判例全文 line
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【事件名】POS情報開示システムの著作権帰属事件
【年月日】平成25年9月20日
 東京地裁 平成24年(ワ)第6801号 損害賠償等請求事件(以下「本訴」という。)、
 平成24年(ワ)第15155号 ライセンス使用料等請求反訴事件(以下「反訴」という。)
 (口頭弁論終結日 平成25年6月10日)

判決
本訴原告・反訴被告 株式会社ポイントプラス(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 太田勝久
同 小幡朋弘
同 尾崎祐一
同 山下剛
同訴訟復代理人弁護士 水関寿量
本訴被告・反訴原告 生活協同組合コープさっぽろ(以下「被告組合」という。)
本訴被告・反訴原告 デュアルカナム株式会社(以下「被告会社」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 神戸俊昭
同 平田唯史
同訴訟復代理人弁護士 福田惇紀


主文
1 本訴
 原告の請求をいずれも棄却する。
2 反訴
(1) 原告は、被告組合に対し、金3191万5500円及び内金1500万円に対する平成24年2月21日から、内金1691万5500円に対する同年5月1日から、いずれも支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 原告は、被告会社に対し、金3150万円及び内金315万円に対する平成23年11月21日から、内金315万円に対する同年12月21日から、内金315万円に対する平成24年1月21日から、内金315万円に対する同年2月21日から、内金630万円に対する同年3月21日から、内金630万円に対する同年4月21日から、内金630万円に対する同年5月21日から、いずれも支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用の負担
 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告の負担とする。
4 仮執行の宣言
 この判決は、2項(1)(2)及び3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1) 被告らは、原告に対し、各自4億9163万1283円を支払え。
(2) 被告組合は、原告に対し、金1億0919万6750万円及び内金1500万円に対する平成20年2月20日から、内金882万円に対する同年4月25日から、内金1500万円に対する平成21年2月25日から、内金911万3000円に対する同年8月31日から、内金1500万円から平成22年2月19日から、内金1523万0250円に対する同年5月25日から、内金1500万円に対する平成23年2月10日から、内金1603万3500円に対する同年4月25日から、いずれも支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 被告らは、別紙プログラム目録記載のプログラムの使用を禁止する。
2 反訴
 主文2項(1)(2)と同旨
第2 事案の概要
 本訴は、原告が、@POS情報(販売時点情報)開示システム(プログラム)である「宝箱システム」(以下、「宝箱システム」といい、これに係るサービスを「宝箱サービス」という。)の著作権を有し、その後継システムである「トレジャーデータ」(以下「トレジャーデータ」という。)を共同開発して著作権を準共有しているなどとした上で、被告らは、原告の著作権行使を不可能にし、また、原告が継続契約関係に基づく独占的な営業上の利益を保有し、契約の更新を拒絶する正当な理由がないにもかかわらず、不当な意図に基づき契約の更新を拒絶したなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償5億4413万9378円の一部請求として、被告ら各自に対し、4億9163万1283円の支払を求め(以下「不法行為請求@」という。)、A被告組合は、宝箱システムの著作権を有していないにもかかわらず、ライセンス料を支払わせたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求(選択的に不当利得に基づく利得金返還請求)として、被告組合に対し、1億0919万6750円(附帯請求としてライセンス料の各支払日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求める(以下、選択的併合である不当利得に基づく利得金返還請求を含めて「不法行為請求A」という。)とともに、B著作権法112条1項に基づく差止請求として、被告らに対し、宝箱システム及びトレジャーデータの使用禁止を求めた事案である。
 反訴は、@被告組合が、宝箱システムのライセンス契約及び覚書に基づくライセンス使用料として、原告に対し、3191万5500円(附帯請求としてライセンス使用料の各弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求め、A被告会社が、トレジャーデータのライセンス契約及び覚書に基づくライセンス使用料として、原告に対し、3150万円(附帯請求として前同様の遅延損害金)の支払を求めた事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告は、情報処理等を業とする株式会社である。
 被告組合は、組合員らに対する小売販売等を業とする生活協同組合である。
 被告会社は、システム開発等を業とする株式会社であり、被告組合の子会社である。
(2) POS情報開示システムの運用開始
ア 被告組合は、平成15年頃、ウェブサイトにおいてPOS情報を開示するシステムを企画し、株式会社東京流通情報研究所(現在の商号・株式会社トライ以下「東京流通情報」という。)に対し、POS情報開示システムの開発を委託した(その後、東京流通情報との間で、「開発業務委託に関する基本契約書」〔乙10〕「コープさっぽろPOS情報開示システム保守契約書」〔乙11〕を締結している。)。また、被告組合は、同年11月25日、いるかママ株式会社(以下「いるかママ」という。)との間で、「コープ宝箱」(当時の宝箱システムの名称)のホームページ運用について、「業務委託契約書」(乙12)を締結し(有効期間の始期は同年12月1日)、いるかママに対し、上記ホームページの運営管理等を委託するとともに、被告組合のPOS情報を提供することとした(10条参照)。そして、被告組合は、同年12月10日、「コープ宝箱」の運用を開始した。(甲53の1及び2、69、乙9〜12、弁論の全趣旨)
イ 「宝箱システム」は、ユーザーであるスーパーマーケットチェーンや流通業者が、自社のPOS情報をデータベースシステムに提供することにより、そのデータベースシステムに備えられている情報抽出・検索機能(例えば、「ベスト分析」としての地区間商品時系列分析、店舗間商品時系列分析、「アクト分析」としての地区間商品比較分析、店舗間商品比較分析等)を利用できるようにするものである。
 被告組合は、平成18年1月31日、いるかママとの間で、「宝箱システムおよびソフトウェアに関するライセンス契約書」(乙13)を締結し、いるかママに対し、宝箱システムを複製し使用するための独占的なライセンスを許諾した(2条参照)。これにより、いるかママは、営利及び非営利の目的での宝箱システムを利用した第三者へのサービス提供ができるものとされ(2条2号)、ライセンス使用基本料金のほか、いるかママの事業拠点ごとのライセンス使用料金を支払うものとされた(4条1・2号)。これに先立ち、 いるかママは、 平成1 7 年1 2 月2 5 日、 Pacific Systems Integration Group、Inc(以下「PSIG」という。)との間で、宝箱システムの運用等について、「宝箱サービスに関する業務委託契約書」(甲16)を締結した(有効期間の始期は平成18年1月1日)。(以上につき甲16、29の1〜14の各1、甲67、乙13)
ウ その後、いるかママは、被告組合のほかに、株式会社サンエー(以下「サンエー」という。)との間で「宝箱サービスに関する業務契約書」(甲17)、生活協同組合コープこうべ(以下「コープこうべ」という。)との間で「宝箱サービスに関する契約書」(甲18)、株式会社ライフコーポレーション(以下「ライフ」という。)(首都圏)との間で「宝箱サービスに関する契約書」(甲19)をそれぞれ締結し、上記チェーンストア等がいるかママに対してPOS情報を提供することとなった。いるかママは、上記チェーンストア等の取引業者との間で、宝箱サービスの利用契約を締結し、その利用料を対価として取得することにより、宝箱サービスを運営していた。また、被告組合も、宝箱サービスのユーザーとして、宝箱サービスを利用していた。(甲17〜19、弁論の全趣旨)
(3) 宝箱サービスの運営引継ぎ
ア 被告組合は、平成19年、宝箱サービスについて、いるかママとの契約 を解消することとなり、原告が宝箱サービスの運営を引き継ぐこととなった。(甲76、乙16)
イ 被告組合は、平成19年4月1日、原告との間で、「宝箱システムおよびソフトウェアに関するライセンス契約書」(甲1以下「本件第1ライセンス契約」という。)を締結し(主要な条項は別紙本件第1ライセンス契約の条項のとおりである。)、原告に対し、宝箱システムを使用するための独占的なライセンスを許諾した(2条参照)。
 被告組合は、同日、原告との間で、宝箱システムの運用について、「宝箱サービスに関する業務契約書」(甲2以下「本件業務契約」という。)を締結し(主要な条項は別紙本件業務契約の条項のとおりである。)、原告に対し、被告組合のPOS情報を提供することとした(7条(1)参照)。
 被告組合は、同日、原告との間で、本件第1ライセンス契約に基づいて、「宝箱システムのライセンス使用料に関する覚書」(甲3以下「本件第1覚書」という。)を締結した(その内容は別紙本件第1覚書の内容のとおりである。)。(以上につき甲1〜3、弁論の全趣旨)
