判例全文 line
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【事件名】エンジンの写真無断流用事件
【年月日】平成25年7月19日
 東京地裁 平成23年(ワ)第785号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年5月20日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 北村行夫
同 杉田禎浩
同 大井法子
同 杉浦尚子
同 吉田朋
同 石新智規
同 雪丸真吾
同 芹澤繁
同 亀井弘泰
同 井上乾介
同 山本夕子
同 岩田裕介
被告 株式会社デアゴスティーニ・ジャパン
同訴訟代理人弁護士 遠山友寛
同 大島正照
同 金子剛大
被告補助参加人 株式会社スタジオタッククリエイティブ
同訴訟代理人弁護士 出縄正人
同 小野顕
同 橋祥子


主文
1 被告は、原告に対し、金59万8757円及びこれに対する平成22年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙写真目録1記載の写真を複製し、公衆送信し、又は改変してはならない。
3 被告は、別紙写真目録1記載の写真を複製した別紙被告書籍目録記載の書籍を出版、販売又は頒布してはならない。
4 被告は、その運営するウェブサイト内のウェブページ(URLは別紙URL目録記載のもの)から別紙写真目録1記載の写真を削除せよ。
5 被告は、別紙被告書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。
6 原告のその余の請求を棄却する。
7 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余は被告の負担とし、補助参加によって生じた費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余は被告補助参加人の負担とする。
8 この判決は、1項から5項までに限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、金790万円及びこれに対する平成22年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 主文2項から5項までと同旨
第2 事案の概要
 本件は、職業写真家である原告が、出版社である被告に対し、別紙写真目録1記載の写真(写真番号QP3K4517。以下「本件写真」という。)の著作権が原告に帰属するのに、被告は、原告の承諾なく、別紙被告書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に本件写真を掲載し、原告の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を侵害したなどと主張して、@不法行為に基づく損害賠償請求として790万円(附帯請求として本件書籍の発行日である平成22年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払、A著作権法112条1項に基づく差止請求として、<ア>本件写真の複製、公衆送信又は改変の禁止、<イ>本件写真を複製した本件書籍の出版、販売又は頒布の禁止、B同法2項に基づく廃棄請求として、<ア>被告の運営するウェブサイト内のウェブページからの本件写真の削除、<イ>本件書籍の廃棄を求めた事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告
 原告は、「A FLAMING PHOTO」という商号で写真撮影を業とする写真家である。(甲14)
イ 被告
 被告は、図書出版、販売、輸出等を目的とする株式会社である。
ウ 被告補助参加人(以下、単に「補助参加人」という。)補助参加人は、各種出版物、広告に関する企画、製作、販売等を目的とする株式会社である。(当裁判所に顕著)
(2) 本件写真の撮影
 原告は、平成18年8月19日、補助参加人の依頼により、補助参加人が発行する書籍「HONDA CB750Four FILE.」(甲1)に使用する目的で、本件写真のほか、HONDA CB750 Fourの4気筒エンジン(以下「本件エンジン」という。) を被写体とした写真を多数撮影した。書籍「HONDA CB750Four FILE.」(甲1)に掲載された写真(丙10)は、上記日時に連続して本件エンジンを撮影した写真のうちの1枚であるが、本件写真とは異なる写真である。(甲1、14、丙10、26、弁論の全趣旨)
(3) 本件写真の掲載
ア 被告は、平成22年8月31日、本件書籍(甲3、乙8)を発行し(奥付記載の発行日は同年9月21日)、その8頁には、別紙写真目録2記載のとおり、本件写真に説明等の改変を加えた写真が掲載された(以下、本件書籍に掲載された本件写真を「本件掲載写真」という場合がある。)。(甲3、乙8、弁論の全趣旨)
イ 本件写真は、「HONDA CB750Four FILE.」(甲1)に掲載された本件エンジンを撮影した写真(丙10)とは異なるカットのものであり、本件書籍発行以前に公表されたことはなかった。本件掲載写真には、原告の氏名表記はない。
 本件掲載写真は、本件写真から本件エンジンだけが切り出される態様でトリミングされており、背景の色が本件写真とは異なるとともに、エンジン写真左上部分に「4気筒エンジン」との表題が付され、表題の下には、「CB750FOUR:FOUR CYLINDER ENGINE 最高速度200km/hを実現する圧倒的なパワーを誇った、排気量736ccの4気筒エンジン。見た目の迫力はもちろんだが、その内部には当時の最新技術を駆使して生み出された一体成型クランクシャフトなどを内包している。」との説明が付されている。また、本件エンジンの各部から赤色の破線が引き出され、「シリンダー」「クラッチカバー」「クランクケース」「シリンダーヘッド」「排気口」「オイルフィルターカバー」の部品名の記載とその部品の特徴についての説明が付されている。さらに、右上には、本件エンジンを別の角度から撮影した小さな写真も付されている(以下「本件掲載写真の態様」という。)。(以上につき甲1、3、乙8、丙10、弁論の全趣旨)
ウ 被告は、遅くとも平成22年8月頃から、その運営するウェブサイトのウェブページ(URLは別紙URL目録記載のもの)に、本件掲載写真を掲載している。(甲4、5、弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 本件写真についての著作権の侵害の有無
ア 原告が本件写真の著作者(創作者)であるか(争点1−1)
イ 本件写真の創作が職務著作に当たるか(争点1−2)
ウ 本件写真に係る著作権の譲渡の有無(争点1−3)
エ 包括的利用許諾の合意の有無(争点1−4)
オ 複製権及び公衆送信権の侵害の有無(争点1−5)
(2) 本件写真についての著作者人格権の侵害の有無
ア 公表権の侵害の有無(争点2−1)
イ 氏名表示権の侵害の有無(争点2−2)
ウ 同一性保持権の侵害の有無(争点2−3)
エ 著作者人格権不行使の合意の有無(争点2−4)
(3) 被告の過失の有無(争点3)
(4) 損害額(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 本件写真についての著作権の侵害の有無
ア 原告が本件写真の著作者(創作者)であるか(争点1−1)
(原告の主張)
(ア) 本件写真の撮影時の状況は、以下のとおりであり、原告は、本件写真の著作者である。
(イ) 構図・カメラアングルの設定
 原告は、本件エンジンの全体像が収まること、本件エンジンの立体感を強調すること、解像度を上げるため出来る限り余白を小さくすることを意識しながらカメラを動かし、最適の位置で構図・カメラアングルを決定した。
(ウ) シャッターチャンスの捕捉
 撮影現場が狭く三脚が使用できないため、原告はカメラを手に保持して撮影した。人間は完全に静止することはできないのでファインダー内では被写体は常に微細に揺れ動いて見える。その中で原告は本件エンジンが上下左右4辺から等距離に来た瞬間を捉えて撮影した。
(エ) 被写体と光線との関係
a 人間は明るい場所を注視する特性があるため、撮影用照明(大型ストロボ)を写真左側(明るい側)に配置し、エンジン側面へ視線の誘導を行った。エンジン側面に光を当てたのは、車両に搭載した場合の光の当たり方に近づけるためである。読者に馴染み深い車両へ搭載した場合に近い光線の状態を作り出し、違和感を抱かないように工夫したものである。
 なお、写真撮影用大型ストロボはカメラと機能的に連携していないため、カメラの自動露出機能は一切使えない。シャッタースピードと絞り、ホワイトバランス等の露出は原告の微細な手動調整によって行われている。
b 本件エンジンの最大の特徴は、写真左下側のポイントカバーとクラッチカバー(鏡面状の2つの円盤)である。上記aに加え、原告は、この2つのカバーを強調する意図も持ってストロボを写真左側に配置して光を当てた。
 しかしながら、当該カバーの材質はストロボの光を使って鏡のように背景や被写体以外のものが映りこんでしまうため、原告持参の反射板を用いて映り込みを防ぎつつ、両カバーを綺麗に輝かせるための微妙な光の調節を行った。
(オ) 背景の決定
 原告は、事前に補助参加人と背景について協議した際に、エンジンの力強さと構造美の表現としてエンジンの銀色を際立たせたいと考え、そのために適した色である黒の背景を提案したものである。
(カ) まとめ
 以上のとおり、本件写真の著作者は原告であり、本件写真に係る著作権は原告に帰属する。
(補助参加人の主張)
(ア) 本件写真における、被写体の選択・配置、構図・カメラアングルの選択、ライティング・背景の決定等は、全て補助参加人が行っている。原告は、補助参加人の指示に従い、物理的な撮影行為を行ったのみであり、原告における創作性は認められないから、本件写真の著作者は補助参加人である。
(イ) 原告は、本件写真の撮影時まで、自動二輪車の中でもエンジン部分単体を撮影したことはあまりなく、本件写真が初めてに近い状況であった。そのため、補助参加人従業員であるBが本件写真の撮影に際して詳細な指示を行った。具体的には以下のとおりである。
a カメラ位置の決定
 本件写真の撮影場所は相当狭小であったため、照明や撮影機材や他の撮影物との関係で、概ねカメラ位置が先に決まった。そのカメラ位置で、まず、本件エンジンの部品の一部が取り除かれた状態で、原告が大雑把に4回シャッターを切った。
b アングルの決定
