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【事件名】商標“MONCHOUCHOU”侵害事件(2)
【年月日】平成25年3月7日
 大阪高裁 平成23年(ネ)第2238号、平成24年(ネ)第293号 商標権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件
 (原審・大阪地裁平成22年(ワ)第4461号)
 (口頭弁論終結日 平成24年10月3日)

判決
控訴人・附帯被控訴人(一審被告) 株式会社Mon cher(旧商号 株式会社モンシュシュ)
同訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 中村勝彦
同 大河原遼平
同訴訟代理人弁理士 佐藤俊司
同補佐人弁理士 田中景子
被控訴人・附帯控訴人(一審原告) ゴンチャロフ製菓株式会社
同訴訟代理人弁護士 堅正憲一郎
同訴訟代理人弁理士 古川安航
同 三上真毅
同補佐人弁理士 角田嘉宏


主文
1 本件控訴、附帯控訴及び被控訴人の当審における請求の拡張に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、5140万8555円及び内2179万7511円に対する平成22年2月18日から、内888万7270円に対する同年8月1日から、内181万0446円に対する同年10月1日から、内1313万4585円に対する平成23年10月1日から、内577万8743円に対する平成24年5月8日から、各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求(当審において拡張したその余の請求を含む。)をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを6分し、その1を控訴人の負担とし、その5を被控訴人の負担とする。
3 この判決は、1(1)項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴・附帯控訴の趣旨
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決主文8項を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、4億6266万5604円及び内2億4380万9000円に対する平成22年2月18日から、内1841万8657円に対する同年10月1日から、内1億3362万5298円に対する平成23年10月1日から、内6681万2649円に対する平成24年5月8日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称は、本判決に記載がある以外は、原判決に従う。)
1(1) 本件は、被控訴人が、控訴人に対し、本件商標権に基づき、被告各標章の使用禁止及び抹消並びに被告各標章を付した物の廃棄を求めるとともに、不法行為(本件商標権侵害)に基づき、損害賠償金(原審では2億4380万9000円の損害賠償及びこれに対する平成22年2月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%による遅延損害金)の支払を求めた事案である。
(2) 原審が、被控訴人の請求を、本件商標権に基づく被告各標章の使用禁止及び抹消並びに被告各標章を付した物の廃棄を求める請求については、原判決別紙被告店舗目録記載3及び8に係る被告各標章の使用禁止及び抹消請求を棄却し、その余の請求を認容し、不法行為(本件商標権侵害)に基づく損害賠償請求については、賠償金3562万2146円及び内1844万1249円に対する不法行為の後の日である平成22年2月18日から、内1718万0897円に対する同年8月1日(その損害が確定した日)から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却したところ、控訴人が控訴し、被控訴人が、不服の部分を損害賠償請求の棄却部分に限って附帯控訴するとともに、損害賠償請求を前記第1の2Bのとおりに拡張した(損害賠償を求める期間を、原審では平成18年8月から平成22年7月までだったのを、平成24年3月までとした。)。
2 前提事実
 前提事実については、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決3頁25行目の「現商号」を「株式会社モンシュシュ(以下「旧商号」という。)」に改め、同26行目末尾の後に、「控訴人は、平成24年10月1日に、その商号を、旧商号から現商号に変更した(乙789、弁論の全趣旨)。」を挿入する。
(2) 原判決4頁15行目の「96」の後に「、262、281、282」を挿入し、17行目の「平成15年11月以降、」の後に「少なくとも平成24年6月30日までの間、」を挿入し、20行目の「使用している」を「使用していた」に改める。
(3) 原判決5頁7〜8行目を削除し、代わりに次の文章を挿入する。
 「(5) 控訴人の登録商標
 控訴人は、別紙商標目録記載の商標1ないし3の各商標につき、指定商品を第30類「菓子及びパン、氷菓子、ゼリー菓子、茶、紅茶、コーヒー及びココア」として、同目録記載の登録番号にて登録を受けた(以下、そのうち商標1を「被告登録商標1」、商標3を「被告登録商標3」という。)が、被告登録商標3については、平成24年7月5日、本件商標と類似し商標法4条1項11号に違反することを理由に、第30類「菓子及びパン、氷菓子、ゼリー菓子」についての登録を無効とする旨の特許庁の無効審決が出された。これに対し、控訴人は、同年8月10日付けで、審決取消請求訴訟を提起した。(甲284、285、乙217 ないし219)」
3 争点(原判決との変更・追加部分に下線を引いた。なお、争点5’及び争点7’は、控訴人が当審において新たな抗弁を主張したものである。)
(1) 被告各標章は、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか (争点1)
(2) 被告各標章は、本件商標に類似するか (争点2)
(3) 被告標章4は商標として使用されているか (争点3)
(4) 被告標章2ないし4は、控訴人の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか(商標法26条1項1号) (争点4)
(5) 仮に(4)が認められるとして、控訴人は、被告標章2ないし4を、不正競争の目的で用いたか(商標法26条2項) (争点5)
(6) 被告標章8及び9につき登録商標使用の抗弁が認められるか (争点5’)
(7) 被控訴人の損害の発生の有無 (争点6)
(8) 被控訴人の請求は権利濫用か (争点7)
(9) 消滅時効の抗弁が認められるか (争点7’)
(10) 被控訴人の損害額 (争点8)
(11) 被告各標章の使用禁止等を求める必要性の有無 (争点9)
第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1(被告各標章は、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか)について
 当事者の主張は、次のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
【控訴人の主張】
(1) 被告各標章は、著名な洋菓子である「堂島ロール」を販売する控訴人の店舗名を表すものとして機能しており、本件商標の指定商品又はこれに類似する商品若しくは役務へ使用されているとはいえないから、本件商標権を侵害しない。
 すなわち、店舗看板等に表示された標章の使用が商品商標としての使用か商号その他店舗表示・営業表示としての使用かについては、具体的な事案ごとに、その標章の持つ意味、内容、文字の大きさ、表示態様、全体における位置関係や使用の実情等を総合的に勘案して判断すべきである。そして、被告各標章の店舗看板等には原則として被告標章1が大きく付されているものの、それのみから特定の商品の出所を識別することはできないだけでなく、入口ガラス壁面に表示された営業時間や電話番号等の記載からも明らかなとおり、店舗表示・営業表示として機能しているものである。控訴人は、商品自体には被告各標章を付しておらず、商品の包装等における使用についても平成21年10月末日をもって中止し、専ら控訴人の店舗表示・営業表示としての使用と認識される態様でのみ使用してきた。
 また、小売等役務商標制度の導入後は、商品商標の使用の概念を拡張する解釈は、安易に採るべきではない。
(2) 少なくとも、ウェディングサービス部門のうち、@ベルティアラロールサービス(シェフが材料・機材を持ち込んで結婚式の会場に出向き、会場で新郎新婦と共にロールケーキを完成させる出張・実演サービス)と、Aウェディングケーキサービス(客の希望に合わせてオリジナルのウェディングケーキを調整し、控訴人の物流スタッフにて会場まで搬送するサービス)における被告各標章の使用については、通常、菓子の製造販売業者と同一の事業者によって行われるものではないこと、需要者の範囲も原告商品と必ずしも一致しないこと、原告商品の取引場所と上記各サービスの提供場所も一致しないこと、上記各サービスが特別なサービスであり、単なる洋菓子の販売とは用途も違うことなどの具体的な取引実情等を考慮すれば、出所混同のおそれはなく、本件商標の指定商品又はこれに類似する商品若しくは役務へ使用されているものとはいえない。
