判例全文 | ||
【事件名】商標“Wii”“Nintendo”侵害事件(刑)(2) 【年月日】平成25年1月29日 名古屋高裁 平成24年(う)第125号 判決 主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、主任弁護人永井康之、弁護人村上文男連名作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官長崎正治作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。 1 原判決と論旨 原判決は、被告人が、任天堂株式会社が商標登録を受けている「Wii」及び「Nintendo」の各商標を付した家庭用テレビゲーム機Wiiについて、Wii専用アプリケーション以外の各種アプリケーションのインストール及び実行も可能になるように内蔵プログラム(後出の「ファームウエア」)等を改変した上で、上記各商標を付したまま前後3回にわたり計3名に販売して譲渡した行為(原判示第1)が、任天堂の商標権を侵害する行為として商標法78条の罪に該当し、また、自宅においてそのように内蔵プログラムの改変をしたWii4台を譲渡のために所持した行為(原判示第2)が、同法37条2号の商標権侵害とみなされる行為として同法78条の2の罪に該当する旨の判断を示して、被告人に有罪を言い渡した。 これに対し、論旨は、要するに、被告人は無罪であり、原判決には、次の(1)ないし(3)のような判決に影響することが明らかな法令解釈適用の誤り又は事実誤認があると主張するものである。 (1) 各行為に係るWii(以下「本件Wii」という。)は、いずれも任天堂が正規に流通に置いた真正なWii(以下「真正品」という。)に対し、部品の交換・変更等ハードウエア面における変更は一切加えず、書換えが可能かつ予定されているその内蔵プログラムを改変したにとどまり、かつ、その改変も、Wii本体が備えている初期化機能や内蔵プログラムのアップデート(更新)により、改変前と機能上同程度に復元できるものであるから、本件Wiiは、商標権の出所表示機能を損なうような同一性の欠如は来していない。それにもかかわらず、真正品との同一性を失ったと認定し、本件各行為が商標権侵害(以下、特に断らない限り、商標法37条所定のみなし侵害を含む。)に当たると認めた点において、原判決には、事実誤認ないし法令解釈適用の誤りがある。 (2) 被告人は、本件Wiiを初期化することにより改変前の状態に復元できると認識していたから、同一性を損なうような改変をしたという認識を欠き、商標権侵害の故意が存在しない。原判決は、商標権侵害罪の故意が成立するためには、他人の登録商標であると認識(未必の故意の場合も含む。)して商標を使用することをもって足りるとして、真正品と改造品の同一性の喪失を根拠づける事実の認識を問うことなく、故意を認定した点において、事実誤認及び法令の解釈適用の誤りがある。 (3) 被告人は、原判示第1の行為当時、MODチップなどの部品を付加する改造をしたWiiの出品は禁止されていて違法であると認識していたが、本件Wiiのような内蔵プログラムだけを改変したものについてはそのような制限がなく、その後、インターネット上の質問サイトにおいても、出品は適法であるとの回答が寄せられていたから、違法性の意識の可能性はなく、被告人に違法性の意識を期待できるのは、せいぜいその後にヤフーオークションへの出品制限がかけられてからである。原判決は、原判示第1の行為当時の違法性の意識の可能性の有無に関係しない事後的な事情や、被告人の供述調書などに対して誤った推論や評価をすることにより違法性の意識の可能性を認めたという事実の誤認がある。 2 論旨に対する当裁判所の判断 そこで、原審記録を調査し、当審事実取調べの結果も参酌して検討すると、論旨(1)の点について、原判決が、内蔵プログラムを改変した本件Wiiは、真正品と同一性を欠いていると認め、原判示第1及び第2の各行為が客観的に商標権侵害を構成するものであると認定したことは、結論において是認できるから、そこに所論がいうような事実誤認又は法令の解釈適用上の誤りは認められない。また、論旨(2)の点については、被告人には、上記各行為につき、法の禁止に直面するに足りる事実の認識があることは明らかで、かつ、同(3)の点についても、違法性を認識する可能性が欠けていなかったことが明らかであるから、故意ないし責任も阻却されないのであって、この点についての原判決の判断にも、判決に影響するような事実認定上及び法律の解釈適用上の誤りは認められない。 以上のとおり、論旨はいずれも理由がないが、所論にかんがみ、上記のように判断した理由につき、項を改めて補足して説明する。 