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【事件名】ERPソフトウェアの著作権侵害事件
【年月日】平成25年9月24日
 東京地裁 平成23年(ワ)第34126号、平成24年(ワ)第33073号 損害賠償、同中間確認各請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成25年6月25日)

判決
原告 株式会社アクセスネット
同訴訟代理人弁護士 篠原一廣
同訴訟復代理人弁護士 齋藤恵
被告 ソフトウェア部品株式会社


主文
1 被告は、原告に対し、206万5000円及びこれに対する平成23年3月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 本件中間確認の訴えを却下する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 原告
 主文第1項と同旨
2 被告
 ソフトウェア「部品屋2007サーバー」中のプログラム「ミドルソフト」(ハードロック及びソフトロックに関する部分を除く。)がソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」及び「BSS−PACK(VAX/VMS)」中の各プログラム「ミドルソフト」(ハードロックに関する部分を除く。)の各著作権を侵害しないことを確認する。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告との間のパートナー契約において、被告から提供されたソフトウェア中のプログラムにつき、著作権上の瑕疵があるとして、被告に対し、債務不履行に基づき、損害金206万5000円及びこれに対する催告の後の日である平成23年3月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め、これに対し、被告が、中間確認の訴えとして、上記プログラムが他のプログラムの著作権を侵害しないことの確認を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、情報通信システムの企画、提案、設計及び開発並びにコンピュータソフトウェアの企画、制作、販売及び輸出入等を業とする株式会社である。
イ 被告は、ソフトウェアの開発、仕入れ、輸入、販売及び輸出等を業とする株式会社である。
ウ 株式会社ビーエスエス(以下「ビーエスエス」という。)は、コンピューターシステムの設計、製造、輸入及び販売並びにコンピューターソフトウェアの開発、製造、請負、輸出及び販売等を業とし、被告代表者の夫であるA1が代表取締役を務める株式会社であり、ソフトウェア部品開発株式会社(以下「ソフトウェア部品開発」という。)は、ソフトウェアの開発、請負、販売及び輸出等を業とし、被告代表者が代表取締役を務め、A1が取締役を務める株式会社である。
(甲12、乙16)
(2) パートナー契約の締結及び解除等
ア 原告は、平成21年10月1日、被告との間で、ソフトウェア「部品屋2007」シリーズ(以下「本件ソフト群」という。)について、被告がこれを標準価格に基づく価格から30%割り引いた価格で原告に提供し、原告がこれを使用、再販及び複製等することなどを内容とするパートナー契約(以下「本件契約」という。)を締結し、平成22年10月1日、本件契約を更新した。
 本件ソフト群は、A1の発意の下に、平成18年12月ころから、ビーエスエスとその事業を譲り受けたソフトウェア部品開発によって順次開発されたもので、ソフトウェア「部品屋2007サーバー」や「部品屋2007クライアント」(以下、「部品屋2007サーバー」と併せて「本件両ソフト」という。)、「ソフトウェア部品開発ツール」(以下「ソフトウェア部品開発ツール」という。)等から構成され、平成21年8月ころから、ソフトウェア部品開発の事業を譲り受けた被告がこれを販売している。本件ソフト群は、企業の基幹業務を一元的に統合して管理するERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアに属するもので、通常は、Windows等の基本ソフトであるOS(Operating System)を変えると、Word等の応用ソフトであるアプリケーションソフトをも変える必要があるが、本件ソフト群を用いることにより、OSを変えたときに、本件両ソフト中のプログラム「ミドルソフト」(以下「本件ミドルソフト」という。)を変えるだけで、アプリケーションソフトに当たる本件両ソフト中のプログラム「ソフトウェア部品」(以下「本件ソフトウェア部品」という。)を変える必要がなくなるというものである。(甲2、3、乙1、4ないし6)
