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【事件名】名簿管理ソフトの著作権侵害事件
【年月日】平成25年1月21日
 東京地裁 平成23年(ワ)第13057号 プログラム開発委託料等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成25年1月21日)

判決
原告 X
訴訟代理人弁護士 鈴木修
被告 公益社団法人全日本ダンス協会連合会
訴訟代理人弁護士 千賀修一
同 加唐健介
同 根岸圭佑


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は原告に対し、1150万円及びこれに対する平成23年5月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 主位的請求原因(プログラム使用許諾料及び開発委託料の請求)
(1)コンピュータ・プログラムの開発委託契約
 平成10年、原告と被告は、@全日本ダンス協会連合会名簿、A個人会員名簿(作成日平成23年2月11日)、Bダンス教師講習(考査)アソシエイト採点集計表、Cメンバー昇級試験採点集計表、D認定試験(昇級試験)ライセンシエイト採点集計表、E認定試験(昇級試験)フェロー採点集計表、FA認定試験採点集計表、Gアマチュア指導員会員名簿、H教授所名簿、IANAD指導員資格審査員名簿、JANAD指導員名簿、K教師協会売掛金のコンピュータ・プログラム(以下「プログラムT」という。)の開発委託契約を締結し、同年、原告は被告に対し、プログラムTを開発・製作して納品した。
 平成22年10月下旬、原告と被告は、Lジュニア普及指導員名簿、M著作権最終版、N地域会名簿、O受付にて販売書籍売上げ、P金種計算、Qラベル用、R定款(現行&改定案比較)のコンピュータ・プログラム(以下「プログラムU」といい、プログラムTと併せて「本件プログラム」という。)の開発委託契約を締結し、同年12月から平成23年3月4日までの間、原告は被告に対しプログラムUを開発・製作して納品した。
 原告は、本件プログラムの著作者であるから本件プログラムにつき著作者人格権及び著作権を有する(著作権法17条1項)。
(2)使用許諾料及び開発委託料の請求根拠
 原告と被告は本件プログラムの開発委託料を定めなかった。また、原告と被告は被告がプログラムTを使用することの対価(著作権使用許諾に対する料金)を定めなかった。しかし、原告は本件プログラムの開発、製作を営業として行ったものであるから営業的商行為であり(商法502条)、また原告は商人として本件プログラムを製作したのであるから、原告の上記製作行為は附属的商行為(商法503条)である。したがって、原告は被告に対し、プログラムTの使用及びプログラムUの開発、製作について相当な報酬ないし対価を請求する権利がある(商法512条)。
(3)プログラムTの使用許諾料の請求
 原告は被告に対し、平成10年にプログラムTを開発、製作して納品したが、その際、開発委託料の支払を全く受けていない。ところが、被告は、平成10年から今日に至るまで原告の許諾を受けてプログラムTを使用している。その間、被告は、原告に対し、上記使用に対する対価を全く支払っていない。
 そこで原告は被告に対し原告が著作権を有するプログラムTの使用許諾料として、本件訴え提起日(平成23年4月20日)以前5年の使用期間につき合計190万円を請求する。内訳は、プログラムTの@及びA計95万円(1年間の使用料19万円)、B〜E各10万円(同各2万円)、F5万円(同1万円)、G10万円(同2万円)、H〜J各5万円(同各1万円)、K25万円(同5万円)である。
(4)プログラムUの開発委託料の請求
 原告は被告に対し、プログラムUの開発委託料として合計960万円(内訳は、プログラムUのL20万円、M130万円、N150万円、O610万円、P30万円、Q10万円、R10万円)を請求する。
(5)主位的請求のまとめ
 原告は被告に対し、プログラムTの使用許諾料190万円とプログラムUの開発委託料960万円の合計1150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請負契約に基づく報酬請求(1(4)の請求の予備的請求原因)
(1)請求の根拠
 プログラムUの製作契約は請負契約である。被告は原告に対して原告の仕事に対する報酬を支払ってきたこと(乙1の1〜18)、また、平成20年3月7日には有償の保守契約を締結したことに見られるとおり、原告と被告との取引は有償とされてきた。そして、上記請負契約を口頭にて締結する際、被告が原告に対し相当の報酬を支払うことを原告と被告は黙示的に合意した。よって、原告は被告に対し、上記黙示の合意の効力によって相当な報酬を請求する権利がある。