ウ 原告は、平成19年4月1日、PSIGとの間で、宝箱サービスについて、原告とPSIGがサービス改善・開始のためのシステム開発を共同で行うことや、PSIGが原告に対して宝箱システム及びその運用管理に関する情報を開示することなどを内容とする「契約書」(甲25)を締結した。
 原告は、平成19年4月28日、サンエーとの間で、サンエーが原告に対してPOS情報を提供し、サンエー及びサンエーが承認し原告と加入契約を締結したサンエーとの取引業者に対し原告が宝箱サービスを提供することなどを内容とする「宝箱サービスに関する契約書」(甲21)を締結した。
 原告は、平成19年6月1日、いるかママとの間で、「ライフコーポレーション宝箱サービス」事業及びこれに附帯する事業を譲渡対象として(譲渡日は同月3日)、「営業の譲渡に関する覚書」(甲22)を締結した。また、原告は、同月28日、ライフとの間で、ライフ(首都圏)が原告に対してPOS情報を提供し、ライフ及びライフが承認し原告と加入契約を締結したライフと取引実績のあるメーカー、問屋に対し原告が宝箱サービスを提供することなどを内容とする「宝箱サービスに関する契約書」(甲50)を締結した。
 原告は、平成19年6月9日、いるかママ及びコープこうべとの間で、
 「コープこうべ宝箱サービス」事業及びこれに附帯する事業を譲渡対象として(譲渡日は同年9月12日)、「事業譲渡契約書」(甲23)を締結した。(以上につき甲21〜23、25、50)
エ 原告は、平成19年9月27日、ライフとの間で、ライフ(近畿圏)が原告に対してPOS情報を提供し、ライフ及びライフが承認し原告と加入契約を締結したライフと取引実績のあるメーカー、問屋に対し原告が宝箱サービスを提供することなどを内容とする「宝箱サービスに関する契約書」(甲26)を締結した。
 原告は、平成21年6月1日、株式会社タイヨー(以下「タイヨー」という。)との間で、タイヨーが原告に対してPOS情報を提供し、タイヨー及びタイヨーが承認し原告と利用契約を締結したメーカー・卸売会社等に対し原告が宝箱サービスを提供することなどを内容とする「宝箱サービスに関する契約書」(甲27の1)を締結した。
 原告は、平成21年9月30日、生活協同組合連合会コープ東北サンネット事業連合(以下「サンネット」という。)との間で、サンネットが原告に対してPOS情報を提供し、サンネット及びサンネットが承認し原告と利用契約を締結したメーカー・卸売会社等に対し原告が宝箱サービスを提供することなどを内容とする「宝箱サービスに関する契約書」(甲28)を締結した。(以上につき甲26、27の1、甲28)
オ 原告は、被告組合と上記ウ及びエのチェーンストア等の運営者及びその取引業者約1350社との間で、宝箱サービスの利用契約を締結し、その利用料を対価として取得することにより、宝箱サービスを運営していた。また、被告組合も、宝箱サービスのユーザーとして、宝箱サービスを利用していた。(弁論の全趣旨)
カ 原告は、被告組合に対し、本件第1ライセンス契約及び本件覚書に基づき、合計1億0919万6750円(消費税込み)のライセンス使用料を支払った。
(4) トレジャーデータの運用開始
ア 被告らは、平成21年、宝箱システムをクラウドに対応させることとし、宝箱システムの後継システムとして、トレジャーデータの開発を企画し、トレジャーデータは平成23年3月頃に完成した。(甲31、33、弁論の全趣旨)
イ 被告会社は、平成23年3月20日、原告との間で、原告に対してトレジャーデータを利用させることなどを内容とする「新宝箱システム環境使用契約書」(甲6)を締結した(有効期間は同月21日から平成24年3月20日まで)。
 原告は、平成23年4月から順次、宝箱サービスの利用者に対し、トレジャーデータの利用を告知し、同年8月31日までに、POS情報開示システムを宝箱システムからトレジャーデータに変更した(宝箱システムは、現在使用が廃止されている。)。(以上につき枝番号を含めて甲6、58〜64、弁論の全趣旨)
ウ 被告会社は、平成23年9月22日、原告との間で、トレジャーデータについて、「ライセンス契約書」(甲8以下「本件第2ライセンス契約」という。)を締結し(主要な条項は別紙本件第2ライセンス契約の条項のとおりである。)、原告に対し、トレジャーデータの利用を許諾した(2条・3条参照)。
 被告会社は、同日、原告との間で、本件第2ライセンス契約5条について、「覚書」(甲9以下「本件第2覚書」という。)を締結した(その内容は別紙本件第2覚書の内容のとおりである。)。(以上につき甲8、9)
(5) 本件訴訟に至る経過
ア 被告会社は、平成23年10月18日、原告に対し、本件第2ライセンス契約3条2項に基づき、本件第2ライセンス契約と同様の契約を株式会社アジェントリクス・エーピー(以下「アジェントリクス」という。)と締結したことを通知した。(甲11)
イ 被告組合は、原告に対し、平成23年10月24日付け書面をもって、@POS情報開示システムが宝箱システムからトレジャーデータに変更になっているため、本件第1ライセンス契約を更新しないで平成24年3月31日をもって終了する旨、A本件業務契約を更新しないで同日をもって終了する旨、Bシステムの移行準備に伴い、事実上行っていた被告組合のPOS情報の提供(トレジャーデータに対するもの)を、同日をもって終了する旨を通知した。(甲12)
ウ 被告組合は、その取引先に対し、平成23年10月28日付け書面をもって、被告組合のPOS情報が同年9月からトレジャーデータで管理・運用されている旨に加え、被告会社が原告以外にもトレジャーデータのライセンスを付与したことを受け、検討の結果、原告に対するPOS情報の提供を平成24年3月末をもって終了し、同年4月以降はアジェントリクスに対してPOS情報を提供する旨を通知した。(甲13)
エ 原告は、平成23年10月29日、同月付けで、トレジャーデータ(被告組合のPOS情報に係るもの)の利用者に対し、利用契約の自動更新を案内する通知を行った。(甲10、71、弁論の全趣旨)
オ 被告組合は、その取引先に対し、平成23年11月1日付け書面をもって、原告に対して平成24年4月以降POS情報を提供する予定がないことを再度通知した。
 また、被告組合は、原告に対し、平成23年11月1日付け書面をもって、上記エの通知について、取引先が平成24年4月以降も原告を通じて被告組合のPOS情報を入手できるとの誤解を抱いてしまうおそれがあるため、同月以降は被告組合のPOS情報が入手できなくなる旨を明記するなど取引先に誤解が生じないようにするよう要請した。(以上につき甲14、15)
カ 原告は、平成23年12月7日、札幌地方裁判所に対し、本件訴訟を提起した(その後当庁に本件訴訟が移送された。)。(当裁判所に顕著)
2 争点
(1) 不法行為請求@の成否(争点1)
ア 著作権行使の不可能を理由とする不法行為の成否(争点1−1)
イ 契約の更新拒絶等を理由とする不法行為の成否(争点1−2)
ウ 損害及び損害額(争点1−3)
(2) 不法行為請求Aの成否(争点2)
(3) 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否(争点3)
(4) 本件第1ライセンス契約及び本件第1覚書に基づくライセンス使用料請求の成否(争点4)
(5) 本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書に基づくライセンス使用料請求の成否(争点5)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 不法行為請求@の成否(争点1)
ア 著作権行使の不可能を理由とする不法行為の成否(争点1−1)
(原告の主張)
(ア) 宝箱システムの著作権の帰属
a 東京流通情報は、平成15年頃、宝箱システムのシステムプログラムを制作し、被告組合に対し、その所有するサーバーに複製して使用することを許諾した。当該使用権に基づき、被告組合は、平成16年1月頃から、自己の取引先に対し、宝箱サービスを提供した。
b その後、東京流通情報は、PSIGに対し、プログラムの制作、改修及び追加を委託し、PSIGが制作し開発した。東京流通情報とPSIGは、平成15年から平成17年12月まで、独自の判断で必要に応じて、プログラムを改修、追加を繰り返して制作を継続した。その成果物の著作権は、東京流通情報ないしPSIGに帰属し、又は共有するものである。
c いるかママは、平成17年12月25日付け「宝箱サービスに関する業務委託契約書」をもって、PSIGに対し、被告組合及び他のチェーンストアの利用のために、宝箱システムの改修、追加を依頼した(甲16)。PSIGが制作した成果物の著作権は、同契約書8条により、いるかママに帰属する。
d 被告組合は、平成19年3月頃、いるかママとの業務委託契約を解除したことから、原告に対し、その後の業務を引き受けるように依頼した。その結果、原告は、いるかママから、被告組合、サンエー、ライフ(首都圏)及びコープこうべに関する宝箱サービスの営業譲渡を受けるとともに、いるかママが所有する追加及び改修にかかるプログラムの著作権の譲渡を受けた。
e 原告は、上記dの譲渡を受けて、プログラムの追加及び改修を、PSIGに委託した。原告は、委託契約(甲25)に基づき、追加及び改修され制作されたプログラムの著作権を有している。
f 原告は、平成24年6月1日、東京流通情報及びPSIGから、宝箱システムのシステムプログラムについて、各々有している著作権の譲渡を受けた(甲52)。これにより、原告は、宝箱システムの著作権全部を有している。
(イ) トレジャーデータの共同開発
a 原告と被告らは、平成22年2月1日頃、宝箱システムを改訂してクラウド化に適合させる目的で、宝箱システムを共同して改訂し開発することを基本的に合意した。そして、被告らが、宝箱システムのサーバーにアクセスして、共同開発行為に使用することに合意した(甲4)。
