判例全文 line
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【事件名】JASRAC「包括利用許諾契約」事件(2)
【年月日】平成25年11月1日
 東京高裁 平成24年(行ケ)第8号 審決取消等請求事件

判決


主文
1 被告が、公正取引委員会平成21年(判)第17号審判事件について、参加人に対し平成24年6月12日付けでした審決を取り消す。
2 原告の排除措置命令の主文の執行を求める訴えを却下する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告及び参加人の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は、被告が平成21年2月27日付けで行った公正取引委員会平成21年(措)第2号排除措置命令の主文を執行せよ。
第2 事案の概要
1 手続の経過等
(1) 参加人は、音楽の著作物(以下「音楽著作物」という。)の著作権(以下「音楽著作権」という。)に係る著作権管理事業(以下「管理事業」という。)を営む者(以下「管理事業者」という。)であり、著作権者から音楽著作権の管理を受託し、放送事業者(放送法等の一部を改正する法律(平成22年法律第65号。以下「放送法等改正法」という。)による改正前の放送法(昭和25年法律第132号)2条3号の2に規定する放送事業者及び放送法等改正法による廃止前の電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)2条3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち衛星役務利用放送(放送法施行規則の一部を改正する省令(平成23年総務省令第62号)による廃止前の電気通信役務利用放送法施行規則(平成14年総務省令第5号)2条1号に規定する衛星役務利用放送をいう。)を行う者)に音楽著作物の利用を許諾し、使用料を徴収して著作権者に分配している。
 参加人は、放送又は放送のための複製その他放送に伴う音楽著作物の利用(以下「放送等利用」という。)に係る音楽著作権の大部分の管理を受託しており、ほとんど全ての放送事業者との間で、放送等利用に係る音楽著作権を管理する音楽著作物(以下「管理楽曲」という。)の利用許諾に関する契約(以下「利用許諾契約」という。)を締結し、楽曲の利用の有無や回数に関係なくそれぞれの放送事業者の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で音楽著作物の放送等利用に係る使用料(以下「放送等使用料」という。)を算定し、徴収している。
(2) 被告は、参加人が、全ての放送事業者との間の利用許諾契約において、放送事業者が放送等利用した音楽著作物総数における参加人管理に係る音楽著作物の割合を反映させない方法で放送等使用料を算定することとしているため、放送事業者は、参加人以外の管理事業者の管理楽曲を利用した場合には、それだけ負担すべき放送等使用料が増額することから、他の管理事業者の管理楽曲はほとんど利用しなくなり、参加人以外の管理事業者は、放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっているとして、上記の放送等使用料算定方法及びその徴収は、他の著作権管理事業者の事業活動を排除し、公共の利益に反して、我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限しており、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)2条5項のいわゆる排除型私的独占(以下「排除型私的独占」という場合がある。)に該当し、同法3条に違反すると判断して、平成21年2月27日、同法7条1項に基づき、参加人に対し、排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)を行った(平成21年(措)第2号)。
 本件排除措置命令の第1項の内容は、おおむね以下のとおりである。
 「参加人は、管理事業者から音楽著作物の利用許諾を受けて放送等利用を行う放送事業者から徴収する放送等使用料の算定において、放送等利用割合(放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占める参加人の管理楽曲の割合をいう。)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用することにより、当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には、当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為を取りやめなければならない。」
(3) 本件排除措置命令に対し、参加人は、独占禁止法3条違反が成立することを争い、同命令の取消しを求めて審判を請求し(平成21年(判)第17号事件。以下「本件審判事件」という。)、被告は、平成24年6月12日、「参加人が、ほとんど全ての放送事業者との間で放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結し、この契約に基づき、放送等使用料を徴収している行為(以下「本件行為」という場合がある。)」が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは困難であるとして、本件行為が、同法2条5項のいわゆる排除型私的独占に該当し、同法3条に違反するとはいえないと判断して、本件排除措置命令を取り消すとの審決(以下「本件審決」という。)をした。
(4) 原告は、放送等利用に係る管理事業を営む管理事業者であるが、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起し、参加人は行政事件訴訟法22条1項に基づいて、本件訴訟に参加した。
2 前提となる事実(争いのない事実及び被告が本件審決で認定した事実で原告が実質的な証拠の欠缺を主張していない事実)
(1) 参加人及び原告について
 参加人は、肩書地に主たる事務所を置き、放送等利用に係る音楽著作権の管理事業を営む管理事業者である。
 原告は、肩書地に主たる事務所を置き、放送等利用に係る音楽著作権の管理事業を営む管理事業者である。
(2) 管理事業について
ア 管理事業とは、我が国において、音楽著作権を有する作詞者及び作曲者(以下「著作者」という。)並びに著作者より音楽著作権の譲渡を受けた音楽出版社(個人の著作者の多くは、音楽著作権を音楽出版社に譲渡している。以下、著作者と音楽出版社を合わせて「著作権者」という場合がある。)から音楽著作権の管理の委託を受け、音楽著作物の利用者に対し、管理楽曲の利用を許諾し、その利用に伴い当該利用者から使用料を徴収し、管理手数料を控除して著作権者に分配する事業である。
イ 管理事業者が行う管理事業は、「利用者に対する利用許諾」、「利用者からの使用料の徴収」、「著作権者への使用料の分配」の3種の業務に大別できる。
 「利用者に対する利用許諾」には、管理楽曲を特定して利用を許諾する「曲別許諾」と、管理楽曲を特定せずに管理事業者が管理する全ての管理楽曲の利用を包括的に許諾する「包括許諾」がある。
 「利用者からの使用料の徴収」には、1曲1回の曲別使用料に利用楽曲数を乗じた金額を徴収する「個別徴収」と、楽曲の利用の有無や回数にかかわらず定額又は定率により算出された包括的な使用料を徴収する「包括徴収」がある。利用許諾が「曲別許諾」の場合には、必然的に「個別徴収」により使用料を徴収することとなる一方、利用許諾が「包括許諾」の場合には、使用料を「包括徴収」により徴収する場合(包括許諾と包括徴収を内容とする契約は「ブランケット契約」、「包括契約」などと称されることがある。)と「個別徴収」により徴収する場合がある。
 なお、「著作権者への使用料の分配」に関しては、使用料が「個別徴収」によって徴収された場合には、使用料と楽曲との対応が明らかなので、使用料は、管理事業者の管理手数料が控除された上で、当該楽曲の著作権者に対して分配される。これに対し、使用料が「包括徴収」によって徴収された場合には、使用料を著作権者に利用実績に基づいて分配するために、各利用者の利用実績に関するデータが必要となる。利用者の利用実績に関する報告には、全曲報告とサンプリング報告があった。
(審第38号証)
(3) 著作権等管理事業法について
ア 著作権等管理事業法の制定
 管理事業は、平成13年10月1日に著作権等管理事業法(平成12年法律第131号。以下「管理事業法」という。)が施行されるまでの間は、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(昭和14年法律第67号。以下「仲介業務法」という。)の規定に基づく許可制とされており、音楽著作権については、60年以上の間、事実上、参加人のみが上記許可を受けて管理事業を営んでいた。
 しかし、平成13年10月1日、管理事業法が施行されるとともに仲介業務法が廃止され、同日以降は、管理事業法の規定に基づき、文化庁長官の登録を受け管理委託契約約款及び使用料規程を文化庁長官に届け出ることにより、管理事業を営むことが可能となった。
イ 管理事業法による規制の概要
 管理事業法は、管理事業者について登録制度を実施し、管理委託契約約款及び使用料規程の届出及び公示を義務付ける等その業務の適正な運営を確保するための措置を講ずることにより、著作権等の管理を委託する者を保護するとともに、著作物、実演、レコード、放送及び有線放送の利用を円滑にし、もって文化の発展に寄与することを目的としている(同法1条)。
 文化庁長官の登録(同法3条)を受けた管理事業者は、管理委託契約約款と使用料規程を定めて、あらかじめ、文化庁長官に届け出る必要があり、また、それを変更する場合も同様とされている(同法11条、13条)。使用料規程に関しては、管理事業者は、これを定め、又は変更しようとするときは、利用者又はその団体からあらかじめ意見を聴取するように努めなければならず(同法13条2項)、使用料規程に定める額を超える額の使用料を請求してはならない(同条4項)。なお、管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定されている(同法16条)。
 文化庁長官は、著作物等の種類及び利用方法に応じた利用区分において、一定の要件を満たす管理事業者を当該利用区分に係る指定管理事業者として指定することができ(同法23条1項)、指定管理事業者は、当該利用区分に係る利用者代表から使用料規程に関する協議を求められたときは、これに応じなければならないと規定されている(同条2項)。指定管理事業者が協議に応じず、又は協議が成立しなかった場合であって、利用者代表から申立てがあったときは、文化庁長官は、指定管理事業者に対して協議の開始等を命ずることができる(同条4項)が、協議が成立しないときは、文化庁長官が、当事者からの申請に基づいて、一定の手続を経て裁定をする旨の規定が設けられている(同法24条1項ないし5項)。
 そして、使用料規程を変更する必要がある旨の裁定があったときは、その使用料規程は裁定の内容に従って変更され(同条6項)、他方、指定管理事業者と利用者代表との協議が成立したときは、指定管理事業者は、その結果に基づいて使用料規程を変更しなければならない(同法23条5項)。参加人は、放送等利用を含むほとんどの利用区分において文化庁長官から指定管理事業者として指定を受けている
(審第38号証)。
 文化庁長官は、管理事業者に業務又は財産の状況について報告させ、同長官の職員をして管理事業者の事業所に立ち入って業務の状況等を検査させることができる(同法19条)ほか、管理事業者の業務の運営に関して委託者又は利用者の利益を害する事実があると認めるときは、業務改善命令を発することができ(同法20条)、さらには、管理事業者が一定の要件に該当する場合にはその登録を取り消したり、業務停止命令を発することができる(同法21条)。
(4) 参加人における管理事業の概要
ア 著作権者との関係
 参加人は、管理事業法上の「管理委託契約約款」として、参加人と著作権者との委託契約の内容を定めた「著作権信託契約約款」、著作権者への使用料の分配方法を定めた「著作物使用料分配規程」、使用料分配の際に控除する管理手数料率を定めた「管理手数料規程」等10の規程を設けており、これらを管理事業法に基づいて文化庁長官に届け出ている。
 著作権者は、著作権を信託財産として参加人に移転し、信託契約上の受益者の地位を得る(著作権信託契約約款第3条)。信託期間は原則3年であり、一定の事由がなければ、従前と同一の条件で契約が更新されることとされている(同約款第8条、第9条)。
(査第8号証、審第38号証)
イ 音楽著作物の利用者との関係
 参加人との間で利用許諾契約を締結している放送事業者は、@日本放送協会(以下「NHK」という。)、A地上波放送を行う一般放送事業者(これらの放送事業者には、社団法人日本民間放送連盟(以下「民放連」という。)に加盟する放送事業者(以下、民放連に加盟し、地上波放送を行う一般放送事業者を「民間放送事業者」という。)とコミュニティ放送を行う放送事業者(以下「コミュニティ放送事業者」という。)が含まれる。)、B衛星放送を行う一般放送事業者(以下「衛星放送事業者」という。)、C放送大学学園に大別することができる。
 参加人が管理事業法に基づいて届け出た使用料規程においては、放送等使用料の徴収方法として、包括徴収と個別徴収が定められているが、個別徴収を選択すると、1曲1回の利用ごとに参加人から放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾を受けなければならず、かつ、1曲1回の利用に係る放送等使用料が6万4000円と高額であって、包括徴収による場合に比して、放送等使用料の総額が著しく高くなる。
 そのため、上記@ないしCのほとんど全ての放送事業者は、参加人との間で放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結している。
 なお、参加人は、前記(3)イのとおり、ほとんどの利用区分において管理事業法上の指定管理事業者に指定されているため、使用料規程について利用者代表から協議を求められた場合にはこれに応ずる義務があるほか、利用者代表との協議が成立した場合には、その結果に従って使用料規程を変更する義務を負うことから、放送等利用については、事前に、放送事業者又は放送事業者の団体と協議を行い、その都度、合意した内容を使用料規程に反映させて、文化庁長官への届出をしている。
(査第3号証、第9号証ないし第24号証、審第38号証)
ウ 参加人の利用者からの音楽著作物利用報告システムの状況等
 参加人は、放送等利用に係る管理事業において、利用実績を正確に反映させた放送等使用料の分配を行うことを目的として、放送事業者が放送番組で利用した参加人管理楽曲の全曲を参加人に電子的な形で報告させるための放送楽曲報告受付システム(以下「J−BASS」という。)を構築し、平成15年10月から利用を開始した。
 同システムを利用することにより、放送事業者は、放送番組で利用した楽曲について、紙媒体による報告に替えて、利用楽曲についての電子データをJ−BASSに送信することによって報告ができるようになった。
 しかし、J−BASSに対応するための電子データ化作業の進捗度は、それぞれの放送事業者によって異なり、利用楽曲の一部のみを電子データとして報告する事業者もあった。平成18年度において、電子データをJ−BASSに送信することにより完全な全曲報告を行っている放送事業者数は、民放連に加盟しているFMラジオ局53社のうちの39社であり、また、民間放送事業者から参加人に報告された利用楽曲総数(推計)に占めるJ−BASSへの電子データ報告数の割合は約31パーセントであった。
 参加人は、放送事業者からの全曲報告を促進するべく、民放連との間で、平成19年3月6日付けの「利用曲目報告に関する覚書」を締結した。同覚書によれば、民間放送事業者が電子データによる全曲報告をすれば、放送等使用料の減額を行うこととされ、その減額幅は、最大5パーセントとされた。
 J−BASSを通じて楽曲報告を行っている放送事業者は、当該楽曲が参加人の管理楽曲であるか否かは区別しないため、参加人は、J−BASSのデータを分析することにより、他の管理事業者の管理楽曲についても放送における利用状況を把握することができる状況であった。
 NHKは、平成13年以降、J−BASSによることなく参加人に対しておおむね全曲報告を行っている。
(査第11号証、審第4号証の1及び2、第5号証の1ないし3、第6号証、第9号証、第38号証)
(5) 参加人とNHK及び民放連との利用許諾契約の内容等
ア NHK
 参加人とNHKは、昭和53年度以降を対象とする利用許諾契約において、初めて放送等使用料を包括徴収により徴収する旨の条項を設け、以後、徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を数年ごとに締結している。
 参加人とNHKは、平成11年4月頃から、平成13年度以降の利用許諾契約締結に向けて交渉を行い、この交渉の中で、参加人は、日本の放送等使用料が先進諸国の水準と比べて低過ぎると主張して、従前導入された100分の50の調整係数(放送等使用料の急激な増加を緩和するため、従前の利用許諾契約で放送等使用料に乗ずるものとして定めた係数を指す。)の撤廃等を求めた。
 同交渉の末、参加人は、平成13年11月1日、NHKとの間で、同年4月1日から平成23年3月31日までの期間について、以下の利用許諾契約を締結した。
 すなわち、上記調整係数を撤廃し、放送等使用料の算定の基礎について、従来の受信料収入から放送事業収入へ拡大し、NHKの各年度の放送等使用料は、当該年度の前年度における放送事業収入(消費税を含まない。)に1.5パーセントを乗じて得た額とされた。なお、放送等使用料の急激な増加を避けるため、年度係数を設け、放送等使用料の額は段階的に増えることとされた。
(査第3号証、第10号証、第11号証、第27号証、審第32号証、第38号証)
イ 民放連
 参加人は、まず、民間放送事業者全てから委任を受けた民放連との間で、管理楽曲の放送等使用料の算定方法について協定を締結し、その後、個々の民間放送事業者との間で、放送等使用料の算定方法については参加人と民放連の協定の定めによる方法によるとして、利用許諾契約を締結している。
 参加人と民放連は、NHKと同様、昭和53年度以降を対象とする協定において、初めて放送等使用料を包括徴収により徴収する旨の条項を設け、以後、徴収方法を包括徴収とする協定を数年ごとに締結している。
 参加人と民放連は、平成11年4月頃から、平成13年度以降の協定締結に向けて交渉を行い、この交渉の中で、参加人は、NHKとの上記交渉と同様に、日本の放送等使用料は低過ぎるとして、従前導入された100分の50の調整係数の撤廃等を求めた。
 この交渉の結果、参加人と民放連は、平成13年4月1日から平成18年3月31日までの期間について、平成13年7月30日付けで音楽著作物の放送等利用に関する協定を締結し、参加人と各民間放送事業者は、この協定に基づき、それぞれ利用許諾契約を締結した。同協定では、民間放送事業者の各年度の放送等使用料は、当該年度の前年度における放送事業収入(消費税を含まない。)に1.5パーセントを乗じて得た額とされ、当該放送事業収入の中に番組制作収入を含むこととされたが、上記調整係数の撤廃については、次の協定締結の際の協議事項とすることとされ、協定の有効期間は5年とされた。
 参加人と民放連は、平成17年4月頃から平成18年度以降の協定締結に向けて交渉をしたが、上記調整係数の撤廃について意見が対立したため、平成13年に締結した協定の有効期間の末日である平成18年3月31日までに協定を締結することができず、しばらくの間、参加人と民間放送事業者との間で利用許諾契約のない状態が続いた。
 参加人と民放連は、同年9月21日付けで、同年4月1日から平成25年3月31日までの期間について、平成18年4月1日に遡って音楽著作物の放送等利用に関する協定(以下「民放連平成18年協定」という。)を締結し、参加人と各民間放送事業者は、この協定に基づき、同年9月28日付けで、それぞれ利用許諾契約を締結した。
 上記協定においては、民間放送事業者の各年度の放送等使用料は、当該年度の前年度における放送事業収入(消費税を含まない。)に1.5パーセントを乗じた額として維持した上、上記の調整係数を撤廃し、その代替措置として、番組と番組の間のスポットCM(放送広告)で利用された楽曲に関しては、広告代理店が参加人に対してCM放送に係る放送等使用料を別途支払っているため、放送事業収入からスポットCMに係る収入相当額を控除する趣旨で放送等使用料を25パーセント減額するとともに、放送等使用料の額が段階的に増えるように年度係数を設けた。
(査第3号証、第12号証ないし第15号証、第23号証、第24号証、第27号証、審第38号証)
(6) 管理事業法施行後の新規参入の状況
ア 平成13年10月1日の管理事業法の施行に伴い、参加人のほか、原告、株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス(以下「JRC」という。)、ダイキサウンド株式会社(以下「ダイキサウンド」という。)及び株式会社アジア著作協会(平成15年4月30日までの商号は株式会社韓日著作協会。以下「アジア著作協会」という。)も、順次、管理事業法に基づいて文化庁長官の登録を受け、管理事業を開始した。
イ 音楽著作物の利用方法には、放送等利用のほかに、録音等に係る利用、インタラクティブ配信(インターネット等を利用した配信をいう。)に係る利用、業務用通信カラオケに係る利用等があるところ、管理事業者は、これらのうち一部の利用方法に限定して文化庁長官の登録を受けることができる(管理事業法4条1項4号)。また、著作権者も、音楽著作物の利用方法ごとに管理事業者を選択して音楽著作権の管理を委託することができる。
 原告、JRC及びダイキサウンドは、放送等利用については管理事業を開始せず、アジア著作協会は、放送等利用について管理事業を開始したが、放送等使用料を徴収しなかったため、平成18年9月までの間は、放送等利用に係る管理事業を行い、放送事業者から放送等使用料を徴収していた管理事業者は、参加人のみであった。こうして、放送等利用に係る音楽著作権のほとんど全てを参加人が管理しているため、ほとんど全ての放送事業者は、参加人との間で利用許諾契約を締結し、参加人の管理楽曲をその放送番組において利用するほかに選択肢はなかった。
(査第5号証ないし第7号証、第9号証ないし第22号証)
(7) 原告の放送等利用に係る管理事業への新規参入
ア 原告は、平成12年9月に設立され、平成14年4月から、レコード、ビデオグラム等の録音権とインタラクティブ配信の分野で管理事業を営んでいた。(査第4号証)
イ 原告は、平成18年4月から放送等利用に係る管理事業を営むことができるよう、平成17年7月にNHKと民放連に対して協議の開始を申し入れた。(査第4号証、第25号証、A参考人審尋調書)
(ア) NHKとの協議
 原告は、当初、NHKに対し、NHKと参加人との利用許諾契約と同様に、音楽著作物の利用許諾の方法を包括許諾、放送等使用料の徴収方法を包括徴収とし、放送等使用料は、NHKの放送事業収入に1.5パーセントを乗じた額に、原告と参加人の録音権の使用料徴収額の比率に基づいた「管理事業者係数」を乗じた金額とすることを提案した。しかし、NHKは、原告が放送等利用に係る音楽著作権を管理する音楽著作物(以下「原告管理楽曲」という。)の数が不明であり、原告の管理楽曲を実際にどの程度利用するか不明であったことなどから、包括許諾、個別徴収の方法を主張した。
 原告とNHKは、平成18年初頭に、当面、包括許諾、個別徴収の方法を採ることに合意し、その後、個別徴収の放送等使用料の額をめぐって交渉を継続し、同年9月13日、利用許諾の方法を包括許諾とし、放送等使用料の徴収の方法を個別徴収とする同年8月31日付けの合意書を締結し、原告管理楽曲でNHKが利用したものについて、全曲報告を行うことで合意した。
 さらに、原告とNHKは、平成19年2月、原告管理楽曲の使用報告や放送等使用料の支払方法の詳細について合意した。
