判例全文 line
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【事件名】商標“ほっとレモン”審決取消事件(2)
【年月日】平成25年8月28日
 知財高裁 平成24年(行ケ)第10352号 商標登録取消決定取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年5月27日)

判決
原告 カルピス株式会社
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 相良由里子
同 佐竹勝一
訴訟代理人弁理士 中山真理子
同 苫米地正啓
被告 特許庁長官
指定代理人 野口美代子
同 豊瀬京太郎
同 堀内仁子


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が異議2011−900380号事件について平成24年9月4日にした異議の決定を取り消す。
第2 前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯等
 原告は、第32類「レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」を指定商品として、別紙商標目録記載1のとおりの構成からなる登録第5427470号商標(平成21年12月1日登録出願、平成23年6月27日登録査定。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 訴外サントリーホールディングス株式会社は、平成23年10月21日、本件商標は、自他商品識別標識としての機能を果たし得ず(商標法3条1項3号)、また、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない商標に該当する(同項6号)として、登録異議の申立てをした。また、訴外キリンホールディングス株式会社は、同月24日、本件商標は、自他商品識別標識としての機能を果たし得ない(同項3号)として、登録異議の申立てをした。
 上記2件の登録異議の申立ては、異議2011−900380号事件として特許庁で審理され、特許庁は、平成24年9月4日、本件商標の商標登録を取り消す旨の決定をし(以下「決定」という。)、その謄本は、同月13日、原告に送達された。
2 決定の概要
 決定の理由は、別紙決定書写に記載のとおりである。決定は、要するに、本件商標は、商標法3条1項3号に該当し、また、本件商標について使用により自他商品識別力を獲得したものと認められないから、同条2項に該当しないとするものである。
第3 取消事由に係る当事者の主張
1 原告の主張
(1) 商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り(取消事由1)
 以下のとおり、本件商標は、平仮名「ほっと」と片仮名「レモン」を、独特の丸みを帯びたやわらかい印象を与える書体により上下横二段書きにして(以下、当該部分を「本件文字部分」という場合がある。)、これを囲む輪郭部(以下「本件輪郭部分」という場合がある。)と本件文字部分とが同一の色彩により、一体的にバランスよくデザインされた構成全体において独創的である。また本件商標は、温かいレモン飲料という、商品の品質等を直接的に表示し、又は認識させるものではないから、自他商品識別力を備えている。
ア 本件商標の構成・態様は、全体として観察するときは独創的であり、「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」には該当しない。
 商標の自他商品識別力は、商標の構成中の個々の要素を個別的に観察・検討するのではなく、指定商品の分野における実情を踏まえつつ、商標全体が需要者にどのような印象を与えているか、そして商標全体で出所識別機能を果たすことができるか否かを考察した上で判断すべきものである。
 需要者は、ソフトドリンクの商標の文字及び図形のデザインや商標の色彩などの特徴・イメージと商品名とを意識的に結び付けて、それら全体としてその商品及びその出所を識別する。本件商標の指定商品の需要者も、本件文字部分で示される商品名だけではなく、商標を構成する文字・図形のデザインや色彩によって喚起される特徴やイメージなどによって商品を識別すると考えるのが合理的である。本件商標は、本件文字部分の構成及びそれを囲む本件輪郭部分の構成の各要素において創作的であり、通常用いられる表示ではなく、とりわけ商標全体では自他商品識別力のある表示を構成するものである。
 本件商標中の本件文字部分は、日常的に用いられているフォントとは異なる書体が用いられ、強い印象を与える。本件文字部分の書体のデザイン及び配置は、商品コンセプトはもちろん、「ほっとレモン」という商品名を上下横二段書きとすることを前提に、一文字一文字を個別に検討して全体の統一性を考えながらデザインが完成されている。
 本件商標中の本件輪郭部分は、「ほっと/レモン」の文字の書体のイメージに合わせて、緩やかで、クレヨンで描いたときのようなややぼかした曲線で表されている。
 本件商標においては、「ほっとレモン」の文字を横一連に表示するのではなく、平仮名文字「ほっと」と「レモン」を二段横書きにすることによって、「ほっと」の日本語としての語感が強調され、「安心感」「解放感」等の、意図するブランドイメージがより分かりやすいよう工夫されており、本件輪郭部分は、当該二段に分かれた「ほっと」「レモン」をまとまりよく見せている。
