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【事件名】性格心理テストの出版販売契約事件(2)
【年月日】平成25年8月29日
 大阪高裁 平成24年(ネ)第12号 著作権に基づく差止請求権不存在確認等請求、著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成21年(ワ)第20132号(甲事件)、平成22年(ワ)第4332号(乙事件))
 (口頭弁論終結日 平成25年5月30日)

判決
控訴人(一審甲事件被告兼乙事件原告) A(以下「控訴人A」という。)
控訴人(一審乙事件原告) B
上記両名訴訟代理人弁護士 西村渡
同 辻本希世士
被控訴人(一審甲事件原告兼乙事件被告) 竹井機器工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 本橋光一郎
同 下田俊夫


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中主文1項及び3項を取り消す。
2 被控訴人の控訴人Aに対する請求をいずれも棄却する。
3 被控訴人は、原判決別紙1商品目録記載の各検査用紙を発行し、販売し、頒布してはならない。
4 被控訴人は、前項記載の各検査用紙を廃棄せよ。
5 被控訴人は、控訴人らに対し、それぞれ2200万円及びこれらに対する平成22年3月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 被控訴人は、亡Cとの間で、平成12年1月1日に原判決別紙1商品目録記載1ないし4の各検査用紙(以下「本件各検査用紙」という。)について、原判決別紙2の著作物出版販売契約書に係る著作物出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結して本件各検査用紙を出版、販売していたところ、同契約で定められた当初の利用期間が満了したことから、被控訴人及び本件各検査用紙の著作権の相続人ら間で、同契約の存続を巡って紛争が生じた。
2 本件甲事件は、被控訴人、一審甲事件原告D(以下「一審原告D」という。)及び同E(以下「一審原告E」という。)が、主位的には、一審甲事件原告らと控訴人Aとの間で、本件出版契約が存在していることの確認を求め、予備的に、@被控訴人が、控訴人Aとの間で、控訴人Aが、Cから相続した著作権の持分権に基づき、被控訴人がする本件出版契約に基づく出版、販売行為に対する差止請求権を有しないことの確認を求め、A一審原告D及び同Eが、控訴人Aに対し、著作権法65条3項に基づき、本件出版契約の更新に合意することを求めた事案である。
 本件乙事件は、控訴人らが、本件出版契約が契約期間満了により終了したことを前提として、被控訴人に対し、控訴人らが有する本件各検査用紙の著作権の持分権に基づき、本件各検査用紙の出版、販売の差止等を求めるとともに、不法行為に基づき、それぞれ2200万円の損害賠償及びこれらに対する不法行為の日の後である平成22年3月26日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
3 原審は、被控訴人の甲事件の主位的請求を認容し、一審原告D及び同Eの甲事件の請求については、主位的請求は確認の利益がなく不適法であるとしてその請求に係る訴えをいずれも却下し、予備的請求はいずれも棄却し、控訴人らの乙事件の請求をいずれも棄却したところ、控訴人らが控訴した。したがって、当審における審理の対象は、被控訴人の控訴人Aに対する甲事件の主位的請求及び予備的請求@と控訴人らの被控訴人に対する乙事件の請求の当否である。
4 判断の基礎となる事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり、争点2に関する当審における控訴人らの補充主張とそれに対する被控訴人の反論を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1及び2並びに第3に記載されたとおりである(ただし、争点1に関する部分を除く。)から、同部分を引用する。
(1) 争点2に関する控訴人らの補充主張
 本件訴訟の控訴審における和解協議の中で、控訴人らは、被控訴人の意向にも最大限配慮しつつ、本件各検査用紙の信頼性及び妥当性の検証作業を進める方向での和解を懸命に模索したが、被控訴人は、意味不明の理由を述べて検証に応じず、和解を打ち切った。このような被控訴人の態度は、本件各検査用紙の出版権者として不適格であることを如実に示すものであり、本件更新拒絶についての正当な理由を基礎付ける事由になる。
(2) 被控訴人の反論
 被控訴人は、和解協議の中で、本件各検査用紙の信頼性及び妥当性の検証を一切拒否したわけではなく、真摯に検討した上で意見を述べていたのであり、他方、控訴人らは、当初から過大な要求を提示し続け、些細なことで本件出版契約を解除することを意図するなど、不誠実な態度であった。
第3 当裁判所の判断
1 争点2(本件更新拒絶に正当な理由があるか等)について
 当裁判所も、本件更新拒絶に著作権法65条3項にいう正当な理由があるとは認められず、控訴人Aがした本件更新拒絶は有効なものとは認められないから、本件出版契約は同契約3条の規定により更新されて存続しているものと認められ、その結果、被控訴人は、本件出版契約に基づき本件各検査用紙を出版、販売する権利を有することが認められると判断する。その理由は、次の(1)のとおり付加、補正し、次の(2)のとおり控訴人らの当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第4の2に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決の補正等
ア 21頁9行目から22頁8行目まで(イ項)を、次の文章に改める。
