判例全文 line
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【事件名】弁護士 vs 行政書士 ブログ事件B
【年月日】平成25年6月28日
 東京地裁 平成24年(ワ)第13494号 著作者人格権等侵害行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年4月22日)

判決
原告 X
被告 Y1
被告 Y2
上記2名訴訟代理人弁護士 大野裕


主文
1 被告Y1は、別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイトにおいて、別紙掲載記事目録記載4及び5の各記事に含まれている別紙URL目録記載のURLを掲載して使用してはならない。
2 被告Y2は、別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイトにおいて、別紙掲載記事目録記載3の記事に含まれている別紙原告文書目録記載2の文書及び別紙掲載記事目録記載6の記事に含まれている別紙原告文書目録記載3の文書を掲載して使用してはならない。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の5分の1と被告Y1に生じた費の5分の2を被告Y1の負担とし、原告に生じた費用の5分の1と被告Y2に生じた費用の5分の2を被告Y2の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告Y1は、別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイトにおいて、別紙掲載記事目録記載1及び2の各記事に含まれている別紙原告文書目録記載1の文書並びに別紙掲載記事目録記載4及び5の各記事に含まれている別紙URL目録記載のURLを掲載して使用してはならない。
2 被告Y2は、別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイトにおいて、別紙掲載記事目録記載3の記事に含まれている別紙原告文書目録記載1及び2の文書並びに別紙掲載記事目録記載6の記事に含まれている別紙原告文書目録記載3の文書を掲載して使用してはならない。
3 被告らは、原告に対し、それぞれ150万円及びこれに対する平成24年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、別紙原告文書目録記載1ないし3の文書(以下、それぞれ「原告文書1」などといい、併せて「原告各文書」という。)の著作者及び著作権者であると主張する原告が、(1)被告Y1は、別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイト(以下、「被告ブログ1」という。)上の別紙掲載記事目録記載1及び2の記事(以下、それぞれ「被告記事1」「被告記事2」という。)において原告文書1を掲載し、また、別紙掲載記事目録記載4及び5の記事(以下、それぞれ「被告記事4」、「被告記事5」という。)において、原告文書3のpdfファイルを掲載した別紙URL目録記載1ないし3のURL(以下、これらを併せて「本件各URL」という。)を掲載し、(2)被告Y2は、別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイト(以下、「被告ブログ2」といい、被告ブログ1と併せて「被告各ブログ」という。)上の別紙掲載記事目録記載3の記事(以下「被告記事3」という。)において原告文書1及び2を掲載し、また、別紙掲載記事目録記載6の記事(以下「被告記事6」といい、被告記事1ないし6を併せて「被告各記事」という。)において原告文書3を掲載しており、これらにより、原告の著作権(公衆送信権〔送信可能化を含む。〕)及び著作者人格権(公表権)を侵害していると主張して、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき、被告各ブログにおいて、被告各記事に含まれる原告各文書及び本件各URLを掲載して使用することの差止めを求めるとともに、著作権及び著作者人格権侵害の不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償として、各自150万円(附帯請求として、訴状送達日の翌日である平成24年6月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実以外は、証拠等を末尾に記載する。)
(1) 当事者等
ア 原告は、東京都千代田区岩本町において、「神田のカメさん法律事務所」を開設している弁護士である。
イ 被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、東京都清瀬市内で「かなめ行政書士事務所」を開設している行政書士であり、インターネット上で、「かなめ行政書士事務所」とのタイトルで、被告ブログ1を公開している。
