判例全文 line
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【事件名】「Forever21」ファッションショー事件
【年月日】平成25年7月19日
 東京地裁 平成24年(ワ)第16694号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年5月17日)

判決
原告 有限会社マックスアヴェール
原告 A
上記2名訴訟代理人弁護士 町田伸一
被告 日本放送協会
同訴訟代理人弁護士 三村量一
同 平津慎副
同 梅田康宏
同 秀桜子
同 吉利果慧
被告 株式会社ワグ
同訴訟代理人弁護士 野間自子
同 中島健太郎

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、連帯して、原告有限会社マックスアヴェールに対し943万4790円及びこれに対する平成21年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、連帯して、原告Aに対し、110万円及びこれに対する平成21年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、被告日本放送協会(以下「被告NHK」という。)は、被告株式会社ワグ(以下「被告ワグ」という。)従業員を介して、原告らの開催したファッションショーの映像の提供を受け、上記映像の一部である別紙映像目録記載の映像(以下「本件映像部分」という。)をそのテレビ番組において放送し、これにより、原告有限会社マックスアヴェール(以下「原告会社」という。)の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)並びに原告A(以下「原告A」という。)の著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し、被告らに対し、著作権、著作隣接権、著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被告ワグについては使用者責任)に基づく損害賠償として、原告会社につき943万4790円、原告Aにつき110万円(附帯請求として、これらに対する平成21年6月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実以外は、証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者等
ア 原告会社は、イベント等の企画制作コンサルティング業務等を目的とする株式会社であり、原告Aは、原告会社との間で、イベントの企画運営等を受託していた者である(弁論の全趣旨)。
イ 被告NHKは、放送法の規定に基づき設立された放送事業者である。
ウ 被告ワグは、合同会社FOREVER21 JAPANロジスティックスの保有ブランドである「Forever21」の日本におけるプロモーション代理店であり、B(以下「被告ワグ担当者」という。)は被告ワグの従業員である。
(2) 本件ファッションショーの開催
ア 原告らは、平成21年6月6日、東京都港区六本木所在の六本木ヒルズ52階において、「Forever21」の衣装等を使用したファッションショー(以下「本件ファッションショー」という。)を開催した(甲13、弁論の全趣旨)。
イ 株式会社JFCCは、原告らの許諾を得て、本件ファッションショーを撮影し、その運営する専門テレビチャンネルである「fashion TV」において上記映像を放送した(乙3、丙1、弁論の全趣旨)。
(3) 本件番組の放送
ア 被告NHKは、平成21年6月12日午後7時30分から同日午後7時55分までにおいて、テレビ番組「特報首都圏」「“激安”ファストファッション〜グローバル企業が狙うニッポン〜」(以下「本件番組」という。)を放送した(甲1)。
イ(ア) 本件番組中には、合計約40秒間にわたり、本件ファッションショーの映像を使用した部分(本件映像部分)がある(甲1)。
(イ) 本件映像部分は、別紙映像目録記載1(1)ないし(4)の各場面及び同記載2(1)ないし(6)の各場面(以下、それぞれ「場面1(1)」などという。)から構成されており、上記各場面は、同目録添付の各写真の映像を含むものである(甲1)。なお、場面1(1)、2(1)及び2(4)、場面1(2)及び2(3)、場面1(3)及び2(2)、場面1(4)及び2(6)は、それぞれ、同一の場面の映像である(甲1)(以下、場面1(1)、2(1)及び2(4)を「Iline1着目」、場面1(2)及び2(3)を「Anna2着目」、場面1(3)及び2(2)を「Anna1着目」、場面1(4)及び2(6)を「Izabella2着目」、場面2(5)を「Tamra2着目」ということがある。)。
