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【事件名】コンビニコミックの増刷事件
【年月日】平成25年1月31日
 東京地裁 平成23年(ワ)第35951号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成24年12月20日)

判決
原告 A
訴訟代理人弁護士 川田剛
被告 株式会社竹書房
訴訟代理人弁護士 大辻正寛


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、508万6000円及びこれに対する平成23年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、別紙目録1ないし12記載の漫画各話(全体目次を含む。以下「本件漫画各話」という。)の作画(以下「本件各作画」と総称し、それぞれを「本件作画1」、「本件作画2」などという。)を制作した原告が、本件漫画各話を掲載したコミックの初版、さらには増刷を発行した被告に対し、被告が上記コミックを増刷して発行した行為が本件各作画について原告が保有する著作権(複製権)の侵害行為に当たる旨主張して、被告に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、漫画家である。
イ 被告は、書籍、雑誌、新聞の発行及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の著作物
 原告は、平成19年1月ころから平成22年5月ころまでの間に、B執筆の書籍「Bの都市伝説」シリーズに掲載の各話を原作とする本件漫画各話の作画(本件各作画)を制作し、その原画(原稿)を被告に引き渡した。
 本件各作画は、原告を著作者とする著作物である。
(3) 被告の行為
ア 被告は、以下のとおり、本件漫画各話が掲載された、主としてコンビニエンスストアで販売されるB6判の廉価版コミック(いわゆるコンビニコミック)である各コミック(以下「本件各コミック」という。)を発行した。
(ア) 「Bの都市伝説」
 上記コミックは、B執筆の同じ題号の書籍を原作とする漫画全7話を掲載したコミック(定価400円(税込み)。以下「本件コミック1」という。)であり、被告は、2007年(平成19年)2月12日に初版を発行し、その後、増刷として、2刷を経て、2008年(平成20年)8月23日に3刷を発行した(乙1の1ないし4)。
 本件コミック1には、本件作画1が掲載されている。
(イ) 「Bの都市伝説2」
 上記コミックは、B執筆の同じ題号の書籍を原作とする漫画全7話を掲載したコミック(定価480円(税込み)。以下「本件コミック2」という。)であり、被告は、2008年(平成20年)9月12日に初版を発行し、その後、増刷として、2刷及び3刷を発行した(乙2の1ないし4、弁論の全趣旨)。
 本件コミック2には、本件作画2ないし4が掲載されている。
(ウ) 「Bの都市伝説3」
 上記コミックは、B執筆の同じ題号の書籍を原作とする漫画全7話を掲載したコミック(定価480円(税込み)。以下「本件コミック3」という。)であり、被告は、2009年(平成21年)4月10日に初版を発行し、その後、増刷として2刷を発行した(乙3の1ないし4、弁論の全趣旨)。
 本件コミック3には、本件作画5及び6が掲載されている。
(エ) 「Bの都市伝説4」
 上記コミックは、B執筆の同じ題号の書籍を原作とする漫画全7話を掲載したコミック(定価480円(税込み)。以下「本件コミック4」という。)であり、被告は、2009年(平成21年)8月14日に初版を発行し、その後、同年12月8日に増刷として2刷を発行した(乙4の1ないし4、弁論の全趣旨)。
 本件コミック4には、本件作画7及び8が掲載されている。
(オ) 「Bの都市伝説5」
 上記コミックは、B執筆の同じ題号の書籍を原作とする漫画全7話を掲載したコミック(定価480円(税込み)。以下「本件コミック5」という。)であり、被告は、2009年(平成21年)12月25日に初版を発行し、その後、増刷として2刷を発行した(乙5の1ないし4、弁論の全趣旨)。
 本件コミック5には、本件作画9及び10が掲載されている。
(カ) 「Bの都市伝説6」