【被控訴人の主張】
(1) 控訴人の主張のうち、被告各標章が控訴人の店舗・営業表示にも該当すること、控訴人の店舗看板等には被告標章1が大きく付されていることは認めるが、当該事実をもって商品の出所標識としての被告各標章の使用が否定されるものではない。
 控訴人が主張する控訴人の店舗表示とは「洋菓子店舗」としての表示であり、また、控訴人の営業表示とは「洋菓子製造販売業者」としての表示に他ならず、控訴人は、ほとんどの控訴人店舗において、自らが製造した洋菓子しか販売しておらず、「堂島ロール」を始めとする各種洋菓子が入手できる店として大々的に広告を行っていたことや、控訴人が控訴人店舗を「パティシェリー・モンシュシュ」と称していることなどからすると、被告各標章は、洋菓子という特定の商品との関係でその出所を識別する機能を発揮しており、需要者もそのように認識している。このため、営業時間や電話番号等の記載が被告標章1に併記されていること程度の事情で、店舗看板等における使用が商品商標として機能しないとはいえない。
(2) 控訴人主張のウェディングサービスの実体は、結婚式へのウェディングケーキのデリバリー(出前販売)に他ならず、ウェディング全体をプロデュースする本来のウェディングサービスではない。したがって、控訴人のウェディングサービスにおける被告各標章の使用も、本件商標の指定商品への使用に該当する。
2 争点2(被告各標章は、本件商標に類似するか)について
 当事者の主張は、次のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3の2に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
【控訴人の主張】
 被告各標章と本件商標は、被告標章2ないし4を含め、いずれも互いに非類似である。
(1) 被告標章1については、文字部分と大きなバラの花の図形部分で構成される結合商標であり、全体が1 つのデザインとしての外観上・観念上の有機的な関連性を有し、商標全体が不可分一体のものとして取引者、需要者に認識され、全体の構成をもって1つの出所識別機能を果たしているというべきであるから、文字部分だけを要部として認定し、図形部分を除外して本件商標との類似性を判断すべきではない。そして、外観は、図形部分を含めれば顕著に相違しているし、文字部分のみでも相違している。称呼も「モンシュシュ」と「モン」「シュシュ」では相違がある。観念も、被告標章1は、図形部分から「バラの花」の観念が生じる点と、「堂島ロール等のロールケーキや洋菓子で人気のモンシュシュ」という観念が生じる点において、顕著に相違する。
 そして、具体的な取引の実情として、
@ 大阪発祥のスイーツとして著名な「堂島ロール」を販売する洋菓子店として、「Mon chouchou(モンシュシュ)」も全国的に広く知られており、その著名性の程度は高く、「モンシュシュ」又は「Mon chouchou」の文字は、控訴人の略称としても高い周知・著名性を有するに至っていること、
A 本件商標と同じ「Mon chouchou」や「モンシュシュ」の語は、菓子やパンを販売する店舗やカフェの名称として好んで使われているほか、ペット関連商品や各種雑貨といった様々な商品の店名や商品名などで幅広く使用されており、本件商標を構成する「MONCHOUCHOU」及び「モンシュシュ」の文字自体やそこから生ずる「モンシュシュ」という称呼が有する識別力は、特に「菓子、パン」との関係では、それ程高いとはいえないこと、
B 控訴人の取引形態は店頭販売が主であり、控訴人店舗では、濃いオレンジ色の背景色、バラのモチーフ、濃いブラウン色の特徴的に装飾された「M」の文字をその構成に含む被告標章1が、「Patisserie DOJIMA」といった表記とともに、看板、内装等に使用されており、店舗に入った需要者は、ここが著名な「堂島ロール」を販売する「モンシュシュ」であることを容易に理解するし、独立店舗や百貨店の専門店内における対面販売では、スーパーや量販店よりも商品を丁寧に取り扱うのが一般的であるから、需要者は、堂島ロール等で人気のモンシュシュと理解した上で、商品を購入することになるのであり、このような販売方法において、商品の出所について誤認・混同が生じるおそれはないし、オンラインショッピングにおいても、需要者はそのウェブサイトが控訴人のものであることを十分に認識可能であるから、同様に出所について誤認・混同が生じるおそれはないこと、
C 控訴人が販売している洋菓子は、嗜好性の高い商品であり、顧客当たりの平均購入単価も約1800円と安価ではなく、需要者が高い注意力をもって慎重に判断することが想定されること、
などが認められることを考慮して全体的に考察すると、本件商標と被告標章1が類似する商標とはいえない。
(2) 被告標章2ないし7については、まず、外観において、本件標章と、アルファベットの文字の有無(被告標章2)、片仮名の文字の有無(被告標章3ないし7)、スペースの有無(被告標章2、3及び5ないし7)、ハイフンの有無(被告標章4)、特徴的な字体(被告標章5ないし7)、二段表記であること(被告標章6)、背景の地の色と字体の色(被告標章7)などで相違している。また、被告標章2ないし7に接した需要者は、「堂島ロールを始めとしたロールケーキや洋菓子で人気のモンシュシュ」を想起するものであり、本件商標と観念上も相違し、称呼のみが共通する。さらに、前記具体的取引の実情に、被告標章4は「www.」「.com」と一緒に用いられており単独では使用されていないこと、被告標章2、3及び5ないし7は、被告標章1をメインとして付随的に使用されていたものにすぎないことなどを併せ考慮すると、本件商標と被告標章2ないし7が類似する商標とはいえない。
(3) 被告標章8については、バラの蕾を独特のデザインで描いた特徴的な図形部分と「baby Mon chouchou」の文字部分及び付記的な「from Tokyo」の文字部分とから構成される結合商標であり、バラの蕾の飾り部分も含めて不可分一体の商標として認識されるというべきであり、外観については顕著に相違する。称呼においても「ベビー」の有無で相違する。観念も、「小さい私のお気に入り」という観念を生じる上、被告標章1との類似性が認められることからすると、これに接した需要者は、「堂島ロールを始めとしたロールケーキや洋菓子で人気のモンシュシュの姉妹ブランド」を想起する可能性が高く、本件商標とは明らかに別異の観念を有する。そして、これら及び前記具体的取引の実情に、「ベビーモンシュシュ」の店舗が、「モンシュシュ」の姉妹店として多数報道されていることなどを併せ考慮すると、本件商標と被告標章8が類似する商標とはいえない。
なお、「baby」の文字部分は、「Mon chouchou」の文字部分と同じ特徴的な字体で表示されているから、「baby Monchouchou」全体で、「小さな私のお気に入り」という1つの観念を持った造語として理解されるというべきである。このことは、被告標章8と類似した被告登録商標3につき、本件商標と非類似として登録が認められたことからも明らかであり、「baby」の文字から単独の称呼・観念は生じないとした原判決の判断は不当である。
(4) 被告標章9についても、「モンシュシュ」を要部とすべきではなく、一体不可分の商標であり、外観については、「ベビー」の有無とアルファベットの文字の有無で本件商標と相違し、称呼においても「ベビー」の有無で相違し、観念においても本件商標とは別異の観念を有するというべきである。これらに、前記具体的取引の実情を併せ考慮すると、本件商標と被告標章9が類似する商標とはいえない。
 なお、原判決のように、「ベビーモンシュシュ」の店舗が控訴人の「モンシュシュ」の店舗を前提とし、需要者において「姉妹ブランド」として認識するのであれば、「ベビー」部分は重要であり、「ベビーモンシュシュ」で一体不可分性を有すると考えられるべきであるし、控訴人の「モンシュシュ」の存在を前提とするなら、控訴人の「モンシュシュ」を認識しているのであるから、本件商標との出所混同のおそれはないというべきである。このことは、被告標章9と同一の被告登録商標1について、本件商標と非類似として登録が認められたことからも明らかであり、「ベビー」の文字から単独の称呼・観念は生じないとした原判決の判断は不当である。
(5) なお、周知性に関する証拠については、口頭弁論終結時までのものが考慮されて然るべきである。
 また、控訴人は、本件商標の存在を知った後、商標権侵害のリスクがあることを認識し、自発的に被控訴人に連絡を取り、協議を開始したが、包装箱への使用などを中止するといった対応を行うも、被控訴人との協議が不調に終わったため、店舗名としての使用を継続していたところ、マスコミや消費者の支持を得て、それまでに取得していた周知・著名性が順調に拡大していっただけであり、これに反する被控訴人の主張は争う。
【被控訴人の主張】
(1) 被告標章1につき、バラの花のデザインは、控訴人の商品及び洋菓子店を装飾する意図で各所に描かれているものであり、バラの花の図形部分は飾りと認識されることから、結合商標には該当しないし、仮に該当するとしても、図形部分からは出所識別標識としての称呼、観念が生じ得ないことから、文字部分を要部とすべきである。
 そして、被告標章1の要部(文字部分)と本件商標とは外観上類似し、称呼は、被告標章1が「モン」「シュシュ」の二語として意識されて称呼されることはないから同一であり、観念も同一であるから、被告標章1は本件商標に明らかに類似する。