(査第4号証、第11号証、審第32号証、B参考人審尋調書)
(イ) 民放連との協議
 原告は、当初、民放連に対し、音楽著作物の利用許諾の方法を包括許諾、放送等使用料の徴収方法を包括徴収とした上で、放送等使用料は、各民間放送事業者の放送事業収入に1.5パーセントを乗じた額に、インタラクティブ配信の分野での実績を基に、原告と参加人の録音権の使用料徴収額の比率に基づいた「管理事業者係数」を乗ずる形とすることを提案した。
 しかし、原告と民放連は、平成18年4月以降、包括許諾、個別徴収の方法を採ることを前提に、個別徴収の放送等使用料の額をめぐって交渉を継続し、同年9月28日付けの「音楽著作物の利用に関する合意書」(査第31号証。以下「本件合意書」という。)を締結した。本件合意書において、原告は、民放連の会員である民間放送事業者が原告管理楽曲を放送等利用するについて包括的に許諾した。また、放送等使用料の徴収の方法は個別徴収とすること、楽曲1曲当たりの放送等使用料の額、この放送等使用料の額は民間放送事業者が原告に支払うべき放送等使用料の上限とすること等が合意された。
 さらに、原告と民放連は、原告管理楽曲の使用報告、実施細則等について、同年10月1日付けの覚書(審第36号証。以下「本件覚書」という。)を締結した。
 株式会社テレビ朝日(以下「テレビ朝日」という。)、株式会社東京放送(以下「東京放送」という。)及び株式会社Kiss−FM KOBE(以下「Kiss−FM」という。)は、本件合意書に基づき、原告と個別の利用許諾契約を締結した。他方、株式会社エフエム東京(以下「エフエム東京」という。)、株式会社J−WAVE(以下「J−WAVE」という。)、株式会社エフエムナックファイブ(以下「NACK5」という。)、株式会社ベイエフエム(以下「ベイエフエム」という。)を含む多くの民間放送事業者のほか、コミュニティ放送事業者及び衛星放送事業者は、原告との間で、本件合意書に基づく個別の利用許諾契約は締結していない。
(査第23号証、第24号証、第32号証、第40号証ないし第42号証、第52号証、審第23号証、第24号証、第33号証ないし第35号証、A参考人審尋調書、C参考人審尋調書、D参考人審尋調書、E参考人審尋調書)
(8) エイベックス・グループの原告に対する音楽著作権の管理委託及びその解約
ア エイベックス・エンタテインメント株式会社(以下「エイベックス・エンタテインメント」という。)は、音楽・映像コンテンツの制作、楽曲の管理等の業務を行う株式会社であり、株式会社エイベックス マネジメントサービスは、主にコンサルタント業務を行う会社であり、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社(以下「エイベックス・グループ・ホールディングス」という。)は、この2社を含む関連会社全体の管理・統括を行う持株会社である。これらの3社等は、楽曲の管理業務を共同で行っている(以下、エイベックス・グループ・ホールディングス及びその子会社を「エイベックス・グループ」という。)。(査第33号証、第34号証、審第37号証)
イ 音楽出版社等は、音楽著作物をテレビ・ラジオのCM(放送広告)、映画等で使用する場合に、当該音楽著作物の使用料を免除する方式(いわゆるタイアップ方式)により、音楽著作物の利用の機会を増加させ、当該音楽著作物のCD等の売上げの増大を図っており、特に、ダブル・タイアップ(例えば、特定のCMのために作成された楽曲を映画で利用する場合に、当該楽曲のCM放送に係る放送等使用料に加えて、映画利用に係る使用料も免除する仕組み)、トリプル・タイアップ等と称される複数のタイアップは、音楽著作物のプロモーション(販売促進)効果を高めるための重要な方式であった。
 しかし、参加人が、平成18年10月当時、タイアップを全面的に認める仕組みを設けていなかったため、エイベックス・グループは、参加人の使用料体系に不満を持っていた。また、エイベックス・グループは、参加人による放送等使用料の分配が全曲報告ではなくサンプリング報告に基づくため、不明朗であるとの不満を持っていた。
 一方、原告は、放送等利用に係る管理事業に参入するに当たり、タイアップの実施を柔軟に認めること、放送事業者から全曲報告を受けることを表明していたことから、エイベックス・グループは、原告に対して音楽著作権の管理を委託することで上記の不満が解消されるものと期待していた。
(査第33号証、第34号証、第96号証、第99号証、審第37号証、A参考人審尋調書、F参考人審尋調書)
ウ エイベックス・グループは、平成18年7月終わりから同年8月初め頃、原告から、同年10月以降に放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託するよう勧誘され、同年9月末頃、同社に対して、60曲の楽曲について放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した。エイベックス・グループが原告に放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した楽曲(以下「エイベックス楽曲」という。)の中には、既に人気が高く、また人気を博することが予想される楽曲も含まれていた。とりわけ、同年10月25日にCDの発売が予定されていたGの「恋愛写真」は、トリプル・タイアップを実施することが決定されており、放送等利用が見込まれる楽曲であった。エイベックス・グループにとっては、原告に管理を委託することにより、より多くの利益が期待できる状況であった。
 原告は、エイベックス・グループからエイベックス楽曲の管理の委託を受けて、同月1日から放送等利用に係る管理事業を開始した。
(査第4号証、第33号証、第34号証、審第37号証、F参考人審尋調書)
エ エイベックス・グループでは、日頃から、楽曲やアーティストのプロモーション担当者(プロモーター)が、放送事業者の番組制作プロデューサー、番組制作ディレクター等を定期的に訪問して、放送事業者にエイベックス・グループの楽曲を少しでも多く利用してもらえるよう、促進活動を活発に実施していた。
 平成18年10月初旬頃、同月25日にCDが発売されるGの「恋愛写真」の放送が解禁され、エイベックス・グループのプロモーターは、放送事業者に対し、「恋愛写真」のCD等を持参するなどして、同楽曲等を利用するよう活発な促進活動を行った。しかし、エイベックス・グループは、プロモーターから、原告管理楽曲を放送で利用しないとの意向を示したり、既に決まっていたG自身のゲスト出演のキャンセルを検討している首都圏のラジオ局が存在する等の情報を伝えられた。
 そこで、原告とエイベックス・グループは、NHKを除く放送事業者に対し、同年10月1日から同年12月31日までの期間、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とする旨決定した。
(査第4号証、第33号証ないし第35号証、第56号証、第96号証、第98号証、審第37号証、F参考人審尋調書)
オ その後、平成18年12月末、エイベックス・グループは、原告との間で、放送等利用に係る音楽著作権の管理委託契約を解約した。
(9) エイベックス・グループ以外の著作権者の原告への管理委託の状況
 原告がエイベックス・グループ以外の著作権者から委託を受けて放送等利用に係る音楽著作権を管理している楽曲の数は、平成19年3月31日には184曲であったが、その後増加し、平成22年9月30日には約3600曲となった。(審第21号証、第43号証ないし第49号証の各1及び2、A参考人審尋調書)
(10) その他の管理事業者の参入状況
 放送等使用料を徴収して放送等利用に係る管理事業を行っている管理事業者は、参加人及び原告のみである。
3 本件審決の争点及び判断
 本件審決は、以下のとおり、争点整理をした。
@ 本件行為は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するか(争点1)
A 本件行為は、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するか(争点2)
B 本件行為は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか(争点3)
C 本件行為は、公共の利益に反するものであるか(争点4)
D 本件排除措置命令は、競争制限状態の回復のために必要な措置であり、かつ、参加人に実施可能であるか(争点5)
 その上で、争点1について、本件行為が他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有することを認めるに足りる証拠はないとして、本件行為は独占禁止法2条5項所定のいわゆる排除型私的独占には該当せず、同法3条の規定に違反しないと判断した。
 本件審決の理由の概要は、以下のとおりである。
(1) 本件行為の影響
 参加人は、ほとんど全ての放送事業者との間で、放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結し、これらの契約において、放送等使用料の額は、当該年度の前年度の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で算定することとされている。このため、放送事業者が参加人以外の管理事業者の管理楽曲を利用すれば、その管理事業者との利用許諾契約に従って、別途放送等使用料を負担することとなる。
 上記の点で、参加人が上記の内容の利用許諾契約を締結して放送等使用料を徴収すること(本件行為)は、放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し、参加人が、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において、平成13年10月1日の管理事業法施行の前後を通じて、一貫してほぼ唯一の事業者であったことを併せ考えると、本件行為が、他の事業者の同分野への新規参入について消極的要因となることは、否定することができない。
 他方、放送事業者が音楽著作物を放送番組において利用する際には、放送等使用料の負担の有無及び多寡は考慮すべき要素の一つであり、番組の目的、内容、視聴者の嗜好等を勘案して適切な楽曲を選択するものと認められる。また、楽曲の個性や放送等使用料の負担をどの程度考慮するかは、放送事業者や番組の内容により大きく異なると認められる。
 そして、上記のとおり参加人の本件行為が放送事業者による他の管理事業者の楽曲の利用を抑制する効果を有し、競業者の新規参入につき消極的要因になることから、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果があると断定することができるかどうかは、本件行為に関する諸般の事情を総合的に考慮して検討する必要がある。
(2) FMラジオ局を中心とした放送事業者による原告管理楽曲の利用回避の有無
ア 原告管理楽曲の利用状況
(ア) Gの「恋愛写真」の利用状況
a 参加人のJ−BASSに報告されたデータによると、平成18年10月25日にCDが発売されたGの「恋愛写真」が放送事業者の放送番組に利用された回数は、以下の表のとおりである。「恋愛写真」は、同月1日から同年12月31日までの間に合計729回利用された。
 ところで、原告とエイベックス・グループは、同年10月16日頃、NHKを除く放送事業者に対し、同月1日に遡り、同年12月31日までの期間、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすること(以下「無料化措置」という場合がある。)を決定し、同年10月19日頃、この決定を通知する文書を首都圏のFMラジオ局及びAMラジオ局にファクシミリ送信するとともに、同月20日頃、民放連に送付し、民放連は、同月25日にこの文書を一部修正し、同日以降、民間放送事業者に対し送付している。
 「恋愛写真」は、同月1日から無料化措置を民間放送事業者に通知する文書の作成日付の前日である同月17日までに128回、同月18日から同月25日までの間に193回(うち首都圏以外の放送事業者において184回)、利用されている。首都圏以外の放送事業者が上記通知文書を受領したのは、同月25日以降であるから、放送事業者が無料化措置を知り、そのことを利用する楽曲の選択に反映させる前に「恋愛写真」を放送した回数は、首都圏以外の全ての放送事業者が上記通知文書を同月25日に受領し、翌26日からこれを踏まえて楽曲を選択したと仮定しても312回(同月17日までの利用回数である128回に同月18日から同月25日までの首都圏以外の放送事業者の利用回数である184回を加えた回数。)となり、同月1日から同年12月31日までの3か月間の利用回数729回の42パーセントに及ぶ。以上によると、「恋愛写真」は、無料化措置の通知の前後を問わず、広く放送事業者に利用されていたと認めることができる。

                             番組属性
 期間
JFNネット番組
又はJFNC番組以外の番組
JFNネット番組
及びJFNC番組
合計
(審第1号証記載の利用回数)
平成18年10月1日〜12月31日 357 372 729
  10月1日〜10月17日 30 98 128
10月18日〜10月25日 70(63) 123 (121) 193(184)
10月26日〜12月31日 257 151 408
平成19年1月1日〜5月31日 51 54 105
       (注)10月18日〜10月25日欄の括弧内の数字は、首都圏以外の放送事業者の利用回数

b 「恋愛写真」(平成18年10月25日CD発売で、同月第4週時点のオリコンチャート2位)の利用状況と、「恋愛写真」とCD発売日が近接し、「恋愛写真」と同様に同月第4週のオリコンチャートで5位以内に入っていた「SAYONARA」(同月25日CD発売で、同月第4週時点のオリコンチャート3位)、「夢のうた」(同月18日CD発売で、同オリコンチャート5位)及び「シーサイドばいばい」(同月25日CD発売で、同オリコンチャート1位)の3曲(いずれも参加人の管理楽曲である。)の利用状況を比較すると、利用のピーク時期とその時期における利用回数が、「恋愛写真」は同月第4週の約210回であるのに対して、「SAYONARA」は同月第3週の約370回、「夢のうた」は同月第3週の約300回、「シーサイドばいばい」は同年11月第1週の約190回となっている。また、これら4曲は、いずれも、CD発売日の前後に利用のピークを迎え、その後急激に利用回数が減少しており、その前後の利用回数を含めて、原告管理楽曲である「恋愛写真」と参加人の管理楽曲である他の3曲との利用回数の推移は、相当程度類似しているといえる。
c Gの「恋愛写真」の利用状況と、G自身の他の楽曲(「フレンジャー」、「ユメクイ」、「CHU−LIP」及び「PEACH」の4曲。いずれも参加人の管理楽曲である。)の利用状況を比較すると、「フレンジャー」のピーク時の1週間の利用回数は300回を超えているが、その他の3曲のピーク時の1週間の利用回数は200回前後である上、これら4曲はいずれも、CD発売日の前後に利用のピークを迎え、その後に急激に利用回数が減少するという点で、「恋愛写真」と共通している。
d 小括
 以上によれば、Gの「恋愛写真」は、それと同時期にCDが発売されて同程度のヒットとなった他の楽曲及びG自身の他の楽曲と比較して、遜色のない形で放送事業者による放送番組において利用されており、放送事業者に対する無料化措置の通知の前後において、その利用状況に格別の変化はなかったものと認められる。
(イ) 原告管理楽曲の利用状況
 エイベックス・グループが原告に対し、平成18年10月1日までに放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した60曲(以下「エイベックス60曲」という。)及び同月半ば頃に上記管理を委託した67曲(以下「エイベックス67曲」という。)は、同年10月時点で参加人に対して全曲報告を行っていたFMラジオ局39社において、同月1日から同月17日(上記無料化措置の通知文書の作成日付けの前日)までの間にエイベックス60曲が218回、エイベックス67曲が166回、同月18日から同年12月31日までの間にエイベックス60曲が768回、エイベックス67曲が644回、合計でエイベックス60曲が986回、エイベックス67曲が810回、それぞれ利用されたことが認められる。よって、エイベックス楽曲は、広く利用されており、放送事業者に対する無料化措置の通知の前後において、その利用状況に特別な変化はなかったものと認められる。
イ 放送事業者の社内周知文書等
(ア) 放送事業者の社員が、以下のとおり、文書を配付したことが認められる。
a 平成18年当時テレビ朝日のコンテンツ事業局ライツ推進部長であったDが、同年9月27日付けで「連絡票」と題する社内通知文書を作成し、社内の番組制作担当者に配付した。
b 平成18年当時株式会社TBSテレビ(以下「TBSテレビ」という。)の編成局コンテンツ&ライツセンター長兼メディアライツ推進部長であったCが、同年9月29日頃、番組制作担当者等に対し、「(株)Xによる楽曲の著作権管理について」と題する社内通知文書を配付した。
c 平成18年当時J−WAVEの編成責任者であったHは、同年10月頃、「X社放送使用楽曲の管理業務開始のお知らせ」と題する社内通知文書を作成し、番組制作担当者に配付した。
d ベイエフエムの平成18年当時の編成部長であったIは、同年10月初め頃、原告管理楽曲に関し、番組制作担当者に対する社内通知文書を掲示した。
e 株式会社静岡朝日テレビ(以下「静岡朝日テレビ」という。)において、番組制作担当者に対し、平成18年10月12日付け及び同年12月27日付けで原告管理楽曲に関する社内通知文書が配付され、この文書中には、放送等使用料の追加負担を避けるため、できるだけ原告管理楽曲の利用を避けることを指示する旨の記載があった。
f 地方AM放送局である株式会社茨城放送(以下「茨城放送」という。)において、平成18年10月初め頃、原告管理楽曲を利用しないよう番組制作担当者に通知したが、無料化措置については通知せず、同年12月下旬頃、同年末で無料化措置が終了することから、平成19年1月以降原告管理楽曲を利用しないように注意することを改めて文書で周知した。
 しかし、上記各文書が番組制作担当者に原告管理楽曲の利用を差し控えさせる効果を有していたとか、上記各放送事業者において原告管理楽曲の利用が回避されたとの事実を認めることはできない。
(イ) 株式会社ZIP−FM(以下「ZIP−FM」という。)、Kiss−FM、株式会社エフエム富士(以下「エフエム富士」という。)、株式会社エフエム岩手(以下「エフエム岩手」という。)、株式会社エフエム山形(以下「エフエム山形」という。)、株式会社エフエム青森(以下「エフエム青森」という。)、株式会社エフエム佐賀(以下「エフエム佐賀」という。)及び横浜エフエム放送株式会社(以下「横浜エフエム」という。)が、原告管理楽曲の利用を回避した事実を認めることはできない。
(ウ) NACK5において、@平成18年当時の専務取締役であったJは、番組制作担当者に対し、同年10月12日付けの「緊急のお知らせ」と題する社内通知文書を配付したこと、A原告管理楽曲を利用することにより追加の放送等使用料の負担が発生すること、原告管理楽曲を利用するには全曲報告という作業上の手間がかかること、報告をせずに利用すると高額のペナルティを請求される懸念があることから、同月31日までは原告管理楽曲の利用を差し控えたこと、が認められる。
 なお、NACK5が同日まで原告管理楽曲の利用を自粛した理由には、上記理由以外に、原告役員とNACK5のJは従前から個人的な知己であったにもかかわらず、原告がNACK5を直接訪問しなかったことに対するNACK5側の反発もあったと認められる。
(エ) 以上によると、NACK5については、原告管理楽曲は実際に利用されなかったことが認められるが、その余の放送事業者については、原告管理楽曲について何らかの利用回避の動きがあった可能性はあるものの、具体的に利用回避があったことを認めるには足りない。
ウ 民放連のK事務局次長による発言
 平成17年10月11日に行われた民放連と原告との交渉において、民放連のK事務局次長が「放送において、音楽に支払うパイは一定です。そのため、民放連としては、Xへの放送使用料が、現状のZへお支払いしている使用料にadd−onする形なら、むしろXの曲を使いません。」との発言(以下「アドオン発言」という場合がある。)を行った。
 しかし、民放連のKは、原告による放送等使用料に関する説明が大きく変化したことに困惑してアドオン発言をしたものと認められ、加えて、民放連のKがこのような発言をすることについて民放連として意思決定したことを認めるに足りる証拠はないことに照らすと、アドオン発言が、民放連又は民間放送事業者の原告管理楽曲の利用回避の意思の表れであると評価することはできない。
エ 以上によると、放送事業者が一般的に原告管理楽曲の利用を回避したことを認めることはできず、放送事業者が原告管理楽曲の利用について慎重な態度を採ったことが認められるにとどまる。
(3) 原告の管理事業の実態
 多くの放送事業者は、平成18年10月1日以降、原告が放送等利用に係る管理事業に参入したことを知ったが、同年10月の時点では、原告管理楽曲の範囲が明確ではなく、これらを放送した場合の放送等使用料の額が不明であり、全曲報告に必要な報告の様式も定まっておらず、報告漏れがあった場合に高額の放送等使用料の支払義務を負う可能性があったことから、相当程度困惑し、混乱していたと認められる。
 したがって、放送事業者が原告管理楽曲の利用につき慎重な態度を採った主たる原因が、参加人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による、放送等使用料の追加負担にあったと認めることはできず、むしろ、原告が準備不足の状態のまま放送等利用に係る管理事業に参入したため、放送事業者の間に原告管理楽曲の利用に関し相当程度の困惑や混乱があったことが、その主たる原因であったと認めるのが相当である。
(4) エイベックス・グループの原告との管理委託契約の解約
 エイベックス・グループは、放送事業者が、放送等使用料の追加負担を理由として原告管理楽曲の利用を回避したと信じ、平成19年1月以降、放送事業者は再びその利用を回避すると予想して、原告との放送等利用に係る管理委託契約を解約したが、エイベックス・グループは、原告管理楽曲の客観的な利用状況は把握していなかったと認められる。また、放送事業者が原告管理楽曲の利用に慎重な態度をとった主たる原因は、参加人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による放送等使用料の追加負担ではなく、むしろ、原告が準備不足のままの状態で放送等利用に係る管理事業に参入したことによる放送事業者の困惑、混乱等であった。
 そうすると、エイベックス・グループは、参加人による本件行為を原因として、原告との管理委託契約を解約したということはできない。
(5) エイベックス・グループ以外の著作権者と原告との関係
 原告が実際に放送事業者から徴収した放送等使用料の額は、平成18年が6万6567円、平成19年が7万5640円、平成22年9月30日時点で年間20万円から30万円程度であることが認められる。
 しかし、原告が放送等利用に係る音楽著作権の管理を行っている楽曲数は、平成19年3月31日時点で184曲、平成20年3月31日時点で1566曲、平成21年3月31日時点で2723曲、平成22年3月31日時点で3242曲、平成22年9月30日時点で3600曲強となっており、エイベックス・グループが原告との管理委託契約を解約した平成18年12月31日以降も、原告は着実に管理楽曲数を増やしている。これらの楽曲の中には、生命保険会社のコマーシャルソングとして利用された「まねきねこダックの歌」が含まれていることが認められ、当該楽曲は、平成21年11月第3週のオリコンチャートの24位にランクインしていることからすると、放送でも相応の利用があったものと推認される。