 最初に原告が撮影したものは、本件エンジン前面を強調しすぎたアングルとなっており、側面や後方があまり写っていないものであった。そのため、Bは、これを自動二輪車愛好家が好むアングル、すなわちエンジン全体がよく分かる斜めのアングル(丙1〜4、7参照)に変更させた。
c 背景と照明の調整
 Bは、本番前の撮影においても、頻繁に原告が撮影した写真内容を確認しながら、アングルの決定や照明の調整等を行った。
d 撮影本番の開始
 以上の経緯により、概ね背景と照明も決定された後、Bは、取り除かれていた部品の一部を本件エンジンに装着し直し、いわば本番としての撮影を原告に開始させた。
e 照明の再調整
 原告は、本番開始後、数回シャッターを切って、その写真を液晶パネルに映してBに見せたが、かかる本番開始直後の写真は、照明の当たり方の関係で、エンジン側面のカバーが光りすぎて白っぽくなり、全体との調和がとれていなかった。そのため、Bは、原告に指示して照明を再度微調整の上で撮影を行わせ、調整後の写真データを確認してから、原告に撮影を継続させた。
f 露出の調整について
 原告は、シャッタースピードと絞り、ホワイトバランス等の露出は原告の微細な手動調整によって行われたと主張する。
 しかしながら、補助参加人の撮影一般において、撮影時には印刷後の最適な明るさ等を正確に把握することが困難であることに鑑み、アングル・構図を変更することなく、露出を段階的に変更したものを複数枚撮影させるのが通常である。Bが本件写真を原告に撮影させるに際しても、シャッタースピード、絞り、ホワイトバランス等の設定を変更させつつ、何枚も撮影をさせており、そのなかで、エンジン撮影のための最適な条件を、Bが選択したというのが実態である。
(ウ) 本件写真の撮影に際して原告が行った行為に創作性が認められ、更に後記の職務著作について疑義が生じる場合でも、上記に照らすと、補助参加人と原告が本件写真の共同著作者である。
イ 本件写真の創作が職務著作に当たるか(争点1−2)
(補助参加人の主張)
(ア) 原告は、補助参加人の業務に従事する者であり、補助参加人のために本件写真を撮影し、また、本件写真は補助参加人名義のもとに公表するものであったから、本件写真の著作者は補助参加人である。
(イ) 法人等の業務に従事する者
 法人等の業務に従事する者に該当するか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実体にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきである(最高裁平成15年4月11日判決)。
 原告は、補助参加人が雇用する者ではないが、個人で自宅とは別に事務所を構えているものでもなく、また、補助参加人が利用していた当時はほぼ補助参加人に専属している写真家といってよい状態であった。そのため、具体的撮影方法はもちろんのこと、スケジュールや場所についても、補助参加人が指定しており、原告は補助参加人の指示に従っていた。また、補助参加人は、原告が所持するカメラ以外の撮影機材、作業場所を提供し、その他実費(交通費)も負担しており、創作に伴う経費及びリスクは補助参加人が負担していた。さらに、原告に対しては、成果物の完成未完成・成果物の量にかかわらず日当が支払われており、原告への報酬は成果物完成の対価とはいえないものであった。
 原告は、補助参加人が書籍を出版する過程のうち、補助参加人から写真撮影部分のみを振り分けられた者であり、一体とした編集活動の一部分のみについて役割分担された者にすぎないのであって、他の補助参加人従業員と同様の立場で補助参加人の業務に従事してきたといえる。
 以上より、原告については、補助参加人の指揮監督下において労務を提供するという実体が存在したことは明らかである。
(ウ) 法人等が自己の名義で公表するもの
 本件写真と同時に撮影された写真が掲載された「HONDA CB750Four FILE.」(甲1)の裏表紙に、著作権の帰属を示す「<(C)>」マーク、補助参加人の名称である「STUDIO TAC CREATIVE」及び当該書籍の発行年の表示があることからも明らかなとおり(丙5の裏表紙部分)、本件写真については、将来公表される際に、補助参加人の名義を付することが予定されていた。
 補助参加人は、本件写真と同時に撮影された写真について、上記表示とあわせて「写真■A」とも表示しているが(甲1)、補助参加人が出版した書籍には、仮に補助参加人従業員が写真撮影をしている場合であっても、当該従業員の名称が表示されたり、「(補助参加人)編集部」といった表示がされたりもするのであって(丙5の57頁、85頁、106頁)、かかる表示は、事実行為として撮影を行った者を表示したにすぎない。
 よって、本件写真については、補助参加人の名義で公表するものであることは明白である。
(エ) 原告の主張に対する反論
a 日当の支払
 補助参加人は、原告が補助参加人の書籍の写真撮影を始めた当初は1日2万2000円、平成19年(2007年)8月頃から1日2万5000円として、原告に対し、作業した日数に応じて報酬を支払ってきた(丙11)。原告は、ほぼ毎月、相当の日数にわたり補助参加人従業員の下で写真を撮影してきており、補助参加人の専属に近い状態であった。
 原告は、書籍が発行されてから日当が支払われていたとして、これをもって当該支払が成果物完成の対価であると主張するが、それは補助参加人の報酬支払システム上、日当の支払時期を、報酬原資が確保できる書籍発行後としていたからにすぎない。
b 撮影機材について
 原告は、カメラ本体のほか、「レンズ」「ストロボ」「カメラ用バッテリー」「電源コード」「カメラ運搬専用バッグ」等の様々な撮影機器を持参したと主張する。しかし、補助参加人が「原告が所持するカメラ」と述べたのは、「原告が所持するカメラ一式」のことである。原告指摘の撮影機器、付属品等は、補助参加人従業員が撮影するときでさえ保持している基本的なものであって、あえて区別する理由もないことから、これらを含め「カメラ」と述べたのである。
c 本件写真と同時に撮影された写真に関する表示について
 原告は、甲1に「写真■A」と表示がされていることをもって原告を著作者として表示していると主張するが、同じ甲1の書籍の他の頁(丙5の57頁、85頁、106頁)では同様に「(補助参加人)編集部」という表示をしている点を全く無視した主張である。補助参加人編集部が撮影した写真についての著作者が著作権法15条により補助参加人となることは明白である。「写真■」の後の名前の表示が著作者の表示であるならば、補助参加人は編集部を著作者として表示したということになってしまう。「写真■」の後の名前の表示は事実として撮影を行った者の表示にすぎない。
(原告の主張)
(ア) 法人等の業務に従事する者について
a 本件写真が撮影された平成18年8月当時、原告は補助参加人以外の出版社からの委託も受けている(甲10)。補助参加人に専属していた事実などない。
b 補助参加人に委託された写真撮影時に原告が要した機材は、下記のとおりである。このうち、補助参加人が用意したのは大型背景布(紙)のみである。
 記
 デジタルカメラ2台、レンズ6本、小型ストロボ2台、カメラ用バッテリー、バッテリー充電器、レンズ用フィルター、グレーカード、デジタルカメラ用メモリー、ノートパソコン、三脚、写真用大型ストロボ(照明機材)、電源コード、ストロボ用予備電球、大型ストロボ用スタンド、反射板、カメラ運搬専用バッグ、照明機材運搬専用バッグ、大型背景布(紙)、大型背景紙用スタンド、小型背景紙、小型背景紙用ケース、運搬用車両、撮影用大型クリップ、小物撮影用品各種、撮影用粘着テープ
c 原告は、補助参加人に対し委託された撮影のデータは全て納品している。納品していないにもかかわらず、報酬支払を受けた例など一度もないから、「成果物の完成未完成にかかわらず日当が支払われており」などとはいえないはずである。
 また、補助参加人は、「日当」といいながら、これを直ちに支払わないで、原告撮影の写真を掲載した書籍が発行されてから日当を支払うことが常であった。このため、撮影日から支払日までの間は4か月程度経過してしまうことが常態化していた。この点も、補助参加人から原告への報酬が成果物完成の対価であったことを示す事実である。
(イ) 法人等が自己の名義で公表するものについて
 補助参加人が自ら指摘するとおり、本件写真と同時に撮影された写真(甲1)には、「写真■A Photographed by A」と著作者表示がされているから、「法人等が自己の名義で公表するもの」に当たらないことは明白である。
(ウ) 補助参加人の反論について
 本件写真が撮影された平成18年の拘束日数を丙11の1・2頁から集計するとわずか103日にすぎない。また、平成18年の支払額は248万6000円である(1頁)。丙11によっては、職務著作性は裏付けられない。
 補助参加人は、「写真■A」という表示について述べるが独自の見解にすぎない。原告が「写真■編集部」という記載を無視しているというが、この記載は、著作者である「補助参加人」を便宜上「編集部」と表示したものと理解する方が自然である。
ウ 本件写真に係る著作権の譲渡の有無(争点1−3)
(補助参加人の主張)
(ア) 補助参加人は、創業以来、写真家に撮影行為をさせる場合には、撮影された写真の著作権が「買取り」であり全て補助参加人に帰属することを十分に説明した上で、了承を得ている。
 補助参加人は、原告に対し、撮影された写真の著作権が全て補助参加人に帰属することを十分に説明し、原告はこれを了承していた。最初の面接の際に上記の点を原告が拒否していれば、補助参加人は原告に補助参加人の業務について写真撮影をさせることは決してなかった。
 補助参加人と原告が本件写真の共同著作者となる場合には、かかる「買取り」の合意は、原告の著作権持分の譲渡合意を含むから、当該持分は補助参加人に移転している。
(イ) 原告は、平成16年から6年間一度も著作権の帰属について異議を申し立てたことはなく、平成22年7月以降突如として主張したものである。
 原告は、平成20年に、補助参加人の業務において撮影された写真を自らの個展で使用するために、通常は直接会話することはない補助参加人代表取締役に直に「(写真を)使わせてください」と写真の利用許諾を求めるなど、補助参加人が権利者であるとの態度を明確に示していた。
 また、補助参加人は、当初は、原告にフィルムを預け一眼レフカメラで撮影させているが、原告は、このフィルムを撮影終了後、直ちに補助参加人に返却して自ら現像することはなく、誌面に掲載されるまで現像後の写真を見ていないのが通常であった。そして、原告は、一度も当該フィルムの返還を求めていない(ただし、デジタルカメラになってからは、写真データの受領のみとなっている。)。このことは、原告において、写真に関する全ての権利が補助参加人に移転していると認識していたことの証左である。