 なお、控訴人主張の具体的取引の実情チに関し、控訴人は、平成21年1月に本件商標の存在を認識し、同年5月には商標権侵害の事実を認めて謝罪しているから、同年1月以降の控訴人による被告各標章の使用は悪意に基づくものであり、当該違法行為により獲得された知名度は、商標法が保護する「業務上の信用」ではない。したがって、同年以降に獲得された知名度は商標の類否判断において考慮されるべきではない。また、需要者の関心・反応は一貫して「堂島ロール」にあり、控訴人の使用する「モンシュシュ」が、「堂島ロール」の知名度に比べると極めて低いことは明らかである。
 同Aに関し、控訴人の主張は争う。本件商標は、「菓子、パン」との関係において、高い自他商品識別力を有している。 
 同Bに関し、「Patisserie DOJIMA」の文字は極めて小さく表示されている上、本来的に自他商品識別力が弱く、バラの花のデザインは飾りとして認識されるものであり、濃いオレンジ色の背景色等も自他商品識別力が弱いから、これらとの同時使用をもって、本件商品の被告各標章との出所混同のおそれが否定されるものではないし、控訴人が主張するような販売方法に関する事情をもって、出所混同のおそれが否定されるものでもない。
 同Cに関し、洋菓子の需要者は老若男女を問わず広く一般大衆であり、比較的安価な洋菓子も大量に販売されている事情も考慮すると、洋菓子の需要者が通常有する注意力は必ずしも高いものではない。
(2) 被告標章2ないし7と本件商標とは、呼称及び観念が同一だけではなく、外観も類似している。なお、被告標章4について、「mon-chouchou.com」はホームページアドレスそのものではない以上、ドメイン名であることを想起させる意図で恣意的に表示したものであるし、「.com」の部分が出所識別機能を有さないことは一般大衆も認識しているから、「mon-chouchou.com」の表示は被告標章4の使用に他ならない。
(3) 被告標章8につき、被告標章8は明らかに「baby」と「Monchouchou」が分離観察されるから、一見して「Monchouchou」の文字部分が独立した出所標識として認識されるものであり、本件商標と称呼、外観、観念が類似している。また、控訴人が被告標章8の使用を開始したのは、平成21年1月以後であり、前記のとおり、悪意により違法行為により獲得された知名度は、商標法が保護する業務上の信用ではない。
 なお、被告標章8と被告登録商標3とでは、上段の「baby」の文字の書体、配置、大きさが顕著に異なっている上、被告登録商標3については、本件商標と類似するため第30類における登録を無効とする旨の審決が出ている。
 被告標章9についても同様に争う。
3 争点3(被告標章4は、商標として使用されているか)について
 当事者の主張は、次のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3の3に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
【控訴人の主張】
 控訴人は、被告標章4を「www.」「.com」と一緒に用いており、単独では使用していないから、差止請求等及び損害賠償請求の対象とはならない。なお、被告店舗15の店舗名は「スール/Soeurs」と一体的に使用されており、単独で使用したものではないし、字体や大文字を一部使っている点で標章4と異なっている。被控訴人指摘の例も、ソルベセットと結合して使用したものであり、単独で使用したものではないし、字体も被告標章4と異なっている。
 また、控訴人は、ウェブサイト上の使用のみならず、保冷バッグや紙袋やトラックの車体での使用も含め、具体的な宣伝文句等を伴ったものではなく、いずれも単に控訴人のウェブサイトが存在し、そのドメイン名を知らせるために被告標章4の表示をしているにすぎず、商品又は役務の出所標識として機能しているものとはいえないから、商標としての使用とはいえない。
 なお、そもそも、トラックの車体への表示については、車体には商品や役務の名称が記載されておらず、本件商標の指定商品との抵触が不明であるから、商標権侵害とはならない。
【被控訴人の主張】
 控訴人の主張については争う。なお、控訴人は、モンシュシュソルベセットの販売広告上に、「Mon-chouchou」の標章を単独で使用している。
4 争点4(被告標章2ないし4は、控訴人の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか)及び争点5(控訴人は、被告標章2ないし4を、不正競争の目的で用いたか)について
 当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第3の4及び5に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
5 争点5’(被告標章8及び9につき登録商標使用の抗弁が認められるか)について
【控訴人の主張】
 被告標章8及び9の使用は、控訴人が有している被告登録商標1及び3の使用に該当するから、本件商標の禁止権はそもそも及ばない(登録商標使用の抗弁)。なお、被告標章9と被告登録商標1は同一であり、被告標章8と被告登録商標3とは多少構成が異なるにすぎず、いずれもその専用権の範囲での使用というべきであるから、本件商標の禁止権は及ばない。
【被控訴人の主張】
 前記のとおり、被告標章8と被告登録商標3は同一とはいえず、その専用権の範囲内のものとは解されない上、被告登録商標3を無効とする審決が出されている。また、被告標章9が被告登録商標1の専用権の範囲内のものであるとしても、当該商標登録は明らかな異議理由を有しており、商標法4条1項11号に違反して過誤登録されたものであるから、これにより被告標章9による本件商標権の侵害性が否定されることはない。
6 争点6(被控訴人の損害の発生の有無)について
 当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第3の6に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
7 争点7(被控訴人の請求は権利濫用か)について
 当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人の主張を踏まえた補正をするほかは、原判決「事実及び理由」第3の7に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決14頁13行目の「低い」の後に「上、顧客誘引力を実質的には有していない。」を挿入し、15行目の「なっている」を「なっており、仮にそうでなくても、本件商標の認知度を遙かに凌駕している」に改め、15行目末尾の後に改行して、「また、被告各標章と本件商標との相違点は相当程度存し、市場においても実質的な混乱は生じていない。」を挿入する。
(2) 原判決14頁23行目の「不正競争防止法に違反する可能性もある。」を「そのような目的がないのであれば、不使用を理由に当該商標登録を取り消されるリスクを払拭しようとしたものと考えざるを得ない。また、上記使用再開当時、被告各標章は、控訴人の営業表示として周知なものになっていたから、本件商標と被告各標章が類似するのであれば、同年以降の被控訴人の「Monchouchou」ブランドの使用は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するものである。」に改める。
8 争点7’(消滅時効の抗弁が認められるか)について
【控訴人の主張】
(1) 平成19年1月20日の時点では、様々なメディアに取り上げられるなどして控訴人の洋菓子店舗「パティシェリー・モンシュシュ」等が既に有名になっていたこと、平成21年5月に控訴人代表者が被控訴人代理人弁理士と面談した際に、被控訴人は3年ほど前から控訴人がモンシュシュの屋号で洋菓子の製造販売を行っていることを知っていた旨の説明を受けたことなどからすれば、被控訴人は、平成19年1月20日の時点で、損害及び加害者を知っていたといえるので、平成18年8月〜同年12月分の使用料相当額の損害については、時効により消滅したと解すべきである。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、平成23年11月17日の当審第1回口頭弁論期日において、前項の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
【被控訴人の主張】
 控訴人の主張(1)の事実は否認ないし争う。被控訴人が控訴人の被告各標章の使用の事実を知ったのは、平成21年2月4日のことであり、消滅時効は完成していない。
9 争点8(被控訴人の損害額)について
【被控訴人の主張】
(1) 控訴人の売上げは、平成18年8月1日から平成22年7月31日までが121億9045万円、平成22年8月1日から同年9月30日までが9億2093万2843円、同年10月1日から平成23年9月30日までが66億8126万4907円、同年10月1日から平成24年3月31日までが33億4063万2453円であるところ、本件商標の使用料相当額は、その2%である。