 「イ そして、控訴人らは、上記問題点の詳細を指摘した上、これらの問題は、学会においても、かねてから指摘されていたと主張する。
  しかしながら、そのような指摘が学会でされていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
  もっとも、YG性格検査に歪曲反応に弱い面があることについて、かねてから指摘されていたことは被控訴人も認めているところであり、YG性格検査が歪曲反応に弱い点を指摘するインターネット上の記事(乙5ないし7)も存在する上、控訴人らの上記指摘に沿う内容の見解を示す心理学者(F)作成の書面(乙21の2[報告書]、26[追加意見書])も提出されている。
  しかしながら、本件各検査用紙の販売数量が平成19年に71万4977部、平成20年にも70万0685部、平成21年にも66万2737部であること(当事者間に争いがない。)からすると、本件各検査用紙が、現在も、企業や官公庁などで採用試験や人事異動の参考資料として、あるいは学校で進路指導や生徒指導などに幅広く利用されており、その社会的需要が安定していることは明らかといえる。他方、控訴人らが指摘するような問題点を原因として、YG性格検査の利用者数が減少しているといったような事情は認められない。
  そして、このような事実は、本件各検査用紙を用いた心理検査の結果には、確立した信頼性が現在もなお維持し続けられており、また控訴人らの主張する問題点の指摘が学会においてされ、また、それに沿う見解を示す心理学者がいたとしても、それが多数意見とはなっていないことを示しているといえる。
  したがって、控訴人らの主張する本件各検査用紙の抱える問題は、いずれも本件出版契約の更新拒絶についての「正当な理由」を基礎付ける事実としては十分なものではないといわなければならない。 」
イ 22頁末行の「改訂の必要があるとしても、」の後に、「本件出版契約の12条に基づき、」を挿入する。
ウ 23頁17行目の「背信行為であって、」の後に「著作権者の経済的利益を損なう可能性のあるものでもあり、」を挿入する。
エ 24頁24〜25行目の「昭和58年頃」の後に「又はそれ以前」を挿入する。
オ 25頁14行目から16〜17行目の「明らかであるから、」までを、「そして、上記Aのとおり、被控訴人が、住友事業団分の著作権利用料を著作権の共有者らに支払ってきたことからすれば、住友事業団との関係の問題は、愛知県勤労会館に対する関係における問題と異なって、被控訴人が、その関係を著作権の共有者らに隠蔽しようとしていなかったものと考えられ(なお、控訴人らは、愛知県勤労会館の問題がCに発覚した後、同会館への販売分については、コンサルタント料計算書等に「名古屋コンピューター用」などと他の分と区別した記載がなされるようになったのに、その時点で既に販売されていた住友事業団用紙につきそのような記載がされなかったのは、被控訴人がCにこれを積極的に隠蔽していたからである旨主張する。しかしながら、Cが住友事業団の件を許諾していたのであれば、そのような記載をわざわざしなかったとしても不自然ではないから、記載されていない事実から、上記隠蔽の事実を認めることはできない。)、」に改める。
カ 25頁23行目に「微々たるものであるし」とあるのを「少額にとどまるものであり(この点は、住友事業団によるYG性格検査用紙の発行が昭和41年頃からなされていたとしても、同様である。)、上記Aのとおり、これに対応する著作権利用料は著作権の共有者に支払われていたものであるし」に改める。
(2) 控訴人らの当審における補充主張に対する判断
 控訴人らは、本件訴訟の控訴審における和解協議における被控訴人の態度は、本件各検査用紙の出版権者として不適格であることを示すものであり、本件更新拒絶についての正当な理由を基礎付ける事由になる旨主張する。
 しかしながら、その主張に係る事実は、本件訴訟係属後に起きた事実であって、更新時期が平成22年1月1日である本件出版契約の更新拒絶のための「正当な理由」を基礎付ける事実とは直ちにはできないものである。また、その点は措くとしても、訴訟手続において和解協議に応じるか判決を求めるかは裁判を受ける権利を有する当事者の自由であって、その点の判断をもって不利に解することはできない上、証拠(乙31ないし42)及び弁論の全趣旨によれば、控訴審における和解手続の中で、控訴人らから、本件各検査用紙の内容、体裁等につき、信頼性及び妥当性の検証作業を行うため、学識経験者等に専門的知見についての照会を行い、その回答を踏まえて契約条件等を協議するとの提案がなされ、被控訴人も照会を行う点については概ね同意したが、控訴人らが提案した照会先が、前記Fを会長とする団体であったことなどから、被控訴人がこれに応じず、和解が打ち切りになったことが認められるのであって、被控訴人は、本件各検査用紙の信頼性及び妥当性を検証するための和解協議に全く応じなかったわけではなく、控訴審における和解への対応から、被控訴人が、本件各検査用紙の出版権者として不適格であると認めることもできない。
 これらによれば、控訴人らの上記主張は採用できない。
2 以上によれば、被控訴人の、被控訴人と控訴人Aとの間において、本件各検査用紙の出版、販売に関して、本件出版契約が存在することの確認を求める甲事件主位的請求は、理由があるから認容されるべきであり、控訴人らの乙事件各請求は、いずれも本件出版契約が終了したことを前提とするものであるから、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がなく棄却されるべきであり、これらと同旨の原判決は相当である。
 よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 小松一雄
 裁判官 遠藤曜子
 裁判官 横路朋生
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