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【事件名】大学パンフレットのイラスト事件
【年月日】平成25年7月16日
 大阪地裁 平成24年(ワ)第10890号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年5月17日)

判決
原告 リーブラ株式会社(以下「原告リーブラ」という。)
原告 P(以下「原告P1」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 河合勝
被告 岡山県
被告 国際貢献大学校運営機構(以下「被告機構」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 板野次郎
同 池田千明
同 青山智紀
被告 新見市
同訴訟代理人弁護士 奥田哲也


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 主位的請求
 被告らは、連帯して、原告リーブラに対し566万円、原告P1に対し100万円及びこれらに対する平成15年8月1日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
(2) 予備的請求
 被告らは、原告P1に対し、連帯して、666万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 被告ら
 主文同旨
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告ら
 原告P1は、イラストレーターである(甲14)。
 原告リーブラは、「写真撮影及び写真の貸し出しと販売」等を目的とする会社である。
イ 被告岡山県及び被告新見市
 被告岡山県及び被告新見市は、普通地方公共団体(地方自治法1条の3第2項)である。
ウ 被告機構
(ア) 公設国際貢献大学校
 岡山県哲多町は、公設国際貢献大学校設置条例(平成12年9月19日条例第29号)により、平成13年4月1日(同条例施行日)、「産業界、教育機関及び地方自治体が協調して国際的な人道援助に関する試験研究並びに人材育成を行うことを目的とする研修施設」として公設国際貢献大学校(以下「本件大学校」という。)を設置した(乙7、8)。
 本件大学校は、地方自治法244条1項の「公の施設」であり、学校教育法1条、83条の「大学」ではない。
(イ) 被告機構
 岡山県哲多町は、平成17年3月9日、本件大学校の指定管理者(地方自治法244条の2第3項)として被告機構を指定した(指定の期間は平成17年3月30日から平成42年3月31日まで〔乙2〕。それまで本件大学校に指定管理者を置いていない〔乙9〕。)。
(ウ) 岡山県哲多町と被告新見市の合併
 岡山県哲多町は、平成17年3月31日、被告新見市ほかいくつかの自治体と合併した。
 被告新見市は、公設国際貢献大学校条例(同日条例第27号)により、同日(同条例施行日)、改めて研修施設として公設国際貢献大学校(本件大学校の施設と組織を承継したもので、上記条例の制定の前後を問わず、「本件大学校」という。)を設置した。同条例附則2条により、上記(イ)の指定管理者の指定など合併前の条例の規定によりなされた処分、手続その他の行為は、同条例の相当規定によりなされたものとみなされる(乙1)。
(2) 原告P1の著作物
 原告P1は、別紙イラスト(以下「本件イラスト」という。)の著作者である(甲2、甲3の1〜3、甲4、13、14)。
(3) 本件イラストを利用したパンフレットの制作
ア 「新おかやま国際化推進プラン」
 被告岡山県は、平成8年3月、「おかやま国際化推進プラン」を策定し、平成13年3月には、平成17年度までの5年間を計画期間とする「新おかやま国際化推進プラン」を策定した。
 同プランは、「国際化推進のための施策」の1つとして、「公設国際貢献大学校に対する連携・支援」を挙げていた(乙12)。
イ 本件イラストの利用許諾とパンフレットの制作
 被告岡山県は、印刷会社との間で、平成13年3月6日、「新おかやま国際化推進プラン」に関するパンフレットの構成・印刷を委託する契約をした(乙13)。
 印刷会社は、原告リーブラの販売代理店を通じ、原告リーブラから、本件イラストをパンフレットの表紙に利用することについて許諾を受けた上で、パンフレット(以下「本件パンフレット」という、)を制作した(甲12)。
ウ 本件パンフレットの表紙
 本件パンフレットの表紙は、別紙パンフレット表紙記載のとおり、本件イラストを改変して利用したものであり、本件イラスト上にハート形と「パートナーシップで築く世界にひらかれた岡山」という広告コピーが挿入されている(ハート形は日本の上で、岡山県の位置に記載されたものと思われる。広告コピーは、インド洋から太平洋南部にかけて)。著作者である原告P1の氏名は表示されていない。
