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【事件名】「チャングムの誓い」小道具事件
【年月日】平成25年3月28日
 東京地裁 平成22年(ワ)第31759号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論の終結の日 平成25年2月28日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
 原告の請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して1億円及びこれに対する平成19年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告らが韓国のテレビドラマの展覧会を開催して小道具や衣装、ドラマセット等を展示し、関連グッズを販売して、原告の上記小道具等の著作権(展示権及び複製権)を侵害したと主張して、被告らに対し、民法709条、719条に基づく損害賠償金2億4918万1942円の一部である1億円及びこれに対する不法行為の日である平成19年8月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、放送コンテンツの輸出、展示、キャラクター商品の製造流通等の事業を営む、韓国法に基づき設立された株式会社である。
イ 被告日本放送協会(以下「被告NHK」という。)は、放送事業を営む、放送法に基づき設立された法人である。
ウ 被告株式会社NHKエンタープライズ(以下「被告NEP」という。)は、被告NHKの子会社で、被告NHKのテレビ、ラジオ番組の制作や展示映像、デジタルコンテンツの制作、イベントの企画実施やビデオ、キャラクター商品の販売、権利許諾などのコンテンツ関連事業を営む株式会社である。
エ 被告株式会社エヌエイチケイプロモーション(以下「被告NPS」という。)は、被告NHKの子会社で、美術展、歴史・文化展、コンサート、各種イベント等の企画制作・運営等の事業を営む株式会社である。
(2) 韓国の放送局である韓国法人株式会社文化放送(以下「MBC」という。)は、ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」(全54話。以下「本件ドラマ」という。)を制作し、平成15年から平成16年にかけて韓国内で放映した。
 MBCの子会社である韓国法人MBC美術センター株式会社(以下「MBCA」という。)は、MBCに対し、本件ドラマに用いる小道具、衣装、ドラマセット等を供給した。
(3) 被告NHKは、MBCから本件ドラマの放送権を取得し、平成16年10月以降、本件ドラマを数回にわたり放送した。
(4) 被告NEPは、平成16年12月、MBCとの間で、被告NEPが本件ドラマのタイトル(原語、漢字、日本語)及びロゴ並びに被告NHKが本件番組を広報宣伝する目的で制作したイラスト画を日本国内において独占的に商品化し、市場において商業利用する権利を取得することなどを内容とするマスターライセンス契約(以下「本件マスターライセンス契約」という。)を締結した。
(5) 原告は、平成17年9月9日付けで、MBCAとの間で、原告がMBCAの保有する本件ドラマの美術と小物のデザイン及び著作権などの諸般の権利の譲渡を受けて、これに基づき複製等した商品を開発、生産すること、原告が契約金や商品の売上高に応じた金員を支払うこと、契約期間は商品の販売開始日から3年とすることなどを内容とする共同事業契約(以下「本件共同事業契約」という。)を締結した。本件共同事業契約につき作成された「MBCドラマ「大長今」共同事業契約書」には、2条4項に、「「ドラマ」の美術と小物とは、「ドラマ」に登場する美術品、建築物、撮影セット、衣装、撮影小物、装身具、アクセサリー、扮装道具、かつら、文様、インテリア、撮影用食べ物、食器、スタジオ再現などの同一品、同等品、拡大・縮小品、模型、デザイン、意匠、設計、イメージ、写真、映像、スケッチ、メモ、文書記録、説明などを意味する。」と記載されている。(甲1。なお、本件共同事業契約の趣旨、内容及び効力等については争いがある。)
(6) 被告NEPは、平成17年10月30日ころ、東京のNHKホールにおいて、「チャングム・ファン・ミーティング」(以下「本件ファン・ミーティング」という。)を開催し、本件ドラマの衣装、かつら及び小道具を同所に展示した。