 甲24の調査結果からも、本件商標は指定商品との関係で、十分に需要者に認知されており、少なくとも他社商品との識別標識として機能しており、自他商品識別力を十分に備えていることが分かる。
イ 温かいレモン飲料の分野において、「ほっと」が「ホット(HOT)」を観念するものとして一般化しているとはいえない。
 本件文字部分は、「ほっと」という日本語と、英語の「LEMON」の片仮名書きである「レモン」を組み合わせた造語であって、特定かつ具体的な観念ないし意味を有するものではない。本件商標は、指定商品との関係において「人をほっとさせるレモン飲料、人がほっとしたときに飲むレモン飲料、人がほっとしたいときに飲むレモン飲料」の如き観念・イメージを、間接的に需要者に与えることが考えられ、「温かいレモン飲料」の意を需要者に直接的に想起させるとは言い難い。
 本件商標の登録査定時までに、原告が「ほっと」シリーズという、原告独自の飲料品ブランドを確立していたことにより、原告の「ほっと」シリーズの商品がより多くの需要者の目に触れ、「人をほっとさせるレモン飲料、人がほっとしたときに飲むレモン飲料、人がほっとしたいときに飲むレモン飲料」というイメージとともに本件商標は多くの需要者に周知されてきている。
 外来語を平仮名表記すること、とりわけ「ホット(温かい)」を「ほっと」と平仮名表記をすることは、いずれも普通に行われてはいない。仮に外来語を平仮名表記することが普通に行われていたとしても、あくまでも片仮名と同じ観念しか想起しない事例にすぎず、平仮名表記することによって別の日本語の意味を持つこととなる本件商標の場合とは異なる。
 さらに、本件商標の構成、すなわち、温かみのある丸みを帯びた独特の書体で、本件文字部分を上下横二段書きにし、それを囲う緩やかな曲線で表された本件輪郭部分の枠線をすべて暖色の赤で描き、全体として、「ほっと」との日本語の単語の持つ「安心感」「解放感」等のイメージをより想起させる構成全体からすれば、需要者は本件商標を「人をほっとさせるレモン飲料、人がほっとしたときに飲むレモン果汁入り飲料、人がほっとしたいときに飲むレモン果汁入り飲料」といったイメージを抱くと解するのが合理的であり、その後、指定商品との関係で間接的に「ホットなレモン飲料」を連想するにすぎない。
(2) 商標法3条2項該当性についての審理不尽及び判断の誤り(取消事由2)
ア 決定は、原告の提出した使用期間、使用地域、販売数量や営業の規模(売上高等)、広告宣伝の方法、回数及び内容等に関する大量の証拠について、一切評価や認定を行わなかった審理不尽の違法がある。別紙商標目録記載2のとおりの使用商標は、本件商標と実質的に同一というべきである。また、使用商標において「CALPIS」の文字部分は支配的な印象を与えているものではなく、本件商標は、日本全国における長期にわたる継続的な使用により自他商品識別力を獲得している。
イ 商標について、商標法3条2項の自他商品の識別力を有するに至ったか否かを検討するに当たっては、「使用に係る商標及び商品の性質・態様」、「本件商標との類否、使用した期間・地域」、「当該商品の販売数量・程度、宣伝広告の程度・方法」などの諸事情を総合考慮して判断すべきことは不可欠であって、単に他の商標と共に使用されているという形式的な理由のみで判断することは許されない。
 決定は、「CALPIS」の文字部分が強く支配的な印象を与えると判断するのみで、原告の提出した使用期間、使用地域、販売数量や営業の規模(売上高等)、広告宣伝の方法、回数及び内容等に関する証拠について、一切評価や認定を行っていない。このような手法は、証拠に基づいて判断していない点において、違法である。すなわち、「CALPIS」の表記と本件商標との関係、本件商標の使用の程度等について審理を行わずに、安易に上記結論を導いた審理不尽の違法がある。
ウ 決定は、実際に商品に表示する商標としては、本件輪郭部分の内に「CALPIS」の商標が表記されており、宣伝広告等においても原告の商品であることを明確に示した上で使用されていることなどから、「CALPIS」の文字が強く支配的な印象を与えると認定した。しかし、その商品の出所であるメーカー名を表示しないなどということは、特殊な場合以外は考えられないから、原告の商品であることを示した上で使用されているからといって、本件商標の識別力が否定される理由とはなり得ない。甲24の調査によっても、原告の販売する商品のうち「ほっとレモン」との文字を付した商品(以下「原告商品」という。)については、本件商標の識別力によって需要者に選ばれており、「CALPIS」表示が識別機能を発揮していないことが明らかにされている。
 また、決定は、使用商標は、「2つの背景円図形や輪郭線上のレモン図形等の有無において、本件商標とは明らかに相違している」としている。しかし、原告の商品に使用されているパッケージの地の色や濃淡、レモンの図形は、原告商品の商標の一部として使用されているものではなく、これらの図形等の存在は、本件商標と使用商標の同一性を否定するものではない。現実の商品においては、「はちみつ入り」とか「ビタミンCたっぷり」とか「写実的なレモンの図形」が、本件輪郭部分の下方の隅や下辺に重なるように表示されているが、これらの表示は、品質表示あるいは商品の内容の説明であって、これらの表示が存在するからといって全体の形状を消費者に対して見失わせるものではない。輪郭線の4隅のうち3か所が隠れているデザインは平成22年から採用されたもので、本件商標の使用が開始された平成15年から本件商標の登録査定時である平成23年までのうちのわずか1年程度にすぎない。