 上記コミックは、B執筆の同じ題号の書籍を原作とする漫画全7話を掲載したコミック(定価480円(税込み)。以下「本件コミック6」という。)であり、被告は、2010年(平成22年)5月14日に初版を発行し、その後、増刷として2刷を発行した(乙6の1ないし4、弁論の全趣旨)。
 本件コミック6には、本件作画11及び12が掲載されている。
イ 被告は、2011年(平成23年)8月16日、本件各コミックに収録された漫画の中から全14話を選択して収録したコンビニコミックである「Bの都市伝説G」と題するコミック(定価600円(税込み)。以下「都市伝説Gコミック」という。)を発行した(乙7の1ないし3、弁論の全趣旨)。
 都市伝説Gコミックには、本件作画2、9ないし12が掲載されている。
ウ 被告は、原告に対し、平成19年4月5日に本件コミック1について本件作画1の原稿料名下(消費税込み。ただし、源泉所得税控除後のもの。以下同じ。)に29万4500円を、平成20年11月6日に本件コミック2について本件作画2ないし4の原稿料名下に70万3950円を、平成21年5月8日に本件コミック3について本件作画5及び6の原稿料名下に69万1600円を、同年10月5日に本件コミック4について本件作画7及び8の原稿料名下に69万1600円を、平成22年3月4日に本件コミック5について本件作画9及び10の原稿料名下に76万5700円を、同年7月5日に本件コミック6について本件作画11及び12の原稿料名下に66万6900円(以上、合計381万4250円)をそれぞれ支払った(乙9の1ないし6、弁論の全趣旨)。
 また、被告は、平成23年11月4日、原告に対し、都市伝説Gコミックについて本件作画2、9ないし12の再録掲載料名下に89万5375円を支払った。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 被告による著作権(複製権)の侵害
 原告は、被告に対し、本件各作画を本件各コミックの初版に掲載して利用することを許諾したが、その増刷に利用することを許諾していないから、被告が本件各コミックを増刷して発行した行為(前記争いのない事実等(3)ア)は、本件各作画について原告が保有する複製権(著作権法21条)の侵害行為に当たる。
(2) 被告の不法行為責任
 被告は、故意又は過失により、前記(1)の複製権の侵害行為を行ったものであるから、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
(3) 原告の損害額
 被告による前記(1)の複製権の侵害行為により、原告が被った「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(使用料相当額)の損害額(著作権法114条3項)は、本件各コミックの初版の原稿料(本件コミック1につき1枚当たり1万円、本件コミック2ないし6につき1枚当たり1万3000円)を下らない。
 そうすると、著作権法114条3項に基づく原告の損害額は、合計508万6000円を下らない。
(4) まとめ
 よって、原告は、被告に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として508万6000円及びこれに対する平成23年11月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
 いずれも争う。
3 被告の主張
(1) 原告と被告は、以下の@ないしEのとおり、原告が、被告の依頼に基づいて本件各作画を制作し、被告において本件各作画を本件各コミックに掲載して利用することを許諾し、被告がその対価として本件コミック1については原稿1枚当たり1万円の原稿料を、本件コミック2ないし6については原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を原告に支払う旨の各合意(以下「本件各合意」という。)をした。
@ 平成18年10月ころ
 本件作画1の制作及び本件コミック1掲載の利用許諾の合意
A 平成20年5月ころ
 本件作画2ないし4の制作及び本件コミック2掲載の利用許諾の合意
B 平成20年12月ころ
 本件作画5及び6の制作及び本件コミック3掲載の利用許諾の合意
C 平成21年4月ころ
