判例全文 | ||
【事件名】総合格闘技“UFC”動画アップロード事件 【年月日】平成25年5月17日 東京地裁 平成25年(ワ)第1918号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成25年3月25日) 判決 原告 ズッファエルエルシー 同訴訟代理人弁護士 高松薫 同 多田光毅 同 大澤俊行 同 田畑千絵 同 永井幸輔 被告 A 主文 1 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成25年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、総合格闘技競技である「Ultimate Fighting Championship」(以下「UFC」という。)の大会及び試合を撮影・編集した映像作品である別紙一覧表「作品名」欄記載の作品(以下「本件各作品」という。)の著作権を有する原告が、被告は、本件各作品をウェブサイト「ニコニコ動画」にアップロードし、原告の公衆送信権を侵害したと主張し、上記著作権侵害の不法行為により原告が被った損害(ライセンス料相当額の逸失利益〔著作権法114条3項〕合計4681万9740円、信用毀損による無形損害1000万円及び弁護士費用600万円)のうち、別紙一覧表11番の作品(以下「作品11番」という。)の掲載による逸失利益395万1600円、同26番の作品(以下「作品26番」という。)の掲載による逸失利益419万9700円及び同68番の作品(以下「作品68番」という。)の掲載による逸失利益205万1100円の一部である184万8700円(合計1000万円)並びにこれらに対する訴状送達日の翌日である平成25年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 第3 当事者の主張 1 原告の主張(請求原因) (1) 原告の著作権 原告は、本件各作品の企画・製作を行っており、その著作権を有している。 (2) 本件各作品の著作物性 ア 本件各作品は、いずれもUFCの大会及び各試合を撮影・編集した映像作品であるが、@単に定点から機械的に試合を撮影したものではなく、構図、カメラアングルなどに工夫を凝らすことで総合格闘技の有する迫力をより迫真的に伝えている点及びA単に撮影した映像をそのまま使用するのではなく、複数のカメラで撮影した映像をつなぎ、また、試合に関する情報を写真や文字で付加し、音声で解説を加えることで、試合の情報をより分かりやすく伝える点で、思想又は感情を創作的に表現したものに当たる。 イ 作品11番、26番及び68番の著作物性 (ア) 作品11番、26番及び68番は、各選手が入場する場面から選手や観客の表情を移動型のカメラを含む複数台のカメラで撮影しており、現場の臨場感や選手の緊張感等を克明に表現している。また、試合開始前には各選手のプロフィールを掲載し、マッチオフィシャルによる選手のチェック、リングアナウンサーによる選手の紹介、レフェリーによるブリーフィングの様子等も紹介しており、臨場感を更に高めている。さらに、試合が開始されてからは、様々な角度、距離から、各選手の繰り出す技や表情が鮮明に映し出されるように様々なシーンが組み合わされており、総合格闘技の有する迫力をより迫真的に伝えるものとなっている。特に、ノックアウトシーンについては、スローモーションの映像や、複数の角度から同じシーンを撮影した映像、ノックアウトされた選手の表情を抜き取った映像を組み合わせるなどの工夫が凝らされている。 (イ) 以上のとおり、作品11番、26番及び68番は、構図、カメラアングル、映像の加工、写真や文字の付加、音声による解説等を組み合わせることにより、総合格闘技の有する迫力をより迫真的に伝えるとともに、試合の情報をより分かりやすく伝えるものであり、思想又は感情を創作的に表現したものといえる。 ウ したがって、本件各作品はいずれも著作物に当たる。 (3) 被告の不法行為 ア 被告は、別紙一覧表「本件侵害行為の日時」欄記載の日時及び場所において、84回にわたり、本件各作品を、株式会社ニワンゴがウェブサイト「ニコニコ動画」を運営するために設置して管理する、自動公衆送信装置であるサーバコンピュータ内の公衆送信用記録媒体に記録・保存し、インターネットを利用する不特定多数の者に対する自動公衆送信が可能な状態にし、原告の著作権(公衆送信権)を侵害した。 イ 被告は、プロバイダから、原告がプロバイダに対して送付した発信者情報開示請求書の送付を受けており、上記請求書には、本件各作品が原告の著作物であること等が記載されている上、動画の削除の際には、著作権者からの著作権侵害に基づく削除申立てがあった旨が明示されるにもかかわらず、新たなアカウントを用いるなどして、1年以上にわたり、本件各作品をアップロードし続けたのであり、被告が、本件各作品が原告の著作物であると知った上で、故意により著作権侵害を行ったものであることが明らかである。 (4) 原告の損害 ア 本件各作品の掲載によるライセンス料相当額の逸失利益(著作権法114条3項) 合計4681万9740円 (ア) 本件各動画は、別紙一覧表「再生回数」欄記載の回数にわたり再生されている。 (イ) 原告は、TVバンク株式会社(以下「TVバンク」という。)