判例全文 line
line
【事件名】弁護士 vs 行政書士 ブログ事件(2)
【年月日】平成25年9月25日
 知財高裁 平成25年(ネ)第10004号 信用毀損行為差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成24年(ワ)第11119号)
 (口頭弁論終結日 平成25年7月10日)

判決
控訴人(第1審被告) X
被控訴人(第1審原告) Y


主文
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて、被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 主文と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、弁護士である被控訴人が、行政書士である控訴人が自らのブログに原判決別紙記事目録記載の被控訴人に関する虚偽の記事を掲載して被控訴人の営業上の利益を侵害したとして、控訴人に対し、不正競争防止法2条1項14号、3条に基づき、上記各記事の掲載の禁止及び削除を求めるとともに、同法4条に基づく損害賠償として744万円及びこれに対する上記各記事の掲載開始後の日である平成24年5月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、上記各記事のうち原判決別紙記事目録の主文欄記載の各記事について、その掲載が被控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実の流布に当たるとして、控訴人に対し、その掲載の禁止及び削除並びに信用毀損による損害の賠償として50万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる限度で被控訴人の請求を認容し、被控訴人のその余の請求をいずれも棄却したため、同請求認容部分を不服とする控訴人が前記裁判を求めて控訴した。したがって、当審における審理判断の対象は、同請求認容部分のみである。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決を下記のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」第2の1及び2に摘示されたとおりであるから、これを引用する(以下、略語は原判決と同様のものを用いるとともに、原判決を引用する場合、原判決中に「被告」とあるのを「控訴人」と、「原告」とあるのを「被控訴人」と、それぞれ読み替えることとする。)。
(1) 原判決4頁9行目の「同月4日付け内容証明郵便」の後に、「(以下「本件通知書」という。)」を挿入する。
(2) 原判決5頁20行目の「原告の名誉」を「控訴人の名誉」と、同頁21行目の「原告を侮辱」を「控訴人を侮辱」と、それぞれ改める。
(3) 原判決8頁13行目の「交渉を無意味なものにした」から15行目の「正当な批判である。」までを、次のとおり改める。
 「交渉を無意味なものにした。また、被控訴人は、控訴人との電話の際、「南洋株式会社は初めから法的手段を望んでいた」、「お互い(南洋と控訴人)のためを思って、内容証明を控訴人に送った」と発言した。
 控訴人が、これらの事実を前提として、本件第1記事において、被控訴人の手法について、「弁護ミス(弁護過誤)」、「依頼人(南洋)の意思を無視した余計なこと」、「手抜きをするほど傲慢」、「手抜きをしてわざと交渉を決裂させて裁判に持ち込もうとした」と述べたことは、仮定としていくつかの可能性を示した上での正当な意見ないし論評であり、本件第2記事において「理由も言わずに、ブログを削除しろと要求することが、弁護士として正しいのか」と述べたことも、正当な批判である。」
(4) 原判決9頁1行目から2行目の「正当な論評である。」を次のとおり改める。
 「正当な論評ないしは法的見解の表明である。
 これらのうち「詐欺的取引の助長」については、被控訴人が南洋による詐欺を見抜けなかったとの意見表明であり、被控訴人が南洋による詐欺を認識していたとの意見表明ではない。
 また、本件第6記事については、控訴人は、被控訴人が先行記事の削除を求めた10件の仮処分申立てのうち9件を取り下げたことを、読者に分かりやすく1勝9敗と意見表明ないし論評したにすぎず、これらの申立てが却下されたとの事実を摘示したのではない。
 さらに、本件第7記事についても、被控訴人が控訴人を恐れているとか、被控訴人による仮処分申立てが嫌がらせを主な目的とするものである旨の表現は、被控訴人の内心の問題についての意見ないし論評にすぎない。」
