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【事件名】“薬剤便覧”の編集著作物性事件(2)
【年月日】平成25年4月18日
 知財高裁 平成24年(ネ)第10076号 出版差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成20年(ワ)第29705号)
 (口頭弁論終結日 平成25年2月28日)

判決
控訴人 株式会社南江堂
同訴訟代理人弁護士 松田政行
同 藤原宏
同 武田昇平
同 三浦希美
同 関口尚久
同訴訟復代理人弁護士 包城偉豊
被控訴人 株式会社じほう
同訴訟代理人弁護士 三村量一
同 平津慎副
同 小松隼也


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、101万2430円及び内金81万2430円に対する平成20年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを50分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
3 この判決は、1(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、5536万円及び内金4536万円に対する平成20年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
4 仮執行の宣言
第2 事案の概要
 略称は、審級による読替えをするほか、原判決に従う。また、書証については、特に断らない限り、枝番のあるものは枝番を含む。
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が「治療薬ハンドブック2008 薬剤選択と処方のポイント」(被控訴人書籍)を印刷及び販売する行為は、「今日の治療薬 解説と便覧2007」(控訴人書籍)について控訴人が有する著作権(複製権及び譲渡権。いずれも著作権法28条に基づくものを含む。)の共有持分の侵害に当たる旨主張して、不法行為に基づく損害賠償及び弁護士費用を除く損害に対する遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原判決は、被控訴人書籍は、編集著作物としての控訴人書籍を複製又は翻案したものとはいえないとして、控訴人の請求を棄却した。そこで、控訴人が、これを不服として控訴した。
3 争いのない事実等及び争点は、原判決の「事実及び理由」第2の2及び3記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当事者の主張
 当事者の主張は、以下のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」第3記載のとおりであるから、これを引用する。
〔控訴人の主張〕
1 依拠性
(1) 依拠性の根拠
 著作権侵害の主観的要件を含む依拠性とは、既存の著作物の表現内容を認識し、その表現を利用して自己の作品を創作することをいう。「類似性」と「依拠性」は、全く別の要件であるが、両者が相関する現象も起こり得る。
 控訴人は、依拠性の根拠として、@控訴人書籍の分類及び配列を基にした解説部分の図表の存在、A「ステロイド外用薬」の分類の類似、B薬剤の配列順序の不自然な類似点、C内容見本段階における一般名配列の同一性、D索引部分の選択・配列の類似、E大分類「漢方薬」の適応症における疾患・症状の記載順序の一致、F大分類「漢方薬」における処方名の配列の一致等を指摘した。
(2) 被控訴人の主張について
 被控訴人の反論によれば、控訴人の指摘する一致点は、偶然の産物であるということになる。しかしながら、両書籍の表現自体の類似性に加え、上記(1)の各点まで偶然にもそろって一致するなどということはあり得ない。
ア 解説部分における分類説明について
 控訴人が挙げた根拠@につき、被控訴人は、解説部分の執筆者と便覧部分の編集作業を行った者が異なるため両者の配列に差異が生じた、そもそも解説部分と便覧部分の配列が完全に一致しなければならない理由はない旨主張する。
 しかしながら、控訴人は、被控訴人書籍の便覧部分と解説部分の不一致そのものを問題にしているわけではないから、反論は的外れである。問題の核心は、被控訴人書籍の解説が、何故に、被控訴人書籍の便覧部分ではなく、控訴人書籍の便覧部分の分類及び配列と一致しているのかである。被控訴人が主張するような一定の編集方針に基づき、被控訴人書籍の便覧部分が作成され、解説部分が作成されているのであれば、かかる不一致が生ずるのは不可解である。他方で、被控訴人書籍の解説部分の表の分類は、控訴人書籍の便覧部分の分類にほぼ一致するところ、何故にかかる一致が生じたのかについて、被控訴人は合理的説明を行っていない。
イ 「ステロイド外用薬」の分類について
 控訴人が挙げた根拠Aにつき、被控訴人は、被控訴人書籍の分類は、「薬効・薬理別 医薬品事典」に基づくもので控訴人書籍とは無関係である旨主張する。
 しかしながら、被控訴人書籍における「テラ・コートリル」の分類は「薬効・薬理別 医薬品事典」のそれと異なっており、被控訴人書籍における「ステロイド外用薬」の分類は、必ずしも「薬効・薬理別 医薬品事典」の分類そのものではない。
ウ 薬剤の配列順序について
 控訴人が挙げた根拠Bにつき、被控訴人は、被控訴人書籍では、被控訴人独自の一定の基準に基づき薬剤を選択及び配列したもので、控訴人書籍に依拠したものではない旨反論する。
 しかしながら、控訴人が指摘した薬剤のうち、被控訴人が自認するほとんどの薬剤について、被控訴人が主張する基準に則った配列とはなっていない。一定の基準を定め編集しているというのであれば、何故このような基準どおりでない場合が多数生じ、さらにそれが控訴人書籍の配列と一致するのか、疑問である。
 被控訴人は、「編集作業上のミス」を理由に挙げるが、偶然にすぎる。独自の編集方針に基づき編集を行っているにもかかわらず、「編集作業上のミス」によってたまたま控訴人書籍と似通ってしまったという被控訴人の弁解は、いかにも苦しい言い訳というほかない。
エ 見本における一般名の配列について
 控訴人が挙げた根拠Cにつき、被控訴人は、見本作成段階では、薬剤データを作業単位ごとに管理しており、それら相互間の配列を確定することなく編集作業を行っていたとして、被控訴人書籍の編集作業が控訴人書籍の配列を参考に行っていたという前提が誤っている旨主張する。
 しかしながら、被控訴人は、見本段階での配列がいかなる理由で、いかなる基準により並べられたものなのか、という肝心の点について、説明を避けている。被控訴人が、「日本医薬品集」のデータを基に、薬剤のデータの編集作業を行っていたとすれば、何故に、見本段階において「日本医薬品集」が採用する50音順や、被控訴人書籍での配列基準と主張する50音順の一部変形の順序とは異なる順序になっているのか、また、何故に、配列を参考にしていない控訴人書籍と、その配列が一致することになるのか、説明がつかない。被控訴人書籍の見本の便覧部分に収録されている薬剤の配列は、控訴人書籍においては「カルスロット」と「ニューロタン」の間にいくつかの中分類、小分類に属する薬剤が配置される点が異なるものの、その余の配列は完全に同一であり、偶然というには余りにもできすぎである。
オ 索引部分について
 控訴人が挙げた根拠Dについて、被控訴人は、控訴人が挙げた控訴人書籍の索引部分の特徴の7要素のうちの1要素のみを取り出し、他の特徴について反論していない。
 また、これらの控訴人書籍の索引部分の特徴が、仮に「単なる工夫」レベルのものであったとしても、それにより依拠性の根拠の否定に結びつけるのは飛躍である。通常、書籍の索引は、検索対象の用語とその掲載頁を記載する程度であるところ、控訴人書籍では、検索の便宜のために上記の7要素による工夫を施している。ここで問題とすべきは、それら通常の書籍の索引には見られない特徴が、7要素ともに被控訴人書籍では採用されている点である。
カ 漢方薬での「疾患」−「症状」の順の記載について
 控訴人が挙げた根拠Eにつき、被控訴人は、被控訴人独自の編集方針に基づき、「疾患」−「症状」の記載順序になったもので、その記載順序は控訴人書籍とは無関係である旨主張する。
 しかしながら、かかる被控訴人書籍での記載順序が控訴人書籍と一致すること、被控訴人がこれまでに発行してきた「日本医薬品集」や「最新治療薬リスト」では、被控訴人書籍とは異なり「症状」−「疾患」の順序が採られていたこと、他の類書でも「疾患」−「症状」の順序とする例は見られないことに変わりはない。また、依拠を疑わせる他の点でも多くの一致や類似が見られる。
キ 漢方薬での「処方名」の配列の一致について
 控訴人が挙げた根拠Fにつき、被控訴人は、「桂枝加朮附湯」−「桂枝加苓朮附湯」との配列について、製品番号が共通するからこれを並べて配列したにすぎない旨主張する。
 しかしながら、同じ製品番号を有する処方名は、上記のものにとどまらないから、被控訴人の主張には理由がない。
(3) その他の類似点
 以上のほか、控訴人書籍においては、1119個の漢方製剤及び1932個の生薬の中から、307個の漢方製剤及び2個の生薬(「ヨクイニンエキス散」、「ヨクイニンエキス錠」)を選択している。これは、類書に見られない控訴人独自の選択であるが、被控訴人書籍においても、控訴人書籍で選択された漢方製剤及び生薬と、完全に一致する選択がされている。
 上記事実は、被控訴人が、控訴人書籍の表現内容を認識し、意図的にその表現を利用したことを如実に物語っている。
(4) 小括
 以上のとおり、依拠性についての被控訴人の反論は、いずれも不合理極まりない。 控訴人書籍は、初版発行から約30年にわたり、医療従事者等の圧倒的な支持を受けて改訂を重ねてきた薬剤便覧のベストセラーである上に、被控訴人書籍は、臨床現場での多種類・多品種の薬剤選択に必要な情報を体系的かつコンパクトに便覧形式で収録する基本的コンセプトを同一にすることから、使用される場面及び読者層が同一で、かつ市場で完全に競合する同種の薬剤便覧であり、かかる同種書籍を作成するに当たり、被控訴人が控訴人書籍を入手し、参考にしなかったことは、およそ考えられない。なお、仮処分段階においては、被控訴人は、控訴人書籍へのアクセスを認めていた。
 また、控訴人は、控訴人分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択及び配列については、多数の利用許諾契約を締結しており、利用許諾を受けるのが商慣行である。
2 控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と配列について
(1) 控訴人の分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択の意義について
 控訴人が主張する分類体系に紐付いた個々の具体的薬剤の選択の創作性は、以下のとおりである。
ア 控訴人書籍における薬剤選択の特徴
(ア) 第1の特徴は、薬剤選択の基準となる独自の分類体系を編み出したことにある。すなわち、薬剤の分類体系それ自体は、控訴人書籍の編集に携わった現場の医療従事者及び編集者による長年の検討によって形成されてきたものであって、薬学的・純理論的な分類でなく、個々の具体的な薬剤を現場で検索することに資する分類である。特に、大大分類から中分類又は小分類までの分類体系の階層性は、個々の具体的な薬剤を選択する際の基準となる。また、控訴人の分類体系は、個々の具体的な薬剤の臨床現場での重要性や使用頻度を重要な基準の一つとして編み出されているので、分類体系を形成する過程で、そもそも臨床現場での重要性や使用頻度が低い類型の薬剤を選択しないための分類体系の構築が行われている。
(イ) 第2の特徴は、中分類までの分類体系が目次に反映されており、便覧部分においても大分類、中分類、小分類及び一般名までの分類名が表記され、索引部分においても個々の薬剤名や一般名の後ろに大分類名が表記されているなど、独自の分類体系が控訴人書籍の表現形式のレベルにおいて表現されていることである。
(ウ) 第3の特徴は、編集時点において存在する約2万点の膨大な薬剤の中から、まず、大大分類、大分類、中分類(又は小分類)に入る薬剤は何かという視点で、中分類(又は小分類)ごとに一般名付きで個々の具体的な薬剤群を選択したことにある。構造に基づくもの、作用機序に基づくもの及び効能に基づくものと多様であることからも、明らかである。
(エ) 第4の特徴は、中分類又は小分類ごとに選択した後、同じ中分類(又は小分類)に属する薬剤群の中から、控訴人書籍に赤丸表記で掲載する薬剤(商品名)と小活字で掲載する薬剤(商品名)とを選択したことにある。個々の薬剤については、1対1の関係で一般名が付されるので、控訴人書籍では便覧部分において、略称である「商品名」の上に「一般名」を明記するとともに、索引でも一般名による検索を可能としている。他方、一般名が同じでも、複数の製薬メーカーが同じ成分の薬剤を販売していることもあるので、控訴人書籍においては、コンパクト化の要請から臨床現場での重要性や使用頻度、執筆者の意向や読者の要望を考慮して、便覧部分に掲載する薬剤と掲載しない薬剤とを選択している。その意味で、一般名も選択の基準となっている。
イ 控訴人書籍における素材の選択によって具現された編集方法
 素材の選択に関しては、主に上記の特徴のうち、表現形式のレベルで控訴人書籍において表現されている独自の分類体系(第2の特徴)に基づき、中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群に該当すると考えられるものを編集者が選択したことであって、これは機械的・自動的に決定されるものではなく編集者の判断が加わること(第3の特徴)、選択された薬剤群の中から、コンパクト化の要請や、臨床現場における重要性や使用頻度などの観点から赤丸表記の薬剤として記載する個々の具体的な薬剤と小活字で掲載する個々の具体的な薬剤群を選択し、掲載しない薬剤を選び捨てたことであって、これは機械的・自動的に決定されるものではなく編集者の判断が加わること(第4の特徴)にあり、これが控訴人書籍の選択における本質的特徴となっている。
 一般論としては、編集著作物の選択及び配列は、選択された素材の属性を分類することによって配列が決まることが多いが、これに捕らわれて、属性から選択することを否定的に考えるべきではない。
(2) 控訴人分類体系の独自性
ア 控訴人分類体系の構築
(ア) 控訴人分類体系は、個々の具体的薬剤の選択及び配列の創作性の一内容をなしているだけでなく、約30年間にも及ぶ「今日の治療薬」出版史の中で、莫大な数の読者に受け入れられ、臨床現場において、極めて実践的に機能してきたという確固たる事実がある。これには、一覧性の高い便覧形式や控訴人独自のフォーマットはもちろん、日本標準商品分類(薬効分類)では到底達成することができない簡易迅速な検索を可能にした控訴人独自の分類体系が多大な寄与をしている。
(イ) 臨床現場の医師は、ある患者に具体的な薬剤を処方する際、誘引因子を特定して、これを除去するように指導するとともに、症状の程度や既往等を確認した上で、適応症、用法・用量、禁忌、副作用等の使用上の注意点、臨床成績、薬効薬理等に注意しながら、複数の薬剤から処方する薬剤を適切に決定しなければならない。
 薬剤の特徴、適応症、禁忌、副作用に関する情報が臨床現場で整理されておらず、ケースごとに、膨大な添付文書や解説書を確認しなければならなかった環境下においてはもちろん、日本標準商品分類に基づき整理された書籍等では、臨床現場における簡易迅速な薬剤及び薬剤情報の検索は極めて困難な状況にあった。
(ウ) そこで、控訴人は、上記のような臨床現場の医師や薬剤師らの思考過程に適切に沿いつつ、簡易迅速な検索環境を実現するためには、全部の診療科において処方される薬効別による大大分類の薬剤群と、診療科ごとに専門的に処方される部位別・疾患別による大大分類の薬剤群とは、別々にまとめて掲載して配列した方が、関連する薬剤が瞬時に系統立って検索しやすい点に着目し、また、日本標準商品分類においては、様々な階層の複数の箇所に分散して分類されている薬剤について、各種治療における処方実態や治療技術における実践的関連性を重視し、これらを一つの分類にまとめながらある程度の数量をもった階層ごとにまとめることが有用であると考え、多種類・多品種の薬剤をその効用、用途や使用頻度等に応じて、大大分類、大分類、中分類、小分類及び一般名による分類に体系化した5階層の構造を有する独自の分類体系を構築したのである。
イ 控訴人分類体系の控訴人書籍における特徴
 控訴人分類体系は、1つの薬剤が複数の分類箇所に該当する状況が必然的に生じる。他方で、控訴人書籍は、臨床現場で用いる薬剤便覧という性質上、そのコンパクト化を優先しなければならない。
 そこで、控訴人は、複数の効能を有する具体的薬剤については、当該薬剤の臨床現場の重要度合いに応じて主従関係を独自に決定し、主となる効能や作用部位等に該当する中分類等に収録してその薬剤情報を掲載するとともに、従となる他の中分類等では商品名のみを記載し主分類の頁を参照させる方式を原則として採用した。以上のような参照方式は、控訴人分類体系から生じる薬剤情報の重複問題と控訴人書籍のコンパクト化の要請を解決するために考案された控訴人書籍の顕著な特徴である。
ウ 独自性
 控訴人書籍が出版された当時、このような類書は全く存在しておらず、控訴人が独自の分類体系を作成した上、薬剤便覧部分において、高度の創作性を発揮しつつ、かかる分類体系に紐付けて個々の薬剤を選択及び配列してきたもので、控訴人書籍の薬剤便覧部分はその歳月と膨大な労力及び知的作業を抜きにしては創作できなかったものである。そして、控訴人は、控訴人書籍初版の分類体系、個々の薬剤の選択又は配列を単に維持するのではなく、各年度版の編集において、前年版の分類体系、個々の薬剤の選択又は配列の見直しを行い、編集を積み重ねた。