 以上のように、原告は、人気のある楽曲を含む相当数の管理楽曲の管理を受託している上、相当数の放送事業者は原告と利用許諾契約締結のための交渉をする用意があると認められることからすると、原告は、放送事業者と利用許諾契約を締結することにより、相応の放送等使用料の徴収が可能であり、上記のように放送等使用料の収入が低い金額にとどまっている理由は、原告が放送事業者との間で利用許諾契約を締結していないことにあると考えられる。また、原告は、NHKとの間で平成20年3月以降も利用許諾契約を継続し、それに応じた放送等使用料を徴収していることが認められることを併せ考えると、原告が放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっていたというには疑問が残る。
 また、参加人が包括徴収していることによる放送等使用料の追加負担が原因で、原告管理楽曲が利用されないという風聞があったとしても、その内容が事実に合致していたとはいえないから、エイベックス・グループ以外の著作権者が参加人の本件行為を原因として、原告に対して放送等利用に係る音楽著作権の管理委託をしなかったということはできない。
(6) その他の管理事業者の不参入
 原告以外の管理事業者は放送等利用に係る管理事業に新規に参入していない。
 しかし、放送等利用に係る楽曲の管理は非常に煩瑣で費用がかかり、このことが管理事業者の放送等利用に係る管理事業への参入を控えさせる効果を有していると認められる。したがって、原告以外の管理事業者が新規に放送等利用に係る管理事業に参入していない理由が本件行為にあると認めることはできない。
(7) 以上によれば、本件行為は、放送事業者が参加人以外の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し、競業者の新規参入について消極的な要因となることは認められ、参加人が管理事業法の施行後も本件行為を継続したことにより、新規参入業者が現れなかったことが疑われるものの、本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは、なお困難である。
4 本件における争点
(1) 原告適格の有無
(2) 事実認定の誤り
(3) 排除型私的独占該当性についての判断の誤り
(4) 手続的瑕疵
5 争点に関する当事者の主張
(1) 原告適格の有無
【原告の主張】
ア 市場において、私的独占等の独占禁止法に違反する行為がされれば、当該市場における他の競業者は、公正な事業環境で競争する権利を侵害され、ときには当該市場に実質的に参入することすら困難になるという、重大な不利益を被る。独占禁止法の解釈上、市場の競業者の公正な競争を営む権利利益は、直接的な法的保護を受ける権利利益であると解するのが相当である。
 原告は、放送等利用に係る管理事業の分野で、参加人の競業者であり、参加人の本件行為により、上記分野への参入を阻害されている。原告管理楽曲の実質的利用はほとんどゼロであり、それは、本件行為による排除効果(市場閉鎖効果)によるものである。本件審決が確定すると、原告は、本件行為の排除によって得られるはずの競争上の利益という、独占禁止法が保護しようとしている利益を喪失させられることになる。
 独占禁止法の平成17年の改正により、審判手続は、行政処分である排除措置命令を事後審査する手続であるとの法的な位置付けが与えられ、また、本件では、本件排除措置命令において、原告が排除されていることが具体的・詳細に認定されたことに照らすならば、本件排除措置命令により原告に生じた利益は、法律上保護された具体的な権利利益であるといえる。
イ 独占禁止法には、被審人の行為が違法である場合、その被害者は、無過失損害賠償請求訴訟を提起できる旨の規定(同法25条)、その訴訟で、求意見制度などにより被告の支援を受けることもできる旨の規定(同法84条)、また、利害関係人の開示請求に関する規定(同法70条の15)、審判手続への裁量的参加権を認める規定(同法70条の3)があり、被害者の救済、利益保護が同法により保護される利益に含まれているといえる。原告は、上記各規定により保護を受ける利害関係人に該当する。そして、本件審決が確定すると、原告は無過失損害賠償請求訴訟を提起したり、求意見制度などを利用できなくなるなどの法律上の不利益を受ける。
 管理事業法は、権利者保護の観点から、競争の導入・促進を図るものであり、独占禁止法と管理事業法とは、その趣旨、目的において共通する。
 以上の各条文の趣旨を総合すれば、原告は、本件審決の取消しを求めるにつき、法律上保護された利益を有し、本件訴訟につき原告適格があると解すべきである。
ウ 本件審決の取消しは、独占禁止法の目的とする公正な秩序維持という公益の実現に不可欠であり、原告は、被告が果たすべき公益性を果たしていないことを理由に本件訴訟を提起しているのであるから、公益性の観点からも、原告の原告適格は基礎付けられる。
【被告の反論】
ア 行政事件訴訟法9条1項は、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に原告適格があると規定するが、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
 そして、処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきである(同条2項参照)。
 上記規定によると、原告適格の有無は、違法な処分がされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質と、当該利益が根拠法令により保護されているか否かの2点から検討することとなる。
イ 違法な処分がされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質
 判例によると、違法な処分がなされた場合に、生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあるときや、健康ないし生活環境が阻害されるおそれがあるときには、根拠法令の趣旨、目的を相当程度柔軟に解するなどして、一定の範囲の者に原告適格を認める傾向がある。
 これに対し、日常生活ないし社会・経済生活上の不利益等については、根拠法令に当該利益を個別的利益として保護する趣旨が含まれているか否かを個別的に判断する傾向があり、さらに、これにも当たらない程度の不利益ないし性質上公益に属する不利益については、原告適格を否定する傾向がある。
 本件において、原告が本件審決により害される利益として主張するものは、本件行為の排除によって得られるはずの競争上の利益や、無過失損害賠償請求訴訟を提起したり、求意見制度などを利用したりすることである。これらは、経済生活上の不利益に属するものであり、このような利益は生命、身体、健康等の利益と比較すれば、要保護性が低く、個別の処分を法令で定めるに当たり、保護対象とするか否かについての立法府の裁量が認められることから、処分の根拠法令等を参酌し、根拠法令に当該利益を個別的利益として保護する趣旨が含まれるか否かを個別具体的に判断することとなる。
ウ 原告主張の利益が根拠法令により保護されているか否か
 独占禁止法1条によると、同法の目的は、公正な競争秩序の維持という公益の保護にある。同法2条5項及び3条は、排除型私的独占を禁止しているが、排除型私的独占の規制は、他の事業者の事業活動を排除することにより、競争を実質的に制限することを規制するものであり、公正な競争秩序の維持を目的とするものであって、排除される事業者を保護することを目的とするものではない。
 同法の審判制度も、公正な競争秩序の維持という公益の保護を目的とするものであり、違反行為による被害者の個人的利益の救済を図ることを目的とするものではない。
 同法25条は、同法3条の規定に違反する行為をした事業者等が無過失の損害賠償責任を負うことを、同法26条は、同損害賠償の請求権は所定の排除措置命令等が確定した後でなければ裁判上これを主張することができないことを定めているが、これらは、個々の被害者の受けた損害の填補を容易ならしめることにより、排除措置命令等とあいまって、同法違反の行為に対する抑止的効果を挙げようとする目的に出た附随的制度にすぎない。そうすると、同法の規定により競業者や被害者が受ける利益は、同法の目的である公正な競争秩序の維持という公益に属する利益であり、同法が競業者や被害者個々人の個別的利益も保護すべきとしているとは解されず、かかる利益は法律上保護された利益とはいえない。
 同法45条は、何人も公正取引委員会に対し独占禁止法違反行為の報告及び措置要求をすることができ、かかる報告が一定の方式によってされた場合には公正取引委員会は当該報告者に対して措置の結果を通知しなければならないこと、同法70条の3は、公正取引委員会が職権で第三者を審判手続に参加させることができることを定めているが、これらの規定も、競業者や被害者の権利利益や手続的関与を認める根拠となるものではない。また、同法70条の15は、利害関係人の事件記録の閲覧謄写請求権を規定するが、同規定は、同法の適正な運用に資するとして、審判手続に参加し得る第三者や被害者の便宜を図るものであり、同人らに何らかの権利利益や手続的関与を保障するものではない。
エ 以上によると、独占禁止法の適正な運用によって既存の競業者が公正な競争秩序の下で事業活動を行うことができるようになったり、同法違反行為の被害者が救済されたりするなどの利益を受けるとしても、そのような利益は、公正な競争秩序が維持される結果として生ずるものであって、公益に属する利益というべきであり、同法が競業者の上記利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解することはできない。したがって、参加人の競業者である原告は、本件審決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは認められず、その取消訴訟における原告適格を有しない。
【参加人の反論】
ア 独占禁止法の直接の目的は、自由競争経済秩序の維持、すなわち「公正且つ自由な競争の促進」であり、究極の目的は「一般消費者の利益の確保」と「国民経済の民主的で健全な発達の促進」にある(同法1条)。同法が保護するのは、個々人の具体的権利ではなく、公共の利益である。同法が自由競争経済秩序の維持を直接の目的とする以上、市場における一方当事者である競業者の個別的利益の保護が独占禁止法の目的となることはない。
 同法の定める審判制度は、公益保護の立場から同法違反を是正することを主眼とするものであって、同法違反行為による被害者の個人的救済を図ることを目的とするものではない。審決において考慮されるべき利益は、排除措置命令の名宛人による同法違反行為に対する異議申立ての権利に限られ、他の一般消費者や競業者にそのような権利を与えるものではない。
 以上によると、同法の目的は競業者保護にはなく、競業者に原告適格を認める余地はない。
 原告が主張する本件排除措置命令が取り消されることによる不利益とは、参加人が従前どおりの状態で事業活動を行うことによって競業者として被る、事実上の不利益にすぎない。
イ 独占禁止法45条1項に基づく措置請求は、被告に審査手続開始の職権発動を促す端緒であるにすぎず、同法70条の15の規定する利害関係人の事件記録の閲覧謄写請求権も、一定の範囲の関係者に被告の調査内容についての情報開示を認めるものにすぎず、いずれも被告に適当な措置を執ることを要求する具体的請求権を付与したものではない。
 競業者は、独占禁止法に違反する行為がされた場合、損害賠償請求訴訟(民法709条)を提起したり、不公正な取引方法に該当するとして差止請求訴訟(独占禁止法24条)を提起したりすることによって、その利益を保護することができる。これらは、被告の審決とは独立しており、審決の判断に法律上拘束されるものではない。
 また、同法25条は、無過失損害賠償責任について規定するが、同規定は民法の特別規定であり、被害者における故意・過失の挙証責任を軽減するものにすぎず、民法に基づいて損害賠償請求をすることを妨げるものではない。
ウ 以上のとおり、独占禁止法の目的・趣旨は、個々人の具体的権利の保護ではなく、公共の利益の保護にあり、競業者である原告の利益を専ら一般的公益の中に吸収させるにとどめず、個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものではないから、原告は、本件審決を取り消すにつき「法律上の利益を有する者」に該当しない。
(2) 事実認定の誤り
【原告の主張】
ア 「恋愛写真」の利用実績に関する認定の誤り
原告管理楽曲であったGの「恋愛写真」が、同曲とCD発売日が近接していた他の楽曲及びG自身の他の楽曲と比較して遜色のない形で放送事業者による放送番組において利用されていたとした本件審決の認定には、以下のとおり、誤りがある。
(ア) エイベックス楽曲に係る放送等使用料の無料化措置の放送事業者への伝達時期
 本件審決は、エイベックス楽曲の無料化措置を通知する文書(査第56号証)に添付された書面の日付が平成18年10月18日であることから、エイベックス・グループが行った無料化措置が放送事業者に伝わったのは同日以降であると認定するが、本件審決の同認定には誤りがある。
 エイベックス・グループ・ホールディングスのLの供述調書等から、エイベックス・グループの担当者レベルでは、放送等使用料の無料化措置は同月13日には決まっており、そのことは、文書による通知の前に、口頭で放送事業者に伝えられたことが認められる。また、Gの「恋愛写真」は、同月1日から同月12日までの間はほとんど利用されていなかったにもかかわらず、同月13日以降、キー局において突然利用されるようになり、それによって利用回数が急増している。そして、当時、エイベックス・グループは、リリースが間近に迫っている「恋愛写真」の放送自粛を一刻も早く打開しなければならないと考えていたこと、特に首都圏の放送事業者に一刻も早く「恋愛写真」を放送してもらうことを切に望んでいたことを考慮すると、同月14日、15日は土日であり、無料化措置を放送事業者に文書で正式に通知するのは週明けの同月16日以降となることから、それでは遅すぎると考えて、無料化措置についての担当者レベルでの事実上の決定がされた後、正式な決定を待たずに、同月13日には、無料化措置を首都圏の放送事業者に口頭で伝達したと考えるのが、合理的である。
(イ) 「恋愛写真」の利用回数の変化の推移とその原因
 Gの「恋愛写真」の利用回数は、平成18年10月1日から同月12日までは6回だけであるのに対し、同月13日から同月17日までは122回であり、同月13日以降、利用回数が急増している。これは、エイベックス・グループの無料化措置が口頭で放送事業者に伝えられたことによるものである。
 本件審決が認定した「恋愛写真」の利用実績は、FMラジオ局のみを対象としたものである。ところで、地方のFMラジオ局は、追加負担の認識を欠いており、同月13日までの利用実績は、追加負担の認識がなかった地方のFMラジオ局が利用したものである。同月14日からは、無料化措置の情報を入手したと認められるキー局(エフエム東京)が利用を開始したため、同月13日の前後で利用状況が異なることとなったことは、明らかである。
 「恋愛写真」と同じく同月25日にリリースされた「シーサイドばいばい」や「SAYONARA」と比較しても、「恋愛写真」は、リリース日の30日前から前日までの30日間(同年9月25日から同年10月24日まで)に放送等利用された回数のうち、リリース日の24日前から13日前までの期間(同月1日から同月12日までの期間)に利用された回数の割合が極端に小さい(約10分の1)。また、Gの「ユメクイ」「CHU−LIP」「PEACH」と比較しても、「恋愛写真」は、リリース日の30日前から前日までの30日間に放送等利用された回数のうち、リリース日の24日前から13日前までの期間に利用された回数の割合が極端に小さい(約10分の1から約5分の1)。したがって、「恋愛写真」は同年10月1日から同月12日までの間、ほとんど利用されていなかったと評価できる。
 以上のとおり、「恋愛写真」は、有償のときにはほとんど利用されず、無償となった途端利用回数が急増したといえるのであり、無料化措置の通知の前後を問わず、広く放送事業者に利用されていたとする本件審決の認定には誤りがある。
(ウ) 「恋愛写真」の利用実績の算定方法
a JFNネット番組(全国のFMラジオ局38局で構成される全国FM放送協議会(JFN)に加盟するキー局が制作して、加盟放送事業者に供給している放送番組)の場合、キー局であるエフエム東京がその放送等使用料を原告に一括して支払うことになり、その使用料は、全国放送での1回分の使用料とされている。しかし、本件審決が認定した「恋愛写真」の利用実績は、キー局を通じて多くの放送局から同時に放送されている楽曲の利用回数を、自社制作番組での利用回数と同様に、単純に加算していることから、利用回数が重複して算定されている。したがって、「恋愛写真」が広く利用されていたと認定することはできない。
 また、本件審決は、平成18年10月18日から同月25日までの間における首都圏以外の放送事業者のJFNネット番組及びJFNC番組(JFN加盟放送事業者が出資して設立された株式会社ジャパンエフエムネットワーク(JFNC)が委託を受けて制作し、JFN加盟放送事業者に配信する番組)で利用した回数と自社制作番組の利用回数を加算した上で、無料化措置を知る前に「恋愛写真」を利用した回数を「312回」と認定した。しかし、JFNネット番組及びJFNC番組で利用される楽曲の選択には、キー局であるエフエム東京の意向が相当程度反映されるところ、この期間、エフエム東京は無料化措置を認識していたのであるから、首都圏以外の放送事業者が無料化措置を知る前の利用回数を算出するに当たっては、JFNネット番組及びJFNC番組で利用した回数は除外すべきである。そうすると、本件審決の認定に従って、首都圏以外の全ての放送事業者が無料化措置の通知文書を同月25日に受領し、翌日26日からこれを踏まえて楽曲を選択したと仮定した場合の、無料化措置を知る前の利用回数は、312回ではなく191回であったことになり、これは729回の利用回数の26.2パーセントにすぎない。しかも、この中には、「恋愛写真」が原告管理楽曲であることを認識しないままに、漫然と利用した回数も多数含まれている可能性が高い。したがって、「恋愛写真」が無料化措置の前後を問わず、「広く放送事業者に利用されていた」と認めることはできない。
b 「恋愛写真」の利用回避の有無を判断するに当たっては、「恋愛写真」の利用実績の算定において、「放送等使用料の追加負担があることを認識して利用したもの」とそれ以外のものとを区別する必要がある。放送等使用料の追加負担があることを認識した上で、あえて「恋愛写真」を選択して利用したものでなければ、利用実績に含めることはできない。
 しかし、本件審決では、「放送等使用料が無料となることを知って利用したもの」、「追加負担が生じることを知らずに利用したもの」、「追加負担が生じても、ランキング入りした場合やG自身の番組であるなどの理由で利用せざるを得なかったもの」を混在させて算定している。このような、放送等使用料の追加負担があることを認識していたとはいえないものや、これを認識していたとしても番組上利用せざるを得ないため利用したものは、利用実績に含めるべきではない。
 本件において、有償での利用であると認識されていた期間は、平成18年10月1日から同月12日までであり、この間における「恋愛写真」の利用は、わずか6回にすぎない。
 のみならず、「恋愛写真」については、エイベックス・グループがエイベックス楽曲をプロモーション用利用とすることを承諾し、結局、全てが無償利用となったことに照らすならば、有償の利用実績は、無料化措置の通知がいつなされたかにかかわらず、ゼロである(注 正確には、NHKが紅白歌合戦で利用した1回(3万円)は、有償であったため、有償の利用実績は、1回分である。)。
イ 利用回避に関する認定の誤り
(ア) 放送事業者の社内通知文書の作成配付等について
 本件審決は、放送事業者の多数の社内通知文書について、原告管理楽曲の利用回避を要請する文言は記載されていないなどとして、原告管理楽曲の利用を差し控えさせる効果があったとは認められないと認定した。
 しかし、本件審決の上記認定には誤りがある。
 上記社内通知文書には、例えば、テレビ朝日の連絡票には「(原告管理楽曲の)使用料は、番組負担となります」と記載されているなど、原告管理楽曲を利用すると放送等使用料の追加負担が生じることを警告する趣旨が記載されている。上記社内通知文書の記載から、上記社内通知文書には社内での原告管理楽曲の利用を消極的にさせる効果があったと認められ、利用回避があったことは明らかである。
 また、本件審決は、放送事業者が、原告管理楽曲の利用を回避したと認めることはできないとする。
 しかし、本件審決の上記認定にも、誤りがある。
 本件審決の上記認定は、放送事業者による原告管理楽曲についての具体的な利用実績が相当程度あることが前提となっているが、前記のとおり、有償での利用実績はほとんどゼロである。また、利用回避の有無を判断するために前提とすべき利用実績は、前記のとおり、実際に利用された回数の全体を基礎とするのではなく、追加負担が発生することを認識した上での利用回数(追加負担があっても使わざるを得ない場合を除く。)を基礎とすべきである。
 本件においては、無料化措置の通知がされた直後から「恋愛写真」の利用が急増しているという事実から、利用回避が生じていたことは明らかである。
(イ) 民放連事務局次長による、原告管理楽曲を利用しないとの発言について
 本件審決は、民放連のKが、「add−onする形なら、むしろXの曲を使いません」と発言した理由について、原告による放送等使用料に関する説明が大きく変化したことに困惑したことにあるとして、原告管理楽曲の利用回避はなかったと認定した。
 しかし、本件審決の上記認定には、誤りがある。
 民放連のKは、原告管理楽曲の利用により放送等使用料の追加負担が生じないようにならないのであれば、放送事業者として原告管理楽曲を利用することはできないと発言しており、その発言の趣旨は、参加人が利用割合を反映した徴収方法を認めようとしなかったことに対して、放送事業者が困惑しているとの趣旨を述べたことは、明らかである。
 したがって、民放連のKの上記発言は、本件行為により排除効果が生じていることを裏付けるものである。
ウ 原告の準備不足が原因であるとの認定の誤り
(ア) 本件審決は、「恋愛写真」が他の楽曲と比較して遜色のない形で放送事業者による放送番組において利用されており、原告の放送等利用に係る管理事業の市場への参入が進んでいるとしながら、他方、この分野への参入が進まないのは、原告の準備不足による放送事業者の困惑と混乱が原因であると認定したが、本件審決の認定には矛盾がある。
 また、原告に参入の準備不足があったというのであれば、参入時からの時間の経過とともに準備が整うはずであり、それとともに参入が進むのでなければならない。参入後3か月が経過しても準備不足の状態にあるとの事実は、準備不足に原因があるのではなく、準備しても参入が困難である状況であることに原因があるというべきである。また、原告に準備不足があったのであれば、平成18年10月13日以降も「恋愛写真」が利用されることは決してないはずであり、同日以降にこれが広く利用されたとするならば、準備不足はなかったと認定されるのが正当であるといえる。
 本件審決が準備不足の根拠として認定した事実の大半は、取るに足りない事実か、放送事業者側の対応に問題があるものである。
(イ) 本件審決は、平成18年10月1日の時点では、ラジオ局の放送等使用料を含む民放連との実質的合意ができておらず、同月31日の本件合意書締結の段階でも、個々の放送事業者の放送等使用料の額が決まっていなかったと認定した。
 しかし、本件審決の上記認定には、以下のとおり誤りがある。
 すなわち、本件合意書については同年9月28日に、本件覚書については同年10月1日に、締結作成されている。各放送事業者は、早期に原告管理楽曲の利用許諾条件を把握しており、内部での書類上の手続が遅れただけである。したがって、このことが原因で現場に混乱を生じさせたことはない。
 また、各放送事業者との個々の利用許諾契約が締結されない限り、原告管理楽曲が利用できないことはないはずである。民放連との合意により、放送等使用料の額は決まっており、原告管理楽曲を利用することはできた。さらに、放送事業者が利用許諾契約を締結していないのは、放送事業者側の問題である。したがって、この点に原告の準備不足はない。