(5) 原判決9頁19行目の「原告の主張は否認ないし争う。」の次に、改行の上、次のとおり加える。
 「本件に係る控訴人と被控訴人の間の紛争には、被控訴人が本件かなめくじ記事を掲載して控訴人をおとしめようとした名誉毀損行為に端を発し、被控訴人の控訴人に対する数々の誹謗中傷・信用毀損行為が存在することを考慮すべきである。」
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、被控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。なお、当審における審理の対象は、原審が被控訴人の請求を認容した部分であるので、以下においては、本件第1記事、本件第3記事、本件第6記事ないし本件第12記事中、原審で被控訴人の請求が認容された部分について、当該記事全体を解釈した上で判断する。
1 争点@(被控訴人と控訴人とが競争関係にあるか)について
 原判決の「事実及び理由」第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。
2 争点A(控訴人が被控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布しているか)について
(1) 本件各記事については、直接的に被控訴人に関する特定の事実を摘示するものと、ある事実を基礎としての控訴人の意見ないし論評を記載したにすぎないものとが含まれている。そして、本件各記事の記載が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときには、当該記載は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)、証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議ないし法的な見解の表明は、事実を摘示するものではなく、意見ないし論評の表明の範ちゅうに属すると解すべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。もっとも、一見して意見ないし論評の表明とみえる場合であっても、特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解される場合には、事実の摘示を含むというべき場合もあると解すべきであることは否定し得ない(前掲最高裁平成16年7月15日第一小法廷判決参照)ため、不正競争防止法2条1項14号の「虚偽の事実」の陳述、流布の解釈においても、本件各記事中、原審が「虚偽の事実の流布」に当たると認定した部分について、一般の閲覧者の通常の理解ないし読み方を基準に、前後の文脈や一般の閲覧者が有している知識ないし経験も考慮して、事実の摘示に当たるか、単なる意見ないし論評であるか、あるいは、一見して意見ないし論評の表明とみえる場合であっても、特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解される場合に当たるか否かを判断し、事実の摘示と認められるものについては、続いて「虚偽の事実」かどうかを判断する。
(2) 本件第1記事について
 本件第1記事は、これを要約すると、控訴人が本件ブログに掲載した本件各先行記事において、南洋の有価証券を購入するようにとの勧誘について、南洋が損失を取り戻すと偽って、南洋の社債を買わせようとしている被害回復型の詐欺であると記載したのに対し、@被控訴人が、南洋の代理人弁護士として、控訴人に対し、本件通知書により、事実に反するからとして本件ブログ中の本件各先行記事を削除することを求め、控訴人の書面による質問に対し、電話で、事実に反する点は教えられない、本件ブログを削除するかどうかだけを聞きたいと答えたとの部分と、A上記事実を前提として、被控訴人の弁護士としての対応について述べた部分とに分かれる。上記Aの記載については、より具体的には、南洋が初めから法的手段を望んでいるなら、本件通知書を送ることは、南洋の意思を無視した弁護過誤であるし、内容証明作成料を稼ぐ狙いかと勘ぐりたくなる、逆に、南洋が法的手段まで望んでいないとすれば、手抜きの内容証明郵便だけでブログの削除を求める被控訴人は傲慢であったか、被控訴人は手抜きをしてわざと交渉を決裂させて裁判に持ち込もうとしたかのいずれかである、南洋は弁護士をもっと選ぶべきである、というものである(このうち、被控訴人が虚偽の事実であると主張しているのは上記Aの記載であり、原審認容部分も上記Aの記載である。)。