3 本件Wiiに加えられた改変と真正品との同一性(前記1(1)の論旨)について (1) 商標法は、商標権者が指定商品について登録商標の使用をする権利の専有を認め(同法25条)、かつ、商標の「使用」の概念については、同法2条3項が形式的にこれに属する行為を定めているから、商標権者以外の者が、指定商品に登録商標を付したものをその許諾を得ずに譲渡するなど、「使用」に当たる行為をすれば、商標権の侵害を構成することはいうまでもない。しかしながら、商標権者又はその許諾を得た者により、適法に商標が付され、かつ、流通に置かれた商品(真正商品)が、転々と譲渡等される場合は、商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能は害されないから、このような場合における各譲渡等による商標使用は、実質的な違法性を欠き(最高裁平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁参照)、商標権侵害の罪は成立しないものと解すべきである。所論(当審弁論を含む。以下同じ。)は、同様の結論を導く根拠を、当該商品について商標権者により一度は商標権が行使され、これが用い尽くされていることにより消滅しているという、いわゆる消尽論に求めているが、上記判例及び現在の商標権に関する裁判実務は、そのような解釈を採用していないから、これにくみすることはできない。そして、上述の観点からすれば、当初は、商標権者又はその許諾を得た者により、適法に商標が付され、かつ、流通に置かれた真正商品であっても、それら以外の者によって改変が加えられ、かつ、その改変の程度が上記出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているときには、これを転売等して付されている商標を使用することにつき、実質的違法性を欠くといえる根拠が失われていることも自明である。したがって、本件において、原審の主要な争点であり、また、所論も問題としている本件Wiiと真正品との同一性は、その改変の程度が、実質的に出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているかどうかという観点から判断されるべきものと解される。 所論のうち、これと異なる見解に立って原判決の法令解釈適用を論難している点 は、いずれも前提を誤るものであり、採用することができない。 (2) 当審事実取調べの結果を含む関係各証拠によれば、本件Wiiに加えられた改変に関し、以下の事実関係が明らかである。 ア Wiiは、任天堂が製造・販売する家庭用ゲーム機であるが、その本体内部の書換え可能な内蔵メモリの特定の番地にファームウエアと呼ばれるプログラムがインストールされている。真正品のWiiにおいて、同社がインストールし、あるいは更新のため正規に配布したアップデートプログラムにより導入されたファームウエアは、(a)ハードウエアであるWiiの各モジュールを制御し、ゲーム等のアプリケーションソフトが所期の作動をするための基盤を提供するもので、ゲーム機としてのWiiの機能を規定する機能を営むとともに、(b)Wiiのために任天堂が製作・提供するアプリケーション又は同社の許諾を得て製作・提供された正規のアプリケーション以外のプログラムはインストールしたり実行したりすることができないようにして、不正なプログラムを排除する機能(記録中では、任天堂関係者により「セキュリティ機能」と呼称されている。)も果たすものでもある。 なお、ファームウエアは、不具合(バグ)等の修正やシステム機能の追加、不正なプログラムに対するセキュリティ対策等のために、任天堂により、不定期にアップデート(更新)のためのプログラムがインターネット配信や正規のアプリケーションへの添付などの形でユーザーに配布され、ユーザーがこれを用いて自身の手で内蔵メモリのファームウエアを最新のものに書き換えることが予定されているが、このような任天堂提供の正規のファームウエアに代えて、ユーザーにおいて同様の働きをする任意のプログラムをインストールして使用することは予定されていない。 原判示犯罪事実記載の「内蔵プログラム」とは、真正品にあらかじめインストールされ、あるいは正規のアップデートプログラムにより更新された、このようなWii内蔵メモリ内のファームウエア全体を指すものであることが、原審の審理経過及び証拠全体の趣旨から明らかである。なお、記録中の鑑定報告書(原審甲5添付のもの、甲31及び甲45)には、上記(b)のセキュリティ機能と区別して「内蔵プログラム」という表現を用いている部分があり、文意から同(a)のモジュール制御等の部分を指しているものと解されるが、原判示事実についての上記理解を妨げるものではない。 