エ 原告は、「ほっとシリーズ」の元祖といえる「ほっとレモン」の保護については注意を払い、平仮名文字「ほっと」と片仮名文字「レモン」の組合せが、原告以外において使用されないよう市場を監視している。この結果、原告は、「ほっとレモン」という造語及び本件商標の構成の稀釈化を阻止・防止することに成功し、独占的に使用を継続している。原告の不断の努力と、それを裏付ける独占的な使用の事実にもかかわらず、これらの事実を検討することもなく、本件商標の使用による識別力を否定する決定は、審理不尽及び事実誤認の違法がある。
オ 本件商標をそのパッケージに大きく表示した原告商品が、大量に販売された実績を有し、数々のメディア媒体でも紹介され、原告自らも積極的に販促活動等を行い、コンビニエンスストアや自動販売機などで全国的かつ網羅的に取り扱われている事実等も、本件商標が識別力を獲得していることを裏付けている。
2 被告の反論
(1) 商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り(取消事由1)に対して登録査定時において、ある商標が指定商品の品質等を表すものと需要者に広く認識されている場合はもとより、将来を含め、需要者にその商品の品質等を表すものと認識される可能性があり、これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときには、その商標は、商標法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。
 本件商標は、本件文字部分を上下二段に横書きし、これを本件輪郭部分で囲んだ構成からなり、これらの文字と輪郭線とを同じ赤系色で彩色したものである。
 本件商標中の「レモン」の文字部分は、果物の一種を表すものであって、本件商標の指定商品を含む清涼飲料・果実飲料においては、各種果物がその原材料として一般に使用されていることからすれば、「レモン」との文字は、原材料を表したものと認識される。
 本件商標中の「ほっと」との文字部分は、一般の辞書には、「精神的な緊張が解けて、安心したり心が休まったりするさま」(広辞苑 第6版)を意味する語として記載されているが、本件商標の指定商品の分野においては、「熱いさま」を意味する「ホット(HOT)」を理解させるものとして多数使用されており、本件指定商品を含む飲料業界及び飲食店業界等においては、平仮名による「ほっと」の文字は、「温かいもの」を意味する「ホット(HOT)」の語と同義で普通に使用されている。すなわち、本件商標の指定商品を含む清涼飲料・果実飲料を取り扱う業界においては、「ほっとキウイ」、「ほっとローズヒップ」、「ほっとカムカム」、「ほっとシークワーサー」、「ほっとオレンジ」、「ほっとアセロラ」、「ほっとカシス」、「ほっとパイン」、「ほっと金柑」、「ほっとアップル」、「ほっとカリン」、「ほっと夏みかん」、「ほっとゆずれもん」、「ほっとレモン」及び「ほっと(はちみつ)レモン」などのように、「ほっと○○(果物名)」の文字は、当該商品が「○○(果物名)」部分に表示された果物を原材料とする温かい清涼飲料・果実飲料であること、すなわち、商品の内容を端的に表す語として普通に使用されている。
 本件商標の指定商品を含む清涼飲料・果実飲料の販売に当たっては、@商品の内容や原材料の表示は、看者の注意を引き、店舗の陳列棚や自動販売機に商品を陳列した際に、正面方向からひと目で識別できるようにするため、容器の正面中央付近に大きな書体で二段や二列に分けて表記することも一般に行われていること、A商品の内容等の表示を様々な形状の輪郭線で囲い、あるいは図形等を背景として描き、それらの彩色にも赤やオレンジなどの暖色系を用いるといったパッケージデザインの手法も一般に採用されていること、B商品の代表的出所標識(ハウスマーク)は、商品の内容等を表示する部分に比して小さく、かつ、商品の内容等を表示する部分の上部に表記するのが、一般的であることが認められる。
 本件商標において、本件輪郭部分は、上辺中央部分が湾曲して描かれている点において、多少の図案化がされてはいるものの、その図案化の程度は低く、特に強い特徴があるものとはいえず、また、本件文字部分も、多少丸みを帯びた太字の書体から構成されているものの、さほど大きなデザイン化が施されているものではなく、したがって、これらを同じ赤色で組み合わせた商標全体としても特異な態様とは認められないというべきであるから、本件商標は、構成全体がまとまりよく表示されているとしても、普通に用いられる方法の範囲内のものである。
 よって、原告の主張には理由がない。
(2) 商標法3条2項該当性についての審理不尽及び判断の誤り(取消事由2)に対して
 原告が、現在に至るまで継続的に使用していると主張する商標は、おおむね以下のとおりの構成からなる。すなわち、上辺中央を弓状に脹らませた四角形状(上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形)の輪郭(もっとも、当該四角形状の左上部や右下部などにレモンの図形や「はちみつ入り」等の品質表示の語が記載された図形等が配置されており、当該図形等は、輪郭線の4辺を合わせた全長の30〜40%ほどを、また、輪郭線の4隅のうち2〜3箇所を覆い隠すように表されているため、輪郭線全体がいかなる形状であるかは確認できない。)内の最上段に「CALPIS」の文字を配し、その下に黄色と橙色のグラデーションをもって表した2つの円を背景図形として、「ほっと」の平仮名と「レモン」の片仮名とを上下二段に横書きし、これらの文字と輪郭線とを同じ赤系色で彩色した構成からなるもの(別紙商標目録記載2のとおりの使用商標)であって、これを温かいレモン果汁入り飲料について使用するものである。このように、使用商標中に描かれている輪郭線は、輪郭線全体が視認できないから、使用商標中には、本件商標と外観において同一とみられる標章の使用はない。