(4) 本件大学校のウェブページにおける本件パンフレットの表紙の掲載
 本件大学校(設置者:哲多町)は、平成15年8月、被告岡山県から許諾を受けて(弁論の全趣旨)、別紙ウェブページ記載の態様で、本件大学校のウェブページにおいて本件パンフレットの表紙の画像を掲載した(以下、この掲載行為を、単に「本件掲載行為」という。)。
 本件大学校(指定管理者:被告機構)は、平成24年2月14日、上記ウェブページから上記表紙の画像を削除した。
2 原告らの請求
(1) 主位的請求
ア 原告リーブラの著作権侵害に係る請求
 本件掲載行為が原告リーブラの有する本件イラストの著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するものであるとして、共同不法行為に基づき、566万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求
イ 原告P1の著作者人格権侵害に係る請求
 本件掲載行為が原告P1の有する本件イラストの著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害するものであるとして、共同不法行為に基づき、100万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求
(2) 予備的請求(原告P1の著作権及び著作者人格権侵害に係る請求)
 本件掲載行為が原告P1の有する本件イラストの著作権(複製権、公衆送信権、送信可能化権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害するものであるとして、共同不法行為に基づき、666万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求
(3) 両請求の関係について
 予備的請求のうち原告P1の著作権侵害に係る請求は、主位的請求のうち原告リーブラの著作権侵害に係る請求が認容されない場合に備え、予備的に判断を求めるものであるから、いわゆる主観的予備的併合の関係にある。
 もっとも、訴えの主観的予備的併合は不適法であって許されないとした判例(最高裁判所昭和43年3月8日第2小法廷判決・民集22巻3号551頁)は、被告相互の関係が主位的・予備的関係にある事案であったのに対し、本件は原告相互の関係が主位的・予備的関係にある事案であり異なる。
 他に原告P1の上記請求を不適法なものとすべき理由は見当たらない。
3 争点
(1) 著作権侵害の不法行為の成否に関する争点
ア 原告リーブラが本件イラストの著作権を有するか等 (争点1)
イ 著作権侵害に係る過失の有無等 (争点2)
ウ 許諾の有無 (争点3)
エ 引用の成否 (争点4)
(2) 著作者人格権侵害の成否 (争点5)
(3) 権利濫用の成否 (争点6)
(4) 損害額 (争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告リーブラが本件イラストの著作権を有するか等)について
【原告リーブラの主張】
(1) 原告P1と原告リーブラとの契約
 本件イラストの著作者である原告P1は、株式会社コスモマーチャンダイズィング(以下「コスモ社」という。)との間で、平成10年3月10日、本件イラストを含む原告P1の作品に関する「使用権の販売」を委託する契約をした。
 コスモ社は、原告リーブラとの間で、平成11年12月21日、平成12年3月1日から50か月間の約定で、コスモ社のライブラリー部門の営業に関するリース契約を締結した。
 コスモ社は、原告リーブラに対し、平成16年11月1日、上記リース契約の対象である営業権を譲渡した。
 原告P1は、原告リーブラに対し、同日、原告P1の作品に関する「使用権の販売」委託に関する契約につき、原告リーブラがコスモ社の権利義務を承継することを承諾した。
(2) 原告リーブラが本件イラストの著作権者としての地位等を有すること前記(1)の販売委託に関する契約は、著作権法63条1項の著作物の利用許諾を委託したものである。
 よって、原告リーブラは、本件掲載行為がされた平成15年8月1日当時から、「本件イラストの使用権を販売する権利」を有し、実質的に本件イラストの著作権者の地位を有するものである。
【被告らの主張】
 原告リーブラは、本件イラストの著作者ではない。
 前記【原告らの主張】(1)の契約も、単なる委託業務に関するものであって、著作権を譲渡したものではない。
 原告リーブラは、本件イラストの著作権者ではなく、他に著作権法上の権利を何ら有するものではない。