イ 原告は、被告に対し、本件契約を締結する際に31万5000円の契約金を、平成22年10月1日の更新の際に同額の更新料をそれぞれ支払ったほか、平成21年10月及び11月に本件ソフト群の取扱方法についての研修費として33万6000円を支払った。
 また、原告は、被告から、平成21年10月22日にソフトウェア「部品屋2007サーバー」1個を7万円、同「部品屋2007クライアント」1個を4万9000円で仕入れ、平成22年2月26日及び同年4月9日にソフトウェア「部品屋2007クライアント・プロテクションキー」各10個をそれぞれ49万円で仕入れ、被告に対し、代金合計109万9000円を支払った。(甲6の1及び2、7の1ないし3、8の1及び2)
ウ 原告は、平成23年2月28日、被告に対し、本件ソフト群中のプログラムがソフトウェア「BSS−PACK」シリーズ(以下「先行ソフト群」という。)中のプログラムについて、日本電子計算株式会社(以下「日本電子計算」という。)が有する著作権を侵害するもので、原告がこれを利用したり、再販することができないとして、本件契約を解除するとの意思表示をするとともに、損害金206万5000円を同年3月14日までに支払うよう催告した。
(3) 先行ソフト群の開発と複製権の譲渡等
ア 先行ソフト群は、A1の発意の下に、平成4年ころから、ビーエスエスによって順次開発されたもので、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」や「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」(以下、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」と併せて「先行両ソフト」という。)、「部品マイスター」(以下「部品マイスター」という。)等から構成されている。先行ソフト群は、ERPソフトウェアに属し、これを用いることにより、OSを変えたときに、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」や「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、先行両ソフト中のプログラム「ミドルソフト」(以下「先行ミドルソフト」という。)を変えるだけで、アプリケーションソフトに当たる上記各ソフトウェア中のプログラム「ソフトウェア部品」(以下「先行ソフトウェア部品」という。)を変える必要がなくなるというものである。(甲3、4の1及び2、15、17、18、乙1ないし3、7、18)
イ 先行両ソフト及び部品マイスター中の各プログラム(以下「先行各プログラム」という。)は、いずれも著作物である。
ウ ビーエスエスは、株式会社サンライズ・テクノロジー(以下「サンライズ」という。)に対し、平成18年4月7日に先行ミドルソフトのうちハードロックに関する部分を除いたものの複製権を、同年9月27日に部品マイスターの複製権をそれぞれ譲渡し(以下、これらの譲渡を「本件各譲渡」という。)、これらの複製権者は、平成21年5月22日以降、いずれも日本電子計算である。(甲4の1及び2、15、18)
2 争点及びこれについての当事者の主張
 本件の争点は、被告が原告に著作権上の瑕疵がある本件ソフト群を提供したか否かであり、具体的には、@本件両ソフト及びソフトウェア部品開発ツール中の各プログラム(以下「本件各プログラム」という。)が先行各プログラムを複製又は翻案したものであるか、A原告と被告以外の第三者が先行各プログラムの著作権(複製権又は翻案権)を有するかである。
(1) 争点@(本件各プログラムが先行各プログラムを複製又は翻案したものであるか)について
(原告の主張)
 本件各プログラムは、いずれも、A1の発意の下に、ビーエスエスが先行各プログラムに幾つかのプログラムを加えて開発したものである。
 @本件ミドルソフトは先行ミドルソフトに、A本件ソフトウェア部品の一部は先行ソフトウェア部品に、B本件ソフトウェア部品をカスタマイズするソフトウェア部品開発ツールは先行ソフトウェア部品をカスタマイズする部品マイスターにそれぞれ相当する。