(ウ) 本件審決は、高額なペナルティの存在が、放送事業者の困惑を招いた原因であり、利用回避を招いたと認定した。しかし、原告は、当初、民放連との交渉において、録音割合による包括徴収方式を主張したが、参加人がこれに同意しなかったことから、民放連が個別徴収方式しか認めず、原告としても個別徴収方式を受け入れざるを得なかったとの経緯に照らすならば、相当長期間にわたって原告管理楽曲の報告をしなかった場合に、ペナルティが課される制度を設けることには、理由がある。このような制度を設けざるを得なかったことは、むしろ、参加人の市場支配的地位を原因とする原告の市場参入の抑制があることを示す実例といえる。
(エ) 本件審決は、原告管理楽曲が変遷したことが、放送事業者の混乱を招いたとするが、個別徴収方式を採用する以上、管理楽曲リストを更新せざるを得ないのは、当然の帰結である。個別徴収方式を採用すると、管理楽曲を徐々にしか増やせないという新規参入者の競争上の不利な状況を示すものといえる。
(オ) 行為と結果との間に因果関係が存在すると認定するためには、行為と結果の相当性があれば足りるのであって、当該行為が主たる原因であることまで要求するのは誤りである。参加人が包括徴収方式を採用していることが、競業者の参入を著しく困難にさせるとの効果(排除効果)の原因となっているのであって、仮に、困惑・準備不足に原因があるとしても、包括徴収方式を採ることと排除効果との因果関係が否定されるものではない。
エ エイベックス・グループが勘違いにより管理委託契約を解約したとの認定の誤り
 エイベックス・グループが、平成18年10月14日及び翌15日に、エフエム東京をキー局として全国で一斉に「恋愛写真」が放送されたことにつき、全く気が付かなかったことはあり得ない。それにもかかわらず、エイベックス・グループが、同月16日の会議においてエイベックス楽曲の無料化を決定したのは、上記放送がされても、エイベックス楽曲に対する利用回避がなくなったと認識していなかったからであると解するのが合理的である。
 また、エイベックス・グループが、「恋愛写真」のみならず、エイベックス楽曲全てについて、3か月間もの長期間にわたって放送等使用料を無料化することを決定したのは、参加人が包括徴収の方式を採用する限り、原告管理楽曲を利用すると放送事業者に追加負担が生ずることから、「放送事業者をその利用に消極的にさせて」おり、このため当初期待したほどにはエイベックス楽曲が利用されることはないと正しく判断したためである。
 エイベックス・グループが原告との管理委託契約を解約したのは、「恋愛写真」が急に利用されるようになったのは無料化措置によるものであり、有償に戻せば再びエイベックス楽曲の利用が回避されると、正しく判断をしたからであり、本件審決が認定したようにエイベックス・グループの勘違いによるものではない。
オ 参入実績を管理楽曲数で判断することの誤り
(ア) 原告の管理楽曲数が平成18年12月31日以降も増加しているとしても、有償での利用実績はほとんどゼロに等しい。楽曲が有償で利用されなければ、利用実績は実質的にはゼロであり、参入実績も実質的にはゼロと評価される。
 エイベックス・グループは、エイベックス楽曲をプロモーション(無償)扱いとし、最終的には原告との契約を打ち切ったため、原告は、上記楽曲については、放送事業者から放送等使用料を一切回収できていない。
 「まねきねこダックの歌」は、コマーシャルソングであり、コマーシャルソングについては、通常1年間、権利者に対する放送等使用料が免除されるのが通例であり、コマーシャル放送以外での利用においても、原告が取得した放送等使用料は著しく低額である。
 原告が取得した管理手数料は、平成18年度分が6657円、平成19年度分が7816円、平成20年度分が5万9665円、平成21年分度が5341円、平成22年度分が10万6094円、平成23年度分が2万3222円である。
(イ) 放送等利用割合が反映されない包括徴収の方法が採られていないインタラクティブ配信の利用分野等では、追加負担が生じず、穏やかながら原告の市場シェアが伸びているのに対し、このような包括徴収の方法が採られている放送等利用や貸与の分野などでは、原告のシェアは一貫してゼロであり、本件行為は排除効果を有するといえる。
【被告の反論】
ア 「恋愛写真」の利用実績に関する認定の誤りに対して
(ア) エイベックス楽曲に係る放送等使用料の無料化措置の放送事業者への伝達時期
 原告は、エイベックス楽曲の無料化措置は、平成18年10月13日の決定後直ちにプロモーター等から放送事業者に対して口頭で通知されたと考えるのが合理的であり、本件審決には、無料化措置が決まった時期・決定が通知された時期について、事実認定の誤りがあると主張する。
 しかし、本件審決の認定は、証拠に基づくものである。本件審判において提出された証拠からは、無料化措置が同日に決定され、直ちにプロモーター等から放送事業者に対して口頭で通知されたと認定することはできない。
(イ) 「恋愛写真」の利用回数の変化の推移とその原因
 原告は、平成18年10月13日以降は、無料化措置が口頭で放送事業者に伝えられたことから、Gの「恋愛写真」の利用が激増したにすぎず、有償での利用であると明白にいえる期間は同月1日から同月12日までであって、この間における利用はわずか6回であり、「恋愛写真」はほとんど利用されなかったというべきであると主張する。
 しかし、前記のとおり、本件審判において提出された証拠からは、無料化措置が同月13日までに口頭で放送事業者に伝えられたとは認められず、無料化措置が口頭で放送事業者に伝えられたことにより、同日以降、「恋愛写真」の利用が激増したとは認められない。本件審決は、「恋愛写真」の利用回数から、無料化措置の通知の前後を問わず、広く放送事業者に利用されていたと認められるとしたものであり、同認定に誤りはない。
 原告は、「恋愛写真」の同月1日から同月12日までの利用回数は、同時期に発売された他の楽曲や、Gの他の楽曲の同様の期間(発売日の24日前から13日前までの期間)における利用回数と比較しても、圧倒的に少ないと主張する。
 しかし、個別の楽曲がどの程度の人気を博するかには相当のばらつきがあるから、異なる楽曲を単純に比較して論じることは妥当でない。また、これらの曲はいずれも、CD発売日の前後に利用のピークを迎え、その後に急激に利用回数が減少するという点で共通していることが認められる。
(ウ) 「恋愛写真」の利用実績の算定方法
 原告は、NHKが利用した1回分を除く全ての利用が無償となったのであるから、無料化措置の通知がいつ行われたかにかかわらず、利用実績はゼロと評価されるべきであると主張する。
 しかし、楽曲の利用を抑制するか否かは、楽曲を利用する意思決定をするときの状況によって判断されるものであり、結果として楽曲の利用が無償となったか否かはかかる判断に影響するものではないから、原告の上記主張は理由がない。
イ 利用回避に関する認定の誤りに対して
 原告は、放送事業者の複数の社内通知文書は、放送事業者の関係者が原告管理楽曲をなるべく使わないように努めていたことを示すものであると主張する。
 しかし、他の証拠も併せれば、NACK5については、利用の回避を指示したため、原告管理楽曲が利用されなかったことが認められるが、それ以外の放送事業者については、原告管理楽曲について何らかの利用回避の動きがあった可能性はあったとしても、具体的な利用回避行為があったと認めることはできない。
ウ 原告の準備不足が原因であるとの認定の誤りに対して
(ア) 本件審決は、民放連のKの「add−onする形なら、むしろXの曲を使いません」との発言の趣旨を、その発言内容のみで評価せず、その発言がされるに至った経緯や発言がされた状況などを併せて評価した結果、原告による放送等使用料に関する説明が大きく変化したことに困惑してなされたものであると認定した上で、原告管理楽曲の利用回避はなかったと判断した。上記のとおり、発言の経緯及び状況を総合考慮して認定判断をした審決に不合理な点はない。
(イ) ペナルティの存在については、仮に、原告と民放連との交渉において、参加人が録音権割合による包括徴収に同意せず、民放連が個別徴収しか認めなかったため、原告が個別徴収を受け入れざるを得なかったことによるものであるという事情があったとしても、報告漏れがあった場合に高額の放送等使用料の支払義務を負う可能性があることは、放送事業者が困惑、混乱した一因となっていると認められるから、本件審決の認定、判断に不合理な点はない。
【参加人の反論】
ア 「恋愛写真」の利用実績に関する認定の誤りに対して
(ア) エイベックス楽曲に係る放送等使用料の無料化措置の放送事業者への伝達時期
 原告は、エイベックス・グループが行った無料化措置が放送事業者に伝わったのは平成18年10月18日以降であるとした本件審決の認定には誤りがある、Gの「恋愛写真」の利用回数が同月13日以降急増していることや、エイベックスのLの供述調書等から、無料化措置が決定されたのは同月13日であって、そのことは、直ちに口頭で放送事業者に伝えられたと認められると主張する。
 しかし、本件審決は、原告代表者や関係者の供述調書・陳述書や参考人審尋での供述等から、前記のとおり事実認定したものであり、本件審決の認定は実質的証拠に基づく。
 なお、エイベックスのLの供述調書等によっても、無料化措置が同月13日には放送事業者に口頭で伝えられていたと認めることはできない。また、「恋愛写真」の利用回数については、同月13日の利用回数6回のうち3回は一つの放送事業者による利用であり、同月14日の利用回数39回のうち38回、同月15日の利用回数38回のうち37回はいずれも、JFNネット番組で「恋愛写真」が利用されたことによるものであり、同月12日と比較して利用回数が急増したと評価することはできない。さらに、原告の主張は、放送事業者が、同月1日から同月13日までの間、「恋愛写真」が原告管理楽曲であることを認識していたことが前提となるが、放送事業者の番組制作担当者は、その間、「恋愛写真」が原告管理楽曲であると認識しようがなかった。
 したがって、無料化措置が決定されたのは同月13日であり、そのことが直ちに口頭で放送事業者に伝えられたとは認められない。
(イ) 「恋愛写真」の利用回数の変化の推移とその原因
 原告は、放送等使用料が有料であった平成18年10月1日から同月12日までの利用回数が少ないことから、Gの「恋愛写真」が他の楽曲と遜色なく利用されていたという本件審決の認定には誤りがあると主張する。
 しかし、本件審決は、J−BASSへの放送事業者の利用楽曲報告データに基づいて上記のとおり認定しているのであり、本件審決の認定は実質的証拠に基づく。
 原告の主張は、有料であれば利用されないという結論を当然の前提とするものであって、失当である。また、原告の主張は、放送事業者に同月13日に無料化措置が伝えられたという事実を前提とするものであるが、前記のとおり、当該事実を認めることはできない。本件審決が認定したとおり、「恋愛写真」の利用回数は、同時期の他のヒット曲の利用回数の推移と比較して、格別の相違があるとは認められないのであり、無料化措置の通知と結びつけることはできない。
(ウ) 「恋愛写真」の利用実績の算定方法
 原告は、自主制作番組における利用回数に限定すれば、平成18年10月から同年12月までの3か月間の「恋愛写真」の利用回数のうち同年10月25日以前の利用回数は26.2パーセントにすぎないから、「広く放送事業者に利用されていた」とは認められないと主張する。しかし、自主制作番組における利用回数に限定したとしても、上記期間の利用回数が約26パーセントに及ぶことから、「恋愛写真」は無料化措置の前後を問わず、相当程度放送事業者に利用されていたと認めることができる。
 また、原告は、利用回避の有無を判断する前提となる利用実績は、実際に利用された回数の全体を基礎とするのではなく、追加負担が発生することを認識した上での利用回数を基礎とすべきであると主張する。
 しかし、原告の主張は、音楽出版社によって一方的に遡って無償楽曲とされた場合に、利用者である放送事業者における主観的な有償の認識の有無や客観的な利用回避事実の有無にかかわらず、すべて利用実績なしと評価すべきであるとするもので、失当である。
イ 利用回避に関する認定の誤りに対して
 原告は、放送事業者の社内通知文書について、原告管理楽曲の利用を差し控えさせる効果があったとは認められないとした本件審決の認定には誤りがあると主張する。
 しかし、本件審決は、上記社内通知文書について、詳細にその記載内容を検証して、上記認定に到っているのであり、本件審決の認定に誤りはない。
 また、本件審決は、民放連のKの「add−onする形なら、むしろXの曲を使いません」との発言について、原告による放送等使用料に関する説明が大きく変化したことに困惑してアドオン発言をしたものと認められるとして、原告管理楽曲の利用回避はなかったと認定したが、同認定は、実質的証拠に基づく。
ウ 原告の準備不足が原因であるとの認定の誤りに対して
 原告は、本件審決が準備不足の根拠として認定した事実の大半は、取るに足りない事実か、放送事業者側の対応に問題があるものであり、参入後3か月が経過しても準備不足の状態にあるというのは、準備しても参入が困難である原因があるというべきであると主張する。
 原告の主張は、本件審決が認定した具体的事実を認めた上で、単にその評価を争っているものである。そして、原告が準備不足の状態のまま放送等利用に係る管理事業に参入したため、放送事業者の間に原告管理楽曲の利用に関し、相当程度の困惑や混乱があり、このことが放送事業者が原告管理楽曲の利用について慎重な態度を採った主たる原因であったとした本件審決の認定には、何ら経験則に反する不合理な点はなく、原告の主張は理由がない。
 録音・インタラクティブ配信分野における管理業務と放送分野における管理業務とは全く異なるのであるから、録音権やインタラクティブ配信分野などに参入済みであることを理由に、原告の準備不足を否定することはできない。
エ エイベックス・グループが勘違いにより管理委託契約を解約したとの認定の誤りに対して
 原告は、エイベックス・グループが原告との管理委託契約を解約したのは、勘違いによるものではないと主張する。しかし、原告の主張は、「無料化措置の通知前には、『恋愛写真』を含む原告管理楽曲は、放送事業者においてほとんど利用されていなかった」ことを前提とする主張であり、主張自体失当である。
オ 参入実績を管理楽曲数により判断することの誤りに対して
 原告は、管理楽曲数が平成18年12月31日以降も増加しているとしても、有償での利用実績はほとんどゼロに等しく、参入実績もゼロと評価されると主張する。
 しかし、原告の上記主張は、同日以降も原告の管理楽曲数が増加している事実を認めた上で、その評価を争っているものにすぎず、原告の主張は失当である。
 なお、電子的なネットワーク上のインタラクティブ配信分野と放送分野における管理事業の内容は、利用者の利用楽曲の把握の困難性による管理手続の煩雑性などが全く異なるのであって、インタラクティブ配信分野における原告の管理事業実態から、放送分野において原告が排除されているということはできない。
(3) 排除型私的独占該当性についての判断の誤り
【原告の主張】
ア 参加人は、圧倒的多数の管理楽曲を保有し、ほとんど全ての放送事業者と包括徴収の方法による利用許諾契約を締結しており、その放送等使用料は、利用実績に関係なく、一定額である。したがって、放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用すると、放送等使用料の追加負担が生じるため、他の管理事業者の管理楽曲を利用するインセンティブが生まれず、放送事業者は他の管理事業者の管理楽曲の利用を回避していた(利用の回避ないし抑制)。
 このように、圧倒的な地位を有している参加人が、上記の料金体系を採用すると、ほとんど全ての放送事業者が参加人に囲い込まれてしまい、他の管理事業者を排除する状況、すなわち、競業者が放送等利用に係る管理事業の市場に参入することが困難な状況を生じさせる。
イ 他の事業者の事業活動の排除(排除型私的独占)は、一定の取引分野である管理事業の市場への参入が困難であるとの事実が認定されれば成立し、他の事業者の管理楽曲が利用されなかったこと、その利用が回避されたことが認定できなくとも、利用が抑制される蓋然性があれば成立するといえる。
 放送事業者が原告管理楽曲の利用に慎重な態度を採ったという事実が認められれば、参入の抑制効果が生じる蓋然性が存在し、排除効果又は他の事業者の事業活動の排除が肯認される。
 さらに、本件では、「恋愛写真」は、有償のときにはほとんど利用されず、無償となった途端に利用回数が急増した事実が認められ、そのような事実に照らすならば、参加人の本件行為により、他の管理事業者の管理楽曲が利用されず、新規の管理事業者の放送等利用に係る管理事業への参入を排除する効果が生じているといえる。
ウ 本件審決は、「本件行為は放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し、参加人が、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において、平成13年10月1日の管理事業法施行の前後を通じて、一貫してほぼ唯一の事業者であった」と認定し、本件行為は他の事業者の新規参入についての「消極的要因」であり、新規参入を困難にする効果を持つことを疑わせる「一つの事情」であるとしているにもかかわらず、「本件行為及びその効果についての参加人の認識」「著作権者から音楽著作権の管理の委託を受けることを競う管理受託分野との関連性」等、競争条件の公平性に関係のない要素を考慮して、排除効果がないと判断している。
 しかし、本件審決の判断手法及び判断内容は、最高裁判所平成22年12月17日第二小法廷判決・民集64巻8号2067頁(以下「NTT東日本最判」という。)の判断に反し、誤りがある。
 すなわち、NTT東日本最判によれば、本件行為から生まれる「排除効果」において考慮すべき事由とは、包括徴収の特性、参加人の市場における地位、競業者は包括徴収方式での契約の締結ができていないこと、これらの事情により、競争条件に著しい格差が生まれていること、本件の市場が二面市場でありネットワーク効果があることなどであり、それらを総合考慮すれば、本件行為は「排除行為」に該当するとの結論が導かれるべきである。
 本件審決は「競業者の新規参入を消極的にさせる程度では、まだ排除効果を有するとするのは困難である」と判断するが、本件審決の同判断は、NTT東日本最判に反し、誤りである。NTT東日本最判によれば、「本件行為は放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有している」との事実のみで、排除行為に該当すると解するのが妥当である。
 また、参加人が放送等利用に係る市場で、一貫してほぼ唯一の事業者であることを考慮するならば、本件行為の排除効果は、競争を実質的に制限する程度のものというべきである。
エ 本件審決は、放送等使用料の追加負担が生じるか否かは、放送事業者がどの楽曲を利用するかを決める際の判断材料の一つにすぎない旨述べる。しかし、判断材料の一つであったとしても、包括徴収の方法による利用許諾契約による排除効果・参入抑制効果を否定する理由にはならない。
 人気度の高い楽曲においては、追加負担があっても利用されることがあり得るが、そのような楽曲ですら、放送等使用料の追加負担があれば、その利用が抑制されるのは当然である。上記のような楽曲についての利用実績があったとしても、普通の楽曲について利用実績がない以上、包括徴収の方法による利用許諾契約による参入抑制効果(排除効果)が否定される理由にはならない。
オ 放送等利用における管理事業に関しては、放送事業者が管理事業者から利用許諾を受けて音楽著作物を利用する市場(川下市場)と、著作権者が管理事業者に対して音楽著作権の管理を依頼し、管理事業者が放送事業者から徴収した放送等使用料の配分を受けるという管理事業の市場 (川上市場)の、両市場が存在する。そして、本件においては、参加人が川下市場において包括徴収の方法による利用許諾契約を締結、実施した行為が「排除行為」に該当し、その結果、その川上市場である管理事業の市場にも排除効果が生じたといえる。
 本件審決には、上記の点について、全く考慮されていない点に誤りがある。
カ 本件審決が、排除効果の有無のみを検討して本件排除措置命令を取り消したのは、NTT東日本最判に照らして、誤りがある。同最判は、排除効果、人為性、競争の実質的制限の有無を総合的に判断しており、本件においても、本件行為が競争に与える影響を総合的に判断すべきである。
【被告の反論】
 本件審決は、本件行為が独占禁止法2条5項所定の「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かについて、NTT東日本最判に照らし、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果があると断定することができるかどうかを、本件行為に関する諸般の事情を総合的に考慮して検討する必要があるとした上で、本件審判において取り調べられた関係各証拠に基づいて、原告が放送等利用に係る管理事業を開始した際の事実関係を検討した結果、本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは、なお困難であると判断したものであり、その法解釈・法適用に誤りはない。
 原告は、放送等利用における管理事業に関しては、川下市場と川上市場が存在すると主張するが、原告主張の市場の分析を前提としても、本件審決は、川下市場における本件行為が川上市場に与える影響を踏まえて排除効果の有無を検討しており、その判断に誤りはない。
【参加人の反論】
ア 原告は、放送事業者が他の管理事業者が管理する楽曲を利用すると、放送等使用料の追加負担が生じるため、他の管理事業者の管理楽曲の利用が回避ないし抑制されると主張する。
 しかし、参加人に支払う包括使用料は、参加人の管理楽曲の放送等利用に対する使用料であり、原告管理楽曲を使用した場合にはその使用料を支払うのは当然であるから、「追加負担(二重払い)」が生ずることはない。
 放送事業者が参加人に支払う放送等使用料は、原告管理楽曲の利用の対価である放送等使用料とは無関係であり、この二つの放送等使用料の金額は連動していない。したがって、仮に、「放送等利用割合を反映した包括徴収方法」を採用したとしても、放送事業者が参加人に支払う放送等使用料額が原告に支払う放送等使用料の額だけ減額されるものではなく、上記方法を採用すれば、放送事業者が原告管理楽曲を利用するという結果に繋がるものではない。
 また、原告の主張は、放送事業者が放送番組で音楽著作物を利用する際には、その使用料額のみが選択基準となることを前提としている。しかし、放送事業者は、放送番組の目的、内容や視聴者の嗜好等を勘案してそれぞれに適切な音楽著作物を選択するのであって、追加負担の有無は、利用楽曲の選択とは無関係である。
イ 原告は、放送事業者が原告管理楽曲の利用に慎重な態度を採ったという事実が認められれば、原告の参入の抑制があったと認定できると主張する。しかし、本件審決が認定するように、放送事業者が原告管理楽曲の「利用について慎重な態度」を採った主たる原因は、原告が準備不足の状態のまま放送等利用に係る管理事業に参入したことにより、放送事業者が相当程度困惑、混乱したことにあり、本件行為とは因果関係がないから、放送事業者が「利用について慎重な態度」をとったことをもって、原告の「排除」と認定することはできない。
ウ 原告は、管理楽曲を60曲から3600曲に増やしているのであるから、そこに原告のいう排除効果、すなわち著作権者による他の管理事業者への楽曲管理委託の回避は生じていない。
エ NTT東日本最判を前提とすると、本件行為が「他の事業者の事業活動を排除」することの要件に該当するためには、本件行為が競業者の市場への参入・事業活動の継続を「著しく」困難にするなどの効果を持つものであることを要し、さらに、この要件は、@放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において競業者に対する排除効果(競業者の市場への参入・事業活動の継続を著しく困難にするなどの効果)が発生しているといえること、A排除効果が本件行為に起因して生ずるといえること(本件行為がなければ、排除効果が発生しないという因果関係があるかどうか。)の2点に分説される。