(7) 被告NEP及び同NPSは、平成18年4月7日ころ、MBCAとの間で、被告らが海外救援チャリティーイベント「宮廷女官チャングムの誓い」展(以下「本件展覧会」という。)を同年12月末日まで開催することについて、MBC及びMBCAらが協力し、MBCAが所有する本件ドラマ関連の道具類、衣装、かつら(装飾品を含む。)及び宮廷料理のレプリカを展示品として被告NEPらに貸与し、被告NEPらがその対価を支払うことなどを内容とする協約(以下「本件協約」という。)を締結した。その後、被告NEPらとMBCAは、本件展覧会の開催期間の延長等に関する覚書を2度にわたり締結し、最終的には平成19年12月末まで開催期間の延長等をする旨の合意をした。(乙2、34、35)
(8) 被告らは、平成18年5月2日から平成19年8月21日まで、順次、東京、長崎、名古屋、新潟、札幌、横浜、広島、福岡及び金沢の全国9箇所で本件展覧会を開催した。本件展覧会においては、本件ドラマで実際に使用された衣装や小道具、ドラマセットの実物大再現、宮廷料理のレプリカによる再現等を展示し、被告NEPは、各会場付近で本件ドラマ関連グッズを販売した。(甲2の1ないし3)
2 争点
(1) 別紙侵害品リスト一覧番号1ないし46の各品目(以下「本件小道具等」という。)が著作物であるか否か(争点1)
(2) 原告がMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたか否か(争点2)
(3) 被告らが本件小道具等の著作権の移転登録の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない第三者(以下「背信的悪意者」という。)に当たるか否か(争点3)
(4) 被告らが原告の本件小道具等の著作権を侵害したか否か(争点4)
(5) 被告らが著作権法45条1項に基づき本件小道具等をその原作品により公に展示することができたか否か(争点5)
(6) 原告の損害額(争点6)
(7) 消滅時効の成否(争点7)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件小道具等が著作物であるか否か)について
(原告)
 本件ドラマは、16世紀初頭の朝鮮王朝を舞台とする歴史ドラマであるが、その主人公については、名前と医女であったことを除き明らかでない。韓国内外の視聴者には、本件小道具等が当時の王朝文化を想像させるものとして受け止められているが、本件小道具等は、資料のない中で、上記朝鮮王朝に実在したものであるかのごとく独自に制作されたものであり、そのほとんどが本件ドラマのために制作された一品もので、本件ドラマ以外での使用は予定されていない。
 このように、本件ドラマ中で使用された本件小道具等は、ストーリーに合致するように創意工夫を凝らして制作された極めて創作性の高いものであるから、美術又は応用美術の著作物に当たる。また、本件小道具等のうちドラマセットは、編集著作物に当たる。
 個別の物品に関する著作物性の主張は、別紙侵害品リスト一覧の「創作性についての主張」欄に記載のとおりである。
(被告ら)
 本件小道具等は、実用に供され、あるいは産業上利用されることを目的としたものであり、いわゆる応用美術に当たるものとして、実用品としての実用性、機能とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるに足りる美術性を有することにより、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を有するものに限り、創作性が認められるが、本件小道具等はそのような高度の美的創作性を有しないから、著作物には当たらない。また、原告は、ドラマセットを編集著作物であると主張するが、編集著作物は、素材の分類、選択、配列において、創作的に素材を選択、配列したものであることを要するところ、本件ドラマのドラマセットは、いずれもそのような点における創作性を欠く。
 個別の物品が著作物性を欠くことについての主張は、別紙展示物リスト一覧の「原告の創作性についての主張に対する認否」欄に記載のとおりである。
(2) 争点2(原告がMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたか否か)について
(原告)
 原告は、平成17年10月13日にMBCAと締結した本件共同事業契約により、MBCAからその本件小道具等の著作権の譲渡を受けた。
(被告ら)