 さらに、補助参加人は、初期の頃から、原告撮影の写真を二次利用しているところ、二次利用された写真が掲載された書籍を原告にも交付(贈呈)している(丙6の書籍のために当初原告に撮影させた写真の二次利用例として丙7、丙8の書籍のために当初原告に撮影させた写真の二次利用例として丙9)。そのため、原告も、補助参加人において原告撮影の写真を二次利用していることは熟知していたが、原告から異議を申し立てられたことは一度もない。むしろ、補助参加人の二次利用に関しては、原告も「買い取りですから」と納得をしていた。
(ウ) 原告は、丙7(丙13)及び丙9(丙15)の書籍の贈呈を受けた事実を認めた上で、丙7や丙9における大部分の写真は当該書籍のために原告が撮影して一次利用されているものであり、最近撮影した書籍が贈呈されたという認識でいたと主張する。
 しかしながら、原告は、丙7(丙13)の「バイクメンテナンス&リペア」(平成19年発行)のために別途撮影を行ったことはない(丙11参照)。さらに、丙22の対比表を見れば明らかなとおり、丙7(丙13)における写真の相当部分が、丙12(丙6)の「HONDA FORZA FILE」(平成17年発行)及び丙16の「はじめてのバイクメンテナンス」(平成18年発行)のために原告に撮影させた写真の二次利用である。このように、原告撮影の写真は二次利用写真しか掲載されておらず、かつ、かかる二次利用写真が同書籍の写真のうち相当部分を占める以上、原告が、丙7(丙13)を受領したにもかかわらず、二次利用の事実を認識していないことなどあり得ない。
 また、丙15(丙9)の「ここからはじめるハーレースポーツスター」(平成20年発行)についても、特定項目の大部分が、丙14(丙8)の「はじめてのハーレースポーツスター」(平成18年発行)で使われた写真の二次利用である(丙22)。よって、「大部分の写真はこの書籍のために原告が撮影し一次利用されているもの」とは到底いえず、原告が、丙15(丙9)を受領しつつも二次利用の事実を認識していないことなどあり得ないことは、上記と同様である。
(エ) 原告は、甲12の電子メールを挙げて、補助参加人が原告に二次利用の許諾を求めていたと主張する。
 しかしながら、補助参加人は、商業目的での利用の場合は、全ての写真が「買い取り」であり、補助参加人に著作権が帰属する以上、二次利用の確認などは行わない。他方、被撮影者個人への写真交付等の、補助参加人が予想しない形で当該写真を利用されてしまうおそれもある場合は、道義上の問題として、写真撮影者に対しても一応通知をしていた。甲12も、まさに被撮影者個人の場合であったため、かかる観点から原告へ通知をしたものにすぎない。
(オ) 原告は、「フラワーソープのアレンジメント」で補助参加人が原告に使用許諾料を支払っているなどと主張するが、実際に補助参加人が原告に支払ったのは、既に発生していた原告との間の紛争を穏便に解決させるための、「相手様のご希望の撮影をしていただく」という名目での「日当」(丙24)にすぎず、補助参加人が原告に使用許諾料を支払った事実はない。
(原告の主張)
(ア) 補助参加人が原告に対して「撮影された写真の著作権が全て補助参加人に帰属することを十分に説明し、原告はこれを了承していた」ことは一切ない。補助参加人から著作権の帰属について話があったこと自体が一度もない。
(イ)a 平成20年に、原告が自らの個展で使用するために補助参加人代表取締役に「補助参加人に納品した写真を使わせてください」と言ったのは事実であるが、これは利用許諾を求めたものではなく、単に一次利用をした補助参加人に対し一言挨拶をしたというにすぎない。
b 補助参加人は、フィルム撮影の場合に「誌面に掲載されるまで現像後の写真を見ていないのが通常であった」と述べる。そもそもこの点が著作権の譲渡にどう影響するのか分かりかねるが、そのような事実はない。原告は、誌面掲載前に必ず発色の確認である「色校正(いろこうせい)」を行っている。
 また、「一度も当該フィルムの返還を求めていない」ということもない。原告は、平成20年の個展で、かつて補助参加人に納品したサッカーの写真(補助参加人が発行したストリートスポーツマガジン「フリースタイラーズVol.1」2005年12月号)での撮影フィルムを使いたいと思い、補助参加人に対してフィルムの返還を求めたが、補助参加人が紛失していたために、原告も立ち会って大規模な捜索をしてもらったことがある。
c 丙7と丙9の書籍を補助参加人が原告に贈呈していることは認める。しかしながら、原告は、補助参加人が主張するまで、丙7と丙9に原告撮影写真が二次利用されているとは全く気付かなかった。
 なぜなら、丙7と丙9は二次利用写真のみで構成された書籍ではなく、大部分の写真はこの書籍のために原告が撮影し一次利用されているものである。その中にほんの数点従前撮影された写真が無断で二次利用されているにすぎない(なお、原告は本当に二次利用写真が紛れ込んでいるものか確信が持てないのでこの点を認めるものではない。)。
 原告は、丙7と丙9を自身が最近撮影した書籍が贈呈されたものという認識でいたのであり、無断二次利用の写真が紛れ込んでいるなど想像もしていなかった。
(ウ) 補助参加人は、被写体を提供してくれた協力者が原告撮影の写真を欲しがった際には、原告の許諾を得た上で紙焼き(複製)して交付していた(甲12)。
 補助参加人が著作権を有しているのであれば、わずか数点の紙焼きの交付に原告の許諾を取る必要などない。原告に著作権があると補助参加人自身も認識していることの証左である。
(エ) 補助参加人は、書籍向けの写真撮影を依頼する際、原告に対し、発売タイトル、発行日、部数、撮影後の写真使用頁等の情報を一切提供しない。撮影時には発行日時や書籍題名が全く分からない場合が大半であり、原告の撮影後、補助参加人の編集を通じてどの写真を利用するかが決められている。
 したがって、原告としては、補助参加人送付の書籍を見てもそこに掲載された写真が一次利用か二次利用かの判別などできない。丙22で指摘された写真はいずれも無個性の部品や小物が大半である。これを見て「この写真は以前見た別書籍に載っていた」などと気付くだろうか。自身で撮影した写真であってもおよそ不可能である。
(オ) 補助参加人は、丙7と丙9における二次利用等を挙げて、書籍を与えていたのであるから、二次利用を認識していないことなどあり得ないと主張する。
 しかし、原告に二次利用の事実を申し出た上で書籍を贈呈するならばともかく、二次利用の事実を告げることもなく書籍の贈呈が行われるのである。たまたまその中に二次利用が多数含まれているとしても、二次利用の有無を原告が進んで確認すべき義務がない以上、原告が補助参加人による無断二次利用を見落としていたとしても、それによって原告が不利に扱われる理由はない。
(カ) 補助参加人の主張によれば、甲12は、被撮影者個人へ写真が交付される場合の例外的な取り扱いであり、商業目的での利用の場合には二次利用の確認など行わないとのことである。
 しかし、原告は、フラワーソープアレンジメントの撮影写真について、書籍外の商業目的利用について補助参加人に利用許諾し、許諾料の支払いを受けている(甲13)。
エ 包括的利用許諾の合意の有無(争点1−4)
(補助参加人の主張)
 上記ウ(補助参加人の主張)に照らすと、補助参加人と原告との間で、原告撮影の写真について、以後他の書籍の内容に合わせて改変した上で掲載することを許諾する旨の、包括的利用許諾の合意があったと解される。これは、補助参加人が二次利用された書籍(丙13、15、17、19及び21参照)を原告に贈呈し、原告は、補助参加人による写真の二次利用を認識していたにもかかわらず、これに異議を述べたことは一度もなく、Bが丙19(内容は原写真を掲載した丙18とほぼ同一。丙22参照。)を原告に贈呈した際には、その中身を確認して「結構使ってますね」と述べて補助参加人の二次利用を明確に認容していたことをみても明らかである。
(原告の主張)
 上記ウ(原告の主張)と同じ。
オ 複製権及び公衆送信権の侵害の有無(争点1−5)
(原告の主張)
 被告は、本件書籍に本件写真を、そのウェブサイトのウェブページに本件写真を掲載しているから、原告の本件写真に係る著作権(複製権、公衆送信権)を侵害する。
(被告及び補助参加人の主張)
 争う。
(2) 本件写真についての著作者人格権の侵害の有無
ア 公表権の侵害の有無(争点2−1)
(原告の主張)
 本件写真は、未公表の著作物であり、本件書籍の発行は、原告の公表権を侵害するものである。
 職業写真家である原告にとって質の悪い写真を発行されることは耐え難いことであるので、原告は必ず誌面掲載前に使用予定の写真の色校正をしている。この色校正の過程で公表してよいかどうかの判断を行っている。
 本件写真と本件掲載写真を対照すれば明らかなとおり、原告の光や背景についての工夫が十分に再現されておらず、原告としては公表に非常に不満を持っている。
(補助参加人の主張)
 本件写真は、補助参加人のために撮影されたものであり、また、特段個性の発揮されない自動二輪車の一部部品の写真にすぎない。しかも、その撮影における被写体の選択・配置、構図・カメラアングル、ライティング・背景等は全て補助参加人の発意に基づいており、原告の個性は何ら発揮されていない。原告は、大量の写真のうちのどれを、いつ、どのように公表するかについて、原告自身が決定する意思を持っておらず、大量に撮影された写真のデータを補助参加人に交付した時点で、そのうちのどれを、いつ、どのように公表するかについて、補助参加人の裁量に委ねることに同意したのである。
 なお、上記(1)ウ(補助参加人の主張)のとおり、本件写真に係る著作権は補助参加人に譲渡されているから、著作権法18条2項1号により、公表の同意が推定される。
イ 氏名表示権の侵害の有無(争点2−2)
(原告の主張)
 本件書籍に掲載された本件写真には著作者である原告の氏名表示がされておらず、原告の氏名表示権を侵害するものである。
 職業写真家の写真を利用するに当たって氏名表示を省略することは「公正な慣行」(著作権法19条3項)に反する。補助参加人発行の書籍(甲1、丙2、5〜9)において氏名表示がされていることからも明らかである。
(補助参加人の主張)
 専門誌において対象物の構造が説明される場合には、装飾性のない忠実に対象物が再現されている写真が用いられるとともに、各撮影者の氏名も表示されないのが通常である。ましてや、本件写真は、個性がほとんど発揮されることのない一部部品の写真にすぎないことに加え、補助参加人がその被写体の選択・配置、構図・カメラアングル、ライティング・背景等を全て決定したものであるから、原告の氏名表示がなくとも原告の利益を害するとはいえない。