2 争点2(著作権侵害に係る過失の有無等)について
【原告らの主張】
 以下のとおり、本件掲載行為は、本件イラストに係る原告リーブラの著作権(複製権、公衆送信権)又は原告P1の著作権(複製権、公衆送信権、送信可能化権)を侵害するものであり、共同不法行為が成立する。
(1) 本件掲載行為が複製、公衆送信、送信可能化に当たること
 本件掲載行為は、本件イラストの複製、公衆送信、送信可能化に当たる。
(2) 本件掲載行為が許諾を必要とするものであったこと
 前提事実(3)イのとおり、本件イラストを本件パンフレットの表紙に利用することについては原告らによる許諾があったものの、本件掲載行為をするに当たっては、改めて原告らから許諾を受ける必要があった。
 それにもかかわらず、本件掲載行為は原告らから許諾を受けていないから、本件イラストの著作権を侵害するものである。
(3) 被告らの過失
ア 被告岡山県の過失
 被告岡山県は、本件大学校に本件掲載行為を許諾するに当たり、被告岡山県が本件イラストの著作権の譲渡を受けているか又は許諾をする権限を有するかについて、調査、確認するべき注意義務を負っていた。
 それにもかかわらず、これを怠り、漫然と許諾した過失がある。
イ 被告新見市の過失
 被告新見市は、本件大学校が被告岡山県から許諾を受けて本件掲載行為をするに当たり、被告岡山県が本件イラストの著作権の譲渡を受けているか又は許諾をする権限を有するかについて、調査、確認するべき注意義務を負っていた。
 それにもかかわらず、これを怠り、被告岡山県が許諾する権限を有するものと軽信し、10年間にもわたり、本件イラストを本件大学校のウェブページに掲載して利用した過失がある。
ウ 被告機構の過失
 被告機構は、被告新見市と同様の注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、被告岡山県が許諾する権限を有するものと軽信し、10年間にもわたり、本件イラストを本件大学校のウェブページに掲載して利用した過失がある。
【被告岡山県の主張】
 以下のとおり、被告岡山県に過失はない。
(1) 原告リーブラの存在を認識していなかったこと(主位的請求に関するもの)
 被告岡山県は、原告リーブラと契約関係にはなく、原告リーブラから平成24年1月に通知文を送付されるまで、原告リーブラの存在、その事業、本件作品への関わり等について全く知らなかった。
 したがって、前記1【原告リーブラの主張】(2)のうち「本件イラストの使用権を販売する権利」に対する侵害については過失がない。
(2) 本件イラストの利用について著作権法上の問題が生じることはないと認識していたこと
 被告岡山県は、印刷会社に本件パンフレットの制作を注文したにすぎず、納品された本件パンフレットには著作権や著作権者の表示はなく、印刷会社からウェブページへの掲載を禁止されたこともなかった。
 第三者に注文して制作した著作物を二次利用する場合、当該著作物に含まれる著作物の著作権者の許諾が別途必要であるときは、あらかじめ制作者からその旨の指摘がされるものと信頼することができる。著作権者の許諾が別途必要であるか否かについて調査、確認するまでの注意義務を負うことはない。
【被告新見市の主張】
 以下のとおり、被告新見市に過失はない。
(1) 被告機構が指定管理者に指定されて以降の本件掲載行為については責任を負わないこと
 被告新見市は、被告機構が指定管理者に指定されて以降、被告機構の個々の業務内容につき具体的に指揮監督をする立場にはなかったから、それ以降の本件掲載行為について責任を負うことはない。
(2) 過失がないこと
 本件パンフレットは、被告岡山県が平成13年から10年以上にもわたり争いなく利用していたものである。
 被告新見市は、被告岡山県のほかに著作権者が存在し、その利用について許諾されていないことは知らず、知ることのできる事情もなかったから、本件掲載行為に関する過失はない。
【被告機構の主張】
 本件掲載行為は、「新おかやま国際化推進プラン」を紹介することのみを目的とするものであり、本件イラストをひとつの美術作品として掲載する意思など全くなかった。
 本件イラスト及び本件パンフレットには、何らの著作権表示もなかった。
 また、被告岡山県のような地方公共団体等が一般に周知させることを目的として作成した資料は、当該地方公共団体が著作の名義を有しているならば、広く転載が認められるものである(著作権法32条2項)。
 これらのことからすれば、本件パンフレットの発行者である被告岡山県の許諾があれば必要十分であると考えるのが当然であり、少なくとも、被告岡山県が本件イラストの著作権者であるか又は著作権者から適法に利用許諾を得ているものと信じたことに過失はない。
3 争点3(許諾の有無)について
【被告らの主張】