 その結果、控訴人書籍における分類体系は、臨床に携わる多忙な臨床医が個々の具体的な薬剤を処方する際又は医療従事者が個々の具体的な薬剤を調べる際、どういう分類体系が最も使いやすく、簡便に個々の具体的な薬剤を検索しやすいかを綿密に検討してたどり着いた高度の創作性を有する独自の分類体系となった。また、控訴人書籍は、同分類体系を具体的に表現した目次や便覧部分のインデックスと、かかる目次に表現された控訴人独自の分類体系に紐付けられて個々の具体的な薬剤を選択及び配列した体系的な表現形式である便覧部分とが相まって、読者である臨床医を始めとする医療従事者たちに長年にわたって支持されてきた高度の創作性を持った編集著作物となっている。
(3) 具体的薬剤選択の同一性について
ア 原判決の誤り
 原判決は、控訴人分類体系が具体的薬剤の選択において果たす役割の判断を誤っている。
 また、原判決は、具体的薬剤同一性判定表(甲53)につき、その判定結果から直ちに控訴人が主張する控訴人書籍一般薬便覧部分の個々の具体的な薬剤の選択における創作的表現が被控訴人書籍一般薬便覧部分において利用されているものと認めることはできないとした。しかしながら、控訴人書籍一般薬便覧部分における「薬剤名」欄において、小活字で掲載した薬剤については、ジェネリック医薬品という特性から、同一の商品名で特定される具体的な薬剤全て(存在する剤形等の全て)が選択されているのであり、その判定は、控訴人書籍における省略表記である商品名レベルで対比した場合と実質的意味はほとんど変わらず、甲40等により判定済みと評価することができるのであるから、甲53において改めて比較対象とする必要がない。
イ 本質的特徴の維持
 被控訴人書籍における選択は、まず、控訴人書籍と同一の大大分類、大分類及び中分類を採用して、その順序を入れ替えたにすぎない5層の分類体系を採用するとともに(これは目次にも示されている。)、便覧部分においても、これと同一の大分類、中分類又は小分類を記載していることから、控訴人書籍の前記第2の特徴を十分に直接感得させ得るものである。また、被控訴人書籍は、中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の選択においても、控訴人書籍の中分類又は小分類に属する薬剤と同一の薬剤を選択した上で、若干の修正を加えたもので、控訴人書籍の前記第3の特徴を十分に直接感得させ得るものである。さらに、控訴人書籍が赤丸表記で選択した薬剤と同一の薬剤を選択し、小活字で掲載した個々の具体的な薬剤も同一の薬剤を選択した上で修正を加え、さらに掲載しない薬剤を取捨したことも同一であることから、控訴人書籍の前記第4の特徴も十分感得し得るものである。よって、控訴人書籍における素材の選択における本質的特徴は同一といわざるを得ない。
 仮に素材の選択の一部に変更があったとしても、全体の分量から比較すると僅かであり、その余の大部分は同一の選択であることから、控訴人書籍における選択の本質的特徴は十分維持されている。
 以上のように、原判決は、控訴人一般薬便覧部分における個々の具体的薬剤の創作的な選択における同一性について、控訴人が提出した証拠を読み誤り適切に評価することなく、実質的には具体的薬剤選択の同一性における判断を遺漏している。
(4) 具体的薬剤配列の本質的特徴について
ア 編集著作物の創作性
 編集著作物の素材が千、万単位となる場合、素材の直接的な順序によって創作性が肯定される単純なものではない。編集物に具現されたより抽象的なレベルの素材の選択、配列に創作性が認められることもあり、配列における本質的特徴をどう捉えるかについて、直接的順序にのみ拘泥せず、編集物自体に焦点を当て、その全体的観察により素材の配列の創作性を検討する手法がとられている。
 人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的な順序を前提として、効率的に素材を検索できるように、素材の配列に際して、収集、選定した素材を整理統合するために、素材の項目、構造、形式等を決定してフォーマットを作成し、また、素材の分類体系を決定して配列することは、編集著作物としては当然にあり得る。同配列が具現された分類体系として創作性が認められる限り、編集著作物として保護されるべきである。
イ 控訴人書籍の編集方法
 控訴人書籍における「素材の配列によって具現された編集方法」は、素材の配列に関し、@便覧部分における控訴人独自のフォーマット、A控訴人書籍の独自の5層の分類体系、B控訴人独自の分類体系に基づく目次、C控訴人独自の索引という4つの要素を機能的に結合させながら、前記の選択方法によって選択した具体的薬剤を配列している点にある。
ウ 控訴人書籍の本質的特徴
 これらの諸要素のうちの控訴人書籍における素材の配列の本質的特徴の第1は、上記イAの独自の分類体系に基づいて、中分類又は小分類に属する薬剤群を配列したことにある。
 素材の配列の本質的特徴の第2は、中分類又は小分類に属する薬剤群を一般名に基づいて配列するに際し、一般名(和名)による50音順などのありふれた配列ではなく、各中分類(小分類がある場合には小分類)のブロックの中での薬剤の重要度・使用頻度、便覧使用時の薬剤の比較のしやすさ等に応じて、個々の薬剤を独自に配列している点である(以下、この最終段階における具体的薬剤の外面的かつ表面的な配列を「最終配列」という。)。
 以上のとおり、控訴人書籍における具体的薬剤の配列は、分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択行為が終了した段階で、最終配列行為を残してほぼ終了しているとともに、最終配列行為にも多大な影響を及ぼすものであるから、控訴人書籍の素材の配列行為に実際に具現された控訴人分類体系は、控訴人の具体的薬剤配列における表現上の本質的特徴の重要な1つというべきである。
(5) 具体的薬剤配列の同一性について
ア 原判決の誤り
 控訴人書籍一般薬便覧部分と被控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤配列の同一性を、具体的な配列結果としての具体的薬剤の外面的かつ表面的な配列順序だけでもって判断することは誤っており、控訴人分類体系は読者の機能的な検索思考体系を形成しており、控訴人分類体系に紐付いた具体的薬剤配列の同一性は、読者の思考体系を基準に判断するべきである。
 また、原判決が、分類項目の入替えやそれに伴う具体的薬剤の配列順序について、被控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の配列順序から、控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤配列の本質的特徴を直接感得することはできないと判断し、甲56を適切に評価しなかったことは、誤りである。
 そして、控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の配列と、被控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の配列においても、分類項目の入替えとそれに伴って変更する素材の配列の関係は、素材配列の複製又は翻案にすぎない。
イ 本質的特徴の維持
 被控訴人書籍における配列は、まず、中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の配列においても、控訴人書籍の中分類又は小分類に属する薬剤と同一の薬剤を控訴人書籍と同様、関連する分類ごとに配列していることから、控訴人書籍の配列の前記第1の特徴を十分に直接感得させ得るものである。また、一般名及び具体的な薬剤については、原則として50音順の基本配列としているため、控訴人書籍との外面的かつ表面的な配列順序に違いはあるものの、50音順自体は創作性が認められない配列基準である上に、実際の薬剤検索の際、控訴人書籍の分類体系と同一の分類体系を反映した目次により中分類の該当頁まで導かれた時点で、一般名以下の具体的薬剤の検索はほとんど完了することから、一般名以下の具体的薬剤配列における創作性価値が、被控訴人書籍の具体的薬剤配列における創作的価値に及ぼす影響がそれほど大きくない点で同一であり、かつ読者は一見して、単に一般名以下の薬剤の並び順を50音順に変更したにすぎないことが分かることから、控訴人書籍の配列の前記第2の特徴を直接感得させ得るものである。
 したがって、控訴人書籍と被控訴人書籍における素材の配列における本質的特徴は、実質的には同一と言わざるを得ない。しかるに、原判決は、配列結果としての裸の具体的薬剤の外面的かつ表面的順序のみを対比し、甲56についての具体的な判断を避けており、誤りである。
ウ 改訂版具体的薬剤対比表の提出
 控訴人は、控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の選択及び配列の創作性及び同一性を明確に立証するため、新たに「改訂版具体的薬剤対比表」(甲79)を提出し、そこにおいて、控訴人書籍及び被控訴人書籍における分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択及び配列が、「日本医薬品集」のそれとどのように異なっているのかについても、比較している。
エ 被控訴人書籍における、具体的薬剤の配列変更におけるアルゴリズム
 被控訴人書籍における、具体的薬剤の配列変更におけるアルゴリズムは、@まず、大分類内の中分類の入替え等により分類項目の配列が一部変更されたことに伴う薬剤群の配列変更をした上で、A次に、控訴人書籍における中分類(又は小分類)以下の一般名の配列を50音順にし、B当該一般名内における代表薬及び新薬の具体的薬剤の配列を一部のみ変更する、というものである。いずれもありふれた些細な変更であり、創作性が認められないことは明らかであるが、改訂版具体的薬剤対比表(甲79)では、@分類項目の数列化、A具体的薬剤の通し番号の付番、B一般名以下の具体的薬剤配列の一致率の算出により、被控訴人書籍が、上記アルゴリズムに従って控訴人書籍の具体的薬剤配列を変更した形跡を容易にたどることができるようにした。
 これによれば、たとえ一般名の配列が50音順に変更されていたとしても、薬剤の専門的知見を有する医療従事者で控訴人書籍を使用してきた者にとっては、@被控訴人書籍において控訴人書籍の中分類の順序が完全に維持されており、A一般名の順序変更は見開き数頁内でのことであり、控訴人書籍との差異は些細なものにすぎないことが容易に認識できること、B一般名以下の具体的薬剤の配列順序が一致していることから、控訴人書籍の具体的薬剤配列における外面的かつ表面的な表現形式を覚知し、その本質的特徴を直接感得できることは明らかである。
 改訂版具体的薬剤対比表等(甲79、80)から明らかなとおり、大分類ごとの具体的薬剤の一致率は、100%が8分類(分類基準を考えない場合は9分類)、90%以上100%未満が28分類(分類基準を考えない場合は30分類)、80%以上90%未満が20分類(分類基準を考えない場合は17分類)も存在し、80%を下回るものは、僅か7分類にすぎない。控訴人書籍全体における分類基準に紐付いた具体的薬剤の一致率を算定した場合には、約90%になる(分類基準を考えない場合には約91%)。これはすなわち、被控訴人書籍において選択された具体的薬剤のほとんどが、控訴人書籍と同一又は類似の分類基準に紐付いて選択及び配列されていることを意味するものであり、被控訴人書籍の具体的薬剤の選択及び配列が、控訴人書籍の表現形式及び内容を覚知させるとともに、その本質的特徴を直接感得させることは明らかである。
オ 被控訴人は、改訂版具体的薬剤対比表にはいまだに754箇所に誤りがあるから証拠価値が全くないと主張して、乙97及び乙98を提出したが、以下のとおり、被控訴人の上記検証は極めて杜撰であり、全く反論の体を成していない。
(ア) 甲79の判定においては、控訴人書籍の大分類Aに収載された具体的薬剤αが、被控訴人書籍の大分類Aでも収載されているか否かが重要なのであって、大分類Bに具体的薬剤αが収載されているか否かは、大分類Aにおける判定の判断に何ら影響しない。被控訴人は、控訴人の判定に対する上記考え方をねじ曲げて理解しており、この誤解は、分類体系に基づいて、大分類ごとに判定するという甲79の判定方法に対する認識の誤りから生じているものである。被控訴人が、控訴人の判断が不当であると判断した520箇所のうち、@控訴人書籍と被控訴人書籍とでは別の薬効分類に収載されていることが一見して明らかであるにもかかわらず、何らの理由もなく選択が「一致」していると判定している97箇所、A甲79では「4:控訴人の書籍では選択しているが、被控訴人の書籍では選択していない薬剤」と判定されているが、実際には、被控訴人書籍では控訴人書籍と別の薬効分類に収載されている具体的薬剤162箇所、B甲79では「5:被控訴人の書籍では選択しているが、控訴人の書籍では選択していない薬剤」と判定されているが、実際には、控訴人書籍では被控訴人書籍と別の薬効分類に収載されている具体的薬剤231箇所の合計490箇所は、上記誤りに基づくものであり、甲79の証拠価値を何ら減殺しない。また、C商品名を恣意的に混同することにより、具体的薬剤が中止・経過措置・新薬であるとして比較対象外と判定している21箇所については、控訴人は、控訴人書籍及び被控訴人書籍並びに日本医薬品集データベース記載の商品名、製造会社名及び剤形から、合理的に控訴人書籍及び被控訴人書籍収載の具体的薬剤の合致を判断しており、恣意的に混同しているという批判は当たらない。
(イ) 被控訴人は、控訴人が具体的薬剤数のカウント方法を恣意的に変更している箇所が108箇所ある旨主張する。
 しかしながら、控訴人は、控訴人書籍及び被控訴人書籍並びに日本医薬品集データベース記載の商品名、製造会社名及び剤形から、合理的に控訴人書籍及び被控訴人書籍収載の具体的薬剤の合致を判断しているのであり、何ら恣意的なものではない。
(ウ) 被控訴人は、「商品名対比表」等において判定の対象とされていたにもかかわらず、甲79では何らの理由も明らかにすることなく判定の対象とされていない具体的薬剤が65箇所存在すると主張する。
 しかしながら、被控訴人の指摘のうち明らかに誤っているものが35箇所あり、その他の30箇所について判定を追加又は変更した場合においても、選択一致率に対する影響が極めて小さいことは明らかである。
(エ) 被控訴人は、控訴人が明らかに恣意的な判定を行っていると認められる箇所が61箇所存在するとして、これらの具体的薬剤は、他の控訴人書籍薬剤便覧と異なるレイアウトで掲載されており、一般名ないし中分類も設定されていないから、他の品目と同列に扱うべきではないと主張する。
 しかしながら、具体的薬剤の選択及び配列自体を対比する際に、薬剤便覧のレイアウトが多少異なっていたとしても、そのカラムの構造からすれば、当該薬剤便覧部分に掲載された具体的薬剤の一般名ないし中分類が何であるかは、一見して明らかであり、掲載されている具体的薬剤の特定も容易である。したがって、この点については、甲79の証拠価値を何ら減じるものではない。
(オ) さらに、被控訴人は、控訴人書籍の大分類における具体的薬剤の選択には創作性がなく、被控訴人書籍の大分類における具体的薬剤の選択は控訴人書籍のそれに基づくものではないと主張し、乙99を提出する。
 しかしながら、控訴人分類体系から大分類のみを取り出して日本標準商品分類と対比し、控訴人分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択及び配列に創作性がないとする考察方法自体に問題があり、およそ証拠価値のないものである。また、乙99による選択一致率の算定方法は杜撰極まりなく、その算定結果である数値自体の証拠価値も皆無である。
3 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択と配列について
(1) 控訴人書籍漢方薬便覧部分の処方名及び薬剤の選択の創作性について
ア 原判決の誤り
 原判決には、@漢方処方名の選択における創作性を判断する際の母数の認定、A編集著作物における素材選択の創作性の評価対象(方法)、B控訴人書籍の漢方薬便覧部分における一体的な素材の選択が類書と異なる独自の選択であることの看過、Cヨクイニンエキスを漢方薬として選択した類書の認定、D漢方3社の市場シェア等に関する証拠評価及び事実認定、E漢方3社が販売していない9つの処方名にはそれぞれ販売されている薬剤が1つしか存在しないとした認定等の点において、誤りがある。
イ 控訴人書籍の漢方処方名及び具体的薬剤選択の本質的特徴について
 控訴人書籍の漢方処方名及び具体的薬剤選択の本質的特徴は、以下の要素から構成されるものである。
(ア) 漢方処方名(医療用漢方処方名及び生薬処方名)選択の創作性
 @日本標準商品分類「52」及び「59」に所属する医療用漢方処方名の148個(ビスキンサン製剤を除く。)を選択し、A日本標準商品分類「51」及び「59」に所属する生薬処方名の母数194個から、臨床現場の重要性等を考慮して取捨選択した上で、ヨクイニンエキス1個のみという類書に見られない独自の選択をし、B上記@とAの行為を、同じ大分類「漢方薬」に分類するものとして、同時一体的に選択し、343個の母数から、149個という控訴人書籍漢方薬便覧部分における独自の処方名組合せを選択している。
(イ) 漢方処方名に属する具体的薬剤(漢方薬剤及び生薬)選択の創作性
 @選択した処方名について、販売会社が1社しかない薬剤については、当該漢方薬剤及び生薬を販売会社のいかんにかかわらず選択し、A選択した処方名について複数の漢方薬販売会社から漢方薬剤が販売されている処方名については、臨床現場の使用頻度や重要性を考慮しながら、情報量が増えることを避け一覧性の機能を維持するために、漢方薬メーカー大手で市場シェアが3位とも評価され漢方薬業界で重要な役割を担う大杉製薬株式会社(大杉)さえもあえて排除し、漢方3社(株式会社ツムラ(ツムラ)、カネボウ株式会社(現商号:クラシエ製薬株式会社。カネボウ又はクラシエ)、小太郎漢方製薬株式会社(小太郎)の3社)のいずれかが販売している薬剤が存在する限り、漢方3社の販売する薬剤を全て選択して、漢方3社以外の販売会社が販売する薬剤をあえて選択しないという、独創的な選択を行い、B選択した処方名について、漢方3社が販売していない処方名に属する薬剤については、臨床現場の必要性や読者の要望を考慮して、販売会社の信用性にも着目して薬剤を選択し、C上記@ないしBを同時一体的に選択し、3051個の母数から、309個という控訴人書籍漢方薬便覧部分における独自の薬剤組合せを選択している。
