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【事件名】名簿管理ソフトの著作権侵害事件(2)
【年月日】平成25年10月30日
 知財高裁 平成25年(ネ)第10053号 プログラム開発委託料等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成23年(ワ)第13057号)
 (口頭弁論終結日 平成25年8月26日)

判決
控訴人 X
訴訟代理人弁護士 山口伸人
同 正木友啓
同 茂木香子
同 雨宮奈穂子
被控訴人 公益社団法人全日本ダンス協会連合会
訴訟代理人弁護士 千賀修一
同 加唐健介
同 根岸圭佑


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、1150万円及びこれに対する平成23年5月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 以下、控訴人(原審原告)を「原告」と、被控訴人(原審被告)を「被告」といい、原審において用いられた略語は、当審においてもそのまま用いる。
1 原審の経過
(1) 原審における請求
ア プログラムTの使用許諾に係る請求
 原告は、平成10年に、被告との間で、プログラムTの開発委託契約を締結し、同年、プログラムTを開発・作成したことにより、プログラムTの著作権を取得し、被告に対しプログラムTについて使用許諾をしたと主張して、商法512条の報酬請求権に基づき、平成23年4月20日以前5年間のプログラムTの著作権使用許諾料合計190万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年5月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
イ プログラムUの開発・作成に係る請求
(ア) 主位的請求
 原告は、平成22年10月下旬、被告との間で、開発委託料を定めずにプログラムUの開発委託契約を締結し、同年12月から平成23年3月4日までの間に、被告に対し、プログラムUを開発・作成して納品したと主張して、商法512条の報酬請求権に基づき、プログラムUの開発委託料として合計960万円及びこれに対する平成23年5月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(イ) 予備的請求@
 原告は、被告との間で、プログラムUの作成につき請負契約を締結し、その際、相当の報酬を支払うことを黙示的に合意したと主張して、相当な報酬額の一部である960万円及びこれに対する平成23年5月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(ウ) 予備的請求A
 原告は、プログラムUを作成したことにより、被告が不当に利得を得ていると主張して、不当利得返還請求権に基づき、不当利得210万円及びこれに対する不当利得をした平成23年3月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息(民法704条)の支払を求めた。
(2) 原審の判断
 原審は、以下のとおり判断して、原告の請求をいずれも排斥した。
 ア プログラムTの使用許諾に係る請求について
  プログラムTは、原告が被告の業務に従事する者として職務上作成したものであり、その著作者は被告であるから、原告がプログラムTの著作権を有することを前提とするプログラムTに係る使用許諾料の請求は理由がない。仮に、プログラムTの著作者が原告であったとしても、原告、被告間にはプログラムの使用許諾料の支払を求めない合意があったと認められるから、原告の請求は理由がない。
 イ プログラムUの開発・製作に係る請求
  プログラムUについては、原告、被告間に開発委託契約の成立も請負契約の成立も認められず、原告が不当に利得を得ているとも認められない。
  これに対し、原告は、原判決の取消しを求めて、控訴を提起した。
(3) 当審における請求
ア プログラムTに係る請求
 当審において、原告は、原審での主張に係る著作物の使用許諾料の請求を撤回し、以下の主位的請求及び予備的請求を追加した。
(ア) 主位的請求
 原告は被告に対し、プログラムTを作成し、使用させていることに対する相当の報酬として、商法512条の報酬請求権に基づき、190万円及びこれに対する平成23年5月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(イ) 予備的請求