 本件作画7及び8の制作及び本件コミック4掲載の利用許諾の合意
D 平成21年8月ころ
 本件作画9及び10の制作及び本件コミック5掲載の利用許諾の合意
E 平成22年1月ころ
 本件作画11及び12の制作及び本件コミック6掲載の利用許諾の合意
(2) 原告は、本件各合意を行うに際し、被告に対し、本件各作画の本件各コミック掲載の利用許諾は初版分に限定する旨の条件を提示しておらず、被告は、そのような条件を付すことを了承していないから、本件各合意に基づく原告の利用許諾の効力は、増刷分についても及ぶというべきである。
 なお、被告が原告に支払った本件作画2、9ないし12の再録掲載料は、本件各コミックの二次商品としての新規の総集編企画である都市伝説Gコミックに掲載することの対価であり、本件各合意とは無関係である。
(3) 以上のとおり、本件各合意に基づく原告の利用許諾の効力は、本件各コミックの増刷分についても及んでいるから、被告が本件各コミックを増刷して発行した行為が本件各作画について原告が保有する複製権の侵害行為に当たるとの原告の主張は理由がない。
4 被告の主張に対する認否及び反論
(1) 被告主張の本件各合意の事実は否認する。
(2) 原告は、被告から本件各作画の制作依頼を受けた際、本件各作画が掲載される本件各コミックは、「雑誌」であって、発行後2週間程度で売り切り、売り切れなければ回収されて販売が終了するとの認識を持ち、被告の担当者も同様の認識を持っていたものであり、原告と被告間で、本件各コミックが増刷された場合の話は一切出なかった。
 また、本件各コミックと同種の「雑誌」は、増刷されることや期間外に出版(アンコール出版)されることは通常はなく、本件各コミックについても増刷は予定されていなかった。
 したがって、原告と被告間の本件各作画についての利用許諾の合意は、原告が提供した原稿について雑誌発行(初版発行)から2週間程度の期間を限定して被告が出版することを許諾することを内容とするものであり、被告主張の原稿1枚当たり1万円の原稿料及び原稿1枚当たり1万3000円の原稿料の約定は、上記利用許諾の対価にすぎない。このことは、2週間程度の利用許諾期間経過後に発行された都市伝説Gコミックについて、被告が本件作画2、9ないし12の再録掲載料を原告に支払っていることからも明らかである。
 そして、被告による本件各コミックの増刷分の発行は、上記利用許諾期間経過後にされたものであるから、原告の利用許諾の効力は及ばないというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 被告による著作権(複製権)の侵害の成否(請求原因(1))について
(1) 被告が本件各作画を掲載した本件各コミックの増刷を発行したことは、前記争いのない事実等(3)アのとおりである。
 被告は、原告と被告は、原告が被告の依頼に基づいて本件各作画を制作し、被告において本件各作画を本件各コミックに掲載して利用することを許諾し、被告がその対価として本件コミック1については原稿1枚当たり1万円の原稿料を、本件コミック2ないし6については原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を原告に支払う旨の各合意(本件各合意)をし、本件各合意に基づく原告の利用許諾の効力が、本件各コミックの増刷分についても及んでいる旨主張するので、以下において判断する。
(2) 前記争いのない事実等と証拠(甲1ないし13、21、22、乙8ないし10(以上、枝番のあるものは枝番を含む。)、証人C、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件の経過等として、次の事実が認められる。
ア(ア) 被告は、平成18年10月ころ、被告が発行するB執筆の書籍「Bの都市伝説」の漫画版として、上記書籍掲載の各話を原作とする漫画の作画の制作を複数の漫画家に依頼し、その漫画各話を掲載した、主としてコンビニエンスストアで販売されるB6判の廉価版コミック(いわゆるコンビニコミック)を出版することを企画した。
 被告の編集担当のCは、そのころ、編集プロダクションを通じて紹介された原告に対し、被告が作画原稿1枚当たり1万円の原稿料を支払うとの条件で、本件コミック1に掲載する漫画全7話のうち、1話に係る本件作画1の制作を依頼し、原告は、これを了承した。