 @については、原告の管理楽曲数は、平成18年10月の放送等利用分野への参入時から着実に増加し、その管理楽曲が放送事業者によって利用されており、放送等利用に係る管理事業を営むことが著しく困難な状態となっている事実はない。また、原告以外の管理事業者が放送等利用分野に参入しない理由は、インタラクティブ配信分野と比較すると、利用者の利用楽曲の把握に著しい困難が伴い、管理手続も煩雑であることにあり、包括徴収による利用許諾とは関係がない。したがって、原告以外の管理事業者が本件行為によって新規参入を阻害されているという事実もない。
 Aについては、本件審決は、放送事業者の慎重な態度と本件行為との因果関係を否定している。
 以上のとおり、NTT東日本最判の基準を適用するならば、本件行為は排除行為に該当せず、本件審決は、NTT東日本最判の枠組みに反する判断をしたとはいえない。
オ 本件審決の争点の設定は、独占禁止法2条5項の正しい解釈を基に、NTT東日本最判の判断枠組みを正確に反映させたものであり、本件審決の判断手法に誤りはない。
(4) 手続的瑕疵
【原告の主張】
 独占禁止法70条の15が利害関係人に対する審判記録の開示を規定した趣旨は、利害関係人が被告に対して意見を述べ、必要があれば審判に参加する機会を保障するためである。しかし、原告が審判記録の開示を請求したのに対し、開示決定が不当に遅延し、3回目の開示請求について開示決定がされたのは、本件審決案が作成・送達された後であった。このため、本件審判事件の利害関係人であった原告は、本件審判事件の手続において意見を述べる機会を奪われた。
 利害関係人である原告に意見を述べる機会を与えることなく本件審決案が確定されたことは、適正手続に反する違法がある。
 また、開示された事件記録には、正当な理由なく不開示とされた部分が多数存在した。当初からこれらの事件記録が開示されていれば、原告は、被告の審査官や委員に対し、より適切な意見を述べることができたはずである。したがって、不当な不開示処分は本件審決の結果に重大な影響を及ぼす手続違背であり、本件審決の取消事由となる。
【被告の反論】
 独占禁止法70条の15に基づく事件記録の閲覧・謄写請求は、当該審判手続とは別個の独立した手続で行われ、閲覧・謄写請求に対する被告の処分に関する不服は、行政事件訴訟法所定の抗告訴訟によってされることが予定されている。このような別個の手続である閲覧・謄写請求に関する被告の対応が審決の法令違反を基礎付け、審決の取消事由となることはない。
 また、仮に、審査官及び被審人又はその代理人以外の者が被告に対して審決案につき何らかの意見を述べたとしても、被告は、その意見を考慮することはできず、それに基づいて審決案と異なる審決を行うことは許されない。
【参加人の反論】
 独占禁止法70条の15は、法違反行為の被害者が違反行為者に対し差止請求訴訟又は損害賠償請求訴訟を提起しあるいは維持する便宜を図るために、事件記録の閲覧謄写を「利害関係人」に認めた規定である。審決案を被審人に送達する前に同条に基づいて「利害関係人」に閲覧謄写決定をすべきであるとする規定、「利害関係人」が審決案についての意見を述べることができるという規定、「利害関係人」の審決案に対する意見を審決に反映させなければならない規定は置かれていない。以上のとおり、本件審判事件の手続には、原告主張の手続的瑕疵はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告適格の有無)について
 被告が参加人を名宛人としてした本件排除措置命令取消審決(本件審決)の取消訴訟について、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾事業において参加人の唯一の競業者である原告が原告適格を有するか否かを判断する。
(1) 行政事件訴訟法9条1項所定の当該処分又は裁決(以下「処分等」という。)の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分等により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分等を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分等によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分等の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
 処分等の名宛人(相手方)以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分等の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、@当該法令の趣旨及び目的、並びにA当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきである。この場合において、上記@の当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、上記Aの当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分等がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項、最高裁判所平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
(2) 上記判断基準に即して、参加人の唯一の競業者である原告が本件訴訟についての原告適格を有するか判断する。
ア 独占禁止法の目的及び排除措置命令等に関する規定
 独占禁止法は、「この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」と規定する(同法1条)。すなわち、独占禁止法は、同法に違反する行為を禁止等することにより、公正かつ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにすること等によって、一般消費者の利益の確保、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものである。
 同法は、上記目的を実効あらしめるため、公正取引委員会に対し、私的独占又は不当な取引制限等の行為があるときは、事業者を名宛人として、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他違反行為を排除するために必要な措置を命じる権限を付与し(同法7条)、また、同命令に不服がある者からの審判請求があったときは、公正取引委員会は審決を行う旨定めている(同法49条6項、66条)。
イ 排除措置命令等に関連して設けられた諸規定の趣旨、目的等について
(ア) 独占禁止法は、@何人も、同法に違反する事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、適当な措置をとることを求めることができること(同法45条)、A公正取引委員会は、必要に応じて、職権で、審決の結果について関係のある第三者を当事者として審判手続に参加させることができること(同法70条の3)、B利害関係人は、公正取引委員会に対し、審判手続開始後、事件記録の閲覧謄写等を請求することができること(同法70条の15)等の規定を設け、さらに、C違反行為をした事業者は、排除措置命令確定後は、被害者に対し、無過失の損害賠償責任を負うこと(同法25条、26条)、D同法25条の規定による損害賠償の訴えが提起されたときは、裁判所は、公正取引委員会に対し、損害の額について、意見を求めることができること(同法84条)などの諸規定を設けている。
(イ) 排除措置命令等に関連する上記諸規定においては、適当な措置を請求することができる者の範囲に限定はなく、審判手続に第三者を参加させるか否かは、公正取引委員会が職権でなし得るものであり、事件記録の閲覧謄写等を請求し得る利害関係人には被審人のほか被害者等も含まれ、この閲覧謄写等や独占禁止法25条の定める損害賠償を請求し得る被害者は、違反行為による直接の被害者に限定されず、間接の被害者も広く含むと解されることに鑑みると、これらの規定が置かれていることから直ちに、同法所定の排除措置命令等の根拠となる規定が、利害関係人等に該当する全ての者に対して、その利益を個々人の個別的利益としても保護している趣旨を含んでいると解することはできない。
 しかし、事業者により私的独占又は不当な取引制限等の行為がされたにもかかわらず、排除措置命令を取り消す審決がされた場合等を想定すると、同取消審決等は、単に「公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」との一般的公益を害するだけではなく、少なくとも、一定の範囲の競業者等に対する関係では、公正かつ自由な競争の下で事業活動を行うことを阻害し、当該取引分野における事業活動から排除するなど、必然的に個別的利益としての業務上の利益を害し、また害するおそれを生じせしめることになる。
(ウ) そのような観点から独占禁止法を見ると、@排除措置命令確定後における、違反行為を行った事業者の無過失責任制度(同法25条、26条)、A利害関係人に対する事件記録閲覧謄写等の手続(同法70条の15)、B損害賠償請求訴訟における公正取引委員会への損害額の求意見制度(同法84条)等の諸規定は、一定の範囲の競業者等が上記のような業務上の利益を害された場合に、違反行為者の過失や損害額の算定に関する被害者側の立証の負担を軽減させ、また、被害者が損害賠償請求等の訴訟を遂行するに当たって必要となる資料の入手を容易にすることにより、違反行為により損害を受けた競業者等(被害者)との関係で、損害の填補を適正、迅速かつ容易に受けられるようにすることも、その趣旨及び目的としていると解することができる。
ウ 排除措置命令等に関する規定の趣旨
 独占禁止法の排除措置命令等に関する規定に違反して排除措置命令を取り消す審決がされた場合等に一定の範囲の競業者等が害される利益の内容及び性質や、排除措置命令等に関連して設けられた上記諸規定(同法25条、26条、70条の15、84条)等の趣旨及び目的も考慮すれば、独占禁止法の排除措置命令等に関する規定(同法7条、49条6項、66条)は、第一次的には公共の利益の実現を目的としたものであるが、競業者が違反行為により直接的に業務上の被害を受けるおそれがあり、しかもその被害が著しいものである場合には、公正取引委員会が当該違反行為に対し排除措置命令又は排除措置を認める審決を発することにより公正かつ自由な競争の下で事業活動を行うことのできる当該競業者の利益を、個々の競業者の個別的利益としても保護する趣旨を含む規定であると解することができる。したがって、排除措置命令を取り消す旨の審決が出されたことにより、著しい業務上の被害を直接的に受けるおそれがあると認められる競業者については、上記審決の取消しを求める原告適格を有するものと認められる。
エ 本件審決取消訴訟についての原告適格の有無に関する判断
 上記の検討を踏まえた上で、原告に、被告が参加人に対してした本件排除措置命令を取り消した本件審決の取消訴訟についての原告適格が認められるか検討する。
 本件は、音楽著作物の放送等利用に係る管理事業における排除型私的独占による独占禁止法違反行為の有無が問題とされた事案である。そして、平成13年10月1日に管理事業法が施行されるまでは、仲介業務法により、上記管理事業は、参加人が独占して行っており、管理事業法施行後も、原告が平成18年10月1日に上記管理事業を開始するまでは、参加人の独占が継続していた。同日以降、音楽著作物の放送等利用に係る管理事業を行って放送等使用料を徴収しているのは、参加人と原告のみであった。
 参加人が独占禁止法違反の行為を行った場合には、音楽著作物の放送等利用に係る管理事業において参加人の唯一の競業者である原告は、その行為により、直接、公正かつ自由な競争の下での事業活動を阻害されることとなり、その業務上の損害は著しいものと認められる。
 以上のとおり、独占禁止法中の排除措置命令等の根拠となる規定(同法7条、49条6項、66条)の趣旨を解釈するに当たり、同法中の他の関連規定(同法25条、26条、70条の15、84条)の趣旨を参酌し、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案して、当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質も考慮すると、平成18年10月1日に上記管理事業を開始し、参加人の唯一の競業者である原告は、本件排除措置命令及び本件排除措置命令を取り消した本件審決の名宛人ではないものの、本件訴訟についての原告適格があると認めるのが相当である。
2 争点(2)(事実認定の誤り)についての判断
 本件審決は、第2の3記載のとおり、本件行為が独占禁止法2条5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当するためには、@本件行為が、他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有すること、A本件行為が、正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有すること、B本件行為が、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであること、C本件行為が、公共の利益に反するものであること、との各要件を充足することが必要であるとした上で、上記@に係る事実の認定及び要件充足性の判断をし、同要件を充足しないと判断した。
 そこで、本判決では、本件審決のした「上記@に係る事実認定及び要件充足性の判断の当否」、すなわち「上記@に係る要件を充足しないことを理由に、本件行為が独占禁止法2条5項に定める排除型私的独占に該当しないとした本件審決の判断の当否」について、検討することとする。
 なお、原告の「(2) 事実認定の誤り」に係る主張には、重複しているものもあるが、おおむね原告の主張に即して、順に判断することとする。
(1) 「恋愛写真」の利用実績に関する認定の当否
ア エイベックス楽曲に係る放送等使用料の無料化措置の放送事業者への伝達時期
 原告は、エイベックス・グループが行った放送等使用料の無料化措置が放送事業者に伝わったのは平成18年10月18日以降であるとした本件審決の認定には、誤りがあり、同月13日には、既に首都圏の放送事業者に口頭で伝達されていたと主張する。
(ア) 証拠関係
 この点に関し、本件審判事件の記録には、以下の証拠が存在する。
a 原告作成の平成18年10月付け「『放送権』管理事業に伴う特別利用に関するご報告」と題する書面(査第56号証)には、エイベックス・グループから、エイベックス楽曲について、プロモーション特別使用についての承諾を得た旨の記載があり、これに添付された、放送局から原告宛てのプロモーション用利用申請書及びエイベックス・グループから原告宛てのプロモーション用利用承諾書は、いずれも同月18日付けとなっている。
b エイベックスのLがNACK5に宛てた無料化措置を通知する旨の書面(査第98号証)は、平成18年10月20日付けである。
c 原告代表者は、被告審査官に対し、@平成18年10月13日、原告は、エイベックスのLから、エイベックス・エンタテインメントのプロモーターが入手したNACK5、J−WAVEにおける原告管理楽曲の放送自粛を指示する文書のファクシミリ送信を受けた、A同日を中心に、原告の取締役副社長のMとLとの間で、原告管理楽曲についての各放送事業者による放送自粛の事実確認等のため、頻繁に電話でやりとりが行われた、B同月16日頃、エイベックス・グループからはエイベックス・グループ・ホールディングスの取締役であるFとLが、原告からは代表者とMが出席して協議が行われ、Fから、同年10月から同年12月までの3か月間に限り、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料にするとの提案があった、Cこれを受けて、原告は、エイベックス楽曲を上記期間に限り無料使用とする周知文書を作成し、同文書は、同年10月19日に、エイベックス・グループから首都圏のFMラジオ局等に送付された、D原告が、同月20日に、同文書を民放連に送付したところ、同月25日に民放連から同文書の一部につき修正要請があり、これを修正した文書が、民放連から民間放送事業者に送付された旨供述している(査第4号証)。
d エイベックスのFは、被告審査官に対し、@平成18年10月上旬、エイベックス・グループからは同人とL、原告からは代表者とMが出席して協議が行われ、Fは、同年10月から同年12月までの3か月間に限り、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることを提案した、A同協議において、原告から無料化措置を周知する文書を郵送すること及び原告が同文書の案を作成し、Fがこれをチェックすることが決まった、B上記文書は、同年10月18日頃に、原告から全民間放送事業者宛てに発送された旨供述している(査第33号証)。また、Fは、陳述書(審第37号証)において、エイベックス・グループは、原告と協議を重ね、同月16日に無料化措置を決め、同月19日及び同月20日に、首都圏のラジオ局8社(エフエム東京、J−WAVE、NACK5、ベイエフエム、横浜エフエム、株式会社ニッポン放送(以下「ニッポン放送」という。)、株式会社文化放送(以下「文化放送」という。)及び株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ)に対して、無料化措置についてファクシミリにより通知した旨陳述している。
e エイベックスのLは、被告審査官に対し、@NACK5とJ−WAVEの原告管理楽曲の放送自粛を周知する文書を入手し、平成18年10月13日に、原告のM宛てにファクシミリ送信した、ALは、Fに対し、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることを提案した、B同月16日頃、FとLは原告代表者及びMと面談し、Fは、原告に対し、同年10月から同年12月までの3か月間に限り、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とするとの提案を行い、同期間、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることが決まった、Cそこで、エイベックス・エンタテインメントのメディア部にその旨を伝え、各放送事業者にプロモーターからまず口頭で伝えるよう要請した、D原告との間で、無料化措置についての周知文書を作成した、E同文書の文案は同年10月18日までに固まった、FLは首都圏のFM、AMラジオ局に同文書をファクシミリ送信した、G原告は民放連経由で民間放送事業者に同文書を送付したが、各放送事業者にこれが送付されたのは同月下旬となった旨供述している(査第34号証)。
f エイベックス・グループのNは、被告審査官に対し、平成18年10月13日から4、5日経ち、Lから、エイベックス楽曲について同月初めから同年12月末まで放送等使用料を無料とする措置を採ることとした旨の連絡があったこと、そこで、部下のプロモーターにその旨を伝え、その趣旨を首都圏のFM・AMラジオ局の番組制作プロデューサー・ディレクターに口頭で説明して回るよう指示したことを供述している(査第35号証)。
g テレビ朝日のDは、被告審査官に対し、平成18年10月中旬以降、民放連を通じて無料化措置を知った旨供述し(査第23号証)、文化放送のOは陳述書(審第25号証)において、同月半ばに、エイベックス・グループからのファクシミリで無料化措置を知った旨陳述し、TBSのCは、被告審査官に対し、同月20日頃、原告代表者からの電話で無料化措置を知った旨供述している(査第24号証)。
(イ) 本件審決の認定の合理性等
 以上によれば、原告とエイベックス・グループは、平成18年10月16日頃、同月1日に遡り、同年12月31日までの期間、エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることを決定し、同年10月19日及び20日頃、この決定を通知する文書を上記の首都圏のラジオ局8社に対してファクシミリ送信するとともに、同月20日頃、民放連に送付し、民放連は同月25日以降、上記文書を一部修正したものを、民間放送事業者に送付したとする本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものであり、その限りでは誤りはない。
 しかし、上記各証拠を総合するならば、上記通知文書がファクシミリ送信された同月19日頃に先立って、放送等使用料の無料化措置が決まった同月16日頃から、エイベックス・グループのプロモーターが少なくとも放送事業者の一部に対し無料化措置を口頭で説明した事実を合理的に認定することができる。したがって、少なくとも放送事業者の一部に関しては、本件審決が、同月19日頃以降に初めて無料化措置を知ったと認定した点は、実質的証拠に基づかないものであり、誤りがある。
 なお、原告の主張は、無料化措置が同月13日時点で決定されていたことを前提としているが、当時、エイベックス・グループの中で無料化措置の提案がされていたことは認められるとしても、同日時点でこれが決定されていたことまでを認めるに足りる証拠はなく、この点の原告の主張は失当である。
イ 「恋愛写真」の利用回数の変化の推移とその原因
 原告は、「恋愛写真」の利用回数が平成18年10月13日以降急増しているのは、エイベックス・グループの無料化措置が口頭で放送事業者に伝えられたことによるものであり、また、「恋愛写真」は、同じく同月25日にリリースされた楽曲や、Gの他の楽曲と比較しても、リリース日の30日前から前日までの30日間に放送された回数のうち、リリース日の24日前から13日前までの期間(同月1日から同月12日までの期間)に放送された回数の割合が少ないことから、原告管理楽曲は、有償のときにはほとんど利用されず、無償となった途端利用回数が急増したといえ、この点における本件審決の認定には誤りがあると主張する。
 しかし、以下のとおり、原告の上記主張は失当である。
 すなわち、本件審決が認定したとおり、@本件審判事件の記録中の証拠(査第71号証、第72号証、審第1号証、第8号証、第9号証)によれば、参加人のJBASSに報告されたデータに基づくと、「恋愛写真」が放送事業者の放送番組で利用された回数は、同年10月1日から同年12月31日までの間が729回、そのうち、同年10月1日から同月17日までの間が128回、同月18日から同月25日までの間が193回(そのうち、首都圏以外の放送事業者が放送したものが184回であり、この184回のうち、JFNネット番組及びJFNC番組で放送したものが121回、それ以外の番組で放送したものが63回である。)であることが認められ、A証拠(査第68号証、第69号証、審第35号証)によると、JFNネット番組のほとんどにおいてキー局はエフエム東京であり、番組の具体的な内容はエフエム東京に任されていること、また、JFNC番組の制作についてもエフエム東京の意向の影響を受けていること、B証拠(審第6号証)によると、楽曲を放送番組で利用したことをJ−BASSを利用して報告している放送事業者は、FMラジオ局が中心であることが認められる。また、証拠(審第35号証)によると、民放連から民間放送事業者に配付された、平成18年10月6日付けの「X社の音楽著作物管理事業開始と民放連の対応について」と題する書面に添付された原告管理楽曲の表には、「恋愛写真」が原告管理楽曲となる予定の楽曲として掲載されていたことが認められる。
 前記のとおり、無料化措置が放送事業者に伝わったのが同月16日頃以降であるとすると、それ以前に「恋愛写真」が利用された回数は一定程度あったことは認められる。しかし、それぞれの放送事業者が無料化措置をいつの時点で知ったかは、必ずしも明らかでない。さらに、各放送事業者が「恋愛写真」が原告管理楽曲になる予定であることを知ったのは、早くても同月6日以降であると認められることからすると、「恋愛写真」が原告管理楽曲であることを知った上で、無料化措置を知る前にこれが利用された回数は必ずしも明確ではない。そうすると、「『恋愛写真』が無料化措置の通知の前後を問わず、広く放送事業者に利用されていた」とした本件審決の認定は、放送事業者が無料化措置を知った前後において、その利用状況に格別の差異があるとは積極的に認めることはできないとする限りにおいて、あながち不合理な認定であるとまではいえない。