 よって、本件書籍のなかで、本件写真について原告の氏名表示がなくとも原告の利益を害するとはいえず、このことが公正な慣行に反するともいえないから、著作権法19条3項に基づく原告の氏名表示の省略が認められる。
ウ 同一性保持権の侵害の有無(争点2−3)
(原告の主張)
(ア) 本件掲載写真は、本件写真から本件エンジンだけが切り出される形でトリミングされており、かつ、「シリンダー」、「クラッチカバー」、「クランクケース」等のコメントに、赤色の破線が多数付されている。また、本件掲載写真は、背景の色が黒から変更され、本件写真の陰影が改変されているから、原告の同一性保持権を侵害するものである。
(イ) 「HONDA CB750Four FILE.」(甲1)における改変は、誌面掲載前の色校正の際に原告が実際に確認して同意しているのであるから、これを根拠に原告が包括的に「エンジン部分を切り出して表示することは原告においても承諾していた」などということはできない。
 原告は、4辺から等距離にエンジンが配置されることにこだわって本件写真を撮影したのであるが、本件掲載写真ではこの点が大きく改変されている。
 また、本件写真は、エンジンの特定部分を説明するために撮影された写真ではない。エンジンの力強さと構造美を表現するために撮影した写真であり、そのためには、できるだけ余計なものは省く必要があるにもかかわらず、本件掲載写真にはコメントや破線等の余計なものが多数付加され、原告の創作意図が踏みにじられている。
(ウ) 著作権法第20条2項4号については厳格に解釈されるべきとの厳格説が判例・通説である。自動二輪車愛好家向けに本件エンジンを説明する目的のためであっても、説明はエンジンの別写真やイラストを使用すれば足りるし、トリミングについては上記目的からしても何らの理由にもならない。改変についての強度の必要性は何ら認められない。
(補助参加人の主張)
(ア) 原告は、背景の色が黒から変更され、本件写真の陰影が改変されていると主張する。
 しかしながら、背景の色や陰影の改変は、そもそも行われていない(変更されたように見えるとしても、それは印刷の問題である。)。
(イ) 本件掲載写真は、写真の構図自体には大きな変更は何ら加えられていない。本件写真からエンジン部分が切り出されているものの、本件写真はエンジンを説明するために撮影された写真なのであるから、エンジン部分を切り出して表示することは原告においても承諾していた。書籍に掲載するために撮影された写真につき、編集者側がトリミングを行うことは通常よくあることであって、原告もそのことは十分承知していた。このことは、本件写真と同時に撮影された丙10の写真について、エンジン部分のみが切り出され表示されていることからも明らかである(甲1「HONDA CB750Four FILE.」)。
 また、本件書籍における写真には赤色の線が付されているが、これはエンジンの説明の便宜のために付されただけであり、構図自体を改変するものではなく、些細な加工にすぎない。これについても、本件写真はエンジンを説明するために撮影された写真なのであるから、エンジン説明のために、構図としては何ら変更することなく説明部分の特定のために線を引くことは、原告においても承諾していた。
 よって、本件写真の改変は、「意に反する」改変とはいえない。
(ウ) 本件写真の性質、その利用の目的及び態様に照らし、本件写真の改変は、やむを得ないと認められる改変である(著作権法20条2項4号)。
 本件写真については、自動二輪車愛好家向けに本件エンジンを説明する目的で撮影された写真であること、かかる自動二輪車愛好家のニーズを把握していない素人の原告が補助参加人従業員の指示のもと撮影行為をしたにすぎないものであったこと等から、自動二輪車についてより専門的知識を有している補助参加人その他の者において、発行される書籍に合わせて写真を改変する必要があった。そして、本件書籍においては、本件エンジンの説明という、原告・補助参加人間で当初から予定されていた目的のために、丙10の写真と同じようなトリミングがされ、かつ、本件エンジンについて、より詳細に各部分の名称を説明するのに必要な範囲において、破線等が付されたものである。
エ 著作者人格権不行使の合意の有無(争点2−4)
(補助参加人の主張)
 上記(1)ウ(補助参加人の主張)(ア)の「買取り」とは、補助参加人従業員管理下で撮影された写真を補助参加人がどのように利用しようと異議を申し立てないとの意であるから、当該合意には、著作権移転の点のみならず、著作者人格権を行使しないとの趣旨も当然に含まれる。
(原告の主張)
 上記(1)ウ(原告の主張)と同じ。
(3) 被告の過失の有無(争点3)
(原告の主張)
ア 被告は、仙台高裁平成9年1月30日判決に依拠し、「被告には、本件書籍に使用されている写真の一つひとつについて、著作権侵害がないかを調査、確認すべき義務は一切存しない」と主張する。
 仮に同判決の判示が、著作権侵害の問題を生ずることの有無を調査、確認すべき義務が一切ないという趣旨であれば、著作物の利用について著作権者の許諾が原則として必要であるという著作権法の大原則を無視するものといわざるを得ない。
 むしろ、「出版物に写真を使用する際に著作権処理をすることなくこれを使用することは考え難いところ」(知財高裁平成19年5月31日平成19年(ネ)第10003号出版差止等請求控訴事件)であり、著作権法の原則からすれば、「そもそも、出版物に写真を使用する際に著作権処理をすることは、出版物の著作者及び出版社にとって当然になすべき義務である」(同上)というべきである。
 よって、仙台高裁の判示に依拠し、著作権侵害がないことを調査し、確認すべき義務はないとする被告の主張は不合理であり、被告に過失があったことは明白である。
イ 上記仙台高裁判決は、既に発行されていた書籍に掲載されていた写真について、当該書籍の出版を引き継いだ被控訴人が同書籍の発行人から提供された掲載写真をそのまま利用したという事案である。このような具体的事実関係の下では、同判決の判示した「具体的な疑いを抱くべき特段の事情」があると認め難い事案であったとすることも首肯する余地があろう。
 しかし、本件は、上記事案のように、その権利処理が適法にされていることについて合理的期待を抱く状況ではなく、むしろ、破線・説明文の付加やトリミングを行うのであるから同一性保持権侵害が懸念され、撮影者の氏名表示がないから氏名表示権侵害が懸念されるといった著作権侵害の具体的な疑いを抱くべき特段の事情があるというべきである。
 したがって、仙台高裁の判示を前提としても、被告には過失があるというべきである。
ウ 被告は、出版物の製作・編集業務を委託した株式会社テックデザイン(以下「テックデザイン」という。)に対して、リプロシートの提出を求めていることをもって、必要な権利処理がされていることを間接的に確認しているとも主張する。
 しかし、リプロシートの提出自体は必要な権利処理がされたことを何ら推認させるものではないし、本件写真について、どのようなリプロシートが提出され、本件写真について必要な「使用許諾料」ないし「著作権譲渡対価」が支払われていることを、被告がどのように確認したのか全く明らかではない。
 さらに、被告は、業務委託契約書において、適切な権利処理の徹底を要求しているから、注意義務を果たしているとも述べる。
 しかし、被告とパッケージャー間の契約における、パッケージャーが著作権侵害について責任を負う旨の合意(第7条)は、あくまで被告とパッケージャーとの間における責任負担の合意にすぎない。かかる責任免除規定を定めることによって、著作権処理に関する被告の注意義務が果たされたことにはならない。
(被告の主張)
ア 被告に過失が認められるためには、被告が、本来履行すべき注意義務を履行していなかったといえることが必要である。しかしながら、本件においては、そもそも被告に、本件書籍に使用されている写真の一つひとつについて、著作権侵害がないことを調査し、確認すべき義務はない。また、被告は、本件書籍の製作・編集業務を委託した第三者に対して、様々な義務を課すことで、第三者の権利侵害が発生しないよう最大限注意義務を尽くしたのであるから、本件で被告に過失がないことは明白である。
イ 被告のような書籍の出版社が果たすべき注意義務について、仙台高裁平成9年1月30日判決は、「書籍出版の事業者が出版に当たって、著者から提供された原稿中の表現や掲載写真の一つひとつについて、著作権侵害の問題を生ずることの有無を調査、確認すべき義務があるとは解されず、具体的な疑いを抱くべき特段の事情があって初めて右義務が生ずるというべきである」と判示した。
 出版社が、著者の執筆した原稿や掲載した写真について、関連する分野の他の文献等に目を通すなどして、第三者の権利を侵害していないかを逐一調査することは、出版社の仕事の現実を考えた場合、およそ不可能である(乙1)。この点、本件書籍は、特定の著者が執筆したものではないが、通常の書籍の著者と同様の役割を担うテックデザインが製作・編集を担当し、被告に納品したものであるから、同判決の射程は当然本件にも及ぶ。
 したがって、被告には、本件書籍に使用されている写真の一つひとつについて、著作権侵害がないかを調査、確認すべき義務は一切存しない。
ウ 被告は、パートワーク出版物の出版元として、第三者の権利を侵害することがないよう、製作・編集業務を直接担当するパッケージャーに様々な義務を課すことで、可能な限りの注意義務を果たしている。
 毎号のパートワーク出版物において、どのような写真を使用するかは、原則としてテックデザインに一任されている。しかしながら、被告は、製作・編集業務を委託したパッケージャーが、パートワーク出版物に使用している写真について、それぞれ誰から入手し、いくらの使用許諾料ないし著作権譲渡対価を支払っているかといった情報を明らかにさせるため、毎号ごとに「リプロシート」の提出を求めている(乙2の4条参照)。これによって、パートワーク出版物に使用されている全ての写真について、パッケージャーが適切に使用許諾料ないし著作権譲渡対価が支払っていることを確認し、必要な権利処理がされていることを間接的に確認しているのである。