 原告の主張事実は否認する。本件小道具等のうち別紙侵害品リスト一覧及び同展示物リスト一覧番号1ないし15及び46は、MBCAが制作していないし、同16ないし19もMBCAが制作したものかどうか不明であり、MBCAは、これらの著作権を有していないから、原告がこれを譲り受けることもあり得ない。
 本件共同事業契約は、契約期間が商品の販売開始日から3年限りであることに照らしても、著作権の譲渡を内容とするものではなく、著作物の利用の許諾を内容とするとの可能性を否定することができない。
(3) 争点3(被告らが背信的悪意者に当たるか否か)について
(被告ら)
 被告らは、MBCAから許諾を受けて本件展覧会を開催し、本件グッズを販売したのであって、著作権法77条にいう第三者に当たるところ、原告は、本件小道具等の著作権の移転登録をしていない。
(原告)
 本件ファン・ミーティングにおいて展示された衣装等には、原告から貸与されたものであることが告示されていたし、原告の著作権に基づいて製造した商品が展示され、原告の作成した記念品(甲3)が観客に配布されたから、被告らは、本件ファン・ミーティングが開催された平成17年10月30日ころまでには、原告が本件小道具等の著作権を有していることを知っていた。また、被告NEPらは、平成18年3月初旬ころ、本件展覧会に関し、原告を含めた協約を締結しようとして協約書の草案を作成するなどしたから、遅くともこのころには原告が本件小道具等の著作権を有することを認識していた。
 MBCAは、本件共同事業契約があるのに、原告に対する著作権の譲渡を否定し、被告らもMBCAと共謀して原告の著作権を否定しているのであって、原告が、被告らに対し、本件展覧会開催の直前から終了に至るまでの間に、数回にわたり、本件展覧会の開催が原告の許諾を受けない違法なものであり、原告の著作権を侵害するものであることを明示して、本件展覧会の開催を中止し、本件展覧会の開催期間、入場者数、販売高、出店業者の売上高などを知らせるよう求めたにもかかわらず、被告らは、これに応じず、著作権侵害の不法行為を強行した。また、著作権の移転登録は、権利者及び義務者の共同申請が原則であるが、本件の場合、原告への著作権譲渡を否定し原告と係争中のMBCAが移転登録手続に協力をするはずがない。
 これらの事情に鑑みれば、被告らは、背信的悪意者に当たる。
(被告らの反論)
 原告の主張は争う。被告らは、本件展覧会の展示物について原告が著作権を有するという認識を一度も持ったことがない。本件ファン・ミーティングに展示物を持ち込んだのは、訴外株式会社シン・インターナショナルと同エイアイエスシー株式会社(以下「訴外AISC」という。)であって、原告からこれらの提供を受けたことはなく、被告らは、当時原告の存在を知らなかった。
 被告らは、原告が対抗要件を具備していないことについて落ち度がないし、原告に対する特段の害意や図利目的もなく、何らの背信性もない。
(4) 争点4(被告らが原告の本件小道具等の著作権を侵害したか否か)について
(原告)
 被告NHK及び同NEPは、本件ドラマで実際に使われた衣装や小道具類、ドラマセットの実物大の再現、宮廷料理のレプリカによる再現等、本件小道具等を、著作権者である原告に無断で本件展覧会において展示したり、その複製をし、また、被告NPSはこれに協力するなどしたのであって、被告らは、共同して原告の本件小道具等の著作権(展示権及び複製権)を侵害した。
 また、被告NEPは、本件小道具等を無断で複製したポスター、携帯ストラップ、ボールペン等、別紙侵害品リスト一覧番号47ないし63の商品(以下「本件グッズ」という。)を製造して、本件展覧会場で販売し、被告NHK及び同NPSはこれに協力するなどしたのであって、被告らは、共同して原告の本件小道具等の著作権(複製権)を侵害した。
 個別の物品に関する著作権の侵害態様は、別紙侵害品リスト一覧の「著作権侵害の侵害内容」欄に記載のとおりである。
(被告ら)
 原告の主張は争う。本件小道具等には、そもそも著作物性が認められないし、仮にこれが認められるとしても、被告らは、MBCやMBCAとの間で本件マスターライセンス契約や本件協約を締結し、本件展覧会を開催して本件小道具等を展示し、本件グッズを販売することについて、MBC及びMBCAの承諾を得ているから、被告らは著作権を侵害する行為をしていない。
 被告らが著作権を侵害しないことに関する個別の物品ごとの主張は、別紙展示物リスト一覧の「原告の著作権侵害の侵害内容についての主張に対する認否」欄に記載のとおりである。
(5) 争点5(被告らが著作権法45条1項に基づき本件小道具等をその原作品により公に展示することができたか否か)について
(被告ら)