 原告の主張は、エイベックス楽曲の無料化措置が放送事業者に口頭で伝達されていたのが同月13日であることを前提とするものであるが、前記のとおり前提となる事実を採用することができない以上、原告の主張はその前提において失当である。
ウ 「恋愛写真」の利用実績の算定方法
(ア) 原告は、JFNネット番組の場合、その使用料は、全国放送での1回分の使用料とされているにもかかわらず、本件審決が認定した「恋愛写真」の利用実績は、キー局を通じて多くの放送事業者から同時に放送されている楽曲の利用回数を単純に加算したものであるから、そのような方法により算定された利用実績に基づいて「恋愛写真」が広く利用されていたと認定することは、妥当性を欠くと主張する。
 しかし、確かに、前記イで認定した利用回数には、JFNネット番組により、多数の放送事業者が同時に放送している場合の各放送事業者の放送分も加算されているものの、無料化措置が伝達された後に放送された分も、伝達される前に放送された分も、同じ方法によって利用回数が算定されていることからすると、「『恋愛写真』が無料化措置の通知の前後を問わず、広く放送事業者に利用されていた」とした本件審決の認定は、前記の限りにおいて、あながち不合理な認定であるとまではいえない。
(イ) 原告は、「恋愛写真」の利用回避の有無を判断するに当たり、「恋愛写真」の利用実績として算定されるのは、「放送等使用料の追加負担があることを認識して利用したもの」のみに限定されるべきであり、「放送等使用料が無料となることを知って利用したもの」、「追加負担が生じることを知らずに利用したもの」及び「追加負担が生じても、ランキング入りした場合やG自身の番組であるなどの理由で利用せざるを得なかったもの」は除外されるべきであるから、これらを「恋愛写真」の利用実績に含めた上で利用回避がなかったとした本件審決の認定には誤りがあると主張する。
 確かに、利用回避の有無を判断するために前提とすべき利用実績は、実際に利用された回数の全体を基礎とするのではなく、追加負担が発生することを認識した上での利用回数(追加負担があっても使わざるを得ない場合を除く)を基礎とすべきである点は、原告の主張のとおりといえる。
 しかし、そのような場合を個別に抽出することの困難性に鑑み、本件審決が、「放送等使用料が無料となることを知って利用したもの」、「追加負担が生じることを知らずに利用したもの」及び「追加負担が生じても、ランキング入りした場合やG自身の番組であるなどの理由で利用せざるを得なかったもの」も利用実績に算入した上で、放送等使用料の無料化措置の通知の前後における「恋愛写真」の利用状況の変化を比較し、その結果から利用回避の事実があったか否かを推認しようとしたことが一概に不合理であると断定することはできない。
(2) 利用回避に関する認定の当否
ア 放送事業者の社内通知文書の作成配付等について
 原告は、@放送事業者の多数の社内通知文書について、原告管理楽曲の利用を差し控えさせる効果があったとは認められないとする本件審決の認定、及びA放送事業者が、原告管理楽曲の利用について慎重な態度を採ったことが認められるとしつつも、利用を回避したと認めることはできないとする本件審決の認定には誤りがあると主張する。
 当裁判所は、本件審決の上記各認定には、実質的証拠に基づかないものがあると判断する。その理由は、以下のとおりである。
(ア) テレビ朝日
a 証拠関係
 本件審判事件の記録には、以下の証拠が存在する。
(a) 発信者をテレビ朝日のDとする、番組制作担当者宛ての、平成18年9月27日付けの「連絡票」と題する社内通知文書(査第36号証)には、原告管理楽曲の使用に当たり確認すべき事項として、@原告管理楽曲を使用する場合は、「使用報告書の提出」と「放送使用料の支払い」が必要となること、A使用報告書には、楽曲名、アーティスト名等を記入して、放送日から1か月以内に提出すること、B放送等使用料の額、C放送等使用料は番組負担となること、また、使用報告書の提出が遅れると一般料金の6万円の支払が課せられること、D原告管理楽曲にはG、Pらの楽曲が含まれているので十分注意してほしいこと等が記載されている。
(b) テレビ朝日のDは、被告審査官に対し、平成18年9月27日に上記文書を作成して、社内の番組制作担当者に配付したこと、この文書の配付により、原告管理楽曲を放送で使用した場合には、番組制作費から放送等使用料を支出する必要があることが周知され、番組制作担当者に対して原告管理楽曲の使用を差し控えさせる効果が結果としてあったことは否定できないこと等を供述している(査第23号証)。
(c) テレビ朝日のDは、陳述書(審第34号証)において、@上記文書を配付した趣旨は、原告が新たに放送等利用に係る管理事業を開始すること及び原告管理楽曲を利用する場合の具体的な手続等をあらかじめ社内に周知させ、番組制作担当者が原告管理楽曲を利用した場合に混乱が生じないようにする点にあった、A番組制作現場においてどの楽曲を利用するかは演出上の問題であり、それについて自分が口出し等することも、その権限もない、B上記連絡票により番組制作担当者が原告管理楽曲の利用を差し控えることはないと思う旨陳述し、参考人審尋においても同趣旨の供述をしている。
b 本件審決の認定の合理性等
 上記連絡票の体裁及び記載内容、すなわち、連絡事項の冒頭に、原告管理楽曲を使用する場合は、「使用報告書の提出」と「放送使用料の支払い」が必要であると記載され、また、原告に支払う放送等使用料は参加人に支払う放送等使用料と異なり番組負担となる旨記載されていることなど、その体裁及び内容に照らすならば、上記文書が配付されたことによって、番組制作担当者は、番組の制作費用から原告への放送等使用料の支払を避けるため、原告管理楽曲の使用を差し控えたと認められる。
 この点、テレビ朝日のDの陳述書には、上記連絡票により番組制作担当者が原告管理楽曲の利用を差し控えることはないと思うとの陳述部分が存在するが、上記のとおり、「放送使用料の支払い」が必要であると上記連絡票の連絡事項の最上段に記載され、さらに、原告に支払う放送等使用料は番組負担となる旨記載されていること、上記陳述部分は実際のテレビ朝日での原告管理楽曲の客観的な利用状況等に基づくものではないこと等を総合すると、上記陳述内容を措信することはできない。
 したがって、上記連絡票が番組制作担当者に原告管理楽曲の利用を差し控えさせる効果を有していたと認めることはできないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
(イ) TBSテレビ
a 証拠関係
 本件審判事件の記録には、以下の証拠が存在する。
(a) TBSのCら名義の平成18年9月29日付けの「(株)Xによる楽曲の著作権管理について」と題する社内通知文書(査第37号証)には、@原告が同年10月1日から放送における楽曲の著作権管理を開始すること、A原告管理楽曲については、1曲利用するごとに放送等使用料を支払う必要があるので注意して欲しいこと、B原告管理楽曲を利用する際は報告用紙に必要事項を記入の上、担当部署に提出することが記載されており、「1曲利用ごとに、使用料の支払をしなければなりません」及び「1曲ごとに、使用料を支払う必要があります」の部分は、大文字で強調されている。
(b) TBSのCは、被告審査官に対し、@平成18年9月29日に上記文書を配付して、東京放送とTBSテレビの番組制作プロデューサー、外部の番組制作担当者に、原告管理楽曲については1曲ごとに使用料を支払う必要があることを周知した、A同年10月20日頃、原告代表者からの電話で無料化措置を知り、そのことを東京放送とTBSテレビの番組制作プロデューサー、外部の番組制作担当者に周知した、B同月1日から同月20日までの間は原告管理楽曲の使用実績はなく、上記文書は、原告管理楽曲の使用を自粛させる効果があったといえる旨供述している(査第24号証)。また、上記供述調書添付の文書によると、同月21日から同年12月31日までの間に、東京放送のテレビ放送において原告管理楽曲が19回利用されているが(なお、同年10月に利用されたのは、同月21日の1回、同月26日の1回、同月28日の2回のみである。)、利用されたのは「恋愛写真」を含む3曲だけであり、そのほとんどはカウントダウン番組又はこれに類似する番組である。
(c) TBSのCは、陳述書(審第33号証)において、@上記文書は、新たに定めた実務上の手順を確認する意味で作成した、A自分は、民放連を代表して原告と交渉に当たった立場上、原告管理楽曲の放送番組での使用をむしろ期待しており、放送番組での使用が自粛されることは全く想定していなかった、B音楽には個性があるから、放送等使用料の多寡のみを理由に、参加人の管理楽曲を原告管理楽曲の代用とすることはできず、原告管理楽曲を利用する必要があれば、番組制作現場では当然利用するのであって、放送等使用料の負担を理由として利用を自粛することはない旨陳述している。
b 本件審決の認定の合理性等
 上記証拠によれば、以下のとおり解するのが相当である。すなわち、TBSのCら名義で配付された上記文書には、原告管理楽曲を1曲利用するごとに放送等使用料を支払わなければならないことが強調されていること、上記文書が配付されてから同人がエイベックス楽曲の無料化措置を知った平成18年10月20日頃までは、原告管理楽曲はほとんど利用されていなかったことに照らすならば、上記文書が配付されたことによって、原告管理楽曲の利用が差し控えられていたことが認められる。
 この点、TBSのCは、原告管理楽曲の放送番組での使用を期待していたとも陳述する。しかし、同人が、原告管理楽曲の利用を促すような具体的な働きかけをしたことを裏付ける事実は全く存在しない。また、同月21日以降、原告管理楽曲が利用されたのは3曲であり、主にカウントダウン番組又はこれに類似する番組で利用されただけであるが、このことをもって、同月1日から同月20日までの間原告管理楽曲が利用されなかったことが、上記文書を配付したことによる効果ではなかったと認定する根拠にはならないというべきである。
 したがって、上記文書が番組制作担当者に原告管理楽曲の利用を差し控えさせる効果を有していたと認めることはできないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
(ウ) J−WAVE
a 証拠関係
 本件審判事件の記録には、以下の証拠が存在する。
(a) J−WAVE編成局から番組担当者に対する平成18年10月付けの「X社放送使用楽曲の管理業務開始のお知らせ」と題する社内通知文書(査第38号証)には、@原告が同月1日から放送に使用する楽曲の管理業務を開始したこと、A原告管理楽曲は一曲ごとの報告・支払となること、B放送等使用料の額、C将来的に原告管理楽曲の楽曲数が増えたケースを考慮し、ライブラリーで検索時に確認できる方法について、外部業者に委託したこと等が記載されているほか、「【選曲時のお願い】前述のとおり、別途報告・支払いなど煩雑な作業が発生します。*やむを得ない場合を除いて、当面は極力使用を避けるよう、お願いします。*なお、使用した場合は、必ず記録を残し(使用時間も必要になる可能性あり)、事後報告に備えてください(報告方式は未定)」との文章が枠で囲んで記載されている。
(b) J−WAVEのHは、被告審査官に対し、@参加人が参加人の管理楽曲の実際の使用割合を反映しない包括徴収を維持する中で、原告管理楽曲が増え、さらに他の管理事業者も放送等利用に係る管理事業に参入してくれば、放送等使用料は、2倍、3倍へと膨らんでしまうことになり、危機感を持った、A原告へ支払う放送等使用料については事前に予算計上していなかったので、個々の番組の制作費から支出しなければならなかった、Bそのため、平成18年10月初め、編成局次長として、社内、社外の番組制作担当者に向け、原告管理楽曲の使用を自粛するよう、上記文書を送付して周知した、C上記文書中の、「極力利用を避ける」との記載は、原告管理楽曲の放送使用を自粛するという趣旨であった、Dこのような編成局の方針は、社内、社外の番組制作担当者に行き渡り、原告管理楽曲を利用することはなかった旨供述している(査第40号証)。
b 本件審決の認定の合理性等
 上記文書には、原告管理楽曲の利用を避ける旨が、明確にかつ強調して記載されており、上記文書の記載内容からすると、番組制作担当者は、上記文書の配付により、原告管理楽曲の利用は控えるよう指示されているものと解したと認められる。
 上記文書中には、将来的に原告管理楽曲の楽曲数が増えたケースを考慮し、ライブラリーで検索時に確認できる方法について、外部業者に委託した旨の記載がある。同検索は、原告管理楽曲か否かの把握を容易にすることを目的とするものであり、原告管理楽曲の利用を控える場合に活用できるものである以上、そのような方法を研究委託したことが、直ちに原告管理楽曲の将来的な利用を促進する目的であったと理解することは困難である。
 なお、J−WAVEのHは被告審査官に対して、J−WAVEが原告管理楽曲を利用したことはなかったと供述しているが、証拠(審第27号証)によれば、JWAVEは、平成18年10月から同年12月までの間に、エイベックス60曲又はエイベックス67曲について、同年10月に5回、11月に0回、12月に2回利用したことが認められるので、同供述部分には、誤りがあるが、その利用回数は合計7回と少なく、同供述部分に誤りがあったことをもって、原告管理楽曲の利用は控えられていなかったとすることはできない。
 以上のとおり、上記証拠からは、上記文書の送付により、番組制作担当者は原告管理楽曲の利用を差し控えたと認めるのが合理的であり、上記文書が番組制作担当者に原告管理楽曲の利用を差し控えさせる効果を有していたと認めることはできないとする本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものではない。
(エ) ベイエフエム
a 証拠関係
(a) ベイエフエムのIは、被告審査官に対し、@参加人へ支払う放送等使用料は一定額で変化しないため、原告管理楽曲を利用すると、原告に対する放送等使用料が追加負担となることから、危機感を持った、Aそこで、平成18年10月上旬頃、原告管理楽曲のリストを張り出し、社内、社外の番組制作スタッフに対し、原告が放送等利用に係る管理事業を開始したが、原告管理楽曲を放送で利用すると追加費用がかかるから、放送において利用する場合には、事前に報告して了解を得るようにと周知させた、B上記告知は、番組制作担当者が「恋愛写真」を含む原告管理楽曲を利用しないようにする趣旨で行った、Cその結果、ベイエフエムでは、原告管理楽曲の放送を自粛した、D同月18日から間をおかない日に、原告からエイベックス楽曲の放送等使用料を無料とする旨の文書が送付されたため、「恋愛写真」を中心に、原告管理楽曲を放送で使用し始めた旨供述している(査第42号証)。
(b) エフエム富士の放送本部技師長は、被告審査官に対し、ベイエフエムは、平成18年10月初めの段階で、原告管理楽曲は利用しないという方針を決定しているという情報が伝わった旨供述し(査第53号証)、エイベックスのF及び原告代表者も、被告審査官に対し、エイベックス・グループのプロモーターから、ベイエフエムが原告管理楽曲の利用の自粛を指示しているとの情報が伝わった旨供述している(査第4号証、第33号証)。
(c) ベイエフエムの平成18年10月から同年12月までの間のエイベックス60曲又はエイベックス67曲の利用実績は、同年10月が33回、11月が19回、12月が0回である(審第27号証)。ちなみに、無料化措置の通知を受けた日が同年10月19日か否かはさておき、同月1日から同月18日までの利用回数は、9回であると認められる。
b 本件審決の認定の合理性等
 上記証拠によると、ベイエフエムのIは、上記のとおり、追加費用がかかるので、原告管理楽曲を利用するときは事前に報告して了解を得るよう周知させたことが認められる。しかし、ベイエフエムは、JFNに加盟していない独立FMラジオ局であるところ、エイベックス楽曲について上記の回数利用されていることが認められる。そうすると、結果的に原告管理楽曲の利用が回避されたとまではいえないものの、原告管理楽曲の利用を回避しようという働きかけはあったと認められ、その点において、原告管理楽曲の利用を回避した事実を認めることができないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
(オ) ZIP−FM、Kiss−FM、エフエム富士、エフエム岩手、エフエム山形、エフエム青森及びエフエム佐賀
a 証拠関係
 本件審判事件の記録には、以下の証拠が存在する。
(a) ZIP−FMの編成局長は、被告審査官に対し、平成18年10月初め頃、編成会議や制作者会議において、原告管理楽曲を利用した場合、その放送等使用料は参加人に対する放送等使用料とは別に発生することを周知し、社屋内のライブラリーとスタジオとの間の壁にA4版の原告管理楽曲のリストを掲示したこと、無料化措置期間中も、上記リストは張り出したままとしたこと等を供述している(査第49号証)。Kiss−FMの編成局局長は、被告審査官に対し、同年10月に行われた社員全員が出席する編成部会の席上で、「原告への放送等使用料が追加負担となる中で、あえてウチでかける必要はないんじゃないか。」との趣旨の発言をした旨供述している(査第52号証)。エフエム富士の放送本部技師長は、被告審査官に対し、同月下旬に原告から無料化措置を通知する文書を受け取って、原告が放送等利用に係る管理事業に参入したことを知り、原告管理楽曲の放送自粛を決定し、番組制作プロデューサー、番組制作ディレクター、番組制作会社にメール等で周知した旨供述している(査第53号証)。エフエム岩手の放送部長は、同月下旬頃、放送部会で、原告管理楽曲の利用を控えるとの方針が決まったこと、無料化措置期間中も原告管理楽曲の利用は控えることとした等を供述している(査第54号証)。エフエム山形の放送部長兼総合企画室長は、被告審査官に対し、平成18年秋頃、放送部員に対し、原告管理楽曲を利用しないよう指示しており、具体的には、CDに参加人のロゴがあること、原告のロゴがないことを確認して利用するように徹底させている旨供述している(査第55号証)。エフエム青森の放送部部長は、被告審査官に対し、同年10月初旬頃、放送部会で原告管理楽曲の利用を自粛する方針が決まり、番組制作会社にもそのことを伝えたこと、無料化措置期間中も原告管理楽曲の利用を自粛する方針を継続することとしたこと、これまで原告管理楽曲は利用していないこと等を供述している(査第50号証)。エフエム佐賀の業務本部放送部副部長は、被告審査官に対し、同年12月中旬頃、無料化措置終了後の平成19年1月以降、原告管理楽曲の利用をできる限り控えるという方針を決定したこと、原告管理楽曲については、参加人への支払とは別に放送等使用料が発生し、1曲ごとに放送等使用料を支払うことになるので、原告管理楽曲を放送した場合には記録するようにとの趣旨を記載した、平成18年12月26日付けの「X管理楽曲の記録のお願い」と題する書面を番組制作担当者に配付したこと、平成19年1月中旬にエイベックス楽曲が原告管理楽曲から外れたことを知り、残りの原告管理楽曲のCDは保有していなかったので、放送自粛を解除したこと等を供述している(査第51号証)。なお、エフエム佐賀については、上記供述を記載した調書に上記書面が添付されているが、同社を除く6社については、上記各供述以外に、利用回避を指示した文書等の客観的な証拠の提出はない。
(b) 証拠(審第7号証の1ないし4、第27号証)によれば、平成18年10月から同年12月までのエイベックス60曲又はエイベックス67曲の利用状況は、ZIP−FMについては、10月が7回、11月が12回、12月が6回、Kiss−FMについては、10月が16回、11月が6回、12月が5回、エフエム富士については、10月が9回、11月が13回、12月が2回、エフエム岩手については、10月が17回、11月が3回、12月が3回、エフエム山形については、10月が17回、11月が1回、12月が4回、エフエム青森については、10月が16回、11月が1回、12月が2回、エフエム佐賀については、10月が21回、11月が6回、12月が5回である。なお、Kiss−FMについては、同年10月1日から同月17日までに利用した5回のうち自社制作番組で使用したのは1回だけであり(査第70号証)、エフエム山形については、上記期間に利用した6回のうち自社制作番組で使用したのは1回だけである(査第69号証)。
b 本件審決の認定の合理性等
 以上によると、Kiss−FMについては、社員全員が出席する編成部会の席で、原告管理楽曲の利用を控えることを話題としたこと、平成18年10月1日から同月17日までにエイベックス60曲又はエイベックス67曲を利用した5回のうち自社制作番組で使用したのは1回だけであることが認められ、エフエム山形については、平成18年秋頃、放送部員に対し、原告管理楽曲を利用しないよう指示したこと、上記期間にエイベックス60曲又はエイベックス67曲を利用した6回のうち自社制作番組で使用したのは1回だけであることが認められる。なお、Kiss−FMは、同年10月中に16回、エフエム山形は、同月中に17回、エイベックス60曲又はエイベックス67曲を利用しているが(なお、上記2社は、いずれも首都圏外のFMラジオ局であり、前記のとおり、無料化措置のことを知ったのは、同月25日以降である可能性が高い。)、上記と同様に、そのうち自社制作番組での利用回数は極めて少ないと考えられる。そうすると、上記2社は原告管理楽曲の利用を控えたと認めるのが合理的であり、上記2社について、原告管理楽曲の利用を回避した事実を認めることができないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
 エフエム富士については、同年10月下旬頃、原告管理楽曲の放送自粛を決定し、番組制作プロデューサー等にメール等で周知したことが認められる。しかし、エフエム富士は、JFNに加盟していない独立FMラジオ局であるところ、同年10月以降、エイベックス60曲又はエイベックス67曲を相当程度利用していることが認められる。そうすると、エフエム富士においては、結果的に原告管理楽曲の利用が回避されたとはいえないものの、原告管理楽曲の利用を回避しようという働きかけはあったと認められ、その点において、原告管理楽曲の利用を回避した事実を認めることができないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
 エフエム岩手、エフエム青森については、無料化措置期間中も含め、原告管理楽曲の利用を控えるとの方針を決定し、原告管理楽曲の利用を控えようとしたことは認められる。しかし、その全部が自社制作番組で使用されたものではないとしても、同年10月以降、エイベックス60曲又はエイベックス67曲を相当程度利用していることが認められる。そうすると、結果的に原告管理楽曲の利用が回避されたとまではいえないものの、原告管理楽曲の利用を回避しようという働きかけはあったと認められ、その点において、原告管理楽曲の利用を回避した事実を認めることができないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
 エフエム佐賀については、原告管理楽曲については、1曲ごとに放送等使用料を支払うことになるので、これを放送した場合には記録するようにとの趣旨を記載した上記書面を配付していることが認められる。しかし、上記供述によっても、原告管理楽曲の利用をできる限り控えるという方針を決定したのは、平成19年1月以降の利用に関してであって、平成18年10月から同年12月までの間はエイベックス60曲又はエイベックス67曲を相当回数利用しており、また、平成19年1月中旬には放送自粛を解除した旨供述していることからすると、結果的に原告管理楽曲の利用は回避されたとはいえないものの、原告管理楽曲の利用を回避しようという働きかけはあったと認められ、その点において、原告管理楽曲の利用を回避した事実を認めることができないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