(2)相当な報酬額について
 原告が被告に対し、プログラムUの報酬として960万円を請求することには、以下のとおり合理的な根拠がある。
@ プログラマーのプログラム製作の委託料の相場による算出
 原告はプログラムUを平成22年10月下旬から平成23年3月4日までの間作業をして製作した。原告は1日平均12時間(多い日は18時間、少ない日は6時間)作業した。したがって、原告の総作業時間は1200時間(12時間×100日=1200時間)である。本件においては、1時間あたりのプログラムの製作のための報酬は1万円が妥当である。したがって、報酬は1200万円が妥当である。そこで、原告はその80%の960万円を請求する。
A 被告が事務員の人件費を節減できたことによる利益の観点からみた報酬
 原告がプログラムUを製作したことによって、被告はジュニア普及指導員名簿、地域会名簿の作成、被告事務所における書籍売上の会計処理、金種計算その他の煩雑で手間のかかる事務を遂行するための事務員数を節減できた。その節減できた事務員数は少なくみても3名を下らない。事務員一人あたりの給与を少なくても20万円とすれば、被告は1か月60万円の人件費の節減ができ、1年間では720万円(20万円×3名×12か月=720万円)の節減をすることができた。
 以上の年間節減金額720万円につき、仮にその3年分を計上するだけでも、被告は2160万円の事務員人件費の削減の効果を享受できる。
3 不当利得返還請求(1(4)の請求の予備的請求原因)
 原告は、1(1)のとおりプログラムUを製作し引き渡すために、平成22年10月下旬から平成23年3月4日まで(少なくとも4か月間)、製作・引渡しの作業を行った。原告は上記期間、1日平均12時間(多い日は18時間、少ない日は6時間)作業した。1か月25日勤務として計算すると、原告の4か月間の総労働時間は1200時間(12時間×25日×4か月=1200時間)となる。原告は昭和33年2月19日生まれであるから、当時の年齢は満52歳である。原告は女性で学歴は高校卒である。平成20年度賃金センサスによれば、この場合の平均年収は373万円(月収約31万円)である。月収を31万円とし、1か月25日勤務する場合、1日あたりの収入は1万4000円、時給は1750円である。原告の上記4か月間の総労働時間1200時間に時給1750円を乗ずると、原告の得べかりし収入は210万円(1750円×1200時間=210万円)となる。
 原告が製作したプログラムUは、被告がその業務を遂行する上で必須のプログラムである。しかも、プログラムUが製作されたことによって、被告の業務遂行上の能率が向上した。被告は原告より、以上のとおり有用性があり価値があるプログラムUを製作してもらってこれを受領して使用するという利益を得ていながら、原告に対してその対価を一銭も支払わない。したがって、原告はそのために損失を及ぼされている。被告が受けた上記の利益は、上記210万円を下らない。被告が原告から無償にて上記の利益を得て、原告に損失を及ぼす法律上の原因はないから、被告は上記の利益を返還する義務がある(民法703条)、かつ被告は悪意の受益者であるからその受けた利益に利息を付さなければならない(民法704条)。
 原告は被告に対し、不当利得210万円及びこれに対する不当利得した平成23年3月4日から支払済みまで民法所定年5分の割合による利息の支払を求める。
4 請求原因に対する認否及び反論(被告の主張)
1(1)(コンピュータ・プログラムの開発委託契約)の事実は、原告が、プログラムUのうち、L〜Pのプログラムを作成したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告と被告との間で、本件プログラムの開発委託契約を締結した事実はない。その余の請求原因事実は、否認ないし争う。
 原告の元夫であるAは、平成10年以来、平成22年8月16日に退任するまで、被告の会長理事として、その業務を行ってきた。Aは、被告の会長理事に就任したのと同時期に、被告の業務を妻である原告に発注するようになり、自らの意に従う専務理事や事務局を採用した上で、同人らをして、上記業務の対価として被告から原告に対し多額の金銭を支払わせていた。
 平成18年5月18日に、Bが被告の専務理事に就任した。Bは、上記の被告の原告に対する不明瞭な多額の支出を問題視し、被告と原告との間で契約を締結することにより、被告が原告に支払義務を負う金額を明確にすることとした。その結果、被告は、原告との間で、平成20年3月7日に、原告に対して支払う保守料は年間36万円であることを明記した別紙保守契約書(甲8)のとおり保守契約を締結するに至った(以下「本件保守契約」という。)。