ウ 小括
 以上のとおり、控訴人書籍の漢方薬便覧部分の一体的な素材の選択(組合せ)は、類書とは異なる独自性の高いものであって、かつ、その選択には極めて広い幅があることは明らかであるから、控訴人書籍の漢方薬便覧部分の処方名及び具体的薬剤の選択には、高い創作性が認められることは明らかである。したがって、これを否定する原判決の創作性の判断は、誤りである。
(2) 控訴人書籍漢方薬便覧部分の処方名及び薬剤の配列の創作性について
ア 漢方薬剤の配列の創作性について
 控訴人書籍上で展開されている、@便覧部分における控訴人独自のフォーマット、A控訴人書籍の独自の分類体系、B処方名の配列の独自性及びC独自の索引部分、これらをそれぞれ組み合わせて行われた控訴人書籍の処方名及び具体的な薬剤(漢方薬)の配列は、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的かつ物理的な順序において、他の類書と顕著に異なる控訴人独自の配列態様になっている。このような控訴人独自の漢方の処方名及び具体的薬剤の配列には顕著な創作性が認められるにもかかわらず、原判決は、具体的薬剤の配列については創作性の判断を遺漏している。
イ 配列の本質的特徴
(ア) 控訴人書籍における漢方処方名及び漢方の具体的薬剤の配列の本質的特徴の第1は、便覧部分において、選択された漢方処方名及び個々の具体的な漢方の具体的薬剤を臨床現場において容易に検索できるように、一覧性の高い便覧形式、控訴人独自のフォーマット、更には独自の索引を用いて配列した点にある。
 すなわち、3つのカラムを有する一覧表形式を採用し、左側に「薬剤名」欄を配置し、「薬剤名」欄を処方名ごとにカラムを区切り、その冒頭に漢字の処方名を太字で、かつ、その読みをルビを振ってカタカナで記載する表現形式をもって、漢方処方名を配列した。また、索引で漢方処方名を検索できるようにした。加えて、漢方処方名の下に、配列された漢方処方名に属する漢方の具体的な薬剤を配列することとし、配列に際しては漢方の添付文書記載の正式な商品名をそのまま記載することをせず、控訴人書籍を臨床現場で使いやすいコンパクトな薬剤便覧とするために、「処方名」、「製造販売会社名」及び「剤形」から特定される薬剤を、「処方名」の下に製造販売会社名及び剤形を表記することとして配列した。
 したがって、選択された漢方処方名及び個々の漢方の具体的薬剤の配列については、便覧部分において用いられている上記ア@の控訴人フォーマット及びCの索引部分が必要不可欠であって、控訴人フォーマットや索引部分は単なるアイデアのレベルを超えて、配列の表現形式となっているものというべきである。
(イ) 漢方処方名及び漢方の具体的薬剤の配列の本質的特徴の第2は、処方名を配列するに際し、控訴人独自の配列として、50音順の配列に組み合わせて4箇所の漢方処方名の配列のみを50音順を崩して配列した点にある。かかる漢方処方名の配列については、薬効や漢方基本方剤分類を考慮した上でのものである。
ウ 原判決の誤り
 編集著作物における素材配列の創作性は、具体的な配列表現において数種類の思想が複合する場合には、当該複合的な思想によって最終的に配列される最初から最後までの全体的な配列が評価対象とされるべきである。上記全体的な配列とは、最終的に表現された一体的な配列を意味し、ここには、@基本思想となる配列における創作性、Aある思想に基づく配列部分変更における創作性にとどまらず、Bこれらの思想によって表現される素材の最初から最後までの全体配列における創作性も存在する。
 漢方処方名の配列方法として、基本思想を50音順とする行為自体は類書にも見られるところ、どの部分をいかなる思想に基づき、いかなる順序に崩すべきか、という配列行為には、例えばその生薬の組成構造の捉え方(着眼の仕方)次第で、複数の配列表現が存在する。原判決は、上記の点を看過し、控訴人書籍漢方薬便覧部分における処方名の配列を、50音順の配列と50音順部分を崩した部分を分断し、別個独立に創作性を判断した上でこれを否定しており、誤りがある。
エ 歴史的、経験的実証に基づく生薬の薬効及び基本方剤分類を考慮した配列
 漢方処方は、歴史的、経験的な実証に基づく薬効、中心的な役割を果たす主薬、基本方剤等、複数の分類基準によって区別される上に、基本方剤に新たな薬効を持つ生薬が加味されることで、多くの漢方処方に派生するという関係にあるから、何を基礎的な処方と捉え、応用的な処方と捉えるべきかにおいては、歴史的重要性があり、薬効分類や基本方剤分類等にどこまで忠実に従うべきかという極めて個性的な思考作業が必要になる。
 50音順を崩した4箇所の配列は、上記のような歴史的、経験的実証に基づく生薬の薬効及び基本方剤分類を考慮した配列である。
オ 「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加朮附湯」−「桂枝加苓朮附湯」の配列
 控訴人は、生薬の組成構造に着目し、鎮痛作用のある生薬「ブシ末」が含まれていない点に着目して、50音順を崩して配列している。すなわち、「漢方医学のバイブル」の一つと言われる「傷寒論」及び「金匱要略」に記載された漢の時代から伝わる歴史的な処方であるために臨床現場においてより頻繁に用いられている「桂枝加竜骨牡蛎湯」を先に配列することとしたものである。
カ 「桔梗湯」−「桔梗石膏」の配列
 両者は、いずれも生薬「桔梗」を含む漢方製剤であり、咽喉における症状に用いられる点で共通している。「桔梗湯」は、「漢方医学のバイブル」の一つである「傷寒論」及び「金匱要略」に記載された漢の時代から伝わる歴史的な処方であり、喉痛等に対して処方する機会が極めて多いのに対し、「桔梗石膏」は、原典を有しない比較的新しい処方であるため、まず「桔梗湯」の処方を考えることが臨床現場においては通常である。また、「桔梗湯」は、単体で処方されることが多い漢方製剤であるが、「桔梗石膏」は、他の漢方製剤と共に処方されることが多い漢方製剤であるため、まず単体で処方することのできる「桔梗湯」を前にもってくることが臨床現場における使用に資する。そこで、控訴人書籍においては、臨床現場の使用実態に即した配列にしたものである。
キ 「ヨクイニンエキス」の配列
 「ヨクイニンエキス」を最後に配列している書籍は、控訴人書籍以外には全く存在しない。控訴人は、ヨクイニンエキスが生薬製剤であることに着目し、また、皮膚科用剤として選択することもある薬剤としての個性を際立たせるために、あえて最後尾に配列したものであり、配列における創作性が認められる。
ク 以上のとおり、控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の配列の創作性について、判断を看過した原判決には、誤りがある。また、控訴人書籍漢方薬便覧部分の漢方処方名及び具体的薬剤の配列には、創作性が認められることは明らかであって、漢方処方名の配列について創作性を否定した原判決の判断には、誤りがある。
4 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択と配列について
(1) 漢方薬薬剤情報の選択の創作性について
 原判決は、控訴人が、薬剤情報として具体的に選択した情報の性質のみをもって、薬剤情報選択の創作性を判断した。しかしながら、控訴人は、コンパクト化の要請を満たすため、極めて重要な薬剤情報である「慎重投与」情報をあえて掲載しないという選択行為もしているのであり、薬剤情報選択の創作性判断においては、この点も含めて考慮するべきである。
(2) 漢方薬薬剤情報の配列の創作性
 薬剤情報を掲載する書籍である以上、添付文書に記載された薬剤情報の配列に忠実に記載することが求められることが自明な状況の中で、添付文書記載の薬剤情報の配列における拘束から離れるという発想に基づき実際に表現することは容易ではなく、類書では採用されていない控訴人独自の配列にしたものである。
 これらの事情を全く顧慮しないまま、単なる二者択一の議論によって創作性を否定した原判決の判断は誤っている。
〔被控訴人の主張〕
1 依拠性
(1) 類似性と依拠性は全く別の要件であり、それぞれ別個に判断されるべきものであるから、一般的に依拠性が高いからといって類似性が認められやすくなるとはいえない。この点をさておくとしても、本件においては、被控訴人書籍は、控訴人書籍に類似していないから、依拠性を検討するまでもない。
(2) 被控訴人書籍は、控訴人書籍に依拠したものではない。
 被控訴人書籍は、被控訴人発行に係る「日本医薬品集」及び「薬効・薬理別 医薬品事典」を基に編集されたものであり、被控訴人書籍に実際に掲載されている具体的薬剤の情報は、いずれもこれらの書籍に掲載されているものである。被控訴人が被控訴人書籍を編集するに当たり、極めて網羅性の高い自社の上記書籍に依拠することは当然であり、これらの書籍は控訴人書籍より情報量も多いから、あえて控訴人書籍に依拠する必要性など全くない。
(3) なお、控訴人は、控訴人分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択及び配列については、多数の利用許諾契約を締結していると主張するが、控訴人が挙げる証拠には、控訴人のデータベースに関する利用許諾に関するもの等が含まれており、編集著作物の利用許諾ではない。また、控訴人分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択及び配列について、事実上、利用許諾を得ている企業が存在するからといって、法律上、直ちに控訴人分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択及び配列が創作性を有する著作物として保護されるということにはならない。
2 控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と配列について
(1) 控訴人分類体系に紐付いた具体的薬剤の選択の意義について
ア そもそも、控訴人分類体系に紐付けた形での選択なるものが一体何を指すのかが明らかではなく、控訴人の主張は意味不明である。この点、編集著作物において選択結果の創作性及び同一性の検討対象となるのは、問題となる著作物に実際に掲載された素材の選択結果(個々の素材の集合体)である。このような素材の選択結果は、どのような選択過程によって選択されたかにかかわらず、客観的・一義的に特定することができるものであって、特定の分類体系との関連とは無関係である。したがって、素材の選択結果が分類体系と紐付けられている云々を議論する必要はない。
 結局、このような主張は、実質的には、アイデアにすぎない控訴人分類体系それ自体を保護すべきであるというものである。
イ 控訴人が控訴人書籍における具体的薬剤選択の特徴として4つの点を挙げるが、これらは、いずれも、控訴人分類体系が控訴人書籍における具体的薬剤選択の創作性に寄与していると主張するものにすぎない。
(ア) 控訴人が第1の特徴とする点(控訴人分類体系)は、正に、控訴人分類体系が控訴人書籍における具体的薬剤選択の創作性に寄与しているというものである。
(イ) 第2の特徴とする点(目次、便覧部分及び索引部分)について、目次、便覧部分及び索引部分それ自体は、具体的薬剤の選択結果とは無関係である。結局のところ、控訴人は、第1の特徴と同じ主張を繰り返しているにすぎず、実質的には、控訴人分類体系それ自体の保護を求めるものである。
(ウ) 第3の特徴とする点(大大分類、大分類、中分類又は小分類に入る薬剤は何かという視点で、中分類又は小分類ごとに一般名付きで個々の具体的な薬剤群を選択したこと)も、意味不明であり、単に控訴人分類体系の独自性を主張しているにすぎない。また、結局、第1の特徴と同じ主張を繰り返しているにすぎない。
(エ) 第4の特徴とする点(赤丸表記で掲載する薬剤と小活字で掲載する薬剤を選択した点)は、選択した後の薬剤をどのように表記するかという表記上の工夫の問題にすぎず、具体的薬剤選択結果の創作性とは無関係である。
(2) 控訴人分類体系の独自性について
ア 控訴人は、控訴人分類体系について、控訴人独自のものであると強調するが、これは誤りである。控訴人分類体系は、既存の分類体系、特にWHO(世界保健機関)が公表している医薬品分類体系や日本標準商品分類に類似する点が多々あり、決して控訴人独自のものではない。
 控訴人分類体系の大分類68のうち、その3分の2以上に当たる46分類は、日本標準商品分類の分類名をそのまま引き写したものか、日本標準商品分類に依拠して類似の名称を付したものであり、独自のものではない。
イ そもそも、控訴人書籍や被控訴人書籍のような医薬品便覧は、医療情報の提供を目的とするものであり、そこに記載された情報の正確性、統一性や、検索のしやすさ等の実用性が高度に求められる類のものであること、また、掲載される医薬品情報やその分類体系、編集方針は、一般の医療従事者であれば誰でも持っている医学的知見に基づく必要があることからすれば、医薬品便覧における医薬品の分類体系は、おのずから一定の幅の範囲内に収束して、いずれの医薬品便覧においてもある程度は互いに似通ったものにならざるを得ない。控訴人分類体系も上記のような観点から、WHOが全世界に発信しているATC分類体系等の他の分類体系を参考にしながら作成されたと思われるから、決して控訴人独自のものではなく、少なくとも、著作権法により控訴人が独占することが許されるべきものではない。
(3) 具体的薬剤選択の同一性について
ア 具体的薬剤選択の同一性の検討対象について
 編集著作物において選択結果の創作性及び同一性の検討対象となるのは、問題となる著作物に実際に掲載された素材の選択結果(個々の素材の集合体)である。このような素材の選択結果は、どのような選択過程によって選択されたかにかかわらず、客観的かつ一義的に特定することができるものであって、特定の分類体系との関連とは無関係である。したがって、素材の選択結果が分類体系と紐付けられている云々を議論する必要はない。
 分類体系が素材の選択結果に影響を及ぼすことがあるとしても、特定の分類体系に従って選択を行った結果、素材の選択結果それ自体が創作性を有することがあり得るというにすぎないのであって、問題となるのは、あくまでも裸の素材の選択結果である。編集著作物の創作性や同一性を検討する際に問題になるのは、あくまでも、素材の選択結果それ自体であって、分類体系は、いわば間接的に考慮されるにすぎない。
 そして、具体的薬剤の選択結果の点において、控訴人書籍及び被控訴人書籍の選択結果が同一でもなく、類似もしていないことは明らかである。
イ 商品名対比表等(甲40、45〜47)について
 商品名対比表には、具体的な剤形名が記載されていないのであるから、具体的な剤形を踏まえたレベルで具体的薬剤の選択の同一性を確認することができず、証拠としての価値を有しないことは明らかである。剤形を捨象した商品名を記載するだけでは、具体的な剤形まで踏まえた具体的薬剤のうち、どれが選択されているかが明らかにならない。
ウ 改訂版具体的薬剤対比表等(甲79〜81)について
(ア) 改訂版具体的薬剤対比表では、控訴人収載薬剤数が、商品名対比表で示された9992個から1万3414個に大幅に増加している。これは、控訴人が、控訴人書籍において、「参照」として収載されている具体的薬剤を二重に計上したことに基づくものであるが、そもそも「参照」による具体的薬剤の再掲は、書籍に掲載することを選択した具体的薬剤をどの箇所に表記するかという、配列に関する事項であって、「参照」として収載されている具体的薬剤をダブルカウントしてしまっては選択された素材の正確な数が把握できないのは明らかである。
(イ) 甲79の判定は、商品名対比表における判定と比較しても、より恣意的である。すなわち、甲79では創作性の判断を含むものへと変更され、控訴人の独断的、恣意的な判断が加わっているため、そもそも証拠価値が著しく低いものである。
(ウ) 改訂版具体的薬剤対比表の検証結果は、@両書籍で明らかに別の薬効分類に収載されているにもかかわらず、控訴人が「一致」、「比較対象外」、「どちらかの書籍では選択されていない」などと不当に判定している箇所(520箇所)、A控訴人が具体的薬剤数のカウント方法を恣意的に変更している箇所(108箇所)を始め、754箇所については、なお不当な判定のままである。
(エ) 上記のとおり、甲79では、ある具体的薬剤が、控訴人書籍と被控訴人書籍とでは、別の薬効分類に収載されていることが一見して明らかであるにもかかわらず、特段の理由なく選択が「一致」していると判定されているものや、控訴人書籍の薬効分類において選択されている具体的薬剤について、被控訴人書籍では明らかに別の薬効分類で選択されているにもかかわらず、その点を無視して「一致」していると判定されているものが散見される。また、控訴人は「参照」として挙げた具体的薬剤をダブルカウントしたり、商品名の英字や数字が異なる別商品を恣意的にカウントしたりするが、これらの点を適正に是正した上で、甲80で「選択一致率(分類を考慮しない)」が100%であると判断された薬効分類について、控訴人書籍と被控訴人書籍の具体的薬剤を改めて比較検証したところ、100%の一致率が追認された薬効分類は、2個のみであった。
(オ) 具体的薬剤一致率一覧表(甲80)及び一般名以下薬剤配列一致率一覧表(甲81)は、甲79に基づき作成されたものであるところ、甲79には証拠としての価値は全くないから、これに基づき作成された甲80及び甲81にも、証拠としての価値は全くない。
 また、甲80における具体的薬剤の一致率の計算方法では、「被控訴人書籍には収載されているが、控訴人書籍には収載されていない具体的薬剤」が、両書籍の選択の一致率を計算する際に完全に無視されているなど、極めて不当である。