との間で、UFCの映像作品をインターネット配信する権利を許諾する契約を締結しており、同契約により、同社が同作品を配信することによる収入の60%が原告に対して支払われる。 (ウ) TVバンクは、UFCの映像作品を、次の基準により販売している。 a 「ナンバーシリーズ」の大会のメインカード 500円 b 「ナンバーシリーズ」以外の大会のメインカード 350円 c メインカードの前座(Prelim)の試合 200円 TVバンクが実際に販売を行わなかった試合についても、販売を行うとすれば、上記基準に従って販売価格が決定されることになる。 (エ) 別紙一覧表「販売価格」欄記載の金額は、上記基準に従い、各試合の販売価格を整理したものである。原告は、TVバンクが本件各作品を1回販売する毎に、上記「販売価格」欄記載の各金額に60%を乗じた金額をライセンス料として受領することになる。 (オ) 現在、日本において原告がUFCの映像作品のインターネット配信を許諾しているのはTVバンクのみであるから、原告が本件各作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の算定は、TVバンクとの間の上記ライセンス料を基準とするのが相当である。 本件では、本件各作品の再生回数を、本件各作品の販売数と同視することができるから、著作権法114条3項に基づく損害額は、「本件各作品の販売価格×60%×再生回数」によって算定される。 (カ) 以上を前提に、本件各作品の掲載によって原告が被った損害を算定した結果は別紙一覧表「販売利益相当額」欄記載のとおりであり、原告に生じた損害額は、その合計額である4681万9740円を下回るものではない。 イ 信用毀損による無形損害 1000万円 (ア) 原告は、UFCの映像作品の有料放送・配信のライセンシーを限定し、著作権侵害者に対し厳格な態度で臨むなどして、その品質保護等に努めており、これにより、一般視聴者及び取引先企業から多大な信用を獲得しているところ、被告の上記不法行為は、一般視聴者及び取引先企業に、原告の品質保護・違法動画対策が不十分であり、かつ、本件各作品が映像の解像度や音声の点でクオリティが低いとの認識を与えるものであって、原告の上記信用を毀損するものであった。 また、原告の掲載した動画の再生画面上に書き込まれたコメントには、参加選手を誹謗中傷するものも多数含まれているところ、これによって原告の信用は著しく毀損された。 なお、被告は不特定多数の人物がUFCの大会や参加選手を誹謗中傷することがあることを認識しながら本件侵害行為に及んだものであり、コメントを書き込んだ者と同様の責任を負う。 (イ) 上記信用毀損による被害は甚大であって、これによる無形損害は少なくとも1000万円を下らない。 ウ 弁護士費用 600万円 原告は、本件紛争解決のため、弁護士に訴訟委任を行った。その費用は600万円を下らない。 エ 原告は、上記アないしウの各損害のうち、一部請求として、上記アの、作品11番の掲載による逸失利益の損害395万1600円、作品26番の掲載による逸失利益の損害419万9700円及び作品68番の掲載による逸失利益の損害205万1100円の一部である184万8700円の合計1000万円並びにこれらに対する訴状送達日の翌日である平成25年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告の主張 (1) 原告の主張(1)ないし(3)は認める。 (2) 原告の主張(4)は争う。 UFCの映像作品を視聴する層のうち、有料で視聴する層は限定されている。また、ニコニコ動画においては、動画を開くと同時に再生回数が1回とカウントされるため、動画を視聴していないにもかかわらず再生回数としてカウントされることがあり得る。したがって、再生数に販売価格を掛けることにより損害額を算出するのは相当ではない。 第4 当裁判所の判断 1 準拠法 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)によれば、著作物の保護の範囲は、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによるとされるから、我が国における著作権の有無等については、我が国の著作権法を準拠法として判断すべきである。我が国とアメリカ合衆国(以下「米国」という。)は、ベルヌ条約の同盟国であるところ、本件各作品の著作者は、米国法人である原告であると認められるから(甲1の1ないし37)、我が国において著作権法による保護を受ける(著作権法6条3号、ベルヌ条約5条(1)、2条(1))。なお、著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法的性質は不法行為であり、法の適用に関する通則法17条により準拠法を決定するべきであるところ、本件において、同条にいう「加害行為の結果が発生した地」は日本国内であると認められるから、我が国の法律がその準拠法となる。 2(1) 以上を前提に、まず、本件各作品のうち、原告が請求の根拠とする作品11番、26番及び68番の著作物性について検討する。 作品11番、26番及び68番は、いずれも、総合格闘技であるUFCの大会における試合を撮影した動画映像であり、各場面に応じて被写体(選手、観客、審判等)を選び、被写体を撮影する角度や被写体の大きさ等の構図を選択して撮影・編集され、映像に、選手等に関する情報等を文字や写真により付加する等の加工を加えたものである(甲16の1ないし3)。