左側から撮影したものを用いている。
B カード左上には所属するチームである読売ジャイアンツのロゴマークが記載されており、カード下部には同選手の背番号である「6」と氏名が英字で「Hayato Sakamoto」と表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が表示されている。
d 今江選手について
 今江選手のスーパースターカードは次のように表現されている。
@ 背景に、炎が燃えて後光が差すようなファイアーモチーフが用いられている。
A 写真は、右打者である同選手がカード右方向を向き、両手でバットを持ち、構えている瞬間を同人右側から撮影したものを用いており、かかる写真と二重となった写真が、背景に大きく、かつ、多少薄く残影のようなデザインとなっている。
B カード左上には所属するチームである千葉ロッテマリーンズのロゴマークが記載されており、カード下部には同選手の背番号である「8」と氏名が英字で「Toshiaki Imae」と表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が表示されている。
イ 個別表現の類似性について
 被告ゲームは、別紙対照表1、第1「個別の表現」記載のとおりであり、次のとおり、原告ゲームにおける@選手ガチャ、A強化、B試合、C選手カードに係るいずれの個別の表現とも表現が同一又は類似するものである。
(ア) ガチャの類似性について
 被告ゲームにおけるガチャは、別紙対照表1、第1「個別の表現」、1「選手(ガチャ)」の(被告ゲーム)欄記載のとおりであり、 原告ゲームにおける選手ガチャと同様に、あたかもパッケージに入ったプロ野球カードを実際に購入し、開封したかのように表現されている。
 具体的には、ガチャを実行すると、画面上にパッケージが現われ(1−1)、当該パッケージ上部が横に破られると(1−2及び3)、パッケージからカード上部のみが現われ(1−4)、パッケージ在中のカードが上に取り出されると(1−5)、画面全体が一瞬白く光った後(1−6)、金色の後光が差すように在中カードが出現する(1−7及び8)。以上の演出は原告ゲームと全く同一のものである。
(イ) 強化の類似性について
 被告ゲームにおける強化は、 別紙対照表1、第1「個別の表現」、2「強化」の(被告ゲーム)欄記載のとおりである。画面上左右に並んで配置した二つのカードが(2−1)中央に移動し(2−2)、重なり合ったところで光り(2−3)、一旦小さくなったカードが(2−4)大きくなることで、利用者の手前に迫ってくるように表示される(2−5及び6)といった演出がされていて、原告ゲームと全く同一のものでる。
(ウ) 試合(リーグ)の類似性について
 被告ゲームにおける試合は、 別紙対照表1、第1「個別の表現」、3「試合(リーグ)」の(被告ゲーム)欄記載のとおりである。試合が開始されると、まず、利用者の選手カードがゲーム画面上に表示された野球フィールド上の各ポジションに配置され(3−1)、次に、対戦相手の選手カードが各ポジションに配置される(3−2)。そして、利用者チームの選手カードが画面上に並び、これと向かい合うように、対戦相手チームの選手カードも並んで表示される(3−3)。
 試合中における演出として、コンボシステムが採用されており、コンボシステムが発動すると画面上に稲妻が走った上で(3−4)、連携した選手カードが光る(3−5)。
 試合が終了すると画面が光り(3−6)、試合結果が表示されるところ、試合に勝利すると、中央部に金色で「WIN」と表示され、その背後に当該文字を囲むように月桂冠のような円状の植物が表示される(3−7)のに対し、試合に負けると、青色で「LOSE」と表示される(3−8)。
 以上の演出は原告ゲームと類似する表現である。
(エ) 選手カードの類似性について
 原告ゲーム及び被告ゲームにおいて、選手カードは数多くあるところ、被告ゲームにおける選手カードのうち、別紙対照表1、第1「個別の表現」、4「選手カード」の(被告ゲーム)欄記載のものは、いずれも原告ゲームの選手カードと同一の表現がされている。
a 中島選手について
 平成23年8月26日以前の被告ゲームにおける中島裕之選手のスーパースターカードは、以下のとおり原告ゲームにおける同選手のスーパースターカードと同一の表現がされている。
@ 背景に炎が燃えて後光が差すようなファイアーモチーフが用いられている。
A 右打者である同選手がカード右方向を向き、左足を前に出し、バットをスイングし終わった瞬間を同人右側から撮影した写真を用いており、その背景に、かかる写真と二重となった写真が、大きく、かつ、多少薄く残影のようなデザインとなっている。
B カード左上には所属するチームである西武ライオンズのロゴマークが記載されており、カード下部には同選手の背番号である「3」と氏名が英字で表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が複数表示されている。
b ダルビッシュ選手について
 平成23年8月26日以前の被告ゲームにおけるダルビッシュ有選手のスーパースターカードは、以下のとおり原告ゲームにおける同選手のスーパースターカードと同一の表現がされている。
@ 背景に炎が燃えるようなファイアーモチーフが用いられている。
A 右投手である同選手がカード右方向を向き、左足を大きく前に出し、右手に持った野球ボールを投げようと後ろに振りかぶった瞬間を同人右側から撮影したものを用いており、その背景に、かかる写真と二重となった写真が、大きく、かつ、多少薄く残影のようなデザインとなっている。
B カード左上には所属するチームである日本ハムファイターズのロゴマークが記載されており、カード下部には同選手の背番号である「11」と氏名が英字で表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が複数表示されている。
c 坂本選手について
 平成23年8月26日以前の被告ゲームにおける坂本選手のスーパースターカードは、以下のとおり原告ゲームにおける同選手のスターカードと同一の表現がされている。
@ 背景に燃えるようなファイアーモチーフが用いられている。
A 右打者である同選手がカード左方向を向き、両手でバットを持ち、身体を左にねじりスイングが終わった直後の瞬間を同人左側から撮影したものを用いている。
B カード左上には所属するチームである読売ジャイアンツのロゴマークが記載されており、カード下部には同選手の背番号である「6」と氏名が英字で表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が複数表示されている。
d 今江選手について
 平成23年8月26日以前の被告ゲームにおける今江選手のスーパースターカードは、以下のとおり原告ゲームにおける同選手のスーパースターカードと同一の表現がされている。
@ 背景に炎が燃えて後光が差すようなファイアーモチーフが用いられている。
A 右打者である同選手がカード右方向を向き、両手でバットを持ち、構えている瞬間を同人右側から撮影したものを用いており、背景に、かかる写真と二重となった写真が、大きく、かつ、多少薄く残影のようなデザインとなっている。
B カード左上には所属するチームである千葉ロッテマリーンズのロゴマークが記載されており、カード下部には同選手の背番号である「8」と氏名が英字で表示され、その下には選手カードの稀少度を示す金星が表示されている。
ウ 一つのまとまった表現としての創作性について
 この点に関して被告は、個別表現の創作性に関し、これらを個々の要素に切り分けて、個別にみると、単なるアイデアにすぎないとかありふれた表現にすぎないとして創作性を否定する。
 しかし、被告が主張するように表現を個々の要素に分節して判断するのは妥当ではなく、創作性は著作物全体から判断されるべきである。
 これを本件についてみると、原告ゲームにおける個別表現である「選手ガチャ」、「強化」、「試合」、「選手カード」は、それぞれが、前記(2)アで主張したとおり創作性が認められる様々な要素を、さらに創作的に組み合わせて一つのまとまった表現とし、さらに高い創作性を有する表現としたものである。したがって、原告ゲームにおける上記の個別表現については、一つのまとまった表現としてみるべきであり、それを前提にして判断すると、いずれも創作性が認められるべきである。
 以下、「選手ガチャ」、「強化」、「試合」、「選手カード」の表現について、個別に創作性があることを述べる。
(ア) 選手ガチャについて
a 原告ゲームにおける選手ガチャの創作性を有する具体的表現は、以下の一連のまとまった表現である。
@ 黒色の背景の画面中央に大きく、上下端部分が灰色で中央の大部分が白色をしたパッケージが現われる。
A パッケージ上部に左から右へと高速で白色の光線が走り、当該部分が素早く破られるように左から右へと取り除かれる。
B 破られたパッケージ部分から、選手カードの表面上部が露出し、所属チームロゴマークや、稀少性やチームカラーを表示する背景が一部見える程度に表示される。
C パッケージ在中の選手カードが上に取り出されながら、当該選手カードの画像がなくなり白色で表示される。
D 画面全体が一瞬白く光り、黒色の背景に金色の後光が差すように在中カードが高速で移動して出現する。
 以上のように、原告ゲームでは、利用者が実際にプロ野球カードのパッケージを購入したかのような演出をし、さらにヴァーチャルならではのスピード感を加えている。特に、原告ゲームは選手カードの収集それ自体にもゲーム性を持たせているため、選手ガチャには、どのような選手カードを取得することができるかについて利用者に期待感を抱かせるような演出を施すことが重要であるところ、原告ゲームは上記のような演出を施して、最初は在中カードの上部に限って露出して、あえて、所属チームのロゴマークのほか、稀少性やチームカラーを表示する背景の一部を表示するに止めることにして、利用者に期待感を抱かせ、さらに、最終的に選手カード全体が出現するまでは、白色で表示し、どのような選手カードが出るのか明かさないようにして、利用者の期待感を一層高めるようにしている。上記の選手ガチャの一連のまとまった表現は、原告ゲームの特に重要な本質的特徴といえる。
b そして、他のゲームにおける表現をみると、そのガチャ演出は、パッケージから在中するカードが取り出されるという点において共通するものがあるが、アイデアにおいて共通するにすぎず、その表現はそれぞれ異なるものである。さらに、ガチャ演出には、他に表現方法が無数にあり、その選択の幅は広い。そうすると、原告ゲームにおけるガチャ演出は、単なるアイデアではなく、具体的な表現であり、かつ、創作性も有することは明らかである。よって、原告ゲームにおけるガチャの一連のまとまった表現には著作物性が認められるべきである。
(イ) 強化について
a 原告ゲームにおける強化の創作性を有する具体的表現は、以下の一連のまとまった表現であり、このような表現は、二つのカードが一枚に合成される演出として、原告ゲームの本質的特徴である。
@ 画面上下部分が濃く、中央部分が薄い水色の背景に、選手カードが画面上左右に出現する。
A それら二つのカードが左右から中央に水平移動し、重なり合ったところで光る。
B 一旦小さくなったカードが大きくなり、利用者の手前に迫ってくるように現れる。
b そして、他のゲームにおける表現をみると、その強化演出は、二つ並べられたカードが一枚に合成されるという点において共通するものがあるが、アイデアにおいて共通するにすぎず、その表現は原告ゲームにおける表現とは大きく異なるものである。さらに、強化演出には、他にも表現方法があり、選択の幅がある。そうすると、原告ゲームにおける強化演出は、単なるアイデアではなく、具体的な表現であり、かつ、創作性も有することは明らかである。よって、原告ゲームにおける強化の一連のまとまった表現には著作物性が認められるべきである。
(ウ) 試合について
a 原告ゲームにおける試合の創作性を有する具体的表現は、以下の一連のまとまった表現であり、このような表現は、試合の演出として、原告ゲームの本質的特徴である。
@ 試合開始前に、ゲーム画面に表示された野球フィールド上の各ポジションに、まず利用者の選手カードが配置され、次に、対戦相手の選手カードが配置される。
A 試合中、利用者チームの選手カードが画面上部に横並びで表示され、これと向かい合うように、対戦相手チームの選手カードが画面下部に横並びに表示される。
B 試合中にコンボシステムが発動すると画面上に稲妻が走り、連携した選手カードが光る。
C 試合が終了すると、画面全体が白く光り、試合結果が表示されるが、試合に勝利すると、中央部に金色で「WIN」と表示され、その背後に当該文字を囲むように月桂冠形状の植物の影が表示される。他方、試合に負けると、青色で「LOSE」と表示される。
b この点、被告が主張する他のゲームをみると、原告ゲームと球技を異にするものであったり、同じ野球ゲームであっても、野球場の各ポジションに選手カードが配置される演出をしている点において共通しても、氏名表示があったり選手の調子を表示したマークがあったりと独自の表現が施されている。また、被告主張のゲームの存在のみをもって原告ゲームの試合演出がありふれた表現であるとはいえない。
 また、トレーディングカードゲームにおいてカードを向かい合うように並べることが一般的に行われているとしても、被告が主張するゲームをみると、原告ゲームとは並んでいるカードの枚数や並び方が全く異なっており、画面上の背景も異なっているから、かかるゲームの存在をもって原告ゲームの試合演出がありふれた表現であるとはいえない。
 さらに、試合結果についても、その表示方法は無数であり、原告ゲームの試合演出はありふれた表現であるとはいえない。
 そして、「オーナーズリーグ」や「Dramatic プロ野球」といったゲームのように原告ゲームと異なる演出をするものもあり、他の表現方法もあり得るなかで原告は上記アの表現を選択したのであるから、原告における試合演出は、単なるアイデアではなく、具体的な表現であり、かつ、創作性も有することは明らかである。よって、原告ゲームにおける試合の一連のまとまった表現には著作物性が認められるべきである。
(エ) 選手カードについて
a トレーディングカードには、その題材の選択、稀少性の表現方法等の演出、被写体の表現の選択(例えば、写真とするか絵画とするかとか、どのようなポーズや構図とするかなど。)といった様々な点において選択の幅があり、多様な表現方法があるなかで、原告ゲームは、選手カードの収集そのものにもゲーム性を持たせており、利用者が欲しくなるような選手カードをデザインすることが重要となる。そこで、原告ゲームでは、利用者の収集意欲を高めるべく、以下のような独創的な表現をしている。
(a) 選手写真のポーズ、構図及び演出について
 原告は、選手のカードについて、次のように躍動感のあるポーズや二重に大きく選手写真を掲載し、臨場感を高めることで、利用者に入手したいと思わせる表現を選択している。
@ 中島選手について
 同選手の写真は、右打者である同選手がカード右方向を向き、左足を前に出し、バットをスイングし終わった瞬間を同人右側から撮影したものを用いている。
 さらに、原告ゲームにおける中島選手の選手カードは、写真が二重写しになっている。同選手の身体全体が写っている写真が手前に表示され、その右上奧側に手前側写真と同一の写真がおよそ4倍程度のサイズで大きく、若干薄くではあるがカラーで残像のように表示されている。手前側写真は、カード下端に足首が、カード上部より3分の1程度のところに頭部がくるように、全身が表示されており、奥側写真は、カード下部に腰が、カード上端に頭部が収まるように表示されている。
A ダルビッシュ選手について
 同選手の写真は、右投手である同選手がカード右方向を向き、左足を大きく前に出し、右手に持った野球ボールを投げようと後ろに振り上げようとする瞬間を同人右側から撮影したものを用いている。
 さらに、原告ゲームにおけるダルビッシュ選手の選手カードは、写真が二重になっている。同選手の身体全体が写っている写真が手前に表示され、その右上奧側に手前側写真と同一の写真がおよそ4倍程度のサイズで大きく、若干薄くではあるがカラーで残像のように表示されている。手前側写真は、カード下端に膝下が、カード上部より3分の1程度のところに頭部がくるように、全身が表示されており、奥側写真は、カード下部に腹部が、カード上端に頭部が収まるように表示されている。
B 坂本選手について
 同選手の写真は、右打者である同選手がカード左方向を向き、両手でバットを持ち、身体を左にねじりスイングが終わった直後の瞬間を同人左側から撮影したものを用いている。
 同選手の写真は、カード下部に腰回りが、カード上端に頭部が、バットを握るグリップ部分がカード右端、カード上部から4分の1程度に表示されるように、大きく掲載されている。
C 今江選手について
 同選手の写真は、右打者である同選手がカード右方向を向き、両手でバットを持ち、構えている瞬間を同人右側から撮影したものを用いている。
 さらに、原告ゲームにおける今江選手の選手カードは、写真が二重になっている。同選手の身体全体が写っている写真が手前に表示され、その右上奧側に手前側写真と同一の写真がおよそ4倍程度のサイズで大きく、若干薄くではあるがカラーで残像のように表示されている。手前側写真は、カード下端に膝下が、カード上部より3分の1程度のところに頭部がくるように、全身が表示されており、奥側写真は、カード下部に腰が、カード上端に頭部が収まるように表示されている。
(b) ファイアーモチーフについて
 トレーディングカードをみると、稀少性の高いカードであっても、特に背景に加工を施さないものがあるし、通常のカードと異なる背景を施すものでも、その表現方法は、ドット状や波状のラメ加工を施すものがあるなど無数に存在する。そのなかで原告ゲームは、カードの稀少性を一見して利用者に認識させ、かつ、優れたデザイン性から入手したいと心理的に思わせるために、選手写真の背景がオレンジ色に燃え、中心から放射線状に後光が差すようなファイアーモチーフを用いている。原告ゲームの選手のカードは、二重の選手画像と併せてファイアーモチーフを用いたことに最大の特徴があり、創作性が認められる。
 なお、原告は、ファイアーモチーフを含む選手カードの表現全体をもって著作物性を主張するのであり、被告が主張するように各要素に分解して著作物性を判断するのは相当ではない。
(c) 球団ロゴマークについて
 他のプロ野球カードをみると、球団ロゴマークが記載されていないものが多数あり、また、記載されているとしても、その位置やサイズ、演出がそれぞれ異なっているなか、原告ゲームの選手カードには、カード左上に所属するチームのロゴマークが記載され、そのサイズは、カード全体の16分の1程度を占め、さらに、後光が差すような表現を施しており、かかる表現は創作性を有すると認められる。
(d) 背番号、英字の選手名及び稀少性を表す星について
 他のプロ野球カードをみると、選手名の表記について、原告ゲームと違って漢字で表記するものがあれば、原告ゲームのように英字で表記してもフルネームまでは表記しないものもある。また、配置等についても、カード下部ではなく左部に表記するものや、横書きでなく縦書きで表記するものもあり、様々な表現があり得る。背番号についても、そもそも記載のないものや、あるとしても様々なサイズのものがあり、稀少性を表すマークについても、これがないものもあれば、五芒星マークなども存在する。
 そのなかで、原告は、カード下部に背番号や英字による氏名を表記して、稀少性を表すマークを金色の星形に表現することを選択したものである。
(e) 上記特徴の組み合わせについて
 以上のように要素ごとに個別にみても、表現方法は様々であるが、そのいずれを組み合わせるかという点になると、さらに無数の表現方法があり得る。
 そして、原告ゲームにおけるスターカード及びスーパースターカードにおいては、以上に述べたように、プロ野球選手を題材とし、その稀少性を表すために、スターカードについては選手画像を大きく表示し、スーパースターカードについては二重に表示し、さらに背景が燃え、後光が差すようなファイアーモチーフを用いている。加えて、カード左上にはカード全体のおよそ16分の1ほどのサイズで所属チームロゴマークを表記し、これに後光が差すような演出を施し、カード下部には背番号、英字氏名及び稀少性を表す金星を表示している。
 このように個々に独創性のある特徴を多く組み合わせることにより、原告は、原告ゲームにおけるスターカード及びスーパースターカードについて、他に類を見ない、独自の表現を行っており、高い創作性が認められることは明らかである。
エ まとまった表現の類似性について
 被告ゲームは、次のとおり、原告ゲームにおける@選手ガチャ、A強化、B試合、C選手カードに係る表現のいずれとも表現が同一又は類似するものである。
(ア) ガチャについて
 ガチャ演出として、パッケージからカードが取り出されるというアイデアは多く採用されているなかで、被告ゲームにおけるガチャ演出は、原告ゲームにおける選手ガチャの本質的特徴を全て兼ね備え、完全に同一の表現を行っているガチャ演出である。したがって、原告ゲームと被告ゲームに接する者は同一の印象を受けるといえる。
(イ) 強化について
 被告ゲームにおける強化演出は、原告ゲームにおける強化演出の本質的特徴を全て兼ね備えており、両者は同一の印象を与えるものである。
(ウ) 試合について
 被告ゲームにおける試合演出は、原告ゲームにおける試合演出の本質的特徴を全て兼ね備えていることから、両者は同一の印象を与えるものである。
(エ) 選手カードについて
 被告ゲームにおける選手カードは、原告ゲームにおける選手カードの本質的特徴を全て兼ね備えていることから、両者は同一の印象を与えるものである。被告ゲームにおける選手カードに接した者が、原告ゲームにおける本質的特徴を直接感得することができることは、他のプロ野球選手カードとも合わせて比較すれば一目瞭然である。
(3) ゲーム全体について
ア ゲームの各要素について
 また、原告ゲームの「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」及び「試合」の各要素における画面(影像)の表現や配列は、数多くある選択肢の中から原告が選択し、配列したものであり、原告ゲームの本質的特徴を表すものである。
(ア) 選手ガチャについて
 原告ゲームにおいては、「ガチャの種類の選択画面」、「選手カード獲得画面」、「獲得選手カードの能力値等表示画面」という構成からなる。そして、その配列は、上記列挙した順序で遷移し、利用者が選手ガチャを繰り返し行いたければ、「獲得選手カードの能力値等表示画面」から「ガチャの種類の選択画面」に戻り、さらに上記列挙した順序で遷移する。他方、利用者が選手ガチャを終えると、「ドリナイマイページ画面」に戻り、他の要素に移ることができる。
 そして、被告ゲームにおいては、原告ゲームと同様の構成からなり、その配列も原告ゲームと同じである。
(イ) スカウトについて
