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【事件名】類似キャラクター雑貨事件
【年月日】平成25年10月21日
 東京地裁 平成24年(ワ)第10382号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年7月10日)

判決
原告 有限会社ら・むりーず
同訴訟代理人弁護士 人見勝行
被告 株式会社プリンスコレクション(以下「被告会社」という。)
被告 甲(以下「被告甲」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 永田玲子
同 植田貴之


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告会社は、別紙侵害商品目録記載の雑貨、文具、服飾品類を製造し、又は販売してはならない。
2 被告会社は、その占有する前項記載の物件を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して金3億2026万6060円及びこれに対する平成24年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 以下、別紙侵害商品目録記載1〜5記載の商品について、個別に又はグループで特定する場合は同目録の符号に従って「被告商品1(1)」「被告商品1」などといい、総称して「被告商品」という。また、別紙著作物目録記載1〜5の著作物について、個別に又はグループで特定する場合は同目録の符号に従って「原告作品1(1)」「原告作品1」などといい、総称して「原告作品」という。なお、被告商品1に描かれたネコを「シャロン」、被告商品3に描かれたクマを「サビーヌ」、被告商品4ないし5に描かれたクマを「ノワール」という場合がある
 本件は、原告が、原告作品について、デザイナーとして原告に勤務しているAが職務上作成したものであると主張した上で、被告甲が提供したデザインに基づいて被告会社が製造・販売した被告商品について、原告作品を複製・翻案したものである旨主張して、@被告会社に対し、(ア)著作権(複製権、翻案権、譲渡権)侵害を理由とする著作権法112条1項に基づく差止請求として、被告商品の製造・販売の禁止、(イ)同様に同条2項に基づく廃棄請求として、被告会社が占有する被告商品の廃棄を求めるとともに、A被告らに対し、(ア)著作権(複製権、翻案権、譲渡権)・著作者人格権(同一性保持権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として、3億1526万6060円(内訳・著作権侵害につき同法114条2項の推定により2億7615万0960円、著作者人格権侵害につき慰謝料500万円、弁護士費用相当額3411万5100円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、(イ)原告の営業上の利益を故意に侵害することを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は、昭和60年7月に設立されたAのオリジナルキャラクターやデザインによる雑貨の製造・販売等の業務を行う特例有限会社である。Aは、雑貨類等の商品のデザインのほか、メッセージブック、絵本・詩画集等の創作活動を行っている者である。
(甲4、32、36、乙1)
イ 被告会社
 被告会社は、昭和63年4月に設立されたぬいぐるみ、バラエティー雑貨、生活雑貨の企画・製造・販売等の業務を行う株式会社である。
(甲1、乙63)
ウ 被告甲
 被告甲は、ぬいぐるみ、雑貨品等の商品デザインを行っている者である。
(乙35)
(2) 原告作品
 Aは、原告の製造・販売に係る別紙商品等目録記載の商品等の原画として、原告作品を作成した。
(弁論の全趣旨)
(3) 被告商品
 被告商品は、被告甲が提供したデザインに基づいて、被告会社が製造・販売した商品である。
2 争点
(1) 原告作品の著作物性(争点1)
(2) 原告作品に係る著作権及び著作者人格権の帰属(争点2)
(3) 被告商品が原告作品を複製・翻案したものであるか(争点3)
(4) 著作権法112条に基づく差止・廃棄請求の成否(争点4)
(5) 著作権・著作者人格権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額(争点5)
(6) 原告の営業上の利益を故意に侵害することを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額(争点6)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 原告作品の著作物性(争点1)
(原告の主張)
ア 原告作品1
(ア) 原告作品1(1)
a 表現の構成
 「下辺の真ん中に、黒ネコの上半身が描かれている。この黒ネコの顔の表現は、
 ア 円形の丸い目の中心に円形の黒目が置かれ、黒目の周りを白色の白目がドーナツ状に囲んでおり、黒目の直径は目全体の直径の半分程度とされている。
 イ 鼻は、上辺が水平で下に向かって幅が狭まっていく形で、目よりも大きくならないように、こぢんまりと描かれている。
 ウ 口は、鼻の下端から長めの線が下方向に向かって引かれ、その線が2本に枝分かれした形で描かれている。
 エ 顔のほぼ中心に鼻があり、両目と口は概ねその鼻を中心にした逆正三角形の形に配置されている。
 オ ひげは、鼻と口の間から頬の部分を通って左右に伸びる線として描かれており、その一番上の線は、ネコの顔全体の高さの半分近くの高さの部分を通っている。
 カ 上記ア〜オの各表現が組み合わされて正面をじっと見つめるネコの顔が描かれていることにより、全体として、愛らしいながらも時として年を経た哲学者のような深遠な思索性をも同時に感じさせる猫という生き物の不可思議で奥深い魅力を表現する、という創作意図が実現されている。
 すなわち、まず、目を上記アのような白目と黒目のコントラストが際だつ形とし、その一方で鼻と口を上記イ及びウのような抑え目のシンプルな表現にすることにより、見る者を惹きつけるような黒ネコの視線の強さが表現されている。
 同時に、目を上記アのような円形で描いたり、鼻を上記イのような形でこぢんまりと描いたり、両目、口及び鼻を上記エのような配置とすることにより、実際のネコの顔に存在する獣臭さを離れた、ユーモラスな愛嬌が醸し出しされている。
 さらに、口を上記ウのような形としたり、ひげを上記オのようにして描くことにより、まるで口ひげを生やした哲学者が口を引き結んでいるかのような思索性を感じさせる静謐さまでもが、ネコの表情に加えられている。
といった特徴を有する。」
b 著作物性
 原告作品1(1)に描かれた黒ネコの顔の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品1(1)には著作物性が備わっている。
(イ) 原告作品1(2)
a 表現の構成
 「四角い台の上に載った黒ネコの全身像が描かれている。この黒ネコの顔の表現は、
 ア 円形の丸い目の中心に円形の黒目が置かれ、黒目の周りを白色の白目がドーナツ状に囲んでおり、黒目の直径は目全体の直径の半分程度とされている。
 イ 鼻は、上辺が水平で下に向かって幅が狭まっていく形で、目よりも大きくならないように、こぢんまりと描かれている。
 ウ 口は、鼻の下端から長めの線が下方向に向かって引かれ、その線が2本に枝分かれした形で描かれている。
 エ 顔のほぼ中心に鼻があり、両目と口は概ねその鼻を中心にした逆正三角形の形に配置されている。
 オ ひげは、鼻と口の間から頬の部分を通って左右に伸びる線として描かれており、その一番上の線は、ネコの顔全体の高さの半分近くの高さの部分を通っている。
 カ 上記ア〜オの各表現が組み合わされて正面をじっと見つめるネコの顔が描かれていることにより、全体として、愛らしいながらも時として年を経た哲学者のような深遠な思索性をも同時に感じさせる猫という生き物の不可思議で奥深い魅力を表現する、という創作意図が実現されている。
 すなわち、まず、目を上記アのような白目と黒目のコントラストが際だつ形とし、その一方で鼻と口を上記イ及びウのような抑え目のシンプルな表現にすることにより、見る者を惹きつけるような黒ネコの視線の強さが表現されている。
 同時に、目を上記アのような円形で描いたり、鼻を上記イのような形でこぢんまりと描いたり、両目、口及び鼻を上記エのような配置とすることにより、実際のネコの顔に存在する獣臭さを離れた、ユーモラスな愛嬌が醸し出しされている。
 さらに、口を上記ウのような形としたり、ひげを上記オのようにして描くことにより、まるで口ひげを生やした哲学者が口を引き結んでいるかのような思索性を感じさせる静謐さまでもが、ネコの表情に加えられている。
といった特徴を有する。」
b 著作物性
 原告作品1(2)に描かれた黒ネコの顔の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品1(2)には著作物性が備わっている。
(ウ) 原告作品1(3)
a 表現の構成
 「ベージュ色のかごの中に3匹の黒ネコと白い花が入っているところが描かれている。このうち、中央の黒ネコの顔の表現は、