ウ 被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、インターネット上で、「NEWS RAGTAG」とのタイトルで、被告ブログ2を公開している。
(2) 原告各文書
ア 原告文書1は、原告が、平成23年10月4日、南洋株式会社の代理人として、被告Y1に宛てて送付した通知書であり、同被告がインターネット上で公開するブログ記事の削除を求める旨などを記載したものである(甲5)。
イ 原告文書2は、原告が、東京行政書士会会長宛てに提出した、平成23年10月17日付けの苦情申告書であり、被告Y1の行為が行政書士法12条及び行政書士法施行規則6条2項に違反すること等を理由として、東京行政書士会会長に指導・対応を求める旨などを記載したものである(甲6)。
ウ 原告文書3は、被告Y1が東京弁護士会に対し提出した原告の懲戒請求につき、原告が、東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出した、平成23年11月16日付けの答弁書であり、原告に対する懲戒請求を棄却するとの判断を求めること及びその理由等を記載したものである(甲7)。
エ 原告文書1ないし3は、いずれも原告が作成したものであり、その具体的内容は、別紙原告文書目録添付1ないし3のとおりである。
(3) 被告各ブログにおける原告各文書の掲載等
ア 被告ブログ1
(ア) 被告Y1は、平成23年10月13日、被告ブログ1に「南洋株式会社・神田のカメさん法律事務所とのバトル勃発!」と題する記事(PC用URLにおいて掲載されたものが被告記事1であり、モバイル用URLにおいて掲載されたものが被告記事2である。)を投稿し、同記事中に、原告文書1を掲載した(甲1の1・2)。
(イ) 被告Y1は、同年11月22日、被告ブログ1に「懲戒請求被調査人X弁護士答弁書公開」と題する記事(PC用URLにおいて掲載されたものが被告記事4であり、モバイル用URLにおいて掲載されたものが被告記事5である。)を投稿し、同記事中に、「X氏による答弁書」との記載に続けて、 「『toubensyo-01.pdf 』をダウンロード」、「『toubensyo-02.pdf』をダウンロード」、「『toubensyo-03.pdf』をダウンロード」との文字を掲載した。
 上記の「『toubensyo-01.pdf』をダウンロード」等の文字は、本件各URLを上記文字列により表示したものであり、インターネット接続環境下でこれらをクリックすることにより、原告文書3のpdfファイルを三分割したデータを掲載する本件各URLに移動し、上記ファイルを閲覧することができるようにしたものであって、上記文字の掲載を本件各URLの掲載と同視することができるものである(甲3の1〜3、11の1・2)。
イ 被告ブログ2
(ア) 被告Y2は、平成23年10月20日、被告ブログ2に「悪質商法と闘うY1行政書士(東京行政書士会)にアニヲタ『カメさん弁護士』が苦情申し立て!」と題する記事(被告記事3)を投稿し、同記事中に、原告文書1及び2を掲載した(甲2、10)。
(イ) 被告Y2は、同年11月23日、被告ブログ2に「『ヲタクのカメさん』X弁護士が『くそキモキャラ』懲戒請求事件でマニアックに反論」と題する記事(被告記事6)を投稿し、同記事中に、原告文書3を掲載した(甲4、12)。
2 争点
(1) 原告各文書の著作物性
(2) 公衆送信権侵害の成否
(3) 公表権侵害の成否
(4) 原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり、又は本件訴訟の提起が訴権の濫用に当たるか。
(5) 原告の損害及び損害額
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(原告各文書の著作物性)
(原告の主張)
(1) 著作権法2条1項1号にいう「創作的に表現したもの」に当たるためには、表現されたものに何らかの表現者の個性の表れがあれば足りるところ、原告各文書は、それぞれ一定の目的(記事の削除、苦情の申告、懲戒申立てに対する反論)を達成するために作成された書面であるが、このような目的を達成する上で、何を主張し、どのように法的構成を組み立てて、それをどのような言葉、言い回しにより表現するかという点について、誰が著作しても同様の表現となるほど一義的かつ明白に定まっているものではない。原告各文書には、次のとおり、原告の個性が十分に表れているものであるから、いずれも創作性があり、著作物に当たる。
(2)ア 原告文書1
 原告文書1は、被告Y1に対し、ブログ記事の削除要求を通知することを内容とするものであり、相手方が記事の削除に応じなかった場合には、記事削除の仮処分命令申立てを行うことを前提に、相手方に対し、必要以上の情報を与えないように注意を払いつつも、最小限必要な事柄を告げるというコンセプトで、用語や言い回しを厳選し、最も適切な表現を慎重に吟味して作成されたものである。