 本件第1記事を全体としてみると、一般の閲覧者としては、控訴人が南洋から依頼された弁護士である被控訴人から、本件通知書により本件各先行記事について削除を求められた等の上記@の記載における事実の摘示と、控訴人が弁護士である被控訴人の対応について、上記Aの記載のとおり、幾つかに場合分けしながら、意見を述べたり、これを論評していることを理解するものと認められる。すなわち、上記Aの記載については、単に、上記@の記載における事実を前提として、控訴人が、弁護士としての被控訴人の対応について、南洋の最終的な意図等が明確ではないとして、一定の仮定をして場合分けした上で、意見を述べたり論評したりしているものであり、証拠による証明にはなじまない事項であって、一般の閲覧者としては、被控訴人の弁護士としての行為ないし対応について、上記@の記載が事実の摘示であり、上記Aの記載は、一定の仮定に基づく控訴人独自の意見ないし論評にすぎないと理解するものと認められる。結局のところ、一般の閲覧者の通常の理解と読み方を基準にしても、上記Aの記載は、その記載内容からみて、意見ないし論評の形式を取りながら、上記@の記載における事実を超えて他の特定の事実を主張しているようなものとして理解されるものとは認められず、むしろ、控訴人が、本件ブログ上の記述が事実に反するとして本件通知書で削除を求められたのに対し、その差出人である被控訴人の行動を揶揄する以上のものではないと理解されるものと認められる。
 よって、本件第1記事中、上記Aの記載について、事実の摘示があることを前提として、これが「虚偽の事実の流布」に当たるとする被控訴人の主張を採用することはできない。
(3) 本件第3記事について
 本件第3記事は、これを要約すると、@南洋が青森県漁連や青森県庁の名前を勝手に使い、社債集めに利用したことが明らかになった、A南洋の口座が、振り込め詐欺救済法により凍結された事実も判明している、Bこの南洋から依頼を受けて、「南洋の名誉や信用を著しく害する」として、理由も告げずに、本件ブログを削除させ、控訴人の本件ブログを潰そうとしているのが、弁護士である被控訴人である、C被控訴人は、そのホームページで、控訴人が出所の不確かな情報を根拠に、南洋について誹謗中傷記事を掲載し、その名誉や信用を害していると主張している、D弁護士は、「詐欺的取引の助長」と「不当な事件の受任」をしてはならない(弁護士職務基本規程14、31条)し、「事実関係の調査を行うように努める」(同37条)とされる、E弁護士は悪質商法をするような会社の代理人になってはいけないし、「悪質商法を続けるために、批判者の言論を封じる」ための依頼を受けてはいけない、依頼を受けた後でも、依頼者に忠告するか、辞任すべきである、F「私は依頼者の意思を忠実に実行しただけだ。代理人だから関係ない。」という理屈は通用しない、G南洋の問題点はホームページやパンフレットを見ただけでもすぐにわかる、「依頼人を信じていたので、気付かなかった」という言い訳も通用しない、H「詐欺的取引を助長」することは重大であり、ネット上から批判者を消していくことで、悪質商法をやりやすくし、被害者を増大させていくことは許されない、I代理人である以上、南洋だけでなく、被控訴人に対しても責任追及を続けていく、というものである(このうち、被控訴人が虚偽の事実であると主張しているのは上記BないしIの記載であり、原審認容部分は上記DないしIの記載である。)。
 本件第3記事中、上記@ないしCの記載は、事実を摘示するものである。証拠(甲3の3・4各A・B、乙6の1ないし3、乙7・8の各1・2、乙9、10の1、乙28、29、47)及び弁論の全趣旨によれば、南洋は、平成23年、「高級乾燥黒ナマコ生産プロジェクト」と称して、青森県や青森県漁連等と共同して香港にアンテナショップを開設する予定などなかったのに、そのような予定がある旨をパンフレットに記載して出資を募っており、同年11月20日頃には青森県漁連が、同月25日には青森県が、それぞれ南洋のプロジェクトに関与しておらず、その名称を無断で使用されたことについて抗議したことを公表しその旨の注意喚起をしていること、南洋は、複数の金融機関からその預貯金口座がいわゆる振り込め詐欺救済法上の犯罪利用預金口座等である疑いがあると認められて取引停止等の措置を受け、同年7月以降、預金保険機構による債権消滅手続開始の公告が順次されたこと、並びに、本件第3記事掲載後ではあるが、平成23年12月5日には南洋が青森県に対し上記名称無断使用等に対しお詫びをし、パンフレットから青森県の名称を削除したことを青森県及び青森県漁連がそれぞれ公表したこと、また、平成24年2月20日に、南洋の代表者であるA(以下「A」という。)や同社関係者など17名が、上記プロジェクトに関する投資を巡って現金を詐取した詐欺容疑で逮捕されたこと、その後、Aらは、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律所定の組織的な詐欺の罪で起訴され、A以外の南洋関係者の中には、平成25年5月までに有罪判決が確定している者もいることが認められる。