このように、作品11番、26番及び68番は、試合の臨場感等を伝えるものとするべく、被写体の選択、被写体の撮影方法に工夫がこらされ、また、その編集や加工により、試合を見る者にとって分かりやすい構成が工夫されているものということができるのであって、思想又は感情を創作的に表現したものであると認められるから、映画の著作物に該当する。 (2) 原告は、作品11番、26番及び68番の企画・製作を行った者であり、映画製作者としてそれらの著作権を有するものと認められる(甲1の8、16、32)。また、被告が上記各作品について別紙一覧表の番号11、26及び68に記載の日時、場所において、パーソナルコンピュータを使用して、株式会社ニワンゴがウェブサイト「ニコニコ動画」を運営するために設置して管理するサーバコンピュータ内の記録媒体に、作品11番、26番及び68番の情報を記録・保存し、インターネットを利用する不特定多数の者に対し自動公衆送信し得るようにしたこと、被告が故意により上記行為に及んだことについては、当事者間に争いがない。 (3) 株式会社ニワンゴが設置・管理する上記サーバコンピュータは、公衆からの求めに応じ自動的に公衆送信を行うものであり、上記サーバコンピュータ内の上記記録媒体は、上記サーバコンピュータの記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分であると認められるから(甲2の1ないし84)、上記サーバコンピュータは自動公衆送信装置であり、上記記録媒体は公衆送信用記録媒体に当たるものと認められる。 したがって、被告の上記(2)の行為は、作品11番、26番及び68番を送信可能化するものであり(著作権法2条1項9号の5イ)、原告の公衆送信権(同法23条)を侵害するものに当たる。 (4) よって、被告は、原告に対し、著作権(公衆送信権)侵害の不法行為責任に基づく損害賠償義務を負う。 3 損害額 (1) 証拠(甲5の1・2、6、7の1ないし45、8の1ないし14、9の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア 原告は、UFCの試合を撮影した映像作品(本件各作品を含む。)のインターネット配信について、TVバンクとの間でライセンス契約を締結しており、上記契約において、原告は、上記配信によりTVバンクに生じた収入が歴月計算において1200万円を超えない限度において、その60%を取得するものとされていた。 イ TVバンクにおけるインターネット配信料は、その注目度に応じ、試合種別により異なるものとされており、具体的には次のとおりであった。 (ア) 「ナンバーシリーズ」(大会タイトル上、「UFC」の後に31から140までのいずれかの番号が付されているシリーズ)の大会のメインカードの試合 500円 (イ) 「ナンバーシリーズ」以外の大会(「UFC Fight Night」及び「UFC on Versus」)のメインカードの試合350円 (ウ) メインカードの前座(Prelim)の試合 200円 ウ 作品11番及び26番は各500円でインターネット配信されていたものである。また、上記イ(ア)ないし(ウ)の区分に照らし、作品68番は、インターネット配信する場合、配信料を500円とすべきものであったと認められる。 エ 作品11番、26番及び68番は、下記(ア)ないし(ウ)記載の期間において、次の回数にわたり再生された。 (ア) 作品11番 平成22年9月27日から同年11月5日まで 1万3172回 (イ) 作品26番 平成22年10月24日から同年11月5日まで 1万3999回 (ウ) 作品68番 平成22年11月22日から平成23年1月5日まで 6837回 (2) 以上の事実に照らすと、作品11番、26番及び68番に係る被告の侵害行為により、上記各作品が再生される毎に、原告に損害が生じたものと認められ、TVバンクにおける配信料相当額である500円に再生回数を乗じ、更に60%を乗じた金額に相当する額を上記損害額とみるのが相当である(著作権法114条3項)。 原告の損害額は、具体的には次のとおりである。 ア 作品11番 500円×1万3172回×60%=395万1600円 イ 作品26番 500円×1万3999回×60%=419万9700円 ウ 作品68番 500円×6837回×60%=205万1100円 (3) 本件訴状の送達日は平成25年2月1日であり(当裁判所に顕著)、同日の翌日である同月2日は、被告による本件不法行為日より後の日であると認められる。 4 以上によれば、原告は、著作権(公衆送信権)侵害の不法行為責任に基づき、作品11番の掲載による損害として395万1600円、作品26番の掲載による損害として419万9700円、作品68番の掲載による損害として205万1100円の一部である184万8700円(合計1000万円)及びこれに対する平成25年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができ、原告の請求は理由がある。 第5 結論 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋 裁判官 小川雅敏 裁判官 森川さつき |
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