 ZIP−FMについては、上記供述から、原告管理楽曲を利用した場合、その放送等使用料は参加人に対する放送等使用料とは別に発生することを周知したとの事実は認められるが、利用を控えるようにとの指示をしたとの事実を認めることはできず、エイベックス60曲又はエイベックス67曲を相当程度利用していることが認められることからすると、原告管理楽曲の利用を回避したと認めることはできないとした本件審決の認定が、あながち不合理なものとはいえない。
(カ) 横浜エフエム
a 証拠関係
 本件審判事件の記録には、以下の証拠が存在する。
 横浜エフエムの役員であるQは、被告審査官に対し、ラジオ業界全体として景気が芳しくない中、参加人に支払う放送等使用料は毎年段階的に値上げされることとなっているところ、これに加えて新規の管理事業者への放送等使用料が追加的に発生することは避けたい旨供述している(査第48号証)。
 しかし、これを避けるため、原告管理楽曲の使用を控えるように何らかの告知等を行った旨の供述はなく、また、これを裏付けるに足りる証拠もない。なお、横浜エフエムがエイベックス60曲又はエイベックス67曲を利用したのは、平成18年10月10日及び同月11日に各1回であり、その後は同月21日以降同年12月31日までの間に合計27回である(審第27号証)。
b 本件審決の認定の合理性等
 以上によると、横浜エフエムが原告管理楽曲の利用を回避した事実を認めることはできないとした本件審決の認定は、あながち不合理なものとまではいえない。
(キ) 静岡朝日テレビ
a 証拠関係
 本件審判事件の記録には、以下の証拠がある。
(a) 編成部R名義の平成18年10月12日付けの「著作権関係通知(重要)」「新音楽著作権管理事業者(X社)の管理楽曲について」と題する社内通知文書(査第43号証)には、原告管理楽曲を使用した場合は、全曲報告の上放送等使用料を支払うことになる予定であること、当面の間はできるだけ使用を避けて欲しいこと、既に使った曲、やむを得ず使う曲については報告することが記載されている。
(b) 編成部名義の平成18年12月27日付けの「1月からのX社管理楽曲について」と題する社内通知文書(査第44号証)には、参加人へ支払っている放送等使用料に、原告に支払う放送等使用料が上乗せになるので、できるだけ原告管理楽曲の使用を避けて欲しいこと、使用料は編成予算になるので、どうしても原告管理楽曲を使用したい場合には、事前に連絡して許可を受けて欲しいこと、また、使用後に書面で報告して欲しいこと、原告管理楽曲を使用したのに報告しなかった場合は、膨大な金額の放送等使用料が課せられることが記載されている。なお、上記書面中、「出来るだけ使用を避けるようお願いします。」「どうしてもX社の管理楽曲を使用したい場合は、事前に編成部Rに連絡し許可を受けてください。また、使用後に次の事項について書面による報告をお願いします。」「楽曲の使用については、管理会社を充分確認のうえ使用するように注意してください。」の部分に下線が引かれ、強調されている。
(c) 静岡朝日テレビの編成部長であるSは、被告審査官に対し、@番組編成ではできるだけ余分な費用がかからないよう努力している、A原告が放送等利用に係る管理事業に参入することを知った後、上記10月12日付けの文書を、社内の制作部門及び社外の制作会社に配付した、Bその後無料化措置が採られたことを知ったので、そのことを社内の制作部門及び社外の制作会社に通知した、C平成19年1月からは原告管理楽曲の放送等使用料の支払が必要となるから、平成18年12月に上記同月27日付けの文書を配付した旨供述している(査第45号証)
(d) 静岡朝日テレビでは、参加人のJ−BASSへの楽曲の全曲報告のシステムを採用していないため、同社の原告管理楽曲の正確な利用実績は分からないが、J−BASSへ報告されているものでは、平成18年10月から同年12月までの間にエイベックス60曲又はエイベックス67曲を利用したのは、同年10月2日、同月5日及び同月6日に各1回の合計3回のみである(審第27号証)。
b 本件審決の認定の合理性等
 上記証拠によると、上記各文書では、原告へ支払う放送等使用料が追加負担となること等から、原告管理楽曲の使用を避けて欲しいことが明確に表記されていること、静岡朝日テレビでの原告管理楽曲の利用実績は一部しか分からないものの、判明しているものでは上記各文書が配付される前の3回の利用しかないことからすると、静岡朝日テレビでは上記各文書の配付により、原告管理楽曲の使用が控えられたと認めるのが合理的である。したがって、上記事実は認められないとした本件審決の認定は実質的証拠に基づかないものである。
(ク) 茨城放送
a 証拠関係
 本件審判事件の記録には、以下の証拠が存在する。
(a) 放送センターT名義の平成18年12月30日付けの「Xの管理楽曲の使用について」と題する社内通知文書(査第46号証)には、他局が原告管理楽曲の使用を控えているという情報から、従前から使用を控えるよう呼びかけていたが、今後も継続して原告管理楽曲は使用しないこととしたので、注意するようにとの趣旨の記載がある。
(b) 茨城放送の編成局長であるUは、被告審査官に対し、@経営状況が厳しいことから、原告管理楽曲は使用しないこととなった、A平成18年10月初め頃、そのことを口頭及び社内掲示で伝えた、Bその後エイベックス楽曲の放送等使用料が無料になる旨の通知があったが、そのことは社内には周知させなかった、C同年12月末に、上記文書で、改めて、引き続き原告管理楽曲を使用しないことを周知した旨供述している(査第47号証)。
b 本件審決の認定の合理性等
 上記文書には、従前から原告管理楽曲の使用を控えるよう呼びかけていたが、今後も利用しないよう促した明確な記載があり、同文書及び上記供述によると、茨城放送では、同文書が配付される前から、原告管理楽曲の利用は控えるようにとの指示がされていたことが認められる。そうすると、茨城放送の原告管理楽曲の利用実績は不明であるが、茨城放送では、上記指示や上記文書等により、原告管理楽曲の利用が控えられたと認めるのが合理的である。したがって、上記事実は認められないとした本件審決の認定は実質的証拠に基づかないものである。
(ケ) NACK5
 原告管理楽曲のオンエアを当面見合わせる旨の記載があるFM NACK5編成部・制作部名義の平成18年10月12日付けの「緊急のお知らせ」「楽曲オンエアの制限について」と題する社内通知文書(査第39号証)、NACK5のJの被告審査官に対する供述(査第41号証)、NACK5の平成18年10月から同年12月までの間のエイベックス60曲又はエイベックス67曲の利用実績に関する証拠(審第27号証)によれば、NACK5では、上記各社内通知文書等により、原告管理楽曲の利用が差し控えられたと認めるのが合理的である。したがって、NACK5は原告管理楽曲の利用を差し控えたとした本件審決の認定は、合理的なものである。
(コ) その他
 音楽出版業を営む有限会社エレメンツ、株式会社ファンミュージック(株式会社エフエム沖縄の子会社)、コロムビアソングス株式会社及び株式会社エル・ディー・アンド・ケイの担当者は、被告審査官に対し、放送業界では、原告管理楽曲を利用すると放送等使用料の追加負担があるので、原告管理楽曲を使用しないという対応を採っていると聞いた、原告に録音権の管理委託をしているCDに原告が録音権を有する旨のマークを付けると、放送事業者の番組制作担当者から、原告管理楽曲は放送できないと言われることが度々あるなどと供述している(査第60号証ないし第63号証)。
 また、エイベックスのLやNは、被告審査官に対し、エイベックス・グループのプロモーターから、首都圏のFMラジオ局、AMラジオ局、テレビ局が原告管理楽曲の利用を自粛しているとの情報が伝えられ、地方の放送局のプロモーターの総括者からは、地方のFMラジオ局、AMラジオ局、テレビ局も原告管理楽曲の利用を自粛しているとの情報が伝えられたなどと供述している(査第34号証、第35号証)。
(サ) 小括
 以上によると、テレビ朝日、TBSテレビ、J−WAVE、ベイエフエム、Kiss−FM、エフエム富士、エフエム岩手、エフエム山形、エフエム青森、エフエム佐賀、静岡朝日テレビ、茨城放送及びNACK5では、原告管理楽曲の利用を控えるようにとの趣旨を明記した社内通知文書を配付するなどの方法により、原告管理楽曲の利用を回避する働きかけがされていたと認められ、その他の放送事業者の中にも、同様の働きかけ等がされていたところがあると認められる。また、テレビ朝日、TBSテレビ、J−WAVE、Kiss−FM、エフエム山形、静岡朝日テレビ、茨城放送及びNACK5においては、社内通知文書を配付するなどしたことにより、原告管理楽曲の利用が控えられたと認めるのが合理的であり、これに反する本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
 この点について、証拠(査第100号証、審第20号証、第33号証ないし第35号証)には、放送事業者が音楽著作物を放送番組において利用する際には、放送等使用料の負担の有無及び多寡は考慮すべき要素の一つであるが、楽曲の選択は、番組の目的、内容、視聴者の嗜好(聴取率)等をも考慮してされるのであって、放送等使用料の負担の点を理由として、楽曲の利用を回避することはない旨の供述がある。しかし、確かに、カウントダウン番組、リクエスト番組や歌手がパーソナリティーやゲストとして出演する番組等では、該当する楽曲や当該歌手の最新楽曲等を利用せざるを得ず、他の楽曲に代替することはできない場合があるといえるが、それ以外の番組では、通常、番組の目的、内容、視聴者の嗜好等に適合する楽曲の候補が複数あり、その中から放送等使用料の費用負担を考慮して選曲されることは十分にあり得るというべきであって、放送等使用料の負担の点を理由とする楽曲利用の回避があり得ないということはできない(査第100号証、C参考人審尋調書、E参考人審尋調書)。以上のとおり、楽曲には一般的に代替性がないから、原告管理楽曲など特定の楽曲の利用を回避することはない旨の供述に合理性があるとはいえない。
イ 民放連事務局次長による、原告管理楽曲を利用しないとの発言の趣旨
 原告は、民放連のKによる「放送において、音楽に支払うパイは一定です。そのため、民放連としては、Xへの放送使用料が、現状のZへお支払いしている使用料にadd−onする形なら、むしろXの曲を使いません。」との発言は、原告による放送等使用料に関する説明が大きく変化したことに困惑してされたものと認められるとして、原告管理楽曲の利用回避はなかったとした本件審決の認定には誤りがあると主張する。
 証拠(査第4号証、第23号証、第24号証、第29号証、第89号証、審第33号証、第34号証、D参考人審尋調書)によれば、民放連のKのアドオン発言の経緯について、以下の事実が認められる。
(ア) 原告は、平成17年8月、放送等利用に係る管理事業参入のため、民放連との協議を開始し、民放連に対しては、音楽著作権の利用許諾の方式を包括許諾、放送等使用料の徴収方式を包括徴収とし、放送等使用料は原告と参加人で配分し、原告が参加人と交渉して、参加人から原告取得分を受け取ることを考えているなどの説明をした。
(イ) 民放連は、原告の説明の実効性に疑問を持ち、関係者を訪問して調査したところ、参加人は、原告の参入によって参加人の管理楽曲が大幅に変動しないのであれば、放送等使用料を減額する意向はないこと、インタラクティブ配信分野では、各管理事業者の管理楽曲数の比率で使用料を算定して参加人が取得する使用料を減額する措置が受け入れられたことがあるものの、むしろ比率の算出作業の負担が大きいことが判明したため、減額措置は1回実施されただけであること等が判明した。
(ウ) 民放連は、平成17年10月11日に行われた原告との交渉の冒頭で、上記調査結果を説明し、原告の当初の説明の実現可能性に対する疑問を述べたところ、その場に同席していた原告の顧問弁護士が、民放連が、参加人に支払っている放送等使用料を参加人分と原告分に分けて支払うのか、参加人に支払っている放送等使用料とは別に、原告への放送等使用料をアドオンして支払うのかについては、原告としてはいずれでもかまわないが、いずれの場合でも、原告に直接支払ってもらいたいと考えていること、原告としては、楽曲の著作権の管理を委託される以上、最後の手段としては、裁判手続も考えられること等を説明した。これに対し、民放連のKは、参加人が放送等使用料についての原告の提案を拒絶している以上、民放連としては動きようがないなどと発言した上で、前記の「放送において、音楽に支払うパイは一定です。そのため、民放連としては、Xへの放送使用料が、現状のZへお支払いしている使用料にadd−onする形なら、むしろXの曲を使いません。」との発言を行った。原告は、アドオン発言に対し、民放連に対してその趣旨を確認したり、反論をしたりせず、放送等使用料の使用率等の課題について検討した上で、日を改めて交渉を行うこととした。
 以上の経緯に照らすならば、民放連のKは、確かに「Xの曲は使いません。」との発言はしているが、原告による放送等使用料に関する説明が大きく変化し、原告の顧問弁護士が、原告としては、民放連が、参加人に支払っている放送等使用料を参加人分と原告分に分けて支払うのか、参加人に支払っている放送等使用料とは別に、原告への放送等使用料をアドオンして支払うのかについては、いずれでもかまわないなどと発言したことに対して、個人の意見を述べたものと認めるのが合理的である。したがって、アドオン発言をもって、民放連又は民間放送事業者の原告管理楽曲の利用回避の意思の表れと評価することはできないとした本件審決の認定は、実質的証拠に基づくものである。
(3) 原告の準備不足が原因であるとの認定の当否
 原告は、原告の放送等利用に係る管理事業への参入が進まないのは、原告の準備不足による放送事業者の困惑と混乱が原因であるとした本件審決の認定には誤りがあると主張する。
 当裁判所は、本件審決の上記認定は、実質的証拠に基づかないものであると判断する。その理由は、以下のとおりである。
ア 原告の放送等利用に係る管理事業参入までの準備状況
 原告の放送等利用に係る管理事業への参入に対する準備状況に関しては、本件審判事件の記録中に、以下の証拠がある。
(ア) 民放連と原告は、平成18年9月28日付けで本件合意書を作成した。本件合意書には、@原告は民間放送事業者が原告管理楽曲を利用することを包括的に許諾すること、A各民間放送事業者は使用した楽曲を全曲報告すること、B放送等使用料については、1曲ごとに定めることとし、別表のとおりとするが、その金額は上限であること、C各民間放送事業者が楽曲の利用を報告しなかった場合には、原告が文化庁に届け出た使用料規程に定める使用料(査第30号証によると、1曲5分以内の全国放送での利用について6万円である。)を支払うこと、D取扱基準、報告事項、放送事業者の類別、実施細則等に関し、覚書を締結すること等が記載されている。
 民放連と原告は、本件合意書に基づいて、平成18年10月1日付けで、本件覚書(審第36号証)を作成した。
(イ) TBSのCは、陳述書(審第33号証)において、@原告の管理事業の開始が平成18年10月に延期されたことから、民放連は、同年4月以降も、原告との交渉を継続した、A交渉事項は、包括許諾・個別徴収を前提に、個別徴収の1曲当たりの使用料の額をどれだけ下げることができるかという点であり、同年9月に入った時点で、テレビ局に適用される放送等使用料額については合意に至ったが、ラジオ局に適用される放送等使用料額については合意に至っていなかった、Bラジオ局に適用される放送等使用料額に関して合意できたのは、同年10月半ばである、C本件合意書の内容は同月下旬の理事会で承認され、同月31日に本件合意書が締結されたが、原告代表者からの要望で、調印日は同年9月28日となった、D本件合意書は、放送等使用料の額を含め、個々の民間放送事業者と原告との契約内容を拘束するものではなく、その後、個々の民間放送事業者と原告との間で個別の使用許諾に関する契約書が締結されるものと考えていた、E原告との間で本件覚書が締結されたのは平成19年2月後半である旨陳述し、参考人審尋においても、同趣旨の供述をしている。なお、TBSのCは、被告審査官に対しては、平成18年9月末に、民放連と原告との間で、本件合意書の内容について実質的に合意に至り、細部について原告との間で詰めた上、同年10月下旬の民放連の理事会で了承され、同年9月28日付けで本件合意書を締結した旨供述している(査第24号証)。
(ウ) テレビ朝日のD作成に係る陳述書(審第34号証)には、以下の記載がある。すなわち、@平成18年4月以降の原告との交渉は、包括許諾・曲別徴収を前提に、曲別の放送等使用料の額をどのように定めるかが焦点となった、Aこの交渉で定めるのは、原告が民間放送事業者に請求できる放送等使用料の上限額にすぎず、民間放送事業者が支払う具体的な放送等使用料額については、各放送事業者が原告と別途に協議することが予定されていた、B同年10月31日、民放連と原告との間で本件合意書を締結したが、原告代表者の要望により、締結日は同年9月28日と記載された、C同日は、原告から放送等使用料額に関する最終案が提示された日である、Dテレビ放送の放送等使用料額は同年8月頃にはおおむね合意に達していたが、ラジオ放送の放送等使用料については、なお隔たりがあり、民放連はこの案を持ち帰って検討した、E民放連がこの最終案に基づく本件合意書の調印を正式決定したのは同年10月下旬である旨記載されている。また、テレビ朝日のDは、参考人審尋においても、同趣旨の供述をし、さらに、被告審査官に対しては、同年9月末に民放連側と原告側で本件合意書について実質的に合意し、同年10月下旬に開催された民放連の理事会で承認を経て、作成日付を同年9月28日に遡らせて本件合意書を締結した旨供述している(査第23号証)。
(エ) エフエム東京のEは、陳述書(審第35号証)において、民放連は、原告と包括許諾について合意した上で、放送等使用料についてはガイドラインを策定し、具体的な使用料は各民間放送事業者が原告と交渉して決めることができるようにした、平成18年10月6日付けで民放連から民間放送事業者に送付されてきた「X社の音楽著作物管理事業開始と民放連の対応について」と題する文書によると、その時点で民放連と原告との協議が行われていたことが分かる旨陳述し、参考人審尋においても、同趣旨の供述をしている。なお、上記陳述書添付の上記文書には、原告が同月1日から放送等利用に係る管理事業を開始したこと、同月5日現在の原告管理楽曲は別紙のとおりであること、現在、原告との間で合意書案について協議を行っていること、合意書案の骨子では、包括許諾、個別徴収となっていること等が記載されている。
(オ) 原告代表者は、被告審査官に対し、平成18年9月28日に、民放連と原告との間で実質的に本件合意書の合意に至ったが、手続的には、同年10月31日に本件合意書の調印が行われたと供述し、参考人審尋でも同趣旨の供述をしている(査第4号証)。
 上記証拠によると、原告が放送等利用に係る管理事業を開始した平成18年10月1日時点では、原告管理楽曲の利用に関し、民放連と原告との間で、合意は成立しておらず、同月31日に本件合意書記載の内容が合意されたが、その時点では、取扱基準、報告事項、放送事業者の種別等、覚書で定める事項については合意されておらず、本件覚書記載の内容が合意されたのは平成19年2月後半であること、本件合意書で合意された放送等使用料の額は、個々の民間放送事業者が支払う放送等使用料の上限であり、個々の民間放送事業者が支払うべき具体的金額については、原告と各民間放送事業者との協議に任されていたことが認められる。なお、上記証拠の中には、平成18年9月末に実質的に本件合意書の合意をしたとの供述もあるが、審第35号証添付の上記文書に、現在合意書案について協議中であるとの記載があること等を斟酌すると、上記供述は信用することができない。
イ 原告の放送等利用に係る管理事業参入後の状況
 また、後掲各証拠によると、本件審決が認定したとおり、以下の事実が認められる。
(ア) 原告が放送等利用に係る管理事業を開始した後も、原告は、全曲報告を求めていたにもかかわらず、利用楽曲を原告に報告する際の報告書の様式について決めておらず、テレビ朝日のDが原告に問い合わせたところ、参加人に対する報告書を流用するようにとの回答であったため、テレビ朝日のDは、原告に対する報告用として独自の報告様式を作成し、原告はこの報告書に若干修正を加えたものを、他の放送事業者に使用させている。(審第34号証、D参考人審尋調書)
(イ) 原告と民間放送事業者は、本件合意書の締結後に個別に交渉を行い、原告とテレビ朝日、東京放送及びKiss−FMは利用許諾契約を締結したが、エフエム東京、J−WAVE、NACK5、ベイエフエム、静岡朝日テレビ、横浜エフエム、エフエム富士、エフエム山形を含む大多数の放送事業者は、原告と利用許諾契約を締結していない。(査第32号証、第40号証ないし第42号証、第45号証、第47号証、第48号証、第52号証、第53号証、第55号証、審第34号証、第35号証)
(ウ) 原告は、平成18年9月26日頃、民放連に対し、原告管理楽曲の一覧表として58曲のリストを提示したが、このリストは、原告がエイベックス・グループの意向を確認せずに作成したものであった。なお、このリストの中には、エイベックス・グループが当初、管理委託の候補曲と考えていたが、後に管理委託を取りやめることとしたGの「ユメクイ」及び「tears」が含まれていた。この58曲のリストは、一部の民間放送事業者に配付され、これを入手したテレビ朝日、TBSテレビでは、前記の社内通知文書にこの58曲のリストを添付した。(審第33号証ないし第35号証、F参考人審尋調書)
(エ) エイベックス・グループは、平成18年9月末に、原告に対し、正式に放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した。この時点における原告管理楽曲の数は60曲であり、これは上記の58曲に、Gの「恋愛写真」と「ハニカミジェーン」をそれぞれ加えたものであった。(査第4号証、第33号証、第34号証、審第37号証)
 原告は、同年10月5日頃、上記60曲のリスト(「恋愛写真」については「予定」、「ハニカミジェーン」については「未定」と付記されている。)を民放連に提出し、民放連は、これを同月6日付けの「X社の音楽著作物管理事業開始と民放連の対応について」と題する文書に添付して、民間放送事業者に送付した。(査第4号証、審第35号証)
(オ) エイベックス・グループは、その後この60曲のリストを見直し、「ユメクイ」と「tears」のほか、「未定」とされていた「ハニカミジェーン」と他の2曲の計5曲を除外する一方、別の楽曲12曲を追加して、平成18年10月中旬頃、原告に管理委託する楽曲を67曲に確定した。この67曲のリストは、エイベックス・グループと原告が無料化措置を民間放送事業者に通知する際に、通知文書に添付する形で配付された。(査第34号証、第56号証、審第33号証、第35号証、第37号証、F参考人審尋調書)
ウ 放送事業者が原告管理楽曲の利用を回避した動機について
(ア) 上記ア及びイのとおり、@原告が放送等利用に係る管理事業を開始した平成18年10月1日時点では、民放連と原告との間で原告管理楽曲の利用に関する合意は成立しておらず、本件合意書記載の内容が合意されたのは同月31日であり、これに基づく本件覚書が合意されたのは平成19年2月後半であり、さらに、個々の民間放送事業者が支払うべき放送等使用料の具体的金額については、原告と各民間放送事業者との協議に任されていたこと、A本件合意書では、原告管理楽曲の利用を報告しなかった場合には、高額の放送等使用料を支払う義務が課されていたこと、B本件合意書が調印された後も、原告は、大多数の民間放送事業者との間で、個別の利用許諾契約が締結できていないこと、C原告が放送等利用に係る管理事業を開始した後も、原告は、利用楽曲を原告に報告する際の報告書の様式も決めていなかったこと、D原告管理楽曲のリストは、短期間の間に、58曲リスト、60曲リスト、67曲リストと3種のリストが提示され、その中には原告管理楽曲に含まれるかどうかが予定や未定とされる楽曲が含まれていたほか、人気のある楽曲が差し替えられていたことが認められる。
 これらの事情によると、原告は平成18年10月1日に放送等利用に係る管理事業に参入したが、同年10月の時点では、原告管理楽曲の範囲は必ずしも明確ではなく、個々の放送事業者が支払うべき放送等使用料の額も不明であり、全曲報告に必要な報告の様式も定まっておらず、報告漏れがあった場合には高額の放送等使用料の支払義務を負うことから、放送事業者は、そのような点に困惑したものと推認され、本件審決の認定は、その限度では合理的でないとはいえない。