 平成20年7月11日にBに代わって被告の専務理事に就任したCは、専務理事に就任する際に、Bから、「従前、被告から原告に対して不明瞭な支出があったものの、保守契約が締結された以降は、年間36万円の保守料のほかには、被告から原告に対し金銭を支払う必要がない。」旨を伝えられた。そこで、Cらは、年間36万円の保守料以外には原告に対し金銭を支払う必要はないとの認識のもと、保守契約の範囲で、原告に対し、「システム構築及び運用に関する指導及び助言」を依頼してきた(本件保守契約2条2項)。
 被告は、平成20年3月7日に原告との間で本件保守契約を締結して以降においては、本件保守契約に基づく保守義務の一環としての業務を依頼してきたのであり、原告と被告との間に、本件保守契約とは別個のコンピュータ・プログラムの開発委託契約は存しない。
 本件保守契約は、被告から原告に対する解除通知により、平成23年3月26日に解除されている。被告は、原告に対し、本件保守契約に基づき、平成21年3月16日に平成20年度分保守料36万円を、平成22年3月31日に平成21年度分保守料36万円を、平成23年3月8日に平成22年度分保守料36万円を支払っている。
第3 裁判所の判断
1 プログラムTの使用許諾料の請求(第2の1(3))について
(1)原告の主張
 原告は、プログラムTについて原告が著作権を有するとして、その使用許諾料の支払を求める。
(2)認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
 原告は、Aが平成10年に被告の会長理事に就任した当時の妻であり、当時の氏名は、Dであり、Aとの婚姻前の氏名は、Eであった。原告は、平成3年4月2日に、Aが代表取締役として経営していたF(甲9の1・2、甲17)の代表取締役にAに代わって就任し、以後、現在に至るまで同社の代表取締役を務めている。
 原告は、Aが被告の会長に就任した直後の平成10年7月から同年10月にかけて、被告の費用負担において、大塚商会によるパソコン講習を受けるとともにパソコン関係書籍も購入した上(乙1の1の1枚目)、ファイルメーカーというデータベースソフトを導入した被告使用のパソコンにおいて、平成10年10月頃から同年11月頃にかけて、被告の会員名簿等のコンピュータ入力作業を行った(乙1の1の1枚目から2枚目)。原告が主張するプログラムTの@AG〜Jの開発・製作にほぼ相当する作業と考えられるが(甲18)、その実質は、既製のパッケージソフトであるデータベースソフトを利用したデータの入力項目・入力方法の設定とその設定に従ったデータの入力作業や、入力したデータの表示・印刷方法等の設定にすぎない(甲13、甲14)。
 原告は、上記作業の対価として、原告が代表取締役を務めるFに対する支払名義も含めて、被告から、平成10年10月13日、20万円(中部入力代、内金)、同年10月30日、3万円(パソコン入力)、同年11月11日、280万円(会員名簿入力)、同年11月11日、2万1000円(表組)の支払を受けた(括弧内は、被告の総勘定元帳における支払名目、以下同じ。乙1の1)。
 原告は、その後も、平成11年2月5日、48万5000円(入力、乙1の1)、同年6月7日、41万5540円(パソコン指導出張費)、同年12月6日、14万9800円(パソコン指導、以上乙1の3)、平成12年6月6日、57万8175円(出張指導料、乙1の4)及び10万5000円(全ダ連だより作成、乙1の5)の支払を受けている。
 原告は、平成12年6月6日頃、採点集計表を作成し、その対価として21万円の支払を受けた(乙1の6)。採点集計表の作成は、原告が主張するプログラムTのB〜Fの開発・製作にほぼ相当する作業と考えられるが、前記同様に、その実質は、既製のパッケージソフトであるデータベースソフトを利用したデータの入力項目・入力方法の設定とその設定に従ったデータの入力作業や、入力したデータの表示・印刷方法等の設定にすぎない。原告は、その後も、採点集計表の作成業務を行い、その対価として、平成13年3月16日、1万6090円(乙1の10)、同年6月5日、5万5750円(乙1の11)の支払を受けている。
 原告は、そのほかにも、平成14年4月19日、会員証及び会運営のためのソフト製作費として、250万円の支払を受けた(乙1の15)。
 しかし、平成15年及び平成16年には、原告に対する支払はなく、平成17年5月9日、原告に対し、7日分のスペシャルメンテナンス料として、56万円(1日8万円)とその諸雑費一式12万9800円が支払われ(乙1の16)、平成18年11月13日、「全ダ連『X制作プログラム』使用料」の名目で38万円が支払われ(乙1の17)、平成19年1月31日、「全ダ連 X制作プログラム使用料」の名目で34万円が支払われたが(乙1の18)、平成20年3月7日、別紙のとおり本件保守契約が締結された。