 被告は、パートワーク出版物に使用されている写真が、第三者の権利を侵害することのないよう、日ごろから、パッケージャーに対し、適切な権利処理を行うよう厳格に要求している。また、これを徹底すべく、パッケージャーとの業務委託契約の中で、第三者の著作物を使用する場合は適切に権利処理をすることを明示するとともに、被告による出版物の利用が、いかなる第三者の権利も侵害しないことを表明保証させ、万が一、被告が第三者から出版物における素材の使用が当該第三者の著作権を侵害するとのクレーム等を受けた場合には、被告の被った損害の全てをパッケージャーが補償する旨を、必ず約束させている(乙2の6条1項、7条参照)。このように、被告は、パッケージャーとの業務委託契約の中でも、第三者との間で適切な権利処理がされるよう、最大限の配慮をしているのである。
(4) 損害額(争点4)
(原告の主張)
ア 主位的主張
(ア) 被告の利益額に基づく損害(著作権法114条2項)
 被告は、本件書籍を690円(創刊記念価格、通常は1790円)で販売し、本件書籍は少なくとも50万部以上発行されているものと推測される(甲6)。その利益率は少なくとも20%を下らないから、その利益は、6900万円(690円×50万部=3億4500万円×0.2)を下らない。
 本件書籍において、本件写真は13頁中の1頁で利用されているだけではあるが(甲3の8頁)、本件書籍の広告において、「大量排気量4気筒エンジンの咆哮と、その圧倒的な存在感に全世界が魅了された歴史的名車」と述べているとおり(甲5)、本件書籍が取り上げているホンダ車は、その4気筒エンジンの存在感ゆえに注目を浴びてきた車である。
 本件写真は、読者を本件書籍へ吸引する上で極めて重要な役割を果たしており、本件書籍による利益への寄与も非常に大きい。それは、被告が本件写真を被告のウェブサイト上にまで掲載していることからもうかがえる(甲4、5)。
 以上の事情に鑑みれば、本件書籍により被告が得た利益への原告の寄与は、10%を下ることはない。よって、被告が本件著作権侵害行為によって得た利益は、少なくとも690万円(6900万円×0.1)を下らない。
(イ) 慰謝料
 被告は、原告の同一性保持権・氏名表示権及び公表権を侵害しているので、これに対する慰謝料としては40万円が相当である。
(ウ) 弁護士費用
 原告は、被告に対し、使用料等の支払を含めた被告の誠実な対応を求めたにもかかわらず、原告の要求を一方的に拒絶した。このため、原告はやむなく原告代理人に依頼して訴訟提起せざるを得なくなった。訴訟提起に当たっては多くの労力が費やされ、全体として本件の弁護士費用は、60万円を下らない。
イ 予備的主張
(ア) 使用料相当額の損害(著作権法114条3項)
a 原告は、従前「FAST ルール・オブ・ザ・ストリート Vol.2」(販売価格は3280円)というDVD作品の映像制作を行った(甲19)。原告は、上記作品を企画したCとの間で、映像作品著作権使用料として、1000枚売れた場合は20万円、2000枚売れた場合は更に22万円の支払を受けることで合意した(甲20)。1000枚以上2000枚未満であったことから、原告は20万円の支払を受けた(甲21)。映像制作はCと共同して2名で行った。
 したがって、原告が著作物を提供した場合に受けるべき著作権使用料印税率は、少なくとも12.20%である。
 (計算式)20万円÷(3280円×1000枚÷2人)=0.12195
 そして、著作権侵害訴訟における損害額の算定においては、通常の取引関係において合意される利用料率より高率の利用料率に基づく金銭の額を認定しなければ、適法に著作権利用許諾を受けた者と違法に著作権を侵害した者との間に「侵害し得」の結果を生ずるから、これを回避することを目的とする平成12年法律第56号による著作権法改正の趣旨に鑑み、本件における原告の「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、印税率を2倍の24.40%とするのが相当である。
b 本件書籍の販売価格は690円であるが、これは2号以降の購入を誘引するための創刊号特別価格であり、本来の通常価格は1790円である(甲22)。
 著作権法114条3項による算定に当たっては、平成12年法律第56号による著作権法改正の趣旨に鑑み、事案の実情に応じた柔軟な考慮が許されるところ、本件においては適正な損害額を算定するために、販売価格を通常価格である1790円として算定すべきである。
c 上記ア(ア)のとおり、本件書籍における本件写真の寄与度は10%を下ることはないから、著作権法114条3項に基づき算定される損害額は、445万4952円である。
 (計算式)1790円×24.40%×10%×10万2000部=445万4952円
(イ) 慰謝料額は100万円が相当である。
(ウ) 弁護士費用は60万円を下らない。
ウ 著作権法114条2項の適用について
(ア) 著作権法114条1項においては、明文上明らかに著作権者の販売能力による制限がされている。2項において販売必要説を採るのであれば、1項導入時に同様の制限を2項に設けたはずであるが、これがされていないことは2項においては販売不要説こそが正しい解釈であることの証左である。
 3項においては、販売能力による制限を示す規定は存在せず、販売必要説を唱える論者も皆無である。販売能力による制限を示す規定が存在しないという点において2項も全く異なるところはないのであるから、文言解釈としては同じく2項においても販売不要説が正しいという帰結になるべきである。
(イ) 販売必要説は、2項の「著作権者が・・・受けた損害」を逸失利益と理解した上で、自身出版業を営んでいない原告には売上減退による逸失利益が観念できないことをその論拠とする。
 しかしながら、3項においても同じく「自己が受けた損害」という文言が使われていることからすれば、3項と2項の「損害」は同じものと理解する方が自然であり、2項は3項が「自己が受けた損害の額」とみなす相当の対価額をも推定していると理解すべきである。
 この理解に従えば、売上減退による逸失利益が認められないというだけでは、侵害者は2項の推定を免れることはできず、一旦侵害者利益額全額を損害と推定した上で、常に損害賠償が認められる3項の損害額が侵害者利益額よりも過少であることを証明して初めて、証明に成功した差額分の限度で2項の推定を免れることができるにすぎないという解釈が成立する。
(ウ) 仮に、被告の主張するとおり「著作権法第114条第2項が適用されるためには、著作権者において、著作物を現に利用しているか、少なくとも、これを利用して利益を得られる蓋然性が必要である」としても、本件においてこの蓋然性が認められることは明らかである。
 本件写真と同一機会に撮影され構図もほぼ同一である写真を、原告は補助参加人に対して複製許諾し(甲1)、著作権使用料を受領しているから、本件写真を利用して利益を得られる蓋然性が認められる。
(エ) 知財高裁平成25年2月1日判決・知財高裁HPは、特許法102条2項について「特許法102条2項には、特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと、上記(ア)で述べたとおり、同項は、損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり、また、推定規定であることに照らすならば、同項を適用するに当たって、殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば、特許権者が当該特許発明を実施していることは、同項を適用するための要件とはいえない。上記(ア)のとおり、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。」と述べて、実施不要説に立つことを明らかにしたが、著作権法114条2項についても販売不要説を採るべき理由となる考えを示している。
エ 被告の販売部数について
 本件書籍にはDVD等の付録が付いているところ、当該付録の制作個数は少なくとも10万2000個を下らないことが以下の点より明らかである。
 @乙6の1〜3記載の付録の個数は、62000+27000+13000=10万2000個である。A乙6の4には「102000pcs」「60pcs」との表記がある。B乙6の5の数量欄には「102、000」との表記がある。
 付録と本件書籍の数は同数となるはずであるから、被告は少なくとも本件書籍を10万2000部印刷したものと判断される。被告は、販売部数を5万7731部と主張しているが、10万2000部との乖離が大きすぎるし、これを証する証拠も十分に提出しないから、本件における販売部数は少なくとも10万2000部と評価されるべきである。
(被告の主張)
ア 著作権法114条2項の適用について
(ア) 著作権法114条2項が適用されるためには、著作権者において、著作物を現に利用しているか、少なくとも、これを利用して利益を得られる蓋然性が必要である(東京地判昭和53年6月21日・判タ366号343頁、東京地判平成17年3月15日・判時1894号110頁)。
 しかし、本件において、原告が本件写真を利用して利益を得ていた事実や、本件写真を利用して利益を得る蓋然性があった事実等は、一切主張立証されていない。
 したがって、本件では、そもそも著作権法114条2項を適用するための前提を欠いており、これに基づく原告の主張は失当である。
(イ) 原告は、著作権法114条1項において、明文上著作権者の販売能力による制限がされているから、2項においても販売必要説を採るのであれば、1項導入時に、1項と同様の制限を2項にも設けたはずである旨を主張する。
 しかし、1項において制限が設けられているのは、「侵害者の譲渡等数量」×「正規品の単位数量当たりの利益額」を損害額とすることができるという特殊な形で損害額の法律上の推定を認めているからである。このような推定による場合、著作権者が本来得られたはずの利益以上の損害が認定される可能性が相当程度あることから、著作権者の能力と販売できないような事情も判断要素に加えて、損害賠償の一般理論からの乖離を少なくしているのである。
 他方で、2項は、侵害者の利益を著作権者の損害額と推定するという事実上の推定規定にすぎず、仮に著作権者の被った損害が侵害者の利益に満たない場合には、侵害者の側でこれを反証すれば推定を覆滅することも可能であるから、2項においては、1項のような制限を設ける必要性が全くないのである。したがって、1項のような制限がないからといって、販売不要説が正しい解釈であるとは到底いえない。
(ウ) 原告は、2項においても3項と同様に販売不要説が正しい旨を主張する。
 しかし、かかる主張は2項と3項の法的効果の違いを無視したものである。まず、3項は、故意又は過失による著作権侵害がある場合には、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害と擬制する「みなし規定」である。そのため、同項が適用される前提として、著作権者が「損害の発生」を立証する必要はない。他方で、2項は、事実上の推定規定にすぎないから、同項の適用を受けるには、著作権者が「損害の発生」を立証する必要がある。