ウ 本件映像部分は、株式会社JFCCが上記(2)イのとおり撮影した映像の一部であり、被告NHKが株式会社JFCCから映像データの提供を受けたものである(乙3)。
2 争点
(1) 著作権、著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否
(2) 原告らの損害額
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(著作権、著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否)
(原告らの主張)
(1) 著作物の内容等
ア 本件ファッションショーは、美意識やトレンドに敏感でモチベーションが高いジャストジェネレーションの女性にきらきらと輝く非日常的一夜を提供することをテーマとし、シティとリゾートのパーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートと、リゾートラグジュアリーパーティースタイル)をコンセプトとして、いわゆるファストファッションである「Forever21」ブランドを用いつつ高級感を演出したものである。
イ 本件ファッションショーにおける、@個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング、A着用する衣服の選択及び相互のコーディネート、B装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート、C舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け、D舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け、Eこれら化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート、Fモデルの出演順序及び背景に流される映像等は、本件ファッションショーの上記テーマ又はコンセプトに沿うよう選択、決定されたものであり、いずれも、美術の範囲に属する著作物に当たる。
(2) 上記著作物((1)イ@ないしF)の具体的内容を場面毎に整理すると下記アないしカのとおりであり、これらは、流行を採り入れた安価な衣服であるいわゆるファストファッションであっても、その選択及び化粧、髪型等との組み合わせによって、高価な衣服に比しても劣らぬ美的表現が可能であるという原告Aの思想を創作的に表現したものであるから、著作物性を有する。
ア Iline1着目(場面1(1)、2(1)、2(4))
(ア) 都会のパーティーというテーマに合うよう、レースのハイウエストのトップスと豹柄のスカートのツーピースを選び、ヘッドドレスとピアスを着けさせた。ヘッドドレスは、トップスのイメージや目の色と合わせ、ゴージャスでボリュームのあるものを選んだ。
(イ) 化粧は、「スパイシーセクシーアイ」(きりっとした、まつげがぐっと上がった深みのある妖艶でセクシーな目)になるよう、目の外側に向けてまつげにボリュームを出して長くし、アイライナーも中心から外側に向けて太くしていき、角度を跳ね上がらせた。また、髪型は、「オールバックボリューミースタイル」(髪の毛を全部後ろに持って行ったようなボリューム感のあるヘアスタイル)とした。
(ウ) 振り付けは、ツーピースのスカートの長さを引き立てるため、腰の高い位置に手を当てさせ、また、観客にアピールし、左右からよく見えるよう、ランウェイの先端で角度を付けて腰を左右にひねらせた。
イ Anna1着目(場面1(3)、2(2))
(ア) モデルの顔立ちに合わせ、歩くお人形のように見せることにし、フェミニンでかわいらしいイメージの緑色のワンピースを選び、その色を引き立たせる銀色のバングルと黒のヘッドドレスを着けさせた。
(イ) 化粧及び髪型は、お人形のようなかわいらしさを出すため、目元にブラックシャドーで陰影を付けて大きく見えるようにし、唇は白っぽく薄いピンク色等にした。また、髪型は、中くらいの太さのカーラーで、くるくるとしたカールを巻かせた。
(ウ) 振り付けは、バービー人形のように腰に手を当てさせ、飛び跳ねるように肩を常に大きく振らせ、ほほえませた。
ウ Anna2着目(場面1(2)、2(3))
(ア) お人形のように見せるため、シンプルな白黒の水玉のドレスワンピースを選び、アクセサリーをじゃらじゃらと着けさせ、かつ、モデルの顔立ちを引き立たせるため、ピンクと黒のヘッドドレスと、クラシカルで子供っぽいパールのネックレスを着けさせた。
(イ) 化粧及び髪型は上記イ(イ)と同様に人形のようなかわいらしい感じにし、口を開けてほほえませた。
エ Izabella2着目(場面1(4)、2(6))