 原告は、プログラムTを複製して使用する被告の行為は、プログラムTについて原告の有する著作権(複製権)を侵害すると主張して、複製権侵害に基づく損害賠償金として190万円及びこれに対する平成23年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
イ プログラムUに係る請求
 当審において、原告は、以下の予備的請求を追加した。
 すなわち、原告は被告に対し、プログラムUを複製、使用する被告の行為は、プログラムUについて原告の有する著作権(複製権)を侵害すると主張して、複製権侵害に基づく損害賠償として作成費相当額である960万円及びこれに対する平成23年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2 原告主張の請求原因並びにこれに対する被告の認否及び反論等は、次のとおり削除、付加、訂正するほかは、原判決の「第2 事案の概要」(原判決1頁20行目ないし6頁17行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決1頁21行目を「1 主位的請求原因(商法512条に基づくプログラムTに係る作成・使用料及びプログラムUに係る開発委託料の請求について)」と改める。
(2) 原判決2頁12行目ないし13行目を削除する。
(3) 原判決2頁14行目ないし22行目を次のとおり改める。
 「(2) プログラムTの作成・使用料及びプログラムUの開発委託料の請求根拠原告はプログラマーであり、被告からの開発委託契約に基づいて、業としてプログラムTを作成し、被告に使用させているのであるから、作成・使用料に関する合意がなくとも、商法512条により、プログラムTの作成・使用につき、相当の対価を得る権利がある。また、原告は、被告との開発委託契約に基づいて、業としてプログラムUを作成したから、開発委託契約に対価に関する明確な定めがなくとも、同条により、相当の対価を得る権利を有する。
  (3) プログラムTの作成・使用料の請求」
(4) 原判決3頁1行目の「原告が著作権を有するプログラムTの使用許諾料として」を、「プログラムTの作成・使用料として」と改める。
(5) 原判決3頁11行目の「使用許諾料」を「作成・使用料」と改める。
(6) 原判決4頁14行目末尾を改行して、次のとおり加える。
 「3 著作権(複製権)侵害による損害賠償請求(1(3)及び(4)の請求の予備的請求)
  本件プログラムは、ソースコードにおいて「技術取得年月日」「納付日付」等特有の表現が用いられており、その表現自体あるいはその指令の組合せ、その表現順序に創作性が認められる。したがって、本件プログラムはプログラムの著作物である。仮に、本件プログラムがプログラムの著作物であると認められないとしても、本件プログラムは、被告の会員等に関する情報の集合物であって、パソコンを用いてそれらを検索できるように体系的に構成されたものであるから、データベースの著作物である。
  原告は、本件プログラムを開発・作成してこれを創作した者であり、本件プログラムの著作権を有する。原告は、本件プログラムの全てにつき、平成23年2月23日に創作を行ったとして、原告名義にて平成23年3月11日付けでプログラム著作物登録を行っている。
  原告は、被告の業務に従事する者ではないから、本件プログラムは、著作権法15条2項の法人著作に該当しない。
  被告は、本件プログラムを被告のパソコン内に複製して使用し続けており、原告の本件プログラムの複製権を侵害している。よって、原告は、被告に対し、複製権侵害による損害賠償として、プログラムTの作成料相当額である損害賠償金190万円及びプログラムUの作成料相当額である960万円を請求する。」
(7) 原判決4頁15行目の「3」を「4」に改める。
(8) 原判決5頁12行目の「4」を「5」に改める。
(9) 原判決6頁17行目末尾を改行して、次のとおり加える。
 「原告は商人ではなく、商法512条に基づく請求は理由がない。
  また、原告が行った作業は、データベースの既製パッケージソフトを利用したデータの入力項目・入力方法の設定、その設定に従ったデータの入力作業、及び入力したデータの表示・印刷方法等の設定等の作業の範囲を超えるものではなく、プログラムの開発・作成と評価し得る創作的活動は、一切していない。したがって、原告は本件プログラムの著作者ではない。仮に、上記作業が本件プログラムの開発・作成の作業であると評価し得たとしても、原告は、被告が費用負担したパソコン講習を受けた上でデータ入力作業等に従事したとの経緯に照らすならば、本件プログラムは「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物」(著作権法15条2項)に該当し、原告は本件プログラムの著作権者ではない。