 ア 円形の丸い目の中心に円形の黒目が置かれ、黒目の周りを白色の白目がドーナツ状に囲んでおり、黒目の直径は目全体の直径の半分程度とされている。
 イ 鼻は、上辺が水平で下に向かって幅が狭まっていく形で、目よりも大きくならないように、こぢんまりと描かれている。
 ウ 口は、鼻の下端から長めの線が下方向に向かって引かれ、その線が2本に枝分かれした形で描かれている。
 エ 顔のほぼ中心に鼻があり、両目と口は概ねその鼻を中心にした逆正三角形の形に配置されている。
 オ ひげは、鼻と口の間から頬の部分を通って左右に伸びる線として描かれており、その一番上の線は、ネコの顔全体の高さの半分近くの高さの部分を通っている。
 カ 上記ア〜オの各表現が組み合わされて正面をじっと見つめるネコの顔が描かれていることにより、全体として、愛らしいながらも時として年を経た哲学者のような深遠な思索性をも同時に感じさせる猫という生き物の不可思議で奥深い魅力を表現する、という創作意図が実現されている。
 すなわち、まず、目を上記アのような白目と黒目のコントラストが際だつ形とし、その一方で鼻と口を上記イ及びウのような抑え目のシンプルな表現にすることにより、見る者を惹きつけるような黒ネコの視線の強さが表現されている。
 同時に、目を上記アのような円形で描いたり、鼻を上記イのような形でこぢんまりと描いたり、両目、口及び鼻を上記エのような配置とすることにより、実際のネコの顔に存在する獣臭さを離れた、ユーモラスな愛嬌が醸し出しされている。
 さらに、口を上記ウのような形としたり、ひげを上記オのようにして描くことにより、まるで口ひげを生やした哲学者が口を引き結んでいるかのような思索性を感じさせる静謐さまでもが、ネコの表情に加えられている。
といった特徴を有する。」
b 著作物性
 原告作品1(3)の中央に描かれた黒ネコの顔の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品1(3)には著作物性が備わっている。
(エ) 原告作品1の表現についての補充主張と反論
a 目の表現について
(a) 実際のネコの目の白目の色は、人間の目とは異なり、黄緑色であって(甲26の1)、ネコの白目を実際のとおりの黄緑色で描いたデザインの例は多数存在している(甲26の2、3、5、8、9、13、14、16、20、21、乙26の21)。
 しかしながら、原告作品1の黒ネコの顔においては、黒目との関係でのコントラストを際だたせるために、白目の色は、あえて白色で表現されているのである。
(b) また、実際のネコの目の全体の形状(目の縁の輪郭)は、横長でややつり上がった楕円形であり、その中の黒目の輪郭は周囲の明るさによって様々に変化するものである(甲26の1)。
 一般的に存在するネコのデザインにおいては、上記のような実際のネコの目の形状をふまえて、ネコの目の縁の輪郭を横長の形状のものとして描いている例が多く(甲26の3〜12、16、18〜20、乙26の16、18、22、24)、黒目の輪郭については、実際のネコの目が明るい場所でとるような縦長の形状のものとして描かれている例も多い(甲26の3〜11、19〜21、乙26の16、18、22)。
 しかしながら、原告作品1の黒ネコの顔においては、ネコの目の全体の形状及び黒目の形状を敢えて完全な円形で表現し、黒目の周りを白目がドーナツ状に囲んでいるものとして描くことによって、白目と黒目のコントラストを際だたせて視線の強さを印象づけるとともに、獣臭さを離れたユーモラスな愛嬌を表現しているものである。
 また、原告作品1の黒ネコの顔では、黒目の直径が目全体の直径の半分程度となるように描かれているが、このことも、黒目の直径を大きくし過ぎると、過度に可愛さが強調されて知的な雰囲気や視線の強さが失われてしまう一方、逆に黒目の直径を小さくし過ぎると、白目が過度に目立ってしまい、ユーモラスな愛嬌が弱まってしまう、ということを考慮して、Aが苦心して絶妙なバランスを取った結果なのである。
(c) 被告らは、乙26号証の1〜23を例に挙げながら、ネコの目がドーナツ状に描かれた丸い目として描かれている表現が多数存在する旨を主張する。
 しかしながら、被告らが挙げている例は、黒目と白目の双方が円形に描かれていることのみでは共通しているものの、黒目と白目の比率、黒目の位置、白目の色等の点では様々であって、それらの点において、ほとんどのものは、原告作品1の黒ネコの顔における表現とは異なっている。
 もっとも、例外的に、乙26号証の1の商品に描かれているネコの顔の中には、黒目と白目の比率等の点においても原告作品1の黒ネコの顔における目の表現と似ているものが含まれている。しかしながら、当該商品を作成した株式会社ノアファミリー(甲27)は、原告の商品のデザインを模倣し続けている企業であり、当該商品のネコの顔の表現については、それ自体が原告作品1の表現に係る著作権侵害とみられるものである。
b 鼻の表現について
(a) 実際のネコの鼻の大きさは、目よりは大きめであり、またその形状は、縦方向に細長く下部は丸みを帯びた形をしている(甲26の1)。
 一般的に存在するネコのデザインにおいては、上記のような実際のネコの鼻の大きさないし形状をふまえて、鼻が目よりも大きく描かれたり(甲26の3、13〜15)、縦方向に長く描かれたり(甲26の3、13)、丸みが強調されるような形で描かれている(甲26の5、13〜15、乙26の6、7、12、19、24)例が多数存在するが、また一方で、デフォルメが行われる場合には、鼻が全く描かれていなかったり(甲26の6、乙26の8、9、14〜16、20〜23)、点ないし短い横線に近い形で極端に簡略化して描かれているものも存在する(甲26の9、10、12、17、21、乙26の17)。
 上記のようにネコの鼻に関しては多様な表現方法が存在しているが、そうした中で、原告作品1の黒ネコの顔においては、相対的に黒ネコの視線の強さを際だたせるとともに、実際のネコの顔に存在する獣臭さを離れたユーモラスな愛嬌を醸し出すという目的で、鼻に関して、目よりも大きくならないように、上辺が水平で下に向かって幅が狭まっていくような形で、すっきりとシンプルにこぢんまりと描く、という表現がとられているものである。
(b) 被告らは、乙26号証の1〜7、10〜13、17〜19、24を例に挙げながら、ネコの鼻が目より少し小さめに描かれている表現が多数存在する旨を主張するが、被告らが挙げている例は、鼻が目よりも大きくは描かれていないということのみでは共通しているものの、鼻の大きさと目の大きさとの比率や鼻の形状等の点では様々であって、それらの点において、ほとんどのものは、原告作品1の黒ネコの顔における表現とは異なっている。
 また、被告らは、乙26号証の1〜5を例に挙げながら、ネコの鼻を逆三角形に描いた表現が多数存在する旨も主張するが、被告らが挙げている例も、ほとんどのものは、鼻の大きさと目の大きさとの比率等において原告作品1の黒ネコの顔における表現とは異なっているものである。
c 口の表現について
(a) 実際のネコの口の形状(口を閉じている状態)においては、縦方向の線は短くてすぐに横方向に枝分かれをしており、鼻と口は近接している。
 一般的に存在するネコのデザインにおいては、上記のような実際のネコの口の形状をふまえて、縦方向の線を短くして鼻と口を近接させている例が多数存在する(甲26の2〜5、8〜18、20、21、乙26の4〜7、10〜12、14)が、また一方で、デフォルメが行われる場合には、口が全く描かれていなかったり(甲26の6、7、乙26の9、13、15〜23)、縦方向の線のみで口が描かれていたり(甲26の19)、さらには擬人化によって人の口と同様の形状に描かれているものも存在する(甲26の21、乙26の7)。
 上記のようにネコの口に関しては多様な表現方法が存在しているが、そうした中で、原告作品1の黒ネコの顔においては、鼻の下端から下方向に向かって引かれた線が2本に枝分かれするというシンプルな形で口を表現することにより、相対的に黒ネコの視線の強さを際だたせているものである。また、同時に、口を引き結んでいるかのような形状の簡潔な線による上記の表現は、縦方向の線が長めに引かれて鼻と口の距離が離されていることともあいまって、原告作品1の黒ネコの顔から獣臭さを消し去り、思索をしている人の顔に見られるような表情の静謐さまでをも黒ネコの顔に加えているものである。
(b) 被告らは、乙26号証の1〜4、8及び24を例に挙げながら、ネコの口を鼻の下に線状でYを逆さにしたような形で描いた表現は多数存在する旨を主張している。
 しかしながら、被告らが挙げている例の多くは、縦方向の線と横方向の線との比率等において原告作品1の黒ネコの顔における表現とは異なっている。
d 鼻、両目及び口の配置について
 実際のネコの顔においては、目が縦方向の顔の長さの半分ほどの高さに並んでおり、鼻と口は目よりも下の位置に近接して存在している。すなわち、実際のネコの顔では、鼻、両目及び口といった顔のパーツは、顔の下半分に集まっており、また、2つの目と鼻の配置は、おおむね逆正三角形状をしている(甲26の1)。