 原告らは、本件イラストを本件パンフレットの表紙に利用することについて許諾していたから、被告岡山県の政策を周知させるために、本件パンフレットが広く一般に配布されることも当然に認識していたものである。
 本件掲載行為は上記周知活動の一環として当然に想定されるものであるから、この程度の利用は原告らによる許諾の範囲内の利用であると解釈されるべきものである。
【原告らの主張】
 同一広告主による著作物の二次利用であっても、新たな利用の目的や形態、期間、部数、場合によってはデザインも申告して、料金や使用条件について合意した上、改めて許諾を受けるのが通例である。
 そもそも、本件掲載行為は、被告岡山県とは全く別の法人格である本件大学校のウェブページにおいて利用したものであるから、同一広告主による二次利用ではない。
 そうすると、本件掲載行為については、本件イラストの利用の目的や形態、期間、部数、デザインなどについて改めて原告らに申告し、原告らから利用に関する許諾を受ける必要があったものであるが、被告らはこの許諾を受けていない。
4 争点4(引用の成否)について
【被告らの主張】
 以下のとおり、本件掲載行為は、本件大学校が被告岡山県と連携して国際貢献活動を行っていることを紹介するため、本件パンフレットの表紙(本件イラスト)を公正な慣行に則って正当な範囲内で利用したものにすぎない。
 よって、著作権法32条1項の引用に当たる。
(1) 他の部分と明瞭に区別することができること
 本件掲載行為は、本件パンフレットの表紙をそのまま掲載したものであり、ウェブページ内の他の部分とは明瞭に区別することができる。
(2) 本件イラスト以外のウェブページの記載が主であり、本件イラストが従の関係にあること
 本件イラストのウェブページ全体に占める割合は小さく、本件大学校と被告岡山県の連携に関する説明文(本文)に添えられているものにすぎないから、本文との主従関係が明らかである。
(3) 著作権の表示をしなかったことがやむを得ないこと
 本件パンフレットには著作権表示がされていなかったから、改めて著作権表示をすることなく、そのまま掲載したことは、やむを得ないものである。
【原告らの主張】
 以下のとおり、本件掲載行為は、適法な引用には当たらない。
(1) 別紙ウェブページの記載が著作物ではないこと
 引用が成立するには、引用する側が著作物性を備えていることが必要である。
 本件掲載行為に係る本件大学校のウェブページは、同校の沿革、人事、事業などの周知の事実について記述したものであり、著作権法2条1項、10条2項の著作物ではないから、引用が成立することはない。
(2) 原告らの著作権が表示されていないこと
 本件掲載行為については、原告らの著作権が表示されていないから、引用には当たらない(著作権法48条1項1号)。
(3) 本件イラストが独立した美術の著作物として利用されており、主従関係にはないこと等
 主従関係にあるといえるには、引用して利用する側の著作物が、引用される著作物よりも高い存在価値を有していることも必要であるところ、そのような関係にはない。
 本件イラストは、文字ばかりの退屈なウェブページを装飾的に補い、視覚効果を高めることを目的として利用されており、記述の内容とは全く関係のない一個の独立した美術著作物として利用されている。そもそも引用が成立するには、その引用が必然性のあるものでなければならないところ、本件パンフレットの表紙をウェブページに引用する必然性がない。
(4) 本件掲載行為が原告P1の同一性保持権を侵害するものであること
 後記5【原告P1の主張】のとおり、本件掲載行為は、原告P1の有する本件イラストの同一性保持権を侵害するものであるから、適法な引用が成立することはない。
5 争点5(著作者人格権侵害の成否)について
【原告P1の主張】
 以下のとおり、本件掲載行為は、原告P1の有する本件イラストの著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害するものであり、前記2と同様の理由により、共同不法行為が成立する。
(1) 同一性保持権侵害
 前提事実(3)ウのとおり、本件パンフレットの表紙では、本件イラスト上にハート形と広告コピーが挿入されているが、原告P1は、本件イラストが本件パンフレットの表紙に利用されるに当たり、これらの挿入がされることについて、許諾していなかった。
 本件大学校は、別紙ウェブページ記載のとおり、本件パンフレット表紙の広告コピー及びハート形の記載を削除せずに掲載したものであるから、本件掲載行為は、原告P1の有する本件イラストの同一性保持権を侵害するものである。
(2) 氏名表示権侵害
 本件パンフレットに原告P1の氏名を表示しなかったことは、原告P1の氏名表示権を侵害するものである。