(イ) 他方、放送事業者の一部が原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとした理由として、次の事情が存在する。
 すなわち、第2、2(5)イ記載の事実及び証拠(査第3号証、第23号証、第27号証、審第38号証)によると、平成18年10月当時、参加人と民放連との間で、放送等使用料額の改訂につき、従来適用されていた調整係数を撤廃し、参加人に支払う放送等使用料の額を増額することが協議されていたこと、同年11月に締結された同年9月21日付けの民放連平成18年協定では、年度係数が設けられて、放送等使用料額の増額は段階的に行われるようになったものの、最終的には、それ以前の約1.5倍の放送等使用料を支払う結果となったこと、参加人の管理楽曲の利用に対する放送等使用料は、当該年度の前年度における放送事業収入を基礎として算出された額で固定されていることが認められる。
 上記のような事情の下では、放送事業者が、放送事業の経費を抑えるために、原告に対する放送等使用料を抑制する手段を選択することが考えられる。とりわけ、経営環境の厳しい中小規模の放送事業者は、増額された参加人への放送等使用料に加えて経費が増えることを抑えるため、原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとすることは、企業経営上、合理的な選択であるといえる。また、前記のとおり、カウントダウン番組等一定の番組を除けば、番組の目的、内容、視聴者の嗜好(聴取率)等の条件に適合する楽曲は一つに限られず、複数の楽曲がその候補となり得ると考えられるから、それらの中から利用する楽曲を選定するに当たり、原告管理楽曲の利用を回避することは、可能かつ容易であるといえる。(査第40号証、第41号証、第45号証、第47号証、第48号証、第50号証、第54号証、第55号証)
 なお、前記のとおり、原告が放送等利用に係る管理事業を開始した平成18年10月1日時点では、原告と民間放送事業者との間で個別の利用許諾契約は締結されていない。しかし、以下の事情に照らすならば、原告は民間放送事業者に対して、原告管理楽曲の放送等利用について許諾を与えていたと認めることができる。すなわち、@原告は、民間放送事業者による原告管理楽曲の利用を促進するため積極的な営業活動を実施していること、A民放連も、民間放送事業者に送付した同月6日付けの「X社の音楽著作物管理事業開始と民放連の対応について」と題する文書において、原告管理楽曲の利用については包括許諾、個別徴収である旨の説明をしていること、B民間放送事業者が原告管理楽曲を利用すると別途放送等使用料が発生する旨の注意等をした社内通知文書を配付等している例があるが、これらも、原告管理楽曲を利用できることを前提とする注意事項であると解されること等の事実を総合すると、原告は、放送等利用に係る管理事業を開始した時点で、民間放送事業者に対し、原告管理楽曲の利用を許諾していたと認めるのが相当である。
エ 小括
 以上によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、前記のとおり、少なくない数の放送事業者が原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとしたことが認められるところ、このように放送事業者が原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとした理由としては、原告管理楽曲を利用した場合には、参加人に支払う放送等使用料に追加して、原告への放送等使用料を支払わざるを得ないことがあったこと、放送等使用料が追加負担となる理由としては、放送事業者が参加人に支払う放送等使用料が放送等利用割合を反映していないことにあったことを認めることができる。
 この点、本件審決は、「放送事業者が原告管理楽曲の利用につき慎重な態度をとったことの主たる原因が、参加人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による追加負担の発生にあったと認めることはでき(ない)」「原告が準備不足の状態のまま放送等利用に係る管理事業に参入したため、放送事業者の間に原告管理楽曲の利用に関し、相当程度の困惑や混乱があったことがその主たる原因であったと認めるのが相当である」としたが、本件審決の上記認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
(4) エイベックス・グループが原告との管理委託契約を解約した理由について
 エイベックス・グループは、原告との管理委託契約を平成18年12月末限りで解約したところ、原告は、エイベックス・グループが原告との管理委託契約を解約したのは、エイベックス楽曲の利用を有償に戻せば、再びエイベックス楽曲の利用が回避されると正しく認識したからであり、エイベックス・グループの勘違いによるものであるとした本件審決の認定には誤りがあると主張する。
ア 証拠に基づく事実認定
 エイベックス・グループが原告との管理委託契約を解約した経緯に関しては、後掲各証拠によると、以下の事実が認められる(この点は、審決の認定したとおりである。)。
(ア) 平成18年10月1日に原告が放送等利用に係る管理事業を開始した後、エイベックス・グループのプロモーターから、エイベックスのFらに対し、@首都圏のラジオ局を中心に、原告管理楽曲を利用しない放送事業者が存在する、Aこれらの放送事業者の番組制作プロデューサーや番組制作ディレクターは、上層部から、原告に対する放送等使用料が追加負担となり、放送局全体の予算からではなく個々の番組制作経費から支払わなければならないことから、原告管理楽曲を利用しないようにと言われている等の報告があった。その具体的な放送事業者としては、エフエム東京、J−WAVE、NACK5、ベイエフエム等が挙げられていた。(査第4号証、第33号証、第34号証、A参考人審尋調書、F参考人審尋調書)
(イ) このような事態を受けて、平成18年10月16日頃、エイベックスのF及びL並びに原告代表者及びMの4名が協議し、同年12月までエイベックス楽曲の利用を無料とすることを決めるとともに、Fは、原告代表者に対し、原告管理楽曲の利用回避について同年12月末までに何らかの決着をつけるよう求めた。Fは、原告代表者に対し、放送事業者と直接話をするなどして、滞りなく原告管理楽曲が利用されるようにすることを要請し、原告代表者は、早急に、首都圏に所在するFMラジオ局を訪問する等して、原告管理楽曲の利用回避を止めるように説得することを約束した。(査第4号証、第33号証、第34号証、第96号証、審第37号証、A参考人審尋調書、F参考人審尋調書)
(ウ) エイベックス・グループは、平成18年10月19日及び同月20日頃、エイベックス楽曲の利用により放送等使用料の追加負担をさせることとなったことを謝罪し、エイベックス楽曲の放送等使用料を3か月間に限り無料にするので放送してもらえるよう依頼する文書を添えて、無料化措置を通知する文書を、首都圏のラジオ局8社(エフエム東京、J−WAVE、NACK5、ベイエフエム、横浜エフエム、ニッポン放送、文化放送及び株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ)に対してファクシミリで送信した。(査第34号証、第96号証、第98号証、審第35号証、第37号証、F参考人審尋調書)
(エ) 原告代表者らは、平成18年10月下旬から同年11月上旬にかけて、ベイエフエム、NACK5、ニッポン放送及び横浜エフエムを訪問し、原告管理楽曲の放送での利用について折衝したが、予定していた大阪と名古屋に所在する放送事業者への訪問は行わなかった。原告のMは、同月9日頃、エイベックスのLに対し、ベイエフエム、NACK5、ニッポン放送及び横浜エフエムとの交渉状況に関し、無料化措置の終了する平成19年1月以降、原告管理楽曲を利用するとの確証を得ることはできなかった旨を報告した。エイベックスのLが、エイベックス・グループのプロモーターに指示して確認させたところ、原告が各放送事業者の編成部門を訪問したことは、番組制作の現場には伝わっていないことが判明したほか、原告と民間放送事業者との間の利用許諾契約の締結は遅々として進んでいない状況であることを知った。(査第4号証、第33号証、第34号証、A参考人審尋調書)
(オ) エイベックス・グループは、原告からの上記報告等を基に検討した結果、原告の放送等利用に係る管理事業への参入後、放送事業者は追加負担を理由として原告管理楽曲の利用を回避した事実があり、無料化措置の終了する平成19年1月以降、再び利用を回避するのではないかと考えられたこと、原告の放送等利用に係る管理事業への参入に当たっての準備不足のため、混乱が生じているが、原告は各放送事業者に対して利用許諾契約の内容等について説明し、放送等使用料を徴収できる態勢を整えるに至っていないこと等を勘案して、原告への放送等利用に係る管理委託契約を解約した。(査第33号証、第34号証、第58号証、審第37号証、A参考人審尋調書、F参考人審尋速記録)
イ 判断
 以上によれば、エイベックス・グループは、放送事業者は、原告管理楽曲の利用により放送等使用料を追加負担することになり、そのことの故に、少なくない数の放送事業者が、原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとしたと理解し、平成19年1月以降も、再び原告管理楽曲の利用の回避が継続するであろうと予測して、原告との放送等利用に係る管理委託契約を解約したと認められる。
 そして、前記のとおり、現実に、原告管理楽曲を利用するとその放送等使用料を追加負担することになるため、少なくない数の放送事業者が、原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとしたとの事実が認められることからすると、エイベックス・グループが原告管理楽曲の客観的な利用状況を把握していなかったとしても、エイベックス・グループの認識が誤っていたとはいえない。
ウ 小括
 そうすると、前記(3)エのとおり、参加人の本件行為は、放送事業者が原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとした原因の一つであり、したがって、エイベックス・グループに原告との管理委託契約を解約させた原因の一つであったと認めるのが合理的である。
 本件審決は、「エイベックス・グループが正確な情報に基づいて原告との委託契約を解約したとはいえない」「参加人の本件行為に原告への管理委託契約を解約させるような効果があったとまではいえない」と認定したが、本件審決の上記認定は、実質的証拠に基づくものではない。
(5) 原告管理楽曲数の増加と利用回避の解消との関係について
 原告は、原告管理楽曲数が平成18年12月31日以降も増加しているとしても、現実には、有償での利用実績はほとんどゼロに等しく、参入の実績もゼロと評価すべきであると主張する。
ア 証拠関係に基づく事実認定
 本件審判事件の証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告が放送等利用に係る音楽著作権の管理を行っている楽曲数は、平成19年3月31日時点で184曲、平成20年3月31日時点で1566曲、平成21年3月31日時点で2723曲、平成22年3月31日時点で3242曲、平成22年9月30日時点で3600曲強であり、エイベックス・グループが原告に対する管理委託契約を解約した平成18年12月31日以降も、原告管理楽曲数は増加している。
(イ) これらの楽曲の中には、生命保険会社のコマーシャルソングとして利用され、平成21年11月第3週のオリコンチャートの24位にランクインした「まねきねこダックの歌」が含まれている。また、平成23年3月30日時点では、原告は、株式会社ドワンゴ・ミュージックパブリッシングも含めた6社の音楽出版社から音楽著作権管理の委託を受けていた(上記ドワンゴからの受託楽曲は、作家からの要望があった1曲のみである。)。原告が管理委託を受けた楽曲は、放送等利用の需要が少ないインディーズ系音楽出版社から管理委託を受けた楽曲が多い。
 ((ア及び(イにつき、査第4号証、第59号証、審第21号証、第43号証ないし第49号証の各1及び2、A参考人審尋調書)
(ウ) 原告が実際に放送事業者から徴収した放送等使用料の額は、平成18年は6万6567円、平成19年は7万5640円、原告代表者に対する参考人審尋が行われた平成22年9月30日時点は年間20万円から30万円程度であって、極めて僅かな金額である。(査第24号証、第64号証、A参考人審尋調書)
(エ) NHKは原告と放送等利用に関する合意書を締結しているが、原告管理楽曲を利用したのは、平成21年末まででは、平成18年に「恋愛写真」を4回、平成20年に4曲(うち1曲の利用は1回だけであるが、3曲については利用回数は不明である。)、平成21年に3曲を各1回だけであった。(審第21号証、第32号証)
(オ) ラジオ局(エフエム東京、文化放送など)、コミュニティ放送事業者、衛星放送事業者などの放送事業者は、原告と利用許諾契約締結のための交渉をすることを断念しているものではない。(審第23号証ないし第25号証、第35号証)
イ 判断
 以上によると、原告は、エイベックス・グループから管理委託契約を解約された後も、管理楽曲数を増加させていることに照らすならば、管理楽曲数の増加に伴って、利用回数も増加し、放送等使用料額も増加することが合理的に推測されると考える余地も否定できない。しかし、前記のとおり、原告が実際に放送事業者から徴収した放送等使用料の額は、平成18年が6万6567円、平成19年が7万5640円、原告代表者に対する参考人審尋が行われた平成22年9月30日時点で年間20万円から30万円程度であって、極めて僅かな額であるといえる。また、NHKは原告と放送等利用に関する合意書を締結しているが、原告管理楽曲を利用したのは、平成21年末までで、平成18年に「恋愛写真」を4回、平成20年に4曲(うち1曲の利用回数は1回であるが、他の3曲についての利用回数は不明である。)、平成21年に3曲(利用回数は各1回)だけであった。また、原告が管理を委託されている楽曲は、人気のある楽曲も含まれてはいるが、放送での利用がさほど見込まれないインディーズ系の楽曲が中心となっている。
 本件審決は、「原告は、放送事業者と利用許諾契約を締結することにより、相応の放送等使用料の徴収が可能であり、上記のように放送等使用料の収入が低い金額にとどまっている理由は、原告が放送事業者との間で利用許諾契約を締結していないことにある」、「原告が、放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっていたというには疑問が残る」と認定したが、上記の事実に照らすならば、本件審決の同認定は、実質的証拠に基づくものとはいえない。
3 争点(3)(排除型私的独占該当性についての判断の誤り)についての判断
 参加人の本件行為が、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において、競業者の参入を著しく困難にするなどの効果(排除効果)を有するか否かは、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における市場の構造、同市場における参加人及び原告の地位、音楽著作物の特性、著作権者から音楽著作権の管理の委託を受けることを競う管理委託分野等との関連性等の諸事情を、総合的に考慮して判断すべきである。以下、これらの諸事情につき、検討する。
(1) 参加人は、ほとんど全ての放送事業者との間で、放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結しており、これらの契約における包括徴収は、当該年度の前年度の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で放送等使用料の額を算定するものであり、参加人の管理楽曲の利用割合によって変動することなく、一定額に定まっている。このような利用許諾契約を締結した結果、放送事業者は、参加人の管理楽曲を利用する場合には、その利用楽曲数がいかに増加しようとも、上記算定方法に基づく定額の放送等使用料に追加してこれを支払う必要はないのに対して、参加人以外の管理事業者の管理楽曲を利用する場合には、当該管理事業者との利用許諾契約に従って別途放送等使用料の支払を余儀なくされる。
 放送事業者としては、経費削減の観点から、参加人以外の管理事業者の管理楽曲を利用した場合に生じる放送等使用料の支払を控えようとすることは、ごく自然な経営行動であるということができる。特に、厳しい経営環境に置かれている中小規模の放送事業者にとっては、より経費削減の要請が強いといえる。また、平成18年10月当時は、民放連と参加人との間において、民放連平成18年協定で合意されたとおり、放送等使用料額につき、従来適用されていた調整係数を撤廃し、参加人に支払う放送等使用料の額を増額することが協議されていたこと、このような状況においては、より一層、経費の追加負担を回避する要請が高まっていたことが伺える。
 参加人は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において、平成13年10月1日の管理事業法施行の前後を通じて、ほぼ唯一の管理事業者であり、大部分の音楽著作権について放送等利用に係る管理を行っている。したがって、放送事業者としては、楽曲を放送等に利用するためには、参加人と利用許諾契約を締結しないという選択肢はあり得ない状況があった。参加人は、放送等使用料の徴収方法として個別徴収の方法も定めているが、個別徴収によると、1曲1回の利用ごとに参加人から利用許諾を受けなければならないこと、包括徴収に比べ1曲1回の利用に対する放送等使用料の額が高額となることから、個別徴収方式は、放送事業者にとって、現実的な選択肢と評価することはできない。
 これに対し、原告は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野に新規に参入して放送等使用料を徴収している唯一の管理事業者であり、参加人と比べ、放送等利用に係る管理を委託された音楽著作権の数は極めて少ない。
 そうすると、「ほとんど全ての放送事業者との間で放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結し、この契約に基づき、放送等使用料を徴収している参加人の行為」は、放送事業者をして、放送等使用料の追加負担を避けるために、他の管理事業者の管理楽曲の利用を回避する対応を採らせる蓋然性が高く、他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制する効果を有しているといえる。
(2) 楽曲の選定については、さまざまな要因があり、例えば、歌手、演奏者の人気度、聴取者の嗜好等により影響を受けたり、カウントダウン番組、リクエスト番組、歌手がパーソナリティーやゲストとして出演する番組など番組の性格により影響を受けたりする面があることは否定できない。しかし、そのような特別な場合を除くならば、番組の目的、内容、視聴者の嗜好(聴取率)等を勘案するとしても、多くの場合は、選定の対象とされる楽曲は、一つではなく、複数となると考えられる。したがって、複数の選定対象楽曲の中に、放送等使用料の追加負担の不要な楽曲と必要な楽曲があれば、経費負担を考慮して追加負担の不要な楽曲が選択されることは、経済合理性に適った自然な行動といえる。
 以上のとおり、放送事業者は、特殊例外的な番組についてはさておき、通常の番組で放送される楽曲の選択においては、放送等使用料の追加負担を抑制するため、参加人以外の管理事業者の管理楽曲の利用を回避するといえる。
(3) 前記のとおり、@首都圏のFMラジオ局を含む少なくない数の放送事業者は、原告管理楽曲の利用を回避した、又は回避しようとしたこと、A証拠上、原告管理楽曲の利用を回避し、又は回避しようとした放送事業者であると特定できるのは、テレビ朝日、TBSテレビ、J−WAVE、ベイエフエム、Kiss−FM、エフエム富士、エフエム岩手、エフエム山形、エフエム青森、エフエム佐賀、静岡朝日テレビ、茨城放送、及びNACK5であるが、その他の放送事業者の中にも、原告管理楽曲の利用を回避する働きかけ等がされていたところがあると認められること、B放送事業者は、経費の追加負担を極めて重大な事象と受けとめ、経費の追加負担を抑制しようとしていたこと、C放送事業者が上記のような対応を採ったのは、原告への放送等使用料の支払が追加負担となることが大きな要因であったこと、が認められる。
 また、エイベックス・グループは、原告との放送等利用に係る管理委託契約を解約したが、同社がそのような判断をしたのは、放送事業者にとって原告への放送等使用料の支払が追加負担となるため、少なくない数の放送事業者が、原告管理楽曲の利用を回避した、又は回避しようとしたことが大きな要因であったことが認められる。
 確かに、原告が管理する楽曲数は増加しているものの、原告が放送事業者から徴収した放送等使用料の額は極めて低額であり、この事態が容易に解消すると認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告が管理していた「恋愛写真」については、無料化措置が放送事業者に伝達される前(無料化措置が放送事業者に伝達された日は、平成18年10月16日頃から同月25日以降までの間であると認められるが、各放送事業者にいつ伝達されたかを特定することはできない。)にも放送事業者に利用されていた事実は認められる。しかし、同楽曲は、人気のある歌手の楽曲であること、原告が放送等利用に係る管理業務を開始して間もない同月25日にCDが発売されたこと等の特殊事情を考慮するならば、「恋愛写真」が無料化措置が放送事業者に伝達される前に放送事業者に利用されていたことから、原告の管理に係る他の楽曲についても、参加人の管理楽曲と同様の条件の下で利用される状況にあったと推認することは到底できない。
(5) 小括
 以上の事実を総合すれば、参加人の本件行為は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において、原告の事業活動の継続や新規参入を著しく困難にしたと認められ、本件行為は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有する行為であると認められる。したがって、「本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは、なお困難である」とした本件審決の認定は実質的証拠に基づかないものであり、その判断にも誤りがある。
4 結論
 以上のとおり、本件行為は、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するものと認められることから、この点が認められないことを理由として、本件行為が独占禁止法2条5項に定める排除型私的独占に該当しないとした本件審決の認定、判断には、誤りがある。被告は、「本件行為が、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであるか否か」等、本件行為が独占禁止法2条5項所定の排除型私的独占行為に該当するための、その他の各要件を充足する否かについて、認定判断をすべきである。
 したがって、原告主張の取消事由には理由があるから、その余の点について判断するまでもなく、本件審決を取り消すこととする。
 なお、原告は、被告に対し本件排除措置命令の主文の執行も求めているが、被告がなすべき執行行為の意義及び内容は必ずしも明らかでなく、この点についての訴えは不適法であるから、同訴えを却下する。
 よって、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第3特別部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 中村恭
 裁判官 小田真治
 裁判官 中武由紀
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