 一般的に存在するネコのデザインにおいては、上記のような実際のネコの顔のパーツの配置を踏まえて、鼻、両目及び口が顔の下半分に集まっているように描かれている例が多いが(甲26の2、3、5〜9、12、15、17、18、乙26の7、8、12、14、24)、一方で、デフォルメが行われる場合には、表情の可愛らしさの強調等のために、2つの目と鼻の配置が実際よりも横長の逆三角形状にされている例も相当数存在している(甲26の2、3、5〜12、14〜19、21、乙26の2、3、5〜8、11、13、14、17〜19)。
 しかしながら、原告作品1の黒ネコの顔においては、上記のような実際のネコの顔のパーツの配置とは異なり、顔のほぼ中心に鼻を置き、両目と口はおおむねその鼻を中心にした逆正三角形の形に配置することにより、ネコの顔に本来存在する獣臭さを離れたユーモラスな愛嬌が表現されているものである。
e ひげの表現について
(a) 実際のネコの顔においては、鼻や口といったパーツが顔の下半分に集まっていることに伴って、ひげも、鼻と口の間から顔の下端近い部分を通って左右に伸びる形で生えている(甲26の1)。
 一般的に存在するネコのデザインにおいては、上記のような実際のネコにおけるひげの生え方もふまえて、鼻と口の間から顔の下の方を通ってひげが生えているように描かれている例が多い(甲26の3、4、8、15、乙26の2、10、12、19)が、一方で、デフォルメが行われる場合には、ひげが全く描かれなかったり(甲26の2、5〜7、10〜12、14、乙26の3、5、8、13、14、18、20、21)、鼻や口からは離れた顔の外縁近くからひげが生えているように描かれているものも存在する(甲26の9、17、20、21、乙26の5〜7、11、15、17、24)。
 上記のようにネコのひげに関しては多様な表現方法が存在しているが、そうした中で、原告作品1の黒ネコの顔においては、そのひげを人の男性の口ひげの印象に近づけて、口ひげを生やして口を引き結んだ思索中の人の顔に似た静謐さをも黒ネコの表情に加えるために、ひげに関して、鼻と口の間から実際のネコのひげの位置よりも上方の部分である頬を通って左右に伸びる線として描くという表現がとられているものである。
(b) 被告らは、乙26号証の1、2、6、7、10、11、16、22〜24を例に挙げながら、鼻と口の間からひげが放射線状に伸びるような配置で描いた表現は多数存在する旨を主張している。
 しかしながら、被告らが挙げている例のほとんどは、ひげの生えている具体的な位置(鼻や口との距離や顔全体の高さとの関係等)等において、原告作品1の黒ネコの顔における表現とは異なっているものである。
f 表現の組み合わせについて
 一般的に、原告作品のように動物の顔を描いたデザインの創作に当たっては、顔の各パーツに関する表現をどのようなものにするかということのみならず、各パーツに関する表現をどのように組み合わせて、全体として作者の創作意図をいかに実現するかということが極めて重要である。原告作品1の黒ネコの顔は、Aがその創作意図を実現するために、独特の感性において各パーツの表現を選択した上で、これらを組み合わせることによって創造したものであり、このような各表現の組合せ自体もまた、原告作品1の黒ネコの顔の創作性を基礎づける表現上の本質的特徴であって、極めて独創的なものである。
 被告らは、乙26号証の1及び2は、原告作品1の黒ネコの顔の表現上の特徴を全て組み合わせた表現であると主張する。
 しかしながら、被告らが挙げている例のうち、乙26号証の2については、黒目と白目の比率、口における縦方向の線と横方向の線の比率、鼻、両目及び口の配置並びにひげの位置等の点において原告作品1の黒ネコの顔における表現とは大きく異なっているものである。
 また、もう一つの例である乙26号証の1については、上記のとおり、当該商品における表現自体が原告作品1の表現に係る著作権侵害とみられるものである。
イ 原告作品2
(ア) 表現の構成
 「相当数の魚と黒ネコ及びアルファベット文字によって構成された図案が描かれている。
 当該図案の表現は、以下のア〜オの特徴を有する。
ア 左右斜め上下といった種々の方向を向いた相当数の魚が、図案の全面にほぼ等間隔に配置されているとともに、図案の右下に黒ネコが、その隣にはアルファベットで記載された語句が、それぞれ描かれている。
イ 魚の形は細長い流線型だが、背びれ、腹びれ及び尻びれはあえて省略され、丸みを強調したシルエットとされている。全ての魚は、体を曲げずにまっすぐに伸ばした姿勢であり、それらが、泳いでいるというよりは、浮遊しているかのような静的な状態のものとして、それぞれの体の真横から描かれている。
ウ 地の色はやや濁った彩度の低い黄色、魚の色は淡く彩度の低い水色、ネコは黒色である。地の色と魚の色をこのように彩度の低いものとしたことによって、全体として落ち着いた安らぎを感じさせる色調となっており、そうした中で右下のネコの黒色が際だつものとなっている。また、魚の色を地の色の反対色にしているため、彩度の低い色が用いられているにもかかわらず、魚の水色は、地の黄色に対して、そこから浮かび上がるような印象的なコントラストをなしている。
エ さらに、右下の黒ネコの顔の表現については、以下の(ア)〜(カ)の特徴がある。
 (ア) 円形の丸い目の中心に円形の黒目が置かれ、黒目の周りを白色の白目がドーナツ状に囲んでいる。
 (イ) 鼻は、上辺が水平で下に向かって幅が狭まっていく形で、目よりも大きくならないように、こぢんまりと描かれている。
 (ウ) 口は、鼻の下端から長めの線が下方向に向かって引かれ、その線が2本に枝分かれした形で描かれている。
 (エ) 顔のほぼ中心に鼻があり、両目と口は概ねその鼻を中心にした逆正三角形の形に配置されている。
 (オ) ひげは、鼻と口の間から頬の部分を通って左右に伸びる線として描かれており、その一番上の線は、ネコの顔全体の高さの半分近くの高さの部分を通っている。
 (カ) 上記(ア)〜(オ)の各表現が組み合わされて正面をじっと見つめるネコの顔が描かれていることにより、全体として、愛らしいながらも時として年を経た哲学者のような深遠な思索性をも同時に感じさせる猫という生き物の不可思議で奥深い魅力を表現する、という創作意図が実現されている。
 すなわち、まず、目を上記(ア)のような白目と黒目のコントラストが際だつ形とし、その一方で鼻と口を上記(イ)及び(ウ)のような抑え目のシンプルな表現にすることにより、見る者を惹きつけるような黒ネコの視線の強さが表現されている。
 同時に、目を上記(ア)のような円形で描いたり、鼻を上記(イ)のような形でこぢんまりと描いたり、両目、口及び鼻を上記(エ)のような配置とすることにより、実際のネコの顔に存在する獣臭さを離れた、ユーモラスな愛嬌が醸し出しされている。
 さらに、口を上記(ウ)のような形としたり、ひげを上記(オ)のようにして描くことにより、まるで口ひげを生やした哲学者が口を引き結んでいるかのような思索性を感じさせる静謐さまでもが、ネコの表情に加えられている。
オ 上記ア〜エの表現が組み合わされることによって、本来は棲息の場を異にする魚とネコとが出会って空間を共有するという物語世界が、穏やかな静けさ、安らぎ及びユーモア等を交えて表現されている。」
(イ) 著作物性
 原告作品2の図案の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品2には著作物性が備わっている。
ウ 原告作品3
(ア) 原告作品3(1)
a 表現の構成
 「全体にクマの上半身が大きく描かれている。
 このクマの顔の表現は、
 ア 逆三角形に丸みを持たせた形の顔
 イ 顔を逆三角形と見ればその上部の角の位置に耳が描かれていること
 ウ 小さな黒い点のみで描かれた目
 エ 目よりも少し大きく描かれた逆三角形の鼻
 オ 鼻から下に線状に描かれた口がアルファベットのTを逆さにしたような形であること
 カ 2つの目と口が逆正三角形のトライアングル状に配置されていること
 キ 上記ア〜カの各表現が組み合わされることにより、全体として、クマの顔を、素朴な温かみとユーモアに満ちた愛らしい魅力を有するものとして表現する、という創作意図が実現されていること
といった特徴を有する。」
b 著作物性
 原告作品3(1)に描かれたクマの顔の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品3(1)には著作物性が備わっている。
(イ) 原告作品3(2)
a 表現の構成
 「並んで座っている3匹のクマの全身像が描かれている。
 この3匹のクマの顔の表現は、
 ア 逆三角形に丸みを持たせた形の顔
 イ 顔を逆三角形と見ればその上部の角の位置に耳が描かれていること
 ウ 小さな黒い点のみで描かれた目
 エ 目よりも少し大きく描かれた逆三角形の鼻
 オ 鼻から下に線状に描かれた口がアルファベットのTを逆さにしたような形であること
 カ 2つの目と口が逆正三角形のトライアングル状に配置されていること
 キ 上記ア〜カの各表現が組み合わされることにより、全体として、クマの顔を、素朴な温かみとユーモアに満ちた愛らしい魅力を有するものとして表現する、という創作意図が実現されていること
といった特徴を有する。」
b 著作物性
 原告作品3(2)に描かれたクマの顔の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品3(2)には著作物性が備わっている。
(ウ) 原告作品3(3)
a 表現の構成
 「18匹のクマの半身像が描かれている。