 その際、Cは、上記原稿料以外の条件を原告に提示することはなく、また、原告とCとの間で、原稿料以外の条件や本件コミック1の発行予定部数、流通期間等について話題となることはなかった。なお、原告と被告は、上記依頼の内容等に関し、契約書その他の合意書面を作成していない。
(イ) 原告は、平成14年ころから、漫画家として活動していたところ、コンビニコミック掲載の漫画の制作については、平成17年8月ころ、編集プロダクションを通じて紹介された被告から依頼を受けて、漫画「プロレス最強列伝」の制作を行ったのが最初であり、本件作画1の制作は2度目であった。原告は、上記「プロレス最強列伝」の漫画の制作の依頼の際にも、被告から作画原稿1枚当たり1万円の原稿料を支払うとの条件を提示され、これを了承したが、その際に、被告から、原稿料以外の条件の提示を受けたことはなかった。
(ウ) 被告は、本件コミック1の漫画全7話中6話の作画については原告以外の6名の漫画家にそれぞれ制作を依頼した。
 被告は、原告を含む漫画家7名から完成した各作画の原稿(原画)の引渡しを受けた後、平成19年2月12日、本件コミック1の初版を発行し、同年4月5日、原告に対し、本件作画1の原稿料名下に29万4500円(原稿31枚分)を支払った。
イ(ア) 被告は、平成20年5月ころから平成22年1月ころまでの間、本件コミック1と同様に、被告が発行するB執筆の書籍「Bの都市伝説」シリーズの漫画版として、コンビニコミックである本件コミック2ないし6の出版を企画し、原告に対し、被告が作画原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を支払うとの条件で、平成20年5月ころに本件コミック2に掲載する漫画全7話のうち、1話、7話及び全体目次に係る本件作画2ないし4の制作を、同年12月ころに本件コミック3に掲載する漫画全7話のうち、1話及び7話に係る本件作画5及び6の制作を、平成21年4月ころに本件コミック4に掲載する漫画全7話のうち、1話及び2話に係る本件作画7及び8の制作を、同年8月ころに本件コミック5に掲載する漫画全7話のうち、1話及び2話に係る本件作画9及び10の制作を、平成22年1月ころに本件コミック6に掲載する漫画全7話のうち、1話及び2話に係る本件作画11及び12の制作をそれぞれ依頼し、原告は、その都度これを了承した。
 被告は、本件コミック2に掲載する本件作画2ないし4の依頼交渉を行った際、原告から原稿料の値上げ要請があったため、上記のとおり、作画原稿1枚当たり1万円から1万3000円に増額する旨の条件を提示し、原告は、これを了承した。
 原告は、被告から上記各依頼があった際、原稿料以外の条件の提示を受けたことはなく、また、原告と被告との間で、原稿料以外の条件や本件コミック2ないし6の発行予定部数、流通期間等について話題となることもなかった。なお、原告と被告は、上記各依頼の内容等に関しても、契約書その他の合意書面を作成していない。
(イ) 被告は、原告を含む複数の漫画家から完成した各作画の原稿(原画)の引渡しを受けた後、平成20年9月12日に本件コミック2の初版を、平成21年4月10日に本件コミック3の初版を、同年8月14日に本件コミック4の初版を、同年12月25日に本件コミック5の初版を、平成22年5月14日に本件コミック6の初版をそれぞれ発行した。
 また、被告は、原告に対し、平成20年11月6日に本件作画2ないし4の原稿料名下に70万3950円(原稿57枚分)を、平成21年5月8日に本件作画5及び6の原稿料名下に69万1600円(原稿56枚分)を、同年10月5日に本件作画7及び8の原稿料名下に69万1600円(原稿56枚分)を、平成22年3月4日に本件作画9及び10の原稿料名下に76万5700円(原稿62枚分)を、同年7月5日に本件作画11及び12の原稿料名下に66万6900円(原稿54枚分)をそれぞれ支払った。
ウ 被告は、本件コミック1の初版を発行した平成19年2月12日当時、本件コミック1を増刷することを予定していなかったが、その後、本件コミック1の需要があったため、増刷することとし、2刷の発行を経て、平成20年8月23日に3刷を発行した。