b トレジャーデータは、宝箱システムをウィンドウズサーバーに加えてグーグル方式の分散処理サーバーを使用して行なえるようにしたものであり、その目的は同一であり、宝箱システムを前提に、これを複製・翻案して作成されたものである。また、原告が契約する各チェーンストアや取引先の利用者が、従前同様に操作し使用できるように、原告の有するノウハウを適用して、同一の仕様になるようにプログラムされたものである。
c 原告の宝箱サービスのホームページの画面と被告らのトレジャーデータのホームページの画面を比較すると、別紙1Web画面対比表記載のとおりである。
(ウ) 原告の著作権行使の不可能
a 被告らは、原告が東京流通情報研究所及びPSIGから譲渡を受けた宝箱システムのシステムプログラムの著作権、いるかママ及び原告が翻案した二次的著作物の著作権がいずれも被告組合に帰属すると虚偽の主張をしている。
 また、原告と被告らは、平成23年3月頃、宝箱システムを複製し翻案してトレジャーデータの開発を完了して、各チェーンストアのPOSデータ等を宝箱システムからトレジャーデータに複製し、平成24年9月頃、宝箱システムを撤去し、宝箱システムの使用は不可能となった。
 こうして、被告らは、原告の宝箱システムのプログラム著作権を一切否定するに至り、原告を欺いて、宝箱システムの使用を不可能とさせた。
b 被告らは、トレジャーデータが宝箱システムを複製し翻案した事実を否定し、かつ、原告と共同開発した事実を否定している。そして、被告らは、被告会社に著作権が専属すると主張し、原告の使用を排除し、原告の同意なくトレジャーデータのプログラムを使用している。
c 上記のとおり、原告は、宝箱システム及びトレジャーデータを利用することがいずれも不可能になった。
(被告らの主張)
(ア) 原告の主張に対する認否
 原告の主張(ア)aは否認する。同(ア)bは知らない。同(ア)c〜fは否認する。同(イ)aは否認する。同(イ)bのうち、宝箱システムとトレジャーデータが基本的に同一の目的を持つシステムであることは認め、その余は否認する。同(ウ)a及びbは争う。同(ウ)cは否認する。
(イ) 宝箱システムの著作権の帰属について
a 宝箱システムは、平成7年頃に、被告組合のシステム部が開発した「本部情報システム」と称するシステムを、平成15年に取引先等がインターネットで閲覧できるように開発されたシステムである。宝箱システムのアイデアの大部分は、「本部情報システム」に由来する。
b 被告組合は、東京流通情報に対し、宝箱システムの開発を依頼したが、東京流通情報と締結した「業務委託に関する基本契約書」6条では、成果物に関する一切の権利は、被告組合に帰属することとされた(乙9〜11)。
 甲37号証の1は、宝箱システムのホームページであり、3枚目と4 枚目の下に「?2 0 0 3 − 2 0 1 0 コープさっぽろAll rights reserved 開発:鞄結棊ャ通情報研究所(2003〜2005)」と記載されているが、これは東京流通情報が作成したホームページの画面であり、東京流通情報も開発したプログラムの著作権が被告組合に帰属することを認めている。
c 被告組合がいるかママとの間で「宝箱サービスに関する業務契約書」(乙12)を締結したのは、平成15年11月25日である。その後、平成18年1月31日に、被告組合といるかママは、「宝箱システムおよびソフトウェアに関するライセンス契約書」(乙13)を締結しているが、同契約書1条1号には、宝箱システムは被告組合が開発し、知的所有権及び著作権等の一切の権利が被告組合に帰属することが明記されている。3条1号には、同契約の締結以降に発生するバージョンアップ等のシステム開発について、「本システムへの機能追加等の開発業務は、甲(被告組合)と乙(いるかママ)で内容を協議の上、乙(いるかママ)が行う」と記載されているが、追加された機能は、宝箱システムと不可分一体として付合するものであり、1条1号によって、全体としてその著作権は被告組合に帰属するものである。
d 原告とPSIGとの間の契約書(甲25)には、冒頭に「生活協同組合コープさっぽろ…の考案・ライセンス許諾による『宝箱システム』」と記載されている。宝箱システムの追加・改修部分も含めて、その著作権は被告組合に帰属するものである。
e 「宝箱サービスのシステムプログラムに関する契約書」(甲52)の作成日は、平成24年6月1日で、本件訴訟が係属した後に作成されたものであり、作成時期からして著しく不自然である。東京流通情報及びPSIGは、宝箱システムの著作権を持つ者ではなく、無権利者であるから、原告が宝箱システムの著作権を取得することはない。
(ウ) トレジャーデータの共同開発について
a 甲4号証は、宝箱システムの陳腐化を、バージョンアップによって対応することが可能か否かを判断するため、被告会社に調査を依頼したときに作成した覚書である。結論として、別途新たに、システム開発をした方がコストは大幅に安いということになり、トレジャーデータを開発することとなったが、開発者は被告会社とされた。原告と被告らとの共同開発ではない。
 なお、原告には、新たなシステムを開発する資力は全くなかった。
b 宝箱システムには、以下のような欠陥があり、早急に改善する必要があった。
 @データの処理能力が低い。A同じJANコード(商品コード)の商品を、異なる商品として判断して、エラーを多発させるという重大なバグがあった。Bデータの処理速度が著しく遅い。Cユーザーに関する「登録」「変更」「解除」等の管理が複雑である。DPOSデータの検索項目を増やすことが困難で「中分類」ができない。E外部からの侵入に脆弱性を有するため、情報管理の点で不十分である。
 また、これらの解決方法として、バージョンアップして直すよりも、新たに作り直す方が低コストであることが判明しており、トレジャーデータを別途作成する必要性と実益は十分認められた。
c トレジャーデータは、宝箱システムとは全く別のプログラムであり、宝箱システムの二次的著作物ではない。両システムは全く別個のシステムであり、トレジャーデータは宝箱システムを複製したものではないし、翻案したものでもない。
(エ) 原告の著作権行使の不可能について
a 宝箱システムの著作権は、被告組合に帰属するのであり、著作権が原告に帰属するとする原告の主張の前提自体が誤りである。
 トレジャーデータは、宝箱システムの後継システムとして開発されたのであり、トレジャーデータが開発された後、宝箱システムの使用が廃止されるのは、当然の前提であった。
b トレジャーデータの著作権について、原告が何らの権利も持たないことは従前の主張のとおりである。
 原告は、被告らが原告の同意なくトレジャーデータを使用したと主張するが、本件第2ライセンス契約(甲8)は、被告会社が、原告その他の者(当面の間原告を含めて三者まで、3条)に対してトレジャーデータの使用を許諾する契約である。
c 原告は、本件第2ライセンス契約によって、被告会社から使用許諾を受け、トレジャーデータを利用して業務を行っている。
イ 契約の更新拒絶等を理由とする不法行為の成否(争点1−2)
(原告の主張)
(ア) 原告とチェーンストア等の取引先業者との利用契約
a 原告は、宝箱システムの独占的な使用権及びチェーンストア等からの商品関連情報等のデータ提供に基づき、商品販売情報等のデータベースを構築して、チェーンストア等の取引業者との間で、情報データベースを利用させる宝箱サービスの利用契約を締結し、1社当たり年間15万円の収入を得た。
b 原告は、平成19年4月1日以降、積極的に営業活動を行って、利用契約数の増大に傾注した。
 その結果、チェーンストア等とそれらの取引先業者との間の利用契約の推移は、以下のとおりである。
宝箱サービスの利用契約数の推移
   
時期/ストア コープさっぽろ サンエー コープこうベ ライフ首都圏 ライフ近畿圏 タイヨー サンネット 合計
平成19年4月1日 285 81 210 196 170 0 0 942
平成20年4月1日 290 101 221 204 170 0 0 986
平成21年4月1日 286 101 222 217 173 0 0 999
平成22年4月1日 275 119 224 216 178 160 135 l,307
平成23年4月1日 288 89 233 220 199 166 135 1,330
平成23年11月1日 291 98 238 223 206 166 137 1,359
c 原告は、平成23年11月4日時点では、合計1359社の利用契約を有し、利用料は1社あたり年間15万円であったので、年間利用料収入は、2億0385万円であった。
(イ) トレジャーデータにおける権限
a 原告と被告らは、共同して、平成22年2月頃から、宝箱システムをクラウド化して、利用者がクラウドを通じてデータベースを利用できるように、宝箱システムを改訂した。トレジャーデータは、宝箱システムのプログラムを複製し翻案して、共同開発されたのである。
 トレジャーデータは、原告が独占的な権限を有する宝箱サービスを移行するために共同開発されたものであるから、宝箱システムとトレジャーデータで、そのサービスの内容、仕組み、形式において、全く同一である。
b そこで、原告と被告らは、契約によりデータ提供を受けているチェーンストア等7社のPOS情報等の全データをトレジャーデータに移行し、同一のデータベースを構築した。そして、平成23年4月から同年9月までの間に、全利用者1359社に対し、従前と変わることなく宝箱サービスの利用が継続できることを通知し、移行作業を行った。
c これらの移行作業は、従前同様に、原告が独占的なライセンス権限、データベースの権限を有し、利用者に対し引き続きサービスを提供する権限を有していることを前提に行われたものである。そうでないとしたら、原告が独占的な権限を有する宝箱システムのプログラムを被告らに閲覧や複製を認めること(甲4)はなく、また、チェーンストア等7社のデータベースを移行することはなく、原告の利益の源泉である利用契約の対象者をトレジャーデータに移行することもなかった。したがって、原告は、トレジャーデータにおいても、宝箱システムと同様に、著作権の独占的な利用の権限、チェーンストア等から提供を受けた情報データによるデータベースに関する権限、データベースの利用を求める取引先業者と利用契約を結ぶ独占的な権限を保持していたものである。