(ア) 上記モデルが白人、金髪でゴージャスなイメージがあり、かつ、顔立ちにインパクトがあるので、セクシーに見えるよう、胸元がレースの黒のワンピースを選んだ。また、黒のレースのヘッドドレスを着けさせることでよりゴージャスにし、ドレスのレースと合わせてパーティーらしさを出した。
(イ) 化粧は、ぼやけた白人的な目元を引き締め、印象的な目元にするため、黒のアイライナーでまつ毛の際を全て塗りつぶさせた。また、ナイトシーンにいるようなセクシーで都会らしい感じを出すため、つけまつ毛を付けて右上がりの猫目にし、オレンジやピンク、赤の唇で目元を引き立てるようにした。髪型は、ロットを使用して耳から下の髪の毛はカールヘアにして下ろし、耳から上の髪の毛はまとめさせた。
(ウ) 振り付けは、ギフトを入れた袋を腰の高い位置に持たせ、ギフトを持っていない方の手を耳に当てさせた上、観客の声に合わせて手の平を上に向け、両腕を肘から曲げて上に移動させて更に大きな声を誘い、その後にギフトを投げさせた。
オ Tamra2着目(場面2(5))
(ア) シティの季節感を表現するため、冬のドレスアップである毛皮のコートを使用することにし、毛皮のコートの下には、色彩が鮮やかで黒い肌に映える紫色のドレスを選び、更に腰から下が黒の鳥の羽風になっているスカートを使用して、セクシーだがワイルドな感じを出した。また、紫色のバッグを持たせ、バッグのビーズが1個ずつ揺れて玉虫色に光る様子が黒のスカートで映えるようにした。さらに、パーティーらしさやゴージャスさを出し、かつ、黒髪に映えるよう、白と黒の羽根の付いたヘッドドレスを着けさせ、肩にコートを掛けさせて、今からパーティーに出かけるイメージにした。
(イ) 化粧は、アイライナーを太くしっかりと描き、黒人のスーパーモデルであるナオミ・キャンベル風のスタイルとし、ベージュ系の色味の口紅を艶やかに見せるようにした。髪型は、耳から下に、毛先をカールしたウィッグを付けさせた。
(ウ) 振り付けは、冬のパーティー会場への出入りをイメージし、マフィアの横にいそうで気取った女性をイメージして、偉そうに、威圧感を与えるよう、腰に手を当てさせ、顔もほほえまぬようにさせた。また、ランウェイを戻るときには、脱いだコートをよりワイルドになるよう肩に掛けさせた。
カ 甲2号証記載のモデルの出演順序(進行順序)は、ドレスの順序や複数のドレスを着るモデルの着替え時間、ギフト配布のタイミング等を考慮して決定したものであり、また、背景映像(本件映像部分には、別紙映像目録添付の写真Dに甲21号証の番号21の写真が、同Lに同号証の番号32の写真が、同F、G、<23>、<24>に同号証の54の写真がはっきりと映っている。)は、甲21号証記載の写真から場面に合わせて選択されたものである。
(3) 原告Aが上記著作物の著作者であること
ア 原告Aは、本件ファッションショーのテーマ及びコンセプトを決定し、「Forever21」の衣服、アクセサリー等を使用することとし、オーディションにおいて、外国人モデルの中から、身長、髪の色・長さ・量、顔立ち、瞳の色、性格等を考慮して、コンセプトに沿うモデル合計8名を選択し、上記テーマやモデルの顔立ち等に合わせて、着用させる衣服、アクセサリー等を選択した。また、事前にフィッティングテストを行って各モデルの衣服及びアクセサリーを最終決定し、ヘアメイク担当者に対し、写真を見せるなどして化粧及び髪型のイメージを伝え、目、頬、唇、髪型について、化粧品のブランドやスタイリングを具体的に告げて指示を行った。さらに、原告Aは、ヘアメイク担当者が原告Aの上記指示に従い施した化粧や髪型について、アイシャドーの濃さやアイラインの太さ、チークの位置や濃さ、ロッドの太さや強さなどを修正する指示を行った。
イ 原告Aは、モデルに対し、キャットウォーク中の立ち位置、腰に手を当てる際の手の位置、紙袋の持ち方、表情等を細かく指示し、モデルに上記指示に従ったポーズ、表情等をとらせた。
ウ モデルの出演順序も、原告Aが、ドレスの順序(モノトーンの次は明るい色彩に、その次はシックに、その後は再度カラフルに等)、複数のドレスを着るモデルの着替え時間やギフト配布のタイミング等を考慮して決定したものであり、背景に流す映像も、原告Aがシーン毎に選択し、決定したものである。
エ 以上のとおり、原告Aは、前記(1)イ@〜Fの著作物を創作したものであり、上記著作物の著作者に当たる。
(4) 原告Aが本件ファッションショーの実演家であること
 原告Aは、本件ファッションショーの主催者、演出家及びスタイリストとして、本件ファッションショーのテーマや使用ブランド等を決めて企画し、本件ファッションショーの開始・終了時刻、モデルの出演順序、背景映像の放映順序等の進行を決定して構成し、モデルの衣服、アクセサリー、化粧、動作等を指示して演出したものであり、本件ファッションショーにつき、実演家の権利を有する者に当たる。
(5) 原告Aから原告会社への著作権等の譲渡
 原告会社は、原告Aから、本件ファッションショーに係る著作権及び実演家の権利のうちの放送権の譲渡を受けた。