 原告ゲームにおいては、「ミッション選択画面」、「スカウト実行/結果表示画面」、「取得選手カード表示画面」、「レベルアップ表示画面」、「スカウト終了画面」及び「エリア代表者戦画面」からなる。そして、その配列は、上記列挙した順序で遷移し、スカウトを繰り返したければ、「スカウト終了画面」から「スカウト実行/結果表示画面」に戻り、さらに上記列挙した順序で遷移する。他方、利用者がスカウトを終えると、「エリア代表者戦画面」から「試合実施画面」に移行する。
 そして、被告ゲームにおいては、原告ゲームと同様の構成からなり、その配列も原告ゲームと同じである。
(ウ) 強化について
 原告ゲームにおいては、「強化指定選手カードの選択画面」、「コーチ転身選手カードの選択画面」、「強化確認画面」及び「強化実行画面」からなり、その配列は、上記列挙した順序で遷移する。
 そして、被告ゲームにおいては、原告ゲームと同様の構成からなり、その配列も原告ゲームと同じである。
(エ) オーダーについて
 原告ゲームにおいては、「入れ替える選手の選択画面」、「入れ替えたい選手の選択画面」及び「入れ替え後オーダー表示画面」からなり、その配列は、野手と投手とで分けて、それぞれ上記列挙した順序で遷移する。
 そして、被告ゲームにおいては、原告ゲームと同様の構成からなり、その配列も原告ゲームと同じである。
(オ) 試合について
 原告ゲームにおいては、「対戦相手の選択画面」、「対戦相手への行動選択画面」、「対戦する両チームの表示画面」及び「試合実施画面」からなり、その配列は、上記列挙した順序で遷移する。
 そして、被告ゲームにおいては、原告ゲームと同様の構成からなり、その配列も原告ゲームと同じである。
イ ゲーム全体の類似性について
 別紙対照表1、第2「ゲーム全体」記載のとおり、原告ゲームと被告ゲームは、いずれも単なるカードゲームではなく、あたかも利用者が野球チームを運営するかのような表現をしており、以下のような創作的な表現部分において同一又は類似するゲームとなっている。
@ 利用者は、選手ガチャ(被告ゲームにおけるガチャ)及びスカウト(被告ゲームにおけるミッション)を実行して、より多くの選手カードを収集していく。
 併せて、スカウト(被告ゲームにおけるミッション)の実行により、利用者のレベルを上げるため必要な経験値やAの強化に必要なポイントを獲得する。
A 利用者は、@によって集めた選手カードのうち強化したい強化選手カードを選択し、かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルをあげ、所持する選手カードを強化していく。
B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合などは、現在の野手オーダーや投手起用法(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、オーダーの入れ替えを行う。
C 利用者は、上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを、他の利用者などのチームと対戦させる。これによって、Aの強化に必要なポイントを獲得できる。
D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。
(4) 依拠
 原告ゲームは、平成23年3月4日から事前登録が行われ、同月30日にオープンベータ版、翌4月18日に正式版の提供・配信が開始されており、同日以降、何人でもこれをプレイすることができる状態にあったため、被告においても原告ゲームに接する機会はあった。
 また、原告ゲームは、平成23年6月11日には利用登録者数は100万人を突破し、同年8月11日に開催された「GREE Platform2011年上半期優秀アプリ表彰式」で、約1000(グリー発表)ものアプリの中から、総合大賞を受賞しており、原告ゲームは極めて著名なゲームであった。
 かかる事実に鑑みれば、被告が、利用者に極めて高い人気を有している原告ゲームに依拠して被告ゲームを製作したことは明らかである。
(5) 著作権侵害
 以上によると、被告ゲームは、その個別表現について、さらにゲーム全体についても、同一であるか、少なくとも被告ゲームに接した者が原告ゲームの本質的特徴を直接感得することができるから、原告ゲームを複製ないし翻案したものであり、原告ゲームの複製権ないし翻案権を侵害している。そして、被告は、被告ゲームをMobageにおいて配信して自動公衆送信しており、公衆送信権を侵害している。
〔被告の主張〕
(1) 創作性の判断枠組みに対し
ア 本件において著作物の翻案が成立するか否かを判断するためには、まず、原告ゲームと被告ゲームとで同一ないし類似している部分を抽出した上で、これらが単なるアイデアなどの表現それ自体ではない部分であるのか、又は、ありふれた表現であるなど表現上の創作性がない部分なのかを判断する必要があり、そして、被告ゲームにおいて、原告ゲームにない表現が存在することによって、被告ゲームと原告ゲームに接する者が表現全体から受ける印象を異にする場合は、被告ゲームから原告ゲームの本質的特徴を直接感得することはできないから、被告ゲームは原告ゲームの翻案ということはできないこととなる。
イ この点に関して原告は、比較するべきは原告ゲームのような野球ゲームにおいてどのような表現が用いられていたかであると主張する。しかし、原告ゲームは、トレーディングカードを用いたSNSゲームであることに争いはないから、トレーディングカード、トレーディングカードゲーム、SNSゲームといった各ジャンルにおいていかなる表現が用いられているのかを加味することは必須である。とりわけ、これらのジャンルの商品・ゲームを制作する者は、原告及び被告も含めて野球ゲームや野球カードのみを制作しているものではなく、様々なジャンルのゲームやカードを制作しているのであり、また、これらのゲーム等を利用する者は野球ゲームのみを利用するものではない。したがって、一定のジャンルのゲームでありふれた表現を、別のジャンルのゲームに採用したとしても、それは、ありふれた表現といわざるを得ない。
ウ 原告ゲームの配信以前に配信されたゲームは原告ゲームと被告ゲームとの共通点と同様の共通点を有する演出やルールを採用しているものが数多く存在していることから、原告ゲームの配信以後、又は配信から3か月以降に配信開始されたゲームであっても、原告ゲームを調査・研究の上制作されたものとは限らない。
エ また、表示できる画面が小さいということは、表現の選択の幅が狭められることを意味するものであり、本件に即していえば、ガチャ、強化(合成)、試合(バトル)、カードといったものをその狭い画面中に表現する場合において、ありふれた表現とならざるを得ない部分が多分に存在することを意味する。
(2) 個別表現に対し
ア 個別表現の創作性について
 原告が著作権侵害を主張する、「選手ガチャ」、「強化」、「試合」、「選手カード」における原告ゲームと被告ゲームの共通点は、単なるアイデアかまたはありふれた表現であり、しかも、被告ゲームには原告ゲームにない表現があるから、異なる印象を与えていることは明らかである。
(ア) 選手ガチャについて
 原告が主張する共通点のうち、原告が「ガチャ」において原告ゲームと被告ゲームとで類似しているとする点は、@画面上にパッケージが現れ、パッケージ上部が横に破られると、当該パッケージからカード上部のみが現れ、在中のカードが上に取り出されるとする点、A画面全体が一瞬白く光るとする点、B金色の後光が差すように在中カードが出現するとする点である。しかし、これらの要素をほぼ全て含むブラウザゲームやSNSゲームが存在しており、また、共通点ごとにみると、その要素を含む他のゲームが採用しており、いずれも単なるアイデア又はありふれた表現であり創作性がない。
 もとより、原告が主張する共通点には、共通点といえないものが含まれており、それを除くと、極めて抽象的な部分での共通点しか存在しない。そして、原告ゲームと被告ゲームの選手ガチャは、具体的表現において相違点があり、異なる印象を与えるものであり、類似していない。
(イ) 強化について
 原告が「強化」において原告ゲームと被告ゲームとで類似しているとする点は、画面上に左右に並んで配置した二つのカードが中央に移動し、重なり合ったところで光り、一旦小さくなったカードが大きくなることで利用者の手前に迫ってくるように表示するという点であるが、いずれも単なるアイデア又はありふれた表現であり創作性がない。すなわち、二つ以上のカードを合成してカードを強化すること自体は、ブラウザゲームであるトレーディングカードゲームから採用されているものであり、かつ、極めて多数のSNSゲームでも採用されているルールであって、単純なアイデアである。そして、カードを二つ画面に並べて中央に移動することによってカードが合成・強化することは、多くのSNSゲームにおいて採用されているありふれた表現である。
 また、原告ゲームと被告ゲームの「強化」は、具体的表現において相違点があり、異なる印象を与えるものであり、類似していない。
(ウ) 試合について
 原告が「試合」において原告ゲームと被告ゲームとで類似しているとする点は、@先に、利用者の選手カードがゲーム画面上に表示された野球フィールド上の各ポジションに配置され、その後に、対戦相手の選手カードが各ポジションに配置されること、A利用者チームの選手カードが画面上に並び、これに向かい合うように、対戦相手チームの選手カードも並んで表示されること、Bコンボシステムが発動すると稲妻が画面上に走った上で、連携した選手カードが利用者チームでは赤く、対戦相手チームでは青く光るという演出がなされていること、C試合が終了すると画面が光ること、D試合結果が表示されると中央に金色にWIN、背後に文字を囲むように月桂冠のような円状の植物が表示され、試合に負けると青字でLOSEと表示されること、以上の5点であるが、いずれもトレーディングカードゲームないしSNSゲーム等で一般的に採用されているルールであり、単なるアイデア又はありふれた表現であり創作性がない。
 他方で、原告ゲームと被告ゲームの「試合(リーグ)」は、具体的表現において相違点があり、異なる印象を与えるものであり、類似していない。
(エ) 選手カードについて
 原告が「選手カード」において原告ゲームと被告ゲームとで類似しているとする点は、@背景が燃え、後光が差すようなファイアーモチーフを用いていること、Aカードのレアリティを星印の数で表すこと、B選手画像が二重に、背景に大きく、多少薄く残影があるものとされていること、Cカード左上に球団のロゴマークがあること、Dカードに背番号と英字の氏名の表記があること、E選手のポーズ・構成が酷似していること、以上の6点であるが、いずれもトレーディングカードの時代から、さらにはブラウザゲームにおいても多用されてきたもので、単なるアイデア又はありふれた表現であり創作性がない。
 他方で、原告ゲームと被告ゲームの「選手カード」についてみると、具体的表現において相違点があり、異なる印象を与えるものであり、類似していない。
イ 一つのまとまった表現としての創作性について
(ア) 選手ガチャについて
 原告ゲームのパッケージのデザインは、バンダイナムコゲームスが運営する日本のプロ野球を題材とした著名なオンラインカードゲームである「プロ野球オーナーズリ−グ」で採用されていたものと共通するものであって、ありふれた表現であるし、被告ゲームにおけるパッケージとごく一部しか共通していないから、翻案が成立することはないというべきである。
 また、原告が共通点として主張するパッケージの出現から選手カードの出現までの演出をみると、選手カードが封入してあるパッケージ上部を切り取って開封し、これを切り取り口から取り出して、その中身である選手カードを確認するという一連の行動は、購入者が通常行う行為そのもの、すなわち社会的事実であって、これを動画で表現しようとすること自体はアイデアである。
 パッケージの上部を切り取った場合に、そこから選手カードの一部が見えることがあるというのも社会的事実であり、また、選手カードの全体が見えるまで選手カードに描かれた選手の画像等を見せないことや、パッケージから取り出される際にどの程度露出するかとか、一連の動作をゆっくり行うのか素早く行うのかといったことはいずれも単なるアイデアである。
 また、原告が主張する共通点は、他のゲームでも採用されているようなありふれた演出である。
 そして、原告ゲームと被告ゲームの共通点は極めて抽象的であり、両ゲームを具体的に比較すると多数の相違点があるから、これに接する者に対して異なる印象を与えることは明らかである。
 したがって、選手ガチャに関して著作権侵害は成立しないというべきである。
(イ) 強化について
 トレーディングカードゲームを用いたブラウザゲームやSNSゲームでは、強化したいカードに消滅するカードを合成することでその強化したいカードのレベルを上げるなどの強化を行うというルールが一般的に採用されており、原告ゲームと被告ゲームも、上記のルールを採用している。
 このルールは、二つのカードを合わせて一つのカードにすることを意味しており、これを強化の演出とすることは、明らかにアイデアである。
 そして、二つのカードを並べてそれらを近付けるということ自体もアイデアであり、原告ゲームと被告ゲームの強化における共通点は、アイデアである。
 そうでないとしても、原告ゲームと被告ゲームの強化における共通点は、他のゲーム等でもしばしば用いられているありふれた表現であり、創作性がないものである。
 そして、原告ゲームと被告ゲームの強化における共通点は極めて抽象的であり、両ゲームを具体的に比較すると多数の相違点があるから、これに接する者に対して異なる印象を与えることは明らかである。
 したがって、強化に関して著作権侵害は成立する余地はないというべきである。
(ウ) 試合について
 野球においていかなる選手がどのポジションに配置されているかということは事実であり、それを視覚的に示すために各選手の画像を各ポジションに並べて表示すること自体はアイデアである。
 月桂冠を試合に勝った場合に用いることは自体はアイデアであり、また、利用者チームと対戦相手チームが向かい合ってカードを配置することも、トレーディングカードゲームを行う際の一般的なルールであり、具体的な表現を前提とせずに単に稲妻を用いることも単なるアイデアである。
 したがって、原告ゲームと被告ゲームの試合における共通点は、単なるアイデアのレベルで共通するにすぎない。
 そして、原告ゲームと被告ゲームの試合における共通点は、他のゲームでも採用されているありふれた演出である。
 また、原告ゲームと被告ゲームを具体的に比較すると、試合において、多数の相違点があり、これに接する者に異なる印象を与えることは明らかである。
 したがって、試合に関して著作権侵害は成立しないというべきである。
(エ) 選手カードについて
 選手カードについて、選手画像を二重に表示し、背景をファイアーモチーフとし、カード左上にチームロゴマーク、カード下部には背番号、英字で氏名を表示する組み合わせは、著名なブラウザゲームである前述の「プロ野球オーナーズリーグ」でも採用されているほか、他のゲームでも広く採用されているものであり、その組み合わせに創作性が認められることはないというべきである。
 また、選手カードにおいて選手のポーズや構図が一致することはままあることであり、原告ゲームも「プロ野球オーナーズリーグ」と類似しているが、類似性があるからといって、翻案であるということにはならない。
 そして、原告ゲームと被告ゲームを具体的に比較すると、選手カードにおいて、相違点があり、これに接する者に異なる印象を与える。
 したがって、選手カードに関して著作権侵害は成立しないというべきである。
(3) ゲーム全体に対し
ア ゲームの各要素について
 原告は原告ゲームの「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」及び「試合」の各要素における画面(影像)の表現や配列は、数多くある選択肢の中から原告が選択し、配列したものであり、原告ゲームの本質的特徴を表すものであると主張する。しかし、原告の上記主張は、単なるウェブページの遷移方針というアイデアの共通性を挙げるにすぎず、著作権侵害は成立し得ない。
 また、原告が上記主張する画面遷移は、トレーディングカードゲームを用いたSNSゲームにおいて採用されている一般的なルールを、携帯電話向きゲームに反映したものとして、誰がやっても同じになる程度のありふれたものであり、この点からも著作権侵害は成立し得ない。
 さらに、携帯電話機向けウェブページのレイアウトにあっては、ユーザーの動線を考えて、ユーザーが重要だと思う情報(リンク)をページの上から順に並べることが基本である。また、様々な画面から、少ない画面遷移で目的とするページにたどり着けるようにしており、そのために重要な情報(リンク)をページの上から順に設置することは携帯電話機向けウェブサイトを構築するに当たって基本的な手法である。以上の点からしても、原告が主張する上記画面遷移は、極めてありふれたものであることが明らかである。
(ア) 選手ガチャについて
 「ガチャ」は、これを実行してカードを取得するものであり、無料ガチャと有料ガチャの複数の種類が用意されているのであるから、これを携帯電話機向けウェブサイト閲覧機能により実現する場合には、@ガチャの種類を選択する画面、Aガチャを実行する画面(カードを獲得する画面)、A取得したカードを表示する画面という遷移にならざるを得ない。そして、ガチャを実行してカードを獲得した後、もう一度ガチャを選択して実行したいときに、画面遷移が少なくガチャの種類を選択する画面に遷移するためには、取得したカードを表示する画面にガチャの種類を選択する画面にリンクを設置して、直接当該画面に遷移できるようにすることは、先に指摘した携帯電話機向けウェブサイト構築の常識である。また、ゲームの起点となる「マイページ」へのリンクも、取得したカードを表示する画面に設置することは同様に常識である。
 したがって、「ガチャ」というトレーディングカードを用いたSNSゲームにおいて採用されているルールを実現するための画面遷移としては、原告が主張する画面遷移のとおりとならざるを得ない。
 また、原告ゲームの画面遷移は、多数のSNSゲームで採用されているありふれたものである。
 したがって、原告ゲームの「ガチャ」における画面遷移に創作性は認められない。
(イ) スカウトについて
 スカウトについては、利用者は、「ミッション」を実行して、所持するカードを増やし、併せて、利用者のレベルを上げるため必要な経験値や合成に必要な合成ポイントを獲得する。さらに、トレーディングカードを用いたSNSゲームのミッションは、複数のミッションから構成され、一定数のミッションの達成率が100%となると、ボスが登場してボスとバトルするというルールを採用している。これらのルールを実現するための画面遷移としては、原告が主張する画面遷移のとおりとならざるを得ない。
 また、原告ゲームの画面遷移は、1000万人以上がユーザーとなっており極めて著名なSNSゲームである「怪盗ロワイヤル」が採用する画面遷移と同様のものであり、ありふれたものである。さらに、他にトレーディングカードを用いたSNSゲームにおいても原告ゲームと同様の画面遷移が採用されており、ありふれた画面遷移である。
 したがって、原告が主張する「スカウト」に関する画面遷移に創作性は認められない。
(ウ) 強化について
 合成は、収集したカードから合成したいカードを選択し、当該カードに他のカードを併せることで、カードのレベルを上げ、所持するカードを強化していくものであるから、これを携帯電話機向けウェブサイト閲覧機能により実現する場合には、@合成したいカード(合成ベースカード)を選択する画面、A合成により消滅するカードを選択する画面、B合成を実行する画面という遷移になることは当然である。また、合成を行うことでカードが消滅してしまうことから、合成の実行前にいかなるカードが合成により消滅するか、選択されたカードが正しかったか否かを確認することも一般的である。そのため、合成を実行する画面の前に、合成するカードを確認する画面を入れることもありふれている。
 したがって、合成というトレーディングカードを用いたSNSゲームにおいて採用されているルールを実現するための画面遷移としては、原告が主張する画面遷移のとおりとならざるを得ない。
 また、原告ゲームと同様の画面遷移は、多数のトレーディングカードを用いたSNSゲームで採用されており、かかる画面遷移はありふれている。
 よって、原告が主張する「強化」に関する画面遷移に創作性は認められない。
(エ) オーダーについて
 「デッキ」は、自己の望んだカードや能力値の高いカード等を入手した場合等に、現在構築してあるデッキを見直し、カードを入れ替えてデッキの構築を改めるというルールであるから、これを携帯電話機向けウェブサイト閲覧機能により実現する場合には、@デッキに設定した入れ替えるカードを選択する画面、A入れ替えたいカードを選択する画面、B入れ替えた後のデッキを表示する画面とならざるを得ない。また、複数のデッキを設定することができるルールを採用するSNSゲームも多数存在しており、さらに、平成22年第4弾(12月発売)までに5000万枚以上の選手カードを販売した「プロ野球オーナーズリーグ」のオーダー編成、すなわちデッキの編成においては、野手と投手のオーダー、すなわちデッキを野手と投手に分けて設定するようになっている。
 このように複数のデッキが存在するルールや野手と投手のオーダーを分けて設定するルールを採用した場合には、原告が主張する画面遷移とならざるを得ない。
 また、かかる画面遷移は、平成22年第4弾(12月発売)までに5000万枚以上の選手カードを販売した上記「プロ野球オーナーズリーグ」のオーダー編成、すなわちデッキの編成において採用されている画面遷移と共通しており、ありふれたものである。
 したがって、原告が主張する「オーダー」に関する画面遷移に創作性はない。
(オ) 試合について
 「バトル」は、作成、強化したカードで構築したデッキをもって、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などと対戦するものであり、 これを携帯電話機向けウェブサイト閲覧機能により実現する場合には、バトル相手を選択する画面とバトルを実施する画面が必須である。また、バトルで敗北すると合成のためのポイントが取得できないばかりか、バトルに必要なポイントを消費してしまうため、勝てる相手かどうかを検証する必要がある。そのため、自らのデッキの内容等とバトル相手の情報を掲載して、比較する画面(バトルする両デッキの表示画面)が必要となる。したがって、その画面遷移は、原告が主張する画面遷移とならざるを得ない。
 また、試合も前記「スカウト」と同様に、上記「怪盗ロワイヤル」が採用する画面遷移と同様のものであり、他にトレーディングカードを用いたSNSゲームにおいても同様の画面遷移が採用されているところであり、かかる画面遷移はありふれている。
 したがって、原告が主張する試合に関する画面遷移に創作性はない。
イ ゲーム全体について
 原告が原告ゲームの全体の著作物であると主張する、選手ガチャ・スカウトを実行して所持カードを増やす、経験値や強化に必要なポイントを獲得する、選手カードを強化する、他の利用者のチームと対戦する、といったものは全てゲームのルールである。かかるゲームのルールは著作権の保護の対象外であって、主張自体失当である。