(ウ) 原告の宝箱サービスのための資本投下
a 原告は、宝箱サービスの営業のために、いるかママ株式会社に対し、宝箱サービス業務の譲渡代金として、1894万7250円を支払った。
b 原告は、被告組合に対し、宝箱サービスの営業のために、1億0919万6750円のライセンス料を支払った。
c 原告は、宝箱サービスの営業のために、ソフトウェア開発費1億0995万3121円を支払った。
d 原告は、宝箱サービスの営業のために、ハードウエア購入代金139万0579円を支払った。
e 原告は、宝箱サービスの営業のために、チラシデータ開発費用8753万3451円を支払った。
f 原告は、宝箱サービスの営業のために、リース資産のリース料3467万5200円を支払った。
g これらの投下した多額の費用(合計3億6169万6351円)は、長期にわたる利用料収入による営業利益をもって回収するしかないため、原告の独占的な権限が継続することが、原告及び被告らにおいて、当然の前提になっていた。
(エ) 原告の営業を保持したライセンス契約書の締結
a 被告組合の常務理事と被告会社の専務取締役は、平成23年9月22日、原告に対し、トレジャーデータの使用料を月額600万円とすること、サービスの利用者をさらに拡大するために、トレジャーデータの使用を許諾する代理店を原告を含めて3社とすることを含んだライセンス契約書を提示し、これに捺印することを求めた。
b 原告は、利用料を月額300万円から増額することは、原告の投下資本の回収や銀行返済などに支障をきたすことを説明した。また、原告がトレジャーデータを用いて独占的に使用する権利を保持して開発行為を行ってきたことから、著作権の使用許諾者を増加させる契約条項には、直ちに合意はできなかった。原告が既に契約している7社のチェーンストア等に関するデータベースの権限と、1359社の利用契約者と契約する権限が保持されなければ、代理店を増やす契約条項に同意できない旨を主張した。
 これに対し、被告らは、原告が既に契約している既存契約先との契約関係には関与せず、原告の営業関係は保持される、新たな代理店には原告の既存契約者以外の者と契約をして利用する権利を与えるだけであり、原告の営業を妨害しないと説明し、被告らが提示した契約書への捺印を強く求めた。そこで、原告は、被告組合を含めて既存の契約者との営業関係が保持されることを確認の上、本件第2ライセンス契約を締結した(甲8)。
c 宝箱システムの二次的著作物であるトレジャーデータは、原告と被告らの共同開発によって作成されたものであり、原告と被告らの共有著作物である。原告は、代理店契約を締結し共同著作物を使用許諾する第三者が原告の利益を侵害しない場合に限り、その契約を許諾する意思であった。
(オ) 被告らによる営業妨害及び利益侵害行為
a 原告は、被告らとの形式契約文言にかかわらず、継続的契約関係に基づく独占的な営業上の利益、営業権を保有している。したがって、契約の更新を拒絶すべき正当な理由がないにもかかわらず、不当な意図に基づき更新を拒絶することは、原告の営業上の利益、営業権を違法に侵害するものである。
b しかしながら、被告らは、共謀して、原告と共同開発したトレジャーデータのデータベースへ、7社のスーパーチェーン等のPOS情報等の全データを移行させ、その全利用者1359社の移行を行わせた上で、原告の既存の営業上の利益を侵害しないとして、本件第2ライセンス契約(甲8)を締結させておきながら、本件業務契約(甲2)の終了を、突如一方的に、原告及び利用者に通知して、利用者に対しアジェントリクスと契約するよう仕向け、被告組合向けサービスの利用者との291件の契約更新の機会を原告から奪った。
c また、原告と各チェーンストアとの間では、ライセンス保証条項が定められており、原告が完全なライセンスを保有していることが契約締結の条件となっていた。このため、被告らが、意図的かつ欺罔的に、トレジャーデータに関して原告の地位を否定した結果、原告はチェーンストア6社及びその取引先との1068社との契約更新が不可能になった。
d 被告らの代表者は、原告が契約関係を失ったチェーンストアを訪問し、POS開示に関し引き続きトレジャーデータを利用し、自らの指定する者と契約をするよう働きかけている。
e 被告らの以上の行為は、原告に対して偽計を用いた不当かつ不法な営業妨害及び利益侵害行為である。
(カ) 被告らの侵害動機
 被告らは、代表者が同一であり、親子会社の関係にあった。被告会社は、親会社の被告組合から資金供給を受けて、親会社のシステムを構築する業務を行っていた。
 そして、被告らは、被告組合のコンピューターシステムを、グーグル(Google)のクラウドサービス上で稼働させる開発業務を行っていた。しかし、被告会社が行ったグーグル(Google)のクラウドサービス上でのシステム開発が頓挫し、被告組合が、被告会社に対し、貸し付けたり立て替えたりした開発費用の数億円が回収できない状態になった。
 このため、被告らは、原告が資本を投下して収益を上げる事業に育てた宝箱サービスの業務利益を侵奪することを企図し、宝箱サービスをトレジャーデータへの移行が終了すると同時に、原告を排除し原告の権利を否定し、侵害行為を行うに至ったものである。計画的に原告を排除し原告の利用者を侵奪したことによって得る収益をもって、被告らは失敗した開発の費用を穴埋めしようとしたものである。
(被告らの主張)
(ア) 原告の主張に対する認否
 原告の主張(ア)aのうち、原告が一般ユーザーとの間で、宝箱システムの利用契約を締結したことは認める。同(ア)bのうち、原告が一般ユーザーの利用契約者数増大のため積極的な営業活動を行ったことは否認し、一般ユーザーの利用契約数の推移は知らない。同(ア)cのうち、原告の一般ユーザーとの契約が、平成23年11月当時、約1350件であったことは認め、1社当たりの年間利用料は15万円だったことは知らない。同(イ)は否認する。同(ウ)aは知らない。同(ウ)bは認める。同(ウ)c〜fは知らない。同(ウ)gは否認する。同(エ)は否認する。同(オ)a〜cは否認する。同(オ)dは知らない。同(オ)eは否認する。同(カ)は否認する。
(イ) トレジャーデータにおける権限について
 新たに開発されるトレジャーデータについても、原告がライセンス権を持つことは予定されていたが、原告が独占的なライセンス権を持つことは予定されていなかった。
 むしろ、新しいプログラムは、被告会社が開発し、その著作権も被告会社が持つことになるが、開発には莫大な費用が掛かかったのであり、その投下資本回収のためには、原告以外にもライセンス権を与える必要性は高かった。トレジャーデータ以外のプログラムとの競争もあることから、トレジャーデータの開発に費やした投下資本を回収するためには、トレジャーデータの売り込みを行う企業が複数存在し、切磋琢磨しながら取引先を拡大する状況が不可欠と考えられた。
 ただし、宝箱システムにおいては、原告が独占的なライセンス権を有していた点にも配慮する必要があると考えられたことから、双方の利害の調整を図り、本件第2ライセンス契約(甲8)では、3条3項において「甲(被告会社)が、本システムおよび本ノウハウについて、ライセンスを許諾するのは、当面の間、乙(原告)を含め三者までとし、甲がこれを超えて許諾しようとする場合には、乙との事前の協議を行うものとする。」とされたのである。
(ウ) 原告の宝箱サービスのための資本投下について
 仮に、原告が、宝箱システムのために何らかの費用負担をしたとしても、かかる費用は宝箱システムの使用によって回収すべきものである。新たに開発されるトレジャーデータの使用によって回収すべきではない。トレジャーデータの開発においては、被告会社において多額の費用負担が新たに発生しているのであり、原告は、これに対して全く費用負担していない。原告が主張する投下資本について、仮にこのような費用負担が原告にあったとしても、その大半は、既に宝箱システムの使用によって回収しているはずである。
 トレジャーデータのプログラムについて、原告に独占的な使用権を与えることは前提とされていなかった。原告は、本件第2ライセンス契約(甲8)3条3項について、全く異議を述べなかった。
(エ) 原告の営業を保持したライセンス契約書の締結について
 被告会社は、トレジャーデータの月額使用料について、月額600万円を希望した。しかし、原告が月額300万円を強く希望したことから、当面の間、月額300万円とすることを認めた(甲9)。
 トレジャーデータの使用許諾者が複数になるということは、チェーンストア等がPOS情報の提供先を複数の業者から選べるようになることを意味する。また、一般ユーザーも契約先が選択できるようになるのである。当然のことながら、被告組合も、トレジャーデータに対してPOS情報を提供すると決めた後、複数の使用許諾者からPOS情報提供先を選ぶことになるが、他のチェーンストアがどのような選択をするかについては関与するところではない。
 被告組合が、トレジャーデータにおいて、原告に対して、POS情報提供契約の締結を約束したことはないし、まして、他のチェーンストアが原告と契約することを確約することなどできない。
(オ) 被告らによる営業妨害及び利益侵害行為について
a 原告は、情報提供という、ありふれた業務について、独占的な営業上の利益を有していたわけではない。宝箱システムと異なるプログラムを使用して類似の業務を営む業者は多数存在する(乙14、15)。原告は、宝箱システムというプログラムの使用について独占的なライセンスを有していたにすぎない。
 そもそも、宝箱システムに対するPOS情報提供契約と、トレジャーデータに対するPOS情報提供契約は、異なる契約である。本件第1ライセンス契約(甲1)は、宝箱システムの陳腐化とともに終了し、これに伴い、本件業務契約(甲2)も終了したのである(甲12)。被告組合は、新たに構築されたトレジャーデータに対するPOS情報の提供先として、アジェントリクスと契約したにすぎず、原告との間で既存契約の更新拒絶をしたわけではない。