 このように、2項と3項では法的効果に違いがあることから、前者では販売必要説、後者は販売不要説という解釈が導かれるのであって、両者とも販売能力による制限を示す文言がないというだけで、2項についても販売不要説を採るべきであるとするのは、あまりに乱暴である。
(エ) 原告は、著作権法114条2項と3項を重畳的に理解すれば、売上減退による逸失利益が認められないというだけでは、侵害者は2項の推定を免れることはできず、一旦侵害者利益額全体を損害と推定した上で、3項の損害額が侵害者利益よりも過少であることを証明して初めて、差額分の限度で2項の推定を免れることができる旨を主張する。
 しかし、上記のとおり、著作権法114条2項は、事実上の推定規定にすぎず、この適用を受けるためには「損害の発生」を立証する必要がある。それにもかかわらず、3項のみなし規定が存在することを根拠に、いかなる場合も、3項の使用料相当額の限度で損害が発生していることまでは2項の推定が及び、著作権者はこれとは別に「損害の発生」を立証する必要はないと解することは、極めて不当である。
(オ) 原告は、本件写真と同一機会に撮影され構図もほぼ同一である写真を、原告が補助参加人に対して複製許諾をし、著作権使用料を受領している事実が存する以上、原告が本件写真を利用して利益を得られる蓋然性が認められるから、著作権法114条2項を適用し得る旨を主張する。
 しかし、ここで想定されている蓋然性とは、「著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性」である(東京地判平成17年3月15日・判時1894号110頁)。本件において、原告が被告による本件写真の利用と同様の方法で著作物を利用する蓋然性は全く存しないから、著作権法114条2項が適用される余地はない。
イ 被告の売上及び利益率
(ア) 被告の販売部数は、全国展開に先立って行われたテスト版で1485部、全国展開後に書店を通じて販売されたものが5万3469部、全国展開後に定期購読されたものが2777部、合計5万7731部である(乙3)。
 このうち、定期購読されたものについては、税込価格690円から消費税相当額を控除した657.14円×2777部=182万4886円が被告の売上になるが、書店を通じて販売されるテスト版及び全国版については、取次店に支払う手数料が発生することから、その売上はそれぞれ、64万6017円、2354万1636円になる(なお、テスト版と全国版とでは、取次店に支払う手数料が異なる。)。
 したがって、本件書籍の売上は、182万4886円+64万6017円+2354万1636円=2601万2539円である(乙3)。
(イ) 本件書籍の発行・販売に要した費用は、全部で7451万9473円であるから、本件書籍の販売によって、被告は合計で2601万2539円−7451万9473円=4850万6934円もの損失を被っている(乙3)。
 したがって、本件書籍の利益率はマイナスであるから、著作権法114条2項に基づいて計算した場合、本件における原告の損害の額はゼロである。
(ウ) 原告は、本件書籍の付録が10万2000個制作されていることからすれば、販売部数は10万2000部と評価すべきである旨を主張する。
 被告は、パートワーク出版物を販売する際、必ず特定の地域で先行販売(テスト販売)を実施して、全国展開するか否か、全国展開した場合の売上がどの程度になるか等を調査している。この調査に基づいてパートワーク出版物及び付録の印刷部数・制作部数が決定されるが、かかる売上部数の調査(予測)は不確定で、実際にはより多くの部数が販売できる可能性もあり、また付録の中には一定の割合で不良品等が発生すること等から、通常の場合、調査の結果予想される売上部数の3割増し程度の部数を印刷・制作している。
 本件書籍についても新潟地区で先行販売が行われたが、その結果、全国販売した場合の創刊号の売上部数は7〜8万台に上ることが予想された。この予想に基づいて、被告は約8万部×1.3≒10.2万部の本件書籍及び付録を印刷・制作したのである。
 したがって、付録の制作部数と被告の主張する販売部数が大きく乖離することを理由に、前者を本件書籍の販売部数と評価すべきとする原告の主張は、失当である。
ウ 本件写真の寄与度
 本件書籍は、「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズの創刊号であるが、同シリーズには、書籍部分とともに、毎号「CB750FOUR」の精巧な模型のパーツが同封されており、これを全80号まで集めると、実物の4分の1の大きさの「CB750FOUR」の精巧な模型が完成する仕組みになっている(乙8)。同シリーズの購読者の多くは、「CB750FOUR」の模型を完成させるために、毎週購読を続けるのであって、購読者の最大の興味は最終形として自らの手で当該模型を完成し、かつ鑑賞することにある。その意味では、 書籍部分は、 購読者のかかる目的を補助し、かつ実物の「CB750FOUR」に関する知識を増大させるための付随的・補足的な役割を果たすにすぎないといえる。書籍部分と完成形の模型の寄与度の割合、及び各号でのパーツ部分の寄与度の割合を正確に算出することは困難であるが、少なくとも模型部分の方が遥かに大きな価値を有していることは否定しようのない事実である。
 また、被告は、本件書籍のみならず、被告が出版する多くの書籍等について、全国で大々的にテレビコマーシャルを放映するなど、多額の広告宣伝費を投入して、購買部数を増やしている。創刊号の販売部数がその後の号数の販売部数の基礎となる意味でも、創刊号にあわせて多量の広告露出を展開するマ―ケティング手法は極めて重要な価値を有する。本件書籍についても、実に3億300万円もの広告宣伝費を掛けており、これが、その後の号数における被告の利益に多大な影響を与えていることは明らかである(乙3)。したがって、単純に本件書籍の内容だけを寄与度の計算の対象とすることは合理性を欠く。
 さらに、本件写真は、全13頁の本件書籍の1頁にすぎず、単純に頁数で按分してもその割合は8%以下である。また、本件写真が掲載されている頁には、各パーツに関する説明書きがいくつも加えられているほか、頁右上には、本件写真とは別の写真も掲載されているのであって、実質的に見れば、書籍全体の13分の1の寄与度すら認められない。
エ 使用料相当額について
 写真の著作物を書籍等で使用した場合の著作権使用料は、当該書籍等の発行部数に応じた割合をもって算定されるものではなく、日当などの名目で一定額が支払われるのが一般的である(丙28、29)。
 また、写真の二次利用の際に支払われる著作権使用料は、当初の撮影に際して写真家に支払われる報酬(日当)よりも低額になるのが一般的である。当初の撮影時に支払われる報酬には、写真の使用料的性質に加えて、撮影行為という実働に対する報酬も含まれるが、二次利用の場合はそのような実働は発生しないからである。
 以上を踏まえて、本件写真を二次利用した場合の使用料相当額を検討するに、補助参加人が原告に対し、書籍「HONDA CB750Four FILE.」の写真撮影の対価として、日当2万2000円×16日=35万2000円を支払っていること(甲2の1)、本件書籍で使用された写真がわずか1枚にすぎないこと等からすれば、本件写真の二次利用の際の著作権使用料相当額は、当初の報酬の10分の1の3万5200円とするのが相当である。
第3 当裁判所の判断
1 本件写真についての著作権の侵害の有無
(1) 原告が本件写真の著作者(創作者)であるか(争点1−1)について
ア 原告は、本件写真の撮影者であるが、著作者(創作者)であることについて争いがあるので検討する。
 証拠(甲14、丙25、原告本人、証人B)によれば、原告は、写真専門学校を卒業後、建築、自動車関連の撮影アシスタント、スポーツ専門の写真撮影会社勤務等を経て、本件写真の撮影当時は、フリーランスの写真家として活動していたこと、原告は、本件写真を撮影する前に、本件エンジンの銀色を際立たせるために、それに適した黒色の背景を提案したこと、本件写真の撮影場所が狭かったため、本件写真の撮影には三脚を使用することができなかったこと、原告は、本件写真の撮影に際し、手動によりシャッタースピードと絞り、ホワイトバランス等の露出を調整したこと、原告は、本件写真を撮影する直前に、ライティングの濃度、本件エンジンの角度、陰影等を確認するために、本件エンジンを被写体として数枚写真を撮影したこと、その後、原告は、本件エンジンの位置を決め、ライティングを調整し、本件エンジンの側面に光を当てるなどの工夫を凝らした上で、ファインダー内において本件エンジンが上下左右四辺から等距離に来た瞬間を捉えて本件写真を撮影したことが認められる。
 以上に照らすと、本件写真の撮影者である原告が本件写真を創作したと認めるのが相当である。
イ これに対し、補助参加人は、本件写真における、被写体の選択・配置、構図・カメラアングルの選択、ライティング・背景の決定等は、全て補助参加人が行っており、原告は、補助参加人の指示に従い、物理的な撮影行為を行ったのみである旨主張し、これに沿うBの陳述書(丙26)及び証人尋問における供述がある。
 しかしながら、Bの供述によっても、Bが写真撮影について専門的な教育を受けたとは認められない。また、Bは、本件写真の撮影に際し、原告撮影の写真について、デジタルカメラのディスプレイで確認したと供述するものの、そのファインダーを覗くことはなかった旨供述するのであるから、そのようなBが原告に対して写真撮影の具体的な指示ができたとは容易に認められない。Bは、書籍の編集者としての立場から、読者が好む写真を作成するための希望を述べたものであって、それを超えて写真の創作的内容についての具体的指示をしたものと認めることはできない。
ウ 以上のとおり、原告が本件写真の著作者(創作者)であると認められる。他方で、補助参加人が本件写真の著作者あるいは共同著作者であるとは認められない。
(2) 本件写真の創作が職務著作に当たるか(争点1−2)について
ア 補助参加人は、原告が補助参加人の業務に従事する者であり、補助参加人のために本件写真を撮影し、また、本件写真は補助参加人名義のもとに公表するものであったから、本件写真の著作者は補助参加人である旨主張する。