(カ) 控訴人が、選択一致率が100%であると主張する9個の大分類における具体的薬剤の選択は、それぞれの具体的薬剤の添付文書の記載を参照した上で機械的に選択されたにすぎないものとしか考えられないから、控訴人書籍における具体的薬剤の選択に創作性は認められない。すなわち、各具体的薬剤については、製薬会社が添付文書を作成しているところ、添付文書には、具体的薬剤の「効能・効果を端的に表現した薬効」(以下「標榜薬効」という。)が記載されており、控訴人書籍における大分類ごとの具体的薬剤の選択のほとんどが、各具体的薬剤の添付文書に記載された標榜薬効を基準に選択されており、当該分類には創作性は認められない。また、被控訴人書籍の各大分類における具体的薬剤の選択は、具体的薬剤の添付文書に記載された標榜薬効を参考として選択しているので、ある程度、控訴人書籍の各大分類における具体的薬剤の選択と類似するが、控訴人書籍には選択されていないが、被控訴人書籍には選択されている具体的薬剤が相当数あることからすれば、被控訴人書籍の各大分類における具体的薬剤の選択が控訴人書籍に依拠したものでないことは明らかである。
エ 分類体系の類似性について
 控訴人書籍と被控訴人書籍の分類体系は、項目名及び項目数、項目分けの方法、項目の配列が異なり、類似していない。控訴人書籍と被控訴人書籍の分類体系は、大大分類の個数こそ同一であるが、大大分類の配列や項目分けの方法が異なること、大分類及び中分類についても、項目名及び項目数、項目分けの方法、項目の配列が異なることから、類似していないことは明らかである。
 また、控訴人書籍と被控訴人書籍とでは、具体的な一般名に属する薬剤名のレベルで見ても、相違点が多々存在する。
オ 小括
 上記のとおり、控訴人書籍及び被控訴人書籍の具体的薬剤選択の結果が同一又は類似とは認められない。そもそも、控訴人書籍及び被控訴人書籍は、いずれも、携帯用のコンパクトサイズの医薬品便覧であり、限られたスペースに可能な限り多くの医薬品情報を掲載しなければならない書籍であるという点で共通する以上、選択される具体的薬剤が一定程度共通するのは当然のことである。
(4) 控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤配列の本質的特徴について
ア 編集著作物において保護されるのは、あくまでも素材の配列であり、これは、人間が直接知覚できる情報の前後、上下、左右という空間的又は物理的順序を意味し、データベースにおける「体系的な構成」とは異なる概念である。控訴人の主張は、編集著作物とデータベースを混同するものであり、失当である。
イ 控訴人が主張する配列の本質的特徴の第1(控訴人分類体系に基づいて具体的薬剤を配列した点)によれば、控訴人分類体系に基づいて決定されるのは、どの具体的薬剤がどの中分類又は小分類に属するかまでであり、個々の中分類又は小分類に属する複数の具体的薬剤をどう配列するかは控訴人分類体系に基づいて決定されるわけではないから、控訴人分類体系に基づいて配列したというだけでは、具体的薬剤配列の創作性を基礎付けるには不十分である。
 データベースと異なり、編集著作物においては、電子計算機による検索がされることはないから、そのような効率的な検索を可能にするための論理構造ではなく、素材の物理的順序が問題とされる。したがって、編集著作物においては、素材の具体的配列、具体的物理的順序が保護の対象とされるのであり、選択行為が終了した段階での各具体的薬剤の分類結果が抽象的な配列として保護される余地はない。著作権法上編集著作物として保護されるのは、あくまでも具体的に表現された配列、外面的かつ表面的な配列であるから、控訴人の主張が認められる余地は全くない。
 なお、控訴人が控訴人書籍における具体的薬剤の配列の4つの要素として挙げるもののうち、Aの控訴人分類体系が具体的薬剤の配列に影響する可能性があるとしても、これに加えて、控訴人分類体系を受けた@フォーマット、B目次及びC索引部分が、控訴人分類体系それ自体とは別個の観点から独自に具体的薬剤の配列に影響するわけではないから、上記@BCそれ自体は、具体的薬剤の配列とは無関係である。
 結局のところ、控訴人は、複数の要素を挙げるものの、具体的薬剤の配列が控訴人分類体系に影響を受けているという主張を繰り返しているにすぎない。
ウ 控訴人が主張する配列の本質的特徴の第2(中分類又は小分類に属する薬剤群を一般名に基づいて配列するに際し、各中分類(小分類がある場合には小分類)のブロックの中での薬剤の重要度・使用頻度、便覧使用時の薬剤の比較のしやすさに応じて独自に配列している点)は、分類体系に紐付いた具体的薬剤の配列結果が重要であるという第1の特徴における主張、裏返せば中分類(又は小分類)に属する具体的な薬剤を中分類(又は小分類)の範囲内でどのように配列するかは重要ではないとの主張と、矛盾している。
 控訴人の主張は、素材の配列における第1の特徴を強調する余り、控訴人分類体系又はそれに基づく抽象的な分類結果というアイデアにすぎないものの保護を求めるものとなっているが、そのことが第2の特徴における控訴人の主張にも影響し、このような暴論を主張せざるを得なくなったものと思われる。
(5) 具体的薬剤の配列の同一性について
ア 控訴人書籍における具体的薬剤配列の本質的特徴について
 控訴人の主張によれば、第2の特徴は、各中分類のブロックの中で、控訴人が独自に配列した個々の薬剤の配列結果を指すが、当然のことながら、これは個々の薬剤の具体的な配列順序・物理的順序を指す。そして、控訴人は、第2の特徴は、50音順とは異なる独自の配列であると主張するのであるから、控訴人のいう第2の特徴を有する配列結果は、50音順からかけ離れた、50音順とは明瞭に区別できる配列結果であるはずである。そうすると、読者が被控訴人書籍の50音順に基づく具体的な配列順序を目にした際に、控訴人書籍の独自の具体的な配列順序を感得するなどということがあり得るはずがない。
イ 具体的薬剤配列対比表(甲56)について
 著作権法上編集著作物として保護されるのは素材の具体的な物理的順序であり、これから離れた抽象的な分類結果は著作権法上保護されるものではない。
 また、一般論として編集著作物における分類体系の独自性が素材の配列に影響を及ぼすことがあり、その意味において分類体系の独自性が素材の配列の創作性や同一性に影響する可能性は否定できないが、これは、独自性を有する分類体系に従って配列を行った結果、素材の外面的な配列それ自体が創作性や同一性を有することがあり得るというにすぎないのであって、問題となるのは、あくまでも外面的な配列結果である。編集著作物の創作性や同一性を検討する際において分類体系の独自性が問題になるのは、あくまでも、それが素材の配列結果それ自体の内容に影響を及ぼした限度であって、分類体系は、いわば間接的に考慮されるにすぎない。本件では、外面的かつ表面的な配列順序の観点からは、素材の配列は同一ではなく、類似もしていないことは明らかである。
 控訴人が、素材の配列の同一性の証拠として提出する具体的薬剤配列対比表(甲56)についても、控訴人の独自の見解に基づき、外面的かつ表面的な配列順序が全く異なるにもかかわらず、一方的かつ恣意的に配列が同一であると判定するものである。
 さらに、仮に被控訴人書籍の分類項目の順序の入替え及び分類内部の配列順序の入替えを元に戻し、かつ、そのように元に戻された被控訴人書籍の具体的な配列順序と控訴人書籍の具体的な配列順序の間に同一性又は類似性が認められるとしても、実際に被控訴人書籍を使用する読者が、そのような順序を元に戻す作業を自己の頭の中で瞬時に行って、元に戻された被控訴人書籍の具体的な配列順序を感得することは著しく困難であるから、いずれにしても、被控訴人書籍から控訴人書籍の具体的な配列順序、つまり控訴人書籍の素材の配列の本質的特徴を直接感得することはできない。
ウ 素材の配列の同一性について
 控訴人は、控訴人書籍と被控訴人書籍における大大分類の変更とそれに伴って生じる大分類項目の変更の関係、大分類項目における中分類項目の配列の比較、中分類内における一般名の配列の比較について種々主張するが、控訴人が素材であると主張する具体的薬剤の配列とは直接関係しないから、意味のない主張である。
エ 小括
 以上のとおり、具体的薬剤配列対比表(甲56)は、具体的薬剤の配列の同一性の証拠となり得るものではなく、その他に同一性を示す証拠はない。本件において、一般薬便覧部分の具体的薬剤配列の同一性は認められない。
3 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択と配列について
(1) 漢方処方名及び具体的薬剤名の選択の創作性について
 控訴人書籍漢方薬便覧部分における漢方処方名及び具体的薬剤の選択は、いずれもごくありふれたものであって、創作性は認められない。
 選択の幅があれば、そのことから直ちに創作性が認められるわけではなく、控訴人書籍における選択が結果的にありふれたものである場合には、創作性は認められない。また、控訴人書籍と同様の選択を行っている類書がないからといって、そのことから直ちに創作性が認められることにはならない。
 控訴人は、漢方処方名及び具体的薬剤の選択経緯や選択方針を強調するが、選択経緯や選択方針それ自体はあくまでもアイデアにすぎず、編集著作物として保護されるものではない。したがって、どのような選択経緯をたどったとしても、選択結果がありふれたものであり、創作性が認められることはない。
(2) 処方名及び薬剤配列の創作性について
ア 具体的漢方薬剤の配列の創作性に関する判断について
 控訴人は、控訴人書籍上で展開されている、@便覧部分における控訴人独自のフォーマット、A控訴人書籍の独自の分類体系、B処方名の配列の独自性及びC独自の索引部分、これらをそれぞれ組み合わせて行われた控訴人書籍の処方名及び具体的薬剤の配列には顕著な創作性が認められると主張する。しかしながら、上記@ないしCは、いずれもアイデア又は工夫にすぎず、またそれらの組合せもありふれたものであって創作性が認められる余地はない。
イ 控訴人書籍のフォーマット及び索引部分について控訴人が主張する独自性は、当該配列の創作性に寄与するなどということはあり得ない。また、そのような配列方法は一覧形式の便覧部分の配列としては極めてありふれたものであり、そこに創作性が認められることはない。なお、漢方処方名の下に、漢方の具体的薬剤を配列することとし、配列に際しては、「処方名」、「製造販売会社名」及び「剤形」から特定される薬剤を「処方名」の下に配列したという点は、配列の創作性に係るものではなく、単なる編集上の工夫にすぎない。
 被控訴人書籍における漢方薬の漢方処方及び具体的薬剤のフォーマットは、控訴人書籍のフォーマットとは明らかに異なっており、デッドコピーでないことは明らかである。
ウ 控訴人書籍漢方薬便覧部分における漢方処方名の配列について、控訴人があえて50音順を崩したと主張する部分については、掲載された149処方のうち、どのような理由で当該4箇所のみ50音順を崩したのかという点について主張や立証はされておらず、後付けである。
エ 基礎的な処方のものから応用的な処方のものへと配列することは、創作性のある配列方法とは認められないとの原判決について、控訴人は多くの選択肢があると主張するが、何をもって基本から応用と捉えるかの問題であって、その配列が基本的な処方から応用的な処方の順に配列されているという点を否定するものではない。そして、そのような配列は、原判決が判断したとおり、特段創作性が認められる配列方法とは認め難い。
オ 「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加朮附湯」−「桂枝加苓朮附湯」の配列についても、控訴人の主張は不合理な主張であり、後付けで理由を考え出したとしか考えられない。漢方が複数の生薬の組成物であることからすれば、生薬の組成構成に着目して配列を行うことは容易に思いつくものであり、また、生薬の配合及び分量に関する歴史的経緯に基づき配列を行う方法も、結局のところ、控訴人が漢方医学のバイブルと主張する「傷寒論」及び「金匱要略」に当該処方が記載されているか否かといった二者択一で機械的に決定されるものであることからすれば、創作性は認められない。
カ 「桔梗湯」を「桔梗石膏」より先に配列するという配列方法は、漢方医学のバイブルである「傷寒論」及び「金匱要略」に当該処方が記載されているか否かといった二者択一で機械的に決定されるものであり、当該選択に創作性は認められない。
4 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択と配列について
(1) 漢方薬薬剤情報の選択の創作性について
 厚生省薬務局長通知(平成9年4月25日薬発第606号)によれば、漢方薬を含む医療用医薬品の添付文書の記載項目は、20項目とされているところ、控訴人が控訴人書籍漢方薬便覧部分において添付文書情報から選択した記載は、臨床現場で漢方薬を用いる医療従事者にとっておよそ必要不可欠な情報に係る項目と重なる内容のものであるから、そのような記載を選択したことに、創作性は認められない。
(2) 漢方薬薬剤情報の配列の創作性について
 仮に控訴人のいうように「症状」−「疾患」と配列することが自然であって、控訴人書籍がそれに反するものであったとしても、当該配列行為は、ある2つの素材の順番を入れ替えたにすぎず、創作性が生じることはあり得ない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記争いのない事実等に後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 控訴人書籍の編集方針等
ア 「日本標準商品分類」に基づく薬剤の分類
 「日本標準商品分類」(昭和25年3月設定・平成2年6月最終改定。総務省統計局所管)とは、統計調査の結果を商品別に表示する場合の統計基準であり、大分類、中分類、小分類等の順に標準分類番号を配列し(基本コードは中分類番号)、商品を類似するものごとに集約し、商品群として表示しているものである。薬剤については、大分類「8 生活・文化用品」の中分類「87 医薬品及び関連製品」において、その使用目的により、@神経系及び感覚器官用医薬品、A個々の器官系用医薬品、B代謝性医薬品、C組織細胞機能用医薬品、D生薬及び漢方処方に基づく医薬品、E病原生物に対する医薬品、F治療を主目的としない医薬品、G麻薬、H動物に使用する医薬品及び関連製品という9項目の小分類(871〜879。いわゆる薬効分類)が設けられている(甲5の2、乙1)。
イ 従前の状況
 臨床現場の医師は、ある患者に具体的な薬剤を処方する際、症状の程度や既往等を確認した上で、適応症、用法・用量、禁忌及び副作用等の使用上の注意点、臨床成績、薬効薬理等に注意しながら、複数の薬剤から処方する薬剤を適切に決定しなければならない。しかるに、控訴人書籍の初版が出版される以前には、薬剤の特徴、副作用、使い方等を調べるには、ケースごとに、膨大な添付文書や解説書を確認しなければならない状況にあった。当時、「日本標準商品分類」に基づき整理された書籍は存在していたが、臨床現場における簡易迅速な薬剤及び薬剤情報の検索は、極めて困難な状況にあった(甲3)。
ウ 控訴人書籍の出版企画
 そこで、控訴人は、聖マリアンナ医科大学のA名誉教授(平成20年5月7日死亡)とともに、臨床現場の医師、薬剤師、看護師等の医療従事者が、ハンディーな1冊で、迅速に必要かつ十分な薬剤情報を得られるようにすることを目的とした薬剤便覧を作成して出版することを企画した。控訴人及びA教授は、上記のような臨床現場の医師や薬剤師らの思考過程に適切に沿いつつ、簡易迅速な検索環境を実現するためには、全部の診療科において処方される薬効別による大大分類の薬剤群と、診療科ごとに専門的に処方される部位別及び疾患別による薬剤群とは、別々にまとめて掲載して配列した方が、関連する薬剤が瞬時に系統立って検索しやすい点に着目した。また、日本標準商品分類において様々な階層の複数の箇所に分散して分類されている薬剤について、各種治療における処方実態や治療技術における実践的関連性を重視し、これらを一つの分類にまとめながらある程度の数量をもった階層ごとにまとめることが有用であると考えた(甲3、4)。
エ 編集方針
 控訴人及びA教授の編集方針は、以下のようなものであった(甲1、3、4)。
(ア) 日常よく使用される医家向け薬剤は、最近市販されたものも含めて全て便覧に掲載すること
(イ) 掲載する薬剤の分類・配列については、臨床現場で必要な薬剤情報を迅速に参照できるようにするため、「日本標準商品分類」の分類・配列、分類項目名称に準拠するのではなく、臨床で広く使われる抗菌薬を筆頭に置くなど、分類項目名称を始め、薬剤の効能・種類を独自の臨床視点から分類・配列することとし、具体的には、薬剤の効能ごとに分類した13の「大大分類」、大大分類をさらに効能ごとに細分化した「大分類」、大分類をさらに薬剤の組成や効能で細分化した「中分類」、中分類を必要に応じてさらに特徴等から細分化した「小分類」をそれぞれ設け、この分類体系に従って個々の薬剤を配列すること
(ウ) コンパクトでありながら、臨床現場での使用に耐え得る情報量を盛り込むための工夫として、「大分類」の薬剤群ごとに冒頭に解説を載せ、必要な図表を添付し、各薬剤の特徴、効能、副作用及び使い方等は、「組成・剤形・容量」、「用量」、「備考」の各欄に分けて、添付文書の内容のうち必要かつ十分なものを厳選してマーク等を用いて便覧形式で掲載すること
オ 「今日の治療薬」の発行
 控訴人及びA教授は、上記のような編集方針の下に、「今日の治療薬」の初版を作成、編集し、昭和52年8月1日に発行した(甲48)。
 その後、「今日の治療薬」は、その後発売された新しい薬剤の追加、発売停止になった薬剤の消去等や、解説を医学の進歩に即したものにするなどの改訂を重ねてきた。
 上記各改訂に際し、控訴人は、控訴人内部の意見やアンケートによる読者の要望、厚生労働省の医薬情報及び各種医療ガイドライン、医薬品メーカーからの添付文書や変更情報を基に改善点を指摘し、A教授においては、医学的・薬学的見地から意見を述べるなどして、臨床現場での使用頻度や重要性を踏まえ、掲載する薬剤及びその表記方法、分類項目の名称及び内容、分類項目の順序立て、薬剤情報の記載内容等についての見直し、変更が行われた(甲3、4、25、30、31、60、61)。