そして、@本件ミドルソフトと先行ミドルソフトには、同一の関数が多数使われている上、ソフトウェア「部品屋2007サーバー」が対応するWindows2000、WindowsXP及びWindows2003は、ソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」が対応するWindowsNTの後継であって、これと基本設計を同じくして互換性を有するものであり、平成18年当時、既にWindowsNTが用いられていないにもかかわらず、サンライズがソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」を含む先行各プログラム等の著作権を11億5000万円で購入したように、当時の先行ミドルソフトは、Windows2000やWindowsXP、Windows2003にも対応するものであったから、本件ミドルソフトは、先行ミドルソフトの表現上の本質的な特徴を維持している。また、A本件ソフトウェア部品の一部は、先行ソフトウェア部品と同一である。さらに、Bソフトウェア部品開発ツールと部品マイスターは、同一のプログラム「ソフトウェア部品」を同様にカスタマイズするから、ソフトウェア部品開発ツールも、部品マイスターの表現上の本質的な特徴を維持している。
 そうであるから、本件各プログラムは、先行各プログラムを複製又は翻案したものである。
(被告の主張)
 本件各プログラムのうち、A本件ソフトウェア部品の一部は先行ソフトウェア部品と同一であるが、その余は、いずれも、プログラム「ソフトウェア部品」の構造を熟知したビーエスエスが本件各譲渡後に先行ミドルソフトと部品マイスターの各プログラムを消去した上で、新たに開発したものである。
 @本件ミドルソフトと先行ミドルソフトに同一の関数が多数使われているのは、本件ソフトウェア部品に先行ソフトウェア部品と同一のものがあるからであるが、上記関数は、規約に当たり、著作権法による保護が及ばないし、Windows2000、WindowsXP及びWindows2003は、WindowsNTと基本設計を異にし、本件ミドルソフトは、マルチシステム等の新機能を多数追加してコーディングも大幅に変更しているから、本件ミドルソフトは、先行ミドルソフトの表現上の本質的な特徴を維持していない(サンライズが平成18年に先行各プログラム等に関する複製権を11億5000万円で購入したのは、購入対象に現在も用いられているOS「UNIX」に対応するソフトウェア「BSS−PACKサーバー(UNIX)」中のプログラム「ミドルソフト」に関する複製権が含まれていたからであるし、代金全額がコンサルティング報酬と相殺されるものであったから、上記代金額に意味はない。)。また、本件ソフトウェア部品や先行ソフトウェア部品をカスタマイズするのは、ソフトウェア「MicrosoftVisual Studio」であるし、Bソフトウェア部品開発ツールや部品マイスターは、本件ソフトウェア部品や先行ソフトウェア部品をカスタマイズするための各種情報を集積したものにすぎない上、対応するプログラム「ミドルソフト」が全く異なるから、ソフトウェア部品開発ツールも、部品マイスターの表現上の本質的な特徴を維持していない。
 そうであるから、本件各プログラムは、先行各プログラムを複製又は翻案したものでない。
(2) 争点A(原告と被告以外の第三者が先行各プログラムの著作権(複製権又は翻案権)を有するか)について
(原告の主張)
 ビーエスエスは、サンライズに対し、本件各譲渡の際、先行ミドルソフトのうちハードロックに関する部分と先行ソフトウェア部品の各複製権及び先行各プログラムの翻案権をも譲渡した。そして、先行各プログラムの複製権者及び翻案権者は、平成21年5月22日以降、いずれも株式会社フロンテックを経由して先行各プログラムの複製権及び翻案権を譲り受けた日本電子計算である。
(被告の主張)
 ビーエスエスは、平成8年ころ、譲渡担保権者から指導を受け、先行ソフト群の知名度を上げて売上げを伸ばすなどの目的で、代理店や先行ソフト群を購入する者等に先行ソフトウェア部品のソースコードを開示し、平成9年ころ、先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した。
 また、ビーエスエスは、先行ミドルソフトのうちハードロックに関する部分の複製権や先行ミドルソフトと部品マイスターの各翻案権を譲渡したことがなく、サンライズも異議を唱えていないのであって、先行ミドルソフトのうちハードロックに関する部分の複製権者及び先行ミドルソフトと部品マイスターの各翻案権者は、いずれもソフトウェア部品開発を経由してビーエスエスの事業を譲り受けた被告である。
第3 当裁判所の判断
1 争点@(本件各プログラムが先行各プログラムを複製又は翻案したものであるか)について
(1) 本件ソフトウェア部品について
