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【事件名】ジャニーズタレントの写真無断掲載事件(2)
【年月日】平成25年10月16日
 知財高裁 平成25年(ネ)第10052号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第26989号)
 (口頭弁論終結日 平成25年8月5日)

判決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記部分につき、被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人らが、控訴人が被控訴人らを被写体とする写真を掲載した書籍を出版、販売し、これにより、被控訴人らの肖像等が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)及びみだりに自己の容貌等を撮影されず、また、自己の容貌を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益が侵害されたと主張して、それぞれ、控訴人に対し、不法行為による損害金及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、上記侵害のいずれかに基づく上記各書籍の出版及び販売の差止め並びにその廃棄を求める事案である。
 原判決は、 控訴人が上記各写真を上記各書籍に掲載する行為は被控訴人らのパブリシティ権を侵害するものであるとした上で、控訴人に対し、被控訴人らの各損害賠償請求及び遅延損害金請求の一部についての支払、上記各書籍の出版、販売の差止め及び廃棄を命じる限度で被控訴人らの請求を認容した。これに対し控訴人がその敗訴部分につき控訴した。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実)、争点及び争点についての当事者の主張
 前提となる事実(当事者間に争いのない事実)、争点及び争点についての当事者の主張は、次のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の1ないし3記載のとおりであるから、これを引用する(以下、原判決を引用する場合は、「原告」を「被控訴人」と、「被告」を「控訴人」と、それぞれ読み替える。)。
(1) 原判決5頁22行目から6頁1行目にかけての「本件各書籍は、」から同頁5行目の「すぎない。」までを次のとおり改める。
 「本件各書籍は、それぞれ1個の商品としてみると、被控訴人らに関する様々なエピソードを紹介しつつ、被控訴人らの芸能人としての歩みを論ずるものであり、その中心は、被控訴人らに関する文章であって、これらの文章はファンにとって有益な情報提供するという独立の価値を有するものである。これに対し、本件各写真は、おおむね被控訴人らに関する解説記事と関連する形で掲載されているほか、本件各書籍における文章が必ずしもそこに掲載されている写真を補足するものばかりでなく、写真には現れないエピソード等を解説するものも少なからずある。さらに、本件各写真は、その容貌やファッション等の変遷や主たる芸能活動の歴史を視覚的に表現するのに必要な限度で用いられているにすぎない。このように、本件各書籍において、各文章は独立した意味のない添え物ではない。」
(2) 原判決18頁3行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
 「(イ) 本件各書籍を購入した消費者が被控訴人らの許諾を得て制作された写真集を購入しなくなることはないし、控訴人が本件各書籍を出版しなかったとしても、被控訴人らが本件各書籍と同内容の書籍を自ら出版し又は第三者が出版することに許諾を与えていたはずだともいえない。したがって、本件各書籍の出版に当たり被控訴人それぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害は、控訴人による本件各書籍の出版、販売から通常生ずべき損害ではない。」
(3) 原判決18頁4行目「(イ)」を「(ウ)」と改める。
(4) 原判決18頁8行目「使用料率等は、」の次に「印税や写真集への出演料等とされているものがある上に、ジャニーズ事務所やそのグループ会社間のものも含まれているほか、ジャニーズ事務所の許諾を得て制作された被控訴人らの写真集では、出版社が指定するロケ地に被控訴人らを派遣し、要求されるポーズをとらせるといった付加価値が提供されており、出版社から支払われる金員にはこれらに対する報酬が含まれるなど、」を加える。
(5) 原判決18頁9行目「ジャニーズ事務所」を「被控訴人ら」と改める。
(6) 原判決18頁13行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