 また、原告ゲームにおいて採用するルールは、上記「怪盗ロワイヤル」におけるルールと、上記「プロ野球オーナーズリーグ」のルール、さらにはカードの合成を採り入れた「ブラウザ三国志」を単純に組み合わせたものであり、また、トレーディングカードを用いたSNSゲームにおいて一般的に採用されている極めてありふれたルールであり、かかるルールを表現したとしてもこれがありふれているものであることは明らかである。
ウ 小括
 よって、原告ゲーム全体についてみても、アイデアにすぎないか、ありふれた表現として創作性がないから、被告ゲームについては複製ないし翻案には当たらず、著作権侵害は成立しない。
(4) まとめ
 以上のとおりであるから、原告の著作権侵害の主張はいずれも理由がない。
2 争点(2)(被告ゲームの配信行為は不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか)について
〔原告の主張〕
(1) 原告ゲームの商品等表示性
 原告ゲームの商品等表示は、原告ゲームの進行及びゲームの影像と同進行に伴う変化の態様である。
 SNSゲームである原告ゲームは、利用者が携帯端末を用いてアクセスすることで容易に利用でき、また、無料で遊べるものであるところ、利用者には、まずなによりもゲームをプレイしてもらって原告ゲームを認識してもらい、ゲームを進めるにつれ、より深く、または、有利にゲームを進めるために料金を支払ってもらうという点に特徴がある。
 原告ゲームは、後述するとおり、選手ガチャ、スカウト、オーダー、強化、試合という五つの要素を含むゲームの進行について、他のゲームでは見ることができない特徴を有する日本で初めてのSNS野球ゲームであり、かかる進行に伴って原告ゲームのゲーム影像が変化していくことから、利用者は原告ゲームをプレイし、ゲーム影像及びその変化の態様を見れば、それが原告ゲームであると識別する。
 したがって、原告ゲームの進行及びゲームの影像と同進行に伴う変化の態様は、原告ゲームの商品等表示といえる。そして、その内容は、別紙対照表2記載のとおりであり、以下、詳述する。
ア 原告ゲームの進行について
 原告ゲームの進行は、原告が開発し、他社のゲームに先駆けて最初に採用した方式であり、独自の表示として利用者から認識されている。したがって、そのようなゲーム進行に接すれば、利用者は、それが原告ゲームであるということを自他識別するものである。
 具体的には、原告ゲームは、選手ガチャ、スカウト、オーダー、強化、試合という五つの要素が相互に関係するように構成されており、利用者は、以下の進行に沿ってゲームを進めていく。
@ 利用者は、選手ガチャ及びスカウトを実行して、所持する選手カードを増やしていく。
 併せて、スカウトの実行により、利用者のレベルを上げるため必要な経験値やAの強化に必要なポイントを獲得する。
A 利用者は、@によって集めた選手カードのうち強化したい選手カードを選択し、かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルをあげ、その能力値を上げていく。
B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合などは、現在の野手オーダーや投手起用法(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、オーダーの入れ替えを行う。
C 利用者は、上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させる。これによって、Aの強化に必要なポイントを獲得できる。
D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。
イ 原告ゲームの影像とゲーム進行に伴うその変化の態様について
 上記原告ゲームの進行は、原告ゲームの影像とその変化の態様として、具体的には以下のとおり表示されている。
(ア) 選手ガチャについて
 「選手ガチャ」を実行すると、まず画面中央に大きくパッケージの画像が現われ、次いで当該パッケージ上部が左から右へと横に破られるとパッケージからカード上部のみが現われ、次にパッケージ在中のカードが上に取り出されると、画面全体が一瞬白く光り、金色の後光が差すように在中カードが出現するといった表示がされている。
(イ) 強化について
 「強化」では、まず、利用者が有する選手カードのうち、強化したい選手カードを「強化指定選手カード」に指定し、他方、強化したい選手カードの強化に必要な選手カードを「コーチ転身選手カード」に設定する。その上で、強化を実行すると、画面上左右に二つのカードを並べて配置して表示し、次いでそれら二つのカードが左右から中央に移動して、重なり合ったところで光り、一旦小さくなったカードが大きくなり、利用者の手前に迫ってくるように現れるという表示がされている。
(ウ) 試合について
 「試合」のコマンド画面においては、対戦可能な他の利用者が「アバター」と当該他の利用者が所持する選手カードの中から「リーダー」として選択した選手カード1枚とともに、リストとなって表示されている。
 対戦相手を選択すると、試合が始まり、まず、利用者の選手カードがゲーム画面上に表示された野球フィールド上の各ポジションに配置され、次に、対戦相手の選手カードが各ポジションに配置される。そして、利用者チームの選手カードが画面上部に横並びで表示され、これと向かい合うように、対戦相手チームの選手カードが画面下部に横並びに表示される。
 「試合」において、原告ゲームは、コンボシステムを採用しており、コンボシステムが発動すると稲妻が画面上に走った上で、連携した選手カードが光るという表示がされている。
 試合が終了すると画面全体が白く光り、試合結果が表示されるところ、試合に勝利すると、中央部に金色で「WIN」と表示され、その背後に当該文字を囲むように月桂冠形状の植物が表示される。他方、試合に負けると、青色で「LOSE」と表示される。
(エ) スカウトについて
 「スカウト」は、日本各地を回りながら選手の調査を行うものであるところ、スカウト画面にはエリア一覧やミッション一覧が表示され、各ミッション画面では、日本地図とともに、当該ミッションにおいて取得可能な選手カード残枚数が、「?」が記載されたカードにて表示されている。
(オ) オーダーについて
 野手オーダー画面には現在の1番から9番及び代打のオーダーが、その選手カードの影像、選手氏名、レベル、コスト、カード種類、打撃、走力及び守備などとともに表示される。
 また、投手起用法画面には、現在の先発3名、中継ぎ2名及び抑え1名が、その選手カードの影像、選手氏名、レベル、コスト、カード種類、球威、制球及び変化などとともに表示される。
ウ 被告ゲームについて
 被告ゲームの商品等表示は、被告ゲームの進行及びゲームの影像と同進行に伴う変化の態様をいう。具体的には以下のとおりである。
(ア) 被告ゲームの進行について
 被告ゲームにおいては、ガチャ、ミッション、オーダー、強化、試合という五つの部分が相互に関係するように構成されており、利用者は、以下の進行に沿ってゲームを進めていくものである。
@ 利用者は、ガチャ及びミッションを実行して、所持する選手カードを増やしていく。
 併せて、ミッションの実行により、利用者のレベルを上げるため必要な経験値やAの強化に必要なポイントを獲得する。
A 利用者は、@によって集めた選手カードのうち強化したい選手カードを選択し、かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルをあげ、所持する選手カードを強化していく。
B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合などは、現在の野手オーダーや投手オーダー(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、オーダーの入れ替えを行う。
C 利用者は、上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させる。これによって、Aの強化に必要なポイントを獲得できる。
D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。
(イ) 被告ゲームの影像とゲーム進行に伴うその変化の態様について
a ガチャについて
 「ガチャ」を実行すると、まず画面中央に大きくパッケージの画像が現われ、次いで当該パッケージ上部が左から右へと横に破られるとパッケージからカード上部のみが現われ、次にパッケージ在中のカードが上に取り出されると、画面全体が一瞬白く光り、在中カードが出現するといった表示がされている。
b 強化について
 「強化」では、まず、利用者が有する選手カードのうち、強化したい選手カードを「ベースカード」に指定し、他方、強化したい選手カードの強化に必要な選手カードを「能力を引継ぐカード」に設定する。その上で、強化を実行すると、画面上左右に二つのカードを並べて配置して表示し、次いでそれら二つのカードが左右から中央に移動して、重なり合ったところで光り、一旦小さくなったカードが大きくなり、利用者の手前に迫ってくるように現れるという表示がされている。
c リーグ(試合)について
 対戦可能な他の利用者が「アバター」と当該他の利用者が所持する選手カードの中から「リーダー」として選択した選手カード1枚とともに、リストとなって表示されている。
 対戦相手を選択すると、試合が始まり、まず、利用者の選手カードがゲーム画面上に表示された野球フィールド上の各ポジションに配置され、次に、対戦相手の選手カードが各ポジションに配置される。そして、利用者チームの選手カードが画面左部に縦並びで表示され、これと向かい合うように、対戦相手チームの選手カードが画面右部に縦並びに表示される。
 試合において、被告ゲームは、コンボシステムを採用しており、コンボシステムが発動すると稲妻が画面上に走った上で、連携した選手カードが光るという表示がされている。
 試合が終了すると画面全体が白く光り、試合結果が表示されるところ、試合に勝利すると、中央部に金色で「WIN」と表示され、その背後に当該文字を囲むように月桂冠形状の植物が表示される。他方、試合に負けると、青色で「LOSE」と表示される。
 なお、現在、被告ゲームにおいては試合を行うためのバナーを「リーグ」としているが、これは「試合」から名称変更したものであり、内容は一切変わっていない。
d ミッション(視察)について
 少なくとも平成23年8月26日頃以前のミッション画面にはステージ一覧やミッション一覧があり、各ミッション画面には、日本地図が描かれ、日本全国を回るような表示となっており、また、当該ミッションにおいて取得可能な選手カード残枚数が、「?」が記載されたカードにて表示されていた。
 なお、被告ゲームにおいては、平成23年8月26日頃、「視察」という名称が「ミッション」に変更され、視察画面において表示されていた日本地図も削除されているが、その他の表示は現在も存在している。
e オーダーについて
 野手オーダー画面には現在の1番から9番及び代打のオーダーが、その選手カードの影像、選手氏名、レベル、コスト、カード種類、打力、走力及び守備などとともに表示される。
 また、投手オーダー画面には、現在の先発3名、中継ぎ2名及び抑え1名が、その選手カードの影像、選手氏名、レベル、コスト、カード種類、球威、制球及び投力などとともに表示されている。
エ 被告の主張に対する反論
(ア) ゲームの進行について
 被告は、原告ゲームの進行は全てゲームのルールであり、不競法が定める商品等表示には該当しないと主張するが、原告ゲームの進行は、画面の選択及び配列として表示されており、原告ゲームの特徴であり本質であって、単なるルールではない。
(イ) ゲームの影像及びその変化の態様について
 被告は、ゲーム影像が商品等表示と認められるには、当該ゲーム影像が、本来の商品等表示と同等の商品等表示機能を備えるに至り、商品等表示として需要者から認識されることが必要であるところ、原告ゲームの影像は極めてありふれた表示であって、何らの独特の特徴も有していないと主張する。
 しかし、原告ゲームについては、SNSゲームであることの特殊性を看過してはならない。一般の家庭用ゲーム機用ソフトについては、利用者は、店頭で商品パッケージを見て購入を決定するのであり、その過程で実際のゲーム影像及びその変化の態様を目にすることはない。これに対してSNSゲームは、利用者がプラットフォーム上で選択してすぐにプレイすることができるものであり、しかも、多くのSNSゲームは課金制度を採用して、無料ゲームを進める中で課金されるアイテム等を利用することによってより有利にゲームを進めることができるシステムを採用している。そのため、利用者は、SNSゲームのタイトル名のみならず、無料でプレイできるゲームの影像及びその変化の態様に接することができ、プレイを通じて当該ゲームを認識することができる。
 したがって、SNSゲームにおいては、影像及びその変化の態様は商品等表示に当たるというべきである。
(2) 商品等表示の類似性
 前記(1)アの原告ゲームの進行と前記(1)イの原告ゲームの影像とゲーム進行に伴うその変化の態様と、上記ウの被告ゲームのそれらとを対比すると、被告ゲームの商品等表示は、原告ゲームの商品等表示と類似する。
ア ゲームの進行について
 別紙対照表2、第1「ゲームの進行について」の項に記載のとおり、被告ゲームは、利用者が、選手ガチャ、スカウト、オーダー、強化、試合等を選択してゲームを進めていくものであり、ゲームの進行は原告ゲームのものと全く同一である。
イ ゲームの影像とゲーム進行に伴うその変化の態様について
 別紙対照表2、第2「ゲームの影像とゲーム進行に伴うその変化の態様について」の1項ないし5項に記載のとおり、被告ゲームは、ガチャ、強化、リーグ、ミッション、オーダーの各要素において、ゲーム影像とその変化の態様が、原告ゲームのものと同一又は類似する。
(3) 周知性または著名性
 原告ゲームの影像及びその変化の態様は、他の実在するプロ野球選手の写真等を表示したカードを用いて行う野球ゲームにおいては存在しない独特の特徴を有しており、原告ゲームの利用登録者数は、平成23年6月7日、100万人を突破している。また、原告ゲームは、同年8月4日、原告ゲームが配信されているプラットフォームGREEにおける「GREE Platform2011年上半期優秀アプリ表彰式」で総合大賞を受賞している。
 したがって、原告ゲームは、周知又は著名なゲームである。
(4) 小括
 以上のとおりであるから、被告ゲームを配信する行為は、不競法2条1項1号又は同2号に違反する。
〔被告の主張〕
 争う。原告が商品等表示として主張するもののうち、選手ガチャ、スカウトを実行して所持カードを増やす、経験値や強化に必要なポイントを獲得する、選手カードを強化する、他の利用者のチームと対戦するといったものは、全てゲームのルールであり、これを不競法によって保護することは、公開されたゲームのルールを独占させることになり、かえって公正な競争を確保するという不競法の立法目的を損なうものである。原告ゲームのルールは、他のゲームを単純に組み合わせたものであり、トレーディングカードを用いたSNSゲームにおいて一般的に採用されているものである。したがって、原告ゲームについて商品等表示性は否定されるべきである。
 また、ゲーム影像は、商品の出所表示を本来の目的とするものではないから、ゲーム影像が商品等表示と認められるには、当該ゲーム影像が本来の商品等表示と同等の商品等表示機能を備えるに至り、商品等表示として需要者から認識されることが必要である。しかるに、原告ゲームの影像については、極めてありふれた表示であって、何らの独特の特徴も有していない。したがって、この点からも、原告ゲームの影像が商品等表示であるということはできない。
3 争点(3)(被告ゲームの配信行為は不競法2条1項3号の不正競争に該当するか)について
〔原告の主張〕
(1) 商品形態の意義
 商品の形態とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう(不競法2条4項)ところ、原告ゲームのようなSNSゲームは、映し出される表示画面を知覚することによってゲームを認識することができるものであり、かような表示画面によって、ゲームの形状、模様、色彩が表されている。
 また、本号の趣旨は、他人の商品形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争行為の一つに定めることで、当該商品形態に対して資本や労力の投下を行った者の利益を保護する点にあるところ、原告ゲームのような無形物においても、その要保護性は変わらない。
 したがって、原告ゲームの画面表示も「商品形態」に該当するということができる。
(2) 原告ゲームの「形態」
 原告ゲームのように複数の表示画面が順次表われ、これらが遷移することでストーリーが展開していくゲームにおいては、@主要な表示画面の展開の組み合わせ、及びAその各表示画面内の表示をもって、ゲームの「形態」というものと解するべきである。したがって、原告ゲームの「形態」は、@五つの要素における各表示画面の展開の組み合わせ及びA各表示画面内の表示の総合である。
ア @五つの要素における各表示画面の主要な展開の組み合わせ
 原告ゲームにおける@各表示画面の展開の組み合わせは、「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」及び「試合」という五つの要素における各表示画面の展開の組み合わせである。そして、各構成要素における具体的な各表示画面の選択及び配列は、別紙選手ガチャ画面遷移図ないし別紙試合画面遷移図に各記載のとおりである。
イ A各表示画面内の表示
 原告ゲームにおけるA各表示画面内の表示の内容は、前記1(2)アの各項のとおりである。
(3) 模倣
 「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう(不競法2条5項)。
ア 依拠
 前記1(4)の〔原告の主張〕の事実に鑑みれば、被告が、利用者に極めて高い人気を有している原告ゲームに依拠して被告ゲームを作り出したことは明らかである。
イ 実質的同一性
 被告ゲームの「形態」、すなわち、被告ゲームにおける@主要な各表示画面の展開の組み合わせ及びA各表示画面内の表示は、@被告ゲームの五つの本質的な構成要素並びに具体的な各表示画面の選択及び配列と、A各表示画面内の表示と同様であり、原告ゲームの「形態」と実質的に同一である。
(4) 不正競争行為
 被告は、Mobageにおいて、被告ゲームを貸し渡し、または貸し渡しのために展示することで、不正競争行為を行っている。
(5) 小括
 以上のとおり、被告が被告ゲームを貸し渡し、又は貸し渡しのために展示する行為は、不競法2条1項3号に該当する。
〔被告の主張〕
 争う。不競法2条1項3号は、同項1号及び2号のように「電気通信回線を通じて提供」する行為を規定していないから、被告ゲームを配信する行為は、不競法2条1項3号の不正競争に含まれない。
 また、不競法2条1項3号の「商品の形態」は有体物に限られると解すべきである。原告ゲームや被告ゲームのように携帯電話機の画面に表示される電磁的記録は、有体物ではないから、上記「商品の形態」には当たらない。まして、原告が主張する各表示画面の選択及び配列が上記「商品の形態」に当たらないことは明らかである。
4 争点(4)(被告ゲームの配信行為は不法行為に該当するか)について
〔原告の主張〕
(1) 原告は、SNSゲーム、オンラインゲーム、家庭用ゲームソフト、アミューズメント機器、カードゲーム、携帯端末向けコンテンツ、玩具・ホビー、音楽・映像ソフト等の企画、制作、製造及び販売等を業とする会社であり、長年にわたってゲーム業界において培ってきた経験やノウハウ、知見等を活かして、独自の工夫をしてSNSゲームシステムを構築し、これをプロ野球カードを題材としたゲームに用いることで、他に類を見ないゲームを日本で最初に制作し、これを配信することで営業活動をしているものである。
 原告は、これまでに「プロ野球スピリッツ」や「実況パワフルプロ野球」といった野球をテーマにした家庭用ゲームソフトの販売、「遊戯王カード」「ベースボールヒーローズ」等のトレーディングカードを使用したゲームを販売して、それらを通じて培った、ユーザーの嗜好や興味に応じたゲーム設計上の工夫、個々のカードの設定、ゲームバランスといった原告ならではの実績の積み重ねがあり、そうした実績を踏まえて、実在するプロ野球選手のトレーディングカードを用いたSNSゲームシステムを独自に構築したのである。
 原告ゲームは、プロ野球カードを題材としたゲームであり、@利用者は「スカウト」や「選手ガチャ」などといった選手カードの入手方法を用いて実名選手カードを収集し、Aその集めた選手カードを利用して利用者独自のプロ野球チームの「オーダー」を組んだり、選手カードの「強化」を行ったりすることでチーム全体を強化し、Bその強化したチームで他の利用者のチームと「試合」を行いながら、リーグ戦で上位を目指し、自己の理想とするチームを作成することを内容とするSNSゲームである。原告ゲームは、別紙原告ゲーム相関図記載のように上記@ないしBに係る各要素を相互に関連させたものであるが、このようにそれらの各要素が相互に関連することで、他に類を見ないゲーム性を有している。
 以上のような原告ゲームにおける設定や仕組みは、原告が長年にわたってゲーム業界において培ってきた経験と工夫を活かして構築したものであり、原告しか制作し得ない独自かつ絶妙なゲームバランスを有するものである。
 そして、原告ゲームは、SNSゲームという特性上、基本的には無料ゲームでありつつも、一連のゲームの流れの中に課金アイテムを設置して、ゲームを有利にかつ早期に進めたい利用者が課金アイテムを利用するような野球カードゲームの仕組みを独自に構築し、その有する経験やノウハウを駆使して無料部分と有料部分をバランスよく配分していることに、本件ゲームにおける原告の営業活動のポイントがある。
 原告ゲームは、「GREE Platform2011年上半期優秀アプリ表彰式」において総合大賞を受賞し、現在、GREEで登録会員数300万人を突破していることなどから、課金による高い収益を望めることが実証されているところであり、原告ゲームのようなゲームシステムやゲームバランスでなければ、原告ゲームのように多くの会員を集めることはできず、ひいては高い売上を上げることもできないものである。
 原告は、かかる原告ゲームの商品開発のために、費用・労力を投じているのであり、上記原告ゲーム設定や仕組みといったゲームシステムやゲームバランスを兼ね備えたゲームを初めて構築し、配信して行う原告の営業活動は法的保護に値するものである。
(2) 原告ゲームにおいては上記のような特徴があり、売上に繋げるべき創意工夫が施されており、課金による高い収益が望めるものであるところ、被告は、別紙被告ゲーム相関図記載のとおり、原告ゲームと同じプロ野球選手カードゲームを、ゲームシステムやゲームバランスにとどまらず、細部にわたるまで、完全に原告ゲームを模倣して、原告ゲームと実質的に同一の被告ゲームを作成し、かかる被告ゲームをSNSゲームという原告と競合する商圏において配信した。
