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【事件名】サムスン vs アップル特許侵害事件(2)
【年月日】平成25年6月25日
 知財高裁 平成24年(ネ)第10084号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成23年(ワ)第27941号)
 (口頭弁論終結日 平成25年3月21日)

判決
控訴人(原告) アップルインコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士 長沢幸男
同 矢倉千栄
同 永井秀人
同 稲瀬雄一
同 石原尚子
同 金子晋輔
同 蔵原慎一朗
同 片山英二
同 北原潤一
同 岡本尚美
同 岩間智女
同 梶並彰一郎
同弁理士 加藤志麻子
同 大塚康徳
同補佐人弁理士 大塚康弘
被控訴人(被告) 日本サムスン株式会社
被控訴人(被告) サムスン電子ジャパン株式会社
両名訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 市橋智峰
同 井上義隆
同 小林英了
同 飯塚暁夫
同 三村量一
同 田中昌利
同 井上聡
同 逵本憲祐
同 岡田紘明
同弁理士 鈴木守
同補佐人弁理士 大谷寛


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 控訴人は、原判決取消しとともに、被控訴人らに対し、原判決の請求欄に記載のとおりの金銭給付を命じる判決を求めた。
第2 事案の概要
1 控訴人は、発明の名称を「メディアプレーヤーのためのインテリジェントなシンクロ操作」とする本件特許第4204977号の特許権者であるが、被控訴人らが原判決別紙被告製品目録記載1ないし8の各製品を輸入、販売等する行為が同特許権の間接侵害(特許法101条5号)に当たると主張して、1億円の損害賠償と遅延損害金の支払を求めた。原判決は請求を棄却した。
2 前提事実及び争点
 原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 争いのない事実等」及び「3 争点」(原判決1頁23行目から7頁8行目)に記載のとおりである。
第3 当事者の主張
 争点に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決7頁9行目から30頁7行目)に記載のとおりである。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原判決の認定判断を支持するものであって、控訴人の請求は理由がないものと判断する。
 その理由は、控訴理由にかんがみ次の2、3のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1ないし4(原判決30頁9行目〜50頁23行目)記載のとおりである。
2 本件特許のうちの請求項11の本件発明1、請求項13の本件発明2、請求項14の本件発明3の構成要件中、主として充足の有無が争われているのは、本件発明1のG1、本件発明2のG2である。
 G1、G2の構成要件を改めてここに掲記すると、次のとおりである。
(G1) 「前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し、両者が不一致の場合に、両者が一致するように、前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。」
(G2) 「当該プレーヤーメディア情報と当該ホストメディア情報とを比較し、両者の一致または不一致を示す比較情報に基づいて、前記メディアプレーヤーと前記ホストコンピュータとの間でメディアコンテンツのシンクロを行ない、 」
3 原判決は、ここにいう「メディア情報」とは、一般的なファイル情報の全てを包含するものではなく、音楽、映像、画像等のメディアアイテムに関する種々の情報のうち、メディアアイテムに特有の情報を意味する、と判断した。
 控訴人は、本件発明の「メディア情報」は「メディアアイテムに特有の情報」ではなく「メディアアイテムに関する情報」と解すべきであることを前提に、原判決で、ファイルサイズが構成要件G1及びG2における「メディア情報」には該当しないと判断したのは誤りであると主張する。
 この点についての判断は、原判決が37頁以下の(2)、(3)で説示したとおりであるが、なお次のとおり補足して判断する。
 本件明細書(甲2)の記載によれば、本件発明は、「ホストコンピュータおよび/またはメディアプレーヤー上のメディアコンテンツをシンクロまたは管理するための改良されたアプローチのための改良された技術」(段落【0005】)として、メディアコンテンツのシンクロ処理において、ファイル名や更新日ではなく、「メディア情報」を比較することにより、シンクロを「データ転送の量が比較的低いか最小限にされるよう適切に管理されるよう」(段落【0022】)にし、「その結果、シンクロプロセスは、よりインテリジェントに実行されえる」(段落【0010】)ようにしたものであり、また、本件特許請求の範囲における文言上、「ファイル情報」と規定することなくあえて「メディア情報」と規定しているばかりか、本件明細書等においても、「メディアアイテムが有するファイル情報」などとの用語ではなく、あえて「メディア情報」の用語が用いられ、しかも、その用語は、「メディア情報は、メディアアイテムの特徴または属性に関する」(段落【0040】)などと、メディアアイテムに関連付けて表現されていることが認められるから、本件発明における「メディア情報」とは、一般的なファイル情報の全てを包含するものではなく、音楽、映像、画像等のメディアアイテムに関する種々の情報のうち、メディアアイテムに特有の情報を意味するものと解するのが相当である。