(6) 被告らの不法行為
ア 被告ワグ担当者は、平成21年6月9日頃、株式会社JFCCのプロデューサーに電話を架け、真実は原告らから何ら許諾を得ていないにもかかわらず、原告らから、本件ファッションショーの映像及び音声を固定した媒体を株式会社JFCCから借り受け、被告NHKにおいて放送することの許諾を得たと虚偽の事実を告げ、株式会社JFCCをして、被告NHKに本件ファッションショーの映像及び音声を固定した媒体を交付させた。
イ 被告NHKは、上記アのとおり株式会社JFCCから交付を受けた映像等媒体を使用して、平成21年6月12日の本件番組において本件映像部分を放送するに当たり、原告会社の許諾を得ず、また、原告Aの氏名(実名又は通称名)も表示しなかった。
ウ 被告NHKの不法行為
 被告NHKの上記イの行為は、原告会社の公衆送信権及び放送権を侵害し、かつ、原告Aの著作者及び実演家としての氏名表示権を侵害するものに当たる。
エ 被告ワグの不法行為
 被告ワグ担当者の上記アの行為は、原告らの許諾を得ることなく、不正の手段により、被告NHKに対し本件ファッションショーの映像及び音声を固定した媒体を提供し、被告NHKに本件映像部分を放送させる行為であり、原告会社の公衆送信権及び放送権並びに原告Aの氏名表示権を侵害する不法行為に当たる。上記行為は被告ワグの事業の執行についてなされたものであるから、被告ワグは上記行為につき使用者責任(民法715条1項)を負う。
オ 被告らの上記行為は、被告らの共同不法行為を構成する。
(被告NHKの主張)
(1) 原告らの主張は争う。
(2) 著作物性について
 本件ファッションショーのうち、原告が指摘する点(原告らの主張(1)イ@ないしFの点)については、次のとおり創作性がないから、著作物に該当しない。
ア 化粧及び髪型の点(前記@)については、アイライナー、アイシャドー、口紅等のありふれた化粧品によるありふれた化粧方法や、オールバック等の通常用いられるありふれたヘアセッティングの手法を用いたものであって、その具体的な化粧等の結果を見ても、特段の特徴を有するものではなく、ありふれたものである。
イ 衣服及びアクセサリーの選択・相互のコーディネートの点(前記A及びB)については、いずれも既製品を選択して組み合わせたにすぎず、その結果も特別なものではない。
ウ モデルによる舞台上のポーズ・動作の振付けの点(前記C及びD)は、腰に手を当てる、体を左右にひねるといったもので、ファッションショーにおけるモデルのポーズ・動作として極めて単純かつありふれたものである。
エ 上記アないしウはいずれもありふれたものであるところ、これらの組み合わせ(前記E)を全体として見ても、特段の特徴を有するものではなく、少なくとも、本件映像部分から、創作性が認められる程度の特徴は見受けられない。
オ 本件映像部分は、本件ファッションショーの場面の一部を断片的に放送したものにすぎず、本件映像部分からモデルの出演順序や本件ファッションショーの構成全体を知ることはできないから、仮に本件ファッションショーにおけるモデルの出演順序や構成(前記F)に何らかの創作性を認める余地があるとしても、本件映像部分に上記創作性が表現されているものはいえない。
(3) 原告Aの著作者・実演家該当性について
ア 原告Aは、ヘアメイク担当者に有名モデルの写真をイメージ図として渡したり、漠然としたコンセプトを伝えたりして指示を与えたのみであり、実際に化粧及びヘアメイクを施したのはヘアメイク担当者であるから、化粧及びヘアメイクに著作物性が認められるとしても、その著作者はヘアメイク担当者であって原告Aではない。
イ 「実演を指揮し、又は演出する者」(著作権法2条1項4号)とは、「実演そのものを行っていると同一の評価ができる者」、「実演家を指図して自らの主体性のもとに実演を行わせている者、つまり実演を行っているのと同じ状態にある者」をいうと解されるところ、原告らは、原告Aが上記意味における実演家に当たる理由について、被告NHKの求釈明にもかかわらず何ら具体的主張をしないから、原告Aが実演家に当たるものとは認められない。
(被告ワグの主張)
(1) 原告らの主張のうち、(6)アの事実については否認し、法的主張は争う。
(2) 被告ワグ担当者は、原告Aから、他局への本件ファッションショーの映像提供については株式会社JFCCと直接やり取りをするよう伝えられていたため、被告NHK担当者から映像提供に関する連絡を受けた際、株式会社JFCC担当者に被告NHKから映像提供に関する連絡が来ている旨伝える一方、被告NHK担当者には株式会社JFCC担当者の連絡先を伝え、後は両者でやり取りするよう伝えたものであって、原告Aの意向に従って両者を取り次いだにすぎない。また、被告ワグ担当者は、上記取次ぎ以降の両者のやり取りにつき特に関与していない。
 したがって、被告ワグ担当者の行為が不法行為に該当するものではない。
