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【事件名】死刑囚支援団体事件
【年月日】平成25年9月9日
 東京地裁 平成25年(ワ)第9561号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年7月10日)

判決
原告 A
被告 B(以下「被告B」という。)
被告 C(以下「被告C」という。)


主文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告らは、原告に対し、各10万円を支払え。
(2) 被告らは、以下の行為をしてはならない。
@ 「麦の会」の称号の利用、及びそれに関わる機関誌「和解」のパンフレットその他会報誌の発行、販売、これに関わる人員(スタッフ)の活動
A 「麦の会」及びそれに関わる「和解」の称号を利用しての宗教の情宣活動等
B 「麦の会」及びそれに関わる「和解」の称号を利用しての会員並びに支援者等の勧誘
C その他上記@からBに関わる事項、並びに称号等に関係なく「麦の会」スタッフの被収容者及びその関係者への関与
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(4) 第1、2項につき仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(本案前の答弁)
 主文同旨
(本案の答弁)
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 原告の請求内容は必ずしも判然としないが、本件は、原告が、「麦の会」の事務局代表である被告B及び「麦の会」の「獄外運営委員代表」であるとする被告Cに対し、「麦の会」の名称や規約等の改変が原告の著作権を侵害すると主張して、被告らに対し、各10万円の支払を求めるとともに、著作権法112条に基づき「麦の会」の活動の差止めを求めるものと解される。
2 原告の主張
 別紙訴状と題する書面のとおり
3 被告らの主張
 別紙答弁書のとおり
第3 当裁判所の判断
1 末尾に掲記した証拠等によれば、以下の事実が認められる。
(1) 昭和55年9月1日、当時東京拘置所に収容されていた9名の死刑囚は、死刑廃止を目的として、その名称を「日本死刑囚会議=麦の会」とし、略称を「麦の会」とする団体(以下「麦の会」という。)を結成した(乙1、30、31)。同団体の規約である「日本死刑囚会議=麦の会 規約」は、同日承認され、その後昭和59年7月20日に改正された(乙1、33)。
(2) 原告は、昭和59年10月に2件の強盗殺人事件を起こし、昭和62年10月31日、東京地裁で死刑判決を言い渡され、その後、控訴及び上告をしたが同判決が確定し、現在、東京拘置所に収容されている死刑囚である(乙1、33)。
 原告は、かつて麦の会に所属していたが、平成3年2月に、麦の会から分かれたメンバー数名で「ユニテ」という団体を結成し、麦の会から除名処分を受けた(乙1、17ないし19、22、25)。
(3) 被告Bは、麦の会の事務局代表である(争いがない。)。
 被告Cは、麦の会の運営委員である(乙27、35、弁論の全趣旨。原告は、被告Cが麦の会の「獄外運営委員代表」であると主張するが、そのように認めるに足りる証拠はない。)。
(4) 平成2年12月1日、麦の会を編著者とし、株式会社インパクト出版会を発行所とする、「死刑囚からあなたへA国には殺されたくない」との書名の書籍(以下「本件書籍」という。)が発行され、本件書籍の52頁から76頁には、当時上告中であった原告が執筆した「なぜ事件を起してしまったのか」と題する文書が掲載されている(乙1、26、33、38)。
(5) 麦の会は、平成18年4月1日、その規約を改正して、その名称を「拘禁者ネットワーク委員会=麦の会」と改めた(乙1、29、35、48)。
(6) 麦の会は、平成21年8月1日、その規約を改正して、その名称を「被拘禁者更生支援ネットワーク=麦の会」と改めた(乙1、12、29、40、48)。
(7) 原告は、麦の会の事務局代表であったD及び現事務局代表である被告Bを被告として、本件書籍、「麦の会」の称号及び規約について著作権を有していると主張して、著作権及び著作者人格権に基づき、Dに対し損害賠償金160万円の支払及び侵害行為の差止めを、被告Bに対し損害賠償金200万円の支払及び侵害行為の差止めを、それぞれ求める訴訟を提起した(当庁平成23年(ワ)第15452号、平成24年(ワ)第17173号。乙1ないし7、10、11。以下「前訴」という。)。
 当庁は、平成25年1月25日、原告の請求をいずれも棄却する判決をし(乙1。以下「前訴判決」という。)、この判決は確定した(乙49)。
(8) 原告は、麦の会の代表者であるEを被告とする訴えを提起した(当庁平成25年(ワ)第4390号。弁論の全趣旨)が、この訴訟は、平成25年5月14日、取下擬制により終了した(当裁判所に顕著)。
(9) 原告は、平成25年4月9日付けの本件訴状を提出し、同書面は同月12日当庁に到達し、本件は当庁平成25年(ワ)第9561号として立件された(当裁判所に顕著)。
2 前訴判決の既判力について
(1) 上記1(7)のとおり、原告と被告Bとの間において、原告が被告Bに対し著作権及び著作者人格権に基づく損害賠償請求権及び差止請求権を有しないことは既判力をもって確定している。
(2) なお、念のため判断すれば、本件全証拠によるも、原告は「麦の会」の名称や規約について著作権を有するものとは認められず、被告Bが原告の著作権を侵害しているとは到底認められない。
3 被告Cに対する訴えの適法性について
(1) 被告Cは前訴の当事者でもその承継人等でもないから、前訴判決の既判力が及ぶわけではない(民事訴訟法115条)。
(2) しかし、前訴と訴訟物や当事者が異なるなどして前訴判決の既判力が及ばないとしても、後訴が実質的に見て紛争の蒸し返しといえるときは、後訴の提起は信義則に照らして許されないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本訴において原告の主張する著作権侵害の内容は、前訴において主張したものとほぼ同様である。
 前訴における被告は麦の会の前事務局代表であったD及び現事務局代表である被告Bであり、本訴における被告は被告B及び原告において獄外運営委員代表であると主張する被告C(なお、被告らによれば、被告Cは「獄外運営委員代表」ではなく、運営委員の1人にすぎない。)であるが、いずれも麦の会関係者という点では共通している。
 以上の事実に照らせば、本訴は、実質的には前訴の蒸し返しというべきであり、本訴の提起は信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。
4 被告Bに対する訴えの適法性について
 上記3で述べたことに照らせば、被告Bに対する関係においても、本訴の提起は信義則に照らし許されないものと解するのが相当である。
5 結論
 以上によれば、本件訴えは信義則に反する蒸し返し訴訟と認めるのが相当であるから、いずれも却下することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 西村康夫
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