 本件小道具等は美術の著作物の原作品であり、かつ、被告らは、展示することについて、その所有者であるMBCAの承諾を得ているから、著作権法45条1項に基づき、本件展覧会において本件小道具等を公に展示することができた。
(原告)
 被告らが本件展覧会で展示したドラマセットはレプリカであり、その他の展示品も、原作品のほとんどが韓国内にあるテーマパークで保存、管理されているから、本件展覧会で展示されたものは原作品ではない。
 本件展覧会において原作品により展示されたものがあるとしても、著作権法45条1項により展示が認められるのは、著作権の保護期間が満了した原作品であり、所有権と著作権とが併存している著作物については、所有者の同意があっても著作権者の同意がなければ、原作品の展示が当然に認められるものではない。また、本件共同事業契約では、これら原作品は、原告に貸与することとされ、他人に貸与することは明確に禁止されていたから、被告らによる原作品の展示は、本件共同事業契約に違反する違法な二重契約又は不正競争防止法2条1項13号に違反する違法な展示であって、著作権法45条1項が適用される場合に当たらない。
(6) 争点6(原告の損害額)について
(原告)
 原告は、被告らの不法行為により、本件展覧会の入場料に対する通常のロイヤリティの額に相当する額の損害として、下記アのとおり、少なくとも2億0848万8240円の損害を受けたほか、本件グッズの製造販売に対する通常のロイヤリティの額に相当する額の損害として、下記イのとおり、少なくとも4069万3702円の損害を受けた。
ア 三越日本橋店における本件展覧会の入場者数は1日平均5734人であり、本件展覧会の延べ開催日数が101日、入場料が1人当たり800円であるから、ロイヤリティ料率を45%として計算すると、被告らが本件展覧会を開催したことにより原告が受けた損害の額は、2億0848万8240円となる。
(算式)
 5734人×101日×800円×0.45=208,488,240円
イ 三越日本橋店における本件グッズの売上高は1日平均89万5351円であり、本件展覧会の延べ開催日数が101日であるから、ロイヤリティ率を45%として計算すると、被告らが本件グッズを販売したことにより原告が受けた損害の額は、4069万3702円となる。
(算式)
 895,351円×101日×0.45=40,693,702円(円未満切捨て)
(被告ら)
 原告の主張は争う。
(7) 争点7(消滅時効の成否)について
(被告ら)
 本件展覧会は、平成18年5月2日から平成19年8月21日まで開催されたが、原告が本訴を提起したのは平成22年8月20日であるから、原告が主張する損害賠償請求権は、ほとんどが時効により消滅している。
(原告)
 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、損害及び加害者を知った時から3年間であるが、被告らは、本件展覧会において明らかに原告の著作権を侵害する物品の展示を行いながら、その展示物の内容、展示期間等について原告に一切知らせずに開催を強行したのであり、原告は、損害及び加害者を知ることができなかったから、消滅時効の起算点は、被告らの展示行為が完全に終了した時であるというべきである。
 また、前記(3)(原告)欄に記載の諸事情からすれば、被告らが消滅時効を援用することは、権利の濫用に当たり許されない。
第3 当裁判所の判断
1 事案に鑑み、まず、争点3について判断する。
(1) 前記前提事実に、証拠(甲2の1ないし3、乙10及び11の各1・2、33の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告らは、被告NEPらがMBCAと本件協約を締結する際には、本件展覧会において、本件小道具等をその原作品又は複製物により展示し、また、本件グッズを製造販売することについて、MBCAから同意又は許諾を得たことが認められる。
 著作権の移転は、一般承継によるものを除き、登録しなければ、第三者に対抗することができない(著作権法77条)。被告らは、著作権法77条にいう第三者に当たるから、仮に本件小道具等が著作物であって原告がMBCAからその著作権の譲渡を受けたものであるとしても、原告は、移転登録を経ていないため、被告らが背信的悪意者に当たらない限り、譲渡を受けたとする本件小道具等の著作権を被告らに対抗することができない。
(2) そこで、被告らが背信的悪意者に当たるか否かについて検討する。