2 争点(2)(原告らの損害額)
(原告らの主張)
(1) 原告会社の損害
ア 原告会社と原告Aは、平成21年5月5日から平成24年5月4日までの間に合計12回のイベントを行い、上記イベントによる収益を原告会社75%、原告A25%の割合で取得する旨の契約を締結していたが、上記契約は、被告らの前記著作権等侵害を原因として解約された。
イ 原告会社は、本件ファッションショーにより、77万5890円の収益を得たものであるから、被告らの著作権等侵害行為がなければ、予定していた残り11回のイベントを実施することにより、少なくとも853万4790円(77万5890円×11回)を得ることができた。
(2) 原告Aの損害
 原告Aは、Royal Toneの通称で種々の活動をしており、被告らの氏名表示権侵害により、著しい精神的苦痛を被った。上記損害を金銭に換算すれば、100万円を下回らない。
(3) 弁護士費用
 原告らは、本件訴訟提起に当たり、原告訴訟代理人との間で委任契約を締結し、同代理人に対し弁護士費用を支払うことを約した。上記弁護士費用中、原告らの損害の約1割である100万円(原告会社につき90万円、原告Aにつき10万円)については、被告らが負担することが相当である。
(被告らの主張)
 原告らの主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(著作権、著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否)
(1)ア 著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には、当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては、著作物に該当せず、同法による保護の対象とはならない。そして、当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには、厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが、作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作成者の個性が表現されたものとはいえず、「創作的」な表現ということはできないというべきである。
イ また、著作権侵害を主張するためには、当該作品等の全体において上記意味における表現上の創作性があるのみでは足りず、侵害を主張する部分に思想又は感情の創作的表現があり、当該部分が著作物性を有することが必要となる。
 本件において、原告らは、本件映像部分の放送により、本件ファッションショーの@個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング、A着用する衣服の選択及び相互のコーディネート、B装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート、C舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け、D舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け、Eこれら化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート、Fモデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張するものであるから、上記@〜Fの各要素のうち、本件映像部分に表れているものについて、侵害を主張する趣旨であると解される。したがって、上記@〜Fの各要素のうち、本件映像部分に表れているものについて、著作物性が認められることが必要となる。
ウ 原告らがどのような権利につき侵害を主張する趣旨であるかについては明確ではない点があるが、本件番組の放送により、原告会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項)及び著作隣接権(放送権・同法92条1項)(いずれも、原告会社が原告Aから譲渡を受けたと主張するもの。)並びに原告Aの著作者及び実演家としての氏名表示権(著作者としての氏名表示権につき同法19条1項、実演家としての氏名表示権につき同法90条の2第1項)が侵害されたと主張する趣旨であると解される。このうち、公衆送信権侵害が認められるためには、「その著作物について」公衆送信が行われることを要するのであるから(同法23条1項)、上記公衆送信は、当該著作物の創作的表現を感得できる態様で行われていることを要するものと解するのが相当である。そして、当該著作物の創作的表現を感得できない態様で公衆送信が行われている場合には、当該著作物について公衆送信が行われていると評価することができないとともに、「その著作物の公衆への提供若しくは提示」(同法19条1項)がされているものと評価することもできないから、公衆送信権侵害及び著作者としての氏名表示権の侵害は、いずれも認められないものというべきである。