 これらの事実に照らすと、南洋については、上記@の記載における、青森県や青森県漁連の名前を勝手に使い、社債集めに利用していたこと、及び上記Aの記載における振り込め詐欺救済法による口座凍結の事実の摘示は真実の摘示である。また、Aに関する一審判決はまだ言い渡されてはいないものの、南洋が組織的に詐欺行為を行っていたことが相当程度疑われることは明らかであり、被控訴人が控訴人に対し、南洋が被害回復型の詐欺を行っている旨を指摘した本件各先行記事の削除を求めたことも事実であるから、上記Bの記載も真実の摘示であり、さらに、被控訴人のホームページに上記Cの記載があったことについても、虚偽の事実の摘示と認めることはできない(乙14の2)。
 そして、弁護士職務基本規程に、上記Dの記載にある規定が存在することはそのとおりであるから、上記Dの記載も虚偽の事実の摘示ではない。また、上記E及びFの記載も、弁護士は、悪質商法をするような会社の代理人になってはいけない等の控訴人の意見の表明であり、上記Iの記載も、被控訴人の責任追及を続けるとの控訴人の意見ないし決意の表明であり、いずれも控訴人の意見ないし決意の表明であって、事実の摘示ではない。さらに、上記G及びHの記載若しくは上記DないしF及びIの記載における意見の表明も含めた上記DないしIの記載は、被控訴人が、南洋による詐欺を認識していたか、あるいは受任に際し必要な注意を怠って南洋による詐欺に気付かないまま、南洋の代理人として本件各先行記事の削除を求めることにより、南洋による詐欺の遂行を容易にし、詐欺的取引を助長したとの事実を摘示し、その責任は重大である等の意見を表明したものである。被控訴人が南洋から本件各先行記事の削除の依頼を受けた当時、既に南洋の銀行口座が振り込め詐欺救済法上の犯罪利用預金口座として複数の金融機関により取引停止の措置を受け、預金保険機構による債権消滅手続開始の公告が順次されていたことは前記認定のとおりであることからすると、被控訴人が受任当時において弁護士として必要な調査をすれば、南洋が詐欺行為をしている蓋然性が高いことに気が付くことは可能であった(本件においては、被控訴人が必要な注意を尽くして調査をしたことをうかがわせるような証拠の提出もない。)といわざるを得ない。このように、被控訴人が南洋からの受任に当たり必要な注意を怠ってこれらの調査をせずに、その後も、南洋の代理人として活動するに当たり、必要な調査をすることなく、控訴人に対し、本件各先行記事の削除を求めるなどし、結果として、南洋の詐欺的行為を容易にする方向で活動する結果となったのであるから、上記G及びHの記載若しくは上記DないしF及びIの記載における意見の表明も含めた上記DないしIの記載は、虚偽の事実の摘示であるとまでは認められない。
 なお、詐欺的取引の助長を禁止する弁護士職務基本規程14条に違反するというためには、当該弁護士が違法又は不正な行為を知っていたことが必要であると解され、弁護士が過失等により詐欺的取引を助長する結果となった場合には、それが弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」と判断されることもあり得ると解されるものの(甲6)、このような弁護士職務基本規程や弁護士法の解釈が一般の閲覧者にとってよく知られているところであるとはいい難いことからすれば、一般の閲覧者としては、弁護士が過失により詐欺的取引を助長する結果となった場合も、弁護士法等の何らかの職務規程に違反すると理解するところである。また、上記Dの「弁護士は、・・・「事実関係の調査を行うように努める」(同37条)」との記載、及び上記Gの記載の、南洋の問題点はホームページやパンフレットを見ただけでもすぐにわかる、「依頼人を信じていたので、気付かなかった」という言い訳も通用しない、などの記述からすれば、上記DないしIの記載は、被控訴人が南洋の詐欺行為を知っていた場合のみならず、被控訴人が必要な注意を怠り、南洋による詐欺に気付かなかったことにより、南洋の詐欺行為を助長する結果となったことを含む事実の摘示があると解すべきであり、そのうちの後者については虚偽の事実の摘示であるとまで認められないことは上記のとおりである。