 したがって、被控訴人は、控訴人の侵害行為により、本件商標の使用料相当額である、平成18年8月1日から平成22年7月31日までが2億4380万9000円(計算式:121億9045万円×0.02。遅延損害金の起算日は、訴状送達の日の翌日である同年2月18日。)、平成22年8月1日から同年9月30日までが1841万8657円(9億2093万2843円×0.02。遅延損害金の起算日は同年10月1日。)、同年10月1日から平成23年9月30日までが1億3362万5298円(66億8126万4907円×0.02。遅延損害金の起算日は同年10月1日。)、同年10月1日から平成24年3月31日までが6681万2649円(33億4063万2453円×0.02。遅延損害金の起算日は、請求の趣旨拡張申立書送達の日の翌日である同年5月8日。)の合計4億6266万5604円の損害を被った(商標法38条3項)。
(2) 原判決は、本件商標とは何ら関係のない「堂島ロール」の有名性を過大に考慮して使用料率を認定したものであり、適法にライセンス契約がなされた場合のライセンス料に損害賠償額が抑え込まれることの排除を目的とする商標法38条3項の趣旨に反するものである。現行商標法下の裁判例や、商標権におけるロイヤリティ料率の平均値が2.6%であることに照らしても、被控訴人主張の使用料率2%は、不合理なものではない。
 なお、平成21年10月31日より後も、控訴人は、被告各標章の店舗名としての使用を継続しており、その後の記事等においても、従前と同様に、控訴人の商品や店舗を「モンシュシュ」などとして紹介されていることに照らすと、同日より後の被告各標章の使用態様が僅かであるとか、副次的であるとか評価されるものではなく、その前後で異なる使用料率を認めるべき理由はない。
【控訴人の主張】
(1) 控訴人の平成18年8月1日から平成22年7月31日までの売上げは、121億9080万2578円であり、平成22年8月1日から平成24年3月31日までの売上げは、105億4171万3094円である。
(2) 仮に被控訴人に損害が発生するとしても、その損害は、被告商品のうちチョコレートを販売したことによるものに限定すべきであり、少なくとも堂島ロールの顧客誘引力によって直接的にもたらされているロールケーキ類の販売による被控訴人の損害や、非類似の商標であることが明らかなベビーモンシュシュ店舗における販売による被控訴人の損害は想定されないことからすれば、名目的なごく僅かな金額となるべきである。そうでなくとも、本件商標の顧客吸引力が極めて低い一方、被告各標章には独自の高い顧客誘引力が認められ、堂島ロールを始めとする控訴人の各商品自身にも高い顧客誘引力が認められること等を総合的に考慮するなら、本件商標の年間使用料相当額は年100万円を超えることはないから、年100万円の定額方式で計算すべきである。
(3) 仮に定率方式によるにしても、上記のとおり、ロールケーキ類の販売やベビーモンシュシュ店舗における販売の売上げは算定の対象から除くべきである。また、控訴人は、指定役務を「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供」として、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」の商標登録を受けており、被告店舗6では喫茶店を営業しているから、喫茶店売上げも除くべきである。また、前記のとおり、ウエディング部門のうち、@ベルティアラロールサービスとAウェディングケーキサービスに関する売上げについては、本件商標権を侵害するものではないから、除くべきである。また、保冷バッグに係る売上げも、洋菓子とは別に販売されていて、雑誌等でサブバッグやセカンドバッグ等として使用されていることが紹介されていること等からすれば、洋菓子の売上げではないので除くべきであるし、仮に含めるとしても、保冷バッグに被告各標章が使用された平成19年8月24日から平成21年10月31日までの期間に限るべきである。さらに、被告店舗3及び8は、控訴人とは別法人が、喫茶形式での営業を行っており、これに係るロイヤリティは、喫茶店としての商標の使用権や、堂島ロールなどの名称の使用権に基づくものであるから、除くべきである。
 そして、原判決が使用料率を0.3%としたのは高額に過ぎ、0.1%を下回ってしかるべきであるし、同日をもって被告各標章の使用態様が変化したのであるから、変更後は定額方式を採用するか率を下げるべきである。
10 争点9(被告各標章の使用禁止等を求める必要性の有無)について
【被控訴人の主張】
 現在、控訴人が被告各標章の使用をしていないとしても、控訴人が被告登録商標3の無効審決に対し審決取消訴訟を提起したことや、使用中止を発表した後も、指定商品「洋菓子」において、「モンシュシュ」又は「MONCHOUCHOU」の文字を含む或いは「モンシュシュ」の称呼を生ずる登録商標を15件も控訴人が所有している事情を考慮すると、控訴人は、今後、被告各標章の使用を再開する可能性があるから、使用禁止等を求める必要性は認められる。
【控訴人の主張】
 控訴人は、平成24年7月1日をもって、屋号を「Mon cher(モンシェール)」「baby Mon cher(ベビーモンシェール)」に変更し、同日以降、被告各標章は使用しておらず、将来にわたって再開する予定はない。控訴人が、屋号の変更を行うことを、その理由も含め、インターネット上において、一般消費者に対し公にしていることや、商号自体も同年10月1日をもって変更したことなどからすると、関係会社の利用という形態を含め、今後、控訴人が被告各標章を使用することはあり得ない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告各標章は、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか)について
 当裁判所も、被告各標章は、洋菓子について使用される場合であっても、洋菓子の小売について使用される場合であっても、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているといえると判断する。その理由は、次の(1)のとおり補正し、次の(2)のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第4の1に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決の補正
ア 原判決19頁18行目に「週に1回以上」とあるのを「月に1回以上」に改め、19行目の「20代から50代の女性」の後に「(なお、アンケート調査を依頼した20代から50代の女性のうち月1回以上スイーツを食べる女性の割合は81.3%であった。)」を挿入し、21行目の「206」の後に「、228」を挿入する。
イ 原判決20頁7〜8行目の「洋菓子に比較的関心が高いといえる需要者層においてすら」の後に「(なお、一般的には、男性よりも女性の方が、また「60代」以上よりも「20代から50代」の方が、スイーツ(洋菓子)に関心が高いと考えられるから、そのうち約8割を占める月1回以上スイーツを食べる(購入する)女性が、一般の需要者層全体に比して、洋菓子に比較的関心が高いといえることは否定できない。)」を挿入する。
(2) 控訴人の主張に対する判断
ア 控訴人は、被告各標章は、有名な「堂島ロール」を販売する控訴人の店舗名を表すものとして機能しており、商号その他店舗表示・営業表示として使用されているものである旨主張する。
 しかし、前記引用部分で判示したとおり、一般的に、「洋菓子」という商品に使用される標章と同一又はこれに類似する標章を、「洋菓子の小売」という役務に使用した場合には、商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え、出所の混同を招くおそれがあるといえるのであり、入口ガラス壁面に営業時間や電話番号等が記載されていることなどの控訴人が指摘する事情や、証拠(甲10、20ないし29、乙223等)により認められる実際の店舗看板等への使用態様をもって、上記おそれを否定することはできない。なお、小売等役務商標制度が施行されたことを考慮しても、「商品」と「役務」が互いに類似することがあること(商標法2条6項)に変わりはなく、出所混同を招くおそれが認められる以上、上記結論を左右するものではない。
 また、「モンシュシュ」が控訴人の店舗名として一律に控訴人を想起ささせるほどの知名度を有していないことは、前記引用部分記載のアンケートの結果や、個人のブログ等において、「堂島ロール」のことは記載されているが、「モンシュシュ」の記載が全くないものも相当数存在し(甲197ないし246、乙756)、「モンシュシュと言う店名よりも商品名“堂島ロール”のほうが有名です。」(乙722)、「ケーキ屋さんの名前よりも、「堂島ロール」の商品名が先行している」(乙727)などと記載されているものもあることなどから認められるところであって、当審提出分を含む控訴人又は被告商品を取り上げた各種メディアに関する多数の証拠によっても、この点の判断を左右するに足りない。
イ 控訴人は、ウェディングサービス部門のうち、チベルティアラロールサービスとツウェディングケーキサービスにおける被告各標章の使用については、出所混同のおそれはなく、本件商標の指定商品又はこれに類似する商品若しくは役務へ使用されているものとはいえない旨主張する。
 しかし、控訴人の主張によっても(乙718にも、同旨のサービス内容の記載がある。)、上記各サービスはいずれも洋菓子(ケーキ)の販売をメインとするものであり(上記各サービスを紹介する乙72の新聞記事においても、「ウェディングケーキや引き出物などの結婚式向け販売」の強化として報道されている。)、洋菓子をその製造販売業者が結婚式向けにも販売することは珍しいことではないと考えられ、また、少なくとも上記Aのサービスは通常の洋菓子の販売と一緒に広告がなされていること(甲4)などの本件の証拠上認められる取引の実情に照らすと、洋菓子の販売と別異に解することまではできず、上記主張は採用できない。