 飲料の分野における取引の実情、すなわち、商品の内容や原材料の表示は、容器の正面中央付近にひときわ大きな書体で表し、商品の代表的出所標識(ハウスマーク)は、商品の内容等を表示する部分に比して小さく、かつ、商品の内容等を表示する部分の上部に表記することが一般的に行われていることに照らすならば、本件においても、代表的出所標識である「CALPIS」の文字部分が自他商品の識別標識として認識され、本件商標部分は商品の内容や原材料を表示する部分として認識されるにすぎない。
 原告は、使用商標の特徴により、自他商品識別標識としての機能を発揮すると主張する。しかし、これを立証する証拠として提出されているのは甲24の調査結果であるが、同調査によっても、直ちに本件商標が一定の者の出所に係るものであると認識されているということはできない。すなわち、本件商標に類似する標章が他者により使用されていた事実があり、また、喫茶店のメニューにおいて「ほっとレモン」の文字が使用されている事実もある。
 以上を総合して判断するならば、本件商標は、その指定商品について使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとはいえないというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 本件商標及び使用態様等
ア 本件商標
 本件商標は、別紙商標目録記載1のとおりであり、次の構成からなる。すなわち、@赤色で彩色された、丸みを帯びた太字の書体で平仮名「ほっと」と片仮名「レモン」の文字を上下二段に、横書きした文字部分(本件文字部分)、及びA赤色で彩色された、上辺中央を弓形に膨らませ、4隅を丸く描いた四角形状の輪郭線(本件輪郭部分)からなる商標である。
イ 使用商標等
 原告商品の「ほっとレモン」の文字の表記態様には変遷があった。平成4年から平成8年までは、「ほっとレモン」の文字部分が1行で表記されたもの、左右水平ではなく右上がりに表記されたもの、緑色に彩色表記されたもの、また、輪郭線は、楕円形状に描かれていたもの等が存在したが、平成9年から14年までは、「ほっとレモン」の文字部分は、赤色で、上下又は左右2行で表記され、輪郭線は、隅を丸く縁取りした長方形状に表記された。平成15年からは、別紙商標目録記載2のとおり表記されるようになった(使用商標)。
 使用商標は、概ね以下のとおりの構成からなる。
 @ 「やさしさとけてる、ほっとする」の文字(「ほっ」を赤色に彩色)
 A 「CALPIS」の表記(赤色に彩色)
 B 「ほっとレモン」の文字(赤色に彩色)
 C 「はちみつ入り」の文字
 D 「緑色の葉」の図形内に「ビタミンCたっぷり」の文字
 E 左上部及び下部右方に「緑色の葉」及び「レモン」の図形
 F 上辺中央を弓形に膨らませ、右上隅を丸く描いた輪郭線状図形(右上隅以外の隅は、レモンの図形等により隠されており、その全体形状は確認できない。)
 G 輪郭線で囲まれた中に黄色と橙色のグラデーションを施した2つの円状図形なお、上記の使用商標以外にも、期間及び商品により、「はちみつ入り」との文字を本件輪郭部分内に表記したもの、「ビタミンC入り」との文字の表記を省いたもの等も使用される例があった(以下では、「使用商標」には、これらの表記態様を含むものとする。)。
(2) 原告商品の販売態様及び広告宣伝活動等
ア 原告商品(「ほっとレモン」との文字を付した商品)
 原告商品は、平成4年から販売された。
 原告商品は、レモン果汁入りの飲料であり、一部例外はあるものの、主として、暖められた状態で飲用されることを念頭に置いた商品である。
イ 原告商品のうち、缶及びペットボトル商品の販売数量の推移は、次のとおりである。
 平成4年   408万本
 平成5年   456万本
 平成6年   696万本
 平成7年   936万本
 平成8年  1008万本
 平成9年  1008万本
 平成10年 1056万本
 平成11年 1152万本
 平成12年 1224万本
 平成13年 2592万本
 平成14年 5112万本
 平成15年 6552万本
 平成16年 6840万本
 平成17年 7776万本
 平成18年 7152万本
 平成19年 6768万本
 平成20年 2808万本
 平成21年 6768万本
 平成22年 6600万本
 平成23年 6816万本
 平成24年 6384万本
 原告商品の内、希釈タイプの紙パック商品の販売数量は、平成23年までの合計で856万本である。
 原告商品は、日本全国の自動販売機、コンビニエンスストア、スーパーマーケット等で販売されている(甲3の1、4の7、21ないし23、29)。