 したがって、原告文書1には、表現の選択の幅が狭い中にも作成者である原告の個性が十分に表れており、創作性がある。
イ 原告文書2
 原告文書2は、対象行政書士の一定の行為について行政書士会に苦情を申告することを内容とするものであり、対象行政書士の上記行為について法的構成をし、苦情としての主張内容を組み立て、それに合わせて、必要な事実関係を選び出して事実経過として構成した上で、読み手に内容が分かりやすくなるように用語や言い回しを試行錯誤し、最も適切な表現を取捨選択して作成されたものである。
 したがって、原告文書2には、書面の性質に基づく制約があるとはいえ、作成者である原告の個性が十分に表れており、創作性がある。
ウ 原告文書3
 原告文書3は、懲戒請求に対する原告の主張・反論を内容とするものであり、懲戒請求者の主張に対する反論等を法的に構成して主張内容を組み立て、必要な事実関係を選び出して事実経過として記載するとともに、懲戒請求者からの反論を封じ込めることができるように考慮を重ね、表現方法や表現内容を凝りに凝って、これまで誰も見たことがなく、およそ答弁書として想定される表現内容をはるかに超えたものに仕上げたものである。しかも、その上で、原告文書3は、読み手に内容が分かりやすくなるよう用語や言い回しを試行錯誤し、さらには、これが原告の承諾なく公表等された場合におけるイメージ効果や社会的影響力も考慮して、最も適切な表現を選択して作成されている。
 したがって、原告文書3には、書面の性質に基づく制約があるとはいえ、作成者である原告の個性が非常に色濃く表れており、およそ原告以外にこのような答弁書は作成し得ないとさえいえるものであり、創作性がある。
(被告らの主張)
(1) 原告の主張は争う。
(2) 著作権法が保護の対象を創作性があるものに限定するのは、同法が文化的所産たる創作的なるものを保護するためであり、創作性が認められるためには、著作物に何らかの知的活動の成果があること又は文化的所産というに足る創作性があることが必要とされる。そして、文章がごく短いものである場合、表現形式に制約があるため他の表現が想定できない場合、表現が平凡かつありふれたものである場合などは、作成者の個性が表れておらず、創作性が認められないものとされる。
(3)ア 原告文書1
 原告文書1は、ブログ記事の削除を求める文書であって、表現方法の幅は狭く、ごく簡潔かつ平凡な文章で書かれており、原告の個性は全く表れていない。したがって、原告文書1に創作性がなく、著作物性が認められないことは明らかである。
イ 原告文書2
 原告文書2は、定型的な書式に従って、事実経過を単純に羅列し、行政書士会に対し苦情を申告したものにすぎず、原告の主張する「表現上の工夫」の具体的内容も不明である。したがって、原告文書2にも創作性はなく、著作物性が認められない。
ウ 原告文書3
 原告が、原告文書3において表出されていると主張する「個性」とは名ばかりのものであり、真摯に自己の思想又は感情を述べたものとは到底うかがわれず、被告Y1への誹謗中傷(違法行為)を正当化せんとする不誠実で不真面目な詭弁にすぎないのであり、何らかの知的活動の成果があるとも、文化的所産というに足る創作性があるとも到底いえるものではない。したがって、原告文書3にも著作物性が認められない。
2 争点(2)(公衆送信権侵害の成否)
(原告の主張)
(1)ア 被告らは、被告記事1ないし3、6に原告各文書を掲載し、これらを公衆送信しており、これらの行為は、原告各文書に関する原告の公衆送信権を侵害するものに当たる。
イ 被告Y1は、原告文書3を複製してpdfファイルを作成し、同ファイルをインターネット上のサーバに置いて記録させ、さらに、被告ブログ1中の被告記事4及び5において、上記ファイルを閲覧可能とする本件各URLを掲載することにより、被告ブログ1の読者が、本件各URLにアクセスし、原告文書3ないしその複製物が自動的に公衆送信される状況を作出している。
 上記行為は、原告文書3に関する原告の公衆送信権を侵害するものに当たる。
(2) 被告らの行為が著作権法32条1項の引用に当たる旨の被告らの主張は争う。
ア 原告各文書は、いずれも「公表された著作物」に当たらない。
 すなわち、原告文書2は、東京都行政書士会に提出された苦情申告書であるが、東京都行政書士会に苦情申告があった場合の審査手続は非公開とされている。また、原告文書3は、東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出された答弁書であるが、東京弁護士会綱紀委員会及び懲戒委員会の議事及び調査期日は非公開とされており、綱紀委員会の議事録、調査期日調書、供述調書その他調査資料の閲覧、謄写又は録音は認めないとされている。したがって、このような手続において原告文書2又は3を提出したことが「公表」に当たらないことは明らかである。