 それらの18匹のクマのうち、一番下の段の中央に位置するクマ(「T」と描かれたTシャツを着ているクマ)及び一番真ん中の段の右端に位置するクマ(茶色のTシャツを着ているクマ)のクマの顔の表現は、
 ア 逆三角形に丸みを持たせた形の顔
 イ 顔を逆三角形と見ればその上部の角の位置に耳が描かれていること
 ウ 小さな黒い点のみで描かれた目
 エ 目よりも少し大きく描かれた逆三角形の鼻
 オ 鼻から下に線状に描かれた口がアルファベットのTを逆さにしたような形であること
 カ 2つの目と口が逆正三角形のトライアングル状に配置されていること
 キ 上記ア〜カの各表現が組み合わされることにより、全体として、クマの顔を、素朴な温かみとユーモアに満ちた愛らしい魅力を有するものとして表現する、という創作意図が実現されているこ
とといった特徴を有する。」
b 著作物性
 原告作品3(3)に描かれたクマの顔の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品3(3)には著作物性が備わっている。
エ 原告作品4
(ア) 表現の構成
 「黒い小さなクマを手に持ち、キリンを腕に抱えて、足を開いて座ったクマの全身像が描かれている。
 このクマの顔の表現は、
 ア 耳から下の顔の形は丸みを帯びているが、頭の上部は水平な直線に近い形であること
 イ 顔の中央よりやや上に位置する小さめの白い円の中央に小さな黒い点を載せて描かれた目
 ウ 鼻から口の位置にかけて顔の地の色とは別の色の楕円形が置かれ、その中に鼻と口が描かれていること
 エ 2つの目と口が逆正三角形のトライアングル状に配置されていること
 オ 上記ア〜エの各表現が組み合わされることにより、全体として、クマの顔を、穏やかで親しみやすく見る者を惹きつける愛らしい魅力を有するものとして表現する、という創作意図が実現されていること
といった特徴を有する。」
(イ) 著作物性
 原告作品4に描かれたクマの顔の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品4には著作物性が備わっている。
オ 原告作品5
(ア) 表現の構成
 「桃色又は紺色の地の上に、クマと青果等からなる図案が描かれている。当該図案の表現は、
 ア 両手足が露出する暗い色彩の洋服を着たクマがほぼ胴体程度の大きさの洋なし等の青果を持っているところが、複数描かれており、クマが両手で抱えている青果のうち、薄い黄色のものは、ひょうたん型の洋なし又は形状が球に近い青果であること
 イ クマが持っているのとほぼ同程度の大きさの青果等がクマの周りに散らすように配置されており、当該青果等は、細長い形状で黄緑色のもの、形状が球に近く薄い黄色又は赤系統の色のもの、相対的に小ぶりで赤系統の色のもの等によって構成されていて、さらに、当該青果等に混じって、三角形に並んだ小さめの3つの円も描かれていること
 ウ 上記ア及びイの各表現が組み合わされることにより、クマが自分の身体に近い大きさの青果と戯れるという独自の物語世界が、安らぎやユーモア等を交えて軽快に表現されていること
といった特徴を有する。」
(イ) 著作物性
原告作品5の図案の表現における特徴は、表現上の本質的な特徴として、その創作性を基礎づけるものであり、原告作品5には著作物性が備わっている。
(被告らの主張)
ア 原告の主張に対する認否
 原告の主張は否認ないし争う。
イ 原告作品1について
(ア) 目には、黒目と白目があり、白目のなかに黒目があるので、白目と黒目をドーナツ状に二重円で丸く描くことはありふれた表現である。実際に、ネコの目が「ドーナツ状に描かれた丸い目」として描かれている表現が多数存在する(乙26の1〜23)。
(イ) 実際のネコの鼻は目より小さめであるし、特に、鼻を簡略化して描く際に、目より大きく描くことは、極めて不自然な顔になるから、目より少し小さめに描かれた鼻はありふれた表現である。実際に、ネコの鼻が目より少し小さめに描かれている表現が多数存在する(乙26の1〜7、10〜13、17〜19、24)。
(ウ) ネコの鼻を簡略化して描くと逆三角形になるので、逆三角形に近い鼻は、ありふれた表現である。実際に、ネコの鼻を逆三角形に描いた表現が多数存在する(乙26の1〜5)。
(エ) ネコの鼻から口を描くとすれば、実際のネコは鼻の下から口が繋がっている格好になっているので、これを簡略化すると、鼻の下から二股に別れた線で描くことになる。二股に別れる描き方としては、直線的に描くか、曲線的に描くか程度の選択の余地しかなく、前者で描けばYを逆にしたような形になるので、鼻の下に線状に描かれたYを逆にしたような形の口は、ありふれた表現である。実際に、ネコの口を鼻の下に線状でYを逆さにした形に描いた表現が多数存在する(乙26の1〜4、8、24)。
(オ) ネコは鼻から口に至る部分の両脇からひげが横に向けて伸びているから、鼻と口の間からひげが放射線状に伸びているように描くことはありふれた表現である。実際に、鼻と口の間からひげが放射線状に伸びるような配置で描いた表現が多数存在する(乙26の1、2、6、7、10、11、16、22〜24)。
(カ) 目を見開いて正面をじっと見つめているというのは、その顔が醸し出す雰囲気であり、また、とぼけた表情というのは、主観的な見方にすぎず、いずれも具体的な表現ではない。さらに、目を見開いて正面をじっと見つめているとぼけた表情というのは、動物ないしネコの顔の表現としてありふれている。実際に、目を見開いて正面をじっと見つめているようにネコを描いた表現が多数存在する(乙26の1〜6、8〜10、12〜14、16〜24)。
(キ) 以上のとおり、上記各表現は、ありふれた表現であり、上記各表現すべてを組み合わせた表現となっているネコの顔も存在する(乙26の1、2)。
(ク) 原告主張の「ア 円形の丸い目の中心に円形の黒目が置かれ、黒目の周りを白色の白目がドーナツ状に囲んでおり、黒目の直径は、目全体の直径の半分程度とされて」いることについては、白目と黒目がいわゆる二重丸で描かれていることになるが、イラストとしてありふれた描き方であり、その中で、黒目の直径と目全体の直径は、偶発的な、個々のイラストをその時々においてどのように描き方によって左右されるものであって、原告がそのような偶発的表現までも、独占できるわけではない。
 原告主張の「イ 鼻は、上辺が水平で下に向かって幅が狭まっていく形」については、逆三角形の鼻ということで、動物の鼻を簡略化して描く場合のありふれた表現であり、「目よりも大きくならないように、こぢんまりと描かれている」についても、目よりも大きい鼻を描くのはイラストとして不自然であるから、一般的な表現である。
 原告主張の「ウ 口は、鼻の下端から長めの線が下方向に向かって引かれ、その線が2本に枝分かれした形で描かれている」についても、実際のネコの口の形(鼻の下から口が枝分かれした形状)をイラストとして描いたありふれた表現にすぎない。
 原告主張の「エ 顔のほぼ中心に鼻があり、両目と口は概ねその鼻を中心にした逆三角形の形に配置されている」については、顔のほぼ中心に鼻があることも、鼻を中心に両目と口が逆三角形の形に配置されることも、顔のパーツの配置として他に表現方法がない、ありふれた表現である。
 原告主張の「オ ひげは、鼻と口の間から頬の部分を通って左右に伸びる線として描かれており、その一番上の線は、ネコの顔全体の高さの半分近くの高さ部分を通っている」については、ひげが鼻と口の間から頬の部分を通って左右に伸びる線として描かれるのは一般的でありふれた表現であり、具体的な書き方は、偶発的な、個々のイラストをその時々においてどのように描き方によって左右されるものであって、原告がそのような偶発的表現までも、独占できるわけではない。
ウ 原告作品2について
 原告作品2の創作性については争う。
エ 原告作品3について
(ア) 原告主張の「ア 逆三角形に丸みを持たせた形の顔」について
 動物の顔を簡略化して描く場合、その表現としては、丸顔又は丸みを持たせた逆三角形の顔程度の選択の余地しか考えられない。すなわち、現実のクマの顔を前提として、イラストとして簡略化する場合、丸顔にして漫画風に描くか、丸みを持たせた逆三角形の顔にして写実的に描くかという程度しか、表現における選択の余地はなく、逆三角形に丸みを持たせた形の顔は、顔の表現としてありふれている。
(イ) 原告主張の「イ 顔を逆三角形と見ればその上部の角の位置に耳が描かれていること」について
 現実のクマを参照にしてクマの耳を簡略化して描く場合、左右の耳を離して頭の上側面に描くのは、ありふれている。また、顔を逆三角形と見れば、上部の角の位置かそれに近接した位置に耳を描くという程度しか、表現における選択の余地がなく、耳の位置の表現もありふれている。
(ウ) 原告主張の「ウ 小さな黒い点のみで描かれた目」について
 目の表現として、小さな黒い点で描くことはありふれている。また、原告自身、目の表現として、白目の中に黒目を描くもの、上瞼と黒目を描くものもあり、小さな黒い点で目を描くことは、限られた選択の余地しかないなかでの目の表現のうちの一つにすぎず、そのような表現について、原告が独占できるわけではない。
(エ) 原告主張の「エ 目よりも少し大きく描かれた逆三角形の鼻」について