(4) 本件第6記事について
 本件第6記事は、これを要約すると、@被控訴人がニフティを相手として、本件ブログと訴外Bのブログの削除を求めて、東京地裁に仮処分申立てをしていたところ、15日に裁判所の決定が出て、被控訴人が、そのブログの中で、控訴人のブログに掲載された誹謗中傷記事の削除に成功との記事をアップした、A被控訴人の記事だけを読むと誤解するので、正確なことを伝える、B被控訴人は、控訴人の本件ブログ中の6件の記事と、Bの4件の記事削除の申立てをしていたが、合計10件のうち、裁判所が削除を一応認めたのが1件だけである、C被控訴人の1勝9敗であり、控訴人が被控訴人を批判した内容は全て誹謗中傷には当たらないとされた、B氏の記事に至っては、被控訴人は全敗である、D控訴人からみると5勝1敗であり、被控訴人からみると明らかな負け越しであり、「削除に成功」とはとてもいえない、E被控訴人が南洋の代理人として、詐欺的取引の助長をしたという事実については、弁護士会への懲戒請求を通じて、被控訴人の責任を追及する、F誹謗中傷に当たらないとされた記事5件と削除決定が出された記事1件の各タイトルの記載、というものである(このうち、被控訴人が虚偽の事実であると主張しているのは、上記AないしFの記載であり、原審認容部分は上記AとCないしFの記載である。)。
 上記@の記載については、そもそも虚偽の事実であるとの主張がなく、上記Aの記載については、それ自体では事実の摘示がないことは明らかである。
 そして、前記前提事実(2)エに証拠(甲7、乙12)及び弁論の全趣旨によれば、ニフティ株式会社が管理する電子掲示板には、本件ブログやジャーナリストのBが公開するブログ「NEWS RAGTAG」(以下「Bブログ」という。)が掲示されていたところ、被控訴人は、平成23年11月頃、南洋の代理人として、ニフティ株式会社に対し、本件ブログ上に掲載された本件各先行記事及びその関連記事4件並びにBブログ上に掲載された関連記事4件の合計10件の記事の削除を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てたものの、その後、本件第2先行記事を除く9件の記事の削除の申立てを取り下げ、同年12月15日、本件第2先行記事の削除を命じる決定を得たことが認められる。そして、仮処分の申立ての上記取下げについては、被保全権利が認められない(被控訴人に対する名誉毀損は認められない。)との裁判所の示唆を踏まえてされたことがうかがわれ(乙19の添付資料13)、このような申立ての取下げについては、裁判所が被控訴人の被保全権利についての主張を認めなかったものであるから、上記Bの記載は真実の摘示であり、上記C及びDの記載中の、被控訴人の1勝9敗、控訴人の5勝1敗との記載も、虚偽の事実の摘示であるということはできない。なお、取下げにより終了したものについては、その理由が明示されていないとはいえ、上記C及びFの記載中の、控訴人が被控訴人を批判した内容は全て誹謗中傷には当たらないとされた、あるいは「誹謗中傷にあたらないとされた記事」との記載についても、裁判所が被保全権利を認めなかったことからすると、虚偽の事実の摘示であると認めることはできない。なお、上記Aの記載は、被控訴人が削除に成功との記事を掲載したことに対し、正確なことを伝えるとの趣旨で述べたものであるにすぎず、上記の結論を左右するものではない。
 また、上記Eの記載については、被控訴人が南洋による詐欺の遂行を容易にしている旨の事実の摘示と解されるものの、これが虚偽であるとまでは認められないことについては、本件第3記事について説示したとおりである。
(5) 本件第7記事について
 本件第7記事は、これを要約すると、@控訴人が懲戒請求における被控訴人の答弁書全文を掲載したところ、被控訴人がニフティとYahooの両者に対し、著作権法違反に基づき、削除の仮処分の申立てをした、A被控訴人の行為は、嫌がらせを主な目的とする訴訟であるスラップ(SLAPP)である、B被控訴人は、昨年、東京都行政書士会に控訴人の苦情申立てをしたが、控訴人への処分はなく、ニフティに10件の記事削除の仮処分申立てをしたが、1件しか認められず、他の9件は取下げになったにもかかわらず、今回、ニフティとYahooに著作権法違反による記事削除の仮処分申立てをした、仮処分を乱発することは、被控訴人も宣言しているが、控訴人に対しては直接法的手段をとってこない、C控訴人にブラフは通用しない、被控訴人は控訴人をなぜか恐れている、D嫌がらせ目的のスラップをモラルの欠如した弁護士が行うと、社会に害悪を及ぼす、というものである(このうち、被控訴人が虚偽の事実であると主張しているのは、上記AないしDの記載であり、原審認容部分は上記A、C及びDの記載である。)。