6 抗弁1(プログラムTの作成に対する支払)
  被告は、別紙「被告の支払履歴」記載のとおり、平成10年7月から平成20年2月までの間に、「D」「E」「F」を支払先として、原告に対し、合計1091万5682円を支払っており、原告のプログラムTの作成に対する対価の支払は完了している。
7 抗弁2(プログラムTの使用料不払の合意)
  原告と被告は、被告が、原告に対し、入力等の費用や指導料等を随時支払うほかに、プログラムTの使用料の支払義務は負わない旨合意した。
8 抗弁に対する認否
  抗弁1のうち、平成12年6月6日(3口の支払)、同年7月5日、同年11月6日(3口の支払)、同年12月12日(3口の支払)、平成13年4月5日(3口の支払)、同年6月5日(2口の支払)の支払は認めるが、その余は否認する。
  抗弁2の事実は否認する。プログラムTの作成には約6か月かかったのであり、プログラムTの作成・使用に対する対価を全く受け取らずに、無償でその使用を許諾することはあり得ない。」
第3 当裁判所の判断
1 原判決の「事実及び理由」欄の「第3 裁判所の判断」(原判決6頁18行目ないし12頁17行目)を引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。
(1) 原判決6頁19行目ないし10頁15行目を次のとおり改める。
 「1 プログラムTに係る主位的請求(原告がプログラムTを作成し、これを被告に使用させていることの相当報酬としての商法512条の報酬請求権に基づく190万円の請求)について
 (1) 事実認定
  証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
  原告は、Aが平成10年に被告の会長理事に就任した当時の妻であり、当時の氏名はDであり、Aとの婚姻前の氏名はEであった。原告は、平成3年4月2日に、Aが代表取締役として経営していたFの代表取締役にCに代わって就任し、以後、現在に至るまで同社の代表取締役を務めている(甲9の1・2、甲17)。その後の平成13年頃に、原告は、Aと離婚した。
  原告は、Aが被告の会長に就任した直後の平成10年7月から同年10月にかけて、被告の費用負担の下で、大塚商会が実施したパソコン講習を受講し、パソコン関係の書籍を購入し(乙1の1の1枚目)、ファイルメーカー(データベースソフト)をインストールした被告所有のパソコンを使用して、同年10月頃から同年11月頃にかけて、被告の会員名簿等のコンピュータ入力作業を行った(乙1の1の1枚目から2枚目)。その作業は、原告の主張に係るプログラムTの@AG〜Jに関する作業にほぼ相当するものと認められる(甲18)。その作業の内容は、既製のパッケージソフトであるデータベースソフトを使用したデータの入力項目・入力方法の設定、当該設定に従ったデータの入力作業、及び入力したデータの表示・印刷方法等の設定作業であった(甲13、甲14)。
  上記作業の対価として、原告は被告から、平成10年10月13日に20万円(中部入力代、内金)、同年10月30日に3万円(パソコン入力)、同年11月11日に280万円(会員名簿入力)、同年11月11日に2万1000円(表組)の支払を受けた(括弧内は、被告の総勘定元帳における支払名目である、以下同じ。乙1の1)。なお、被告から原告に対する支払は、原告が代表取締役を務めるF名義のものも含まれる。
  原告は、その後も、平成11年2月5日に48万5000円(入力、乙1の1)、同年6月7日に41万5540円(パソコン指導出張費)、同年12月6日に14万9800円(パソコン指導、以上乙1の3)、平成12年6月6日に57万8175円(出張指導料、乙1の4)及び10万5000円(全ダ連だより作成、乙1の5)の支払を受けている。
  原告は、平成12年6月6日頃、採点集計表を作成し、その対価として21万円の支払を受けた(乙1の6)。採点集計表の作成は、原告の主張に係るプログラムTのB〜Fに関する作業にほぼ相当すると認められる。その作業の内容は、既製のパッケージソフトであるデータベースソフトを使用したデータの入力項目・入力方法の設定、当該設定に従ったデータの入力作業、及び入力したデータの表示・印刷方法等の設定であった。原告は、その後も、採点集計表の作成業務を行い、その対価として、平成13年3月16日、1万6090円(乙1の10)、同年6月5日、5万5750円(乙1の11)の支払を受けている。