2 争点2(被告各標章は、本件商標に類似するか)について
(1) 本件商標
 本件商標の外観及び称呼は、原判決「事実及び理由」第4の2(1)ア及びイに記載のとおりであるから、同部分を引用する。
 本件商標の観念については、フランス語で「私のお気に入り」との意味であるが、日本語化して一般に用いられているとはいえず、本邦におけるフランス語の普及度が決して高いとはいえないことに照らすと、特定の観念が生じるとは認められない。
(2) 被告標章1
ア 被告標章1の要部、外観及び称呼は、原判決「事実及び理由」第4の2(2)アないしウに記載のとおりであるから、同部分を引用する。
 被告標章1の観念については、前記Aと同じく、被告標章1 から特定の観念が生じるとは認められない。
イ なお、控訴人は、被告標章1は、図形部分も含めて類否を判断すべきである旨主張するが、前記引用部分で説示したとおり、その図形部分から出所識別標識としての称呼、観念は生じないと認められるから、要部の文字部分だけを比較すべきであり、上記主張は採用できない。
 また、観念につき、控訴人は、文字部分から、「堂島ロール等のロールケーキや洋菓子で人気のモンシュシュ」という観念が生じる旨主張するが、「モンシュシュ」にそのような知名度があるとまでは認められないことは、前記1で検討したとおりであるから、その主張は採用できない。
(3) 被告標章2ないし4
ア 外観
 被告標章2ないし4の外観は、それぞれ原判決別紙被告標章目録記載2ないし4のとおりであり、被告標章2は片仮名の「モンシュシュ」を「モン」を「シュシュ」の間にスペースを空けて横一列に記載したもの、被告標章3は欧文字の「Monchouchou」を「Mon」と「chouchou」の間にスペースを空けて横一列に記載したもの、 被告標章4 は欧文字の「Monchouchou」を「Mon」と「chouchou」の間にハイフンを入れて横一列に記載したものである。
イ 称呼
 被告標章2ないし4からは、「モンシュシュ」との称呼が生じる(争いがない。)。
ウ 観念
 前記(1)と同じく、被告標章2ないし4から特定の観念が生じるとは認められない。なお、前記(2)のとおり、これらの標章から「堂島ロール等のロールケーキや洋菓子で人気のモンシュシュ」という観念が生じるとは認められない。
(4) 被告標章5ないし7
 被告標章5ないし7の外観及び称呼は、原判決「事実及び理由」第4の2(3)ないし(5)の各ア及びイに記載のとおりであるから、同部分を引用する。観念については前記(3ウのとおりである。
(5) 被告標章8
ア 被告標章8の要部、外観及び称呼は、原判決24頁17行目の「楷書体」を「活字体」と改めるほかは、原判決「事実及び理由」第4の2(6)アないしウに記載のとおりであるから、同部分を引用する。観念については前記(3)ウのとおりである。
イ なお、控訴人は、被告標章8につき、要部を「Mon chouchou」とした上記判断につき争う。
 しかしながら、被告標章8の図形部分から出所識別標識としての称呼、観念は生じないと認められることは、被告標章1と同様である。そして、「baby Mon chouchou」の文字部分につき、被告標章8は、その構成中の「baby」、「Mon」及び「chouchou」の部分が分離して把握され得るものであり、また、被告登録標章3と比べても、「baby」の部分が「Mon chouchou」の部分よりも小さく、付加された形となっている上、これらの点を措くとしても、「baby」又はその表音である「ベビー」の片仮名は、菓子やパンを含む商品分野において、商品が通常の大きさよりも小さなものであることを表すものとして、日常的に使用されているものと認められ(甲254(審判請求書)の添付資料中の甲41ないし74)、これに接する需要者も、「baby」については、商品の品質、形状を表したものとして認識する場合も決して少なくないといえるから、「baby」からは、出所識別機能としての称呼、観念を生じることはなく、「Mon chouchou」の部分が出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものといえる。
 これらによれば、前記引用部分説示のとおり、被告標章8の要部は「Monchouchou」の部分であるといえ、控訴人の上記主張は採用できない。
(6) 被告標章9
ア 被告標章9の要部、外観及び称呼は、次のイのとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第4の2(7)アないしウに記載のとおりであるから、同部分を引用する。観念については前記(3)ウのとおりである。
イ(ア) 原判決25頁26行目の「表記されており、」の後に、「その外観だけからは、」を挿入する。
(イ) 原判決26頁19〜20行目の「甲118」の後に「、甲254の添付資料である甲25」を挿入し、同行の「表記されているし」を「表記されたり、被告標章9のうちモンシュシュの部分だけが異なる色で表示されたものもあるし」に改める。
(ウ) 原判決26頁25行目の「表記されている」の後に「(甲132)」を挿入する。
(エ) 原判決27頁4行目末尾の後に、「なお、「ベビーモンシュシュ」の店舗が、需要者において、「モンシュシュ」店舗の「姉妹ブランド」等として認識される場合にも、「ベビー」は付加的なものと理解されるのが通常であり、「ベビー」の部分が重要であると解することはできない。」を挿入する。
(7) 取引の実情
 当裁判所も、本件においては、出所混同のおそれを否定するような取引の実情は存在しないと判断する。その理由は、次のアのとおり補正し、次のイのとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第4の2(8)記載のとおりであるから、同部分を引用する。
ア 原判決の補正
(ア) 原判決28頁14行目と同29頁1行目の「前記1(3)」の前に「本判決の前記1(1)で補正した」を挿入する。
(イ) 原判決28頁16行目の「有していない。」の後に、「他方、前記平成22年9月に実施したアンケートによると、同じ需要者層において、ゴンチャロフやビアンクールの「モンシュシュ」「MONCHOUCHOU」というチョコレート菓子を知っているかという質問に対し、神戸市の500名のうち66名が、大阪・京都・兵庫(神戸市を除く)の500名のうち57名が、東京・千葉・埼玉・神奈川の500名のうち19名が、知っていると答えており(乙206、228)、本件商標の知名度がほとんどないとまでいうことはできない。」を挿入する。
(ウ) 原判決29頁18行目末尾の後に、「なお、平成23年12月時点の阪急百貨店のオンラインショッピングのサイトにおいては、バレンタインチョコレートとして、原告商品と被告商品の双方が売られており、価格帯も重なる商品がある(甲263)。」を挿入する。
イ 控訴人の主張に対する判断
(ア) 控訴人は、「Mon chouchou(モンシュシュ)」の著名性の程度は高く、控訴人の略称としても高い周知・著名性を有する旨主張するが、これまでの検討結果及び後記4によれば、その主張は採用できない。
(イ) 控訴人は、本件商標と同じ「mon chouchou」や「モンシュシュ」の語は、菓子やパンを販売する店舗やカフェの名称として好んで使用されているほか、様々な商品の店名・商品名などで幅広く使用されており、本件商標を構成する文字自体やそこから生ずる称呼が有する識別力は、特に「菓子、パン」との関係では、それ程高いとはいえない旨主張する。
 しかし、確かに、控訴人において調査した結果によると、全国的に、「モンシュシュ」又は「Mon chouchou」という文字を含む店名の洋菓子・パン店が6店ほどあり、また、スナック、雑貨店等の店名に使用されている例も35店ほどあり、シュシュ、バッグ等の商品名に使用されている例も11点ほどあることが認められる(乙221、222)が、これらから、そのような店名や商品名がありふれたものであると認めることはできず、上記識別力が低いとはいえないから、その主張は採用できない。
(ウ) 控訴人は、控訴人店舗に入った需要者は、「Patisserie DOJIMA」といった表記を含む看板等から、著名な「堂島ロール」を販売する「モンシュシュ」であることを容易に理解するし、百貨店の専門店内等における対面販売でも、商品を丁寧に取り扱うのが一般的であるから、需要者は、堂島ロール等で人気のモンシュシュと理解した上で、商品を購入するのであり、このような販売方法において、商品の出所について誤認・混同が生じるおそれはないし、オンラインショッピングにおいても、需要者はそのウェブサイトが控訴人のものであることを十分に認識可能であるから、同様である旨主張する。
 しかし、まず、「Patisserie DOJIMA」の表記については、被告標章1と比べるとかなり小さく目立たないように記載されていて(乙223)、この表記に需要者が留意するとは認め難い。そして、前記アンケートの結果などからすると、「堂島ロール」が控訴人の商品であり被控訴人の商品ではないことが、需要者にとって自明であるとは認められないから、店舗販売や対面販売やウェブショッピングにおいても、本件商標を知っている者が、被告各標章を見て、被控訴人又はビアンクールが関係する店舗ないしウェブサイトであると誤解して、「堂島ロール」を含む被告商品を購入するおそれは否定できない。これらによれば、上記主張は採用できない。