ウ 原告は自社主要商品のパンフレットを作成し、全国の卸業者、小売店等に配布し、商品を紹介した。そのパンフレットには、平成5年以来、原告商品の写真が掲載されている(甲3の2)。原告商品の写真は、平成7年から平成15年、平成19年、平成21年から平成23年の「飲料商品ガイド」に掲載された(甲3の3、4の11及び4の12)。原告商品は、日刊紙、週刊誌、各種産業誌等でも紹介され、その数は、平成17年以降で合計200件に上っている(甲3の4、4の8ないし4の10、4の13ないし4の29、4の32ないし4の55、4の57ないし4の76、20)。原告は、平成18年から平成23年まで、毎年、東京・大阪・名古屋・福岡等において鉄道各線で車内広告をした(甲3の8、4の92ないし4の94)。原告は、自社のウエブサイト上に毎年「ほっとレモン」ブランドサイトを掲載したり、メールマガジンを発行したり、無料の自動販売機を特設して、原告商品を試供するプロモーションイベントを開催したりするなどの各種の販売促進活動を展開した(甲3の9、17ないし19)。ウエブサイト上でも、原告のイベント等販促活動の記事や口コミの記事が見出される(甲3の5)。
(3) 他社の販売に係る「レモン」味を加味した飲料に付した表記
 他社の販売に係るホットレモン飲料に付した表記は、次のとおりである(以下、社名については、組織名の表記を省略する。)。
ア カネボウフーズは、平成6年ないし平成8年に、「ベルミー ほっとレモン」及び「ほっとレモン」との名称のホットレモン飲料を販売した。また、平成6年に「ホットレモンC−3000」を販売した(甲1の5の1、1の5の2、1の5の21、2の5、3の18)。
イ ダイドードリンコは、平成3年に「ホットれもん」を、平成5年に「Hot Lemon/ホットレモン」を、平成6年に「ホット レモン&カリン」を、平成9年に「イタリアンHOT LEMON/ホットレモン」を販売し、平成21年に、「ほっとレモン」を販売した。また、平成13年に「Cしみこむホットレモン」を、平成22年に「あったまレモン」を販売した(甲1の5の5、1の5の17、1の5の21、2の5、3の18)。
ウ 山崎製パンは、平成8年と平成11年に「ほっとレモン」を販売した(甲1の5の21、2の5、3の18)。
エ 宝酒造は、平成8年に「ホットレモン」を販売した(甲1の5の21、2の5)。
オ 日本たばこ産業は、平成9年に「ハーフタイム ほっとはちみつレモン」を、平成19年から平成21年に「味わいレモン」を、平成22年及び平成23年に「ホットレモン」を販売した(甲1の5の18、1の5の21、2の5、2の8、3の18)。
カ 三国フーズは、平成9年に「アクアマリン ホットレモン」を販売した。(甲1の5の21、2の5)。
キ ユーシーシー上島珈琲は、平成11年に「ホットレモン」を販売した(甲1の5の21、2の5)。
ク 森永製菓は、平成9年に「あったかレモン」を販売した(甲1の5の3)。
ケ ネスレジャパンは、平成14年に「ネスレ ホットレモン」を販売した(甲1の5の8)。
コ ポッカは、平成13年に「ホットレモン『ほ〜っ』」を、平成15年から「ぽっかぽかレモン」を、平成22年に「ぽっか300 ぽっかぽかレモン」を販売した(甲1の5の4、1の5の10、1の5の20、3の18)。
サ 伊藤園は、平成20年から「ビタミンレモン」を販売した(甲1の5の14、3の18)。
シ キリンビバレッジは、平成19年ないし平成23年に「ホットレモン」を販売した(甲1の5の13、1の5の16、1の5の19、2の7、3の18)。
ス 武田食品工業は、平成13年に「C1000タケダ・ビタミンレモンホット」を販売し、平成16年に「ビタミンレモンホットPET」を販売した(甲1の5の6、1の5の12、1の7の7)。
セ ポーラフーズは、平成13年に「シーズケース<レモンホット>」を販売した(甲1の5の7)。
ソ サントリーは、平成15年に「ほっとでとろり ほっとレモン」を、平成21年から「とろ〜り ホットレモン」を販売した(甲1の5の9、2の9、3の18、4の4)。
タ アシードホールディングスは、平成24年まで「ほっとレモン」を販売していた(甲2の6、26)。
チ クラシエは、「ホットレモン」を販売した(甲2の10、2の12)。
ツ 大塚食品は、「ホットレモン(HOTレモン)」を販売した(甲2の11)。
(4) 平仮名「ほっと」の文字を含む名称を付した果実飲料等
 飲料メーカー及び飲食業界において、「レモン」以外(一部レモンと他の果実を併せた商品を含む。)の果実等の風味を付加した飲料における平仮名「ほっと」の文字を使用した例は、次のとおりであり、それらの商品における「ほっと」の文字は、「熱い」、「温かい」の意味として用いられていると解される。
ア マルカイフーズのウエブサイトには、「ほっとドリンクゆず」との表記がある(乙1)。
イ アペックスのウエブサイトには、「ドリンク紹介(カップ式)」の見出しの下、「ほっとココア(あいすココア)」の表記がある(乙2)。
ウ アサヒ飲料は、平成17年に「アサヒ 十六茶 PET275ml(ホット)」のパッケージに「ほっと」というロゴを表示した。また、同社は、平成23年に「バヤリース ほっとオレンジ」を、平成18年にホット対応商品「バヤリース ほっとカシス」を販売した。また、平成14年に、ホット果実飲料「アサヒ ほっとりんご」を販売した(甲1の6の2、1の6の6、乙6、16、18)。
エ ニチレイは、平成15年にホット販売専用商品の「ほっとアセロラ」を販売した(甲1の6の4、乙17)。
オ 日本たばこ産業は、平成16年にホット果実飲料「Miss Parlor<ほっと金柑>」を販売した(甲1の6の5、乙20)。
カ 伊藤園は、平成13年にホット専用果実飲料「ほっと梅」を、平成20年から、「ほっとアップル」を、平成22年にあたためるゼリー飲料「ほっとゼリー」を販売した(甲1の6の1、1の6の8、1の6の9、1の10の14、乙21)。
キ ダイドードリンコは、平成20年にホット飲料「ほっとゆずれもん」を販売した(甲1の6の7、乙25)。