 本件保守契約において、原告と被告は、原告が被告に対し、@データベースのトラブルに対する対応、Aシステム構築及び運用に関する指導及び助言、という保守義務を提供し(2条)、保守料金は、年額36万円とし、年度末の一度払いとし(5条)、保守契約期間は、契約の開始日から1年毎の自動更新とすること(年度毎の保守料金の支払を定めているから、契約期間は、毎年4月から翌年3月までの1年間と認められる。6条1項)、契約の解約方法については、原告又は被告から解約意思の通知を書面で通知し、通知を受け取った日の年度末日をもって契約終了日とすること(6条2項)を定めた。
 被告は、本件保守契約に基づき、原告に対し、平成22年度分までの保守料金を支払ったが(甲10、甲12、乙5〜7の各1・2)、平成23年3月26日、原告に対し、本件保守契約を解約する旨を通知した(乙4の1・2)。
(3)プログラムTの著作者について
 上記認定事実によれば、原告は、被告がファイルメーカーというデータベースのパッケージソフトを導入して会員名簿等の管理など被告の業務をデータベースソフトで処理するにあたり、被告の費用でパソコン講習を受けた上で、被告から対価の支払を受けて入力作業等を行ったこと、しかし、原告の行った作業は、既製ソフトを利用したデータの入力項目・入力方法の設定とその設定に従ったデータの入力作業や、入力したデータの表示・印刷方法等の設定にすぎないこと、原告は、これらの作業の対価については、随時被告から支払を受けており、本件保守契約が締結されるまでに、平成18年11月13日と平成19年1月31日に「プログラム使用料」の名目で38万円と34万円が支払われたほかには、プログラム使用許諾料が支払われたことがなく、本件保守契約が締結されてからは、契約に基づく保守料金年額36万円以外の支払がされたことはないこと、以上の事実が認められる。
 上記事実によれば、被告の業務で用いるデータベースソフトを利用するために原告が行ったデータベースソフト利用上の設定・入力作業の結果について、それをプログラムの開発・製作の作業であると評価したとしても、原告は被告からパソコン講習費用の負担までしてもらった上で作業に従事したのであるから、その開発・製作されたプログラムは、被告の発意に基づき被告の業務に従事する者として原告が職務上作成したプログラムの著作物であるというべきであって、原告と被告との間の委託契約において別段の定めがない以上、著作権法15条2項に基づき、そのプログラムの著作者は、被告となるのであって、原告となるのではない。現に、平成10年以降、原告が被告の使用するデータベースソフトの入力作業等を行いながら、平成20年に本件保守契約が締結され、それ以前もそれ以後もプログラム使用許諾料の支払がされなかったということは、原告がプログラムの著作者とならず、被告は原告に対し、入力等の費用や指導料等を随時支払うほかにプログラム使用許諾料の支払義務を負わないことが、原告と被告との間において合意されていたことを裏付けている。平成18年11月と平成19年1月におけるプログラム使用料名目の支払も、その前後に全くプログラム使用許諾料が支払われていないことからすれば、原告に対する支払名目にすぎず、被告が原告をプログラム著作者として認めていたことまで裏付けるものではない。原告もプログラム使用許諾料の支払を受けていなかったことを自ら主張している。
(4)まとめ
 原告は、プログラムTの著作者であるとは認められないから、原告がプログラムTの著作権を有することを前提として、プログラムTの使用許諾料として訴訟提起前5年分190万円の支払を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。なお、仮に原告がプログラムTの著作者となり、そして原告がプログラムTを開発した行為が商行為であるとしても、前記認定のとおり、プログラムTについて、被告が業務に不可欠なプログラムとして長年その使用を続けながら、原告に対する使用許諾料が支払われていなかった事実からすれば、原告と被告との間において、プログラムの使用許諾料の支払を求めない合意があったと認められ、いずれにしても原告の上記請求は理由がない。
 よって、原告の主位的請求のうち、プログラムTの使用許諾料190万円の請求(第2の1(3))は、理由がない。
2 プログラムUの開発委託料の請求(第2の1(4))について