  原告は、その他、平成12年7月5日、パソコン指導料として23万0570円(乙1の6)、同年11月6日、パソコン指導料として合計16万0900円(乙1の6ないし1の8)、同年12月12日、同年8月から同年11月までのパソコン指導料として合計32万6370円(乙1の6ないし1の8)、平成13年1月5日、平成12年12月のパソコン指導料として5万6485円(乙1の9)、平成13年4月5日、パソコン指導とソフト作成の費用として合計8万5205円(乙1の11、1の14)、同年5月10日、同年4月のパソコン指導料として9万6540円(乙1の12)、同年6月5日、教師登録明細表等のコンピュータ指導料として11万1500円(乙1の12)、平成14年4月19日、パソコンデータ修正の出張費として3万4500円(乙1の13)、同日、会員証及び会運営のためのソフト製作費として250万円(乙1の15)、同年7月5日、同年4月から同年6月のパソコン指導料として9万円(乙1の13)の支払を受けた。平成15年及び平成16年には、原告に対する支払はなかった。
  原告は、平成17年5月9日、7日分のスペシャルメンテナンス料として56万円(1日8万円)とその諸雑費一式12万9800円の支払を(乙1の16)、平成18年11月13日、「全ダ連『X制作プログラム』使用料」の名目で38万円の支払を(乙1の17、乙2)、平成19年1月31日、「全ダ連 X制作プログラム使用料」の名目で34万円の支払を(乙1の18、乙3)、平成20年2月19日、平成19年度データベース(ファイルメーカー)保守料として36万円の支払を受けた(甲12、乙1の19)。これらの支払には、原告の指示により、原告の母であるG名義の口座に振り込まれたものがある。
  平成20年3月7日、原告と被告との間で、別紙のとおり本件保守契約が締結された。本件保守契約において、原告と被告は、原告が被告に対し、@データベースのトラブルに対する対応、Aシステム構築及び運用に関する指導及び助言等の保守義務を提供し(2条)、保守料金は、年額36万円とし、年度末の一度払とし(5条)、保守契約期間は、契約の開始日から1年ごとの自動更新とすること(年度ごとの保守料金の支払を定めているから、契約期間は、毎年4月から翌年3月までの1年間と認められる。6条1項)、契約の解約方法については、原告又は被告から解約意思の通知を書面で通知し、通知を受け取った日の年度末日をもって契約終了日とすること(6条2項)が合意された。
  被告は、本件保守契約に基づき、原告に対し、平成22年度分までの保守料金を支払ったが(甲10、甲12、乙5ないし7の各1・2)、原告は、被告に対し、平成23年3月4日付け請求書で、「新規プログラム制作料」として940万円、「著作権使用料(平成10年〜平成22年分)遡及分」として454万円の支払を請求した。被告は、平成23年3月26日、原告に対し、本件保守契約を解約する旨を通知した(乙4の1・2)。
 (2) 判断
 上記認定事実に基づいて、原告の請求の当否を以下のとおり判断する。
 ア プログラムTの作成についての相当報酬について
  原告の被告に対するプログラムTの作成に係る対価請求は理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
  すなわち、上記認定事実によると、原告は、被告における会員名簿等の管理をデータベースソフトで処理するため、既存のパッケージソフトを使用して、プログラムTを作成したが、その作業の内容は、データの入力項目・入力方法の設定、その設定に従ったデータの入力、及び入力したデータの表示・印刷方法等の設定等であった。また、原告は、プログラムTの修整を行い、被告の従業員に対しその使用方法等の指導等をした。原告は被告から、平成10年以降、本件保守契約が締結される前である平成20年2月までの間に、プログラム(ソフト)作成料、プログラム使用料、データ入力料、パソコン指導料等の各種名目の下に、原告又はFを支払先として、合計1000万円を超える支払を受けた。
  ところで、原告と被告とは、平成20年3月に本件保守契約を締結し、保守料金の額について合意をしたが、その際、プログラムTの作成料については、格別何らの取決めもすることなく、また、原告がプログラムTを作成した平成10年以降平成23年2月までの間、原告が被告に対して、プログラムTの作成料を請求した事実もない。
  以上の事実を総合すると、原告は、プログラムTの作成に当たり、データ入力作業を行ったり、被告の従業員の指導等を行ったりしたことに対する支払名目で、被告から、長期間にわたって高額の支払を受けており、原告が実施した作業と支払名目が必ずしも対応していないとしても、本件保守契約締結以前に原告が行ったプログラムT作成作業に対する対価の支払は、既に完了していると解するのが相当である。
  また、原告がプログラムTの作成に関与したことに対する相当な報酬の額が、被告から支払を受けた金額を超えると認めるに足りる証拠もない。