(2) 控訴人書籍について
ア 控訴人書籍の発行
 控訴人は、平成19年2月15日、「今日の治療薬」の改訂第29版に当たる控訴人書籍を発行した。控訴人書籍の著作権については、控訴人を10分の9、A教授を10分の1とする旨の合意がある(甲1、43の1、62)。
イ 控訴人書籍便覧部分の分類体系
 控訴人書籍一般薬便覧部分は、掲載する薬剤商品について、以下の5層の分類体系(本件分類体系)に基づいて分類されている。なお、控訴人書籍漢方薬便覧部分については、中分類及び小分類の分類項目が設けられていない(甲1)。
(ア) 大大分類(13項目)
 薬剤の効能、作用部位及び用途等の観点から分類したものである。13の「大大分類」の具体的な分類項目の名称及び掲載順序は、@「病原微生物に対する薬剤」、A「抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬」、B「炎症、アレルギーに作用する薬剤」、C「糖尿病治療薬、高脂血症治療薬、痛風・高尿酸血症治療薬」、D「ホルモン剤、骨・カルシウム代謝薬」、E「ビタミン製剤、輸液・栄養製剤」、F「血液製剤、血液に作用する薬剤」、G「循環器系に作用する薬剤」、H「呼吸器系に作用する薬剤」、I「消化器系に作用する薬剤」、J「神経系に作用する薬剤」、K「感覚器官用剤」及びL「その他」である。
(イ) 大分類(68項目)
 「大大分類」を薬剤の特徴的な効能、作用部位及び用途等の観点から細分化したものである。なお、そのうち、上記(ア)L「その他」の「67.漢方薬」の部分が控訴人書籍漢方薬便覧部分であり、それ以外の67項目が控訴人書籍一般薬便覧部分である。
(ウ) 中分類(592項目)
 「大分類」を化学的な組成、作用及び用途等の観点から細分化したものである。
(エ) 小分類(148項目)
 「中分類」のうち臨床現場で薬剤を選択する上で更に有効な区分けが必要なものについて細分化したものである。
(オ) 一般名
 商品名とは別に、有効薬効成分に付けられた名称である薬剤の「一般名」である。
ウ 控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択と掲載順序
(ア) 控訴人書籍便覧部分に掲載する個々の具体的な薬剤の選択については、平成19年1月現在市販されている(一部未発売を含む。)医家向け薬剤のうち、日常よく使用されているもの及び使用頻度は少ないが重要なものは、全て含み、他方、市販されているものであっても、経過措置品、近い将来再評価などにより発売中止になる可能性のあるものは、一部省略するという方針で、薬剤が選択されている(甲1)。
(イ) 選択された個々の具体的な薬剤は、本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され、その分類ごとに、控訴人及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されている(甲1)。
 控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤及びその掲載順序は、原判決別表1−1のとおりである(当事者間に争いがない。)。
(ウ) 控訴人書籍一般薬便覧部分においては、その具体的な掲載例は、原判決別紙1−1のとおり、@「薬剤名」、A「組成・剤形・容量」、B「用量」及びC「備考」の4つの項目欄を設けた一覧表形式となっており、上記@の「薬剤名」の欄には、薬剤の一般名、先発・代表薬剤の商品名(赤丸付きで掲載)、製造販売会社名及び代表的薬価等が掲載され、ジェネリック医薬品があるものについてはその商品名(又は商品名及び会社名)が、小活字で記載されている(甲1)。
エ 控訴人書籍漢方薬便覧部分における薬剤の選択と掲載順序
(ア) 控訴人書籍漢方薬便覧部分は、本件分類体系の大大分類「その他」の中の大分類「67.漢方薬」に分類される便覧部分であって、中分類及び小分類の分類項目を設けずに、掲載する薬剤を、大分類を細分化した処方名(一般名)により分類している(甲1)。
(イ) 薬剤の選択
 控訴人書籍漢方薬便覧部分には、平成19年1月現在厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている漢方薬の148の処方名(漢方処方名)を掲載したほか、生薬の中から「ヨクイニンエキス」を大分類「漢方薬」に分類するものとして選択している。
 そして、漢方3社(ツムラ、カネボウ、小太郎)が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し、また、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については、臨床現場における重要性や使用頻度等に鑑み、@処方名「黄苓湯」について「三和細粒(S−35)」(原判決別表1−2の通し番号9)、A処方名「葛根加朮附湯」について「三和細粒(SG−141)」(同14)、B処方名「桂枝加黄耆湯」について「東洋細粒(TY−026)」(同27)、C処方名「桂枝加葛根湯」について「東洋細粒(TY−027)」(同28)、D処方名「桂枝加厚朴杏仁湯」について「東洋細粒(TY−028)」(同29)、E処方名「桂麻各半湯」について「東洋細粒(TY−037)」(同41)、F処方名「芍薬甘草附子湯」について「三和細粒(S−05)」(同69)、G処方名「四苓湯」について「大杉細粒(SG−140)」(同80)、H処方名「当帰芍薬散加附子」について「三和細粒(S−29)」(同112)を選択し、総計309個の具体的薬剤を選択している。なお、上記のうち、A「葛根加朮附湯」、F「芍薬甘草附子湯」及びH「当帰芍薬散加附子」については、三和生薬株式会社(三和)のみならず、大杉も商品を販売しているところ、Aの「三和細粒(SG−141)」は三和が製造し大杉が販売しているもの、Fの「三和細粒(S−05)」及びHの「三和細粒(S−29)」は、三和が製造販売しているものが選択されている(甲69)。
 控訴人書籍漢方薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、原判決別表1−2のとおりである。
(ウ) 「処方名」(合計149)の配列
 控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」は、原判決別表1−2の「処方名」欄記載のとおり、全148の漢方処方名(307の商品名)を、原則として50音順で配列し、その最後に、生薬である処方名「ヨクイニンエキス」(2の商品名)を配列したことにより、合計149(309の商品名)を掲載している。なお、例外的に50音順を崩して配列した箇所は、@「葛根湯」−「葛根加朮附湯」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」の配列(原判決別表1−2の通し番号13〜15)、A「桔梗湯」−「桔梗石膏」の配列(同20・21)、B「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加朮附湯」−「桂枝加苓朮附湯」の配列(同32〜34)、C「ヨクイニンエキス」の配列(同149)の4箇所である。
(エ) 漢方薬薬剤情報
 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報の具体的な掲載例は、原判決別紙1−2のとおり、@「薬剤名」、A「組成・容量・〔1日用量〕」及びB「備考」の3つの項目欄を設けた一覧表形式となっている。
 前記(イ)のとおり選択された個々の具体的な薬剤の薬剤情報は、漢方薬薬剤に関する添付文書情報及び添付文書外情報から、@「薬剤名」の欄に、剤形、製品番号及び製造会社略号、価格、A「組成・容量・〔1日用量〕」の欄に、組成、容量、1日の用量、B「備考」の欄に、証、適応症(疾患・症状)、禁忌、相互作用、重大な副作用、その他の副作用が適宜選択されている。組成及び適応症については各製薬会社により多少異なるため、代表例としてツムラの製造販売に係る薬剤の薬剤情報が選択され、必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報が追加的に選択されている。なお、「証」とは、疾病が生体に与えている状況の総合をいい、患者が現時点で呈している病状を陰陽・虚実、気血水、五臓等の漢方医学のカテゴリーで総合的に捉えた診断であり、治療の指示を指すものであるが、添付文書に記載されている情報ではない。
(3) 被控訴人書籍について
ア 被控訴人書籍の発行
 被控訴人は、平成20年1月25日、医師、薬剤師等の医療従事者向けに、薬剤を分類し、薬剤情報を記載した薬剤便覧及び分類された薬剤群に関する説明を掲載した被控訴人書籍を発行した(甲2)。
イ 編集方針
 被控訴人書籍は、以下の編集方針で編集された(甲2、乙38〜41)。
(ア) 平成19年12月時点で薬価収載されている医療用医薬品のうち、日常診療で汎用されている薬剤を、一部の経過措置品目などを除き掲載するという方針で薬剤を掲載した。
(イ) 被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された個々の具体的な薬剤は、被控訴人発行の「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)に掲載された全2080の一般名(処方名)から、臨床現場で使用する薬剤便覧としてのコンパクト化の要請と薬剤情報の網羅性の要請を踏まえ、臨床上の有用性や使用頻度を考慮し、掲載する必要がないと判断した一般名を除外したり、複数に分割して処理したり、読者の利便性を考慮して同一薬剤を複数箇所に掲載するなどの編集作業の結果、最終的に2143の一般名を選択し、当該一般名に属する薬剤について、被控訴人が作成した分類体系を前提に、臨床現場での重要度とコンパクト化を考慮して掲載する個々の具体的な薬剤を選択した。
(ウ) 被控訴人書籍一般薬便覧部分では、上記(イ)により選択された薬剤について、分類項目(一般名)ごとに、先発薬のグループの薬剤を先にして、ジェネリック医薬品のグループの薬剤を後にして、それぞれのグループ内では、原則として50音順になるように配列している(ただし、「新薬」の分類項目に属する薬剤を除く。)。
ウ 被控訴人書籍便覧部分の分類体系
 被控訴人書籍便覧部分は、次の5層の分類体系から構成されている(甲2)。
(ア) 大大分類(13項目)
 具体的な分類項目の名称及び掲載順序は、@「精神・神経系」、A「感覚器系」、B「循環器系」、C「呼吸器系」、D「消化器系」、E「内分泌・代謝系」、F「腎臓・泌尿器系」、G「ビタミン・栄養・輸液・電解質製剤」、H「血液用薬・血液製剤」、I「抗悪性腫瘍薬・免疫抑制薬」、J「鎮痛、抗炎症、抗アレルギー系薬」、K「病原微生物用薬」及びL「その他」である。
(イ) 大分類(71項目)
 「大大分類」を細分化したものである。上記(ア)L「その他」のうちの「69.漢方薬」の部分が被控訴人書籍漢方薬便覧部分であり、それ以外の70項目が被控訴人書籍一般薬便覧部分である。
(ウ) 中分類
 「大分類」を細分化したものである。
(エ) 小分類
 「中分類」を必要に応じてさらに細分化したものである。
(オ) 薬剤の一般名
エ 被控訴人書籍一般薬便覧部分の構成
 被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、原判決別表2−1のとおりであり(ただし、平成19年9月以降に薬価収載された「新薬」の分類項目に分類された薬剤を除く。)、その具体的な掲載例は、原判決別紙2−1のとおりである(甲2、55)。
オ 被控訴人書籍漢方薬便覧部分の構成
(ア) 被控訴人書籍漢方薬便覧部分に掲載の薬剤及びその掲載順序は、原判決別表2−2のとおりであり、その具体的な掲載例は、原判決別紙2−2のとおりである(甲2、18)。
(イ) 被控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」は、原判決別表2−2の 「処方名」欄記載のとおり、全148の漢方処方名を、原則として50音順で配列し、その最後に、生薬である処方名「ヨクイニンエキス」を配列したことにより、合計149を掲載している。そこで選択された総計309個の具体的薬剤は、控訴人書籍漢方薬便覧部分における選択と同一である(なお、甲69によれば、処方名「五苓散」における具体的薬剤が異なるとされているが、甲1及び2によれば、控訴人書籍及び被控訴人書籍のいずれにおいても、「ツムラ(17)」、「コタロー(N17)」、「カネボウ(クラシエ。KB−17)」、「カネボウ(クラシエ。EK−17)」及び「カネボウ錠(クラシエ。EKT−17)」の5商品名が選択されており、同一である。)。
(ウ) 被控訴人書籍漢方薬便覧部分の「処方名」の配列は、控訴人書籍漢方薬便覧部分において例外的に50音順を崩して配列した4箇所の配列も含め、同一である。
カ 被控訴人書籍便覧部分においては、一般薬及び漢方薬の各薬剤について、@「品名、規格単位」、A「適応、用法・用量」、B「警告、禁忌、副作用等」及びC「臨床情報」の項目欄を設け、各薬剤について一覧表形式により薬剤情報を掲載している。漢方薬の薬剤情報としては、@「品名、規格単位」の欄に、剤形、製品番号及び製造会社略号、組成、A「適応、用法・用量」の欄に、適応症(疾患・症状)、1日の用量・用法、B「警告、禁忌、副作用等」の欄に、重大な副作用、併用注意、C「臨床情報」の欄に、処方のポイント、調剤・薬学管理のポイント等を掲載している(甲2)。
キ 被控訴人の従前の書籍
 被控訴人は、被控訴人書籍を発行する前に、以下の医薬品に関する書籍を発行していた。
(ア) 「日本医薬品集 医療薬」(乙6は、その2008年版。平成19年9月1日発行。少なくとも2006年版が存在する。)は、最新添付文書を網羅し、医療用医薬品約1万7500品目を、成分の50音順に配列している。
(イ) 「最新治療薬リスト」(乙11は、その平成18年版。初版は平成13年11月発行。)は、原則として薬価基準に収載されている医療用医薬品等を対象としており、成分ごと内注外歯別に、薬効分類番号(日本標準商品分類の医薬品の部)順に配列している。
(ウ) 「薬効・薬理別 医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5。平成16年10月20日発行)は、類似薬選定のための薬剤分類に薬価基準収載医薬品を対応させたものである。
(4) 漢方薬の取引の実情等
ア 製薬会社とそのシェアについて
 日本国内で医療用漢方薬を製造販売する製薬会社は、ツムラ、カネボウ、小太郎、大杉、三和、伸和製薬株式会社、帝国漢方製薬株式会社、本草製薬株式会社、株式会社東洋薬行、株式会社阪本漢法製薬、太虎精堂株式会社、ホノミ漢方製剤、ジェイドルフ株式会社及び株式会社カーヤの合計14社である(乙4)。
 このうち、ツムラは、漢方薬の全処方名148のうち129に属する薬剤を製造販売しており、平成19年当時の国内医療用漢方薬のシェアは、第1位のツムラが82.4%、第2位のカネボウが10.1%、第3位の小太郎が約7%程度を占めており、これら漢方3社で全体の約99%を占めていた。なお、近時は、大杉のシェアが第3位であるとの報告もある(甲73、乙17、18)。
イ 取扱いの実績
(ア) 国立病院機構が運営する全145の病院において実際に取り扱っている漢方薬の平成19年度購入実績は、処方名で捉えた場合、ツムラの製品が94、カネボウの製品が30、小太郎の製品が15、大杉の製品が4、三和の製品が1であり、その他の漢方薬メーカーが製造する薬剤についての取扱実績はない(乙56)。
(イ) ツムラ、カネボウ及び小太郎の漢方3社については、「主要漢方薬メーカー」「漢方エキス御三家」などとして、クリニックや薬局の運営するウェブサイト等でも、特に取り上げて記載しているものが複数存在する一方で(乙57の3〜8)、漢方3社に加えて、大杉を入れるものも存在し(甲72)、これらの主要な会社が製造販売する商品は、他の商品と別異の取扱いがされている。
ウ 添付文書の記載項目
 厚生省薬務局長通知(平成9年4月25日薬発第606号)によれば、漢方薬を含む医療用医薬品の添付文書の記載項目は、@作成又は改訂年月、A日本標準商品分類番号等、B薬効分類名、C規制区分、D名称、E警告、F禁忌、G組成・性状、H効能又は効果、I用法及び用量、J使用上の注意、K薬物動態、L臨床成績、M薬効薬理、N有効成分に関する理化学的知見、O取扱い上の注意、P承認条件、Q包装、R主要文献及び文献請求先、S製造業者又は輸入販売業者の氏名又は名称及び住所の20項目である(乙52)。
エ 生薬と漢方製剤について
 日本標準商品分類では、生薬は、薬効分類「51 生薬」に分類されるが、一部の生薬については、漢方薬としてではなく単独で用いられることが想定され、単独で用いられた場合でも効能・効果を有するものもあることから、これらの生薬が薬効分類「59 その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」に分類されている(甲5、乙6)。
 当時、薬効分類「51 生薬」としては、処方名で190程度、商品数で1920程度、薬効分類「59 その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」としては、処方名で5程度、商品数で13程度、漢方の薬剤は、処方名で148、商品数で1118が存在していた(当事者間に争いがない。)。
オ 類書における掲載状況
 類書の薬剤便覧における薬剤の選択及び掲載状況等は、以下のとおりである(甲41、57、70、乙2〜6、9、11、30、31、96)。
(ア) 「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2。メディカルレビュー社、平成20年1月10日発行)は、全体を16に分類し、さらに72の章に分類し、併せて4ないし5層の階層に分類している。掲載した薬品は、前年12月時点での医療用医薬品のうち、日常よく使用される薬剤及び臨床上重要と思われる薬剤を中心に記載している。