 「また、本件各書籍は、一流のライターに委託して作成された相当量のコラム等を掲載しており、本件各書籍における被控訴人らの肖像等の寄与度は被控訴人らの正規の写真集における寄与度よりも低い。
  さらに、損害額を算定するに当たっては、本件各書籍の発行部数でなく、実売部数を基礎とすべきである。」
(7) 原判決19頁9行目冒頭に「最高裁平成13年(オ)第851号、同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・集民207号243頁(以下「平成14年判決」という。)に照らすと、権利侵害により生ずべき損失が金銭賠償によっては回復が困難であるという特別な事情がない限り、パブリシティ権に基づく書籍等の出版、販売の差止めは許されないと解すべきところ、」を加える。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人が本件各写真を本件各書籍に掲載する行為は被控訴人らのパブリシティ権を侵害するものであるので、被控訴人らの請求は、原判決の認容した額の限度での損害金及び遅延損害金の支払請求、本件各書籍の出版及び販売の差止請求並びに控訴人の占有する本件各書籍の廃棄請求につき理由があるものと判断する。
 その理由は、次のとおり原判決を補正する(以下、掲記の証拠のうち、枝番のあるものは枝番を含む。)ほかは、原判決「事実及び理由」の第3の1ないし4記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決20頁20行目「顧客吸引力」の次に「を」を加える。
2 原判決104頁8行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
 「(4) これに対し、控訴人は、本件各書籍において文章は独立した意味のない添え物ではなく、本件各書籍は、肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用したものではないので、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえない旨種々主張する。
  しかし、上記(3)認定の本件各書籍における本件各写真の大きさや枚数等の掲載態様、コラム等の文章の内容や分量、本件各写真とコラムとの関連性の程度等に照らすと、控訴人の種々主張する点は、いずれも本件各書籍への本件各写真の掲載が、被控訴人らの肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、専ら上記被控訴人らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものであるとの認定を左右するものとはいえない。
  よって、控訴人の上記主張を採用することはできない。」
3 原判決104頁16行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
 「控訴人は、本件各書籍の出版に当たり、被控訴人それぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害は、控訴人による本件各書籍の出版、販売から通常生ずべき損害ではない旨主張する。
  しかし、パブリシティ権を侵害する態様で被控訴人それぞれを被写体とする写真を使用する場合には被控訴人それぞれから許諾を得る必要があるところ、パブリシティ権が肖像等それ自体の商業的価値に基づくものである以上、通常、上記の許諾を得るためにはその対価の支払が必要となるものと認められる。そして、無許諾で上記のような写真が使用されれば、被控訴人らは上記の許諾の対価を得られなくなる以上、被控訴人それぞれを被写体とする写真の使用を許諾する場合に被控訴人それぞれが通常受領すべき金銭に相当する額は、控訴人による本件各書籍の出版、販売から通常生ずべき損害であるといえる。
  よって、控訴人の上記主張を採用することはできない。」
4 原判決106頁14行目「イ」の次に「(ア)」を加える。
5 原判決106頁20行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
 「(イ) 控訴人は、被控訴人らの正規の写真集に係る契約における使用料率等は、印税や写真集への出演料等とされているものもある上に、ジャニーズ事務所やそのグループ会社間のものも含まれているほか、ジャニーズ事務所の許諾を得て制作された被控訴人らの写真集では、出版社が指定するロケ地に被控訴人らを派遣し、要求されるポーズをとらせるといった付加価値が提供されており、出版社から支払われる金員にはこれらに対する報酬が含まれるので、上記使用料率等は被控訴人らに支払われる肖像等の使用料を適切に反映したものではないとか、仮に出版社等から被控訴人らに使用料等が支払われるとしても、そのうちの一定額は、仲介手数料等としてジャニーズ事務所に徴収されるのであるから、被控訴人らの正規の写真集に係る契約書の内容は、本件各書籍で被控訴人らの肖像等が使用されたことによって被控訴人らが被った損害の額を算定する際の参考にはならないなどと種々主張する。