イ 被告各記事は、原告各文書を複製してそのまま貼り付けただけのもの又は本件各URLが記事の主要な部分を占めるものであり、被告各記事における原告各文書の掲載等は、「公正な慣行に合致」した引用方法にも当たらない。
(被告らの主張)
(1) 原告の主張は争う。
(2) 被告らの行為は、著作権法32条1項の引用に当たるから、公衆送信権等侵害は成立しない。
 すなわち、適法な引用として認められるためには、@公表された著作物であること、A引用であること、B公正な慣行に合致すること、C報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であることの4要件を満たす必要があるところ、被告らが原告各文書等を掲載したのは、投資詐欺を行っている南洋株式会社及びその代理人を務める原告のことを記事にし、もって広く消費者に注意を喚起するという公共性・公益性のある目的からであり、原告各文書の全文引用も上記目的から必要不可欠であったものである。また、被告記事において、引用部分と被引用部分は明瞭に区別でき、その主従関係も明白である。また、原告文書2及び3は、公的機関宛てに提出されたものであるから、公表要件を満たすことが明らかである。
3 争点(3)(公表権侵害の成否)
(原告の主張)
 争点(2)に関する原告の主張のとおり、原告各文書は、未公表のものであり、被告らの行為は、原告各文書に関する原告の公表権を侵害するものに当たる。
(被告らの主張)
 原告の主張は争う。
4 争点(4)(原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり、又は本件訴訟の提起が訴権の濫用に当たるか。)
(被告らの主張)
(1) 本件訴訟の発端は、被告Y1が、南洋株式会社が詐欺的手口で投資を募っているとの情報を得て、被告ブログに上記会社を批判する記事を掲載したことにある。原告は、被告Y1に対し、上記会社の代理人として上記ブログ記事の削除を求める一方、原告の管理運営するブログにおいて、被告Y1を誹謗中傷する記事を掲載し、東京都行政書士会に対し、被告Y1に関する苦情申立てを行い、ブログ記事削除を求める仮処分命令申立事件や損害賠償請求事件を提起し、更には本件訴訟を提起したのである。原告が本件訴訟を提起した真の目的が、文化的所産たる自らの著作物に対する権利侵害への救済を求めるという真摯な目的によるものではなく、消費者に対する注意喚起のため南洋株式会社及び原告を批判してきた被告らに対する口封じないし嫌がらせであることは、原告文書3の不誠実かつ不真面目な内容からも明らかというべきである。
(2) したがって、原告の著作権及び著作者人格権の行使は権利の濫用に当たり、また、本件訴訟は不当訴訟の典型であって、本件訴訟の提起は訴権の濫用に当たる。
(原告の主張)
 被告らの主張は争う。本件訴訟は、被告らが原告の著作物を原告に無断で掲載したことに起因するものであり、正当な権利行使に当たる。
5 争点(5)(原告の損害及び損害額)
(原告の主張)
 原告は、被告らにより、原告各文書を許諾なく被告各ブログに掲載され、公表及び公衆送信されたことにより、多大な精神的苦痛を被った。これを慰謝するに足りる金額は、被告Y1が東京地方裁判所平成24年(ワ)第2135号損害賠償請求事件(別訴事件)において原告に対し「精神的苦痛に対する慰謝料」として請求している額である150万円を下らないから、同額が原告の損害となる。
(被告らの主張)
 原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告各文書の著作物性)
(1) 著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には、当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては、著作物に該当せず、同法による保護の対象とはならない。そして、当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには、厳密な意味で作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが、作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって、当該作品の性質等に照らし、その表現が平凡かつありふれたものである場合には、作成者の個性が表現されたものとはいえず、「創作的」な表現ということはできないというべきである。
(2) 以上を前提に、原告各文書の著作物性について検討する。
ア 原告文書1