 目を点で描けば、鼻が目よりも大きく描かれるのは当然であり、逆三角形の鼻は、ネコの表現でも用いられているように、動物の鼻の表現としてありふれている。
(オ) 原告主張の「オ 鼻から下に線状に描かれた口がアルファベットのTを逆さにしたような形であること」について
 ネコと同様、鼻の下端から下方向に向かって引かれた線で、動物の鼻と口のつながりを表現することは、ありふれている。口の形状は、原告作品3のすべてがアルファベットのTを逆さにしたような形をしているわけではなく、原告作品3(1)のクマの口は、Yを逆さにした形である点においてTを逆さにした形ではないし、原告作品3(3)の下真ん中のクマの口は、口角が上がっている点においてTを逆さにした形ではない。さらに、他のクマの口では、「人」型になっているものもある。結局のところ、動物の口の表現は限られており、逆T字型はありふれたかつ偶発的表現にすぎない。
(カ) 原告主張の「カ 2つの目と口が逆正三角形のトライアングル状に配置されていること」について
 ありふれた表現である。二つの目と口の位置関係から、逆三角形以外の表現方法をとりようがない。その三角形が、偶々、正三角形になったからといって、何ら創作性はない。
(キ) 「キ 上記ア〜カの各表現が組み合わされることにより、全体として、クマの顔を、素朴な温かみとユーモアに満ちた愛らしい魅力を有するものとして表現する、という創作意図が実現されていること」について
 単に、原告の創作意図ないし創作意図から来るイラストの雰囲気ないし抽象的なコンセプトを主張するにすぎず、著作権法により保護される具体的表現に関する主張ではない。
オ 原告作品4について
(ア) 原告主張の「ア 耳から下の顔の形は丸みを帯びているが、頭の上部は水平な直線に近い形であること」について
 動物の顔を簡略化して描く場合、その表現としては、丸顔又は丸みを持たせた逆三角形程度しか考えられない。両者の組み合わせ、すなわち、頭の上部を水平な直線状に描き(逆三角形)、耳から下の顔の形は丸みを帯びた形状(丸顔)にすることも、顔の表現としてありふれている。
(イ) 原告主張の「イ 顔の中央よりやや上に位置する小さめの白い円の中央に小さな黒い点を載せて描かれた目」について
 目の位置については、顔の中央周辺の位置にならざるをえず、目の位置を顔の中央よりやや上に位置づけることはありふれている。さらに、目が小さめの白い円の中央に小さな黒い点を載せて描かれていることについては、目を丸い円形で描くことはありふれた表現であり、一般的な白目と黒目との関係(白目の中に黒目がある)からすると、白い円の中央に黒い点を載せて目を描くこともありふれている。
(ウ) 原告主張の「ウ 鼻から口の位置にかけて顔の他の色とは別の色の楕円形が置かれ、その中に鼻と口が描かれていること」について
 鼻から口の位置にかけて顔の他の色とは別の色の楕円形を配することは、鼻周りの位置が目の回りの位置よりも高くなっていることを漫画風に表すためのありふれた表現であり、その中に鼻と口が描かれていることも、動物の突き出た鼻と口を漫画風に表すためのありふれた表現である。
(エ) 原告主張の「エ 2つの目と口が逆正三角形のトライアングル状に配置されていること」について
 2つの目と口の位置関係から、逆三角形以外の表現方法をとりようがない。その三角形が、偶々、正三角形になったからといって、なんら創作性はない。
(オ) 原告主張の「オ 上記ア〜エの各表現が組み合わされることにより、全体として、クマの顔を、穏やかで親しみやすく見る者を惹きつける愛らしい魅力を有するものとして実現する、という創作意図が表現されていること」について
 単に、原告の創作意図ないし創作意図から来るイラストの雰囲気ないし抽象的なコンセプトを主張するにすぎず、著作権法により保護される具体的表現ではない。万が一、これが表現であるとしても、イラストにおいて、クマの顔を、穏やかで親しみやすく見る者を惹きつける愛らしい魅力を有するものとして表現することは、ありふれている。
カ 原告作品5について
 原告主張の「両手足が露出する暗い色彩の洋服を着たクマがほぼ胴体程度の大きさの洋なし等の青果を持っている」については、クマが大きい青果を持っているというアイデアないしコンセプトを説明しているにすぎず、どのような格好で青果を持っているかなど、具体的表現を説明していない。
 原告主張の「クマが両手で抱えている青果のうち、薄い黄色のものは、ひょうたん型の洋なし又は形状が球に近い青果である」については、クマが両手で青果を抱えているというアイデアないしコンセプトを説明しているにすぎず、クマが両手で青果を抱えているにしても、どのようなスタイルで抱えているかなど、具体的表現を説明していない。
 原告主張の「クマが持っているのとほぼ同程度の大きさの青果等がクマの周りに散らすように配置されて」いるとの点についても、クマの周りの模様のコンセプトの説明にすぎず、どのような形状の青果がどのように配置されているかなど、具体的表現を説明していない。
 原告主張の「当該青果等は、細長い形状で黄緑色のもの、形状が球に近く薄い黄色又は赤系統の色のもの、相対的に小ぶりで赤系統の色のもの等によって構成されて」いる点に関しても、色調や漠然とした形状の説明にとどまっている。
 原告主張の「当該青果等に混じって、三角形に並んだ小さめの3つの円も描かれている」は何を意味するのか不明である。
 原告主張の「上記ア及びイの各表現が組み合わされることにより、クマが自分の身体に近い大きさの青果と戯れるという独自の物語世界が安らぎやユーモア等を交えて軽快に表現されていること」については、更に抽象的なコンセプトやアイデアを説明しているにすぎず、具体的表現に関する主張ではない。
(2) 原告作品に係る著作権及び著作者人格権の帰属(争点2)
(原告の主張)
ア 原告作品の作成
 Aは、平成2年から平成9年頃までの間に、原告作品を作成した。
 原告作品は、Aが独自の感性によって、その思想ないし感情を創作的に表現した美術の著作物である。
イ 職務著作
 Aは、原告にデザイナーとして勤務している。
 原告作品は、原告の発意に基づいて、原告の従業員であるAが職務上作成したものである。原告は、原告作品を商品、ポップ広告、看板等に使用し、当該商品等を販売、頒布ないし掲示することによって、自己名義の下に公表した。
 したがって、原告作品の著作者は原告である。
 以上から、原告は、原告作品の著作権及び著作者人格権を有する。
ウ 創作及び公表時期
 原告作品の創作及び公表時期は以下のとおりである。
原告作品 創作時期 公表時期 公表の方法
原告作品1(1) 平成4年〜平成5年 平成5年4月 「くろねこフェイスタオル」
(別紙商晶等目録記載1(1))の発売
原告作品1(2) 平成4年〜平成5年 平成5年 「卓上用ポップ」
(別紙商晶等目録記載1(2))の直営店等における陳列
及び取引先小売店への配布
原告作品1(3) 平成4年〜平成5年 平成5年 「直営店の看板」
(別紙商品等目録記載1(3))の使用
原告作品2 平成7年 平成7年7月 「ガーゼハンカチねことさかな」
(別紙商晶等目録記載2)の発売
原告作品3(1) 平成5年〜平成6年 平成6年4月 「パステルマグカップ」
(別紙商晶等目録記載3(1))の発売
原告作品3(2) 平成2年 平成2年11月 「MessagePadくまのきょうだい」
(別紙商晶等目録記載3(2))の発売
原告作品3(3) 平成2年 平成2年11月 「MessagePad18ぴきのこぐま」
(別紙商晶等目録記載3(3))の発売
原告作品4 平成2年 平成2年11月 「MessagePadくまの赤ちやん」
(別紙商晶等目録記載4)の発売
原告作品5 平成7年〜平成8年 平成8年 ATSUKO MATANOブランドのパジャマ
(別紙商晶等目録記載5)の発売
(被告らの主張)
 原告の主張アのうち、第1段落は不知、第2段落は否認ないし争う。同イは否認する。
(3) 被告商品が原告作品を複製・翻案したものであるか(争点3)
(原告の主張)
ア 同一性ないし類似性
 別紙原告作品と被告商品との対比(原告主張)のとおり、被告商品の表現は、原告作品における表現の内容及び形式を覚知させるか、少なくとも原告作品における表現の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものである。
イ 依拠性
(ア) Bは、被告会社の取締役である。Bは、平成元年10月から平成9年11月まで原告に勤務し、原告の営業統括として、原告の営業活動や商品を熟知するとともに、A作成の原画に基づく商品の生産管理や販売管理にも深く関与していた。
(イ) Cは、被告会社の代表取締役であり、Bの義兄である。Cは、昭和63年に被告会社を設立するまでは、株式会社モン・スイユ(以下「モン・スイユ」という。)に長年所属して、営業の中心的役割を担い、A作成の原画に基づいて原告が製造した商品も多数取り扱っていた。
 また、原告は、被告会社に対し、少なくとも平成8年頃までの間、A作成の原画を利用した多くの売れ筋商品の販売を委託していた。
(ウ) Dは、被告会社の取締役であり、Cの妻でBの実姉である。Dは、昭和60年末頃から昭和61年10月頃まで、原告に勤務していた。その後、Dが被告会社の経営に携わる中で、Aの創作した原画に基づく商品に接し続けていたのはCと同様である。