 漢方薬については、処方名29、商品名69を選択し、製品番号順に配列している。収載した製薬会社は、ツムラ及びカネボウが主であり、一部、小太郎及び大杉を収載している。「ヨクイニンエキス」は、漢方薬ではなく皮膚科用薬の章に掲載されている。薬剤情報としては、剤形、製造販売会社名、組成、1日の用量、適応症、副作用、禁忌、併用注意及び証等を掲載している。
 なお、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2002年版)」(乙30。メディカルレビュー社、平成14年2月10日発行)では、薬剤情報として、剤形、製造販売会社名、組成、1日の用量、適応症、副作用、禁忌及び併用注意等を、添付文書から選択していた。
(イ) 「ポケット医薬品集2008年版」(乙3。白文舎、平成20年1月発行。第20版)は、全体を27に分類し、4ないし5層の階層に分類している。
 漢方薬については、「漢方製剤」として、処方名138、商品名321を選択している。50音順が原則であるが、控訴人書籍において例外的に50音順を崩して配列されている箇所については、@「葛根湯」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」(原判決別表1−2の通し番号13−15)、A「桔梗湯」−「桔梗石膏」(同20−21)、B「桂枝加朮附湯」−「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加苓朮附湯」(同33―32―34)と配列されており、上記Aのほかにも50音順を崩した箇所がある。「ヨクイニンエキス」は、漢方薬ではなく皮膚科用薬の章に掲載されている。収載した製薬会社は、ツムラ、小太郎、カネボウ、大杉であり、エキス含量の多い順に会社名を配列している。なお、薬剤情報として、製造販売会社名、組成、容量、適応症、副作用及び証等を掲載している。
(ウ) 「治療薬マニュアル2008」(乙4。医学書院、平成20年2月1日発行。初版は1990年版)は、新薬を除き、全体を74に分類し、4層の階層に分類している。
 漢方薬については、「漢方薬」として、処方名151、商品名639を選択している。50音順が原則であるが、控訴人書籍において例外的に50音順を崩して配列されている箇所については、@「葛根湯」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」−「葛根加朮附湯」(原判決別表1−2の通し番号13−15−14)、A「桔梗石膏」−「桔梗湯」(同21−20)、B「桂枝加朮附湯」−「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加苓朮附湯」(同33―32―34)と配列されており、上記@のほかにも50音順を崩した箇所がある。「ヨクイニンエキス」は、通常の50音順の箇所に掲載されている。なお、漢方薬において6剤の生薬を収載している。収載した製薬会社について、その冒頭に、ツムラ、クラシエ、小太郎及びその他の会社名という分類表を掲載した上、全社の製品を掲載しているが、用法・用量は、ツムラの添付文書に準拠している。薬剤情報として、剤形、製造販売会社名、組成、1日の用量、適応症及び副作用等を掲載している。
 なお、「治療薬マニュアル2002」(乙31。医学書院、平成14年2月1日発行)では、薬剤情報として、剤形、製造販売会社名、組成、1日の用量、適応症及び副作用等を、添付文書から選択していた。
(エ) 「薬効・薬理別 医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5。被控訴人、平成16年10月20日発行)は、類似薬選定のための薬剤分類に薬価基準収載医薬品を対応させたものである。
 漢方薬については、「520 漢方製剤」として、成分名の50音順に掲載されている。そして、控訴人書籍において例外的に50音順を崩して漢方薬が配列されている箇所については、@「葛根加朮附湯エキス」−「葛根湯エキス」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷エキス」(原判決別表1−2の通し番号14−13−15)、A「桔梗石膏エキス」−「桔梗湯エキス」(同21−20)、B「桂枝加朮附湯エキス」−「桂枝加竜骨牡蛎湯エキス」−「桂枝加苓朮附湯エキス」(同33―32―34)と、全て50音順に配列されている。なお、「ヨクイニンエキス」については、「漢方製剤」ではなく、「その他の生薬製剤」として、他の4の成分名のものと共に掲載されている
(オ) 「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6。被控訴人、平成19年9月1日発行。2006年版がある。)は、医療用医薬品約1万7500品目を、成分の50音順に配列し、5層の階層に分類している。
 漢方薬については、148の処方名、807の商品名を選択している。50音順が原則であるが、控訴人書籍において例外的に50音順を崩して配列されている箇所については、@「葛根湯」−「葛根加朮附湯」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」(原判決別表1−2の通し番号13−14−15)、A「桔梗湯」−「桔梗石膏」(同20−21)、B「桂枝加朮附湯」−「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加苓朮附湯」(同33―32―34)と配列されており、上記@Aのほかにも50音順を崩した箇所がある。「その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」に属するものとして、処方名で「ヨクイニンエキス」、「ブシ」及び「ビスキンサン製剤」の3つ(このうち、「ヨクイニンエキス」には、「ヨクイニンエキス錠」及び「ヨクイニンエキス散」の2つの商品が属している。)が分類されているため、「ヨクイニンエキス」は、漢方薬には収載されていない。なお、収載した製薬会社は全社である。
(カ) 「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9。薬事日報社、平成20年3月31日発行)は、全体が76の項目により分類され、それが4層の階層に分類されている。
 漢方薬については、「76 医療用漢方製剤」の分類項目において、漢方製剤として148の処方名、307の商品名に加え、「ヨクイニンエキス」も選択され、合計149の処方名、309の商品名が、控訴人書籍と同一の順序で配列されている(なお、甲69によれば、処方名「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」において、「コタロー(N2)」が収載されていないとされているが、乙9には、処方名「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」において、「N2」が収載されている。)。
 収載した製薬会社は、ツムラ、小太郎及びクラシエが主である。薬剤情報として、剤形、製造販売会社名、製品番号、組成、容量、1日の用量、適応症、副作用、禁忌及び併用注意等を添付文書から選択している。
 なお、「ポケット版臨床医薬品集2007」(甲57。薬事日報社、平成19年5月30日発行)では、「医療用漢方製剤」として、135の処方名が挙げられ、処方ナンバー、組成及び効能効果等が掲載されていた。
(キ) 「最新治療薬リスト平成18年版」(乙11。被控訴人、平成18年5月31日発行)は、薬効分類に従って分類されている。
 漢方薬については、「付録」の中に「漢方製剤」として掲載されている。50音順が原則であるが、控訴人書籍において例外的に50音順を崩して配列されている箇所については、@「葛根加朮附湯」−「葛根湯」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」(原判決別表1−2の通し番号14−13−15)、A「桔梗石膏」−「桔梗湯」(同21−20)、B「桂枝加朮附湯」−「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加苓朮附湯」(同33―32―34)と、全て50音順に配列されている。「ヨクイニンエキス」は、「漢方製剤」ではなく、「その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」に掲載されている。なお、収載した製薬会社は漢方3社に限らない。
2 複製及び翻案について
 著作物の複製(著作権法21条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(同法2条1項15号参照)、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は、既存の著作物の複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、編集著作物として保護されるものであるところ(著作権法12条1項)、編集著作物における創作性は、素材の選択又は配列に、何らかの形で人間の創作活動の成果が表れ、編集者の個性が表れていることをもって足りるものと解される。もっとも、編集著作物においても、具体的な編集物に創作的な表現として表れた素材の選択や配列が保護されるのであって、具体的な編集物と離れた編集方針それ自体が保護されるわけではない。
3 控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と配列について
(1) 共通性
ア 薬剤の選択について
(ア) 控訴人は、控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の選択が同一であると主張して、改訂版具体的薬剤対比表等(甲79、80)を提出する。
(イ) なるほど、改訂版具体的薬剤対比表等(甲79、80)における控訴人の判定方法によれば、控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択について、大分類ごとの具体的薬剤の一致率は、100%が8分類、90%以上100%未満が29分類となる。
(ウ) しかしながら、上記証拠においては、控訴人書籍にのみ掲載されて被控訴人書籍には掲載されていない薬剤が1154個あり、その逆の薬剤が971個に及んでいる。このようにいずれか一方にのみ掲載されている薬剤がある上、全体の数も、原判決別表1−1及び同2−1によれば、控訴人書籍と被控訴人書籍とで、その選択結果の数が300以上も異なり、選択の対比の対象となる薬剤数においても大きく異なるものであることから、具体的薬剤の選択が同一であるとまではいえない。
(エ) そして、控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「抗寄生虫薬」についても、控訴人書籍においては、被控訴人書籍及び他の類書が上記大分類に収載している「純生」塩キ(標榜薬効:抗原虫薬)を収載しておらず、そもそも100%一致するとはいえない(甲79の4)。
 同様に、控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「痛風・高尿酸血症治療薬」については、被控訴人書籍において上記大分類に選択された具体的薬剤のうち、10の薬剤は、控訴人書籍においては「泌尿器・生殖器用剤」に分類されており、2の薬剤は、控訴人書籍に収載されていないものであって、100%一致するとまではいえない(甲79の16)。
 また、控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、精神刺激薬」についても、被控訴人書籍において上記大分類に相当する大分類「抗精神病薬・抗うつ薬」に選択された具体的薬剤のうち、その後新たに薬価収載されたものを除いても、少なくとも6の薬剤は、控訴人書籍に収載されていないものであって、100%一致するとまではいえない(甲79の43)。
 さらに、控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「筋弛緩薬」についても、被控訴人書籍において上記大分類に相当する大分類「骨格筋弛緩薬」に選択された具体的薬剤のうち、新たに薬価収載されたものではない少なくとも2の薬剤は、控訴人書籍に収載されていないものであって、100%一致するとまではいえない(甲79の51)。
イ 薬剤の配列について
(ア) 控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列と被控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列とは、「大大分類」、「大分類」、「中分類」、「小分類」及び「一般名」という5層の分類体系に従って分類されている点及び「大大分類」の分類項目数が13である点では共通する。
(イ) しかしながら、控訴人書籍と被控訴人書籍とは、「大大分類」を始め各層の分類項目の配列が異なる上、個々の具体的な薬剤の配列は、控訴人書籍一般薬便覧部分では、「小分類」又は「一般名」の分類項目ごとに控訴人及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列したものであるのに対し、被控訴人書籍一般薬便覧部分では、「一般名」の分類項目ごとに、先発薬のグループの薬剤を先にして、ジェネリック医薬品のグループの薬剤を後にして、それぞれのグループ内では、原則として50音順になるように配列したものである。
(ウ) また、控訴人書籍と被控訴人書籍の分類体系は、項目名及び項目数、項目分けの方法、項目の配列が異なり、共通しているとはいえない。しかも、控訴人書籍と被控訴人書籍の分類体系は、大大分類の個数こそ同一であるが、大大分類の配列や項目分けの方法が異なること、大分類及び中分類についても、項目名及び項目数、項目分けの方法、項目の配列が異なることから、類似していないことは明らかである。
 さらに、控訴人書籍と被控訴人書籍とでは、具体的な一般名に属する薬剤名のレベルでも、相違するものが多く存在する。
 そして、その具体的な配列結果としての薬剤の配列(掲載順序)は、原判決別表1−1及び2−1に示すとおり、明らかに相違しており、これが同一であるとはいえない。
(2) 複製又は翻案の成否
ア 薬剤の選択について
(ア) 控訴人は、被控訴人書籍一般薬便覧部分は、控訴人書籍一般薬便覧部分の本質的特徴を直接感得することができると主張して、改訂版具体的薬剤対比表等(甲79、80)を提出する。
(イ) しかしながら、前記(1)のとおり、控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択は、全体としてみて、同一又は類似であるとまではいえない。
(ウ) そして、控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「高脂血症」についてみると、控訴人書籍及び被控訴人書籍において選択された高脂血症薬は、日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(2004年版、2007年版)に抗高脂血症薬として掲載された薬剤と同一である(乙81〜83)。このように、「100%の選択一致率」といっても、薬剤という性格上、学会等で定められた結果、その選択に創作性が認められないものである。
(エ) また、控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「抗寄生虫薬」についても、前記(1)のとおりそもそも100%一致するとはいえない上に、控訴人書籍及び被控訴人書籍において共通して選択された抗寄生虫薬は、薬価基準点数早見表(乙103)の備考欄(薬効)における「抗トリコモナス」、「抗マラリア」、「回虫駆除」、「フィラリア駆除」、「駆虫」、「吸虫駆除」、「抗原虫」、「カリニ肺炎治療」の記載を含むものの全てが収載されている。そして、被控訴人書籍において選択されたこれらの薬剤は、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)にも全て収載されているから、その選択の幅は乏しいものといわざるを得ない。
 さらに、控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「消炎酵素」についても、控訴人書籍及び被控訴人書籍において選択されている具体的薬剤は、全て、「日本医薬品集データベース2006年9月版」において、薬効別中分類が、「酵素製剤」、「酵素製剤・他に分類されない治療を主目的としない医薬品」又は「眼科用剤・酵素製剤」に分類されているものである(甲79の12)。その意味で、その選択の幅は乏しいものといわざるを得ない。
(オ) 以上のとおり、控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択は、全体としてみて、同一又は類似であるとはいえず、共通する部分についてもその選択に創作性が認められないものであるなど、被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択について、控訴人書籍の表現上の本質的特徴を直接感得することができるとはいえず、複製にも翻案にも当たらない。
イ 薬剤の配列について
(ア) 前記(1)のとおり、控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列と被控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列とは、「大大分類」、「大分類」、「中分類」、「小分類」及び「一般名」という5層の分類体系に従って分類されている点及び「大大分類」の分類項目数が13である点では共通するものの、両者の分類体系は、項目名及び項目数、項目分けの方法、項目の配列が異なり、具体的な一般名に属する薬剤名のレベルでも、相違するものが多く存在し、その具体的な配列結果としての薬剤の配列(掲載順序)は、同一であるとはいえない。