 被告は、被告ゲーム以外にも多数のSNSゲーム(以下「他の被告ゲーム」という。)を制作・配信しているが、登録会員数300万人を突破しているゲームは、平成24年6月14日現在、被告ゲームのみである。被告は、原告ゲームのゲームシステムを完全に模倣したからこそMobageにおいて、リリースから僅か31日間という、他の被告ゲームと比較して圧倒的な速さで登録会員数100万人を達成し、さらには300万人を超える会員を集めることができた。
 このように、被告は原告ゲームのゲームシステムを完全に模倣することによって、原告のように費用・労力をかけることなく高い収益が望める被告ゲームを作成、配信することができており、かかる行為は、先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱するものである。
(3) したがって、被告の被告ゲームを配信する行為は、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値すべき営業活動上の利益を侵害する行為として不法行為を構成するというべきである。
〔被告の主張〕
(1) 否認ないし争う。被告ゲームは原告ゲームを模倣したものではない。
(2) 著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしている。また、不競法も、事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争行為の発生原因、内容、範囲等を定め、周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしている。そうすると、ある行為が著作権侵害や不正競争に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利や商品等表示を独占的に利用する権利は、原則として法的保護の対象とはならないとされるべきである。したがって、著作権法や不競法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない。
 これを本件についてみると、原告が原告ゲームの独自の創意と工夫としていると主張する点は、いずれも原告ゲーム配信開始以前からも存在していたルールであり、原告ゲームをみるとその細部において、著名なゲームや多数のSNSゲームと一致しており、そこに原告独自の創意と工夫というものは認められない。したがって、被告ゲームが原告ゲームとゲームシステム等が共通するとしても、そのことが本件において不法行為が認められるような特段の事情には当たらないというべきであり、他に上記特段の事情は認められない。
(3) したがって、被告が原告に対して不法行為責任を負うことがないのは明らかである。
5 争点(5)(損害発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
(1) 主位的請求
ア 著作権法114条2項に基づく請求
(ア) 被告は、DeNAが運営する携帯電話等のプラットフォームであるMobageにおいて、被告ゲームを配信しているところ、Mobageの平成23年度6月末の有効会員数は2971万人であり、2011年度第1四半期の「モバコイン」(1コイン=1円)の消費量は、1日当たり3億7152万2222円であるから、会員一人当たりの1日の消費量は12.5円となる。
(イ) 被告の売上に対する利益率は60.9%であると推測され、被告の被告ゲームの配信行為等による一人当たりの1日の利益は、7万6125円である。
(ウ) 被告は、平成23年8月18日から被告ゲームの配信を開始しているところ、同月26日時点で既に会員数が50万人を突破して、同年9月5日には会員数が70万人を突破している。
 さらに、被告ゲームの会員数は開始96時間(4日間)で30万人を突破していることも考え併せると、少なくとも被告ゲームの会員数は、平成23年8月18日から同月26日まで直線的に増加して50万人に達し、さらに翌27日から同年9月5日まで直線的に増加して70万人に達したといえる。
 したがって、平成23年8月18日から同年9月5日までの19日間における被告ゲームの総利用者数は、825万人(=(50万人×9日間×1/2)+(50万人×10日間+20万人×10日間×1/2))となる。
(エ) よって、被告が平成23年8月18日から同年9月5日までに被告ゲームの配信により受けた利益の額は、6280万3125円を下らない。
 そこで、原告はかかる損害金6280万3125円のうち5595万1875円を請求する。
イ 不競法5条2項に基づく請求
(ア) 前記ア(イのとおり、被告の被告ゲームの配信行為等による、一人当たりの1日の利益は7万6125円である。
(イ) そして、前記のとおり、少なくとも被告ゲームの会員数は、平成23年8月18日から同月26日までは50万人に直線的に増加し、翌27日から9月5日までは50万人から70万人に直線的に増加しているといえるため、平成23年8月18日から同年9月5日までの19日間における被告ゲームの総利用者数は、825万人となる((50万人×9日間×1/2)+(50万人×10日間+20万人×10日間×1/2))。
(ウ) よって、被告が平成23年8月18日から同年9月5日までに被告ゲームの配信により受けた利益の額は、6280万3125円を下らない。
 そこで、原告はかかる損害金6280万3125円のうち5595万1875円を請求する。
(2) 予備的請求(民法709条に基づく請求)
ア 被告ゲームは原告ゲームのゲームシステムを完全に模倣し、原告ゲームにただ乗りしているものであるところ、原告は、被告による被告ゲームの配信行為により、原告ゲームにおける課金の収益を被告に不当に奪われた。このことは、以下に述べるSNSゲームにおける課金利用者の性質及びSNSカードゲームにおける先行してゲームを開始した利用者(以下「先行利用者」という。)の有利性をみれば明らかである。
イ SNSゲームにおける課金利用者の性質
 多くのSNSゲームは、原則として無料であるが、料金を支払って課金アイテムを購入することにより、ゲームを有利に進めることができるものであり、かかるSNSゲームにおける課金利用者は、金員を支払ってでもゲームを有利に進めたいという意思を有する熱心な利用者ということができる。
 この点、SNSゲーム一般において、一度でも課金をしたことがある課金利用者は全体の37%となっている。
 かかる課金利用者は、熱心なゲーム利用者であるため、被告ゲームの課金利用者は、被告ゲームが配信されていなかった場合には、原告ゲームで課金していたといえる。
ウ 先行利用者の有利性
 原告ゲーム及び被告ゲームのようなゲームにおいては、以下に述べるとおり、先行利用者が有利にゲームを進めることができ、後行してゲームを開始した利用者(以下「後行利用者」という。)が不利となるという特殊性がある。
(ア) ゲーム内容を熟知していることによる有利性
 SNSゲームは、一般的に多数の利用者が随時ゲームに参加するため、同一ゲーム内に、先行利用者と後行利用者が混在することとなるが、先行利用者は、当該ゲームの進行過程や操作性を熟知しており、後行利用者に比べると、当然、当該ゲームを有利に進めることができる。
(イ) 長期間利用による有利性
 原告ゲーム及び被告ゲームにおいては、「スカウト」(被告ゲームにおいては「ミッション(視察)」)を実行するために消費する「行動力」(被告ゲームにおいては「体力」)や「試合」を実行するために消費する「運営コスト」(被告ゲームにおいては「コスト」)が、原則として時間の経過によって回復されるため、絶対的に利用期間の長い先行利用者ほどより有利にゲームを進めることができ、かかる傾向はより顕著である。
(ウ) カードゲームであることによる特殊性
 さらに、原告ゲーム及び被告ゲームのようなカードを収集し、保有するカードからデッキ(原告ゲーム及び被告ゲームにおいては「オーダー」)を組むというカードゲームでは、より強力で稀少性の高いカードを保有することも、ゲームを有利に進める上で重要である。
 この点、利用期間が長ければその分だけ、強力で稀少性の高いカードを取得する機会も多くなるから、結果として、先行利用者は、後行利用者に比べ、多種多様な選手カードをより多く取得することができることになる。
 このようなカードゲームとしての特殊性からしても、先行利用者の方が、後行利用者に比べて、より有利にゲームを進めることができ、他方、後行利用者としては、すでに多くのカードを保有している先行利用者と競わなければならないという点で不利になる。
 加えて、原告ゲーム及び被告ゲームにおいては、保有する選手カード同士を合成させ、選手カードを強化することでも自己の球団を強くすることができるから、保有するカードの数や能力に違いのある先行利用者と後行利用者の差は、さらに大きくなる。
エ そして、原告ゲームは、GREEにおいて、平成23年3月4日から事 前登録を開始、同月30日にオープンベータ版、翌4月18日に正式版の提供を開始し、徐々に人気を博し、同年6月7日には登録会員数が100万人を突破していたところ、被告は、同年8月18日に原告ゲームのプロ野球SNSカードゲームにかかるゲームシステムを完全に模倣した被告ゲームの配信をMobageにおいて開始した。
 以上のような状況において、前述したSNSゲームにおける課金利用者の性質や原告ゲームや被告ゲームのようなゲームにおける先行利用者の有利性に鑑みれば、課金をしてゲームを有利に進めようとする熱心な利用者であるが、原告ゲームにおいては後行利用者となってしまう者であって、かつ、原告ゲームと被告ゲームのいずれも登録することができた者(GREEとMobageの双方のプラットフォームを利用していた者)は、先行利用者のメリットを享受することを期待して、被告ゲームに登録したことが容易に推測できる。
 かようなゲーム利用に熱心な課金利用者が被告ゲームに登録してしまったことにより、原告は、本来原告ゲームで課金をされ、原告が得ることができたであろう利益を逸失したといえる。
オ 以上を前提にすると、原告が被った損害額は、具体的には以下のとおりとなる。
(ア) 被告ゲームについては、平成23年8月26日時点で、会員数50万人を突破しており、そのうちの37.0%である18万5000人(=50万人×37.0%)が課金利用者であるといえる。
(イ) 被告ゲームが配信されているMobageの利用者のうち、原告ゲームが配信されているGREEを利用していない者は53.45%(=100%−46.55%〔なお、46.55%とは、甲31記載のモバゲータウン兼GREE登録者パーセンテージの平均値である。〕)であるところ、上記18万5000人のうち、これに該当する9万8882人(=18万5000人×53.45%)は原告ゲームには登録することができなかったため除外するとしても、残り8万6118人は、原告ゲームにも被告ゲームにも登録して課金することが可能であった。
 そして、原告ゲーム及び被告ゲームには上記イ及びウの特殊性があるため、上記8万6118人は、被告ゲームの配信がなければ当然に原告ゲームに登録し、課金していたにもかかわらず、被告ゲームが配信されたことにより、被告ゲームにおいて先行利用者となり有利にゲームを進めるべく、被告ゲームに登録し、課金をした者といえる。
 そして、被告は、平成23年8月18日から被告ゲームの配信を開始しているところ、同月26日までの侵害期間は9日間であり、その間、被告ゲームの会員数は直線的に増加しており、同期間に逸失したのべ課金利用者数は、38万7531人(=8万6118人×9×1/2)となる。
 さらに、被告ゲームは、平成23年9月5日時点で、会員数70万人を突破しているところ、同様に、被告ゲーム会員数70万人のうち、37.0%にあたる25万9000人が課金利用者であり、かかる課金利用者から原告ゲームが配信されているGREEを利用していない者13万8435人(53.45%)を除外した12万0565人の会員が、同日までに、原告ゲームにおいて、課金していたものと推測できる。
 そして、同年8月27日から9月5日までの侵害期間は10日間であり、その間、被告ゲームの課金利用者は、8万6118人から12万0565人に直線的に増加しているといえるため、同期間に逸失したのべ課金利用者数は、103万3415人(=〔8万6118人×10日間〕+〔12万0565人−8万6118人〕×10日間×1/2)となる。
 したがって、平成23年8月18日から同年9月5日までの19日間において、被告ゲームの配信行為により原告が失ったのべ課金利用者数は、142万0946人となる。
(ウ) 原告による平成23年8月18日から同年9月5日までの原告ゲームに関する総売上は3億3141万4500円であるから、1日当たりの総売上は金1744万2868円である。
 そして、原告ゲームにおける原告の利益率は35.6%であることから、原告ゲームによる収益は、1日当たり620万9661円である。
 平成23年9月5日時点における原告ゲームの会員登録数は163万7291人であり、そのうちの課金利用者は60万5797人(=163万7291人×37.0%)であることから、原告ゲームにおける課金利用者一人当たりの1日の利益は、10.25円である。
(エ) したがって、原告には、平成23年8月18日から同年9月5日まで、少なくとも1456万4696円(=10.25円×142万0946人)の逸失利益が生じている。
〔被告の主張〕
(1) 主位的請求に対し
 否認ないし争う。
(2) 予備的請求に対し
 否認ないし争う。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(被告ゲームの制作・配信行為は原告の著作権を侵害するか)について
(1) 著作物性、複製及び翻案について
 ある創作物が著作権法による保護の対象となるためには、それが「著作物」であること、すなわち、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であることを要する。
 また、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解するのが相当である。
 さらに、著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいい、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 このように、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との共通性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である。そして、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、作者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。
 以上を前提にして、以下、先に個別表現ごとに著作権侵害の成否を検討し、次いでゲーム全体について著作権侵害の成否を検討する。
(2) 個別表現における著作権侵害の成否について
ア 選手ガチャについて
(ア) 選手ガチャにおける表現の内容
 証拠(甲3の1及び2、9の1及び2、15の1及び2、33)によれば、原告ゲームと被告ゲームにおける「選手ガチャ」の表現はそれぞれ次のとおりであることが認められる。
a 原告ゲームについて
 原告ゲームにおける「選手ガチャ」の個別表現の内容は、別紙対照表1、第1「個別の表現」、1「選手ガチャ(ガチャ)」の(原告ゲーム)欄記載のとおりであり、より詳細には、次のとおりである。
 すなわち、原告ゲームにおいて、選手カードが在中するパッケージのデザインは、その中央部に、上部に1名の投手とその下部に打者と投手各1名の合計3名の選手が大きく表示され、その下部に「プロ野球ドリームナイン」と白抜き黒字で表記されているというものである。かかるパッケージが画面上にふわふわと浮遊しており、クリックされると前にせり出して一旦固定してから、当該パッケージの上部が水平方向に切り取られ、切り取られた部分が右向きに90度回転してから右方向に移動するようにして破り捨てられる。その後に当該パッケージに在中する選手カードがその上部が若干見える程度にせり上がり、一拍置いてから、続けて、当該パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに、選手カード全体が白色となって現れ、そのまま光りつつ回転しながら上昇する。次いで、画面全体が白く光ると、選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面中央に現れ、ふわふわと浮遊しているように表現されている。
b 被告ゲームについて
 被告ゲームにおける「選手ガチャ」の個別表現の内容は、別紙対照表1、第1「個別の表現」、1「選手ガチャ(ガチャ)」の(被告ゲーム)欄記載のとおりであり、より詳細には、次のとおりである。
 すなわち、被告ゲームにおいて、選手カードが在中するパッケージのデザインは、灰色のV字が左上角部から中央下部、中央下部から右上角部に描かれており、そのV字の中で白く光を放っており、その中央部には「大熱狂!」と白抜きの赤字で上段に小さく、その下段に「プロ野球カード」と白抜きの黒字で二段に表記されているというものである。
 かかるパッケージは画面上、その中央部に固定して位置しており、当該パッケージをクリックすると、位置はそのままにして当該パッケージの上部が水平方向に切り取られ、そのまま水平方向に移動するようにして破り捨てられる。その後に在中する選手カードが、球団のロゴマークや稀少度を示す背景が判別できる程度に上部を露出させるまでせり上がり、続けて、当該パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに全体が徐々に白くなり、白色になると急激に上昇して画面上部へと消える。その後に当該選手カードが画面上部から下りてきて、当該選手カードの下部にある背番号、星印、選手名といった記載が見えたところで、画面が白くなり、当該選手カード全体が上部に「NEW」という表記を伴って画面中央に、後光の中から現れる。なお、この後光は画面全体にわたるものではなく、その上部は選手カードに隠れて見えないように表現されている。
(イ) 複製及び翻案の成否
a 複製の成否について
 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、@画面上にパッケージが現れ、クリックすると当該パッケージはその上部が横方向に破られて開封され、すると、在中する選手カードがせり上がり、当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部が露出し、続けて、当該パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに、当該選手カードは当該パッケージから上方向に移動し、次いで、A画面全体が一瞬白く光り、さらに、B当該選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れ、その背景には金色の後光が差している、という点において共通していると認めることができるが、他方で、後記cのとおり、それ以外の具体的な表現には多くの相違点が認められる。
 したがって、原告ゲームと被告ゲームとは具体的表現において表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているとはいえないから、被告ゲームは原告ゲームの複製に当たらないことは明らかである。
b 翻案の成否について
 翻案の成否を検討するに当たり、上記各共通点における原告ゲームの創作性について、以下検討する。
(a) 上記@の点は、トレーディングカードに見立てた選手カードが在中するパッケージを、あたかも利用者が開封し、当該選手カードを当該パッケージから取り出しているかのように見せるものであるが、証拠(乙2、4)によれば、トレーディングカードとは、個々に異なる様々な絵柄の交換や収集を意図して販売若しくは頒布されることを前提に作られた鑑賞用又はゲーム用のカードであること、通常、ビニールコートされた紙などに印刷されており、大きさはテレホンカードなどの一般的なカード類に近いものが多いこと、通常、スポーツ、アニメ、アイドル等のある特定の分野に関して何十ないし何百種類のカードが作られ、それらを1シリーズとして1袋に1枚若しくは複数枚封入してパックと呼ばれる形態で発売されているものが多いこと、同好の収集家と取引されることを前提としているためか、ほとんどの商品はランダムにカードが封入され、どのカードが入っているのかは開封するまでわからず、簡単に全種類が集められないような工夫がされている点にその特徴があること、市販されているトレーディングカードの中には、原告カードと同様に銀色のパッケージに封入され、パッケージ上部に切り取り線が付され、実際の開封に際しては、その上記の切り取り線に沿ってパッケージの上部を水平方向に切り取ってカードを取り出すものが存在すること、原告ゲームが配信される以前である平成22年3月に配信されたプロ野球カードのブラウザゲームである「プロ野球カードスタジアム キミ★スタ」においても、カードを入手する際の演出として、画面上にパッケージが現れ、クリックすると当該パッケージはその上部が横方向に破られて開封され、在中する選手カードがせり上がり、当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部が露出する表現が採用されていること、以上の事実が認められる。そうすると、原告ゲームにおける上記@の点は、実際に販売若しくは頒布されているトレーディングカードにおいてパッケージに封入されたカードを取り出す方法をそのまま表現しているにすぎないものと認められるから、単なる事実の表現若しくはありふれた表現にすぎないというべきである。
(b) 上記Aの点は、選手カードの出現の直前に画面全体を白く光らせるものであるが、このような表現は出現する選手カードに対する利用者の期待感を高めるものとして表現上特別の工夫があるとはいえないばかりか、証拠(乙25、33)によれば、このような演出は、上記「プロ野球カードスタジアム キミ★スタ」や、原告ゲームが配信される以前の平成23年2月3日に配信されたSNSゲームの「カードファイト!!ヴァンガード」、さらには原告ゲームとほぼ同時期の平成23年5月に配信された「Dramatic巨人軍」でも採用されていることが認められる。そうすると、上記Aの点は、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(c) 上記Bの点は、当該選手カードが画面上に現れる際にその背景に金色の後光が差しているように表現するものであるが、このような表現は新たな選手カードの登場に迫力を持たせ、利用者に抱かせた期待感に応えるためのものとして表現上の特別の工夫があるとはいえないばかりか、証拠(乙25、33)によれば、このような表現は上記「プロ野球カードスタジアム キミ★スタ」や上記「Dramatic 巨人軍」でも採用されていることが認められる。そうすると、上記Bの点はありふれた表現にすぎないというべきである。なお、上記Bの点において、原告ゲームと被告ゲームとは、当該選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れる点においても共通性を有するが、新しく出現したカードに「NEW」と表記することは表現上の特別の工夫とはいえず、単なるアイデア若しくはありふれた表現にすぎないというべきである。