 「メディア情報」なる用語はその語そのものからいかなる情報までを包含するか明確でなく、当該発明の技術的課題や作用効果を参酌してその意義を解釈しなければならないところ、原判決は、特許請求の範囲における構成要件の記載や本件明細書の記載等を踏まえて、「メディア情報」を上記のように解釈したものであり、引用した上記各記載に照らしても、その判断を支持することができる。
 以上の説示に照らし、ファイルサイズが「メディア情報」に含まれないことは、原判決も「原告の主張について」と題して39頁以下のイの項で詳細に説示しているとおりであり、当裁判所が付加すべき理由はない。控訴人の上記主張は理由がない。
4 控訴人は、原判決が、構成要件G1及びG2における「メディア情報」の比較においてプレーヤーメディア情報とホストメディア情報に含まれる情報の全てを比較する必要があると判断したのは、誤りであり、当事者双方がいずれも主張していなかった独自のクレーム解釈を不意打ち的に採用したものであって、弁論主義違反の違法があると主張する。
 この点については、原審において十分に攻撃防御が尽くされているから、原判決に弁論主義違反の違法はない。
 そして、この点の原判決の判断は45頁以下のイで説示されているとおりである。なお、以下のとおり補足して判断する。
 原判決は、特許請求の範囲の記載から、構成要件G1及びG2におけるメディア情報の比較は、「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての比較を要求していることが当然に前提とされており、一義的に明らかであると解したが、この解釈も、原判決の説示に照らして支持することができる。
 上記のとおり、特許請求の範囲の記載自体からみて控訴人の主張は理由がないが、念のため控訴人の主張をみてみる。
 本件明細書の段落【0021】には、「ある実施形態によれば、プレーヤーメディア情報およびホストメディア情報の比較は、さまざまなメディアアイテムのメディア属性を用いて実行されえる。具体的には、もしそのメディア属性が充分に一致するなら、メディアプレーヤー上のメディアアイテムは、ホストコンピュータ上にあるものと同じメディアアイテムであるとみなされえる。」との記載に続いて、「メディア属性の例には、タイトル、アルバム、トラック、アーチスト、作曲家およびジャンルが含まれる。これらの属性は、特定のメディアアイテムについて(ママ)特定である。さらに他のメディア属性は、メディアアイテムのクオリティの特徴(quality characteristics)に関しえる。そのようなメディア属性の例には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップおよび総時間が含まれる。」と記載されており、この記載から、本件発明における、メディアプレーヤー上のメディアアイテムとホストコンピュータ上のメディアアイテムとで比較されるべきメディア情報(「プレーヤーメディア情報」及び「ホストメディア情報」)は、タイトル、アルバム、アルバムアーチストなどのメディア属性が含まれることを前提とし、これに他のメディア属性である「ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップおよび総時間」等の「メディアアイテムのクオリティの特徴」を含める構成と、これを含めない構成のいずれもが可能と認められる。
 そのうえで、本件明細書の段落【0021】には、「もし上述のメディアプレーヤー上のメディアアイテムに関するメディア属性(例えばタイトル、アルバム、トラック、アーチストおよび作曲家)が、ホストコンピュータ上のメディアアイテムに関する同じメディア属性に全て一致するなら、異なるデバイス上に記憶された2つのメディアアイテムは、さらなる属性または特徴がこれらのメディアアイテムが互いに完全な複製でないと判定されえるとしても、同一であるとみなされえる。」と記載されており、この記載からも、プレーヤーメディア情報およびホストメディア情報の比較において、メディアプレーヤー上のメディアアイテムに関するメディア属性が、ホストコンピュータ上のメディアアイテムに関する同じメディア属性に全て一致する場合に、両者が同一であるとみなされ得ると解される。
 このように、本件明細書の記載をみても、特許請求の範囲からの前記解釈は裏付けられるのであり、控訴人の主張は理由がない。
第5 結論
 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 塩月秀平
 裁判官 池下朗
 裁判官 古谷健二郎は転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官 塩月秀平
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