(エ) 被告甲は、平成初頭頃から、モン・スイユのために雑貨商品用の図案を制作しており、モン・スイユの取扱商品の中心であったAの原画に基づく原告商品のデザインにも日常的に接していた。
(オ) 上記(ア)〜(エ)のとおり、C、D、B及び被告甲は、いずれも原告及びAと密接な関係を有していたものであり、原告作品が作成され、これに基づく原告商品が製造・販売された平成2年から平成9年頃には、原告に勤務し(B)、原告商品を取り扱う会社を経営し(C、D)、原告商品を取り扱う会社のためにデザインを行う(被告甲)などして、原告商品に接し、その特徴や販売実績、更には生産の内情まで知悉していた(特にB)。
(カ) 上記アのとおり、被告商品における表現には、被告会社の経営陣及び被告甲が原告商品に深く関わっていた時期に作成された原告作品における表現と同一であるか、少なくとも類似しているといえる部分が多数みられ、これらは到底偶然に生じたものとは考えられない。
 さらに、全般的な状況として、被告会社の商品における色彩の用い方には、原告商品における色遣いと酷似している例が多数存在している。
(キ) 以上のとおり、被告らは、原告作品及びこれに基づく原告商品のデザインを知悉しており、被告商品における表現が、原告作品における表現と同一ないし著しく類似していることからすると、被告商品ないしそのデザインが原告作品に依拠したものであることは自明である。
(被告らの主張)
ア 原告の主張に対する認否
 原告の主張アは否認ないし争う。同イ(ア)のうち、Bが被告会社の取締役であること、平成元年10月から平成9年11月まで原告に勤務していたこと、原告で営業統括を行っていたこと、営業統括として業務を行う範囲で原告商品についての知識を有していたことは認め、その余は否認する。同イ(イ)第1段落のうち、Cが、被告会社の代表取締役であること、Bの義兄であること、昭和63年に被告会社を設立したこと、モン・スイユに所属していたこと、モン・スイユにおいて営業を担当していたこと、モン・スイユが原告の製造した商品を取り扱っていたことは認め、その余は知らない。第2段落のうち、被告会社で原告商品を取り扱ったことがあることは認め、その余は不知ないし否認する。同イ(ウ)のうち、Dが被告会社の取締役であること、Cの妻であること、Bの実姉であること、原告に勤務していたこと、勤務時期、被告会社の設立後に取締役になったことは認め、その余は不知ないし否認する。同イ(エ)のうち、被告甲が平成初頭頃からモン・スイユのために雑貨の図案を制作し提供していたことは認め、その余は否認する。同イ(オ)は否認する。同イ(カ)及び(キ)は否認ないし争う。
イ 同一性ないし類似性について
 別紙原告作品1及び3〜5と被告商品との対比(被告主張)のとおりである。このほか、原告作品2と被告商品2は類似しない。
ウ 依拠性について
(ア) キャラクターの創作時期
 シャロン、サビーヌ及びノワールの各キャラクターの創作時期は次のとおりである。
a シャロン
 昭和63年にぬいぐるみとしてデザイン
 平成2年〜3年に袋物商品のために再デザイン
 平成5年頃シャロン陶器商品をデザイン
b サビーヌ
 平成2年サビーヌをデザイン
 平成4年サビーヌ陶器商品をデザイン
c ノワール
 平成2年〜3年ノワールをデザイン
 平成5年頃ノワール陶器商品をデザイン
(イ) 創作の経緯
 被告甲は、昭和62年から63年頃、株式会社トミーに勤務しながら、Eが経営するオリジナルプラントの工場において、ぬいぐるみのデザインや型おこしを学ぶため、一緒に仕事を始めた。
 シャロンのぬいぐるみ(乙3)は、被告甲が、昭和63年、オリジナルプラントにおいて、デザインし、型おこしも行い、商品化され、被告会社で販売されたものである。同時期に、被告甲は、クマのフォームバッグ(乙4)もデザインし、商品化されている。
 被告甲は、平成2年、株式会社トミーを退職し、一時、株式会社プティルウに勤務した後、同年秋にオリジナルプラントに就職した。被告甲は、入社後すぐ、オリジナルプラントにて、サビーヌ(乙5、6)をデザインした。サビーヌは、当時ブームであったテディベアや、先行したクマのフォームバッグ(乙4)を参照し、サビーヌをデザインした。サビーヌは、ぬいぐるみのクマがモチーフとなっているため、顔やおなかに縫い目が入っているのが特徴である。
 被告甲は、サビーヌをデザインした後、平成2年終わり頃から平成3年にかけ、生きたクマをモチーフにしたノワールをデザインし、また、ノワールだけでは寂しいということで、ノワールと同じコンセプトで、ネコをデザインした(乙11、12)。このなかで最初に商品化されたのは、ノワールのキンチャク(乙10のカタログに掲載)である。ノワールは、生きたクマをモチーフにしているため、最初に商品化されたノワールには毛並みが描かれている(乙10、乙7の2)。毛並みは、その後、取引先の要望などにより取り除かれた。
 平成4年、商品の幅を増やし、袋物だけではなく、陶器などの雑貨用にサビーヌをデザインした。遅くとも、平成5年には、サビーヌマグが商品化されていた(乙56)。雑貨用にサビーヌをデザインした後、同年頃、ノワールとシャロンについても雑貨の取扱を始めるため、再デザインをした。
 被告甲は、その後も、キャラクターのデザインを商品や時代に合わせて変更し、現在では、被告会社にて、被告甲のデザインをコンピュータ上で商品用に変更し、被告甲の監修を得た上で、商品化している。
(ウ) 結論
 シャロンについては、被告甲が、昭和63年にぬいぐるみとしてデザインしているので、平成4年から平成7年にかけて創作された原告作品1及び2のネコよりも、先にデザインしたものであって、原告作品1及び2に依拠した事実はない。
 サビーヌは、被告甲がサビーヌとしてデザインしたのは平成2年であるが、昭和63年にデザインしたフォームバッグ(乙4)をブラッシュアップしてデザインしたものであり、平成2年に創作された原告作品3に依拠した事実はない。
 ノワールは、被告甲が生きたクマをモチーフに平成2年にデザインしたものであり、当初、毛並みがあったものを変更して現在に至っている。したがって、平成2年に創作された原告作品4のクマや平成7年から8年にかけて創作された原告作品5のクマに依拠した事実はない。
(4) 著作権法112条に基づく差止・廃棄請求の成否(争点4)
(原告の主張)
 被告会社が被告商品を製造・販売していることは、原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権)の侵害行為である。
 被告会社は、現在も被告商品の製造・販売を継続しており、被告商品の在庫も相当数有している。
 したがって、原告の著作権の侵害行為の停止又は予防のためには、被告会社に対し、被告商品の製造・販売を差し止める必要があり、また、これに加え、被告商品の在庫をも廃棄する必要がある。
(被告らの主張)
 原告の主張は争う。
(5) 著作権・著作者人格権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額(争点5)
(原告の主張)
ア 被告甲が被告商品のデザインを行って被告会社に提供したこと及び被告会社が被告商品を製造・販売していることは原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権)の侵害行為である。
 被告らの行為は、同時に、原告の意に反してその著作物に改変を加えており、著作者人格権としての同一性保持権の侵害行為である。
イ 被告商品ないしそのデザインは、原告作品に依拠して作成されたものであるから、被告らは、いずれも著作権及び著作者人格権の侵害について故意がある。
ウ 被告らの行為は、共謀して行われたものであり、共同不法行為を構成することが明らかであるので、被告らは、連帯して不法行為に基づく損害賠償債務を負う。
エ 被告会社の被告商品の販売によって、原告には以下の損害が生じた。
 被告商品の単価は、別紙損害額計算書の@欄に記載のとおりであり、同業者における一般的な取引の状況からして、被告会社が小売店等の取引相手に卸している価格は定価の60%を下回らないものとみられるので、被告商品に係る卸売価格(消費税込み)は、同計算書のA欄記載の価額を下回らない。
 被告会社が被告商品を販売した数量は、同業者における同種商品製造の場合の一般的な最低ロットとの関係からして、別紙損害額計算書のB欄記載の数を下回らない。
 同業者における一般的な利益率からして、被告会社の利益率は60%を下回らないものとみられる。
 被告会社が被告商品の販売により得た利益の額は、別紙損害額計算書のC欄記載の額(A欄記載の価額にB欄記載の販売数量及び利益率60%を乗じた額)を下回らないから、被告会社は、その合計額である2億7615万0960円を下回らない利益を得た。
 したがって、著作権法114条2項により、原告の損害額は2億7615万0960円を下回らないものと推定される。
オ 著作者人格権の侵害に対する慰謝料は500万円を下らない。
カ 被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は3411万5100円を下らない。
キ したがって、損害額の合計は3億1526万6060円である。
(被告らの主張)
 原告の主張アは争う。同イは否認する。同ウは争う。同エ〜キは否認ないし争う。