 宝箱システムにおいては、プログラムの使用権をもつ企業は原告1社であった。したがって、各チェーンストアが情報提供プログラムとして宝箱システムを選択した場合、原告と契約する必要があった。しかし、トレジャーデータにおいては、プログラムの使用者が複数になったことから、情報提供者は、情報提供プログラムとしてトレジャーデータを選択した後、更に情報の提供先企業を選択することができるようになった。原告は、本件第2ライセンス契約(甲8)3条3項によって、既存の顧客ら(情報提供者であるチェーンストア及び一般ユーザー)が選択肢を得ることを了承したのである。
b 被告らが、原告に対して、プログラム使用者が複数になった後も、既存の顧客が原告と取引をすることを確約したことはない。そもそも、各情報提供者や一般ユーザーがトレジャーデータ以外の競合他社のプログラムを選択する可能性すらあったのであり、新たに開始されるトレジャーデータにおいて、各情報提供者や一般ユーザーがどのプログラム使用者を選択するかについて、被告らがコントロールすること到底はできない。
 被告組合がPOS情報を提供する先が、トレジャーデータであり、その使用企業がアジェントリクスに決まったことから、被告組合の売れ筋情報を閲覧したいと考える一般ユーザーが、アジェントリクスと契約する確率は高かったかもしれない。しかし、原告は、他のチェーンストアとの契約締結を推進することによって、一般ユーザーの取り込みを図ることができるのである。
 原告は、新システムであるトレジャーデータについて、本件第2ライセンス契約(甲8)によって、ライセンスを有しているのであるから、チェーンストア及びそれらの売れ筋情報を閲覧したいと考える一般ユーザーとの新たな契約を締結することは十分可能であった。
c 被告ら代表者が他のチェーンストアの意思決定に関与することはない。
(カ) 被告らの侵害動機について
 確かに、著作権の保有者が、被告組合から被告会社となったことで、ライセンス料は、被告会社が受け取ることになる。しかし、被告会社がトレジャーデータの開発費を負担している以上、これは当然である。
 トレジャーデータのプログラム使用者が、2社となったからといって、直ちに、被告会社の収益が向上するわけではない。ライセンスを供与した2社が切磋琢磨し、競合他社と競争しながら、一般ユーザーを増やすことによって初めて、被告会社の収益は増加するのである(本件第2ライセンス契約の利用規約5項〔甲8〕)。
 逆に、原告が、従前同様、ソフトの使用権を独占していたことに胡坐をかき、積極的な営業活動を怠った場合には、トレジャーデータは競合他社との競争に敗れ、被告会社は投下資本の回収をすることができなくなってしまうのである。
ウ 損害及び損害額(争点1−3)
(原告の主張)
(ア) 損害
 被告らの行為によって宝箱サービスの業務から意図的に排除されたことにより、原告は投下した資金の回収が全く不可能になったものである。また、原告は、被告らの行為によって、利用者との利用契約が不可能となり、1359社の利用料相当額の得べかりし利益の損害を受けた。
 その損害額は、以下の(イ)ないし(ケ)のとおりである。
(イ) プログラム開発費相当損害金合計1億0146万7167円
 原告は、宝箱システムの開発費としてPSIGに対し、別紙2第1項(1)記載のとおり、合計9467万9485円を支払った(注記:別紙2第1項(1)の金額は9647万9485円であるが、ここでは原告準備書面(10)35、36頁の本文の記載に従う。)。
 原告は、別紙2第1項(2)記載のとおり、各プログラム開発費合計949万8636円(税込)を支出した。これを科目プログラムに資産計上し、平成24年3月31日決算日現在までに合計182万1361円を償却した。その結果、消費税分含む簿価残高である678万7682円がプログラム開発費相当損害金となる。
(ウ) ハードウエア購入代金相当損害金16万6979円
 原告は、宝箱サービスの業務のためにハードウエアを購入した。原告は、別紙2第2項記載のとおり、これを科目機械装置に資産計上し、平成24年3月31日決算日現在までに合計116万5334円を償却した。その結果、消費税分含む簿価残高である16万6979円がハードウエア購入代金相当損害金となる。
(エ) チラシデータ開発費用相当損害金6171万7737円
 原告は、宝箱サービスの業務のためにチラシデータベースを開発した。原告は、別紙2第3項記載のとおり、これを科目データベース開発費に資産計上し、平成24年3月31日決算日現在までに合計2804万9067円を償却した。その結果、簿価残高である6171万7737円がチラシデータ開発費用相当損害金となる。
(オ) リース料支払資産1636万5930円
 原告は、宝箱サービスの業務のために設備についてリース債務を負った。原告は、別紙2第4項記載のとおり、リース債務の一部支払の結果、平成23年10月31日現在で、消費税分含むリース債務残高相当損害金が1636万5930円である。
(カ) 譲受代金相当額311万7705円
 原告は、宝箱サービスの業務のためにいるかママから事業資産を譲り受けた。原告は、別紙2第5項記載のとおり、これを科目機械装置に資産計上し、平成24年3月31日決算日現在までに合計1507万5757円を償却した。その結果、消費税分含む簿価残高である311万7705円が譲受代金相当額に関する損害金となる。
(キ) 開発費用相当損害金874万0110円
 原告は、宝箱システムの開発保守及びトレジャーデータの共同開発のための費用を支出した。その開発費用相当損害金は、別紙2第6項記載のとおり、合計874万0110円となる。
(ク) 共同開発負担費用相当損害金3150万円
 原告は、被告会社に対し、トレジャーシステムの共同開発のための開発費用を支払った。その共同開発負担費用相当損害金は、別紙2第7項記載のとおり、合計3150万円(税込)となる。
(ケ) 得べかりし使用料相当損害金3億2106万3750円
 原告は、利用者合計1359社、1社年間15万円の利用料の1年分相当額の2億0385万円相当額の損害を主張した。
 しかし、被告らの不法行為により損害が発生した平成23年11月から現時点平成25年5月まで既に1年6か月を経過しているので、1年6か月に相当する得べかりし使用料相当額は3億2106万3750円(税込)となる。
(コ) よって、原告は、被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、合計5億4413万9378円のうち、4億9163万1283円の支払を求める。
(被告らの主張)
 原告の主張は否認する。
(2) 不法行為請求Aの成否(争点2)
(原告の主張)
ア 本件第1ライセンス契約1条において、被告組合が宝箱システムを開発し、著作権等の一切の権利を有していると、明記されている。そして、2条において、被告組合は、原告に対し、宝箱システムを独占的に使用するライセンスを与え、使用許諾した。
イ しかし、実際は、宝箱システムのシステムプログラムは、東京流通情報及びPSIGが開発し制作したものである。その著作権は、東京情報流通及びPSIGに帰属する。被告組合は、宝箱システムのシステムプログラムの著作権を有していない。
ウ 原告は、本件第1ライセンス契約に基づき、被告組合に対し、下記のとおり、合計1億0919万6750円(消費税込み)のライセンス料を支払った。
 記
 平成20年2月20日 1500万円
 平成20年4月25日 882万円
 平成21年2月25日 1500万円
 平成21年8月31日 911万3000円
 平成22年2月19日 1500万円
 平成22年5月25日 1523万0250円
 平成23年2月10日 1500万円
 平成23年4月25日  1603万3500円
エ 被告組合は、宝箱システムのシステムプログラムの著作権を有していない。被告組合は、自己が開発し著作権を有しているがごとく原告を欺罔し、不法にライセンス料名下に金員を詐取して、ライセンス料相当額の損害を原告に与えたものである。
オ また、原告は、著作権がない被告組合に対し、本来著作権使用の対価としてのライセンス料を支払う必要がないところ、法律上の原因なく合計1億0919万6750円を支払った。
カ よって、原告は、被告組合に対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得に基づく利得金返還請求として、1億0919万6750円(附帯請求としてライセンス料の各支払日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求める。
(被告組合の主張)
 原告の主張アは認める。同イは否認する。宝箱システムの著作権は被告組合が有している。同ウは認める。同エ〜カは争う。
(3) 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否(争点3)
(原告の主張)
 上記(1)ア(原告の主張)と同じ。
(被告らの主張)
 上記(1)ア(被告らの主張)と同じ。
(4) 本件第1ライセンス契約及び本件第1覚書に基づくライセンス使用料請求の成否(争点4)
(被告組合の主張)
ア 請求原因
(ア) 被告組合は、原告との間で、下記の条件にて、平成19年4月1日、本件第1ライセンス契約(甲1)を締結した。
 記
a 契約期間は、平成19年4月1日から平成22年3月31日までとする。ただし、被告組合及び原告の双方に異議がないときは、更に1年間自動延長するものとする。
b 原告は、被告組合に対し、1年を単位として別途定める宝箱システムのライセンス使用料を支払う。
(イ) 被告組合は、原告との間で、平成19年4月1日、宝箱システムの使用料について、下記のとおり、本件第1覚書(甲3)を締結した。
 記
a 支払金額
 基本料金 1500万円
