判例全文 | ||
【事件名】自衛隊ムック本の編集委託事件(2) 【年月日】平成25年3月25日 知財高裁 平成24年(ネ)第10088号 委託料、損害賠償反訴請求控訴事件 (原審・東京地裁平成22年(ワ)第28318号事件、同第43643号事件) (口頭弁論終結日 平成25年2月18日) 判決 控訴人 株式会社ムックハウス 訴訟代理人弁護士 横山康博 同 杉浦正敏 同 浅賀大史 同 岩ア泰一 被控訴人 株式会社ネコ・パブリッシング 訴訟代理人弁護士 河野敬 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、178万5000円及びこれに対する平成21年1月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人の請求を棄却する。 4 訴訟費用は、第1審、第2審を通じて被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言。 第2 事案の概要 1 略語等 原判決で用いられた略語は、本判決でもそのまま用いる。原判決を引用する部分につき、「原告」は「控訴人」に、「被告」は「被控訴人」と読み替える。別紙「被告主張の損害額」は、原判決に添付の別紙と同一のものである。 2 訴訟経緯 原審では、@控訴人(原告)は、被控訴人(被告)に対し、被控訴人との間で本件委託契約を締結し、本件ムック本が発売されたにもかかわらず、被控訴人が委託手数料を支払わない旨主張して、本件委託契約に基づく委託手数料として残金178万5000円(附帯請求として約定の支払日の翌日である平成21年1月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(本訴)のに対し、A反訴として、被控訴人が、控訴人に対し、著作権侵害の疑念がある本件ムック本の原稿データを編集・制作した旨主張して、本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償として570万6741円(附帯請求として反訴状送達の日の翌日である平成22年11月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金)の支払を求めた。原審では、被控訴人は、本訴について争い、かつ、反訴の請求債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張し、控訴人は、反訴において、債務不履行を争った。 原判決は、控訴人の委託手数料請求権は178万5000円、被控訴人の損害賠償請求権は222万6032円であると認定し、反訴に係る被控訴人の請求を相殺後の残額である44万1032円及び附帯請求の範囲で認容し、その余を棄却し、本訴については、控訴人の委託手数料請求権は相殺により消滅したとして控訴人の請求を全部棄却した。控訴人は、これを不服として控訴した。 控訴人は、当審において、控訴人が本件委託契約の債務の本旨に従った履行をしていない(不完全履行)ことは認める旨の認否をした。 3 前提事実 前提事実は、原判決4頁15行目末尾に改行の上、次のとおり挿入するほかは、原判決2頁25行目から4頁15行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 「(6) 控訴人の不完全履行 控訴人は、本件委託契約の債務の本旨に従った履行をしなかった(不完全履行)。」 4 当審における争点 (1) 控訴人の委託手数料請求の可否(争点1〔本訴の争点〕) (2) 被控訴人の損害の有無及び損害額(争点2〔反訴の争点〕) 5 当事者の主張 (1) 控訴人の委託手数料請求の可否(争点1〔本訴の争点〕)について 原判決4頁22行目から5頁4行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。 (2) 控訴人の損害の有無及び損害額(争点2〔反訴の争点〕)について 次のとおり付加する他は、原判決6頁23行目から8頁1行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。 ア 原判決7頁14行目末尾に改行の上、次のとおり挿入する。 「エ ムック形態の出版物は、書籍のように注文に応じて販売がされ、返品期限がなく、長期に販売できることを特徴とする出版物である。ムックの流通に関しては、返品された場合であっても、書籍の場合と同様に、改装され再出荷を重ねて販売されることが一般的である。被控訴人においても、取次会社からの返品については、検品し、改装した上で再出荷している。 本件ムック本の発売から出荷停止までの実績をみると、注文出庫を停止した平成21年3月13日の前月である2月には、計141冊の注文出庫があり、3月には、注文出庫の停止までの13日間だけで、計70冊の注文があった。このような実績に照らすならば、仮に注文出庫の停止及び絶版の各措置を取らなかった場合に、平成21年3月以降の本件ムック本の販売数は、平成20年11月から平成21年2月までの期間と同様、月間100冊を超えて継続していたといえる。」 