 同様に、被告は、本件コミック2ないし6の各初版を発行した当時には、いずれも増刷することを予定していなかったが、その後、増刷として、本件コミック2については2刷及び3刷を、本件コミック3ないし6については2刷をそれぞれ発行した。
 被告は、本件各コミックと同種のコンビニコミックについては、雑誌扱いの不定期の刊行物として、主にコンビニエンスストアで発売後約2週間程度販売された後、売れ残ったものが返品されるのが通常であることから、発売時にあらかじめ増刷することを予定していないが、初版発売後、販売を見込めると判断した場合には、いわゆる「アンコール発売」として増刷して発行することもあった。また、被告は、コンビニコミックは、一人の漫画家の作品を収録した単行本のコミックとは異なり、複数の漫画家の制作した複数の作品を集めて掲載する形式(いわゆるアンソロジー形式)のコミックであり、雑誌扱いとしていたことから、漫画家に対する作品の制作及びコミック掲載の対価は、本件各コミックと同様に、原稿1枚当たり一定の単価の原稿料として支払うとの条件で制作を依頼しており、上記のようにコンビニコミックを増刷して発行した場合であっても、当該コミック掲載の漫画の作画を制作した漫画家に対し、追加の原稿料の支払をしたことはなかった。
エ(ア) 原告は、平成21年ころ、本件コミック1等の増刷分が発行されているのを知り、販売が終了したはずの自己の作品が勝手に流通しているものと考え、激しい違和感を覚えた。
 その後、原告は、平成23年2月8日ころ、被告を訪れ、被告の編集担当のC等と話合いをし、本件各コミックの増刷分(再版分)についての原稿料の支払を求めたが、被告側は、その支払を拒絶した。
 原告は、被告に対し、同年3月18日ころ、上記と同様の原稿料支払を求める同月17日付け書簡(甲21の1)及び請求書(甲21の2)を送付した後、同年4月8日付け請求書(甲21の3)及び同年5月17日付け請求書(甲21の4)を送付した。
(イ) 原告の代理人弁護士は、平成23年6月7日到達の内容証明郵便で、被告に対し、原告の著作物である本件各作画を本件各コミックの初版の出版及び販売に利用することは許諾したが、その増刷は利用許諾の範囲を越えるものであるから、被告が本件各コミックの2版(2刷)あるいは3版(3刷)の出版・販売を行ったことは、原告の著作権を侵害するなどとして、損害賠償の内金として508万6000円の支払、初版以外の各版の出版、販売の差止め等を求める旨の通知(甲1の1)をした。
 これに対し被告の代理人弁護士は、同月21日付け内容証明郵便で、原告の代理人弁護士に対し、本件各コミックは、雑誌扱いの商品であり、作家に原稿を発注し、掲載し、原稿料を支払うことで契約は履行済みとなり、被告は原告に382万3750円の原稿料を支払済みであるから、それ以上の権利は原告に何ら発生していないとして、上記通知に係る原告の請求は容認できない旨回答した。
(ウ) 被告は、平成23年8月16日、本件各コミックに収録された漫画の中から全14話(本件作画2、9ないし12に係る4話を含む。)を選択して収録したコンビニコミックである都市伝説Gコミックを発行した。
 原告と被告は、都市伝説Gコミックの発行に先立ち、本件作画2、9ないし12の原稿料の半額に相当する再録掲載料を原告に支払う旨の合意をし、被告は、同年11月4日、原告に対し、再録掲載料名下に89万5375円を支払った。
(エ) 原告は、平成23年11月7日、本件訴訟を提起した。
(3)ア そこで検討するに、前記(2)ア及びイの認定事実によれば、被告は、B執筆の書籍「Bの都市伝説」シリーズを原作とする漫画版として、複数の漫画家が作画した漫画各話を掲載したコンビニコミックである本件各コミックの出版を企画し、被告主張の本件各合意のそれぞれの合意の時期に、本件コミック1については作画原稿1枚当たり1万円の原稿料を、本件コミック2ないし6については作画原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を支払うとの条件で、原告に対し、本件各作画の制作を順次依頼し、原告は、その都度これを了承したものであり、被告の上記各依頼の趣旨は、原告に対し、原告が本件各作画の制作を行うとともに、被告が本件各コミックに本件各作画を掲載して出版及び販売することについての利用許諾を求めるものであるから、原告が被告の上記各依頼を了承することにより、原告と被告との間で、本件各合意が成立したものと認められる。