エ 以上を前提に、まず、公衆送信権及び著作者としての氏名表示権の侵害の成否について検討する。
(2) 公衆送信権(著作権法23条1項)、氏名表示権(同法19条1項)侵害の成否
ア @個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングについて
(ア) 本件映像部分の各場面におけるモデルの化粧及び髪型は、別紙映像目録添付の各写真のとおりであり、「Iline1着目」は下ろした髪全体を後ろに流した髪型、「Anna1着目」及び「Anna2着目」は緩やかにカールを付けた髪を下ろした髪型、「Izabella2着目」は耳上の髪をまとめ、耳下の髪にカールを付けて下ろした髪型、「Tamra2着目」は全体に強めにカールを付けて下ろした髪型であり、また、いずれのモデルにも、アイシャドーやアイライン、口紅等を用いて華やかな化粧が施されているものということができる。
(イ) しかし、上記化粧及び髪型は、いずれも一般的なものというべきであり、作成者の個性が創作的に表現されているものとは認め難い。
 また、本件映像部分における各場面は、約2秒ないし9秒間のごく短いものである上、動くモデルを様々な角度から撮影したものであることから、各モデルの顔及び髪型が映る時間は極めて短いものであるということができる。これに加えて、本件映像部分は、暗い室内において、局所的に強い照明を当てながら撮影されたものであるため、本件映像部分から、各モデルの化粧及び髪型の細部を見て取ることは困難であるというべきであり、原告らが主張するような、細部におけるアイラインの引き方やまつ毛の流し方、目元、唇等における微妙な色の工夫等(甲4〜甲7)を看取することはできないものである。そうすると、仮にこれらの点に創作性が認められるとしても、本件映像部分において、上記創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認められない。
(ウ) したがって、これらの点には著作物性がなく、また、仮に著作物性が認められる点があるとしても、これが本件映像部分において公衆送信されているものとは認められない。
イ A着用する衣服の選択及び相互のコーディネート、B装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネートについて
(ア) 本件映像部分の各場面におけるモデルの衣服、アクセサリー等は別紙映像目録添付の各写真のとおりであり、@「Iline1着目」として黒のレース素材のトップス、豹柄のスカート、黒のベルト、紫色の輪状の耳飾り及び黒のヘッドドレスの組み合わせが、A「Anna2着目」として白地に黒の水玉模様のワンピースに黒のベルト、パールネックレス、ピンクと黒のヘッドドレスの組み合わせが、B「Anna1着目」として緑色のワンピース、銀色の腕輪、黒のヘッドドレスの組み合わせが、C「Izabella2着目」として黒のワンピースと黒のヘッドドレスの組み合わせが、D「Tamra2着目」として黒の毛皮のコート、紫色のトップス、黒のスカート、紫色のバッグ、ヘッドドレスの組み合わせがなされていることが認められる。
(イ) しかし、上記衣服及びアクセサリーは、いずれも既製品であり、かつ、そのほとんどは「Forever21」の商品であって(甲2ないし7)、大量販売が予定されているものということができるところ、このような衣服及びアクセサリーについては、消費者がこれを適宜選択して様々に組み合わせ、身に着けることが当然に予定されているものというべきである。そうすると、このような衣服又はアクセサリーの選択及び組み合わせについては、通常考えられるところと著しく異なる特殊な組み合わせ方であるなど、組み合わせを行った者の独自の個性の表れとみることのできるような特殊又は特徴的な点がない限り、ありふれたものであり創作性がないものと解するのが相当である。
(ウ) 本件映像部分に表れた上記衣服及びアクセサリーの選択及び組み合わせ方に、上記のような特殊又は特徴的な点を認めることはできないから、これらの点に創作性は認められず、著作物性は認められない。
ウ C舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け、D舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付けについて