イ 原判決8頁1行目末尾に改行の上、次のとおり挿入する。 「本件ムック本の実売率については、本件ムック本の発売から出荷停止までの実績を基礎として販売数を推計すべきである。ムック本の実売率は、20%から70%を超すものまで千差万別であるが、ムック本の実売率は、発売当日から1、2週間で、ほぼ正確に予測をすることができる。 一般にムック本は、短期間に売られる性質があるが、本件ムック本は、発売開始から3か月半経過しても、35%の実売率にすぎなかった実績に照らすならば、35%以上の実売を期待することはできなかった。本件ムック本の実売率が35%程度であった主たる原因は、特殊分野に関するものであること、先行した類似本があること、自衛隊についての基本的な事実を提供する内容であるため差別化を図りにくいことなどにある。」 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原判決と同様に、被控訴人の請求は44万1032円及びこれに対する平成22年11月30日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で認容され、控訴人の請求は全部棄却されるべきと判断する。その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決8頁3行目から10行目及び14頁14行目から19頁3行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。 2 原判決14頁14行目の「争点3」を「争点2」と改め、15行目の「及び前記2(1)に認定した事実」を削除する。 3 原判決15頁15行目末尾に改行の上、次のとおり挿入し、16行目の「前記2(1)エ、」を削除する。 「被控訴人は、平成21年3月13日、取次会社と出版社とのデータ交換システム(「新出版ネットワーク」)に本件ムック本の出荷停止情報を登録するとともに、被控訴人のホームページに在庫なしと表示し、電話での直接注文には在庫がない旨回答することとして、出荷を停止した(ただし、同日以前に取次店からの注文が確定していたものは同月17日まで出荷した。)。もっとも、被控訴人は、既に出荷していた本件ムック本を回収することはなかった。 (甲8、乙2、3、46〜48、57の1及び2、弁論の全趣旨)」 4 原判決18頁10行目から13行目までを次のとおり改める。 「他方、控訴人は、一般にムック本は、短期間に売られる性質があるが、本件ムック本は、発売開始から3か月半経過しても、35%の実売率にすぎなかった実績に照らすならば、35%以上の実売を期待することはできなかった旨主張し、これに沿う趣旨の証人Cの証言及び陳述書(甲11)並びに控訴人代表者本人尋問の結果及び陳述書(甲12)がある。 しかし、控訴人の上記主張は、採用できない。本件ムック本は、平成20年10月には取次出庫79部、直送出庫4部、通販出庫1部、同年11月には取次出庫752部、直送出庫6部、同年12月には取次出庫365部、直送出庫34部、平成21年1月には193部、同年2月には取次出庫140部、直送出庫1部、同年3月には取次出庫69部、直送出庫1部が出庫されている(前記(1)イ)。このように、本件ムック本は、出荷停止になる前月の平成21年2月にも合計141部が、出荷停止になった同年3月でも70部が出荷されているのであって、出荷停止がなければ、その後も相応の出荷がされており、それに応じて実売率も上昇すると合理的に推定されるものであり、出荷停止がなかった場合の実売率が、同月までの実売率である35%にとどまるとは到底認めることができない。」 5 そうすると、原判決は正当であって、本件控訴には理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治 (別紙)被告主張の損害額 @ 販売見込額 10,366,400円 12,400冊×836 円=10,366,400円 *販売見込部数 15,500(印刷部数)×0.8(販売見込率)=12,400 *1冊当り利益 836円 (1,286円(本体価格)×0.65(搬入正味率)) A 現時点での販売額 4,253,568 円 5,088冊(現時点での販売部数)×836 円=4,253,568円 B 支払費用 4,640,041円 (@)印刷代金 2,114,851円 (A)デザイン料 12,000円 (B)その他経費 13,190円 (C)原告(反訴被告)に対する手数料(着手金) 800,000円 (D)原告(反訴被告)に対する手数料(未払金) 1,700,000円 C 損害額合計 6,112,832円 (@−B)−(A−B)=6,112,832円 D 広告売上額 80,000円 E 広告売上額を損益相殺後の損害額 6,032,832円 (@−B)−(A−B)−D=6,112,832円−80,000円=6,032,832円 F 請求額 4,332,832円 E −1,700,000円(原告(反訴被告)に対する手数料を相殺) =4,332,832円 以上 |
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