イ 被告人は、インターネットオークション等で真正品のWiiを入手しては、「ハック」と称し、部品の交換・変更等ハードウエア面の変更は一切加えずに、後記ウのようにしてファームウエアを書き換えるなどし(以下単に「ハック」という。)、原判示第1のとおり、インターネットオークションにおいて、本件Wii3台を販売して譲渡し、また、原判示第2のとおり、そのように譲渡する目的で本件Wii4台を所持していた。なお、いずれのWiiも、真正品に付された前記各商標はハック後もそのままにされており、また、これらを打ち消す何らの表示もされていないから、被告人が「ハック済み」であることを明示してインターネットオークションに出品していることは、商標権侵害の成否を左右する有意の事情とはいえない。 ウ 被告人が真正品に対して加えていたハックは、あらかじめインターネットオークションを通じて入手したハック方法のマニュアルDVD及びその中に入っていたソフトウエアを使い、次の@ないしBのような手順でWiiのファームウエア等を書き換えるものであった。 @ Wii本体のSDカードスロットに挿入したSDカードから直接アプリケーションを起動することは、真正品のWiiではできないように設定されているが、これをできるようにするため、上記ソフトウエア中のインストーラーによりHomebrewチャンネル(HBC)という非正規のアプリケーションをインストールする。 A HBCを介し、ファームウエアの書換え(既存ファームウエアのダウングレードと新たなファームウエアの追加)を行う。 B Wii以外のゲーム機用のアプリケーションを動作させることができるようにするエミュレータ数種やUSB接続したハードディスク内のゲームプログラムを起動させることができるようにするWiiflowなどのアプリケーションを、HBCを介してインストールする。 エ 被告人が行ったハックにより、本件Wiiはファームウエアが書き換えられ、真正品と機能、動作において次の点で異なるものとなっている。 @ 真正品では前記ア(b)のセキュリティ機能によりインストール及び実行がされるはずのない上記HBC、Wiiflow、各種エミュレータなど、正規のものでなく、かつ、Wii専用のものでもないアプリケーションが、インストールされて実行可能となっている。 A 真正品では前記ア(a)のモジュール制御及び同(b)のセキュリティ機能により実行することが不可能とされている、SDカードスロットやUSB接続されたハードディスク等の外部記憶装置から、そこに複製されたWii専用ではないゲームプログラム等を実行することが、上記ウ@Bで不正にインストールされたHBCやWiiflowを実行することにより可能になっている。 (3) 以上の事実関係によれば、本件Wiiは、ハードウエアそのものに何ら変更は加えられていないが、被告人が行ったハックによりファームウエアが書き換えられたため、真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されていることが明らかである。 ところで、ファームウエアは、あくまでソフトウエアであり、ハードウエアであるWiiとは別個の存在と観念できる。しかし、ファームウエアは、前記(2)ア(a)及び(b)のとおり、ゲーム機としてのWiiの機能及び個性を規定するもので、かつ、Wiiにおいて、ファームウエアが担う機能について、性質上、メーカーが提供するプログラム以外のものをユーザーが任意に用いることが予定されていないことも明らかである(このような関係は、多くの電子機器商品において公知に属する。)から、ファームウエアは、ハードウエアとしてのWiiと不可分一体かつ不可欠の構成要素であると認められる。そうすると、その改変は、それ自体において、商品としてのWiiの本質的部分の改変に外ならないというべきである。 そして、このようなファームウエアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は、もはやいかなる意味においても、付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである。また、商標権者である任天堂が配布したものではない非正規のファームウエアによっては、ゲーム機としての動作を保証できないことも明らかであるから、需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていることも疑いを入れない。したがって、いずれの意味においても、前記(1)の法理における実質的違法性が阻却される根拠はないといわざるを得ず、被告人の原判示第1及び第2の各行為が任天堂の商標権を侵害するものであることは明らかである。 