 本件保守契約は、原告が被告に提供する保守義務の内容を、@データベースのトラブルに関する対応、Aシステム構築及び運用に関する指導及び助言と定める。しかし、原告は、平成13年からカナダに居住し、1年のうち1〜2回帰国していたに過ぎないから、データベースのトラブル対応やシステム構築及び運用に関する指導・助言を、被告の必要に応じて随時行うことができたわけではない。一方、前記認定のとおり、要するに、原告は、被告の業務で用いるデータベースソフトの利用上の設定・入力作業を行っていたにすぎない。
 そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告の専務理事C及びその指示を受けた被告の事務職員は、被告のデータベースソフトの利用上の設定について、原告に対し、@平成21年11月19日、会員名簿の項目の中に「ジュニアダンス普及指導員」を設けて、認定証及び名刺が使用できるようにすることを依頼し(プログラムUのL、甲2、枝番を含む。以下同じ。)、A平成23年1月、各ダンス教室が使う音楽(ダンス曲)についての音楽著作権の使用料を著作権協会に納付したかどうかを管理できるようにすることを依頼し(同UのM、甲3)、B平成23年1月、地域会名簿の作成を依頼し(同UのN、甲4)、C平成22年11月、被告事務所の受付での書籍販売を管理できるようにすることを依頼し(同UのO、甲5)、D平成23年2月、金種計算ができるようにすることを依頼し(同UのP、甲6)、E平成23年2月、ラベル印刷の設定を依頼し(同UのQ)、F平成22年12月6日、定款の新旧対照表を作成する設定を依頼したこと(甲7、甲15)、原告は、これらの依頼された作業を平成22年10月下旬から平成23年3月4日までに完了したこと、そのような依頼に際して被告のC専務理事あるいは事務職員は、原告に対し、報酬の支払について何ら説明していないこと、以上の事実が認められる。
 以上の事実によれば、原告がプログラムUの開発・製作と主張する作業の内容は、結局のところ、被告が使用しているデータベースソフトにおけるデータの入力・出力の設定を変更して、被告の使い勝手に合わせる作業であって、それ自体を独立したソフトウェアの開発・製作と評価できるようなものではない。しかも、1年のほとんどをカナダに在住している原告が、本件保守契約に基づいて平成20年度から平成22年度までの3年間だけで合計108万円もの保守料金の支払を受けているという本件の特殊事情の下において、本件保守契約を締結しているデータベースの構築及び運用について行った作業であるから、原告が作業のために相当程度の時間を要し、また、その業務内容は単純な「保守」ではなく、データベースシステムの構築及び運用の改善にも及んでいるとしても、その作業は、本件保守契約に定める「システム構築及び運用に関する指導及び助言」に含まれる保守業務であると評価するのが相当であり、被告の行った作業依頼は、本件保守契約に基づく保守作業の依頼であって、原告がプログラムUと称するプログラムの開発委託契約の申込みの意思表示ではないと評価するのが相当である。
 よって、原告の主張するプログラムUの開発委託契約の成立が認められないから、原告の主位的請求のうち、プログラムUの開発委託料960万円の請求(第2の1(4))は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
3 予備的請求原因(第2の2、3)について
(1)請負契約に基づく報酬請求(第2の2)について
 上記認定判断によれば、本件保守契約に基づく保守業務の依頼とは別に、被告が原告に対し、プログラムUの製作を請け負わせる請負契約の申込みをしたわけではないから、原告と被告の間におけるプログラムUの製作請負契約の成立が認められない。したがって、請負契約に基づく相当額の報酬として960万円の支払を求める原告の予備的請求(第2の2)も理由がない。
(2)不当利得返還請求(第2の3)について
 上記認定判断のとおり、原告がプログラムUの開発・製作と称する作業は、被告が本件保守契約に基づいて原告に依頼した保守作業であるから、原告がこれらの作業を完了し、被告がこれによる利益を受けたとしても、被告が受けた利益には、本件保守契約に基づく原告の保守義務の履行という法律上の原因がある。被告には、その利益を不当利得として原告に返還すべき義務はないから、不当利得210万円の返還を求める原告の予備的請求(第2の3)も理由がない。

東京地方裁判所民事第33部
 裁判長裁判官 小林久起
 裁判官 佐々木清一
 裁判官 見原涼介
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日本ユニ著作権センター
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