(d) 以上によれば、原告ゲームと被告ゲームは、「選手ガチャ」において共通する点があるとはいえ、その共通する部分は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現として創作性がない表現にすぎず、そもそも翻案に当たらないと認めるのが相当である。
c 仮に上記の共通点について創作性が認められるとしても、次に述べるように原告ゲームと被告ゲームとは、「選手ガチャ」の具体的な表現において相違するものであるから、被告ゲームの「選手ガチャ」に接する者が、その全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
 すなわち、前記認定事実によれば、原告ゲームと被告ゲームとは「選手ガチャ」の具体的な表現において次の相違点があるものと認められる。@原告ゲームにおいて、選手カードが在中するパッケージは、その中央部に、上部に1名の投手とその下部に打者と投手各1名の合計3名の選手が大きく表示され、その下部に「プロ野球ドリームナイン」と白抜き黒字で表記されている。これに対して被告ゲームにおいて、パッケージは、灰色のV字が左上角部から中央下部、中央下部から右上角部に描かれており、そのV字の中で白く光を放っている。当該パッケージの中央部には「大熱狂!」と白抜きの赤字で上段に小さく、その下段に「プロ野球カード」と白抜きの黒字で二段に表記されている。また、A原告ゲームにおいては、パッケージが画面上にふわふわと浮遊しており、クリックされると前にせり出して一旦固定してから、当該パッケージの上部が水平方向に切り取られ、切り取られた部分が右向きに90度回転してから右方向に移動するようにして破り捨てられる。その後に当該パッケージに在中する選手カードがその上部が若干見える程度にせり上がり、一拍置いてから、全体が白色となって全体が現れ、そのまま光りつつ回転しながら上昇する。次いで、画面全体が白く光ると、選手カードが画面中央に現れ、ふわふわと浮遊している。これに対して被告ゲームにおいては、パッケージは画面中央に固定して位置しており、当該パッケージをクリックすると、位置はそのままにして当該パッケージの上部が水平方向に切り取られ、そのまま水平方向に移動するようにして破り捨てられる。その後に在中する選手カードが、球団のロゴマークや稀少度を示す背景が判別できる程度に上部を露出させるまでせり上がり、続けて全体が徐々に白くなり、白色になると急激に上昇して画面上部へと消える。その後に当該選手カードが画面上部から下りてきて、当該選手カードの下部にある背番号、星印、選手名といった記載が見えたところで、画面が白くなり、当該選手カード全体が画面中央に、後光の中から現れ、しかも、この後光は画面全体にわたるものではなく、その上部は選手カードに隠れて見えない。
 以上のように、原告ゲームと被告ゲームとは、「選手ガチャ」において、その具体的表現をみれば、パッケージの表示内容のみならず、パッケージの登場の仕方や開封の具体的態様、在中する選手カードの登場の仕方に至るまでことごとく相違しており、前記認定の共通点の創作性の程度を加えてこれを全体的に観察すれば、被告ゲームの「選手ガチャ」は原告ゲームとの対比において、表現全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
d したがって、いずれにしても、被告ゲームの「選手ガチャ」は、原告ゲームの複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
イ 強化について
(ア) 強化における表現の内容
 証拠(甲5の1及び2、11の1及び2、16の1及び2)によれば、原告ゲームと被告ゲームにおける「強化」の表現はそれぞれ次のとおりであることが認められる。
a 原告ゲームについて
 原告ゲームにおける「強化」の個別表現の内容は、別紙対照表1、第1「個別の表現」、2「強化」の(原告ゲーム)欄記載のとおりであり、より詳細には、次のとおりである。
 すなわち、原告ゲームにおいては、2枚の選手カードが画面手前から現れて、画面の左右両端に、先に右側、次いで左側の順に配置される。選手カードは、配置された時点で、1枚当たり、縦が画面の約2分の1弱、横が画面の約3分の1程度を占める大きさである。原告ゲームにおいては、画面上に、背景として、電光掲示板様の模様が画面を横断して表示されており、当該電光掲示板様の模様に多数の黄色いドットによって表現された「<」マークが複数並べて表示され、この「<」マークが電光掲示板のように左方向に流れるように表示されている。 原告ゲームにおいては、2枚の選手カードは、それぞれ上記電光掲示板様の模様の上を中央方向に向けて移動し、重なり合い始めると徐々に白色になり、重なり合うとその場で回転してから強化された1枚の選手カードが現れる。その間に画面上で背景に変化は生じない。
b 被告ゲームについて
 被告ゲームにおける「強化」の個別表現の内容は、別紙対照表1、第1「個別の表現」、2「強化」の(被告ゲーム)欄記載のとおりであり、より詳細には、次のとおりである。
 すなわち、被告ゲームにおいては、2枚の選手カードが画面の左右両端に配置されるに当たり、先に左側、次いで右側の順に、それぞれ配置箇所とされる部分に白色の四角枠が現れて、徐々に色を濃くしながら選手カードが現れる。選手カードは、配置された時点で、1枚当たり、縦が画面の約3分の1、横が画面の約4分の1程度を占める大きさである。画面上には、背景として、青白い閃光様の流線が右から左へと流れるように表示されている。2枚の選手カードが中央に移動する際にそれら2枚のカードの上を稲妻が走り、2枚の選手カードが重なり合うに当たり、双方ともに徐々に色が薄れていき、半透明になって重なり合うと、そのまま画面全体が白くなり、次いで画面中にある光の中から、強化された1枚の選手カードが急激に拡大しつつ現れる。
(イ) 複製及び翻案の成否
a 複製の成否について
 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、画面上に2枚の選手カードが左右両端に各1枚ずつ配置され、それら2枚のカードがそれぞれ中央に移動し、それら2枚の選手カードは重なり合っている時点においては光っており、そのうち強化される1枚の選手カードが一旦小さくなってから大きくなるように表示される、という点において共通していると認めることができるが、後記cのとおり、それ以外の具体的な表現には多くの相違点が認められる。
 したがって、原告ゲームと被告ゲームとは具体的表現において表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているとはいえないから、被告ゲームは原告ゲームの複製に当たらないことは明らかである。
b 翻案の成否について
 翻案の成否を検討するに当たり、上記各共通点における原告ゲームの創作性について、以下検討する。
(a) 証拠(乙19の7、31)によれば、上記の共通点のうち、二つ以上のカードを選択して、その中から強化させたいカードを特定し、そのカードにその余のカードを合成して強化することは、トレーディングカードゲームにおけるルールにすぎず、同様のルールが、ブラウザゲームである「ブラウザ三国志」、SNSゲームである「ペルソナ3 ソーシャル」、「三国志カードバトル」、「陰陽師 平成妖奇譚」、「ひぐらしうみねこカードバトル」、「大争奪!!レジェンドカード」、「ビックリマン」といったゲームで採用されていることが認められる。
 したがって、上記のような共通点は、トレーディングカードゲームにおけるアイデアにすぎず、また、同様のゲームにおけるありふれたルールにすぎないというべきである。
(b) また、証拠(乙31)によれば、強化に当たって対象のカードを左右に並べ、それらが中央に近寄るように移動することや、カードが重なり合うと光ることは、カードが合成される様子を具体的に表すことで利用者に臨場感を与えるための演出として上記の各SNSゲームでも採用されていることが認められるから、表現上の特別な工夫があるとはいえず、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(c) ほかに、上記の共通点には、カードが一旦小さくなってから大きくなるという点があるが、これは、新たに出現するものを強調する表現として、表現上の特別な工夫があるとはいえず、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(d) 以上によれば、原告ゲームと被告ゲームは、強化において共通する点があるとはいえ、その共通する部分は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現として創作性が認められないからそもそも翻案に当たらないと認めるのが相当である。
c 仮に上記の共通点について創作性が認められるとしても、次に述べるように原告ゲームと被告ゲームとは、「強化」の具体的な表現において相違するものであるから、被告ゲームの「強化」に接する者が、その全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
 すなわち、前記認定事実によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、「強化」の具体的な表現において次の相違点があるものと認められる。@原告ゲームにおいては、2枚の選手カードが画面手前から現れて、画面の左右両端に、先に右側、次いで左側の順に配置される。選手カードは、配置された時点で、1枚当たり、縦が画面の約2分の1弱、横が画面の約3分の1程度を占める大きさである。これに対して被告ゲームにおいては、2枚の選手カードが画面の左右両端に配置されるに当たり、先に左側、次いで右側の順に、それぞれ配置箇所とされる部分に白色の四角枠が現れて、徐々に色を濃くしながら選手カードが現れる。選手カードは、配置された時点で、1枚当たり、縦が画面の約3分の1、横が画面の約4分の1程度を占める大きさである。A原告ゲームにおいては、画面上に、背景として、電光掲示板様の模様が画面を横断して表示されており、当該電光掲示板様の模様に多数の黄色いドットによって表現された「<」マークが複数並べて表示され、この「<」マークが電光掲示板のように左方向に流れるように表示されている。これに対して被告ゲームにおいては、画面上に、背景として、青白い閃光様の流線が右から左へと流れるように表示されている。B原告ゲームにおいては、2枚の選手カードは、それぞれ上記電光掲示板様の模様の上を中央方向に向けて移動し、重なり合い始めると徐々に白色になり、重なり合うとその場で回転してから強化された1枚の選手カードが現れる。その間に画面上で背景に変化は生じない。これに対して被告ゲームにおいては、2枚の選手カードが中央に移動する際にそれら2枚のカードの上を稲妻が走る。そして、2枚の選手カードが重なり合うに当たり、双方ともに徐々に色が薄れていき、半透明になって重なり合うと、そのまま画面全体が白くなり、次いで画面中にある光の中から、強化された1枚の選手カードが急激に拡大しつつ現れる。
 以上のように、原告ゲームと被告ゲームとは、「強化」におけるカードの合成場面において、原告ゲームではカードが回転するのに対して被告ゲームでは回転することなく半透明になりつつ重なり合うなど、具体的表現が大きく異なっているほか、背景となる画面表示も原告ゲームでは電光掲示板様の模様が配置されているのに対して、被告ゲームでは青白い閃光様の流線が流れているなど、具体的表現が大きく異なっており、前記認定の共通点の創作性の程度を加えてこれを全体的に観察すれば、被告ゲームの「強化」は原告ゲームとの対比において、表現全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
d したがって、いずれにしても、被告ゲームの強化は、原告ゲームの複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
ウ 試合(リーグ)について
(ア) 試合(リーグ)における表現の内容
 証拠(甲6の1及び2、12の1及び2、17の1及び2)によれば、原告ゲームと被告ゲームにおける「試合(リーグ)」の表現はそれぞれ次のとおりであることが認められる。
a 原告ゲームについて
 原告ゲームにおける「試合」の個別表現の内容は、別紙対照表1、第1「個別の表現」、3「試合(リーグ)」の(原告ゲーム)欄記載のとおりであり、より詳細には、次のとおりである。
 すなわち、原告ゲームにおいて、試合開始前に表示される野球フィールドは、その上部の配色は黒色である。
 選手カードが野球フィールド上に登場する際、選手カードが画面下部であるバックネット側から現れ、その順序は、(@)捕手、(A)投手・一塁手・二塁手・三塁手・遊撃手、(B)外野手の順である。全ての選手カードが野球フィールド上に揃うと、全ての選手カードが一斉に画面上部である外野席方向に消えていく。
 試合中の選手カードの並び方は、ドット状の電光掲示板様の模様の表示を挟んで、その上方に利用者チームの選手カードが横一列に、一部が重なるように並べられ、下方に対戦相手チームの選手カードが横一列に、上記と同様に一部が重なるように並べられる。また、試合開始時には、原告ゲームにおいては、上記選手カードが並べられ、当該電光掲示板様の模様にドット状の文字で「PLAYBALL!」と表示される。
 また、コンボ発動時には、利用者チームで発動する場合、上記のとおり並べられた利用者チームの選手カードの中央部分で水平方向に青白い稲妻が走り、その後に連携した選手カードが赤く点滅するとともに、カード中央部で赤い光を繰り返し発する。対戦相手チームで発動する場合、対戦相手チームの選手カードの中央部分で水平方向に青白い稲妻が走り、その後に連携した選手カードが緑色に点滅するとともに、カード中央部で緑色の光を繰り返し発する。
 そして、試合終了時には、上記電光掲示板様の模様に、ピッチャーがバッターに向かって投球してバッターがボールを打ち返すアニメーションが表示される。画面が切り替わってスコアが画面上部に表示され、利用者が試合に勝利した場合には、画面中央部に歓喜する選手の白いシルエットが表示され、当該表示に重ねて金色の英文字で「WIN」と表示され、それらの表示を囲むように月桂冠が配され、紙吹雪が舞い、利用者が試合に負けた場合には、画面中央部に青い英文字で「LOSE」と表示される。
b 被告ゲームについて
 被告ゲームにおける「試合(リーグ)」の個別表現の内容は、別紙対照表1、第1「個別の表現」、3「試合(リーグ)」の(被告ゲーム)欄記載のとおりであり、より詳細には、次のとおりである。
 すなわち、被告ゲームにおいては、野球フィールドの上部の配色は白色である。
 選手カードは、その中央部分を回転軸にして横回転しながらポジション位置に現れる。その順序は、投手、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手、左翼手、中堅手、右翼手の順である。全ての選手カードが野球フィールド上に揃うと、上記順序で1枚ずつ上記と同様に回転しながら上空へ消えていく。
 試合中は、利用者チームの選手カードが画面左側に、縦5枚、横2枚に重ねることなく並べられ、対戦相手チームの選手カードが画面右側に、利用者チームと同様の配置で並べられる。また、試合開始時には、野球フィールドを背景に、「PLAY」が上段に「BALL」が下段にと上下二段に表示されるが、この時点において選手カードは配置されていない。
 また、コンボ発動時には、両チームのカードを隔てる中央部で縦に金色の稲妻が走り、利用者チームで発動する場合、画面左側から中央部に連携する選手カードがせり出し、赤く光るとともに赤い炎が選手カード上で燃え上がる。対戦相手チームで発動する場合、画面右側から中央部に連携する選手カードがせり出し、青く光るとともに青い炎が選手カード上で燃え上がる。
 そして、試合終了時には、画面中央に縦に稲妻が走り、画面中央部で白く光って爆発して画面が切り替わり、スコアが画面中央に表示される。利用者が試合に勝利した場合、当該表示の上部に金色の英文字で「WIN」と表示され、当該表示の背部に白抜きの表示で月桂冠が配置され、利用者が試合に負けた場合には、画面中央部に青い英文字で「LOSE」と表示される。
(イ) 複製及び翻案の成否
a 複製の成否について
 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、@試合開始に先立って、利用者の選手カードがゲーム画面上に表示された野球フィールド上に、予め設定したオーダーに従って各ポジションに配置され、その後に対戦相手の選手カードもオーダーに従って各ポジションに配置され、A試合中は、画面上に、利用者チームの選手カードが整列して並び、これに相対して対戦相手の選手カードが整列して並んで表示され、また、B試合中にコンボシステムが発動すると、画面上に稲妻が走り、連携した選手カードが利用者チームでは赤く、対戦相手チームでは青く光り、C試合終了時に画面全体が白く光り、D試合結果として対戦スコアが画面上に表示されるが、利用者が試合に勝った場合には画面中央に金色の英文字で「WIN」と表示され、その背後に当該文字を囲むように月桂冠のような円状の植物が表示され、利用者が試合に負けた場合には画面中央に青色の英文字で「LOSE」と表示される、という点において共通していると認めることができるが、後記cのとおり、それ以外の具体的な表現には多くの相違点が認められる。
 したがって、原告ゲームと被告ゲームとは具体的表現において表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているとはいえないから、被告ゲームは原告ゲームの複製に当たらないことは明らかである。
b 翻案の成否について
 翻案の成否を検討するに当たり、上記各共通点における原告ゲームの創作性について、以下検討する。
(a) 上記@の点は、スポーツをモチーフにしたカードゲームにおいて、フィールド上に選手カードを配置し、かかる演出によってあたかも選手カードが試合を行っているかのような臨場感を利用者に持たせるための表現であるが、証拠(乙12、13の2、20、21、33)によれば、このような表現はスポーツに関連するトレーディングカードアーケードゲームである「WORLD CLUB Champion Football」やブラウザゲームである「プロ野球オーナーズリーグ」や、SNSゲームである「キャプテン翼モバイル」、「燃えろ!全日本女子バレー」でも採用されたことが認められる。そうすると、上記@の点はありふれた表現にすぎないというべきである。
(b) 上記Aの点は、証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば、対戦相手のチームと相対して手持ちカードを並べて表示すること自体は、カードゲームにおけるルールにすぎず、かかるカードの配置をしてゲームを行うことは、「ドラゴン・テイル」や「遊戯王」といったトレーディングカードゲームにおいて行われており、また、証拠(乙31)によれば、「ナイツオブクリスタル」における「アリーナ」や「バトル」、「天空のスカイガリレオン」における「天空アリーナバトル」や「戦争」、「三国志カードバトル」における「戦闘」、「戦国キングダム」における「対戦」、「任侠道」における「略奪」、「デュエルサマナー」における「デュエル」といった場面でも採用されていることが認められる。
 したがって、上記のような共通点は、それ自体アイデア若しくは同様のゲームにも見られるありふれた表現にすぎないというべきである。
 さらに、原告ゲームのように選手カードを一部重ねて並べることは、表現上の特別な工夫があるとはいえず、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(c) 上記Bの点は、コンボシステムはトレーディングカードゲームやブラウザゲームにおいて採用されているルールであって、アイデアである。また、コンボ発動時に稲妻が走ること自体は、アイデアの範疇にすぎない。
(d) 上記Cの点は、画面の切り替えを表すものであるが、表現上の特別な工夫があるとはいえず、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(e) 上記Dの点は、利用者が勝利したときには「WIN」の文字を、敗北したときには「LOSE」の文字を表示することは、ごくありふれた表現である。また、証拠(乙35の1及び2)によれば、月桂冠は古くから勝利の栄光を示すシンボルとして使われていることが認められ、勝利したときに月桂冠を配することは、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(f) 以上によれば、原告ゲームと被告ゲームは、「試合」(リーグ)において共通する点があるとはいえ、その共通する部分は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現として創作性が認められないから、そもそも翻案に当たらないと認めるのが相当である。
c 仮に上記の共通点について創作性が認められるとしても、次に述べるように原告ゲームと被告ゲームとは、「試合(リーグ)」の具体的な表現において相違するものであるから、被告ゲームの「試合(リーグ)」に接する者が、その全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