 また、別紙ウェブページでも、原告P1の氏名が表示されていないから、本件掲載行為は、原告P1の有する本件イラストの氏名表示権を侵害するものである。
【被告らの主張】
 以下のとおり、本件掲載行為は、原告P1の有する本件イラストの著作者人格権を侵害するものではなく、前記2と同様の理由により、共同不法行為は成立しない。
(1) 同一性保持権侵害について
 一般に、広告・パンフレットにイラストが用いられる際は、一定程度コピー等の挿入がされるものであり、原告P1も、本件イラストを本件パンフレットの表紙に利用することについて許諾した際、広告コピー等が挿入されることを許諾していたはずである。
 また、この程度の改変は、「利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に当たる。
 したがって、本件パンフレットの表紙における本件イラストの改変は、原告P1の有する同一性保持権を侵害するものではない。
 本件大学校は、本件パンフレットの表紙をそのまま利用したにすぎず、このような場合に作品上の文字等を取り除くことはない。
(2) 氏名表示権侵害について
 一般に、広告・パンフレットにイラストが用いられる際は、制作者の氏名を表示しないのが通例であり、本件パンフレットにも原告P1の氏名は表示されていない。
 本件掲載行為も、本件パンフレットの制作目的と同様に広報を目的とするものであり、氏名を表示する必要がない。
 したがって、本件掲載行為は、その目的態様に照らし、原告P1の利益を害するものではなく、公正な慣行にも合致するから、著作権法19条3項により氏名表示を省略することができる場合に当たる。
6 争点6(権利濫用の成否)について
【被告らの主張】
 仮に本件掲載行為が違法であるとしても、形式的な違法に過ぎず、このことに加え、以下の事情からすれば、本件各請求は権利濫用に当たる。
(1) 公益的な行為である本件掲載行為について、原告らが過大な損害賠償請求をしていること
 本件掲載行為は、何ら営利性のない公益的な目的をもつ本件大学校のウェブページの片隅で、国際貢献活動について連携する被告岡山県の活動の説明として本件パンフレットの表紙を掲載したものにすぎない。
 このような本件掲載行為に対し、本件各請求は過大な損害賠償請求をするものである。
(2) 本件掲載行為が原告リーブラによる著作権等の管理不足に起因するものであること
 原告リーブラの主張によれば、本件イラストの利用を許諾していたにもかかわらず、本件パンフレットを制作した印刷会社も把握していないというのであり、本件イラストの著作権等の管理を怠っていたものである。
 本件掲載行為が本件イラストの著作権等に対する違法な侵害に当たるとすれば、それは原告リーブラが本件イラストの著作権等の管理を怠ったことに起因するものである。それにもかかわらず、原告らは、本件掲載行為がされてから10年以上も経過した後に本件各請求をしている。
(3) 被告らが何らの利益も受けていないこと
 被告らは、本件イラストを商品に付して経済的利益を得たものではなく、ウェブページの美術的効果を高める目的で利用したものでもなく、本件掲載行為から何らの利益も受けていない。
【原告らの主張】
 公益的な目的で設置された機関による行為であるか否かは、著作権侵害の成否とは関係がない。
 本件掲載行為は、本件イラストの著作権及び著作者人格権を侵害するものであって、このような場合には正規の利用料の数倍を請求するのが業界の通例であるから、本件各請求は過大なものではない。
 原告らは正当な権利主張をしているにすぎず、権利濫用には当たらない。
7 争点7(損害額)について
【原告らの主張】
(1) 著作権侵害による損害額
 原告らは、本件イラストの通常の使用料金を56万6000円と設定しており、不正に使用された場合には、諸事情を勘案して通常の使用料金の10倍から20倍を請求することにしている。
 本件では10倍の請求をするのが相当であり、その額は566万円である。
 【計算式】
  566,000×10=5,660,000
(2) 著作者人格権侵害による損害額
 原告P1は、本件掲載行為により同一性保持権、氏名表示権を侵害されて精神的損害を受けており、これを慰謝するには100万円が相当である。
【被告らの主張】
 いずれも否認する。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告リーブラが本件イラストの著作権を有するか等)について
 以下のとおり、原告リーブラは、本件イラストの著作権者であると認めることができないから、その余の点について検討するまでもなく、主位的請求のうち原告リーブラの著作権侵害に係る請求には理由がない。
(1) 原告リーブラが本件イラストの著作者ではないこと
 原告リーブラが本件イラストの著作者でないことは当事者間に争いがない。