(ア) 前記前提事実(2)アのとおり、原告文書1は、原告が、南洋株式会社(通知人)の代理人として、平成23年10月4日、被告Y1に宛てて送付した通知書であり、表題、日付等の記載の後に、通知人の代理人として通知を行う旨及び被告Y1の作成するブログ内に通知人に関し事実に反する内容の記事が掲載されている旨を記載し、上記記事のURLを表示し、さらに、上記記事の内容が事実に反し通知人の名誉・信用を著しく害し多大な損害が発生しているものである旨、上記記事の削除を求め、削除に応じない場合には仮処分申立てや損害賠償請求等の必要な法的措置をとらざるを得ない旨、以後問合せは通知人本人ではなく通知人代理人にされたい旨を記載したものである。
 上記原告文書1の本文部分は、上記URLの表示部分を含めても17行、URLの表示部分を除けば13行からなるものである。
(イ) 原告文書1は、上記のとおり、前提となる事実関係を簡潔に摘示した上で、これに対する法的評価及び請求の内容等を短い表現で記載したものにすぎない。原告文書1の体裁、記載内容、記載順序、文章表現は、いずれも内容証明郵便による通知書として一般的にみられるものであり、ありふれたものというべきであるから、原告文書1において何らかの思想又は感情が表現されているとしても、上記思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められない。
 この点、原告は、原告文書1は、用語や言い回しを厳選し、最も適切な表現を慎重に吟味して作成されたものであり、作成者の個性が表れていると主張するが、原告の主張するような点を原告文書1から表現として感得することはできず、上記主張を採用することはできない。
(ウ) したがって、原告文書1に著作物性は認められない。
イ 原告文書2について
(ア) 前記前提事実(2)イのとおり、原告文書2は、原告が東京行政書士会会長宛てに提出した平成23年10月17日付けの苦情申告書であり、A4版5ページからなる文書である。原告文書2は、表題、日付等の記載の後に、苦情の趣旨及び苦情の理由を記載し、さらに「第3 最後に」として、「申告者は、…多くの行政書士の方々が本当に真摯に依頼者のために業務に取り組まれていることをよく存じあげております。そのような中で、本件の苦情対象行政書士のごとく、行政書士法違反の非違行為を行う行政書士がごく少数でも存在することは、行政書士全体の社会的信用を貶めるものであり、適正に業務をされておられる大多数の行政書士の方々にも多大な悪影響を及ぼすものであると思います。」などと記載し、東京行政書士会に調査、対応を求める旨と、状況の改善がない場合には対象行政書士の東京都知事に対する懲戒を申し立てる所存である旨などを記載したものである。
(イ) 原告文書2は、上記のとおり、行政書士会に対する苦情申告書であり、その文書の性質上、当然に記載すべき項目(日付、申告者等の形式的記載事項や、申告すべき苦情の内容、事実関係の記載、上記事実関係の法的評価、非違行為に該当する考える理由等)を含むものであるということができる。しかし、苦情の内容、事実関係、その法的評価等に関する点については、記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく、これらをどのような順序で、どのような表現により、どの程度記載するかについては、様々な可能性があるものというべきである。そうすると、原告文書2は、上記のとおり表現について様々な可能性がある中で、記載の順序や内容、文章表現を工夫したものということができるのであって、このような点に、作成者の個性の表出がみられるものというべきであり、思想又は感情を創作的に表現したものに当たるということができる。
(ウ) したがって、原告文書2には著作物性が認められる。
ウ 原告文書3
(ア) 前記前提事実(2)ウのとおり、原告文書3は、被告Y1が東京弁護士会に対し請求した原告の懲戒請求につき、原告が、平成23年11月16日、東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出した答弁書であり、事件番号、表題、日付等の形式的記載事項の表示の後に、請求の趣旨に対する答弁、懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否、被調査人(原告)の主張を記載したものである。被調査人(原告)の主張においては、同人が作成した「かなめくじ」に関するブログ記事が、請求者(被告Y1)の事務所(「かなめ行政書士事務所」)を指したものではないことなどを示す事情として、「かなめくじ」というキャラクターを制作した経緯(「かなめくじ」とは有機物的な気色悪いキャラクターであり、これを「くそキモキャラ」と呼ぶこと、「かなめくじ」とは、「蚊」と「なめくじ」を合体させたものであること、人に嫌悪感をもよおす生き物のうちから、制作が容易でシンプルなデザインであり、かつ、グッズ化に向きやすい形状・性質のものであって、動作や動きの再現が容易であるなどの条件を満たすものとして、軟体動物をモチーフに選んだ上で、これに蚊の羽を合体させることにしたこと、「蚊」と種々の軟体動物の名称を組み合わせてみた結果、語感の響き等から「かなめくじ」を選ぶに至ったことなど)が詳細に記載されている。