(イ) 臨床現場で迅速に必要かつ十分な薬剤情報を得られることを目的とし、個々の具体的な薬剤を分類体系に従って分類して掲載する薬剤便覧において、コンパクト化の要請と薬剤情報の網羅性の要請を踏まえ、分類体系の分類項目を前提に、その項目ごとに該当する薬剤を選択し、それらを配列することには、編集者の個性が表れるということができるものの、そもそも、著作権法は、表現上の創作性を保護するものであるから、それが具体的に表現として表れなければ、これを保護する余地はない。
 控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は、選択された薬剤が、本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され、その分類項目ごとに控訴人及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されたものであるものの、被控訴人書籍をみる者がその一般薬便覧部分の個々の薬剤の具体的な配列順序及び配置から控訴人が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり、その本質的特徴を直接感得させることはできない。
(ウ) 以上のとおり、被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な配列から、控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な配列の表現上の本質的特徴を直接感得することができない以上、複製にも翻案にも当たらない。
 編集著作物については、具体的な編集物に創作的な表現として表れた素材の選択や配列が保護されるのであって、具体的な編集物と離れた編集方針それ自体が保護されるのではないところ、控訴人の主張は、結局のところ、著作権法上保護の対象とならない、本件分類体系に従って薬剤を分類するという控訴人書籍の編集方針、すなわちアイデアの保護を求めるものにほかならない。
(3) 控訴人の主張について
ア 控訴人は、控訴人書籍における独自の分類体系に基づく選択という控訴人書籍における本質的特徴が、被控訴人書籍において、同一の大大分類、大分類及び中分類を採用して、その順序を入れ替えたにすぎない5層の分類体系を採用したことにより、直接感得させ得るとか、被控訴人書籍は、中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の選択においても、控訴人書籍の中分類又は小分類に属する薬剤と同一の薬剤を選択した上で、若干の修正を加えたもので、控訴人書籍の本質的特徴を直接感得させ得るとか、また、控訴人書籍が赤丸表記で選択した薬剤と同一の薬剤を選択し、小活字で掲載した個々の具体的な薬剤も同一の薬剤を選択した上で修正を加え、さらに掲載しない薬剤を取捨したことも同一であることから、控訴人書籍の本質的特徴を直接感得することができるなどと主張する。
 しかしながら、前記のとおり、著作権法は、表現上の創作性を保護するものであるから、それが具体的に表現として表れなければ、これを保護する余地はないところ、被控訴人書籍一般薬便覧部分における具体的表現は、控訴人書籍のそれと異なるものであって、控訴人が主張するような表現上の特徴を直接感得することは困難である。
 のみならず、控訴人の上記主張は、結局のところ、5層の分類体系に基づく分類というアイデアの保護をいうものにすぎず、具体的な分類体系も同一とはいえない。しかも、大大分類、大分類、中分類、小分類、一般名といった4層ないし5層の複数の階層の分類体系自体は、他の類書(乙2〜4、9、30)にも見られる構成である。
イ 控訴人は、控訴人訴訟代理人作成の商品名対比表(甲40、45〜47)、具体的薬剤同一性判定表(甲53)及び改訂版具体的薬剤対比表(甲79)の判定欄が示すとおり、控訴人書籍一般薬便覧部分において本件分類体系に関連付けられて選択されている個々の具体的な薬剤の大部分が、被控訴人書籍一般薬便覧部分において、本件分類体系と類似する5層の分類体系に関連付けられて選択されているから、両者は創作的表現において類似する旨主張する。
 しかしながら、控訴人書籍の分類体系の分類項目は、それが定まれば当該分類項目に掲載される薬剤が機械的にあるいは一義的に定まるものではなく、当該分類項目を前提に諸要素を考慮して個々の具体的な薬剤が選択されるというのである。その選択自体には編集者の個性が表れるものであるが、分類体系が同一又は類似するものであったとしても、その分類体系に従って行われた具体的な薬剤の選択結果が異なる可能性がある。そうすると、被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果が、控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものでなければ、複製にも翻案にも当たるとはいえない。
 そして、著作権法は、表現上の創作性を保護するものであるから、それが具体的に表現として表れなければ、これを保護する余地がないことは、前記のとおりであるところ、控訴人訴訟代理人作成の商品名対比表(甲40、45〜47)及び具体的薬剤同一性判定表(甲53)の各判定欄の判定結果によっても、控訴人書籍一般薬便覧部分において選択されている個々の具体的な薬剤の大部分が、被控訴人書籍一般薬便覧部分において選択されているとまではいえない。また、改訂版具体的薬剤対比表(甲79)をもってしても、被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果から、控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
ウ 控訴人は、控訴人書籍独自のフォーマット、本件分類体系、目次部分及び索引部分を組み合わせた控訴人書籍一般薬便覧部分における具体的な薬剤の配列は、他の類書と顕著に異なる独自の配列態様になっており、創作性を有するところ、被控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は、控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列の本質的特徴の全てにおいて類似する旨主張する。
 しかしながら、控訴人書籍と被控訴人書籍の薬剤の配列の具体的結果を対比しても、共通性を見出すことができないことは、前記(1)のとおりである。控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は、選択された薬剤が、本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され、その分類項目ごとに控訴人及びA教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されたものであるものの、被控訴人書籍をみる者がその一般薬便覧部分の個々の薬剤の具体的な配列順序及び配置から控訴人が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり、その本質的特徴を直接感得させることはできない。
エ 控訴人は、両者の薬剤の物理的な配列の順序に相違があるとしても、その相違は、被控訴人書籍一般薬便覧部分において、控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の配列の創作性の一内容をなす控訴人独自の本件分類体系を前提として、各分類内部の分類項目の配列順序を入れ替えたために生じた些細な相違にすぎず、かかる入替えは控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列に依拠して行われた極めてありふれた変更にとどまり、分類項目の入替えを元に戻せば、控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列と酷似した薬剤の配列になると主張する。
 しかしながら、控訴人書籍一般薬便覧部分及び被控訴人書籍一般薬便覧部分ともに、分類体系の分類項目ごとに、諸要素を考慮して当該分類項目に掲載すべき薬剤を選択し、そのように選択された薬剤群の中で異なる配列基準に従って個々の具体的な薬剤が配列されているものであり、その配列が分類項目ごとに機械的にあるいは一義的に定められたものではないから、個々の薬剤の配列における具体的な表現が類似するとはいえないし、薬剤の配列の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。控訴人の主張は、結局のところ、著作権法上保護の対象とならない、本件分類体系に従って薬剤を分類するという控訴人書籍の編集方針、すなわちアイデアの保護を求めるものにほかならない。
オ 控訴人は、被控訴人書籍における配列は、中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の配列においても、控訴人書籍の中分類又は小分類に属する薬剤と同一の薬剤を控訴人書籍と同様、関連する分類ごとに配列していることから、控訴人書籍の第1の特徴(薬剤選択の基準となる独自の分類体系を編み出したこと)を十分に直接感得させ得るものであると主張する。
 しかしながら、被控訴人書籍一般薬便覧部分の中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の配列をみる者が、その具体的な配列順序及び配置から控訴人が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり、その本質的特徴を直接感得することはできない。
カ 控訴人は、被控訴人書籍の一般名及び具体的な薬剤については、原則として50音順の基本配列としているため、控訴人書籍との外面的かつ表面的な配列順序に違いはあるものの、50音順自体は創作性が認められない配列基準である上に、実際の薬剤検索の際、控訴人書籍の分類体系と同一の分類体系を反映した目次により中分類の該当頁まで導かれた時点で、一般名以下の具体的薬剤の検索はほとんど完了することから、一般名以下の具体的薬剤配列における創作性価値が、被控訴人書籍の具体的薬剤配列における創作的価値に及ぼす影響がそれほど大きくない点で同一であり、かつ読者は一見して、単に一般名以下の薬剤の並び順を50音順に変更したにすぎないことが分かることから、控訴人書籍の第2の特徴(表現形式のレベルで控訴人書籍において表現されている独自の分類体系)を直接感得させ得るものであると主張する。
 しかしながら、この点についても、被控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的な薬剤群の配列をみる者が、単に一般名以下の薬剤の並び順を50音順に変更したにすぎないことを認識することができるとはいえず、控訴人書籍一般薬便覧部分の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり、その本質的特徴を直接感得することはできない。なお、控訴人書籍や被控訴人書籍のような医薬品便覧は、医療情報の提供を目的とするものであり、そこに記載された情報の正確性、統一性や、検索のしやすさ等の実用性が高度に求められる書籍であり、また、掲載される医薬品情報やその分類体系、編集方針は、一般の医療従事者であれば誰でも持っている医学的知見に基づく必要があることからすれば、医薬品便覧における医薬品の分類体系は、おのずから一定の類似性を有するものにならざるを得ない。
キ したがって、控訴人の主張は、いずれも採用することができない。
(4) 小括
 以上のとおり、被控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択又は配列において、控訴人書籍一般薬便覧部分を複製又は翻案したものと認めることはできない。
4 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列について
(1) 同一性
ア 薬剤の選択
 控訴人書籍漢方薬便覧部分と被控訴人書籍漢方薬便覧部分とは、原判決別表1−2及び2−2のとおり、いずれも、148の処方名及び307の商品名の漢方薬並びに1の処方名及び2の商品名の生薬が選択されている。そこに選択された総計309の薬剤は、漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択したことにおいて同一であり、また、漢方3社が薬剤を製造販売していない9の漢方処方名(原判決別表1−2の通し番号9、14、27ないし29、41、69、80及び112)において選択された薬剤についても、完全に同一である(甲1、2、18、42、69)。
イ 薬剤の配列
 控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は、原判決別表1−2の「処方名」欄記載のとおり、原則として50音順としているが、例外的に50音順を崩して配列した箇所が、@「葛根湯」−「葛根加朮附湯」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」の配列(原判決別表1−2の通し番号13〜15)、A「桔梗湯」−「桔梗石膏」の配列(同20・21)、B「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加朮附湯」−「桂枝加苓朮附湯」の配列(同32〜34)、C「ヨクイニンエキス」の配列(同149)の4箇所である。被控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は、原判決別表2−2の「処方名」欄記載のとおり、原則として50音順としているが、例外的に50音順を崩して配列した箇所が控訴人書籍と同じ上記@ないしCの4箇所である。その結果、両者の「漢方処方名」の配列は、50音順を崩した4箇所及び生薬を1個だけ最後に加えた点においても、完全に同一である。
(2) 複製の成否
ア 薬剤の選択について
 前記1(2)エ及び1(4)エ認定のとおり、控訴人書籍漢方薬便覧部分においては、148の処方名、1000個以上の商品名の漢方薬から、臨床現場での重要性や使用頻度等を踏まえて、148の処方名、307の商品名の漢方薬を選択するとともに、195の処方名、1900個以上の商品名の生薬並びに生薬及び漢方処方に基づく医薬品の中から1の処方名(「ヨクイニンエキス」)、2の商品名の生薬を選択した上で、これを「漢方薬」の大分類の中に含めたものである。控訴人は、「ヨクイニンエキス」について、漢方薬ではなく生薬であるにもかかわらず、これを漢方薬として選択したものである(甲59、69)。
 そして、生薬である「ヨクイニンエキス」については、「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」(乙2)及び「ポケット医薬品集2008年版」(乙3)では、皮膚科用薬の章に掲載され、「薬効・薬理別 医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5)では、「漢方製剤」ではなく「その他の生薬製剤」の章に掲載され、「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)及び「最新治療薬リスト平成18年版」(乙11)においては、「漢方製剤」ではなく「その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」に掲載されているのであって、これを「漢方製剤」の分類に選択した類書は、控訴人書籍の発行後に発行された「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)以外に見られないところ、同書における漢方薬の選択及び配列については、控訴人書籍と全く同一の148の処方名、307の商品名の漢方製剤に加えて「ヨクイニンエキス」が選択され、控訴人書籍と50音順を崩した4箇所を含め、全く同一の配列がされていること、同書が控訴人書籍の発行後に発行されたこと等に照らし、同書をもってありふれていることの根拠とすることはできない。
 以上によれば、前記の漢方薬の薬剤の選択、特に「ヨクイニンエキス」を漢方製剤として選択したことには、控訴人らの創作活動の成果が表れ、その個性が表れているということができる。
イ 薬剤の配列について
 控訴人書籍及び被控訴人書籍の漢方薬便覧部分は、「処方名」(漢方処方名)を原則として50音順とし、例外的に、@「葛根湯」−「葛根加朮附湯」−「葛根湯加川★(くさかんむりに弓)辛夷」の配列(原判決別表1−2の通し番号13〜15)、A「桔梗湯」−「桔梗石膏」の配列(同20・21)、B「桂枝加竜骨牡蛎湯」−「桂枝加朮附湯」−「桂枝加苓朮附湯」の配列(同32〜34)、C「ヨクイニンエキス」の配列(同149)の4箇所のみ50音順を崩して配列している点において同一である。
 このうち、控訴人は、Cの「ヨクイニンエキス」について、漢方薬ではなく生薬であるところから、全く別個に配列し、これを漢方薬の最後に配列したものである。また、上記Aの配列については、「桔梗湯」及び「桔梗石膏」は、いずれも生薬「桔梗」を含む漢方製剤であり、咽喉における症状に用いられる点で共通しているところ、「桔梗湯」は、「漢方医学のバイブル」の1つである「傷寒論」及び「金匱要略」に記載された漢の時代から伝わる生薬の配合及び分量についての歴史的な処方であり、喉痛等に対して処方する機会が極めて多いのに対し、「桔梗石膏」は、原典を有しない比較的新しい処方であるため、まず「桔梗湯」の処方を考えることが臨床現場においては通常であること、また、「桔梗湯」は、単体で処方されることが多い漢方製剤であるが、「桔梗石膏」は、他の漢方製剤と共に処方されることが多い漢方製剤であるため、まず単体で処方することのできる「桔梗湯」を前にもってくることが臨床現場における使用に資することから、臨床現場の使用実態に即した配列にしたものである(甲76、弁論の全趣旨)。