(2) 原告リーブラが本件イラストの著作権者ではないこと
ア 原告P1と原告リーブラとの契約
 末尾掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。
 原告P1は、コスモ社との間で、平成10年3月10日、原告P1の作品の「使用権の販売」について委託する契約をした(甲9)。
 コスモ社は、原告リーブラとの間で、平成11年12月21日、平成12年3月1日から50か月間の約定で、コスモ社の「営業するライブラリー業務に関する営業権」をリースする旨の契約をした(甲10)。
 原告P1は、原告リーブラとの間で、平成16年11月1日、原告P1の著作物に関する「使用権の設定、販売など」を委託する旨の契約をした(甲1の1)。また、コスモ社との上記契約について、コスモ社が契約の当事者から離脱し、代わりに原告リーブラが当事者となって同契約におけるコスモ社の権利義務を承継することを承諾した(甲11)。
イ 上記アの各契約が著作権の譲渡ではないこと
 上記アの各契約に係る契約書を子細に検討しても、単に著作権の管理に関する業務を委任したものとしか解することができない。
 現に、平成16年11月1日付け契約書(甲1の1)3条によると、原告P1は、必要に応じて、委託した著作物の著作権を原告リーブラに移転する旨規定されており、原告P1は、原告リーブラに対し、本件掲載行為が終了した後の平成24年8月30日、本件イラストの著作権を移転したこと(甲1の2)が認められる(なお、原告らは、原告リーブラが、原告P1に対し、平成25年3月1日、上記著作権を再度譲渡したとも主張している。)。
 したがって、上記アの各契約は、原告リーブラに対し、本件イラストの著作権を譲渡するものではないから、本件掲載行為の当時、原告リーブラが本件イラストの著作権者であったとは認められない。
(3) 小括
 前記(1)及び(2)のとおり、原告リーブラは、本件イラストの著作者ではなく、本件掲載行為の当時、本件イラストの著作権者でもなかったものである。
 他に、原告リーブラが本件掲載行為に係る既発生の損害賠償請求権について個別に債権譲渡を受けたなどとする主張立証もない。
 したがって、原告リーブラの著作権侵害に係る請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
2 争点3(許諾の有無)について
 以下のとおり、本件パンフレットの表紙に本件イラストを利用することだけでなく、本件掲載行為についても、原告らによる本件イラストの利用に関する許諾の範囲内のものと解するのが相当であるから、原告P1の有する本件イラストの著作権に対する不法行為は成立しないものというべきである。
(1) 本件掲載行為が本件イラストの複製、公衆送信、送信可能化に当たること
 本件掲載行為が本件イラストの複製、公衆送信、送信可能化に当たることについては、被告らも積極的に争っておらず、これを認めることができる。
(2) 本件イラストの利用に関する原告らの許諾
ア 原告リーブラから原告P1に対する著作権利用料の支払
 支払報告書(甲12)によれば、原告リーブラは、原告P1に対し、平成13年9月26日、被告岡山県から著作権利用料の支払を受けたことについて報告をしたこと、著作権利用料を原告リーブラと原告P1とが折半したことが認められる。
 ところで、上記支払報告書(甲12)には、「パンフレット/表」の用途に関する著作権利用料が5万0050円であり、「パンフレット/2次」の用途に関する著作権利用料が2万5480円である旨の記載がある。原告らは、「パンフレット/表」の記載が本件イラストをパンフレットの表紙に利用することに関する利用料であり、「パンフレット/2次」の記載が二次利用に関する利用料である旨主張している。
イ 本件掲載行為が原告らによる許諾の範囲内の行為であること
(ア) 本件パンフレットの表紙への利用の許諾
 前記アによれば、原告らは、被告岡山県が本件パンフレットの制作を依頼した印刷会社に対し、本件イラストを本件パンフレットの表紙に利用することについて許諾していたことが認められる。
 なお、本件イラストは、別紙イラスト記載のものであるから、これをパンフレットの表紙として利用するためには広告コピーなどを挿入することが必要であることは明らかであり、本件パンフレットの表紙における本件イラストの改変も、原告P1による許諾の範囲内の行為であると認めることができる(後記4(1)ア)。
(イ) 二次利用についての許諾
 前記アのとおり、原告らは、被告岡山県に対し、本件パンフレットの二次利用について許諾し、対価を得ていたことが認められる。