 すなわち、前記認定事実によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、「試合(リーグ)」の具体的な表現において次の相違点があるものと認められる。@試合開始前に表示される野球フィールドは、原告ゲームにおいては、その上部の配色は黒色である。これに対して被告ゲームにおいては、野球フィールドの上部の配色は白色である。A選手カードが野球フィールド上に登場する際、原告ゲームにおいては、選手カードが画面下部であるバックネット側から現れる。現れる順序は、(@)捕手、(A)投手・一塁手・二塁手・三塁手・遊撃手、(B)外野手の順である。全ての選手カードが野球フィールド上に揃うと、全ての選手カードが一斉に画面上部である外野席方向に消えていく。これに対して被告ゲームにおいては、選手カードが、その中央部分を回転軸にして横回転しながらポジション位置に現れる。現れる順序は、投手、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手、左翼手、中堅手、右翼手の順である。全ての選手カードが野球フィールド上に揃うと、上記順序で1枚ずつ上記と同様に回転しながら上空へ消えていく。B選手カードの並び方は、原告ゲームにおいては、電光掲示板の表示を挟んで、その上方に利用者チームの選手カードが横一列に、一部が重なるように並べられ、下方に対戦相手チームの選手カードが横一列に、上記と同様に一部が重なるように並べられる。これに対して被告ゲームにおいては、利用者チームの選手カードが画面左側に、縦5枚、横2枚に重ねることなく並べられ、対戦相手チームの選手カードが画面右側に、利用者チームと同様の配置で並べられる。C試合開始時には、原告ゲームにおいては、上記Bのとおり選手カードが並べられ、当該電光掲示板様の模様に「PLAYBALL!」とドット表示される。これに対して被告ゲームにおいては、野球フィールドを背景に、「PLAY」が上段に「BALL」が下段にと上下二段に表示される。なお、この時点において選手カードは配置されていない。Dコンボ発動時には、原告ゲームにおいては、利用者チームで発動する場合、上記Cのとおり並べられた利用者チームの選手カードの中央部分で水平方向に青白い稲妻が走り、その後に連携した選手カードが赤く点滅するとともに、カード中央部で赤い光を繰り返し発し、対戦相手チームで発動する場合、対戦相手チームの選手カードの中央部分で水平方向に青白い稲妻が走り、その後に連携した選手カードが緑色に点滅するとともに、カード中央部で緑色の光を繰り返し発する。これに対して被告ゲームにおいては、両チームのカードを隔てる中央部で縦に金色の稲妻が走り、利用者チームで発動する場合、画面左側から中央部に連携する選手カードがせり出し、赤く光るとともに赤い炎が選手カード上で燃え上がり、対戦相手チームで発動する場合、画面右側から中央部に連携する選手カードがせり出し、青く光るとともに青い炎が選手カード上で燃え上がる。E試合終了時には、原告ゲームにおいては、上記電光掲示板様の模様に、ピッチャーがバッターに向かって投球してバッターがボールを打ち返すアニメーションが表示され、その後、画面が切り替わってスコアが画面上部に表示されるとともに、利用者が試合に勝利した場合には、画面中央部に歓喜する選手の白いシルエットが表示され、当該表示に重ねて金色の英文字で「WIN」と表示され、それらの表示を囲むように月桂冠が配され、紙吹雪が舞う。これに対して被告ゲームにおいては、画面中央に縦に稲妻が走り、画面中央部で白く光って爆発して画面が切り替わり、スコアが画面中央に表示されるとともに、利用者が試合に勝利した場合には、当該表示の上部に金色の英文字で「WIN」と表示され、当該表示の背部に白抜きの月桂冠が配置される。
 以上のように、原告ゲームと被告ゲームとは、試合開始時における選手カードの登場の仕方から、試合中における選手カードの配置の仕方、コンボ発動時の稲妻の走る位置や選手カードの動き、試合終了直前の演出など、試合開始前から試合終了に至るまで各場面にわたって具体的表現が異なっており、前記認定の共通点の創作性の程度を加えてこれを全体的に観察すれば、被告ゲームの「試合(リーグ)」は原告ゲームとの対比において、表現全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
d したがって、いずれにしても、被告ゲームの強化は、原告ゲームの複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
エ 選手カードについて
(ア) 選手カードにおける表現の内容
 証拠(甲7の1ないし3、13の1ないし3、18の1ないし3、24、25、43、64、乙48)によれば、原告ゲームと被告ゲームにおける「選手カード」の表現は、それぞれ別紙対照表1、第1「個別の表現」、4「選手カード」の(原告ゲーム)欄及び(被告ゲーム)欄記載のとおりであることが認められる。
(イ) 複製及び翻案の成否
a 複製の成否について
 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、@選手カードの左上角に当該選手が所属する球団のロゴマークが施されており、A選手カードの下部に、当該選手カードの氏名がローマ字で表記されるとともに、その背番号が表示されており、B選手カードの稀少度を星印の数で表示し、稀少度が高いほど多くの星印が、選手カードの下部に施されており、C原告ゲームと被告ゲームのいずれにも設定されている「スターカード」及び「スーパースターカード」には、選手の背景に、炎が燃え上がり、後光が差すようなファイアーモチーフが施されており、D選手画像が二重写しにされている選手カードについては、選手画像の背景に当該選手画像を大きく拡大し、多少色を薄くして残影のようにした表示が施されている、という点において共通していると認めることができる。
 また、E上記認定した4選手に係る原告ゲームの選手カード4枚と被告ゲームの選手カード4枚は、それぞれ、被告が認めるとおり、次に個別に認定するように、選手のポーズや構成が酷似しているものがある。なお、他に選手のポーズや構成が酷似している選手カードが存在することを認めるに足りる的確な証拠はない。
(a) 中島選手のカード(甲7の1、乙13の1)について
 同選手に係る原告ゲームの「スーパースターカード」と被告ゲームの「スーパースターカード」は、いずれも上記@ないしDの共通点を有する上、同選手のポーズや構図は、いずれも、同選手が左足を前に出し、バットを振り抜いた姿が同選手の右側から写されたものである。
(b) ダルビッシュ選手のカード(甲7の2、乙13の2)について
 同選手に係る原告ゲームの「スーパースターカード」と被告ゲームの「スーパースターカード」は、いずれも上記@ないしDの共通点を有する上、同選手のポーズや構図は、いずれも、同選手が投球動作に入り、左足を大きく前に出し、握った野球ボールを投げようと右手を後ろから振り上げようとする姿が同選手の右側から写されたものである。
(c) 坂本選手のカード(甲7の3、乙13の3)について
 同選手に係る原告ゲームの「スターカード」と被告ゲームの「スーパースターカード」は、いずれも上記@ないしCの共通点を有する。また、同選手のポーズや構図は、同選手が上体を左にひねってバットを振り抜いた姿が同選手の左側から写されたものである。
 他方、同選手に係る原告ゲームの「スターカード」と被告ゲームの「スーパースターカード」は、上記Dの点については前者には施されておらず、後者には施されている点で相違する。
(d) 今江選手のカード(甲24、乙25)について
 同選手に係る原告ゲームの「スーパースターカード」と被告ゲームの「スーパースターカード」は、いずれも上記@ないしDの共通点を有する上、同選手のポーズや構図は、いずれも、同選手が両手でバットを持ち、構える姿が同選手の右側から写されたものである点で共通しているが、前者ではバットをほぼ垂直に立てて握り、重心を両足に均等にかけた状態で真横を向いて立っているのに対し、後者では上体を大きくひねって重心を右足にかけバットを後ろ斜めに引いている状態である点で相違する。
 以上のとおり、「選手カード」においては、上記の点において共通している部分があると認めることができるが、後記cのとおり、それ以外の具体的な表現には多くの相違点が認められる。
 したがって、原告ゲームと被告ゲームとは具体的表現において表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているとはいえないから、被告ゲームは原告ゲームの複製に当たらないことは明らかである。
b 翻案の成否について
 翻案の成否を検討するに当たり、上記各共通点における原告ゲームの創作性について、以下検討する。
(a) 上記@やAの点について、証拠(乙3の1ないし9、24)によれば、プロ野球選手カードに当該選手の実名や背番号、所属球団のロゴマークを施したり、選手名をローマ字で表記したりすることは、プロ野球選手のトレーディングカードである「カルビープロ野球チップスカード」で遅くとも2006年(平成18年)頃から既に採用されていたものであり、ブラウザゲームである「プロ野球オーナーズリーグ」でも採用されていたことが認められる。そうすると、上記@及びAの点は、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(b) 上記Bの点について、証拠(乙33)によれば、選手カードに星印を施すことをもって当該選手カードの稀少度を表すのは、SNSゲームにおいても「Dramatic 巨人軍」のほか、「ナイツオブクリスタル」や「はじめの一歩 FIGHTING」、「戦国対戦G」、「乱世あやかし絵巻」といったゲームでも採用されていたことが認められる。そうすると、上記Bの点は、ありふれた表現にすぎないというべきである。
(c) 上記Cの点について、証拠(乙8、9)によれば、選手カードの背景に炎が燃えて後光が差すようないわゆるファイアーモチーフを施すことは、平成22年2月9日に発売されたトレーディングカードである「SLAM ATTACK」で採用されており、上記の演出は遅くとも同時期にはトレーディングカードにおいても採用された表現であることが認められる。そうすると、上記Cの点は、ありふれた表現にすぎず、また、原告ゲームにおけるファイアーモチーフは、その色調をみても、表現上の特別な工夫があるとはいえないというべきである。
(d) 上記Dの点について、証拠(乙3の1ないし9)によれば、選手カードの背景に二重に大きく当該選手の画像を残影のように配する表現は、上記「カルビープロ野球チップスカード」で遅くとも2006年(平成18年)頃から既に採用されていたものであることが認められる。そうすると、上記Dの点は、ありふれた表現にすぎず、また、原告ゲームにおける背景の選手の画像の色調や濃淡といったものは、表現上の特別な工夫があるとはいえないというべきである。
(e) 上記Eの点について、 上記認定のとおり、少なくとも、被告ゲームにおける中島選手及びダルビッシュ選手の選手カードのポーズや構図は原告ゲームにおけるそれと酷似していること、坂本選手のカードにおいても、選手カードが二重写しになっている点を除けば、選手のポーズ及び構図は酷似していることが認められる。
 しかし、証拠(甲47、乙3の1ないし9、23の1ないし4、24、34)及び弁論の全趣旨によれば、野手についてはバッティングフォームが、投手については投球フォームが基本的には一定で、大きく幅があるものではないこと、野手のバッティングシーンを表現するものとしては、野手がバットを構える姿、バットを振るに当たってテイクバックする姿、バットを振り、バットでボールを捉える姿、バットを振り抜いた姿といったものに分類され、投手の投球シーンを表現するものとしては、投手が投球動作に入り、ボールを握った手を後ろから引き上げる姿、上体を大きく開いてボールを握った手を振り下ろす姿、ボールを投げてフォロースルーをする姿といったものに分類されるが、それらの各分類においては選手の姿勢はおおむね一様であること、その構図も、選手の右側から写したもの、左側から写したもの、正面から写したものや、全身を写したもの、上体を中心に写したものに分類されるが、各分類においては構図がおおむね一様であることが認められる。実際、証拠(乙23の1ないし4、37の1及び3、41)によれば、原告ゲームの選手カードには、同じ選手について、選手のポーズや構図が、原告ゲームより先行して2010年(平成22年)3月20日に発売された「プロ野球オーナーズリーグ」の選手カードにおける選手のポーズや構図と酷似するものが複数存在することが認められる。以上を総合すると、選手のポーズや構図といったものの選択肢はごく限られており、したがって、ある選手の特定のポーズや構図の写真をそのまま表現することに創作性を認めるのは相当ではない。
(f) 以上によれば、原告ゲームと被告ゲームは、「選手カード」において共通する点があるとはいえ、その共通する部分は、ありふれた表現にすぎないか又は創作性のない表現であり、そもそも翻案に当たらないと認めるのが相当である。
c 仮に上記の共通点について創作性が認められるとしても、次に述べるように原告ゲームと被告ゲームとは、「選手カード」の具体的な表現において相違するものであるから、被告ゲームの「選手カード」に接する者が、その全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
 すなわち、前記認定事実によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、「選手カード」の具体的な表現において次の相違点があるものと認められる。@原告ゲームにおいては、選手カードの下部に当該選手カードの所属球団を表す色が配されているが、これに対して被告ゲームにおいては、所属球団を表す色が配されていない。A原告ゲームにおいては、選手カードの中央下部に選手名が名、姓の順で横並びに、白抜きで表示され、背番号が選手名の中央上部に配されている。これに対して被告ゲームにおいては、選手カードの左下部に名と姓で二段に、かつ金色で表示され、背番号が右下部に配されている。また、B「スターカード」や「スーパースターカード」は、原告ゲームにおいては、背景に赤色を基調とするファイアーモチーフが施されているが、これに対して被告ゲームにおいては、背景に金色を基調とするファイアーモチーフが施されている。さらに、証拠(甲55)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゲームでリリースされた選手カードの種類は約240種類であるところ、上記4選手以外の他に選手のポーズや構成が共通している選手カードが存在することを認めるに足りる証拠はない。
 以上のとおり、原告ゲームと被告ゲームとは、上記の点において具体的表現が異なっており、また、上記酷似するカードは、全選手カードのほんの一部にすぎないところ、前記認定の共通点の創作性の程度を加えてこれを全体的に観察すれば、被告ゲームの「選手カード」は原告ゲームとの対比において、表現全体から受ける印象を異にし、原告ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
d したがって、いずれにしても、被告ゲームの「選手カード」は、原告ゲームの複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
(3) まとまった表現についての検討
ア 選手ガチャについて
 原告は、原告ゲームにおける「選手ガチャ」について、パッケージの出現から選手カードの出現までの表現について、これを一連のまとまった表現としてみるべきであり、かかる表現には著作物性が認められるべきである旨主張する。
 しかし、「選手ガチャ」に係る原告ゲームの表現内容と被告ゲームの表現内容は、前記(2)ア(ア)に認定したとおりであり、仮にこれを原告が主張するように一連のまとまった表現として著作物性が認められるとしても、前記(2)ア(イ)cに判示したとおり、被告ゲームのそれとは具体的表現に相違点が認められるから、複製とはいえず、また、両ゲームの共通点は前記(2)ア(イ)a記載の@ないしBであるところ、前記説示のとおり、これらは、いずれも、単なる事実の表現若しくはありふれた表現にすぎないと認められるから、原告ゲームの「選手ガチャ」を一連のまとまった表現としてみるとしても、被告ゲームはその翻案には当たらないと認めるのが相当である。
イ 強化について
 原告は、原告ゲームにおける「強化」について、選手カードの出現から強化された選手カードの出現までの表現について、これを一連のまとまった表現としてみるべきであり、かかる表現は著作物性が認められるべきである旨主張する。
 しかし、「強化」に係る原告ゲームの表現内容と被告ゲームの表現内容は、前記(2)イ(ア)に認定したとおりであり、仮にこれを原告が主張するように一連のまとまった表現として著作物性が認められるとしても、前記(2)イ(イ)cに判示したとおり、被告ゲームのそれとは具体的表現に相違点が認められるから、複製とはいえず、また、両ゲームの共通点も前記(2)イ(イ)a記載のとおりであるところ、前記説示のとおり、これらは、トレーディングカードにおけるアイデアか、同様のゲームにおけるありふれた表現にすぎないから、原告ゲームの「強化」を一連のまとまった表現としてみるとしても、被告ゲームはその翻案には当たらないと認めるのが相当である。
ウ 試合(リーグ)について
 原告は、原告ゲームにおける「試合(リーグ)」について、選手カードが野球フィールド上に配置されるところから、試合終了後に結果が画面に表示されるまでの表現について、これを一連のまとまった表現としてみるべきであり、かかる表現は著作物性が認められるべきである旨主張する。
 しかし、「試合(リーグ)」に係る原告ゲームの表現内容と被告ゲームの表現内容は、前記(2)ウ(アに認定したとおりであり、仮にこれを原告が主張するように一連のまとまった表現として著作物性が認められるとしても、前記(2)ウ(イ)cに判示したとおり、被告ゲームのそれとは具体的表現に相違点が認められるから、複製とはいえず、また、両ゲームの共通点も前記(2)ウ(イ)a記載の@ないしDであるところ、前記説示のとおり、これらはいずれも、アイデアかありふれた表現にすぎないと認められるから、原告ゲームの「試合(リーグ)」を一連のまとまった表現としてみるとしても、被告ゲームはその翻案には当たらないと認めるのが相当である。
エ 選手カードについて
(ア) 原告は、選手カードについて、躍動感のあるポーズや二重に大きく選手を掲載して、臨場感を高めるとともに、選手の英字の選手名や背番号、所属球団のロゴマーク、さらにはファイアーモチーフや稀少性を表す星印を組み合わせるなど、個々に独創性のある特徴を多く組み合わせており、かかる表現は著作物性が認められるべきであると主張する。
 しかし、仮に原告が主張するような表現に著作物性が認められるとしても、「選手カード」における原告カードと被告カードの個々の特徴については、前記(2)エ(ア)のとおりであり、両者には前記(2)エ(イ)cのような相違点があるから、複製とはいえず、また、両ゲームの共通点も前記(2)エ(イ)a記載の@ないしEのとおりであるところ、前記説示のとおり、その共通する部分は、ありふれた表現にすぎないか又は創作性のない表現であり、そもそも翻案に当たらないと認めるのが相当である。
(イ) この点に関して原告は、トレーディングカードには、その題材の選択、稀少性の表現方法等の演出、ポーズや構図といった被写体の表現の選択といった様々な点において選択の幅があり、無数の表現方法がある中で、原告は多くの特徴を組み合わせ、かつ、個々の特徴において臨場感や稀少性を表すように工夫を施しているから、原告ゲームの「選手カード」には、他に類を見ない、独自の表現として、高い創作性が認められるべきであると主張する。
 確かに、一般論として、臨場感や稀少度を表すために、いかなる背景を採用するか、また、いかなる特徴を選択してどこまで組み合わせ、それらをどこにどのように配置するかといったことについては、多数の選択肢があることは否定できず、場合によっては創作性が肯定される余地があり得るものと解される。
 そして、前記認定のとおり、少なくとも、被告ゲームにおける中島選手及びダルビッシュ選手の選手カードのポーズや構図は原告ゲームにおけるそれと酷似していること、坂本選手のカードにおいても、選手が二重写しになっている点を除けば、選手のポーズ及び構図は酷似していることが認められる。
 しかし、原告が別紙対照表1、第1「個別の表現」、4「選手カード」に掲記して著作権侵害を主張するカードは4枚であり、酷似していると認められるのはそのうちの3枚にすぎないこと、被告から他に類似する選手カードがあればそれを摘示するよう求釈明があっても、原告はそれらのわずか4枚を摘示するにとどまっているところ、前記のとおり、原告ゲームでリリースされた「スターカード」及び「スーパースターカード」が合計約240種類あることに鑑みると、酷似若しくは類似しているのは全体のごく一部にすぎないといわざるを得ない。そうすると、原告ゲームと被告ゲームは、選手カード全体についてみると類似すると認めるに足りないというべきである。
 そして、上記の各要素は、個々にみると演出としてありふれた表現であり、かかるありふれた表現同士を組み合わせることもまた、ありふれた表現といわざるを得ないと考えるべきであり、原告ゲームの選手カードをみても、表現上の特別な工夫は認められないから、原告ゲームの「選手カード」については表現の創作性がやはり乏しいというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) よって、原告ゲームと被告ゲームは、「選手カード」を全体としてみると、その共通する部分は、ありふれた表現として創作性が乏しいというべきであり、複製又は翻案に当たらない。
オ 原告の反論について
 原告は、原告ゲームや被告ゲームのようなカードゲームには、「三国志」など歴史を題材にしたもの、魔法使いなどファンタジーの要素を取り入れたもの、スポーツを題材にしたものなど、多くの題材が存在し、スポーツの中にも、「サッカー」や「バレーボール」等様々な題材があるが、その中で、原告は、原告ゲームにおいて特に「プロ野球」という題材を選択して表現しているのであるから、原告ゲームの各演出あるいは全体の創作性を検討するに際しては、原告ゲームが市場に出る以前の「野球ゲーム」あるいは「野球カード」においてどのような表現が用いられていたかを比較検討しなければならないと主張する。
 しかし、原告ゲームをみても、選手カード自体は他のトレーディングカードゲームと同様にトレーディングカードとしての位置付けであるし、その試合における並べ方をみても他のトレーディングカードゲームと比べて表現上の特別な工夫がされているとは認められず、先に認定した個々の場面をみても他にプロ野球を題材にしたからこその表現上の特別な工夫がトレーディングカードゲームに施されたと認めるべき点は見当たらない。したがって、原告ゲームの創作性を判断するに当たって野球ゲームや野球カードを題材とするゲームに限るべき理由はないというべきである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(4) ゲーム全体の著作権侵害について
ア 画面遷移についての検討
(ア) 携帯電話機用のゲームの特色
 画面遷移について検討するに当たり、原告ゲームが携帯電話機用のゲームである以上、次の特色を有している。
 すなわち、証拠(乙38)及び弁論の全趣旨によれば、携帯電話機は、画面が小さく、通信速度がパソコンのインターネット環境と比較して遅いため、利用者の操作性を考慮して、携帯電話機では、画面遷移を少なくすること、画面の移動が縦スクロールを中心とすることから、重要なリンクを上から配置することといったものは、携帯電話機向けのウェブサイトを構築するに当たって多くの場合に行われていることが認められる。
 また、原告ゲームや被告ゲームが配信された時点においては、画面表示が小さく、限られた範囲の中で情報を表示することから、画面上における表現の選択の幅は、その分だけ狭くなるものと考えるのが相当であり、これに反する原告の主張は採用できない。
(イ) 各場面における画面遷移についての検討
a 選手ガチャについて