原判決の判断は、同一性を論じる意味合いの点を含め、必ずしも整理されたものとはいい難いが、被告人のハックにより加えられた改変の内容、程度が、商品としての同一性を失わせるものであり、商標の持つ出所表示機能及び品質保証機能を害する程度に至っているとして、本件各行為につき商標権侵害を肯定したことは、正当であるから、そこに判決に影響するような経験則違背による事実の誤認及び法令の解釈適用の誤りは認められない。 (4) これに対し、所論は、@Wii本体の初期化機能により、本件Wiiは、容易に真正品と機能上の差異はない状態に復元できるし、また、ファームウエアのアップデートによっても、正規なものに更新できる、Aファームウエアは書換え可能な内蔵メモリに記録されており、ユーザーが書き換えることが本来予定されている、B被告人の行ったハックにおいても、HBCをインストールする(前記(2)ウ@)際にバックアップを取れば、メモリの内容も完全にハック前の状態に復元できる、などと指摘して本件Wiiが真正品と同一性を失ったとはいえない旨主張する。 しかし、本件の問題は、ファームウエアが改変された本件Wiiを、その状態で、原判示の商標を付したまま譲渡等することが許されるかどうかの問題であるから、所論の指摘は、いずれも前提を異にした失当な立論であり、採用できない。もっとも、一般ユーザーにおいて、ごく簡単に真正品と同じ状態に原状回復ができる場合には、そもそも本質的部分の改変があるとはいえないと解する余地があるとの仮定的な前提に立ち、念のため所論に立ち入って検討しても、次のとおり、本件は、いずれもそのような場合ということはできず、採り上げるに由ない。すなわち、まず、所論@の初期化は、Wii本体の機能として一般ユーザーが容易に行い得る方法であるが、出荷状態に復元するものではなく、ユーザーがインストールしたアプリケーションや保存したデータ等を消去するもので、ファームウエアは改変された状態のままにとどまる。また、ファームウエアのアップデート(更新)も、ファームウエアのバージョンがより新しいものになる場合でなければ、メモリ内の不正プログラムの上書きはされず、対応しない番地のプログラムは動作しない状態になるもののそのままメモリ内に残存するというのであり、ファームウエア全体が正規の状態に復するわけではなく、また、メモリ内に不正データが残ってしまうことにより容量が圧迫され、任天堂において提供するアプリケーションの運用において、将来、予期しない不具合が生じる可能性があることが認められる。したがって、これらの方法により、本件Wiiが真正品と同じ品質に復元できるとは到底認められないから、このような方法をもって真正品への原状回復とはいえない。所論は、任天堂が行った鑑定や調査において、ハック後初期化やアップデートした機体について、ゲームがプレイできないなどの不都合が具体的に生じたとはされていないというが、それでも、不正なファームウエアやそれにより変化したメモリ内容が把握できるわけではない以上、もはや任天堂においてユーザーに対し動作保証をなし得る状態にないことに変りはなく、そのような本件Wiiについて、前記(3)に論じたとおり、その品質の提供主体は、任天堂であると識別し得ないし、前示の意味における商標の品質保証機能が損なわれていることは同じであるから、上記評価の結論を左右しない。 また、所論Aのファームウエアが書換え可能であるという点についても、前記(2)アのようなファームウエアの性質や機能に照らし、同(3)のとおり、任天堂又はその許諾を得た者が提供するもの以外のプログラムを、ユーザーが正規のファームウエアに代えて任意に用いることを予定しているわけではないことは動かないのであり、構造的に書換えが可能ないし予定されているからといって、ファームウエアの改変が、Wiiの本質的部分の改変であるという評価は左右されない。おって、所論が、WiiにはSDカードスロットがあり、パソコンと同じフォーマットのSDカードの読書きができることや、任天堂は、説明書及び保証書において、ソフトウエアの改変について明示的に製品保証や修理の対象外とはしていなかったと指摘する点も、同様にこの点の評価を左右するものではない。 さらに、所論Bの完全復元の点は、所論の方法によって内蔵メモリ内のファームウエアが完全にハック前の状態に復元されるのだとしても、被告人は、本件Wiiのハックに当たり、所論のいうようなバックアップの措置を何ら執っていないのであるから、本件について論ずる前提をおよそ欠いている。 その他、所論は、本件各行為が商標権侵害の客観的要件を満たすものではない旨るる主張するが、いずれも失当である。 