 上記@の記載については、被控訴人も虚偽の事実と主張しておらず、真実の摘示である。上記Bの記載については、事実の摘示であるものの、前記前提事実(2)及び前記(4)に認定したところによれば、真実の摘示である。
 上記Aの記載については、上記Bの記載における事実等を前提とした上で、被控訴人の行為が嫌がらせ目的の訴訟であるスラップに当たるとの控訴人の意見の表明ないし批判であると同時に、被控訴人が控訴人に対し続けていることがスラップに当たるとの事実の摘示とみることもできるものである。
 そして、前記前提事実(2)に弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人と被控訴人は、控訴人が本件ブログに本件各先行記事を掲載し、被控訴人が南洋の代理人としてその削除を求めたことを発端として、それぞれが運営するブログにおいて互いに相手方を非難する記事を掲載し合い、また、被控訴人が控訴人の本件ブログ上の記事の削除を求める仮処分申立てを行ったのに対し、控訴人は、被控訴人の記事により名誉を毀損されたなどとして損害賠償請求訴訟を提起し、さらには、互いに所属の行政書士会や弁護士会に対する苦情申立てや懲戒請求を行うなどした上、これらの経過について、それぞれのブログにおいて逐一掲載してきたものである。そして、被控訴人は、被控訴人ブログ等において、平成23年12月に9件の記事に係る仮処分申立てを取り下げたことに関しては、「今回は、ニフティさんに配慮したのと、どうせこれからもバカな書き込みを続けると予想できたから、どうせなら何度も何度も仮処分してやろうということで、取り下げてやっただけのこと。取り下げだから、今回は免れたものについても、何度でも何度でも申立てできるからね。ニフティさんには、迷惑かかるけど、何回目ぐらいまでなら、やさしく対応してくれるのかなぁ。今回既にかなり迷惑そうだったし、所詮は無料会員だから、次はないかもね(笑)。」などと述べていたところであるが(乙12)、上記取下げから程なくしてニフティ株式会社及びヤフー株式会社に対して上記仮処分申立てを行ったことに関しては、「今回の仮処分申立ては、はっきり言って、新しい削除仮処分の実験です。すなわち、新しい削除仮処分の類型として、著作権を理由とした削除の仮処分の申立て方法を試みるために、ちょうどいい実験台がいたので、ブログに掲載することを見越して、わざとひな型のないような答弁書を作成して、今回の申立てへと持っていったわけです。実験が成功すれば、かなめ行政書士事務所のブログには、他のいろいろな文章もいっぱい勝手にのせているから、いろいろ楽しめそうですよね。」などと述べており(乙13)、被控訴人が自らの被った権利侵害に対し救済を求めようとする真摯な意思に基づいて上記仮処分申立てを行ったといえるのか疑問の余地もないわけではない。
 これらの経過を踏まえると、被控訴人による仮処分申立ての実質的な相手方である控訴人が、上記Aの記載において、被控訴人が嫌がらせの目的で仮処分を続けて申し立て、これがスラップに当たるとの意見を表明したことについては、全く根拠がないものであるということはできず、それなりの理由があるものであるから、これが単なる意見の表明ではなく、その旨の事実の摘示であるとしても、虚偽の事実であると認めることはできない。
 また、上記Cの記載における、控訴人にブラフは通用しない、被控訴人は控訴人をなぜか恐れているなどとの記載は、事実の摘示とみることもできるものではあるものの、むしろ一般の閲覧者においては、被控訴人について上記の事実が摘示されているというよりは、単に、仮処分申立ての実質的な相手方とされた紛争の一方当事者が、申立人である他方当事者を揶揄しているにすぎず、単なる意見の表明ないし批判であると捉えるのが通常であり、これにより被控訴人について虚偽の事実の摘示があるとはいい難いものである。