(エ) 控訴人は、控訴人が販売している洋菓子は、嗜好性の高い商品であり、顧客当たりの平均購入単価も約1800円と安価ではなく、需要者が高い注意力をもって慎重に判断することが想定される旨主張する。
 しかしながら、控訴人では、1個200円台から400円台のシュークリーム、プリン、ケーキ等も販売しており(甲30)、チョコレートやロールケーキも1000円以下で販売されているものがある(甲133、137)上、「洋菓子」の需要者は一般消費者であるから、平均購入単価が約1800円ほどであったからといって、誤認混同をしないとはいえず、上記主張は採用できない。
(オ) 控訴人は、被告標章4につき、「www.」「.com」と一緒に用いられており単独では使用されていない旨主張する。しかし、「www.」「.com」の部分に出所識別標識としての称呼、観念が生じないことは明らかであるから、仮にそれらと一緒に用いられたとしても、要部は被告標章4であり、被告標章4の部分について出所混同のおそれは認められる。
 また、被告標章2、3及び5ないし7が、被告標章1をメインとして付随的に使用されていたとしても、被告標章1による出所混同のおそれが認められる以上、被告標章2、3及び5ないし7による出所混同のおそれは否定できない。
(カ) 控訴人は、被告標章8及び9につき、「ベビーモンシュシュ」の店舗が「モンシュシュ」の姉妹店として多数報道されており、「ベビーモンシュシュ」の店舗が控訴人の「モンシュシュ」の店舗を前提とし、需要者において「姉妹ブランド」等として認識するのであれば、「控訴人の「モンシュシュ」を認識しており、出所混同のおそれはない旨主張する。
 しかしながら、前記のとおり、「モンシュシュ」ですら、控訴人の店舗名として一律に控訴人を想起させるほどの知名度を有していないと認められるのであるから、「ベビーモンシュシュ」の知名度も、同様かそれ以下であると考えられる。また、「ベビーモンシュシュ」が「モンシュシュ」の姉妹ブランド等として認識されたとしても、「モンシュシュ」自体に出所混同のおそれがあると認められる以上、「ベビーモンシュシュ」にも出所混同のおそれがあることは否定できない。
 これらによれば、控訴人の上記主張は採用できない。
(8) 類否の検討
 前記(7)のとおり、本件においては、出所混同のおそれを否定するような取引の実情は存在しないので、以下、外観、称呼、観念の対比によって、類否判断を行う。
ア 外観
 被告各標章(被告商標1、8及び9は要部)は、いずれも、片仮名の「モン シュシュ」又は「モンシュシュ」+被告標章2及び被告標章9の要部,若しくは欧文字の「Mon chouchou」(被告標章1の要部、被告標章3ないし7及び被告標章8の要部。なお、被告標章4のMは小文字)を、飾り文字を使用した筆記体(被告標章1の要部、被告標章5ないし7及び被告標章8の要部。なお、被告標章7については、さらに赤色文字)又は活字体(被告標章2ないし4、被告標章9の要部)で、2段に分けて(被告標章1の要部、被告標章6、被告標章8の要部)又は横一列(被告標章2ないし5、7、被告標章9の要部)に記載したものであり、本件商標は、欧文字の「MONCHOUCHOU」を活字体で横一列に記載し、その下段に、片仮名の「モンシュシュ」を横書きで併記してなる1個の商標であるから、その外観は本件商標の上段又は下段と類似し、その結果、被告各標章(被告商標1、8及び9は要部)と本件商標は、外観において類似する。なお、字体やスペースの有無やハイフンの有無などの違いは存するが、類似であることを否定できるようなものではない。
イ 称呼
 被告各標章(被告商標1、8及び9は要部)、本件商標からは、いずれも「モンシュシュ」との称呼が生じるから、その称呼は同一である(なお、控訴人が主張するように、被告標章1の称呼が「モン」「シュシュ」であったとしても、本件商標と称呼がほとんど同一である。)。
 なお、本件商標の上段の「MONCHOUCHOU」、被告標章1及び8の要部、被告標章3ないし7の「Mon chouchou」をフランス語で「モンシュシュ」と発音することを知る需要者がどの程度いるか必ずしも明らかとはいえず、また、フランス語以外の読みとして、いかなる称呼が生じるか、必ずしも明らかとはいえないが、本件商標上段の「MONCHOUCHOU」と当該被告各標章における「Mon chouchou」は、同じスペルであることから、異なる称呼が生じることはないといえる。
ウ 観念
 被告各標章(被告商標1、8及び9は要部)、本件商標からは、いずれも特定の観念は生じないと認められるから、観念において対比することはできないが、異なる観念が生じるものではない。なお、本件商標がフランス語で「私のお気に入り」を意味することを理解できる一部の需要者にとっては、被告各標章(被告商標1、8及び9は要部)についても同じ意味があると理解できることになるから、異なる観念が生じることはないといえる。
エ 結論
 以上のとおり、被告各標章(被告商標1、8及び9は要部)は、いずれも、称呼において、本件商標と同一かほとんど同一であり、外観の違いも、本件商標をデザインし、文字装飾を施したと認識される程度のものといえ、異なる観念が生じるものでもないから、被告各標章は、本件商標と類似すると認められる。
3 争点3(被告標章4は商標として使用されているか)について
 当裁判所も、被告標章4は、商標として使用されていると認められると判断する。その理由は、次のAのとおり補正し、次のBのとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第4の3に記載のとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決の補正
 原判決33頁2行目から4行目までを削除し、5行目の「(5)」を「(4)」と改める。
(2) 控訴人の主張に対する判断
 控訴人は、被告標章4を「www.」や「.com」と一緒に用いており、単独では使用していないから、差止請求等及び損害賠償請求の対象とはならない旨主張する。しかし、前記のとおり、「www.」「.com」の部分に出所識別標識としての称呼、観念は生じないから、それらと一緒に用いられた場合でも、その要部は被告標章4であると解されるのであり、そうである以上、被告標章4自体への差止請求等や損害賠償請求も認められるというべきである。
 また、控訴人は、単に控訴人のウェブサイトの存在やそのドメイン名を知らせるために被告標章4の表示をしているにすぎない旨主張する。しかし、例えば、控訴人のテーマーカラーである濃いオレンジの背景に濃いブラウン色で目立つように記載された保冷バッグの裏面(甲9)や車体の後部(甲32)における「mon-chouchou.com-」の表記が、これを目にした者にMonchouchou(モンシュシュ)という名を印象付けることをも目的とするもので、広告的機能を発揮していることは明らかである(なお、裏面や後部であっても、十分目に触れ得るものである。)し、保冷バッグについては、入れられた商品の出所識別機能も果たしているといえるから、上記主張は採用できない。なお、上記車体の側面には、被告標章1の下に「パティシェリー モンシュシュ」との記載があり(甲32,乙736)、一般に「パティシェリー(パティスリー)」は洋菓子店のことであるから、上記車体上の被告標章4は、洋菓子販売業に係る広告的機能を発揮するものといえる。
4 争点4(被告標章2ないし4は、控訴人の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか)について
 当裁判所も、「モンシュシュ」が、控訴人の略称として著名であるとは認められないから、商標法26条1項1号に基づく控訴人の抗弁は理由がないと判断する。その理由は、原判決34頁1行目の「前記1(3)イ」の前に「本判決の前記1(1)で補正した」を挿入し、同行から2行目にかけての「週に1回以上」を「月に1回以上」に改め、7行目の「211」の後に「、228」を挿入するほかは、原判決「事実及び理由」第4の4に記載されたとおりであるから、同部分を引用する。
5 争点5’(被告標章8及び9につき登録商標使用の抗弁が認められるか)について
 控訴人は、被告標章8及び9の使用は、控訴人が有している被告登録商標1及び3の使用に該当するから、本件商標の禁止権はそもそも及ばない旨主張する。
 しかしながら、被告標章8と被告登録商標3は、「baby」又は「Baby」の字の大きさ等が異なっている上、これまで述べたところによれば、前記前提事実記載の特許庁の審決(甲284)のとおり、被告登録商標3の登録は商標法4条1項11号に違反してされたものであり、無効事由(同法46条1項1号)があるというべきである。また、被告標章9と被告登録商標1は同一といえるが、これまで述べたところによれば、被告商標登録1の登録も同様の無効事由が存するといえ、そのような無効とされるべき登録商標の権利行使をすることは、権利の濫用として許されないと解すべきである。
 したがって、被告登録商標1及び3の登録の事実をもって、被告標章8及び9による本件商標への侵害性を否定することはできない。
6 争点6(被控訴人の損害の発生の有無)について
 当裁判所も、被控訴人に損害が生じていないとは認められないと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の5に記載のとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決35頁22行目の「95」の後に「、258、262。なお、甲258号証の商品写真が平成16年に販売された商品の写真であることは、甲93号証の同年のパンフレットの写真との対比から明らかである。」を挿入する。