 証拠(甲9、11、13の1、乙1、4、14、証人A1)及び弁論の全趣旨によれば、ビーエスエスとソフトウェア部品開発は、平成19年までに、約1500個の先行ソフトウェア部品に、新たに開発した約200個のプログラム「ソフトウェア部品」を加え、約1700個の本件ソフトウェア部品を制作したことが認められる。この事実によると、ビーエスエスやソフトウェア部品開発は、先行ソフトウェア部品に依拠し、これと一部が同一の本件ソフトウェア部品を制作したものと認められる。
 したがって、本件ソフトウェア部品の一部は、先行ソフトウェア部品を複製したものである。
(2) その余の本件各プログラムについて
 その余の本件各プログラムが先行各プログラムを複製又は翻案したものであることを認めるに足りる証拠はない。
 原告は、@本件ミドルソフトについては、これと先行ミドルソフトに同一の関数が多数使われている上、Windows2000、WindowsXP及びWindows2003は、WindowsNTの後継で、これと基本設計を同じくして互換性を有するし、当時の先行ミドルソフトはWindows2000やWindowsXP、Windows2003にも対応するものであったから、先行ミドルソフトの表現上の本質的な特徴を維持している、Aソフトウェア部品開発ツールについても、これと部品マイスターが同一のプログラム「ソフトウェア部品」を同様にカスタマイズするから、部品マイスターの表現上の本質的な特徴を維持していると主張する。しかしながら、@本件ミドルソフトについてみると、弁論の全趣旨によれば、上記関数は、プログラム「ソフトウェア部品」に対応したインターフェースであることが認められるから、それ自体には著作権法による保護が及ばないし(同法10条3項2号)、その記述が思想又は感情を創作的に表現したものであることを認めるに足りる証拠はない。また、Windows2000、WindowsXP及びWindows2003がWindowsNTと基本設計を同じくして互換性を有することを認めるに足りる証拠はなく、仮に基本設計を同じくして互換性を有するものであるとしても、証拠(甲3、乙4、14、証人A1)及び弁論の全趣旨によれば、本件ミドルソフトは、先行ミドルソフトにマルチシステム機能や新法等に対応した機能が追加され、ソースコードの記述が随所にわたって変更されたことが認められるから、この事実に照らすと、本件ミドルソフトにおけるソースコードの記述が先行ミドルソフトにおけるソースコードの記述と同一であるとか、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることはできない。Aソフトウェア部品開発ツールについてみると、これと部品マイスターが同一のプログラム「ソフトウェア部品」を同様にカスタマイズすることを認めるに足りる証拠がなく、ソフトウェア部品開発ツールにおける表現が部品マイスターにおける表現と同一であるとか、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることはできない。原告の上記主張は、採用することができない。
2 争点A(原告と被告以外の第三者が先行各プログラムの著作権(複製権又は翻案権)を有するか)について
 証拠(甲4の1及び2、15、18、証人B1)によれば、ビーエスエスは、サンライズに対し、平成18年4月7日に先行ソフトウェア部品を含む先行両ソフトの著作権を、同年9月27日に部品マイスターの著作権をそれぞれ譲渡したこと、先行各プログラムの著作権は、平成19年9月19日には株式会社フロンテックに、平成21年5月22日には日本電子計算に順次譲渡されたことが認められる。
 被告は、ビーエスエスが、平成8年ころに譲渡担保権者から指導を受け、先行ソフト群の知名度を上げて売上げを伸ばすなどの目的で代理店や先行ソフト群を購入する者等に先行ソフトウェア部品のソースコードを開示し、平成9年ころに先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したと主張し、乙1(被告代表者の陳述書)、乙4(A1の陳述書)及び証人A1の供述中には、これに沿う内容の陳述がある。証拠(甲13の1、17、乙1、7、9、14、証人C1及び同A1)によれば、ビーエスエスは、平成8年ころから、先行ソフト群の知名度を上げて売上げを伸ばす目的で、代理店や先行ソフト群を購入した者等に対し、先行ソフトウェア部品のソースコードを記録したCD−ROMを提供する方法により、上記ソースコードを開示していたことが認められる。しかしながら、ビーエスエスが先行ソフトウェア部品のソースコードを開示していたとしても、このことから、当然にビーエスエスが先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したということにはならない。そして、証拠(乙9)によれば、ビーエスエスは、上記方法を通じて、先行ソフトウェア部品の著作権者として、先行ソフト群を購入した者等による先行ソフトウェア部品の改変を許諾していたことが認められる。