(a) 原告ゲームについては、証拠(甲3の1及び2、15の1及び2)によれば、「選手ガチャ」における表示は次のとおりであることが認められる。まず、利用者は、「ドリナイマイページ画面」において「選手ガチャ」のメニューを選択すると、「選手ガチャ」の画面が表示される。同画面には、「ノーマルパック」のメニューが上部に表示され、その下に「ドリームパック」のメニューが表示される。いずれかのメニューを選択すると画面が切り替わり、選手カードを獲得する場面が画面に表示される。同画面の表示内容は前記(2)ア(アaで認定したとおりである。そして、新しい選手カードを獲得すると画面が切り替わり、獲得した選手カードの能力等を表示する画面に移行する。同画面には、その最上部に獲得した選手カードの画像が表示され、当該画像の下部に当該選手カードの所属球団や投手、野手の区別、ポジション、選手名、能力値、前年度の成績の順に表示される。さらに、「もう一度ガチャる」のメニューが配置されており、利用者がさらに選手カードを獲得したければ、同メニューを選択して、上記の選手カードを獲得する画面に再び移行することができる。以上の選手ガチャにおける画面の選択及び配列を図示すると、別紙選手ガチャ画面遷移図に記載のとおりとなる。
(b) これに対して被告ゲームについては、証拠(甲9の1 及び2、15の1及び2)によれば、選手ガチャにおける表示は次のとおりであることが認められる。まず、利用者は、「マイページ画面」において「ガチャ」のメニューを選択すると、「ガチャ」の画面が表示される。同画面には、「ノーマルパック購入」のメニューが上段に表示され、「レアパック購入」のメニューが下段に表示される。いずれかのメニューを選択すると画面が切り替わり、選手カードを獲得する場面が画面に表示される。同画面の表示内容は前記(2)ア(アbで認定したとおりである。そして、新しい選手カードを獲得すると画面が切り替わり、獲得した選手カードの能力等を表示する画面に移行する。同画面には、その最上部に獲得した選手カードの画像が表示され、当該画像の下部に当該選手カードの選手名、所属球団とポジション、能力値、前年度の成績の順に表示される。さらに、「レアパック購入」のメニューが配置されており、利用者がさらに選手カードを獲得したければ、同メニューを選択して、「選手カード獲得画面」に再び移行することができる。以上の選手ガチャにおける画面の選択及び配列を図示すると、別紙選手ガチャ画面遷移図に記載のとおりとなる。
(c) 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、「選手ガチャ」において、@「ドリナイマイページ画面」ないし「マイページ画面」において「選手ガチャ」ないし「ガチャ」のメニューを選択すると、A無料のガチャか有料のガチャかを選択する画面に移行し、いずれかを選択すると、Bカードを獲得する画面、さらにC獲得したカードの能力値等を表示する画面の順に変遷し、さらに利用者がガチャを繰り返すときは、Aのガチャの種類の選択画面に再び移行し、さらにBのカードを獲得する画面、Cの獲得したカードの能力値等を表示する画面の順に遷移する点において共通する。
 しかし、原告ゲームと被告ゲームは、いずれもトレーディングカードゲームであり、カードの獲得場面であるガチャのメニューを選択して、まず無料か有料かガチャの種類を選択してから、カードを獲得する場面を経て、獲得したカードの内容の表示に至ることは、トレーディングカードゲームのカード獲得場面における社会的事実を取り込み、一連の流れに即して配列したものであり、それ自体はアイデアにすぎない。また、これを画面上に表現するとしても、上記のとおりその流れが一連のものとして定まっている以上、画面の選択・配列及びその流れについてはその選択の幅は狭いから、上記アイデアに従ってそれを表現しようとすれば基本的には上記の流れに沿った画面遷移とならざるを得ないというべきである。
 また、証拠(乙40)によれば、「ガチャ」において同様の画面遷移をするものとして、「ペルソナ3 ソーシャル」、「三国志カードバトル」、「陰陽師 平成妖奇譚」、「ひぐらしうみねこカードバトル」、「さんごくっ!」、「戦国キングダム」、「任侠道」、「デュエルサマナー」、「エグザムライ戦国」、「ビックリマン」といったゲームが存在することが認められることに照らすと、「ガチャ」における上記のような画面遷移はトレーディングカードゲームとしてのSNSゲームではありふれた表現にすぎないということができる。
(d) したがって、原告ゲームと被告ゲームは、「選手ガチャ」において、その画面の選択及び配列において共通する点があるとはいえ、それはありふれた表現であって創作性が乏しい表現であり、複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
b スカウト(ミッション)について
(a) 原告ゲームについては、証拠(甲4、23)及び弁論の全趣旨によれば、「スカウト」における表示は次のとおりであることが認められる。
 原告ゲームにおいて、「スカウト」は、「ミッション選択画面」、「スカウト実行/結果表示画面」、「取得選手カード表示画面」、「レベルアップ表示画面」、「スカウト終了画面」、「エリア代表者戦画面」からなる。まず、利用者が「ドリナイマイページ画面」において「スカウト」のメニューを選択すると「ミッション選択画面」が表示される。同画面には、複数の「エリア」と、各エリア内における「ミッション」が表示され、利用者が「探索する」を選択すると、スカウトが実行され、「スカウト実行/結果表示画面」が表示される。同画面には、スカウトの結果として、「成功」か「大成功」のいずれかの表示と、進行した探索率、消費した行動ポイント、取得した経験値及び強化ポイントが表示される。スカウトの実行により、選手カードを取得したときは、選手カード取得の動画映像が表示される。また、経験値を取得した結果として既定値に達したときは、利用者のレベルが上昇し、レベルアップ動画映像が表示される。そして、ミッションの探索率が100%に達するまではスカウトを繰り返すことができ、ミッションの探索率が100%に達すると、当該ミッションにおけるスカウトが終了して「スカウト終了画面」が表示され、「エリア代表戦画面」に移る。同画面において「エリア代表戦」のメニューを選択すると、「試合」に移行する。「試合」における表示内容は前記(2)ウ(ア)aで認定したとおりである。
 以上のスカウトにおける選択及び配列を図示すると、別紙スカウト画面遷移図に記載のとおりとなる。
(b) これに対して被告ゲームについては、証拠(甲10、23、27の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、「スカウト(ミッション)」における表示は次のとおりであることが認められる。被告ゲームにおいて、「ミッション」は、「『視察』選択画面」、「『視察』実行/結果表示画面」、「取得選手カード表示画面」、「レベルアップ表示画面」、「『視察』終了画面」、「エリア統括チーム戦画面」からなる。まず、利用者が「マイページ画面」において「視察」のメニューを選択すると「『視察』選択画面」が表示される。同画面には、複数の「エリア」と、各ステージ内におけるミッションであり「○○(スポット名)を視察」のメニューが表示され、利用者が当該メニューを選択すると、「視察」が実行され、「『視察』実行/結果表示画面」が表示される。同画面には、「視察」の結果として、「成功」か「大成功」のいずれかの表示と、進行した達成度、消費した体力、取得した経験値及び強化ポイントが表示される。「視察」の実行により、選手カードを取得したときは、選手カード取得の動画映像が表示される。また、経験値を取得した結果として既定値に達したときは、利用者のレベルが上昇し、レベルアップ動画映像が表示される。そして、「視察」の達成度が100%に達するまでは「視察」を繰り返すことができ、「視察」の達成度が100%に達すると、当該ミッションにおける「視察」が終了して「視察終了画面」が表示され、「エリア統括チーム戦画面」に移る。同画面において「挑戦者現る!!」のメニューを選択すると、「試合」に移行する。「試合」における表示内容は前記(2)ウ(ア)bに認定したとおりである。
 以上の「スカウト(ミッション)」における選択及び配列を図示すると、別紙スカウト画面遷移図に記載のとおりとなる。
(c) 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、「スカウト(ミッション)」において、@「ドリナイマイページ画面」ないし「マイページ画面」において「スカウト」ないし「視察」メニューを選択すると、Aミッション選択画面に移行し、いずれかを選択すると、Bスカウトないし視察が実行されて「スカウト実行/結果表示画面」が表示され、C選手カードを取得したときは、選手カード表示画面に移行し、D経験値の取得により規定値に達したときにはレベルアップ表示画面に移行し、「探索率」ないし「達成度」が100パーセントに達するまでは、Bの画面に戻ることができ、適宜CやDの画面に移行するが、E「探索率」ないし「達成度」が100%に達すると、ミッション終了画面に移行し、さらに、F「エリア代表戦」ないし「エリア統括チーム戦画面」なるバトルに移行して、Gバトル実施画面である試合に移行する点において共通する。
 しかし、原告ゲームと被告ゲームは、いずれもトレーディングカードゲームとしてのSNSゲームであり、カード取得の手段としてミッションがあり、ミッションは複数のものからなり、ミッションをこなすとカードを取得し、あわせて経験値を取得して規定値に達するとレベルが上昇し、一定数のミッションをこなすと、ボスが登場して対戦するというものであり、それ自体はトレーディングカードゲームとしてのSNSゲームにおけるルールであり、アイデアにすぎない。そして、これを画面上に表現するとしても、その基礎となるルールが上記の各場面を順序立てて一連のまとまったものである以上、画面の選択・配列及びその流れについてはその選択の幅は狭いから、上記アイデアに従ってそれを表現しようとすれば基本的には上記の順序に沿った画面遷移とならざるを得ないというべきである。
 また、証拠(乙42)によれば、原告ゲームは、同ゲームに先行して平成21年10月に配信開始され、ユーザー数が1000万人を超えるヒット作となったSNSゲーム「怪盗ロワイヤル」と、ミッションの画面遷移が同じであることが認められる。すなわち、この「怪盗ロワイヤル」のミッションは、@トップページでミッションを選択すると、A複数のエリアとエリア内に複数あるミッションから構成されたミッション選択画面に移行し、ミッションを選択すると、Bミッション実行/結果表示画面に移行して、「習得率」や取得した経験値が表示され、さらに、Cアイテムを取得したときにはアイテム表示画面に移行し、D経験値が既定値に達したときにはレベルアップ表示画面に移行し、E「習得率」が100%に達するまでは「もう一度実行」のメニューを選択して、ミッションを繰り返すことができ、F「習得率」が100%に達するとミッションが終了して「ミッション終了画面」が表示され、Gさらに、ボスが登場するボス戦画面が表示されて、Hボス実施画面に移行する。
 以上のミッションにおける画面遷移を「怪盗ロワイヤル」と原告ゲームを対比すると同じである。
 さらに、証拠(乙40)によれば、同様の画面遷移をするものとして、「ナイツオブクリスタル」、「ペルソナ3 ソーシャル」、「天空のスカイガリレオン」、「三国志カードバトル」、「陰陽師 平成妖奇譚」、「ひぐらしうみねこカードバトル」、「さんごくっ!」、「戦国キングダム」、「任侠道」、「大争奪!!レジェンドカード」、「デュエルサマナー」、「エグザムライ戦国」、「ビックリマン」といったゲームが存在することが認められることに照らすと、「スカウト(ミッション)」における上記のような画面遷移はトレーディングカードゲームとしてのSNSゲームではありふれた表現にすぎないというべきである。
(d) したがって、原告ゲームと被告ゲームは、「スカウト(ミッション)」において、その画面の選択及び配列において共通する点があるとはいえ、それはありふれた表現であって創作性が乏しい表現であり、複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
c 強化について
(a) 原告ゲームについては、証拠(甲5の1 及び2、16の1及び2)によれば、「強化」における表示は次のとおりであることが認められる。原告ゲームにおいて「強化」は、「強化指定選手カードの選択画面」、「コーチ転身選手カードの選択画面」、「強化確認画面」、「強化実行画面」からなる。まず、利用者が「ドリナイマイページ画面」において「強化」のメニューを選択すると「強化指定選手カードの選択画面」が表示される。同画面には、オーダー入りした選手カードが表示され、利用者が特定の選手カードを選択すると、「コーチ転身選手カードの選択画面」が表示される。同画面には、候補となる複数の選手カードが表示され、利用者が特定の選手カードを選択すると、「強化確認画面」が表示されて「強化指定選手カード」と「コーチ転身選手カード」が上下に表示される。そして、同画面で「強化する」メニューを選択すると、「強化実行画面」に移行する。強化実行画面における表示内容は前記(2)イ(ア)aに認定したとおりである。以上の強化における選択及び配列を図示すると、別紙強化画面遷移図に記載のとおりとなる。
(b) これに対して被告ゲームについては、 証拠(甲11の1及び2、16の1及び2)によれば、「強化」における表示は次のとおりであることが認められる。被告ゲームにおいて「強化」は、「ベースカードの選択画面」、「能力を引き継ぐカードの選択画面」、「強化確認画面」、「強化実行画面」からなる。まず、利用者が「マイページ画面」において「強化」のメニューを選択すると「ベースカードの選択画面」が表示される。同画面には、オーダー入りした選手カードが表示され、利用者が特定の選手カードを選択すると、「能力を引き継ぐカードの選択画面」が表示される。同画面には、候補となる複数の選手カードが表示され、利用者が特定の選手カードを選択すると、「強化確認画面」が表示されて「ベースカード」と「能力を引き継ぐカード」が上下に表示される。そして、同画面で「強化する」メニューを選択すると、「強化実行画面」に移行する。強化実行画面における表示内容は前記(2)イ(ア)bに認定したとおりである。以上の強化における選択及び配列を図示すると、別紙強化画面遷移図に記載のとおりとなる。
(c) 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、「強化」において、@「ドリナイマイページ画面」ないし「マイページ画面」において「強化」のメニューを選択して、A強化する選手カードとこれに合成させて消滅させる選手カードをそれぞれ選択すると、B強化確認画面に移行し、選手カードの選択に訂正がないことを確認すると、C強化実行画面に移行する点において共通する。
 しかし、原告ゲームと被告ゲームは、トレーディングカードゲームを題材とするものであり、所持するカードから強化したいカードとこれに合成させて消滅するカードをそれぞれ選択し、選択に訂正がないことを念のため確認してから、合成を実行すること自体は、トレーディングカードゲームにおけるルールであり、アイデアにすぎない。そして、これを画面上に表現するとしても、上記のルールが上記の過程を順序立てたものである以上、画面の選択・配列及びその流れについてはその選択の幅は狭いから、上記アイデアに従ってそれを表現しようとすれば基本的には上記順序に沿った画面遷移とならざるを得ないというべきである。
 また、証拠(乙40)によれば、同様の画面遷移をするもので、かつ先に強化するカードを選択してからその後に合成させて消滅するカードを選択する画面遷移を採用するゲームとして、「三国志カードバトル」、「陰陽師 平成妖奇譚」、「さんごくっ!」、「任侠道」、「大争奪!!レジェンドカード」、「デュエルサマナー」、「エグザムライ戦国」、「ビックリマン」といったゲームが存在し、先に合成させて消滅するカードを選択してからその後に強化するカードを選択する画面遷移を採用するゲームとして、「ナイツオブクリスタル」、「ペルソナ3 ソーシャル」、「戦国キングダム」といったゲームが存在することが認められることに照らすと、上記画面遷移はトレーディングカードゲームとしてありふれた表現にすぎないというべきである。
(d) したがって、原告ゲームと被告ゲームは、「強化」において、その画面の選択及び配列において共通する点があるとはいえ、それはありふれた表現であって創作性が乏しい表現であり、複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
d オーダーについて
(a) 原告ゲームについては、証拠(甲26の1及び2)によれば、「オーダー」における表示は次のとおりであることが認められる。
 原告ゲームにおいて、「オーダー」は、「入れ替える選手の選択画面」、「入れ替えたい選手の選択画面」、「入れ替え後オーダー表示画面」からなる。まず、利用者が「ドリナイマイページ画面」において「オーダー」のメニューを選択すると「入れ替える選手の選択画面」が表示される。同画面は、野手のオーダーと投手のオーダーの表示を「野手オーダー」と「投手起用法」のメニューの選択により切り替えており、「野手オーダー」には、1番から代打まで合計11名の選手カードが打順に従って表示され、「投手起用法」には、先発、中継ぎ、抑えの順に選手カードが表示される。利用者が入れ替えの対象として特定の選手カードを選択すると、「入れ替えたい選手の選択画面」が表示され、候補となる選手カードが表示され、特定の選手カードを選択すると、「入れ替え後オーダー表示画面」が表示される。同画面には、変更後のオーダーが表示され、野手のオーダーを変更した場合には「野手オーダー」が、投手のオーダーを変更した場合には「投手起用法」が表示される。以上のオーダーにおける選択及び配列を図示すると、別紙オーダー画面遷移図に記載のとおりとなる。
(b) これに対して被告ゲームについては、証拠(甲28の1及び2)によれば、「オーダー」における表示は次のとおりであることが認められる。
 原告ゲームにおいて、オーダーは、「入れ替え元の選手の選択画面」、「入れ替えたい選手の選択画面」、「入れ替え後オーダー表示画面」からなる。まず、利用者が「マイページ画面」において「オーダー」のメニューを選択すると「入れ替え元の選手の選択画面」が表示される。同画面は、野手のオーダーと投手のオーダーの表示を「野手オーダー」と「投手」のメニューの選択により切り替えており、「野手オーダー」には、1番から代打まで合計11名の選手カードが打順に従って表示され、「投手」には、先発、中継ぎ、抑えの順に選手カードが表示される。利用者が入れ替えの対象として特定の選手カードを選択すると、「入れ替え先の選手の選択画面」が表示され、候補となる選手カードが表示され、特定の選手カードを選択すると、「入れ替え後オーダー表示画面」が表示される。同画面には、変更後のオーダーが表示され、野手のオーダーを変更した場合には「野手オーダー」が、投手のオーダーを変更した場合には「投手」が表示される。以上のオーダーにおける選択及び配列を図示すると、別紙オーダー画面遷移図に記載のとおりとなる。
(c) 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、オーダーにおいて、@「ドリナイマイページ画面」ないし「マイページ画面」において「オーダー」のメニューを選択して、A既に組んであるオーダーから入れ替える選手を選択する画面に移行し、特定の選手を選択すると、B入れ替えたい選手を選択する画面に移行し、特定の選手を選択すると、C入れ替え後のオーダーが表示される画面に移行し、かつ、AないしCの配列は、野手オーダーと投手オーダーそれぞれにおいて設けられている点において共通する。
 しかし、原告ゲームと被告ゲームは、トレーディングカードゲームを題材として、所持するカードから特定のカードを選択してデッキを構築することを前提とするものであり、構築したデッキを所持するカードで改めるときには、デッキから特定のカードを選択し、所持するカードから特定のカードを選択して入れ替え、これをもってデッキを再構築すること自体は、トレーディングカードゲームにおけるルールであり、アイデアにすぎない。そして、これを画面上に表現するとしても、上記のルールが上記の過程を経て行われるものである以上、画面の選択・配列及びその流れについてはその選択の幅は狭いから、上記アイデアに従ってそれを表現しようとすれば基本的には上記過程に沿った画面遷移とならざるを得ないというべきである。
 また、証拠(乙36、43)によれば、同様の画面遷移をするオンラインゲームとして前記「プロ野球オーナーズリーグ」が存在すること、同ゲームは平成22年3月に配信が開始され、同年12月に選手カードの販売が開始された第4弾までに合計5000万枚以上の選手カードが売れたことが認められ、原告より先に配信されたゲームで高い人気を得たオンラインゲームにおいて既に原告ゲームと被告ゲームのような画面遷移が採用されていたことに照らしても、原告ゲームの画面遷移はトレーディングカードゲームとしてありふれた表現にすぎないというべきである。
(d) したがって、原告ゲームと被告ゲームは、「オーダー」において、その画面の選択及び配列において共通する点があるとはいえ、それはありふれた表現であって創作性に乏しい表現であり、複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
e 試合について
(a) 原告ゲームについては、証拠(甲6の1及び2、17の1及び2)によれば、「試合」における表示は次のとおりであることが認められる。
 原告ゲームにおいて、「試合」は、「対戦相手の選択画面」、「対戦相手への行動選択画面」、「対戦する両チームの表示画面」、「試合実施画面」からなる。まず、利用者が「ドリナイマイページ画面」において「試合」のメニューを選択すると「対戦相手の選択画面」が表示される。同画面には、対戦相手の候補が表示され、利用者が対戦相手を選択すると、「対戦相手への行動選択画面」が表示される。同画面で「対戦する」のメニューを選択すると、「対戦する両チームの表示画面」に移行し、利用者のチームと対戦相手のチームが上下に表示される。利用者が「試合開始」のコマンドを選択すると、「試合実施画面」に移行する。試合実施画面における表示内容は前記(2)ウ(ア)aに認定したとおりである。以上の試合における選択及び配列を図示すると、別紙試合画面遷移図に記載のとおりとなる。
(b) これに対して被告ゲームについては、証拠(甲12の1及び2、17の1及び2)によれば、「試合」における表示は次のとおりであることが認められる。被告ゲームにおいて、試合は、「対戦相手の選択画面」、「対戦相手への行動選択画面」、「対戦する両チームの表示画面」、「試合実施画面」からなる。まず、利用者が「マイページ画面」において「試合」のメニューを選択すると「対戦相手の選択画面」が表示される。同画面には、対戦相手の候補が表示され、利用者が対戦相手を選択すると、「対戦相手への行動選択画面」が表示される。同画面で「練習試合する」のメニューを選択すると、「対戦する両チームの表示画面」に移行し、利用者のチームと対戦相手のチームが上下に表示される。利用者が「プレイボール」のコマンドを選択すると、「試合実施画面」に移行する。試合実施画面における表示内容は前記(2)ウ(ア)bに認定したとおりである。以上の試合における選択及び配列を図示すると、別紙試合画面遷移図に記載のとおりとなる。