 そこで検討するに、著作権法15条1項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることに鑑みて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして、法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第216号同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。
イ そして、本件では、原告と補助参加人との間に雇用関係は認められないから、本件写真の撮影当時において、原告が補助参加人の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価できるかについて検討する。
 証拠(甲2の1及び2、甲13、14、丙11)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成16年頃から平成22年7月頃まで、補助参加人の依頼を受けて、写真撮影を行い、撮影した写真フィルムないしデータを納品したこと、撮影のためのデジタルカメラ、レンズ、ストロボ等は原告が自らの費用で準備していたこと、補助参加人は、原告に対し、交通費のほか、報酬(日当名目)として1日2万2000円(平成19年8頃からは2万5000円)を支払っていたこと、報酬の支払時期は、撮影した写真を掲載した書籍の発行後であり、実際の撮影日から4か月程度後であったこと、平成18年(本件写真が撮影された年)において、原告の補助参加人の依頼による撮影日数は108日であり、それによって得た報酬は237万6000円であったことが認められる。
 以上のとおり、平成18年(本件写真が撮影された年)において、原告は、補助参加人からの依頼を受けて写真撮影の業務を行っていたものの、撮影機材は自ら準備し、写真撮影に当たっても自らの判断でその創作的内容を決定していたことが認められる。補助参加人は、原告に対し、報酬として1日2万2000円を支払っているが、その支払時期は、撮影した写真を掲載した書籍の発行後であり、原告の補助参加人の依頼による撮影日数は108日にすぎない。
 上記のような業務の態様や報酬の支払状況に照らすと、本件写真の撮影当時において、補助参加人が原告に対して支払った金銭が労務提供の対価であると評価することは困難であり、また、原告が補助参加人の指揮監督下にあったことを認めるに足りる証拠もない。
ウ したがって、その余について判断するまでもなく、本件写真の創作が職務著作に当たるとは認められない。
(3) 本件写真に係る著作権の譲渡の有無(争点1−3)について
ア 補助参加人は、原告に対し、撮影された写真の著作権が全て補助参加人に帰属することを十分に説明し、原告はこれを了承していた旨主張し、これに沿うD及びEの陳述書(丙25、27)及び証人尋問における供述がある。
 そこで検討するに、D(補助参加人代表者)は、証人尋問において、撮影者の採用面談の際に、撮影に関する権利は全て「買取り」であることを説明しているし、原告の採用面談では、撮影した写真が「買取り」であることを説明した旨供述する。また、Eは、証人尋問において、補助参加人に勤務していた際には、カメラマンと初めて仕事をするときに写真に関する権利は全て補助参加人のものになる旨説明しており、原告と初めて仕事をしたときにも同じ説明をした旨供述する。
 しかしながら、Dの供述では、原告に対する説明は撮影した写真の「買取り」にとどまり、具体的に著作権の譲渡について説明したものではない。このような「買取り」には、著作権の譲渡の意味で使用する場合のほか、一定範囲での利用許諾料の支払が定額である意味で使用する場合等があると解されるから、たとえDが原告に対して「買取り」と説明していたとしても、それが直ちに著作権の譲渡の意味であったことにはならない。また、Eの供述も、写真に関する権利は全て補助参加人のものになる旨の説明にとどまる上、その説明には「著作権」という言葉を使用していない旨も供述するから、著作権の譲渡について説明したものとはいい難い。
 また、証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、補助参加人は、原告に対し、原告撮影の写真について、その複製物を第三者に交付することの承諾を求めていることが認められるから、補助参加人は、原告撮影の写真について、その著作権が原告に帰属することを前提として行動していることがうかがえる。
 以上に加え、原告は、陳述書(甲14)及び本人尋問において、写真の「買取り」や著作権の扱いについて説明がなかった旨を供述していることや、補助参加人が撮影者との間で著作権の譲渡について契約書を作成することが困難であった事情が見当たらないことに照らすと、原告と補助参加人との間で、原告撮影の写真について、著作権の譲渡の合意があったとは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠もない。
イ また、補助参加人は、原告撮影の写真について、著作権の譲渡があった事情として、@原告は、個展で使用するために、補助参加人代表者に「使わせてください」と許諾を求めた、A原告は、写真フィルムを利用していたときには、自ら現像することはなく、写真フィルムの返還を求めていない、B原告は、補助参加人が二次利用していたことを知っていたなどと主張する。
 しかしながら、上記@の事情については、原告の主張のように、撮影依頼先に対する儀礼的な対応であると理解することも可能である。また、上記A及びBの事情についても、これらによって著作権の譲渡が直ちに推認されるものではない。そして、上記@〜Bの事情を併せても、原告撮影の写真について、著作権の譲渡が推認できるとはいい難い。
ウ 以上のとおり、原告と補助参加人との間で、原告撮影の写真について、著作権の譲渡の合意があったとは認められないから、本件写真に係る著作権の譲渡があったとは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠もない。
(4) 包括的利用許諾の合意の有無(争点1−4)について
 補助参加人は、補助参加人と原告との間で、原告撮影の写真について、以後他の書籍の内容に合わせて改変した上で掲載することを許諾する旨の、包括的利用許諾の合意があった旨主張する。
 確かに、補助参加人は、原告撮影の写真を二次利用し、その二次利用に係る補助参加人発行の書籍を原告に対して贈呈しているものと認められるが(丙13、15、17、19、21、22、26、証人B)、このような二次利用に対して原告が異議を述べたことは認められないから、原告において補助参加人が原告撮影の写真を二次利用することを許諾していた可能性を否定できない。
 しかしながら、上記の状況があるからといって、補助参加人による二次利用に限らず、それ以外の第三者が二次利用する場合についてまで、原告が許諾していたと認めることは困難であり、その他これを認めるに足りる証拠もない。
 以上のとおり、第三者が二次利用する場合を含めて、原告と補助参加人との間で包括的利用許諾の合意があったとは認められない。
(5) 複製権及び公衆送信権の侵害の有無(争点1−5)について
 本件写真と本件掲載写真を比較すると、本件掲載写真の内容は、前提事実(3)イの本件掲載写真の態様のとおりであり、この態様からみる限り、本件掲載写真は本件写真を翻案したものというべきであるが、原告は本件掲載写真について本件写真の複製権侵害を主張する。そうすると、原告が複製権侵害を主張する対象は、後記著作者人格権侵害の場合と異なり、本件掲載写真の全部ではなく、そのうちの本件エンジン本体撮影部分(背景部分及び説明部分等を除く。)のみについての侵害を主張するものと解されるので、以下これを前提に検討する。
 本件掲載写真は、本件掲載写真の態様のとおりの改変を加えられている部分を除けば、複製をするに際しての若干の色調の相違はあるものの、本件写真と実質的に同一と認められる。そうすると、被告による本件掲載写真の利用は、本件写真のうちの本件エンジン本体撮影部分(背景部分及び説明部分等を除く。)についての原告の複製権を侵害するものである。
 同様の理由で、被告がその運営するウェブサイトのウェブページに本件掲載写真を掲載して公衆に送信する行為は、本件写真のうちの本件エンジン本体撮影部分(背景部分及び説明部分等を除く。)についての原告の公衆送信権を侵害する。
2 本件写真についての著作者人格権の侵害の有無
(1) 公表権の侵害の有無(争点2−1)について
 本件写真は、未公表の著作物であった(前提事実(3)イ)。被告は、その発行した本件書籍に本件掲載写真を掲載したから(前提事実(3)ア)、原告の公表権を侵害する。
 これに対し、補助参加人は、本件写真が補助参加人のために撮影されたものであるなどとして、公表について、補助参加人の裁量に委ねることに同意した旨主張する。
 しかしながら、本件写真が補助参加人のために撮影されたものであっても、その使用目的である「HONDA CB750Four FILE.」への掲載の範囲を超えて、原告がその公表を補助参加人の裁量に委ねたことにはならないから、原告が本件写真の公表に同意したとは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠はない。したがって、補助参加人の主張を採用することはできない。
(2) 氏名表示権の侵害の有無(争点2−2)について
 本件書籍には原告の氏名表示はなかったのであるから(前提事実(3)イ)、原告の氏名表示権を侵害する。
 これに対し、補助参加人は、本件写真は個性がほとんど発揮されることのない一部部品の写真にすぎないなどとして、原告の氏名表示がなくとも原告の利益を害しないし、公正な慣行に反するともいえないから、氏名表示の省略が認められる旨主張する。
 しかしながら、本件書籍に本件写真を掲載するについて、氏名表示の必要性がないことや氏名を表示することが極めて不適切な場合であることを肯定する事情は見当たらないから、原告の利益を害するおそれがないとは認めらないし、公正な慣行に反しないとはいえない(なお、補助参加人発行の書籍では概ね氏名が表示されていることが認められる〔甲1、丙2、5、6、8、9〕。)。
(3) 同一性保持権の侵害の有無(争点2−3)について
 本件写真と本件掲載写真とを比較すると、本件掲載写真は、本件掲載写真の態様の改変が加えられている。そして、原告本人尋問の結果に照らすと、上記改変は原告の意に反する改変であると認められるから、原告の同一性保持権を侵害する。