  しかし、被控訴人らの正規の写真集に係る契約書(甲16〜19)は、それぞれ専ら被控訴人らの肖像を利用する写真集(乙7〜10)の出版に関わるものである上に、その契約内容に照らしても、支払われた対価は、その名目に関わらず、被控訴人らの肖像等の使用に対して支払われたものであるものと認められる。
  また、被控訴人らの提出した被控訴人らの正規の写真集に係る契約書には、ジャニーズ事務所のグループ会社ではない出版社との間のもの(甲16、18)も含まれている。
  さらに、出版社が指定するロケ地に被控訴人らを派遣すること等が、被控訴人らの正規の写真集に係る契約における使用料率等に反映されていることを裏付ける的確な客観的証拠はない。
  仮に出版社等から被控訴人らに支払われた使用料等の一定額が仲介手数料等としてジャニーズ事務所に支払われたとしても、それは被控訴人らとジャニーズ事務所との間の問題であって、これが本件各書籍で被控訴人らの肖像等が使用されたことによって被控訴人らが被った損害の額に影響を及ぼすものとはいえない。
  そして、控訴人が他に種々主張する点も、いずれも上記(ア)の認定を左右するものではない。
  以上に加え、本判決の認定する使用料率が10%であり、被控訴人らの正規の写真集に係る契約(甲16〜19)におけるものより低率であることも併せ考えると、控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。
 (ウ) 控訴人は、本件各書籍は、一流のライターに委託して作成された相当量のコラム等を掲載しており、本件各書籍における被控訴人らの肖像等の寄与度は被控訴人らの正規の写真集における寄与度よりも低いなどと主張する。
  しかし、前記1認定のとおり、控訴人が本件各写真を本件各書籍に掲載する行為は、被控訴人らの肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、専ら上記被控訴人らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものである上に、本判決の認定する使用料率が10%であり、被控訴人らの正規の写真集に係る契約書(甲16〜19)におけるものより低率であることも併せ考えると、本件各書籍にコラム等が掲載されているからといって、前記(アの認定が左右されるものではなく、控訴人の上記主張を採用することはできない。
 (エ) 控訴人は、損害金を算定するに当たっては、本件各書籍の発行部数でなく、実売部数を基礎とすべきである旨主張する。
  しかし、控訴人は被控訴人らの許諾を受けない限り本件各書籍を発行することができない以上、控訴人が本件各書籍を発行すること自体が被控訴人らのパブリシティ権の侵害行為となるものと解される上に、被控訴人らの正規の写真集に係る契約(甲16〜19)においても発行部数に応じて対価が定められていることに照らすと、控訴人の上記主張を採用することはできない。」
6 原判決118頁10行目から同頁11行目にかけての「あること」を「であり、かつ、顧客吸引力を排他的に利用する権利をその内容とすること」と改める。
7 原判決118頁13行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
 「控訴人は、平成14年判決に照らすと、権利侵害により生ずべき損失が金銭賠償によっては回復が困難であるという特別な事情がない限り、パブリシティ権に基づく書籍等の出版、販売の差止めは許されないと解すべきであるなどと主張する。
  しかし、平成14年判決は、名誉権ないしはプライバシーの利益等に基づく書籍の出版等の差止めに関する事案であり、本件とは事案を異にするので、控訴人の上記主張はその前提を欠くというほかないし、上記のパブリシティ権の性質に照らしても、控訴人の上記主張を採用することはできない。」
第4 結論
 以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 西理香
 裁判官 神谷厚毅


(別紙)当事者目録
控訴人 株式会社アールズ出版
同訴訟代理人弁護士 小倉秀夫
同 橋本一成
被控訴人 Y1
被控訴人 Y2
被控訴人 Y3
被控訴人 Y4
被控訴人 Y5
被控訴人 Y6
被控訴人 Y7
被控訴人 Y8
被控訴人 Y9
被控訴人 Y10
被控訴人 Y11
上記11名訴訟代理人弁護士 矢田次男
同 小川恵司
同 大東泰雄
同 鳥居江美
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