4 被告人の認識と商標権侵害の故意の成否(前記1(2)の論旨)及び違法性の意識の可能性(前記1(3)の論旨)について (1) 本件Wiiは、いずれも被告人が前記3(2)ウのようにして自らハックしたものであり、被告人は、これによりファームウエア等が書き換えられ、真正品ではなし得ない不正規アプリケーションのインストールや実行、外部記憶装置に複製されたアプリケーションの実行等が可能になるなど、ゲーム機としての個性及び機能が真正品とは大きく変わっていることを認識していたことは明らかである。その上で、被告人は、真正品と同じ商標を付したままの本件Wiiを、販売して譲渡し、又は、譲渡する目的で所持したものであり、これら各行為についての認識にも欠けるところはない。そうである以上、被告人の商標権侵害に当たる事実の認識に何ら欠けるところはなく、同罪の故意が優に認められる。 所論は、被告人は、本件Wiiは初期化機能等により改変前の状態に復元できると認識していたから、同一性を損なうような改変をしたという認識を欠いていたと主張する。しかし、既に述べたように、被告人は、本件Wiiを初期化などせず、ハックした状態で譲渡等しているのであるから、被告人が初期化機能等により改変前の状態に復元できると認識していたとしても、商標権侵害の故意が阻却されるものではないというべきである。また、前記3(4)と同様に、仮に、被告人が初期化によりごく簡単に真正品と同じ状態に原状回復ができると認識していた場合には、本質的部分の改変に当たるかどうかについての錯誤があるという余地があると解するとしても、被告人の初期化についての認識は、起動時のメニューは真正品と同じ状態に戻るが、それ以上の確認はしていないという程度のものである(被告人供述調書28丁、30丁)から、自身が行ったハックの性質、内容との関係で、真正品の本質的な部分に改変を加えたことの認識を妨げるようなものとは認められない。 ところで、原判決は、本件事案において、商標権侵害罪の故意が成立するためには、真正品と改造品の同一性の喪失を根拠づける事実の認識が必要である、とする所論と同旨の原審弁護人の主張に対し、他人の登録商標であると認識して商標を使用することをもって足りると説示し、商標が登録されたものであることの認識が認められることを根拠に商標権侵害の故意を認めている。しかし、本件のような登録商標の付された真正品を改変して譲渡等する場合における商標権侵害の事実の認識として、真正品の本質的部分に改変が加えられていることの認識が必要であることは当然であるから、これを認定することなく故意を認めた原判断は、誤った法令解釈の下、必要な事実の認定を欠く誤りを犯しており、所論が指摘する事実誤認及び法令適用の誤りがあるといわざるを得ない。しかし、既に述べたように、被告人にその認識があることは証拠上明らかであるから、これを含んだ商標権侵害の故意を認めることができるのであり、原判決の上記誤りは、判決に影響するものとは認められない。 (2) そして、被告人に以上のような商標権侵害に当たる事実の認識がある以上、自己の行為が違法であることを認識することは十分可能であって、被告人が、自己の行為が法に触れるとは思わなかったというのは、単なる法の不知にすぎず、故意ないし責任を阻却するに由ないことは明らかである。違法性の意識の可能性を肯定し、故意責任を肯定した原判断は正当であり、事実誤認はない。 所論は、被告人は、大手業者が開設するインターネットオークションにおいて、部品を付加するなどの改造をしたWiiの出品は禁止されていて違法であると認識していたが、本件Wiiのような内蔵プログラムだけを改変したものはそのような制限がなく、その後、インターネット上の質問サイトにおいても、出品は適法であるとの回答が寄せられていたから、違法性の意識の可能性はなかった旨主張する。しかし、原判決が9頁(7)において説示するとおり、上記のものをはじめ、所論が種々指摘する諸事情中に、適法性について権威のある機関の見解に従ったなど、適法性についての誤信がやむを得なかったと認めるに足りる事情は、何ら含まれておらず、記録中にもこれをうかがうことはできないから、違法性の意識の可能性がない旨の主張は、失当というほかなく、前記1(3)の原判決の認定判断を種々論難している点を含め、この点に関する他の所論は、採り上げるに値しない。 (3) 原判決が原判示第1の各行為につき商標法78条の罪を認めたことにつき、所論のいうように憲法31条の解釈適用を誤った違法があるとはいえず、その他所論がるる主張する点も、いずれも採用することはできない。 5 結語 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき同法181条1項ただし書を適用して、主文のとおり判決する。 平成25年1月29日 名古屋高等裁判所刑事第2部 裁判長裁判官 柴田秀樹 裁判官 前田巌 裁判官 新井紅亜礼 |
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