(ア) 本件映像部分において、「Iline1着目」では、モデルが手を前後に大きく振りながら歩き、立ち止まって両手を腰に当てた上で、腰を向かって左、右(向かって左、右を指す。以下同じ。)の順にゆっくりと大きくひねる様子(ただし、場面1(1)では手を前後に振る様子は映っておらず、腰をひねる様子も、その一部が映っているにとどまる。)が、「Anna2着目」では、モデルがゆっくりと前方に歩く様子が、「Anna1着目」では、場面1(3)においてモデルが両手を腰に当てて歩き、立ち止まって、手を腰に当てたまま、肩を揺らす様子が、場面2(2)においてモデルが腕を下ろして揺らしながら歩き、やや斜め前方を向いて立ち止まって、左右に向きを変えながら肩と下ろした腕を揺らす様子が、「Izabella2着目」では、モデルが左手に持った紙袋から右手で中身を出し、左手に移し替えた上、右の手の平を広げて耳に当て、さらに、体の横で両手の平を上に向けて観客をあおるようなそぶりをした上、左手に持っていた物を右手で投げる様子が、「Tamra2着目」では、モデルが両手を腰の高い位置に当てて歩き、立ち止まって体をひねった後、後ろを向き、歩きながら毛皮のコートを脱ぐ様子が映っていることが認められる。
(イ) 各モデルの上記ポーズ又は動作は、ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段目新しいものではないというべきであり、上記ポーズ又は動作において、作成者の個性が表現として表れているものとは認められない。したがって、これらのポーズ又は動作の振り付けに著作物性は認められない。
エ E化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネートについて
 前記@ないしDの点がいずれもありふれたものであって創作性が認められず、又は創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものと認められないことは前述のとおりであるところ、これらの各要素が組み合わされることにより、作成者の個性の表出というべきような新たな印象が生み出されているものとは認められないから、前記@ないしDの点の組み合わせに著作物性を認めることはできない。
オ Fモデルの出演順序及び背景に流される映像について
(ア) 証拠(甲2)によれば、本件ファッションショーには合計8名のモデルが、それぞれ2着ないし3着(合計20通り)の衣装を身に着けて出演したものであることが認められる。
 上記出演順序は、モデルの着替え時間やギフト配布のタイミング等の便宜的な要素を考慮して決定されたものであるとされるところ、上記出演順序が、ドレスの順序(モノトーンの次は明るい色彩に、その次はシックに、その後は再びカラフルに等)も考慮して決定されたものであるとされることを考慮しても、上記出演順序に、思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められない。
 加えて、本件映像部分における場面1(1)ないし(4)は上記出演順序の1番目、11番目、2番目、13番目に、場面2(1)ないし(6)は上記出演順序の1番目、2番目、11番目、1番目、14番目、13番目に各対応していることが認められるのであって、本件映像部分は、本件ファッションショーの映像を順不同に流したものであることが認められる。そうすると、仮に上記出演順序に創作性が認められるとしても、本件映像部分において、上記創作性を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認められない。
(イ) 背景映像について
 原告らは、本件ファッションショーの背景映像は、「City」や「Resort」を印象付けるものとして、モデルや衣装に合わせて場面毎に選択されたものであり、本件映像部分のうち、場面1(3)(別紙映像目録添付写真D)に甲21号証の写真21が、場面1(4)及び2(6)(同目録添付写真F、G、<23>、<24>)に甲21号証の写真54が、場面2(2)(同目録添付写真L)に甲21号証の写真32がはっきりと映っている旨主張する。
 しかし、場面1(3)(別紙映像目録添付写真D)における背景映像は、甲21号証の写真21とは明らかに異なるものであり、上記場面に同写真が映っているものとは認められない。
 また、確かに、証拠(甲1)によれば、場面1(3)及び場面2(2)(同目録添付写真L)には甲21号証の番号32の写真が、場面1(4)及び2(6)(同目録添付写真F、G、<23>、<24>)には甲21号証の写真54が映っていることがうかがわれる。
 しかし、上記各場面においても、背景映像はややぼやけて映っている上、背景映像がスクリーン上で左から右に流れるように動いて映されているものであることから、上記背景映像が、甲21号証の写真32及び54と同一であるか否かも判然としない。加えて、本件映像部分において、背景映像が映る時間はそれぞれ数秒程度と極めて短いものであることから、上記映像の具体的内容を看取することは困難であるというべきである。