(イ) 原告文書3は、上記のとおり、懲戒請求手続において東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出された答弁書であり、その文書の性質上、当然に記載すべき項目(表題、日付等の形式的記載事項や、懲戒請求理由に対する認否等)を含むものであるということができる。しかし、これらのうち、懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否、被調査人(原告)の主張については、記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく、どのような順序で、どのような表現により、どの程度記載するかにつき様々な可能性があり得ることは原告文書2と同様であるところ、原告文書3は、これらの点について工夫がみられ、特に被調査人(原告)の主張の内容及び表現はこの種文書において一般的なものとはいい難いものというべきである。そうすると、原告文書3には、作成者の個性が表現として表れているものとみることができる。
(ウ) したがって、原告文書3は思想又は感情を創作的に表現したものに当たり、著作物性が認められる。
(3) 小括
 以上のとおり、原告文書1には著作物性が認められないから、原告文書1に係る原告の請求(被告各ブログにおける原告文書1を掲載して使用することの差止請求及び損害賠償請求)については、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
 したがって、原告文書2及び3についてのみ、以下の争点につき検討する。
2 争点(2)(公衆送信権侵害の成否)
(1) 被告Y1の行為について
ア 前記前提事実(3)ア(イ)のとおり、被告Y1は、被告ブログ1中の被告記事4及び5において、「『toubensyo-01.pdf』をダウンロード」等の文字を掲載しているところ、上記文字の掲載は、本件各URLの掲載と同視することのできるものであり、これらの文字をインターネット接続環境下でクリックすることにより、被告ブログ1中の原告文書3のpdfファイルを掲載する本件各URLに移動し、上記ファイルを閲覧することができるものである。
イ そうすると、被告Y1が、被告ブログ1中の被告記事4及び5において本件URLを掲載して使用することにより、被告ブログ1の利用者が、上記アの方法によりダウンロードされた原告文書3を閲覧することができることが明らかであり、実際に利用者により原告文書3がダウンロードされているものと認められる。そして、被告Y1が本件URLを掲載して使用することは、それによって被告ブログ1の利用者が原告文書3をダウンロードし、原告文書3について原告が有する公衆送信権を被告Y1が侵害する行為を引き起こす行為であり、原告は、被告Y1による本件URLの掲載、使用を差し止めることができるものというべきである。
ウ 以上のとおり、被告Y1は原告の原告文書3に係る公衆送信権を侵害する行為をしており、原告は被告Y1による本件各URLの掲載、使用を差し止めることができるものというべきである。
(2) 被告Y2の行為について
ア 前記前提事実(3)イ(ア)及び(イ)のとおり、被告Y2は、被告ブログ2中の被告記事3において原告文書2を、被告記事6において原告文書3を各掲載しているものであり、これにより、原告文書2及び3を公衆送信しているものと認められる。
イ この点に関し、被告Y2は、原告文書2及び3の掲載は著作権法32条1項の引用に当たるから、上記アの行為に公衆送信権侵害は成立しない旨主張する。
 しかし、前記前提事実(2)イ及びウのとおり、原告文書2は東京行政書士会における苦情申告手続において提出された苦情申告書であり、原告文書3は、東京弁護士に対する懲戒請求に関し、東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出された答弁書であるところ、いずれの手続も、担当委員会内における非公開での審理が予定されているものであるから(甲18ないし20)、このような手続において提出された原告文書2及び3について、「発行」(著作権法3条1項)されたものと認めるに足りる程度の複製物の作成及び頒布(公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物の作成及び頒布)がされたものとは認められない。また、上記のとおり各手続が非公開とされていることに照らし、原告文書2及び3が、原告又はその許諾を得た者によって公衆送信等の方法で公衆に提示されたものとも認められない。そうすると、原告文書2及び3は、いずれも「公表」(同法4条1項)されたものと認めることができず、「公表された著作物」(同法32条1項)に当たらないから、被告Y2の行為が同法32条所定の引用に当たるものとは認められない。
ウ したがって、被告Y2の上記行為は、原告の公衆送信権を侵害するものに当たる。
3 争点(3)(公表権侵害の成否)
(1) 被告Y1の行為について