 これに対し、補助参加人は、本件写真からエンジン部分(背景部分の一部を含む。)が切り出されているものの、本件写真はエンジンを説明するために撮影された写真なのであるから、エンジン部分を切り出して表示することは原告においても承諾していた旨主張する。しかしながら、このような承諾を認めるに足りる証拠はないし、「HONDA CB750Four FILE.」(甲1)において、本件写真と同時に撮影された丙10の写真から本件エンジン部分(背景部分の一部を含む。)だけが切り出されて掲載されていることをもって、原告が本件掲載写真の態様のような写真の掲載についても承諾したとまで推認することはできない。
 また、補助参加人は、本件写真の性質、その利用の目的及び態様に照らし、本件写真の改変は、やむを得ないと認められる改変である旨主張する。しかしながら、本件写真の改変は、本件写真から本件エンジンだけを切り出しただけではなく、本件掲載写真の態様の改変を加えたものであって、やむを得ない改変であるとは認められない。
(4) 著作者人格権不行使の合意の有無(争点2−4)について
 補助参加人は、著作権の「買取り」とは、補助参加人従業員の管理下で撮影された写真を補助参加人がどのように利用しようと異議を申し立てないとの意であるから、著作者人格権を行使しないとの趣旨も当然に含まれる旨を主張する。
 しかしながら、前記1(3)のとおり、Dの供述では、原告に対する説明は撮影した写真の「買取り」にとどまり、具体的に著作権の譲渡について説明したものではない。また、Dは、著作者人格権の説明はしていない旨供述するから、たとえDが原告に対して「買取り」と説明していたとしても、それが著作者人格権を行使しない趣旨を含むものとは解されない。
 以上のとおり、Dの供述によっては、原告と補助参加人との間で、著作者人格権不行使の合意があったとは認められないし、その他これを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、原告は、被告に対し、著作者人格権を行使できるものというべきである。
3 被告の過失の有無(争点3)について
(1) 他人の著作物を利用するには、その著作権者の許諾を得ることが必要であるから(著作権法63条1項・2項)、他人の著作物を利用しようとする者は、当該著作物に係る著作権の帰属等について調査・確認する義務があるというべきである。
 被告は、本件写真を本件書籍や被告のウェブサイトのウェブページに掲載することにより、本件写真を利用しているのであるから、本件写真を利用するに当たり、本件写真に係る著作権の帰属等を調査・確認する義務があったと認められる。しかしながら、被告は、原告の許諾を得ることなく、本件写真を利用したのであるから、上記の調査・確認義務を怠った過失がある。
(2) これに対し、被告は、テックデザインに対し、本件書籍の製作編集を委託したことをもって、本件書籍に使用されている写真の一つひとつについて、著作権侵害がないかを調査、確認すべき義務は存在しない旨主張する。
 しかしながら、被告の主張は、被告とテックデザインとの関係を主張するにすぎない。被告は、本件写真を利用した主体であるから、本件書籍の製作編集をテックデザインに委託したことを理由として、利用主体としての注意義務を免れることはできない。被告の主張は、独自の見解というほかなく採用できない。
 また、被告は、第三者の権利を侵害することがないよう、製作・編集業務を直接担当するパッケージャーに様々な義務を課すことで、可能な限りの注意義務を果たしている旨主張するけれども、上記と同様に採用できない。
(3) 以上のとおり、被告は、本件写真の利用について過失が認められるから、原告に対して不法行為責任を負う。
4 損害額(争点4)について
(1) 著作権法114条2項の適用の可否について
ア 著作権法114条2項は、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益額を著作権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定であるから、著作権者に、侵害者による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、同項の適用が認められると解すべきである。
 これを本件についてみるに、原告は、職業写真家であるから、出版業を行っていないし、その他原告に被告による侵害行為がなかったならば本件掲載写真の出版による利益と同等の利益が得られたであろうという事情は見当たらないから、著作権法114条2項の適用は認められない。
イ これに対し、原告は、著作権法114条2項の適用について、著作権者の著作物の利用(販売)を要件としない旨主張する。
 確かに、著作権法114条2項は、文言上、著作権者の著作物の利用を要件としていないから、著作物の利用が要件であるとは解されない。しかしながら、同項は、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益額を著作権者の損害額と推定する規定であるから、少なくともそのような推定を可能とする事情が必要であると解される。
 また、補助参加人発行の「HONDA CB750Four FILE.」(甲1〔奥付記載の発行日は平成20年2月28日〕)には、原告が本件写真と同時に撮影した写真(丙10)が掲載されている。しかしながら、これは、本件写真に係る事情ではないし、被告の侵害行為よりも2年以上前の事情であることに照らすと、これをもって原告に被告による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情に当たるとはいい難い。
ウ 以上のとおり、本件では、著作権法114条2項の適用は認められない。
(2) 著作権法114条3項に基づく損害額について
ア まず、本件掲載写真のうちのエンジン本体部分(背景部分及び説明部分を除く。)の本件書籍の売上に対する寄与率について検討する。
 証拠(甲3〜5、乙8)及び弁論の全趣旨によれば、本件書籍は、ホンダのバイクである「CB750FOUR」をテーマとして80号に分けて出版することが予定されていた「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズの創刊号(第1号)であったこと、本件書籍は、本文13頁(本件写真は本文8頁に掲載)であり、付録として「CB750FOUR」の模型のパーツやスタートアップDVD(模型の組立工程をダイジェスト版で紹介するほかに実車の走行シーンを収録したもの)が付属していたこと、上記のパーツは、「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズの毎号に付属し、「CB750FOUR」の模型を完成させるにはシリーズの全号を購入する必要があったこと、被告のウェブサイトには、「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズの紹介ページに、本件掲載写真が掲載されていることが認められる。
 以上のとおり、本件掲載写真のうちのエンジン本体部分(背景部分及び説明部分等を除く。)は、本件書籍の本文13頁中の1頁に掲載され、その1頁においても主要部分を占めるが、被告のウェブサイトの「週刊 ホンダ CB750FOUR」シリーズの紹介ページにも掲載されていることに照らすと、本件書籍の本文における掲載割合以上の寄与があるといえる。しかしながら、本件書籍には、付録として「CB750FOUR」の模型のパーツとスタートアップDVDが付属しており、これらの付録も本件書籍の売上に寄与していることを考慮すると、本件写真の本件書籍に対する寄与率は5%と認めるのが相当である。
イ また、証拠(甲5、乙3、4の1〜4の14)及び弁論の全趣旨によれば、本件書籍は、平成22年8月31日(奥付記載の発行日は同年9月21日)に発行され、販売価格690円(税込み)で5万7731部販売されたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 そこで、著作権法114条3項に基づく損害額を算定するに当たり、本件写真の利用料率を検討するに、出版における著作物一般の利用料率に加え、本件書籍における本件写真の掲載態様等に鑑みると、本件では利用料率を15%と認めるのが相当である。そして、本件書籍の販売価格に、販売部数、寄与率及び利用料率を乗じて、損害額を算定すると、29万8757円となる。
 (計算式)690円×5万7731部×5%(寄与率)×15%(利用料率)=29万8757円(1円未満切捨て)
 これに対し、被告は、写真の著作物を書籍等で使用した場合の著作権使用料は、日当などの名目で一定額が支払われるのが一般的であるなどと主張する。しかしながら、著作権法114条3項は、その著作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」を損害の額として請求することができる旨規定するから、一般的な相場にとらわれることなく、当事者間の具体的な事情を考慮して、その損害額を算定することができるというべきである。
ウ 以上のとおり、著作権法114条3項に基づく損害額は、29万8757円と認められる。
(3) その他の損害について
 著作者人格権侵害に係る慰謝料としては、被告の公表権、氏名表示権及び同一性保持権侵害の態様に鑑みると、20万円と認めるのが相当である。
 また、被告が負担すべき弁護士費用相当額としては、本件における紛争の内容、経過等に鑑みると、10万円と認めるのが相当である。
 そして、著作権法114条3項に基づく損害額と合計すると、59万8757円となる。
5 まとめ
 以上のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求は、59万8757円及びこれに対する本件書籍発行の日の後である平成22年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 また、被告は、本件写真を本件書籍や被告ウェブサイトのウェブページに掲載し、その掲載に際して本件写真を改変しているから、本件写真の複製、公衆送信又は改変について差止めの必要があると認められる。そして、本件写真を複製した本件書籍の出版、販売又は頒布についても同様であると認められるから、著作権法112条1項に基づく差止請求は理由がある。
 さらに、本件書籍の廃棄と被告ウェブサイトのウェブページからの本件写真の廃棄についても、その必要があると認められるから、著作権法112条2項に基づく廃棄請求は理由がある。
6 結論
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 西村康夫
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