 そうすると、本件映像部分において、背景映像に係る創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認めることができない。
(3) 小括
 以上によれば、本件ファッションショーのうち、本件映像部分に表れた点に著作物性は認められず、又は本件映像部分において、その創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものと認められないから、本件映像部分を放送することが、原告会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項)又は原告Aの著作者人格権(氏名表示権・同法19条1項)を侵害するものとは認められない。
(4) 放送権(著作権法92条1項)、実演家としての氏名表示権(同法90条の2第1項)侵害の成否
ア 放送権及び実演家としての氏名表示権侵害が認められるためには、「その実演」を放送し、又は公衆に提供・提示する場合であることを要するところ(著作権法92条1項、90条の2第1項)、「実演」とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいうものとされる(同法2条1項3号)。
イ 原告らの主張する「実演」の内容は明確ではないが、モデルの動作、ポーズ等が実演に当たると主張するものであるとすれば、上記動作等が著作物に当たらないことは前記(2)ウのとおりであるから、モデルが上記動作やポーズを取ることは、「著作物を…演ずる」ことに当たらず、「実演」には当たらない。
 また、原告らが、本件ファッションショーを「実演」として主張するものであるとしても、原告らは、本件ファッションショーが「シティとリゾートのパーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートとリゾートラグジュアリーパーティースタイル)」をコンセプトとするものであること、安価なブランドを用いて高級感を演出したものであること等を主張するのみで、本件ファッションショーが「実演」に当たる理由につき、前記第3の1の「原告らの主張」(1)イの@ないしFの点が著作物に当たること以外に具体的主張をするものではない。そして、本件ファッションショーのうち、上記@ないしFの点に、背景写真を除いていずれも著作物性が認められないことは前記(2)でみたとおりである。また、背景写真に著作物性が認められるとしても、その展示が「著作物を…演ずる」ことに当たるものではない。したがって、これらの点により、本件ファッションショーが「著作物を…演ずる」ものに当たるものとは認められない。
ウ 本件ファッションショーの、本件映像部分に表れている部分以外の具体的内容については明らかではなく、本件各証拠及び弁論の全趣旨を総合しても、本件ファッションショーが「これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」に当たるものとは認められない。
エ 以上によれば、本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放送することが、「その実演」を公衆に提供し、又は放送する場合に当たるものとは認められないから、本件映像部分の放送が、原告会社の放送権又は原告Aの実演家としての氏名表示権を侵害するものとは認められない。
第5 結論
 したがって、原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 西村康夫
 裁判官 森川さつき


(別紙)映像目録
 平成21年6月12日午後7時30分開始同55分終了のテレビ番組「特報首都圏」において放送された、下記1及び2の映像部分(なお、時刻表示は、甲1号証を再生した際に表示される経過時刻表示を示す。)。

1 00:57〜01:07の部分
(1) 00:57〜00:58(Iline1着目) 添付写真@及びA
(2) 00:59〜01:00(Anna2着目) 添付写真B及びC
(3) 01:01〜01:03(Anna1着目) 添付写真D及びE
(4) 01:04〜01:07(Izabella2着目) 添付写真F及びG
2 04:25〜04:56の部分
(1) 04:24〜04:28(Iline1着目) 添付写真H〜J
(2) 04:29〜04:33(Anna1着目) 添付写真K及びL
(3) 04:34〜04:35(Anna2着目) 添付写真M及びN
(4) 04:36〜04:40(Iline1着目) 添付写真O及びP
(5) 04:41〜04:49(Tamra2着目) 添付写真Q〜S
(6) 04:50〜04:56(Izabella2着目) 添付写真(21)〜(24)
 以上
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