 前記2(1)のとおり、被告Y1は、本件各URLに原告文書3のpdfファイルを掲載することにより、被告ブログ1の利用者に原告文書3の公衆送信を行っているものと認められるところ、前記2(2)のとおり、原告文書3は「まだ公表されていないもの」(著作権法18条1項)であると認められるから、被告Y1の上記行為は原告文書3に係る原告の公表権を侵害するものに当たる。
(2) 被告Y2の行為について
 前記2(2)のとおり、被告Y2は、「まだ公表されていないもの」(著作権法18条1項)である原告文書2及び3を被告ブログ2に掲載し、公衆に提示したものと認められるから、上記行為は原告文書2及び3に係る原告の公表権を侵害するものに当たる。
4 争点(4)(原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり、又は本件訴訟が訴権の濫用に当たるか。)
(1) 前記1ないし3でみたところによれば、被告Y1が被告ブログ1において原告文書3を公衆送信すること並びに被告Y2が被告ブログ2において原告文書2及び3を掲載することが、原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)を侵害するものに当たることは前記のとおりであるから、原告が上記行為の差止めを求めることは正当な権利の行使に当たるというべきであり、これが権利濫用に当たるものとは認められない。
(2) 被告らの指摘する諸事情に加え、本件に現れた一切の事情を考慮しても、原告による本件訴訟の提起が訴権の濫用に当たるとは認められない。
5 争点(5)(原告の損害及び損害額)
(1) 前記2及び3のとおり、被告Y1が被告ブログ1の利用者に対し原告文書3を公衆送信した行為及び被告Y2が被告ブログ2において原告文書2及び3を掲載した行為は、原告の公衆送信権及び公表権を侵害するものであると認められる。
(2)ア しかし、原告は、上記侵害による損害として慰謝料のみを請求しているところ(訴状7頁)、著作財産権である公衆送信権侵害により、原告に、慰謝料請求の基礎となるべきような精神的苦痛が生じたものとは認められない。
イ また、公表権は、自己の著作物を公表するか否かを決定し、かつ、公表する場合における方法・時期等を決定する権利であると解することができるところ、原告は、原告文書3は、原告の承諾なしに公表等された場合のことも視野に入れて、イメージ効果や社会的影響力も考慮して作成したものである旨主張している上(平成24年11月21日付け原告第2準備書面4頁)、原告がインターネット上で公開しているブログ中には、原告が、被告ブログ1のプロバイダに対し原告文書3の削除を求める仮処分命令申立てを行ったことに関し、「今回の仮処分申立ては、はっきり言って、新しい削除仮処分の実験です。すなわち、新しい削除仮処分の類型として、著作権を理由とした削除の仮処分の申立て方法を試みるために、ちょうどいい実験台がいたので、ブログに掲載することを見越して、わざとひな型のないような答弁書を作成して、今回の申立てへと持っていったわけです。」と記載していることが認められる(乙1、15)。これに加えて、原告と被告らは、被告Y1が、被告ブログ1に、原告が代理人を務める会社に関する記事を掲載したことを発端として、各運営するブログにおいて、相手方の言動について記載し、これを非難する内容の記事を掲載し合っており、被告各記事もその中で掲載されるに至ったものであるとみられること(乙1、15ないし17)を考慮すれば、原告において、原告文書2及び3が、被告らのいずれかによりインターネット上に掲載され、公表されることを予期していたばかりか、原告において、これを誘引した面もあるものとみることができるというべきである。
 以上の事情に加えて、原告が、慰謝料額の根拠に関し、被告Y1が別訴事件において主張する精神的苦痛に対する慰謝料と同額である150万円を下らない旨主張するのみで、原告が精神的苦痛を被ったこと及びその内容について何ら具体的主張立証をしないことも考慮すれば、原告文書2及び3の公表により、原告に、慰謝料請求の基礎となるべきような精神的苦痛が生じたものとは認められない。
ウ 以上によれば、原告による公衆送信権及び公表権侵害に基づく慰謝料請求は理由がない。
第5 結論
 よって、原告の請求は、被告Y1に対し被告ブログ1において被告記事4及び5に含まれる本件URLを掲載して使用する行為及び被告Y2に対し被告ブログ2において被告記事3及び6に含まれる原告文書2及び3を掲載して使用する行為の差止めを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、仮執行宣言については適切ではないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 大須賀滋
 裁判官 小川雅敏
 裁判官 森川さつき
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