 一般に、二次利用とは、著作物を引用(転載)、複製するなどして利用することをいうところ、本件で、原告らが、被告岡山県に対し、許諾した二次利用の具体的態様は必ずしも明らかではないが、その一方で、二次利用の範囲について何らかの限定を付していたというような事情は見当たらない。
 前提事実(4)のとおり、本件掲載行為は、本件パンフレットの表紙(本件イラスト)を別紙ウェブページ記載の態様で何ら改変することなく掲載したものであり、当該ウェブページは、本件大学校の協働施設として、被告岡山県との連携、とりわけ本件大学校と密接な関連のある「新おかやま国際化推進プラン」について紹介したものである。また、本件パンフレットの表紙(本件イラスト)は、ウェブページ全体の中ではごく一部、紹介記事の本文と比較しても半分以下の大きさで掲載されているにすぎない。
 このような本件掲載行為の態様は、著作物の二次利用としてみた場合に、当該著作物の著作権に及ぼす影響が非常に少ない態様のものであるということができる。仮に、原告らが本件パンフレットの二次利用に係る許諾の範囲について何らかの限定を付していたとしても、このような行為について許諾していなかったというのは考えがたいことである。むしろ、このような本件掲載行為についてまで二次利用としての許諾の範囲に含まれないとすると、許諾の範囲に含まれる適法な二次利用を想定しがたい。
 以上のことからすれば、本件掲載行為は、原告らによる二次利用に係る許諾の範囲内の行為であると認めることができる。
3 争点4(引用の成否)について
 以下のとおり、本件掲載行為は、著作権法32条1項の引用に当たる。
(1) 引用の意義
 著作権法32条1項によると、公表された著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されている。引用の目的上正当な範囲内とは、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であり、具体的には、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。
(2) 本件掲載行為が引用に当たること
 別紙ウェブページ記載のとおり、本件パンフレットの表紙(本件イラストを含む。)は、被告岡山県の事業である「新おかやま国際化推進プラン」を紹介する目的で掲載されたものであることが明らかである。
 その態様も、前記2(2)イ(イ)のとおり、被告岡山県の事業を広報するという目的に適うものであり、本件パンフレットの表紙に何らの改変も加えるものでもない。
 しかも、このような本件掲載行為の目的、態様等からすると、著作権者である原告P1の利益を不当に害するようなものでもない。
 以上に述べたところからすれば、本件掲載行為は、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということができ、「公正な慣行」に合致するということもできるから(原告もこのことについては明示的に争わない。)、適法な引用に当たると解するのが相当である。
(3) 原告らの主張について
 原告らは、@本件掲載行為に係る別紙ウェブページの記載(被引用物)が著作物ではないこと、A原告らの著作権が表示されていないこと、B主従関係にはないこと、C本件掲載行為が同一性保持権を侵害することからすれば、引用は成立しない旨主張して争っている。
 このうち上記@の主張について検討すると、旧著作権法30条1項第2では「自己ノ著作物中」に引用することが必要とされていたものの、同改正後の著作権法32条1項では明文上の根拠を有しない主張である。その点はさておくとしても、別紙ウェブページの記載は相当な分量のものであり、内容・構成に創作性が認められる(選択の幅がある)ことからすれば、その著作物性を否定することは困難である。
 上記Aの主張について検討すると、本件パンフレットの表紙には原告P1の氏名の表示がないものの、後記4のとおり、このことは原告P1の氏名表示権を侵害するものではない。そうすると、本件パンフレットの表紙は無名の著作物であり、著作権法48条2項により出所の表示の必要がないから、上記Aの主張にも理由がない。
 上記Bの主張については、前記2(2)イ(ウ)のとおり、別紙ウェブページにおける本件パンフレットの表紙の記載はウェブページ全体の中ではごく一部であり、主従関係にあるものと認められるから、上記Bの主張も採用できない。
 上記Cの主張に理由がないことは、後記4で述べるとおりである。
 よって、原告らの主張はいずれも採用できない。
 なお、別紙ウェブページ記載の態様からすれば、本件パンフレットの表紙の部分は、他のウェブページの記載と明瞭に区別することができる。
4 争点5(著作者人格権侵害の成否)について
(1) 本件パンフレットの表紙の作成が原告P1の有する著作者人格権を侵害するものではないこと