ア 被告らが、被告NEPらとMBCAとの間の本件協約締結の時点において、原告がMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたことを認識していたことを認めるに足りる証拠はなく、原告の著作権の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があることも窺えないから、被告らが背信的悪意者に当たるということはできない。
イ 原告は、被告らは平成17年10月30日ころ又は平成18年3月初旬ころには、原告が本件小道具等の著作権を有していることを認識していたのであり、原告がその後本件展覧会の中止等を求めたにもかかわらず、これに応じなかったのであるから、被告らは背信的悪意者に当たると主張する。
 被告らが、本件ファン・ミーティングが開催された平成17年10月30日ころに本件共同事業契約の存在やその内容を認識していたことを認めるに足りる証拠はない。また、確かに、前記前提事実に、証拠(甲4の1・2、33の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告NEPらが、本件協約の締結前に、MBCAのほか、訴外会社及び原告も当事者とし、MBCA、訴外AISC及び原告が本件展覧会の開催を許可することなどを内容とする協約書の草案を作成したこと、原告は、平成21年4月20日ころから、数回にわたり、被告NEPらに対し、本件共同事業契約があるので本件展覧会を原告に無断で開催することは原告の権利を侵害する違法なものであるから損害賠償を求める旨等を記載した警告書を送付したが、被告らは、これに応じることなく本件展覧会を開催したことが認められる。しかしながら、上記協約書の草案には原告が本件小道具等の著作権を有することに関する記載はなく、被告NEPらが原告に対して何らかの対価を支払うべきものとするような記載もないのであって、このことに、原告が被告NEPらに上記警告書を送付したのが本件協約の締結後であることを併せ考えると、被告らが、本件協約の締結の時点において、本件共同事業契約の存在やその内容等を認識していたとは即断することができないし、仮に被告らが本件共同事業契約の存在等を認識していたとしても、その内容をどの程度認識していたかが判然としない上、本件共同事業契約は、契約期間を商品の販売開始日から3年としたり、商品の売上高に応じて原告がMBCAに金員を支払うとしているのであって、利用の許諾を内容とする契約と解する余地があるから、被告らが、原告が本件共同事業契約によりMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたことを認識していたともたやすく認め難い。
 そして、証拠(甲21、33の4・5、36の1ないし3)及び弁論の全趣旨に照らすと、MBCAは、本件協約を締結するころには、被告らに対し、本件共同事業契約の効力を否定して、原告が本件展覧会の開催に関する何らの権利も有しない旨を保証していたことが窺われるが、被告らが、原告に著作権があることを前提に、MBCAと共謀してこれを否定したと評価すべき事情も証拠上見いだし難いし、被告らが原告の著作権の移転登録を妨げたといった事情も何ら窺えないのであって、被告らが、原告の著作権の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があるということもできない。
 原告の上記主張は、採用することができない。
(3) したがって、原告は、本件小道具等の著作権の移転登録を経由していない以上、これを被告らに対抗することができない。
2 以上の次第であって、原告の請求は、その余の点につき検討するまでもなくいずれも理由がない。
3 よって、原告の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高野輝久
 裁判官 三井大有
 裁判官 小川卓逸


別紙 当事者目録
原告 株式会社キャッチスター
同訴訟代理人弁護士 山崎行造
同訴訟復代理人弁護士 福井富男
被告 日本放送協会
同訴訟代理人弁護士 秀桜子
同 梅田康宏
被告 株式会社NHKエンタープライズ
同訴訟代理人弁護士 笹本摂
被告 株式会社エヌエイチケイプロモーション
同訴訟代理人弁護士 内藤滋
被告ら訴訟代理人弁護士 宮川勝之
同 高木裕康
同 前岨博
同 中村繁史
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日本ユニ著作権センター
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