また、証拠(甲4の2、20、乙1、3、9、17の1及び2、18)によれば、ビーエスエスは、平成9年ころ、先行ソフトウェア部品等に譲渡担保権を設定し、複数の金融機関から億単位の貸付けを受けて、先行ソフトウェア部品の開発を継続していたことが認められるところ、ビーエスエスが先行ソフトウェア部品の著作権を放棄するには、全譲渡担保権者の明確な同意を要すると解されるが、上記金融機関がこれを同意したことは窺えない。さらに、証拠(甲4の1及び2、18、乙17の1)によれば、ビーエスエスは、平成7年10月に、ソフトウェア「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」について、著作物の内容を「これは業務処理用のアプリケーションプログラムである「BSS−PACK」のクライアント用に開発されたプログラムである。ライブラリー化されている業務処理プログラムを抽出・選択して、業務担当者ごとに処理メニューを構築する機能を有している。」として登録し、平成9年3月14日に、ソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」について、著作物の内容を「本プログラムは、統合業務管理システムBSS−PACKサーバーのWindowsNT版である。BSS−PACKは、企業体の業務処理をほぼ網羅するプログラム群で構成されており、これらのプログラムを組み合わせることにより、統合されたシステム化が実現できるものである。」として登録して、ビーエスエスが保有する著作物に先行ソフトウェア部品を含めて登録したこと、上記各登録後も、ビーエスエスは、金融機関等の債権者やサンライズとの間で、先行両ソフトの著作権につき、その範囲を限定することなく、譲渡担保権を設定したり譲渡したりする旨の契約書を取り交わしていたことが認められる(なお、ビーエスエスが平成13年3月30日に金融機関等の債権者との間で取り交わした譲渡担保権設定契約書には、譲渡担保権の設定対象物からビーエスエスが著作権を放棄した著作物を除く旨の記載があるが(乙17の1)、登録されていない著作物に係るものであって、登録された著作物に係るものではない。)。これらの事情に照らすと、被告の主張に沿う内容の上記各陳述は、たやすく採用することができない。そして、他に被告の主張事実を裏付ける的確な証拠がないことを併せ考えると、ビーエスエスは、先行ソフトウェア部品の著作権を放棄しなかったものと認められる。そうであるから、被告の主張は、ビーエスエスがサンライズに対し先行両ソフトの著作権を譲渡したとの前記認定を左右するものでなく、これを採用することはできない。
3 被告は、本件契約において、著作権上の瑕疵がない本件ソフト群を提供する義務を負っていたにもかかわらず、原告に対し先行ソフトウェア部品を複製した本件ソフトウェア部品を含む本件ソフト群を提供したのであるから債務の本旨に従った履行をしていない。
 そして、被告が日本電子計算から先行各プログラムの利用の許諾を得る見込みはなく、給付の追完は不可能であって、原告は、被告の債務不履行により、本件契約をした目的を達することができなくなったのであるから、前記第2の1(2)イのとおり、被告に支払った合計206万5000円に相当する額の損害を被ったと認められる。
4 したがって、被告は、原告に対し、債務不履行による損害賠償として、206万5000円及びこれに対する催告の後の日である平成23年3月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告の請求は、理由がある。
 なお、被告の中間確認の訴えは、要するに、被告が原告に提供した本件ミドルソフト(ハードロック及びソフトロックに関する部分を除く。)が著作権を侵害しないとして、被告の原告に対する債務不履行に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める趣旨であると解されるが、これは、原告の訴えとして当裁判所に係属する事件であるから(民事訴訟法142条)、不適法である。
5 よって、原告の請求は、理由があるからこれを認容し、被告の中間確認の訴えは、不適法であるからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 志賀勝
 裁判官 藤田壮
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日本ユニ著作権センター
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