 使用料  被告組合を除く原告の事業拠点で、原告のユーザーから得られた年間基本手数料総額の10パーセント
b 支払期日
 基本料金 平成19年4月1日から平成20年3月31日までの1年分については同年2月20日限りとし、以後も同様(翌年の2月20日限り)とする。
 使用料金 平成19年4月1日から平成20年3月31日までの1年分については同年4月30日限りとし、以後も同様(翌年の4月30日限り)とする。
(ウ) 本件第1ライセンス契約は、当初の契約期間(平成19年4月1日から平成22年3月31日まで)が経過した後も、被告組合及び原告の双方が異議を出さなかったことから更新されたが、その後、平成24年3月31日をもって、期間満了により終了した(甲12)。
(エ) 原告は、次の各ライセンス料を支払わない。
a 平成23年4月1日から平成24年3月31日までの基本料金1500万円(乙5)
b 平成23年4月1日から平成24年3月31日までの使用料金1691万5500円(乙6)
(オ) よって、被告組合は、原告に対し、本件第1ライセンス契約及び本件第1覚書に基づくライセンス使用料請求として、3191万5500円(附帯請求としてライセンス使用料の各弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求める。
イ 原告の主張に対する認否
 原告の主張イは否認する。
(原告の主張)
ア 被告組合の主張に対する認否
 被告組合の主張ア(ア)のうち、本件第1ライセンス契約を締結したことは認める。同ア(イ)のうち、宝箱システムの使用料の支払を合意したことは認める。同ア(ウ)は否認する。同ア(エ)のうち、原告が使用料の支払をしていないことは認める。同ア(オ)は争う。
イ 原告の反論
(ア) 宝箱システムの二次的著作物であるトレジャーデータのプログラムが原告と被告らによって共同開発された。そして、平成23年3月に共同開発が完成し、同年4月1日からトレジャーデータに置き換えることが原告と被告らで合意され、この時点で、被告組合の地位が被告会社に移転された。被告会社が、被告組合に代わって、原告に対し、宝箱システム及びトレジャーデータを使用許諾することになり、原告と被告会社との間で、平成23年3月20日、「新宝箱システム環境使用契約書」が締結された(甲6)。トレジャーデータのプログラムには、宝箱システムのプログラムが包含されており、著作権の使用許諾が被告会社との間で「新宝箱システム環境使用契約書」に移行したことから、本件第1ライセンス契約は失効した。
(イ) 被告組合は、宝箱システムのプログラムの著作権を有していないので、著作権を使用させる契約上の責務を履行することはできないから、被告組合には著作権使用の対価としての請求権はない。
 また、原告と被告組合との契約は、原告に意思表示の重要な要素に錯誤があり、契約は無効であるから、被告組合の使用料請求権はない。
(5) 本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書に基づくライセンス使用料請求の成否(争点5)
(被告会社の主張)
ア 請求原因
(ア) 被告会社は、原告との間で、下記の条件にて、平成23年9月22日、本件第2ライセンス契約(甲8)を締結した。
 記
a 契約期間は、平成23年9月21日から平成24年9月20日までとする。
b 原告は、被告会社に対し、本件第2ライセンス契約によるライセンス使用料600万円(月額)を、当月分につき翌々月20日までに、被告会社所定の方法により支払う。
(イ) 被告会社は、原告との間で、平成23年9月22日、本件第2ライセンス契約のライセンス使用料を下記のとおりとする本件第2覚書(甲9)を締結した。
 記
a 原告は、被告会社に対し、平成23年10月利用分(同年9月21日〜同年10月20日)、同年11月利用分(同年10月21日〜同年11月20日)及び同年12月利用分(同年11月21日〜同年12月20日)については、それぞれライセンス使用料を月額300万円(税別)に減額して支払う。
b 原告は、被告会社に対し、平成24年1月利用分(平成23年12月21日〜平成24年1月20日)以降については、本件第2ライセンス契約書5条に従ったライセンス使用料を支払う。
(ウ) 原告は、平成23年9月分ライセンス使用料(支払期日平成23年11月20日)から現在に至るまで、まったく本件第2ライセンス契約のライセンス使用料を支払わず、現在、平成23年9月分から平成24年3月分までの合計3150万円が未払いとなっている(乙7の1〜7、乙8)。
(エ) よって、被告会社は、原告に対し、本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書に基づくライセンス使用料請求として、3150万円(附帯請求としてライセンス使用料の各弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求める。
イ 原告の主張に対する認否
 原告の主張イは争う。
(原告の主張)
ア 被告会社の主張に対する認否
 被告会社の主張ア(ア)〜(ウ)は否認する。同ア(エ)は争う。
イ 原告の反論
(ア) 本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書のいずれの契約も、被告組合が宝箱システムについて著作権を有することが前提となっている。しかし、被告組合は、その著作権を有していなかったから、原告には契約の意思表示において、重要な要素に錯誤があり、いずれの契約も無効である。
(イ) 被告らは、原告を宝箱サービスの事業から排除する目的で、「新宝箱システム環境使用契約書」(甲6)ないし本件第2ライセンス契約(甲8)を仕組み、原告を欺罔した上で、契約したものである。
 原告は、被告会社に対し、平成24年11月9日の弁論準備手続において、詐欺により契約を取り消す旨の意思表示をした。

第3 当裁判所の判断
1 不法行為請求@の成否(争点1)について
(1) 著作権行使の不可能を理由とする不法行為の成否(争点1−1)について
ア 宝箱システムの著作権の帰属について
(ア) 原告は、東京流通情報は、平成15年頃、宝箱システムのシステムプログラムを制作し、その著作権を有していたと主張した上で、東京流通情報から著作権の譲渡を受けたと主張する。
 そこで検討するに、証拠(乙9〜11、16、被告ら代表者本人)によれば、@被告組合は、東京流通情報に対し、宝箱システムの開発を委託したこと、A被告組合と東京流通情報との間の平成15年12月10日付け「開発業務委託に関する基本契約書」(乙10)6条1項には「委託業務の成果物に関する一切の権利は、甲(注記:被告組合を指す。)に帰属するものとする。」と定められていること、B同契約書30条1項には、「委託業務の対価…については、個別契約毎に定めるものとする。」とされていること、C被告組合は、東京流通情報に対し、システムの初期開発費と次年度からのシステム継続更新費用を含めて、会費収入の20%を支払うことを決定したこと、D被告組合と東京流通情報との間の同日付け「コープさっぽろPOS情報開示システム保守契約書」(乙11)6条本文は「保守業務の対価およびその支払方法は次の各号に準じて支払う。…」、同条1号は「甲(注記:被告組合を指す。)が本システム公開によって得た総売上の20 %(税別)とする。」と定められていることが認められる。
 以上に照らすと、宝箱システムの著作権は、被告組合に帰属していたと認めるのが相当であるから、原告が東京流通情報との間で当該著作権に係る譲渡の合意をしても原告に著作権が帰属することはない。
 これに対し、A(東京流通情報の取締役)及びB(東京流通情報の元取締役及びPSIGの代表者)は、それぞれの陳述書(甲66、67)において、反対趣旨の供述をする。しかしながら、上記認定事実に加え、PSIGの作成と推認される宝箱システムのホームページ(甲37の1 ) には、 「(c)2003−2010コープさっぽろAll rights reserved 開発:鞄結棊ャ通情報研究所(2003〜2005)/Pacific Systems Integration Group、Inc(2006〜)」と記載されていること、原告とPSIGとの間の平成19年4月1日付け「契約書」の前文には「生活協同組合コープさっぽろ…の考案・ライセンス許諾による『宝箱システム』」と記載されていること、被告組合と東京流通情報との間で宝箱システムに関して紛争はなかったことに照らすと、上記供述は容易に採用することができない(なお、原告も本件訴訟提起時には運営当初の宝箱システムの著作権が被告組合に帰属することを認めていた〔訴状5頁〕。)。
(イ) 原告は、宝箱システムに追加あるいは改修したプログラムがあるとして、その著作権を主張する。
しかしながら、原告は、当該プログラムの著作物性が争われているにもかかわらず、当該プログラムの具体的な表現及びその創作性を主張・立証しないから、当該プログラムの著作物性が認められない。
したがって、当該プログラムの著作権が原告に帰属することも認められない。
(ウ) 以上のとおり、宝箱システムの著作権は、被告組合に帰属していたと認められ、また、宝箱システムに追加あるいは改修したプログラムがあるとしても、当該プログラムの著作物性が認められないから、宝箱システムの著作権が原告に帰属するとは認められない。
ところで、原告は、チラシデータ(「玉手箱」)というチラシ情報開示システムが宝箱システムを構成するものと主張するかのようであるが、宝箱システムとチラシデータが同一のホームページからログインできるとしても、そのログインはそれぞれ別に行う必要があるから(甲29の1の1参照)、宝箱システムとチラシデータが異なるシステムであることは明らかであり、チラシデータが宝箱システムを構成するものとは認められない。
イ トレジャーデータの共同開発について
(ア) 原告は、トレジャーデータについて、宝箱システムを複製・翻案したものであると主張する(当該主張は、原告が宝箱システムの著作権を有することが前提となっているが、念のため検討する。)。