ク デイリーヤマザキは、平成15年にオリジナルホットドリンクとして「ほっとグレープフルーツ」を販売した(甲1の6の3)。
ケ サントリーは、平成14年にホット専用飲料「暖屋(ほっとや)ゆず湯」を販売した(甲1の7の1)。
コ 武田食品工業は、平成13年に「C1000タケダ・かりん&梅ホット」を販売し、平成16年に「ビタミンレモンホットPET」、「ほっとHOTアップル」を販売した(甲1の5の6、1の5の12、1の7の3)。
サ 各地の飲食店においても、平仮名「ほっと」との表記を付した飲料がメニューに記載されている例が散見される(乙9ないし11、24)。
(5) 「ほっとレモン」、「ホットレモン」等の名称に関する調査結果等
ア 調査会社が、平成24年12月に、原告からの依頼を受けて行った本件商標に関連した調査(甲24)には、次のような記載がある。すなわち、
(ア) 「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』ときくと、なんという商品名やメーカー(会社名)が思い浮かぶか」との質問に対して、「ホットレモン」と回答した者は全体の27.3%であり、「ほっとレモン」と回答した者は全体の20.3%であった。
a 「ホットレモン」と回答した者に対するさらなる質問において、メーカー名について回答した者は次のとおりであった。
 キリン (0.7%)
 カルピス (1.0%)
 サントリー (0.7%)
 ダイドー (0.7%)
 ポッカ (9.7%)
 JT (0.3%)
 小岩井 (0.3%)
 わからないとの回答 (14.7%)
b また、「ほっとレモン」と回答した者のうち、メーカー名について回答した者は、次のとおりであった。
 カルピス (0.3%)
 キリン (0.3%)
 サントリー (0.3%)
 アサヒ (0.7%)
 ポッカ (7.7%)
 わからないとの回答 (11.0%)
(イ) 次に、別紙提示ボードのとおりの外観の主要メーカー5社の「缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料」から、付されている文字(「ほっとレモン」、「ホットレモン」、「とろ〜りホットレモン」、「あったまレモン」、「ぽっかぽかレモン」) 及び輪郭のみを抽出表示したものを調査対象者に示した上で行った質問に対する回答結果は、以下のとおりである。
a 各文字図形中に、思い浮かべたものがあるか否かとの質問
 番号1の文字図形を回答した者 62.3%
 番号2の文字図形を回答した者 8.0%
 番号3の文字図形を回答した者 6.0%
 番号4の文字図形を回答した者 2.0%
 番号5の文字図形を回答した者 6.7%
 (その他・わからないと回答した者 54.0%)
b 思い浮かべた文字図形から、メーカー名を想起できた割合原告 2.3%
 キリン  0.3%
 サントリー  1.3%
 ダイドー  0.3%
 ポッカ  2.3%
c 思い浮かべた文字図形からの商品名・メーカー名及び図形商標を想起できた割合
 番号1の文字図形(原告)  0.0%
 番号2の文字図形(キリン)  0.3%
 番号3の文字図形(サントリー)  0.0%
 番号4の文字図形(ダイドー)  0.0%
 番号5の文字図形(ポッカ)  0.0%
d 本件商標を「みた/みたような気がする」と回答した者は90%であり、「CALPIS」の文字を消去した原告商品の写真について「みた/みたような気がする」と回答した者は95.7%であった。
(ウ) 温かいレモン飲料の銘柄の決め方の考慮要素についての質問に対しては、
 お店にあるものやその時の気分で選んでいるとの回答 78.0%
 いつも同じものを選んでいるとの回答 16.0%
 いくつかの商品の中から選んでいるとの回答 6.0%
イ 平成21年から平成22年にかけての冬季に最もよく飲んだホットドリンクのブランドの調査については、原告商品は、2.7パーセントの出現率であり、ホットドリンク全体では9番目に位置した。最も多く出現したのは、「ジョージア」で23.4パーセントであった(甲3の10、4の89)。
ウ 平成24年に行われた調査によると、缶やペットボトルに入ったホット飲料と聞くとどのようなブランドを思い浮かぶかとの問いに対して、「ほっとレモン」と回答したのは被験者全体の17.4パーセントで、ホットドリンク全体の5番目に位置した。最も多く連想されたのは、「ジョージア」で34.8パーセントであった。原告商品の商品認知度は80パーセントであり、果実系飲料の中では最も高かった(甲3の11)。
(6) 本件商標の文字以外の構成等について
ア 上辺中央を湾曲させた輪郭線に中に商品名を記載することは、清涼飲料水のラベル等で多く見られる(甲1の9の4ないし1の9の16、2の41ないし2の76)。
イ 清涼飲料水のラベルの構成において、各出所の出所識別標識として代表的なもの(いわゆるハウスマーク)は、商品名を示す商標の近傍に小さく表示される例は少なくない(甲2の5、乙16ないし18、20、21)。
ウ 原告は、アシードホールディングスに対して、「ほっとレモン」との表示の中止を要請し、アシードホールディングスはその使用を取りやめた。ダイドードリンコと原告は、ダイドードリンコは、「ほっとレモン」を商品名として使用しないとの合意をした。原告はサントリーホールディングスに、「とろ〜りホットレモン」の商品パッケージについて警告を発した。サントリーホールディングスは、その後パッケージのデザインを変更した。現時点では、「ほっとレモン」との文字を輪郭線で囲んだ形状の商標を使用している飲料メーカーは、原告のみである(甲3の12、3−18、26、乙26、弁論の全趣旨)。