ア 本件パンフレットの表紙における本件イラストの改変が原告P1の有する本件イラストの同一性保持権を侵害するものではないこと
 前記2(2)イ(ア)のとおり、本件イラストをパンフレットの表紙として利用するために広告コピーなどを挿入することが必要であることは明らかであり、この改変について認識もしていなかったことを前提とする原告P1の主張(前記第3の5【原告P1の主張】(1))は採用することができない。本件イラストに挿入された被告岡山県の所在を示すハート形についても、本件イラストの作品としての実質的同一性を害することのない微細な改変であるし、本件パンフレットの制作目的に適うものである。
 これらのことからすると、本件パンフレットの表紙における本件イラストの改変について、原告P1の許諾の範囲内のものと認めることができるから、当該行為は原告P1の有する本件イラストの同一性保持権を侵害するものではない。
イ 本件パンフレットの表紙に原告P1の氏名表示がないことは、原告P1の有する本件イラストの氏名表示権を侵害するものではないこと
 前記アのとおり、原告らは、本件パンフレットの表紙に本件イラストを利用することについて許諾していたのであるから、これに原告P1の氏名を表示しないことについて承諾していなかったとか、本件イラストの著作権管理について委託を受けていた原告リーブラが認識もしていなかったというのは、にわかに採用しがたい主張である。
 少なくとも、原告P1に対し、金銭的に慰謝されなければならないような氏名表示権侵害に係る損害を生じさせるものであるとも認められない。
(2) 本件掲載行為が原告P1の有する著作者人格権を侵害するものではないこと
ア 同一性保持権の侵害
 前記(1)アのとおり、本件パンフレットの表紙における本件イラストの改変は原告P1の有する本件イラストの同一性保持権を侵害するものではない。
 本件掲載行為は、本件パンフレットの表紙に何ら新たな改変を加えたものではなく、本件掲載行為が原告らによる利用許諾の範囲内の行為であり、適法な引用に当たることも前述のとおりである。
 そうすると、被告新見市及び被告機構が本件パンフレット表紙を本件大学校のウェブページに掲載するに際し、広告コピー及び被告岡山県の場所を示すために挿入したハート形の記載を削除せずに使用したからといって、原告P1の有する本件イラストの同一性保持権を侵害するものであるとはいえない。
イ 氏名表示権の侵害
 前記(1)イのとおり、本件パンフレットの表紙に原告P1の氏名表示がないことは、原告P1の有する本件イラストの氏名表示権を侵害するものとはいえない。本件掲載行為が原告らによる利用許諾の範囲内の行為であり、適法な引用に当たることも、前記アと同様である。
 そうすると、本件掲載行為が、原告P1の氏名表示権を侵害するものであるとはいえない。
 少なくとも、本件掲載行為が、原告P1に対し、金銭的に慰謝されなければならないような氏名表示権侵害に係る損害を生じさせるようなものであるとは認めることができない。
5 争点6(権利濫用の成否)について
 前記2で検討したところによれば、原告P1は、本件イラストを本件パンフレットの表紙に利用することを許諾していたものであり、それが広く一般に流通配布されることも当然に認識しており、本件パンフレットの二次利用についても許諾していたものである。
 また、前記3のとおり、本件掲載行為の目的は、被告岡山県の事業を広報するという本件パンフレットの制作目的に適うものであり、その態様も当該制作目的に沿って何らの改変を加えることもなく利用したものである上、著作権者の利益を不当に害するようなものであるということのできる事情もない。
 前記4のとおり、本件掲載行為について、原告P1に対し、金銭的に慰謝しなければならないような著作者人格権侵害に係る損害を生じさせる行為であるということもできない。
 これらのことからすれば、原告らによる本件各請求は、少なくとも権利濫用に当たり、許されないものというべきである。
6 結論
 前記1のとおり、主位的請求のうち原告リーブラの著作権侵害に係る請求には理由がない。また、前記2、3及び5で検討したところによれば、予備的請求のうち原告P1の著作権侵害に係る請求にも理由がない。前記4及び5によれば、主位的請求及び予備的請求のうち原告P1の著作者人格権侵害に係る請求にも理由がない。
 したがって、その余の争点について検討するまでもなく、原告らの請求には全部理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 松川充康
 裁判官 西田昌吾


(別紙)イラスト(画像省略)
(別紙)パンフレット表紙(画像省略)
(別紙)ウェブページ(画像省略)
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