(2) 原判決36頁4行目の「売上げ」の後に、「や、前記のとおり、アンケートの結果からも、本件商標の知名度がほとんどないとまではいえないこと」を挿入する。
(3) 原判決36頁8行目の「前記1(1)」の後に「及び前提事実(4)」を挿入し、10行目の「使用されていること」を「使用されていたこと」に改める。
7 争点7(被控訴人の請求は権利濫用か)について
 当裁判所も、被控訴人の請求は権利の濫用には当たらないと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の6に記載のとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決36頁23〜24行目の「これまで述べたところである」の後に「(前記アンケートの結果などからすれば、被告各標章が本件商標の認知度を遙かに凌駕していると評価することまではできないし、本件商標が顧客誘引力を実質的に有していないということもできない。また、被告各標章と本件商標とが類似していて出所混同のおそれがある以上、市場で混乱が生じた実例が証拠上認められなくても、権利濫用を根拠付けるには不十分である。なお、本件の経緯として、控訴人代表者が、平成21年1月ころに、コンサルタントから、現状の屋号等における「モンシュシュ」等の使用が本件商標との関係で問題があることを知り、同年5月21日には、被控訴人代理人の弁理士らと面談し、その弁理士らから、商標権を侵害しており使用を中止するよう言われた事実が認められる(甲53、259、261、乙768)から、そのころ以降に「モンシュシュ」等の控訴人の店舗名としての知名度がそれ以前より高まったとしても、控訴人が商標権侵害の可能性を認識しながら被告各標章の使用を継続したことが一因となっているのであるから、権利濫用を基礎付ける事情として、これを重視することはできない。)」を挿入する。
(2) 原判決37頁3行目冒頭から4行目の「また、」までを「しかしながら、被控訴人が平成16年末に控訴人の存在を知ったことを認めるに足りる証拠はないし、」に改め、5行目の「経過していないのであり」の後に「(被控訴人は、前記のとおり、平成21年5月に控訴人に対し被告各標章の使用の中止を申し入れており、また、本件訴訟が提起されたのが平成22年1月20日であることは記録上明らかである。)」を挿入する。
(3) 原判決37頁23行目末尾の後に、改行して、次の文章を挿入する。
 「なお、被控訴人が平成19年から本件商標の使用を再開した一因として、不使用を理由に商標登録を取り消されるリスクを回避することがあったのだとしても、それが不当であるとはいえず、権利濫用を基礎付ける事情とはいえない。
 また、同年の使用再開の時点で、関西地区においてであれ、被告各標章が控訴人の営業表示として周知性を有していたとは認められないから、上記使用の再開が、不正競争防止法2条1項1号に当たる行為とはいえない。
 なお、被控訴人は、平成22年のパンフレットに、実際は2年間不使用の期間があったにもかかわらず、「ビアンクールのヴァレンタインは/スタートから25年ずっと/Monchouchou (R)/モンシュシュ(仏語で私の大切な人、恋人の意)」と記載している(甲77)が、パンフレットの上記のような記載をもって、本件における権利濫用を基礎付けることもできない。」
8 争点7’(消滅時効の抗弁が認められるか)について
(1) 平成19年1月20日の時点で、著名であったとか周知性があったとまでは認められないものの、控訴人の洋菓子店舗「パティシェリー・モンシュシュ」は、平成16年9月ころから平成18年の間において、雑誌等の各種メディアやブログで取り上げられており(甲3、乙1ないし13、23ないし35、209、225、239ないし241、342、531ないし540、719ないし724)、雑誌「Hanako」の平成18年10月12日号における被告店舗8を紹介する記事では「2階にあるカフェは、スイーツファン垂涎の、あの<堂島ロール>のパティスリー『Mon chou chou』とのコラボ。大阪から初上陸のスイーツには行列必至。」と記載される(乙233)など、一定の知名度を有してはいたものと認められるから、同じ関西地区に本社を置く洋菓子の製造販売業者である被控訴人も、上記店舗の存在と洋菓子販売の事実を認識していたものと推認できる。そして、平成21年5月21日に被控訴人代理人弁理士らと話合いをした際に、被控訴人は3年ほど前から控訴人がモンシュシュの屋号で洋菓子の製造販売を行っていることを知っていた旨の説明を受けたとの控訴人代表者の陳述(乙768)も、上記推認を裏付けており、本件で上記推認を覆すに足りる事情は認められない。なお、確かに、平成21年2月ころ、被控訴人の従業員が被控訴人代理人弁理士に対し、被告商品のバレンタインチョコレートについての相談をし、同弁理士が、同月25日に、控訴人の登録商標を調査して上記従業員にメール送信をした事実が認められる(甲259、260)が、これは、被控訴人において、そのころに控訴人がチョコレートを販売している事実を認識したが故のことと考えられ、それ以前から他の洋菓子を販売していたことを認識していた事実と矛盾するものとはいえない。
 これらからすれば、被控訴人は、遅くとも平成19年1月20日の時点で、控訴人が「モンシュシュ」を含む屋号の店舗で洋菓子を販売していた事実を認識していたと認められ、損害及び加害者を知っていたと評価できる。そして、前記のとおり、本件訴訟が提起されたのが平成22年1月20日であり、控訴人が消滅時効を援用したことは当裁判所に顕著であるから、平成18年8月〜同年12月分の使用料相当額の損害については、時効により消滅したと解すべきである。
9 争点8(被控訴人の損害)について
(1) 控訴人の総売上げ
 証拠(乙212の1ないし4、769、783)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人の平成19年1月から平成24年3月までの総売上げは、以下のとおり、合計225億6422万9787円であると認められる。
ア 平成19年1月〜平成19年7月 2億3560万0238円
イ 平成19年8月〜平成20年7月 18億8793万2174円
ウ 平成20年8月〜平成21年7月 40億3464万0954円
エ 平成21年8月〜平成21年10月 13億1271万9762円
オ 平成21年11月〜平成22年7月 45億5162万3565円
カ 平成22年8月〜平成22年9月 9億2093万2843円
キ 平成22年10月〜平成23年9月 66億8126万4907円
ク 平成23年10月〜平成24年3月 29億3951万5344円
(2) 控訴人の総売上げから控除すべき売上げ
 当裁判所も、控訴人の売上げのうち、喫茶及びロイヤリティに係る売上げについては控除すべきであるが、ウエディング部門及び保冷バッグの売上げについては控除すべきではないと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の7B記載のとおりであるから、同部分を引用する。
ア 原判決39頁5〜7行目を、「前記のとおり、控訴人のウェディングサービスは、控訴人の主張によっても、洋菓子(ケーキ)の販売をメインとするものといえる。」に改める。
イ 原判決40頁4行目末尾後に、「なお、確かに、控訴人の保冷バッグについて、夏の出勤用のサブバッグとして人気であるとか、お出かけ時のセカンドバッグとしても使えそうだといった雑誌の記事等(乙279、336)が存するが、洋菓子を買わずに保冷バッグだけを購入するというのは、本来の使用方法から外れた例外的なことであるから、使用料率算定の一要素として考慮し得るにしても、保冷バッグの売上げが洋菓子の売上げに付随するものであることは否定できない。」を挿入する。
(3) 使用料相当額算定の対象となる売上げ
 前記(1)及び(2)からすれば、平成19年1月1日から平成24年3月31日までの間における、本件商標権の侵害による控訴人の売上げは、次のとおり、総売上げから、喫茶に係る売上げ及びロイヤリティ収入を控除した額となり、その金額は、証拠(乙213、769、783)及び弁論の全趣旨によれば、以下の金額になると認められる。
 なお、喫茶店では、持ち帰り用の商品を販売していることが認められるが、この売上げは喫茶による売上げには計上されていない(乙213、220)。
ア 平成19年1月〜平成19年7月
 総売上げ 2億3560万0238円
 ロイヤリティ収入 519万1350円
 対象売上げ 2億3040万8888円
 (上記期間の総売上げは2億3560万0238円で、この間のロイヤリティ収入は、平成18年8月から平成19年7月までの総売上4億0388万6123円中、ロイヤリティ収入料が889万9457円である(乙213)ことからすると、2億3560万0238円×889万9457円/4億0388万6123円≒519万1350円であると推認できる。
イ 平成19年8月〜平成20年7月
 総売上げ 18億8793万2174円
 ロイヤリティ収入 4202万4529円
 対象売上げ 18億4590万7645円
ウ 平成20年8月〜平成21年7月
 総売上げ 40億3464万0954円
 喫茶に係る売上げ 5504万7048円
 ロイヤリティ収入 7340万4482円
 対象売上げ 39億0618万9424円
エ 平成21年8月〜平成21年10月
 総売上げ 13億1271万9762円
 喫茶に係る売上げ 1661万5141円