(c) 以上の認定によれば、原告ゲームと被告ゲームとは、「試合」において、@「ドリナイマイページ画面」ないし「マイページ画面」において「試合」のメニューを選択して、A対戦相手の選択画面に移行し、対戦相手を選択すると、B対戦相手への行動選択画面に移行し、対戦相手との対戦を実行するメニューを選択すると、C対戦する両チームの表示画面に移行し、さらにD試合実施画面に移行する点において共通する。
 しかし、原告ゲームと被告ゲームは、トレーディングカードゲームを題材とするSNSゲームであり、所持するカードで構築したデッキで対戦相手と対戦することとし、その前提としてバトルごとにポイントを消費するのでバトルに敗北したときにはポイントを浪費する結果となるため、勝利の見込みがある対戦相手を選択する必要があるから、利用者の自由な選択に委ねることとし、また、対戦中は互いに構築したデッキを相対して並べることとすること自体は、トレーディングカードゲームを題材とするSNSゲームにおけるルールであり、アイデアにすぎない。そして、これを画面上に表現するとしても、上記のルールが上記の過程を順序立てたものである以上、画面の選択・配列及びその流れについてはその選択の幅は狭いから、上記アイデアに従ってそれを表現しようとすれば基本的には上記順序に沿った画面遷移とならざるを得ないというべきである。
 また、証拠(乙40)によれば、同様の画面遷移、すなわち「バトル」のメニューを選択すると、対戦相手を選択する画面、利用者のカードと対戦相手のカードが相対して並べられている表示がされた画面、対戦を実施する画面と順に遷移するSNSゲームとして、「ナイツオブクリスタル」、「天空のスカイガリレオン」、「三国志カードバトル」、「陰陽師 平成妖奇譚」、「ひぐらしうみねこカードバトル」、「さんごくっ!」、「戦国キングダム」、「任侠道」、「大争奪!!レジェンドカード」、「デュエルサマナー」、「エグザムライ戦国」及び「ビックリマン」といったゲームが存在することが認められることに照らしても、上記画面遷移はトレーディングカードゲームを題材とするSNSゲームとしてありふれた表現にすぎないというべきである。
(d) したがって、原告ゲームと被告ゲームは、「試合」において、その画面の選択及び配列において共通する点があるとはいえ、それはありふれた表現であって創作性が乏しい表現であり、複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
イ ゲーム全体についての検討
 原告は、原告ゲーム全体と被告ゲーム全体とを対比すると、以下の部分において共通しており、当該部分は創作的な表現であり、著作物性が認められるから、著作権侵害が認められるべきである旨主張する。
@ 利用者は、「選手ガチャ」及び「スカウト」を実行して、所持する選手カードを増やしていく。
 併せて、「スカウト」の実行により、利用者のレベルを上げるため必要な経験値や下記Aの強化に必要なポイントを獲得する。
A 利用者は、上記@によって集めた選手カードのうち強化したい強化選手カードを選択し、かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルを上げ、所持する選手カードを強化していく。
B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合などは、現在の野手オーダーや投手起用法(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、オーダーの入れ替えを行う。
C 利用者は、上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させる。これによって、上記Aの強化に必要なポイントを獲得できる。
D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。確かに、原告ゲームが「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」及び「試合」(リーグ)の五つの要素からなり、それらの各要素が相互に関係するように構成されており、先に認定した上記各要素の具体的内容によれば、原告ゲームは、大要、上記@ないしDの各表現を有するものであることが認められる。また、被告ゲームが「ガチャ」、「ミッション」、「オーダー」、「強化」及び「試合」の五つの要素からなり、それらの各要素が相互に関係するように構成されており、先に認定した上記各要素の具体的内容によれば、被告ゲームも、大要、上記@ないしDの各表現を有するものであることが認められる。
 しかし、まず、原告ゲームと被告ゲームとの間に原告の主張する上記@ないしDの共通点があるとしても、前記説示のとおり原告ゲームと被告ゲームは具体的表現において相違点が多数認められるところであるから、被告ゲームは原告ゲームの複製には当たらない。
 また、そもそもゲームソフトは通常の映画とは異なり、利用者が参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため、利用者が必要とする情報を表示し、又は利用者の選択肢を表示するための画面や操作手順を表示する必要があるところ、このような利用者の便宜のための画面や操作手順は、利用者の操作の容易性や一覧性等の機能的な面を重視せざるを得ないため、作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ないばかりか、特に、本件における原告ゲーム及び被告ゲームは、野球という定型的で厳格なルールの定められたスポーツを題材とし、しかもプロ野球界の実在の球団及び選手を要素として使用し、かつトレーディングカードという定型的な遊び方のあるゲームを前提として構成されたSNSゲームであるから、そこには、野球というスポーツのルールに由来する一定の制約、プロ野球界の実在の球団及び選手の画像等を利用することに由来する一定の制約、トレーディングカードゲームの形態やルールに由来する一定の制約があるから、特に特徴的な点あるいは独自性があると認められない限り、創作性は認められないというべきである。
 そして、原告の主張する上記@ないしDの内容は、飽くまでプロ野球選手カードゲームを題材とするSNSゲームとしての遊び方、進行方法若しくはゲームのルールであって、それ自体アイデアにすぎず具体的表現とはいえないし、仮に上記@ないしDの内容を何らかの表現と捉えるとしても、上記制約があることを考慮すると、原告ゲームに特徴的な点あるいは独自性があるとも認められないというべきであるから、原告ゲームと被告ゲームとの間に上記@ないしDの共通点があることをもって、被告ゲームは原告ゲームの翻案に当たるとはいえないと認めるのが相当である。
(5) まとめ
 以上のとおり、原告ゲームと被告ゲームは、個別の表現においても、表現全体においても、アイデアなど表現それ自体でない部分又はありふれた表現において共通するにすぎないと認められるから、被告ゲームについて複製権を侵害した、または翻案権を侵害したということはできず、公衆送信権を侵害したということもできない。
2 争点(2)(被告ゲームの配信行為は不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか)について
(1) 原告は、原告ゲームの進行及びゲームの影像と同進行に伴う変化の態様は、別紙対照表2記載のとおりであり、周知の商品等表示性又は著名な商品等表示性が認められるべきであると主張する。
(2) この点、ゲームの進行なるものは、抽象的な観念にすぎず、それを基礎として具体的な表示となるものとしてゲームの影像とその変化の態様が商品等表示性が認められることがあり得るとしても、ゲームの進行自体が独立して取引の対象とされて周知または著名な商品等表示として認めるに足りる的確な証拠はないから、不競法2条1項1号及び同項2号所定の「商品等表示」には当たらないというべきである。
(3) 次に、原告ゲームの影像とその変化の態様について検討する。
ア ゲームの影像が他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり、かつ、そのような特徴を備えた影像が特定のゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されることなどにより、当該影像が需要者の間に広く認識されているような場合には、当該影像が不競法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあり得るし、または、当該影像が著名といえる場合には、当該影像が不競法2条1項2号にいう「商品等表示」に該当することがあり得るものと解される。
イ しかし、前記1(4)イで説示したとおり、原告ゲームは、利用者が参加して楽しむというインタラクティブ性を有していることに由来する制約、野球というスポーツのルールに由来する一定の制約、プロ野球界の実在の球団及び選手の画像等を利用することに由来する一定の制約、トレーディングカードゲームの形態やルールに由来する一定の制約があるばかりか、前記認定のとおり、原告ゲームの「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」及び「試合」といった各個別の項目における表現及び遊び方についても類似のゲームが既に採用している表現及び遊び方を採用しているにすぎないから、それらをどのように選択し、組み合わせて配列・構成したとしても、それらの諸要素を利用したゲームであれば、相当程度似通ったものとならざるを得ないというべきであるから、原告ゲームは、個々の要素を個別に判断しても、また、その配列・構成を全体的に観察しても、他に例を見ない独創的な特徴を有するものであると認めることはできない。
ウ また、原告ゲームについては、その全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されて、原告ゲームの影像とその変化の態様が需要者の間に広く認識されていたとか、著名であったと認めるに足りる的確な証拠はない。
 すなわち、証拠(甲54ないし57)によれば、SNSゲーム総合情報誌である「アプリスタイル」が、その第3号ないし第5号及び第7号において、原告ゲームの特集を組んで同ゲームを紹介する記事が掲載されたことが認められるが、原告ゲームは「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」及び「試合」の五つの要素があり、それらの要素が相互に関係するものであるところ、上記記事の内容をみると、ゲームの概要や特定の選手の組み合わせの仕方による効果等の遊び方や攻略法を紹介するものであり、また、原告ゲームの影像が掲載されているとはいえ、「オーダー」における「入れ替え元の選手の選択画面」をなす画面全体のうち一部が掲載されているとか、「スカウト」における「取得選手カード表示画面」をなす動画全体のうち一部を動画ではなく静止画像として掲載されていたり、「強化」における「強化確認画面」と「強化実施画面」に限り、かつ、「強化実施画面」についてはそれをなす動画全体のうち一部を動画ではなく静止画像として掲載されていたりといったもので、原告ゲームを構成する上記五つの要素のいずれについても当該要素をなす画面遷移の経過のうち一部を掲載するものであり、さらにいえば、上記各掲載号において必ずしも繰り返し掲載されてはいないことが認められる。そうすると、上記各証拠によっては、原告ゲームの全課程が繰り返されて長時間にわたって画面に表示されたと認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
エ この点に関して原告は、SNSゲームの特色として、一定範囲を無料でゲームを進めることができ、より有利にゲームを進めるために課金される点をもって商品等表示としての周知性や著名性が認められるべきであると主張する。
 しかし、利用者が課金される時点において、既に原告ゲームの全過程を繰り返し長時間にわたって視聴することはあり得るが、そのことは当該利用者にとってのことにすぎないのであり、需要者の間で原告ゲームの影像及びその変化の態様が広く認識された、または著名であると認めるには足りないといわざるを得ないから、原告の上記主張は採用できない。
(4) したがって、原告ゲームについては、その影像が周知または著名な商品等表示であると認めることはできないから、その余の点について検討するまでもなく、不競法2条1項1号、2号による原告の請求はいずれも理由がない。
3 争点(3)(被告ゲームの配信行為は不競法2条1項3号の不正競争に該当するか)について
(1) 原告は、原告ゲームの「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」、「試合」の五つの要素における各画面表示の展開の組み合わせ、及び各表示画面内の表示を総合したものが、不競法2条1項3号の「形態」に当たると主張する。
(2) 不競法2条1項3号は、他人の労力、資金の成果を、他の形態をとる選択肢があるにもかかわらず、ことさら商品を完全に模倣して、その他人と競争する行為を不正競争行為として規制するものであるところ、不競法における「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいうところ(同法2条4項)、それは知覚によって認識することができる有形的な商品の具体的な形状をいうものであり、無形のアイデア、商品の機能及び商品の抽象的な形態の特徴は含まれないと解すべきである。
(3) これを本件についてみると、原告が主張する原告ゲームの「選手ガチャ」、「スカウト」、「強化」、「オーダー」、「試合」の五つの要素における各画面表示の展開の組み合わせといったものは、前記1(4)イで説示したとおり、原告ゲームの遊び方、進行方法若しくはゲームのルールであって、それ自体無形のアイデア、商品の機能若しくは抽象的な形態の特徴にとどまるというべきであるから、不競法2条1項3号の「形態」に当たると認めることはできないというべきである。
(4) したがって、その余の点について検討するまでもなく、不正競争防止法2条1項3号による原告の請求も理由がない。
(5) 以上の次第であるから、原告の主位的請求はいずれも理由がない。
4 争点(4)(被告ゲームの配信行為は不法行為に該当するか)について
(1) 原告は、原告が費用や労力をかけて原告ゲームのゲームシステムを構築したにもかかわらず、被告が原告ゲームのゲームシステムを完全に模倣することによって、そのような費用・労力をかけることなく高い収益が望める被告ゲームを作成して配信しており、かかる行為は、先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱するものとして不法行為を構成するというべきであると主張する。
 しかし、著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な利益を認めるとともに、その独占的な利益と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な利益の及ぶ範囲、限界を明らかにしていることからすれば、ある著作物が同法による保護を受ける著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利用する権利は法的保護の対象とはならないものと解すべきであるから、著作権法による保護を受けない著作物の利用行為は、同法の規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁平成21(受)第602号、同23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。また、市場における競争は本来自由であるべきことに照らすと、相手方の競争行為が不競法の定める不正競争行為に該当しない場合、当該行為が、ことさら相手方に損害を与えることを目的として行われたなど自由競争の範囲を逸脱する態様で、不競法の定める不正競争行為の規制による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が存在しない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
 これを本件について検討すると、原告が主張するところの、原告が費用や労力をかけて作り上げた原告ゲームのゲームシステムに関して保護されるべき利益とは、結局、原告が著作権法及び不競法によって保護されるべきと主張する法的利益、すなわち、原告ゲームの個別的、全体的な表現、若しくはゲームの遊び方、進行方法、ゲームのルールといったアイデアや抽象的な特徴に基づく利益と何ら異なるものではないところ、それらの点が著作権法及び不競法によっては保護されないものであることは前記判示のとおりであり、また、本件全証拠を精査しても、被告が被告ゲームを配信し、収益を得る行為がことさら原告に損害を与えることを目的として行われたなどの自由競争の範囲を逸脱する行為であると認めるに足りる事実も窺われない。
 そうすると、被告が被告ゲームを制作しこれを配信する行為には、著作権法の規律の対象とする著作物の利用若しくは不競法の定める不正競争行為の規制による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情は認められないというべきである。
(2) したがって、被告の上記行為については民法上の不法行為を構成するものではないと認めるのが相当であるから、原告の予備的請求も理由がない。
5 結論
 以上のとおりであり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 実本滋


(別紙)ゲーム目録
タイトル 大熱狂!!プロ野球カード
配信URL http://pf.mbga.jp/12006884
        http://sp.pf.mbga.jp/12006884
配信元 被告

(別紙)対照表1
第1 個別の表現(省略)
第2 ゲーム全体
(原告ゲーム) (被告ゲーム)
@ 利用者は、選手ガチャ及びスカウトを実行して、所持する選手カードを増やしていく
 併せて、スカウトの実行により、利用者のレベルを上げるため必要な経験値やAの強化に必要なポイントを獲得する。
@ 利用者はガチャ及びミッションを実行して、所持する選手カードを増やしていく。
 併せて、ミッションの実行により、利用者のレベルを上げるため必要な経験値やAの強化に必要なポイントを獲得する。
A 利用者は、@によって集めた選手カードのうち強化したい強化選手カードを選択し、かかる強化選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルを上げ、所持する選手カードを強化していく。 A 利用者は、@によって集めた選手カードのうち強化したい選手カードを選択し、かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルを上げ、所持する選手カードを強化していく。   
B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合などは、現在の野手オーダーや投手起用法(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、オーダーの入れ替えを行う。 B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合は、現在の打順オーダーや投手オーダー(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、レギュラーへの入れ替えを行う。
C 利用者は上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させる。これによってAの強化に必要なポイントを獲得できる。 C 利用者は上記@ないしBによって作成 強化した自己のチームを 携帯電話回線等を通じて他の利用者などのチームと対戦させる。これによって、Aの強化に必要なポイントを獲得できる。
D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。 D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。

(別紙)対照表2
第1 ゲームの進行について
(原告ゲーム) (被告ゲーム)
@ 利用者は、選手ガチャ及びスカウトを実行して、所持する選手カードを増やしていく
 併せて、スカウトの実行により利用者のレペルを上げるため必要な経験値やAの強化に必要なポイントを獲得する。
@ 利用者は、ガチャ及びミッションを実行して、所持する選手カードを増やしていく。
 併せて、ミッションの実行により利用者のレペルを上げるため必要な経験値やAの強化に必要なポイントを獲得する。
A 利用者は、@によって集めた選手カードのうち強化したい強化選手カードを選択し、かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルをあげ、所持する選手カードを強化していく。 A 利用者は、@によって集めた選手カードのうち強化したい強化選手カードを選択し、かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで、強化選手カードのレベルを上げ、所持する選手カードを強化していく。
B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合などは、現在の野手オーダーや投手起用法(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、オーダーの入れ替えを行う。 B 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合は、現在の打順オーダーや投手オーダー(先発、中継ぎ、抑え)を見直し、レギュラーの入れ替えを行う。
C 利用者は 上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させる。これによって、Aの強化に必要なポイントを獲得できる。 C 利用者は、上記@ないしBによって作成、強化した自己のチームを、携帯電話回線等を通じて、他の利用者などのチームと対戦させる、これによって、Aの強化に必要なポイントを獲得できる。
D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。 D 利用者は、上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し、これを繰り返しながらチームを強化し、理想とするチームを作り上げていく。
第2 ゲームの影像とゲーム進行に伴うその変化の態様について(省略)

 以下、別紙省略
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/