 原告は、宝箱システムとトレジャーデータのWeb画面を比較する(別紙1Web画面対比表)が、トレジャーデータは、宝箱システムの後継システムであるから、ユーザーのPOS情報の取得に当たり、その設定する項目等が同一であることは当然である。しかしながら、これらは、アイデアにすぎないから、これらが同一であるからといって、トレジャーデータが宝箱システムを複製・翻案したものであることにはならない。宝箱システムとトレジャーデータとのそれぞれのプログラムにおける具体的表現が類似するか否かが問題である。そして、Web画面を比較しても、その画面上の表現が類似しているとは認められないのであるから、宝箱システムとトレジャーデータとのプログラムにおける具体的表現が類似することが推認されるものではないし、その他の証拠を検討しても両プログラムの具体的表現が類似することを認めることはできない。
 そうすると、トレジャーデータが宝箱システムを複製・翻案したものであるとは認められない。
(イ) 原告は、トレジャーデータが原告と被告らの共同開発であると主張する。
 しかしながら、原告がトレジャーデータのプログラムを実際に作成したことを認めるに足りる証拠はない。原告は、トレジャーデータの開発に携わったユビキタスID株式会社や株式会社シイエヌエスと打ち合わせを行い、その中で原告が上記開発会社に対し、トレジャーデータの仕様について要望を述べていることが認められる(甲37の2、甲38〜40、42、44)。これは、原告が宝箱システムのライセンスを有するものであり、トレジャーデータについても同様の立場が継続される可能性があったことから、新しいシステムについて利害関係をもつ原告が、仕様についての要望を述べたものと認められる。
 しかし、これをもって原告によるプログラムの作成と評価することは困難である。
 経済的な負担をみても、原告は、平成22年3月23日、被告会社に対し、システム開発着手関連業務の費用として、1575万円(消費税込み)を支払っているが(甲5)、トレジャーデータに移行するための宝箱サービスの調査の費用と認められるから(甲5の3枚目)、原告がトレジャーデータのプログラムの開発費用を負担したとは認め難い。また、原告は、被告会社に対し、被告会社との間の「新宝箱システム環境使用契約書」(甲6)別紙1に基づいて、「新宝箱システム環境使用料」として合計1575万円(システム使用料として1か月315万円〔消費税込み〕の5か月分)を支払っているが(枝番号を含めて甲45〜49)、同様にトレジャーデータの開発費用を負担したとは認め難い(上記「新宝箱システム環境使用契約書」の本文冒頭には、「表記記載の甲及び乙〔注記:甲が原告、乙が被告会社である。〕は、乙が開発・構築した「新宝箱システム」…の甲による利用に関して、以下のとおり合意した」との記載がある。)。
(ウ) 以上のとおり、トレジャーデータは、宝箱システムを複製・翻案したものであるとは認められないし、トレジャーデータが原告と被告らの共同開発であるとは認められない。
 したがって、原告がトレジャーデータの著作権を準共有しているとは認められない。
ウ 原告の著作権行使の不可能について
 以上のとおり、原告は、宝箱システム及びトレジャーデータの著作権を有するとは認められない。したがって、原告がこれらのシステムを利用することができなくなったとしても、それが原告による著作権の行使を不可能にした不法行為を構成するものとはいえない。
 また、著作物の使用という側面からみても、原告は、トレジャーデータへの移行に伴い、宝箱サービスの使用廃止について同意しているし(原告代表者本人)、宝箱システムのプログラムを保管していたのであるから(原告準備書面(4)2頁)、被告らによって宝箱システムのプログラムの使用が不可能にされていたとは認められない。同様に、原告は、本件第2ライセンス契約によって、トレジャーシステムを利用できる権利(ライセンス)を取得していたのであるから(2条3号・3条1項)、被告らによってトレジャーデータの使用が不可能にされていたとは認められない。
 したがって、著作権行使の不可能を理由とする不法行為は成立しない。
(2) 契約の更新拒絶等を理由とする不法行為の成否(争点1−2)について
ア 原告は、宝箱システムからトレジャーデータへの移行作業は、従前同様に、原告が独占的なライセンス権限、データベースの権限を有し、利用者に対し引き続きサービスを提供する権限を有していることを前提に行われたものである旨主張する。
 確かに、原告は、本件第1ライセンス契約によって、宝箱システムを使用するための独占的なライセンスを取得していたことが認められる(前提事実(3)イ)。しかしながら、原告は、本件第2ライセンス契約によって、トレジャーデータを利用できる権利を取得したものの、3条3項は「甲(注記:被告会社を指す。)が、本システムおよび本ノウハウについて、ライセンスを許諾するのは、当面の間、乙(注記:原告を指す。)を含め三者までとし、甲がこれを超えて許諾しようとする場合には、乙との事前協議を行うものとする。」と定められたことが認められる(前提事実(4)ウ)。そして、被告会社は、平成23年10月18日、原告に対し、本件第2ライセンス契約3条2項に基づき、本件第2ライセンス契約と同様の契約をアジェントリクスと締結したことを通知しているが(前提事実(5)ア)、これに対して原告が異議を述べたなどの事情は認められない。
 そうすると、原告と被告らの間において、原告に対してトレジャーデータの利用について独占的なライセンスが与えられることが予定されていたと認めることは困難であるし、その他これを認めるに足りる証拠はない。この点、原告代表者は、本人尋問において、本件第2ライセンス契約の締結に際して、3条3項について異議を述べた旨供述するが、これを裏付ける証拠はない。
 原告の主張は、POS情報の提供についても独占的な権限がある旨を主張するものとも解されるが、本件業務契約には、そのような条項はないし、原告と他のチェーンストア等との契約であるサンエーとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲21)、ライフ(首都圏)との間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲50)、コープこうべとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲18〔事業譲渡により承継〕)、ライフ(近畿圏)との間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲26)、タイヨーとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲27の1)、サンネットとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲28)をみても同様である。
イ また、原告は、宝箱サービスの営業のために、合計3億6169万6351円の資本を投下した旨主張する( 第2 の3 (1)イ( 原告の主張)(ウ))。
 他方で、原告の利用契約に係る主張(第2の3(1)イ(原告の主張)
(ア))を前提とすると、平成19年942社、平成20年986社、平成21年999社、平成22年1307社、平成23年1330社(同年11月4日には1359社)の合計5593社の年間利用契約(利用料15万7500円〔消費税込み。以下この段落の金額につき同じ。〕)があったから、利用契約により約8億8000万円の収入を取得したと推計される。また、原告は、タイヨーから契約金1050万円(甲27の2)、サンネットから契約金1890万円(甲28)の収入を取得している。これらを合計すると、原告の宝箱システムに係る収入は9億円を上回るものと推計される。
 そうすると、原告の営業のための資本投下についての主張、損害額に関する開発費についての主張及び被告組合に支払ったライセンス額についての主張を考慮しても、原告の宝箱システムに投下した資本は十分に回収されているものと解される。
ウ 以上のとおり、原告と被告らの間において、原告に対してトレジャーデータの利用について独占的なライセンスが与えられることが予定されていたとは認められないし、原告の宝箱システムに投下した資本等は十分に回収されていると解されるから、被告会社が原告に対してトレジャーデータの利用について独占的なライセンスを与えなかったことや、被告組合が本件業務契約を更新しないでPOS情報の提供をしなくなったことが原告の営業の利益を違法に侵害するとはいい難い。
エ さらに、原告は、原告とチェーンストア等との間では、ライセンス保証条項が定められており、原告が完全なライセンスを保有していることが契約締結の条件となっていたため、チェーンストア等6社及びその取引先である1068社との契約更新が不可能になった旨主張する。
 原告の主張する「完全なライセンス」はシステムを独占的に利用できる権利として主張するものと解される。しかしながら、サンエーとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲21)7条1項、株式会社ライフ(首都圏)との間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲50)7条1項、コープこうべとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲18〔事業譲渡により承継〕)9条1項、ライフ(近畿圏)との間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲26)7条1項、タイヨーとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲27の1)10条、サンネットとの間の「宝箱サービスに関する契約書」(甲28)15条において、原告が上記チェーンストア等に対して「宝箱サービスを提供することができる完全な権利の許諾を受けていることを保証する」と定められているが、この「完全な権利」とは瑕疵のない権利をいうのであって、原告が独占的な利用権を有していることを前提とするものではないと解される。