 (乙213、769により、平成20年8月から平成21年10月までの間の喫茶に係る売上げは7166万2189円であると認められるので、上記ウの期間分を控除すると、1661万5141円になる。)
 ロイヤリティ収入 1277万3545円
 (乙769により、平成18年8月から平成21年10月までの間のロイヤリティ収入が1億3710万2013円であると認められ、前記のとおり、平成18年8月から平成19年7月までの間のロイヤリティ収入料が889万9457円であるから、この金額と上記イ及びウの期間分を控除すると、1277万3545円になる。)
 対象売上げ 12億8333万1076円
オ 平成21年11月〜平成22年7月
 総売上げ 45億5162万3565円
 喫茶に係る売上げ 5981万5419円
 ロイヤリティ収入 4817万3245円
 対象売上げ 44億4363万4901円
カ 平成22年8月〜平成22年9月
 総売上げ 9億2093万2843円
 喫茶に係る売上げ 1062万4336円
 (乙783によれば、平成22年8月から平成24年3月までの総売上105億4171万3094円中、喫茶に係る売上げが1億2161万4409円あることが認められるから、そのうち平成22年8月〜平成22年9月までの間の喫茶に係る売上げは、9億2093万2843円×1億2161万4409円/105億4171万3094円≒1062万4336円と推認できる。)
 ロイヤリティ収入 508万5395円
 (乙783によれば、平成22年8月から平成24年3月までの総売上105億4171万3094円中、ロイヤリティ収入が5821万1379円あることが認められるから、そのうち平成22年8月〜平成22年9月までの間のロイヤリティ収入は、9億2093万2843円×5821万1379円/105億4171万3094円≒508万5395円と推認できる。)
 対象売上げ 9億0522万3112円
キ 平成22年10月〜平成23年9月
 総売上げ 66億8126万4907円
 喫茶に係る売上げ 7707万8372円
 (前記カと同様に、この間の喫茶に係る売上げは、66億8126万4907円×1億2161万4409円/105億4171万3094円≒7707万8372円と推認できる。)
 ロイヤリティ収入 3689万3970円
 (前記カと同様に、この間のロイヤリティ収入は、66億8126万4907円×5821万1379円/105億4171万3094円≒3689万3970円と推認できる。)
 対象売上げ 65億6729万2565円
ク 平成23年10月〜平成24年3月
 総売上げ 29億3951万5344円
 喫茶に係る売上げ 3391万1701円
 (前記カと同様に、この間の喫茶に係る売上げは、29億3951万5344円×1億2161万4409円/105億4171万3094円≒3391万1701円と推認できる。)
 ロイヤリティ収入 1623万2015円
 (前記カと同様に、この間のロイヤリティ収入は、29億3951万5344円×5821万1379円/105億4171万3094円≒1623万2015円と推認できる。)
 対象売上げ 28億8937万1628円
(4) 使用料率
 当裁判所は、本件の損害は定率方式で算定すべきであるが、原判決と一部異なり、使用料相当額を算定するに当たって採用すべき本件商標の使用料率は、平成21年10月までが0.3%、同年11月以降が0.2%と認めるのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の7D記載のとおりであるから、同部分を引用する。これに反する双方の主張はいずれも採用できない。
ア 原判決42頁3〜4行目の「売り上げており(甲96)」を「売り上げ(甲96)、平成22年から平成24年までの間も毎年2億円以上売り上げていて(甲282)」に改める。
イ 原判決43頁5行目末尾の後に「そして、平成21年11月以降は、前提事実D記載のとおり、被告標章1ないし6を包装箱、紙袋、保冷バッグに使用することが中止されたことからすると、被告各標章がその購買動機の形成に寄与する割合は、それ以前よりもさらに低下したものと認められる」を挿入する。
ウ 原判決43頁7行目に「0.3%」とあるのを「平成19年1月から平成21年10月までは0.3%、同年11月以降は0.2%」に改める。
(5) 損害及び遅延損害金の起算日
 前記(3)及び(4)からすれば、控訴人の支払うべき使用料相当額は、次のとおり、合計5140万8555円となり、これが被控訴人の損害であると認められる。なお、遅延損害金の起算日は、アないしエ(計2179万7511円)については不法行為後の日である平成22年2月18日(訴状送達日の翌日)から、オについては不法行為後の日であり、その間の損害額が確定した同年8月1日から、カについては同じく同年10月1日から、キについては同じく平成23年10月1日から、クについては不法行為後の日である平成24年5月8日(請求の趣旨拡張申立書送達の日の翌日)とすべきである。
ア 平成19年1月〜平成19年7月 69万1227円
 計算式:2億3040万8888円×0.003
イ 平成19年8月〜平成20年7月 553万7723円
 計算式:18億4590万7645円×0.003
ウ 平成20年8月〜平成21年7月 1171万8568円
 計算式:39億0618万9424円×0.003
エ 平成21年8月〜平成21年10月 384万9993円
 計算式:12億8333万1076円×0.003
オ 平成21年11月〜平成22年7月 888万7270円
 計算式:44億4363万4901円×0.002
カ 平成22年8月〜平成22年9月 181万0446円
 計算式: 9億0522万3112円×0.002
キ 平成22年10月〜平成23年9月 1313万4585円
 計算式:65億6729万2565円×0.002
ク 平成23年10月〜平成24年3月 577万8743円
 計算式:28億8937万1628円×0.002
10 争点9(被告各標章の使用禁止等を求める必要性の有無)について
(1) 前記争いのない事実等、証拠(甲280、乙770 ないし783、789)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成24年4月25日、その屋号を同年7月1日に「モンシェール(Mon cher)」「ベビーモンシェール(baby Mon cher)」等に変更することを控訴人のウェブサイト上などで公表し、全国紙における新聞報道もなされたこと、そして、実際に、同日をもって、基本的には、各店舗の屋号を上記のとおり変更し、看板等やレシートやウェブサイト上の被告各標章についても同様に変更し、同日以降一部残っていたモンシュシュ等の表記も、現時点では上記のとおり変更されていること、控訴人は、同年9月には、商号も旧商号から現商号の「株式会社Mon cher」に変更することを公表し、ウェブサイト上で報道もなされ、実際に同年10月1日から商号を変更したこと、控訴人の関連会社で、控訴人とは別の「株式会社モンシュシュ」も、同年9月に控訴人に吸収合併されたことが、それぞれ認められる。
 そして、上記屋号等の変更には、相当な費用もかかったものと考えられ、また、一般消費者らに広く公表されていること(なお、「Mon cher」はフランス語で「私の愛しい人」という意味であり(乙770)、「Mon chouchou」と意味的に近く、頭文字も同じMであることなどからすると、「モンシェール(Mon cher)」という屋号の選択は、従前の屋号との連続性や変更についての消費者への説明理由も考慮して行われたものと推認される。)などからすると、控訴人が、今後、被告各標章を使用するおそれはないものと認められる。
 これに対し、被控訴人は、控訴人が、屋号変更後に、被告登録標章3につき、登録無効審決の審決取消請求訴訟を提起していることや、指定商品「洋菓子」において、「モンシュシュ」等の文字を含むなどの登録商標を15件も控訴人が所有している事情を考慮すると、上記おそれはある旨主張する。しかしながら、前者については、本件訴訟で登録商標使用の抗弁などを主張して争っている控訴人の立場からすれば、当然のことといえるし、後者についても、商標を登録したのは屋号変更を決める前のことである(甲286)から、被控訴人指摘の事情をもって、上記おそれがあるとは認められない。
(2) 前項によれば、控訴人の請求のうち、被告各標章の使用禁止及び抹消並びに被告各標章を付したものの廃棄を求める請求は、理由がないというべきである。
第5 結論
 以上によれば、被控訴人の請求は、不法行為(本件商標権侵害)に基づく損害賠償請求として、賠償金5140万8555円及び内2179万7511円に対する平成22年2月18日から、内888万7270円に対する同年8月1日から、内181万0446円に対する同年10月1日から、内1313万4585円に対する平成23年10月1日から、内577万8743円に対する平成24年5月8日から、各支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求(当審において拡張したその余の請求を含む。)はいずれも理由がないから、本件控訴、附帯控訴及び被控訴人の当審における請求の拡張に基づき、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 小松一雄
 裁判官 遠藤曜子
 裁判官 横路朋生
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