(6) 原告の営業上の利益を故意に侵害することを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害額(争点6)
(原告の主張)
ア 上記(3)(原告の主張)のとおり、被告会社の商品には、原告商品等に描出された図案を模倣した商品が多数存在する。
 それに加えて、被告会社の商品を商品群としてみたときに、その全体的印象は原告のそれと著しい類似性を有している。例えば、原告の店舗内で商品が陳列されている様子は、被告会社の商品を販売している店舗内の商品が陳列されている様子と一見して区別が付かず、原告従業員でも自社商品の販売店かと見間違うほどである。
 さらに、被告会社の個別の商品には、原告の著作権を侵害するとまではいえなくとも、全体として極めて類似した印象を抱く商品が多数存在する(甲24、25)。
 このように、被告甲がデザインを提供して被告会社が製造・販売する商品は全体として、原告商品を模倣して製作されている。
イ 原告商品は、その1つ1つが商品化されるまでの過程で、多くの手間、時間及び費用を要している。具体的には、Aが商品のデザインを製作するに当たっては、単純なデザインに見えるものであっても、莫大な労力が投入されている。また、原告は、30年間にわたる商品別及び得意先別の売上の集計や推移を集積した結果、「どのような商品がヒットするか」という命題に取り組んでいるのであって、原告商品の売れ筋は、一朝一夕に分析できるものではない。したがって、このような原告商品について、被告らが模倣を行うことは、原告が費やしたこのような手間、時間及び費用をいわばフリーライドするものである。
 このように、被告らが何らの労力も費やさずに容易かつ大量に原告商品を模倣して営業上の利益を上げることは、原告商品の価値を低下させるとともに、原告の顧客を奪うものであって、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて、法律上保護される原告の営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成する。
ウ 被告らは、原告と上記(3)(原告の主張)イのとおりの人的関係にあるから、原告商品全体を知悉している。
 また、Aと同じくデザイナー業を営む被告甲はその職務上、被告会社の関係者は原告との人的関係に基づき、原告商品の製作にかかっている手間、時間及び費用の多さについては明確に認識するところである。
 したがって、被告らは、原告の営業活動上の利益を侵害することに故意を有している。
エ 被告らの不法行為は、それぞれ原告の営業活動上の利益を侵害するものであることを認識した上で、共同して行われたものであるから、被告らは、共同不法行為として、連帯して不法行為に基づく損害賠償債務を負う。
オ 被告らの不法行為により、原告に生じた精神的損害を填補するための慰謝料は500万円を下らない。
(被告らの主張)
 原告の主張アは否認する。同イは否認ないし争う。同ウは否認する。同エ及びオは否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 著作権・著作者人格権侵害を理由とする請求について
 本件の事案に鑑み、まず、被告商品が原告作品を複製・翻案したものであるか(争点3)について、原告主張に係る原告作品の箇所と被告商品の対応箇所とを対比することにより検討する。
(1) 原告作品1と被告商品1との対比
ア 原告作品1(1)の構成
 証拠(甲3の1)によれば、原告作品1(1)(下辺の真ん中の黒ネコの顔)の構成は、以下のとおりであると認められる。
 「ア 目は円形の丸い目である。目の中心には、円形の黒目があり、白目が黒目の周りをドーナツ状に囲んでいる。黒目の直径は目全体の半径程度である。目の位置は、顔の高さの上から3分の1程度の高さの位置である。
 イ 鼻は、逆正三角形に近い形状で、白色であり、目よりも小さい。
 ウ 口は、鼻の下端から白色の線が下方向に伸び、その線が右下及び左下に2本枝分かれした形状で描かれている。
 エ ひげは、左右に3本ずつの白色の線で描かれている。一番上のひげは上向き、真ん中のひげは水平に近く、一番下のひげは下向きで、ほぼ直線であり、長さは顔の大きさの範囲内である。ひげの終端から顔の縁までは、ひげの長さの半分程度の距離がある。
 オ 耳は三角形の形状であり、耳の中は白色で三角形の形状で描かれている。
 カ 顔は、縦と比較して横が長く、あごの方へ向かって少しずつ幅が狭まっている。両目の間隔は顔の横の長さの3分の1程度である。なお、顔(及び胴体)には灰色の縁取りがされている。」
イ 原告作品1(2)の構成
 証拠(甲3の2)によれば、原告作品1(2)(四角い台の上に載った黒ネコの顔)の構成は、以下のとおりであると認められる。
 「ア 目は円形の丸い目である。目の中心には、円形の黒目があり、白目が黒目の周りをドーナツ状に囲んでいる。黒目の直径は目全体の半径より小さい。目の位置は、顔の高さの3分の1程度の位置である。
 イ 鼻は、逆正三角形に近い形状で、白色であり、目よりも小さい。
 ウ 口は、鼻の下端から白色の線が下方向に伸び、その線が右下及び左下に2本枝分かれした形状で描かれている。
 エ ひげは、左右に3本ずつの白色の線で描かれている。一番上のひげは上向き、真ん中のひげはやや上向き、一番下のひげは下向きで、ほぼ直線であり、長さは顔の大きさの範囲内である。ひげの終端から顔の縁までは、ひげの長さの半分程度の距離がある。
 オ 耳は三角形の形状であり、耳の中は白色でN形状と∧形状で描かれている。
 カ 顔は、縦と比較してやや横が長く、あごの方へ向かって少しずつ幅が狭まっている。両目の間隔は顔の横の長さの2 分の1程度である。」
ウ 原告作品1(3)の構成
 証拠(甲3の3)によれば、原告作品1(3)(中央の黒ネコの顔)の構成は、以下のとおりであると認められる。
 「ア 目は円形の丸い目である。目の中心には、円形の黒目があり、白目が黒目の周りをドーナツ状に囲んでいる。黒目の直径は目全体の半径程度である。目の位置は、顔の高さの3分の1程度の位置である。
 イ 鼻は、逆正三角形に近い形状で、白色であり、目よりも小さい。
 ウ 口は、鼻の下端から白色の線が下方向に伸び、その線が右下及び左下に2本枝分かれした形状で描かれている。
 エ ひげは、左右に3本ずつの白色の線で描かれている。一番上のひげはやや上向き、真ん中のひげは水平に近く、一番下のひげはやや下向きで、やや弧を描いており、長さは顔の大きさの範囲内である。ひげの終端から顔の縁までは、ひげの長さの半分程度の距離がある。
 オ 耳は三角形の形状であり、耳の中は灰色でおおむね三角形の形状で描かれている。
 カ 顔は、縦と比較して横が長く、楕円形に近い形状であるが、額の方があごの方と比べてやや扁平な形である。両目の間隔は顔の横の長さの2分の1程度である。」
エ 原告作品1と被告商品1との対比
 証拠(枝番号を含めて甲10)によれば、被告商品1の構成は、別紙原告作品1と被告商品1との対比(判決)記載のとおりであると認められる(なお、被告商品1における被疑侵害物を表記する場合の位置関係は別紙侵害商品目録に従っている。)。
 そして、原告作品1と被告商品1を対比すると、別紙原告作品1と被告商品1との対比(判決)記載のとおりの相違点が認められるから、被告商品1は、原告作品1を有形的に再製したものではないし、原告作品1の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものではない。
オ 小括
 以上のとおり、被告商品1は、原告作品1と同一又は類似であるとは認められないから、被告商品1が原告作品1を複製又は翻案したものであるとは認められない。
(2) 原告作品2と被告商品2との対比
ア 原告作品2の構成
 証拠(甲3の4)によれば、原告作品2の構成は、以下のとおりであると認められる。
 「28匹の魚と1匹の魚を持った黒ネコが描かれている(アルファベット文字は署名と解される。)。
 ア 左右斜め上下といった種々の方向を向いた28匹の魚がほぼ等間隔に、1匹の魚を持った黒ネコが右下に配置され、背景は茶色である。
 イ 魚は、細長い流線型で、水色であり、背びれ及び尻びれが省略され、鱗は黒色の円あるいは線、目は黒色の点あるいは孤状の線で描かれている。
 ウ 黒ネコは、全身が描かれ、しっぽは上向きで細く長く、後足で立ち、前足で1匹の魚を持っている。
 円形の丸い目の中心に円形の黒目が置かれ、黒目の周りを白目がドーナツ状に囲んでいる。黒目の直径は目全体の半径程度である。
 鼻は、逆三角形に近い形状で、白色であり、目よりも小さい。
 口は、鼻の下端から白色の線が下方向に伸び、その線が右下及び左下に枝分かれした形状で描かれている。
 ひげは、左右に3本ずつの白色の線で描かれている。左側のひげはやや下向き、右側のひげは上向きで、ほぼ直線であり、長さは顔の範囲内である。
 耳は三角形の形状であり、耳の中は描かれていない。
 顔は、縦と比較して横が長く、両目の間隔は顔の横の長さの2分の1程度である。」
イ 原告作品2と被告商品2との対比
 証拠(甲13)によれば、被告商品2の構成は、別紙原告作品2と被告商品2との対比(判決)記載のとおりであると認められる。