 そして、前記(2)アないしウの認定事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、@本件各コミックと同種のコンビニコミックは、雑誌扱いの不定期の刊行物として、主にコンビニエンスストアで発売後約2週間程度販売された後、売れ残ったものが返品されるのが通常であり、初版の発売時にはあらかじめ増刷することは予定されていないが、これは事実上の取扱いであり、初版が返品された後であっても、需要があれば、増刷して発行することもあり得るものであり、コンビニコミックであるからといって、流通期間が性質上当然に限定されているとまではいえないこと、A被告は、上記各依頼に際し、原告に対し、上記原稿料以外の条件の提示をしていないのみならず、原告と被告との間で、原稿料以外の条件や本件各コミックの発行予定部数、流通期間等について話題となることはなかったことが認められる。
 上記@及びAの事情に照らすならば、本件各合意に基づく原告の利用許諾の効力は、本件各コミックの初版分に限定されるものではなく、その増刷分についても及ぶものと認めるのが相当である。
イ これに対し原告は、原告と被告間の本件各作画についての利用許諾の合意は、原告が提供した原稿について雑誌発行(初版発行)から2週間程度の期間を限定して被告が出版することを許諾することを内容とするものであり、原稿1枚当たり1万円の原稿料及び原稿1枚当たり1万3000円の原稿料の約定は、上記利用許諾の対価にすぎないから、本件各コミックの増刷分には利用許諾の効力は及ばない旨主張し、原告の供述(甲22の陳述書を含む。以下同じ。)中にはこれに沿う部分がある。
 しかしながら、被告が本件各コミックに掲載する本件各作画の制作を原告に依頼した際に、原告と被告との間で、本件各コミックの発行予定部数、流通期間等について話題となることはなかったものであり(前記アA)、また、原告の供述を前提としても、原告が、被告の上記依頼を受けた際に、本件各コミックの流通期間を2週間程度に限定することを条件とすることや、原稿料は初版分に限定する趣旨である旨を被告に述べたというものではない。
 かえって、原告の供述中には、原告が、本件コミック2に掲載する本件作画2ないし4の原稿料の値上げ要請をした際に、コミックの発行部数は原稿料を定めるに当たって考慮に入れていなかった旨の供述部分があることからすれば、原告においては、本件各作画の利用許諾の対価としては、コミックの発行部数の多寡にかかわらず、原稿1枚当たり一定額の原稿料の支払を受けることで了承していたことがうかがわれる。しかも、本件各コミックの2刷及び3刷は、初版を増刷したものであって、本件各作画の利用形態は初版と何ら変わることはないのであるから、本件各コミックの流通期間が原告が想定していた約2週間を超えたからといって原告において特段の不利益をもたらすものとは認め難く、本件各合意を締結するに当たっての合理的意思に反するものとも認め難い。
 もっとも、被告は、本件作画2、9ないし12を掲載した都市伝説Gコミックについて再録掲載料を原告に支払っているが(前記(2)エ(ウ))、都市伝説Gコミックは、本件各コミックに収録された漫画の中から全14話を選択して収録したものであり、本件各コミックにおける本件作画2、9ないし12の利用形態とは異なるものであるから、上記再録掲載料の支払の事実をもって原告の上記主張を裏付けることはできない。
 以上によれば、原告の上記主張は、採用することができない。他に前記アの認定を左右するに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり、被告が本件各コミックを増刷して発行することについて、本件各合意に基づく原告の利用許諾があったものと認められるから、被告のかかる行為が本件各作画について原告が保有する複製権の侵害行為に当たる旨の原告の主張(請求原因(1))は理由がない。
2 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 橋彩
 裁判官 石神有吾


(別紙)以下省略
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