 イ プログラムTの使用料請求について
  原告の被告に対するプログラムTの使用料に係る請求は理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
  すなわち、@プログラムTは、被告が使用する目的で作成されたものであり、被告が使用することは当初から予定されていたが、その使用料の支払についての合意がされていないことに照らすならば、被告が別途使用料を支払うことは当事者の間において想定されていないと解するのが合理的であること、AプログラムTの使用が開始された後においても、使用料の支払と窺える、被告から原告に対する定期的な支払はされていないこと(この点については、平成18年11月13日及び平成19年1月31日にプログラム使用料名目での支払がされているが、同支払は、必ずしも使用の対価として支払われたものとはいえない。また、原告もプログラムTの使用料の支払は受けていないと主張していることから、使用料は、単なる名目であると認めるのが相当である。)、B上記のとおり、原告は、プログラムTに係る使用料の支払を受けていない事実があるにもかかわらず、平成23年2月に至るまで、使用料の支払を一切求めておらず、また、本件保守契約締結に際しても、使用料についての協議がされた形跡がないこと等の事実を総合すれば、原告、被告間において、原告がプログラムTの作成に関与したことについて、プログラムTの使用料の支払はない旨の合意がなされていたと認めるのが相当である。
 (3) 小括
  以上のとおり、商法512条に基づくプログラムTの作成・使用料の請求は理由がない。
 2 プログラムTに係る予備的請求(プログラムTの複製権侵害を理由とする190万円の請求)について
  原告は、主に、既存のパッケージソフトを利用して、データの入力項目・入力方法の設定作業及びデータの入力、入力したデータの表示・印刷方法等の設定作業を担当し、プログラムTを作成したものであり、既存のパッケージソフトは、これを利用し、定められた手順に従って設定、入力等を行うことにより、容易にプログラムが作成できるように作られており、プログラムTもこのようにして作成されたものであると認められる。そして、本件全証拠によるも、プログラムTが、著作権法2条1項1号、10号の2、10号の3各所定の「著作物」、「プログラム」及び「データベース」に該当することを認めるに足りる証拠はない。
  したがって、原告がプログラムTの著作権を有することを前提とした、複製権侵害による損害賠償請求は理由がない。
  仮に、原告がプログラムTに関して、何らかの著作権を有するとしても、被告がプログラムTについて複製、使用するに当たり、原告の許諾があることは当事者間に争いはなく、したがって、被告がプログラムTに関して、複製権を侵害したとの主張は、主張自体失当である。」
(2) 原判決10頁16行目冒頭の「2」を「3」に改める。
(3) 原判決11頁2行目の「平成23年」を「平成22年」に改める。
(4) 原判決11頁24行目の「被告の行った作業依頼は」から26行目までを、「原告、被告とも、プログラムUの作成は、本件保守契約における保守業務の一環として行われる作業と理解していたと認めるのが相当である。」に改める。
(5) 原判決12頁4行目を「4 プログラムUに係る予備的請求(当審において追加した予備的請求を含む)について」と改める。
(6) 原判決12頁10行目末尾を改行して、次のとおり加える。
 「(2) プログラムUの著作権侵害による損害賠償請求について
 前記のとおり、プログラムUは、プログラムTのソフトに新たな機能を付加、修整を施したものと認められる。しかし、本件全証拠によるも、プログラムUが、著作権法2条1項1号、10号の2、10号の3各所定の「著作物」、「プログラム」及び「データベース」に該当することを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告がプログラムUの著作権を有することを前提とした、複製権侵害による損害賠償請求は理由がない。」
(7) 原判決12頁11行目の「(2)」を「(3)」と改める。
2 結論
 以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がない。本件控訴は理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 小田真治
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日本ユニ著作権センター
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