 そして、原告作品2と被告商品2を対比すると、別紙原告作品2と被告商品2との対比(判決)記載のとおりの相違点が認められるから、被告商品2は、原告作品2を有形的に再製したものではないし、原告作品2の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものではない。
ウ 小括
 以上のとおり、被告商品2は、原告作品2と同一又は類似であるとは認められないから、被告商品2が原告作品2を複製又は翻案したものであるとは認められない。
(3) 原告作品3と被告商品3との対比
ア 原告作品3(1)の構成
 証拠(甲3の5)によれば、原告作品3(1)(クマの顔)の構成は、以下のとおりであると認められる。
 「ア 顔は、半円に近い形状であり、茶色である。
 イ 耳は、顔の上部左右の端に位置し、半円に近い形状であり、耳の中は黒色で半円に近い形状で描かれている。
 ウ 目は、小さな黒い点で描かれている。
 エ 鼻は、黒色の逆正三角形に近い形状と、鼻筋が上の2つの頂点からやや斜め上に伸びる黒色の線で描かれている。
 オ 口は、鼻の下端から黒色の線が下方に伸び、その線が右下及び左下に2本枝分かれした形状で描かれている。
 カ 両目の間隔は顔の横の長さの2分の1程度である。」
イ 原告作品3(2)の構成
 証拠(甲3の6)によれば、原告作品3(2)(3匹のクマの顔)の構成は、以下のとおりであると認められる。
 「ア 顔は、丸みを帯びた逆三角形に近い形状であり、薄茶色である。
 イ 耳は、顔の上部左右の端に位置し、半円に近い形状であり、耳の中は黒色で半円に近い形状で描かれている。
 ウ 目は、小さな黒い点で描かれている。
 エ 鼻は、黒色の逆正三角形に近い形状(右側のクマは扇状)と、鼻筋が上の2つの頂点からやや斜め上に伸びる薄い茶色の線で描かれている。
 オ 口は、鼻の下端から黒色の線が下方に伸び、その線が右下及び左下に2本枝分かれした形状(中央のクマは右及び左に枝分かれした形状〔鼻の下端からの線を含めて逆T字型形状〕)で描かれている。
 カ 両目の間隔は顔の横の長さの2分の1程度である。」
ウ 原告作品3(3)の構成
 証拠(甲3の7)によれば、原告作品3(3)(下段中央に位置するクマ〔「T」と描かれたTシャツを着用〕と中段右端に位置するクマ〔茶色のTシャツを着用〕の顔)の構成は、以下のとおりであると認められる。
 「下段中央に位置するクマ(「T」と描かれたTシャツを着用)
 ア 顔は、丸みを帯びた逆三角形に近い形状であり、ベージュ色である。
 イ 耳は、顔の上部左右の端に位置し、半円に近い形状であり、耳の中は黒色で半円に近い形状で描かれている。
 ウ 目は、小さな黒い点で描かれている。
 エ 鼻は、黒色の扇状と、鼻筋が上の2つの頂点からやや斜め上に伸びる薄い黒色の線で描かれている。
 オ 口は、鼻の下端から黒色の線が下方に伸び、その線がやや右上及び左上に2本枝分かれした形状(鼻の下端からの線を含めて碇形状)で描かれている。
 カ 両目の間隔は顔の横の長さの2分の1程度である。
 中段右端に位置するクマ(茶色のTシャツを着用)
 ア 顔は、丸みを帯びた将棋の駒に近い形状であり、薄茶色である。
 イ 耳は、顔の上部左右の端に位置し、半円に近い形状であり、耳の中は黒色で半円に近い形状で描かれている。
 ウ 目は、小さな黒い点で描かれている。
 エ 鼻は、黒色の扇状と、鼻筋が上の2つの頂点からやや斜め上に伸びる黒色の線で描かれている。
 オ 口は、鼻の下端から黒色の線が下方に伸び、その線が右及び左に2本枝分かれした形状(逆T字型形状)で描かれている。
 カ 両目の間隔は顔の横の長さの2分の1より大きい。」
エ 原告作品3と被告商品3との対比
 証拠(枝番号を含めて甲15)によれば、被告商品3の構成は、別紙原告作品3と被告商品3との対比(判決)記載のとおりであると認められる(なお、被告商品3の位置関係は別紙侵害商品目録に従っている。)。
 そして、原告作品3と被告商品3を対比すると、別紙原告作品3と被告商品3との対比(判決)記載のとおりの相違点が認められるから、被告商品3は、原告作品3を有形的に再製したものではないし、原告作品3の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものではない。
オ 小括
 以上のとおり、被告商品3は、原告作品3と同一又は類似であるとは認められないから、被告商品3が原告作品3を複製又は翻案したものであるとは認められない。
(4) 原告作品4と被告商品4及び5との対比
ア 原告作品4の構成
 証拠(甲3の8)によれば、原告作品4(キリンを腕に抱えたクマの顔)の構成は、以下のとおりであると認められる。
「ア 顔は、縦長の半楕円形に近い形状であり、茶色である。
 イ 耳は、顔の上部左右の端に位置し、半円に近い形状であり、耳の中は黒色で半円に近い形状で描かれている。
 ウ 目は、円形の丸い目である。目の中心には、円形の黒目があり、白目が黒目の周りをドーナッツ状に囲んでいる。黒目の直径は目全体の半径程度である。目の位置は、顔の高さの約半分の高さである。
 エ 鼻は、黒色の扇状で描かれている。
 オ 口は、鼻の下端から黒色の線が下方に伸び、その線が右下及び左下に2本枝分かれした形状で描かれている。
 カ 鼻と口の周りは、下がやや大きい卵形の形状の白色である。卵形の上端はあごの先端から目の位置までの約半分の高さの位置にある。
 キ 両目の間隔は顔の横の長さの2分の1程度である。
 ク 顔の陰影の付け方により、鼻のあたりが前方に突出したように顔が立体的に描かれている。」
イ 原告作品4と被告商品4及び5との対比
 証拠(枝番号を含めて甲17)によれば、被告商品4の構成は、別紙原告作品4と被告商品4との対比(判決)記載のとおりであると認められる(なお、被告商品4の位置関係は別紙侵害商品目録に従っている。)。
 そして、原告作品4と被告商品4を対比すると、別紙原告作品4と被告商品4との対比(判決)記載のとおりの相違点が認められるから、被告商品4は、原告作品4を有形的に再製したものではないし、原告作品4の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものではない。
 また、証拠(枝番号を含めて甲19)によっても、被告商品5の構成が特定できないから、原告作品4と被告商品5との対比ができない。
ウ 小括
 以上のとおり、被告商品4及び5は、原告作品4と同一又は類似であるとは認められないから、被告商品4及び5が原告作品4を複製又は翻案したものであるとは認められない。
(5) 原告作品5と被告商品5との対比
 証拠(枝番号を含めて甲19)によっても、被告商品5の構成が特定できないから、原告作品5と被告商品5との対比ができない。
 したがって、被告商品5は、原告作品5と同一又は類似であるとは認められないから、被告商品5が原告作品5を複製又は翻案したものであるとは認められない。
(6) 検証物提示命令及び文書提出命令の申立てについて
 原告は、証拠上画像が不鮮明な被告商品について、被告会社を相手方として検証物提示命令を申し立てるとともに、当該被告商品に係る原画について、被告甲を相手方として文書提出命令を申し立てた。
 しかしながら、上記(1)〜(5)のとおり、被告商品の構成が特定できる範囲において、原告作品と被告商品を対比しても、被告商品が原告作品を複製又は翻案したものであるとは認められないから、検証物提示命令及び文書提出命令が必要であるとは認められない。
 したがって、上記の検証物提示命令及び文書提出命令の申立ては、いずれも却下する。
(7) まとめ
 以上のとおり、被告商品について、原告作品を複製又は翻案したものであるとは認められないし、原告作品を改変したものであるとも認められない。
 そうすると、その余について判断するまでもなく、著作権法112条に基づく差止・廃棄請求及び著作権・著作者人格権侵害を理由とする不法行為請求は理由がない。
2 原告の営業上の利益を故意に侵害することを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求について
 原告は、被告らが何らの労力も費やさずに容易かつ大量に原告商品を模倣して営業上の利益を上げることは、原告商品の価値を低下させるとともに、原告の顧客を奪うものであって、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて、法律上保護される原告の営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するなどと主張する。
 原告の主張は、被告らが自由競争の範囲を逸脱して原告の営業を妨害したため、原告の営業上の利益が侵害されていることを主張するものと解される。
 しかしながら、本件記録を精査しても、被告らが自由競争の範囲を逸脱して原告の営業を妨害していることを肯定できる事情は見当たらないから、原告の主張は理由がない。
 したがって、その余について判断するまでもなく、原告の営業上の利益を故意に侵害することを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
3 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 西村康夫
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