2 商標法3条1項3号該当性についての判断(取消事由1)
(1) 本件商標の構成等
 本件商標は、別紙商標目録記載1のとおり、本件文字部分を上下二段に横書きし、これを本件輪郭部分で囲んだ構成からなり、これらの文字と輪郭線とを同じ赤系色で彩色したものである。
 本件文字部分のうち、片仮名「レモン」部分は、指定商品(第32類「レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」)を含む清涼飲料・果実飲料との関係では、果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し、また本件文字部分のうち、平仮名「ほっと」部分は、上記指定商品との関係では、「熱い」、「温かい」を意味すると理解するのが自然である(上記1(3)及び同(4)参照)。また、本件輪郭部分については、上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは、清涼飲料水等では、比較的多く用いられているといえるから(上記1(6)参照)、本件輪郭部分が、需要者に対し、強い印象を与えるものではない。さらに、「ほっとレモン」の書体についても、通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。
 この点、原告は、「ほっと」は、「人をほっとさせる」「人がほっとしたいとき」を意味し、「温かい」を意味するものではないかのような主張をする。しかし、@「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」を総称する名称(称呼)としては、「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」があり、それ以外の名称(称呼)を一般的に確認することはできないこと、A「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」としての「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」の表記は、「ホットレモン」のみならず片仮名と平仮名の組合せである「ほっとレモン」も用いられていたこと(上記1(3)参照)、B「レモン」以外の果実等の風味を付加し、温かい状態で飲まれることを想定した清涼飲料水等においても、平仮名「ほっと」の文字が使用される例は、少なくないこと(上記1(4)参照)等に照らすならば、原告の上記主張を採用することはできない。すなわち、本件に現れたすべての証拠によるも、本件商標について、「熱い」、「温かい」との観念が生じることを否定する事実は認められない。
(2) 小括
 そうすると、「ほっとレモン」との文字及びそれを囲む輪郭部分の組合せからなる本件商標は、本件商標の指定商品(「レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」)との関係では、商標法3条1項3号所定の「商品の・・・品質、原材料・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきである。
 以上のとおり、商標法3条1項3号に該当しないとする原告の主張は、採用できない。
3 商標法3条2項該当性についての判断(取消事由2)
 商標法3条2項は、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができる旨を規定する。
 上記1で認定した事実に基づいて検討すると、本件商標が使用されたことにより、需要者において、何人かの業務に係る商品であるかを認識することができたと判断することはできない。その理由は、以下のとおりである。
(1) 本件商標の各部分及び全体について
 本件商標は、本件輪郭部分と「ほっとレモン」との本件文字部分から構成されている。
ア 使用商標における「輪郭部分」は、右上隅以外の隅がレモンの図形等により隠され、その全体の形状を確認することができない。したがって、輪郭部分の形状が長く使用され、その特徴によって、商品の出所識別機能を有するに至ったと解することは到底できない。
イ 使用商標における「レモン」の文字部分については、以下のとおりの理由から、商品の出所識別機能を有するに至ったとすることはできない。
 すなわち、@使用商標には、レモンの図柄が描かれていること、A使用商標には、レモンを連想させる色彩でグラデーションされた円形図形が施されていること、B使用商標には、輪郭部分の外側においても、レモンを連想する彩色が施されていること、C一般に、本件商標の指定商品を含む清涼飲料・果実飲料においては、各種果物がその原材料として使用されていること等の事実を総合すれば、「レモン」の文字部分は、当該商品が、果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを端的に示したものと合理的に理解されるから、「レモン」の文字部分が長く使用され、その特徴によって、商品の出所識別機能を有するに至ったとすることは到底できない。
ウ 使用商標における「ほっと」の文字部分は、以下のとおりの理由から、商品の出所識別機能を有するに至ったとすることはできない。