 そうすると、原告の主張は、前提を欠くものであり、原告が被告組合以外のチェーンストア等及びその取引業者との契約更新ができなかったのは、他の原因によるものと解される。
オ そして、その他原告の主張を併せて検討しても、被告らが原告の営業の利益を違法に侵害したとはいえないから、契約の更新拒絶等を理由とする不法行為は成立しない。
(3) 小括
 以上のとおり、損害及び損害額(争点1−3)について判断するまでもなく、不法行為請求@は理由がない。
2 不法行為請求Aの成否(争点2)について
 原告は、被告組合が宝箱システムのシステムプログラムの著作権を有していないのに、不法にライセンス料名下に金員を詐取して、ライセンス料相当額の損害を原告に与えたなどとして、不法行為を主張するとともに、著作権がない被告組合に対し、本来著作権使用の対価としてのライセンス料を支払う必要がないとして、不当利得を主張する。
 しかしながら、前記1(1)のとおり、被告組合は、宝箱システムの著作権を有しているから、その余について判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。
 したがって、不法行為請求Aは理由がない。
3 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否(争点3)について
 前記1(1)のとおり、原告が宝箱システム及びトレジャーシステムの著作権を有しているとは認められない。また、著作権は、著作物について他人が著作権法21条〜28条又は113条1項・2項に規定する行為を行うことを禁止するのであって、著作権行使を不可能にしたと主張するのみでは著作権侵害に当たらない。原告の主張は、著作権法112条1項に基づく差止請求に係る主張として、主張自体失当である。
 したがって、著作権法112条1項に基づく差止請求は理由がない。
4 本件第1ライセンス契約及び本件第1覚書に基づくライセンス使用料請求の成否(争点4)について
(1) 本件第1ライセンス契約では、4条において、原告が被告組合に対して宝箱システムのライセンス利用料(消費税は別途)を支払い、ライセンス利用料は、被告組合と原告の協議の上、1年間の利用料金を単位として別途定める旨が定められている。そして、10条において、本件第1ライセンス契約の有効期間は、平成19年4月1日から平成22年3月31日までとし、被告組合と原告の双方に異議がないときは、更に1年間自動延長する旨が定められている。さらに、本件第1覚書では、宝箱システムのライセンス利用料として、@使用基本料金について、毎年4月1日以降の1年分1500万円、支払期日を翌年2月20日、A使用料金について、毎年4月1日以降翌年3月31日までを対象として、被告組合を除く原告の事業拠点で原告のユーザーから得られた年間基本手数料総額の10%、支払期日を翌年4月末日と定められている(以上につき前提事実(3)イ)。
 また、証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、本件第1ライセンス契約は、2度自動更新され、平成24年3月31日まで効力を有していたことが認められる。
 さらに、証拠(乙5、6)及び弁論の全趣旨によれば、平成23年4月1日以降の1年分の使用基本料金は1500万円、同じ期間の使用料は1691万5500円(いずれも消費税込み)であることが認められる。
 以上のとおり、本件第1ライセンス契約及び本件第1覚書に基づくライセンス使用料請求に係る請求原因は理由がある。
(2) これに対し、原告は、トレジャーデータへの移行に伴い、被告会社が、被告組合に代わって、原告に対し、宝箱システム及びトレジャーデータを使用許諾することになり、著作権の使用許諾が被告会社との間で「新宝箱システム環境使用契約書」に移行したことから、本件第1ライセンス契約は失効したなどと主張する。しかしながら、被告らの間でそのような合意があったことを認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。
 また、原告は、被告組合が宝箱システムの著作権を有しておらず、著作権を使用させる契約上の責務を履行することはできないから、被告組合には著作権使用の対価としての請求権はないと主張するが、被告組合が宝箱システムの著作権を有することは前記1(1)のとおりであるから、原告の主張は理由がない。
 さらに、原告は、原告と被告組合との契約は、原告に意思表示の重要な要素に錯誤があり、契約は無効であるから、被告組合の使用料請求権はない旨主張する。原告の主張は、被告組合が宝箱システムの著作権を有しないことを前提とするものと解されるが、上記のとおり、前提を欠く主張であるから理由がない。
(3) したがって、本件第1ライセンス契約及び本件第1覚書に基づくライセンス使用料請求(3191万5500円及びこれに対する内金1500万円に対する弁済期の翌日である平成24年2月21日から、内金1691万5500円に対する前同様の同年5月1日から、いずれも支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)は理由がある。
5 本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書に基づくライセンス使用料請求の成否(争点5)について
(1) 本件第2ライセンス契約では、5条において、原告は、被告会社に対し、トレジャーシステムを利用できる権利(ライセンス)の対価として、毎月分を翌々月20日までに、月額金600万円(税別)を支払う旨が定められ、7条において、本件第2ライセンス契約の契約期間は、平成23年9月21日から平成24年9月20日までとする旨が定められている。そして、本件第2覚書では、@平成23年9月21日〜同年10月20日分、同月21日〜同年11月20日分及び同月21日〜同年12月20日分については、それぞれライセンス使用料を月額300万円(税別)に減額する旨、A原告は、被告会社に対し、平成23年12月21日〜平成24年1月20日分以降については、本件第2ライセンス契約5条に従い、ライセンス使用料を支払う旨が定められている(以上につき前提事実(4)ウ。乙7の1〜7)。
 そうすると、原告は、被告会社に対し、@平成23年9月21日〜同年10月20日分の315万円について、同年11月20日を弁済期として、A平成23年10月21日〜同年11月20日分の315万円について、同年12月20日を弁済期として、B平成23年11月21日〜同年12月20日分の315万円について、平成24年1月20日を弁済期として、C平成23年12月21日〜平成24年1月20日分の630万円について、同年2月20日を弁済期として、D平成24年1月21日〜同年2月20日分の630万円について、同年3月20日を弁済期として、E平成24年2月21日〜同年3月20日分の630万円について、同年4月20日を弁済期として、F平成24年3月21日〜同年4月20日分の630万円について、同年5月20日を弁済期として、支払義務があるものと認められる(もっとも、被告会社は、上記Cにつき315万円を請求するものと解される。)。
 以上のとおり、本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書に基づくライセンス使用料請求の請求原因は理由がある。
(2) これに対し、原告は、本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書のいずれの契約も、被告組合が宝箱システムについて著作権を有することが前提となっているのに、その著作権を有していなかったから、原告には契約の意思表示において、重要な要素に錯誤があり、いずれの契約も無効である旨主張する。しかしながら、宝箱システムとトレジャーシステムは異なるシステムであるから、原告の主張は前提を欠くし、被告組合が宝箱システムの著作権を有することは前記1(1)のとおりであるから、原告の主張は理由がない。
 また、被告らは、原告を宝箱サービスの事業から排除する目的で、「新宝箱システム環境使用契約書」ないし本件第2ライセンス契約を仕組み、原告を欺罔した上で、契約した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。
(3) したがって、本件第2ライセンス契約及び本件第2覚書に基づくライセンス使用料請求(3150万円及び内金315万円に対する弁済期の翌日である平成23年11月21日から、内金315万円に対する前同様の同年12月21日から、内金315万円に対する前同様の平成24年1月21日から、内金315万円に対する前同様の同年2月21日から、内金630万円に対する前同様の同年3月21日から、内金630万円に対する前同様の同年4月21日から、内金630万円に対する前同様の同年5月21日から、いずれも支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)は理由がある。
6 まとめ
 以上のとおり、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却し、被告らの請求は、いずれも理由があるから認容する。
 また、原告は、文書提出命令を申し立て、@トレジャーデータのプログラムを全部記録した記録媒体、A被告らの平成19年度から平成23年度の税務申告書等の提出を求めるが、その必要性があるとは認められないから、これを却下する。
7 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 森川さつき
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日本ユニ著作権センター
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