 さらに、上記Bの配列も、「桂枝加竜骨牡蛎湯」が、前記のとおり「漢方医学のバイブル」の1つである「傷寒論」及び「金匱要略」に記載された漢の時代から伝わる歴史的な処方であるのに対し、「桂枝加朮附湯」及び「桂枝加苓朮附湯」が、江戸時代に日本で書かれた「方機」という書物に記載された処方であるところ、歴史が深い処方の方が信頼が高く、臨床現場においてより頻繁に用いられているところから、「桂枝加竜骨牡蛎湯」を先に配列することとしたものである(甲76、弁論の全趣旨)。
 このように、控訴人書籍における薬剤の配列は、漢方処方が、歴史的、経験的な実証に基づく薬効、中心的な役割を果たす主薬、基本方剤等、複数の分類基準によって区別される上に、基本方剤に新たな薬効を持つ生薬が加味されることで、多くの漢方処方に派生するという関係にあるところから、そのような歴史的、経験的な実証に基づく生薬の薬効及び基本方剤分類を考慮した配列にしたものである。
 そして、控訴人書籍の発行後に発行された「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)以外に、上記@ないしCについて控訴人書籍と同一の配列をしたものは見当たらない。被控訴人が発行した「薬効・薬理別 医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5)、「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)及び「最新治療薬リスト平成18年版」(乙11)においてすら、「ヨクイニンエキス」は、「漢方製剤」の分類の中には選択されず、それとは別の「その他の生薬製剤」又は「その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」等に分類されていたものである。また、被控訴人が控訴人書籍の発行より前に発行した「薬効 薬理別 医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5)及び「最新治療薬リスト平成18年版」(乙11)においては、控訴人書籍及び被控訴人書籍とは異なり、上記@ないしBを含め、全て50音順に配列されていたものである。
ウ 以上によれば、控訴人書籍漢方薬便覧部分は、漢方薬の148の処方名を掲載したほか、多数の生薬の中から「ヨクイニンエキス」のみを大分類「漢方薬」に分類するものとして選択した上、漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については、臨床現場における重要性や使用頻度等に鑑みて個別に薬剤を選択したというのであるから、薬剤の選択に控訴人らの創作活動の成果が表れ、その個性が表れているということができ、上記のような考慮から薬剤を選択した上、歴史的、経験的な実証に基づきあえて50音順の原則を崩して配列をした控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の配列には、控訴人らの創作活動の成果が表れ、その個性が表れているから、一定の創作性があり、これと完全に同一の選択及び配列を行った被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列は、控訴人書籍のそれの複製に当たるといわざるを得ない。
エ 被控訴人の主張について
 被控訴人は、漢方薬便覧部分の薬剤の選択にも配列にも、創作性がないと主張する。
 しかしながら、まず、「ポケット版臨床医薬品集2008」(乙9)をもってありふれていることの根拠とすることができないことは、前記のとおりである。そして、同書を除き、現に他の薬剤便覧では異なる薬剤の選択及び配列をしており(甲42)、特に被控訴人の発行に係る「薬効・薬理別 医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5)、「日本医薬品集 医療薬 2008年版」(乙6)及び「最新治療薬リスト平成18年版」(乙11)においてすら、漢方薬として「ヨクイニンエキス」を選択しておらず、また、被控訴人が控訴人書籍の発行より前に発行した「薬効・薬理別 医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5)及び「最新治療薬リスト平成18年版」(乙11)においてすら、全て50音順に配列されているなど、他の選択肢があったものである。
 なお、厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている漢方薬の148の処方名の全てを掲載し、それぞれの処方名ごとに当該処方名に属する薬剤を選択して掲載するという方針であれば、それによる薬剤の選択自体は、臨床現場で有用な薬剤便覧を編集することを目的とするものである以上、ありふれたものといえなくもないし、前記認定の漢方薬のシェアや国立病院機構が運営する病院の購入実績等に照らすと、漢方3社を優先して選択することは、薬剤便覧を作成する者にとって、ありふれたものといえなくもない。
 しかしながら、漢方薬の148の処方名を掲載したほか、多数の生薬の中から「ヨクイニンエキス」のみを大分類「漢方薬」に分類するものとして選択したこと、漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については、当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し、漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については、臨床現場における重要性や使用頻度等に鑑みて個別に薬剤を選択したというのであるから、薬剤の選択に控訴人らの個性が表れているということができ、控訴人書籍漢方薬便覧部分は、素材である個々の具体的な薬剤の選択において創作性がないとはいえない。また、漢方処方名を、原則として50音順で配列しつつも、その最後に、生薬である処方名「ヨクイニンエキス」を配列し、50音順の原則を崩して配列した箇所は、歴史的、経験的実証に基づく生薬の薬効及び基本方剤分類を考慮して配列したというのであるから、薬剤の配列にも控訴人らの個性が表れているということができ、控訴人書籍漢方薬便覧部分は、素材である個々の具体的な薬剤の配列においても、一定の創作性を有するといって差し支えない。
 したがって、被控訴人の上記主張は、採用することができない。
(3) 依拠性
 以上のとおり、被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列は、控訴人書籍のそれの複製に当たるといわざるを得ないところ、@被控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は、原則として50音順としているが、例外的に50音順を崩して配列した箇所が4箇所あり、その配列及び最後に生薬である「ヨクイニンエキス」を配列している点に至るまで、控訴人書籍漢方薬便覧部分と完全に同一であること、A控訴人書籍が被控訴人書籍より先に発行され、これに接する機会があったこと、B「今日の治療薬」が先駆的な書籍であったことからすると、同種の書籍を発行するに当たって、これを参考にしなかったとはいい難いこと等に照らすと、被控訴人は、控訴人書籍漢方薬便覧部分に依拠して被控訴人書籍を発行したものと推認される。
 この点に関し、被控訴人は、依拠していないと主張する。しかしながら、上記のとおり控訴人書籍と完全に同一である理由について、何ら合理的な説明をしておらず、到底採用することはできない。
(4) 小括
 よって、被控訴人書籍漢方薬便覧部分は、薬剤の選択及び配列について、編集著作物である控訴人書籍に係る控訴人の複製権を侵害するものである。
5 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択及び配列について
(1) 共通性
ア 控訴人書籍漢方薬便覧部分では、漢方薬薬剤情報として、漢方薬薬剤に関する添付文書情報及び添付文書外情報から、@剤形、製品番号及び製造会社略号、価格、A組成、容量、1日の用量、B証、適応症(疾患・症状)、相互作用、重大な副作用、その他の副作用が適宜選択されるとともに、主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の組成、容量、適応症(疾患・症状)が選択され、必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報が追加的に選択されている。
 他方、被控訴人書籍漢方薬便覧部分では、漢方薬薬剤情報として、@剤形、製品番号及び製造会社略号、組成、容量、A1日の用量、適応症(疾患・症状)、B併用注意、重大な副作用、処方のポイント及び調剤・薬学管理のポイントが選択されるととともに、主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の組成、容量及び適応症(疾患・症状)が選択され、必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報が追加的に選択されている。
イ 被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報のうち、「併用注意」は、添付文書において「相互作用」の一部として記載されており、控訴人書籍漢方薬便覧部分において薬剤情報として選択された「相互作用」の記載と同一の内容のものである。
 したがって、被控訴人書籍漢方薬便覧部分と控訴人書籍漢方薬便覧部分は、漢方薬薬剤情報について、@剤形、製品番号及び製造会社略号、組成、容量、1日の用量、適応症(疾患・症状)、相互作用(併用注意)、重大な副作用を選択したこと、A主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の組成、容量、適応症(疾患・症状)を選択し、必要に応じて、ツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報を追加的に選択していること、B適応症については、「疾患」−「症状」の順に掲載していることにおいて、共通性を有する。
(2) 複製又は翻案の成否
ア 前記1(4)ウのとおり、漢方薬を含む医療用医薬品の添付文書の記載項目は、@作成又は改訂年月、A日本標準商品分類番号等、B薬効分類名、C規制区分、D名称、E警告、F禁忌、G組成・性状、H効能又は効果、I用法及び用量、J使用上の注意、K薬物動態、L臨床成績、M薬効薬理、N有効成分に関する理化学的知見、O取扱い上の注意、P承認条件、Q包装、R主要文献及び文献請求先、S製造業者又は輸入販売業者の氏名又は名称及び住所の20項目である(乙52)。
 しかるに、控訴人書籍及び被控訴人書籍の漢方薬便覧部分において添付文書情報から共通して選択した薬剤情報に係る項目のうち、剤形、製品番号及び製造会社略号、組成、容量、1日の用量、適応症(疾患・症状)、相互作用、重大な副作用は、上記添付文書の記載項目のうち、臨床現場で漢方薬を用いる医療従事者にとっておよそ必要不可欠な情報に係る項目と重なる内容のものであって、実際に、類書の薬剤便覧においても、同様の選択が行われていることは、前記1(4)オ認定のとおりである(乙2〜4、9)。よって、上記の点については、表現上の創作性のない部分において共通するにすぎない。
イ 漢方薬の薬剤情報のうち、組成及び容量等について、主にツムラが製造販売する商品の添付文書に記載された情報を優先し、必要に応じてそれ以外の会社の製造販売する商品の添付文書に記載された情報を選択することについても、同様の選択を行っている類書が存在する(乙2、4、9)。そもそも、ツムラが漢方薬の全処方名148のうち129に属する薬剤を製造販売し、平成19年当時の国内医療漢方薬のシェア82.4%を占めていることに照らすと、上記の共通点は、ありふれたものであり、表現上の創作性のない部分において共通するにすぎない。
ウ 「適応症」に係る情報は、「症状」についての情報と、「疾患」についての情報の2つからなるところ、その配列は、「症状」−「疾患」の順とするか、あるいは「疾患」−「症状」の順とするかのいずれかの配列しかないことからすると、そのいずれの配列にも創作性を認めることはできない。
エ 以上のとおり、控訴人書籍と被控訴人書籍の漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択及び配列は、いずれも、表現上の創作性のない部分において共通するにすぎない。
 しかも、控訴人書籍漢方薬便覧部分では、その他の副作用や価格を選択し、添付文書外の情報として証を選択しており、他方、被控訴人書籍漢方薬便覧部分では、処方のポイント及び調剤・薬学管理のポイントを選択した結果、これに接する者が控訴人書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないものである。
(3) 控訴人の主張について
ア 控訴人は、特に「製品番号及び製造会社略号」をひとまとまりの情報として選択する行為が他の類書に例をみないものである旨を主張する。
 しかしながら、それは単なる表記上の工夫にすぎず、漢方薬薬剤情報の選択の創作性に直接関係するものではない。
イ 控訴人は、漢方薬薬剤情報の「適応症」について、一般的には、添付文書における配列順序のとおり「症状」−「疾患」の順に配列されているが、臨床現場においては「症状」の情報よりも「疾患」の情報を参照しやすい方が便利であり、「疾患」−「症状」の順に適応症を記載する方法が実務的に非常に役立つものであることに鑑み、控訴人書籍漢方薬便覧部分では、添付文書と配列順序を変えたもので、この配列には、高度の創作性が認められる旨主張する。
 しかしながら、「症状」についての情報と、「疾患」についての情報の2つからなる場合において、いずれを先に配列するかについて、表現上の本質的な特徴があるとはいえず、創作性を認めることはできないことは、前記のとおりである。
ウ したがって、控訴人の主張は、いずれも採用することができない。
(4) 小括
 以上のとおり、被控訴人書籍漢方薬便覧部分は、薬剤情報の選択及び配列において控訴人書籍漢方薬便覧部分を複製又は翻案したということはできない。
6 損害
(1) 損害賠償責任
 以上のとおり、被控訴人が被控訴人書籍を印刷及び販売する行為は、漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列に係る控訴人の著作権(複製権及び譲渡権)の共有持分の侵害に当たる。そして、被控訴人が控訴人書籍漢方薬便覧部分に依拠して被控訴人書籍を発行し、その選択及び配列が完全に同一であることに照らすと、被控訴人には、その点について少なくとも過失があると認められる。
 よって、被控訴人は、控訴人が被控訴人の上記行為により被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。
(2) 著作権法114条2項に基づく損害額
ア 被控訴人の得た利益
 被控訴人は、被控訴人書籍の発行日(平成20年1月25日)から本訴提起時(同年10月20日)まで、少なくとも●●●●●●部の被控訴人書籍を印刷し、うち、●●●●●●部を譲渡したものである。その売上高は、合計●●●●●●●●●円であり、変動費は●●●●●●●●●円である(乙61、74〜78、弁論の全趣旨)。
 売上高から、譲渡した●●●●●●部に対応する変動費を控除すると、以下のとおり、約●●●●万円となる。
 (計算式)●●●●●●●●●円−●●●●●●●●●円×(●●●●●●/●●●●●●)≒●●●●万円
       (1万円未満切捨て)
イ 侵害部分の割合
 被控訴人書籍漢方薬便覧部分は、被控訴人書籍の総頁数1530頁(索引を除く本文の総頁数1382頁)のうち44頁を占めるものであること、薬剤の選択及び配列において完全に一致し複製に当たるが薬剤情報の選択及び配列については複製でも翻案でもないこと、被控訴人書籍を特徴付ける内容となっている部分の一部を構成するものであること、その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、侵害部分が被控訴人書籍に占める割合は、全体の●%とするのが相当である。
ウ 著作権の共有持分
 さらに、控訴人が保有する控訴人書籍に係る著作権の共有持分割合は、10分の9である(甲43の1、62)。
エ 損害額
 以上を総合すると、被控訴人が被控訴人書籍を販売し、控訴人の著作権の共有持分を侵害したことにより受けた利益の額は、以下のとおり81万2430円であり、したがって、著作権法114条2項により推定される控訴人の損害額は、81万2430円と認められる。
 (計算式)●●●●万円×●●●●×0.9=81万2430円
(3) 弁護士費用
 被控訴人の著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある控訴人の弁護士費用相当額の損害は、事案の性質、認容額、主張立証の難易度等の事情に鑑み、20万円を下回るものではない。
(4) まとめ
 以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償として、101万2430円及び内金81万2430円に対する不法行為の後である平成20年11月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
7 結論
 以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は、上記6(4)の金員の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。よって、これを全部棄却した原判決は一部不当であるから、これを変更することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 土肥章大
 裁判官 部眞規子
 裁判官 齋藤巌
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