 すなわち、@使用商標では、「輪郭部分」及び「『ほっとレモン』の文字部分」は、いずれも「温かさ」、「暖かさ」を連想させる赤色に彩色されていること(この点は、本件商標も同様である。)、A使用商標では、上段に「ほっと」、下段に「レモン」が、丸みを帯びた赤く彩色された書体により、まとまりよく表記されていることから、一連の意味を持つものとの印象を需要者に与え、そうであるとすると「温かいレモン飲料」を容易に想起させ得ること、B「ホットレモン」との語が、レモン果汁を入れた温かい飲料又はレモン風味の味付けをした温かい飲料を意味するものとして定着していると認められること、C平仮名「ほっと」については、本件商標の指定商品を含む清涼飲料・果実飲料においては、「ほっとドリンクゆず」、「ほっとカシス」、「ほっとりんご」、「ほっとアセロラ」、「ほっと金柑」、「ほっと梅」、「ほっとアップル」、「ほっとゼリー」、「ほっとゆずれもん」、「ほっとグレープフルーツ」が販売され、「ほっと」と「果物等の素材」とを組み合わせた文字は、当該商品が果物等の素材を原材料とし、あるいは加味した、温かい清涼飲料・果実飲料であることを示す語として普通に使用されていることから、需要者は、上記のように認識、理解していると解するのが合理的であること、D原告商品それ自体も、「温かいレモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であること等の事実を総合すれば、使用商標における「ほっと」の文字部分は、温かい状態で飲まれることを想定した清涼飲料等であることを示す表記であるといえる。したがって、使用商標中の「ほっと」の文字部分が長く使用され、その特徴等によって、商品の出所識別機能を有するに至ったとすることは到底できない。
エ さらに、以上に指摘した各事情を考慮すると、本件輪郭部分と本件文字部分からなる本件商標は、これを全体としてみたとしても、商品の出所識別機能を有するに至ったとすることはできない。
(2) 「ほっとレモン」、「ホットレモン」等の名称に関する調査結果等について調査会社が、平成24年12月に、原告からの依頼を受けて行った本件商標に関連した調査結果(甲24)には、以下の記載がある。すなわち、
@「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』ときくと、なんという商品名やメーカー(会社名)が思い浮かぶか」との質問に対して、「ホットレモン」と回答した者は全体の27.3%であり、「ほっとレモン」と回答した者は全体の20.3%であったとの結果が得られたとしている。A「ホットレモン」と回答した者のうち、メーカー名について回答した者は、「わからない」との回答者が一番多く(全体の14.7%)、原告であると回答した者は、全体の1.0%であった。B「ほっとレモン」と回答した者のうち、メーカー名について回答した者は、同様に「わからない」との回答者が一番多く(全体の11.0%)、原告であると回答した者は、メーカー5社中最下位(全体の0.3%)に位置し、「ほっとレモン」の文字を含む商品を市場に提供していないメーカーと対比しても低いことが記載されている。
 同調査結果によれば、「ほっとレモン」の文字、及び同文字の一部である平仮名「ほっと」が、調査時点において、「缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料」との品質、原材料等を説明的に示すものとして使用されており、それを超えて、特定の出所識別機能を有するものとして使用されているということはできない。
 なお、原告は、本件訴訟において、本件商標中の平仮名「ほっと」との文字部分は、「人をほっとさせる」「人がほっとしたいとき」との観念を需要者に与えるものであって、「温かい(レモン飲料)」との観念を需要者に与えるものではないと主張する。しかし、上記調査は、「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』と聞くと何という商品名やメーカー(会社名)が思い浮かぶか」など、温かい飲料を前提とする質問から構成され、本件商標の指定商品を対象とするものではない。その調査結果から、原告の主張に沿った結論を得ることはできない。
 同調査結果は、その他の質問回答もされているが、本件商標が、その使用によって、特定の出所識別機能を有するものとなったことを認定するに足りる調査結果を見出すことはできない。
(3) 「ほっとレモン」の文字を輪郭線で囲んだ商標の他社の使用の有無
 現時点において、「ほっとレモン」との文字を輪郭線で囲んだ形状の商標を使用している飲料メーカーは、原告のみである。
 しかし、他社が、「ほっとレモン」との文字を輪郭線で囲んだ形状の商標の使用を控えているのは、法的紛争をあえて避けるなど様々な理由が推認されるところであり、また、本件商標に対する登録異議は、原告からの使用の差止めを求められたメーカーによって申し立てられた経緯を考慮するならば、「ほっとレモン」との文字を輪郭線で囲んだ形状の商標を使用している他の飲料メーカーが存在しないことが、本件における判断を直ちに左右するものではない。
4 結論
 以上によれば、決定には原告の主張に係る取消事由はなく、原告の請求は理由がない。原告は、その他、手続違反など縷々主張するが、いずれも採用の限りではない。よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 八木貴美子
 裁判官 小田真治


別紙 商標目録
1 本件商標(商標イメージ省略)
2 使用商標(商標イメージ省略)

別紙 提示ボード(イメージ省略)
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