 さらに、上記Dの記載については、被控訴人がモラルの欠如した弁護士であるとの意見の表明と、被控訴人が嫌がらせ目的の仮処分申立て(スラップ)をすることにより、社会に害悪を及ぼしているとの意見の表明であると同時にその旨の事実の摘示とみることもできるものである。そして、上記Dの記載のうち、被控訴人がモラルの欠如した弁護士であるとの記載は、やや不適切なものであるが、本件第7記事全体の文脈からしても、控訴人の意見ないし論評の表明であり、事実の摘示であるとまではいえない(なお、意見ないし論評の表明であっても、その域を逸脱する場合は、不法行為となることもあり得るものの、本件は、不正競争防止法の虚偽の事実の流布に当たることを前提とする請求であるので、この点については判断しない。)。また、上記Dの記載のうち、その余の記載については、被控訴人が嫌がらせ目的で仮処分の申立て(スラップ)をし、南洋の詐欺的行為を容易にする結果となったことは、事実の摘示ではあるものの、虚偽の事実の摘示とまでいえないことは、前記したところ及び本件第3記事について説示したとおりである。
(6) 本件第8記事ないし本件第12記事について
 本件第8記事については、これを要約すると、@控訴人が、平成24年1月27日に、被控訴人を被告として名誉毀損による損害賠償請求の訴えを東京地裁に提起した、Aこれは、控訴人と、虚偽記載をするような問題企業の代理人として批判者の口封じをする弁護士との戦いである、Bネット上から控訴人のような批判者の言論が全て消えてしまうと問題企業が野放しの状態となり、いろいろな情報を手に入れられないまま、社債等に大金を投じることになる、C裁判の中で、南洋についても、さまざまなことを明らかにしていくつもりである、というものである(このうち、被控訴人が虚偽の事実であると主張しているのは、上記@ないしCの記載であり、原審認容部分は上記Aの記載である。)。
 上記@の記載は、事実の摘示であるが、真実である。そして上記Aの記載については、南洋がパンフレット等に虚偽の記載をして詐欺行為をする問題企業であり、被控訴人が南洋の批判者である控訴人に対し、本件各先行記事の削除を求めてきたことが、虚偽の事実の摘示であるとは認められないことは、本件第3記事について説示したとおりである。また、上記B及びCの記載は、これらの事実を前提とした控訴人の意見ないし今後の決意表明であるから、事実の摘示ではない。
 本件第9記事から本件第12記事については、このうち原審が認容した部分を要約すると、本件第9記事については、D被控訴人が詐欺的取引の助長をしてきた、詐欺の疑いのある会社を守るために、批判者の口封じをすることは、詐欺的取引の助長に当たり、許されない、被控訴人に対しては、懲戒請求の追加申立てをする予定である、本件第10記事については、Eこれ(判決注・南洋の口座凍結)は、被控訴人が詐欺的取引の助長をしていたことの強い証拠になる、本件第11記事については、F(南洋のAの再逮捕のニュースに対し、被控訴人は沈黙しているが、コメントを出すべきであるとの記載に続いて)これまで南洋を詐欺だと批判する探偵事務所に対して、「事実に反し、名誉毀損だ」として、口封じをしてきたわけである、本件第12記事については、G詐欺で逮捕されたA容疑者らと、その代理人として「批判者の口封じ」を行ってきた被控訴人との経緯がここにまとめられている、というものである。
 上記D、E及びGの記載は、前後の文脈や「批判者の口封じ」、「詐欺的取引の助長」の語義からすると、被控訴人が、南洋による詐欺的行為を認識していたか、あるいは受任の際に必要な注意を怠り南洋による詐欺的行為に気付かないまま、南洋の代理人として本件各先行記事の削除を求めることにより、南洋による詐欺的行為の遂行を容易にしてきたという事実が摘示されているといえるものの、これらの記事に摘示された事実が虚偽のものであるとは認められないことは、本件第3記事について説示したところと同様である。また、上記Fの記載についても、証拠(甲5の1ないし3)によれば、被控訴人は、南洋の代理人として、複数の調査会社等に対し、本件通知書と同旨の通知書を送付していると認められることからすれば、これが虚偽の事実の摘示であるということはできない。
(7) 以上によれば、控訴人が本件ブログに掲載した本件各記事は、いずれも、不正競争防止法2条1項14号における「虚偽の事実」の流布とまでは認めることはできず、被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
3 よって、被控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却すべきところ、これと異なる原判決については、被控訴人の請求を認容した部分を取り消して、同取消部分につき被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 田中正哉
 裁判官 神谷厚毅
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/